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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W09
管理番号 1309738 
審判番号 無効2014-890037 
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-22 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5582177号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5582177号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5582177号商標(以下「本件商標」という。)は,「PHOTTIX」の欧文字を横書きしてなり,平成25年1月6日に登録出願,第9類「シャッター(写真用のもの),カメラ(写真用のもの),写真用機器専用ケース,写真装置用スタンド,写真用ファインダー,カメラ用三脚,写真撮影用フラッシュ,アキュムレータボックス,プラグ・ソケットその他の電気接続具,蓄電池,写真用紫外線フィルター,フィルター(写真用のもの),スライド用位置調整装置(写真用のもの),電池用充電器,絞り(写真用のもの),露出計,据えつけスポットライト用電気式レール,映画用撮影機,引伸ばし装置(写真用のもの)」を指定商品として,同年4月26日に登録査定,同年5月17日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。

第2 引用商標
請求人が「写真機械器具専用の附属品」等の商品について使用している,別掲1(以下「引用商標1」という。)及び別掲2(以下「引用商標2」という。)のとおりの構成よりなる商標(以下,これらを併せて「引用商標」という。)。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第91号証(枝番号を含む。なお,甲号証の枝番号のすべてを引用する場合には,枝番の記載を省略する場合がある。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は,商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当するから,同法第46条第1項第1号により,その登録を無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 請求人および請求人の使用商標について
(ア)請求人は,1996年に設立された香港の法人(有限公司)であり,「Phottix」の文字よりなる商標(甲2)を使用して,無線遠隔式シャッターリリースシステム(wireless remote shitter system)(甲3の1),有線遠隔式シャッターリリースシステム(wired remote shitter system)(甲3の2),フラッシュ用附属品(flash accessories)(甲3の5),カメラ用フラッシュ(甲3の6),遠隔式フラッシュトリガー(remote flash trigger)(甲3の6),ライトモディファイヤ(light modifier)(フラッシュディフューザー(Flash Diffuser),アンブレラ(Umbrellas),ソフトボックス(Softbox)等)(甲3の5,甲3の6),写真スタジオ用品・設備(甲3の6)等,の写真機械器具専用の附属品(photographic accessories)(甲3)の企画,販売に従事してきた。
(イ)その後,引用商標をそのまま社名とした「フォティックス(エイチケイ)リミテッド」(欧文名称「Phottix(HK)Ltd.」)を設立して,2011年から販売主業務を「Phottix(HK)Ltd.」に移管するとともに,自らは「Phottix」ブランドに関する特許及び商標(甲22ないし甲30)等の知的財産権を管理及び「Phottix」ブランドの製品に係る業務を総合的に管理するホールディングカンパニーとしての立場にある。
(ウ)請求人らの引用商標に係る商品は,キャノン,ニコン,ソニー,オリンパス,パナソニック等の大手メーカーの様々な機種のカメラ等写真機械器具に対応した製品を取り揃えている(甲3)。
(エ)請求人らの引用商標に係る商品は,写真撮影に付随して使用される器具および附属品であり,プロフェッショナルの写真家及び写真愛好家を主な需要者とするものである。
(オ)請求人らは自ら又は各国現地の代理店を通じて,「Phottix」ブランドの海外展開を積極的に行っている。
