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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W060911
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない W060911
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない W060911
管理番号 1314426 
審判番号 無効2015-890046 
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-05-22 
確定日 2016-04-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第5741968号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5741968号商標(以下「本件商標」という。)は、「リトライ」の片仮名を横書きしてなり、平成26年9月2日に登録出願、同年12月16日に登録査定、第6類「バルブ,バルブ用アクチュエータ」、第9類「配電用又は制御用の機械器具」及び第11類「タンク用水位制御弁」を指定商品として、同27年2月20日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第38号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同第6号、同法第4条第1項第16号に該当し、同法46条1項1号により、その登録を無効にすべきものである。
2 商標法第3条第1項第3号について
本件商標は、その商品の品質、効能を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当し、指定商品に使用するときは取引者・需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができず、自他商品の識別機能を果たしえないものである。
(1)指定商品
本件商標の指定商品は、第6類「バルブ,バルブ用アクチュエータ」である。
被請求人のホームページを見ると、バタフライ弁、ボール弁等の「バルブ」を製造、販売していることがわかる(甲2)。これらのバルブは手動の製品を除けば、電動アクチュエータにより駆動される。
これらのバルブは、給排水設備、雨水排水設備、プール、各種プラント・工場などに広く用いられるが、バルブ、バルブ用アクチュエータの製造者は、被請求人のみならず無数のメーカーが存在する。
例えば、バルブについては、一般社団法人日本バルブ工業会の正会員だけでも117社にも及ぶ(甲3)。
(2)バルブの噛み込みを防止する「リトライ」機能
一般にバルブ(弁)においては、流体中に異物があると、閉動作の際に、異物噛み込みによる閉止不全が問題となる。
この場合には、流体の漏れが生じるほか、無理に閉止しようとすると弁体が破損するという問題があった。
このため、以前から、異物の噛み込みを自動検知して自動的にバルブの駆動を停止する技術や、自動的にバルブの動作を逆転させて噛み込みを解除し、異物が流下するのを待って、再び自動的に閉動作を行うという技術があった。そのような機能ないし動作の呼び方として、かねてから「リトライ」という用語が使われている。
(3)指定商品について「リトライ」が使われていること
ア バルブやバルブ用アクチュエータのメーカーにおいて「リトライ」という用語を使用している例は数多く挙げることができる。
例えば、バルブ用アクチュエータ分野において、上下水、河川で約70パーセントのシェアを有する西部電機株式会社の製品「Semflex」においては、障害物除去機能を表す用語として「トルクリトライ」が使われている(甲4(8頁)、甲5(68頁、72頁))。
この「トルクリトライ」という用語は「トルク」と「リトライ」を組み合わせたものであるが、「トルク」という用語が用いられている理由はバルブの回転軸トルクの異常から異物の噛み込みを検知するからである。この「トルク」に「再び試みること」を表す「リトライ」を組み合わせることにより、異物の噛み込みをバルブ回転軸トルクの異常から検知した場合に一旦開動作を行い、その後バルブの閉動作を再び試行するという機能を表現している。
同社の「Semflex」の製品カタログにおいては、「トルクリトライ(障害物除去機能)」の説明として「バルブ駆動時の障害物噛み込み時の排除などの目的には、トルクリトライ機能が有効です。障害物噛み混みを検知後、複数回の開閉動作により、障害物の除去を試みます。」と記載されている(甲4)。
また、雑誌「配管技術」(2008年11月発行)には、「インテリジェントバルブアクチュエータ」と題する製品技術情報が掲載されており、「トルクリトライ機能(障害物除去機能)」の説明として「バルブ駆動時の障害物噛み混み時の排除などの目的には、トルクリトライ機能が有効である。障害物噛み込みを検知後、複数回の開閉動作により、障害物の除去を試みる」という説明がなされている(甲5(72頁))。
イ 他に、東洋バルヴ株式会社のバルブに関する商工経済新聞社の記事では、「バタフライバルブ弁の異物噛み込みによる弱点を補完したもので、万一の噛み込み時は、(a)弁体が噛み込んだ開度位置から開方向への揺動を繰り返す動作(リトライ機能)を行って異物を取り除くアクションをする」と記載されている(甲6)。
建築設備フォーラムの新製品ニュースでは、東洋バルヴ株式会社の電動バタフライバルブは、「異物噛み込みを検知した場合、開閉動作をリトライして異物を流す機能をもって」いると記載されている(甲7)。
東洋バルヴ株式会社の電動バルブシリーズのカタログには、「異物噛み込みを検知、開閉動作をリトライし異物を流す!」との記載がある(甲8)。
ウ さらに、株式会社キッツ(請求人)のバルブ製品カタログにおいては、「万が一、異物を噛み込んだ場合→(a)開閉の再作動(リトライ)」と記載されている(甲9)。
エ すなわち、以前から、指定商品「バルブ、バルブ用アクチュエータ」のメーカーにおいて、異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を示す用語として「リトライ」が用いられてきたのである。
オ 甲第4号証及び甲第5号証
