• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Y32
管理番号 1322429 
審判番号 取消2014-300256 
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-04-07 
確定日 2016-11-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第5042733号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5042733号商標(以下「本件商標」という。)は、「Doctor’sWater」及び「ドクターズウォーター」の文字を二段に横書きしてなり、平成18年7月21日に登録出願、第32類「飲料水,その他の清涼飲料」を指定商品として、同19年4月20日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、平成26年4月23日である。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書、審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書、上申書及び上申書(2)において以下のように主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証(枝番を含む。)を提出した。

1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、本件審判請求の日前3年間継続して、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用されていないから、商標法第50条第1項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。

2 審判事件弁駁書における主張
(1)被請求人は、乙第2号証ないし乙第38号証を用いて、本件商標の使用を主張している。
登録商標の取り消しを免れるための要件は、商標法第50条第2項にあるように、「(ア)審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に、(イ)日本国内において、(ウ)商標権者(専用使用権者、通常使用権者)が(エ)指定商品について、(オ)登録商標を使用すること。(ここでは正当理由については除外)」である。
本件審判の請求の登録日は、2014年4月23日であるから、2014年4月24日以後の登録商標の使用は、商標法第50条第2項の要件に該当しない。
本件商標の商標権者は、タイセイ株式会社(以下「タイセイ」という。)である(甲1)。
したがって、タイセイ以外の者が本登録商標を使用しても商標法第50条第2項の要件に該当しない。
また、「登録商標の使用」は、一般的には「自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用する行為」と解釈されており(甲2、1頁7行?8行)、特に不使用取消審判においては、「商標法2条3項各号に定める使用の定義に形式的に該当することでは足らず、実質的に商標として使用されていなければならない。(甲3、2頁左欄6行?17行)」とされている。
(2)次に、本件商標の使用として問題になる乙第27号証ないし乙第31号証を検証しつつ、被請求人の答弁に反論する。
ア 乙第27号証
本証拠に示されていることは、「依頼主がサンセラ(有)」、「出荷先がスタジオ・ゼロ」、「注文商品がドクターズウォーター500mL(24本入り)、数量10」、「受付日が平成26年4月18日」であることだけである。
ここで、依頼主のサンセラ(有)(以下「サンセラ」という。)は、商標権者ではないので、本証拠は、商標法第50条第2項を証明する証拠として機能しない。
イ 乙第28号証
本証拠に示されていることは、「納入先がスタジオ・ゼロ」、「依頼元がタイセイ」、「商品名がドクターズウォーター500mL 24本、数量10」、「発注日が平成26年4月18日」、「佐川急便に集荷の依頼をしている」、「発注書が株式会社はくすい(以下「はくすい」という。)のものらしいこと」である。
しかしながら、乙第28号証は、発注書であり、この発注書があるからといって、本件商標が商標的機能を発揮するように使用されたか否かは不明である。
すなわち、(ア)佐川急便によって実際に集荷されたか否か、(イ)集荷されたとしても、その際、本件商標が商品に付されていたか否か、(ウ)いかなる包装(ダンボール)を用いて集荷されたか、(エ)包装に本件商標は付されていたか否か(オ)商品がスタジオゼロに納品されたか否か、は全く不明である。
これを証明するには、佐川急便が集荷した際、本件商標が付された商品がダンボール箱等の中に入れられたことを示す、日付付きの写真等が必要であるが、被請求人は、それを証明していない。
佐川急便に集荷を依頼したとしているが、依頼をしたのであれば、通常受領書が発行されるが、被請求人は受領書を証拠として挙げていないので、実際に佐川急便によって集荷されたかは不明である。さらに、スタジオゼロに納品したのであれば、納品された事実を示す受け取り等があるはずであるが、それも証拠として提示されておらず、スタジオゼロに実際に商品が納品されたか否かも、不明である。
ウ 乙第29号証
本証拠に示されていることは、「得意先元帳」として、「サンセラ」、「4月18日」「ドクターズウォーター500mL(24本入り)、数量10」である。この得意先元帳がいずれの会社の得意先元帳であるかは不明であり、乙第29号証は、商標法第50条第2項の要件を証明する証拠として機能しない。
被請求人は、答弁書7頁28行ないし29行で被請求人がサンセラに対して行った販売に対して、売り上げを計上したとしているが、乙第29号証には被請求人を示す事項は示されていないので、被請求人の主張は信ずるに足りない。
仮に売り上げが計上されたとしても、売り上げが計上されることと、実際に商標が使用されたことは一致するものではない。例えば、先に、代金を支払い、その後商品が発送されるような取引も多く存する。すなわち、平成26年4月18日に売り上げが計上されても、実際の商品は、その後例えば、平成26年4月25日に搬送されるような場合もある。
また、売り上げが計上されたとしても、本件商標が商標的機能を発揮するように使用されたか否かは不明である。先にも述べたが、これを証明するには、本件商標が付された商品が商標的機能を発揮するような態様で使用されたことを示す、日付付きの写真等が必要であるが、被請求人は、それを証明していない。
エ 乙第30号証
本証拠で示されることは、「ドクターズウォーター」の文字、「ボトルの形状」であるが、日付の記載はない。
いつ、誰が、どのように乙第30号証を使用したかは、乙第30号証に記載されておらず、不明である。乙第30号証は、商標法第50条第2項の要件を証明する証拠としては全く機能しない。
被請求人は、答弁書8頁1行ないし2行及び、9頁21行ないし10頁6行で乙第30号証を証拠とし、チラシを販売先に渡したと主張しているが、乙第30号証には、日付の記載もなく、販売先に渡された事実を客観的に示す事項は示されていない。また乙第30号証は、後からねつ造できる程度のものである。
オ 乙第31号証
本証拠に示されていることは、「はくすいからタイセイヘの請求書」、「ドクターズウォーターの数量が10」、「発行日は、平成26年4月20日」である。
しかしながら、乙第31号証では、「ドクターズウォーターの数量が10」以外のところは消されており、商品がドクターズウォーターだけのものかが定かでなく、「4/1?4/20出荷」は他の商品に関する可能性もある。
また、請求書が発行されたからといって、本件商標が使用されたことにはならない。すなわち、請求書を先に発行してから、商品が発送されるような場合もある。
また、売り上げが計上されたとしても、本件商標が商標的機能を発揮するように使用されたか否かは不明である。
これを証明するには、本件商標が付された商品が商標的機能を発揮するような態様で使用されたことを示す、日付付きの写真等が必要であるが、被請求人は、それを証明していない。
(3)乙第32号証及び乙第33号証は、本件審判請求の登録後のものであり、使用の事実を示すものではない。
乙第2号証ないし乙第26号証は、被請求人が本件商標を使用していたことを示す証拠ではない。
被請求人は、答弁書9頁7行ないし9行において、株式会社なかむらポリエチレン(以下「なかむらポリエチレン」という。)によって、本件商標が使用されていると主張するが、なかむらポリエチレンが、本件商標を商標として機能するような態様で使用したことを客観的に示す証拠は提示されていない。
このように、被請求人は、答弁書8頁16行ないし9頁17行において、2014年4月18日より、本件商標を使用したと主張しているが、その主張は、客観的証拠に基づかず、根拠のないものである。
(4)被請求人の提出した証拠は、証拠として機能しないものが多数見受けられ、また偽造改ざんできるものも多数ある。
例えば、乙第17号証として、メールのコピー、それに続くラベルの見本を2通付けているが、このメールと、2枚のラベルを関連付ける証拠は全くない。乙第30号証は、平成26年4月24日以後に作成可能である。唯一客観的と思われる佐川急便の受取書もなく、被請求人の主張は信じるに足りない。
以上から、本件商標は取消を免れない。
(5)商標法第50条第3項の適用について
商標法第50条第3項は、被請求人が登録商標の使用をしたと認められる場合であっても、その使用が、審判の請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間にされたものであって、その審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したときは、その登録の使用は、いわゆる「駆け込み使用」であり、商標法第50条第1項に規定する登録商標の使用に該当せず、取消しを免れることができない旨規定されている。
被請求人は、種々の証拠らしきものを提出し、登録商標の使用をしていることを主張しているが、前述したとおり、本件商標が使用されたことは証明されていない。
しかしながら、仮に本件商標が使用されていたとしてもとしても、当該使用は、上記のような態様のいわゆる「駆け込み使用」であることを、以下に証明する。
ア 被請求人は、2014年(平成26年)4月18日に、本件商標を付したミネラルウォーターの販売を行うことにより登録商標の使用を行った、と主張する。
ここで、審判請求の登録の日は、2014年4月23日であるから、2014年4月18日は、「審判の請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間」の要件を満たす。
イ 次に、被請求人は、甲第4号証に示すとおり、平成26年2月17日において、指定商品「飲料水,その他の清涼飲料」について、本件商標と同一の商標「Doctor’sWater/ドクターズウォーター」なる商標について、商標登録出願(商願2014-11556)を行っている。
また、平成26年3月7日においても、甲第5号証に示すとおり、指定商品「飲料水,その他の清涼飲料」について、上述の商願2014-11556のフォントを変更した程度の差異しかない商標について、商標登録出願(商願2014-17723)を行っている。
現時点で本件商標を有しているにもかかわらず、本件商標と同一の指定商品において、本件商標と同一の商標について出願を行うということは、通常の発想では有り得ないことであるし、そもそもが商標法制定の趣旨に反するものとして、拒絶の対象となるものである(商標法第4条第1項第7号、特許庁審査基準)。
ウ ここで、甲第6号証に示すとおり、請求人は、平成25年2月22日において、指定商品「飲料水,その他の清涼飲料」について、商標「ドクターウォーター」について、商標登録出願(商願2013-15939)を行ったが、本件商標の存在を理由として、平成26年1月7日において拒絶査定となったものである。
甲第7号証に示すとおり、商標法第50条第3項の「審判の請求がされることを知った」とは、審判請求がされる可能性があることを知っていたことを立証すれば足りる、と判示されている(平成18年(行ケ)第10183号審決取消請求事件)。
すなわち、被請求人は、商願2013-15939の存在及び出願経過を認識、調査した上で、本件商標登録が不使用による取消審判を請求される可能性があることを知った後、本件商標と同一の商標について商願2014-11556にかかる商標登録出願を行ったことは明らかであると確信する。上述したとおり、出願人なりに、何らかの必要性が存在しなければ、登録商標と同一の商標について出願を行うようなことは有り得ないからである。
よって、2014年4月18日における被請求人のミネラルウォーターの販売行為は、「審判の請求がされることを知った後」の行為であることは明らかである。
エ 以上述べたとおり、仮に、2014年4月18日の上記行為が、被請求人が主張しているとおり、商標法第2条第3項各号の登録商標の使用に該当したとしても、当該行為は、商標法第50条第3項のいわゆる「駆け込み使用」に該当する。
よって、本件商標登録については、取消しを免れない。
(6)まとめ
以上述べたとおり、被請求人の答弁書における主張については、その理由がない。

3 口頭審理陳述要領書における主張
(1)被請求人の登録商標の使用にかかる主張について
ア 被請求人は、陳述要領書12頁3行から5行において、「ミネラルウォーター「ドクターズウォーター」(以下「本件商品」という場合がある。)に、当該ラベル(乙10)がシュリンク加工されていたこと、及び本件商品の出荷の際に当該ダンボール(乙11)が使用さていたことは社会常識として当然のことです。」と主張するが、被請求人の主張は憶測にすぎない。
被請求人の提出した証拠では、本件商品(ペットボトル)にラベル(乙10)が付され、ダンボール(乙11)に梱包されて配送されたか否かは明らかにされていない。本件商品が、無地のダンボール箱に入れられて、サンセラに配送され、サンセラで、しばらくダンボール箱が開けられずに、本件商品が取りだされることなく、ダンボール箱の中に入れられたままの状態におかれていたということもありうる。
これは、(ア)本件商品の取引は過去、何度も行われていたものではなく、今回のはくすいからの発送が、商取引として初めてのものであること、(イ)口頭審理陳述要領書6頁22行や同頁26行に記載されているように、今回の取引が「至急案件」であることを考慮すると、時間的に切迫しており、ラベルのついてないペットボトルが、無地のダンボールに入れられて送られた事態も想定できる。
被請求人が平成26年6月16日に提出した答弁書5頁3行ないし8行にはなかむらポリエチレンがラベル(乙10)とダンボール(乙11)箱をはくすいに納入する旨の記載がある。
しかしながら、なかむらポリエチレンとはくすいとの間の取引を示す証拠は被請求人から提出されていない。実際に、なかむらポリエチレンから、はくすいにラベルと、ダンボール箱が納品されているのであれば、その取引に関する発注書、納品書、受領書、請求書等があるはずであるが、それらは証拠として提出されていない。
したがって、被請求人が4月18日に発送されたと主張するペットボトルに乙第10号証に示すラベルが付されていたか否か、乙第11号証に示すダンボールにこのペットボトルが入れられたか否かは不明である。
イ 乙39号証は、タイセイとはくすいとの間の製造委託契約書であり、商標権の使用権設定契約書ではない。すなわち、この契約書において、タイセイがはくすいに対して、本件商標の使用を許諾する旨の条項はない。商標の使用権設定契約書は例えば、甲第8号証に示すようなものであり、許諾する商標が指定される。
したがって、はくすいは、商標法第50条に示される使用権者ではないので、はくすいが当該商標を使用しても、取り消しを免れない。
(2)商標法第50条第3項(いわゆるかけこみ使用)について
ア 被請求人は、「平成26年2月13日付けで審判外の第三者より、本件商標権の譲渡交渉の申し出を受けたから、平成26年2月17日に商願2014-11556、及び同年3月7日に商願2014-17723をそれぞれ行った。当該交渉は友好的に話し合いが進んでおり、不使用取消審判が請求されるとは考えもしていなかった。これらの出願は商標権について譲渡交渉の申し出があった際にごく一般的に行われる対応であり、不使用取消審判が請求されることを具体的に確信して行ったものではまったくない。」旨の主張を行っている。
イ しかしながら、本件商標権について譲渡交渉の申し出があったからといって本件商標と全く同一の指定商品について、全く同一の商標にかかる商願2014-11556を行う必要性は存在しない。申し出がされた譲渡交渉が友好的に進み、商標権者が当該申し出を受け容れるのであれば、商標権を(全部、一部)譲渡する、又は各種使用権を設定、許諾すれば足りることである。また、そもそも譲渡交渉の成否にかかわらず、商願2014-11556は、本件商標権の存在を理由として、本件商標権の商標権者が被請求人のままであれば商標法第4条第1項第7号、さもなければ商標法第4条第1項第11号により拒絶査定となることは明らかである。
ウ さらに、被請求人は、「平成26年2月13日付けで審判外の第三者より、本件商標権の譲渡交渉の申し出を受けています。」と記載しているのみで、当該第三者が何者なのか、どのような交渉があったのか等、具体的な情報、証拠について何の言及、提出もしていない。当該第三者の氏名及び名称まではともかく、譲渡交渉の申し出があったことが事実であることを証明するための最低限の具体的な証拠は、個人情報部分を黒塗りやモザイク等で処理することにより示すことができるはずである。
エ しかしながら、被請求人は、本件商標を使用していることについては、(その真偽についてはさておき)相当の紙面、労力を要して、また、取引先等の情報まで詳細に明らかにした上で主張を行っているにもかかわらず、かけこみ使用については、「平成26年2月13日付けで審判外の第三者より、本件商標権の譲渡交渉の申し出を受けています。」としか記載されておらず、いかにも不自然でバランスを欠き、かえって、かかる事実の信ぴょう性に疑念を呈さざるを得ない。また、当該譲渡交渉が事実であるとするならば、上述したとおり、商願2014-11556を行う必要性は存在せず、本件審判請求事件と同様、被請求人は、本件商標に何らかの瑕疵があったことを認識していたのではないか、とも推認できる。
オ 加えて被請求人は、「不使用取消審判が請求されるであろうことを被請求人が知っていたことについての立証責任は請求人にあるが(商標法第50条第3項)、請求人はそれを行っていない。『その審判の請求がされることを知った』とは、被請求人が単に審判請求を受ける一般的、抽象的な可能性を認識していたのみでは足りず、交渉相手から書面等で審判請求することを通知された等の具体的な事実によって、相手方が審判請求を行う蓋然性が高く、かつ、被請求人がこれを認識していると認められることが必要であり、請求人の主張は商標法第50条第3項の要件を満たしていない」旨の主張を行っている。
カ しかしながら、審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、本件商標と全く同一の指定商品について、全く同一の商標にかかる商願2014-11556を行っていることこそ、被請求人が「その審判の請求がされることを知った」ことを証明する具体的な証拠として十分なものであると確信する。平成26年7月25日付けで提出した弁駁書で既に主張したとおり、被請求人は、商願2013-15939の存在及び出願経過を認識、調査した上で、本件商標が不使用による取消審判を請求される可能性があることを知った後、本件商標と同一の商標について商願2014-11556にかかる商標登録出願を行ったことは明らかである。
キ したがって、かかる被請求人の主張は、理由のないものであるといわざるを得ず、本件商標は、取消しを免れない。

