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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
管理番号 1321331 
審判番号 無効2014-890023 
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-03 
確定日 2016-10-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第5614496号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成27年2月9日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成27年(行ケ)第10058号 平成28年1月28日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 登録第5614496号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5614496号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおり,縁取りしてやや図案化されたワインレッド色の「Enoteca Italiana」の文字を横書きしてなり,平成24年12月13日に登録出願され,第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ワイングラスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,タオル及びハンカチの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,エプロンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,陶器製の食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ガラス製食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として,平成25年7月29日に登録査定され,同年9月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は,次に掲げるとおりである。
1 登録第5136985号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:ENOTECA
登録出願日:平成19年4月3日
設定登録日:平成20年6月6日
指定役務 :第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,手動利器の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,木製の包装用容器の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
2 登録第2357005号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:ENOTECA
登録出願日:平成元年6月27日
設定登録日:平成3年11月29日
書換登録日:平成14年5月22日
指定商品 :第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」
3 登録第1860159号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:Enoteca
登録出願日:昭和59年4月16日
設定登録日:昭和61年5月30日
書換登録日:平成18年12月20日
指定商品 :第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」
上記引用商標1ないし3は,いずれも現に有効に存続しているものであり,以下,これらを一括して単に「引用商標」ということがある。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第195号証(枝番を含む。)を提出している。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)引用商標の著名性
ア 請求人とその事業内容(概要)
請求人は,ワインの輸入販売業及びレストラン業等を主要な事業目的とする株式会社であり,ワインの輸入販売,卸売,小売,カフェの経営を事業内容として昭和63年(1988年)8月に創業した。1989年9月に本店所在地である港区広尾に旗艦店であるワインショップ「ENOTECA」(エノテカ)広尾本店とレストラン&ワインラウンジ「ENOTECA」(エノテカ)を開店し,以来その事業活動により,我が国随一のワイン専門輸入商社卸・小売会社としての地位を築いた。
今日においては,ワインの輸入,販売をはじめとして,直営店のワインショップ経営,ワインの通信販売,ワイン商品の開発・選定,ワイン文化と知識の普及などの事業を行い,その事業活動の拠点も,2013年3月期現在で,国内に42の直営ワインショップを展開し,海外店舗は香港,中国,シンガポール,韓国を併せて18店舗に上る。
請求人会社とその海外子会社(ENOTECA SHANGHAI CO.,LIMITED,ENOTECA KOREA CO.,LTD.)を含むエノテカグループによる年間売上高は,2013年3月期で約144億円である(以上,甲5?甲7。なお,全ての枝番号を含む号証は,枝番号を記載しない。以下同じ。)。
イ 請求人の国内外における事業展開
(ア)請求人による国内事業(輸入・販売・卸売・小売等)について
請求人は,ボルドーやブルゴーニュを含むフランス各地はもちろんのこと,イタリア,チリ,アルゼンチン,カリフォルニア,スペイン,ポルトガル等,世界各地からの多岐に亘る豊富なワインを輸入,販売しており,約1,100種類,年間で600万本(2013年3月期)に上る自社直輸入ワインを,直営のワインショップ「ENOTECA(エノテカ)」及びインターネットで販売するとともに,全国の有名百貨店,高級スーパー,主要高級ホテル及び全国有名レストラン等に卸販売している。現在,プリムール(世界的に確立されているフランスボルドー産ワインの先売り制度)によるフランスボルドー産ワインの購入量は,請求人が日本における購入者のうち最大となっている(甲5?甲8)。
請求人は,1989年9月にワインショップ「ENOTECA」(エノテカ)広尾本店とレストラン&ワインラウンジ「ENOTECA」(エノテカ)を開店して以来,ワインショップの名称として20年以上継続して「ENOTECA」を使用し,店舗の看板,包装用紙袋,包装用箱,プライスリスト,メニュー等に引用商標1に代表される「ENOTECA」商標を使用している。
請求人による国内外に所在する直営店舗での販売及び取引における創業以来の継続した使用の成果もあり,「ENOTECA」,「Enoteca」及び「エノテカ」の各標章(以下,まとめて「ENOTECA標章」という。)は,請求人の事業にかかる商品・役務に関する名称として充分に著名となっている。
この点,請求人は,ENOTECA標章によって表される自社のブランド(以下「エノテカブランド」という。)を向上させるべく,ENOTECA標章を使用して出店する地域及び場所を厳選した営業展開を行っており,請求人の直営店舗はいずれも,六本木ヒルズや渋谷ヒカリエといった主要都市のランドマーク施設や,高島屋をはじめとする有名百貨店に所在している。出店場所でいえば,東京では,銀座,丸の内,六本木,代官山等といった著名スポット,その他地域では大阪,札幌,名古屋,福岡,横浜,京都,広島,新潟といった主要都市であり,その中でも,目抜き通り,例えば銀座通り,丸の内仲通り,有名百貨店等といった,当該都市において多数の人が集まり,人々の注目を集める場所に展開している。
請求人は,これらの直営店舗のほか,自社のサイトによる直販(エノテカ・オンライン<http://www.enoteca.co.jp/>)や他社のインターネットショッピングモール(例:楽天)を通じて,インターネットでもワインの小売販売を行っている(甲9)。
このため,直営店舗のない地方の需要者にもENOTECA標章は,広く著名となっている。
また,請求人は,ワイン愛好家向けの海外の超一流シャトーやドメーヌ等のワイナリーより直接買い付けた蔵出し銘醸ワインから一般需要者向けのデイリーユースのワインまで幅広い品揃えを有し,ワインを日本の市場に浸透させるため,請求人のエノテカブランドを使用して,長きにわたり,日本におけるワイン文化と知識の普及に努め,広報,販売促進活動を積極的に実施してきた。
請求人は,日本におけるワイン文化と知識の普及のために,主にワインの愛好家を対象として1995年に「クラブエノテカ(Club Enoteca)」という会員組織を設立し,ワインのディスカウント,会員個人のワインを預かるレンタルセラーサービス,セミナーやイベントへの優待,会員誌の配布などの特典を与え,ワインの啓蒙,商品の宣伝広告のために,遅くとも1999年頃より,「CLUB ENOTECA NEWS」という会報誌を発行している(なお,会報誌のタイトルは変遷があり,2008年以降は「ENOTECA TIMES」となっている。)。同会報誌は,クラブエノテカの会員への郵送以外にも,請求人の店舗や卸先への配布,通販で商品を購入した客(発送箱に同梱)にも提供しており,その発行部数は,年々増加しており,現在では,年間あたり約200,000部に上る(甲10,甲11)。
請求人は,高級ブランドや著名人とのワインのイベントやセミナー等を店舗などで積極的かつ継続的に行っており,ワインの愛好家だけでなく,ワインへの関心をさらに広い範囲で高めるべく,イタリアの高級ファッションブランド「フェラガモ」とのコラボレーションイベントなど,需要者との接点を広げている。
さらに,請求人は,10年以上にわたり,自らの店舗のみならず,全国紙を含む新聞や雑誌を通じた宣伝広告活動を積極的に展開し,東京メトロ広尾駅構内への広告,インターネット上のバナー広告等,様々な広告媒体によって,年間相当程度の宣伝広告費(2013年3月期で約2億円)をかけて,ENOTECA標章を露出させており,これらの露出の拡大によって,請求人の商標は,現在,ワイン購入者だけでなく,幅広い年齢層の一般人にとっての認知度も上昇している。
請求人が行った広告の一部を証拠(甲12及び甲13は新聞広告,甲14及び甲15は雑誌広告,甲16は駅広告,甲17はインターネットのバナー広告である。)として提出する。
これらの活動により,請求人のエノテカブランドは,引用商標を含むENOTECA標章とともに,ワイン愛好家はもちろん,一般需要者にも広く認知されているところであり,請求人の店舗やブランドは,著名な新聞,雑誌といった全国規模での主要メディアに多数登場する。
例えば,日本を代表する経済紙である日本経済新聞では,請求人のビジネスを取り上げるもののほか,ワイン人気などのトレンドに言及する際に,エノテカのワインの売り上げの増減のデータを取り上げて,ワイン市場全体の傾向の例として取り扱う等,日本におけるワイン販売業者の代表として取り扱われるなどしている。また,雑誌では,エノテカの店舗や取り扱いワインにつき,クオリティーが高くハイセンスといったブランドイメージにて扱われ,中には「有名なワインショップ”ENOTECA(エノテカ)”」(甲181),「ご存知あのエノテカが・・・」(甲97),「日本のワインシーンをリードする存在,おいしいワインの代名詞『エノテカ』」。オンラインショップも大人気」(甲68)などと請求人のエノテカブランドについて言及するのもあるほどである。
このように,請求人のエノテカブランドの著名性の高さは,雑誌や新聞等の記事からも明らかである。請求人は,少なくとも20年以上にわたり,各種雑誌や新聞に紹介されているが,各種雑誌や新聞における紹介記事については,その数が非常に多いため,本件商標の出願前後の平成24年(2012年)及び平成25年(2013年)を中心に,請求人の事業が取り上げられている雑誌や新聞等の記事の一部を甲第18号証ないし甲第141号証として提出する。