これに対し、被請求人は、「西部電機株式会社も、甲第4号証、甲第5号証にあるように、『トルクリトライ』というものを使用しているのであり、これも、『リトライ』という本件商標が商品の品質・効能を示す用語として関連商品分野において一般的に広く使われてきたことの根拠にはならない」と主張する(答弁書8頁19行目?22行目)。
しかし、甲第5号証の「第7図」に「N回リトライ」と記載されていることから明らかなように、バルブ用アクチュエータにおいて「リトライ」は品質、効能を示す用語として使われている。これらの書証における「トルクリトライ機能」は、「リトライ」機能に力学用語の「トルク」を付けて機能を分かりやすく表している用語である。
カ 甲第6号証ないし甲第9号証
被請求人は、甲第6号証ないし甲第9号証の請求人及び東洋バルヴに関する書証は、関連商品分野の取引実情を窺い知るには客観性に欠けた不適当な書証である旨主張している(答弁書8頁3行目?4行目)。
かかる主張は、被請求人による被害妄想であって全く根拠がない。そもそも「リトライ」はもとから指定商品における品質表示であって、それを使用することが「品質表示化」を目的とするはずがない。被請求人は、「リトライ」をそもそも商標として使用しておらず、自他商品の識別機能を獲得したことなど一度たりともない。
キ 甲第15号証及び甲第31号証
甲第15号証及び甲第31号証からすれば、登録査定時に、指定商品「第9類 配電用又は制御用の機械器具」につき「リトライ」が品質、効能を示す用語として使われていたことは明らかである。
ク 甲第28号証ないし甲第30号証
甲第28号証及び甲第30号証は、雨水貯留槽において水位を制御するための弁の機能を説明するために「リトライ」が使用されている例であり、いずれも雨水制御弁の品質ないし効能を示すものとして記述的に使用されている。
したがって、甲第28号証ないし甲第30号証によれば、本件商標の登録査定時に、指定商品「第11類 タンク用水位制御弁」について「リトライ」が品質、効能を表す用語として記述的に使用されていたことが分かる。
(4)特許明細書でも「リトライ」が使われていること
「リトライ」は各種バルブ(弁)に関する特許明細書においても異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を示す用語として使われている。これらの特許明細書中で使われている「リトライ」の用例から分かる通り、「リトライ」はバルブ及びバルブ用アクチュエータの制御方法や、その具体的な動作のことを指す。
したがって、「リトライ」が一般に品質又は効能を表すための用語として使われていることが明らかである。
ア 特開2009-299803(矢崎総業株式会社外3社)(甲10)
イ 特開2004-332976(リンナイ株式会社)(甲11)
ウ 特開2009-115254(パナソニック株式会社)(甲12)
エ 特開平7-19621(ダイキン工業株式会社)(甲13)
オ 特開2008-112703(トヨタ自動車株式会社)(甲14)
(5)甲第10号証ないし甲第14号証のバルブは指定商品に含まれること
本件商品の指定商品「第6類 バルブ,バルブ用アクチュエータ」におけるバルブとは金属製であって、機械要素以外のものを指している(商品及び役務の区分解説)。
請求人が証拠として示しているガスの遮断弁(甲10、甲12)、給湯用の流量調節弁(甲11)、冷媒の三方切替弁(甲13)、燃料ガスのインジェクタ(甲14)は、全て「バルブ」に該当するものである。
そして、指定商品の「アクチュエータ」は、「電気・流体・磁気・熱・化学的エネルギーを機械的な仕事に変換するもの。サーボーモーター・圧電素子・油圧シリンダー・形状記憶合金など。」を意味する(甲32.広辞苑第6版)。すなわち、上記の各種バルブに備わる駆動機構は全て「アクチュエータ」に該当するものである。
したがって、甲第10号証ないし甲第14号証のバルブは、指定商品に含まれる。
(6)小括
ア 以上のとおり、本件商標の指定商品「バルブ、バルブ用アクチュエータ」との関係において、「リトライ」とは異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を示す用語として、以前から使われているものである。
その結果として、本件指定商品の取引者・需要者の側からみた場合には、「リトライ」と表示されたバルブ及びバルブ用アクチュエータは、当該商品が異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を備える商品と認識するようになっている。
すなわち、「リトライ」は、本件指定商品の「品質」ないし「効能」を表示する標章である。
イ また、本件商標に係る標章「リトライ」は、黒色の一般的な明朝体の文字のみで構成された標章であって、構成(外観)が特異なものではないから、「普通に用いられる方法」で表示する標章である。
ウ したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号の「その商品の品質、効能を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当し、商標登録を受けることができない。
(7)答弁に対する弁駁の要旨
ア 被請求人が「リトライ」を商標として使用してこなかったこと
被請求人は、2011年に電動式緊急遮断弁を新たに開発した頃から、商標として「リトライ」ないし「リトライ\RETRY」を使用してきたと主張するが、真実に反している。被請求人が商標として使用したことは一切なく、使用した場合は機能を表す用語として記述的に用いていた。
「リトライ」という用語が品質、効能を示すものであることは、被請求人自身が、2008年ころから、「リトライ」を専ら機能を表示する用語として記述的に使用してきたことからも明らかである。
仮に、被請求人の蝶バルブを用いた電動式緊急遮断弁が、それなりに販売実績を有していたとしても、被請求人が「リトライ」「リトライ\RETRY」を商標として全く使用していなかったため、商標としての「リトライ」「リトライ\RETRY」は全く認知されておらず、自他商品の識別機能は備わっていなかった。
イ 「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」という主張について
被請求人は、商標法第3条第1項第3号における商品を「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」に限定し、この商品分野において「リトライ」は品質、効能を示す用語ではなかったと主張するものである。