4 上申書における主張
被請求人により提出された、上申書(1)及び上申書(2)等について、請求人は以下のとおり上申する。
(1)商標の使用について
ア 被請求人は、乙第69号証の1として、平成26年4月14日付けの出荷案内書と、乙第69号証の2として、2014年12月11日付けのメールを提出している。
被請求人の主張によれば、乙第69号証の2のメールに、乙第69号証の1の出荷案内書を添付して送ったとのことである。
しかしながら、乙第69号証の1の出荷案内書には、具体的な商品は特定されておらず、この出荷案内書が本件商標を有するラベルに関するものか否かは不明である。
甲第9号証の1及び甲第9号証の2は、なかむらポリエチレンのインターネットでの取扱商品を示す資料であるが、なかむらポリエチレンは、「日曜雑貨、印刷、木製品、紙、パルプ製品、化学、ゴム、プラスチック」等の広範囲な製品を取り扱っている。このように、なかむらポリエチレンは、ラベルや、ダンボール箱の製造に特化しているわけではないので、この出荷案内書が被請求人の主張するようにペットボトル用のラベルである特定することはできない。
また、12月11日のメールに、8ヵ月も前の4月14日の出荷案内書を添付することも不自然であり、このメールには、別の出荷案内書等が添付された可能性が高く、被請求人の主張は信憑性に欠ける。
なかむらポリエチレンが製造したとされるダンボールについては、はくすいとなかむらポリエチレンとの間のメールや文書の交信記録、納品書、請求書等の証拠は、未だ提出されていない。
したがって、4月18日に当該商標の付いたペットボトルが、当該商標の付いたダンボール箱に入れられて搬送されたかどうかは依然として不明である。
イ 本件商標の使用の主体
(ア)本件商品の製造者、販売者
被請求人が提出した乙第71号証の1及び乙第71号証の2によれば、ペットボトルの製造者は「はくすい」であり、販売者は「スタジオゼロ」であり、このラベルにタイセイの名称は含まれない。乙第11号証に係るダンボール箱には「studio 0」の表示があるが、タイセイの表示はない。
平成26年6月16日提出の被請求人の審判事件答弁書7頁21行ないし25行によれば、本件ペットボトルは、サンセラ(スタジオゼロ)からの注文を受けた被請求人(タイセイ)がはくすいに製造を依頼したものである。
同答弁書5頁11ないし12行には、「スタジオゼロにおいて当該商品をヨガ教室の生徒に販売している。」旨の記載がある。
すなわち、本件ペットボトルは、はくすいが製造し、スタジオゼロが販売するものである。被請求人であるタイセイは、販売者であるスタジオゼロと、製造者であるはくすいとの間の単なる仲介者にすぎず、この事実は、上記ラベルやダンボール箱にタイセイの表示がないことからも明らかである。
(イ)甲第10号証は、スタジオゼロのホームページの抜粋である。甲第10号証3頁には、本件商標を付されたペットボトルの写真等が表示されおり、本件商品が、スタジオゼロで販売されていることが分かる。
甲第11号証は、はくすいのホームページの抜粋である。甲第11号証にあるように、はくすいのホームページでは、本件商標を付されたペットボトル等は表示されていない。
甲第12号証は、タイセイのホームページの抜粋であり、乙第2号証とほぼ同様のものである。甲第12号証6頁に示されるように、タイセイのホームページには、自然回帰水と称するペットボトルは表示されているが、本件商標(ドクターズウォーター)を付したペットボトルは表示されていない。
なお、回帰水に関する商標は、乙第6号証に示されるように、タイセイが権利者となっている。
このように、タイセイは回帰水及びドクターズウォーターの両者に商標権は有しており、自然回帰水なるペットボトルの販売はしているが、本件商品(ドクターズウォーター)を販売していないことはホームページの掲載内容をみても、明らかである。
(ウ)一般的な飲料用ペットボトルの商標の使用の主体
甲第13号証ないし甲第15号証及び甲第16号証ないし甲第18号証に示されるように、飲料用ペットボトルの場合、販売会社又は販売会社の親会社が商標権者であり、販売会社が当該商品を市場で販売することが多いようである。
そして、かかる商品が市場を流通し、取引者、需要者は、このラベルにより、商品を他の商品と識別し、その商品の出所を知りその商品を購入する。
このように、他の飲料用ペットボトルの販売の実情等を考慮して、商標の使用の主体を考えると、本件商標の使用者は、当該飲料用ペットボトルの販売者又は製造者と考えるのが妥当である。
(エ)以上を総合すると、本件ペットボトルの場合、ラベルに記載のとおり、販売者はスタジオゼロであり、製造者がはくすいであり、本件商標の使用の主体は販売者であるスタジオゼロ又は製造者であるはくすいと解するのが妥当であり、タイセイは単なる仲介者にすぎず、タイセイは本件商標を使用していない。
また、タイセイとはくすいとの間には、製造委託契約は存在するが、商標権の使用契約は存在せず、黙示の使用契約も存在しない。
同様に、タイセイとスタジオゼロの間にも、商標権の使用許諾契約は存在せず、黙示の使用許諾も存在しない。
したがって、本件商標を、はくすい又はスタジオゼロが使用したとしても、商標権者又は使用権者の使用ではないので、本件商標は商標法第50条による取り消しを免れない。
被請求人は、乙第70号証をあげて、黙示の使用権でもよいと主張するが、黙示の使用権で足りるとするのは、当該事件における個別具体的な事情(例えば、親会社と子会社の関係)を考慮した例外的なものであり、商標法第50条には、商標権者、専用使用権者、通常使用権者の使用が必要であると明定されており、使用の主体を判断する原則は、商標法第50条の文言に従うべきである。
なお、乙第70号証に記載された幾つかの事例についてみれば、商標を使用した者と被請求人の間に、親会社と子会社のように密接な関係を有する場合のみ黙示の使用許諾が認められるだけである。
本件の場合、商標権者であるタイセイと、スタジオゼロ及びはくすいとの間には、このような密接な関係は存せず、黙示の使用権が存在するということはできない。
(オ)以上、被請求人が4月18日発送されたと主張するペットボトルに乙第10号証に示すラベルが付されていたか否か、乙第11号証に示すダンボールにこのペットボトルが入れられたか否かは依然として不明である。
また、本件商標の使用の主体は、スタジオゼロ又ははくすいであり、タイセイは、本件商標を使用していない。スタジオゼロ、はくすいは本件商標の使用権者ではなく、黙示の使用権も存在しない。
したがって、本件商標は商標法第50条の規定により取り消されるべきである。
(2)いわゆる駆け込み使用について
ア 上申書においては主張されていないものの、被請求人は、口頭審理において、登録商標についての譲渡交渉があった後に、全く同じ指定商品・役務について、全く同じ商標を出願することは、当然行うことであり、何の不自然もない、との趣旨の主張を行った。
しかしながら、請求人が平成26年12月2日に提出した口頭審理陳述要領書でも主張したとおり、譲渡交渉の成否にかかわらず拒絶査定となることが明らかなものについて、あえて出願する意図が理解できない。
被請求人は、本件商標について、まさに上記審判事件のような、不使用による取消などの瑕疵があったことを認識していたものと推認される。
さらに、本件商標が無効・取消となることを想定して新たにそのような商標登録出願を行うことは、譲渡交渉相手方に対して信義則に反する行為であると解される。
イ また、被請求人は、口頭審理において、「平成26年2月13日付けで、審判外の第三者より、本件商標権の譲渡交渉の申し出を受けていることが事実であることを証明する証拠を提出する。」との趣旨の主張を行った。
これについて、請求人は、審判官合議体のみならず、請求人においても、当該証拠の閲覧を要求する。

5 上申書(2)における主張
被請求人により平成27年1月15日に提出された、上申書(3)等について、請求人は以下のとおり上申する。
(1)商標の使用について
ア 被請求人は、上申書(3)3頁24行ないし28行において、「乙第69号証の1及び乙第69号証の2以外には、はくすいとなかむらポリエチレンとの間の文書等を証拠方法として提出しないのは、・・・審判外の両者にこれ以上の負担をかけることを望まないためです。」と述べるにとどまり、結局なかむらポリエチレンとはくすいとの間のダンボール箱の発注、納入等に関する事実は全く証明されていない。
乙第25号証は、はくすいからタイセイヘのメールと見積書であり、その日付は、平成26年4月8日で、シュリンク発注10,000枚ロット、ダンボール発注500枚ロット、ダンボール発注1,000枚ロットとなっている。
乙第69号証の1は、なかむらポリエチレンからはくすいへの出荷案内書であるが、その中には、ドクターズウォーター数量10100となっており、これはシュリンクラベルに対応するものと思われるが、ここにはダンボールについての記載はない。
このように、シュリンクラベルは、なかむらポリエチレンが発行する出荷案内書に記載されているが、ダンボール箱については、出荷案内書に記載されていない。
被請求人は、他に多数の証拠を提出しているにも関わらず、なかむらポリエチレンに対しては、乙第69号証の1のみであり、結局ダンボール箱の発注、納入については、立証できなかったのである。
乙第11号証に示すダンボール箱には日付の記載はないことからも、はくすいからなかむらポリエチレンにいつダンボールの発注が行われ、そして、いつ、どのようにして、ダンボール箱がなかむらポリエチレンからはくすいに送られたかは全く不明のままである。
当該取引は、はじめての取引であり、至急の案件であったと被請求人は述べていることからも、本件商品が無地のダンボール箱に入れられて搬送された可能性は否定できない。
イ はくすいが、当該ペットボトルにシュリンクラベルを貼るだけでは、本件商標の使用とはいえない。
請求人が平成26年7月25日に提出した審判事件弁駁書2頁20行ないし24行に記載したように、登録商標の使用は、自他商品識別力ないし出所表示機能を有する態様で使用すること、すなわち、実質的に商標として使用することが必要であり、商標法第2条第3項各号に形式的に該当しても商標の使用とはならない。
上記したように、はくすいが、当該ペットボトルにシュリンクラベルを貼るだけでは、本件商標の使用とはいえず、自他商品識別力ないし出所表示機能を有する態様で、実質的に商標として使用されていることが必要である。
ウ 上述したように、4月18日に無地のダンボール箱に本件商品が入れられて、スタジオゼロに搬送された可能性は否定できず、また、4月18日に、スタジオゼロにおいて、当該ペットボトルが販売された事実もない。
したがって、本件商標は、平成26年4月18日に実質的に使用されたということはできない。
なお、被請求人は、上申書(3)4頁15行ないし17行において、「4月18日に出荷された本件商品には本件商標が付されていたこと、及び本件商標が付された専用ダンボールに梱包されて出荷されたことは社会的常識からして当然です。」と述べているが、専用ダンボールに梱包されずに出荷された可能性も否定できない。
(2)本件商標の使用の主体について
ア タイセイとはくすいの間に締結されているのは、基本契約であり(乙39)、この基本契約はペットボトルの製造委託契約である(基本契約書前文)。
はくすいは、タイセイに対してペットボトルの納入を行い(基本契約書第4条)、タイセイは、はくすいに支払いを行う(基本契約書第5条)。
被請求人は、タイセイとはくすいとの間に黙示の通常使用権が存在すると主張するが、誤りである。
一般的に、通常使用権契約においては、通常使用権者から商標権者に対して、ライセンス料を支払うが、本件の場合、はくすいは商標権者であるタイセイから、支払いを受けるのであるから、はくすいを通常使用権者と考えることはできず、両者の間に黙示の通常使用権は存在しない。
イ 被請求人は、上申書(3)5頁10行ないし11行で、OEM生産やODM生産の普及により、製造者と販売者が異なることは珍しくないと述べているが、通常OEM生産は、他社が製造した製品を自社ブランドとして販売するものである。
乙第71号証の1及び乙第72号証の2に示される、本件商品のラベルには、製造者として、はくすい、販売者として、スタジオゼロと記載されている。
本件の場合、製造者と明記されているはくすいが製造し、販売者として明記されているスタジオゼロが販売しているのであるから、OEM生産には該当しない。
ウ 本件商品の流れ
被請求人が提示している参考資料2(2014年4月18日の本件商品取引に関する流れ(概要))に示されるように、本件商品は、はくすいによって製造され、タイセイを介さず直接スタジオゼロに搬送される。そしてスタジオゼロにおいて、最終需要者に販売される。
乙第22号証に示されるように、本件商品のラベルには、ドクターズウォーターの表示以外に、スタジオゼロの表示があり、本件商品はスタジオゼロでのみ販売される専用品である。
請求人が平成26年12月26日に提出した上申書2頁27行ないし3頁10行で述べたように、タイセイは、そのホームページで回帰水の販売を行っているが、ドクターズウォーターの販売は行っていない。
このように、タイセイは本件商品の製造も販売もしておらず、まして本件商品の流通にも関与していない。
本件商品の最初の製造のきっかけは、タイセイがスタジオゼロに持ちかけたとしても、以後の商品の流れは、スタジオゼロで販売される分だけ、はくすいが製造し、はくすいから直接スタジオゼロに搬送されるのであるから、タイセイは本件商品の製造、販売、流通に関与せず、スタジオゼロとはくすいの仲介役にすぎないと考えるのが妥当である。
エ 以上から、本件商品の製造、販売、流通の主体は、はくすいとスタジオゼロであるから、本件商標の使用の主体は、はくすい又はスタジオゼロと考えるべきである。
そして、タイセイ、はくすい、スタジオゼロの間には資本の関係はなく、互いに独立した企業体である。はくすい、スタジオゼロは、本件商標の商標権者でもなく実施権者でもなく黙示の実施権も存在しない。
したがって、本件商標は商標権者等によって使用されておらず、本件商標は商標法第50条の規定により取り消されるべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書(1)ないし上申書(4)において以下のように主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第77号証(枝番を含む。)を提出した。