これらのうち,甲第18号証ないし甲第76号証は,エノテカの店舗・ブランドの関連記事(甲18?甲31は新聞,甲32?甲76は雑誌)である。
甲第77号証ないし甲第89号証は,請求人が,2012年にゴルフのラウンド後を楽しむために「19番」と名付けられたワイン「19番レゼルブ・デュ・ゴルフ/シャトー・ラローディ」の販売を開始した際に(「19番」というワインは,18ホールからなるラウンド後を楽しむためのワインというユニークなコンセプトのワインであった。),ゴルフ雑誌を中心に,様々な雑誌等でENOTECA標章とともに多数紹介された記事である。
甲第90号証ないし甲第113号証は,請求人が2013年2月8日に銀座に開店したワインショップ・エノテカ銀座店が,1,000種類以上の品揃えと併設のカフェ&バー「エノテカ・ミレ」が注目を浴び,各種雑誌や新聞などで多数紹介された記事である。
甲第136号証ないし甲第139号証は,請求人のワインショップにはソムリエの資格を有する者やワインに造詣の深い者が勤務しており,その専門知識に基づき豊富な品揃え中から顧客のニーズに応じたワインのセレクトを提案しているところ,請求人のソムリエ等はワインショップ内サービスに留まらず,ワインショップエノテカのソムリエや店長として,おすすめワインを紹介するコーナー等に写真入りで登場していることを示す記事である。
上記甲第18号証ないし甲第113号証,甲第136号証ないし甲第139号証の新聞,雑誌等は,基本的に全国区のもので,幅広い読者層に人気の雑誌も多く含まれている。いずれの記事においても請求人の標章として「エノテカ」,「Enoteca」又は「ENOTECA」が使われており,請求人の事業及びそれと結びついた引用商標が,これらの新聞及び雑誌が対象とする幅広い読者層に対して,著名といえる程度にまで広く知られていることを表している。
加えて,請求人の事業がそのブランドイメージとともに読者に浸透しているからこそ,他のワイン業者ではなく,あえて請求人の店舗やコメントが取り上げられていたり,ワイン一般についての記事で請求人がワイン販売業界において代表的な存在であることが取り上げられているのであって,数多くの記事が,請求人のENOTECA標章が一般的に著名であることを示している。
また,請求人の特徴として,世界のワイナリーとの間で長年培われた深い絆があり,請求人は,請求人のみが取り扱うことができる海外の稀少ワインや高品質のワインを我が国に輸入し,請求人の企業努力により適正な価格で提供しているほか,ワイナリーのオーナーが来日した際にはオーナーを囲むテイスティングイベントを数多く主催して好評を博している。
上記を踏まえれば,引用商標及びその日本語表記「エノテカ」が,請求人のワイン販売事業を示すものとして著名であることは明らかである。
(イ)請求人による海外事業について
既述のとおり,請求人は,ボルドーやブルゴーニュを含むフランス各地はもちろんのこと,イタリア,チリ,アルゼンチン,カリフォルニア,スペイン,ポルトガル等,世界各地から多岐に亘る豊富なワインを輸入,販売している。
さらに,請求人は,2008年に初の海外店舗を香港に出店して以来,アジア地域を中心に,積極的に海外展開を進めている。請求人は,海外子会社として,エノテカ韓国株式会社を有するほか,現在,香港,中国,韓国,及びシンガポールに合計18店舗を構え,海外(特に東アジア)でも「ENOTECA」ブランドが広く浸透しているところである。請求人の海外での事業は,国内及び海外の雑誌等のメディアでも数多く取り上げられ,引用商標とともに国内及び世界中(特に東アジア)の需要者に幅広く認識されている。
本件商標の出願前後の平成24年(2012年)及び平成25年(2013年)において,請求人の海外関係の事業が取り上げられている雑誌や新聞等の記事の一部を甲第142号証ないし甲第150号証として提出する。
(ウ)請求人主催のイベント及び他事業との提携活動について
請求人は,ワインについて嗜好品イメージが強かった日本において,販売を伸ばし続けるために様々な取り組みをしてきた。例えば,テイスティングの体験イベントは,請求人にとって,ワインの重要な販促手段の一つであるが,自社で世界各地のワイナリーからのワインの買付・輸入・販売までを行っている日本では数少ない業者の一つとして,請求人が長年にわたる事業の結果築いた著名ワイナリーを含む世界各国のワイナリーとの深い関係を活かし,請求人は,海外ワイナリーのワインのテイスティングイベントや著名ワイナリーの経営者等が来日した際のイベント等を積極的に開催している(甲151)。
これにより,顧客の裾野は広がり,請求人の事業と引用商標は,ワイン愛好家はもとより,様々な範囲の需要者に著名となっている。
さらに,請求人は,高級ブランドや著名人とのワインのコラボレーションイベントやセミナー等を,自らの店舗などで積極的かつ継続的に行ってきており,自己のブランド力の高さと相まって,ワインの愛好家だけでなく,広い範囲の需要者との接点を持つに至っている(甲144,甲152?甲156)。
これらの露出の拡大によって,請求人の事業と引用商標については,ワイン購入者だけでなく,幅広い年齢層の一般人にとっての認知度も上昇している。
請求人の主たる事業はワインの小売であるが,カード会社,航空会社等のオンラインショップ,企業が運営する会員サイト,旅行会社,ジャズ,化粧品会社,花屋,百貨店,不動産会社,自動車会社,映画会社,美術関連など,多岐にわたる業種と提携し,社会の様々な層の人々へ,エノテカブランドの浸透を図るとともに,ワインの啓蒙活動を行ってきた。これらの提携,タイアップ,コラボレーションイベントにより,ワイン愛好家に留まらない様々な範囲の需要者にも請求人の事業が引用商標とともに知れ渡っているところである。
ウ 請求人による引用商標の保有の経緯
引用商標は,日本及び国際的に著名な優良企業である請求人会社の商号を構成するハウスマークであり,会社設立の1988年以来使用されてきたものである。
昭和63年(1988年)に請求人が設立された当時,イタリア語を語源とする「ENOTECA」「エノテカ」という名称を用いてワインの販売を行う者は,我が国には存在しておらず請求人の使用開始前は,「ENOTECA」「エノテカ」という語自体,日本において全くといってよいほど知られていなかった。請求人は,昭和63年に,ワイン販売事業に「ENOTECA」「エノテカ」商標を使用することに決め,商標調査を行ったところ,第三者が既に「Enoteca」という商標を,第19類,第20類及び第28類(当時)において,商標登録していることが判明し,請求人は年間24万円を支払って商標の使用許諾を得,その後,平成7年(1995年)に,当時の商標の譲渡価格としては破格の400万円もの対価を払って当該商標を取得した。当該使用許諾料及び譲渡対価に商標権の移転登録手続やサービスマークの登録手続も併せると,請求人が当該商標について支出した金額は600万円以上に上る。請求人がこのように多額の費用を支払って商標権を取得したのは,既に1995年当時において「ENOTECA」が請求人の営業を表すものとして著名となっており,確立されたブランド力を維持する必要性が高かったためである。
その後,請求人は,さらに,平成19年(2007年)に小売等役務商標制度が導入されると,直ちに引用商標1を出願し翌年には商標登録を行った。
また,請求人は,エノテカブランドの向上を経営の柱の一つとして取り組んでおり,無断で引用商標を使用する者に対しては速やかに警告書を送付して,ブランドの保護を図っている。
このように,請求人は,日本で「ENOTECA」,「エノテカ」が全く知られていない状況の中で,多額の費用をかけて「Enoteca」商標の使用権を取得して使用を開始し,長期にわたり引用商標を含むENOTECA標章の価値を守り抜いて,自らの力でエノテカブランドを作り上げたのである。
その結果,ワインに関する小売等役務において「エノテカ」の称呼を含む登録商標は,引用商標を含む請求人保有の登録商標のみとなっており,第三者による登録商標は本件商標を除いて,これまで認められていない(甲158)。
上記のような請求人による引用商標の登録状況及び使用からも,「ENOTECA」,「Enoteca」又は「エノテカ」といえば請求人を表すものとしてブランドイメージが確立しており,引用商標は,ワイン販売事業において需要者に幅広く認識されている。
エ 小括
以上より,引用商標1は,本件商標の登録出願時(平成24年12月13日)や登録査定時(平成25年7月29日)はもちろん,現在に至るまで,国内及び海外における請求人の業務に係るワインの小売等役務を表示するものとして,日本国内需要者にとって著名となっていたことが明らかである。
(2)本件商標と引用商標の類似性
ア 本件商標から生ずる外観,称呼及び観念
本件商標は「Enoteca」及び「Italiana」の文字からなるが,「Enoteca」と「Italiana」の文字は語頭のみが大文字で,二つの文字の間にはスペースがあることから,二つの文字が不可分的に結合しているものとは認められない。
本件商標の後半の「Italiana」の部分は,「イタリアの」という意味を有する形容詞であり,イタリアはワインの主要な産地であることから,出所識別標識としての機能を十分に発揮し得ない。ワインの産地は,ワインの購入に当たり重要な判断要素であり,需要者が本件商標に接した場合,「Italiana」の文字部分を産地に関する付随的表示として認識し,それよりも強く支配的な印象を与える「Enoteca」の文字部分に着目し当該部分をもって,その出所を認識するとみるのが相当である。
したがって,本件商標の構成中,「Enoteca」の文字部分こそが,取引者,需要者に対しサービスの出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり,「Italiana」の部分からは出所識別標識としての称呼,観念が生じないから,本件商標の要部は「Enoteca」の部分である。本件商標は,「Enoteca」の部分が要部であることを前提として,類否を判断すべきである。
そして,本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分は,語頭の「E」のみが大文字,その他の文字は小文字からなり,ワインレッドの色彩が付され,ややデザイン化されている。本件商標からは「Enoteca」の文字部分に相応して「エノテカ」の称呼が生じる。
また,本件商標に接した取引者・需要者は,「Enoteca」の文字部分から,請求人が運営するワインショップの名称「ENOTECA」及び「エノテカ」を直ちに連想・想起するとみるのが相当であるから,請求人のワインショップ「エノテカ」なる観念が生じる。
イ 引用商標の構成及び引用商標から生ずる外観,称呼及び観念
引用商標1及び2は全ての文字が大文字からなり,引用商標3は語頭の「E」の文字のみが大文字,その他の文字は小文字からなる。
引用商標は,その構成文字「ENOTECA」又は「Enoteca」に相応し,「エノテカ」の称呼が生じ,請求人の著名なワインショップ「エノテカ」の観念が生ずる。
ウ 本件商標と引用商標の対比
(ア)外観の対比
本件商標の要部である「Enoteca」の部分と引用商標3は,語頭のみが大文字でその他の文字は小文字であり,引用商標1及び2は全ての文字が大文字である。
本件商標が着色され,ややデザイン化された書体より構成されているというような相違はあるものの,引用商標とは「Enoteca」又は「ENOTECA」の綴りが同一であり,外観が近似する。
請求人は,本件商標は「Enoteca」を要部とするものと理解しているが,仮に,本件商標が構成上一体性を有することを前提に,本件商標全体と引用商標を対比した場合であっても,上述のとおり,本件商標は,請求人の著名商標である「ENOTECA」と近似した「Enoteca」の文字をその一部に含むものであるから,本件商標と引用商標は,類似する商標である。