しかし、逆に解すれば、「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」以外の指定商品については、被請求人による反論はないから、請求人が審判請求書で主張したとおり品質、効能を示す用語ということになる。
ウ 日本バルブ工業会の会員においてリトライを使用するメーカーの数が少ないとの主張について
被請求人は、182社のうち3社のみが使用すると主張するが、残る179社の使用状況を全て調べたわけでもなく、わずかな知識に基づき、単なる願望を述べているにすぎず、全く根拠がない。そもそもリトライ(再動作)機能を備えないバルブのみを製造する会員は、「リトライ」を使っていなくて当たり前であって、母数に含めることに何らの意味はない。
仮に一部の商品について「リトライ」を使用する者が少なかったとしても、当該一部の商品を除く大部分の商品においてはリトライを使用するメーカーが存在するのであって、被請求人の主張は何ら意味を有しない。
したがって、会員企業数との対比に基づき「一般に広く使われているとはいえない」という結論を導いている点は誤りである。
エ 指定商品について「リトライ」が使われていること
株式会社エム・システム技研の電動アクチュエータ「MRP4D」(商品名ミニトップ)は小型制御弁用アクチュエータであるから(甲34の2)、「バルブ用アクチュエータ」に該当する。同製品は遅くとも2011年5月には市販されていた(甲34の1)。
このように、以前から、指定商品「バルブ用アクチュエータ」のメーカーにおいて、異物噛み込みを自動検知して自動的にバルブの駆動を停止する技術の用語として「リトライ」が用いられている。
オ 「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」においても「リトライ」は品質、効能を表す用語であること
被請求人は商標として「リトライ」を使用したことがなく、むしろ雨水遮断弁の品質ないし効能を示すものとして記述的に使用してきた。
被請求人が販売していた電動式緊急遮断弁については、「カワデンのキャパコン」として売り出され(甲21?甲24、甲26)、登録商標「キャパコン\CAPACON」こそが、同製品の出所表示として取引者・需要者の間で機能していた(乙1)。
カ 以上の経緯からすれば、被請求人が「リトライ」を使用した事実により自他商品の識別機能を獲得したことはなく、取引者・需要者からみれば品質、効能を示す用語のままである。
3 商標法第3条第1項第6号について
仮に、本件商標が、商標法第3項第1項第3号の「品質」「効能」を表示する標章に該当しないとしても、商標法第3条第1項第6号に該当する。
(1)「リトライ」は機器やシステムが再試行する機能を示すものとして産業分野で広く使われているものであること
もともと標章「リトライ」は英単語「retry」(再び試みること)に由来するから、機器やシステムが再試行する機能を示す用語として、様々な産業分野で広く用いられている。
したがって、需要者は何人かの業務に係る商品であることを認識できない。また、広く産業分野で使われている用語「リトライ」を、被請求人において独占使用させることは明らかに不適当であって、断じて許されるべきではない。
ア 三菱電機株式会社のホームページをみると、同社製インバータの機能について記載した「リトライとは」という項目において、「インバータ異常が発生し、保護機能が動作するとインバータは、運転を停止する。リトライ機能は、異常停止後インバータが自動的に再起動し、運転を継続しようとする機能。」と記載されている(甲15)。
イ キヤノン株式会社のホームページをみると、同社製のドキュメントスキャナーDR-M160の機能を紹介する「超音波重送検知・リトライ機能」という項目において、「給紙口で重送を検知した際には原稿を自動的に逆搬送し、再度給紙を行う『リトライ機能』を搭載。この『リトライ機能』は最大3回まで実行し、リカバーできない重送原稿は排紙口まで搬送されます。」と記載されている(甲16)。
ウ TDK株式会社のホームページには、同社製SSD(ソリッドステートドライブ)の説明として「エラー読み出し時に、再読み込みを実行するリードリトライ機能も実装しており、データサーバでも安心して使用できる高信頼性SSDです。」と記載されている(甲17)。
エ ストラパック株式会社のホームページを見ると、同社製の新聞結束機の機能について「バンド送り不良があった場合でも、リトライ機能により自動的に再度バンド送りを行います。」と記載されている(甲18)。
オ 大阪厚生信用金庫ホームページには、信用金庫のインターネットバンキングシステム「WEB-FB」の機能について、「今回の新都度振込のリトライ機能追加により、残高不足等によりエラーとなった振込データは、リトライ可能時間までにエラー内容が解消された場合、再度登録をすることなく振込み処理が行われるようになります。」(甲19)と記載されている。
カ NTTコミュニケーションズ株式会社ホームページには、同社が提供する安否確認サービスにおける「リトライ機能」の説明として、「利用者が安否状況や一斉連絡に関連した情報登録がされない場合に、自動で再連絡する機能です。」と記載されている(甲20)。
(2)本号における取引者・需要者は指定商品の取引者・需要者であることを要件とするものではないこと
商標法第3条第1項第6号は、同項第1号から第5号までの総括条項であると解されており(特許庁編「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕1278頁」、小野昌延他「新・商標法概説【第2版】」134頁)、条文の文言においても「その商品」という限定はない。
したがって、指定商品の取引者・需要者を基準として行われることを必要とするという被請求人の主張は誤りである。
(3)被請求人の答弁に対して
被請求人は、「甲第15号証ないし甲第20号証は、本件商標の指定商品の商品分野とは全く関係のない」証拠であると主張するが、「インバータ」(甲15、甲31)は、本件商標の指定商品である。
次に、本件商標の需要者・取引者とは「配電用又は制御用の機械器具」等を利用する者である。そして、「ドキュメントスキャナー」(甲16)、「データサーバ用SSD」(甲17)、「新聞結束機」(甲18)には、本体あるいはそれに接続される機器に「電力を配給すること、制御することを目的とした機械器具」が搭載されていることが通常であるから、これらの取引者・需要者と重なっている。
