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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W09
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W09
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W09
管理番号 1325097 
異議申立番号 異議2014-900366 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2014-12-25 
確定日 2017-02-03 
異議申立件数
事件の表示 登録第5707988号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5707988号商標の商標登録を取り消す。
理由 1 本件商標
本件登録第5707988号商標(以下「本件商標」という。)は、「源ノ」の文字を標準文字で表してなり、平成26年6月3日に登録出願、第9類「電子応用機械器具及びその部品,磁気式の記録媒体に記録されたタイプフェイスフォント」を指定商品として、同年9月18日に登録査定、同年10月3日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が本件登録異議の申立てに引用する登録第4824964号商標(以下「引用商標」という。)は、「源」の文字を標準文字で表してなり、平成12年4月10日に登録出願、第9類「電子応用機械器具及びその部品」を指定商品として、同16年12月10日に設定登録され、その後、同26年9月30日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当し、同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第158号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、「源ノ」の文字を標準文字で表してなり、その構成中「源」の文字は、申立人の使用する商標「源」として本件商標の出願時において、申立人に係る商品「デジタルフォント」等を表示するものとして取引者・需要者に広く認識されていたものであり、本件商標と申立人の商標「源」とは類似のものである。
そして、本件商標は、その指定商品「電子応用機械器具及びその部品,磁気式の記録媒体に記録されたタイプフェイスフォント」に使用するものである。
また、申立人の業務に係る商品である「デジタルフォント」は、コンピュータが表示または印刷に使う文字の形を収めたデータのことであるから、電子計算機用プログラムと同じく「電子応用機械器具及びその部品」に属する商品である。よって、本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品は、同一又は類似のものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、「源」の漢字と「ノ」の片仮名からなるものであるが、これは、「物事の起こるはじめ。起源。」の意味を表す「源」の漢字とその後に接続する助詞を片仮名で書した「ノ」を連綴したものと容易に認識できるもので、全体として「ゲンノ」「ミナモトノ」の称呼が生じるとともに、その構成中「源」の文字を要部として、これに相応する「ゲン」「ミナモノ」の称呼が生じるものである。また、全体として「物事の起こるはじめの。起源の。」程の観念と併せて、その構成中「源」の文字に相応して「物事の起こるはじめ。起源。」の観念が生じる商標である。
他方、申立人の引用商標は、「源」の漢字を書してなるものであるから、これより「ゲン」「ミナモノ」の称呼及び「物事の起こるはじめ。起源。」の観念を生じること明らかである。
よって、本件商標と引用商標は、共に「ゲン」「ミナモノ」の称呼及び「物事の起こるはじめ。起源。」の観念を生じるものであるから、その称呼及び観念を共通にする類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は、「源ノ」の文字を標準文字で表してなり、本件商標の出願時において、申立人に係る商品「デジタルフォント」等を表示するものとして取引者・需要者に広く認識されていたものである商標「源」と類似するものである。
よって、本件商標は、その指定商品「電子応用機械器具及びその部品,磁気式の記録媒体に記録されたタイプフェイスフォント」について使用した場合、申立人の業務に係る商品又は申立人と何らかの関係を有するものの業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じるおそれが極めて高いものである。
