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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X44
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない X44
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X44
管理番号 1297295 
審判番号 無効2013-890075 
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-10-28 
確定日 2015-01-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5472614号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5472614号商標(以下「本件商標」という。)は、「スターデンタル」の片仮名を横書きしてなり、平成23年8月31日に登録出願、第44類「歯科医業」を指定役務として、同24年1月19日に登録査定、同年2月24日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第46号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由の要約
被請求人は、東京都千代田区九段北の現在地において、平成18年から診療所名称を「九段下スター歯科医院」とする歯科診療所を開業している(甲1,甲2)。平成23年7月上旬、東京都港区赤坂に診療所名称を「赤坂スターデンタルクリニック」とする歯科診療所が新たに開業したことを知り、同診療所の業務を妨害する目的で、同年8月31日、本件商標に係る登録出願をし、登録査定後直ちに同診療所に対して権利行使を行ってきた。なお、被請求人は、平成24年7月17日に、本件商標登録に係る登録名義人の表示変更登録を申請したが、現在もなお、「九段下スター歯科医院」の看板を掲げて歯科診療を継続している(甲2)。
したがって、本件商標には、以下のとおり、商標法第46条第1項第1号の無効事由が複数存在する。
(1)被請求人には本件商標の使用意思がなく、商標法第3条第1項柱書「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」にあたらない。
(2)公序良俗に反し、商標法第4条第1項第7号に該当する。
ア 被請求人が本件商標を使用することは医療法第6条の5に違反するから、使用には必ず法律違反を伴うものであり、公序良俗に反する。
イ 本件商標は、同業他者の業務を妨害する目的で出願されたものであり、公正な取引秩序という公序良俗に反する。
ウ 「赤坂スターデンタルクリニック」の診療所名称が商標法第4条第1項第19号の要件である周知性を充たさないと判断される場合でも、また、「赤坂スターデンタルクリニック」の診療所名称と本件商標が類似であると認められない場合であっても、本件商標の登録出願と登録査定後の権利行使は不正の目的に出たものであることは明らかであり、公序良俗に反する。
(3)「不正の目的」をもって使用をするものであり、商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 事実関係
(1)「赤坂スターデンタルクリニック」の開業
「赤坂スターデンタルクリニック」(以下「請求人使用標章」という場合がある。)は、平成23年7月に開業したが、これに先立つ平成22年秋頃から準備を始め、クリニックの名称やロゴの選定は同23年1月から行い(甲7?甲12)、開業に関する諸届も同年6月には終了している(甲3?甲6)。そして、かかる万全の準備の上、平成23年6月初旬以降、インターネット上のウェブサイトによる宣伝(甲13)、リーフレットなどの各種宣伝媒体による宣伝(甲14)、同診療所が入るビル周辺の広告看板の設置による宣伝を開始した。
同診療所は、平成23年3月竣工の「赤坂スターゲートプラザ」の2階に所在する。同ビルは、東京メトロ溜池山王駅から徒歩1分の外堀通り沿いに面した1ブロックを1つのビルで占める比較的大規模なビルであり(甲15)、同診療所は、同ビルの敷地内において目立つ看板を設置した(甲16)。
