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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X28
審判 全部無効  無効としない X28
管理番号 1311974 
審判番号 無効2013-890005 
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-01-28 
確定日 2016-03-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5142685号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成25年7月5日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10226号 平成26年3月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求中、商標法第4条第1項第10号を理由とする請求は却下する。その余の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5142685号商標(以下「本件商標」という。)は、「KAMUI」の文字を標準文字で書してなり、平成19年4月23日に登録出願、第28類「運動用具」を指定商品として、同20年6月2日に登録査定、同月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号又は同項第10号に該当するとして、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第21号証(枝番号を含む。)を提出した。
(審決注)請求人がゴルフクラブ等に使用する商標について
請求人がその業務に係るゴルフクラブ等に使用する商標は、以下の(1)ないし(5)のとおり、「KAMUIPRO」の文字よりなる商標のほか、「KAMUI」の文字よりなる商標、「K∧MUI」の文字よりなる商標、「K∧MUI」の文字とくさび形図形を組み合わせた商標、「TYPHOONPRO」の文字よりなる商標、「KAMUI TYPHOONPRO」の文字よりなる商標などがあり、例えば、請求人のいう“「KAMUI」の文字単体よりなる商標”、“「KAMUI」の商標”が、上記のどれを指しているのかは判然としないが、本審決においては、上記の商標については、次のとおり表記して、文脈や証拠から判断して使い分けることとする。
(1)「KAMUI」の文字単体よりなる商標については、以下、「KAMUI」商標
(2)「K∧MUI」の文字単体よりなる商標については、以下、「K∧MUI」商標
(3)上記(1)及び(2)のように「KAMUI」及び「K∧MUI」の文字単体よりなる商標を総称する場合は、以下、「KAMUI」単体商標
(4)「K∧MUI」の文字とくさび形図形を組み合わせた商標については、以下、「K∧MUI+くさび図形」商標
(5)その他、「KAMUIPRO」の文字よりなる商標、「TYPHOONPRO」の文字よりなる商標、「KAMUI TYPHOONPRO」の文字よりなる商標については、以下、それぞれ「KAMUIPRO」商標、「TYPHOONPRO」商標、「KAMUI TYPHOONPRO」商標
1 事実の経緯
(1)請求人と商標権者(以下「被請求人」という。)の共同事業(平成6年2月ないし同8年2月ころ)
ア ゴルフクラブの問屋であった請求人とゴルフクラブの製造修理業者であった被請求人(当時は「株式会社北陸ゴルフ製作所」)とは、平成6年2月1日付けで「カムイクラフト」と称する共同企業体を結成して、共同してゴルフクラブの開発・製造・販売を行い、共同事業から生じた利益、欠損はいずれも両者平等に帰属することとされていた(甲2)。このときに製造販売を予定したゴルフクラブが「KAMUIPRO」、「カムイプロ」であり、同月28日に両者共同で「KAMUIPRO」商標の登録出願を行い、同商標は、登録第3357402号として登録され、現在も存続している(甲3-1)。
イ 共同事業は、約1年間で破綻が生じ、平成7年2月21日には、仕入れも売り上げも請求人と被請求人別々とし、さらに、カムイの新製品については、各々の会社が権利を有することが約された(甲4)。なお、請求人は、このころ「KAMUIPRO」商標以外に、「KAMUI」単体商標を付したゴルフクラブを販売しており、被請求人は、「KAMUIPRO」商標を付したゴルフクラブを販売していた。共同事業を解消するに際して、上記「カムイの新製品については、各々の会社が権利を有する」としたのは、「KAMUI」単体商標は、請求人に権利があると約束したにほかならない。実際、被請求人は、後記(4)イのとおり、株式会社卑弥呼(以下「卑弥呼」という。)の所有する「CAMUI」の文字よりなる商標(甲3-4、以下、「CAMUI」商標という。)の登録を取り消し、本件商標の登録を得てその使用を開始するまで「KAMUI」商標を使用したことはない。
ウ 請求人と被請求人は、株式会社タカギセイコー(以下「タカギセイコー」という。)に、「KAMUIPRO」商標及び「カムイプロ」商標のゴルフクラブヘッドの一部分の製造を委託していたが、被請求人が、平成7年8月30日、これら商標のゴルフクラブヘッドの金型の被請求人持分50%を根拠として、同社に対して金型の使用禁止を通告したために(甲5-1)、タカギセイコーは、これら商標のゴルフクラブヘッドを請求人に納入しなくなった。そこで、請求人は、同年10月、被請求人及びタカギセイコーを債務者として仮処分命令の申立てをし(甲5-2)、勝訴的和解をした(甲5-3)。和解条項三では、今後、タカギセイコーが被請求人との間で「カムイ」に類する名称を付したゴルフクラブヘッドを製作する場合は、請求人は、タカギセイコーに対する法的責任は追及しないが、被請求人に対する法的責任の追及を阻害するものではないとしており、したがって、被請求人が「カムイ」に類する名称を使用する行為に対して、請求人は法的責任を追及できる。
エ 平成8年、請求人と被請求人は、それぞれの取引先に対して、共同事業の解消を通知した。被請求人は、「カムイプロ」を改め「カムイツアー」に変更することを通知し(甲6の2)、請求人は、被請求人とは別に「カムイプロ」を販売していくことを通知した(甲6の1)。
(2)共同事業解消後に請求人と被請求人が使用した商標(平成8年3月?)