1 答弁書における主張
(1)被請求人が販売する商品とその商品に使用する商標について
ア 被請求人は、そのホームページ(https://www.kaikisui.co.jp/)によれば、昭和57年7月より水処理用セラミックスの開発を開始し(乙2)、現在では、家庭用・業務用浄水器の開発・販売、及び飲料水の販売といった水に関連するものを中心に、様々な事業を行っている(乙3)。中でも、阿蘇の天然水を原材料とするミネラルウォーター「回帰水」(乙4)は大変な人気で、回帰水を使ったスキンケア商品や栄養ドリンク等各種商品の販売も手掛けている(乙3)。また、回帰水は、2007年から7年連続してモンドセレクション最高金賞を受賞しており(乙5)、被請求人は、回帰水に関連した商標権だけでも5件有している(乙6)。
このように、各種事業を行う被請求人がその一環として行っているのが、包装容器たるペットボトルに商標「Doctor’s/Water/ドクターズウォーター」(以下「本件使用商標1」という。乙7)を付した本件商品(乙8)の販売である。
イ 本件商品の販売準備から販売に至る過程、及び関係者の関係をわかりやすく説明した図(資料第1)を提出し、これらの概要について、以下のとおり説明する。(なお、以下に示す「ルート○」は資料第1に示す各過程を指す。)
(ア)被請求人は、回帰水が同社の会員に対してのみ販売する商品であるため、これとは異なる新たな販路及び市場の開拓を目的として新規ブランドを企画し、スポーツ用に特化したミネラルウォーターの販売を行うこととした。これが本件商品である。
被請求人はまず、新規商品の名称を「ドクターズウォーター」とし、商標については、本件商標とすることを決定した(ルートA)。
(イ)これと並行して販売先を探したところ、以前からの取引先であるサンセラが、水との関わりをテーマにしたヨガスタジオ、スタジオゼロ(乙9)を新たに福岡市内にオープンすることを知った。そこで、早速、本件商品について話をしたところ、うまく商談が成立したことを受け、本件商品の製造及び販売の準備を開始した(ルートA)。
(ウ)被請求人は、ペットボトルにシュリンク包装する本件使用商標1が付された本件商品のラベルのデザインについては、株式会社岩崎デザイン事務所(以下「岩崎デザイン事務所」という。)へ依頼した(ルートB)。
デザイン化された当該ラベルの印刷については、回帰水の製造者である、はくすいを通して、その取引先である、なかむらポリエチレンへ依頼した(ルートC、ルートD)。
(エ)また、本件商品の納品用ダンボールへの本件使用商標1の印刷に関しても、上述のラベルの印刷と同様に、はくすいを通してなかむらポリエチレンへ依頼した(ルートC、ルートD)。
(オ)そして、本件商品の製造に関しては、最終製品の完成担当者として、はくすいへ依頼した(ルートC)。
(カ)なかむらポリエチレンは、岩崎デザイン事務所がデザインしたラベルデザイン図の提供を受け、それを基に印刷した本件商品のラベル(乙10)及び本件使用商標1を印刷したダンボール(乙11)をはくすいに納品する(ルートE)。
(キ)はくすいは、ペットボトルにミネラルウォーターを充填し、なかむらポリエチレンから納品された前述のラベルをシュリンク加工してペットボトルに付すことにより本件商品を完成させる。その後、同じくなかむらポリエチレンから納品された前述のダンボールに梱包して、本件商品を被請求人へ納品する(ルートF)。なお、本件商品の納入場所については、被請求人の指示により、スタジオゼロとなっている。
(ク)被請求人は、はくすいから納品された本件商品をサンセラヘ販売する(ルートG)。
(ケ)被請求人から本件商品を購入したサンセラは、自身が経営するスタジオゼロにおいて当該商品をヨガ教室の生徒へ販売している(ルートH、ルートI)。
ウ 以下、本件商品について、その準備から発売に至るまでの主な経緯を時系列に詳述する。なお、営業秘密にあたる情報は伏せている。
2013年8月
・被請求人が本件商品の販売について企画し、商品名を「ドクターズウォーター」、商標を本件商標とすることを決定した(ルートA)。
・被請求人がサンセラに対して本件商品の説明をし、スタジオゼロで本件商品を販売することについて両者間で商談が成立した(ルートA)。
2013年9月
・被請求人が、はくすいに対して、本件商品のサンプル作成を依頼した。
2013年10月1日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品のサンプル品(本件商品2L入り及び500m1入りを各10ケース)をスタジオゼロヘ発送したと報告した(乙12)。
2013年12月
・被請求人が、岩崎デザイン事務所に対して、本件商品のラベルデザイン図の作成を依頼した(ルートB)。
2014年1月15日
・岩崎デザイン事務所が、被請求人に対して、ミネラルウォーターのラベルデザイン図作成に関する見積書を提出した(乙13)。
2014年1月30日
・岩崎デザイン事務所が、被請求人に対して、2種類のラベルデザイン図案を示した(乙14の1?乙14の3)。
2014年2月15日
・岩崎デザイン事務所が、被請求人に対して、ラベルデザインの修正図案を示した(乙15)。
2014年2月19日
・岩崎デザイン事務所が、被請求人に対して、ラベルデザインの版下案を示した(乙16)。
2014年2月24日
・岩崎デザイン事務所が、被請求人に対して、ラベルデザインの最終版下案を示した(乙17)。
2014年2月25日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品の見積書を提出した(乙18)。
2014年3月12日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品20L用のラベルデザイン図の提供を依頼した(乙19)。
2014年3月15日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品に関するシュリンク費用込の見積書を提出した(乙20)。
2014年3月25日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品20L用のダンボールのデザイン図を示した(乙21)。
2014年3月27日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品のラベル見本及びダンボールのデザイン図を示した(乙22)。
2014年3月28日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品の見積書の改訂版を提出した(乙23)。
2014年4月2日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品用ダンボールのデザイン図を示した。また、併せて、本件商品500ml用のラベルをなかむらポリエチレンへ1万枚発注したことを報告した(乙24)。
2014年4月8日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品500ml用ダンボールのデザイン図を示し、最終見積書を提出した(乙25)。
2014年4月10日
・はくすいが、被請求人に対して、電話番号を追加した本件商品500ml用ダンボールのデザイン図を示した(乙26)。
2014年4月18日
・サンセラが、被請求人に対して、本件商品500ml・1箱24本入りを10箱発注した(乙27)。
・被請求人がはくすいに対して、本件商品500ml・1箱24本入りを10箱発送するよう依頼した。同時に、納入先はスタジオゼロとするよう依頼した(乙28)。
・はくすいが、被請求人からの上記指示内容に従い本件商品を出荷した(乙28、ルートF)。
・被請求人が、サンセラに対して行った販売(本件商品500ml・1箱24本入を10箱販売)について売上計上した(乙29、ルートG)。
・被請求人が、サンセラに対して、本件商品のチラシ(乙30)を渡した(ルートG)。
2014年4月20日
・はくすいが、被請求人に対して、本件商品の販売代金を含む請求書を送った(乙31、ルートF)。
2014年5月1日
・サンセラが、被請求人に対して、本件商品500ml・1箱24本入を10箱発注(第2回目)した(乙32。当該注文書の受付日が平成26年4月18日となっているのは、単純な事務作業ミスによるものである。)。
2014年5月2日
・被請求人が、はくすいに対して、本件商品500ml・1箱24本入を10箱発注した(乙33)。
・被請求人が、サンセラに対して行った第2回販売(本件商品500ml ・1箱24本入を10箱販売)について売上を計上した(乙34、ルートG)。
エ 以上より、被請求人が本件商品の製造販売について、遅くとも、2013年10月には具体的な準備を始め(乙12)、2014年4月18日より実際に販売を開始した(乙27?乙29)ことがわかる。
ここで、包装容器たるペットボトルに本件使用商標1を付した本件商品を販売する行為は、商標法第2条第3項第2号の「商品の包装に標章を付したものを譲渡する行為」に該当する。
また、はくすいから被請求人への本件商品に係る初回出荷日は、2014年4月18日であるから、当然、それ以前に本件商品が完成していたことになる。そして、本件商品の包装容器たるペットボトルには本件使用商標1が付されている。
したがって、2014年4月18日より前に、本件商品に本件使用商標1を付す行為が行われたということになる。
ここで、本件商品の入ったペットボトルに本件使用商標1を付する行為は、商標法第2条第3項第1号の「商品の包装に標章を付する行為」に該当する。
また、乙第30号証は、被請求人が作成し平成26年4月18日にサンセラに渡した本件商品のチラシであるが、当該チラシには本件使用商標1の英文字部分が横一連に書かれた商標(以下「本件使用商標2」という。)が付されている。
ここで、本件使用商標2を付したチラシを販売先に渡す行為は、「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
さらに、本件商品の完成前に、なかむらポリエチレンによって、本件使用商標1を付したラベル及びダンボールが印刷されているので、この段階で既に「商品の包装に標章を付する行為」が行われていた。
前述のとおり、被請求人は、本件商品の具体的な販売準備を遅くとも2013年10月には始め、2014年4月18日にはサンセラヘ初回の販売を行っている。
ここで、本件審判の予告登録日は2014年4月23日(乙1)であるから、被請求人が本件商品の販売を開始した4月18日は、審判請求の登録前3年以内に該当する。この販売を開始した4月18日は、予告登録日である4月23日の僅か5日前であるものの、前述のとおり、被請求人は予告登録日の半年以上も前から継続的かつ具体的な準備を始めており、これらの入念な準備が全て整い4月18日に販売を開始したものである。
本件指定商品は、「飲料水,その他の清涼飲料」であるところ、被請求人が本件使用商標1を付して販売する商品は「ミネラルウォーター」であり、本件使用商標2を付した広告は「ミネラルウォーター」に関するものであるから、本件指定商品中「飲料水」についての使用に該当する。
被請求人とサンセラとの取引は、日本国内において行われている。
また、1回目の販売から約半月でサンセラより2回目の発注があった(乙32)ことから、両者間での取引が継続していることがわかる。
加えて、2014年4月2日のはくすいからの報告(乙24)にあるとおり、本件商品のシュリンク用ラベルをなかむらポリエチレンへ1万枚発注していることから、被請求人が今後も本件商品の販売を継続し、最低でも1万本は販売する計画であることがわかる。
さらに、2014年1月30日に岩崎デザイン事務所より納品されたラベルデザイン図2案(乙14の2、乙14の3)には、いずれにも、「Doctor’s/Water」と「ドクターズウォーター」とからなる商標が付されている。これにより、全体のバランスやデザイン性の問題から、態様に若干の変更を加えることがあったとしても、被請求人が本件商品について本件商標を構成する「Doctor’sWater」と「ドクターズウォーター」とからなる商標を使用する意思を持っていたことは明白である。
また、スタジオゼロが自身のヨガスタジオの生徒に本件商品を販売する行為は「商品の包装に標章を付したものを譲渡する行為」(商標法第2条第3項第2号)に該当するので、商標の使用に該当する。
(2)使用商標と本件商標の社会通念上の同一について
ア 被請求人の本件使用商標1は、「Doctor’s/Water/ドクターズウォーター」であり、本件商標とは態様が異なるが、その相違は、以下に述べるとおり、商標法第50条第1項にいう社会通念上同一と認められる範囲内にあるものと思料する。
(ア)特許庁の審判便覧「53-01 登録商標の不使用による取消審判」の「3.平成8年改正商標法における不使用取消審判の改善(2)登録商標の使用の認定に関する運用の事例」(乙35)によれば、登録商標の使用に当たるか否かの認定に当たっては、登録商標に係る指定商品の属する産業分野における取引の実情を十分に考慮し、個々具体的な事例に基づいて判断すべきものであるとされている。そして、商標法第50条第1項括弧書のとおり、登録商標の使用と認められる事例として、ア)書体にのみに変更を加えた同一の文字からなる商標、イ)平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、ウ)外観において同視される図形からなる商標、エ)その他社会通念上同一と認められる商標を挙げている。
(イ)さらに、不使用取消審判において、登録商標と使用商標との社会通念上同一を認めている(乙36?乙38)。
(ウ)ここで、本件商標は、横一行に書かれた「Doctor’sWater」と「ドクターズウォーター」とからなる上下二段併記の商標である。
一方、本件使用商標1は、上下二段併記の「Doctors/Water」とその下に「ドクターズウォーター」を配することからなる上下三段併記の商標である。
ここで、英語の「○○’S ××」の「○○’S」は所有格を表わし、通常「○○’S」の後には所有の対象物たる「××」が続き、「○○’S ××」で「○○の××」という意味を表わすことは広く一般的に知られている。さすれば、片仮名の「ドクターズウォーター」とも相まって、本件使用商標1を目にした需要者は、たとえ英文字部分が二段併記であっても「Doctor’sWater」として一体的に認識するものと考えるのが自然である。
すなわち、本件使用商標1は「ドクターズウォーター」として自他商品の識別標識としての機能を果たしているといえる。
両者の外観については、本件使用商標1の英文字部分が二段併記となっているのに対し、本件商標の英文字部分は横一行であるという相違点がある。
しかし、これは、本件使用商標1を付すペットボトルの横幅が狭く横一行に納めることが困難であることや、ダンボールに横一行に印刷すると全体とのバランスが悪いことを理由に二段併記としたものであり、このような変更は、取引において通常行われるものである。
また、本件使用商標1と本件商標とでは、書体が若干異なる。さらに、本件使用商標1の英文字部分は「Doctor’s」と「Water」とからなり、それぞれ頭文字が若干デザイン化されているのに対し、本件商標は全ての文字が同一の書体で「Doctor’sWater」と表されている点も相違する。
しかし、頭文字が若干デザイン化されているとしても、本件使用商標1は、一見して英文字「Doctor’sWater」であると認識し得るものである。
また、本件使用商標1と本件商標の構成文字は、英文字及び片仮名全てにおいて同一である。加えて、両者とも英文字部分については、頭文字のみが大文字でそれ以外は小文字である点で一致する。
ここで、書体のみを変更した同一の文字からなる商標は、特許庁審判便覧で登録商標の使用と認められる具体例ア)に該当する。本件使用商標1は、英文字部分が二段併記であるので、英文字部分が横一連書きの本件商標と比べると厳密には「書体にのみ変更を加えた」とはいえないものの、前述のとおり、本件使用商標1は一見して「Doctor’sWater」と認識できるものであり、この程度の変更は取引において普通に行われるものであるから、具体例ア)に著しく近いものであると思料する。
使用商標2については、本件商標と同様に、英文字部分と片仮名部分がそれぞれ横一連に書かれた二段併記の態様であるから、前述の具体例ア)書体にのみ変更を加えた同一の文字からなる商標(商標法第50条第1項括弧書。)に該当するものと思料する。
称呼については、本件使用商標1に関しては、一体的に認識されるので、英文字部分及び片仮名部分どちらからも称呼「ドクターズウォーター」が生じる。
一方、本件使用商標2及び本件商標は、英文字部分も片仮名部分もそれぞれ1行に表記されているので、当然に「ドクターズウォーター」の称呼が生じるため、これらの称呼は一致する。
観念については、登録商標、本件使用商標1及び2において、その外観及び称呼から、同一の「医者の水」が生じる。
以上のとおり、本件使用商標1及び2と本件商標とは、称呼及び観念において同一であり、外観において若干相違するとしても、それは取引において通常行われている範囲のものである。すなわち、本件使用商標1及び2は本件商標と同様に「ドクターズウォーター」として自他商品の識別標識としての機能を果たしている。
さらに、平仮名と漢字の相互間の使用ですら社会通念上同一の商標として認められている(商標法第50条第1項括弧書。)ことを考慮すれば、本件使用商標1及び2と登録商標との相互間の使用態様は、十分に社会通念上同一と認められる範囲にあると思料する。
したがって、一定の変更がされているとしても、本件使用商標1及び2は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標であると思料する。
(3)以上により、本件商標が被請求人により本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件審判請求に係る指定商品について使用されていることは明らかである。

