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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X25
管理番号 1301660 
審判番号 取消2014-300128 
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-02-21 
確定日 2015-05-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第5294275号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5294275号商標(以下「本件商標」という。)は、「Hippopotamus」の欧文字を標準文字で表してなり、平成21年7月29日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同22年1月15日に設定登録されたものである。
そして、本件審判請求の登録日は、同26年3月12日である。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を答弁に対する弁駁、口頭審理における陳述及び平成26年11月26日付け上申書において要旨次のとおり述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第7号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)請求人の調査結果について
被請求人は、遅くとも平成26年1月21日には、被請求人が販売するヒーター内蔵型の男性用冬用ズボン(以下「本件ズボン」という。)について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していた、と主張するものであり、本件ズボンは、ヒーター内蔵型の男性用冬用ズボンであることから、平成25年の冬物として、被請求人の店舗で販売されていたことが窺い知れる。
しかしながら、請求人の調査によれば、「ビースリーMEN」を含む被請求人のいずれのブランドにおいても、本件商標又はその呼称である「ヒポポタマス」という名称が用いられたことはなかった(甲1)。
上記調査結果は平成26年1月17日付で作成されたものであり、被請求人の主張する日付である同年1月21日とは若干の時間的離隔があるが、本件ズボンが冬用ズボンであることを考えれば、1月の18日から21日といった中途半端な時期に販売を開始したとは考えられないから、17日の時点までに使用が認められなかった以上、21日においても本件商標が使用されていなかったことには疑いがない。また、本件商標を使用するのであれば、販売開始直前期において、何らかの周知活動があってしかるべきであるが、それらは一切確認されておらず、請求人から被請求人に問い合わせを行っても、何ら使用の徴表がなかったことからも、当該時期において本件商標を使用する計画がなかったことは明らかである。
したがって、審判請求の登録までに、披請求人が本件商標を使用した事実は、一切認められない。
(2)被請求人提出の証拠方法は信憑性を欠くことについて
被請求人は乙第4号証ないし乙第7号証をもって、本件商標が被請求人の店舗で使用されていたと主張するが、乙第4号証ないし乙第7号証はいずれも信憑性を欠く。
ア 乙第4号証について
乙第4号証は、本件商標を使用したPOP広告とのことであるが、これよりは、本件ズボンに「eパンツ」の名称が使用されていることは看取できるものの、「Hippopotamus」の文字は右下に小さく記載されているのみであって、本件ズボンとの関連性が一切不明である。むしろ、本件ズボンには「eパンツ」という名称が付せられている以上、他の名称は付せられていないと考えられる。
イ 乙第5号証について
被請求人は、本件商標が付されたタグが、平成26年1月22日時点で存在しており、このタグが本件ズボンに付されており、タグが付された状態の本件ズボンが被請求人の店舗で販売され、かつPOP広告にも使用されていると主張する(乙5の1ないし5)が、乙第5号証には不合理な点が多く存在するため、信憑性を欠く。
(ア)撮影の経緯
乙第5号証がいかなる経緯で撮影され、作成されたのかが全く明らかでない。店舗内の商品をわざわざ乙第5号証のような形で撮影することは、目的が不明な、極めて不自然な行為と言わざるを得ない。実際に、その時期に撮影されたのであるならば、何を目的にこのような写真を撮影したのか、なぜ1月21日ないし22日に撮影したのか、他の製品については同じような撮影を行っているのか等、撮影の経緯について全て合理的に説明できてしかるべきであるが、これらの点について合理的な説明が期待できないことは、被請求人の反論を待つまでもない。乙第5号証が、本件審判の請求を察知した被請求人において、本件商標の使用実態を作出するために撮影されたものであるならば、そのような使用は抗弁たりえない(商標法第50条第3項)。
(イ)撮影の日付
写真内の日付記録は、撮影者により自由に設定できる性質のものであり、容易に、目的の日付が記録された写真を作成することが可能である。結局、日付記録をもってしても上記日付において撮影したことの客観的な根拠とはならず、写真の撮影年月日は不明といわざるを得ない。
この点に加えて、写真下部の説明書きについても、いかなる経緯によって撮影したのかが何ら説明されておらず、信憑性がない。特に、当該説明書きによれば、乙第5号証の1とその他では撮影者を異にするが(「濱田侑里」及び「仲村健吾」)、その筆跡は酷似しており、同一人物による作成を推認させる。
(ウ)使用態様
乙第5号証の2によれば、本件ズボンには「ビースリーMEN」のタグが付されており、本件ズボンとの関係で本件商標がどのように用いられていたのかが不明である。すなわち、本件ズボンが被請求人の店舗で販売されていたとしても、「ビースリーMEN」の「eパンツ」が販売されていたと理解される(乙5の4ないし5)ところ、「ビースリーMEN」及び「eパンツ」という名称により商品の識別は十分に可能であって、敢えて別の名称(「Hippopotamus」)を使う理由はない。このように、本件商標の使用態様は不自然であり、現実的でない。実際に、被請求人の店舗において販売されている男性用ズボンには、「ビースリーMEN」のタグしかついておらず、これとは別のブランド名を付することによる商品識別を、被請求人は行っていない(甲2)。