ア 上記(1)エのとおり、被請求人は、「カムイプロ」の商標を付したゴルフクラブの販売を中止して「カムイツアー」の商標を付したゴルフクラブの販売に変更した。なお、平成9年4月2日付け北日本新聞(甲7)の記事には、同6年2月から「カムイツアー」の商標であったように記載されているが、共同事業解消後に「カムイツアー」の商標を付したゴルフクラブの販売に変更したものである。上記記事に「長い付き合いのある問屋との共同開発」とあるのは、請求人のことであり、その末尾には「カムイ」が請求人代表者の発案によるネーミングであることが記載されている。被請求人は、同7年8月24日に、「KAMUITOUR」の文字よりなる商標(以下「KAMUITOUR」商標という。)の登録出願をし、同9年12月26日にその登録を得た(甲3-2)。
イ 請求人は、「KAMUI」単体商標をそのゴルフクラブのトータルブランドとして採択し、「KAMUI」単体商標、「KAMUIPRO」商標の使用を継続するとともに、新たに「TYPHOONPRO」商標(甲3-3)の使用を開始し、それらゴルフ用品の販売会社として、平成8年12月25日に有限会社カムイ(以下「カムイ社」という。)を設立した(甲8)。
請求人は、「KAMUI」商標について、登録出願をしたが、卑弥呼所有の「CAMUI」商標を引例として登録が拒絶されたので、卑弥呼から使用許諾を得た(甲9)。当該使用許諾契約に際しては、その第10条において、「CAMUI」商標に対する不争義務を負担している。
請求人は、2000年(平成12年)のカタログにおいて、「KAMUI」単体商標、「KAMUIPRO」商標、「TYPHOONPRO」商標及び「K∧MUI+くさび図形」商標を使用している(甲10)。また、カタログには掲載されていないが、「KAMUI TYPHOONPRO」商標も使用し(甲11-1 審決注:甲11-1には「カムイタイフーンプロ」と表記されている。)、請求人は、その取り扱う全てのゴルフクラブに「KAMUI」単体商標を付してきた。
(3)韓国における争い(平成9年ないし同15年)
請求人と被請求人の間には、韓国において「KAMUI」商標等について争いがあった。当時の韓国において、被請求人は、「KAMUITOUR」商標でゴルフクラブを販売しており、請求人は、「KAMUIPRO」商標、「KAMUI」単体商標、「TYPHOONPRO」商標及び「KAMUI TYPHOONPRO」商標でこれを販売していた。
両者は、ともに韓国において登録商標を有していなかったが、請求人の韓国における販売代理店であるキムスクラブの代表理事A氏の名義で「KAMUIPRO」の文字よりなる商標(以下「韓国KAMUIPRO」商標という。)を有していた。
ところが、被請求人は、韓国において、自己の使用する「KAMUITOUR」の文字からなる商標のみでなく、請求人が使用していた「KAMUIPRO」の文字からなる商標及び「KAMUI」の文字からなる商標も韓国に出願し(甲16ないし甲18)、これらの商標出願が、「韓国KAMUIPRO」商標を引例として拒絶されると、「韓国KAMUIPRO」商標に対して無効審判を請求してその登録を無効にした(甲15)。この審決をうけて、キムスクラブが審決取消訴訟を起すとともに、請求人は、韓国における市場を守るために、韓国特許庁に「KAMUI」の文字からなる商標の出願をしたが、「韓国KAMUIPRO」商標の無効が確定してから約5ヶ月後に、請求人の出願に対しても、被請求人の上記3件の出願同様の拒絶理由が通知された。かかる状況において、請求人代理人は、当該出願を引例商標の出願当時の商標権者であるA氏に譲渡して登録を得た後に請求人に移転する方法を提案したが、上記出願に対して、「需要者に広く知られている日本の中条社の『KAMUIPRO』と同一又は類似であるから韓国商標法第7条第1項第11号に該当する。」旨の拒絶理由を通知され、請求人代理人は、その拒絶理由を覆すことは困難と判断して、独断で請求人名義の新出願を行った。このような経緯で、韓国において、請求人に「KAMUI」の文字からなる商標(以下「韓国KAMUI」商標という。)の登録がされた(甲19)。
被請求人が、請求人だけが使用していた「KAMUIPRO」の文字からなる商標及び「KAMUI」の文字からなる商標を韓国に出願し、加えて「韓国KAMUIPRO」商標の登録を無効にしたのは、請求人の「KAMUIPRO」商標、「KAMUI」商標のゴルフクラブを韓国市場から排除しようとしたからにほかならない。
以上の経緯があるところへ、請求人名義の「韓国KAMUI」商標が設定登録されたので、請求人とキムスクラブは、被請求人の「KAMUITOUR」商標の使用に異議を述べようということになり、請求人名義でショップやデパートに警告状を送付した。その結果、被請求人は、「KAMUITOUR」商標のゴルフクラブについて韓国市場からの撤退を余儀なくされた。
(4)被請求人による本件商標の取得及び本件商標を付したゴルフクラブの発売開始
以上のとおり、韓国において、先に被請求人が請求人ないしキムスクラブを攻撃したので、請求人も、被請求人の「KAMUITOUR」商標の使用の排除を求めたものであるのに、被請求人は、それを逆恨みして、以下のとおり、日本において、「KAMUI320」のヒットにより確固たる地位を築いていた請求人商品を排除することを企てた。
ア 被請求人は、平成19年4月23日に本件商標を出願し、翌年6月20日に登録を得た(甲1)。
イ 被請求人は、平成19年4月24日に卑弥呼所有の「CAMUI」商標に対し、不使用取消審判を請求して、同20年3月18日に、取消審決を得た(甲13)。「CAMUI」商標の通常使用権者である請求人が、ゴルフクラブに使用している商標は「KAMUI」商標であって、「CAMUI」商標とは社会通念上同一の商標ではないので、請求人の使用をもって不使用取消審判に対抗することはできなかった。