(カ)引用商標に係る商品は,アルゼンチン,オーストラリア,ベルギー,ボスニア,ヘルツェゴビナ,ブルガリア,カナダ,チリ,中国,チェコ,ドバイ,エストニア,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシャ,オランダ,香港,ハンガリー,イラン,アイルランド,イスラエル,イタリア,日本,カザフスタン,ケニア,ラトビア,リトアニア,マレーシア,ニュージーランド,ノルウェー,ニューカレドニア,パキスタン,フィリピン,ポーランド,ポルトガル,カタール,ルーマニア,ロシア,セルビア,シンガポール,南アフリカ,韓国,スペイン,スウェーデン,スイス,台湾,タイ,トルコ,ウクライナ,イギリス,アメリカ,ウルグアイへの輸出実績があり,世界各国に代理店及び製品取扱店を有する(甲4ないし甲6)。
(キ)我が国へは少なくとも株式会社エツミ及び株式会社プロ機材ドットコム(ANET,Inc)を通じて遅くとも2008年から現在に至るまで継続して輸入されている(甲8ないし甲21)。
(ク)インターネットIT関連ニュースサイト「デジカメWatch」では,株式会社エツミが輸入した請求人所有の引用商標に係る商品「ライブビューリモートコントローラー」(Phottix Hector Live-view Remote)(甲3の2)が2011年2月2日付け記事で紹介されている(甲7)。「Phottix Hector Live-view Remote」は,コントローラーにモニター画面を設けて,ファインダー像を見ながらの遠隔シャッター操作を可能としたものであり,有線で接続するタイプの製品である。
(ケ)また,後述の,2009年に開催された大規模な国際見本市(展示会)である「PMA2009」に出展された引用商標に係る製品「Phottix Hero」(甲3の1)は,日経トレンディネット(日経BP社)が取材し,2009年3月13日付けインターネット記事に紹介された(甲34)。
イ 引用商標とその周知性について
(ア)引用商標の登録及び出願状況は,甲第22号証ないし甲第30号証のとおりである。
請求人は,我が国で引用商標の登録出願を行ったが(商願2013-014589号),本件商標が引用され商標法第4条第1項第11号に基づく拒絶理由通知がなされている(甲30)。
(イ)各国展示会
請求人らは,遅くとも2007年から毎年,世界各国で開催される展示会に出展し,引用商標に関する製品を世界各国で積極的にPRを行っている(甲31ないし甲55)。
(ウ)各国のプロ写真家による引用商標に係る機材の使用
Pottixは,オーストラリア,ベルギー,中国,フランス,ドイツ,ギリシャ,香港,マレーシア,フィリピン,ポーランド,ポルトガル,台湾,アラブ首長国連邦,米国を含む世界各国のプロの写真家と連携して製品開発を行ってきた(甲56ないし甲70)。引用商標に係る機材はプロの写真家らによって愛用されているだけではなく,引用商標に係る機材は彼らに高く評価されている(甲56)。
(エ)雑誌・書籍での宣伝広告
「Phottix」ブランドに係る機材を使用して写真家によって撮影された写真とともに,引用商標を使用して,現在まで継続して雑誌への宣伝広告を行っている(甲第72号証ないし甲第83号証)。
(オ)協賛
甲第71号証の1は,香港の写真家団体「影聯攝影学會」の2012年の年刊誌「影聯攝影学會 卅一週年年刊曁會員作品展」(United Artist Photographic Association Ltd.31th Anniversary Journal and Member’s Photo-exhibition2012)表紙及び香港で開催された写真撮影大会「第廿二屆聯合攝影大活動」に関する記事の写しである。甲第71号証の2には,「第廿二屆聯合攝影大活動」の開催日が2012年3月18日であること,開催場所が「新界」であることが記載されている。甲第71号証の1及び2には,「Phottix」ブランドが「第廿二屆聯合攝影大活動」に協賛していることが記載されている。
(カ)受賞
遠隔式フラッシュトリガーである「Phottix Odin TTL」(甲3の6)(キャノン用)は,2011年に,香港の出版社発行の雑誌「數碼双周」による賞を受賞し,加えて「Photographer.com」でも推薦賞を受賞した(甲84)。
(キ)結論
以上のとおり,本件商標の出願・登録の時点において,写真に関する専門知識を有する販売業者はもちろん,需要者層である写真家及び写真愛好家にも広く知られていたといえる。世界50カ国以上に代理店及び製品取扱店を構え,請求人は,各国展示会の出展,雑誌・書籍での宣伝広告,協賛等を通じて,引用商標に係る製品を香港を中心として世界各国で積極的にPRし,結果として引用商標に係る製品は記事で広く紹介され,賞を受賞し,取引者・需要者に高く評価されている。このように,請求人の所有する引用商標は,香港をはじめとする中国,台湾,欧州,米国その他外国で周知な商標である。したがって,商標法第4条第1項第19号に規定される周知性が認められるべきである。