2 口頭審理陳述要領書における主張
(1)被請求人の飲料水販売に関する手続の流れについて
ア 被請求人が販売するペットボトルタイプの飲料水には、主力商品である回帰水(乙4)、本件商品であるドクターズウォーター(乙8)等があるが、これらは全てはくすいに製造を委託している。
被請求人とはくすいとの間で最初に交わされたペットボトルタイプの飲料水に関する委託契約は、平成17年2月22日に結ばれた回帰水についての基本契約である(乙39)。当該基本契約は、第20条により、双方いずれからも継続しない旨の申し出がないときは、同1条件で更に1年間有効とされる。平成17年2月22日の契約以降いずれからもそのような申し出がないため、当該基本契約は、現在も有効に存続している。
両社は、日頃の取引で築き上げた信頼関係に基づき、回帰水以降は、飲料水の製造委託に関して個別に契約書を作成することなく、当該基本契約を援用して取引を行っている。ドクターズウォーターの製造委託に関しても同様である。
イ 以下、被請求人の飲料水販売に関する手続きの流れを詳述する。
(ア)被請求人の商品の製造と保管
被請求人の商品は、はくすいが被請求人の定めた仕様により製造する(基本契約第1条、同第4条第1項)。そして、完成した被請求人の商品たる飲料水は、はくすいが一時保管する(同第4条第1項)。
(イ)顧客からの受注
被請求人は、FAX又は電話で顧客から商品の注文を受ける。
a 顧客からの受注(FAX注文の場合)
外線を通じてFAX受信されたデータはTIFF形式に変換され、全て被請求人の社内基幹システムであるタイセイシステム用のサーバー(乙40の1?乙40の5)に自動保存される。そして、各社員が各自のパソコンを使い、パソコン画面上で当該データを確認できるようになる。具体的には、タイセイシステム内のFAX受注支援(乙41の1)から、確認したいデータの「内容」ボタンを押すことにより、当該データが表示される(乙41の2)。
ここで、タイセイシステムとは、被請求人が事務手続きの効率化等を目的として九州松下システム株式会社(以下「九州松下システム」という。)に開発を依頼した、被請求人独自の社内基幹システムのことをいう。その開発には、平成15年2月3日に結ばれた初回契約だけでも2,400万円(乙42)、その後の改修費用を含めると総額約6,500万円の費用が投じられた。
被請求人は、商品の受注、発注、納品及びこれらに関する支払いといった一連の手続とその管理を全て当該システムにより行っている(乙43)。
商品の受発注を担当する被請求人の商品開発企画部(以下「商品開発企画部」という。)の社員は、FAX受注支援画面を見て新規受注があったことを確認し、後述する手順で仕入先のはくすいに発送指示を行う。
b 顧客からの受注(電話注文の場合)
電話注文の場合は、商品開発企画部の社員が電話を受ける。注文を受けた商品開発企画部の社員は、マイクロソフト社のエクセルを使って、TI受注専用注文書(乙44)を作成し印刷する。当該TI受注専用注文書には、依頼主、注文商品名、数量等が記載されている。
そして、商品開発企画部の社員は、印刷したTI受注専用注文書を社内に設置された複合機のFAX機能により、社内回線を使って内線番号900番へ送信する。
内線番号900番へ送信されたデータは、TIFF形式に変換され、上記aの外線回線を通じたFAX注文の場合と同様に、タイセイシステム用のサーバー(乙40の1?乙40の5)に自動保存される。そして、FAX注文の場合と同様に、FAX受注支援(乙45の1)により、パソコンの画面上で照会できるようになる(乙45の2)。
なお、被請求人は、ペーパーレス化を徹底しており、そして、前述のとおり、TI受注専用注文書は、タイセイシステム上でいつでも照会可能である(乙45の1、乙45の2)。したがって、ここで印刷されたTI受注専用注文書用紙は、内線番号900番への送信後、原則破棄される。
(ウ)(TI)受注入力への入力(売掛計上)
商品開発企画部の担当者は、顧客より送られてきた注文用紙やTI受注専用注文書のデータ(乙41の2、乙45の2)を呼び出し、パソコンの画面上で受注内容を確認しながら、その注文内容をタイセイシステム内の(TI)受注入力(乙46の1)に入力する。
入力されたデータと注文用紙データ(乙第41号証の2)やTI受注専用注文書データ(乙45の2)は紐付けされるので、(TI)受注入力の画面左下「FAX画像」ボタンをクリックすることにより、紐付けされたデータを参照することができる(乙46の2)。なお、乙第46号証の3は、乙第46号証の1及び乙第46号証の2の画面のハードコピーを印刷したものである。
当該データ入力は、売上計上のために行うもので、ここで入力されたデータが顧客に対する売掛けデータ(得意先元帳(乙29、乙58の1、乙58の2))となる。また、当該データを使って顧客に対する請求書(乙47の1?乙47の3)が作成される。
(エ)発注入力への入力(仕入先はくすいへの発注書・発注合計表の作成)
商品開発企画部の担当者は、上記(ウ)の(TI)受注入力へのデータ入力と共に、タイセイシステム内の発注入力(乙48の1、乙48の2)ではくすいへの発注内容を入力する。
当該データを使ってはくすいへの発注書(乙49の1、乙49の2)や発注合計表(乙33)が作成される。
また、ここで入力されたデータは、後述の仕入計上(乙50)に使われ、当該データによりはくすいへの支払いを管理する。
(オ)はくすいへの発注(出荷指示)
基本契約第2条第1項に基づき、商品開発企画部の担当者は、注文書(発注書(乙49の1、乙49の2)を指す。)又は出荷依頼書(発注合計表(乙33)を指す。)のデータをはくすいに送る。
通常出荷扱いの注文については、その日受けた全ての注文を当日の夜にまとめて発注する。注文案件を記載した発注合計表(乙33)を作成し、当該データをFAX回線を使ってはくすいへ送信する。
一方、納品を急ぐ至急案件については、個別に発注書(乙49の1、乙49の2)を作成し、同じくFAX回線を使ってデータを送信し、はくすいに発注する(基本契約第2条第1項)。
ここでのFAX回線を使ったデータの送信は、タイセイシステム内の発注書自動FAX(乙51)を使って行う。送信したい案件を選択し、最下段右から4つ目の送信ボタンを押すことで発注先ヘデータが送信される。したがって、被請求人は、発注書や発注合計表を紙に印刷することはない。
(カ)運送業者への連絡
上記(オ)と並行して、被請求人は、佐川急便株式会社阿蘇店(以下「佐川急便阿蘇店」という。)へ、発注に係る配送情報(配送内容や送り先等)をデータ送信する。
ここで、佐川急便阿蘇店は、基本契約第4条第1項の被請求人が指定する運送業者である。
(キ)はくすいによる出荷準備と商品の引き渡し(納品)
はくすいは、上記(カ)の発注書(乙49の1、乙49の2)又は発注合計表(乙33)の内容に基づき、一時保管している被請求人の商品である飲料水の発送準備をする。
そして、佐川急便阿蘇店に集荷の依頼をして、受け取りに来た佐川急便阿蘇店へ商品を引き渡す。この引き渡しをもって、はくすいから被請求人へ、被請求人の商品たる飲料水が納入されたものとみなされる(基本契約第4条第1項)。
通常出荷扱いの場合は、上記(オ)のはくすいへの出荷指示のあった日の翌営業日に佐川急便阿蘇店に引き渡される(基本契約第2条第2項)。
一方、至急案件の場合は、各指示に従い引き渡される。
(ク)運送業者による配送と被請求人への出荷報告
佐川急便阿蘇店は、上記(カ)で受けた配送情報を基に送り状(乙52の1、乙52の2)を作成する。そして、はくすいより配送物たる飲料水を引き取り、被請求人の指示する各配達場所へ当該飲料水を配送する。
また、佐川急便阿蘇店はこれと並行して、出荷報告として送り状の番号を被請求人へFAXで知らせる(乙28、乙53の1、乙53の2)。
(ケ)仕入れ入力への入力(仕入計上)
商品開発企画部の社員は、佐川急便阿蘇店から上記(ク)の出荷報告を受けると、タイセイシステム内の仕入入力(乙50)で発送日を入力し、当該仕入れが発送済みとなるように処理する。これにより、はくすいに対する当該取引の仕入計上が行われる。
(コ)はくすいからの請求と支払い
はくすいは、毎月20日時点で納入済みの商品の代金を、同月末日までに被請求人に請求する(基本契約第5条。乙54の1?乙54の4)。
そして、被請求人は、これを翌月末日までにはくすいに支払う(基本契約第5条。乙55の1?乙55の3)。
(サ)運送業者からの請求と支払い
佐川急便株式会社も毎月20日までに発送した分の費用を、当月末日までに被請求人へ請求する(乙56)。
そして、被請求人は、これを翌月末日までに佐川急便株式会社に支払う(乙57の1?乙57の3)。
(シ)顧客への請求
被請求人は、毎月初旬、タイセイシステム内の請求書作成(乙47の1、乙47の2)を使って、前月末までに発送した注文について請求書(乙47の3)を発行し、注文主である顧客へ郵送する。
請求書作成のデータは、タイセイシステム内の得意先元帳(乙29、乙58の1、乙58の2)と連動している。
(2)2014年4月18日の本件商品に関する取引について
ア 2014年4月18日に発生した本件商品に関する取引も、前述の一連の流れにより行われた。詳細は以下のとおりである。
(ア)2014年4月17日に、2013年8月に始まったドクターズウォーターの製造
販売に関する全ての準備がようやく整い、ドクターズウォーターの初回製造が行われた。
以前より、ドクターズウォーターの注文主であるサンセラから、商品ができ次第納品して欲しいとの要望を受けていた。そこで、被請求人のシステム部長A社員がはくすいまで出張して初回製造に立ち会い(乙59)、実際に製造が行われたことを被請求人の会長へ報告した。
(イ)翌4月18日、被請求人の会長がサンセラのB氏へドクターズウォーターが完成したことを電話で伝えた。そして、その電話で早速注文を受けた。その内容は、ドクターズウォーター500ML・24本入り10ケースを本日中に出荷して欲しいというものであった。
(ウ)同日、被請求人の会長が、サンセラから上記注文があったことをA社員へ伝えた。
至急案件であったため、A社員は、まず、はくすいへの発注指示を行うべく、口頭で商品開発企画部のC社員に発注に必要な内容を伝えた。
(エ)同日、C社員がタイセイシステムの発注入力(乙48の1、乙48の2)に必要事項を入力した。
さらに、至急案件であったため、発注書(乙49の1、乙49の2)を作成し、2014年4月18日13時45分、はくすいへFAXした(乙48の2)。
ここで、乙第48号証の2は、本件取引の発注入力データを照会した画面を撮影したものである。
これには、左上から、
a)発注日付:2014/4/18
b)発注番号:201404-5-00110
c)仕入先:株式会社はくすい
d)仕入先FAX送信(仕入先へ発注書を送信した日時):2014年4月18日 13:45送信
e)支払情報(仕入先への支払条件):20日、翌月31日(当月20日締め、翌月31日払いを意味する。)
f)納入先:スタジオ・ゼロ福岡県福岡市中央区大名1-2-5 イル・カセットビル6F
g)商品名称:ドクターズウォーター500mL(24本入り)
h)発注数量:10ケース
i)発注金額:21,120円
j)摘要1:本日出荷お願いします
等の内容が見て取れる。
これにより、2014年4月18日に、被請求人からはくすいへ本件商品が発注されたことがわかる。
なお、右上の赤文字「2014年4月18日 修正不可:仕入済」とは、本取引は仕入済みなので、当該画面を照会した2014年11月12日(発注入力画面右下に表示されている。)現在、当該データの修正は行えないことを意味する。
被請求人は、タイセイシステムの仕入・売掛等の全データを毎月翌月中旬には確定させ、その後は前月以前のデータは修正・削除等できないようにしている。後付けでのデータ操作によるデータ改ざんを防止するため、このようにタイセイシステムを構築した。
乙第48号証の2は、右下の表示のとおり、2014年11月12日に当該データを照会した際のパソコン画面を撮影したものである。当然この時には2014年4月のデータは確定しており、本件取引データを修正することはできない。
したがって、本件審判のために当該データを修正するといったようなことはできない。
(オ)はくすいのD工場長が、被請求人からFAXで送られた発注書(乙49の1、乙49の2)を受け取った。
そして、その空欄部分に手書きで「佐川急便御中 お世話になっております 4/18集荷お願い致します。」と記入し、「水加工場 はくすい」のゴム印を押して、4月18日13時52分に佐川急便阿蘇店へ集荷依頼のためFAXした(乙28)。当該送信時刻は、乙第28号証左上部に印字されており確認できる。
(カ)佐川急便阿蘇店が、上記(オ)の連絡を受けて送り状(乙52の2)を作成した。そして、はくすいから受信した発注書に、当該送り状番号「170220071943」を記入し、担当者のゴム印を押印の上、出荷報告として同日14時6分に被請求人へFAXした(乙28)。
当該送信時刻は、乙第28号証右下部に印字されており確認できる。また、タイセイシステムのFAX受注支援(乙53の1)によっても確認できる。
乙第53号証の1には、4月18日にFAX受信した案件の一部が表示されている。下から7件目に、佐川急便阿蘇店から、上記FAXを受信したことが記録されている。そして、当該案件の左端の「内容」ボタンを押すと、佐川急便阿蘇店から送られてきたFAXの内容が確認できる(乙53の2)。
(キ)佐川急便阿蘇店がはくすいで本件商品を集荷し、スタジオ・ゼロに本件商品を配達した(乙52の1、乙52の2、乙60)。
乙第52号証の1は、佐川急便阿蘇営業所E氏から被請求人A社員へ、本件商品配送伝票の写しをメールで送ってもらった際のメール本文である。そして、乙第52号証の2は当該メールに添付された、佐川急便株式会社の配達情報を管理するシステムで本件送り状を照会した画面のハードコピーデータを印刷したものである。
佐川急便株式会社では、配達に使用した送り状はデジタル化し、当該システムで管理している。これには、
a)送り状No.:170220071943
b)発送日:2014年4月18日
c)個数:10個
d)送り先:スタジオ・ゼロ
e)依頼主:タイセイ株式会社(被請求人)
f)摘要:ドクターズウォーター500mL(24本入り)10ケース
g)受領印:(手書き)
等の記載があり、これらの情報は、乙第48号証の2の発注内容や乙第28号証の送り状番号と一致する。
以上より、当該送り状は、4月18日に本件商品をはくすいからスタジオゼロヘ配送した時のものであることがわかる。
すなわち、2014年4月18日には、本件商品が市場において流通していたことが立証される。
また、乙第60号証は、佐川急便阿蘇営業所から送ってもらった、当該配達の配達記録であるが、ここには、4月19日10時9分にスタジオゼロヘの配達が完了したことが記録されている。
(ク)被請求人のC社員が上記(カ)の佐川急便阿蘇店からの出荷報告を受け、仕入入力(乙50)で発送日を入力した。これにより、はくすいに対する本件商品の仕入計上がされた。
(ケ)同日、至急案件だったため、上記(エ)ないし(ク)と並行して、A社員が本件に関するTI受注専用注文書(乙27。ただし、正確には乙27は内線番号900番へ送信したTI専用注文書をタイセイシステムで照会し、それを印刷したものである。この段階では、最上部及び最下部のFAX送信の際に印字される文字はない。)を作成した。
そして、社内の複合機を使い、同日13時58分に内線番号900番へFAXした(乙45の1、乙45の2)。
乙第45号証の1には、4月18日にFAX受信した案件の一部が表示されている。そして、3行目に当該TI受注専用注文書を受注したことが表示されている。
左から3行目の時間の列に、13:58と表示されており、当該書類を4月18日13時58分に受信したことがわかる。
また、乙第45号証の2は、乙第45号証の1から紐付けされたTI受注専用注文書のデータを照会した画面を印刷したものである。これより、4月18日13時58分に受けたデータが乙第45号証の2に表示されているものであることがわかる。ここで、乙第27号証は、乙第45号証の2に表示された当該データを右下の印刷ボタンを押して印刷したものである。
(コ)C社員は上記(ケ)を確認し、(TI)受注入力に受注内容を入力した(乙46の1)。これにより、サンセラから受注した4月18日の注文に関する売上が計上された(乙29、乙58の1、乙58の2(乙29と同様に被請求人のサンセラに関する2014年4月分得意先元帳である。乙29で伏せた情報が全て載っている。))。
(サ)被請求人の経理部社員がタイセイシステムの請求書作成(乙47の1、乙47の2)で2014年4月中にサンセラヘ販売した商品(乙58の1、乙58の2)について請求書(乙47の3)を作成し、翌5月の上旬にサンセラヘ郵送した。
ここで、乙第58号証の1及び乙第58号証の2は、被請求人のサンセラに係る2014年4月分の得意先元帳である。これには、4月18日にドクターズウォーター500ml(24本入り)10箱を販売したことが記載されている。また、被請求人が2014年4月にサンセラに販売した全商品とその代金の合計が49,939円であることがわかる。
そして、乙第47号証の3は、被請求人がサンセラに送った2014年4月分の請求書データを2014年10月29日に印刷したものである。合計49,939円の請求を行ったことがわかる。これは、乙第58号証の1及び乙第58号証の2の金額と一致する。また、振込先口座として、三菱東京UFJ銀行 福岡中央支店 普通預金 1076677が指定されている。
乙第58号証の1及び乙第58号証の2と乙第47号証の3に記載されている4月18日のドクターズウォーターの販売は、いうまでもなく、被請求人からはくすいへ発注され(乙28、乙49の1、乙49の2)、佐川急便阿蘇店によりスタジオ・ゼロに納品された(乙52の2、乙60)、ドクターズウォーター24本入り10箱の販売取引に関するものである。
なお、前述のとおり、被請求人は、全ての手続きをタイセイシステムで管理し、ペーパーレス化を徹底している。顧客へ送った請求書は、いつでもタイセイシステム上で照会できるので(乙47の1、乙47の2)、請求書の控えは紙媒体で保管していない。
ここで、乙第47号証の2は、2014年11月12日にタイセイシステムで請求書データを照会した画面を撮影したものである。書面の右上に2014年11月12日と印字されているのはそのためである。また、乙第47号証の3は当該画面から請求書を印刷したものである。こちらも、印刷した日の2014年10月29日の日付が印刷されている。
乙第61号証は、乙第47号証の3で代金の振り込み口座として指定した、被請求人の銀行口座 三菱東京UFJ銀行 福岡中央支店 普通預金 1076677について、インターネットバンキングBizSTATION(乙62)を使って照会した内容を印刷したものである。下から5行目に、2014年5月19日サンセラから振り込みがあったことが記載されている。入金金額49,939円は、請求書(乙47の3)の請求額と同額である。
これにより、請求書(乙47の3)の内容の取引が実際に行われたこと、すなわち、被請求人からサンセラヘ本件商品ドクターズウォーターを販売したことが事実であることがわかる。
(シ)乙第54号証の1及び乙第54号証の3は、はくすいから被請求人への2014年4月20日付けの請求書である。当該請求は、基本契約第5条に則ったものである。2014年4月から消費税が8%になったため、2014年3月21日から31日までに納品された5%分の請求書(乙54の1)と同年4月1日から20日迄に納品された8%分の請求書(乙54の3)とに分けられている。その合計金額は、2,022,388円である。
乙第54号証の4は、乙第54号証の3に添付された4月1日から4月20日迄の被請求人への出荷表である。これには、18日にドクターズウォーター500ML24本入りが10箱出荷されたことが記されている。乙第54号証の4は、はくすいが作成した書類である。はくすいの会社印が押されており、被請求人が偽造することはできない。
また、乙第55号証の1ないし乙第55号証の3は、被請求人が2014年4月度の買掛金を、5月30日付けで支払った際の書類である。被請求人の経理課F社員が5月26日にBizSTATIONを使って振込指示を行った。通常は翌月末が支払い日であるが(基本契約第5条)、2014年5月31日が土曜日だったため、前日の5月30日を支払日に指定した。
乙第55号証の3の通番46に、はくすいに対して2,022,358円の支払いを行ったとの記載がある。はくすいからの請求額は2,022,388円なので、30円の誤差があるが、これは両社の消費税の取り扱いの違いから生じたものである。被請求人は、当該差額30円を引いた額を支払っている。
以上より、被請求人とはくすいの間で請求書に記載された商品について確かに取引があったことがわかる。そして、その取引には、4月18日に行われた本件商標が付された本件商品の取引が含まれている。すなわち、4月18日に本件商品がスタジオゼロに発送されたことが事実であることがわかる。
