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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない W24
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W24
管理番号 1298416 
審判番号 無効2012-890091 
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-10-25 
確定日 2015-03-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5506202号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5506202号商標(以下「本件商標」という。)は、「LOOPWHEEL」の欧文字を標準文字で表してなり、平成24年1月12日に登録出願、第24類「織物(「畳べり地」を除く。),編物,メリヤス生地,フェルト及び不織布,布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,ふきん,織物製いすカバー,織物製壁掛け,カーテン,テーブル掛け,どん帳」を指定商品として、平成24年5月30日に登録査定、同年7月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第37号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の利益
請求人は、平成24年10月19日付けで、商標「NANAMICA LOOPWHEEL」を第24類「編物,メリヤス生地」等を指定商品として出願している者であり(甲1)、本件審判を請求するについて利害関係を有する者である。
2 請求の理由
本件商標は、以下のとおり、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条第1項第1号の規定により、無効にすべきものである。
(1)商標法第3条第1項第3号該当性について
ア 「LOOPWHEEL」並びにこれを片仮名で表した「ループホイール」及び「ループウィール」(これらの語をまとめていうときは、以下「『LOOPWHEEL』等」という。)の語は、以前より存在する語であり、我が国の特許文献等でも使用されている(甲3の1及び2)。また、米国特許公報(甲4)や英国特許公報(甲5)には、「loopwheel」や「loopwheel machine」の語が登場しており、イタリア繊維機械工業会のブックレットでも「Loop-wheel Circular Knitting Machines」の記事が掲載されている(甲6)。これらの文献では、「LOOPWHEEL」等の語が、単なる機械の名称として使用され、商品の識別標識として把握されてはいないことが共通している。
他方、商品「織物、メリヤス生地」を取り扱う業界においては、「LOOPWHEEL」等の語は、「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する語として今日でも広く知られている。上記「吊り編み機」は、昭和30年代頃までは台数を増やし続けていたが、その後に登場したシンカー編み機と比較すると、生産効率が悪く(編みの速度がシンカー編み機の10分の1程度)、後続の新しい機械に活躍の場を奪われてきているようである。現在では希少な存在となっている吊り編み機であるが、この機械を用いると、最新式の編み機では出せない、ふっくらとした風合いの着心地の良い生地ができあがることから、再び注目を集めている(甲7)。
そして、当該編み方・編み機は、商品「織物、メリヤス生地」を取り扱う業界において、「LOOPWHEEL」等と呼ばれており、Tシャツやスウェットシャツ等に用いられる織物やメリヤス生地の品質を表示する語として現実に使用されている(甲8?甲36)。
イ 以上のように、商品「織物、メリヤス生地」を取り扱う業界においては、「LOOPWHEEL」等の語が、「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する語として広く知られているとともに、「吊り編み(機)を用いて編んだ織物・メリヤス生地」程の意味合いをもって認識され、商品「織物、メリヤス生地」の品質を表示する語として普通に使用されている実情が認められる。
そうすると、本件商標をその指定商品中「織物(「畳べり地」を除く。)」又は「メリヤス生地」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に「吊り編み(機)を用いて編んだ織物又はメリヤス生地」であると認識するにとどまり、本件商標は、自他商品の識別標識としての機能を果たすことができないというべきである。また、本件商標が、これらの業界において、「吊り編み(機)を用いて編んだ生地」程の意味合いをもって認識され、織物やメリヤス生地の品質を表示する語として普通に使用されている実情が認められる以上、本件商標の使用は、特定の業者に独占されるべきではなく、何人にも開放されて然るべきものと思料致する。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する商標というべきである。
(2)商標法第4条第1項第16号該当性について
上述のとおり、「LOOPWHEEL」等の語は、商品「織物、メリヤス生地」を取り扱う業界において、「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する語として広く知られているとともに、「吊り編み(機)を用いて編んだ生地」程の意味合いをもって認識され、商品「織物、メリヤス生地」の品質を表示する語として普通に使用されている実情が認められる。
そうすると、本件商標をその指定商品中「吊り編み(機)を用いて編まれた織物(「畳べり地」を除く。)又はメリヤス生地」以外の商品について使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する商標というべきである。
3 弁駁の理由
(1)商標法第3条第1項第3号違反の主張について
ア 「LOOPWHEEL」の語は被請求人が創作した造語ではない
「LOOPWHEEL」の語が単なる機械の名称として以前から存在しており、これが被請求人による造語ではないことは、証拠からも明らかである(甲3?甲6)。