ウ 本件商標と引用商標との対比
(ア)本件商標は,「PHOTTIX」の文字を横書きしてなる商標であり,大文字・小文字の差異は別として,引用商標「Phottix」と綴りを同じくするものである。このため,本件商標より生ずる称呼「フォティックス」も,引用商標より生ずる称呼と同一である。また,外観,観念に関しても同一又は類似の商標である。
(イ)したがって,本件商標は引用商標と同一又は類似の商標である。
(ウ)なお,本件商標の指定商品は,請求人が引用商標を使用する「写真機械器具及びその部品並びに付属品」と同一又は類似の商品あるいはこれと密接に関連する商品である。
(エ)以上より,本件商標は,引用商標と同一又は類似の商標であり,かつその指定商品は,引用商標の指定商品と同一又は類似の商品あるいはこれと密接に関連する商品である。
不正の目的について
(ア)被請求人(商標権者)は,2011年に設立され,中国の深▲せん▼市(以下「深せん市」という。)(Shenzhen)に住所を有する中国の法人(有限公司)であり,主に,製造委託を受けた相手先のブランド名で販売される製品を製造(OEM),販売する会社である(甲85)。
(イ)被請求人が製造する製品には,請求人の商品と同じ,デジタル一眼レフカメラ・ビデオカメラの附属品(Accessories For DSLR,Video Camera)が含まれる(甲86)。より詳細には,被請求人が製造する製品には,遠隔式シャッターリリースや,遠隔式フラッシュトリガーなど,請求人の引用商標に係る製品のうち特に人気がある「Phottix Odin TTL」や「Phottix Hero」などの製品と同一カテゴリーの製品も含まれる(甲85)。
(ウ)なお,被請求人の製造するデジタル一眼レフカメラ・ビデオカメラの附属品は,「Meyin」の商標が表示されており,深せん市に住所を有する「Meyin Co.Ltd.」の委託による製品であるといえる。Meyin Co.Ltd.の業務に係る製品は,フラッシュトリガー,シャッター制御装置等を含む写真撮影用機械器具の附属品であり,請求人の引用商標に係る商品と全く同じである(甲91)。
(エ)深せん市に地理的に隣接する香港を拠点とする競合他社のブランドであり,国際展示会を通じて世界各国で積極的にPRされ,記事にも取り上げられ,受賞もした「Phottix Odin TTL」(無線遠隔式フラッシュトリガー)や「Phottix Hero」(モニター付きの無線遠隔式シャッターリリースシステム)などの,人気商品も擁する請求人らの「Phottix」ブランドについて,請求人の商品と競合する製品を製造する被請求人は,本件商標が,出願された2013年1月頃には十分に知っていたというのが相当である。
(オ)また,「Phottix」の語は造語であって,英和辞典等にも一切記載はない(甲87,甲88)。かかる造語商標と同一の綴りの欧文字から成る商標をたまたま被請求人が案出し,採択する可能性は極めて低い。
(カ)このようなことから,本件商標は,商標「Phottix」が我が国で登録されていないことを奇貨として,請求人が我が国への参入するのを阻止する目的で,剽窃的及び先取り的に,出願されたものであり,請求人の引用商標が香港をはじめとする中国,台湾,欧州,米国その他外国で獲得した顧客吸引力や信頼等の利益を不正に得る目的,または,先願主義を採用する我が国の法制度を利用して請求人の商標が登録されないようにすることにより,請求人に損害を与える目的で,不正の目的をもって本件商標を使用する若しくは使用しようとするものであることは明白である。
(キ)また,請求人が香港をはじめとする中国,台湾,欧州,米国その他外国において獲得した顧客吸引力,信頼をただ乗りしようとするものである。
(ク)したがって,本件商標は,請求人に損害を与える目的その他の不正の目的をもって使用するものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は,商標登録を受けることができないと規定している。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号参照)。
イ 上述のように,被請求人は,遅くとも本件商標の,出願前である2013年(平成25年)1月頃には,香港,中国,台湾,東南アジア諸国,欧州,米国,中東等,世界各国で,請求人らの商品に引用商標が使用され販売されていることを,各国展示会,雑誌,イベント,インターネット等を通じて十二分に知りうる状況にあった。
ウ 被請求人所有の商標「Phottix」の語は造語であって,英和辞典等にも一切記載はない(甲87,甲88)。かかる造語商標と同一の綴りの欧文字から成る商標をたまたま被請求人が案出し,採択する可能性は極めて低い。
エ また,本件商標の指定商品も,請求人が引用商標を使用する「写真機械器具及びその部品並びに付属品」と同一又は類似の商品あるいはこれと密接に関連する商品である。