まず,商標審査基準では,周知・著名商標を保護するため,他人の周知ないし著名商標を含む商標は(その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め),ごく例外的な場合を除き,「原則として,その他人の登録商標と類似する」ものとして,取り扱うべきである旨の基準が示されている(「商標審査基準」第3の九(商標法第4条第1項第11号関係)の6(6)参照。)。例外とされるのは,既成の語の一部として言葉自体全く別の意味が生じているようなケースであり,「極例外」であると解されている。
本件において,本件商標は,他人(請求人)の著名な商標である「Enoteca」と他の語「Italiana」(上記のとおり,「Italiana」は出所識別標識としての機能を果たし得ない文字である。)を結合した商標であるから,引用商標に類似するものとして取り扱うのが商標審査基準の趣旨に沿うものである。
本件商標中の「Enoteca」の部分は,請求人の著名商標である「ENOTECA」と近似し,かつ,「Italiana」は,出所識別機能が極めて弱い言葉であることからすれば,本件商標に接した需要者は,本件商標の前半に位置し,著名商標に近似する「Enoteca」の部分に着目して取引に資することは経験上明らかである。よって,本件商標と引用商標は,外観上相紛らわしい印象を与えるものである。
(イ)称呼の対比
本件商標からは「エノテカイタリアーナ」という称呼が生ずるが,同称呼は一連に称呼するには冗長であり,「エノテカ」と「イタリアーナ」に分離して称呼される。簡易迅速を尊ぶ商取引においては,ワインの産地などを意味する「イタリアーナ」の部分を省略し,業界で相当程度知られている「エノテカ」の称呼により取引に使用されるとするのが極めて自然であるから,本件商標及び引用商標からは同一の称呼が生じる。
(ウ)観念の対比
本件商標中の「Enoteca」の部分が請求人の著名商標「ENOTECA(エノテカ)」に近似し,「Italiana」はワインの産地でありかつ海外の国名でもある「イタリア」を意味するから,本件商標から「ワインショップエノテカのイタリアワインに特化した店舗」又はイタリアワインに留まらない意味で「エノテカのイタリア関連店舗に関する名称」あるいは単に「ワインショップエノテカ」といった意味合いが想起される。上記のとおり,本件商標及び引用商標からは「ワインショップエノテカ」が連想されるから,本件商標と引用商標とは,観念上も相紛らわしい商標であるといわざるを得ない。
エ 小括
結局,本件商標と引用商標とは,「Enoteca」の部分を要部として対比しても,「Enoteca Italiana」全体で対比しても,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似する商標である。
(3)本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務との対比
ア 引用商標1の指定役務との関係
引用商標1の指定役務「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,本件商標の指定役務「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と同一の役務であり,本件商標の指定役務「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を包含するので,引用商標1の指定役務と上記本件商標の指定役務は同一の役務であるといえる。
引用商標1の指定役務「台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,本件商標の指定役務「ワイングラスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」,「陶器製の食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び「ガラス製食器類小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を包含するので,引用商標1の指定役務と上記本件商標の指定役務は同一の役務であるといえる。
引用商標1の指定役務「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と本件商標の指定役務「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は同一の役務である。
イ 引用商標2の指定商品との関係
引用商標2の指定商品「布製身の回り品」と本件商標の指定役務「タオル及びハンカチの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」には同一の類似群コード(17B01)が付与されており,また「被服」と本件商標の指定役務「エプロンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」にも同一の類似群コード(17A04)が付与されているので,引用商標2の指定商品と上記本件商標の指定役務は互いに類似すると推定される。
ウ 引用商標3の指定商品との関係
引用商標3の指定商品「酒類」と本件商標の指定役務「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」には同一の類似群コード(28A01,28A02,28A03,28A04)が付与されており,引用商標3の指定商品と上記本件商標の指定役務は互いに類似すると推定される。
上述のとおり,本件商標の指定役務は全て,引用商標1の指定役務と同一,引用商標2又は3の指定商品と類似であると推定される。
(4)小括 上記のとおり,本件商標と引用商標は,互いに類似する商標であり,本件商標の指定役務は引用商標の指定商品及び指定役務のいずれかと抵触するから,本件商標は,引用商標との関係において,商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の著名性
引用商標の著名性については,上記1(1)のとおりである。すなわち,請求人の事業については,以下アないしエの点が認められ,各種新聞や雑誌にも広く取り上げられているとおり,引用商標は,ワイン愛好家の範囲を超えて,広く老若男女の間に,ワインの小売のみならず,幅広い分野で請求人を表すものとして著名となっている。
ア 1989年9月に港区広尾に旗艦店であるワインショップ「ENOTECA」(エノテカ)広尾本店とレストラン&ワインラウンジ「ENOTECA」(エノテカ)を開店して以来,国内直営店舗とインターネット販売,海外拠点を通じて,継続的かつ精力的に国内での幅広い事業展開を拡大し,著名性を獲得していること。
イ 海外では18拠点を有し,各国ワイナリーとの取引関係により,「日本で有名なエノテカ」などと海外においても高く評価されていること。
ウ テイスティングやワイナリー関係者来日の際のイベントを行っていること。
エ ワインを通じたカード会社,インターネット通販,旅行会社,音楽業界,化粧品会社,花屋,百貨店,不動産会社,映画会社,料理教室,美術関連など多岐に亘る業態との提携を行っていること。
特に,他業態との提携に関しては,請求人は「エノテカ」のブランド力向上の観点から,厳選しつつも幅広い業種との間で行っているところであり,ワイン関係のイベントと併せ,顧客の裾野を広げるとともに,ワイン愛好家に留まらない様々な範囲の需要者にも請求人の事業を引用商標とともに周知させることに大きな役割を果たしている。
例えば,請求人は,カード会社,航空会社,インターネット通販,各企業のウェブサイトの運営者,旅行会社,音楽業界,化粧品業界,花屋,百貨店,不動産会社,百貨店,料理教室等との提携,タイアップ,あるいはコラボレーションを行っており,多方面の業種にわたり,幅広い需要者層の間にENOTECA標章が請求人のものとして認識されている(甲159?甲193)。
(2)他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ
ア 商標の類似性の程度
本件商標は「Enoteca」とワインの産地として知られる「イタリア」の形容詞的表示である「Italiana」とからなる。この点,前記1(2)アで述べたとおり,「Italiana」は専ら産地表示としての意味に留まり,出所識別標識として機能するのは専ら「Enoteca」であると考えられる。そして,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,本件商標は,より強く支配的な印象を与える「Enoteca」のみによって簡略に標記ないし呼称される可能性が十分に存在する。
一方,前記(1)のとおり,「ENOTECA」は請求人を示すものとして著名である。
したがって,本件商標を,特にワイン関係の事業において使用した場合は,「Enoteca Italiana」のみならず,「エノテカ」という称呼・観念が生じるのであり,その場合には,請求人を示すものとして著名な「ENOTECA」と類似性を有するものということができる。
イ 引用商標の著名性
前記1(1)ウのとおり,「ENOTECA」の表示は,請求人が商標を採択した当時,日本において特定の意味合いを有する言葉であると認識されていなかったイタリア語の「Enoteca」にちなんで,請求人の商号として採択したものであり,ワイン販売に関する一般名称ではない。
引用商標は,日本及び国際的に著名な優良企業である請求人会社の商号を構成するハウスマークであり,1988年以来使用されてきたものである。
さらに,前記1(1)のとおり,引用商標1は,本件商標の出願時や登録査定時はもちろん,現在に至るまで,請求人の業務に係るワインの小売等役務を表示するものとして,日本国内外において著名となっていたことが明らかである。
ウ 役務の関連性
前記1(3)のとおり,本件商標の指定役務は全て,引用商標1の指定役務と同一であり,引用商標2及び3の指定商品と類似であると推定される。特に,本件商標の指定役務には「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれ,請求人の役務として著名である「ワインの小売」を包含するものである。また,ワインショップでは,ワインのつまみとなる食材や,ワイングラス,デキャンタ,ワインオープナー等のワインに関連する商品を販売することもある。ちなみに,請求人の広尾本店では,はちみつ,調味料,オリーブオイル,チーズ及びハムなどの食料品,ワイングラス,ワインオープナー及びワインストッパーなどの食器・台所用品,ワイン携帯用袋が販売されている。よって,本件商標の指定役務は,請求人の提供する役務と取引者及び需要者が共通する。
エ 本件商標の使用態様と取引の実情
本件商標の指定役務中「酒類の小売り」は,請求人の役務として著名である「ワインの小売」を包含するものである。よって,同役務と請求人の業務との間で混同を生ずるのは必定であり,ここでは酒類の小売り以外の役務の取引の実情について述べる。
本件商標の「酒類の小売り」以外の指定役務については,食料品や台所用品・食器といった一般的に消費される性質の商品に係る便益の提供であることや,その需要者が必ずしも特別な専門的知識経験を有しない一般人であることからすると,これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものでない。さらに,上述したように,食料品にはワインのつまみとなる「チーズ」等,台所用品・食器には,「ワイングラス,デキャンタ,ワインオープナー」などワインに関連する商品も含まれている。
本件商標の指定役務につき上記のような本件商標の使用態様及び需要者の注意力の程度に照らすと,上記ウのとおり,本件商標の指定役務が請求人の提供する役務と取引者及び需要者が共通することも踏まえれば,本件商標がその指定役務に使用された場合,これに接した需要者は,請求人の商標として著名な「ENOTECA」の表示を連想する可能性が非常に高い。
オ 請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあること
上記アないしエを総合的に判断すれば,本件商標を指定役務に使用した場合は,これに接した取引者及び需要者に対し,請求人使用に係る「ENOTECA」の表示を連想させて,当該役務が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信されるおそれがある。