また、同診療所は、平成23年3月26日頃には「star-dental.net」のドメインを取得し、その頃までにホームページの体裁もほぼ整え(甲10)、4月頃からインターネットでの宣伝を開始した。同診療所が、日本メディカルネットコミュニケーションズ株式会社からロゴマークの電子データを受領したのは平成23年5月17日であるが(甲12)、ロゴマーク自体はそれより前の3月の段階ですでに決定しており(甲7・2枚目)、4月頃からは、このロゴマークを含んだホームページが一般の閲覧に供されることとなった。その際、開業支援やホームページ作成等に関与した株式会社デンタルプロモーション(甲7,甲10)のコンサルティングにより、いわゆるSEOサービスを通じて、ホームページが早い段階から検索システムで上位に来るべく尽力した。
(2)被請求人からの権利行使
平成24年3月1日付けで、被請求人は、代理人弁護士を通じて、「赤坂スターデンタルクリニック」に対して「通知書」と題する書面を電子内容証明郵便で送付し(甲17)、「通知人は、平成18年から『九段下スターデンタルクリニック』の名称で歯科医院を経営してきました。」などと虚偽の事実を述べた上で(被請求人の歯科診療所名称は「九段下スター歯科医院」(甲1)であり、診療所の入るビルの外側やエレベータ脇の表示板、外部からの診療所入りロ、表通りに面した大きな窓等に表示された医院名も同様である(甲2)。)、当該診療所が「赤坂スターデンタルクリニック」の名称で営業を行う行為が、不正競争防止法(ただし何号かは示さない。)及び商標法違反(ただし登録査定日を示すのみで商標登録番号は示さない。)であると決めつけた。その上で、即時の診療所名称の使用差止めを求めるとともに、金100万円の支払いを求めた。しかしながら、その100万円の趣旨は明らかでなく(損害の一部をとにかく先に払えというものか、それとも全部を解決するための和解金の提示であるのか、それともその他の趣旨であるのか判然としない。)、また、回答期限を3月9日という極めて短期間に設定するなど、不穏当なものであった。
これに対して、赤坂スターデンタルクリニックは、平成24年3月2日付けで「回答書」を内容証明郵便で送付し(甲18の1)、これは被請求人に3月5日に到達した(甲18の2)。同診療所は、この時点で、先使用に基づく使用権(商標法第32条第1項)があることを明確に通知した。
被請求人代理人は、さらに、平成24年3月6日付けで、赤坂スターデンタルクリニック代理人(請求人代理人)にファクスを送信し(甲19の1)、登録査定の写し(甲19の2)及び商標登録料納付書の受領書の写し(甲19の3)を送付した。また、同月16日、被請求人代理人は、赤坂スターデンタルクリニック代理人にファクスを送付し(甲20の1)、先使用の主張は認められないとして改めて使用の差止めを求めるとともに、回答期限を1週間後の3月23日と設定した(甲20の2)。また、被請求人商標の商標登録証の写しも同時に送付された(甲20の3)。この商標登録証には、商標権者として、「医療法人社団スタデン九段下スター歯科医院」と記載されている。
なお、本件商標の登録公報発行は、平成24年3月27日であり、これを客観的な方法で確認することが可能になる以前に、赤坂スターデンタルクリニックに対して上記のような権利行使がなされたのであり、赤坂スターデンタルクリニックでは、被請求人代理人に対して、その立場を明らかにした(甲21)。
3 歯科医業における名称決定と広告についての法規制
(1)診療所開設時の名称決定
ア 法令の規定
歯科医師が診療所(医療法第1条の5第2項)を開設した場合、開設後10日以内に、診療所の所在地の都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。以下「知事等」という。)に届け出なければならない(同法第8条)。この診療所開設届出には、開設者の住所氏名や開設の場所、診療を行おうとする科目の他、診療所の「名称」を記載しなければならない(医療法施行規則第4条)。
