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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W33
審判 全部申立て  登録を維持 W33
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審判 全部申立て  登録を維持 W33
管理番号 1322488 
異議申立番号 異議2016-900048 
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-19 
確定日 2016-11-14 
異議申立件数
事件の表示 登録第5808270号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5808270号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第5808270号商標(以下「本件商標」という。)は、「WILD PUDA」の欧文字を横書きしてなり、平成27年7月13日に登録出願、第33類「ワイン」を指定商品として、同年10月27日に登録査定、同年11月20日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第5761011号商標(以下「引用商標」という。)は、「PUDU」の欧文字を標準文字で表してなり、平成26年12月19日に登録出願、第33類「ぶどう酒,発泡性のぶどう酒,洋酒,果実酒」を指定商品として、同27年4月24日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証(枝番号を含む。なお、甲号証において、枝番号を有するもので、枝番号のすべてを引用する場合は、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
(1)本件商標の商標権者について
本件の商標権者「アレスティ チリ ワイン エス アー(Aresti Chile Wine S.A.)」は、チリ共和国に住所又は居所を有するワイナリーである(甲3)。
(2)申立人商標について
ア 申立人について
申立人「ビニヤ コンチャ イ トロ ソシエダード アノニマ」は、1883年に創設されたラテンアメリカ最大のワイン製造メーカーであり、その製品であるワインの輸出先は、145カ国を超える。申立人は、チリ共和国の首都サンティアゴに本社を構えており、チリ共和国及びアルゼンチン共和国・アメリカ合衆国合わせて、総計10,000ヘクタール以上のブドウ畑を所有しており、その従業員数は、およそ3,600名を数える(甲4)。
イ 申立人商標の周知性について
近年、我が国においては、コストパフォーマンスの良いワインとして、チリ産のワインの輸入量が年々増加しており、2015年、チリ産のワインの輸入量は、フランス産を抜き、首位となっている(甲5)。その中でも、申立人は、チリ共和国において、ワインの輸出量第1位を誇るワインメーカーであり、チリ共和国におけるワイン輸出量全体の、32%のシェアを占めている(甲6)。また、ワインの売上額でみると、2014年は、およそ1,080億円(米国ドル=108円で換算)、12本入りケースの個数でみると、およそ3,400万ケースの売上実績を上げ、これは、世界のワインメーカーの中でも、第5番目の規模である(甲6)。加えて、申立人の所有する、10,000ヘクタールを超えるブドウ畑の敷地面積は、世界で第2番目の規模である(甲6)。
このように、ワインの輸出額、売上額、ブドウ畑の面積等で世界有数の規模を誇る世界的ワインメーカーである申立人は、上述のとおり、145カ国を超える地域で愛飲されており、世界各地で高く評価されている。英国に拠点を置くブランド評価会社である「Intangible Business」社が発表する2015年度のスピリッツ・ワインに係るブランド評価レポートにおいて、申立人は、「MOST POWERFUL WINE BRANDS」として、2年連続で第1位に選出され(甲6、甲7)、英国「Union Press」社の発行する、アルコール飲料専門業界紙である「The Drinks Business」誌で、申立人は、2015年度の「International Best Drinks Company of the Year」を受賞している(甲6、甲8)。
我が国においては、申立人は、2015年7月28日より、キリン株式会社100%出資の子会社であるメルシャン株式会社を介して、「pudu」ブランドのワイン販売を全国で開始している(甲9)。現在発売されている「pudu」ワインには、いわゆる赤ワインの「プードゥ カベルネ・ソーヴィニヨン&シラーズ」と、いわゆる白ワインの「プードゥ シャルドネ&ペドロ・ヒメネス」の2種類がある(甲10)。該「pudu」シリーズのワインは、店頭販売価格が、凡そ500円?600円と、非常に手頃な価格でありながら、その品質は高く、コストパフォーマンスの高いデイリーワインとして、販売開始から現在に到るまで、日本市場において人気を博している。
