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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効としない X33 審判 全部無効 観念類似 無効としない X33 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X33 |
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管理番号 | 1304162 |
審判番号 | 無効2015-890016 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2015-02-09 |
確定日 | 2015-08-03 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5460616号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件商標は、「麦一石」の漢字を縦書きしてなり、平成23年3月7日に登録出願、第33類「麦しょうちゅう」を指定商品として、同年10月31日に登録査定、同24年1月6日に設定登録されたものである。 2 引用商標 請求人が引用する登録第5066462号商標(以下「引用商標」という。)は、「いっせき」の平仮名を標準文字で表してなり、平成18年10月31日に登録出願、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、同19年7月27日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。 3 請求人の主張 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本件商標の登録は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。)を提出した。 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標は、「むぎ【麦】:イネ科に属するオオムギ・コムギ・ハダカムギ・ライムギ・エンバクなどの総称。また、その穀実。」を意味する「麦」の語と、「いっせき【一石】:一つの石。」(いずれも広辞苑第六版)を意味する「一石」の語の、二語よりなる結合商標と解され、既成語ではなく必ず一体に見なければならない格別の事情も存しないところ、麦が、商品「焼酎」の原材料として用いられることは周知の事実である。 そして、焼酎を始めとする酒類の取引業界においては、麦を原材料とすることを強調するために、また、複数の原材料によるシリーズ商品展開中の麦原材料の商品であることを明らかにするために、「麦○○」や「○○麦」等として、「麦」の文字を付加した商標が広く採択されている実情がある。 そうとすると、本件商標中の「麦」の文字部分は、商品の原材料・品質を表したにすぎず、出所識別標識としての機能を果たし得ないから、この部分からは、称呼及び観念は生じず、本件商標において出所商品識別標識としての機能を果たす部分は、「一石」の部分であるといえる。 したがって、本件商標は、出所識別標識として機能する「一石」の部分より、「イッセキ(一石)」の称呼・観念を生ずる。 これに対し、引用商標は、「いっせき」の文字よりなるから、書された文字のとおり、「イッセキ」の称呼を生ずることは明らかである。 してみれば、本件商標は、引用商標と、「イッセキ」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、その指定商品も抵触するから、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。 イ このことは、本件商標と商標権者を同じくする、登録第5511296号「芋一石」商標についての商標登録無効審判事件(無効2013-890047)(甲第3号証)において、「芋一石」商標は、前記引用商標の「いっせき」商標と類似するとして、その登録が無効とされていることからも明らかである。 ウ 取引の実情をみても、種々の原材料による商品が販売されている焼酎の業界においては、一見して麦・米・いも・そば等の原材料が判別できるように、原材料を強調して、「麦(むぎ)○○」「米(こめ)○○」「芋(いも)○○」や、「○○麦(むぎ)」「○○米(こめ)」「○○芋(いも)」等といった商標が採択され使用されている例は枚挙にいとまがない。 そして、「麦(むぎ)○○」「米(こめ)○○」「芋(いも)○○」や「○○麦(むぎ)」「○○米(こめ)」「○○芋(いも)」など、使用した原材料の名称を含む商標は、当該業界においては「強調表示」(使用した原材料を強調する表示)として、「麦焼酎」「米焼酎」「芋焼酎」等の「冠表示」と同等の扱いを受けることとされており、このことは、不当景品類及び不当表示防止法に基づき策定された「単式蒸留しょうちゅうの表示に関する公正競争規約」第4条第1項第1号(甲第4号証)や、酒類業組合法に基づく組合である日本酒造組合中央会及び日本蒸留酒酒造組合による「単式蒸留しょうちゅうと連続式蒸留しょうちゅうを混和した酒類の表示に関する自主基準」第4条第5項(1)(甲第5号証の1及び2)、日本蒸留酒酒造組合による「連続式蒸留しょうちゅうの表示に関する自主基準」第4条第1号及び同運用細則第3条第2項第1号(甲第6号証)に定められ、運用されているとおりである。 