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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W02
管理番号 1304163 
審判番号 無効2013-890065 
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-09-20 
確定日 2015-08-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5557188号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5557188号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5557188号商標(以下「本件商標」という。)は、「スマートペン」の片仮名を標準文字で表してなり、平成24年9月10日に登録出願、第2類「自動車用補修用塗料」を指定商品として、同25年1月15日に登録査定、同年2月15日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号、同項第19号及び同項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)請求人と商標「Smart Pen」の関係
請求人は、スペインに所在するBCN FUHF S.L.(以下「BCN社」という。)の100%子会社であって、BCN社の子会社のすべての知的財産権を管理する企業である。
日本においては、請求人と同様、BCN社の100%子会社である株式会社e-chance(以下、「e-chance社」という。)が、請求人のライセンシーとして、本件商標の登録出願日である平成24年(2012年)9月10日より前である平成22年(2010年)5月から、片仮名商標「スマートペン」及び欧文字商標「Smart Pen」(以下、それぞれを「引用商標1」、「引用商標2」という。また、両者を合わせて「引用商標」という場合がある。)を使用して、商品「自動車ボディのクリアコーティング上の傷の補修材」(以下、「請求人商品」という。)を販売している(甲2の1及び2)。したがって、請求人のライセンシーであるe-chance社による引用商標の使用は、その使用による信用が請求人に帰属し、請求人による使用と同視できるものである。
請求人は、2013年1月16日付で、引用商標2をデザイン化した商標を、第2類「自動車ボディのクリアコート上の傷用スティック状補修材」について登録出願したところ(商願2013-1932号)、本件商標を引用とする拒絶理由通知書を受領したため、本件審判を請求したものである。
(2)引用商標「スマートペン」及び「Smart Pen」の著名性
上記(1)のとおり、e-chance社は、本件商標の登録出願日以前である2010年5月から、引用商標を使用して請求人商品の販売を開始し、現在に至るまで継続して販売している(甲3)。
請求人商品を含む自動車修理の分野では、従来から、車のボディの表面等についた傷を補修する場合、専門業者に依頼する方法と、自分で行う方法とがあるが、前者は費用が高く、後者は作業者にある程度の知識や技術が要求され、作業が煩雑であることから、いずれの方法によっても不都合な点があった。これに対し、請求人商品は、後者の不都合を解決する画期的な商品として、販売直後から需要者に人気を博してきた。具体的には、価格が1本約2,000円と手頃であるにもかかわらず、a)傷をなぞって乾かすだけで、配合成分が傷を覆い、傷を目立たなくすることができるという簡便性を有し、b)車のカラーを問わず使用することが可能であり、かつ、車のボンネット、トランク、フェンダー等、それ1つで様々な箇所にできた傷に使用することができるという汎用性を有する(甲2の2)。このように、請求人商品は、既存の補修材に比べ圧倒的な利点を有するため、販売開始から僅か2ヶ月程で約1,800個を販売するという通販業界のヒット商品の一つとなった。
また、e-chance社は、請求人商品の販売を開始した頃から現在に至るまで、各種メディアを利用して、継続的に広告宣伝活動を行い、テレビショッピングによる通信販売(甲3及び甲4の1)、インターネットによる通信販売(甲2の2)、新聞広告による通信販売(甲4の1及び2)、ショッピングカタログによる通信販売(甲5ないし甲8)を行っている。ショッピングカタログによる通信販売については、甲第7号証の1に示すとおり、我が国有数のカタログ通信販売会社である株式会社ニッセンが発行するカタログにも商品を掲載している(甲7の2)。