他方、被請求人は、「ビースリー」という店舗としてのブランドのほか、女性用ズボンのシリーズに与えられた名称として「究極の美脚」「癒されジーンズ。」「天使のパンツ。」といったブランドを設けているが、これらはいずれも被請求人のホームページ上で大々的に宣伝されている(甲3)。しかし、「Hippopotamus」については、ホームページ上では一切見受けられず、また、上記の他のブランドと比べても、名称としての統一性を明らかに欠くことから、本件商標が本件ズボンに使われていたと考えることは困難である。
ウ 乙第6号証及び乙第7号証について
乙第6号証及び乙第7号証からは、被請求人の店舗において品番が「550014」である「eパンツ」が販売されたことはうかがい知れるものの、その記載には、本件商標が使用された事実は表れていない。そして、乙第5号証に何ら信用性がないことは上記のとおりであるから、乙第6号証及び乙第7号証が使用の事実を証するものでない点に変わりはない。
(3)以上のとおり、被請求人提出の証拠は、いずれも本件商標の使用と関係ないか、または信憑性がないものであって、被請求人主張の事実を基礎づけるものではない。
3 口頭審理における陳述
(1)被請求人の追加の証拠方法に対する請求人の主張
ア 乙第9号証の1ないし5について
被請求人は、乙第5号証の写真の撮影日時・場所の証拠として、乙第9号証の1ないし5を提出する。
しかしながら、乙9号証の1ないし5の各証拠は、その作成者、作成過程等が一見して明らかではなく、乙第5号証の画像データを基礎とした解析結果であるのかも読み取れない。
乙第10号証による解析結果は、基礎となる画像データの内容を詳細に表示するものにすぎず、同結果は基礎となる画像データの内容に左右される。そして、同解析結果は基礎となる画像データの内容を変更することによって、解析結果の撮影日時・場所(緯度・経度)を容易に変更することが可能である(甲4)。
また、乙第9号証の1ないし5は、利害関係のない中立的な第三者により解析・作成されたか否かは不明であり、その作成過程に、例えば、撮影機器(カメラ)の設定の変更、画像の差し替え、画像データの内容の変更等の恣意的な操作が介在する可能性があり、その信用性に強い疑いがある。
したがって、乙第9号証の1ないし5は、およそ乙第5号証の撮影日時・場所を証する証拠足り得ない。
なお、同様の理由により、乙第14号証のCD-ROMも、乙第5号証の撮影日時・場所を証しないことを付言する。
イ 乙第8号証について
乙第8号証は、乙第5号証の2ないし5の撮影者であるとする「仲村健吾」の宣誓供述書であるが、同人は被請求人の従業員であり、被請求人と利害関係を同じくする者であって、中立的な第三者ではない。また、その作成時点が、本審判請求後であることからも、その内容の真実性ないし客観性は極めて疑わしい。さらに、これが公証人の面前での宣誓を経たとしても、何ら真実性は担保されず、その内容は被請求人の主張内容を繰り返した程度の意味しか有しない。
したがって、乙第8号証は、乙第5号証の撮影日時を証する証拠とはいえない。
ウ 乙第17号証について
乙第17号証は、本件ズボンとは品番を異にする別のズボン(品番:550016)の電子ジャーナル出力までの操作画面であるため、乙第16号証に記載のシステムが用いられていることを示す証拠にすぎず、同証拠は、何ら乙第6号証の作成経緯について証するものではない。
したがって、乙第17号証は、乙第6号証の1及び2の電子ジャーナルとは一切関連性のない証拠である。
エ 乙第15号証について
乙第15号証は、乙第6号証の1及び2の出力者であるとされる被請求人の従業員「三室俊介」の宣誓供述書であるが、前述の乙第8号証と同様に、その客観性は乏しく、乙第6号証の1及び2が被請求人において出力されたことを証する証拠とはいえない。
オ 小括
以上のとおり、被請求人の新たな証拠方法は、いずれも本件商標の使用を証する証拠とはいえず、被請求人の、平成26年1月21日時点で本件商標を使用していたとの主張は、証拠上その前提を欠く。
(2)被請求人の口頭審理陳述要領書に対する反論
ア 請求人の反論の概要
上記(1)のとおり、被請求人の新たな証拠方法は、いずれも本件商標の使用を証する証拠とはいえない。
また、乙第5号証の撮影日時・場所が被請求人の主張のとおりであるとしても、以下の点からして、被請求人において本件商標が自他識別標識として「使用」されていたというには強い疑念があり、被請求人における本件商標の使用は認められない。
さらに、被請求人が本件商標の使用をしたと主張しても、商標法第50条第3項により、その使用の主張は抗弁とはなり得ない。
イ 請求人の調査結果について
被請求人は、調査報告書(甲1)の内容をもって、平成26年1月21日において本件商標が使用されていなかったことに疑いがないとの請求人の主張は、全く根拠を欠くと主張する。
しかしながら、平成25年12月10日付けの繊研新聞社のホームページ(甲5)、及び同年12月6日付けの被請求人のホームページ上のニュースリリース(甲6及び甲7)によれば、本件ズボンの発売日は、「平成25年12月7日」とされ、他方、上記調査報告書は、平成26年1月17日付で作成され、被請求人における本件商標の使用がないと結論付けたものである。そうとすれば、本件ズボンの販売開始日である平成25年12月7日から同26年1月17日までの間、被請求人において、本件商標の使用がなされていなかったのであるから、同月21日においてもなお本件商標が使用されていなかったことは明らかである。
仮に、本件ズボンに本件商標を使用したとするならば、本件商標を用いた広告活動等があって然るべきところ、上記各ホームページ(甲5ないし甲7)には、本件商標に関する記載は一切存在しない。そればかりか、同ニュースリリースにおいては、その表題が「eパンツ(イーパンツ)をリリース」とされ、また商品名の説明として「※eパンツはエレクトロニックパンツを意味しています」と赤字を用い強調した説明がなされるなど「eパンツ」について詳細な説明が掲載されているにもかかわらず、本件商標についての表記は全くない。かかる事実は本件ズボンに本件商標が使用されていなかったことを強く推認させる。
したがって、上記被請求人の主張には理由がない。
ウ 乙第4号証について