このことからも、「麦○○」なる商標中の「麦」の文字が、原材料の表示に当たることは明らかである。 エ 焼酎業界においては、一社が複数の原材料によるシリーズ商品展開を行うことも多く、ブランド名の前または後ろに、原材料名を付加して、「麦(むぎ)○○」「米(こめ)○○」「芋(いも)○○」や、「○○麦(むぎ)」「○○米(こめ)」「○○芋(いも)」等としてシリーズ商品展開を行ったり、従来からの定番商品の商標「○○」に、別の原材料名を付加した新商品名「麦(むぎ)○○」「米(こめ)○○」「芋(いも)○○」や、「○○麦(むぎ)」「○○米(こめ)」「○○芋(いも)」等としたシリーズ商品展開を行うことは、商慣習上、よく行われているところである(甲第7号証ないし甲第30号証)。 こうしたシリーズ展開の事例は、殊に近年増えてきており、この状況は今後もますます進むと思料され、商標の類否判断の際には、かかる取引の実情も考慮されるべきと考える。 また、商標法第4条第1項第11号についての商標審査基準においても、「形容詞的文字(商品の品質、原材料等を表示する文字、又は役務の提供の場所、質等を表示する文字)を有する結合商標は、原則として、それが付加結合されていない商標と類似する。」と明示されているところである。 (2)むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し商標登録を受けることができないものであるから、商標法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきである。 4 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。 (1)第4条第1項第11号について ア 本件商標は、硬筆手書き風の漢字三文字で「麦一石」と一連に縦書きされてなり、これより、「ムギイッコク」、「ムギイッセキ」、「ムギイッシャク」、「ムギイチジャク」、「ムギイチイシ」、「バクイッコク」、「バクイッセキ」、「バクイッシャク」の称呼が生じ得る(乙第1号証)。また、本件商標は、指定商品との関係を考慮してもそれから何ら特定の観念を生じない、被請求人創造による造語である。 イ 引用商標の「いっせき」からは、「イッセキ」の称呼が生じることは明白であり、何ら特定の意味合いを生じるとも考えられない。「いっせき」の称呼から連想される同音文字としては、「一石」のほかに、「一タ」、「一席」、「一隻」、「一跡」があり(乙第2号証)、特定の観念を生じるものではない。 ウ 本件商標と引用商標とは、本件商標からは「ムギイッコク」、「ムギイッセキ」、「ムギイッシャク」、「ムギイチジャク」、「ムギイチイシ」、「バクイッコク」、「バクイッセキ」、「バクイッシャク」の6音ないし7音の多様の称呼が生じ得るのに対し、引用商標からは「イッセキ」の4音の称呼が生じ、しかも、音質、音調のいずれについても共通するところがない。 また、称呼上、本件商標と引用商標とは、語頭における「ムギ」又は「マイ」(審決注:「バク」の誤記と考えられる。)の音の有無において顕著な差異を有するから、これらを一連に称呼した場合には、相紛れることなく聴別可能である。 特に、称呼、観念の点において、本件商標は「麦一石」の漢字三文字を縦書きで表した構成で、全体がまとまりよく一体のものとして看取でき、これより生じる「ムギイッコク」、「ムギイッセキ」、「ムギイッシャク」などの称呼は一気に淀みなく一連に称呼し得るものである。また、「麦」の文字が「イネ科に属するオオムギ・コムギ・ハダカムギ・ライムギ・エンバクなどの総称。また、その殼実。」を意味し、「一石」の文字は「一つの石」又は「尺貫法における体積(容量)の単位」を認識させるとしても、両者に、観念上や視覚上の軽重の差はない。 したがって、たとえ、「麦」の文字が、指定商品の原材料を表す場合があるとしても本件商標の構成で、殊更に、「麦」の文字部分が捨象され、「一石」の文字部分のみが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものとみるべき特段の事情もない。本件商標は、その構成全体をもって、一体不可分の造語であり、「ムギイッコク」、「ムギイッセキ」、「ムギイッシャク」の一連の称呼を生じる。さらに、観念、外観の点でも異なるから、商標全体としてみると、両商標は、全く相紛れることのない非類似の商標である。このように、本件商標は、文字全体の結合程度が高く、「麦」の部分と「一石」の部分を分離して把握する必然性はなく、引用商標と類似するというには無理がある。 エ 請求人は、登録第5511296号商標「芋一石」の無効審判(無効2013-890047号)の審決を引用するが、同審判では、本件被請求人が登録後に製造、販売に係る商品構成の変更により「芋一石」商標を使用しなくなったために、敢えて無効審判で反論しなかっただけのことであり、被請求人が請求人の主張を容認したものではないのであって、客観的には公正さを欠いている。 この点、同審判事件の以前に同じ商標権について提起され、申立人及び被申立人が本件審判の請求人及び被請求人と同一の商標登録異議申立て(異議2012-900326号)(乙第3号証)においては、本件被請求人主張と同旨の判断がなされている。また、同様の趣旨の判断は、その他の異議申立事件においても示されている(乙第4号証、乙第5号証)。 オ 請求人は、商標審査基準にも言及しているが、本件商標の「麦」は、そこに類似する場合として例示された形容詞的文字とはいえず、むしろ、対等な等置関係で表された態様で、直ちに、「麦」の文字のみを抽出して原材料表示であるから類否関係では無視するといった考え方は採用できないものである。