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審決分類 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W0910
審判 一部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない W0910
管理番号 1306577 
審判番号 無効2014-890027 
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-25 
確定日 2015-09-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第5599652号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5599652号商標(以下「本件商標」という。)は,「PRP(IHY)セット」の文字を標準文字で表してなり,平成24年12月10日に登録出願され,第9類「PRP(多血小板血しょう)作成用の理化学機械器具」,第10類「PRP(多血小板血しょう)作成用の医療用機械器具」及び第44類「PRP(多血小板血しょう)療法を用いた歯科医業,PRP(多血小板血しょう)療法を用いたその他の医業,PRP(多血小板血しょう)療法を用いた動物の治療,PRP(多血小板血しょう)療法を用いた動物の美容」を指定商品又は指定役務として,同25年6月18日に登録査定,同年7月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の指定商品中,第9類及び第10類の指定商品全てについて,その登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第14号証を提出した。
1 請求人の利害関係について
(1)請求人は,平成25年10月18日に第5類及び第10類に属する商品を指定商品として「PRP(IHY)セット」の文字を標準文字で表した商標(以下「請求人使用標章」という場合がある。)を商標出願したところ,同26年2月14日付けで,本件商標を引用して拒絶理由が通知されたので,本件商標の登録を無効にすることに関して法律上の利害関係を有する(甲1)。
(2)被請求人は,請求人が本件商標の出願前からこれと同一の商標を使用していたことを知りながら,その代表者である澤浦和子が請求人会社の取締役を辞職した後に,被請求人名義で出願したことは悪意の商標出願であり,正当な権利者である請求人が,本件商標の登録を無効とすることについて法律上の利害関係を有する。
2 商標法第3条第1項柱書違反について
被請求人は,住所を「東京都文京区本郷三丁目9番9号 コーポ芙蓉」,名称を「ビーエスメディカル株式会社」として本件商標を平成24年12月10日に出願した。
しかし,被請求人は,平成25年3月4日に移転するまでは請求人と同一住所である「東京都文京区本郷三丁目14番12号 サンパークマンション本郷702」に存在し,前記住所地には存在しなかった(甲2)。
したがって,本件商標は,登記簿上存在しない(人格権を有しない)会社名義で,出願されたことになり,商標法第3条第1項柱書の「自己の業務にかかる」の要件を欠くことになるから商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。
3 商標法第4条第1項第7号違反について
(1)請求人は,本間一吉を代表者として医療用機械器具の輸出入及び販売を主たる目的として,平成4年8月21日に設立されたものである(甲3)。
(2)平成17年4月1日発行の「PRPスピッツ(IHY)セット」のパンフレットの表面の写真の左上には「PRP(IHY)セット」(製品番号:JP001)と記載されているように「駆血帯」等の医療補助品及びシリンジ等の「医療機械器具」のセット商品の商標として使用されている(甲4)。
平成19年1月5日発行の「PRPスピッツセット」の注文書の中段には「PRP(IHY)セット」として価格4,500円が付けられており,PRPスピッツセット(JP200)一式の中には「遠心分離器」(理化学機械器具)が掲載されている(甲5)。
「PRP(多血小板血漿)スピッツ臨床セット」の特価販売の案内文には,PRPスピッツセットの他「遠心分離器」(理化学機械器具),駆血帯(医療補助品),「補正用塩化カルシウム液」(薬剤)などが,取扱商品として掲載されている(甲6)。
平成19年1月5日発行の「PRPセット」のパンフレットには,「駆血帯」(医療補助品),「シリンジセット」(医療機械器具)などが掲載されている(甲7)。
