• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X29
管理番号 1318269 
異議申立番号 異議2015-900299 
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-09-24 
確定日 2016-08-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第5776284号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5776284号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5776284商標(以下「本件商標」という。)は、「瞬間凝固」の文字を縦書きしてなり、平成27年3月30日に登録出願、第29類「豆腐,厚揚げ」を指定商品として、同年6月4日に登録査定、同年7月3日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標について、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第10号、同項第16号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により取り消されるべきである旨申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第27号証を提出した。
1 本件商標は、「瞬間凝固」の漢字を普通に用いられる方法で表示したにすぎないから、本件商標を指定商品「豆腐,厚揚げ」に使用しても、当該商品の製造方法又は当該製造方法に基づく商品の品質を表示するにすぎず、自他商品識別標識として機能を果たし得ない。また、本件商標を瞬間凝固製法以外の製法により製造された「豆腐,厚揚げ」に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある。
2 本件商標は、申立人の周知商標であるにも関わらず、不正の目的をもって登録されたものである。

第3 取消理由通知の要旨
当審において、平成28年2月15日付けの本件商標権者に対し通知した取消理由通知は、要旨以下のとおりである。
1 「瞬間凝固」の語の意味合いについて
本件商標は、「瞬間凝固」の文字を縦書きしてなるところ、その構成中の「瞬間」の文字が「きわめて短い時間。またたく間。また、何かをした、そのとたん。」を意味する語として、また、「凝固」の文字が「液体または気体が固体に変わる現象。」を意味する語(いずれも「大辞泉」[小学館])として、それぞれ親しまれた語であるから、全体としては、「きわめて短い時間で個体に変わること、またたく間に個体に変わること」程度の意味合いを表すものとして容易に理解し得るものである。
2 「瞬間凝固」の語について
(1)職権による調査によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 豆腐の製造方法について
(ア)1993年(平成5年)9月26日付け産経新聞(朝刊)には、「【素材の産地へ行く】豆腐 東京・根岸 下町の朝、張りつめた空気」の見出しのもと、「・・まず、一晩水につけた大豆をグラインダーでひく。・・ひいた豆は、煮釜で十五分くらい煮て、ローラー式の絞り機にかけ、豆乳とおからに分ける。この豆乳ににがりを打って固めるのが一番難しいところ。にがりを入れたコップを持つ奥村さんの表情が引き締まる。右手で豆乳を勢いよく混ぜながら、左手に持ったにがりをパッと注ぐ。『にがりを入れた瞬間に固まるので、一瞬のうちに全体にゆきわたるようにしなければなりません』豆腐職人は、最初は水を寄せ箱に入れ、混ぜ方を練習するのだそうだ。」と記載されている。
(イ)2015年(平成27年)1月30日付け東京読売新聞(朝刊)には、「[仕事場拝見]くまの豆富店 伝統の味守る職人技=富山」の見出しのもと、「・・ペースト状になった大豆は約100度の蒸気で加熱された後、分離機で豆乳とオカラに搾り分けられる。完成した豆乳を見つめて熊野さんが語った。『次の作業は誰にも任せられない』それは、凝固剤を入れた容器に豆乳を流し込む作業だ。『注ぎ方の勢いが良すぎても、弱すぎてもダメ。混ぜ方で良しあしが決まる』。注いだ瞬間から固まり始めるため、均等に混ぜないと、豆腐に硬い層と軟らかい層ができてしまう。絶妙な食感の絹ごし豆腐には、伝統の技が詰まっている」と記載されている。