なお,需要者が当該役務が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係があるとは思わないまでも,請求人が多岐に亘る業態と提携,タイアップあるいはコラボレーションしていることを考慮に入れれば,需要者が何らかの形で請求人が関与しているのでないかと役務の出所につき混同を生じさせるとともに,請求人の表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。
さらに,本件商標は,請求人の著名商標である「Enoteca」とワインの産地として知られる「イタリア」の形容詞「Italiana」からなるところ,請求人は,前記1(1)イ(ア)のとおり,ボルドーやブルゴーニュを含むフランス各地はもちろんのこと,イタリア,チリ,アルゼンチン,カリフォルニア,スペイン,ポルトガル等,世界各地から多岐に亘る豊富なワインを輸入,販売している。当然,イタリアのワインについても,請求人は,重要な産地の商品と位置付けているほか,さらにイタリアの高級車アルファロメオの販売店においてイタリアの高級ファッションブランド「フェラガモ」とのコラボレーションイベントを行うなど,請求人には特にイタリアという地名との関連性も高い。
このため,本件商標に接した需要者は,請求人が新たにイタリアワインに特化した店舗あるいはイタリアワインに注目した店舗などイタリア関連のワインショップ「エノテカ」を開設したのではないかと,その役務の出所につき混同を生ずるおそれがある。
また,上記のとおり,請求人が海外において店舗を多数出店していることからすると,「エノテカ」と「イタリア」との組み合わせによって,イタリアワインに留まらない意味で請求人のイタリア関連店舗に関する名称であるとの誤解も生じうる。
いずれにしても,請求人のENOTECA標章の多方面での使用の結果,本件商標がワインの小売り以外の業務において使用された場合にさえ誤認混同を生ずることが充分あるところ,本件商標は,まさに請求人の主たる業務であるワインの小売りにおける登録商標であり,混同のおそれが生ずることは必至である。
よって,本件商標は,請求人の業務に係る商品・役務と関連を有するとの誤認を生じうるものである。
そうすると,本件商標は,商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たることが明らかである。
(3)小括
以上より,仮に,本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しないとしても,引用商標1は,請求人の業務に係る小売等役務を表示するものとして,本件商標の出願時(平成24年(2012年)12月13日)や登録査定時(平成25年(2013年)7月29日)はもちろん,現在に至るまで,需要者に著名な商標であり,本件商標がその指定役務に使用される場合には,取引者及び需要者としては,請求人の役務と何らかの関係があるとの誤認を招き,その出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
被請求人は,本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性を否定する理由として,「つつみのおひなっこや」最高裁判決の基準に言及した上,「ENOTECA」「Enoteca」の用語が普通名詞であり「『Enoteca Italiana』は『Enoteca』が『Italiana』と比べて日本の需要者に対し強く支配的な印象を与えるとは認められず,Italianaには充分に出所識別機能が生じます」,「Enotecaのみを抽出し,この部分のみを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,許されない」と主張する。
しかしながら,日本において「ENOTECA」「Enoteca」は普通名詞として需要者に認識されているものではなく,被請求人の主張は成り立たない。被請求人は,「ENOTECA」「Enoteca」の用語が普通名詞であるとの主張の根拠として,伊和中辞典などの辞書類(乙2,乙3),ガイドブックの記載(乙4?乙6)を指摘するが,イタリア語の辞書に記載があることは,本件商標がイタリア語を語源とする性質上当然であり,イタリア語辞典に載っているからといって,日本において普通名詞として認識されており,識別力を欠くとはいえない。また,ガイドブックへの掲載状況については,いずれもイタリア観光のガイドブックであり,イタリア本国における状況を紹介するものにすぎず,日本における状況については何ら説明するものではない。すなわち,イタリア語辞典やイタリア観光ガイドブックの記載は,日本における商標使用の状況を表すものではないのである。むしろ,日本においては需要者にとって,「エノテカ」の用語がイタリア語では,特定の店舗形態を表示するものであることに馴染みがないからこそ,イタリア語におけるその語義を解説しているともいえる。よって,仮に結合商標としての一体性を考慮したとしても,Enotecaの部分にItalianaに比べて強い識別力があると考えられる。
また,被請求人は,日本で「イタリアの」という場合は,「イタリアン」「イタリー」が通常であると主張するが,「Italia」という地名の著名性から「Italiana」に接した需要者が「イタリアの」「イタリア的」などイタリアに関連する何らかの観念をもつことは間違いない。例えば,イタリアーナを含む「〇〇イタリアーナ」という商標は,イタリア料理の店舗に多く使用されており,登録商標の指定商品・指定役務は「イタリア料理の提供」や「イタリア料理を主とする飲食物の提供」などと限定されているものが多い(甲194)。これらから見るに「イタリアーナ」は「イタリアの」とほぼ同義で使用されている。
このため,被請求人が主張する「エノテカ」と「イタリアーナ」を比較したときに,イタリアーナ部分が識別力を有するのだ,という理屈は成り立たない。以上から,「Enoteca Italiana」が「Enoteca」と「Italiana」を結合させたもので,「Italiana」に識別力があるとの被請求人の反論は全く的外れである。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
被請求人は,商標法第4条第1項第15号に該当しない理由として,商標審査基準の5つの要素を挙げて「出所の混同が生じない」と主張する。しかし,被請求人の主張は,商標審査基準が考慮する要素を全く考慮しておらず,請求人の主張に対する反論になっていない。特に,(ア)商標の周知度,(ウ)ハウスマークであること,(エ)多角経営の可能性,(オ)商品役務等の類似性について,被請求人の主張は意味不明で失当である。
まず,「(ア)商標の周知度」について,被請求人は,エノテカがイタリア語で普通名詞であることや,ガイドブック等で普通名詞として使用されていること,さらに,「エノテカはワインの展示・販売・試飲・つまみ・の提供などのサービスを一体的に行う店舗の形態,すなわち『トラットリア』や『リストランテ』『ピッツェリア』『カフェ』『バール』などと区別され,並列される店の種類を表す言葉として,日本の需要者に相当程度,認識されているものと思われます。」と主張する。
しかしながら,商標法第3条第2項にもあるとおり,当該商標が店の種類を表す用語に由来することと,それが使用された結果としての周知性の有無の問題は全く別間題である。
よって,「エノテカ」の用語の性質を理由に請求人の商標の周知性を否定する点でそもそも失当である。
また,「(ウ)ハウスマークであること」について,被請求人は「請求人の引用商標のエノテカ(EnotecaないしENOTECA)は,ハウスマークであるとは言えません」と主張する。
しかしながら,請求人の商標が著名なハウスマークであることは,既に請求書で主張したとおりである。
さらに,商標法第4条第1項第15号は著名な商標の保護のため,「他人との間に親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させる,いわゆる広義の混同も含まれるとされている」のである。
商標審査基準の「(エ)多角経営の可能性」「(オ)商品役務等の類似性」は,双方が異なる指定商品・役務の間で使用された場合でさえ,混同のおそれが認められる場合があることを認めるものであって,本件のように同じ指定商品・役務内では,同法第4条第1項第15号該当性を否定する議論にそもそもなり得ないものである。
以上より,被請求人の答弁書の主張はいずれも失当である。
(3)「本件商標権利者(被請求人)について」の主張について
被請求人は,同人のイタリアやフランスにおける受賞歴に言及し,さらには,「日本食の文化を代表する寿司屋,鰻屋,蕎麦屋,天ぷら屋などを例にとれば,もし日本の伝統的な食文化を体現するこれらの店が海外に進出するに際して,寿司屋,鰻屋,蕎麦屋,天ぷら屋という店の種類を表す言葉が,既に海外で第三者に登録されていたことにより,自らの歴史と愛着のある名称で事業を営むことができないとすれば,それは悲しむべきことである」「日本とイタリアの国際関係における平等と公平性の観点からごく自然のことと思われます。」などと主張する。
しかしながら,本件は,アジアにおいて問題となっているいわゆる「悪意の商標出願」の問題ではない。請求人は,請求書でも既に主張,立証しているとおり,日本においてワインがまだ珍しかった時代から,日本におけるワイン普及のために尽くし,ワイン文化の発展のために貢献してきた者である。請求人が,多額の費用をかけて「Enoteca」商標の使用権を獲得し,長年にわたって引用商標を含むENOTECA標章の価値を守り抜いて,自らの力でエノテカブランドを作り上げてきた結果,ENOTECA標章は請求人を表すブランド名として有名になっているのであり,ENOTECA標章は,日本の需要者にとって,単に小売りに関する普通名称を示すものとしては認識されていない。
また,請求人は,アジア各国及び英国・フランスなど13か国において,「ENOTECA」の商標登録を受けている(甲157の1?13)。
請求人は,普通名称について悪意をもって登録するべく,ENOTECA標章を商標登録したものでは全くない。むしろ,請求人のこれまでの努力によってこそ,日本においてワインを愛する需要者が増え,日本におけるワイン文化が定着したのであり,ENOTECA標章は,日本の需要者にとって,請求人を示すブランド名として広く認識されている。請求人が積み重ねてきた努力によって,日本のワイン市場が発展してきたからこそ,被請求人のように,海外から新たに日本の需要者に向けてワインを供給しようとするビジネスが増えているのであり,むしろ請求人こそが,日本においては,イベントや他業種との提携活動などを通じてワインについての情報を発信し続けており,被請求人の主張するような,イタリアの食文化の普及に貢献している者である。
被請求人は,被請求人とイタリアのソムリエ協会との関係や,ワインに関する受賞歴等を縷々述べるが,被請求人はワイン販売事業に関わる一私人にすぎないのであって,被請求人の商標が無効理由を有する以上は登録を無効にすべきである。被請求人の主張は,商標法第4条第1項第11号及び同第15号該当性の判断に何ら関係ない主張であって失当である。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同第15号の規定に違反して登録されたものであるから,商標法第46条第1項の規定により,その登録を無効にすべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負祖とする,との審決を求め,審判事件答弁書及び審判事件上申書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第30号証(枝番を含む。なお,審判事件上申書で証拠として提出された,「乙第1号証ないし乙第4号証」は,審判事件答弁書と番号が重複しているため,これらを「乙第27号証ないし乙第30号証」とする。)を提出している。
1 本件商標権者及び本件商標について