(ス)乙第56号証は、佐川急便株式会社から被請求人に対する2014年3月21日から同年4月20日までに発送した案件の請求書である。請求書番号4404160975の21ページに、4月18日付けで送り状170220071943が出荷されたことが記載されている。そして、当該番号は4月18日の本件商品出荷の際の送り状番号である(乙28、乙52の2)。
被請求人は、当該請求に対し、BizSTATIONを使って4,895,032円を振り込んだ(乙57の1、乙57の3)。当該事実が乙第57号証の3に明示されている。当該金額には、請求書番号4404160975に対する支払い、すなわち、本件商品代金も含まれている。
以上より、本件商品が4月18日に佐川急便阿蘇店により集荷され、スタジオ・ゼロに配送されたことが事実であることがわかる。
ここで、乙第56号証は佐川急便株式会社により作成されたものであり、被請求人が作成することはできない。
(3)本件商標の使用について
以上のとおり、被請求人が提出した証拠に齟齬はなく、これらの内容は整合性が取れている。一連の流れにより、本件商品が2014年4月18日には市場に流通していたことは明らかである。また、前日の4月17日には本件商品が完成していた。
すなわち、本件商標は、審判請求登録前(2014年4月23日)の2014年4月17日及び同年4月18日に明らかに使用されていた。
被請求人は、本件商品の商品ラベルとして本件商標が付されたラベル(乙10)、そして本件商標が付された本件商品専用の納品用ダンボール(乙11)を発注している。いうまでもなく、これらは本件商品製造販売のために専用品として作られたものである。そして、4月18日に本件商品は、はくすいから出荷されている。
したがって、本件商品に、当該ラベル(乙10)がシュリンク加工されていたこと及び本件商品の出荷の際に当該ダンボール(乙11)が使用されていたことは社会常識として当然のことである。
仮に、4月18日に出荷した商品に乙第10号証や乙第11号証が使用されていないならば、被請求人がはくすいに対し商品代金を支払うはずがない(基本契約第5条)。
したがって、4月17日には、ペットボトル及び商品を梱包したダンボールに本件商標を付す行為(商標法第2条第3項第1号)、そして4月18日及び4月19日にはこれらを譲渡し、引き渡す行為(同第2号)が行われたことになる。
当該商標の使用は、本件商標の指定商品に含まれるミネラルウォーターについての使用であり、まさに商品の出所表示機能や自他商品識別機能といった商標の機能を発揮する使用態様での使用である。
(4)タイセイシステムについて
タイセイシステムは、平成15年に事務手続きの効率化、情報の一元管理、ペーパーレス化の促進、及び書類の改ざん防止等の理由から、基本契約だけでも2,400万円(乙42)、その後の改修も含めると総額約6,500万円をかけて作られた被請求人専用の基幹システムである。前述のとおり、当該システムは、九州松下システムが開発した(乙42)。
当該システムをパソコンで起動するには、ログイン画面で担当者ID及び担当者ごとに決めるパスワードを入力しなければならない(乙63)。こうすることで、社員以外の者が当該システムを使用することができないようにしている。また、担当者IDを入力することにより、システム操作を行った者が特定できる。このようにして、被請求人は、タイセイシステムのセキュリティを保っている。
また、当該システムは、毎月のデータを翌月中旬までに確定させ、それ以降は前月以前のデータは修正できない仕組みとなっている。さらに、受注から仕入先への支払い、顧客への請求といった商品販売に関する一連の手続きを一括管理するものであり(乙43)、一部のデータを修正すると一連の流れに関わる全てのデータを修正しなければデータの整合がとれなくなる。
したがって、後付けで当該システムのデータを修正や改ざんすることは不可能である。
また、九州松下システムとの契約書第14条にあるとおり、本件システムに係るソフトウェアの著作権は九州松下システムが所有している。
したがって、被請求人が当該ソフトウェアを勝手に変更することは、九州松下システムの著作権侵害となる。
日頃からコンプライアンスを重視する被請求人がそのようなことをするはずがない。
さらには、被請求人は、タイセイシステムによって日々の経理処理を行い、毎月末、顧問税理士へ報告し承認をもらっている。そして、当該承認を受けたデータを基に、年次決算を行っている。
被請求人ではペーパーレス化を徹底し、各事務処理に関し紙媒体としての原本は存在していないが、タイセイシステムはデータの操作・改ざんができないように構築・管理されているので、当該システム内のデータを原本として、毎月顧問税理士から経理処理について承認を得ている。また、毎年の決算では、税務署からもシステム上のデータを原本として認められている。顧問税理士や税務署から、紙媒体の原本を保管するように指導・指示等を受けたことはない。
審理事項通知書で、乙第27号証ないし乙第29号証の原本提出の指示があるが、前述のとおり、これらの原本は被請求人の社内に設置されたサーバーに保存されたデータとなるので、口頭審理で提示することは困難である。これまでの説明で、これら証拠方法について信憑性を疑われる余地は無いものと思料する。
(5)2014年4月17日に本件商品が製造されていた事実について
乙第8号証は、本件商品を写真に撮ったものである。当該商品は、2014年4月17日にA社員がはくすいに出張した際(乙59)、サンプルとして持ち帰った物である。
ボトルには、15.04.17と0365が印字されている。この15.04.17は、当該ミネタルウォーターの賞味期限が2015年4月17日であることを表している。
賞味期限は、製造業者の任意により決められるが、はくすいでは、全商品の賞味期限を製造日の翌年の同日としている。
したがって、本件商品が2014年4月17日に製造されたことがわかる。
また、0365は、その日365本目に製造された商品であることを表す。
したがって、4月17日には、少なくとも365本の本件商品が製造されたことがわかる。
(6)株式会社はくすいについて
はくすいは、いわゆる第三セクターであり、代表取締役会長は南阿蘇村長が務めている。その他の役員も南阿蘇村商工会長等の公的な立場にある者がほとんどである(乙64)。被請求人との間に資本関係等はもちろんない。
したがって、基本契約書(乙39)やはくすいの請求書(乙54の1?乙54の4)をはくすいが本件審判のために改ざん等するはずはなく、証拠として十分に機能する。
(7)暫定的な見解について
ア 乙第27号証ないし乙第31号証の原本の提示について
上述のとおり、被請求人は、平成15年よりペーパレス化を進めている。
したがって、乙第27号証ないし乙第29号証の原本というと、タイセイシステム用の社内サーバー(乙40の1?乙40の5)に保存されたデータとなるので、口頭審理での提示は困難である。
乙第30号証及び乙第31号証については、口頭審理で原本を提示する。
イ 乙第27号証及び乙第28号証について
(ア)乙第27号証の作成者及び商標権者との関係を明らかにする書面
乙第27号証は、答弁書ではサンセラから被請求人への注文書と記載したが、正確には、上記(2)で述べたとおり、サンセラからの注文を受けて、被請求人のシステム部長であるA社員が作成し、タイセイシステムに保存したデータを照会して(乙45の2)印刷したものである。
商標権者との関係は、上記(1)及び(2)で説明したとおりである。通常出荷の場合、当該書類は商品開発企画部の担当者が作成する。しかし、4月18日のサンセラからの受注に関しては、当日出荷が必要な至急案件だったため、被請求人の会長から受注連絡を受けたA社員が作成した。
以上のとおり、乙第27号証は、被請求人(商標権者)の社員が作成した被請求人(商標権者)の社内文書である。
(イ)乙第27号証と乙第28号証との関係について
前述のとおり、乙第27号証は、サンセラから注文を受けた被請求人が、当該注文をサンセラヘの売掛として計上するために作成した書類である。これを基に、(TI)受注入力に必要な情報を入力し、売掛計上する。そして、当該受注した商品をはくすいから発送してもらうため発注書(乙49の1、乙49の2)を作成し、はくすいヘデータ送信することにより発送指示を行う。
一方、乙第28号証は、(a)被請求人が作成したはくすいに対する発注書(乙49の1、乙49の2)をはくすいにデータ送信し(乙51)、(b)はくすいがそれに集荷依頼を手書きした上で佐川急便阿蘇店にFAXし、(c)さらに、佐川急便阿蘇店がそれに本件の送り状の番号を記入した上で出荷報告として被請求人へFAXした書類のデータ(乙53の1、乙53の2)を印刷したものである。
すなわち、乙第27号証と乙第28号証は、4月18日のサンセラからの受注に関し、その受注(売上)処理を行うための書類(乙27)とその受注のための発注(仕入)処理を行うための書類(乙28)の関係にある。
(ウ)乙第28号証に記載の「佐川急便」の配送依頼書(控え)ないし集荷票(控え)等、佐川急便株式会社が本件商品をスタジオゼロに配送した事実を証明する書面について
上記(1)及び(2)で述べたとおり、本件商品配達時の送り状は、佐川急便阿蘇店が作成し、商品は被請求人を通らず直接配送先へ配達されるため、被請求人には送り状の控えは保管されない。被請求人へは佐川急便阿蘇店から送り状番号が通知されるだけである(乙28)。
また、スタジオゼロは、特に必要でないため、送り状控えは保管していない。
さらに、佐川急便阿蘇店は、送り状控えをデジタル化し、社内システムに取り込んで管理している。送り状控えは、1月ほど保管された後シュレッダーにかけて廃棄されるため現存しない。
そこで、佐川急便阿蘇営業所から取り寄せた乙第52号証の1、乙第52号証の2及び乙第60号証を提出する。
乙第52号証の2は、佐川急便株式会社の配達情報を管理するシステムで本件取引の送り状を照会したパソコン画面のハードコピーを印刷したものである。
ここには、
a)送り状NO.170220071943
b)発送日:2014年4月18日
c)個数:10個
d)送り先:スタジオ・ゼロ
e)依頼主:タイセイ株式会社(被請求人)
f)摘要:ドクターズウォーター500ml(24本入り)10ケース
g)受領印:(手書き)
h)発送日:4月18日
等の記載があり、これらの情報は、乙第48号証の2や乙第28号証の発注内容や送り状番号と一致する。これにより、当該送り状は、4月18日に行われた本件商品をスタジオゼロに配達した際の送り状であることがわかる。すなわち、2014年4月18日に佐川急便阿蘇店が本件商品ドクターズウォーターをスタジオゼロに配送した事実を証明するものである。
また、乙第52号証の1は、乙第52号証の2をメール送信してもらった際の、佐川急便阿蘇営業所E氏からのメール本文である。
さらに、乙第60号証は、同じく佐川急便阿蘇営業所から送ってもらった当該配達の配達記録である。ここには、4月19日10時9分にスタジオゼロヘの配達が完了したことが記録されている。
ウ 乙第29号証について
(ア)作成者を明らかにする書面について
乙第29号証の作成者は、上記(1)及び(2)で述べたとおり、被請求人であって、乙第29号証は、タイセイシステムの得意先元帳から出力したものである。
通常、社内伝票にまで会社名を記載する会社は珍しく、一般的ではない。
また、被請求人は、タイセイシステムを使ってパソコンの画面上で当該データを確認する。
そして、当該システムは、ログインIDを有する被請求人の社員以外扱わない(乙63)。そういう理由から、社内伝票である乙第29号証には、被請求人の名称は特に表示されていない。
ここで、乙第29号証の作成者を明らかにする書面として、乙第58号証の1を提出する。乙第58号証の1は、乙第29号証を印刷する際に使用する、タイセイシステム内得意先元帳の画面を写真に撮ったものである。画面右下の「印刷」ボタンを押すと乙第29号証が印刷される。左上に「得意先元帳-タイセイシステム」の表示があることから、当該内容が被請求人のタイセイシステムを使って表示されていることがわかる。そして、表示されている内容は、乙第29号証と一致する。
したがって、乙第29号証がタイセイシステムから印刷されたこと、すなわち、乙第29号証の作成者が被請求人であることがわかる。
(イ)乙第29号証の原本の提示について
乙第29号証で伏せられた内容は、乙第58号証の1に記載されたとおりであり、平成26年4月中に、サンセラに販売した商品全ての売上が表示されている。
乙第29号証は、タイセイシステム内の得意先元帳(乙58の1)から印刷したものである。被請求人は、当該得意先元帳は印刷せず、タイセイシステム上で管理している。
したがって、原本となるとサーバーに保存されたデータそのものとなるので口頭審理での提示は困難である。そこで、乙第29号証で伏せられた内容が全て記載された乙第58号証の2を提出する。乙第58号証の2も乙第58号証の1から印刷したものであるから原本ではないが、乙第29号証で伏せられた内容が全て記載されている。
エ 乙第30号証について
(ア)チラシの裏面が白紙でない場合の裏面を確認できる書面の提示及びチラシ全体の写しの提出について
チラシの裏面は白紙である。そして、乙第30号証は原本であり、チラシ全体である。
(イ)作成者(印刷業者)、作成時期、作成部数を明らかにする書面について
乙第30号証は、被請求人の社内デザイナーが作成し、社内プリンターで4月18日に印刷した。印刷部数は、100部程度である。
(ウ)商標権者との関係を把握することができる取引書類等について
上述のとおり、被請求人自身が作成したものであるので、提出できる書類はない。
オ 乙第31号証について
(ア)乙第31号証の原本の提示について
乙第31号証は、本件に関係ない商品に関する情報が記載されており、これらの情報は、被請求人にとって重要な情報のため消していた。
消された部分が全て把握できる乙第31号証の原本を口頭審理で提示する。
(イ)被請求人がはくすいに対して本件商品の代金をはくすいの取引銀行に振り込んだ事実を証明する書面について
被請求人がはくすいに対して本件商品の代金をはくすい指定の銀行口座(乙54の1、乙54の3)に振り込んだ事実を証明する書面として、乙第55号証の1ないし乙第55号証の3を提出する。乙第55号証の3の2ページ下から5行目の通番46に、はくすいに対し2,022,358円の振込を行ったことが記載されている。
当該金額は、はくすいからの請求書(乙54の1、乙54の3)の合計金額とは30円の差があるが、これは、両社の消費税の取り扱いの違いから生じたものである。したがって、被請求人が行った乙第55号証の1ないし乙第55号証の3に記載のはくすいに対する振り込みは、乙第54号証の1及び乙第54号証の3の請求に対して行ったものである。
そして、乙第54号証の3には本件商品代金が含まれている。
以上により、被請求人がはくすいへ本件商品の代金を支払った事実が証明される。
カ 乙第18号証、乙第20号証、乙第23号証及び乙第25号証に関し、これらに記載の「別途契約書」の原本の提示とその写しの提出について
別途契約書の写しとして、乙第39号証を提出する。また、その原本を口頭審理で提示する。
乙第39号証は、被請求人とはくすいとの間で、平成17年2月22日に結ばれた回帰水の製造委託に関する基本契約である。
両社は、その後の取引を通じて信頼関係を築き、回帰水以降はドクターズウォーターを含む全てのペットボトルタイプの飲料水に係る製造委託に関して当該契約書を援用している。
このことは、上記(1)及び(2)で述べたとおり、ドクターズウォーターの取引に関する手続きが、当該基本契約書の条項に即して行われていることからも明白である。
したがって、乙第39号証が当該「別途契約書」ということになる。
(8)請求人の弁駁書に対する主張
ア 商標法第50条第2項の使用者について
請求人は、「タイセイ株式会社以外の者が本登録商標を使用しても商標法第50条第2項の要件に該当しない」と主張しているが、これは誤りである。
商標法第50条第2項では、使用権者の使用も認めている。
イ 本件商標の実質的な商標としての使用について
請求人は、不使用取消審判において本件商標の使用が認められるためには、実質的に商標として使用されていることが必要であると主張している。
これについては、上記(3)で述べたとおり、被請求人は、本件商標がペットボトルに付されたミネラルウォーターを販売している(商標法2条第3項第1号、同項第2号)。
また、当該ミネラルウォーターは、本件商標が付されたダンボールに梱包されて出荷され、注文主に納品されている(商標法2条第3項第1号、同項第2号)。そして、ミネラルウォーターは、本件商標の指定商品たる飲料水に該当する。これらの使用態様は、商標の自他商品識別機能や出所表示機能といった商標の本質的機能を発揮する態様での使用である。
したがって、被請求人は、登録商標を指定商品について実質的に使用している。
ウ 本件商品が4月18日に実際に佐川急便株式会社により集荷され、スタジオゼロに配達されたかについて
前述のとおり、乙第52号証の1及び乙第52号証の2により、4月18日に本件商品が佐川急便阿蘇店によって集荷されたこと、そして、乙第60号証によって翌日スタジオゼロに配達されたことは明らかである。
乙第52号証の2には、スタジオゼロB氏の受け取りのサインもある。
エ 本件取引が4月18日に実際に行われたことについて
乙第29号証は、上記(1)及び(2)で述べたとおり、被請求人が作成したサンセラの得意先元帳である。
被請求人からサンセラヘの請求書(乙47の1?乙47の3)と内容及び金額が一致していることや、サンセラから被請求人へ支払われた額(乙61)と合計額が一致していることから、これが被請求人のサンセラに関する得意先元帳であることがわかる。
オ かけこみ使用について
請求人は、答弁書において被請求人の使用が商標法第50条第3項のいわゆるかけこみ使用であると主張している。しかし、これはまったくの見当違いである。
確かに被請求人は、平成26年2月17日及び同年3月7日にドクターズウォーターに関する商標登録出願を行っている。しかし、これは、請求人が行った商標登録出願2013-015939が拒絶査定を受けたこととは何ら関係ない。
被請求人は、平成26年2月13日付けで審判外の第三者より、本件商標権の譲渡交渉の申し出を受けている。しかし、当該交渉は友好的に話し合いが進んでおり、本件商標登録に関し不使用取消審判が請求されるとは、考えもしていなかった。
被請求人が行った前述の2月と3月の出願は、商標権について譲渡交渉の申し出があった際にごく一般的に行われる対応であり、不使用取消審判が請求されることを具体的に確信して行ったものではない。
また、被請求人には知的財産に関する専門部署はなく、自身の商標権に関係する出願等のモニタリングは行っていない。
したがって、特許庁から4月23日付けでFAXが送られてくるまで、請求人の出願2013-015939の存在を知らなかったし、それが拒絶査定を受けたことも知らなかった。ましてや、請求人から不使用取消審判が請求されるなど予想だにしていない。
また、答弁書で述べたとおり、被請求人は、2013年8月から、本件商標を付した本件商品の販売に関し具体的な準備を始めていた。2013年12月からは、本件商品のサンプル品をスタジオゼロヘ納めている。もっとも、この当時は、ペットボトルに付すラベルデザインが完成していなかったので、ペットボトルのラベルは無地であった。しかし、当該事実により、2013年12月現在、確かに被請求人とサンセラとの間でドクターズウォーターの販売に関する話が具体的に進んでいたことがわかる。
さらに、2014年1月15日に岩崎デザイン事務所から「Studio 0 Doctor’sWater」ボトル水のラベルデザイン制作に関する見積(乙13)を受け取っていることや、同月30日付けのメールで岩崎デザイン事務所から本件商品用のシュリンクラベル案を受け取っていることから、2014年1月以前から本件商標を付した本件商品の販売について具体的な準備が行われていたことは明らかである。したがって、今回の使用は当然かけこみ使用には当たらない。
加えて、不使用取消審判が請求されるであろうことを被請求人が知っていたことについての立証責任は請求人にあるが(商標法第50条第3項)、請求人はそれを行っていない。「その審判の請求がされることを知った」とは、被請求人が単に審判請求を受ける一般的、抽象的な可能性を認識していたのみでは足りず、交渉相手から書面等で審判請求することを通知された等の具体的な事実によって、相手方が審判請求を行う蓋然性が高く、かつ、被請求人がこれを認識していると認められることが必要である(乙65)。
したがって、駆け込み使用であるという請求人の主張は、商標法第50条第3項の要件を満たしていない。
(9)むすび
以上のように、本件商標は被請求人により本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件審判請求に係る指定商品について使用されていたことは明らかであり、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものではない。