保健所とは、地域保健法第5条第1項に基づいて、都道府県、政令指定都市、中核市その他の政令で定める市又は特別区が設置するものであり、医事及び薬事に関する事項(地域保健法第6条第5号)や歯科保健に関する事項(同条第9号)などについて、企画、調整、指導及びこれらに必要な事業を行う。保健所を設置する地方公共団体の長は、その職権に属する第6条各号に掲げる事項に関する事務を保健所長に委任することができるとされており(同法第9条)、上記の医療法にもとづく開設の届出に関する事務は、一般的に、保健所に委任されている。
イ 保健所等の事前指導
歯科診療所を開設するには、前述のとおり、医療法にもとづく開設届を提出しなければならないが、この開設届は、いきなり保健所に出しても受理されるものではなく、実際には、事前相談が必須とされている。そして、診療所名称についても、この事前相談時に指導される。診療所名称に関する事前指導の具体的内容は、保健所により異なりうるが、同じ保健所管内の既存の診療所と同じ名称で、新たに診療所を開設することは認めない取り扱いが多い。そして、開設予定者がこの事前の行政指導に従わない場合、開設届出が受理されないという不利益が予定されているから、この行政指導には事実上、かなりの拘束力が認められるものである。
(2)厳格な広告規制
ア 法律及び規定等による規制
医療法第6条の5は、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない」と規定する。そして、厚生労働省では、「医療若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針」(平成19年厚生労働省告示第108号、以下「医療広告ガイドライン」という。)を定めており、これが医療業界における広告のルールとなっている。
この、広告規制に違反した場合には、都道府県知事、保健所を設置する市の所長又は特別の区の区長による報告徴収、立入検査及び広告の中止等の改善措置を命ずることができるとされ(医療法第6条の8)、命令に従わない場には罰則が適用されることとなる(同法第73条第3号)。そして、これらの権限は、保健所長に委任されている(地域保健法第9条)。
このように、医業に関する広告の規制は、罰則により担保された強制力を有する法令にもとづくものである。
イ 「スター歯科医院」が自己の名称を「スターデンタルクリニック」として広告することは、医療法上も取引秩序上も許されない
被請求人診療所を管轄する千代田保健所に確認を取ったところ、「『○○歯科医院』との名称で医療法に基づく届出を行った歯科医院が『○○デンタルクリニック』を使用することはできない。」との回答を得た(甲23)。したがって、「スター歯科医院」が自己の名称を「スターデンタルクリニック」ないし「スターデンタル」として広告することは、医療法上、許されない。この点については、一般に歯科医師の間でも自明のこととされている。
また、歯科医業界を離れて考えても、自己の名称以外の名称を、自己を表示するものとして名乗ることは、常識的に考えて許されるべきものではない。名称とは、自己の同一性を示すものである。同じ名前であるからこそ、需要者にはそれが同一の事業者であることがわかるのであり、名前が違えば、需要者は別の事業者であると認識する。したがって、事業者があえて別の名称を名乗ることは、需要者を混乱させるものにほかならない。
4 無効事由-1:被請求人の使用意思の欠如(商標法第3条第1項柱書)
(1)被請求人の診療所名称
被請求人が開設する診療所の名称は、「九段下スター歯科医院」である(甲1)。
被請求人は、平成18年の開設以来、対外的な取引においても、診療所名称である「九段下スター歯科医院」(甲30の1・2)、または医療法人名である「医療法人社団スタデン」(甲30の3)を使っており、外部から被請求人の診療所を指し示すときに、これら以外の名称によることを示す証拠は見当たらない。
(2)被請求人の診療所外観
被請求人の診療所が入居する「東急真サクラビル」では、外側の入居者表示板(甲2の写真3・5)においても、ビルに1基のみ存するエレベータの脇の診療所の入るビルの外側やエレベータ脇の表示板においても(同6)、被請求人の診療所を「九段下スター歯科医院」として表示している。
また、被請求人診療所は同ビルの2階に所在するところ、目白通に面したベランダには大きく「九段下スター歯科医院」との表示がある(同1)。そして、1階入口から被請求人診療所にのみ上がるための階段前のドアには大きく「スター歯科」と表示され(同4)、さらに、ビルからせり出した形の広告看板においても、「スター歯科」との表示がある(同2)。