また、被請求人自身も、商標登録第5467076号に係る審判(不服2011-7111)の請求書において、「我が国において過去に『吊り編み機』を意味する用語として『LOOPWHEEL』が存在していたようである。」及び「本辞典(繊維辞典)の発行当時(昭和26年)には、『吊り編み機』を意味する語として『LOOPWHEEL』が存在していたことを推察できる。」旨述べている(甲37)。
よって、被請求人が「LOOPWHEEL」の語を新しく創作した、とする主張が真実ではないことは明らかであり、当該主張は失当である。
イ 「LOOPWHEEL」の語が「吊り編み」若しくは「吊り編み機」を意味する語として知られている(生地の品質を表示する語として使用されている)実情
被請求人は、乙2?乙8を提出し、「吊り編み機」を英語表記する場合には「LOOPWHEEL」以外の表記がなされる場合がある点について種々述べ、「学術的・歴史的観点から『LOOPWHEEL』等の語が『吊り編み』若しくは『吊り編み機』を意味する語ではない」旨主張をしている。
しかしながら、本件無効審判で問題となっているのは、「LOOPWHEEL」等が「吊り編み」若しくは「吊り編み機」を意味する語として知られ、Tシャツやスウェットシャツ等に用いられる生地の品質を表示する語として使用されているか否かであり、日本語の「吊り編み機」が原語(英語)でどう表記されるかは問題ではない。そのため、これらの資料は証拠として不適当である。
また、被請求人は、「インターネット等で『LOOPWHEEL』の語が使用されているからといって、それが直ちに商品の識別性を失うものではない」及び「請求人の主張は真偽不明なインターネット情報に基づくものであって、決して正確な客観的事実を証明していることにはならない」と答弁しているが、当該主張についての根拠は一切示されていない。また、その他インターネット上の情報が参酌されない合理的理由は存在しない。むしろ流行が目まぐるしく変化する繊維業界のような業界においては、簡便にアクセスが可能なインターネット上の情報にこそ着目すべきであり、数多くのウェブサイトで確認される「『LOOPWHEEL』の語がTシャツやスウェットシャツ等に用いられる生地の品質を表示する語として使用されている」という情報を無視することはできない。
よって、「『LOOPWHEEL』等の語が『吊り編み』もしくは『吊り編み機』を意味する語ではない」とする被請求人の主張は失当である。
ウ 「LOOPWHEEL」の文字は商品の品質・内容を表示する
被請求人は、「乙10(甲19、甲21?甲29、甲33?甲36)は、商品の品質等表示を超えて、自他商品識別標識としての使用であると言わざるを得ない」と述べているが、各記事で見られる「LOOPWHEEL」の文字は、いずれも商品の品質・内容を表示するものである(甲19、甲21?甲29、甲33?甲36)。
よって、この点に関する被請求人の主張は失当である。
エ 小括
上述のとおり、「LOOPWHEEL」の語は、被請求人の創作した造語ではない。また、商品「織物」や「メリヤス生地」等を取り扱う業界では、「LOOPWHEEL」等は、「吊り編み」若しくは「吊り編み機」を意味する語として広く知られているとともに、Tシャツやスウェットシャツ等に用いられる生地の品質を表示する語として普通に使用されている実情が認められる。そのため、本件商標の使用は特定の業者に独占されるべきではなく、何人にも開放されて然るべきものと思料致する。
よって、本件商標の登録が商標法第3条第1項第3号に違反したものではない、とする被請求人の答弁は理由がない。
(2)商標法第4条第1項第16号違反の主張について
被請求人は、本件商標は造語であり自他商品識別力を有する、と述べているが、「LOOPWHEEL」の語は、被請求人の創作した造語ではなく、商品「織物、メリヤス生地」等を取り扱う業界では、「LOOPWHEEL」等は、「吊り編み」若しくは「吊り編み機」を意味する語として広く知られているとともに、Tシャツやスウェットシャツ等に用いられる生地の品質を表示する語として普通に使用されている実情が認められる。そのため、本件商標をその指定商品中「吊り編み(吊り編み機)を用いて編まれた織物(「畳べり地」を除く。)又は「吊り編み(吊り編み機)を用いて編まれたメリヤス生地」以外の商品について使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
よって、本件商標の登録が商標法第4条第1項第16号に違反したものではない、とする被請求人の答弁は理由がない。
なお、被請求人は「吊り編み(機)により製造された織物」等の商品は存在しない旨述べているが、実際に存在しない商品であっても、識別力を有するか否かについては、その指定商品に係る需要者又は取引者が、本件商標に接した場合に、これをどのように認識し理解するかが重要であると思料致する。つまり、需要者又は取引者が、商品の内容を表示したものと一般に認識することをもって足りるというべきであり、それ以上に、現実にその商品が存在していることまで必要ではないものと思料する。
(3)結び
以上のとおり、被請求人の答弁は全て理由のないものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第11号証を提出した。
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)請求人は、「LOOPWHEEL」等の語は、以前より存在する語であるとして、公開特許公報(甲3の1)及び公表特許公報(甲3の2)を挙げている。
しかし、公開特許公報「特開昭51-84960」(甲3の1)で使用されている「ループホイール」は、パイルを形成するための部品を指しているのであって、「吊り編み機」のことを意味しているものではない。また、公表特許公報「特表2000-508723」(甲3の2)では、「ループホイール編機」の語が記載されているが、あくまでも「ループホイール編機」(ループホイールという部品を備えた編機)と表記されているのであって、ループホイールが直ちに「吊り編み機」のことを意味しているものではない。しかも、当該特許出願は、フィンランドに住所を有する出願人によるフィンランドを優先権主張国とする国際特許出願(PCT出願)であり、このことから直ちに日本国内で「ループホイール編機」の語が以前より存在していたとする証拠にはなり得ないし、同公報の記載から「ループホイール編機」の語が「吊り編み機」のことを意味しているのかも不明である。