3 上申書における主張
平成26年11月18日付け口頭審理陳述要領書の「陳述の要領」に関して、本件商標が要証期間内に日本国内において、商標権者により指定商品について使用されたことを立証するため、以下の証拠方法を追加提出する。
(1)被請求人システム部長A社員の手帳の写し(乙66の1?乙66の3)及び被請求人のサンセラに関する2013年12月分得意先元帳(乙67)
乙第66号証の1ないし乙第66号証の3は、被請求人システム部長A社員の2013年版手帳の写しである。
A社員は、本件商品ドクターズウォーターの企画や製造に関する担当責任者である。はくすいとのやり取りもA社員が窓口となって行っている。
乙第66号証の1ないし乙第66号証の3及び乙第67号証により、明らかに2013年12月には、本件商品の名称がドクターズウォーターとして決定しており、本件商品の製造販売に関する準備が具体的に進められていたことがわかる。
なお、乙第66号証の1ないし乙第66号証の3の赤線及び赤文字は、被請求人代理人が補足として追記したものである。乙第66号証の1ないし乙第66号証の3の原本を口頭審理の際提示する。
ア 乙第66号証の1
乙第66号証の1は、A社員の2013年版手帳の内、12月9日から12月15日の期間のページの写しである。左ページ11日の欄に、「サンセラ無地、20L 6、2l 10、500ml 10→12/11出荷」の記載がある。
これは、サンセラに対し、(a)本件商品のサンプルとして、ラベルが無地のものを、20L 6ケース、2L 10ケース、500ML 10ケース出荷する予定だったこと、そして、(b)500ML 10ケースを2013年12月11日に出荷したことを表している。当該サンプルのラベルが無地の理由は、当時はまだラベルデザインが完成していなかったためである。
乙第67号証は、被請求人のサンセラに関する2013年12月分得意先元帳の写しである。これには、12月11日に500mLボトル(無地24本入り)、数量10の記載があり、乙第66号証の1の記載内容と一致する。
イ 乙第66号証の2
乙第66号証の2は、A社員の2013年版手帳の内、12月16日から12月22日の期間のページの写しである。右ページにドクターズウォーターの文字やドクターズウォーターのコンセプトに関する記載がある。これにより、当該期間には本件商品の名称を本件商標ドクターズウォーターとすることが決定していたことが明らかである。
なお、手帳の記載が「ドクターウォーター」となっているのは、当該記載はA社員が自身のメモとして書いたものであり、正式名称「ドクターズウォーター」を省略して記載したためである。
また、右ページ中段には、「デザイン4週間位 12月末→1月末迄」の記載がある。これは、「ドクターズウォーターのラベルデザインの作成には4週間程度かかり、12月末に依頼すると1月末位には完成する」という意味である。実際、この直後、被請求人は、岩崎デザイン事務所に、ラベルデザイン図の作成を依頼している(乙13)。これにより、2013年12月には、本件商品の生産販売について具体的な準備が進んでいたことが明らかである。
ウ 乙第66号証の3
乙第66号証の3は、A社員の2013年版手帳の内、メモページの写しである。右ページ上段にドクターズウォーター製造に関する記載がある。
なお、当該記載には、「シュリンク(ラベル)、箱(専用ダンボール箱)、当社(被請求人)製造」とあるが、当時はラベル及び専用ダンボール箱を被請求人が製造する予定だったため、このような記載になっている。答弁書で述べたとおり、最終的にこれらの製造は、はくすいを通してなかむらポリエチレンが行っている。
(2)A社員の出張申請書の写し(乙68)
乙第68号証は、2014年4月17日に本件商品の初回製造に立ち会うため、A社員がはくすいへ出張した際の出張申請書の写しである。
乙第59号証と共に、原本を口頭審理の際提示する。
(3)なかむらポリエチレンからはくすいへの出荷案内書(乙69の1、乙69の2)
乙第69号証の1は、平成26年4月14日に、なかむらポリエチレンが本件商品のラベルを、はくすいへ納品した際の納品書の写しである。そして、乙第69号証の2は、はくすいからA社員へ乙第69号証の1をメールで送った際のメール本文である。
当該納品は、はくすいが、なかむらポリエチレンへ行ったラベル1万枚の発注(乙24)に対して行なわれた。
なお、納品数が発注枚数より100枚多いのは、ラベル印刷が大型の機械で行われることによる。発注数量ちょうどで機械を止めることが難しいため、ラベルの納品において、このように納品数量が若干多くなることは、珍しいことではない。
審判外なかむらポリエチレンと審判外はくすい間の取引書類を提出するまでもなく、答弁書及び被請求人陳述要領書で提出した証拠方法によって本件商標の使用については十分に立証されている。しかし、それをより強固なものにするため、乙第69号証の1及び乙第69号証の2を提出する。
(4)本件商標の使用及び使用者について
請求人は、請求人陳述要領書で、「したがって、はくすいは、商標法第50条に示される使用権者ではないので、はくすいが当該商標を使用しても、取り消しを免れない。」と主張している。
しかし、被請求人は、要証期間内の2014年4月18日に本件商標の付された本件商品をサンセラに対し販売している。当該行為は、商標法第2条第3項第2号に規定される登録商標の使用に該当する。
したがって、本件商標は、被請求人自身によって使用されており、本件商標登録は取り消されるべきものではない。
請求人は、当該取引が「至急案件」のため、ラベルのついていないペットボトルが、無地のダンボールに入れられて販売されたことも想定できると主張している。しかし、ラベルが付されていない物であればすぐにでも製造できるのであって、本件商標が付されたラベルがシュリンク加工された完成品を、本件商標が付されたダンボールに入れて納品する必要があったからこそ「至急案件」となったわけである。
現に、ラベルが無地のサンプル品は、2013年12月からサンセラヘ納品されていた(乙67)。
「至急案件」であることは、4月18日に取引された本件商品に本件商標が付されていたことの証である。
さらに、請求人は、請求人陳述要領書の中で、乙第39号証では被請求人とはくすいとの間に使用許諾があった旨を立証できない旨主張している。
しかし、そもそも乙第39号証は、被請求人とはくすいとの間の取引が基本契約に則って行われていることを立証するために提出したものであり、はくすいが通常使用権者であることを立証するために提出したものではない。
被請求人陳述要領書で述べたとおり、被請求人とはくすいとは、回帰水以降のミネラルウォーターの委託製造については、乙第39号証を援用して取引を行っている。はくすいは、品質等に関する被請求人の指示の下に、本件商品を製造している。そして、完成した商品の全てを被請求人に納めている。
すなわち、はくすいは、被請求人の手足となって本件商品を製造しているのであって、はくすいが本件商品の容器や納品用のダンボールに本件商標を付す行為は、被請求人自身によるものと同視できる。
加えて、仮に、はくすいが本件商品の容器や納品用のダンボールに本件商標を付す行為がはくすい自身の行為だったとしても、それは通常使用権者による行為である。通常使用権の許諾には、必ずしも書面による契約は必要なく、口頭による契約によってもなし得る(乙70)。
被請求人は、はくすいに対して本件商品の製造を委託しており、製造行為には、当然ペットボトルに本件商標を付す行為が含まれる。また、被請求人は、はくすいに本件商標が付されたラベルやダンボールの製造も委託している。
これらの事実からして、本件商標についての通常使用権に関し、被請求人がはくすいに対して黙示の許諾を行ったことは明らかである。

