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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y32
管理番号 1306601 
審判番号 取消2014-300023 
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-01-10 
確定日 2015-10-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第1595011号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1595011号商標の指定商品中,第32類「清涼飲料,果実飲料」については,その登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1595011号商標(以下「本件商標」という。)は,「緑健」の漢字を横書きで表してなり,昭和54年9月27日に登録出願,第29類「緑茶、麦茶、ウ-ロン茶、紅茶、その他本類に属する商品」を指定商品として,同58年6月30日に設定登録,平成16年6月2日に指定商品を第30類「緑茶,麦茶,ウーロン茶,紅茶,その他の茶,コーヒー,ココア,氷」及び第32類「清涼飲料,果実飲料」とする指定商品の書換登録がなされたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成26年1月27日になされた。

第2 請求人の主張の要点
請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書,弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由を以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第20号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,その指定商品中,第32類「清涼飲料,果実飲料」について使用されていないものである。
よって,本件商標は,上記指定商品について商標法第50条第1項の規定に基づき,その登録を取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人が提出した資料からは,本件商標「緑健」が使用されている事実は客観的に認められない。仮に,株式会社JOIN(以下「JOIN」という。)が本件使用商標「RYOKUKEN」(以下「本件使用商標」という。)を商品「トマトジュース」に使用していると仮定したとしても,当該使用は,被請求人がJOINに使用を許諾していると主張する商標群に含まれる登録第1898882号商標「RYOKUKEN」に係る許諾に基づいてなされていると見るのが自然であり,これを敢えて本件商標の使用とみるのは不自然である。また,仮に,JOINが本件使用商標を本件商標に係る許諾に基づいて使用しているとの主観的意思を有していたとしても,両商標は社会通念上同一とはいえないことから,本件商標は取り消されるべきものであり,「両者は社会通念上同一であると認められることに疑義はない」との被請求人による主張は失当である。
(1)商標使用許諾契約書について
ア 商標使用許諾契約書(乙23,以下「本件契約書」という。)は,株式会社りょくけんとJOINにより交わされたものであるところ,商標権者である「株式会社日本緑健」は,平成5年5月24日に「株式会社りょくけん」へと名称を変更し,平成21年9月1日には「株式会社農産振興」(以下「農産振興」という。)へと更に名称を変更した後,平成25年3月11日に解散し,代表取締役であった永田次郎が清算人となり,同年8月7日より特別清算が開始され,現在に至っている(甲3)。つまり,本件契約書の締結時である平成24年1月31日には,すでに「株式会社りょくけん」は農産振興に名称が変更されていた筈である。
なお,甲第1号証に示すとおり,原簿上の商標権者は,株式会社りよくけん(被請求人の主張によれば,その名称を「株式会社りょくけん」とする表示更正登録申請がなされている)である。
イ かかる状況の下,仮に本件契約書が有効であってJOINが通常使用権者であるとしても,本件契約書により独占的な使用が許諾されているのは,「許諾商標及びこれに類似する商標」ではなく,あくまでも「許諾商標」そのものであることからすれば,JOINが使用する「RYOKUKEN」なる商標は,本件契約書に記載されている本件商標に基づいた使用ではなく,旧第29類「茶,果実飲料」を指定商品とする登録第1898882号商標「RYOKUKEN」(甲4及び甲5)に基づいた使用とみるのが自然である。また,JOINが本件使用商標を本件商標に係る通常使用権に基づいて使用しているとの主観的意思を有していたとしても,以下に述べるとおり,両商標は社会通念上同一とはいえないことから,本件商標が取り消されるべきものであることに変わりはない。