(2)また、請求人は、米国特許公報(甲4)や英国特許公報(甲5)で、「loopwheel」や「loopwheel machine」の語が登場しており、イタリア繊維機械工業会のブックレットでも「Loop-wheel Circular Knitting Machines」の記事が掲載されており(甲6)、これらの文献では、「LOOPWHEEL」等の語が、単なる機械の名称として登場しており、商品の識別標識として把握されていないことが共通している旨主張する。
しかし、これらの文献はいずれも海外のものであり、このことから直ちに日本国内で「LOOPWHEEL」の語が、単なる機械の名称として登場していたとする証拠にはなり得ない。すなわち、商標法第3条第1項第3号は、日本国内での識別力を問題にしているのであるから、当然その判断は、日本国内を基準にしなければならない。
(3)さらに、請求人は、商品「織物、メリヤス生地」等を取り扱う業界において、「LOOPWHEEL」等の語は、「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する語として今日でも広く知られており、Tシャツやスウェットシャツ等に用いられる織物やメリヤス生地の品質を表示する語として現実に使用されているとして、インターネット記事を紹介し、さらに、「LOOPWHEEL」等の語は、「吊り編み(機)を用いて編んだ織物又はメリヤス生地」程の意味合いをもって認識され、商品「織物、メリヤス生地」の品質を表示する語として普通に使用されている実情が認められるから、本件商標をその指定商品中「織物(「畳べり地」を除く。)」又は「メリヤス生地」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に「吊り編み(機)を用いて編んだ織物又はメリヤス生地」であると認識するにとどまり、本件商標は自他商品の識別標識としての機能を果たすことができないというべきであり、また、そうである以上、本件商標の使用は特定の業者に独占させるべきではないとして、本件商標が、商標法第3条第1項第3号に該当する旨主張する。
しかし、インターネット等で「LOOPWHEEL」の語が使用されているからといって、それが直ちに商品の識別性を失うものではないと思料する。
ア 請求人は「LOOPWHEEL」の語について、以下の3点で大きな誤解をしている。
(ア)「LOOPWHEEL」は、編機の部品を指称する用語であり、編機そのものを指称するものではない。
(イ)「LOOPWHEEL」は、編機の中で「トンプキン機(捲上機)」に使用されていた部品であって、請求人のいう「吊り編み機」に使用されていた部品は、「シンカーホイール」である。
(ウ)部品としてのループホイール(ループウィール)の英語表記は、「loop wheel」であり、決して「LOOPWHEEL」という一単語ではない(「loop」と「wheel」の単語の組み合わせである。)。
イ すなわち、これまで我が国で刊行された学術書によると、「吊り編み機」は、英語で「French circular frame」と呼ばれていた。これに対して、「巻上げ機(捲上機)」は、英語で「Loop wheel frame(machine)」又は「トンプキン(編)機」と呼ばれていた(乙2、乙3)。「巻上げ機(捲上磯)」は、編んだ編地を上方にある巻取装置に巻き取らせるもので(乙2の61図、乙3の4.8図参照)、請求人のいう編んだ編地を下方で巻き取り又は収容される「吊り編み機」(乙2の65図、乙3の4.1図及び4.2図参照)とは異なる編み機である。また、「吊り編み機」は、リング形針床へ放射状に針を取付け、シンカホイールにより編成をするものに対して、「巻上げ機(トンプキン機)」はシリンダにひげ針を取付け、ループホイールにより編成するものである(乙4の21頁の分類表参照)。この説明にあるように、ループホイール(LOOPWHEEL)は、「巻上げ機(トンプキン機)」を構成する主要部品のことをいい、他の資料にもその旨の記載がある(乙2の116頁、乙3の338頁)。
ウ 次に、辞書・辞典類を年代順に見ると、
(ア)「繊維辞典」(昭和26年9月10日、財団法人商工会館出版部発行:乙5)には、「つりあみき(吊編機)」の英語表記として「French circular frame」の他に、「French circular loop wheel frame」の語が記載されている(883頁)。一方、編地を上部に巻き上げる「トンプキン機(巻上げ機)」の英語表記として「Tompkin’s loop wheel frame」の語が記載されている(932頁)。なお、「ループ・ホイールき(Loop wheel machine)」の語については、「トンプキンき」(巻上げ機)を参照するように記載されている(1352頁)。
(イ)「現代繊維辞典」(昭和40年5月15日、株式会社センイ・ジヤァナル発行:乙6)には、「つりあみき(吊編機)」の英語表記として、「French circular frame」の語のみが記載され、「つりあみき(吊編機)」と同義語の「つりき(吊機)」の英語表記としては、「French circular frame,Sinker wheel frame」と記載されるとともに、「シンカーホイールを有する円形編機」と説明されている(492頁)。一方、「トンプキン機(巻上げ機)」の英語表記として、「Tompkin’s loop wheel machine」の語が記載されているとともに(531頁)、「ループ・ホイールき(?機、Loop wheel knitting machine)」の語については、「トンプキンき」(巻上げ機)を参照するように記載されている(814頁)。このことから、本辞典の発行当時には、「トンプキン機」の英語表記の中には、「loop wheel」の語がかろうじて使用されていたが、「吊り編み機」の英語表記の中には「loop wheel」の語が使用されていないことが分かる。
(ウ)「繊維総合辞典」(2002年10月10日、繊研新聞社発行:乙7)には、「吊<つ>り編機」の英語表記として、「French circular knitting machine」の語のみが記載され(427頁:なお、その説明文に「シンカーホイールを保持する編機」と記載されている。)、「トンプキン編機」の英語表記として「Tompkin’s knitting machine」の語のみが記載されている(463頁)。なお、「ル(る)」の索引にも「ループウィール」の語は見受けられない(723頁)。したがって、本辞典の発行当時には、「loop wheel」の語は、完全に辞書からなくなっていた。
