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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W44
審判 全部申立て  登録を維持 W44
管理番号 1325090 
異議申立番号 異議2016-900238 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-10 
確定日 2017-02-13 
異議申立件数
事件の表示 登録第5849864号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5849864号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5849864号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成27年12月10日に登録出願、第44類「美容,理容,まつ毛エクステンションの施術,マニキュア又はつけ爪による美容,ネイルケア美容,エステティック美容,美容に関する助言・指導・情報の提供」を指定役務として、同28年4月8日に登録査定、同年5月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第2704127号商標(以下「引用商標1」という。)は、「COCO」の欧文字を横書きしてなり、昭和61年11月27日に登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成7年2月28日に設定登録され、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、指定商品については、同17年6月8日に、第3類「化粧品,香料類」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第520006号商標(以下「引用商標2」という。)は、「Co Co」の欧文字を上段に「コ コ」の片仮名を下段に横書きしてなり、昭和31年3月21日に登録出願、第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同33年5月13日に設定登録され、その後、4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、指定商品については、平成20年11月26日に、第3類「化粧品(化粧用染料及び化粧用顔料を除く。),香料類(薫料,香精,天然じゃ香,芳香油を除く。)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 登録第4492799号商標(以下「引用商標3」という。)は、「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を標準文字で表してなり、平成12年7月21日に登録出願、第3類「化粧品,せっけん類,香料類,かつら装着用接着剤,つけづめ,つけまつ毛,つけまつ毛用接着剤,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用漂白剤,洗濯用ふのり,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,靴クリーム,靴墨,塗料用剥離剤」を指定商品として、同13年7月19日に設定登録されたものであり、その後、同23年6月28日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
4 国際登録第1108062号商標(以下「引用商標4」という。)は、「COCO NOIR」の欧文字を横書きしてなり、2011年7月13日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2012年(平成24年)1月13日に国際商標登録出願、第3類「Preparations the care of the skin, scalp, hair or nails; preparations for application on the skin, scalp, hair or nails; soap, perfumery, essential oils, cosmetics; non-medicated preparations for toiletry use.」を指定商品として、平成24年12月21日に設定登録されたものである。
なお、引用商標1ないし引用商標4をまとめていうときは、以下「引用商標」という。

第3 登録異議の申立の理由(要旨)
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号若しくは同第19号に該当するものであるから、同法第43条の3第2項によって取り消されるべきものである旨申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第168号証(枝番を含む。)を提出した。
1 引用商標「COCO」の著名性について