(1)本件商標権者(被請求人)のうちの「エノテカイタリアーナ エス.アール.エル.」(以下「エノテカイタリアーナ」という。)は,イタリア共和国・ボローニャ市において1972年の創業から現在まで42年に渡り営業している。これは請求人が設立された1988年よりも16年も前のことであり,当時から現在も変わらず「エノテカイタリアーナ」の名称で営業している。
イタリアにおいては,2002年11月29日に商標出願し,これが商標として認められ,2006年6月7日に登録が認められている(乙17の15)。
(2)エノテカイタリアーナは,日本における本件商標の共同権利者である「櫻井芙紗子」と共に,現在,日本の支店として日本語のオンラインショップを準備中である。それに先立ち,2013年1月24日から27日の4日間と,同年5月4日から5日の2日間,港区と高輪メリーロード商店街の協力で,エノテカイタリアーナのイベントを実施し,看板,名刺,チラシ,ポスター,ワイングラスのロゴ刻印で本件商標を既に使用している。
(3)本件商標の著名性として,エノテカイタリアーナはイタリアで最も権威のあるオスカー・デル・ヴィーノ(ワインのオスカー賞)で,2002年のイタリア最優秀エノテカ賞(ミリオーレ・エノテカリオ)を受賞している(乙18)。このオスカー・デル・ヴィーノ賞については,日本においてもソムリエの林基就氏が日本人としてはじめて2012年に最優秀ソムリエ賞を受賞したことにより,日本での認知度も相当高まった(乙19)。そのため,今後はエノテカイタリアーナは日本においても,オスカー賞の最優秀エノテカ賞受賞の店として,次第に高まっていくと思われる。
その最初の兆候として,料理本出版社の柴田書店の「はじめてのイタリアワイン 海のワイン山のワイン」にエノテカイタリアーナのボローニャ本店の店内の写真が掲載されており,中央でワインを注ぐ男性がエノテカイタリアーナの本店の共同経営者のクラウディオ・カヴァレリ氏である(乙24)。
2002年のオスカー賞に続いて2005年には,世界的に有名なシャンパーニュのメゾン,ローラン・ペリエ共催の「世界最優秀個人経営ワインショップ(Milleur Caviste Du Monde)」で世界第3位に入賞した(乙21?乙23)。
二つの受賞からいえることは,エノテカイタリアーナはイタリア国内で数あるエノテカの中でも,最も優れたエノテカのひとつであることが公に認められており,その実力と専門家からの評価は,イタリア国内にとどまらず,フランスで開催された世界レベルのコンペティションでも上位に入賞したことにより証明されている(乙18,乙19,乙21?乙23)。
(4)エノテカイタリアーナの創業者で現在も経営者のマルコ・ナネッティは,イタリアソムリエ協会(AIS)のエミリア・ロマーニャ支部長などの要職を10年以上にわたり歴任し,その後,2006年から現在まで,ボローニャの新聞(創刊1880年の歴史ある新聞「Il Resto del Carlino」)に毎週ワイン記事のコラム欄を持っており,イタリアの食とワインの文化について独自の視点で毎週記事を書き,情報発信して(乙20の1),顧客へのワインの提供のクオリティーを常にトップレベルに維持管理することと,イタリア発祥の本場のエノテカのいわば文化を,地元の熱心なファンと,世界中から訪れるビジネス客や観光客や留学生(その中には日本人も当然含まれる。)に対しても平等に伝える役目を果たしている。
(5)翻って,本件商標でいま起こされている事件について,イタリアの本件商標権者である被請求人は困惑している。その理由は例えるならば,本件事件と逆のケースを考えてみれば理解が可能である。すなわち,日本食の文化を代表する寿司屋,鰻屋,蕎麦屋,天ぷら屋などを例にとれば,もし日本の伝統的な食文化を体現するこれらの店が海外に進出するに際して,寿司屋,鰻屋,蕎麦屋,天ぷら屋という店の種類を表す言葉が既に海外の第三者に商標登録されていたことにより,自らの歴史と愛着のある名称で事業を営むことができないとすれば,それは悲しむべきことであり,日本の食文化そのものが軽んじられたという印象を相手国に抱かざるを得ない。仮に寿司屋,鰻屋,天ぷら屋,蕎麦屋という言葉が海外で商標登録された時点で現地ではほとんど知られていなかったとしても,道義上は許されるべきではないと思われる。そして不幸にも,もしそのような事態が発生している場合には,自国の文化が海外でも,より良く理解されるために状況が改善されるように行動を起こすことは,ごく自然なことと思われる。
日本は欧米とならぶ先進国のひとつとして知的財産に関する数々の国際条約に加盟している現在,日本の食文化に関する知的財産を尊重することを世界の国々に希求するのと同様に,イタリアを含めた世界の食文化が日本に入ってくる場合についても,相手国の文化に関する知的財産が保護され,尊重され,調和が図られるように互いに努力していくことは,日本とイタリアの国際関係における平等と公平性の観点からごく当然のことと思われる。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)請求人は,本件商標の一部のみを抽出して引用商標と比較しているが,本件商標は一つのまとまりを持った一体の商標である。分離判断できる場合とは,いかなる場合かを考えるにあたり,日本での分離判断の基準を示した法的根拠に,「つつみのおひなっこや」事件がある(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁)(乙1の4)。
(2)「エノテカ(EnotecaないしENOTECA)」の言葉について
引用商標は,いずれも「エノテカ」と発音する。「エノテカ」(enoteca)は,イタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」などの意味を持つ普通名詞である(乙2の2)。
「エノテカ」という言葉は,ワインの展示・販売・試飲・つまみの提供などのサービスを一体的に行う店舗の種類を表す普通名詞として,日本語のガイドブック等でも繰り返し使われている(乙2の2,乙3の2,乙4の5,乙5の2,乙6の2及び3,乙10の4,乙15の3,乙16の2)。
エノテカにはさまざまな特徴を持った店舗があり,それぞれの店のサービス内容に良し悪しがあることから,数あるエノテカのどの店を選ぶべきかを判断するために必要な情報が日本の需要者向けに日本語のガイドブック等で詳しく解説されている(乙4の2及び3,乙7の2?4,乙8の2?4,乙9の2?4,乙10の4)。
エノテカをいつ,どのような目的で利用するか,土産物の購入や軽食などエノテカの楽しみ方について日本の需要者のニーズに応えるための情報が日本語のガイドブックで数多く紹介されている(乙7の4及び5,乙8の2及び4,乙9の2及び4?6,乙10の3及び4)。
以上の実情を踏まえれば,「エノテカ(EnotecaないしENOTECA)」という言葉は,需要者の間で店の種類ないし性格を意味する一般名称として相当程度認識されているものと確信する。また,「エノテカ」という言葉を使わずに,店の種類や性格を説明するのはもはや困難な状況であると思われる。
したがって,日本の需要者が「エノテカ」という言葉に接したときに,請求人の引用商標を含めた特定の企業名のみを想起するとは認められない。
エノテカは,ワインの展示・販売・試飲・つまみの提供などのサービスを行う店の種類を表す普通名詞として相当程度認識されており,仮に需要者が「エノテカ・ボナッテイEnoteca Bonatti」,「エノテカ・アレッシEnoteca Alessi」,「エノテカ・ペルバッコEnoteca Perbacco」等の店舗名(乙4の3,乙7の4,乙8の2)に接したとしても,「エノテカ」の部分が需要者に強く支配的な印象を与えることはなく,エノテカの店舗形態をとる数ある店のひとつであると判断するのが自然である。したがって,請求人の引用商標と混同することもない。
(3)本件商標について
本件商標の「Enoteca Italiana」(エノテカイタリアーナ)についても,上記同様に,「Enoteca」の部分が日本の需要者に強く支配的な印象を与えるものとは認められない。
請求人は,本件商標中の「Italiana」について「イタリアの」を意味する形容詞であり,出所識別機能を持たないと主張しているが,日本の需要者が「イタリアの」を意味する際に通常使う言葉は,広辞苑や大辞泉など日本の辞典によれば「イタリアン」または「イタリー」である(乙12の2,乙13の2,乙14の2)。
そのため,「Italiana」(イタリアーナ)は,日本語で日常的に使われる言葉であるとまではいえず,充分に出所識別機能を有する。
すなわち,本件商標は,「Enoteca」が「Italiana」と比べて日本の需要者に対し強く支配的な印象を与えるとは認められず,「Italiana」には充分に出所識別機能が生ずる。
したがって,「Enoteca Italiana」から「Enoteca」のみを抽出し,この部分のみを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,許されないというべきである(前掲最高裁判決)。
(4)本件商標と引用商標との類否
以上の理由により,本件商標は,「Enoteca Italiana」が一体となった商標として扱われるべきであり,一連不可分の商標であるから,引用商標と称呼,外観及び観念のいずれにおいても類似しない。
念のため,本件商標と引用商標のそれぞれの称呼,外観及び観念を次のとおり述べる。
ア 称呼
本件商標は,「エノテカイタリアーナ」と発音され,格別冗長である語ではなく,全体がまとまりよく表記されていることから,それ一体で一つの商標として認識される。そのため本件商標からは,「エノテカイタリアーナ」のみの称呼を生じる。
一方,引用商標は「エノテカ」と発音される。本件商標の「エノテカイタリアーナ」の称呼が10音であるのに対し,引用商標の「エノテカ」の称呼は4音である。両商標を比較したとき,その称呼は著しく異なるため,互いに相紛れることはない。
したがって,本件商標と引用商標を実際に称呼した場合,相違音が明確に聴別され,本件商標と引用商標とは,その称呼において類似ではない。
イ 外観
本件商標と引用商標とは,文字数及び書体において明らかに異なる。本件商標は,「Enoteca Italiana」の文字を特徴的な角張った書体にて表してなるクラシックな風格を感じさせる高級感のある印象を与えるロゴマークであり,全体の色彩をワインレッドで統一し,格別冗長である語ではなく,まとまりよく表記されていることから,それ一体で一つの商標として認識される。
一方,引用商標は,「ENOTECA」をゴシック調の書体にて表してなるシンプルでモダンな印象を与える商標である。
したがって,本件商標と引用商標とは,その外観が著しく異なり,外観において類似するものではない。
ウ 観念
本件商標は,イタリアのワインを主体とした酒蔵,ワインバーを暗示させた造語である。
一方,引用商標の「ENOTECA」ないし「Enoteca」は,イタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」程度の意味をもつ普通名詞であるため(乙2の2),「ワインを主体にしたレストラン,ワイン酒蔵,ワイン展示館」程度の観念を生ずる。
したがって,本件商標と引用商標とは,その観念において類似するものではない。
(5)小括
以上により,本件商標は,引用商標と称呼,外観及び観念において類似するものではなく,商標法第4条第1項第11号には該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)「商標審査基準[改訂第10版]」によれば,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断にあたっては,(ア)その他人の商標の周知度(広告,宣伝等の程度又は普及度),(イ)その他人の標章が創造標章であるかどうか,(ウ)その他人の標章がハウスマークであるかどうか,(エ)企業における多角経営の可能性,(オ)商品間,役務間又は商品と役務間の関連性,等を総合的に考慮するものとするとされる。
そこで,以下,引用商標について上記(ア)ないし(オ)について述べる。
ア 商標の周知度(広告,宣伝等の程度又は普及度)について