(エ)「日英最新ニット用語辞典」(2006年12月20日、株式会社センイ・ジヤァナル発行:乙8)は、「現代繊維辞典」(乙7)(審決注:「乙6」の誤記と認める。)を前身とするものであるが(1頁)、ここでも「吊編機(つりあみき)」の英語表記として「French circular frame」の語のみが記載され、「loop wheel」の語は使用されていない(76頁)。
(オ)以上のことから、「loop wheel」は、編機そのものを指称するものではなく、編機の部品を指称する用語であり、しかも、「loop wheel」は、「トンプキン機(捲上機)」に使用されていた部品であって、請求人のいう「吊り編み機」に使用されていた部品ではない。また、「loop wheel」の語は、少なくとも2000年以前には辞書・辞典類からも姿を消すような「死語」になっていたものと認識する。
「LOOPWHEEL」の語は、商標権者がこのような死語の中から発見したものであるとともに、「loop」と「wheel」を結合させて、商標権者が新たに創作したものであって、ここには「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する用語として業界的・社会的に認知されたものではなく、商標権者のいわば造語であると考える。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する商標ではない。
2 商標法第4条第1項第16号について
前記のとおり、本件商標は、「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する用語として業界的・社会的に認知されたものではなく、造語であると考える。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
3 むすび
(1)前述のように、「LOOPWHEEL」及び「吊り編み機」の語は、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)の代表者が10年以上も前に「稀少な吊り編み機とそれを扱う職人の技術を後生に残す」という理念の下に多大なリスクを背負う中で生まれたものである。吊り編み機は、非効率的な生産性と割高なコストなど受注が不安定で、これを現代においてビジネス展開するのは極めて難しく、在庫を抱えるなどのリスクが常に伴うものであるが、これまで本件商標権者がリスクを背負いながら生み出し築いていった商標を利用するかのような行為が見受けられる(乙10(甲19、甲21?甲29、甲33?甲36))。
(2)請求人の「LOOPWHEEL」等の語が「吊り編み」又は「吊り編み機」を意味する語として広く知られているとの主張は、真偽不明なインターネット情報に基づくものであって、決して正確な客観的事実を証明していることにはならないと考える。
(3)請求人は、請求の理由中で、「吊り編み(機)により製造された織物(「畳べり地」を除く。)」、「吊り編み(機)を用いて編んだ織物」といった記述をしているが、吊り編み機は編機であるから、織物ができないことは当業者であれば明白な事実であり、「編物(メリヤス)」と「織物」とは全く異なるものである(乙11)。
したがって、上記請求の理由中の記述は明らかな事実誤認である。

第4 当審の判断
請求人が、本件審判を請求する法律上の利益を有することについて、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)証拠(各項の括弧内に掲記)によれば、以下の事実が認められる。
ア 特許公報
(ア)「公開特許公報 特開昭51-84960 発明の名称:パイル編物の製造方法(出願日:昭50.(1975)1.23、出願人:日本国内に在住の者)」の明細書中の「3.発明の詳細な説明」には、「本発明は、表面にループ状のパイルを有する編地を得る新規なパイル編物の製造方法に関するものである。従来、パイル編地はパイル形成用のループホイールを装備している吊編機や特殊シンカーを持つ台丸編機等によって編成されているが、しかしこれらはパイル形成のための装置が機械的であるための種々の欠点を有する。即ち吊編機に於けるループホイールが針により回転させることにより、パイルを形成するため編機としての回転数が比較的低い水準とならざるを得ないという欠点があり、・・・」などと記載されている(甲3の1)。
(イ)「公表特許公報(A) 特許出願公表番号/特表2000-508723 発明の名称:編地のらせん性を除去するための方法および装置(出願日:平成9年4月14日(平成8年4月22日にフィンランド国においてした出願に基づき優先権を主張)、出願人:フィンランド国在住の者)」の「発明の詳細な説明」には、「本発明は、生地の製造および/または処理方法に関し、該方法により、特に編成、好適にはシングルジャージ生地やその派生物などを製造するための編成が、編機、たとえば丸編機、平形編機、ストレートバー編機、ループホイール編機などを用いて行われ、該編機は、少なくとも、編成要素と、結果として生じる生地を受容するためのテークアップ要素とを含み、前記編成要素は、たとえば給糸要素や、針やシンカーなどのループ形成要素などであり、該ループ形成要素は給糸要素と協動して、たとえば1または複数の不撚糸、S撚糸、Z撚糸などの連続糸から編成によって生地を製造する。」などと記載されている(甲3の2)。
イ インターネット記事(本件商標の登録査定日前に掲載されたものと推認できるもの)
(ア)「ZOZOPEOPLE|殿@2nd season-ARCHIVE:殿@2nd seasonさんの2011年05月31日の記事」のサイトには、「LOOPWHEELERは、『世界一、正統なスウェットシャツ』を製造、販売すべく(株)ミスズ代表・鈴木諭(すずきさとし)が1999年に立ち上げた吊り編み物のブランドです。長年アパレル生産管理の仕事に携わり築き上げた人脈と信頼、確かな技術力と生産工場を背景に、メイドイン・ジャパンのスウェットウェアを生産、吊り裏毛素材の新しい世界観を創り続けています。吊り編み機=LOOPWHEEL Machineを使用することについて。LOOPWHEELERの語源ともなっている、『吊り編み機=Loopwheel Machine』は1960年半ばまではスウェットシャツの生地を生産するにはごく一般的な編み機でした。その出来あがった生地の最大の特徴は『やわらかさ』。この言葉に集約されます。人の肌に一番近い衣服として、またトレーニングウェアとしてくり返し洗濯してもその特性が失われない、吊り編み機を使用した生地は、スウェットシャツやTシャツの生地としては最適でした。しかし、この吊り編み機は徐々に姿を消してゆきます。衣料品にも大量生産・大量消費の波がやってきます。1時間に1mほどしか編むことができず、さらには職人が一人付きっきりで面倒を見なければならない、吊り編み機が時代から消え去ってゆくのは生産効率を考えれば必然ともいえるものでした。」などと記載されている(甲8)。