なお、本件商標の出願人(商標権者)は、本件商標を使用する場合に「角ゴシック」の文字をつづけ「源ノ角ゴシック」として使用しており(甲158)、「角ゴシック」の文字については、フォントの書体を表す一般名称であるから、その前に連なる「ノ」の文字が助詞であることは容易に認識され、これに接する取引者及び需要者は、全体として「『源』ブランドの角ゴシック体」であると容易に理解するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

4 本件商標に対する取消理由
当審において、商標権者に対して、平成27年6月9日付けで通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
(1)申立人及びその使用に係る商標「源」等の周知・著名性について
ア 申立人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)申立人は、大正11年に、活字の製造、印刷関連機器・材料の販売を開始し、昭和24年に、株式会社に改組した(甲3)。申立人を紹介する新聞記事として、平成23年10月31日付け電波新聞には、「モトヤは、活字メーカーとして1992年に創業。以来、鉛活字、タイプ活字、写植用文字盤、デジタルフォントと様々な組版手段に対応。“モトヤ書体”として印刷業界で絶大な支持を得ている。今年、初出展するET展でも、モトヤ書体の導入事例を展示しながら、ますます広がるフォントの世界を紹介する。モトヤ書体の特徴は、『可読性』と『文字の美しさ』。可読性は、大きさの統一性、割り引きの調整、太さの統一性、文字の美しさ、漢字と仮名の調和、の五つのトータルバランスから『読みやすさ』や『読み心地の良さ』を実現。こうして生み出した見やすさが各種印刷や全国紙、ブロック紙、地方紙の新聞業界だけでなく、インターネット地図サービス、スマートフォン・携帯電話、医療機器、テレビテロップ、ゲームソフトなど、幅広いジャンルで採用される導入理由になっている。機器の組込み用途では、10年9月に世界75以上の情報通信企業、ソフトウェア企業からなる『Open Handset Alliance(OHA)』に参画。Android OSにモトヤ書体のゴシックと丸ゴシックの2書体を無償提供。Androidスマートフォンや3G携帯電話の初期設定の文字に採用されている。読み間違いのない安全、的確な文字が求められる医療・介護機器や、自動車インパネの表示文字などには文字の空間を広くスッキリさせ、可読性、視認性、判読性を併せ持つユニバーサルデザイン(UD)フォントを提供。成分表示、ラベル・カード、送付書・荷物宛名、案内板・標識表示、電子掲示板・IR情報など、採用分野がさらに広がっている。プリプレス、文字デザインのメーカーとして、また国内外の印刷機材メーカーの製品を販売する商社として事業を拡大する一方、DTP関連教育や印刷・DTP分野のプロフェッショナル人材派遣などでも印刷業界のニーズに対応。89年の社歴をベースに多角的な業態へと進化させている。」と掲載された(甲5)。
上記記事におけるAndroidスマートフォンの日本語フォントにモトヤフォントが採用されたことに関連するニュースは、平成23年10月前後に、インターネット上で少なからず報道された(甲17?甲24)。その他、新聞・テレビテロップ・ゲームソフト・インターネットの地図などで使用されるフォントに採用された事実を明らかにする証拠も多数存在する(甲4?甲16、甲25)。
また、申立人の業務に係るフォントは、本件商標の登録出願日(平成26年6月3日)前までに、我が国で発行されたフォントに関する書籍や財団法人日本漢字能力検定協会の発行する雑誌等に、「モトヤ」、「モトヤフォント」の表示のもとに紹介された(甲26?甲30)。
さらに、申立人は、その業務に係るフォントについて、2008年(平成20年)頃から本件商標の登録出願日前までに、我が国で発行されたフォントに関する書籍や新聞等に、「MOTOYA」、「モトヤ」、「モトヤ書体」、「モトヤフォント」等の表示で広告及び紹介記事が掲載された(甲31?甲37、甲40?甲56、甲58?甲93、甲95?甲101)。
加えて、申立人は、その業務に係るフォントについて、2005年(平成17年)頃から本件商標の登録出願日前までに、新聞製作技術や印刷技術等を対象とした各種展示会に多数出展した(甲102?甲114、甲116?甲118、甲121?甲124)。
(イ)申立人は、その業務に係るフォントを収録した記録媒体(フロッピーディスク、CD-ROM)やダウンロード可能なフォントデータを収録した商品のパッケージ等に、行書で表した「源」の文字よりなる商標(以下「申立人『源』商標」という。)を表示し(甲125?甲133)、前記アの雑誌や新聞等における広告をするに際し、「株式会社モトヤ」等の文字とともに、上記商品のパッケージを掲載して広告をした(甲26、甲34、甲40、甲43、甲60?甲62、甲68?甲74、甲95、甲100)。また、申立人は、その業務に係るフォントについての広告において、申立人「源」商標に「このロゴはモトヤ書体のシンボルです」との文字を添えて広告をした場合もある(甲53、甲101)。
さらに、申立人は、前記アの新聞製作技術や印刷技術等を対象とした各種展示会において、その会場内のブースに、申立人「源」商標を表示した(甲102、甲104、甲106、甲108、甲122)。