前述のとおり,「エノテカ」はイタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」程度の意味を持つ普通名詞であり,「エノテカ」という言葉は,日本においても,一般の書店で普通に入手可能な日本語のガイドブック等で,普通名詞として繰り返し使われている。
また,エノテカは,ワインの展示・販売・試飲・つまみの提供などのサービスを一体的に行う店舗の形態,すなわち「トラットリア」や「リストランテ」,「ピッツェリア」,「カフェ」,「バール」などと区別され,並列される店の種類を表す言葉として日本の需要者に相当程度,認識されているものと思われる。
そのため,請求人の引用商標には周知性があるとは認められず,日本の需要者が「エノテカ」という言葉に接したときに,請求人の引用商標ないし企業名のみを想起するとはいえない。
イ 創造標章であるかどうか
上記アで述べたとおり,「エノテカ」は,イタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」程度の意味を持つ普通名詞であり,日本でも,一般の書店で普通に入手可能な日本語のガイドブックなどで,「エノテカ」は普通名詞として繰り返し使われているため,請求人の引用商標は,創造標章であるとは認められない。
ウ ハウスマークであるかどうか
上記ア及びイで述べたとおり,「エノテカ」はイタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」程度の意味を持つ普通名詞であり,日本でも,一般の書店で普通に入手可能な日本語のガイドブックなどで,「エノテカ」は普通名詞として使われている。「エノテカ」はワインの展示・販売・試飲・つまみの提供などのサービスを一体的に行う店舗の形態ないし種類を表す言葉として日本の需要者に相当程度,認識されているものと思われる。
このため,請求人の引用商標は,ハウスマークであるとはいえない。
エ 企業における多角経営の可能性
上記アないしウで述べたとおり,「エノテカ」は,イタリア語の普通名詞であり,日本でも,日本語のガイドブックなどで普通名詞として繰り返し使われている。
仮に,需要者が前述の「エノテカ・ボナッテイEnoteca Bonatti」や「エノテカ・アレッシEnotecaAlessi」,「エノテカ・ペルバッコEnoteca Perbacco」等の店舗名に接したとしても,「エノテカ」の部分が需要者に強く支配的な印象を与えることはなく,エノテカの店舗形態をとる数ある店のひとつであると判断するのが自然である。
このため,日本の需要者が本件商標に接した場合にも同様に,請求人の企業の多角経営の可能性について想起するとは認められない。
また,請求人は「請求人による引用商標の保有の経緯」の項において「海外においても,1999年より『ENOTECA』等の商標登録を進めており,現在,アジア各国及び英国・フランスの合計13か国において,『ENOTECA』の商標登録がされている。」と主張しているが,エノテカの語源でもありエノテカの本家本元のイタリアにおいては,請求人の引用商標「ENOTECA」ないし「Enoteca」の商標登録は,1999年9月24日に申請するも,登録番号と登録日が記載されておらず,現在も認められていない(乙17の8,乙17の48,乙17の49)。「エノテカ」は,イタリア語で「ワインを主体とした酒屋,レストラン,ワイン酒蔵,ワイン展示館」等の意味の普通名詞であり,日本語の普通名詞の「酒屋」や「酒販店」が,それのみでは商標登録できないのに等しいためである。
イタリア特許商標庁のデータベースで検索すると,商標のデータベース化が始まった1980年1月1日から2014年7月11日現在までの間で「Enoteca」又は「ENOTECA」の語を含む商標が232件登録されており(乙17),本件商標の「Enoteca Italiana」も2002年にイタリアでの商標登録が認められている(乙17の15)。
しかし,この232件の中に「Enoteca」又は「ENOTECA」のみで商標登録が認められている商標は,請求人の引用商標も含めて,ひとつもない(乙17)。すなわち,現在までに登録されている232件の商標は,すべて「ENOTECA」と別の言葉が一体となった商標である。これは,「Enoteca」又は「ENOTECA」の語のみでは出所識別機能が無いことを証明している。
つまり,これらの登録商標が意味することは,「Enoteca」又は「ENOTECA」の語のみでは意味を成さず,他の言葉と一体となって初めて自他の識別機能を生じ,店舗の名称として成立するということである。
このことからも,本件商標は一連不可分の商標であると認められる。
また,登録されている232件のエノテカの商標のほかにも「小さな町の目抜き通りには,必ずバールもしくはエノテカがある。」(乙6の2)と説明されているとおり,商標登録されていない店であっても「Enoteca」又は「ENOTECA」と他の言葉が一連一体となった名称を使用している店は相当数にのぼると思われる。
ワインやイタリア料理に関心のある日本の需要者がガイドブックや実際の旅行やメディアなどを通じて,「エノテカ」とつく店の名称に接し,エノテカが店の種類や性格を表す意味であることを相当程度認識していることは,これまでの日本語のガイドブック等の証拠例で述べたとおりである。
したがって,日本の需要者が本件商標に接した場合に,請求人の引用商標を含めた特定の企業の多角経営の可能性についてただちに想起するとはいえない。
オ 商品間,役務間又は商品と役務間の関連性
上記アないしエで述べたとおり,「エノテカ」はイタリア語の普通名詞であり,日本でも,普通名詞として使われているため,日本の需要者が本件商標に接したときに,商品間,役務間又は商品と役務間いずれにおいても請求人の企業名と関連があると想起するとは認められない。
(2)以上の理由により,本件商標は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当せず,引用商標と出所の混同を生じるおそれはないものと確信する。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断
1 「ENOTECA」又は「エノテカ」の文字について
「ENOTECA」又は「エノテカ」の文字は,以下に示すとおり,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広く認識された商標であると認めることができる。
請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,以下のことが認められる。
(1)請求人は,ワインの輸入販売業,レストラン業等を主要な事業目的とする株式会社である。また,請求人は,引用商標の商標権者である(甲2?甲5:以下,枝番号を含む。)。
(2)請求人は,昭和63年に創業し,平成元年9月に東京都内にワインショップ・エノテカ広尾本店及びレストラン&ワインラウンジ「ENOTECA」を開店して以来,平成9年3月にワインショップ・エノテカ大阪店,同年10月にワインショップ・エノテカ札幌店,平成10年11月にワインショップ・エノテカ広島三越店,平成11年3月にワインショップ・エノテカ博多店,同年12月にワインショップ・エノテカウィング高輪店,平成13年12月にワインショップ・エノテカ横浜そごう店,平成15年4月にワインショップ・エノテカ新潟店,ワインショップ・エノテカ吉祥寺店及びワインショップ・エノテカ六本木ヒルズ店,平成16年4月に日本橋高島屋店及びワインショップ・エノテカ柏高島屋店,同年10月にワインショップ・エノテカ芦屋大丸店,同年11月にワインショップ・エノテカ京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店,平成17年3月にワインショップ・エノテカ名古屋ラシック店,丸の内店,JR名古屋高島屋店,大阪高島屋店及びワインショップ・エノテカ八尾西武店,同年9月に横浜高島屋店,平成18年3月に京都高島屋店,同年4月にワインショップ・エノテカ港南台高島屋店,平成19年3月にワインショップ・エノテカフードメゾンおおたかの森店,平成20年3月にワインショップ・エノテカ タカシマヤフードメゾン新横浜店,平成21年9月にエノテカ&ケーシーズ札幌円山店,平成22年1月にワインショップ・エノテカ上野松坂屋店,同年2月にワインショップ・エノテカ仙台藤崎店,同年3月にワインショップ・エノテカANAインターコンチネンタルホテル東京店,同年9月にワインショップ・エノテカ金沢香林坊大和店,平成23年3月にワインショップ・エノテカJR博多シティ店,ワインショップ・エノテカ富山大和店及びワインショップ・エノテカ二子玉川東急フードショー店,同年4月にワインショップ・エノテカ博多大丸店,同年6月にワインショップ・エノテカ姫路山陽店,同年11月にワインショップ・エノテカ浜松遠鉄店,平成24年4月にワインショップ・エノテカ渋谷ヒカリエShinQs店,平成25年2月にワインショップ・エノテカ銀座店カフェ&バー エノテカ・ミレ,同年4月にエノテカ&ケーシーズ御殿場プレミアム・アウトレット店及びワインショップ・エノテカ グランフロント大阪店カフェ&バー エノテカ・ミレをそれぞれ開店し,本件商標の登録査定前(登録査定日平成25年7月29日)に,東京都内,全国主要都市のランドマーク施設,デパート等に少なくとも39の直営店舗を開店した。なお,請求人及びその海外子会社は,香港,中国,シンガポール及び韓国にも,本件商標の登録査定前に14店舗を開店している(甲5)。
また,請求人は,全国の有名百貨店,高級スーパー,主要高級ホテル及び全国有名レストラン,コンビニエンスストア等に自社輸入ワインを卸販売している。(甲5?甲8)
さらに,請求人は,平成12年5月から通信販売も開始し,遅くとも平成21年4月ころからは自社サイト及び他社のショッピングモールにおいて販売を行っており,現在に至っている(甲5,甲6)。
(3)請求人の店舗では,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章が使用されている(甲16の1)。また,請求人のウェブサイトでも,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章が使用されている(甲9)ほか,請求人の他のバナー広告を掲載したウェブサイトでも同様の「ENOTECA」の標章及び「エノテカ」の標章が使用されている(甲17)。
(4)請求人は,顧客らのワイン愛好家を対象に会員組織「クラブエノテカ」を設け,平成11年ころから会報誌を発行している。会報誌では,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章を使用している(甲10,甲11)。
また,請求人は,ワインの販売につき,平成12年7月ころから平成25年7月以前までに日本経済新聞等の新聞(甲12,甲13)や雑誌等(甲14,甲15)及び東京メトロ広尾駅に広告(甲16の1,甲16の2)をしており,これらにおいては,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章を使用している。平成2年ころから平成25年7月ころまでの間,請求人及びその事業内容,その店舗(ワインショップ)等に関する記事が,日本経済新聞(甲20など)等の新聞や,「ケイコとマナブ」(甲33),「じゃらん」(甲34),「ぴあ」(甲35),「Hanako」(甲41,甲54),「週刊新潮」(甲45),「MEN’S EX」(甲64,甲71)等の雑誌に多数掲載されている。その中には,「ワイン愛好家の間でエノテカブランドは浸透しているため…『ワイン』の検索ワードでエノテカは上位に登場」(「日本ネット経済新聞」:甲22),「世界中から選りすぐったワインを取り揃えたワインショップとして名高い『エノテカ』がオープン予定」(「Hanako」:甲41),「日本のワインシーンをリードする存在」(「ELLE a table」:甲68),「日本でも有名なワインショップ・エノテカがなんと香港に4店舗あり。」(「STORY」:甲145)などと紹介するものもある。これらの雑誌においては,請求人を示すものとして「エノテカ」の標章が用いられており,さらに,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章を掲載するものもある。