このことは、メルシャン株式会社が、2016年5月11日付けニュースリリースにおいて発表しているように、「pudu」シリーズから新たな2種、「プードゥ メルロー&カルメネール」及び「プードゥ ソーヴィニヨン・ブラン&セミヨン」が、2016年6月21日、全国で発売される予定であることからもうかがえる(甲11)。
2015年7月28日の「pudu」シリーズのワイン販売開始の際には、我が国における販売元のメルシャン株式会社は、2015年6月10日付けニュースリリースにおいて、「プードゥ」ワイン2種の販売開始の告知を大々的に行なっており(甲12)、その後も、親会社であるキリン株式会社のウェブサイト内において、「チリからやってきた『高コスパワイン! pudu プードゥ』」と銘打って、「プードゥ」製品専用のページを継続して開設している(甲9)。
また、「pudu」シリーズのワイン販売開始に先立ち発表された、2015年6月10日付けニュースリリースにおける大々的な販売開始告知の他にも、販売開始となった2015年7月28日より前に、ビジネス専門・流通専門ウェブサイト、業界紙等、様々な媒体において、「プードゥ」ワインの販売開始が取り上げられ、記事になっている(甲13)。
販売開始後は、各地のスーパーマーケットのお酒売り場において、「プードゥ」ワイン専用のディスプレイコーナーが設けられ、POP広告等を利用して大々的に販売促進キャンペーンが行われている(甲14)。また、週刊誌・新聞紙の読者プレゼントの賞品として、あるいは、店頭での抽選大会の賞品として、「プードゥ」ワインが使用され、「プードゥ」ワインの周知活動も積極的に行われている(甲15)。このように、申立人及びその輸入販売店等によって、たゆまない販売促進活動及び営業努力がなされている。
さらには、一般需要者のブログ等で、「プードゥ」ワインのレビューが数多く存在しており(甲16)、申立人の業務に係る「プードゥ」ワインの注目度の高さがうかがえる。
我が国への輸出量は、「pudu」(2番目の「u」の上部にはアクセント記号がある。以下「申立人商標」という。)を付した赤白2種類のワインは、平成27年(2015年)1?6月の期間に、赤ワイン・白ワイン合わせて、約25万ケース、約300万本であり、輸出額にして約4億7千万円(米国ドル=108円で換算)、量にして約200万リットル分であり、2015年度のチリから我が国へのワイン輸入量の総量である約5,000万リットルのおよそ4%分に相当する量である。
また、平成27年(2015年)7月以降も、申立人商標を付した赤白2種類のワインの我が国への輸出は、高水準で推移しており、平成27年(2015年)1月?12月の輸出量は、赤ワイン・白ワイン合わせて、約40万ケース、約480万本、約360万リットル分であり、2015年度のチリから我が国へのワイン輸入量の総量である約5,000万リットルと比較してみると、およそ7%分に相当する。
さらに、平成28年(2016年)も、申立人商標を付した赤白2種類のワインの我が国への輸出は、高水準で推移し、平成28年(2016年)1月?4月の輸出量は、赤ワイン・白ワイン合わせて、約5万ケース、約60万本、約45万リットル分である。
このように、申立人商標を付したワインは、本件商標が出願された平成27年(2015年)7月13日以前から大量に輸入され、それと同時に、「pudu」シリーズの販売開始の告知が大規模に展開され、また、業界紙等、種々の媒体において、その販売開始が記事として取り上げられている。販売開始後も、申立人及びその販売代理店等の営業努力により、申立人商標は、我が国におけるワイン愛好家、取引者及び需要者の間において、申立人の業務に係るワインの名称として広く親しまれることとなり、現在においても、我が国へ大量の輸出が継続して行われている。よって、周知性を失うような事情は見受けられない。
上述のとおり、申立人商標は、本件商標の出願前(平成27年7月13日)には、「ワイン」を示す名称として、我が国におけるワイン愛好家、取引者及び需要者の間において、広く知られていたことが明らかである。
(3)商標の類似性について
ア 本件商標について
本件商標は、欧文字「WILD PUDA」を横一列に配してなる。本件商標の構成文字のうち、「WILD」の語は、「野生の」という意味を有する、我が国でも非常に馴染みのある英単語である(甲17)。
また、「PUDA」は、チリ共和国のチロエ島にのみ生息するといわれる世界最小の鹿である「プーズー」の学名「PUDA PUDU」に由来すると考えられる(甲18)。これは、本件商標権者が販売している、本件に係る指定商品であるワインのラベルに、該「プーズー」をモチーフにしたと思われる図柄が付してあることからも明らかである(甲19)。