4 上申書(2)における主張
平成26年11月18日付け口頭審理陳述要領書の「陳述の要領」に関して、本件商標が要証期間内に日本国内において、商標権者により指定商品について使用されたことを立証するため、乙第8号証に示した本件商品の左右側面の写真(乙71の1、乙71の2)を提出する。
乙第71号証の1には、本件商品の製造者がはくすいであること、及び販売者がスタジオゼロであることが記載されている。

5 上申書(3)における主張
本件事件に関し、以下のとおり証拠方法を追加提出の上、上申する。
(1)乙第72号証について
乙第72号証は、はくすいが被請求人からFAX回線を通じて受信した発注書の写しであり、その原本を口頭審理で提示した。
当該発注書は、平成26年4月18日に本件商品の出荷依頼として被請求人からはくすいに送信されたもの(乙49の1、乙49の2、乙48の2)に、はくすいが、「佐川急便御中お世話になっております。4/18集荷お願い致します。」と手書きで記入し、「水加工場はくすい」のゴム印を押して、佐川急便阿蘇店へFAX転送した後保管していたものである。なお、「商品名ドクターズウォーター500mL(24本入り)」を囲む丸や、同じく丸で囲まれた「1本88円(税抜)」の記入は、佐川急便阿蘇店へのFAX転送後にはくすいが行った。
また、下部中央に押された印鑑は、集荷の際に押印されたものである。
ここで、乙第28号証は、佐川急便阿蘇店が上記FAX転送された発注書に伝票番号「No.170220071943」を記入し、担当者印を押印の上、被請求人へFAX送信し、それを被請求人が印刷したものである(乙53の1、乙53の2)。
以上のとおり、乙第28号証及び乙第72号証は、平成26年4月18日の本件商品の出荷のために被請求人が作成した発注書(乙49の1、乙49の2)の各処理段階におけるものの写しである。
したがって、乙第28号証及び乙第72号証の注文内容や納入先は、乙第49号証の1及び乙第49号証の2のそれと一致している。そして、乙第72号証の原本が存在することにより、平成26年4月18日に被請求人がはくすいに対し当該発注書を実際に送信したこと、すなわち、はくすいに対し本件商品の出荷依頼がされたことが事実であることがわかる。
さらに、当該発注内容の商品が佐川急便阿蘇店によりスタジオ・ゼロヘ配送された事実も、配送伝票の控え(乙52の1、乙52の2、乙60)や、佐川急便株式会社の請求書(乙56)や、被請求人から佐川急便株式会社への支払状況(乙57の1?乙57の3)等から立証されている。すなわち、平成26年4月18日には、本件商品が市場において流通していたことが事実であることがわかる。
(2)乙第73号証について
乙第69号証の1が本件商品のラベルに関する出荷案内書であることを証明するため、乙第73号証を提出する。
乙第73号証は、はくすいのD社員が被請求人のA社員へ送ったメールを被請求人代理人へ転送し、被請求人代理人がそれを印刷したものである。
乙第73号証には、乙第69号証の1を添えて納品した商品が本件商品にシュリンク加工するラベルであったことが明示されている。
なお、乙第73号証中の「弊社宛ての平成28年4月14日付け出荷案内書は」の「平成28年」は入力ミスであり、「平成26年」の誤りである。
請求人は、請求人上申書において、「12月11日のメール(乙69の2)に、8ヵ月も前の4月14日の出荷案内書(乙69の1)を添付することも不自然であり、このメールには、別の出荷案内書等が添付された可能性が高く、被請求人の主張は信憑性にかける」と主張している。しかし、乙第69号証の2に乙第69号証の1が添付されているのは、本件事件の証拠方法として提出するために2014年12月にはくすいから取り寄せたためである。
すなわち、本件事件の証拠方法として、乙第69号証の1を提出するために、12月4日付けでD社員がA社員へ送ったメールを、12月11日付けで被請求人代理人へ転送したため、このような日付となっている。
また、乙第69号証の1及び乙第69号証の2以外に、はくすいとなかむらポリエチレンとの間の文書等を証拠方法として提出していないのは、これまでに被請求人が行った主張及び提出した証拠方法によって本件商標の使用の事実は十分に証明されているものと考えられ、審判外の両社にこれ以上の負担をかけることを望まないためである。
なお、請求人は、甲第9号証の1及び甲第9号証の2に「日用雑貨、印刷業、木製品、紙、パルプ製品、化学、ゴム、プラスチック製品」等と記載されていることを理由に、なかむらポリエチレンがこれらの広範な商品を扱っているため、乙第69号証の1がペットボトル用のラベルに関するものであると特定できないと主張している。これについては、ラベルは上記商品に関連するものであり、また、乙第73号証によってラベルであったことは特定されたものと思料する。
(3)本件商標の使用について
先述のとおり、乙第72号証の原本の存在から、平成26年4月18日に被請求人からはくすいへ本件商品の出荷依頼が行われたことが事実であることがわかる。また、佐川急便阿蘇店の配送を示す書類(乙52の1、乙52の2、乙56、乙57の1?乙57の3、乙60)や、各取引における商品代金の支払いを示す書類(乙54の1?乙54の4、乙55の1?乙55の3、乙47の1?乙47の3、乙61)等により、平成26年4月19日には本件商品がスタジオ・ゼロヘ納品され、本件商品に関する取引が行われたことが事実であることがわかる。
そして、本件商品専用のシュリンクラベルや本件商品専用のダンボールの製造依頼が行われている事実(乙13?乙26)や、実際にラベルが完成していた事実(乙69の1)等から、4月18日に出荷された本件商品には本件商標が付されていたこと、及び本件商標が付された専用ダンボールに梱包されて出荷されたことは社会常識からして当然である。
以上のことから、要証期間内に、本件商標が本件商品又はその包装に付され(商標法第2条第3項第1号)、本件商品又はその包装に本件商標が付されたものが譲渡され又は引き渡され(同項第2号)ていたこと、すなわち、要証期間内に本件商標が本件指定商品について使用されていたことは明らかである。
(4)本件商標の使用の主体について
請求人は、本件商品のラベルやダンボール箱に被請求人に関する記載がないことや、被請求人のホームページにドクターズウォーターの掲載がないことから、被請求人が本件商品の販売に関して単なる仲介者にすぎないと主張している。さらに、市販される他の飲料用ペットボトルのラベル表示を例に挙げ、本件商標の使用者は、本件商品の販売者又は製造者と考えるのが妥当であると主張している。
しかし、本件商品をサンセラへ販売しているという取引実情からして、ペットボトルの表示にかかわらず被請求人は、販売者であるといえる。
また、そもそも、商標法第50条第1項は、主体的要件として「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者」と規定しており、「商標権者」を製造者又は販売者に限定はしていない。
被請求人は、本件商標権の「商標権者」である(乙1)。そして、平成26年4月19日にスタジオ・ゼロヘ本件商品は納品されており(乙52の1、乙52の2、乙60)、サンセラがその商品代金を被請求人に支払っている(乙61)ことから、被請求人とサンセラ(スタジオ・ゼロ)との間に取引があったことは明らかである。すなわち、商標権者である被請求人が商品の包装に標章を付した本件商品を譲渡し若しくは引き渡したのであって、本件商標は商標権者によって指定商品について使用されている。
なお、昨今、いわゆるOEM生産やODM生産の普及により、製造者と販売者とが異なることは珍しいことではない。答弁書で述べたとおり、本件商品は、被請求人が新規販路開拓のために企画した商品であり、被請求人とはくすいとの間で結ばれた基本契約書(乙39)にしたがい、被請求人の指示のもとに製造された被請求人の商品である。ラベルやダンボール箱に被請求人の記載がないのは、産地から消費者の手に直送された新鮮な水であるイメージが損なわれないようにしたためである。
また、本件商品は基本契約書(乙39)に基づき被請求人の指定する仕様により、被請求人の指示・監督の下に製造されており、完成した商品は全て被請求人に納められている。すなわち、はくすいは被請求人の手足となって本件商品を製造しているにすぎず、はくすいの行為は被請求人の行為と同視されて然るべきものである。
万一、同視されない場合でも、被請求人の仕様のとおり本件商品を製造すれば、当然に本件商標を本件商品の包装に付す行為が生じる。
このような特殊な状況下にあっては、本件商標の使用について黙示の許諾がされたと解するのが妥当である。
(5)いわゆる駆け込み使用について
いわゆる駆け込み使用であることの立証責任は、請求人にある(商標法第50条第3項)。
本件において請求人は、「被請求人は、商願2013-15939の出願経過を認識し、本件商標登録について不使用取消審判が請求される可能性かあることを知った後、商願2014-11556に係る出願を行った」として、被請求人の使用がかけこみ使用であると主張している。
しかし、被請求人がどのようにして、いつ、商願2013-15939の存在や不使用取消審判が請求される可能性を知ったのかについては具体的な説明や証拠方法の提出はなく、当該主張は憶測の域を出ていない。
なお、審判外第三者からの譲渡交渉の申し出に係る書面については、請求人からの閲覧要求に応じるため、当該第三者に提出の可否を問うたが、営業上重要な情報であるとの理由で提出を拒まれた。よって、当該第三者を特定する情報を伏せたものの写しを乙第74号証として提出する。

6 上申書(4)における主張
本件事件に関し、請求人より平成27年2月24日に提出された上申書(2)等について、以下のとおり上申する。
(1)商標の使用について
ア 2014年4月18日付け本件商品の出荷に使用されたダンボールに本件使用商標1が付されていたこと
確かに、2014年4月18日に出荷された際の商品及びダンボールの写真はないが、商取引において商品発送の都度写真に撮るといったことは一般的に行われておらず、本件に関しても同様である。
しかし、乙第23号証には、製品仕様として「●500ML 段ボール:弊社負担(茶箱・A段)とある。20Lについては、「段ボール:弊社負担(無地・茶箱仕様)とあるので、500ML用ダンボールが無地でないことは明らかである。
また、これまでに提出した証拠方法に以下の記載がある。
・乙第21号証:「500ML段ボールとシュリンクデザインも近日中に上がってくる予定です。」
・乙第24号証:「段ボールデザイン(文字のみ)が出来ましたのでお送りします。」
・乙第25号証:「ドクターズウォーター500ML段ボールの人物無し、グラデーション無しのデザインができましたのでお送り致します。」
・乙第26号証:「ドクターズウォーター500ML段ボールの電話番号追加デザインがあがってきましたので、ご確認後、よろしければご連絡頂けますでしょうか。本日中に、印版作成のOKの指示をメーカーの方へ出す予定でおります。」
そして、乙第24号証ないし乙第26号証には、ダンボールのデザイン図が添付されており、いずれにも本件使用商標1が付されている。
以上より、500ML専用ダンボールは、本件使用商標1を付す内容で製作が進められていたことがわかる。
ここで、基本契約書(乙39)には、目的物は決定した仕様に合致させることが保証されており(第6条)、不良品については代金を支払わない旨が定められている(第5条)。
4月18日に出荷された本件商品については、被請求人からはくすいへ代金が支払われている(乙54の3、乙55の3)。
したがって、4月18日に出荷された本件商品が本件商品の仕様に合致していたことがわかる。すなわち、4月18日に出荷された本件商品は、本件使用商標1が印刷された専用ダンボールに梱包されて出荷されたものと推認できる。
また、被請求人は、2013年12月にはラベルが無地のサンプル品を既に製造しており(乙67)、無地のダンボールに梱包して出荷するのであればいつでも可能であった。
本件使用商標1が付されたシュリンクラベルを貼付した本件商品を、本件使用商標1が付された専用ダンボールに梱包して出荷するためにこれらの完成を待ったからこそ、2014年4月18日が初出荷となったのである。
以上より、2014年4月18日の出荷は、本件使用商標1が付された本件商品を、本件使用商標1が付されたダンボールに梱包して行われたと考えるのが合理的である。
イ 商標の実質的使用について
本件商品における本件使用商標1の表示は、内容物の説明をするものではない。本件使用商標1が付されることで、本件商品は、他人が製造販売するミネラルウォーターと区別でき、出所を特定することができる。
すなわち、本件商品における商標の使用は、自他商品識別機能や出所表示機能といった商標の本質的機能をまさに発揮する態様での使用である。本件使用商標1が実質的に商標として使用されていることに疑いの余地はない。
(2)商品ラベルの納品をもって商標の使用が認められた判例について
平成17年(行ケ)第10554号(乙75)を本件に置き換えると、
(a)審判請求の登録前3年である平成26年(2014年)4月14日に本件商品ラベルが納品されている(乙69の1)。
(b)当該ラベルには、本件商標と社会通念上同一と認められる標章が付されている(乙8)。
(c)乙第8号証の本件商品には、15.04.17と印字されているが、これは賞味期限が2015年4月17日であることを表している。はくすいが製造するミネラルウォーターの賞味期限は1年なので、当該商品が20 14年4月17日に製造されたことがわかる。
(d)納品されたラベル数は10,100枚である(乙69の1)。
以上のとおり、本件においても平成17年(行ケ)第10554号で使用を認める根拠となった条件を満たしている。加えて、2014年4月18日にスタジオゼロ宛てに出荷し、翌19日には受領された事実がある(乙60)。したがって、本件については、要証期間内での登録商標の使用が十分に認められるものと思料する。
(3)本件商標の使用の主体について
ア 被請求人が本件商品の実質的な製造販売者であること
本件商品のラベルには、製造業者としてはくすい、販売者としてStudio 0(スタジオゼロ)の表示がある。しかし、これは、被請求人上申書(3)でも述べたとおり、産地から消費者の手に直送された新鮮な水であるイメージが損なわれないようにするためにされたものである。昨今における商品の流通形態は複雑化・多様化しており、このようなケースは珍しくなく、主体の判断は取引の実態によって行われるべきものと思料する。
本件についてみると、被請求人は、本件商品を企画し、販売先(サンセラ(スタジオゼロ))を開拓し受注している。製造については、はくすいに委託しているが、商品の仕様や、シュリンクラベル及び専用ダンボールのデザイン図の決定は被請求人が行っている。そして、商品の製造及び品質の管理は、被請求人の指示又は指導の下に行われている。
また、本件商品は、はくすいからスタジオゼロヘ直接納品されているが、これは、単に納品作業の効率化やコスト削減を図っただけのことである。4月18日の出荷は、被請求人の指示にしたがって行われているので、納品の際に被請求人の手を通らないことを理由に、被請求人が本件商品の流通に関与していないとはいえない。
本件商品の取引は、サンセラが被請求人に注文することで発生している。つまり、当該取引において被請求人は販売者である。これは、サンセラが被請求人へ商品代金を支払っていることからも明らかである。本件商品の取引に関し、被請求人は、単なる仲介役などではない。
これまでに提出した証拠方法により、本件商品の製造販売が被請求人の主導により行われていることは明白である。本件商品の製造、販売、流通の主体が被請求人であることに疑いの余地はない。
イ 本件商品の製造販売における被請求人とはくすいの関係について
本件商品の製造販売に関し、はくすいは被請求人の定める仕様にしたがって被請求人の指示の下に本件商品を製造し、その全てを被請求人に納めている。はくすいは、被請求人の手足となって本件商品を製造しているにすぎない。
したがって、はくすいが本件商品に本件使用商標1を付す行為は、被請求人による行為と同視し得る。
仮に、同視できないとしても、はくすいが本件商標権の通常使用権者であることは明らかである。
通常使用権の許諾に、契約書の作成は必須ではない。平成21年(行ケ)第10392号(乙76)や平成24年(行ケ)第10130号(乙76)では、状況を総合的に勘案して通常使用権の許諾があったことを認めている。
本件についても、(a)はくすいは、被請求人との委託契約に基づき、被請求人が定める仕様によって本件商品を製造していること、(b)当該仕様により本件商品を製造すると必然的に本件商標と社会通念上同一の本件使用商標1を使用することになること、(c)被請求人は、本件商品のシュリンクラベルや専用ダンボールに本件使用商標1が付されていることを当然把握しているが、何ら異議を唱えていないこと等これらの事情を総合参酌すると、被請求人がはくすいに対して、本件商標の使用について黙示の許諾を行ったと考えるのが自然である。本件商品の製造を指示する一方で、本件商標の使用は認めないとするのではあまりに不合理である。
以上より、本件商品の製造において本件商品や専用ダンボールに本件使用商標1を付す行為は、被請求人によるものと同視しうること、また、仮に同視できないとしても、はくすいは本件商標権の通常使用権者であることが認められる。