また、請求人は、卑弥呼に対して「CAMUI」商標の不争義務を負担しているので、これを取り消すことはできなかった。
ウ 本件商標の登録後、被請求人は、請求人の「KAMUI」商標と酷似する書体の「KAMUI」の文字からなる商標を、請求人が使用しているくさび形図形と同色のくさび形図形を併記して使用を開始し(甲10、12)、請求人に対して、「KAMUI」商標等の使用中止を警告した(甲14)。
エ 被請求人は、請求人の「KAMUI」商標等を付したゴルフクラブを日本市場から排除するために、商標権侵害差止等請求訴訟(平成22年(ワ)第32483号、以下、「カムイ訴訟」という場合もある。)を提起した(甲21)。
(5)カムイ訴訟における被請求人の全面敗訴(甲21)
カムイ訴訟は、被請求人(原告)が、請求人を被告として、本件登録第5142685号商標の存在を根拠に判決別紙被告標章目録記載1?5の標章(以下「被告標章1」などのように表記する。)の使用の中止を求めたものである。
ア 第一審の東京地裁判決において、被告標章1?3(審決注:「KAMUI」単体商標)は、需要者の間に広く認識されていたとして、被告(請求人)に先使用権を認め、被告標章4(審決注:「KAMUI TyphoonPro」商標)、被告標章5(審決注:「K∧MUI」と「PRO」の二段併記の商標)は、それらの周知性についての具体的な主張、立証がないから先使用権を認めることはできないが、原告(被請求人)の権利の行使は、権利濫用に該当して認められないと判示して、原告(被請求人)の訴えを全面的に斥けた(甲21-1)。
イ 被請求人が控訴した控訴審判決は、被告標章1?3につき、被控訴人(請求人)に先使用権を認め、被告標章4につき、被控訴人が使用した事実は認定できないとし、被告標章5につき、被控訴人が控訴人(被請求人)と共有する「KAMUIPRO」標章の使用であるから権利侵害にならない、として控訴を棄却した(甲21-2)ものである。
2 商標法第4条第1項第7号
被請求人は、請求人が「KAMUI」単体商標を使用してゴルフクラブを販売し、確固たる基礎を築いている事実を知りながら、本件商標を出願するとともに卑弥呼所有の「CAMUI」商標に不使用取消審判を請求してこれを取り消し(甲13)、本件商標の登録を得た(甲1)。
これは他人の商標の無断剽窃に該当する。しかも、被請求人による本件商標の登録は、共同事業を解消するに際しての「カムイの新製品については、各々の会社が権利を有する」(甲4)との約束に違反して、請求人の権利を侵害するものであり、また、富山地裁における裁判上の和解条項三の、被請求人が「カムイ」に類する名称を付したゴルフクラブヘッドを製作する場合は、請求人は、タカギセイコーに対する法的責任は追及しないが、被請求人に対して法的責任を追及する権利を失わない(甲5-3)に照らして、請求人から法的責任を追及されるべきものであり、さらに、韓国における争いに報復するために、請求人の業務を妨害しその業務上の信用の横取りをもくろんだものであり、公正な競業秩序を蹂躙するものであるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号該当として無効にされるべきものである。
カムイ訴訟においても、東京地裁判決(甲21-1)は、請求人(被告)に先使用権を認めない被告標章4及び5について、被請求人(原告)が本件商標権を取得したのは、韓国における争いに報復する目的であったと認定しており、その権利行使は正当な権利の行使とは認められないから権利濫用に該当するとしている。
3 商標法第4条第1項第10号
請求人は、平成8年以前から、「KAMUIPRO」商標以外に、「KAMUI」単体商標、「TYPHOONPRO」商標、「KAMUI TYPHOONPRO」商標の使用を開始し、現在も使用を継続している。本件商標の登録出願時までの使用実績のうち立証できるものは、以下のとおりである。
(1)カムイ社の売り上げ
請求人の「KAMUI」ゴルフクラブの銘柄別の売り上げは、甲第11号証-1のとおりである。これによれば、2001年?2002年は「カムイ320シリーズ」が爆発的にヒットし、続いて「カムイタイフーンプロ380」、「カムイ430シリーズ」が堅調な売れ行きを示し、2007年?2008年は「カムイTP-03シリーズ」がヒットした。カムイ訴訟において、被請求人が、売上本数(甲11-1)が信用できないと主張したので、最も数量の多い2001年(平成13年)の11,720本の明細を提出したところ、被請求人が他の年の明細の提出を求めたので、2004年(同16年)と2005年(同17年)の売上げ明細を提出した。本件審判では、前者は膨大な量であり、すでに被請求人に提出しているので、後者のみ提出する(甲11-1-1ないし甲11-1-9)。
カムイ社の売り上げは、以下のとおりであり、本件商標の登録出願直近において年間約1億2,000万円?2億円を売り上げていた。カムイ社は、請求人の販売会社であり、売り上げのすべては請求人の「KAMUI」ゴルフクラブのものである(金額は、千円以下切り捨て)。
ア 平成15年12月21日?1年間・・1億7,455万円(甲11-2)
イ 平成16年12月21日?1年間・・1億2,026万円(甲11-3)
ウ 平成17年12月21日?1年間・・1億1,826万円(甲11-4)
エ 平成18年12月21日?1年間・・1億9,888万円(甲11-5)
(2)ゴルフ雑誌の記事