(イ)「FABFOUR Blog」のサイトにおける「LOOP WHEEL MACHINE」の項目(2008年06月27日、Friday)には、「最近随分とポピュラーになっている吊り編み=LOOP WHEEL(ループウィール)とはデニムの旧式シャトル機同様に現代でいう非効率な旧式な織り機で編まれたニット生地の事です。ファブフォーでは創業以来かれこれ13年近くSkull Jeansの定番プリンタブルTや裏毛類などに使っています。・・・『吊り織り機』は丸編みを読んで字のごとく、生地が生地の重さで吊り下がった構造の編み機で毎分24回転という非常にゆっくりとしたスピード。一台の織機で編めるのは1日で10m程度。T-シャツにすると約10枚程度。現在主流とされる量産型のシンカー編み機は10倍以上の効率があるとされるのでその効率の悪さは伺い知れます。なんでそんなに遅いのか・・・写真を観ていただくと気がつかれる方は流石!そう給糸口が一つしかないのです・・・(量産型の高速機では給糸口は24セット)さらに糸が自重によって下がってゆくので織り上げられる生地に余計なテンションをあたえないので糸目の風合いが良い生地となります。デニム同様、非効率な編み機で出来上がる生地には自然な不均等さというか凸凹感の風合いが特徴となるのは一にゆっくりとしたスピードが生地にストレスを与えないからです。」などと記載されている(甲9)。
(ウ)「2011年07月30日のブログ|SOUTH度会橋店」のサイトには、「Loopwheel ポケT」の表示のもと、七分袖のTシャツの写真が掲載され、「Loopwheelとは旧式の吊編み機のことで、一時間におよそ1メートル程しか編むことができません。」などと記載されている(甲13)。
(エ)「Desertic:Vase daybook」のサイト(掲載日は2011年6月23日とみられる(4/6ページ))には、「今回のVase exclusiveは吊り編みパイルショーツ。吊り編みとは、英語でloopwheel(ループウィール)=日本語で吊り編み機という古き良き時代の編み機で編まれた生地のことです。吊り編み機は、明治の終わりから大正の始めにかけてヨーロッパから日本に伝えられた丸編み機の原点で、本来は高級肌着の生地を編むためのものでした。吊り編み機は、糸に余分なテンションをかけず、糸をリラックスさせた状態でゆっくりと丁寧に生地を編み上げます。このため、糸そのものの柔らかな風合いがそのまま生かされた、ふっくらとした風合いの生地が出来上がるのです。洗濯を繰り返すうちにゴワゴワになってしまうことがないのも大きな特長です。しかし残念なことに、その生産性の低さと高いコストのために、吊り編み機は日本でもごくわずかな工場にしか残っていません。また、長年の経験と勘が要求される吊り編み職人も、現在では数えるほどの人数です。」などと記載されている(甲14)。
(オ)「【BARNS】生地小話?吊り編み?|NATTO-zakka&clothing-」のサイト(2010年11月18日)には、「吊り編み。英語で言うならループホイール。・・・日本では明治時代にヨーロッパから伝えられた製法だそうです。今は日本にしか残っていないそうです。その名のとおり、機械が天井から吊ってあるんです。織られた生地は下にどんどんたまっていく形です。」などと記載されている(甲15の1)。
また、「【nrab】女性の皆様お待たせしました。吊り天竺ロンTee|NATTO-zakka&clothing-」のサイト(2011年11月12日)には、「メンズの方ではおなじみ、Loopwheel。吊り編み。」などと記載されている(甲15の2)。
(カ)「Loopwheel|Morishitaのブログ」のサイト(2012年5月7日)には、「Loopwheel」の表示のもと、「ボディに16番単糸のラム糸を和歌山県にしかない吊り編み機にてゆっくりと時間を掛けて製作した丸胴ボディを使用したヘンリーネックのカットソーです。吊り編み機で製作した生地は糸そのものが持つ風合いが出るのでふっくらとして柔らかいのが特徴。」などと記載されている(甲18)。
(キ)「まわるまわる、和田メリヤスの吊り編み機。-YouTube」のサイト(2011年4月15日アップロード)には、「和田メリヤスの吊り編み機が回っているようす。」の文字と吊り編み機の写真が掲載されている(甲30の1)。
また、「日本の職人技吊り編み機 Loopwheel in wakayama Japan-YouTube」のサイト(2011年2月4日アップロード)には、「日本でも数少ない吊編み機は、糸や生地に最後まで余計な負荷をかけずにゆっくりふっくらと編んでくれる機械です。」などと記載されている(甲30の2)。
(ク)その他、通販サイト「Amazon」において、「LOOPWHEEL T」と表示されたTシャツ(メーカー型番:112114758)について2012年5月18日に取り扱いを開始したことに関する記事(甲28)、通販サイト「sekaimon(セカイモン)」において、「Loopwheel T-Shirt」と表示されたTシャツについて2012年5月10日にオークションが開始されたことに関する記事(甲29)のほか、アメリカのインターネット記事(2010年4月23日、2011年3月15日、2011年8月26日、2011年11月24日)には、「Loopwheel Sweatshirt(又はLoopwheel Sweat Crew)」の表示のもと商品の写真が掲載され(甲33の1?3、甲35)、また、シンガポールのインターネット記事(2012年5月24日)には、「Loop Wheel T-shirt」の表示のもと商品の写真が掲載されている(甲36)。
ウ 繊維関連の書籍(書籍における旧字体等は、常用漢字等に変えた部分がある。)
(ア)「メリヤス製造法」(昭和4年9月25日、工政會出版部発行)の「ループ・ホィール編機(英語Loop wheel frame)」の項目(114頁)には、「この種の機械は通常編地を編みつつこれを上方にある巻取装置に巻き取るが故に、俗に『巻上げ機』ともいう。」と記載され、「ループ・ホィール編機」が図示(61図)され、さらに、62図には、「四組の編目形成装置を有するループ・ホィール機の平面図」が図示されている。そして、115頁には、該「ループ・ホィール編機」の「編目形成用の機構は、・・・何れも調整し得る様に取付けられている。これらを列記すれば以下の如し。(a)糸道装置/次に説明するループ・ホィールに編糸を供給する装置。(b)ループ・ホィール(英語Loop wheel)/一端に鈎部を有する翼状片を斜に輪体の周囲の斜溝に取付けた翼輪で、その軸が編針に対し傾斜して支持され、その鈎部で編糸を引掛けてループを形成し、これを髭の下に移す作用をする・・・」などと記載されている。