そして、「WILD」(野生の)という語は、動植物の名称等の前に付加される修飾語として、動植物の名称等と非常に親和性があり、そのような用例には、例えば、「WILD ANIMAL」(野生の動物)、「WILD DOG」(野生の犬)、「WILD DEER」(野生の鹿)、「WILD GRAPE」(野生のブドウ)など、枚挙に暇がない。すなわち、かかる事情をかんがみると、「WILD」という語が「PUDA」という語と組み合わされた場合、「WILD」の語は、簡易迅速を尊ぶ商取引の実際において、取引者・需要者によって無意識に捨象されてしまう可能性が高く、取引者・需要者は、「PUDA」を出所標識として認識し取引にあたる可能性が高い。すなわち、「WILD PUDA」において、「WILD」は「PUDA」に比して自他商品識別力が弱く、本件商標の要部は、「PUDA」であると考えられる。
このことは、「WILD」との組み合わせによる2語構成の商標が、第33類の商品(特に、本件に係る指定商品「ワイン」の属する商品)を指定して、登録が数多く認められている(甲20?甲24)ことからも明らかである。
上述したとおり、本件商標は、識別力の軽重に大きな差があり、「PUDA」の方に強い識別力が認められ、本件商標の要部は、「PUDA」である。
このことは、本件に係る指定商品であるワインのラベルにおける、商標権者の本件商標の実際の使用態様からも伺い知ることが可能である(甲19)。
よって、本件商標からは、要部の構成文字「PUDA」に相応して「プダ」の称呼が生じるとともに、観念においては、チリ共和国のチロエ島にのみ生息するといわれる世界最小の鹿である「プーズー」が想起されるものである。
イ 申立人商標について
申立人商標は、欧文字「pudu」を同書同大同間隔にて横一列に配してなり、よどみなく一連一体に「プードゥ」又は「プドゥ」と称呼され、全体で実質2音構成となっている。申立人商標から生じ得る観念については、「pudu」の語が、チリ共和国のチロエ島にのみ生息するといわれる世界最小の鹿である「プーズー」の学名「PUDA PUDU」に由来することから、チリ固有の鹿「プーズー」が想起される。
ウ 商標の対比
本件商標は、構成文字の間で、識別力の軽重に大きな差があり、「PUDA」に強い自他商品識別力が認められるため、本件商標の要部は「PUDA」と考えられる。一方で、申立人商標は、欧文字「pudu」を同書同大同間隔にて横一列に配してなる構成となっている。
ここで、本件商標の要部「PUDA」と申立人商標は、どちらも4文字構成であり、4文字中、外観における識別において重要な要素を占める語頭から3文字目までが「PUD」と共通しており、外観における識別において最も影響が小さいと考えられる語尾のみが、「A」と「U」で異なっている。両商標は、4文字中3文字が共通し、相違する文字は、取引の際には外観上、看過されやすい、商標の最後尾に位置していることから、両商標は、外観上、近似する構成といえる。
次に、観念について検討すると、上述のとおり、本件商標の要部「PUDA」は、チリ共和国のチロエ島にのみ生息するといわれる世界最小の鹿である「プーズー」の学名「PUDA PUDU」に由来しており、該チリ固有の鹿「プーズー」が想起されるところ、申立人商標も同様に、該チリ固有の鹿「プーズー」の学名「PUDA PUDU」に由来しており、チリ固有の鹿「プーズー」が想起される。したがって、両商標は、観念上、近似する商標である。
最後に、称呼について検討すると、本件商標の要部「PUDA」からは「プダ」との称呼が生じ得るところ、申立人商標からは「プドゥ」又は「プードゥ」との称呼が生じ得る。両商標は、称呼における識別において重要な要素を占める語頭の音を共通にし、語尾の音を「ダ行」の音とする点において共通している。称呼が「プードゥ」の場合は、その語頭音が長音を伴うか否かの相違が加わるものの、両商標とも全体で実質2音構成であり、上記共通点により、全体として称呼した際には、近似音として聴取されるものである。
上述のとおり、本件商標の要部「PUDA」は、申立人商標とその外観・観念・称呼のいずれの要素も近似するものであって、かつ、本件商標に係る指定商品は「ワイン」と共通するものである。
したがって、本件商標は、申立人商標に類似するものである。