そして、テレビショッピングによる通信販売に関しては、販売を開始した頃から現在まで、テレビショッピング用CMを全国規模で継続して放送しており、本件商標の登録出願日までの間に、総数にして、放送回数約8,621回、放送時間約1,992時間に亘ってCMを放送している(甲3)。テレビショッピング用CMの広告費だけでも、本件商標の登録出願日までの間に、請求人商品に総額約3億1千7百万円以上を投じている(甲3)(ただし、CMの放送時間及び広告費には、一部、同時にCMを放送したe-chance社の他の商品に関する分も含む)。
このようなe-chance社の営業努力の結果、請求人商品は、必ずしも市場規模が大きいとはいえない当該商品の分野において、本件商標の登録出願時(2012年8月以前)までの約2年3ヶ月の間に、小売店への卸売りも含め、販売本数約166,668本、売上約3億9千9百万円という高い販売実績を残している。そして、本件商標の登録出願時から登録査定時までの販売本数は約212,159本、売上は約4億9千9百万円となっている。上記販売本数を裏付ける証拠として、請求人商品の仕入れ先であるINDUSTEX,S.L.が発行したインボイスを提出する(甲9及び甲10)。
以上のとおり、請求人商品は、本件商標の登録出願時までの間に、約3億1千万円以上に及ぶ莫大な広告費を投じ、約17万本を販売した販売実績があり、さらに、登録出願時から登録査定時までの僅か4ヶ月の間に約45,491本、約1億円を売り上げた。かかる事実に鑑みれば、引用商標を使用した請求人商品は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く知られていたことは明らかである。また、請求人商品には、甲第2号証の1及び2に見られるとおり、e-chance社の社名が大きく記載され、テレビショッピングは、e-chance社が提供しているものであるから、引用商標は、e-chance社の商標として、需要者の間に広く知られていたことは疑う余地がない。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性
ア 商標の類似性
本件商標は、「スマートペン」の片仮名を標準文字で横書きにしてなるのに対し、引用商標1及び2はそれぞれ、片仮名「スマートペン」、欧文字「Smart Pen」を横書きにしてなる商標である。引用商標1は外観、称呼、観念のいずれにおいても、また、引用商標2は称呼、観念において、本件商標と同一であるから、本件商標が引用商標と同一又は類似することは明白である。
イ 商品の類似性
本件商標の指定商品は、第2類「自動車用補修用塗料」である。この商品は、自動車のボディ等にできた傷を補修するために用いられる塗料であり、主に、カー用品を取り扱う店舗で販売されるものである。そして、被請求人は、現に、自ら運営するインターネット上の店舗や、カー用品の小売店を介して、本件商標を付した「自動車用補修用塗料」(以下、「被請求人商品」という。)を販売している。したがって、本件商標に係る商品の需要者は、主に、自動車を所有する一般消費者及び当該商品の取引者であることが明らかである。
他方、引用商標が使用されている請求人商品は、「自動車ボディのクリアコーティング上の傷の補修材」であり、具体的には、自動車のボディのクリアコート表面にできた傷に同補修材を塗って乾かすことにより、補修材の配合成分が傷を覆い、結果的に傷を補修することができるものである(甲2の2)。つまり、請求人商品は、自動車のボディ等にできた傷を補修するために用いられる商品であり、請求人商品も、現実の店舗又はインターネット上の店舗を問わず、カー用品を取り扱う店舗で販売されるものである(甲13)から、その需要者は、自動車を所有する一般消費者及び当該商品の取引者であって、被請求人商品の需要者と同一である。
以上のとおり、本件商標及び引用商標に係る商品は、用途・機能・販売場所・需要者の範囲を共通にする同一又は類似の商品である。
ウ 小括
上記ア及びイのとおり、本件商標は、請求人の業務にかかる商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品又は類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当することが明らかである。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性
ア 引用商標が、本件商標の登録出願時、登録査定時において、請求人又はe-chance社の商標として需要者の間に広く知られ、著名であったことは上記(2)のとおりである。また、引用商標と本件商標は明らかに類似するものであり、その商品は用途・機能・販売場所・需要者の範囲が一致する同一又は類似の商品であるから、本件商標がその指定商品について使用された場合、請求人商品と出所の混同を生ずることは明らかである。