申立人は、著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」により創設され、香水等の化粧品の他、高級婦人服、ハンドバッグ、ベルト、靴、時計、アクセサリー等の宝飾品などのデザイン・企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするトータルファッションメーカーである。申立人の業務に係る商品は、極めて高い知名度を有しており、いずれも洗練された高品質の商品として知られ、申立人の長年の継続的な努力によって、世界の超一流品としての極めて高い信用が日本においても形成され、著名性を獲得している。
引用商標1及び引用商標2に係る「COCO」又は「COCO/ココ」は、この申立人の創設者である「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称に由来するものであり、申立人はこの引用商標1及び引用商標2を、申立人の商品「香水」等に使用している(甲6ないし甲10、甲13ないし甲132、甲151、甲153)。
申立人による香水「COCO」又は「ココ」は、1984年7月23日にフランスにおいて発表され(甲38、甲123)、次いでヨーロッパにおいて同年9月に発売され(甲32)、日本においてはその翌年たる1985年9月20日に発売されたものである(甲47ないし甲94)。
この申立人の香水「COCO」又は「ココ」は、1985年の日本での発売と前後して多数の新聞、雑誌によって報道され、紹介され、また各種雑誌に広告記事が掲載されている(甲28ないし甲103)。
申立人の香水「COCO」又は「ココ」の日本における発売開始年度である1985年9月から12月末日までの約3ケ月間だけでも、2億5千万円余の販売実績を達成しており、その後も申立人は継続的に雑誌やテレビによる広告・宣伝を行っている。また、申立人は日本において、発売開始後も現在に至るまで約30年近くにわたり、該香水「COCO」又は「ココ」に化体した信用、評判、名声を落とさぬよう、1992年度には9億円以上、その後も毎年約4億円近くもの広告費をかけ、継続的に雑誌やテレビによる広告・宣伝を行い、努力を継続している(甲104ないし甲112、甲152ないし甲160、甲162ないし甲164)。この申立人による不断の努力により引用商標1及び引用商標2が付された商品は継続して高い評価を得ており、世界の一流品を掲載する各種刊行物にも紹介されるに至っている(甲113ないし甲131)。なお、リサーチ会社「INFOPLAN」による香水の著名度に関する調査においても、著名な香水のトップ3にはすべて申立人の香水がランクされており、この申立人の香水「COCO」又は「ココ」は、香水を使用する人の78%、香水を使用しない人でも60%、トータルで68%の人が知っており、申立人の信用の維持のための継続した努力の結果が現れているものである(甲132)。その他にも、ファッションに敏感な女性が愛読するファッションのオンライン雑誌「ELLE ONLINE」にて読者が「人生を変えたフレグランス」として「COCO」が選ばれる等(甲153)、1985年に日本で発売されて以降、現在に至るまで非常に長い間、日本の需要者の間で愛され続けている香水である。
申立人は、引用商標1及び引用商標2に係る「COCO」又は「ココ」を1984年に発売後、その時代に合わせた「COCO」シリーズを展開している。例えば、2001年には、引用商標3に係る「COCO MADEMOISELLE」(ココ マドモワゼル)を、2012年には、引用商標4に係る「COCO NOIR」(ココ ヌワール)を発売した。いずれも、その香水の香りやデザイン、CF等の広告宣伝でも注目を浴び、大ヒット商品となり、引用商標1及び引用商標2に係る「COCO」と並んで、申立人の香水の人気商品のひとつとなっている(甲12、甲16ないし甲18、甲20、甲151、甲152、甲154ないし甲164)。
このことは、1973年に始まったアメリカのフレグランス協会(Fragrance Foundation)がその年の最も優れた香水をニューヨーク市のジャーナリストや香水小売業者の投票により決定される「香水のアカデミー賞」ともいわれる「FIFI賞」(FIFIAWARD)において、その最高の賞として、発売から15年以上経った優れた香水から選ばれている「殿堂入り部門」(Fragrance Hall of Fame)に、引用商標1及び引用商標2に係る「COCO」の香水が1996年に選ばれていることからも、業界内で永年注目を浴び確かな評価を勝ち得ていることは明らかである(甲19、甲20、甲151)。また、引用商標3に係る「COCO MADEMOISELLE」についても、2002年度の「FIFI賞ベストフレグランス(フランス)」に輝き、2012年度の「メディア・キャンペーン部門」にも選ばれており(甲20、甲151、甲162)、申立人の「COCO」シリーズが現在に至るまで、世界中で広く知られ、日本においてもその人気や評判が知れ渡っている。
このように、申立人は、引用商標1ないし引用商標4に係る「COCO」ブランドにつき、1984年の発売から現在に至るまで、「COCO」に化体した信用、評判、名声等が損なわれぬよう、「COCO」の広告宣伝方法から「COCO」の新シリーズの発売等、不断の努力をし続けている。
なお、別件出願に係る異議申立の決定において引用商標1及び引用商標2に係る「COCO」の著名性が認められており、申立人に係る「COCO」の香水の著名性については顕著な事実であるといえる(甲133ないし甲143、甲167、甲168)。