(2)社会通念上同一性について
ア 商標法50条1項は,同項に規定する登録商標が「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」を含むものであると規定しており(商標法50条1項かっこ書き),文字種を相互に変更する商標が互いに社会通念上同一と認められるためには,両商標から生ずる称呼と観念において同一性が求められる。
イ 翻って本件をみるに,本件商標は既成の語ではないものの,これを構成する「緑」と「健」の文字はいずれも平易な漢字であって,「緑」からは「草木の新芽,植物一般。みどりいろ。」といった意味合いが,また,「健」からは「病気をせず,からだの丈夫なさま。健康。」といった意味合いがそれぞれ容易に認識され得ることからすれば(甲6),本件商標からは,「植物の健康」や「緑(色)の健康」程の意味合いを無理なく想起させるものといえる。一方,本件使用商標は「RYOKUKEN」なるローマ字から構成されるところ,これから生ずる称呼「リョクケン」は,「緑健」という文字のほか,「緑建」や「緑研」,「緑犬」,「緑拳」,「力圏」といった各種の語を想起させ得るものである。
ウ また,「RYOKUKEN」なるローマ字から複数の異なる語が想起され得る点については,例えば,「株式会社緑建」なる者が,「RYOKUKEN」というローマ字に現に「緑建」という漢字をあてて使用していることや(甲9),「フジタ緑研株式会社」なる者が,「RYOKUKEN」というローマ字に「緑研」という漢字を対応させて使用していること(甲10),緑拳会なる団体が「RYOKKEN」なるローマ字に「緑拳」という漢字を対応させて使用していること(甲11)などからしても明らかである。
エ つまり,「緑」「健」というそれぞれの構成文字に相応し,「植物の健康」や「緑(色)の健康」程の観念を想起させる本件商標と,「緑建」(緑の建築物),「緑研」(緑の研究),「緑拳」(緑の拳),「緑犬」(緑の犬),「力圏」(引力や重力などの力が及ぶ範囲)・・・といった様々な観念を想起せしめる文字を想起させ得る「RYOKUKEN」なるローマ字から構成される本件使用商標とから生ずる観念は,いわゆる一対一の対応関係にあるとは到底いえず,同一性が認められないものであって,ひいては,両商標の社会通念上同一性も否定されて然るべきである。
(3)商品「トマトジュース」への本件使用商標の使用について
ア 商標法第2条第3項第1号の使用
(ア)本件使用商標が付された商品「レギュラートマト缶ジュース」及び「高糖度トマト缶ジュース」(以下まとめて「本件商品」という。)の写真が提出されているが(乙24の1ないし3及び乙25の1ないし3),かかる写真は撮影者,撮影時期,撮影場所が不明であることに加え,底面に刻印された「15.08.21」や「15.09.01」なる数字が何を意味し,また,何年何月何日を示しているのか不明である。
(イ)仮に,かかる数字が被請求人の主張する通り「賞味期限」の表示であると仮定しても,同商品の製造日が不明であることに変わりはなく,また,本件商品の写真の提出をもって同商品が実際に流通段階に置かれたことの証明とはならないため,乙第2号証及び乙第3号証をもって,要証期間内における商標法第2条第3項第1号の使用があったものと見ることは妥当ではない。
(ウ)また,乙第4号証は,株式会社谷口農場(以下「谷口農場」という。)からJOIN宛の納品書であるが,ここには190gの空缶を納品した旨と,190gの受託加工料が記載されているのみであり,「RYOKUKEN」なる本件使用商標は一切記載されておらず,その他,商品を特定するための品番や型式なども記載されていないため,いかなる商品が納品されたのか不明である。また,乙第5号証にしても,谷口農場が190g缶へ液体を充填したことを示しているにすぎない。以上からすると,乙第4号証及び乙第5号証をもって要証期間内における商標法第2条第3項第1号の使用がなされたとする被請求人の主張は,これを認めることができない。
イ 商標法第2条第3項第2号の使用
(ア)乙第7号証(各枝番を含む。)は,JOINから株式会社りょくけん東京(以下「りょくけん東京」という。)への納品書であるが,乙第7号証においては,「RYOKUKEN」なる本件使用商標は一切記載されておらず,その他,商品を特定するための品番や型式なども記載されていないため,いかなる商品が納品されたのか不明である。