イ 現に、実際の取引においても、出所の混同が生じている事実がある。
甲第14号証は、披請求人商品と請求人商品のパッケージの写真であり、写真の上側が請求人商品、下側が被請求人商品であるが、両商品のパッケージデザインはどこに違いがあるか分からない程近似しており、取引者・需要者において、一見しただけで両商品を見分けることは困難である。すなわち、被請求人商品は、取引者・需要者において、あたかもe-chance社又はその関連会社の業務に係る商品であるかの如く、その出所につき誤認・混同されるおそれがあることは客観的に明白である。
かかる混同のおそれを裏付ける現実の混同の事実として、例えば、日本有数のインターネットショッピングモール・楽天市場において、被請求人商品が、あたかも請求人商品であるかのように販売されており、現実に出所の混同が生じている。具体的には、請求人商品の販売に使用されている画像が違法に複製され、被請求人商品が、当該画像と、「TVで話題のスマートペン」や「TVショッピングで大ヒット!!」との説明書きが付された状態で販売されている(甲12の1及び2)。被請求人は、テレビCMによる広告を一切行っていないので、取引者が、被請求人商品を請求人商品と誤認・混同して販売等していることは明白である。
また、甲第12号証の2に示す店舗や被請求人が運営する店舗における披請求人商品に関するユーザレビューの中に、現実に、需要者が被請求人商品を、テレビCMで紹介されている請求人商品と誤認・混同して購入していることを示す書き込みがある(甲15及び甲16)。
加えて、請求人が、2013年3月13日付で、被請求人に対して、不正競争防止法違反を理由に、被請求人商品の販売中止を要求する警告書を送付したところ、その回答として、被請求人は、「貴社商品と誤認・混同を生じさせるような商品として販売されていることは事実であり、次のとおり改善します。商品のデザイン及び商品名のロゴを変更し貴社商品と誤認・混同を生じさせないものとする。」と、被請求人商品のパッケージデザインについて、請求人商品と誤認・混同を生じさせる商品として販売していることを認め、パッケージデザインを変更することを約束している。
すなわち、被請求人は、引用商標にかかる商品と混同を生じさせることを意図していたことを自認している(甲17)。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号該当性
引用商標が、本件商標の登録出願時、登録査定時において、請求人又はe-chance社の商標として日本国内の需要者の間に広く知られ、著名であったことは上記(2)のとおりであり、本件商標と引用商標とが同一又は類似することも明らかである。
また、被請求人商品には、請求人商品とほぼ同じパッケージデザインが施されている(甲14)。請求人商品のデザインは、不均一な縞模様からなる背景の上に、車の画像と、様々なフォント及びサイズの文字をバランスよく配置してなる独創的なデザインであることから、被請求人が、請求人商品とほぼ同一のデザインを独自に、かつ、偶然に創作したということはあり得ず、被請求人が請求人商品のパッケージデザインを模倣したことは客観的に明白というべきである。
被請求人は、2013(平成25)年2月12日以前は、e-chance社が請求人商品の販売用に使用している人物写真や商品写真等を無断で転用し、被請求人商品をあたかも請求人商品かのごとく販売していた(甲18)ため、平成25年1月23日付にて請求人及びe-chance社は、著作権侵害等に基づき被請求人に対し警告書を送付した(甲19)。これに対し、被請求人は、上記商品販売用の写真を削除し、平成25年2月12日付で被請求人がその旨の回答を請求人に送付してきた事実がある(甲20)。
これらの事実から、客観的に見て、被請求人による本件商標の出願・使用には、引用商標の顧客吸引力を利用して不正の利益を得る目的、すなわち「不正の目的」があったことが明らかである。
したがって、本件商標は、請求人商品を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第7号該当性
被請求人は、本件商標を、引用商標が未登録であることを奇貨として、不正の目的をもって出願したことは明白である。また、上記e-chance社からの警告書に対する回答書(甲20)において、被請求人は「日本国内において、スマートペンの販売を開始した当時、本件商品について、貴殿らが主張されるような周知性があるとの認識はありませんでした。そこで、通知会社は、『スマートペン』について商標登録を出願した」旨述べており、請求人商品、すなわち引用商標2の存在を知った上で本件商標を出願したことを自認している。