乙第4号証の作成経緯等について、上記各ホームページにおける広告写真と、乙第4号証の背景写真とは同一の、本件ズボンを着用した男性モデルの画像を基礎にしているものと見られるが、いかなる理由により乙第4号証についてのみ本件商標が付されたのか不明であって、該号証の作成経緯については極めて疑わしい。また、その作成日時は何ら明らかではなく、その形態からみても、本件ズボンの販売当初から存在した上記男性モデルの画像に文字や画像を重ねただけであることから、乙第4号証は、本審判請求後に作成することも容易である。
そして、その内容については、該号証の右下に記載された「Hippopotamus」の表示と本件ズボンとの関連性が不明であり、かつ、その掲載態様も不自然であって、自他商品識別標識としての使用がなされていたとはいえない。
エ 乙第5号証について
(ア)撮影の経緯について
被請求人は、本件ズボンが「ビースリーMEN三宮センター街店」(以下「三宮センター街店」という。)一店舗のみの限定発売であったと主張し、本件ズボンがカタログやウェブサイトにも掲載されていないことから、万が一の不使用取消審判を請求された場合に備えて、使用証拠を残すために写真を撮影した等撮影経緯の主張をする。
しかしながら、当該主張自体一般的には想定し難い事態を予想して具体的に煩雑極まりない対策をあえて講じるなど、不自然といわざるを得ない。
仮に、乙第5号証の撮影日時・場所が被請求人の主張のとおりであるとしても、乙第5号証は、本件商標の使用を証する証拠とはなり得ず、また、そのような使用の主張は抗弁とはならない。
(イ)撮影の日付について
乙第9号証の1ないし5の各証拠は、乙第5号証の撮影日時を証する証拠とはいえず、乙第5号証が平成26年1月21日時点において撮影されたことは証拠上明らかではない。
(ウ)使用態様について
被請求人は、本件商標は本件ズボンのブランド名ないしシリーズ名であると主張する。
しかしながら、上記のとおり、本件ズボンの販売開始当初の被請求人のニュースリリース上、商品名は「eパンツ」とされ、また「eパンツ」について複数回にわたり説明がなされているにもかかわらず、本件商標についての記載は一切存在しない。そのため、本件ズボンのブランド名は「eパンツ」であったと考えるのが通常であり、上記被請求人の主張は不自然極まりない。
4 平成26年11月26日付け上申書における内容
(1)乙第9号証の1ないし5について
被請求人は、甲第4号証が、一般に画像データの内容を変更し得るソフトウェアが存在する事実を示唆するにすぎず、本件審判における乙第9号証の1ないし5の基礎となる画像データの内容が変更されたことを証する証拠とはなり得ないと主張する。
しかしながら、甲第4号証は、「乙第10号証に記載のソフトウェアによる解析結果である乙第9号証につき、基礎となる画像データの内容を変更することによって、解析結果の撮影日時・場所(緯度・経度)を容易に変更することが可能であること」を立証する証拠である。そして、請求人は、甲第4号証により、乙第9号証の1ないし5が、乙第5号証の写真の撮影日時及び場所を証する程度の証明力を有さず、乙第9号証の1ないし5を乙第5号証の各写真の撮影日時及び場所の事実認定に供することはできないと主張する。
(2)乙第8号証及び乙第15号証について
被請求人は、宣誓認証に関する法務省ホームページを引用の上、乙第8号証及び乙第15号証に記載された内容の真実性が担保されると主張する。
しかしながら、被請求人が引用するホームページの記載は、一般的な制度趣旨についての記載にすぎず、本件の具体的事情を前提とした乙第8号証及び乙第15号証の内容の真実性をも担保するものではない。
そもそも、宣誓認証(公証人法58条の2)における虚偽宣誓の場合の過料の制裁は10万円以下と極めて低額であり(同法60条の5)、また過料の制裁が一般的に機能しているかも疑問である。そして、当該宣誓認証に際し公証人によりチェックされるのは、その内容が、法令違反の内容や無効の法律行為ではないか、行為能力の制限により取り消し得る行為か等の点に限られる(公証人法60条26条)。
そして、乙第8号証及び乙第15号証は、被請求人の従業員という利害関係を有する者が本件審判請求後に作成したものであって、上記各証拠の信用性は、例えば、公証人が自ら本件ズボンの販売店舗に立会い、本件商標の使用実態を目撃し、公証人の名において、その事実実験状況について作成した公正証書の場合に比べると、著しく低いといえる。
(3)被請求人は、本件ズボンの発売当初の平成25年12月10日付繊研新聞社のホームページ(甲5)及び同月6日付被請求人ニュースリリース(甲6及び甲7)において、本件商標が掲載されなかったのは、「Hippopotamus」シリーズの第一弾商品である本件ズボンのブランド戦略についての企画が未だ進行中であったためであり、上記各証拠は、平成26年1月21日における本件商標の使用の事実と矛盾しないと主張する。
しかしながら、被請求人の上記主張及び従前の主張を前提とすれば、ア)本件ズボンの発売時である平成25年12月7日当時(甲6及び甲7)、本件ズボンは、本件商標が何ら付されていない状態で販売が開始され、イ)平成25年12月7日以降遅くとも同26年1月21日までには、本件ズボンは、本件商標が使用された形で販売されるようになり、ウ)同年2月下旬には、本件ズボンは、店頭から撤去されたことになるが、販売当初に何ら付されていなかったブランド名が販売途中から付されたとすること、本件ズボンが「『Hippopotamus』シリーズの第一弾の商品」でありながらそのような宣伝広告が一切なされていないこと等、被請求人の主張は不自然極まりない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、審判事件答弁書、口頭審理における陳述、平成26年11月12日付け及び同年12月11日付け上申書において、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第25号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
被請求人は、本件審判請求の登録前3年以内に、日本国内において、その請求に係る指定商品中「洋服」に属する「ズボン」について、本件商標と社会通念上同一の商標を使用していた。
(1)本件商標の使用の事実
ア 被請求人について
被請求人である株式会社バリュープランニングは、1994年6月9日に設立し、兵庫県神戸市中央区坂口通七丁目2番17号を主たる事務所(本社)の所在地として、婦人・紳士・子供服製造卸業及び小売業を営む営業主体である(乙1)。主には、機能性に特化したストレッチパンツ専門ブランド「ビースリー」(B-Three)(以下「ビースリー」という。)の企画・製造・販売を手掛けており、現時点での同ブランドを掲げた店舗の出店数は、国内237店舗(男性用パンツ専門店1店舗を含む)、海外2店舗である(乙2)。