(ウ)従来の豆腐の製造方法として、特許出願公開番号を特開平05-003761とする公開特許公報によれば、発明の名称を「豆腐の製造方法」(出願番号:特願平3-180273、出願日:平成3年6月25日)とする発明の「詳細な説明」中の「従来の技術」には、「一般に市販されている豆腐の製造方法は、例えば図2に示すように(審決注:省略)原料大豆を水に約20時間浸漬した後、ひき水を加えながら粉砕機で細かく粉砕し、次に粉砕した大豆を生呉煮沸する。この後、煮沸した大豆を絞る絞汁を行なって豆乳とオカラに分離する。次に分離した豆乳のPHを測定してから、脱気しながら撹拌して豆乳中に含まれる空気を除去した後、冷却し、ここに硫酸カルシウムやグルコノラクタンなどの凝固剤を添加し、次いで容器に所定量充填して包装し、容器に充填した状態で加熱して熱凝固させると共に殺菌した後、水温まで冷却して絹漉し豆腐を製造していた。」と記載されている。
イ 豆腐の製造方法における豆腐の凝固について
(ア)2012年(平成24年)1月20日付け東京読売新聞(朝刊)には、「[工場拝見]山下ミツ商店 祖母の教え支えに 堅豆腐=石川」の見出しのもと、「・・良質な国産大豆にこだわり、豆腐本来の風味を大切にするため消泡剤も使わない。加熱された豆乳に浮き出した無数の泡を丁寧に取り除いた後、豆乳を固めるため『にがりを打つ』作業に入る。ミネラル豊富な天然にがりを入れた瞬間、凝固反応が始まってしまうため、熱いうちに早くかきまぜて固まり具合を均一にする『時間との勝負』が求められるという。」と記載されている。
(イ)「記事一覧 豆耕房 はんじろう」
(http://ec.shokokai.or.jp/cmsdb/cm06010/SintyakuAll/?uid=1544110001&ken=15&block=74&sei=&page=6)の「絹ごし豆腐(1)『おすすめの商品・サービス』」には、「2010.3.2・・今日から暫らく、当店の絹ごし豆腐の作り方を書いてみます。絹ごしを作る上で大きなポイントは凝固剤です。ニガリは他のモノに比べると、大豆の旨みを引き出し豆の味がする?!という豆腐に仕上げてくれますが難点が一つ。絞りたての熱い豆乳に入れると、瞬間に凝固反応が始まります。豆乳全体にニガリを行き渡らせるために、反応が始まってるものを攪拌するとボロボロしたりざらざらした豆腐になります。」と記載されている。
(ウ)「豆腐の原料について、大豆以外に体に悪い材料って入ってますか?安い豆腐は濃厚さがないので」(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1171299401)には、「凝固材などの添加物です 豆腐の味の違いは大豆、水はもちろんですが豆腐を固める凝固材によっても味、食感が変わってきます 豆腐は大豆と水に天然にがりがあれば完成します。豆腐は凝固作用を持つ成分を加え形をつくります。この凝固剤が天然にがりですが別の凝固剤を用いた豆腐が安い豆腐です 天然にがりは瞬間的に凝固するため細工が利かず、扱いが難しいです。しかもにがりではなく添加物をつかうと同じ1俵の大豆から豆腐が1.5倍から2倍近くできます。」と記載されている。
(エ)特許出願公開番号を特開2001-190238とする公開特許公報によれば、発明の名称を「豆腐製造用撹拌器具」(出願番号:特願2000-7283、出願日:平成12年1月17日)とする発明の「要約/課題」には、「凝固剤を合わせることによって固化が瞬間的に進む豆乳の撹拌を合理的に行えるように改良して、それほど熟練を要することなく、容器内の豆乳全体を上下、縦横、内外ともむらなく均一に、かつ、ほどよく固まらせるようにする。」と記載され、また、「詳細な説明/発明が解決しようとする課題」には、「一般的に豆腐の製造は、家内生産により行われるので、数量的には後者の手動式包丁型の撹拌器具を使用する方が圧倒的に多い。凝固剤と豆乳との結合は瞬間的に進むので、上記のように包丁型の器具を扱う場合は、特に容器内の豆乳全体を上下、縦横、内外ともむらなく均一に、かつ、ほどよく固まるよう撹拌に熟練を要するので、専門技術者にあってもつねに緊張して慎重に作業を進める必要があった。」と記載されている。