平成19年1月吉日発行の「PRP(IHY)セットご使用中の先生へ」の手紙文には,「PRP(IHY)セット(12種21点)正価4,500円として例示されている(甲8)。
以上のとおり,甲第4号証ないし甲第8号証により平成17年ごろより商品名「PRPスピッツ(IHY)セット」の販売を開始し,平成19年1月には「PRP(IHY)セット」(12種21点)を正価4,500円で販売していたことがわかる。
(3)自他共に「PRP(IHY)セット」は,取引者・需用者間で日本パラメディック株式会社の販売にかかるPRP用の「薬剤」及び「医療機械器具」のセット商品にかかるものであることが知られていた。また,関連商品として「遠心分離器」(理化学機械器具)が,「PRP(IHY)セット」のパンフレット,注文票及びリーフレットに掲載されていたことから,理化学機械器具も関連商品として認識されていた。
なお,「IHY」は「糸瀬正通」の「I」,「林佳明」の「H」及び「山道信之」の「Y」から採って,日本パラメディック株式会社の本間一吉が命名したものである。
(4)請求人は,平成20年1月5日にはIHYの一人である村松歯科医院の医院長林佳明と共同で「PRPの分離から臨床応用」という表題で一日実習&マスターコースの研修会の企画・運営を行った(甲9)。
(5)IHYの山道信之氏及び糸瀬正通氏の共著にかかる「サイナスフロアエレペーション」のPRPに関する技術が紹介された書籍がクインテッセンス出版株式会社から発行され,請求人の代表者であった本間一吉が著者から本の贈呈を受けている。この本の第19頁,第64頁,第69頁,第80頁,第82頁,第85頁,第94頁には「PRP」に関する内容の記事が掲載されている。第94頁では,シリンジ,試験管等からなる「IHY PRP Preparation Kit」(日本パラメディック株式会社製)というようにその取扱いが請求人である旨記載されている(甲10)。
(6)請求人は,平成22年3月1日には「PRP(IHY)キット」,PRP(JP200)セットをご使用の院長先生」宛のシステムの改良方法の紹介パンフレットを各歯科医院の先生に対して配布している。この第4頁の中段には「◎PRP(IHY)キット,(JP200)セットでPRFの作成法」が紹介されている(甲11)。
(7)請求人は,平成23年10月1日改訂版にて「PRPの分離から臨床応用」という表題で一日実習&マスターコースの企画・運営を行っており,その時配布された資料(甲12)の第2頁にはPRP(IHY)Newセットマニュアルが記載されており,◎PRF(CGF)の使用の意義と作成法(1回法)」,「◎林先生のPRF使用法」が紹介されている。このパンフレットから,請求人の「PRP(IHY)セット」から1回法にて「PRF」が作成できる旨紹介されている関係で「PRP(IHY)セット」と「PRF(IHY)セット」とは請求人の商品として認識されていた。
(8)平成23年7月2日に開催された近未来オステオインプラント学会の「第4回学術大会 抄録集」には,請求人が賛助会員として紹介され,「テーブルトップ遠心機」(理化学機械器具)の解説の中で「PRP(IHY)セット」の広告記事を掲載している(甲13)。
(9)平成24年の年末に被請求人からIPOI学会会員の先生各位と称して「日本パラメディック株式会社が皆様に提供してまいりました,PRPキットをはじめ,各種補填剤・ジープ・ヘムコンデンタルドレッシング・ディスポニードル等,すべての商品につきまして平成24年9月5日に日本パラメディック株式会社より引き継ぐことになりました。12月初旬に各個人医院様向けに日本パラメディック株式会社より,IPOI学会以外の個人医院様向けの挨拶文が届いているとの連絡を受けましたが,あくまでもIPOI学会関係者以外の医院向けですのでお間違いにならないようにお願い申し上げます。なお,日本パラメディック株式会社様はIPOI学会の賛助会員ではありません。」という内容の手紙が代表者澤浦和子名義で発送されている(甲14)。
かかる事実は,元々「PRP(IHY)セット」の商品は請求人に帰属していたことを証明するものである。
(10)悪意の商標出願であることについて
請求人は,平成4年8月21日に登記された会社で平成19年6月27日就任から平成24年4月6日死亡まで本間一吉が代表者として会社を運営した。
平成24年8月25日に平成19年6月27日から取締役であった澤浦和子と本間一吉の妻である本間温が代表取締役に就任した。なお,共同代表であった澤浦和子は,平成24年10月15日に代表取締役を辞任し,平成24年12月3日には取締役も辞任した(甲3)。