また、「フランス式円型編機(英語French circular frame)」の項目(119頁)には、「この編機は各部が一本の枢軸にて支えられ、この枢軸を鍔とナットとで梁等に固着して、編成動作を営むものである。即ち吊垂式であるから、俗にこの式の機械を『釣機械』又はスウィツル式と称する。」と記載され、また、当該編み機における編目の形成を行う部分は、「編糸調節並びに給糸装置、シンカー・ホィール、シンキング・カム、プレッサー・ホィール・・・」などと記載されており、「ループ・ホィール」に関する記述はない(以上、乙2)。
(イ)「新しいメリヤス学」(昭和42年2月1日、繊維研究会出版局発行)の「丸編機」の「4.1 ひげ針円型編機」の項目(330頁)には、「円型の針筒にひげ針を備えた機構の編機であって、次の3つの方式がある。1.吊機 2.捲上機(トンプキス) 3.ワイルドマン編機」と記載され、上記「吊機(French circular frame sinker wheel machine)」の項目(330頁)には、「この編機は・・・機体全体が上方から1本の軸で吊下げられているゆえ『吊』と称する。またわが国に初めてスイスから輸入されたのでスイッツル(Switzer)ともよばれる。」と記載され、編成主要部の一つに、「シンカー・ホイール」がある旨記載されている。
また、「捲上機(loop wheel machine)」の項目(336頁?337頁)には、「これは一般にトンプキンス(Tompkins)と呼ばれる。巻取装置が編成装置の上部にあって、編地は編みながら捲き上げられるので『捲上げ機』ともいう。」と記載され、編成機構には、編目車(loop wheel)、押上げ車(landing wheel)、脱出車(knoking over wheel)などがあることが記載されている(以上、乙3)。
(ウ)「繊維工学II 編組」(1973年、実教出版株式会社発行)の「編機の分類」の項目(20頁?21頁)には、編み機は、「よこ編機種」と「たて編機種」に大別され、そのうちの「よこ編機種」は、「平形編機」と「円形編機」に分類され、さらに、「円形編機」には、「べら針機」と「ひげ針機」とがあり、そのうちの「ひげ針機」には、「つり機」と「トンプキン機」があること、そして、該「つり機」は、「リング形針床へ放射状に針を取付け、シンカホイールにより編成をする。」こと、また、「トンプキン機」は、「シリンダにひげ針を取付け、ループホイールにより編成した編地は上部に巻き取る。」こと、がそれぞれ記載されており、「つり機」の英語表記として、「french circular frame;sinker wheel frame」(112頁)と記載されている(乙4)。
(エ)「繊維辞典」(昭和26年9月10日、財団法人商工会館出版部発行)の「つりあみき(吊編機、French circular frame、French circular loop wheel frame)」の項目(883頁)には、「欧州大陸で広く採用されたメリヤス機で、・・・わが国でも広く用いられているメリヤス丸編機の一種。・・・編機全体が1本の鉄棒に吊り支えられているので吊機械或いは単につり、また初めてスイスから輸入されたのでスイッツルとも呼ばれている。編成された生地は、編目が美しく整い、肌着に適する。」と記載されている。また、「ループ・ホイールき(Loop wheel machine)」の項目(1352頁)には、「→トンプキンき」と記載され、「トンプキンき(Tompkin’s loop wheel frame)」の項目(932頁)には、「メリヤス丸編機の一種で・・・、わが国では殆んど使用されていない・・・」などと記載されている(乙5)。
(オ)「現代繊維辞典」(昭和40年5月15日、株式会社センイ・ジヤァナル発行)の「つりあみき(吊編機、French circular frame)」の項目(492頁)には、「→つりき」と記載され、「つりき(吊機、French circular frame、Sinker wheel frame)」の項目(492頁)には、「本体が1本のシャフトにつられてヒゲ針を放射状に配列したシンカーホイールを有する円形編機で、スイッツルともいう。」と記載され、また、「トンプキンき(?機、Tompkin’s loop wheel machine)」の項目(531頁)には、「捲上げ機ともいい、2つの編機が1台のフレームにとりつけられて、編地は上部に巻き取られる。・・・吊機と同じ目的に使用される。」と記載され、さらに、「ループ・ホイールき(?機、Loop wheel knitting machine)」の項目(814頁)には、「→トンプキンあみき」と記載されている(乙6)。
(カ)「繊維総合辞典」(2004年4月1日、繊研新聞社発行)の「吊〈つ〉り編機/French circular knitting machine」の項目(427頁)には、「本体が1本のシャフト(横棒)に吊られており、ひげ針を放射状に配列したシンカーホイールを保持する編機。・・・⇒台丸編機」と記載され、また、「トンプキンス編機/Tompkin’s knitting machine」の項目(463頁)には、「シングルシリンダーの編機で、ひげ針によって平編を編成する。・・・巻き上げ機、シンカートップ編機ともいう。」と記載されている(乙7)。
(キ)「日英最新ニット用語辞典」(2006年12月20日、株式会社センイ・ジヤァナル発行)の「吊編機(つりあみき)/French circular frame」の項目(76頁)には、「本体が一本のシャフトに吊られ、ひげ針を放射状に配列した円形編機。スイッツルとも言う。丸編機の一種。」と記載され、また、「吊機(つりき)/French circular frame」の項目(76頁)には、「吊編機の略称。」と記載されている(乙8)。
エ 雑誌
(ア)「mono」(平成17年10月2日発行)の「莫大小の生みの親/これが吊り編み機だ!」の見出しのある記事(58、59頁)には、「19世紀中頃に発明された吊り編み機は、・・・その名は一本のセンターシャフトで梁から本体を吊るす構造に由来し、かつて日本では『スウィッツル』と呼ばれていた。・・・『ヒゲ針』と呼ばれる特殊な編み針が1000本以上も取り付けられた台座がシャフトを中心に回転し、シンカーホイールという固定パーツを通るときに生地が編まれる仕組みとなっている。」、「いまはなきトンプキン/かつて吊り編み機に継ぐ編み機としてアメリカで開発・普及していた『トンプキン』。日本では普及しなかったが、現在でも海外では稼働している。」などと記載されている(乙9)。