(オ)本件申立人が、申立人と関連する者の出願であると主張する特許出願公開番号を特開2015ー204824とする公開特許公報によれば、発明の名称を「豆腐の製造方法及びこの製造方法を用いた豆腐製造装置」(出願番号:特願2015-76491、出願日:平成27年4月3日、優先権主張番号:特願2014-78740、優先日:平成26年4月7日)とする発明の「詳細な説明」中の「背景技術」には、「豆腐は、大豆から製造される豆乳に、天然ニガリ(塩化マグネシウム含有物)等の凝固剤を混ぜ合わせることにより、豆乳が凝固されて製造される。しかしながら、このような天然ニガリ豆腐は、豆乳に凝固剤を注入すると凝固反応が始まるので、豆乳と凝固剤とを短時間で均一に混ぜ合わせないと凝固ムラなどの問題が生じやすい。特に、高温の豆乳を天然ニガリで凝固させる場合には、豆乳と天然ニガリとの反応速度が速く、豆乳に天然ニガリが注入された瞬間から凝固反応が始まるので、豆乳と天然ニガリとを短時間で均一に混ぜ合わせないと凝固ムラなどの問題が生じやすい。更に、豆腐製造工場等において、投入された大豆から、豆乳、豆腐を製造して、その豆腐を個別に製品容器にパッキングするまでを一連に行う自動豆腐製造システムにおいては、豆腐の製造には大きな型容器を用いて大量の豆乳を一度に凝固させて豆腐を製造するため、豆乳と凝固剤とを均一に混ぜ合わせるのに時間がかかり、凝固ムラが問題となる。」と記載されている。
(カ)「Life in Suzu 東京から珠洲へ移住した私の物語」の2009年9月9日の「有名京の地豆腐『久在屋』の東田さん訪問」
(http://notonoroshi.blogspot.jp/2009/09/blog-spot_09.html)には、「・・にがりは豆腐のうまさを引き出す最高の素材ですが、瞬間的に凝固するので、タイミングと鋭い感覚を必要とします(スーパーの豆腐はインスタント豆腐です)。名前のごとく一発で決めなければららず、失敗は絶対に許されません。失敗するとどうなるのか?素人がやるとまず豆腐の硬さに凝固しません。ある程度慣れてきて凝固するようになっても、さらに固まりの具合(均一な凝固)にするのはさらに経験が必要になります。また、均一な凝固でないと味にもムラが出来てしまうのです。」と記載されている。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、豆腐の製造方法には、おおむね、原料大豆を水に浸漬、粉砕機で細かく粉砕し、これを煮沸し、煮沸した大豆を絞る等の工程を経て、豆乳とオカラに分離し、分離した豆乳に凝固剤を添加して豆乳を凝固させる一工程があることは、当該指定商品を扱う業界においては周知の事実であったということができる。
そして、その豆腐の製造方法においては、豆乳を瞬間的に凝固させる方法があることが認められる。
3 本件商標の指定商品について
本件商標の指定商品は、第29類「豆腐,厚揚げ」であるところ、その指定商品中の「厚揚げ」は、「生揚げ」とも称され、「豆腐を厚く切って,表面が色づく程度に揚げたもの」であるが、内部が豆腐の状態を保つように十分には揚げないため、その中は豆腐であることを踏まえると、豆腐の製造工程は厚揚げの製造工程の一部ということもできるのであって、豆腐の品質が厚揚げの品質にそのまま反映される極めて近似した商品といえるものであるから、豆腐と厚揚げは、その生産部門、販売部門、さらには、主な需要者層等も共通にするものといえる。
4 本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標は、「瞬間凝固」の文字を縦書きしてなるものであるところ、該文字を構成する各文字の意味を踏まえるならば、前記1のとおり、「きわめて短い時間で固体に変わること、またたく間に固体に変わること」なる意味合いを容易に理解・認識させるものである。
そして、前記2のとおり、豆腐の製造方法には、原料大豆と豆乳とオカラに分離し、分離した豆乳に凝固剤を添加して豆乳を凝固させる工程があり、その中には、豆乳を瞬間的に凝固させる方法があることは、指定商品を扱う業界において周知の事実であるということができる。
加えて、本件商標の指定商品中の「厚揚げ」の製造工程を考えても、豆腐を揚げたものであるから、豆腐の製造工程が厚揚げの製造工程の一部ということもできるのであった、しかも、豆腐の品質が厚揚げの品質にそのまま反映される極めて近似した商品といえるものである。
そうすると、本件商標は、その指定商品に使用した場合、その取引者、需要者によって、豆腐の製造工程における豆乳を瞬間的に凝固させる生産方法を表したものと容易に理解し、商品が豆乳を瞬間的に凝固させる方法によって製造された豆腐や、そのようにして製造した豆腐を使用した厚揚げであることを表したものと認識されるとみるのが相当である。
してみれば、本件商標は、その指定商品について使用しても、その商品の生産の方法又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって、自他商品の識別標識としての機能を発揮し得ないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。

第4 本件商標権者の意見
上記第3の取消理由に対し、本件商標権者は、要旨以下のとおり意見を述べている。