被請求人は,請求人の関連子会社として平成18年8月4日に設立され,専ら医療機器の袋詰め作業を行う会社として活動を行っていたが,代表者は澤浦和子である(甲2)。
被請求人の本件商標の出願日は,平成24年12月10日であり,澤浦和子が請求人の取締役辞任1週間後のことである。被請求人の代表者澤浦和子は,平成19年6月27日から平成24年12月3日まで請求人の取締役として勤務していた関係から請求人が商品として販売している「PRP(IHY)セット」が請求人に係る商品であることを知っていた。さらに,被請求人の代表者である澤浦和子は,平成19年6月27日から平成24年12月3日まで請求人会社の取締役,かつ,平成24年8月15日から平成24年10月15日まで代表取締役として在籍していた事実から商標「PRP(IHY)セット」が請求人に係る商品に関連するものであること及び請求人が商標登録出願していなかったという事実を知っていた。
被請求人は,平成24年の年末に「日本パラメディック株式会社が皆様に提供してまいりました,PRPキットをはじめ,各種補填剤・ジープ・ヘムコンデンタルドレッシング・ディスポニードル等,すべての商品につきまして平成24年9月5日に日本パラメディック株式会社より引き継ぐことになりました。」(甲14)と連絡することにより顧客を獲得しようとして手紙をIPOI学会の会員宛に送付している。
かかる事実からも,本件商標は,本来の権利者となるべき者が請求人であることを被請求人が知りながら被請求人の名義で無断で商標出願されたものであり,それは悪意の出願そのものであり,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
4 答弁に対する弁駁
(1)商標法第3条第1項柱書違反について
被請求人は,本件商標の登録出願時,被請求人の住所は「東京都文京区本郷三丁目14番12号サンパークマンション本郷702」に存在し,「東京都文京区本郷三丁目9番9号コーポ芙蓉」には存在していなかったことを自認している。
かかる事実は,請求人の主張する「人格権の存在しない会社名義で商標登録出願したこと」を意味し,商標法第3条第1項柱書違反の無効事由が存在していたことになる。
(2)商標法第4条第1項7号違反について
ア 被請求人は,「平成17年頃,請求人と被請求人とは業務提携をし」及び「協議の結果甲第4号証に記載されているシリンジセット及び減菌済みオイフをパックにして,請求人が承認を受けた商品をセットで売るという意識であった。」と主張している。
しかし,会社登記簿謄本(甲2)によれば被請求人の会社が創設されたのは,平成18年8月4日であり,被請求人の主張には誤りがある。また「PRPスピッツ(IHY)セットのパンフレットの写し」(甲4)に記載されているように遅くとも請求人が当該商品の販売を開始したのは,平成17年4月1日であり,被請求人が業務提携する1年以上前から販売していた。
さらに,被請求人は,「請求人が承認を受けた商品をセットで売るという意識であった。」と述べ,商標としての認識がなかったように主張している。
しかし,被請求人が成立を認めた甲第4号証ないし甲第13号証には,「PRPスピッツ(IHY)セット「製品番号:JP001」(甲4),「PRPスピッツセット(JP200)一式」(甲5),PRPスピッツセット:JP200」(甲6),「PRPセット(製品番号:JP200)」(甲7),「PRP(IHY)セット」(甲8),「PRPスピッツセット(JP200)」(甲9)と製品番号と併記して商品名・販売名を使用していることからも商標としての意識は平成17年4月頃からあったと推量できる。
イ 被請求人は,平成24年4月6日に請求人の代表取締役本間一吉が亡くなり,平成24年9月5日に,遺族の方から会社(請求人)を整理したい旨の話合いがなされ,被請求人へ従業員を含めた請求人の営業権(PRPスピッツ(IHY)セット販売に関するもの,したがって,本件商標に関する権利も含む)を譲り渡すことで合意したとして乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
しかし,請求人は「日本パラメディック株式会社 議事録」(乙1)の存在及びその主張内容について争う。
一般に会社法で取締役会は,目的である事項を示して開催通知を行い,5日後に開催するもので,例外は定例の会議が決まっている場合と取締役全員の参加する場合である(会社法第366条)。