ビースリー店舗では、これまで女性用パンツを専門に手掛けていたところ、被請求人は、2013年3月7日、男性用パンツ専門店の第一号店「ビースリーMEN 三宮センター街店」(所在地:兵庫県神戸市中央区三宮町一丁目6番19号)(三宮センター街店)をオープンし(乙3)、男性向けの美脚効果を追求した種々のパンツの企画・製造・販売を行っている。
イ 本件審判請求に係る指定商品中「洋服」に属する「ズボン」についての本件商標の使用について
被請求人は、三宮センター街店において、被請求人が販売するヒーター内蔵型の男性用冬用ズボン(本件ズボン)について、本件商標と社会通念上同一の商標を使用している。
(ア)乙第4号証のPOP広告(原本の縮小コピー)は、被請求人が本件ズボンの販売促進用として社内(マーケティング部グラフィック課)で作製したものであるが、その右下の角に、「Hippopotamus」の文字を筆記体風に書した本件商標と社会通念上同一の商標が表示されている。
当該POP広告の三宮センター街店における展示状態は、乙第5号証の4及び5の写真(2014年1月21日撮影)より確認できる。
(イ)乙第5号証の1は、被請求人が社内で作製した本件ズボン用のタグ(以下「本件タグ」という。)の表裏両面を撮影した写真(2014年1月22日撮影)である。本件タグの表面(写真上)には、本件商標が表示されている。被請求人は、取引先の縫製工場から納入された本件ズボンに本件タグを取り付けた上、三宮センター街店において展示し、販売している。
(ウ)乙第5号証の2ないし5は、三宮センター街店における本件ズボンについての本件商標の使用を確認できる写真(2014年1月21日撮影)である。
a 乙第5号証の2は、本件タグ付きの本件ズボンの写真であり、写真上の青色の下げ札には、被請求人の店舗名である「B-THREE MEN」の文字とそのロゴマークが記載されている。
b 乙第5号証の3は、本件タグ付きの本件ズボンの写真であり、写真上の下げ札は、乙第5号証の2の下げ札の裏面であり、被請求人の社名「株式会社バリュープランニング」、本件ズボンの品番「550014」等が記載されている。
c 乙第5号証の4及び5は、本件タグ付きの本件ズボン及び乙第4号証のPOP広告の三宮センター街店における展示状態を示す写真である。
(エ)乙第6号証の1及び2は、本件タグ付きの本件ズボンの販売の事実を示すものであり、三宮センター街店のレジと連動する被請求人のシステム「電子ジャーナル」から出力した同店舗発行のレシートの控えのコピーである。
本件ズボン(品番「550014」)の販売分のみを販売日毎に抽出したものであり、販売日及び販売枚数は、2014年1月21日に1枚(乙6の1)及び同年2月19日に1枚(乙6の2)であることが確認できる。
上記レシート控えには、被請求人の店舗名は表示されていないが、乙第6号証の1に記載の「レシートNo」及び「担当」番号が、「お直し伝票」の控え(乙7)に記載されている。
(オ)乙第7号証は、三宮センター街店において、本件ズボンのお直しを注文した購入者に対して被請求人が発行した「お直し伝票」の控えのコピーであり、本件ズボンの品番(550014)、「ビースリーMEN 三宮センター街店」を示す「B3M’三宮センター街店」の表示及び同店の電話番号(078-334-3033、乙3)が記載され、さらに、本件ズボン購入のレシート(乙6の1)に記載の、「レシートNo」(000708)及び「担当」番号(000000003564)の記載がある。
(カ)上記のとおり、被請求人は、遅くとも平成26年(2014年)1月21日から、請求に係る指定商品中「洋服」に属する「ズボン」について本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用している。
2 口頭審理における陳述
(1)被請求人は、乙第5号証の2ないし5の写真が、三宮センター街店において撮影されたことを証明するため、乙第8号証ないし乙第14号証を提出する。
ア 乙第8号証は、乙第5号証の2ないし5の写真の撮影者(仲村健吾)の宣誓認証を受けた陳述書(写)であり、当該陳述書には、乙第5号証の2ないし5の写真の場所が三宮センター街店である旨が記載されており、撮影者(仲村健吾)が公証人の面前で、当該陳述書の記載内容が真実であることを宣誓した上、署名捺印したものである。
イ 乙第9号証の2ないし4は、乙第5号証の2ないし5の各写真の画像ファイル(JPEGファイル)に含まれるEXIF情報(撮影情報)を表示したパソコン画面の打ち出しであり、当該EXIF情報は、画像ファイル解析ソフト(JpegAnalyzer Plus、乙10)の「解析」機能を用いて表示したものである。
乙第9号証の2ないし5からは、以下の情報が確認される。
(ア)乙第9号証の2は、乙第5号証の2の撮影情報であり、撮影機種(メーカー名、モデル名)はApple, iPhone 5 (スマートフォン)、撮影日時(ファイル変更日時、現画像の生成日時、デジタルデータの生成日時)は2014年1月21日、18時16分08秒、及び撮影場所は北緯34度41分29.35秒、東経135度11分32.52秒であり、該経緯度から地図を検索すると(国土地理院の地図閲覧サービス利用)、被請求人の「ビースリーMEN 三宮センター街店」(兵庫県神戸市中央区三宮町一丁目6番19号)の所在地付近が表示される(乙3及び乙11)。
(イ)乙第9号証の3は、乙第5号証の3の撮影情報であり、撮影機種(メーカー名、モデル名)はNIKON, COOLPIX P310 (デジタルカメラ)、撮影日時(ファイル変更日時、現画像の生成日時、デジタルデータの生成日時)は2014年1月21日、18時27分55秒、及び撮影場所は、乙第5号証の2ないし5の撮影者は同一人(仲村健吾)であるところ、全ての写真が約10分以内に撮影されていることからも、同一場所で撮影されたことは明らかである。
(ウ)乙第9号証の4は、乙第5号証の4の撮影情報であり、撮影機種(メーカー名、モデル名)はApple, iPhone 5 (スマートフォン)、撮影日時(ファイル変更日時、現画像の生成日時、デジタルデータの生成日時)は2014年1月21日、18時19分39秒、及び撮影場所は北緯34度41分29.39秒、東経135度11分32.85秒であり、該経緯度から上記(ア)のとおり三宮センター街店の所在地付近が表示される(乙3及び乙12)。