以上のことから、本件商標の出願時である2015年にはすでに、引用商標に係る「COCO」又は「ココ」は、申立人の創設者であり著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られており、また申立人が商品「香水」等に使用する商標として、広く知られ著名性を獲得するに至っていたというべきである。
2 本件商標と引用商標との類似性について
(1)本件商標及び引用商標の構成
本件商標は、「Beauty Salon」の欧文字と「COCO」の欧文字とを上下二段に配した構成よりなる商標である。この本件商標は「Beauty Salon」と欧文字「COCO」が上下二段に分離され、また「COCO」部分は「Beauty Salon」の部分に比して極めて大きく記載され、さらに「Beauty Salon」部分は、英語で「美容院、美容室」を意味し、本件商標に係る第44類の「美容・理容」等の取引業界においては、当該「美容院、美容室」の意味のほか、最近では主に「エステティックやフェイシャル・ボディトリートメント、ネイルケア」等を含む単語として一般的に認識され使用されている語であり(甲144の1ないし甲144の6)、第44類の本件指定役務との関係でみた場合には、何ら自他役務を識別する機能は有しない。
加えて、本件商標の前半部分である「COCO(ココ)」の文字部分については、上述したように著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られ、また申立人の業務に係る商品「香水」等に使用される商標として著名であることから、その著名性をうけて、本件商標に接する需要者・取引者にとっては、おのずと、前半の「COCO(ココ)」部分が強く記憶に残り、該部分が、本件商標の要部として認識されるものである。
したがって、本件商標の構成中「Beauty Salon」の文字部分からは、自他役務識別標識としての独立した称呼や観念は生じず、専らそれ以外の部分すなわち「COCO(ココ)」の文字部分が本件類否判断の対象となる要部というべきであり、当該要部から、「ココ」の称呼が生じるとみるべきである。
一方、引用商標1は、欧文字の「COCO」を横書きにしてなる構成よりなり、引用商標2は上段に欧文字の「CoCo」を、下段に片仮名の「ココ」を二段に書してなる構成である。よって、引用商標1及び引用商標2からは自然に「COCO」部分から「ココ」の称呼が生ずるものである。
引用商標3は、欧文字の「COCO MADEMOISELLE」を横書きにした構成よりなり、引用商標4は、欧文字の「COCO NOIR」を横書きにした構成よりなり、いずれもその構成中に「COCO」の欧文字を含む商標である。そして、引用商標3の構成中「MADEMOISELLE」はフランス語で「未婚女性の敬称」等を意味することから「女性用」といった意味合いを想起させ、引用商標4の構成中「NOIR」はフランス語で「黒色」を意味する言葉であり、これらの語は「化粧品」等の分野においては識別力が弱いというべきである。よって、この引用商標3及び引用商標4からは「COCO」部分より「ココ」との称呼も生ずるというべきである。
(2)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標とを比較すると、本件商標の「Beauty Salon」の文字部分については、「美容,理容,まつ毛エクステンションの施術,マニキュア又はつけ爪による美容,ネイルケア美容,エステティック美容,美容に関する助言・指導・情報の提供」の本件指定役務において識別力が弱く、下段部分の「COCO(ココ)」が、本件商標の要部というべきである。また、本件商標の「COCO(ココ)」部分は、著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られた「COCO」を想起させるものである。そして、引用商標「COCO」は、申立人の業務に係る商品「香水」等に使用される商標として著名であることから、その著名性をうけて、本件商標においても「COCO」の文字部分が強く印象に残り、その要部として認識されるというべきである。そうすると、本件商標の要部である「COCO」の文字部分と引用商標からは、同一の「ココ」との称呼を生ずる。
以上より、本件商標の要部が「COCO」であることから、本件商標と引用商標は、ともに著名なデザイナーである「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称として広く知られた「COCO」を想起させるものとして共通する観念を有し、外観上も引用商標の「COCO」と同一の欧文字の綴り字からなり、さらに互いに「ココ」の称呼を生ずることから、商標自体が類似するものである。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について(出所混同の生ずるおそれについて)
(1)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標の要部は「COCO(ココ)」というべきであり、申立人の業務に係る化粧品等の商標として著名な「COCO」と文字構成が同一であって、そこから生ずる称呼が「ココ」と同一であることから、本件商標と引用商標は、類似性の程度が極めて高いものである。