「KAMUI」単体商標等を付したゴルフクラブについて、「月刊ゴルフメイト」(2001年(平成13年)8月発行:甲11-6)、「GOLF DIGEST」(2001年10月(同13年)発行:甲11-7)、「週刊ゴルフダイジェスト」(2002年(同14年)10月発行:甲11-8)、「Golf Classic」(2002年(同14年)発行:甲11-9)、「Choice」(2002年(同14年)11月発行:甲11-10)、「GOLF DIGEST」(2004年(同16年)2月発行:甲11-11)、「読売新聞」(2006年(同18年)10月発行:甲11-12)、「ゴルフ用品界」(2007年(同19年)1月発行:甲11-13)に記事が掲載された。
(3)ゴルフダイジェストドラコン日本選手権に協賛(甲11-14)
請求人は、株式会社ゴルフダイジェスト社主催の「ゴルフダイジェスト ドラコン日本選手権」の協賛企業であり、2007年(平成19年)大会においては、そのパンフレット等に協賛企業として請求人が記載され、「K∧MUI」商標(審決注:「K∧MUI+くさび図形」商標)が広告宣伝された。同大会地区予選の模様は、平成18年?同20年の毎9月に、富山テレビ放送局等によってテレビ放送もされた。
(4)「ゴルフ用品界」(甲11-15ないし甲11-30)
月刊誌「ゴルフ用品界」は、発行数1万部/月を誇るゴルフ用品専門経済誌であるが、請求人は、同誌に定期的に広告をし、また、記事として取り上げられている。同誌には「定店観測」という人気コンテンツがあり、全国の有力販売店の売れ筋情報が掲載されているが、請求人の「KAMUI」単体商標等を付したゴルフクラブは、ミズノやブリヂストン等の大手メーカーと並んでウッドベスト5に常連としてランクインしている。
(5)多数のプロゴルファーが使用(甲11-31)
請求人の「KAMUI」ゴルフクラブは、多数のプロゴルファーによって使用されている。
(6)請求人のゴルフクラブへの「KAMUI」単体商標等の使用状況
甲11-1に記載のゴルフクラブの実際の使用状況は、次のとおりである。
ア 「カムイ320シリーズ」(甲11-6、甲11-7、甲11-10)
イ 「カムイタイフーンプロシリーズ(380を除く)(甲10、甲11-7、甲11-20)
ウ 「カムイタイフーンプロ380」(甲11-8、甲11-9、甲11-11)
エ 「カムイRDII(ローマ数字の2、以下同じ)シリーズ」(甲11-30)
オ カムイ430シリーズ(甲11-12、甲11-18、甲11-19、甲11-22ないし甲11-29)
カ 「カムイTP-03シリーズ」(甲11-14)
(7)以上の事実からすれば、請求人の「KAMUI」単体商標は、ゴルフ用品の需要者間に広く知られていたから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号該当として無効にされるべきものである。
前掲カムイ訴訟判決は、本件商標の登録出願時点において、請求人の「KAMUI」の標章は、その製造・販売するゴルフクラブ及びその関連用品であるキャディバッグを表示するものとして広く知られていたと認定した(甲21-1)。また、同訴訟控訴審の知財高裁判決(甲21-2)も同様である。

第3 被請求人の主張
被請求人は、(主位的に)本件審判の請求を却下する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を、(予備的に)仮に、本件審判の請求を却下すべきでない場合には、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出した。
1 本案前の答弁
請求人は、平成21年7月2日に、本件商標の登録を無効にすることについての審判を請求し、特許庁は、当該請求を無効2009-890077(以下「前審判」という。)として審理し、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」と審決(以下「前審決」という。)し、同22年6月10日に確定した。
本件審判の請求は、次に述べるとおり、前審判の請求と同一の事実及び同一の証拠に基づく理由を含み、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定に違反するものを含む不適法な請求であり、全体として却下されるべきである。
(1)同一の事実について
ア 前審判の請求では、次の事実を主張している。
(ア)本件商標は、その出願前の請求人の使用に係る周知商標と類似の商標であって、同一又は類似の商品に使用するものである。
(イ)本件商標は、その出願前の請求人の使用に係る周知商標と類似の商標であって、被請求人は、本件商標を不正の目的をもって使用するものである。
イ 本件審判の請求では、次の事実を主張している。
(ア)本件商標は、その出願前の請求人の使用に係る周知商標と類似の商標であって、同一又は類似の商品に使用するものである。
(イ)本件商標の登録は、公正な競業秩序に反するものである。
ウ 前審判と本件審判の両事実とを比較すると、上記ア(ア)とイ(ア)の事実は、いずれも周知商標という点で同一の事実である。
(2)証拠の同一性について
前審判と本件審判とにおける周知商標であることを立証するために提出された証拠とを対比すると、本件審判で新たに提出された証拠は、出荷明細書(甲11-1-1ないし甲11-1-9)、決算報告書(甲11-2ないし甲11-5)である。
ここで、出荷明細書(甲11-1-1ないし甲11-1-9)は、前審判で提出された甲第51号証(以下、「乙1-前審判甲51」のように表記する。)と同じ出荷本数(甲11-1)の原データであると説明しているように、新たな証拠ではなく、単なる補強証拠であって、前審判で提出できたものである。
また、決算報告書(甲11-2ないし甲11-5)も、乙1-前審判甲51に基づいて主張した販売額を裏付けるための証拠であって、新たな証拠ではなく、単なる補強証拠であって、前審判で提出できたものである。