他方、「銀行振込サービス」(甲19)、「安否確認サービス」(甲20)については、これらの制御がソフトウェアを活用して行われるものであるところ、電力を制御する場合における再動作もソフトウェアを活用して行われることがあるから、やはり本件商標の指定商品の取引者・需要者と重なっている。ここで、取引者・需要者の範囲は、指定商品の記載に厳密に限定されることはなく、商品の特性に応じて広く把握することが許されている(甲35)。
以上の例のように、他の商品分野(甲16?20)において「リトライ」が機能を表す用語として一般的に通用しており、その取引者・需要者が重なっている以上は、指定商品において「リトライ」に接した場合も同じように機能を表す用語として理解することになる。
したがって、商標「リトライ」は、「需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができない商標」に該当する。
なお、上記の議論は、他の指定商品「バルブ、バルブ用アクチュエータ」の技術者及び「タンク用水位制御弁」の取引者・需要者にも同じ様に当てはまる。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、機器やシステムが再試行する動作を示す用語として広く使われているものであるから、商標法第3条第1項第6号の「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」に該当し、商標登録を受けることができない。
4 商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、指定商品に使用するときは取引者・需要者が商品の品質の誤認を生じるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当し、商標登録を受けられないものである。
(1)本件商標はリトライ機能ないしリトライ動作をする商品であると認識させること
上記のとおり、本件商標の指定商品「バルブ,バルブ用アクチュエータ」との関係において、「リトライ」とは異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を示す用語を表すものとして、以前から使われてきたものである。
その結果として、指定商品の取引者・需要者の側からみた場合には、「リトライ」と表示されたバルブ又はバルブ用アクチュエータは、当該商品が異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を備える商品と認識する。
(2)指定商品にはリトライ機能を備えない商品も含まれること
本件商標の指定商品は「バルブ,バルブ用アクチュエータ」である。この中には、リトライ機能を備えるものと備えないものの両方が含まれる。
そして、後者に対し本件商標を付した場合には、取引者・需要者がリトライ機能を備えるものと誤認するおそれが高い。
(3)被請求人の答弁に対して
ア 従来は異物除去機能が存在しなかったとの主張について
被請求人は、「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」において、異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物除去機能が「従来から存在したとはいえず、その機能が『リトライ』と呼ばれていた事実も存しないことは明らかであり、本件商標が自他商品識別機能を備えていることは明白である」と主張する(12頁24行目?13頁2行目)。
しかし、仮に被請求人が主張するとおり、「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」において上記の異物除去機能が従来から存在しなかったとしても、そこから直ちに、本件商標が自他商品の識別機能を備えるという結論を導くことはできない。
すなわち、バルブ、バルブ用アクチュエータの取引者・需要者が、「3回のリトライを繰り返し」という表示(甲28)や、「業界初の自動リトライ(開閉)機能付」という表示(甲30)に接して最初に想起するのは、やはり再試行機能である。
イ 「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」という主張について
被請求人は、商標法第3条1項3号に反論を述べるのと同様に、「雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野」を前提とする主張を展開している。
しかし、指定商品を一方的に狭く定義し直し、その狭い定義を前提に第4条第1項第16号の該当性を否定する主張は、指定商品の一部に対する反論にすぎず、指定商品全体のうち他の部分については請求人の主張を認めたということになる。
ウ 請求人と東洋バルヴの関係に関する主張
請求人と東洋バルヴは、「リトライ\RETRY」が商標登録されていることを全く知らない状態で、カタログ等において、「リトライ機能」、「開閉動作をリトライし」、「開閉の再作動(リトライ)」というように、リトライを、本来の英語がもつ意味(甲36)に従って記述的に使用していたにすぎない(甲6?甲9)。請求人らにおいて、登録商標「リトライ\RETRY」を品質表示化させようとする意図など全くない。被請求人が、請求人及びその子会社である東洋バルヴと交渉したこと等の経緯は、本来、本件の無効理由とは全く関係がない。
(4)小括
以上より、本件商標は、指定商品に使用するときは、取引者・需要者が「商品の品質の誤認を生じるおそれがある商標」であるから、商標法第4条第1項第16号に該当し、商標登録を受けることができない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第16号証を提出している。
1 商標法第3条第1項第3号の規定への該当性について
本件商標は、商品の品質、効能(商品の機能・動作)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当せず、指定商品に使用された場合には、需要者・取引者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができ、自他商品の識別機能を充分果たすことができるものであって、商標法第3条第1項第3号の規定に該当しない。
(1)「リトライ」が商品の機能・動作等の品質・効能を示す用語として関連業界において一般に広く使われているものでないことについて