(イ)なお,仮に乙第7号証の納品書が乙第2号証に示された本件商品に関するものであるとしても,このことをもって本件使用商標が本件使用商品について使用されているものと認められるものではない。けだし,乙第2号証の本件商品写真には,「RYOKUKEN」なる本件使用商標のほかに,りょくけん東京が乙第6号証において使用している図形商標と実質同一の図形商標が付されていることからすれば,本件商品は,りょくけん東京の専売品とみるのが自然であって,JOINは,りょくけん東京にのみ本件商品を譲渡しているものと推測されるからであり,そうとなれば,本件使用商標が付された本件商品は,いわゆる「特定顧客のみに納付される商品」というべきであって,市場を転々流通している事実が示されていない以上,直ちに商標法上の商品に該当すると見るべきではない(東京高裁平元(行ケ)139,東京高裁平6(行ケ)207等)からである。
(ウ)以上より,乙第7号証をもって,要証期間内における商標法第2条第3項第2号の使用があったとする被請求人の主張は,これを認めることができない。
3 口頭審理における陳述
ア 「株式会社りょくけん」について
被請求人は,本件の商標権者が,会社分割により設立された新たな「株式会社りょくけん」であると述べ,これに伴って各種登録申請を行っている(乙19ないし乙21)。
被請求人は,以下に述べるとおり,実質的に倒産状態にあり,分割が行われる前から,まともな事業活動は行えない状況にある。
会社分割を行う前の株式会社りょくけん(以下「旧りょくけん」という。)は,平成21年9月1日,その商号を「株式会社農産振興」に変更するとともに,その事業一切を,新たに設立する株式会社りょくけん(以下「新りょくけん」という。)に承継させることを目的とする新設分割を行った。ところが,被請求人は事業一切を承継しながら負債については承継の対象とせず,農産振興に全ての負債を背負わせた上で農産振興のみを清算し閉鎖したため,このような社会規範に反する会社分割は詐害行為に当たるとして,債権者から賠償請求を受けるに至り(名古屋地裁平成23年7月22日判決,名古屋高判平成24年2月7日判決),結果,このような会社分割は詐害行為に当たるとして債権者による価額賠償請求が認容されている(甲16)。
つまり,被請求人は,旧りょくけんの時代から実質的に倒産状態にあり,本来なら法的な倒産手続を踏むべきところ,詐害の意思をもって,負債の承継を伴わない会社分割という正当化し得ない行為により形式的に存続しているにすぎないものである。
イ 本件契約書(乙23)について
被請求人は,「緑健」の文字から「リョッケン」と「リョクケン」という2通りの異なる称呼が生ずることを前提として,これらに相応する英字商標「RYOKKEN」及び同「RYOKUKEN」を各々登録すると共に,これら商標についてJOINに対し使用許諾を行っている。
被請求人は,乙第23号証における使用許諾の商標群に含まれている商標とは無関係に同一性が論ぜられるべき旨を主張するが,少なくとも,乙第23号証において,商標登録第1898881号「RYOKKEN」や商標登録第1898882号「RYOKUKEN」,商標登録第4155976号「緑健/RYOKKEN」が使用許諾の対象として含まれていることは,使用標章や本件商標から生ずる称呼や観念を特定する上において考慮されて然るべきであるし,また,これらから異なる称呼や観念が生ずることを鑑みれば,使用標章「RYOKUKEN」と本件商標「緑健」における社会通念上の同一性も否定されて然るべきである。
4 平成27年6月4日付け上申書
被請求人は,JOINに対して商標の使用許諾を行うに際し,書面による本件契約書を作成し,本件契約書において,敢えて使用許諾の対象商標から本件商標を除外しておきながら,かかる使用許諾を行っていなかった事実を隠蔽し,あたかも本件商標について使用許諾を行っていたかのごとく偽装すべく,本件契約書の写として乙第1号証を提出するに際し,本来の「別紙使用許諾商標目録」ではなく,本件商標を許諾対象に加えた虚偽の[別紙使用許諾商標目録]に差し替えた上で提出を行っていたものである。
被請求人によるこのような詐欺的行為自体,認められるべきものではないが,かかる行為の違法性はさておき,本件商標にかかる使用許諾の有無をみるに,敢えて書面による使用許諾契約を行い,敢えて本件商標を使用許諾の対象から除外していたことからすれば(乙23),少なくとも,本件契約書の締結日である平成24年1月31日から使用許諾期間として定められている同27年1月31日までは,被請求人は本件商標についての使用を許諾する意思を有していなかったとみるべきである。