オ 以上をあわせみれば,本件商標は,その称呼,欧文字の綴りのみならず,その指定商品までもが引用商標及び請求人商品と偶然に一致したとは想定し難く,被請求人が引用商標及び請求人商品を知ったうえで,引用商標が日本において出願・登録されていないことを奇貨として,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的などの不正の目的をもって出願されたものと判断するのが相当である。
カ してみれば,本件商標は,その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合(前記ア(e))に該当するものである。
キ 前記したように,被請求人は,引用商標が我が国で登録されていないことを奇貨として,請求人が我が国への参入するのを阻止する目的で,剽窃的及び先取り的に,出願,登録を行った。したがって,請求人の商標が香港をはじめとする中国,台湾,欧州,米国その他の外国で獲得した顧客吸引力や信頼等を利用し不正の利益を得る目的,又は先願主義を採用する我が国の法制を利用して請求人の引用商標が登録されないようにすることにより,請求人に損害を与える目的で,不正の目的をもって本件商標を使用する若しくは使用しようとするものであることは明白である。また,本件商標は,請求人が香港をはじめとする中国,台湾,欧州,米国その他外国において獲得した顧客吸引力,信頼をただ乗りしようとするものである。
ク このことは,ただ単に引用商標を知っていたというレベルを超え,極めて悪質なものであり,社会の一般的道徳観念に反するものといえる。
ケ 本件商標は,登録に至る出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その登録を認めることは,商標法の予定する公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第19号に該当しない旨の主張
(1)請求人は,我が国で商標登録されていないことを奇貨として我が国への参入防止の目的で剽窃的及び先取り的出願したと主張しているが,かかる主張は誤りであり,被請求人に「不正の目的」がないことは明らかであること
ア 本件商標は,中国語の音訳をもとに独自に創作した商標であり,不正の目的がないものである。
イ 請求人は,英和辞典等にも一切記載はない造語と同一の綴りの欧文字からなる商標をたまたま被請求人が案出し,選択する可能性は極めて低いと主張している。しかし,極めて低いという断定には理由がないものと思料する。本件商標は文字数が格段多いとはいえないものである上に写真を意味する語である「PHOTO」や「PHOTOGRAPH」の語は我が国においても外来語として幅広く定着しており,「P」「H」「O」「T」の文字から始まる商標を選択するには相当の理由があるといえるからである。「P」「H」「O」「T」の文字からは「フォト」の称呼が生じ,写真や写真機械器具及びその部品並びに付属品に用いられた場合に商品との関連付けや連想付けをし易いものである。
ウ 写真や写真機械器具及びその部品並びに付属品に関する商標名で「フォト」の称呼が生じ得る商標は現に多数存在する。
(2)請求人と被請求人は,現在過去において特段の取引関係になく「不正の目的」は存在しないこと
被請求人が確認したところによると,被請求人と請求人とは特に取引関係にあった事実は見受けられず,我が国が先願主義であることを利用して不正に出願したかのような主張は誤りである。請求人は数年前から商標を使用していた旨審判請求書中で主張しているが,2013年1月6日より前に我が国に商標登録出願をする事が十分に可能であったにもかかわらず,それをしなかったものであるといえ,被請求人が剽窃行為等を行ったという主張はあまりにひどい主張であるといわざるを得ない。
(3)引用商標は,外国における需要者の間に広く認識されている商標にそもそも該当しないこと
外国で需要者の間に広く認識されている商標である旨主張されているが,実際に外国において周知なのか審判請求書において提出された証拠からは明らかでない。
ア 審判請求書において提出された多くの資料は,請求人のホームページをただプリントアウトしたものであること
本件商標の写し(甲1),引用商標(甲2),請求人出願の公開公報の写し(甲30の1),請求人が受けた特許庁からの拒絶理由通知書の写し(甲30の2),被請求人の会社ホームページの写し(甲85の1ないし3,甲86),英和辞典の一部の写し(甲87)の9つの証拠を除いて,133(前記9つの資料を加えた場合は142)の資料が証拠として提出されているが,うち40件は請求人のホームページをただ印刷したものである(甲3の1ないし7,甲4,甲5,甲32の1及び2,甲56,甲57の1及び2,甲58の1及び2,甲59の1及び2,甲60の1及び2,甲61の1及び2,甲62の1及び2,甲63の1及び2,甲64の1及び2,甲65,甲66の1及び2,甲67の1及び2,甲68の1及び2,甲69の1及び2,甲70の1及び2,甲84)。