(2)引用商標の周知著名性の程度
引用商標が、申立人の業務に係る商品に使用される商標として、日本を含め世界的に周知著名なブランド名であることは明白である。
そして、著名商標である、引用商標の独創性の程度については、引用商標は、申立人の創業者である「Gabrielle COCO CHANEL」の愛称又は通称に由来するものであり、特定の意味合いを看取させるものではないことから、創造標章であることは明白である。
(3)本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
引用商標の使用に係る「化粧品」等の商品と本件商標の指定役務である「美容」等との関係についてみると、「化粧品」の中には、美容を目的にした商品(例えば、美顔のためにしわ等の除去や緩和を目途に使用される商品)があり、その用途や用法、品質等からみれば、引用商標の使用に係る「化粧品」と本件商標に係る「美容,理容,まつ毛エクステンションの施術,マニキュア又はつけ爪による美容,ネイルケア美容,エステティック美容,美容に関する助言・指導・情報の提供」の役務の間の関連性の程度は高いというべきである。
また、両者の需要者には、美容等の効果について深い関心を寄せる者(主として女性)が含まれるから、両者は、その需要者を共通にするというべきである。さらに近年のファッションにおいては、単に被服やバッグ等の身に着けるものだけを洗練させたりコーディネートするだけではなく、顔や身体そのものについても身に着けるものに合わせて化粧をし手入れを行う等、頭の先からつま先までをトータルでコーディネートする傾向にある。そして、エステティック美容等の役務提供の際には、化粧水や美容液等の化粧品が使用されており、化粧品メーカーがエステティックサロンを営むことは一般的に行われていることである(甲145の1ないし甲145の7)。
さらに申立人は、「COCO」だけでなく、その後のブランド展開にあたって、「COCO MADEMOISELLE」や「COCO NOIR」等、「COCO」を含む香水ブランドを発売していることからも、「COCO」とエステティックの施設を指称する語を意味するにすぎない「Beauty Salon」との組み合わせからなる本件商標は、申立人の著名な「COCO」ブランドの化粧品を使用したビューティサロンにおける美容として需要者等において認識されうるものであり、取引上相紛らわしいものである。
以上より、本件商標と引用商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に、商品・役務間の関連性、商標自体の類似性の程度、引用商標の著名性の程度、著名である引用商標の独創性の程度、取引者及び需要者の共通性、並びに実際の具体的取引の実情を勘案すると、本件商標がその指定役務に使用されると、取引者及び需要者は、それらの役務が、あたかも申立人若しくは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
加えて、本件商標は、著名な引用商標「COCO」に化体した高い名声及び信用にフリーライドすることによって、当該著名表示に化体した名声、信用、及び評判の希釈化が引き起こされるというべきであり、この引用商標に対する希釈化を防止し、引用商標が有する自他商品識別機能を保護すべきであり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に該当するというべきである。
また、以上のように、本件商標が引用商標を容易に想起させる類似商標であること、引用商標の有する高度な著名性、両商標の指定商品・役務間の関連性が高いこと、及び、その指定商品の取引者・需要者は大部分において重なり合うといった前記具体的事情を考慮すると、本件商標がその指定役務に使用される際には、これに接する取引者・需要者は、あたかも申立人又は申立人と経済的若しくは組織的に何等かの関係がある者の業務であるかの如く誤認し、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたというべきであり、その登録は取り消されるべきである。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標は、申立人による長年にわたる努力の積み重ねの結果、取引者、需要者において広く知られ、高い名声、信用、評判を獲得するに至っており、本件商標の出願時には、引用商標はすでに申立人の業務に係る商品に使用される商標として極めて広く知られていた著名商標であり「COCO」といえば、申立人が製造販売する世界的に有名な香水等の化粧品ブランドの「COCO」との観念が一義的に生じるものである。
一方、本件商標の要部は、係る著名な引用商標の「COCO」と文字構成が同一であって、同一の称呼が生じ、指定役務が申立人の「COCO」が著名性を獲得した「化粧品」と極めて密接な関連を有する役務であることを考えると、商標権者が著名な引用商標を知らず、偶然に著名な引用商標と同一の綴り字及び同一の称呼を生じる文字からなる本件商標を出願したとは考え難く、引用商標の有する高い名声、信用、評判にフリーライドする目的で出願、使用されているものと推認される。したがって、商標権者が本件商標を不正の目的で使用するものであることは明らかであるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してなされたというべきであり、その登録は取り消されるべきである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の著名性について