さらに、乙第5号証の4の写真に表示されている床のマットには「B-THREE MEN」の文字が表示されている。被請求人の男性用パンツの専門店「ビースリーMEN」は全国で一店舗しか存在しないことから(乙2及び乙3)、当該写真が同店以外で撮影されたことはあり得ない。
(エ)乙第9号証の5は、乙第5号証の5の撮影情報であり、撮影機種(メーカー名、モデル名)はApple, iPhone 5 (スマートフォン)、撮影日時(ファイル変更日時、現画像の生成日時、デジタルデータの生成日時)は2014年1月21日、18時18分50秒、及び撮影場所は北緯34度41分29.3秒、東経135度11分32.47秒であり、該経緯度から上記(ア)のとおり三宮センター街店の所在地付近が表示される(乙3及び乙13)。
ウ 乙第14号証は、乙第5号証の2ないし5の写真の画像ファイル(JPEGファイル)を保存したCD-ROMである。
上記ア及びイにより、乙第5号証の2ないし5の写真が三宮センター街店において撮影されたことは明らかであるが、疑義が残らないよう、上記CD-ROMを提出する。当該CD-ROMに保存された各ファイルの名称が、乙第9号証の2ないし5に表示された各画面の左上に表示されている。
(2)乙第5号証の3の写真は、不鮮明であって、下げ札裏面の被請求人の社名及び本件ズボンの品番の記載を確認することができないことについて
撮影者(仲村健吾)の宣誓認証を受けた陳述書(写)(乙8)に添付された乙第5号証の3の画像ファイルからの打ち出し、及びCD-ROM(乙14)に保存された乙第5号証の3のファイル(ファイル名「DSCN9290.JPG」)より、「株式会社バリュープランニング」及び本件ズボンの品番「550014」の鮮明な文字を確認することができる。
(3)乙第6号証の1及び2の電子ジャーナルが被請求人のシステムから出力されたものであることを確認することができないことについて
ア 乙第15号証は、「電子ジャーナル」の出力者(被請求人のマネジメント部システム管理課、次長 三室俊介)の宣誓認証を受けた陳述書(写)であり、該陳述書には、「電子ジャーナル」が被請求人の本社において、被請求人のシステム「ANY-CUBE Satisfa」のソフトウェア「ANY-CUBE AD本部」を用いて出力したものである旨が記載されており、出力者(三室俊介)が公証人の面前で、当該陳述書の記載内容が真実であることを宣誓した上、署名捺印したものである。
イ 乙第16号証は、上記被請求人のシステムに関する東芝テック株式会社との平成22年3月24日付売買契約書(写)であり、該契約書は、被請求人が上記システムの購入にあたって東芝テック株式会社と締結したものであり、「納入場所」の欄には、「NTTコミュニケーションズデータセンター、貴社(被請求人)本社事務所、被請求人のB-Three各店舗」と記載されている。
該契約書に添付されている「御見積書明細-2」は、「ANY-CUBE Satisfa」の明細であり、上記アの「ANY-CUBE AD 本部」が含まれていることが確認される。
ウ 乙第17号証は、上記「ANY-CUBE AD 本部」を用いた「電子ジャーナル」出力までの操作画面の打ち出しであり、当該「電子ジャーナル」(乙6の1及び2と同一の形式)として出力できるB-Three各店舗の情報は、過去約三ヶ月分の売上分に限られるため、現時点では乙第6号証の1及び2の「電子ジャーナル」を出力することはできないが、一例として、2014年10月13日の三宮センター街店における別のズボン(品番「550016」)の「電子ジャーナル」出力までの操作画面の打ち出しである。
以上により、乙第6号証の1及び2の電子ジャーナルが被請求人のシステムから出力されたものであることは明らかである。
(4)被請求人は、三宮センター街店における本件ズボン(品番「550014」)の販売の事実(販売日は2014年1月21日及び同年2月19日)を示す新たな証拠方法として、乙第18号証を提出する。
乙第18号証は、東芝テック株式会社との契約書及び添付「御見積書明細-1」(乙16)に記載の被請求人の「次期基幹システム『現場主義』」のソフトウェア「現場主義 通販・顧客管理オプション」を用いて、本件ズボンを2014年1月21日及び同年2月19日に購入した各顧客の購入履歴を表示した画面の打ち出しである。
これより、2014年1月21日には男性の顧客が、同年2月19日には女性の顧客が、本件ズボン(品番「550014」)を各1枚購入した事実が確認される。
(5)請求人の主張について
ア 請求人の調査結果について
請求人は、平成26年1月17日付け調査報告書(甲1)をもって、同年1月21日において本件商標が使用されていなかったとことに疑いがないと主張するが、全く根拠を欠くものである。
そして、本件ズボンは、三宮センター街店のみでの「限定販売」であり、他の「B-Three」店舗や「B-Three」公式オンラインショップでは販売していないことから、これらにおいて本件商標の使用が確認されないことは当然のことである。
イ 被請求人提出の証拠の信憑性について
(ア)乙第4号証について
請求人は、本件ズボンには「eパンツ」という名称が付されている以上、他の名称は付せられていないと主張するが、「eパンツ」の名称は「エレクトロニックパンツ」の略称であり、本件ズボンの普通名称(又は品質表示)として使用している。
そして、被請求人は、取扱商品のブランド名、シリーズ名等を数多く商標登録しているが、「eパンツ」については、普通名称(又は品質表示)との位置づけから、商標登録出願さえ行っていない。また、「電子ジャーナル」において、「eパンツ」以外の購入商品が「コーデュロイ・ストレート」(普通名称)と表示されていることからも、「eパンツ」もこれと同様の位置づけであることが明らかである。
請求人はさらに、「Hippopotamus」の文字が当該POP広告の右下に小さく記載されている事実をもって、本件ズボンとの関連性が一切不明であり、極めて不自然であると主張するが、当該POP広告は、主に本件ズボンの画期的な機能をアピールした広告であるため、「Hippopotamus」の文字が右下に小さく記載されていても何ら不自然ではなく、本件ズボンとの関連性を否定する根拠にはなり得ない。
(イ)乙第5号証について
a 撮影の経緯について