エ なお、2015年における我が国のワイン輸入量の国別ランキング上位国を見ると、第1位から順に、「チリ」、「フランス」、「イタリア」、「スペイン」となっており(甲5の2)、これら上位国の公用語は、それぞれ順に、「スペイン語」、「フランス語」、「イタリア語」、「スペイン語」である。つまり、本件に係る指定商品「ワイン」の分野においては、通常、商標が付されることとなるワインのボトルのラベルに使用される言語が、我が国でよく親しまれている英語以外の言語である場合がかなり多いことを意味している。我が国では、英語以外の言語はそれほど親しまれているとはいえず、ラベルに英語以外の言語が使用されている場合、ラベルに付された商標の読み方、すなわち、称呼方法が明確でない場合が多く、その場合、取引者・需要者は、その他の要素である「外観」及び「観念」によって出所を識別する。このような事情から、本件に係る指定商品の分野においては、他の商品・役務と比較して、相対的に称呼の占める重要性が低く、外観・観念の占める重要性が高いと考えられる。
すなわち、ワインのラベルに関しては、英語以外の言語が使用される場合における「外観」及び「観念」の重要性が高く、本件の場合、仮に、両商標の称呼が誤認混同を生じるほどには近似しないと判断されたとしても、外観・観念における近似は、称呼の相違を凌駕するものであり、いずれにしても、本件商標は、申立人商標に類似する。
(4)商標法第4条第1項第11号について
引用商標は、申立人商標と実質同一の文字構成・文字配列であり、ワインを意味する「ぶどう酒」を含む指定商品に関するものであるから、本件商標と引用商標は、互いに類似する。
そして、引用商標は、本件商標の出願日より前に出願された登録商標である。
かかる点を考慮すれば、本件商標は、引用商標と類似すると判断することが相当であり、商標法第4条第1項第11号に違反してなされたものである。
(5)商標法第4条第1項第10号について
上述のとおり、申立人商標は、「ワイン」との関係において、申立人の業務に係るものを示すものとして、主たる取引者・需要者の間に広く認識されている実情が認められる。そして、本件商標の要部「PUDA」は、申立人商標との関係において、その外観、観念及び称呼において、相紛らわしいものである。すなわち、本件商標は、申立人商標に類似する商標であって、その商品又はこれに類似する商品について使用をするものである。
上記の点から、本件商標が「ワイン」について使用され、日本市場において取引に資される場合には、取引者・需要者に出所の混同を生じせしめるおそれが極めて高い。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反してなされたものである。
(6)商標法第4条第1項第15号について
ア 2015年1月には、チリからの輸出が始まっていることから、申立人の業務に係る商標「pudu」は、我が国において、遅くとも2015年1月には、申立人の業務に係るワインの名称として使用が開始されており、大々的な販売開始告知、及び、申立人及びその輸入販売店等による、たゆまない販売促進活動及び営業努力の成果により、現在までに、ワインの取引者・需要者の間において広く知られていることは上述のとおりである。そして、本件商標の出願・査定前までに、申立人の業務に係る商品の名称として、広く親しまれていたことは明らかである。
イ 本件商標は、1)その外観、観念及び称呼が、申立人商標と近似し、かつ、2)申立人商標が「ワイン」を示す名称として周知であること、3)申立人は、チリ産ワインのワインメーカーとして世界的に評価が高いこと、4)申立人の業務に係るワインは、ワインの愛好者、取引者及び需要者の間において強い顧客吸引力を発揮していること、を総合的に勘案すると、本件商標が「ワイン」に使用された場合には、「ワイン」に関する主たる取引者・需要者は、本件商標に係る商品について、申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の取引者・需要者が商品の出所について混同するおそれがあることは明らかである。
また、本件に係る指定商品は、大量消費財であり、取引者・需要者の注意力も格別高いと認められる事情も見受けられない。
ウ 上述のとおり、申立人商標の周知性、及び、取引者・需要者の商品に対する注意力の程度とが相侯ることにより、本件商標に接した取引者・需要者は、本件商標に係る商品について、申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同するおそれがある。すなわち、本件商標は、申立人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(7)商標法第4条第1項第19号について
上述のとおり、「ワイン」業界において、申立人及び申立人の商品は、世界中で広く知られており、ワイン製造・販売に関わる業務を行う商標権者は、本件商標の出願前より、申立人の周知商標「pudu」を知悉していたことは明らかである。
このように、本件商標権者が、申立人の周知商標「pudu」の顧客吸引力を利用し、申立人が継続して使用する商標と酷似する商標を、自己の「ワイン」について使用する行為は、申立人の周知商標の顧客吸引力を利用(フリーライド)したブランド商品を市場に蔓延させることとなり、その結果として、申立人が長年の営業努力によって築いた当該周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等の毀損を招来させる。