このように、他人の商標が未登録であることを奇貨として、当該商標を剽窃し、不正の利益を得る意図をもって出願する行為は、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、公序良俗を害するおそれがあるのであって、公正な取引秩序の維持という商標法の目的に明らかに反するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 当審からの審尋に対する回答
(1)請求人とe-chance社との関係性について
請求人及びe-chance社は、親会社(BCN社)を共通にするグループ会社であり、両者はいずれもBCN社の100%子会社である。当該資本関係については、請求人とBCN社との関係は、スイスにおける商業登記簿(甲21)に、また、e-chance社とBCN社との関係は、e-chance社の株主名簿及び履歴事項全部証明書により明らかである(甲22及び甲23)。
そして、請求人の商業登記簿記載の「事業目的」にあるとおり、請求人は、グループ企業が必要とする知的財産権の取得・管理を主な業務としており、e-chance社に対し、引用商標に関する、日本における包括的な使用許諾を与えている(甲24)。
(2)請求人商品の日本での販売に至る流通経路、日本国内シェア、外国での販売状況
ア 請求人の取り扱う商品の日本での販売に至る流通経路
請求人商品は、その生産国である米国の製造委託業者から、スペイン所在のINDUSTEX,S.L.(仕入先)を介して、日本(e-chance社)へと流通してくる。
請求人商品は、請求人のホームページ上だけでなく、商品本体、商品パッケージ、取扱説明書等において一貫して米国製である旨が明記されており(甲25)、請求人商品が米国で生産されていることは十分に証明されており、米国製である事実に疑いの余地はない。
イ 日本国内シェア
請求人商品は、これまでにない画期的な商品のため、請求人商品の比較対象となる類似商品が市場において未だ少なく、統計データを算出できるほど市場が成熟していないため、国内シェアを開示することは困難である。
ウ 外国での販売状況
請求人商品は、日本以外においても、欧州を中心に世界各国で多くの販売実績があり(甲27)、その中でも、フランスは請求人商品の販売数が極めて多く、本件の登録出願前である2010年、2011年に、それぞれ422,315本、359,621本を販売し、また、2012年には、70,802本を販売している。
フランスにおける請求人商品の販売数量は、2010年と2011年のわずか2年間だけでも、日本で販売した総数(166,668本)の約4.7倍(781,936本)にも達し、さらに、2012年も継続してフランスで請求人商品が販売されていることを考慮すると、フランスにおいても、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、請求人商品に付された引用商標2が周知であったことは明らかである。
さらに、フランスの人口を考慮すると、上記周知性は疑いのない事実である。すなわち、フランスと日本の人口を比較すると、2010年ないし2012年までのフランスの人口は、日本のそれの半分以下(甲29)であるにも関わらず、フランスにおける請求人商品の販売数量は、上述のとおり日本の約4.7倍にも達している事実から、請求人商品に付された引用商標2が、フランスにおいて、被請求人以外の他人の商標として、需要者に広く認識されていたことは疑う余地はない。
なお、上記フランスでのこれらの販売実績を裏付ける資料として、請求人商品を卸しているINDUSTEX,S.L.から、フランスのディストリビューター宛に発行されたインボイスを提出する(甲30)。

第3 被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する無効事由については、何らの答弁もしていない。
なお、被請求人は、当審からの審尋に対する請求人の平成26年9月12日付け回答書に対し、同年12月18日付け上申書において、次のとおり上申した。
1 請求人は、甲第21号証及び甲第22号証に基づいて、請求人及びe-chance社はBCN社の子会社であり、親会社を共通にするグループ会社であると主張している。