申立人は、香水等の化粧品をはじめ、高級婦人服、ハンドバッグ、靴、アクセサリー、時計等の製品の製造販売等を業とするトータルファッションメーカーであり、申立人がその業務に係る商品について使用する「CHANEL」及び「シャネル」の表示が、世界的に知られていることは周知の事実といえるところ、申立人の提出した甲第6号証ないし甲第132号証及び甲第151号証ないし甲第164号証を総合すると、申立人の業務に係る商品のうち「香水」について使用される「COCO」又は「ココ」(これらを以下「申立人商標」という場合がある。)は、申立人の創設者である「ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)」の愛称に由来すること(甲23?甲25等)、申立人商標を付した香水(以下「申立人商品」という。)は、1984年(昭和59年)にパリで発売され、同年9月には、ヨーロッパで発売され(甲17、甲18、甲32等)、その報道は、我が国の新聞や様々なファッション雑誌等で紹介されたこと(甲33、甲35、甲37?甲40等)、申立人商品は、我が国では、翌年の1985年(昭和60年)9月に発売が開始されたところ、その発売開始の前後を通して、申立人商品の発売に関する記事が、多数の新聞やファッション雑誌等で掲載されたこと(甲41?甲94)、また、申立人は、「COCO」の文字を表示して、申立人商品の広告をファッション雑誌等に掲載したこと(甲95?甲109、甲112、甲118、甲119、甲122?甲131)、1997年(平成9年)12月の時点において、大阪と東京における10歳代から40歳代800人を対象とした香水のブランド知名度に関するアンケート結果では、申立人の取扱いに係る商品が上位3位を占め、申立人商品は、そのうち第3位であったこと(甲132)、その後、申立人は、申立人商品のシリーズ商品として、2001年(平成13年)に、「COCO MADEMOISELLE」の文字よりなる商標を付した香水を、2012年(平成24年)には、「COCO NOIR」の文字よりなる商標を付した香水を、それぞれ発売したこと(甲16?甲18、甲151、甲152、甲154?甲164)、などを認めることができる。
以上の事実によれば、申立人商標に係る「COCO」又は「ココ」の文字は、申立人の業務に係る商品「香水」を表示するものとして、香水の分野の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認め得るところである。
しかしながら、提出された証拠によれば、申立人商標は、主として「香水」に使用されているものであって、それ以外の商品について広く使用されている事実は見いだせない。
そうすると、申立人商標の周知性は、「香水」を取り扱う分野である「化粧品」の範囲にとどまるものというのが相当であり、その化粧品の分野を超えて、本件商標の指定役務の分野の需要者にまで、広く知られているとは認め難いものである。
加えて、申立人の提出した証拠によっては、申立人商標が、本件商標の指定役務の分野の需要者にまで、広く知られていると認めるに足る証拠を見いだすこともできない。
そして、申立人商標と同じ「COCO」並びに「Co Co」及び「ココ」の文字からなる、引用商標1及び引用商標2も、申立人の業務に係る「香水」及びこれを取り扱う「化粧品」の分野における需要者の間に、広く知られていたと認められるものの、本件商標の指定役務の分野の需要者においてまで、広く知られているとは認められないものである。
また、「COCO MADEMOISELLE」及び「COCO NOIR」の文字からなる引用商標3及び引用商標4は、それらを付した「香水」等を発売したことは認められるものの、申立人の業務に係る商品を表すものとして広く知られていたと認めるに足る証拠の提出はないから、引用商標3及び引用商標4は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く知られているとは認められない。
(2)本件商標と引用商標との類似性
ア 本件商標
本件商標は、別掲に示すとおり、上段に小さく「Beauty Salon」の欧文字と下段に大きく「COCO」の欧文字を横書きしてなるものであるところ、その構成中の「Beauty Salon」の文字部分は、「美容院」を意味する英語であるから、本件商標をその指定役務について使用するときは、「Beauty Salon」の文字部分は、自他役務の識別機能を有しないか、あるいは、有するとしても極めて弱いものというべきである。
そうすると、本件商標は、その構成中の「COCO」の文字部分が、看者に強く支配的な印象を与える部分であるといえるものである。
してみると、本件商標の構成中の「COCO」の文字部分は、独立して役務の出所識別標識としての機能を有するといえるものであり、本件商標は、構成文字全体から生じる「ビューティサロンココ」の称呼のほか、「COCO」の文字部分より、単に「ココ」の称呼をも生ずるものといえる。