そのような状況の下,被請求人は,JOINに対し,さも平成24年2月末から使用を許諾する意思を有していたかのごとく,今になって(平成27年5月18日付にて)形式的に確認書なる書面(乙26)を提出してきたものであるが,現在の意思はともかく,少なくとも上記期間中は,被請求人が本件商標の使用を許諾する意思を有していなかったことは明白であるから,補充された証拠(乙26)に基づいて審理すべきとする被請求人の主張は認められない。
以上より,被請求人は本件商標について使用を許諾する意思を有していなかったとみるべきである。また,たとえ使用許諾があったと仮定しても,本件使用標章と本件商標とが社会通念上同一の商標と認められないことは既に述べたとおりである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,答弁書及び口頭審理陳述要領書(口頭審理における陳述を含む。)において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第26号証(枝番号を含む。)を提出している。
なお,被請求人は,口頭審理において,答弁書中の「法2条第2項第1号」及び「法2条第2項第2号」をそれぞれ「商標法第2条第3項第1号」及び「商標法第2条第3項第2号」と訂正した。また,乙号証については,「乙第1号証」を「乙第23号証」,「乙第2号証の1ないし3」を「乙第24号証の1ないし3」及び「乙第3号証の1ないし3」を「乙第25号証の1ないし3」と訂正し(平成27年5月14日付第1回口頭審理調書),当該書証を平成27年5月21日付け上申書により提出した。
1 理由
(1)本件契約書(乙23)には,「通常使用権」の語句は記載されていないが,契約内容,特に「第4条(使用許諾の種類)の甲(商標権者)は自ら実施(使用)する権利を留保する。」から,実質的には商標法第31条通常使用権の許諾に該当すると解される。よって,本件商標権にあっては,JOINに対して,全指定商品について通常使用権が許諾されていることは明確であり,以下,JOINを「通常使用権者」とし,この通常使用権者によって,本件商標が,指定商品「清涼飲料,果実飲料」について本件審判請求登録前3年以内に使用されていたことを説明する。
(2)乙第2号証は,「レギュラートマト缶ジュースの写真」であり,また,乙第3号証は,「高糖度トマト缶ジュースの写真」である。いずれも,トマト缶ジュースの写真である。この「レギュラートマト缶ジュースの写真」及び「高糖度トマト缶ジュースの写真」から,これらのトマト缶ジュースの容器である缶の表面上部に商標「RYOKUKEN」の文字が横書きで記載され(乙24の1),同缶の背面上部に販売者として通常使用権者である「JOIN」が記載され(乙2の2),また,同缶の底面には賞味期限表示として「レギュラートマト缶ジュースの写真」においては「15.08.21」が,また,(高糖度トマト缶ジュース)の写真」においては「15.09.01」が,点文字で記載されていることが明確である(乙2の3)。
(3)次にトマト缶ジュースの缶に表示された商標「RYOKUKEN」について考察する。商標「RYOKUKEN」と登録商標「緑健」は社会通念上両者とも「リョッケン」の称呼のみを有することに疑義はなく,かつ,両者とも造語であり特別な観念を有しないため,一般取引社会では同一のものと把握される同一の商標として使用されることが多い。このため,両者は社会通念上同一とあると認められることに疑義はないものである。
(4)乙第4号証は,「谷口農場の納品書」,乙第5号証は「谷口農場の充填記録」である。この「谷口農場の充填記録」及び「谷口農場の納品書」から,高糖度トマトジュース,レギュラートマトジュースが谷口農場で製造され,通常使用権者であるJOINに納品されていることが明確である。
また,製造される際,缶の底面に賞味期限表示が記載されるが,高糖度トマトジュース,レギュラートマトジュースの場合,社会通念に基づいた経験的事実により封入日の翌日から2年目の日付が記載されている。よって,写真の「レギュラートマト缶ジュース」は平成25年8月20日,また,「高糖度トマト缶ジュース」は平成25年8月31日に製造されたものと解することができる。
(5)以上の説明により,通常使用権者による「レギュラートマト缶ジュース」又は「高糖度トマト缶ジュース」に商標「RYOKUKEN」を付する行為は登録商標の使用に該当し(商標法第2条第3項第1号),この商品に関する納品書(乙4の1ないし4)の日付,「レギュラートマト缶ジュース」の場合,平成25年10月31日,「高糖度トマト缶ジュース」の場合,平成25年11月8日を鑑みれば,本件商標「RYOKUKEN」を付する行為は登録商標の使用に該当し(商標法第2条第3項第1号),通常使用権者によって本件審判の請求登録前3年以内に使用されていることは疑いのないものである。