被請求人は、自己の登録商標の適切な使用管理に努めているところ、本件商標は登録後3年を既に経過しており、使用を開始した商品(本件ズボン)は冬用であって2月下旬には店頭から一旦撤去されること、及び三宮センター街店のみでの限定販売品であってカタログやウェブサイトにも掲載されていないこと等から、万一誰かから不使用取消審判を請求された場合に備え、本件タグ付きの本件ズボンが初めて顧客に売り渡された2014年1月21日に、店頭商品の企画運営等を担当するマーケティング部の社員(仲村健吾)が写真(乙5の2ないし5)を撮影し、その翌日に、商標管理全般を担当するマネジメント部総務課の社員(濱田侑里)が、本件タグの鮮明な写真(乙5の1)を追加で撮影し、使用証拠として残したものである。
このような行為は商標権者として当然の行為であり、「極めて不自然な行為」との請求人の主張こそが不合理と言わざるを得ない。
なお、請求人は、「乙第5号証が、本件請求を察知した被請求人において、本件商標の使用実態を作出するために撮影されたものであるならば、そのような使用は抗弁たりえない(商標法50条3項)。」と主張するが、被請求人は、本件審判が請求されることについては一切察知していなかった。
b 撮影の日付について
乙第5号証の2ないし5の写真が2014年1月21日に撮影された事実は、乙第8号証、乙第9号証の2ないし5及び乙第14号証より証明される。
c 使用態様について
請求人は、本件ズボンについて、「ビースリーMEN」及び「eパンツ」という名称により商品の識別は十分に可能であって、敢えて別の名称「Hippopotamus」を使う理由はなく、本件商標の使用態様は不自然であり、現実的でないなどと主張するが、「B-THREE MEN」は店舗名でもあるハウスマーク、「eパンツ」は普通名称(又は品質表示)との位置付けであり、「Hippopotamus」は本件ズボンのブランド名(シリーズ名)として使用しているものである。
なお、他の男性用ズボンや女性用ズボンでの使用態様やブランドイメージに関する請求人の主張は、被請求人のブランド戦略にかかわるものであり、いずれも本件商標の使用の事実とは無関係である。
(ウ)乙第6号証及び乙第7号証について
乙第6号証及び乙第7号証は、本件ズボン(品番「550014」)の販売の事実を証するものであり、本件ズボン(品番「550014」)に本件商標の表示された本件タグが付されていた事実は、乙第5号証より明らかである。
3 平成26年11月12日付け上申の内容
(1)乙第9号証の1ないし5について
請求人が提出する報告書(甲4)の「2 画像データの内容の変更」の記載からは、請求人が撮影した写真の画像データの撮影年月日、撮影場所をどのように変更したのかが明らかでないが、「3 本ソフトウェアによる解析結果」に記載のとおりの内容に変更したという意味であるとしても、該報告書は、一般に画像データの内容を変更し得るソフトウェアが存在する事実を示唆するにすぎず、本件審判における乙第9号証の1ないし5の基礎となる画像データの内容が変更されたことを証する証拠とはなり得ない。
(2)乙第8号証及び乙第15号証について
宣誓認証とは、法務省のインターネットホームページに記載のとおり、「国の機関である公証人が作成名義人本人に『証書の内容が虚偽であることを知りながら宣誓した場合には過料に処せられる』ことを告知した上で付与されるものであり、作成名義人本人もそのようなリスクを負ってまで、虚偽の内容と知りつつ宣誓することはないであろうとの理由から、証書に記載された内容の真実性が担保される」ものであり、我が国において、「私書証書の成立・内容に公的信用性を付与する制度」である。これを「公証人の面前での宣誓を経たとしても、何ら真実性は担保されず、その内容は被請求人の主張内容を繰り返した程度の意味しか有しない。」とする請求人の主張は、認められるべきではない。
(3)乙第17号証について
請求人は、乙第17号証は、被請求人において、乙第16号証記載のシステムが用いられていることを示す証拠にすぎず、同号証は、乙第6号証の作成経緯について何ら証するものではない、と主張するが、「電子ジャーナル照会」画面(乙17)における「選択ジャーナル内容」に列挙された項目(店No、レジNo、日時、「領収書」の文字等)及びその配列は、乙6号証の1及び2の「電子ジャーナル」に列挙されたものと同じであることから、乙6号証の1及び2の「電子ジャーナル」が被請求人のシステム(「ANY-CUBE AD Satisfa」の「ANY-CUBE AD本部」)から出力されたものであることは明らかである。
(4)請求人の調査結果(甲1)について
被請求人が本件ズボンの発売にあたってニュースリリース(甲6及び甲7)を発信したのは事実であるが、当該ニュースリリースは、本件ズボンの画期的な機能を主にアピールするものであり、また、本件ズボンは、被請求人の「Hippopotamus」シリーズ(本件ズボン以外の商品を含む)の第一弾の商品であるところ、本件ズボンの発売時には同シリーズ全体のブランド戦略(統一ロゴの表示方法等)についての企画が被請求人において未だ進行中であったことから、当該ニュースリリースには本件商標は掲載していなかった。
いずれにせよ、平成26年12月6日付け当該ニュースリリース(甲6及び甲7)及び同月10日付け繊研新聞社のホームページ(甲5)に本件商標が掲載されていなかった事実は、平成26年1月21日の時点で本件商標が使用されていなかったとの請求人の主張の根拠にはなり得ない。
また、甲第7号証における「※eパンツはエレクトロニックパンツを意味しています」との赤字の説明書きは、被請求人が「eパンツ」を本件ズボンの普通名称(又は品質表示)として使用していることの裏付けである。
(5)乙第4号証について
POP広告(乙4)は、「Hippopotamus」シリーズの統一ロゴが決定した時点で作製したものであり、乙第5号証の4及び5の写真に該POP広告が写っていることから、当該POP広告が本件審判請求前の平成26年1月21日までに作成されたことは明らかである。
4 平成26年12月11日付け上申の内容
(1)請求人は、被請求人が本件審判請求について知った後に本件審判における対応のために本件商標の使用を作出したと主張したいようであるが、かかる主張は以下のとおり成り立たない。
ア 被請求人は、平成26年3月12日に特許庁からの「審判請求書の送付先の問い合わせ」を受領するまで、本件審判請求について一切察知しておらず、当該ファクシミリにより本件商標権に対して取消審判が請求された事実を知った次第である。
本件商標の使用が同年3月12日以前に開始された事実は、既に提出済の写真及び伝票類(乙5ないし乙7)の日付(平成26年1月21日、1月22日、2月19日)等より明らかであるが、更に以下の証拠と主張を補充する。