また、申立人は、本件商標の登録出願日前までに、その業務に係るフォントについてのチラシ、パンフレット等に「MOTOYA」などの文字とともに、申立人「源」商標を表示して広告をした(甲140、甲148、甲149、甲151?甲154、甲156)。
イ 上記アの事実によれば、申立人は、大正11年の創業以来、活字、印刷関連機器・材料の製造、販売を業とする企業であり、コンピューター技術の進歩とともに、主としてコンピューターに対応したフォントの開発をも手掛け、「モトヤ書体」、「モトヤフォント」などと称されるフォントを発表し、現在に至るまで、申立人の業務に係るフォントは、全国紙や地方紙を含めた各種新聞をはじめ、インターネット地図サービス、スマートフォン、携帯電話、医療機器、テレビテロップ、ゲームソフトなど幅広いジャンルで採用されていることを認めることができ、申立人ないし「モトヤ書体」及び「モトヤフォント」の表示は、本件商標の登録出願日(平成26年6月3日)前には既に、我が国の各種業界の取引者、需要者の間に広く認識されていたものであって、その著名性は、本件商標の登録査定日(平成26年9月18日)においても継続していたものと認めることができる。
そして、申立人「源」商標においても、本件商標の登録出願日までに、申立人の業務に係るフォントを収録した記録媒体(フロッピーディスク、CD-ROM)、ダウンロード可能なフォントデータを収録した商品のパッケージ、申立人の業務に係るフォントに関するチラシ・カタログ、各種展示会におけるブース等に表示され、例えば、新聞・雑誌やチラシ等の宣伝広告の頻度及び各種展示会の出展頻度等の高さ並びに申立人ないし「モトヤ書体」及び「モトヤフォント」の表示の著名度の高さに照らせば、申立人の業務に係る商品「磁気式の記録媒体に記録されたフォント、ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものとして、本件商標の登録出願日及び登録査定日の時点において、印刷業界、エレクトロニクス業界を中心とした各種業界の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることができる。
(2)本件商標の商標第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、前記1のとおり、「源ノ」の文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、構成全体をもって、親しまれた成語とはいえないものである。また、本件商標中の「源」の文字部分は、「みなもと氏の姓。水源。起源」程の意味を有する語として我が国において広く知られている漢字であるのに対し、「ノ」の文字部分は、一般的には、助詞としての「の」としてみるのが自然であるが、例えば、格助詞の所属を表す場合は、後に続く語の内容や状態などについて限定を加えることを表すものであるから、後に続く語のない本件商標にあっては、格助詞の所属を表す「の」には当てはまらないというべきであり、片仮名文字で表されていることも相俟って、直ちにどのような意味を表すものであるか理解し難いものといえる。
してみると、本件商標は、構成全体から特定の観念が生じないことに加え、その構成中の「源」の文字部分は、上記(1)イ認定のとおり、申立人の業務に係る商品「磁気式の記録媒体に記録されたフォント、ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものとして、本件商標の登録査定時はもとより登録出願日には既に、印刷業界、エレクトロニクス業界を中心とした各種業界の取引者、需要者の間に広く認識されていた申立人「源」商標と同一の漢字よりなるものである。
そうすると、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「源」の文字部分に強く印象付けられ、該文字部分を本件商標における自他商品の識別機能を果たし得る部分と理解し、これより生ずる「ミナモト」又は「ゲン」の称呼をもって取引に当たる場合も決して少なくないものとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、構成文字全体から生じる「ミナモトノ」又は「ゲンノ」の称呼のほか、「源」の文字部分に相応して、「ミナモト」又は「ゲン」の称呼及び「みなもと氏の姓。水源。起源」程の観念をも生ずるものと認めることができる。
イ 引用商標
引用商標は、前記2のとおり、「源」の文字を標準文字で書してなるものであるから、これより、「ミナモト」又は「ゲン」の称呼及び「みなもと氏の姓。水源。起源」程の観念を生ずるものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標とは、「源」の文字部分において同じ文字であることから、外観上類似する商標といえるものであり、「ミナモト」又は「ゲン」の称呼及び「みなもと氏の姓。水源。起源」程の観念を同じくする場合があるものということができる。