(イ)「Begin厳選!殿堂ブランド図鑑」(株式会社世界文化社発行、2011印刷)には、「その名のとおり工場の梁から吊り下げられていることから名付けられた吊り編み機は、シャフトを中心に毎分約24回転する台座と、シンカーホイールという編み上げる部位から構成されている。」、「吊り編み機が現存するのは、この2箇所だけ!/現在は日本でしか稼働していない吊り編み機だが、さらに国内でも和歌山県の2社が所有する200台足らずになっている。」などと記載されている(乙9)。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、以下のとおり認定するのが相当である。
ア 「公開特許公報」(甲3の1)によれば、昭和50年当時において、パイル形成用のループホイールなる装置(部品)を装備した「吊編機」(吊り編み機)が存在していたことをうかがわせる。
また、「公表特許公報」(甲3の2)によれば、平成8年当時、少なくともフィンランド国において、ループホイール編み機が存在していたことをうかがわせる。
イ 本件商標の登録査定日前に掲載されたインターネット記事(甲8、甲9、甲13?甲15の2、甲18、甲28?甲30の2、甲33の1?3、甲35、甲36)を総合すると、吊り編み機は、我が国の編物・メリヤス生地等の製造分野においては、1960年代頃までは、普通に使用されていた編み機であったが、当該編み機の生産効率の悪さ等から、後発の編み機に押され、それ以降、徐々に姿を消していったこと、しかし、当該編み機で生産された生地は、その柔らかさ、風合いの良さ等から、近時再び脚光を浴び、その生地で製造したスウェットウエア、Tシャツ等がブームになっていること、また、本件商標権者に関する記事(甲8)において、「吊り編み機=LOOPWHEEL Machine」、「吊り編み機=Loopwheel Machine」などの記載があるのをはじめとして、吊り編み機又は当該編み機で生産された生地若しくは当該生地で作ったウェットシャツ等の製品について、「LOOPWHEEL(ループウィール)」、「Loopwheel」、「ループホイール」と表示されていることが認められる。
ウ 繊維関連の書籍(乙2?乙8)によれば、以下のとおりである。
(ア)繊維関連の書籍のうち、昭和4年9月25日発行の「メリヤス製造法」(乙2)、昭和42年2月1日発行の「新しいメリヤス学」(乙3)、1973年(昭和48年)発行の「繊維工学II 編組」(乙4)、昭和26年9月10日発行の「繊維辞典」(乙5)、昭和40年5月15日発行の「現代繊維辞典」(乙6)を総合すると、ループ・ホイール編み機(英語:Loop wheel machine)は、「トンプキン機(英語:Tompkin’s loop wheel machine)」とも呼ばれ、編まれた編地が上部にある巻取り装置によって巻き取られることから、「巻上機(巻き上げ機)」とも呼ばれており、その編成機構の一つに、「編目車(loop wheel)」なる装置(部品)が装備されていること、「トンプキン機(ループ・ホイール編み機)」は、我が国ではほとんど使用されていないこと、一方、フランス式円型編み機(英語:French circular frame又はSinker wheel frame等)は、機械本体が一本のシャフトにつられ、ヒゲ針を放射状に配列した円形編み機であることから、「吊り編機(吊り編み機)」、あるいは、当初スイスから輸入されたことから「スイッツル」とも呼ばれており、その編成機構の一つに、「シンカーホイール(sinker wheel)」なる装置(部品)が装備されていること、がそれぞれ認められる。
(イ)繊維関連の書籍のうち、2004年(平成16年)4月1日発行の「繊維総合辞典」(乙7)には、「吊り編機(吊り編み機)」(英語:French circular knitting machine)及びトンプキンス編機(英語:Tompkin’s knitting machine)に関する解説は掲載されているものの、「ループ・ホイール編み機」やその装置(部品)としての「loop wheel」に関する記述はないこと、また、2006年(平成18年)12月20日発行の「日英最新ニット用語辞典」(乙8)には、「吊り編機(吊り編み機)」(英語:French circular frame)の解説は掲載されているが、「ループ・ホイール編み機」やその装置(部品)としての「loop wheel」に関する記述はないこと、がそれぞれ認められる。
エ 本件商標の登録出願前である平成17年及び同23年に日本で発行された雑誌には、吊り編み機は、一本のシャフトで梁から本体をつるす構造であり、ヒゲ針と呼ばれる特殊な編み針が1000本以上も取り付けられた台座がシャフトを中心に回転し、シンカーホイールによって編成されること、該編み機は、現在では、我が国において和歌山県に所在の2社のみが所有しメリヤス生地を生産していること、トンプキン機は、アメリカで開発され、普及していたが、日本では普及しなかったことなどが認められる。
オ 以上ア?エによれば、インターネット記事には、「LOOPWHEEL」等の語が、「吊り編み機又は当該編み機で生産された生地若しくは当該生地で作ったウェットシャツ等の製品」を意味するものとして掲載されている一方で、繊維関連の専門的な書籍のうち、昭和50年以前に発行されたものには、「Loop wheel machine」の語が「ループホイール編み機」(巻き上げ機又はトンプキン機)の英語表記として、また、「loop wheel」の語が該編み機に装備される編成機構の一つである「編目車」の英語表記として掲載されているものの、平成16年、同18年に発行された書籍には、「ループホイール編き機」そのものの掲載がなかったことをうかがうことができる。さらに、これらの書籍によれば、「吊り編み機」は、フランス式円型編み機の俗称であって、英語で「French circular frame」、あるいは、その編成の主要機構が「シンカーホイール」であることから、「Sinker wheel frame」等と表記される場合があるが、編み機本体及びその部品には、「LOOPWHEEL」等の語が単独では使用されていないことが認められる。また、吊り編み機を特集した雑誌の記事における吊り編み機は、その本体の構造及び編成機構がシンカーホイールであることにおいて繊維関連の書籍の記載と一致し、かつ、「トンプキン機(ループ・ホイール編み機)」が我が国ではほとんど使用されていなかったこと等においても、繊維関連の書籍の記載と一致することなどを認めることができる。