イ 乙第19号証の写真は、被請求人の社員(仲村健吾)が、乙第5号証の2ないし5の写真撮影時に、三宮センター街店において撮影していた写真である。
該写真の右側手前にハンガーに掛けられた状態で写っている黒色のズボンが、本件タグ付きの本件ズボンであり、当該本件ズボンの部分をクローズアップして撮影した写真が、乙第20号証である。
また、該写真の左中央辺りの青色のクッション(ビースリーMENの当時のロゴマーク付き)の上部に写り込んだ黒色のズボンを履かせたボディが、乙第5号証の4の写真(店舗の入口付近から店舗内に向かって撮影)の本件ズボンを履かせたボディである。
ウ 本件ズボンは冬物であるため、平成26年2月下旬には三宮センター街店の店頭から撤去されたことは事実であるが、被請求人は、今シーズン(平成26年10月?)よりまた本件ズボンの販売を再開している。
今シーズンは「2014 WARM PANTS FAIR」として、冬用の男性用ズボンのフェアを開催しているため、当該フェアについてダイレクトメール(乙24)及び被請求人のインターネットホームページ(乙25)において広告し、その商品の一つとして本件ズボンも本件商標と共に掲載している。
かかる事実からも、本件商標の使用を本件審判における対応のために作出したものでないことは明らかである。

第4 当審の判断
1 被請求人の主張及び証拠方法によれば、以下の事実が認められる。
(1)乙第1号証は、2014年5月16日に紙出力された、株式会社バリュープランニングの「会社概要・沿革・グループ会社」についてのウェブサイトであるところ、「会社概要」の欄には、「商号」として「株式会社バリュープランニング」、「本社所在地」として「神戸市中央区坂口通7丁目2-17」の記載、及び「沿革」の欄には「2013年3月 B-ThreeMEN三宮センター街店(男性用ストレッチパンツ専門店 第1号店)がオープン。」の記載がある。
(2)乙第2号証は、2014年4月25日付けの「美脚ストレッチパンツ専門店『ビースリー』NEWS RELEASE」であるところ、「ストレッチパンツ専門店ビースリー展開の(株)バリュープランニング ものづくり力強化に向け『新・美脚研究所』を開設します!」の見出しの下、「(株)バリュープランニングは、機能性に特化したストレッチパンツ専門ブランド『ビースリー』の企画・製造・販売を手掛けるアパレルメーカーです。現在、国内237店舗(最終目標:300店舗)、海外2店舗(2020年目標:200店舗)、メンズ1店舗(最終目標:80店舗)を展開。」の記載がある。
(3)乙第3号証は、2014年5月16日に紙出力された、「ビースリーMEN 三宮センター街店」の店舗検索のウェブサイトであるところ、三宮センター街店の情報として、住所「兵庫県神戸市中央区三宮町1-6-19」の記載及び神戸三宮センター街のアクセスマップが掲載されている。
(4)乙第4号証は、POP広告(縮小コピー)であるところ、ズボンをはいた男性の下半身の写真と「発熱する、ヒーター内蔵型あったかパンツ。」、「『eパンツ』エレクトロニックパンツ登場。」、「完全限定販売」等の記載及び右下部に「Hippopotamus」の欧文字(以下「使用商標」という。)とその右横に、カバと思しき図形(以下「動物図形」という。)が掲載されている。
(5)乙第5号証の1は、「2014.01.22」の日付が表示された商品タグ(本件タグ)の写真であるところ、上段のタグには、使用商標とその右横に動物図形が表示されている。また、下段のタグには、黒いライン上に白抜きで「B-Three Men」の文字が表されている。そして、写真の下部には、「撮影年月日」として「2014年1月22日」、「撮影場所」として「兵庫県神戸市中央区三宮町1丁目6番19号 ビースリーMEN 三宮センター街店」及び「撮影者」として「株式会社バリュープランニング 部署:マネジメント部総務課 氏名:濱田侑里」の記載及び捺印がある。
(6)乙第5号証の2は、「2014.01.21」の日付が表示された写真であって、何らかの商品に、2枚のタグが付された状態が表されているところ、1枚目のタグは、使用商標と動物図形が表示され、また、2枚目のタグは、青地に「B-THREE MEN」の文字がタグ一面に斜めに表されている(以下「青地タグ」という。)。そして、写真の下部には、「撮影年月日」として「2014年1月21日」、「撮影場所」として「兵庫県神戸市中央区三宮町1丁目6番19号 ビースリーMEN 三宮センター街店」及び「撮影者」として「株式会社バリュープランニング 部署:マーケティング部マーケティング2課 氏名:仲村健吾」の記載及び捺印がある(以下、乙第5号証の3ないし5に同じ。)。
(7)乙第5号証の3は、乙第5号証の2の写真と同じ商品と思しきものの写真であって、青地タグの裏面を表示したものと認められる。
しかしながら、タグの記載内容は不鮮明であり判読できない。
(8)乙第5号証の4は、POP広告(乙4)とその右横に乙第5号証の2と同様の2枚のタグを付した黒色のズボンが展示された写真である。写真中央上部に「B-THREEMEN」の文字が認められる。
(9)乙第5号証の5は、POP広告(乙4)が店内に展示されている状態を示す写真である。
(10)乙第6号証の1は、出力日時を2014年04月23日とする「電子ジャーナル」であるところ、「店No:0002101」、「レジNo:0001 0001」、「2014年01月21日(火)14時53分」、「領収書」、「eパンツ」、「550014」、「5500145308」、「レシートNo:000708」及び「担当:000000003564」の記載がある。
(11)乙第6号証の2は、出力日時を2014年04月23日とする「電子ジャーナル」であるところ、「店No:0002101」、「レジNo:0001 0001」、「2014年02月19日(水)16時52分」、「領収書」、「eパンツ」、「550014」、「5500145208」、「レシートNo:001146」及び「担当:000000003464」の記載がある。
(12)乙第7号証は、お預日を2014年01月21日とする「B-Three」店舗控えのレシート(写し)であるところ、該レシートには、「No:000708-02」「eパンツ L(/クロ」「550014」及び「B3M’三宮センター街店」、「担当:000000003564 三好眞奈美」等が記載されている。