したがって、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似する商標というべきである。
エ 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類似性
本件商標は、前記1のとおり、第9類「電子応用機械器具及びその部品,磁気式の記録媒体に記録されたタイプフェイスフォント」を指定商品とするものである。
これに対し、引用商標の指定商品は、前記2のとおり、第9類「電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とするものである。
してみると、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は、同一又は類似の商品と認めることができる。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものと認められる。

5 商標権者の意見(要旨)
商標権者は、上記4の取消理由に対する意見を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第45号証を提出した。
(1)申立人及びその使用に係る商標「源」等の周知・著名性について
申立人が提出する証拠に係る商標「源」の使用態様は、申立人あるいは「モトヤ書体」、「モトヤフォント」のある種シンボル(象徴)として表示されているものであり、「ゲン」又は「ミナモト」といった称呼をもって需要者に認識され、あるいは取引の場において示されているものではない。申立人が提出する証拠のうち、申立人「源」商標について、「このロゴはモトヤ書体のシンボルです」との説明を付しているのは、甲第53号証及び甲第101号証のみである。そして、申立人「源」商標は、行書体からなる漢字「源」を表したある種の「図形」、「ロゴ」というべきものであって外観的な要素を主な特徴とする商標であるといえる。かかる証拠によれば、申立人の使用する「『源』の行書体」からなるロゴは、フォントの種類のひとつを示す表示、あるいはフォントの種類を具体的に表す漢字の例として「源」の字が例示されているがごときの印象を需要者に与えるものであって、それが、申立人の業務に係る商品を表示するものとして認識されているとは考えにくい。
申立人は、甲第133号証において申立人「源」商標をデジタルフォントの「インストーラ」のアイコンなど、利用者の端末画面上に表示させている旨を述べているが、「インストーラ」は、アプリケーションソフトをコンピュータに導入するソフトウェアを指すので、「ダウンロード可能なフォントデータ」に係るソフトウェアを起動させるアイコンではない。このことからも、申立人「源」商標は、申立人の業務に係る商品「ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものとして需要者等の間に広く認識されていたと認められるものではない。
以上より、単に、申立人ないし「モトヤ書体」及び「モトヤフォント」の表示が取引者、需要者の間に広く認識されていたとの認定をもって、申立人「源」商標においても同様の認定をすることは合理性に欠け、申立人の提出証拠を著しく誤って評価したものといわざるを得ない。これら全証拠をもってしても申立人「源」商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(2)商標権者及び商標権者の本件商標の使用について
ア 商標権者について
商標権者(以下「アドビ社」という。)は、1982年に設立された世界有数のソフトウェア会社であり、年間売上は40億ドル以上を誇る世界中で1万3千人以上の従業員を擁している国際企業である(乙1、乙2)。
また、アドビ社は世界有数のフォント開発ベンダーでもあり、同社のタイプフェイス(書体)は、現在では2400タイプフェイスを超え、さらに、1987年より日本語デジタルフォントの開発を始め、その後数々の日本語フォントを開発している(乙4?乙8、乙32?乙42)。
イ 商標権者の本件商標の使用
本件商標に係るフォント「源ノ角ゴシック」は、米国グーグルインコーポレイテッドとアドビ社の日本語タイポグラフィーチームによって開発されたフォントであり、「源ノ角ゴシック」に対応する外国語フォントは「Source Han Sans」である(乙29?乙31)。「源ノ角ゴシック」は、日本語のみならず、ラテン、中国語繁体字、中国語簡体字、韓国語ハングルの5種類の文字をカバーするオープンソースフォントとして、新聞・雑誌・インターネットのウェブサイト・ブログにおいて「源ノ角ゴシック」が紹介され(乙7?乙28)、リリース以来、需要者・取引者によって広く認識されるに至っている(乙9?乙31)。
(3)本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標にあっては、上記(1)のとおり、申立人「源」商標は、需要者の間に広く認識されていたものであるとは認められないから、構成中「源」の文字を抽出して類否を判断することは許されず、結合商標全体を対比の対象とすべきである。