このように、被請求人の診療所外観は、もっぱら「九段下スター歯科医院」というものである。なお、「スター歯科」とのドア(同4)及びせり出し看板(同2)があるが、このドアは、ベランダの「九段下スター歯科医院」との大きな表示(同1)の真下かつビル入居者表示の「2F 九段下スター歯科医院」(同3)のすぐ左側であり、せり出し看板もベランダの「九段下スター歯科医院」との大きな表示(同1)のすぐ左脇であるから、「九段下」を入れなくても同一性の問題は生じないため、ドアや看板の大きさの制限とデザイン上の要請から省略したものと解される。
これらは、前述のとおり、歯科医業における広告が厳格に法定されていることからすれば、むしろ当然である。
そして、仮に、この付近に所在する「スターデンタル」という名称の歯科診療所を探す需要者がいたとして、この診療所を「スターデンタル」であると考える者はいない。
(3)被請求人ウェブサイトの記載
被請求人は、公衆の閲覧に供しているウェブサイトにおいて、「九段下スターデンタルクリニック」と表示している。しかし、同ウェブサイトには、この他にも、登録された診療所の名称である「九段下スター歯科医院」や、「千代田区九段下の歯科医院」「千代田インプラントセンター」等、被請求人の診療所を示すと思われる名称が複数混在している。
このように複数の名称をウェブサイト上に表示させるのは、インターネットの検索エンジンにおいて反応するキーワードを増やすことによって、より多くの顧客に被請求人診療所を発見させ誘導するための戦略(SEO対策)である。すなわち、ここでの「九段下スターデンタルクリニック」、「千代田インプラントセンター」等の表示は、単にSEO対策のためのものにすぎない。この表示をもって、被請求人がその診療所を示す名称として「九段下スターデンタルクリニック」を使用する意思があるとは言えない。(なお、医療広告ガイドラインは、インターネットのウェブサイトの記載には原則として適用がないとされているところから、被請求人はこれを知悉して、SEO対策としてあえて、自己を複数の名称で表しているものと思われる。)
なお、当該ウェブページでは、被請求人の診療所外観の写真も掲載されており、そこには、上記のとおり、「九段下スター歯科医院」と大きく表示されているのであるから、歯科診療所を探す目的で当該ウェブページを見るものは、その全体的記載から「九段下スター歯科医院」が被請求人の診療所名称であると認識するものである。したがって、自他識別機能を有する診療所名称は、「九段下スター歯科医院」であり、その意味からも、被請求人に「九段下スターデンタルクリニック」の商標としての使用意思があるとはいえない。
また、たとえ被請求人に「九段下スターデンタルクリニック」の使用意思があるとしても、継続的な診療を要する歯科診療所の需要者にとって、診療所の所在場所は決定的に重要な要素であるところ、標章の冒頭であり所在場所でもある「九段下」を捨象して、「スターデンタル」の文字のみからなる本件商標の使用意思があるということはできない。このことは、被請求人が出願の際になした早期審査の申出とその後提出された事情説明書に対して、平成23年10月31日付け早期審査選定結果通知書及び早期審査に関する報告書で特許庁審査官が「本件早期審査に関する事情説明書からは、商標の使用の事実を示す書類として『当院ホームページハードコピー』を提出いただきましたが、当該資料には、『九段下スターデンタルクリニック』において『歯科医業』が行われていること及び『九段下スターデンタルクリニック』の標章を確認することはできますが、その『歯科医業』に出願商標『スターデンタル』の標章を使用している状況が把握できません。」と述べるとおりである。
(4)答弁に対する弁駁
被請求人は、自己に使用意思があることの論拠として、(a)医療法人であること、(b)現に使用していたこと、(c)法人名が類似するものであること、(d)すでに診療所名称を変更したこと、を挙げるが、(b)は、本件登録商標の早期審査請求に対する特許庁の審査官の意見と異なるものであり、その余を含めいずれも失当である。
請求人の主張は、診療所の登録名称を「九段下スター歯科」とする被請求人が、これを使用しようとすることは医療法に照らして違法であり、そのような違法な使用意思を保護すべきでないとするものである。これが違法であることは、上記(d)で診療所名称を変更したことからもうかがえるように、被請求人自身も認めるところである。