したがって、周知商標であることを立証する証拠は、前審判と本件審判とで同一である。
(3)以上のとおり、本件審判は、一事不再理に反する理由を含むものであるから不適法である。
2 本案の答弁
(1)商標法第4条第1項第10号違反(審決注:「商標法第4条第1項第7号違反」の誤記と認める。)について
ア 請求人は、以下(ア)?(ウ)の主張をする。
(ア)共同事業を解消するに際しての「カムイの新製品については、各々の会社が権利を有する」の約束に反して、請求人の権利を侵害する。
(イ)請求人(審決注:「被請求人」の誤記と認める。)が「カムイ」の標章を使用することは和解条項に違反する。
(ウ)勧告(審決注:「韓国」の誤記と認める。)における争いに報復するために、請求人の業務を妨害し、業務上の信用の横取りをもくろんだものである。
イ しかしながら、上記(ア)については、被請求人が本件商標の登録を受けたことは、「カムイの新製品については、各々の会社が権利を有する」ことに何ら反するものではない。また、同(イ)については、請求人が指摘する和解条項三(甲5-3)は、「法的責任の追及を阻害するものではない」とされているだけであって、被請求人が本件商標の登録を受けないというような債務を負っているものではなく、本件商標の登録について請求人から責任を追及されるべきものではない。さらに、同(ウ)については、請求人(審決注:「被請求人」の誤記と認める。)が本件商標の登録を受けたのは、卑弥呼が「Camui」(審決注:「CAMUI」商標と認める。)の商標登録を所有していたところ、法律改正に伴って、「kamui」の標章を付したゴルフクラブの輸出ができなくなるからであって、請求人に対する報復目的ではない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に反するものではない。
(2)商標法第4条第1項第10号違反について
請求人は、売上金額、本数、雑誌記事への掲載頻度などを理由として、「KAMUI」単体商標が周知であった旨を主張する。
しかしながら、請求人の挙示する証拠によっても、商標法第4条第1項第7号(審決注:「10号」の誤記と認める。)における周知性の程度まで周知であったと認められるものではない。
したがって、本件商標の登録は、同法第4条第1項第10号に反するものではない。
(3)カムイ訴訟との関係について
請求人は、カムイ訴訟において、本件審判の請求と同じ無効理由を主張した(甲21-1の3頁の「2 争点(3)ア及びイ」参照)が、これらについてはいずれも認定されることなく、むしろ被請求人の商標権(審決注:「本件商標権」と認める。)の存在を是認して請求人の先使用権(商標法第32条)を認めて、被請求人の請求を棄却したものである。
本件審判は、一事不再理に反する理由を含むだけでなく、カムイ訴訟でも認められなかった無効原因を蒸し返すものである。
(4)むすび
以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がない。

第4 当審の判断
1 一事不再理違背について
本件審判請求のうち商標法第4条第1項第10号違反を理由とする請求については、以下の理由により、前審決の確定効に反するものとして許されないものである。
(1)審決の確定効について
商標法56条1項が準用する特許法167条は、「特許無効審判・・・の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」旨規定する。同条は、当事者(参加人を含む。)の提出に係る主張及び証拠等に基づいて判断をした審決が確定した場合には、当事者が同一事項に係る主張及び立証をすることにより、確定審決と矛盾する判断を求めることは許されず、また、審判体も確定審決と矛盾する判断をすることはできない旨を規定したものである。同条が設けられた趣旨は、(a)同一事項に係る主張及び証拠に基づく矛盾する複数の確定審決が発生することを防止すること、(b)無効審判請求等の濫用を防止すること、(c)権利者の被る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること、(d)紛争の一回的な解決を図ること等にあると解される。
そうすると、無効審判請求においては、「同一の事実」とは、同一の無効理由に係る主張事実を指し、「同一の証拠」とは、当該主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指すものと解するのが相当である。そして、同一の事実(同一の立証命題)を根拠づけるための証拠である以上、証拠方法が相違することは、直ちには、証拠の実質的同一性を否定する理由にはならないと解すべきである。このような理解は、平成23年法律第63号による特許法167条の改正により、確定審決の第三者効を廃止することとし、他方で当事者間(参加人を含む。)においては、紛争の一回的解決を実現させた趣旨に、最も良く合致するものというべきである。
(2)本件審判請求に至るまでの経緯について
ア 前審判について
請求人は、平成21年7月2日、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当すると主張して、前審判を請求し(なお、請求人は、同項第19号への該当性も無効理由として主張した。)、平成22年4月30日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決があり、同審決は同年6月10日に確定したところ、その審判における同法第4条第1項第10号該当性に係る請求人の主張と審決の概要は、以下のとおりである。