(6)乙第6号証の1は,りょくけん東京2013年9月号通販カタログ,乙第6号証の2は,りょくけん東京2013年10月号通販カタログ,乙第6号証の3は,りょくけん東京2013年11月号通販カタログ,乙第6号証の4は,りょくけん東京2013年12月号通販カタログである。これらのカタログはその役割上,相応する月の前月の月末23?28日に消費者に届くように郵送される。
これらのカタログには,前記「レギュラートマト缶ジュース」又は「高糖度トマト缶ジュース」が,商品の一つとして掲載されている。この「レギュラートマト缶ジュース」及び「高糖度トマト缶ジュース」は,カタログの写真及び納品書(乙7の1ないし8)に示すように,通常使用権者であるから納品されたものである。前記カタログの用途から,「レギュラートマト缶ジュース」及び「高糖度トマト缶ジュース」は遅くとも相応する月の月初めまでには納品されたものと解することができる。
なお,前記納品書によると「レギュラートマト缶ジュース」の場合は2013年8月8日,8月21日,9月12日付で納品されている。
(7)以上の説明により,通常使用権者による「レギュラートマト缶ジュース」又は「高糖度トマト缶ジュース」を納品する行為は登録商標の使用に該当し(商標法第2条第3項第2号),この商品に関する納品書(乙7の1ないし8)の日付,「レギュラートマト缶ジュース」の場合は2013年7月19日,同7月29日,同8月5日,9月12日,10月1日,11月25日,「高糖度トマト缶ジュース」の場合は,2013年8月8日,8月21日,9月12日を鑑みれば,本件商標は通常使用権者によって本件審判の請求の登録前3年以内に使用されていることは疑いのないものである。
2 口頭審理における陳述
(1)商標の同一性について
本件商標「緑健」は,広辞苑等の辞書には記載されておらず,一種の造語と認められるが,それを構成する漢字の特性として,請求人も指摘するとおり,平易な漢字である「緑」は「みどり」,「健」は「すこやかなこと」を各々意味すると認められ(広辞苑),これらの漢字の語義から,商品「トマトジュース」の需要者・取引者は,容易に「緑が健やか」或いは「緑の健康」等の観念イメージを想起すると認められる。また,商品「トマト」に関しては「緑健農法,緑健栽培」等という独特の名称が良く知られており,その加工品である「トマトジュース」に関しても,「緑健のトマトジュース」等という認識が広く行き渡っていると認められ,その名称に由来するトマトを加工したトマトジュースであるとの観念も生じ得ると認められる。
一方,使用に係る商標「RYOKUKEN」は,出願人の商号の略称である平仮名「りょくけん」を欧文字で表記したものと容易に認識可能であり,原材料が青果物の「トマト」である商品「トマトジュース」の取引者・需要者にとっては,前記農法等の名称の認知ともあいまって,容易に漢字「緑健」を想起させると同時に,その漢字の想起により「緑が健やか,緑の健康」等の外,「緑健農法・栽培法によるトマトのジュース」等の観念が生じると認められる。
使用に係る商標「RYOKUKEN」が商品「トマトジュース」に関して,どの様に使用され認識されているかを確認するため,代表的なインターネット検索エンジンGoogleにより「RYOKUKEN」と「トマトジュース」の積集合を求めると,50件程度の検索結果が得られる(乙8)。これを検討すると,「RYOKUKEN」は,URLの表示の一部として使用されることが多いと認められるが,りょくけん東京が運営する通信販売サイト(乙6)において「Ryokuken On1ine Shop」等と表記されるほか,本件商品をさして「RYOKUKENのトマトジュース」等と表示されているサイトが見受けられる。この様な事実から,商品「トマトジュース」に関しては,「RYOKUKEN」は,大文字小文字の別なく,その日本語表記である平仮名「りょくけん」と緊密に結び付いて使用されていると認められ,当該欧文字と同時に,漢字「緑健」が表示され使用されているサイトも認められ,「RYOKUKEN」の欧文字と漢字「緑健」も,商品「トマトジュース」に関しては,緊密な関係で用いられていると認められる。
また,乙第8号証の検索結果以外のサイトでも,りょくけん東京がウェブサイトにアップしているブログ「りょくけんだより」で,「りょくけんの作物や緑健農法」(乙12),「後の緑健栽培だったり,スパルタ農法,断食農法,永田農法と言われる考え方」(乙13)等の記載が認められ,他のサイトでも,「緑健農法(永田農法?)のトマト」を買いたいという質問に対し,「銀座松屋のB1にりょくけんの店」があり,そこで購入できる旨の回答がなされている(乙14)。さらに,「水や肥料を押さえて作る「緑健トマト」」(乙16)や「緑健トマト」(乙17及び乙18)等の記載が認められ,「トマト」に関して,「緑健農法,緑健栽培」に由来する「緑健」の「トマト」という認識が広まっている事実が明らかである。