(5)小括
以上により、被請求人に本件商標の使用意思があるということはできず、本件商標は「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」(商標法第3条第1項柱書)に当たらない。
5 無効事由-2:公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)(ア)医療法関係
(1)医療法の規定
医療法第6条の5は、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない」と規定する。
従来、医療(歯科医業を含む。)に関しては、原則として広告が禁止され、例外的にごく限られた事項のみからなる広告だけが認められていた。平成19年の広告規制の見直しにより広告可能な範囲が広がったものの、このような基本的な考え方は引き続き堅持されており、医療法第6条の5第1項の規定により広告が可能とされた事項以外は、文書その他いかなる方法によるかを問わず、何人も広告をしてはならないとされているのである。
そして、上記の医療法の規定に基づき、厚生労働省で定めた「医療広告ガイドライン」が、医療業界における広告のルールとして用いられている。
(2)厳格な広告規制の趣旨
上記のように、歯科医業を含む医業に関する広告の規制は、業界の自主規制やいわゆる紳士協定ではなく、法令に基づくものである。また、その法令の規定は、大綱を示すのみではなく詳細にわたる具体的なものであり、規定の効力は、努力規定ではなく、罰則があり強制力を有する。
このような厳格な広告規制が設けられている理由は、(a)医療が人の生命・身体に関わるサービスであり、不当な広告により受け手側が誘引され不適当なサービスを受けた場合の被害が、他の分野に比べ著しいこと、(b)医療は極めて専門性の高いサービスであり、広告の受け手はその文言から提供される実際のサービスの質について事前に判断することが非常に困難であることによる(医療広告ガイドライン「第1」「2 基本的な考え方」)。
したがって、極めて専門性が高く、国民の生命や健康に直結する役務である医療について広告規制を設けることは、自由な競争よりも国民への正確な情報提供を優先するという国家意思に支えられたものである。
(3)広告可能な「名称」
医療広告ガイドライン「第3 広告可能な事項について」、「5 広告可能な事項の具体的な内容」、「(3)法第6条の5第1項第3号関係」には、以下の記載がある。
「ア 病院又は診療所の名称
病院又は診療所の名称は、正式な名称だけではなく、当該医療機関であることが認識可能な略称や英語名についても、可能であること。
また、当該病院又は診療所のマークや名称が記載された看板の写真についても差し支えないこと。」
ここでは、「正式な名称」、「当該医療機関であることが認識可能な略称」、「当該医療機関であることが認識可能な英語名」が広告できるとされている。
したがって、診療所名称を「九段下スター歯科医院」(甲1)とする被請求人が、「九段下スター歯科医院」の表示のすぐそばに「スター歯科」と表記すること(甲2の写真2・4)は、「当該医療機関であることが認識可能な略称」にあたり認められることになる。また、診療所に通じる扉に歯を思わせるロゴマークを表示すること(甲2の写真4)も、「診療所のマーク」として認められることになる。
しかしながら、診療所名称を「九段下スター歯科医院」とする被請求人において、自己を「スターデンタル」と表示することは、以下のとおり、許されない。
ア 「デンタル」は、「英語」ではない(片仮名表記が日本語であることはいうまでもない。)。
医療広告ガイドラインが、「当該医療機関であることが認識可能な英語名」をも広告できるものとしたのは、日本語の読みを苦手とする外国人に配慮するものと理解されるから、ここにいう「英語」というのは「英語による表記」を意味することは当然であり、「英訳語の片仮名表記」を含む合理的な理由はない。
イ 「スターデンタル」が、「当該医療機関であることが認識可能」とはいえない。
被請求人診療所の正式名称である「九段下スター歯科医院」と「スターデンタル」とでは、「スター」の3文字が共通するだけであり、「スターデンタル」との表記に接した需要者がこれを「九段下スター歯科医院」であると認識することは不可能である。