(ア)商標法第4条第1項第10号該当性に係る主張の骨子
請求人は,平成9年ころから,請求人の関連会社であるカムイ社を介し,別掲のとおりの引用商標(以下「前審判引用商標」という。)を使用してゴルフクラブの販売をし(以下、請求人の製造,販売に係るゴルフクラブを「請求人ゴルフクラブ」という。)、前審判引用商標は、遅くとも本件商標登録の出願時には、請求人がゴルフクラブに使用する商標として、日本国内の取引者・需要者に広く認識され、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していた。本件商標は前審判引用商標と類似しており、本件商標の指定商品は前審判引用商標が使用されているゴルフクラブと類似する。
(イ)前審判引用商標が周知であることの具体的な主張
請求人が、前審判引用商標が周知であるとする具体的な主張は、(a)平成13年頃から、前審判引用商標を付した請求人ゴルフクラブ等のゴルフ用品の紹介記事がゴルフ関連の著名な専門誌等に掲載された、(b)前審判引用商標を付した請求人ゴルフクラブは,雑誌「月刊ゴルフ用品界」において、ウッドベスト5に常連としてランクインした、(c)前審判引用商標を付した請求人ゴルフクラブは172名ものプロゴルファーに愛用され、「ゴルフダイジェスト ドラコン日本選手権」の優勝者や上位入賞者にも愛用された、(d)請求人とカムイ社は「ゴルフダイジェスト ドラコン日本選手権」の協賛企業であり、雑誌にオフィシャルスポンサーとして紹介され、当該記事に前審判引用商標が付された請求人ゴルフクラブが掲載されていた、(e)前審判引用商標の付された請求人ゴルフクラブは、平成13年から平成14年にかけて年間1万本以上が販売され、その後販売数は減少したが、多くのゴルフクラブが販売され、その年間販売金額は平成13年、平成14年で10億円以上、その後も数億円に上り、上記販売実績は、「2009年版ゴルフ産業白書」にウッドクラブの国内出荷金額上位24社に掲載されている他社より上回った、というものであり、これらを立証すべく証拠が提出された。
(ウ)前審決
前審決では、前審判引用商標は、本件商標の登録出願時以前から、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内の需要者の間に広く認識されていたとは認められず、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しないと判断し、請求は成り立たないとした。
なお、前審決では、あわせて、本件商標は,同項第19号に該当しないとの判断も示した。
イ 本件審判について
本件審判における、商標法第4条第1項第10号該当性に係る請求人の主張は、前記第2、3のとおりであって、要するに、請求人は、「KAMUI」単体商標は、ゴルフ用品の需要者間に広く知られていたと主張し、「KAMUI」単体商標の周知性を裏付ける主要な事情として、(a)「KAMUI」単体商標等を付した請求人ゴルフクラブの紹介記事が雑誌等に掲載された、(b)請求人は,雑誌「ゴルフ用品界」に定期的に広告を出し、また、同雑誌において、「KAMUI」単体商標等を付した請求人ゴルフクラブがウッドベスト5に常連としてランクインしていた、(c)請求人ゴルフクラブは多数のプロゴルファーに使用されていた、(d)請求人は「ゴルフダイジェスト ドラコン日本選手権」の協賛企業であり,パンフレット等に協賛会社として記載され、「K∧MUI+くさび図形」商標が広告宣伝された、(e)請求人ゴルフクラブの売上本数は、平成13年及び平成14年には年間1万本を超え、それ以降も売れ行きは好調であり、請求人ゴルフクラブの販売会社であるカムイ社の平成15年度から平成18年度の売上げは、年間約1億2000万円から約2億円であったことを主張し、これを立証すべく証拠を提出した。
(3)判断
ア 同一事実について
本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとの事項についての請求人の主張事実は、請求人が使用する商標は、本件商標の登録出願時には、請求人がゴルフクラブに使用する商標として、日本国内の取引者・需要者に広く認識されており、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していること、本件商標は請求人が使用する商標と類似すること、本件商標の指定商品は請求人の商標が使用されているゴルフクラブと類似することであり、その主張事実は、前審判及び本件審判において同一であると評価できる。
なお、本件審判では、周知であるとの請求人の主張に係る商標が、以下の(a)ないし(c)のいずれであるか必ずしも明確ではない。
(a)「KAMUI」単体商標のみ
(b)「KAMUI」単体商標及び「K∧MUI+くさび図形」商標
(c)(a)又は(b)に「KAMUIPRO」、「TYPHOONPRO」及び「KAMUITYPHOONPRO」の各文字からなる商標を含む。
しかし、本件審判において請求人が周知であると主張する商標が上記のいずれであっても、それらは、前審判において判断の対象とした商標に含まれるというべきである。すなわち、前審判引用商標は、別掲のとおりであるところ、
(a)「KAMUI」単体商標は、前審判における前審判引用商標1、2及び4に含まれる。
(b)「K∧MUI+くさび図形」商標は、前審判引用商標4に図形を付加した商標である。
(c)「KAMUIPRO」及び「KAMUI TYPHOONPRO」の各文字からなる商標について原告が周知であると主張する部分は、いずれも「KAMUI」部分であると解される(「TYPHOONPRO」の文字からなる商標は、本件審判の判断に直接関連するものではない。)。