今回の乙第1号証の議事録は,平成24年9月5日に同日に取締役でもない伊藤雅行氏により作成されたものであり,議事録中に「2.代替案の提示と合意」の中で「取締役会を開きたい」との記述があるが,平成24年9月には取締役会が開催されておらず,その内容の信憑性に疑問がある。また,乙第1号証の議事録「2.代替案の提示と合意」には,「本間家側は,借金の連帯保証人となっていることからできるだけ現有財産については処分し解散して換金の上,整理したい。」と記載されているが,会社登記簿謄本(甲3)に記載のとおり,請求人の会社は解散せずに現存していることから,この内容の信憑性にも疑問がある。
請求人が現存しているからこそ被請求人の不正取得した商標権に対して無効審判を請求しているのであって,乙第1号証の内容は事実とは異なる。
会社法第369条第2項及び第3項には,以下のように規定されている。
第369条 取締役会の決議は,議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)が出席し,その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は,議決に加わることができない。
3 取締役会の議事については,法務省令で定めるところにより,議事録を作成し,議事録が書面をもって作成されているときは,出席した取締役及び監査役は,これに署名し,又は記名押印しなければならない。」
このことから取締役会の議事録には出席した取締役及び監査役が署名・捺印されていなければならないが,乙第1号証には署名捺印がなく,少なくとも取締役会の議事録ではない。
また,第369条第2項で「前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は,議決に加わることができない。」とあり,取締役:澤浦和子は特別の利害関係を有するために議決に加わることができず,取締役:本間温,斎藤以宰子(親子)の2名で決議するものであり,澤浦和子にとって有利な議決がされることは無かったはずで,かかる事実からも乙第1号証の信憑性に疑問がある。
また,乙第2号証の合意書は,日付もなく,双方の代表取締役の署名・捺印もなく,合意書としての体裁が整っておらず,証拠としての信憑性に欠ける。
合意書中に「代わりに本間温が代表取締役になることで不動産及び株式などの財産を処分できるようにするための行為ができるようにする。」とあるが,会社登記簿謄本(甲3)に記載されるように平成24年8月25日には本間温は代表取締役に就任しており,事実と記述内容との間に齟齬がある。
乙第2号証の合意書中の「日本パラメディック株式会社は今後営業を行わないので,澤浦博,澤浦勝治,山田修以上3名について,ビーエスメディカル株式会社として,今後雇い入れることとし,営業権はその対価として無償にて譲り渡しビーエスメディカル株式会社が営業することで合意した。」と記載されているが,請求人はこの事実及び内容は不知である。
本当に被請求人が,正式に営業権の譲渡を受けたと主張するのであれば,営業権の譲渡証書,双方の取締役会の議事録を提出されたい。
もし,かかる事実を証明できないのであれば,被請求人の主張は嘘偽りであり,被請求人が本件商標を出願した行為は,悪意の出願そのものであったということになる。
5 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,その指定商品及び指定役務中,第9類「全指定商品」及び第10類「全指定商品」について,商標法第3条第1項柱書及び第4条第1項第7号に違反してされたものであり,同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求め,答弁の理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 請求人の利害関係について
(1)請求人が,「PRP(IHY)セット」の商標を商標出願したこと,本件商標を引用商標として拒絶理由通知を受けたことについては不知である。
(2)被請求人が悪意で商標出願をしたこと,請求人が正当な権利者であることは否認し,法律上の利害関係は争う。
2 商標法第3条第1項柱書違反について
平成17年頃,請求人と被請求人とは業務提携をし,その代表である亡本間一吉と澤浦和子は協議し,被請求人が甲4号証に記載されている「6」(〇の中に6,以下,ほかの括弧付き数字についても本項において同じ。)ないし「8」及び「13」の部品を調達し,パックにして「1」に入れて(これは厚生労働省の薬事の承認を受けている)請求人に販売し,請求人が「1」の承認をされているのをメインにその他の部品を加えて,これらセットとして販売することにしたのである。