第4 当審の判断
被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を要証期間内に、商品「ミネラルウォーター」に使用していると主張しているところ、提出された証拠及び被請求人の主張によれば、以下の事実が認められる。

1 被請求人について
被請求人は、「回帰水」というミネラルウォーターの販売をはじめ様々な事業を行っている(乙2?乙4)。

2 被請求人とはくすいとの契約について
(1)乙第39号証は、平成17年2月22日付けで被請求人(甲)とはくすい(乙)との間で交わされた、甲乙間のペットボトル製造等の委託に関する「基本契約書」と題するものであり、以下の記載がある。
第1条(基本契約及び個別契約)
この基本契約は、甲乙間におけるペットボトル及びこれに充填される甲の仕様による「回帰水」(以下併せて「目的物」という。)の製造、箱詰め及び保管(以下一括して「製造等」という。)の委託に関する基本的事項を定めたものである。なお、目的物の製造等に関しては、本契約に定めるほか、次条第1項に従って甲乙間にて締結される「個別契約」に従う。・・・
第2条(注文)
1.甲は、発注年月日、目的物の品名・品番・数量等を記載した注文書又は出荷依頼書(以下「甲注文書」という。)をFAX等で・・・乙に交付する。甲注文書の受領をもって、当該注文に係る個別契約が成立したものとみなす。・・・
第4条(納入)
1.乙は、本基本契約及び個別契約所定の条件に従って目的物を製造し、一時保管の上、甲が指定する運送業者に引き渡す。なおこの引渡しをもって、目的物が甲に納入されたものとみなす。・・・
第5条(支払い)
毎月20日時点における、前条第1項に従って・・・納入済みの目的物数量・・・に当該目的物に係る甲注文書記載の単価を乗じた金額・・・について、同月末日までに乙は甲あて請求書を送付し、甲は・・・翌月末日にこれを支払う。・・・
第20条(有効期間)
この基本契約の有効期間は、平成17年3月1日から、1年間とする。但し、期間満了の1ヵ月前までに、甲及び乙のいずれからも、この基本契約を継続しない旨の書面による申し出がないときは、この基本契約は同1条件にて更に1年間有効とし、以後もこの例によるものとする。
(2)被請求人は、「両社は、日頃の取引で築き上げた信頼関係に基づき、回帰水以降は、飲料水の製造委託に関して個別に契約書を作成することなく、当該基本契約を援用して取引を行っており、ドクターズウォーターの製造委託に関しても同様である。」と述べており(被請求人の「口頭審理陳述要領書」)、これを否定する証拠はないから、本件商品(ミネラルウォーター「ドクターズウォーター」)についても、はくすいに乙第39号証に基づく製造委託をしていたと認められる。

3 サンセラとスタジオゼロについて
乙第27号証は、被請求人が受注した2014年(平成26年)4月18日付けの「TI受注 専用注文書」であるところ、依頼主欄に「サンセラ(有)」、出荷先欄に「スタジオ・ゼロ」、備考欄に「請求はサンセラ(有)へお願いします。」の記載があり、被請求人の主張とあわせてみれば、サンセラは、ヨガスタジオの「Studio 0(スタジオゼロ)」(乙9)を運営している会社と認められる。

4 本件商品に係る被請求人とサンセラ(スタジオゼロ)間の取引の経緯等について
(1)被請求人の主張によれば、被請求人は、「回帰水」が被請求人の会員に対してのみに販売するミネラルウォーターであるため、それとは異なる新規ブランドを企画し、販売先を捜したところ、以前から取引のあるサンセラが水との関わりをテーマにしたヨガスタジオ「スタジオゼロ」(乙9)をオープンすることを知り、本件商品について商談が成立したため、本件商品の製造・販売の準備を開始したとのことである。
(2)被請求人は、基本契約(乙39)を援用し、2013年9月にはくすいに本件商品のサンプル作成を依頼し、それに対し、はくすいは、2013年10月1日に、本件商品のサンプル品をスタジオゼロに発送したと報告した(乙12)。なお、被請求人によれば、この時点では、商品にラベルが付されていない。
(3)被請求人は、サンセラ宛て、2013年12月11日に、500mlボトル(無地24本入り)を10ケース販売した(乙66の1、乙67)。 この商品にも、ラベルは付されていない(乙67には、「無地」との記載がある。)。
(4)被請求人は、岩崎デザイン事務所に対して、本件商品のラベルデザインの作成を依頼し、2014年1月15日に岩崎デザイン事務所は、「『Studio0 Doctor’s Water』ボトル水のラベルデザイン制作」を件名とする見積書を提出し(乙13)、その後、2014年2月24日まで、ラベルデザインについて、やりとりしている(乙14?乙17)。なお、被請求人が岩崎デザイン事務所にデザインを依頼した最初の年月日は、明らかでない。
(5)2014年2月25日以降、被請求人は、ラベルとダンボールのデザイン等について、はくすいと確認を重ね決定し(乙18?乙23)、はくすいから同年4月2日に500ml用のラベルを10,000枚発注した旨の連絡があり(乙24)、500ml用のダンボールデザインは、同年4月10日に確認されている(乙25、乙26)。
(6)500ml用のラベルには、「製造者/株式会社はくすい」、「販売者/studio 0(スタジオ ゼロ)」並びに「Doctor’s」、「Water」及び「ドクターズウォーター」の文字を三段書きした本件使用商標1の表示がある(乙8、乙71の1、乙71の2)。
(7)被請求人は、「本件商品のラベルには、製造業者としてはくすい、販売者としてStudio 0(スタジオゼロ)の表示がある。しかし、ラベルに被請求人の記載がないのは、産地から消費者の手に直送された新鮮な水であるイメージが損なわれないようにしたためである。」と述べている(上申書(3)、(4))。
(8)500ml用のラベルは、平成26年(2014年)4月14日になかむらポリエチレンから、はくすいに10,100枚納品された(乙69の1、乙73)が、500ml用のダンボールの納品年月日は明らかでない。
(9)被請求人は、サンセラ宛て、2014年4月3日に、500mlボトル(無地24本入り)を3ケース販売した(乙29、乙58の1、乙58の2)。この商品にも、ラベルは付されていない(乙29、乙58の1、乙58の2に「無地」との記載がある。)。
(10)サンセラは、被請求人宛に、2014年4月18日に商品コード「9106」、品名「ドクターズウォーター500ml(24本入り)」を10ケース注文した(乙27、乙45の2、乙46の2、乙46の3)。これには、出荷先はスタジオゼロで、代金請求はサンセラとする旨の記載がある。
(11)被請求人は、2014年4月18日、13時45分に、はくすい宛の発注書において、納入先をスタジオ・ゼロとして、商品名「ドクターズウォーター500ml(24本入り)009106」を10ケースについて、「本日出荷お願いします」との発注をした(乙48の2、乙49の1)。それを受けたはくすいは、13時52分に佐川急便阿蘇店宛てに「4/18集荷お願いします」と依頼した(乙28)。佐川急便阿蘇店は、4月18日の集荷の際に押印した(乙72)。その後、佐川急便阿蘇店は、送り状No.170220071943を記載し、14時6分に被請求人に報告した(乙28、乙53の2)。
(12)佐川急便株式会社は、送り状No.170220071943、「ドクターズウォーター500ml(24本入り)10ケース」をスタジオゼロに平成26年4月19日、10時9分に配達した(乙60)。
(13)はくすいは、被請求人に対し、平成26年4月20日付けで科目「ドクターズウォーター」、数量「10」を含む請求書を発行した(乙31、乙54の3)。
(14)被請求人は、サンセラに対し、「平成26年04月30日 締切」とする、日付「04月18日」、伝票番号「201404-2-00109」、商品名「ドクターズウォーター500mL(24本入り)」、数量「10」を含む請求書を発行した(乙47の3)。
(15)佐川急便株式会社は、被請求人に対し、「2014年4月20日 締切」とする、請求書3通を発行した(乙56)。運賃明細書には、「水加工場はくすい タイセイ(株)様【書込分】様」の一覧表に、出荷日「04/18」、お問合せNO「170220071943」、個数「10」などの記載がある。
(16)サンセラは、被請求人に対し、上記(14)の請求書に相当する金額を2014年(平成26年)5月19日に振り込んだ(乙61)。
(17)被請求人は、はくすいに対し、上記(13)の2通の請求書に相当する金額を2014年(平成26年)5月30日、銀行に振り込んだ(乙55の3)。
(18)被請求人は、佐川急便株式会社に対し、上記(15)の3通の請求書に相当する金額を2014年(平成26年)5月30日に振り込んだ(乙57の3)。

5 以上の事実からすれば、以下のとおり判断することができる。
(1)本件使用商標1の使用時期について
ア 被請求人の業務に係る「ミネラルウォーター500ml」用のラベルには、本件使用商標1の表示があり(上記4(6))、当該ラベルは、平成26年(2014年)4月14日になかむらポリエチレンから、はくすいに納品されている(上記4(8))から、その納品後に、はくすいで製造された被請求人の「ミネラルウォーター500ml」には、本件使用商標1が付されていたと優に推認できる。
イ 被請求人は、平成26年4月18日、サンセラからの注文を受け、はくすい宛ての発注書において、納入先をスタジオゼロとして、商品名「ドクターズウォーター500ml(24本入り)009106」を10ケースについて、「本日出荷お願いします」との発注をし、それを受けたはくすいは、佐川急便阿蘇店宛てに集荷を依頼し(上記4(11))、佐川急便阿蘇店は、4月19日、スタジオゼロに配達した(上記4(12))。
ウ 被請求人は、上記アの代金をサンセラに請求した(上記4(14))のに対し、サンセラは、請求された相当額を銀行に振り込んだ(上記4(17)。
エ 上記アないしウからすれば、本件使用商標1が付された「ミネラルウォーター500ml」は、平成26年4月19日に被請求人からサンセラ(スタジオゼロ)に譲渡又は引き渡しされたといえる。
(2)本件使用商標1と本件商標について
本件使用商標1は、「Doctor’s」、「Water」及び「ドクターズウォーター」の文字を三段書きしてなるところ、「Doctor’sWater」及び「ドクターズウォーター」の文字を二段書きしてなる本件商標とは、同一の称呼「ドクターズウォーター」及び同一の観念「医者の水」を生じる商標であるから、本件使用商標1は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標といえる。
(3)本件使用商標1の使用商品について
被請求人の業務に係る商品「ミネラルウォーター」は、本件審判の取消請求に係る指定商品中に含まれる商品である。
(4)本件使用商標1の使用者について
「ミネラルウォーター500ml」用のラベルには、被請求人(商標権者)の記載が認められないものの(上記4(7))、上記2及び4のとおり、被請求人は、「Doctor’s Water」の文字を表示した「ミネラルウォーター500ml」用のラベルのデザインを決定し、本件使用商標1を付した「ミネラルウォーター500ml」を被請求人が指示して製造、出荷、配達を行っている。
そして、被請求人は、当該ミネラルウォーターを購入したサンセラに対して、「ドクターズウォーター」と明記した請求書を送付し、それに対し、サンセラは、被請求人に商品代金を支払っているのであるから、被請求人が本件使用商標1の使用者としてみて差し支えない。
(5)本件使用商標1の使用行為について
上記(1)及び(4)のとおり、本件使用商標1の使用者(被請求人(商標権者))は、本件使用商標1を付したミネラルウォーターを要証期間内である平成26年4月19日にサンセラ(スタジオゼロ)に譲渡又は引渡したと認めることができる。この行為は、商標法第2条第3項第2号にいう、商品に標章(商標)を付したものを譲渡又は引き渡しする行為に該当するものである。
(6)小括
上記(1)ないし(5)のとおり、被請求人(商標権者)は、要証期間内に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を本件審判の取消請求に係る指定商品に含まれる「ミネラルウォーター」に付して、譲渡又は引渡したと判断するのが相当である。

6 請求人の主張について
請求人は、被請求人の商標の使用は、商標法第50条第3項に規定する、いわゆる「駆け込み使用」であると主張し、被請求人が不使用取消審判が請求されるであろうことを知った理由として、被請求人が、平成26年2月17日に、指定商品「飲料水,その他の清涼飲料」について、本件商標と同一の商標「Doctor’sWater/ドクターズウォーター」を商標登録出願(商願2014-11556)し(甲4)、また、平成26年3月7日に、指定商品「飲料水,その他の清涼飲料」について、商願2014-11556のフォントを変更した程度の差異しかない商標を商標登録出願(商願2014-17723)している(甲5)ことを挙げ、請求人が平成25年2月22日に、指定商品「飲料水,その他の清涼飲料」についてした、商標「ドクターウォーター」の商標登録出願(商願2013-15939)が、本件商標の存在を理由として、平成26年1月7日に拒絶査定となっている(甲6)から、被請求人は、商願2013-15939の存在及び出願経過を認識、調査した上で、本件商標登録が不使用による取消審判を請求される可能性があることを知った後、商願2014-11556及び商願2014-17723を行ったことは明らかであると確信すると述べている。
しかしながら、商標登録出願は、審査結果はさておき、いつでも自由にできるのであるから、被請求人による上記2件の商標登録出願をすることが、ただちに、本件の審判請求がされることを知ったからであるということはできない。
他に請求人は、被請求人の商標の使用が商標法第50条第3項に規定する、いわゆる「駆け込み使用」であることを証明していない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、被請求人(商標権者)は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者が取消請求に係る指定商品に含まれる「ミネラルウォーター」について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていたことを証明したということができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定に基づき、請求に係る指定商品についての登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2016-03-29 
結審通知日 2016-03-31 
審決日 2016-10-11 
出願番号 商願2006-68609(T2006-68609) 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (Y32)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨澤 武志田口 善久 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 大森 健司
原田 信彦
登録日 2007-04-20 
登録番号 商標登録第5042733号(T5042733) 
商標の称呼 ドクターズウオーター、ドクターズ 
復代理人 藤田 祐作 
復代理人 山内 輝和 
代理人 山野 有希子 
代理人 松尾 憲一郎 
代理人 市川 泰央 
代理人 井上 誠一 
復代理人 藤井 一馬 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