すなわち、本件商標権者は、申立人の周知商標の顧客吸引力を利用(フリーライド)することを意図して、本件商標を取得したことは明らかであって、不正の目的をもって使用をするものである。
以上のとおり、申立人の周知商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されており、また、本件商標は、申立人の周知商標と類似しており、そして、不正の目的をもって使用をするものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
(8)商標法第4条第1項第7号について
上述のように、申立人の業務に係る商品の出所表示である商標「pudu」は、「ワイン」に関する主たる取引者・需要者の間で広く知られている。そして、本件商標は、申立人商標と近似する文字部分「PUDA」が要部となるものである。さらには、本件商標の実際の使用態様は、本件商標の要部である「PUDA」を視覚的に分離して把握されやすい態様で使用してなるものである(甲19、甲26)。
このような本件商標を、申立人とは何ら関係を有しない他人である本件商標権者が使用することは、本来自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、申立人の広く知られている商標の著名性にただ乗り(フリーライド)することにより得ようとすることにほかならず、申立人商標に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがある。よって、本件商標を不正の目的をもって使用し、申立人商標が持つ顧客吸引力等にただ乗りしようとする意図があると推認することは至極妥当である。このような行為は、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するので、商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 当審の判断
(1)申立人商標の周知性について
ア 申立人の提出した証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)我が国においては、2015年のボトルワインの輸入量で、チリ産がフランス産を抜いて、輸入量トップになったこと(甲5)。
(イ)申立人は、チリ共和国におけるワイン輸出量全体の32%のシェアを占め、そのワインの売上額は、2014年には、およそ1,080億円(米国ドル=108円で換算)、約3,400万ケースの売上実績を上げていること(甲6)。
(ウ)キリン株式会社のホームページにおける2015年6月10日付けのニュースリリース、2015年7月1日付けの業界誌「酒販ニュース」等の同年6月11日から7月の各種記事で、メルシャン株式会社が、申立人商標を付した「プードゥ」と称されるワインを、2015年7月28日から日本全国で販売すると報じられたこと(甲12、甲13)。
イ 以上によれば、遅くとも2015年7月28日以降、我が国において、申立人商標を使用した申立人商品「ワイン」(以下「申立人商品」という。)がメルシャン株式会社を介して販売されていることは確認することができる。
しかしながら、メルシャン株式会社を介した申立人商品の発売日は、本件商標の出願日よりも後である。そして、申立人の主張によれば、2015年1月には申立人商品を我が国へ輸出したとされるものの、この時期はメルシャン株式会社を介した申立人商品の発売前の短期間であって、その販売実績を確認することもできない。また、申立人商標の周知性を明らかにする証拠に関しては、本件商標の登録出願日(平成27年7月13日)前後の輸入販売業者である株式会社メルシャンの輸入販売を報じたニュースリリース(甲12)や上記の業界誌に掲載又は紹介された旨の記載がある証拠等(甲13)が提出されているものの、これらの記事が広く一般に読まれ、認識されているものとはいい難い。さらに、他の証拠(甲9?甲11、甲14?甲16)も、申立人の主張によれば申立人商品の販売開始後の販売状況、販売促進活動及び営業努力等に係るものと解されるが、記事の掲載日が不明又は登録出願時以降のものや、その出所が明らかでないものである。また、他に申立人商品に関する宣伝広告等の実態(方法、回数、内容等、商品カタログや宣伝販促チラシ等の配布部数及び配布地域)も明らかではない。
また、外国における申立人商標の周知性について認定すべき証拠は見いだすことができない。
そうすると、申立人商標が申立人商品を指し示すものとして、本件商標の登録出願時において、我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標