当時は,商標の認識は全くなく,「1」の承認が売りであり,「1」の商品に他の商品を含めて単にセットで売るという意識であった。
3 商標法第4条第1項第7号違反について
平成24年4月6日に請求人代表取締役本間一吉氏が亡くなり,平成24年9月5日,遺族の方から会社(請求人)を整理したい旨話し合いがなされ,請求人と被請求人は,被請求人へ従業員を含めた請求人の営業権(PRPスピッツ(IHY)セット販売に関するもの,したがって,本件商標に関連する権利も含む)を譲り渡すことで合意した(乙1,乙2)。
上記に基づき,平成24年9月下旬より,被請求人は,請求人の営業承継をした旨,各大学・学会等をはじめに通知した。そして,被請求人は譲り受けた営業を進めるにあたり,学会の関係者のアドバイスに従って商標の申請をした次第である。したがって,被請求人は本件商標の正当な権利者であることは明らかである。
4 まとめ
請求人は被請求人に上記権利を譲り渡ししたにもかかわらず,上記事業を自ら進めようと企て,被請求人の正当な商標登録を無効にしようとするため,本申立をしたものであるが,請求人はこれに関する何らの権利ないし適法な利害関係を有しない。

第4 当審の判断
1 本件審判請求における利害関係の有無について
請求人と被請求人との間には,請求人が本件審判請求をすることについて「法律上の利害関係」の有無に争いがあるので,先ずこの点について検討する。
甲各号証によれば,以下の事実が認められる。
請求人の会社は,平成4年8月21日に本間一吉を取締役として「医療用機械器具の輸出及び販売」を主たる目的として文京区本郷に設立されたものである(甲3)。請求人は,平成19年1月には「PRP(IHY)セット」(12種21点)を販売し(甲5,8),同23年7月2日に開催された近未来オステオインプラント学会の「第4回学術大会 抄録集」に,「テーブルトップ遠心機」の広告の中で「PRP(IHY)セット」の文字を掲載するなどして(甲13)本件商標と同一の商標の使用を継続していた。
請求人は,平成25年10月18日に第5類「PRP(多血小板血漿)の採取又は作成用の薬剤,PRP(多血小板血漿)の採取又は作成用の医療用塩化カルシウム液,PRP(多血小板血漿)の採取又は作成用の医療用油紙・衛生マスク・ガーゼ・カプセル・脱脂綿・ばんそうこう・包帯・包帯液・止血帯・減菌済みサージカルドレープ」及び第10類「PRP(多血小板血漿)の採取又は作成用の医療用機械器具・獣医科用機械器具,PRP(多血小板血漿)の採取又は作成用の注射器・採血針・注射針・採血容器・採血器具・自己蛋白質分解酵素用採血管・遠心分離用採血管・医療用遠心分離機並びにその部品及び附属品・医療用攪拌装置,PRP(多血小板血漿)の採取又は作成用の医療用採血枕・駆血帯」(平成26年4月2日補正)を指定商品として「PRP(IHY)セット」の文字を標準文字で表した商標を登録出願したところ,同26年2月14日付けで,本件商標を引用して拒絶理由が通知された(甲1)ことが認められる。
したがって,請求人は,上記認定事実に照らせば,本件商標の登録を無効にすることについて法律上の利害関係を有するというべきである。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号は,公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある商標は,商標登録を受けることができない旨規定しているところ,同規定の趣旨からすれば,(a)当該商標の構成自体が矯激,卑猥,差別的な文字,図形である場合など,その商標を使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合,(b)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(c)当該商標ないしその使用が特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国際信義に反するものである場合がこの規定に該当することは明らかであるが,それ以外にも,(d)特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど,当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も,この規定に該当すると解するのが相当である(知財高裁平成16年(行ケ)第7号平成16年12月21日判決参照)。