カ ところで、インターネットにおける情報は、特定の目的のために、例えば、「LOOPWHEEL」等のキーワードを意図的に検索した結果得られる情報であるといえるばかりか、その出所が明確でないものも含まれることは否定することができない。また、本件におけるインターネット記事は、その記載内容等において似たような書きぶりであるため、同一の情報源から出所したのではないかとの疑念を払拭することができない。そうすると、本件商標の登録査定前において、さほど多いとはいえないインターネットに掲載された情報をもって、我が国の取引者、需要者が「LOOPWHEEL」等の語について、「吊り編み機又は当該編み機で生産された生地若しくは当該生地で作ったウェットシャツ等の製品」を意味する語として認識し得ることの根拠とすることはできないというべきである。
そして、インターネットの記事以外に、「吊り編み機」について、「LOOPWHEEL Machine」、「Loopwheel Machine」、あるいは、「LOOPWHEEL」、「Loopwheel」などとの英語で表記した証拠は見いだせず(なお、米国特許公報(甲4)に「loopwheel machines」の記載があり、また、英国特許公報(甲5)に「a four-feeder loopwheel machine」、「The loopwheel at each feeder」等の記載があるが、これらが「ループホイール編み機」若しくはその部品又は「吊り編み機」に該当するかは明らかではない。)、しかも、「ループホイール編み機(Loop wheel machine)」等、「ループホイール/Loop wheel」に関連する編み機ないしその装置(部品)が、我が国において、昭和50年頃以降、辞書や繊維関連の専門的な書籍に掲載された事実を認めるに足りる証拠は見いだせず、また、「トンプキン機(ループ・ホイール編み機)」が、我が国ではほとんど使用されていなかったことを併せ考慮すれば、「LOOPWHEEL」等の語に接する一般の需要者はいうまでもなく、編物・メリヤス生地の関連分野の取引者においても、該語を「吊り編み機又は当該編み機で生産された生地若しくは当該生地で作ったウェットシャツ等の製品」を意味する語として理解するというより、むしろ、特定の意味合いを理解することができない造語を表したと認識するとみるのが相当である。
なお、昭和50年に出願された特許願(甲3の1)には、「パイル形成用のループホイールを装備している吊編機」の記載があるが、当該編み機が「LOOPWHEEL」、「loop wheel」等と英語表記されるかについては明らかではないし、また、平成8年4月22日にフィンランド国においてした特許出願に基づいて優先権を主張して、平成9年4月14日に出願された特許願(甲3の2)には、「ループホイール編機」の記載があるが、これが仮に英語で「Loop wheel machine」と表記される編み機であるとしても、「ループホイール編機」、すなわち、「トンプキン機」は、我が国において、ほとんど使用されていなかったことからすれば、特許公報類に、上記記載があることをもって、前記認定が左右されるものではない。
(3)以上によれば、「LOOPWHEEL」の文字よりなる本件商標は、その取引者、需要者に、特定の意味合いを理解させない造語を表したと認識される商標というのが相当である。
したがって、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を発揮し得る商標というべきであるから、その登録査定時において、商標法第3条第1項第3号に該当する商標であったと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第16号について
前記1認定のとおり、本件商標は、特定の意味合いを有しない造語よりなるものと認識されるものであるから、これをその指定商品のいずれについて使用しても、商品の品質について誤認を生じさせるおそれのない商標ということができる。
したがって、本件商標は、その登録査定時において、商標法第4条第1項第16号に該当する商標であったと認めることはできない。
3 請求人の主張について
請求人は、「被請求人が不服2011-7111の審判請求書において、我が国において過去に『吊り編み機』を意味する用語として『LOOPWHEEL』が存在していたようである。・・・本辞典(繊維辞典)の発行当時(昭和26年)には、『吊り編み機』を意味する語として『LOOPWHEEL』が存在していたことを推察できると主張した。」旨述べている。
しかしながら、昭和26年発行の繊維辞典に「『吊り編み機』を意味する語として『LOOPWHEEL』が存在していた」としても、前記1(2)カで述べたとおり、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号の判断時である本件商標の登録査定時において、辞書や繊維関連の専門的な書籍に掲載された事実を認めるに足りる証拠は見いだせず、また、「トンプキン機(ループ・ホイール編み機)」が、我が国ではほとんど使用されていなかったことを併せ考慮すれば、「LOOPWHEEL」等の語に接する取引者、需要者は、該語を「吊り編み機又は当該編み機で生産された生地若しくは当該生地で作ったウェットシャツ等の製品」を意味する語として理解するというより、むしろ、特定の意味合いを理解することができない造語を表したと認識するものであるから、請求人の主張は採用することができない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-04-24 
結審通知日 2013-04-26 
審決日 2013-05-09 
出願番号 商願2012-1326(T2012-1326) 
審決分類 T 1 11・ 13- Y (W24)
T 1 11・ 272- Y (W24)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白鳥 幹周 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 渡邉 健司
前山 るり子
登録日 2012-07-06 
登録番号 商標登録第5506202号(T5506202) 
商標の称呼 ループホイール 
代理人 岩田 敏 
代理人 大村 昇 
代理人 高梨 範夫 
代理人 岩田 享完 
代理人 安島 清 
代理人 小林 久夫 

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