ア 取引の実情と被請求人による本件商標「リトライ」の採択・使用の経緯
(ア)被請求人である株式会社カワデンは、バルブ及びバルブ用アクチュエータ等のメーカーであり、1973(昭和48)年より40年以上に亘り事業を行ってきた(乙1(1頁))。
被請求人は、2011(平成23)年になって新たに、蝶バルブ(バタフライバルブ)を用いた小型の緊急遮断弁とそのアクチュエータを開発した。主な用途は、雨水槽の排水管、受水槽、貯水槽、浄水施設プール、工場・プラントの配管、発電所の冷却水配管といった水管の緊急遮断用である(乙1(3頁?17頁))。
被請求人は、その開発成果となる一部の発明を2011(平成23)年4月26日に特許出願(特願2011-97957)し、特許を得た(特許第5577534号:乙2)。
この特許出願とほぼ同時期、「リトライ」を上段に「RETRY」を下段に配してなる2段書きの商標(以下、商標「リトライ/RETRY」という)を指定商品「第6類 バルブ、バルブ用アクチュエータ」について2011(平成23)年4月8日に商標登録出願(商願2011-28358)し、同年10月7日に商標登録を得ている(商標登録第5442387号:乙3)。
本件商標は、その片仮名部分「リトライ」を指定商品の範囲を広げて新たに出願し登録を得たものである。
被請求人がこの商品開発をするまで、雨水槽等の排水管用として取引市場において販売されていた電動式緊急遮断弁としては、大型のナイフゲートバルブしか存在しなかった。
このナイフゲートバルブは、乙第4号証(4頁)における左方の写真のような、管との接続部(最下部)の上方に平板状の弁を収納する部分を有し、緊急時にその弁を下方に降ろして管内の流体の流れを遮断する機構を備えたバルブであり、その収納部のさらに上方に電動式のアクチュエータを有する大型で比較的高価なものである。
これに対し、被請求人が開発した緊急遮断弁は、関連商品分野で初めて弁に蝶バルブを採用したものである。蝶バルブは予め備え付けられた箇所(管内の流体の経路上)において90度回転することで弁の開閉を行うため、ナイフゲートバルブのように上方へ飛び出した弁の収納部が不要であり、管との接続部のすぐ上方にアクチュエータを設けることができるため、これによって小型で安価な緊急遮断弁の提供が可能となった。
ただ、被請求人が新たに開発したこの緊急遮断弁では、蝶バルブの回転により管の開閉が行われることから、管内の流体に異物が混入していた場合には、蝶バルブの回転の際にその異物が弁に噛み込み、弁の閉動作が完全に行われず流体の遮断が不完全になるケースが想定された。そこで、その噛み込みを防止するために、乙第2号証の特許技術が併せて開発されたものである。
一方、ナイフゲートバルブは、流体の流れる方向に直交する形で上方から下方へ瞬時に板状弁による遮断を行うため、このような異物の噛み込みが発生することはほとんどなかった。
被請求人は、自身の噛み込み防止技術が、異物を感知して弁の閉動作を再試行等するものであったため、そこから暗示を得て、商標として上記の「リトライ/RETRY」および「リトライ」を採択し、使用し始めたものである。
つまり、被請求人がこの蝶バルブを用いた緊急遮断弁を開発するまで、雨水槽等の排水管用の電動式緊急遮断弁の商品分野においては、閉動作の再試行といった概念は存在しなかったのであり、当然のごとく、それを言い表す語もなく、「リトライ」や「RETRY」という呼称が使用されることもなかったものである。
(イ)被請求人が新たに開発したこの緊急遮断弁は、従来品に比べて小型であり安価であることから好評を博し、東京スカイツリー等の大型施設に次々と採用されることとなり(乙1(2頁)、乙16)、関連商品分野において大きな注目を集めることとなった。
被請求人は、この新型緊急遮断弁を販売する際に、商標「リトライ/RETRY」および「リトライ」を積極的に活用し、少なくとも本件商標の登録査定時において、関連商品分野で「リトライ」あるいは「RETRY」といえば、被請求人の製造に係る、小型で比較的安価な緊急遮断弁を指すものとして認知されていた。
イ 請求人と東洋バルヴの行為について
(ア)このように、被請求人の開発・販売した商品が、「リトライ/RETRY」あるいは「リトライ」というブランドのもと好評を博していた中で、競合会社である請求人の株式会社キッツと、その完全子会社である東洋バルヴ株式会社(以下「東洋バルヴ」という)が2013(平成25)年7月ごろより類似品を製造販売し始め(乙5(11頁、12頁、14頁?21頁)、乙6(9頁?17頁))、「リトライ」を含んだ語をその類似品に使用し始めたものである。
被請求人は、商標「リトライ」を含む商標の使用を中止するよう両社に求めてきており(乙7:登録第5442387号取消審判において提出された乙10の写し)、東洋バルヴはある程度それに応じたものの(乙5(24頁、25頁):請求人の提出した甲8の商品カタログについて、ホームページへの掲載を現在中止している。)、請求人は応じず被請求人の商標権を尊重しない行為を続けているものである。
また、請求人は、一旦、口頭にて使用中止に応じる構えをみせながら(乙8および乙9:登録第5442387号取消審判において提出された乙12及び乙13の写し)、出し抜けに被請求人の登録商標第5442387号につき不使用取消審判を請求し、また今般、本件商標につき無効審判を請求してきたものである。
さらに、請求人は、被請求人が構築してきたグッドウィルを利用すべく、自社のハウスマークである「KITZ」に、請求人の商標「リトライ/RETRY」を組み合わせた商標を出願し(商願2014-82993:乙10、商願2015-18583/商標登録第5755721号:乙11)、商標登録制度を逆手にとり、被請求人の商標権を全く尊重しない自身の行為を正当化しようとしている。
(イ)なお、請求人と東洋バルヴの関係について、東洋バルヴは、請求人である株式会社キッツの100%子会社であり、東洋バルヴの取締役のうち2名が請求人会社の取締役であって、2004(平成16)年より、東洋バルヴは請求人によって資本的・人的な支配を受けている(乙5及び乙6)。
2012(平成24)年からは、生産部門を株式会社キッツに分割移管し(乙5)、それ以来、請求人の製造に係る商品を販売する会社として、東洋バルヴは、いわば、請求人と一心同体の関係にある。商標等の知的財産に関する会社方針についても、請求人の指揮下にある。
このことは、東洋バルヴのハウスマーク等を請求人が有していることからも明らかである(商標登録第180037号、同第786094号、同第1646906号、第5565898号ほか:乙12?乙15)。