本件商標の「源」の文字部分のみが出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとみるべき特段の事情は見いだせないし、取引者、需要者がことさら「源」の文字部分のみに着目するというより、むしろ、構成全体を一体のものと認識、把握するとみるのが自然である。たとえ、その構成中の「ノ」の文字が片仮名を示す文字であってその前の漢字の「源」と文字種が異なるとしても、かかる構成及び称呼においては各文字全体をもって、特定の観念を生じない一体のものとするのが相当である。
さらに、商標の類否判断は、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならないとされているところ、本件商標は、「源ノ」の文字から成り、「ノ」は助詞の「の」であるとみるべき理由はなく、むしろ、かかる漢字とカタカナ文字「ノ」の組み合わせは全体でユニークかつ独創的なものと受け取られるとみるのが相当である。ユニークで独創的であるが故に、むしろ二文字目の「ノ」に注意がいき、かかる文字部分にインパクトを感じさせる。したがって、需要者は、「源」と「ノ」を一体として捉えると考えられるので、「源」の部分のみを切り離して商標の類否判断の基礎とするのは不適切である。
以上のとおり、本件商標は「源ノ」の文字を外観上まとまりよく表しており、これより生ずる「ゲンノ」の称呼は、一連一体に称呼することができることから、構成全体を一体のものと認識、把握するとみるのが適切であり、自然である。
イ 申立人「源」商標は、上述のとおり、申立人あるいは「モトヤ書体」、「モトヤフォント」の「シンボル」として「『源』の行書体」を採択し、申立人の使用に係る商品に付しているものであるが、これは具体的なフォントデータ(あるいはフォント)の名称として使用されているものではない。申立人が提供しているフォントは、「モトヤ明朝」、「モトヤゴシック」、「モトヤ隷書」等「モトヤフォント」、あるいは「モトヤ書体」であって、申立人「源」商標を付したフォント製品を開発・販売している事実も見受けられない。
申立人が「シンボル」として使用している「『源』の行書体」からなる商標は、いわば申立人のコーポレート・アイデンティティ(乙45)を表したものといえ、申立人の業務に係る具体的な商品「ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものではなく、さらにはこれが需要者等の間に広く認識されていたと認められるものではない。
一方、商標権者は、オープンソースフォントとして本件商標をフォントデータの名称そのものとして「源ノ角ゴシック」のごとく使用しているのであり(乙9?乙30)、かかる実際の使用状況に鑑みれば、本件商標が指定商品に使用された場合に取引者、需要者に与える印象、記憶、連想は、申立人「源」商標のそれとは大きく異なるものと認められ、称呼を共通にせず、外観において、漢字一文字を共通にすることによる商品の出所の誤認混同を生じるおそれはないというべきである。
以上のとおり、本件商標は、その片仮名「ノ」の文字部分を捨象し、ことさら「源」の文字部分のみに着目して取引に資されるという格別の理由も認められず、その文字全体に相応して「ゲンノ」の称呼のみを生じる。一方、申立人「源」商標は、漢字一文字の「源」からなるものであるから、その文字に相応して「ゲン」の称呼を生じる。本件商標と引用商標を対比すると、本件商標は3音からなるのに対し、引用商標は全体で2音からなり、称呼を識別する上において影響の大きい全体の音数が異なるものである。そして、いずれも3音あるいは2音という非常に短い称呼の中において、第3音において、「ノ」の音の有無の相違は称呼全体に及ぼす影響は大きいと考えられる。
したがって、本件商標は引用商標と称呼上類似するものではない。
また、上述のとおり、本件商標は、漢字と片仮名を結合させた構成態様からなり、漢字一文字からなる引用商標とは文字構成が全く異なるため、外観上互いに類似しないものであることは明白である。さらに、本件商標は、漢字の「源」の文字から導かれる一定の観念を想起させることはあっても、その後に片仮名「ノ」を伴っていることから、全体としては特定の観念を生じない造語である。一方、引用商標は、漢字一文字からなり、これより、「みなもと氏の姓。水源。起源」といった観念を生ずるものであることから、本件商標と引用商標は、観念上も互いに類似するものではない。
したがって、本件商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても非類似の商標であるというべきであって、取消理由通知書における認定は、本件商標と引用商標についての類否の判断を誤ったものであり到底承服できない。
ウ 申立人は、申立ての理由において、引用商標が申立人に係る商品「デジタルフォント」等を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されている旨の主張を踏まえて、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものである旨を主張する。