そして,商標法は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を,法第4条各号で個別的具体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号・同第10392号平成20年6月26日判決参照)
以下,上記の観点から,本件について検討する。
(1)請求人の提出した証拠(各項の括弧内に掲記)によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 請求人は,本間一吉を代表者として「医療用機械器具の輸出入及び販売」等を目的として,平成4年8月21日に設立された会社である(甲3)。
イ 請求人は,平成17年(2005年)4月1日付けで,「PRPスピッツ(IHY)セット」及びこれを含む「PRP(多血小板血漿)IHY臨床セット」の販売に関するパンフレットを作成した(甲4)。そして,請求人は,平成19年1月5日付けで,「PRPスピッツセット(JP200)一式(会員特価)」の見出しの下,「◇PRP(IHY)セット(5人分)¥4,500」などが記載された注文書を作成した(甲5)。
ウ 請求人は,平成19年1月吉日で,「PRP(IHY)セットご使用中の先生へ」の見出しの下,「前略,平素はPRP(IHY)セットのご使用いただき誠にありがとうございます。さて本日は発売以来3年の成果と新しい臨床成績から,セット内容の一部変更をご案内致します。」と記載され,また,「PRP(IHY)セット(12種21点)¥4,500??¥3,800」の記載がある案内状を作成した(甲8)。
エ 請求人は,平成23年7月2日に開催された「近未来オステオインプラント学会/第4回学術大会抄録集」において,「テーブルトップ遠心機/Model 2420 PRP仕様III」の広告を掲載しており,そこには,「PRP(IHY)セット,各種パーツ,補填剤のご注文をお受け賜ります。」などの記載がある冊子を作成した(甲13)。
オ 被請求人は,澤浦和子を代表者として「医療用機器及び器具の製造,販売及び輸出入」等を目的として,平成18年8月4日に設立された会社であり,その本店所在地は,平成25年3月4日に東京都文京区本郷三丁目9番9号に移転するまでは,請求人と同じであった。さらに,請求人の代表者であった本間一吉が平成24年4月6日まで取締役であったことが,平成25年4月11日,被請求人の登記簿に登記された(甲2)。
カ 請求人は,代表者の本間一吉が平成19年6月27日から同24年4月6日まで運営していたが,同氏は同24年4月6日に死亡した。その後,本間一吉の妻である本間温が,平成24年8月25日から取締役及び代表取締役に就いていた。また,被請求人の代表者である澤浦和子は,請求人の取締役として,平成19年6月27日から同24年12月3日まで就いており,同24年8月25日から同年10月15日までは代表取締役に就いていた(甲3)。
キ 被請求人は,「IPOI学会会員の先生各位」と題する書面において,請求人が提供してきた「PRPキット」をはじめとする全ての商品について,平成24年9月5日に請求人から被請求人に引き継ぐこと,請求人がIPOI学会の賛助会員でないこと等を内容とする通知を同年12月初旬以降行ったことが推認される(甲14)。
ク 被請求人は,平成25年9月5日付けの「日本パラメディック株式会社の議事録」と題する書面において,出席者の間において話し合いが行われ,その協議の結果として,別添(乙2)の合意がされたこと。そして「合意」と題する書面には,「請求人は今後営業を行わないので,・・・営業権はその対価として無償にて譲り渡し被請求人が営業することに合意した。」の記載があり,該書面には,議事録作成者の氏名,押印がある(乙1,乙2)。
(2)上記(1)で認定した事実によれば,請求人は,遅くとも平成17年頃から,「PRPスピッツ(IHY)セット」,平成19年頃から,「PRP(IHY)セット」等を販売していたことを認めることができる。
そして,請求人の代表取締役であった本間一吉は,被請求人の取締役として平成24年4月6日まで就いており(甲2),また,被請求人の代表取締役である澤浦和子は,請求人の取締役として平成19年6月27日から同24年12月3日まで就いており,かつ,同年8月25日から同年10月15日までは本間温と共同代表として代表取締役に就いていたこと(甲3),さらに,請求人及び被請求人は,平成25年3月4日まで,「東京都文京区本郷3丁目14版12号サンパークマンション本郷702」の同一住所に本店をおいていたこと(甲2,甲3)を考え合わせると,請求人及び被請求人は,業務提携しつつ本件商標を付した医療機械器具を販売していたと推認することができる。