以上の事実から,商品「トマトジュース」の原材料「トマト」に関しては,「緑健農法,緑健栽培」等に由来する「緑健」という漢字が,取引者・需要者に広く認識されていると認められ,その平仮名表記である「りょくけん」や「RYOKUKEN」の欧文字等の表示も,多数使用されていると認められ,その実情は,商品「トマトジュース」に関しても何ら変わらないと認められる。
そうすると,「RYOKUKEN」に接する取引者・需要者は,そこから出願人の商号の略称「りょくけん」を容易に想起すると認められ,併せて,商品「トマトジュース」との関連では,「緑健」の漢字も想起すると認められる。そうであれば,「RYOKUKEN」=「りょくけん」=「緑健」という図式が,商品「トマトジュース」の取引者・需要者の認識において形成されると認められ,そこから「緑健農法・栽培法によるトマトを加工したトマトジュース」という観念が生じると認められ,また,その様な農法・栽培法を知らない取引者・需要者においても,漢字「緑健」が有する語義から,一般的に「緑が健やか,緑の健康」等の観念イメージを想起するものと考えられる。
以上,商品「トマトジュース」においては,欧文字「RYOKUKEN」,平仮名「りょくけん」及び漢字「緑健」は,緊密な関係を以て使用されており,その緊密さから,欧文字「RYOKUKEN」に接する取引者・需要者は,漢字「緑健」を想起することにより,同一の観念イメージを以て認識すると認められる。これが,商品「トマトジュース」或いは「トマト」以外の商品,特に食品分野以外の商品であれば,請求人指摘のとおり,欧文字「RYOKUKEN」から「緑健」以外の漢字も想起され得ると考えられるが,少なくとも,取消しに係る本件商品「トマトジュース」に関しては,上記実情から考えて,欧文字「RYOKUKEN」から「緑健」以外の漢字は想起し得ないと考えられる。
よって,本件使用標章「RYOKUKEN」と登録商標「緑健」は,一般的な辞書上の観念において,特に相違がないと認められると同時に,商品「トマトジュース」との関係では,「緑が健やか,緑の健康」等の一種独特の観念イメージ並びに「緑健農法・栽培法に由来するトマトを加工したトマトジュース」等という観念も生じると認められ,それらの観念において両者は同一と認められ,社会通念上同一性を有すると考えられる。
(2)本件契約書における商標権者の名称について
商標登録原簿(甲1)に記載されている「株式会社りょくけん」は,平成21年9月1日に会社分割を行い,一切の業務に関する権利義務を新たに設立した新りょくけんに承継させると共に,商号を「株式会社農産振興」に変更している(乙20)。
新名称を「株式会社農産振興」とした旧りょくけんから会社分割承継証明書を受け,本件商標権を新りょくけんとするために会社分割による商標権移転登録申請を行った(乙21)。
以上の手続により,本件の商標権者は,甲第3号証に記載された農産振興ではなく,会社分割により設立された新りょくけんということとなり,本件契約書(乙23)の甲欄に記載された名称と齟齬がなくなり,その不自然さは解消されたと思料する。
(3)商品の同一性について
納品書の「レギュラートマト」の記載に対し,乙第24号証の1ないし3の商品に「レギュラートマト」が表示されていないのは,商品の表示から取引者・需要者が受ける印象・イメージを考慮したものであり,「高糖度とまとジュース」に対して,敢えて「レギュラートマトジュース」と表記すると,その品質を誤解され,「高糖度とまとジュース」より品質の劣った商品であると認識されるおそれが生じ得るとの考えから,その様な懸念を生じさせないため,実際の缶には単に「トマトジュース」と表示したものである。この様に,現実の商品の表示と納品書等の伝票類の表示が異なることは,取引する当事者が合意していれば,しばしば見受けられることであり,何ら不自然な点はないと認められる。
(4)「りょくけん東京」との関係について
りょくけん東京は,本件商標権の通常使用権者と認められるJOINから商品を購入し,最終消費者に売る販売店である。両者間の売買基本契約書(乙22)によれば,JOINが,その製造販売する農産物・加工品を売渡し,りょくけん東京が,これを買受け販売することとなっている。
3 以上説明したように,本件商標は,通常使用権者により,国内において,審判判請求前3年以内に,商品「清涼飲料,果実飲料」に使用されているものである。

第4 当審の判断
1 認定事実