(13)乙第8号証は、公証人に認証された、署名日を平成26年10月14日とする、仲村健吾氏の陳述書であるところ、該陳述書によれば、乙第5号証の2ないし5の写真は、2014年1月21日に三宮センター街店において撮影したものであること、乙第5号証の2、4及び5はスマートフォンで、乙第5号証の3はデジタルカメラで撮影したこと、本書に添付された写真は乙第5号証の3として提出した写真と同一の写真であること等が記載されている。そして、添付の写真によれば、青地タグの裏面には「No.550014」及び「株式会社バリュープランニング」の表示が認められる。
(14)乙第15号証は、公証人に認証された、署名日を平成26年10月14日とする、被請求人会社マネジメント部システム管理課の三室俊介氏の陳述書であるところ、該陳述書によれば、「電子ジャーナル」(乙6の1及び2)は、2014年4月23日に、「B-Three」各店舗の売上げを管理するためのシステム「ANY-CUBE AD Satisfa」のソフトウェア「ANY-CUBE AD本部」を用いて、三宮センター街店から送信された本件ズボン(品番「550014」)の売上情報を抽出して出力したものであることが記載されている。
(15)乙第18号証は、「『現場主義』顧客OPTION Version7.3」の「顧客リバース画面」とされるパソコン画面を打ち出したものであるところ、1枚目の「注文商品」の欄には、「注文日付」として「2014/01/21」、「店舗」として「B3M’三宮センター街店」、「ブランド 小分類 10桁品番」として「0000004 550014eパンツ 5500145308」、「品番」として「550014」等の記載がされている。また、2枚目の「注文商品」の欄には、「注文日付」として「2014/02/19」、「店舗」として「B3M’三宮センター街店」、「ブランド 小分類 10桁品番」として「0000004 550014eパンツ 5500145208」、「品番」として「550014」等の記載がされている。
2 上記1によれば、次のとおり認めることができる。
(1)株式会社バリュープランニングは、本社所在地を「神戸市中央区坂口通7丁目2-17」とし、ストレッチパンツ専門店「ビースリー」を展開する会社であり、2013年3月に、男性用ストレッチパンツ専門店として「B-ThreeMEN三宮センター街店」(兵庫県神戸市中央区三宮町1-6-19)をオープンしたことが認められる(上記1(1)ないし(3))。
(2)2014年1月21日に、株式会社バリュープランニングの従業員である仲村健吾氏が、三宮センター街店において、黒色のズボンに本件タグと青地タグの2枚のタグが付された状態を示す写真を撮影したこと、本件タグには「Hippopotamus」の文字(使用商標)が表されていること、青地タグの表面には「B-THREE MEN」の文字が表され、その裏面には、「No.550014」及び「株式会社バリュープランニング」等の文字が表示されていることが認められる(上記1(6)、(7)及び(13))。
また、同店内において、「発熱する、ヒーター内蔵型あったかパンツ。」、「『eパンツ』エレクトロニックパンツ登場。」及び「完全限定販売」等の記載及び使用商標が表示された広告用POPが展示されていたことが認められる(上記1(4)、(8)及び(9))。
(3)2014年1月21日及び2014年2月19日に、三宮センター街店において、品番を「550014」とする「ズボン」(以下「使用商品」という。)が販売されたことが認められる(上記1(10)ないし(12)及び(15))。
(4)上記(1)ないし(3)によれば、商標権者が展開する男性用ストレッチパンツ専門店である三宮センター街店において、2014年1月21日及び同年2月19日に、使用商標が表示された本件タグ及び品番「550014」と株式会社バリュープランニングの名称が記載された青地タグの2枚のタグが付された「ズボン」が譲渡されたものと認めることができる。
3 判断
(1)三宮センター街店を展開している株式会社バリュープランニングは、本社所在地が商標登録原簿の住所と同一であることから、本件商標の商標権者ということができる。
(2)使用商品が譲渡された、2014年(平成26年)1月21日及び同年2月19日は、本件審判の請求の登録(登録日は平成26年3月12日)前3年以内である。
(3)本件商標は、前記第1のとおり、「Hippopotamus」の欧文字を標準文字で表してなるものであり、使用商標は、「Hippopotamus」の欧文字からなるものであるところ、その構成文字は同一の綴りからなるから、使用商標は本件商標と社会通念上同一と認められる商標といえる。
(4)使用商品「ズボン」は、取消請求に係る指定商品中の「洋服」の範ちゅうに含まれる商品である。
(5)上記(1)ないし(4)のとおりであるから、商標権者は、本件審判の請求の登録前3年以内に、その請求に係る指定商品中「洋服」の範ちゅうに含まれる「ズボン」に、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付したものを譲渡した(商標法第2条第3項第2号)と認めることができる。4 まとめ
以上のとおりであるから、被請求人(商標権者)は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者がその請求に係る指定商品中「洋服」について本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていることを証明したといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、請求に係る指定商品について、商標法第50条の規定により、取り消すべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-03-12 
結審通知日 2015-03-16 
審決日 2015-03-31 
出願番号 商願2009-57358(T2009-57358) 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (X25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 悠源金子 尚人 
特許庁審判長 林 栄二
特許庁審判官 梶原 良子
中束 としえ
登録日 2010-01-15 
登録番号 商標登録第5294275号(T5294275) 
商標の称呼 ヒポポタマス 
代理人 高松 薫 
代理人 特許業務法人 有古特許事務所 
代理人 鈴岡 正 
代理人 忠津 充 

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