しかしながら,請求人の提出した証拠からは,請求人が,「PRP(IHY)セット」の表示を用いた医療機械器具の販売を行っていたと認めるに足りる証拠は,甲第5号証,甲第8号証及び甲第13号証のみであり,他の証拠からは本件商標と同一又は類似する商標が使用されている事実を見いだせなかった。また,請求人使用標章の使用開始時期,使用期間,売上高,広告宣伝方法,回数及びその内容等を証明できる証拠の提出もないことから,請求人使用標章が需要者の間に広く認識されているとは認められない。
そして,請求人は,「被請求人は,請求人使用標章が商標登録されていないことを奇貨として,なんら権利の継承もなく請求人に無断で,請求人使用標章と同一の文字構成からなる商標を請求人使用標章の使用に係る商品を含む商品を指定して剽窃的に登録出願した。」旨主張しているところ,請求人使用標章が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されているとは認められないこと,上記のとおりであり,また,上記の事情を考慮すれば,本件商標(請求人使用標章)の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるとみるのが相当であり,被請求人が該商標を剽窃的に登録出願したとまでは断定し得ないから,請求人の上記主張は採用することができない。
したがって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」といえないから,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえない。
3 商標法第3条第1項柱書該当性について
商標法第3条第1項柱書は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標登録の要件としており,そのため,出願人は,「商標の使用の意思」を有していることが必要とされるものと解される。
請求人は,被請求人が本件商標を平成24年12月10日に出願した時は,請求人と同一住所である「東京都文京区本郷三丁目14番12号 サンパークマンション本郷702」に存在し,「東京都文京区本郷三丁目9番9号 コーポ芙蓉」には存在しなかったため,登記簿上存在しない(人格権を有しない)会社名義で,出願したことになり,同条第1項柱書きの要件を欠く旨主張している(甲2)。
しかしながら,商標法第3条第1項の規定に該当するか否かの判断時期は,査定時である。被請求人は,甲第2号証によれば,平成25年3月4日には住所を「東京都文京区本郷三丁目9番9号 コーポ芙蓉」に移転しており,本件商標の登録査定日である平成25年6月18日には,既に登記簿上の住所に移転している。また,被請求人は,「医療用機器及び器具の製造,販売及び輸出入」等を目的として,平成18年8月4日に設立された会社である。
以上の事実から総合すると,被請求人は自己の業務に係る商品について使用する商標として本件商標の登録出願をしたものというのが相当である。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項柱書を具備しないということはできない。
4 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号及び同法第3条第1項柱書のいずれにも違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-08-03 
結審通知日 2015-08-06 
審決日 2015-08-19 
出願番号 商願2012-99927(T2012-99927) 
審決分類 T 1 12・ 22- Y (W0910)
T 1 12・ 18- Y (W0910)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩谷 禎枝 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 榎本 政実
手塚 義明
登録日 2013-07-19 
登録番号 商標登録第5599652号(T5599652) 
商標の称呼 ピイアアルピイアイエイチワイセット、ピイアアルピイアイエッチワイセット、ピイアアルピイアイエイチワイ、ピイアアルピイアイエッチワイ、ピイアアルピイ、アイエイチワイセット、アイエッチワイセット、アイエイチワイ、アイエッチワイ 
代理人 押本 泰彦 

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