また、「スターデンタル」を名称の一部とする歯科診療所は、インターネットで検索するだけで、被請求人診療所以外に全国に5か所ある(甲31の1?5)。したがって、「スターデンタル」だけからなる本件商標の使用は、ガイドラインに照らして許されない。
ウ 「○○歯科医院」と「○○デンタルクリニック」は、別の固有名詞である。
東京都千代田区麹町1-3には「千代田歯科医院」があり、千代田区内神田3-21-6には「千代田歯科クリニック」がある。また、千代田区鍛冶町2-2-9第2登栄ビル3階には「神田歯科医院」があり、千代田区神田須田町2-6-1坂下ビル4階には「神田デンタルクリニック」があり、さらに千代田区内神田2-6-14高橋ビル3階には「神田デンタルオフィス」がある。
歯科診療所を開設するときには、事前に保健所に相談し、診療所名称についても保健所の指導を受けることは、すでに述べたとおりである。そして、各保健所では、自己の管轄内に同じ固有名詞の診療所が複数あると需要者にとって紛らわしいことから、それを変更するように指導している。上記に名前を挙げた歯科診療所は、いずれも東京都千代田区に所在し、千代田保健所の管轄であるところ、千代田保健所においては、「歯科医院」と「歯科クリニック」、「歯科医院」と「デンタルクリニック」と「デンタルオフィス」は、それぞれ別個の固有名詞を構成するものであるとしているのである。
このような実務の取り扱いからいっても、「九段下スター歯科医院」が自己を「スターデンタル」と表示することは、「診療所名称」の表記ということはできず、医療広告ガイドラインと医療法に反する。
(4)千代田保健所の見解
千代田保健所からは、「『○○歯科医院』との名称で医療法に基づく届出を行った歯科医院が『○○デンタルクリニック』を使用することはできない。」との見解を明示的に得ている(甲23)。
したがって、被請求人診療所の所在地において、届出の名称が「○○歯科医院」である場合に、自己を「○○デンタルクリニック」と表記することは許されていないのである。
したがってまた、「○○デンタル」と表記することも、許されていない。
被請求人が、本件商標を、自己を表示するものとして広告等に使用することは、許されない。
(5)答弁に対する弁駁
被請求人は、自らの監督機関である千代田保健所の見解(甲23)があるにも関わらず、自己に都合の良いように曲解している。その後、千代田保健所の担当者に面会して、直接、その見解を聴取した。その結果が、甲第32号証の1及び2のとおりであり、「歯科医院」と届け出ている診療所が「デンタルクリニック」と称することは、広告規制違反である。
なお、担当者は、被請求人が、診療所名称を変更した後も、看板を「スター歯科」のまま維持していることについて、指導をしたところ、「裁判継続中であるから変更できない。」と意味不明の弁解をされ、ひとまず引き下がったとのことである。
そして、被請求人の診療所は、現在も「スター歯科」の看板を掲げているが、そのことは、被請求人が「スター歯科」として獲得した顧客の信用を失うことができないことを意味している。被請求人は、自己の役務は1つであるのに、「スター歯科医院」と「スターデンタルクリニック」の2つの名称(保健所の指導前は「千代田インプラントセンター」を含む3つの名称)に化体した信用をすべて独占しようとするものであるが、歯科治療が医療法等の規制にもとづく公益的な役務であることに鑑みるとき、このようなことが認められるものではない。
また、医療法は行政法規であり、これに違反すれば公序良俗違反と評価されること当然である。医療法に違反しても商標法では認められるというような弛緩した解釈を採用することは、医療行政に対する挑戦でもあり、商標を武器に取れば、医療法の潜脱を可能にするごとを認めるものである。
(6)小括
以上のとおり、被請求人が、本件商標を、自己を表示するものとして広告等に使用することは、医療広告ガイドラインに抵触し、医療法第6条の5に違反するものであって許されない。
そして、前述のとおり、医療法における広告規制は、極めて専門性が高く、国民の生命や健康に直結する役務である医療については、自由な広告を認めるよりも、国民への正確な情報提供を優先するという国家意思に支えられたものなのであって、公序を形成する。