上述のとおり,多数証拠を提出されているが,そのうち3割以上が自社ホームページやそのアーカイブである。
これをもって外国において周知といえるのであれば,外国向けの自社ホームページを作成すれば周知ということが成り立ってしまうことになり兼ねない。自社ホームページは周知性の立証の客観的な証拠資料としては極めて弱いといわざるを得ない。
イ 展示会,見本市における情報を提供しているが,製品の製造販売をするのであれば,展示会,見本市に商品を出展することは当然の行為であり,それをもって直ちに需要者の間に広く認識されている商標であるということにはならないこと
前記のホームページを除く93の資料のうちの多くが展示会,見本市に関する情報である。この中で,例えば甲第33号証は,「Eternal Fortune(HK) Ltd」とは記載されているが,商標名の記載はないものである。
また,展示会や見本市への出展に関する情報は,特定の国や地域での商品のシェアといった客観的な情報ではなく,海外において周知であったということを示すに足らないものである。
ウ 日本企業2社との取引情報は,断片的な情報であり,不明確な店が多々見受けられること
甲第8号証から甲第21号証まで日本企業2社との取引状況を示す書類が提出されているが,断片的な情報であり,内容の精査を進めているところである。
エ ニコン,ソニー,オリンパスといった大手メーカーの製品に対応できる製品であることと,引用商標の周知性とは別であること
ニコン,ソニー,オリンパスといった大手メーカーの製品に対応できることを審判請求書中述べられているが,ニコン,ソニー,オリンパスなどが有名なのであって,引用商標の周知性とは何ら関係はない。
オ 請求人の文字商標としての商標登録実績がないこと
請求人は海外で取得した商標を証拠として提出しているが(甲22?29の2),3文字目が図案化されており,さらにこれらのうち甲第25号証のアメリカの例を除いてその他の国や地域で登録されている商標の背景には囲みがあり,色彩が付されている。なお,背景の囲みの色については青のものや黒のものが存在する。
2 商標法4条1項7号に該当しない旨の主張
本件商標は,商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には該当しないものである。
前記1で述べたとおり,本件商標は独自に創作された商標であり,不正の目的がないことも明らかであり,さらには引用商標が外国において周知であるという十分な証拠は示されていない状態である。審判請求書においても商標法第4条第1項第7号に関する一般的な事項が述べられているに過ぎず,当該主張は成り立たないものであると思料する。
3 平成26年10月24日付上申書
(1)本件商標は独自に創作された商標であること
被請求人は,答弁書で,本件商標は独自の創作によるものであることを述べた。
これに関し,本件商標は,中国語の音訳をもとに独自に創作した商標であり,不正の目的がないことを示す宣誓書類を提出する(乙1)。
乙第1号証に記載のとおり,「PHOTTIX」の商標は,宣誓書記載のデザイナーが被請求人のために創作したものである。
(2)本件商標は「平和な天使」をイメージして創作されたこと
本件商標は,たまたま被請求人が案出したものであり,被請求人の商標採択の理由について触れた「PHOTTIXブランドの概念」を提出する(乙2)。乙第2号証に記載のとおり,「PHOTTIX」は,全体として「平和な天使」をイメージして創造された被請求人の商標である。
同書に記載のとおり,マークの選択に際し,発音が容易であることをまず重視した。また被請求人は,中国の法人であるところ,中国人がビジネスをする際に「和」を重んじることに着目し,「和」の中国語の発音に近い「フ」(he)の音が頭文字にある英文字「PHO」からなる商標を選択した。さらに,後半部分の文字「TTIX」は,中国語の「天使」を意味する「ティエンシー」(tianshi)に語感が近く,美しい製品であることを形容したいと考え,全体として「平和な天使」という良いイメージが得られる本件商標を選択した。
(3)請求人の商標中の文字と被請求人の取扱商品とは関連性が強いこと
答弁書でも述べたとおり,写真を意味する語である「PHOTO」や「PHOTOGRAPH」の語は,我が国でも広く定着しており,写真関連の商品との関連付けや連想がしやすいものである。そのため,「P」「H」「O」「T」の文字から始まる商標を選択するのはごく自然なことであり,請求人が主張するような剽窃的及び先取り的出願ではないことは明白である。乙第3号証は,被請求人の一部の取扱商品の写真で,乙第4号証は被請求人の業務範囲を説明するものである。