そして、該「COCO」の文字は、「ココヤシ、ココヤシの実」などの意味を有する英語(株式会社研究社「研究社 新英和大辞典第六版」)であるから、これよりは「ココヤシ、ココヤシの実」の観念を生ずるものである。
イ 引用商標
引用商標1は、「COCO」の欧文字を書してなるものであり、引用商標2は、「CoCo」及び「コ コ」の文字を二段に書してなるものであり、引用商標3は、「COCO MADEMOISELLE」の欧文字を書してなるものであり、引用商標4は、「COCO NOIR」の欧文字を書してなるものであるところ、引用商標1及び引用商標2を構成する「COCO」及び「コ コ」の文字部分は、商品「香水」との関係において、申立人の業務に係る商品であることを表示する標章(申立人の香水のブランド)として、我が国の香水の分野の取引者、需要者の間に広く知られた商標といい得るものである。
さらに、引用商標3及び引用商標4の構成中、「MADEMOISELLE」及び「NOIR」の文字は、「COCO」の文字を付した香水のシリーズであることを表す語として、「COCO」の文字と一体の構成で使用するものであることから、「COCO」の文字部分が、看者に強く支配的な印象を与える部分であるといえるものである。
してみれば、引用商標1及び引用商標2からは、その構成文字に相応して、「ココ」の称呼を生ずるものであり、引用商標3及び引用商標4からは、その構成中、独立して商品の出所識別標識としての機能を有する「COCO」の文字に相応して、「ココ」の称呼を生ずるものである。
そして、引用商標に接する取引者、需要者は、「COCO(申立人の香水のブランド)」の観念を想起するものとみるのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とは、外観においては、本件商標の構成中、強く支配的な印象を与える「COCO」の文字部分が、引用商標を構成する「COCO」の文字とその綴りを同じくすることから、極めて近似した印象を与えるものである。
そして、称呼においては、両者は「ココ」の称呼を同じくするものである。
また、観念においては、本件商標は、「ココヤシ、ココヤシの実」の観念を生じるのに対し、引用商標は、「COCO(申立人の香水のブランド)」の観念を生じるものであるから、両者は、観念上、類似するところがないものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において類似しないものであるが、称呼を共通にし、外観も近似したものであるから、これらを総合して観察すれば、両者は類似の商標といえるものである。
(3)出所の混同のおそれ
引用商標は、上記(1)のとおり、「香水」を取り扱う分野である「化粧品」の範囲においては、周知、著名であるといえるが、その化粧品の分野を超えて、本件商標の指定役務の分野の需要者にまで、広く知られているとは認め難いものである。
そうすると、本件商標と引用商標とが、上記(2)のとおり、類似の商標であったとしても、該「COCO」の文字が、「ココヤシ、ココヤシの実」などの意味を有する既成の英語であることも勘案するならば、本件商標は、その指定役務に使用しても、引用商標を想起、連想するものとはいえず、これに接する取引者、需要者は、これが申立人又は同人と経済的、若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第19号について
商標法第4条第1項第19号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するもの」を規定している。
そこで、本件商標が本号に該当するか否かについて検討してみるに、前記1(1)のとおり、引用商標は、その申立てに係る指定役務について、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標とはいえないものである。
また、本件商標が不正の利益を得る目的、他人たる申立人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものであることを認めるに足る具体的な証拠はないものであるから、本件商標は、申立人商標について獲得した業務上の信用及び顧客吸引力にただ乗りするものとはいえないし、また、申立人商標の出所表示機能を希釈化したり、その名声を毀損するものでもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲 本件商標




異議決定日 2017-02-03 
出願番号 商願2015-121558(T2015-121558) 
審決分類 T 1 651・ 222- Y (W44)
T 1 651・ 271- Y (W44)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 斎 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 木住野 勝也
中束 としえ
登録日 2016-05-13 
登録番号 商標登録第5849864号(T5849864) 
権利者 株式会社COCO
商標の称呼 ビューティーサロンココ、ココ 
復代理人 池田 万美 
代理人 田中 克郎 
代理人 特許業務法人ぱてな 
復代理人 佐藤 俊司 
代理人 稲葉 良幸 

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