被請求人の提出に係る乙各号証によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)乙第6号証の1は,発行元をりょくけん東京とする2013年9月号の「りょくけん通販」であり,4枚目の右頁には「Juice 大切な方へのギフトにも。」の見出しのもと,上から2段目の左には「北海道/高糖度トマトジュース」,「10,500円(190g×30缶)」の表示の横には,赤地と白地とを交互に5段にした缶入りトマトジューストの写真が表示され,当該缶入りトマトジュースには,1段目の赤地には,図形と「RYOKUKEN」とおぼしき欧文字が記載され,2段目の白地には,赤い文字で「高糖度」の漢字と黒い文字で「とまとジュース」の文字が大きく表され,3段目には赤いトマトの図,4段目には「果汁100%」等の文字などが配されているのが分かる。
(2)乙第7号証の5は,JOINからりょくけん東京に宛てた2013(平成25)年8月21日付けの納品書であり,商品名欄には「高糖度トマトジュース 190g*30缶」等の記載がある。
(3)被請求人の提出する「表示変更登録の回復登録申請書」,「閉鎖事項全部証明書」によれば,旧りょくけんは,平成21年9月1日に商号を「株式会社農産振興」に変更及び登記を行うとともに,同日付で「株式会社りょくけん」(新りょくけん)に会社分割する登記を行ったことが認められる(乙20,21)。
さらに,本件商標に関する「会社分割による商標権移転登録申請書」(乙21)は,平成27年3月26日に被承継人を「静岡県浜松市北区都田町」の「株式会社りょくけん」とし,承継人を「静岡県浜松市北区初生町」の「株式会社りょくけん」とするものであり,職権による調査によれば,当該移転登録申請が本件商標の商標登録原簿に「一般承継による本権の移転」として記載されていることが認められる。
(4)乙第23号証は,平成24年1月31日付けで,新りょくけんとJOINとの間で交わされた本件契約書であり,「使用許諾商標目録」には,登録番号と商標名が記載されており,登録番号「1593119,1573192,1577650」の商標「日本緑健」,登録番号「1672961,4243659」の商標「りょくけん」,登録番号「1801435,1898881」の「RYOKKEN」,登録番号「1898882」の「RYOKUKEN」及び登録番号「4155976」の商標「緑健RYOKKEN」を含む使用許諾商標が表示されているが,本件商標の記載はない。
(5)乙第25号証の1は,撮影日を2015(平成27)年5月18日とする缶入りトマトジュースの写真であるところ,当該缶入りトマトジュースは,赤地と白地とを交互に5段にし,最上部は,赤地に緑と青色等を組み合わせた図形とその下に「RYOKUKEN」の欧文字が表示され,その下には,白地に赤い文字を黄土色で縁取った「高糖度」の漢字,黄土色で縁取った「とまとジュース」の文字が大きく表され,トマトの図や「果汁100%」等の文字などが配されており,また,乙第25号証の2によれば,当該缶入りトマトジュースは,内容量が190gであることが認められるから,当該缶入りトマトジュースは,乙第6号証の1の「北海道/高糖度とまとジュース」との表示の横に配された写真に写っている缶入りトマトジュースとは,同様の商品と認められる。
(6)乙第26号証は,平成27年5月21日付の上申書における「確認書」であり,当該確認書には,遅くとも平成24年2月末日には,新りょくけんがJOINに対し,本件商標に関して通常使用権を許諾した旨の記載が認められる。
2 判断
(1)通常使用権について
平成24年1月31日付けの本件契約書の使用許諾商標目録には,前記1(4)のとおり,本件商標の記載はないが,本件商標「緑健」の文字を含む商標又は称呼が同一又は近似する商標である「日本緑健」,「りょくけん」,「RYOKKEN」及び「緑健RYOKKEN」等の商標が含まれ,さらに,平成27年5月21日付で提出された「確認書」(乙26)によれば,本件商標についても,遅くとも平成24年2月末日には,通常使用権の許諾があったと認められることからすれば,その頃には,JOINは,本件商標権を含めた通常使用権者であったといえる。
(2)本件使用商標について
乙第25号証の1の缶入りトマトジュース(高糖度とまとジュース)には,「RYOKUKEN」の欧文字で表された本件使用商標が使用されていると認められる。そうすると,乙第6号証の1の缶入りトマトジュース(北海道/高糖度とまとジュース,190g×30缶)には,本件使用商標が付されているといい得るものであるから,2013年9月号の「りょくけん通販」(乙6の1)の「北海道/高糖度トマトジュース」,「10,500円(190g×30缶)」の表示の横に配された写真には,本件使用商標が付された缶入りトマトが表示されているということができる。