以上によれば、前審判と本件審判とでは、請求人が周知性を有すると主張する請求人使用の商標は,互いに同一と評価できる。
なお、前審判における無効理由が商標法第4条第1項第10号及び同項第19号該当性であるのに対して,本件審判における無効理由は同項第7号又は同項第10号該当性であるところ、前審判と異なる無効理由を追加さえすれば、同項第10号の無効理由の存否について判断した審決の確定効がなくなるものではない。
イ 同一証拠について
前審判と本件審判とは、前記のとおり、請求人が使用する商標の周知性を裏付ける主張事実は、ほとんど同一であり、周知性を立証するための証拠は、そのほとんどが同一である。
なお、本件審判では、前審判とは異なり、「請求人の2000年版商品カタログ」(甲10)、「カムイ社の出荷明細」(甲11-1-1ないし甲11-1-9)、「カムイ社の平成15年度ないし平成18年度の決算報告書」(甲11-2ないし甲11-5)、「使用プロ一覧表」(甲11-31)が、証拠として提出されている(本件審判で新たに提出されたその他の証拠は、商標法第4条第1項第10号該当性に関連するものではない。)。
しかしながら、以下の(ア)ないし(ウ)によれば,本件審判で提出された各証拠は,前審決における請求人の主張を排斥した判断に対し,同判断を蒸し返す趣旨で提出された証拠の範囲を超えるものではない。
(ア)「請求人の2000年版商品カタログ」(甲10)
前審判において、請求人は,他のカタログ(甲53及び甲54)を提出したが,前審決において,提出に係る当該カタログは作成年月日が確認できないとされたことから(甲112)、本件審判において、作成年月日の確認ができるカタログを提出したと解される。
(イ)「カムイ社の出荷明細及び決算報告書」(甲11-1-1ないし甲11-1-9、甲11-2ないし甲11-5)
前審判において、請求人は、カムイ社が販売した請求人ゴルフクラブの本数の表(甲11-1)を提出したが、前審決において、販売数の裏付けがないことなどから同表に記載された本数が採用されなかったため、本件審判において、同表の信憑性を裏付けるために提出された証拠と解される。
(ウ)「使用プロ一覧表」(甲11-31)
前審判において、請求人は、使用プロ一覧表(甲40)を提出したが、本件審判において、その形式を変更し、請求人ゴルフクラブを使用するプロゴルファーの氏名等を追加記載したものを証拠として提出したと解される。
ウ 小括
以上によると,前審判と本件審判とでは,商標法第4条第1項第10号違反の根拠として主張されている事実において同一であり、また、これを立証するために提出された証拠も実質的に同一であるといえる。
したがって、本件審判における本件商標が同項第10号に該当することを理由とする無効審判請求は、前審決の確定効に反するものとして許されないというべきである。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件審判請求のうち、商標法第4条第1項第10号違反を理由とする請求については、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定に違反したものであるから、却下すべきである。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号の趣旨について
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」のある商標は商標登録をすることができないとしているところ、同号は、商標自体の性質に着目したものとなっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については、同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が同法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきであり、私的な利害の調整は、原則として、公的な秩序の維持に関わる同号の問題ではないというべきである(平成14年(行ケ)第616号 平成15年5月8日判決言渡 東京高等裁判所第18民事部 参照)。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する理由として、要旨以下を主張している。
(ア)被請求人は、請求人が「KAMUI」単体商標を使用してゴルフクラブを販売し、確固たる基礎を築いている事実を知りながら、本件商標を出願するとともに、請求人のライセンサーである卑弥呼所有の「CAMUI」商標に不使用取消審判を請求してその登録を取り消し、本件商標の登録を得たところ、これは、他人の商標の無断剽窃に当たる。
(イ)被請求人による本件商標の登録は、請求人との共同事業を解消するにあたり、被請求人は「KAMUITOUR」、請求人は「KAMUIPRO」、「KAMUI」、「K∧MUI」を使用することとして、覚書において「カムイの新製品については、各々の会社が権利を有する」とした約束に違反して、請求人の権利を侵害するものである。
(ウ)富山地裁における裁判上の和解条項三の「被請求人が『カムイ』に類する名称を付したゴルフクラブヘッドを製作する場合は、請求人は、タカギセイコーに対する法的責任は追及しないが、被請求人に対して法的責任を追及する権利を失わない」を踏みにじったものであり、請求人から法的責任を追及されるべきものである。
(エ)本件商標の登録は、韓国における争いに報復するために、請求人の業務を妨害しその業務上の信用の横取りをもくろんだものであり、公正な競業秩序を蹂躙するものである。
イ しかし、請求人が主張する上記アの理由は、以下のとおりであって、採用することができない。