しかしながら、請求人とe-chance社が同じグループ会社に属しているかどうかは、e-chance社による商標の使用による信用が請求人に帰属することとは無関係であり、e-chance社が請求人から商標に関しての使用許諾を受けているか否かで判断すべきものである。この点、請求人がe-chance社に対して包括的な使用許諾を与えているのは、宣誓書(甲24)のみであるが、この宣誓書の日付は2014年7月31日であり、この段階においてはe-chance社が請求人から使用許諾をうけているということはわかるが、これをもって請求人が主張する2010年5月からの使用による信用の帰属が請求人に帰すものかどうかはいまだもって不明である。
また、請求人は、請求人商品の日本での販売に至る流通経路については、請求人ホームページ、商品本体、商品パッケージ、取扱説明書(甲25)をもって米国製である旨を説明している。
しかしながら、請求人商品が米国製であることが明らかであっても、日本での販売に至る流通経路そのものは明確になったとはいえないし、日本国内のシェアについても、明確にはなっていない。
外国での販売状況については、各国の販売数量が甲第27号証で開示され、回答書ではフランスと日本との人口を比較したうえで、日本の約半分の人口しかないフランスで、2010年と2011年の2年間で本件商標の出願日前の日本の販売総数の約4.7倍と回答している。しかし、請求人商品を購入する消費者は、少なくとも自動車を所有している者に限られる。
フランスにおいては、路上での縦列駐車が多く、他人の自動車に対してバンパーをぶつけて駐車をすることが多いとされている(在フランス日本国大使館ホームページ参照:httm://www.fr.emb-iapan.go.jp/jp/taizai/kotsu4.html)ことから、特に自動車に傷がつくことが多いことが考えられる。したがって、特にフランスにおける事情を鑑みると、甲第27号証だけで外国における周知性が立証できたものではない。
2 商標法第4条第1項第7号について
知財高平成19年(行ケ)第10391号判決によると、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきであるとの判断がなされており、本件は、商標法第4条第1項第7号を適用させるべきではない。
3 商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号について
請求人は、甲第3号証に基づき、テレビショッピング用のテレビCMは2010年5月21日に開始されたと主張する。
しかしながら、甲第3号証によれば、かなり多くの割合で放送系列がCS(CS放送)となっている。CSは全国系列ではあるが、実際にCS加入者の数からみると、テレビショッピング用のテレビCMを多く流したとしても、直ちに広く知られているとはいえない。
さらに、上記の加入者数は、CSのいずれのチャンネルとの契約であるかは不明であり、CSにおける本件テレビCMの放送を見る視聴者数は極めて限定されたものとなることは明白である。
したがって、甲第3号証に開示された放送回数を、地上波における放送と同じように考えるべきではない。

第4 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、法律上の利益があることについては、当事者間に争いがないので、本案に入って検討する。
1 請求人提出の証拠及び同人の主張によれば、次のとおりである。
(1)請求人による引用商標の使用について
ア 甲第2号証の1は、2013年8月19日に紙出力したe-chance社のウェブサイトであるところ、1葉目は、「サッとなぞって乾かすだけ!」の見出しの下、籠文字で「Smart Pen」の表示、車の写真と同籠文字が表示された商品の写真、「スマートペン×2本+スマートポリッシュの3本セットで¥4,980(税込)」及び「ご注文はこちら>」の記載がある。また、2葉目には、生活雑貨の欄に、「スマートペン」、「Smart Penは、車の表面のキズを簡単に補修してくれる即効型のキズ補修材です。」(請求人商品)の記載と共に、1葉目の写真と同様の車と請求人商品の写真が掲載されている。
イ 甲第2号証の2は、上記アと同様、e-chance社のウェブサイトであるところ、「スマートペン正規販売店|テレビショッピング・ネット通販のイーチャンス」の見出しの下、「Smart Pen スマートペン」として、「車に!バイクに!! ボディのクリアコーティング上の簡易なキズ補修剤」の記述、引用商標2の付された請求人商品の写真と、「アメリカ生まれの画期的な商品、スマートペンは、自動車ボディーのクリアコーティング上の簡易なキズ補修材(キズ隠し)です。」との記述、「ペン先がクッション状なので、凸凹のある場所にも使えます!」の記述とともに、女性が請求人商品を手に持つ写真及びペン先を指先に付けている写真や商品の使用方法を表した図及び写真が掲載され、請求人商品の説明がされている。