1 「瞬間凝固」それ自体は、ありふれて需要者の間で使用されておらず、特定の意味合いを有しない造語であって、指定商品の品質を直接的かつ具体的に表示しているとはいえない。
2 豆腐や厚揚げの需要者は、店頭で購入する主婦に代表される一般消費者であり、主婦や一般消費者は、品質の良い豆腐を製造する方法を具体的に知っているわけではない。そうであれば、これらの者が「瞬間凝固」の語から、これが豆腐や厚揚げの製造方法や品質を表示したものであると直ちに理解するとはいえない。
3 インターネットで「瞬間凝固」の語を検索した場合、この語の使用は本件商標権者と申立人のみであり、しかも、豆腐や厚揚げについて使用している者は本件商標権者のみであることからも、「瞬間凝固」の語が豆腐や厚揚げについてありふれて用いられていないことは明らかである。
4 飲食料品の分野においては、「瞬間」を語頭におく登録商標が、例えば、「瞬間冷凍体験」、「瞬間リセット」、「瞬間変身」等複数ある。
5 以上から、本件商標は、その指定商品について自他商品識別力を有するものであるので、商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標についてした前記第3の取消理由は妥当なものであって、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものといえる。
2 本件商標権者の意見について
本件商標権者は、「瞬間凝固」の語はありふれて用いられておらず、特に、主婦等一般消費者が、本件商標が指定商品の製造方法や品質を表示するものであると直ちに理解するとはいえない旨主張している。
しかしながら、本件商標は、これを構成する文字の意味合いから「きわめて短い時間で固体に変わること、またたく間に固体に変わること」なる意味合いを容易に理解・認識させるものであること、及び、豆腐の製造工程において、分離した豆乳に凝固剤を添加して豆乳を凝固させる工程があり、その中には、豆乳を瞬間的に凝固させる方法があることは業界において周知であることは上記第3のとおりであり、また、一般消費者においてもそのような工程があることについて知る者は少なくないとみるのが相当である。
そうすると、本件商標を指定商品に使用したときは、これに接する取引者はもとより一般消費者を含む需要者は、豆乳を瞬間的に凝固させる方法によって製造された豆腐や、そのようにして製造した豆腐を使用した厚揚げであることを表したものと認識するとみるのが相当である。
なお、商標法第3条第1項第3号が、商品の産地、販売地、品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標を登録することができないとしたのは、そのような商標は一般に自他商品識別の機能をもたないし、また、そのような品質等の表示は商品取引の過程において必要なものであり、取引業者はその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものと考えられる。
したがって、仮に、本件商標権者がいうように、「瞬間凝固」がありふれて用いられておらず、一般消費者には商品の製造方法、品質を直接には認識させないとしても、我が国の取引者において、本件商標が指定商品の生産方法や品質を普通に用いられる方法で表示したものと認識されること上記のとおりであるから、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
また、本件商標権者は、「瞬間」を語頭におく登録商標の事例を挙げているが、いずれも指定商品との関係で商品の品質等を直ちに認識させるとはいい難いものであり、本件とは事案を異にするものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2016-06-30 
出願番号 商願2015-28844(T2015-28844) 
審決分類 T 1 651・ 13- Z (X29)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平澤 芳行 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 田中 亨子
青木 博文
登録日 2015-07-03 
登録番号 商標登録第5776284号(T5776284) 
権利者 株式会社楽粹
商標の称呼 シュンカンギョーコ 
代理人 鮫島 睦 
代理人 勝見 元博 
代理人 小池 晃 
代理人 伊賀 誠司 
代理人 森脇 靖子 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