本件商標は、前記1のとおり、「WILD PUDA」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成中、「WILD」の文字は、「野生の」の意味を有する英語(甲17)と認められ、「ワイルド」の称呼を生じるものであり、「PUDA」の文字は、辞書に掲載されていない語であって、特定の意味を有しない一種の造語というのが相当であり、これをローマ字読みした「プダ」の称呼を生じる。
そして、本件商標は、「WILD」と「PUDA」の文字間に一文字程度の間隔を有するが、その構成文字は、それぞれ、同じ書体、等間隔、同じ大きさに表され、全体として、外観の構成がまとまりよく表されており、構成文字全体から生じる「ワイルドプダ」の称呼も6音という簡潔な音構成である。
そうすると、本件商標は、そのまとまりある構成から不可分一体の商標として看取されるものであって、その構成文字に相応して「ワイルドプダ」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。
なお、申立人は、「PUDA」の文字部分は、「世界最小の鹿」である「プーズー」の学名「PUDA PUDU」に由来すると考えられる(甲18)と主張するが、当該動物及びその学名が、我が国において一般に親しまれていることまで立証するものはなく、よって、申立人の主張は採用できず、上記のとおり、特定の意味合いを有しない一種の造語として理解されるというべきである。
また、申立人は、「WILD」という語は、動植物の名称等の修飾語として用例が多数あることにかんがみると、本件商標の要部は「PUDA」の文字部分である旨主張するが、上述の理由から、「PUDA」の文字は動物の名称とは認識されないとみるのが相当であって、その他、「WILD」の文字を捨象する特段の事情も見当たらないから、本件商標の要部を「PUDA」の文字部分であるということはできない。
イ 引用商標
引用商標は、前記2のとおり「PUDU」の欧文字を標準文字で表してなるところ、該文字は、「南米アンデス山脈産の小形の鹿」(「新英和大辞典第6版、株式会社研究社発行」「ランダムハウス英和大辞典第2版、株式会社小学館発行」)の意味を有する語と認められるものであるが、我が国において一般に親しまれている語ということはできないことから、これに接する看者には特定の意味合いを有しない一種の造語として理解されるとみるのが相当である。
そうすると、引用商標は、これをローマ字読みした「プドゥ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とは、それぞれ、前記ア及び前記イのとおりの構成からなるから、外観上明らかに区別できるものである。
また、本件商標から生じる「ワイルドプダ」の称呼と引用商標から生じる「プドゥ」の称呼を比較すると、両者は、構成音数において顕著な差異を有するものであるから、これらをそれぞれ称呼しても、語調、語感が相違し、相紛れるおそれはない。
さらに、観念においては、本件商標と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じないものであるから、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
エ 取引の実情
申立人は、ワインのラベルに関しては、英語以外の言語が使用されることが多く、この場合において、取引者、需要者は、外観及び観念により出所を識別するものであるから、外観及び観念における近似は、称呼の相違を凌駕する旨主張している。
しかしながら、ワイン業界において、外観、観念が称呼より重要視されることを示す証左の提出はない。
そして、前記ウのとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれの点においても、相紛れるおそれのないものである。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
オ その他、本件商標と引用商標が類似するというべき理由は見当たらない。
カ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきであるから、その指定商品が引用商標の指定商品と同一又は類似のものであるとしても、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するということはできない。
(3)商標法第4条第1項第10号について
申立人商標は、前記(1)のとおり、本件商標の登録出願時において、申立人商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間で広く認識されているとはいえないものである。