ウ 甲第3号証は、2013年8月19日付けの株式会社トライステージからe-chance社に宛てた「『スマートペン 年度別放送回数及び出稿媒体費』について」と題する証左であり、e-chance社の「スマートペン 年度別放送回数及び出稿媒体費」が記載されているところ、この表によれば、2010年5月1日から2013年7月31日までの放送回数は、2010年が437回、2011年が4,444回、2012年が6,782回,2013年が5,059回で、その累計が16,722回であり、放送実績明細によれば、例えば、放送エリアを全国とする、朝日ニュースター、sonetチャンネル、ヒストリーチャンネル、BS11、Super! drama TV等、さらに、放送エリア地区を限定した、テレビ和歌山、岐阜放送、群馬テレビ、青森朝日放送、北陸放送、東京メトロポリタンテレビ、南日本放送等が記載されており、これら放送エリアにおいて、商品名「スマートペン」(請求人商品)の紹介がされたものといえる。
エ 甲第4号証の1は、2013年8月19日付けの株式会社アサツー ディ・ケイからe-chance社に宛てた「イーチャンス様『スマートペン』2012年度別媒体出稿実績について」と題する証左であり、2012年度において、テレビに5回(テレビ新潟、千葉テレビ、石川テレビ、サガテレビ)、新聞に3回(北海道新聞、北国新聞、読売新聞(大阪))出稿されたことが認められる。
そして、甲第4号証の2は、2012年(平成24年)6月15日付け読売新聞(写し)であるところ、下段の商品広告欄に、引用商標2と共に請求人商品の広告及び注文先として株式会社e-chanceの記載がある。
オ 甲第5号証の1ないし10は、カタログ有効期限を2011年9月8日、同年11月9日、2012年1月6日、同年3月1日、同年5月9日、同年7月1日、同年10月1日、同年12月2日、2013年2月1日及び同年4月1日とする「人こと発見」の冊子抜粋(写し)であるところ、いずれの冊子にも、「愛車の傷にサッとなぞるだけ『スマートペン』」とする請求人商品が商品写真とともに掲載されている。
カ 甲第6号証の1ないし3は、2011年10月号、2012年4月号及び同年7月号の「夢と未来をお届けする通販マガログ 夢みつけ隊」の冊子抜粋(写し)であるところ、いずれの冊子にも、上記オと同様の広告が掲載されている。
キ 甲第7号証の1は、カタログ有効期限を2012年2月29日とする「nissen」の冊子抜粋(写し)であるところ、「簡単キズ隠し スマートペン2本セット」とする請求人商品が商品写真とともに掲載されている。
ク 甲第8号証の1及び2は、2012年・夏号及び2013年・新年号の「悠遊生活 イメンスのショッピング総合カタログ」の冊子抜粋(写し)であるところ、「自動車用キズ隠しペンセット」とする請求人商品が商品写真とともに掲載されている。
ケ 甲第9号証は、「スマートペン販売実績」とする表であるところ、2010年5月から2013年7月までの実績が記載されている。この表によれば、テレビショッピング(TVCM)による通信販売、請求人のオフィシャルホームページでの通信販売、店頭販売を行っている小売店への卸売、インターネット通信販売業者への卸売、ショッピングカタログによる通信販売及び新聞広告等による通信販売によって、その販売本数は、2010年 13,504本、2011年 96,102本、2012年 102,553本、2013年 104,756本であることが認められる。
コ 甲第10号証は、スペイン所在の「Industex,s.l.」から、「K.K.E-CHANCE」に宛てた、2010年4月27日のものから2012年11月21日ものまでの「INVOICE」(計26枚)である。これらには、いずれも「description」として、「2SMART PEN+1 SMART POLISH CMO」、「Customs Code:96082000」及び「MADE IN USA」の記載が認められる。
サ 甲第24号証は、請求人の「DECLARATION」(宣誓書)であるところ、その訳文によれば、2014年7月31日に「Herbert Trachsler(ハルバート トラチェスラー)」(請求人の代表者)の署名がされており、「東京都品川区南大井3-24-13 Ebuchiビル4Fに所在する株式会社e-chanceは、日本において商標『Smart Pen』を使用する権利について当社より許諾を受けている。」旨が記載されている。
(2)被請求人の本件商標の使用について
ア 甲第11号証は、楽天市場のウェブサイトであるところ、「車の傷消しペン スマートペン1本 サッと塗って乾かすだけでキズが消える!:デジタルランド」の見出しの下、「Smart Pen 車もバイクも! 自動車ボディのクリアコーティング上の簡単傷補修剤」(被請求人商品)の記載と共に、車と商品を持つ手の写真が掲載されている。