(ウ)このように、東洋バルヴは請求人の意向に沿って商品カタログ等の作成・配布をも行っていると強く推認されるところであり、請求人と東洋バルヴが「リトライ」を含む語を使用しているのは、被請求人が有する本件商標「リトライ」と登録商標「リトライ/RETRY」を品質表示化させようとする請求人の意図によるものであることが明らかである。
よって、請求人の提出した甲第6号証ないし甲第9号証は、関連商品分野の取引実情を窺い知るには客観性に欠けた不適当な書証であり、本件商標「リトライ」がその登録査定時において商品の機能・動作等の品質や効能を示す用語であったかどうかの判断において参酌されるべきではない。
ウ 本件商標が商品の品質・効能を示す用語として関連商品分野において一般に広く使われているのかという点について
(ア)そもそも、請求人も甲第3号証で疎明する通り、日本バルブ工業界の会員企業は、正会員(請求人、東洋バルヴは正会員)と賛助会員(被請求人、西部電機株式会社は賛助会員)を合わせて182社にのぼるところ、その中で、請求人、東洋バルヴ及び西部電機株式会社の3社のみが「リトライ」を含む語を、ごく例外的に使用しているにすぎない。
これをもって、本件商標「リトライ」が商品の品質・効能を示す用語として関連商品分野において一般に広く使われているとは到底いえないところである。
また、そのうち、請求人及び東洋バルヴの2社による使用実績は、上記したように、本件商標が商品の品質・効能を示す用語として関連商品分野において一般に広く使われていたことの参考にはならない。
また、残る西部電機株式会社も、甲第4号証、甲第5号証にあるように、「トルクリトライ」というものを使用しているのであり、これも、「リトライ」という本件商標が商品の品質・効能を示す用語として関連商品分野において一般に広く使われていたことの根拠にはならない。
(イ)このように、「リトライ」が商品の機能・動作等の品質・効能を示す用語として関連商品分野において使われていたとは到底いえないところである。
(2)請求人の主張に対して
ア 請求人は、「一般にバルブ(弁)においては、流体中に異物があると、閉動作の際に、異物噛み込みによる閉止不全が問題となる。」と述べ、「以前から、異物の噛み込みを自動検知して自動的にバルブの駆動を停止する技術や、自動的にバルブの動作を逆転させて噛み込みを解除し、異物が流下するのを待って、再び自動的に閉動作を行うという技術があった。そのような機能ないし動作の呼び方として、かねてから「リトライ」という用語が使われている。」との記述をして、あたかも、そのような機能が本件商標の指定商品の関連商品分野において従来から存在し、その機能が「リトライ」と呼ばれていたかのような印象を与えようとしている。
しかし、上記のとおり、取引の実情と被請求人による本件商標「リトライ」の採択・使用の経緯から、そのような機能が本件商標の指定商品の関連商品分野において従来から存在したとは到底いえず、その機能が広く一般に「リトライ」と呼ばれていた事実も存しないものである。
よって、この点についての、請求人の主張は全く失当である。
イ 請求人は、「『リトライ』が各種の特許明細書の中で異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を示す用語として使われている」と述べる。
しかし、これらは、本件商標の指定商品の分野とは全く異なる商品分野において「リトライ」を含む語が特許明細書に使用された例があることを示すにすぎない。
自他商品の識別力を判断する上で勘案されるべき、指定商品の関連商品分野についての取引実情を示すものでもなければ、実際の取引にその語が使用されていたことを示すものでもない。
具体的に見ると、甲第10号証はガス遮断弁ユニットに関するものであり、甲第11号証は給湯器に関するものである。
甲第12号証はガス遮断装置、甲13号証は冷凍装置の運転制御装置、甲第14号証は燃料電池システムに関するものであり、本件商標の指定商品の商品分野である雨水槽の排水管等の水管用緊急遮断用バルブの分野とは全く商品分野が異なるものである。
ある商標がその指定商品について自他商品識別力を有するかどうかは、その指定商品が関係する商品分野の需要者・取引者を基準として判断されるべきであり、異なる商品分野の需要者・取引者が基準とされるべきではない。
この点において、請求人は、商標法第3条第1項第3号の規定の趣旨及び一般的な解釈を逸脱した主張をしている。
また、そもそも、特許明細書に記載されているからといって、その用語が実際の商品取引に使用されているという必然性もなく、実際の商品取引における需要者・取引者がどのように認識しているのかは、請求人提出の書証からは不明である。
よって、上記の請求人の主張も失当といわざるをえない。
(3)小括
以上に述べたように、本件商標が自他商品の識別機能を果たしえず商標法第3条第1項第3号の規定に該当するとの請求人の主張は、何ら根拠がなく失当である。
本件商標は、自他商品の識別力を充分備えており、商標法第3条第1項第3号の規定に該当しない。
2 商標法第3条第1項第6号の規定への該当性について
(1)本件商標は、その指定商品の関連商品分野において、機器やシステムが再試行する機能を示す用語として広く用いられているとはいえず、需要者・取引者はこれによって何人かの業務に係る商品であることを充分認識できるから、商標法第3条第1項第6号の規定にも該当しない。
(2)請求人は、「広く産業分野で使われている用語「リトライ」を、被請求人において独占使用させることは明らかに不適当であって、断じて許されるべきではない」と述べ、その根拠として、甲第15号証ないし甲第20号証を提出する。
しかし、これらは、本件商標の指定商品の商品分野とは全く関係のないインバータ、ドキュメントスキャナー、データサーバ用SSD、新聞結束機、銀行振込サービス、安否確認サービスに関するものであり、しかも、数多ある商品分野のごく一部の商品分野での使用例にすぎない。
(3)本件商標が商標法第3条第1項第6号の規定に該当するか否かは、本件商標の指定商品の需要者・取引者を基準として行われるべきことは、上記した商標法第3条第1項第3号の規定の判断基準と変わるところがないから、他の商品分野、しかも、ごく一部の商品分野の事情を根拠とする請求人の主張は全く失当である。
3 商標法第4条第1項第16号の規定への該当性について
(1)本件商標は、その指定商品についての出所標識と需要者・取引者に受け止められるものであり、何らかの商品の品質を示す表示とは認識されない。