しかし、上記のごとく、引用商標は取引者、需要者間に広く認識されておらず、また、商品の出所について混同を生じさせるものではないことから、申立人のかかる主張は失当である。
(4)むすび
以上のとおり、引用商標は申立人の業務に係る商品の出所を表すものとして需要者の間に広く認識されている商標ではなく、本件商標は、引用商標と非類似であることから、商標法第4条第1項第11号、同第10号及び同第15号に該当するものではない。

6 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標についてした前記4の取消理由は妥当なものであって、本件商標の登録は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものというべきである。
(2)本件商標権者の意見について
前記4の取消理由に対して、本件商標権者は、前記5のとおり、種々意見を述べているが、以下の理由により採用することができない。
ア 本件商標権者は、申立人「源」商標は、申立人の業務に係る商品「ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものとして需要者等の間に広く認識されていたと考えることはできない旨主張している。
しかしながら、前記4(1)のとおり、申立人「源」商標は、本件商標の登録出願日までに、申立人が該商標を表示した新聞・雑誌やチラシ等の宣伝広告及び各種展示会の出展等を頻繁に行っており、さらに、申立人ないし「モトヤ書体」及び「モトヤフォント」の表示の著名度の高さに照らせば、申立人の業務に係る商品「磁気式の記録媒体に記録されたフォント、ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものとして、本件商標の登録出願日及び登録査定日の時点において、印刷業界、エレクトロニクス業界を中心とした各種業界の取引者、需要者の間に広く認識されていたことが認められるものである。
イ 本件商標権者は、本件商標の「源」の文字部分のみが出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとみるべき特段の事情は見いだせないから、その構成中の「ノ」の文字部分を捨象せず、構成全体を一体のものと認識、把握するものである旨主張している。
しかしながら、本件商標構成中の「源」の文字は、申立人の業務に係る商品「磁気式の記録媒体に記録されたフォント、ダウンロード可能なフォントデータ」等を表示するものとして、その業界の取引者、需要者の間に広く認識されていた申立人「源」商標と同一の漢字よりなるものであるから、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「源」の文字部分が強く印象付けられ、該文字部分を本件商標における自他商品の識別機能を果たし得る部分と理解するものであり、これに接する取引者、需要者は、著名な「源」の部分に着目し、商品の識別にあたる場合が少なくないものとみるのが相当である。
してみれば、「源」の文字部分が、本件商標の出所識別標識としての要部であり、その構成文字に相応して生じる「ゲン」又は「ミナモト」の称呼及び「みなもと氏の姓。水源。起源」程の観念をもって取引に資される場合があるといわざるを得ない。
なお、本件商標権者は、世界有数のソフトウェア会社であり、また、フォント開発ベンダーでもあることから、多数の日本語フォントを開発し、本件商標権者の本件商標に係るフォント「源ノ角ゴシック」は、リリース以来、需要者・取引者によって広く認識されるに至っている旨主張している。
しかしながら、申立人が提出している証拠は、本件商標とは異なる態様の「源ノ角ゴシック」の文字における使用状況を示したものであることから、これらの証拠をもって上記本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとの判断を左右するものではない。
ウ したがって、本件商標権者の主張は、いずれも採用することができない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2016-09-27 
出願番号 商願2014-45011(T2014-45011) 
審決分類 T 1 651・ 261- Z (W09)
T 1 651・ 262- Z (W09)
T 1 651・ 263- Z (W09)
最終処分 取消  
前審関与審査官 豊田 純一 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 小松 里美
藤田 和美
登録日 2014-10-03 
登録番号 商標登録第5707988号(T5707988) 
権利者 アドビ システムズ, インコーポレイテッド
商標の称呼 ミナモトノ、ゲンノ 
代理人 鎌田 直也 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 

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