4葉目の会社概要には、「サンフィールド貿易株式会社 東京都江戸川区南篠崎町五丁目8番6号」及び「店舗連絡先」として「digitalland@shop.rakuten.co.jp」の記載がある。
イ 甲第12号証の1は、楽天市場における「Charaya きゃらや」のウェブサイトであるところ、「Smart Pen 車に!バイクに! 自動車ボディのクリアコーティング上の簡易傷補修剤」の記載及び3葉目に「ペン先がクッション状なので、凸凹のある場所にも使えます!」の記載と共に、女性が商品を手に持つ写真及びペン先を指先に付けている写真が掲載されている。そして、4葉目には、「本物だから効果が違う!TVで話題の車のキズ隠し」「スマートペン1本 Smart Pen 車のキズ隠し キズ消し キズ補修剤」等の記載、「Smart Pen」の表示が付された商品の写真及び「発売元:サンフィールド貿易」の記載がある。
ウ 甲第12号証の3は、YAHOO!ショッピングのウェブサイトであるところ、「Smart Pen スマートペン 車のキズ補修材 全車種カラー対応」の記載及び「Smart Pen」の表示が付された商品の写真及び「販売元:サンフィールド貿易株式会社」の記載がある。
エ 甲第14号証は、「Smart Pen」の表示が付された商品が2本写っている写真であって、左側が請求人商品、右側が被請求人商品であるところ、2本の商品は「Smart Pen」の文字の構成態様ばかりでなく、その下の「Scratch Remover/Boligrafo Repara-Aranazos」の文字、車の写真、商品の配色等を含め、ほぼ同じといえる程酷似したものであり、相違するところは3葉目において、右側に写る商品には、「発売元:サンフィールド貿易(株)」及び「MADE IN CHINA」の表示があるのみである。
(3)請求人による被請求人に対する警告等
ア 甲第17号証は、平成25年4月3日付け、被請求人から請求人代理人に宛てた回答書であるところ、その内容には、「1 不正競争防止法違反について」として、「通知会社(被請求人)が販売している『Smart Pen(自動車用ボディのクリアコーティング上の簡易補修材)』が、貴社商品と誤認・混同を生じさせるような商品として販売されていることは事実であり、以下のとおり改善します。商品のデザイン及び商品名のロゴを変更し貴社商品と誤認・混同を生じさせないものとする。」の記載がある。
イ 甲第18号証は、2013年1月23日付けの、弁理士高橋菜穂恵による「写真著作物無断掲載の証拠資料」(公証済み)であるところ、これによれば、「商品販売サイト『楽天市場』のサンフィールド貿易株式会社が運営する『デジタルランド』のページにおいて、株式会社e-chanceが自社の商品販売のために撮影した写真を無断で掲載している」旨が記載されている。
そして、同号証の添付証拠4葉目、6葉目及び9葉目の「女性が商品を持っている写真」や8葉目の「紺色の自動車の写真」などは、甲第2号証の2に掲載されている写真と同じといえる。
ウ 甲第19号証は、平成25年1月23日付けの、請求人代理人から被請求人に宛てた、警告書である。
エ 甲第20号証は、平成25年2月12日付けの被請求人から請求人に宛てた、回答書である。
2 引用商標の周知性について
上記1(1)によれば、e-chance社は、請求人から、日本において、商標「Smart Pen」(引用商標2)を使用する権利について許諾を受けていたといえるものであって、平成22年5月より、引用商標を使用して、商品「自動車ボディのクリアコーティング上の傷の補修材」(請求人商品)を販売しているものである。そして、その商品の宣伝広告は、新聞広告、テレビショッピングによる広告、通信販売カタログによる広告、e-chance社が運営するショッピングサイトによる広告等、請求人商品の販売を開始した頃より係属して、e-chance社によって行われたものと認められる。
宣伝広告については、例えば、テレビショッピングにおける広告は、2010年から2013年までの累計が16,722回であり、放送エリアを全国とする、朝日ニュースター、sonetチャンネル、ヒストリーチャンネル、BS11、Super! drama TV等や放送エリア地区を限定した、テレビ和歌山、岐阜放送、群馬テレビ、青森朝日放送、北陸放送、東京メトロポリタンテレビ、南日本放送等ほぼ全国のエリアにおいて、商品名「スマートペン」(請求人商品)の紹介がされたものといえる。また、通信販売カタログにおいても、継続的に掲載されていたものと認められるものであり、いずれの広告においても、請求人商品が掲載されているものである。