(4)請求人と被請求人は現在・過去において取引関係がないこと
請求人と被請求人とは現在・過去においても取引関係がない。乙第5号証?乙第7号証は,取引関係がないことを被請求人が説明したものである。
(5)その他
被請求人は,答弁書において,請求人の商標は,「需要者の間に広く認識されている商標にそもそも該当しない」旨述べた。甲第8号証から甲第21号証までの日本企業2社との取引状況を示す書類を確認したが,断片的な情報であるため,取引関係が真にあったのか明らかではない。また,仮に取引があったとしても,日本企業2社との取引であり,そのことをもって本件商標の出願時において周知であったということにはならないものである。さらに,雑誌掲載記事など提出された資料を確認したが,「PHOTTIX」ではなく,「PHOTTIX ODIN」,「PHOTTIX MITROS」など商品名が異なるものが少なくない。たとえば,甲第74号証や甲第79号証までの商品は「PHOTTIX MITROS」とあり,そもそも商標が異なる。その他の提出された資料についても客観的に「PHOTTIX」が請求人の商標として周知性を有するに至っていたということを示すものではないと思料する。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第19号について
(1)引用商標の周知著名性について
ア 事実認定
証拠及び請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(ア)請求人は,1996年に設立された香港の法人であり,「Phottix」商標を使用して写真機械器具専用の附属品の企画,販売に従事してきたが,その後,「Phottix(HK)Ltd.」(フォティックス(エイチケイ)リミテッド)を設立して,2011年から販売主業務を同社に移管するとともに,自らは,「Phottix」ブランドに関する知的財産権の管理及び同ブランド製品に係る業務を総合的に管理するホールディングカンパニーとなったこと(甲3,甲22ないし甲30)。
(イ)引用商標2が使用された,ストロボ,カメラの三脚,カメラ用のレンズフードなど写真機械器具の附属品と認められる商品(以下「請求人使用商品」という。」)が,英語による説明がされて,請求人のホームページに掲載されていること(甲3)。
(ウ)請求人使用商品については,世界の50を超える主要な国及び地域において,その販売店が存在し,この中には「Japan」の項に沖縄県那覇市を所在地とする「ANET Inc」,東京都新宿区を所在地とする「Etsumi Co.Ltd」,神戸市中央区浜辺通を所在地とする「S.V.Concept Inc.,」と日本の販売店3社の名称が英語で表示されていること(甲5)。
(エ)「デジカメアイテム丼」のタイトルが表示された,株式会社Impress Watchによるインターネット情報には,請求人使用商品に属するものと認められる「デジタルカメラのリモートコントローラー」が,日本語で紹介されていること。この情報は,2011年2月2日に掲載されたこと(甲7)。
(オ)甲第5号証の日本の販売店3社中「Etsumi Co.Ltd」の表示は,甲第8号証の証明書に表示されている「Etsumi Co.Ltd」と同じ会社であると認め得るものであり,同社は,引用商標2が使用された請求人使用商品を2010年以降販売していること(甲8ないし甲12)。
(カ)甲第5号証の日本の販売店3社中の「ANET,Inc.」が,2008年10月21日ないし2010年1月22日の間に,請求人に対し請求人使用商品を発注したこと(甲13ないし甲21)。
(キ)請求人は,引用商標(色彩が異なるが同一視できる商標を含む。)について,香港,中国,米国,英国,欧州共同体,台湾,シンガポール,日本に登録出願をしていること(甲22ないし甲30)。このうち,日本においては,当該登録出願について,本件商標が引用された拒絶理由通知が発せられたこと(甲30の2)。
(ク)請求人は,2007年から2012年までの間に,請求人の地元である香港をはじめ,ドイツ,英国,米国,中国などで合計43回の写真機械器具の展示会に出展していること。このうち香港では7回の,中国では8回の写真機械器具の展示会に出展していること。これら展示会においては,請求人使用商品(写真機材),展示会ブース,陳列棚等に主として,引用商標2が使用されたこと(甲31ないし甲55)。