また、商標審査基準に示された類似の例では「スーパーライオン」と「ライオン」等のように、比較する文字中に少なくとも同一の文字が含まれている場合を想定していると考えられるが、本件商標の「麦一石」中には引用商標の「いっせき」の文字は全く存在していない。本件商標では、商標の構成全体として一体性が強く、逆に分離判断が商標採択の自由度を阻害する程に不自然である点が考慮されるべきである。 カ 請求人は不当景品類及び不当表示防止法に基づいて策定されたとする日本酒造組合中央会等の自主基準等を示しているが、本件審判と具体的にどのような関連があるのか不明である。 (2)むすび 以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当せず、登録適格性を具備した商標である。 5 当審の判断 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標 本件商標は、上記1のとおり、「麦一石」の漢字を手書き風に縦書きしてなるものであるところ、外観上、漢字3文字という簡潔な文字構成からなり、その漢字を同書、同大、同間隔をもってまとまりよく表してなるものである。 そして、本件商標の構成中の「麦」の漢字は、「むぎ」と読んで「イネ科に属するオオムギ・コムギ・ハダカムギ・ライムギ・エンバクなどの総称、また、その穀実。」の意味を有するものである。また、同じく構成中の「一石」の漢字は、その前の漢字が米穀の一種である「麦」であることを勘案すると、「体積の単位。主として米穀をはかるのに用い、一石は10斗、約180リットル。」を意味する「石」の文字に漢数字の「一」を冠したものとして、「いっこく」と読む「一石」の意味が認識されるとみるのが相当である。そうすると、本件商標は、構成全体から「ムギイッコク」の称呼、「10斗の麦」の観念を生じるものである。 してみれば、本件商標は、外観において、簡潔でまとまりのよい構成からなり、観念においては、全体として「10斗の麦」の観念が看取され、称呼においても、全体より「ムギイッコク」の称呼を淀みなく一気に称呼し得るものであって、その構成全体が一体不可分のものとして把握、認識されるものであるから、「麦」の文字が指定商品の原材料を表す場合があるとしても、殊更に、「一石」の文字部分を抽出し、該文字部分をもって取引に資されることはないとみるのが相当である。 イ 引用商標 引用商標は、上記2のとおり、「いっせき」の平仮名を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「イッセキ」の称呼を生じるものである。 そして、「いっせき」に相当する語には、「一夕」、「一石」、「一席」、「一隻」、「一跡」等と様々あり、それらの中でも、特定の語が抜きん出て親しまれているというような事情も見いだし得ないことを踏まえると、看者が直ちに特定の意味合いを把握、認識するということもできないから、結局、引用商標は、特定の観念が生じるということはできないものといえる。 ウ 本件商標と引用商標との対比 本件商標と引用商標を対比するに、上記ア及びイのとおりの各構成態様に徴すれば、外観上、漢字と平仮名の差異、「麦」に相当する文字の有無など、顕著な差異を有するものであるから、明らかに区別し得るものといえる。 次に、本件商標と引用商標の称呼を比較するに、本件商標から生じる「ムギイッコク」の称呼は、引用商標から生じる「イッセキ」の称呼とは、明らかに聴別し得るものである。 さらに、本件商標と引用商標の観念を比較するに、引用商標は、上記イのとおり、特定の観念が生じるものではないから、本件商標と引用商標とが観念において、相紛れるおそれがあるということもできない。 そうすると、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれがない非類似の商標といえる。 エ 小括 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれがない非類似の商標であるから、その指定商品が同一又は類似の商品であるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するということはできない。 (2)むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではないから、その登録を無効にすべき限りでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-09 |
結審通知日 | 2015-06-11 |
審決日 | 2015-06-25 |
出願番号 | 商願2011-20183(T2011-20183) |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Y
(X33)
T 1 11・ 262- Y (X33) T 1 11・ 263- Y (X33) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 新井 裕子 |
特許庁審判長 |
土井 敬子 |
特許庁審判官 |
中束 としえ 林 栄二 |
登録日 | 2012-01-06 |
登録番号 | 商標登録第5460616号(T5460616) |
商標の称呼 | ムギイッコク、イッコク、イチコク、イッセキ |
代理人 | 穴見 健策 |
代理人 | 高宮 章 |
代理人 | 特許業務法人みのり特許事務所 |