したがって、需要者・取引者がその品質について誤認が生じることはありえず、商標法第4条第1項第16号の規定に該当しない。
(2)請求人は、「『リトライ』とは異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物の除去機能ないしその動作を示す用語を表すものとして、以前から使われてきたもの」であり「その結果として、指定商品の取引者・需要者の側からみた場合には、「リトライ」と表示されたバルブ又はバルブ用アクチュエータは、当該商品が異物噛み込み検知と閉動作のやり直しによる異物除去機能ないしその動作を備える商品と認識する。」と述べる。
しかし、上記した取引の実情と被請求人による本件商標「リトライ」の採択・使用の経緯から、そのような機能が本件商標の指定商品の関連商品分野において従来から存在したとはいえず、その機能が広く一般に「リトライ」と呼ばれていた事実も存しないことは明らかであり、本件商標が自他商品識別力を備えていることは明白である。
よって、本件商標は「異物除去機能ないしその動作を備える商品」であるとの一般用語として需要者・取引者に受け止められるのではなく、被請求人の出所標識として認識されるものであるから、商品の品質について誤認を生ずるとの請求人の主張も失当である。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同6号および同法第4条第1項第16号のいずれにも違反せず登録されたものと認められるから、その登録は同法第46条第1項第1号によって無効にされるべきでないことが明らかである。

第4 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)請求人提出の証拠(各項の括弧内に掲記)によれば、以下のとおりである。
ア 被請求人のウェブサイトの製品カタログには、被請求人が電動バタフライバルブを製造・販売していることが掲載されている(甲2)。
イ 一般社団法人日本バルブ工業界のウェブサイトの会員企業紹介には、正会員企業紹介として、平成26年11月1日現在117社(東京支部:54社、東海支部:11社、彦根支部:10社、近畿支部:42社)と記載されている(甲3)。
ウ 西部電機株式会社の商品「インテリジェントバルブアクチュエータ Semflex」の製品カタログには、「3.7 トルクリトライ(障害物除去機能) バルブ駆動時の障害物噛み込み時の排除などの目的には、トルクリトライ機能が有効です。障害物噛み混みを検知後、複数回の開閉動作により、障害物の除去を試みます。」と記載されている(甲4)。
エ 「配管技術 2008年11月号」には、前記西部電機株式会社の社員の記事が掲載され、「インテリジェントバルブアクチュエータ」について、「(3) トルクリトライ(障害物除去機能) バルブ駆動時の障害物噛み込み時の排除などの目的には、トルクリトライ機能が有効である。障害物噛み混みを検知後、複数回の開閉動作により、障害物の除去を試みる(第8図参照)。」と記載されている(甲5)。
オ 商工経済新聞社の記事「NewProducts 2014.3.12」には、東洋バルヴの雨水制御用電動バタフライバルブについて、「今回発売した製品は、バタフライバルブ弁の異物噛み込みによる弱点を補完したもので、万一の噛み込み時は、(a)弁体が噛み込んだ開度位置から開方向への揺動を繰り返す動作(リトライ機能)を行って異物を取り除くアクションをする」と記載されている(甲6)。
カ 「建築設備フォーラム 2014.03.05 新製品ニュース」には、「東洋バルヴ(株) 雨水制御用の『電動バタフライバルブ』」と題して、「東洋バルヴ(株)は、雨水制御用の『電動バタフライバルブ』を開発し、販売を開始した。『電動バタフライバルブ』は、雨水排水配管に適した小型・軽量の製品で、異物噛み込みを検知した場合、開閉動作をリトライして異物を流す機能を持っており、異物が除去できない場合は、電気信号を出力する。」と記載されている(甲7)。
キ 東洋バルヴ株式会社の製品カタログには、「雨水制御用 電動ゴムシート中心形 バタフライバルブ(シート噛み込みリトライ・検知出力型)」と記載されている(甲8)。
ク 請求人(株式会社キッツ)の製品カタログには、「雨水制御用 電動バタフライバルブ ○噛み込み検知機能搭載! 万が一、異物を噛み込んだ場合→(a)開閉の再作動(リトライ)(b)検知・出力」と記載されている(甲9)。
ケ 株式会社エム・システム技研の電動アクチュエータ製品カタログには、「Motor Deadlock」の意味として「Retryで設定された回転を連続してモータがリトライに失敗した場合にモータロックとなり、モータへ給電を停止します。」、「Retry」の意味として「モータ起動不良時のリトライ回数設定」と記載されている(甲34)。
コ 公開特許公報には、特許請求の範囲等発明の説明において「リトライ」の語が使用されている(甲10?甲14)。
(2)上記(1)によれば、以下のとおり認めることができる。
ア 「リトライ」の語が商品の品質を表すものであるか否かについて
本件商標は、前記第1のとおり、「リトライ」の文字からなるところ、「リトライ」の語は、「…を再び試みる、再試行する」の意味を有するものであるが、請求人が主張する、異物の噛み込みを自動検知して自動的にバルブの駆動を停止することや自動的にバルブの動作を逆転させて噛み込みを解除し、異物が流下するのを待って、再び自動的に閉動作を行う機能及び動作の呼び方の意味合いを「リトライ」の文字のみをもって容易に認識し得るものとはいい難いものである。
そうとすれば、「リトライ」の語は、その構成全体を持って具体的な機能や動作を認識させるものではなく、「再び試みる」ほどの意味合いで漠然としたものとして理解されるといわざるを得ない。
したがって、本件商標の「リトライ」の文字が、特定の商品の品質を具体的に表示するものとして、直ちに理解されるものとはいえない。
イ 「リトライ」の語が商品の品質を表すものとして、当業界において認識されているか否かについて
(ア)請求人提出に係る甲第4号証及び甲第5号証には、西部電機株式会社の製品に「トルクリトライ」の語が障害物除去機能を表す用語として使用されているが、「バルブ駆動時の障害物噛み込み時の排除などの目的には、トルクリトライ機能が有効です。」と説明されているように、障害物除去機能を意味する語として同社により使用されているのは「トルクリトライ」であり、「リトライ」の用例であるとはいえないものである。