さらに,請求人は,平成15年以降,毎年ワインのテイスティングイベントを開催し,そのチラシには引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章並びに「エノテカ」の標章を使用している(甲151)。
(5)また,請求人は,平成13年7月から平成24年3月までの間に,高級ブランドや著名人らとのコラボレーションによるイベントを行っているほか,平成14年ころから平成25年7月ころまでの間,クレジットカード会社,旅行会社,音楽関係,化粧品会社,フラワーギフトサイト,不動産会社,映画会社などと各種の提携やタイアップを行っており,これらの広告やチラシ等においても,引用商標1及び2と同様の書体の「ENOTECA」の標章及び「エノテカ」の標章の双方又は「エノテカ」の標章が使用されている(甲152?甲156)。
(6)請求人の平成20年4月1日から平成21年3月31日までの売上高は105億774万円,同年4月1日から平成22年3月31日までの売上高は109億4,557万3,000円,同年4月1日から平成23年3月31日までの売上高は119億1,462万6,000円,同年4月1日から平成24年3月31日までの売上高は131億1,891万3,000円,同年4月1日から平成25年3月31日までの売上高は144億69万9,000円(ただし,海外子会社を含む。)である(甲7)。
以上のとおり,請求人が,ワインの輸入販売,直営のワインショップ及びインターネット販売による小売,卸売,ワイン文化と知識の普及などの事業活動において,「ENOTECA」及び「エノテカ」の各標章を継続して使用した結果,本件商標の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」の文字は,請求人及び請求人が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広く認識され,周知となっていたことが認められる。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は,別掲のとおり,縁取りして図案化されたワインレッド色の「Enoteca Italiana」の欧文字からなり,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とから構成される結合商標であり,その構成全体から「エノテカイタリア-ナ」の称呼が生じるものである。
一方,本件商標は,その構成中の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分との間に空白があること,それぞれの文字部分の語頭の文字が大文字で,語頭の文字以外の文字が小文字であることからすると,本件商標の外観上,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができるものである。
そして,その構成中の「Enoteca」の文字は,「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」等の意味を有するイタリア語である。
また,「Italiana」の文字は,「イタリアの」の意味を有するイタリア語の形容詞であり,イタリア語の知識を有しない者にとっても,「italiana」の語は,その構成文字及び「イタリアーナ」の称呼が生じることから,国名の「イタリア」に関連することを示す語であることを容易に認識できるものといえる。
そうすると,本件商標の「Italiana」の文字部分から,「イタリアの」という意味合いを生じるものである。
以上のとおり,本件商標は,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分から構成される結合商標であるが,その外観上,それぞれの文字部分を明瞭に区別して認識することができること,そして,その意味合いにおいても,それぞれの文字部分から別異の意味合いが生じることから鑑みると,本件商標の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分は,それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとみることはできないものというべきである。
(2)本件商標の要部について
上記(1)のとおり,本件商標の「Enoteca」の文字部分は,「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」を意味するイタリア語である。
しかし,前記1の事実を総合すると,請求人が,ワインの輸入販売,直営のワインショップ及びインターネット販売による小売,卸売,ワイン文化と知識の普及などの事業活動において,「ENOTECA」及び「エノテカ」の各標章を継続して使用した結果,本件商標の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」の文字は,請求人及び請求人が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広く認識され,周知となっていたことが認められる。
そうすると,本件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引者,需要者において,請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じるものと認められる。
一方,上記(1)のとおり,本件商標の「italiana」の文字部分から「イタリアの」という意味合いを生じるが,本件商標の指定役務との関係においては,本件商標の「italiana」の文字部分は,その役務の提供の場所,提供の用に供される物等がイタリアに関連することを示すものと認識されるにとどまるものといえる。
してみれば,本件商標が,本件商標の指定役務である「ワインの小売又は卸売の業務について行われる顧客に対する便益の提供」の役務及びワインに関連する役務に使用された場合には,本件商標の構成中の「Enoteca」の文字部分は,取引者,需要者に対し,上記各役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,独立して役務の出所識別標識として機能し得るものである。
したがって,本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出し,これより,「エノテカ」の称呼が生じ,上記のとおり,取引者,需要者において,請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じるものと認められる。
(3)引用商標について
引用商標1及び2は,黒色のゴシック調の書体で「ENOTECA」の欧文字からなり,引用商標3は,「Enoteca」の欧文字からなるものであり,これらの構成文字から,いずれも「エノテカ」の称呼が生じるものである。
そして,該文字は,上記(1)のとおり,「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」等の意味を有するイタリア語である。
一方,前記1のとおり,請求人が,ワインの輸入販売,直営のワインショップ及びインターネット販売による小売,卸売,ワイン文化と知識の普及などの事業活動において,「ENOTECA」及び「エノテカ」の各標章を継続して使用した結果,本件商標の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」の文字は,請求人及び請求人が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広く認識され,周知となっていたことが認められる。
以上によれば,引用商標は,取引者,需要者において,請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じるものと認められる。
(4)本件商標と引用商標の類否について
ア 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標1を比較すると,引用商標1は,「ENOTECA」の欧文字からなり,本件商標の「Enoteca」の文字部分は,同様のつづりの欧文字からなるが,語頭の「E」の文字以外の文字が小文字である点及び各文字が縁取りして図案化されたワインレッド色である点で,両商標の外観は,同一とはいえないが,文字のつづりが同一であって紛らわしいものといえるから,両者は,外観において類似するものと認められる。
本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標1は,「エノテカ」の称呼が生じる点で,称呼において同一であり,また,引用商標1から,本件商標の「Enoteca」の文字部分と同様に,請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じるから,観念においても同一である。
以上によれば,本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標1は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似するものといえる。
イ 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標2は,引用商標2が,「ENOTECA」の欧文字からなり,引用商標1と同一の構成のものであるから,上記アと同様に,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似するものといえる。
ウ 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標3は,共に「Enoteca」の欧文字からなるところ,本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標3とは,文字の色彩や縁取りして図案化された字形である点で,両商標の外観は、同一とはいえないが,文字のつづりが同一であって紛らわしいものといえるから,両者は,外観において類似するものと認められる。
本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標3は,「エノテカ」の称呼が生じる点で,称呼において同一であり,また,引用商標3から,本件商標の「Enoteca」の文字部分と同様に,請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じるから,観念においても同一である。
したがって,本件商標の「Enoteca」の文字部分と引用商標3は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似し,その類似性の程度は高いものといえる。
(5)本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務の類否について
本件商標の指定役務のうち,「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ワイングラスの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,陶器製の食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ガラス製食器類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,引用商標1の指定役務のうち,「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と同一又は類似するものといえる。
また,本件商標の指定役務のうち,「タオル及びハンカチの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,エプロンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,引用商標2の指定商品のうち,「布製身の回り品」及び「被服」と類似するものといえる。