(ケ)請求人使用商品(写真機材)は,本件商標の出願前である2012年には既にオーストラリア,ベルギー,中国,フランス,ドイツ,ギリシャ,香港,マレーシア,フィリピン,ポーランド,ポルトガル,台湾,アラブ首長国連邦,米国などの各国のプロの写真家に「Phottixは,プロの道具が必ずしも高価である必要はないことを証明している。私はPhottixの製品を使用するまでは,ライトモディファイヤーはいつも使い捨てだと思っていた。構築された品質は素晴らしい。」,「Phottix製品は,全てのカメラマンにとって,非常に良いデザインであり,ユーザーフレンドリーであり,非常に信頼性がある。全てのセットアップは非常に高速で使いやすい。」,「プロとアマチュアの写真家等は,Phottix製品に驚くであろう。信頼性が高く,ユーザーフレンドリーであり,そして驚くほど良質!業務で撮影しているか単にレジャーで撮影しているかに関わらず,Phttixは失望させることはない。」等と称賛され,高い評価を受け,使用されていること(甲56ないし甲70)。
(コ)香港の写真家団体「影聯攝影学會」の2012年の年刊誌「影聯攝影学會 卅一週年年刊曁會員作品展」には,2012年3月18日に行われた「第廿二屆聯合攝影大活動」に関する記事が掲載され,「聯合贊助」と表示されている右横には,引用商標2が表示されていること(甲71)。そして,「第廿二屆聯合攝影大活動」は,香港を中心に活動する少なくとも12の写真家団体が一堂に会して開催されたこと。
(サ)雑誌・書籍での宣伝広告
主として引用商標2ないしこれと色彩を異にするが同一と認められる商標をもって請求人使用商品である写真機材が,台湾の出版社によって,本件商標の出願前である2012年(平成24年)に,「CAMERA 攝影誌 MAY.JUNE 2012 vol022」(甲72の1)において紹介され,本件商標の登録査定前である2013年(平成25)には,「閃燈決定一切 ▼黒麺▲×IVAN J.的用光筆記:2013年1月8日発行」,また,登録査定後には「DC數碼攝影PHOTO:2013年8月号及び11月号」,「PHOTO MAGAZINE 攝影雑誌:2013年9月号及び11月号」,「數碼双周 DiGi:2013年10月11日号及び同月25日号」として雑誌・書籍において継続的に紹介され,さらにまた,フィリピンの出版社によって,「GADETS:2013年8月号」,「HWN Philippines:2013年8月号及び10月号」にも紹介されていること(甲72ないし甲83)。
(シ)2012年1月3日付けのウエブサイトには,請求人使用商品は,香港の出版社発行の雑誌「數碼双周」から,2011年度最優秀製品の一つであると受賞され(甲84),加えて「Photographer.com」でも編集推薦賞を授与されたこと(甲84)。
イ 判断
以上によれば,請求人は,我が国を含む世界の50を超える主要な国及び地域において,その販売店を持ち,また,請求人使用商品ないし引用商標2は,2007年から2012年までの間に,請求人の所在地である香港をはじめ,中国,ドイツ,英国,米国等の諸外国の写真機械器具の展示会において展示され,台湾等の写真専門雑誌や書籍での宣伝広告,香港の出版社発行の雑誌「數碼双周」から2011年度最優秀製品の一つであると受賞され,2012年3月18日に12の写真家団体が一堂に会して開催された「第廿二屆聯合攝影大活動」の協賛をし,また,2012年には,台湾,アラブ首長国連邦,米国などのプロフェッショナルの写真家から称賛され,高い評価を受け,使用されていたことからすれば,引用商標2は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,少なくとも,これらの諸外国の写真機械器具の製造事業者・取引者及び前記の諸外国で活動するプロフェッショナルの写真家,写真愛好家等の需要者の間において,広く認識されていたものと認められる。
(2)本件商標と引用商標の類似性
ア 本件商標
本件商標は,前記1のとおり,「PHOTTIX」の欧文字よりなり,当該文字に相応して「フォティックス」の称呼を生ずるものであり,特定の意味を有する成語として辞書等に掲載の見受けられないことから,特定の意味を有しない一種の造語と認識されるものである(甲87及び甲88)。
イ 引用商標
(ア)引用商標1は,別掲1のとおり,その構成中の「o」の欧文字が図案化されているものの,青地の長方形内に白抜きで「Phottix」の欧文字を表したものと容易に認識でき,その構成文字全体で「フォティックス」の称呼を生ずるものであり,本件商標と同じく一種の造語と認識されるものである。
(イ)引用商標2は,別掲2のとおり,その構成中の「o」の欧文字が図案化されているものの,青色で「Phottix」の欧文字を表したものと容易に認識でき,その構成文字全体で「フォティックス」の称呼を生ずるものであり,本件商標と同じく一種の造語と認識されるものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
(ア)外観について
本件商標と引用商標とは,その全体の構成態様は相違するものの,その文字部分は,2文字目以降が大文字と小文字とで異なり,また,引用商標が「o」の欧文字が図案化されているとしても,語頭部を共に大文字の「P」として,つづりを同じくするものであるから,両商標は,外観上,相当程度,近似するものといえる。