(イ)甲第6号証ないし甲第9号証及び甲第34号証は、請求人(株式会社キッツ)及び請求人のグループ会社(東洋バルヴ株式会社)並びに株式会社エム・システム技研において、「リトライ」の語が使用されていることは認められるが、請求人が主張する当業界(一般社団法人日本バルブ工業会の正会員及び賛助会員だけでも180社)での使用は、請求人(グループ会社を含む)、被請求人を除くと、上記株式会社エム・システム技研のみであり、西部電機株式会社においては「トルクリトライ」の使用であるから、これをもって「リトライ」の語が商品の品質を示す語として、当業界において一般に広く使用されているとはいえないものである。
(ウ)甲第10号証ないし甲第14号証の特許公開公報において、請求の範囲等の説明に「リトライ」の語が使用されていることが認められるが、これらは「ガス遮断弁ユニット」「給湯器」「流体遮断装置」「冷凍装置の運転制御装置」「燃料電池システム」について説明する用語として、「リトライ」の用語が記述的に使用されているにすぎないものであって、それも他の語と連綴した熟語として使用されているものも多く、「リトライ」の語のみをもって本件商標の指定商品の具体的な機能、動作又は品質を具体的に表すものと認識させるような内容とまではいえないものである。
(エ)そうとすれば、請求人の提出したこれらの証拠をもってしては、本件商標の登録査定時において、「リトライ」の語が本件指定商品の品質等を表示するためのものとして、当業界において普通に使用され、一般に広く認識されていたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおり、本件商標は、「リトライ」の語が「…を再び試みる、再試行する」の意味を有する語であり、前記の如く、請求人、請求人のグループ会社及び一部の事業者において使用されているとしても、これが特定の商品の品質等を具体的に表したものとして理解されるとは言い難く、また、「リトライ」の語のみをもってそのように用いられている証左も見いだせない。
してみれば、本件商標は、その指定商品に使用した場合、商品の品質等を具体的に表示したものとはいえず、自他商品の識別標識として機能し得るものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものではない。
2 商標法第3条第1項第6号該当性について
請求人は、「リトライ」は機器やシステムが再試行する機能を示すものとして産業分野で広く使われている(甲15?甲20)ものであるから、需要者は何人かの業務に係る商品であることを認識できないし、広く産業分野で使われている用語「リトライ」を、被請求人において独占使用させることは不適当である旨主張している。
しかしながら、商標法第3条第1項第6号は、「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と規定されているところ、本件商標を構成する「リトライ」の文字は、前記したように、「…を再び試みる、再試行する」ほどの意味合いを認識させるものの、請求人提出の証拠のみをもって、この語のみで商品に関する内容を記述的、一般的に説明したりする用語というほどに広く一般に使用されているとまではいえず、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識し得ないとすべき何らかの理由を見いだすこともできない。
そうすると、本件商標は、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、その指定商品の需要者等において、他人の業務に係る同種商品と識別できるというのが相当であるから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標とはいうことはできない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第6号に違反してされたものではない。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標については、公益に反するとの趣旨から、商標登録を受けることができない旨規定されている。
同趣旨に照らすならば、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とは、指定商品に係る取引の実情の下で、取引者又は需要者において、当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品とが異なるため、商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。
本件についてみると、本件商標は、上記のとおり、「リトライ」の文字部分が商品の品質として認識し得ないものであるから、同商標を付した商品の品質について誤認を生じさせるおそれもないというべきである。
したがって、本件商標は、その指定商品との関係において、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標ということはできないから、その登録は、商標法第4条第1項第16号に違反してされたものではない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項に基づき、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-01-28 
結審通知日 2016-02-02 
審決日 2016-03-10 
出願番号 商願2014-78491(T2014-78491) 
審決分類 T 1 11・ 272- Y (W060911)
T 1 11・ 13- Y (W060911)
T 1 11・ 16- Y (W060911)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩崎 安子 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 今田 三男
藤田 和美
登録日 2015-02-20 
登録番号 商標登録第5741968号(T5741968) 
商標の称呼 リトライ 
代理人 鮫島 正洋 
代理人 山口 建章 
代理人 川崎 実夫 
代理人 竹原 懋 
代理人 高見 憲 
代理人 稲岡 耕作 

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