さらに,本件商標の指定役務のうち,「酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,引用商標3の指定商品「ビール」及び「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」と類似するものといえる。
以上のとおり,本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であることからすると,本件商標及び引用商標が本件商標の指定役務に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,本件商標と引用商標はそれぞれ全体として類似しているものと認められる。
したがって,本件商標は,引用商標に類似する商標であると認められる。
(6)まとめ
以上によれば,本件商標は,引用商標に類似する商標であって,本件商標の指定役務は引用商標の指定商品又は指定役務と同一又は類似するものである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当する。
3 被請求人の主張について
(1)本件商標の要部について
被請求人は,本件商標は,縁取りして統一的に図案化されたワインレッド色の「Enoteca Italiana」の文字をまとまりよく一体的に表してなるロゴタイプの商標であり,本件商標から「エノテカイタリアーナ」の一連の称呼がよどみなく生じるから,本件商標は,色彩や形態によって外観が不可分一体であり,称呼も一連一体である旨主張する。
しかしながら,上記2のとおり,本件商標は,その構成全体から「エノテカイタリアーナ」の称呼が生じるが,本件商標は,その構成中の「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分との間に空白があること,それぞれの文字部分の語頭の文字が大文字で,語頭の文字以外の文字が小文字であることからすると,本件商標の外観上,「Enoteca」の文字部分と「Italiana」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができるから,本件商標の外観が不可分一体であるということはできない。
また,本件商標の構成全体から「エノテカイタリアーナ」の称呼が自然に生じるからといって直ちに本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出することができないとはいえない。
したがって,被請求人の上記主張は,本件商標から「Enoteca」の文字部分のみを要部として抽出することはできないことの根拠となるものではない。
(2)「Enoteca」の文字の識別力について
被請求人提出の乙各号証及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
ア 被請求人会社は,1972年(昭和47年)に設立されたイタリアのボローニャ所在の会社であり,イタリア製のワインを販売し,経営者は,クラウディオ・カヴァレリ,マルコ・ナネッティの二人である(乙26の1?4)。被請求人会社は,イタリアで最も権威あるワインアワードの一つであるとされるオスカー・デル・ヴィーノ(ワインのオスカー賞)で,2002年(平成14年)のイタリア最優秀エノテカ賞を受賞(乙18)したほか,2005年(平成17年)には,「世界最優秀個人経営ワインショップ」で世界第3位に入賞するなどしていることが認められる(乙21,乙22)。
イ 「Enoteca(エノテカ)」の語義及び使用状況等について
(ア) 「enoteca」の語は,「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」等の意味を有するイタリア語である(乙2)。
(イ) 本件商標の登録査定前に日本国内において発行された書籍には,「Enoteca」及び「エノテカ」に関し,次のような記載がある。
a イタリア語で「ワインの箱や棚」を意味する言葉で,転じて地元ワインの販売所を指す。店内でもワインを飲めるように,カウンターやテーブルを用意してあるところも多い。食事は簡単なおつまみだけを提供するところがほとんど。カンティーナと呼ぶこともある。近年はワインを主体としたレストランなどもエノテカと呼ばれる(「ワインの用語500」:乙3)。
b ワイン居酒屋。ワイン店の一角で,客にグラスワインとつまみを提供したのが始まり。本格的な料理を出す店も多い(「ララチッタ ローマ・フィレンツェ」:乙4)。
c ワイン販売店に併設されるワインバー。チーズをはじめ数種類のつまみが用意されている。気に入れば,その場でワインの購入も(「まっぷる イタリア2013」:乙5)。
d 本来は,量り売りワインの販売店。多くはワインバーを併設し,おつまみとともにグラスワインを味わうことができる。気に入ったワインをその場で購入できるのもうれしい。なかには食事にこだわったリストランテに近い店もある(「地球の歩き方arucoイタリア」:乙10)。
e エノテカは,普通はワインを中心に売る酒屋のこと。中には何種類かのワインをグラスで味わうことのできるカウンターを備えている店もある。店の中に入るとき赤,白,スプマンテと分けてその日に試飲できる銘柄が書かれていて,人々はナッツ類などの軽いものをつまみながらグラスに注がれたワインを楽しんでいる。こうしたエノテカでは店の人が自信を持って選んだボトルをリストに並べていて,香り,味わいともにそれぞれに違ったワインが揃っている。最近では,軽い食事を出す料理自慢の店も増えた(「’11?’12 地球の歩き方 ローマ」:乙15)。
f 酒屋を兼ねたワインバーをエノテカ(ヴェネツィアでは「バーカリBacari」)という。高級ワインもグラスで頼めるし,おつまみだけでなく軽めの料理も提供される(「29 わがまま歩き 『ローマ ミラノ フィレンツェ ヴェネツィア』 」(ブルーガイド):乙16)。
(ウ) さらに,本件商標の登録査定前に日本国内で発行されたイタリアの旅行ガイドブック等の書籍において,「エノテカ○○○」との名称を有するイタリア所在のレストラン,ワインバー及び酒販店が相当数紹介されている(乙4,乙7?乙9,乙15)。
ウ 被請求人は,上記のとおり,1)「エノテカ」は,イタリア語で「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館(蒐集館),試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」などの意味を持つ普通名称であり,ワインの展示・販売・試飲・つまみの提供などのサービスを一体的に行う店舗の種類を表す普通名称として,日本語のガイドブック等でも繰り返し使われていること,2)イタリア国内には,「Enoteca ○○○(エノテカ○○○)」の名称の店舗が相当数存在しており,これらの店舗の一部は,日本語のガイドブック等にも紹介されている。そして,「Enoteca」が他の語と結合して「Enoteca ○○○(エノテカ○○○)」として用いられた場合は,需要者は「Enoteca ○○○」の店舗名全体から特定の店舗を認識するから,本件商標の「Enoteca」の文字部分の識別力は微弱であるなどとして,本件商標の「Enoteca」の文字部分が役務の出所標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえない旨主張する。
しかしながら,「enoteca」の語は,「貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋」を意味するイタリア語であること,ワインに関連する書籍,イタリアの事情等を紹介する書籍には,「エノテカ」(Enoteca)が上記意味合いを有する語であることの記載があることは,上記「(2)イ(イ)」のとおりである。
これらのことから,本件商標の登録査定前,日本国内において,ワイン愛好者やイタリア料理,イタリア事情,イタリアへの旅行等に関心のある者の間で「Enoteca」又は「ENOTECA」の語が「試飲のできるワインの販売所」,「ワイン屋」(ワイン店)などの意味を有するイタリア語であることが相当程度認識されていたことが認められるとしても,一般消費者を含む需要者の間で「エノテカ」,「Enoteca」又は「ENOTECA」の語がワインを販売・提供する店舗等を示す一般的な名称として認識されていたとまで認めることはできない。
また,イタリア国内には,「Enoteca ○○○(エノテカ○○○)」といった名称の店舗が相当存在しており,これらの店舗の一部がイタリアの事情等を紹介する書籍に掲載されているとしても,それらの掲載記事は,イタリアの国内の状況を示したり,イタリア国内の店舗を紹介したりするにすぎないものであるから,日本国内において,一般消費者を含む需要者の間で「エノテカ」,「Enoteca」又は「ENOTECA」の語がワインを販売・提供する店舗等を示す一般的な名称として認識されていたとまで認めることはできない。
他方,本件商標の登録査定前には,「ENOTECA」又は「エノテカ」は,請求人及び請求人が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間で,広く認識され,周知となっており,本件商標の「Enoteca」の文字部分から,取引者,需要者において,請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」の観念が生じることに鑑みると,需要者は「Enoteca」又は「エノテカ」の文字部分から請求人の周知の営業標識としての「ENOTECA」又は「エノテカ」を想起するものといえるから,本件商標の「Enoteca」の文字部分が出所識別標識としての識別力が微弱であるということはできない。
エ さらに,日本国内における本件商標の使用状況は,被請求人が,平成25年1月24日から同月27日まで,同年5月4日及び5日の2回にわたり,東京都内において,ワインの試飲等のイベントを開催し,イベントの垂れ幕,チラシ,ポスター,名刺及びイベントで使用されたワイングラスのロゴ刻印等に本件商標を使用した旨主張する。
しかしながら,上記内容は,主張のみで具体的な証拠の提出はない。
そして,被請求人が,被請求人会社を取り上げたものとして提出する書籍「初めてのイタリアワイン」(乙24)には,本件商標も,被請求人会社の名称も記載されていないから,乙第24号証をもって本件商標の日本国内における著名性又は周知性を基礎付けることはできない。
したがって,被請求人の上記主張は採用することができない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから,他の無効理由について言及するまでもなく,同法第46条第1項第1号の規定に基づき,その登録を無効にすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 本件商標 (色彩については、原本参照。)


審理終結日 2016-03-29 
結審通知日 2016-03-31 
審決日 2016-06-10 
出願番号 商願2012-101232(T2012-101232) 
審決分類 T 1 11・ 263- Z (W35)
T 1 11・ 261- Z (W35)
T 1 11・ 262- Z (W35)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 一弘 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 中束 としえ
榎本 政実
登録日 2013-09-13 
登録番号 商標登録第5614496号(T5614496) 
商標の称呼 エノテカイタリアーナ、エノテカ 
代理人 若林 順子 
代理人 島田 まどか 
代理人 櫻井 芙紗子 
代理人 熊谷 美和子 
代理人 大向 尚子 
代理人 川合 弘造 

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