(イ)称呼について
本件商標と引用商標とは,「フォティックス」の称呼を共通にするものである。
(ウ)観念について
本件商標と引用商標とは,ともに特定の観念が生じないものであるから,観念上,比較することができない。
(エ)商品について
本件商標の指定商品は,前記第1のとおり,「シャッター(写真用のもの),カメラ(写真用のもの),写真用機器専用ケース,写真装置用スタンド,写真用ファインダー,カメラ用三脚」等の「写真機械器具及びその専用の附属品」を含むものと認められるから,請求人使用商品とは,同一又は類似する商品である。
(オ)類否判断
以上を総合して考察すると,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観において欧文字のつづりが同じであって,称呼を共通にする類似の商標であり,かつ,本件商標の指定商品と請求人使用商品は同一又は類似するものである。
(3)不正の目的について
ア 被請求人について
被請求人は,2011年に設立され,中国の深せん市宝安区に居所を有する中国の法人(有限公司)であり,北米,南米,東ヨーロッパ,東南アジア,アフリカに市場を展開し(甲85),請求人使用商品と同一又は類似するデジタル一眼レフカメラ・ビデオカメラの附属品を製造していることが認められる(甲86)。
そうであれば,被請求人は,写真機械器具並びにその部品及び附属品について,国内外の業界動向に相当程度の関心を持っていたはずであり,それを調査・把握していたものと思われる。
加えて,被請求人の所在地である中国の広東省にある深せん市は,請求人の所在地である香港と地理的に隣接している経済都市でもある。
イ 被請求人による本件商標の採択について
以上によれば,写真機械器具の附属品の製造事業者である被請求人は,上記(1)イの認定のとおり,引用商標2が写真機械器具の附属品に使用されていたこと,同商品が写真機械器具の展示会に出展されていたこと,香港の雑誌「數碼双周」から2011年度最優秀製品の一つであると受賞されたこと,台湾等の写真専門雑誌等で宣伝広告されていたこと,諸外国において取引・販売されていることなど,引用商標2の存在を、認識し得る立場にあったと優に推認できるものである。
そして,被請求人は,本件商標は被請求人が案出したものである旨主張しているが,本件商標のつづりは,造語である引用商標と一致しており,これが偶然の一致であるとは想定し難く,この点につき被請求人の主張はにわかに信じ難いものである。
ウ 小活
以上によれば,被請求人は,香港をはじめ,中国,ドイツ,英国,米国等の諸外国における,写真機械器具の製造事業者・取引者及びこれらの諸外国で活動するプロフェッショナルの写真家,写真愛好家等の需要者の間において,広く認識されていた引用商標を知ったうえで,引用商標が日本において出願・登録されていないことを奇貨として,これを我が国で独占使用することで不当な利益を得るため,かつ,請求人の我が国への参入を阻止するために登録出願し,権利を得たというのが相当であり,本件商標は不正の目的をもって使用をするものというべきである。
(4)まとめ
したがって,本件商標は,以上のとおり,請求人に係る商品を表示するものとして中国,ドイツ,英国,米国等の諸外国における需要者に広く認識されている引用商標と類似の商標であって,不正の目的をもって使用するものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから,請求人の主張する他の理由について言及するまでもなく,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効にすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 1(引用商標1)

(色彩は原本参照)

別掲 2(引用商標2)

(色彩は原本参照)

審理終結日 2015-07-21 
結審通知日 2015-07-23 
審決日 2015-08-25 
出願番号 商願2013-90(T2013-90) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (W09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊瀬 京太郎中村 拓哉 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 前山 るり子
田村 正明
登録日 2013-05-17 
登録番号 商標登録第5582177号(T5582177) 
商標の称呼 フォトティックス、フォトティクス、フォティックス 
代理人 吉川 俊雄 
代理人 森 智香子 

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