(ア)上記ア(ア)及び(エ)の理由について
商標法においては、商標選択の自由を前提として、最先の出願人に商標登録を認める先願主義の原則が採用されており、不使用による取消審判を定める商標法第50条第1項においても、「何人も、・・・商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定しているから、その出願人が、自己の商標登録の障害となる先行登録商標を排除するために、不使用による取消審判を請求すること自体は何ら違法ということができない。
そうすると、被請求人が、本件商標を登録出願し、その障害となる「CAMUI」商標を排除するために、「CAMUI」商標に対し不使用による取消審判を請求していたとしても、そのことをもって、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるとか、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないということはできない。
また、請求人は、本件商標の登録が、韓国における請求人との争いに報復するために、請求人の業務を妨害しその業務上の信用の横取りをもくろんだものであるとも主張しているが、我が国の商標法が先願主義の原則を採用していることは上述のとおりであり、請求人との争いに報復し、請求人の業務を妨害するための商標登録であることを客観的に認め得る具体的な証拠を見いだすこともできない。
(イ)上記ア(イ)の理由について
共同事業を解消するに当たって、請求人と被請求人との間で締結した平成7年2月21日付け覚書(甲4)の第7項には、「カムイの新製品については、各々の会社が権利を有する。」との記載があるところ、その記載における“カムイの新製品”についての記述は、極めて具体性に欠けるものであり、その記述によっては、請求人が主張するような、被請求人は「KAMUITOUR」、請求人は「KAMUIPRO」、「KAMUI」、「K∧MUI」を使用することにした内容を含んでいるのかはもちろん、商標の使用に関する合意を含んでいるのかさえも定かでない。
そうすると、同覚書を理由に、直ちに被請求人が本件商標の登録出願をしてはならないとする根拠ということはできない。
加えて、仮に、同覚書の第7項が「KAMUI」商標に関する内容を含んでいるとしても、同項は「各々の会社が権利を有する」としているのであるから、この点からも、直ちに、被請求人が本件商標の登録出願をしてはならないとする根拠であるということはできない。
(ウ)上記ア(ウ)の理由について
請求人を債権者とし、タカギセイコー及び被請求人(株式会社北陸ゴルフ製作所)を債務者とする「カムイプロ300」のゴルフクラブヘッドの金型に関する仮処分命令申立てに係る和解条項三(平成7年11月21日:甲5-3)によれば、「債権者は、今後、債務者タカギセイコーが債務者株式会社北陸ゴルフ製作所との間で『カムイ』に類する名称を付したゴルフクラブヘッドを製作する場合には債務者タカギセイコーに対しては法的責任を追及しない。但し、株式会社北陸ゴルフ製作所に対する法的責任の追及を阻害するものではない。」と記載されているところ、該記載における「『カムイ』に類する名称」の範囲が明らかではない。
加えて、該和解条項三に記載された合意は、「カムイプロ300」のゴルフクラブヘッドの金型に関するものであるから、仮に「KAMUIPRO」商標(登録第3357402号)が、「『カムイ』に類する名称」であるならば、その商標権者は請求人と被請求人であるから、当然に被請求人も「KAMUIPRO」商標を使用する権利を有することになる。
そうすると、上記和解条項三を根拠に、直ちに、被請求人が本件商標の登録出願をしてはならないとする根拠であるということはできない。
ウ 以上のとおり、本件商標は、請求人の主張と証拠方法を勘案しても、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認できないというべき理由があるということはできないから、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできないものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件無効審判の請求中、商標法第4条第1項第10号を理由とする請求については、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定に違反したものであるから、却下すべきである。
また、その余の無効の理由については、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(前審判引用商標)



審理終結日 2015-05-26 
結審通知日 2015-05-28 
審決日 2015-06-12 
出願番号 商願2007-40533(T2007-40533) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (X28)
T 1 11・ 07- Y (X28)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹内 耕平金子 尚人 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 梶原 良子
林 栄二
登録日 2008-06-20 
登録番号 商標登録第5142685号(T5142685) 
商標の称呼 カムイ 
代理人 稲元 富保 
代理人 平尾 正樹 
代理人 宮田 信道 
代理人 猪狩 充 

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