また、申立人商標は、「pudu」(2番目の「u」の上部にはアクセント記号がある。)の文字を横書きしてなるところ、これが我が国において一般に親しまれている語ということはできず一種の造語として理解され、特定の観念を生じないこと、これよりは「プドゥ」の称呼を生じることは、前記(2)イの認定と同様である。そして、「WILD PUDA」の欧文字からなり「ワイルドプダ」の称呼のみを生じ特定の観念を生じない本件商標と、上記のとおり「プドゥ」の称呼を生じ特定の観念を生じない申立人商標とは、前記(2)ウないしオの認定と同様に、外観、称呼、観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するということはできない。
(4)商標法第4条第1項第15号について
申立人商標は、前記(1)のとおり、本件商標の登録出願時において、申立人商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間で広く認識されているものとはいえないものであり、しかも、本件商標は、前記(3)のとおり、申立人商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、取引者、需要者において、申立人や申立人商標を連想、想起するということはできず、よって、その商品が申立人あるいは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するということはできない。
(5)商標法第4条第1項第19号について
申立人商標が申立人商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時において、我が国及び外国における取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないことは、前記(1)のとおりである。
さらに、本件商標は、前記(3)のとおり、申立人商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
してみると、本件商標は、申立人商標の顧客吸引力にフリーライドする目的等、不正の目的をもって使用する商標であるということはできない。
その他、本件商標が不正の目的をもって使用する商標であることを認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するということはできない。
(6)商標法第4条第1項第7号について
申立人商標は、前記(1)のとおり、申立人商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間で広く認識されているとはいえないものであり、また、本件商標が、申立人商標と外観、称呼及び観念のいずれの点においても、相紛れるおそれのない非類似の商標であることは、前記(3)のとおりである。
したがって、本件商標が、申立人商標の著名性にただ乗りするものであるとする申立人の主張は、その前提において理由がなく、採用することができない。
その他、本件商標が、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くと認めるべき事情も、商標権者による本件商標の使用が社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものとすべき事由もない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできない。
(7)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2016-11-04 
出願番号 商願2015-66349(T2015-66349) 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W33)
T 1 651・ 25- Y (W33)
T 1 651・ 262- Y (W33)
T 1 651・ 263- Y (W33)
T 1 651・ 22- Y (W33)
T 1 651・ 222- Y (W33)
T 1 651・ 271- Y (W33)
最終処分 維持  
前審関与審査官 早川 真規子 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 青木 博文
板谷 玲子
登録日 2015-11-20 
登録番号 商標登録第5808270号(T5808270) 
権利者 アレスティ チリ ワイン エス アー
商標の称呼 ワイルドプダ、ワイルド、プダ 
代理人 杉村 憲司 
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所 
代理人 中山 健一 

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