そして,JOINからりょくけん東京に宛てた2013年8月21日付け納品書にも,「高糖度トマトジュース190g*30缶」(乙7の5)と表示されていることからすれば,当該納品書の「高糖度トマトジュース」とは,乙第6号証の1及び乙第25号証の1にある缶入りトマトジュースのことであると解するのが合理的である。したがって,JOINは,2013年8月21日に,りょくけん東京に対し,本件使用商標を付した缶入りトマトジュース(北海道/高糖度トマトジュース,190g×30缶)を納品(譲渡)したものと推認できる。
(3)本件使用商標「RYOKUKEN」が,本件商標と社会通念上同一の商標であるか否かについて
商標法第50条第2項で規定するところの「登録商標の使用」には,当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標による使用も含まれるところ,同条第1項は,かっこ書きを設け,その範囲を次のように規定している。
「(a)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,(b)平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標,(c)外観において同視される図形からなる商標,(d)その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。」
これを本件について,以下検討する。
本件商標は,前記第1のとおり,「緑健」の文字を縦書きしてなるものであるから,これより「リョクケン」の称呼を生ずるものであり,また,「緑健」自体は辞書類に載録がないことから成語とは認められないものの,本件商標を構成する「緑」及び「健」の各漢字は,いずれも一般に慣れ親しまれているものであり,それぞれ「みどり」及び「すこやか」の意味を有する語であるから,各字義に応じた「みどり,すこやか」との意味合い(観念)を想起させ得る。
これに対し,本件使用商標は,前記(1)のとおり,「RYOKUKEN」の欧文字からなり,該文字に相応して,「リョクケン」の称呼を生ずるものであり,また,辞書類に載録がなく,特定の意味合いをもって親しまれている語であるとも認められないから,特定の観念を有しないものである。
してみると,本件商標及び本件使用商標は,共に「リョクケン」との同一称呼が生ずるものではあるが,観念については,本件商標は,少なくとも各漢字の字義に応じた「みどり,すこやか」との意味合いを想起させ得るものであるのに対し,本件使用商標は,特定の観念を有しないものであるから,両商標は同一の観念を生ずるものとはいえない。
そうすると,本件使用商標は,上記(a)ないし(c)に該当しないことは明らかであるし,また,漢字及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標でもないから,上記(d)にも該当しない。
したがって,本件使用商標「RYOKUKEN」の欧文字は,本件商標と社会通念上同一の商標ということができない。
(4)小括
してみれば,提出された証拠からは,被請求人によって,本件審判の請求の登録前3年以内において,商標法第2条第3項に規定する商標の使用行為が本件商標について行われたものということはできない。
3 むすび
以上のとおりであるから,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件取消の請求に係る第32類の指定商品「清涼飲料,果実飲料」について,登録商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていたことを証明したということはできない。
また,登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,その指定商品中の「結論掲記の指定商品」について,商標法第50条の規定により,取り消すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-08-07 
結審通知日 2015-08-12 
審決日 2015-08-25 
出願番号 商願昭54-72720 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y32)
最終処分 成立  
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田村 正明
前山 るり子
登録日 1983-06-30 
登録番号 商標登録第1595011号(T1595011) 
商標の称呼 リョクケン、ケン 
代理人 徳永 弥生 
代理人 越川 隆夫 
代理人 川本 篤 
代理人 齊藤 整 

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