そうとすれば、引用商標は、請求人商品の分野においては本件商標の登録出願時には、e-chance社の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間において、一般に広く認識されており、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標及び引用商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「スマートペン」の片仮名を標準文字で表してなるものであるから、これより「スマートペン」の称呼が生じ、「スマートなペン」の観念を生じるものである。
他方、引用商標は、「スマートペン」(引用商標1)及び「Smart Pen」(引用商標2)の文字からなるものであるから、いずれも「スマートペン」の称呼が生じ、「スマートなペン」の観念を生じるものである。
そうとすれば、本件商標と引用商標とは、外観においては、本件商標と引用商標2は片仮名と欧文字の相違はあるものの、引用商標1との類否においては同一のものであり、称呼及び観念については、本件商標と引用商標は同一のものといえることから、本件商標と引用商標は同一又は類似の商標と判断するのが相当である。
(2)出所混同について
ア 引用商標は、「スマートペン」の片仮名又は「Smart Pen」の欧文字からなるものであり、上記2で認定したとおり、e-chance社の取扱いに係る商品「自動車ボディのクリアコーティング上の傷の補修材」を表すものとして、本件商標の登録出願前より、我が国において該商品の取引者、需要者の間に広く認識されているものである。
他方、本件商標は、「スマートペン」の片仮名からなるものである。
イ 本件商標の指定商品「自動車用補修用塗料」と請求人商品とは、自動車の補修用の商品として共通するものであり、極めて関連性が高い商品といえる。しかも、上記1(2)及び(3)によれば、被請求人が本件商標を使用している「自動車ボディのクリアコーティング上の簡単傷補修剤」(被請求人商品)は、請求人商品と同種の商品と認められ、その商標やデザインも酷似すること、加えて、被請求人による上述の被請求人商品の広告は、請求人が宣伝広告で使用する写真を用いて行っているものと認められる。
そして、被請求人は、上記1(3)アのとおり、請求人代理人に宛てた回答書において、請求人商品と誤認・混同を生じさせるような商品として販売されていることは事実であると認めているものである。
ウ そうとすれば、被請求人が本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、その商品が請求人又は請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。
(3)被請求人の主張について
被請求人は、請求人のテレビCMは、かなり多くの割合で放送系列がCS(CS放送)となっているが、CSは全国系列ではあるものの、実際のCS加入者の数からみると、テレビショッピング用のテレビCMを多く流したとしても、直ちに広く知られているとはいえない、旨主張する。
しかしながら、請求人のテレビCMの放送回数(甲3)によれば、2010年の販売開始から2013年7月までの間、継続的に放送がされ、その回数は累計でも16,722回にもなるものであること、その放送エリアは全国に及ぶものであることからすれば、例え、CS放送の加入者が限られているとしても、そのテレビCMは多数の取引者、需要者の目に触れるものであったものといえる。
したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-05-28 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-22 
出願番号 商願2012-73107(T2012-73107) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W02)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平松 和雄 
特許庁審判長 林 栄二
特許庁審判官 梶原 良子
中束 としえ
登録日 2013-02-15 
登録番号 商標登録第5557188号(T5557188) 
商標の称呼 スマートペン 
代理人 特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所 
代理人 森下 賢樹 

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