したがって、商標権者たる被請求人が本件商標を使用することは必ず重大な法律違反を招来するものであるから、本件商標は、公序良俗に違反するものとして商標法第4条第1項第7号に該当する。
6 無効事由-2:公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)(イ)競争秩序違反
(1)被請求人の出願の目的・動機について(a):出願時期
被請求人は、平成18年頃に「九段下スター歯科医院」を開業してから5年もの間、「スターデンタル」を商標登録出願することはなかった。
ところが、被請求人と顧客が競合する地域において、「赤坂スターデンタルクリニック」が平成23年7月上旬に開業するやいなや、同年8月31日に、被請求人は商標登録出願を行い、さらに、早期審査の申請まで行った。
現在、「スターデンタル」を含む名称の歯科診療所は数多く存在しており、インターネットで検索するだけで5件は該当する(甲31の1?5)。したがって、被請求人の出願の動機が、侵害訴訟における被請求人の主張のようにフリーライドの防止にあるのならば、より早い段階で商標登録出願を行っていたはずである。
しかるに、本件商標に係る出願の時期が、被請求人と顧客の競合する歯科診療所の開業直後である点は、不自然であって、偶然の時期の一致と評価することはできない。むしろ、被請求人の行為は、「自己の使用を予定しない商標をもっぱら競争者の妨害のために用いた」「ライバル費用引上げ戦略」(川濱昇「私的独占の規制について」後藤晃=鈴村興太郎編・日本の競争対策226頁)であったと評価するのが自然である。
(2)被請求人の出願の目的・動機について(b):医療法との関係
医療法によって、歯科診療所が登録された名称以外で広告を行うことは禁止されている。そうすると、被請求人が、登録された「九段下スター歯科医院」ではなく、広告として使用できないはずの「スターデンタル」の商標を登録出願することは、極めて異例といってよい。
このことからも、被請求人の商標登録出願の目的・動機は、赤坂スターデンタルクリニックの営業を不当に妨害することにあったといえる。
(3)被請求人の出願の目的・動機について(c):金銭請求
被請求人は、赤坂スターデンタルクリニックに対して、本件商標に登録査定が出るや否や、登録公報発行前でIPDLでの検索もできない時期に、警告書で賠償金を請求している(甲17)。最初の警告書において、金額の根拠も示さず、100万円もの金銭の支払を請求する行為は、極めて特異であり、被請求者に対する嫌がらせ・営業妨害行為というほかない。
なお、このような不当な請求がなされたことについては、前出の侵害訴訟において、第一審の冒頭から問題となっているが、原告たる被請求人は、第一審口頭弁論終結に至るまでその算定根拠を明らかにせず、このような請求を行った理由について、「開業したてで相談する法律家が周りにいるかどうか不明な相手に対して、警告書を真剣にとらえてもらうため、金銭の請求を記載したまでである。」と明示的に弁明を行い、請求額には根拠がないことを自認している。
(4)被請求人の商標使用の意思
被請求人に本件商標の使用意思があると認められないことは、すでに述べたとおりである(前述のとおり、被請求人診療所のウェブサイト上での表示は、本件商標の使用意思を基礎付ける証拠とはならない。)。
(5)被請求人の商標登録による営業活動の阻害
「赤坂スターデンタルクリニック」がその名称を使用できないこととなれば、「赤坂スターデンタルクリニック」として同診療所及びその開設者が取得してきた、地位・評価や顧客の信用を失うこととなる。顧客の信用が何よりも重要である歯科診療所の営業活動において、これにより被る損害は計り知れない。
加えて、同診療所は「赤坂スターデンタルクリニック」の名称であらゆる看板や印刷物等の作成を行い、宣伝活動等を行っている。「赤坂スターデンタルクリニック」の使用ができなくなれば、これまでに費やした費用は無意味となり、新たな看板や印刷物等を作成しなければならなくなるため、多大な金銭的損害が発生する。
以上により、「赤坂スターデンタルクリニック」がその名称の使用を止められることにより、その営業活動は大きく阻害され、甚大な不利益を被る。
(6)答弁に対する弁駁
被請求人の主張は、正当な出願だから正当だ、という域を出るものではない。被請求人が「赤坂スターデンタルクリニック」の開業を知ってから、はじめて出願し、権利行使を行ったことに争いはない。そして、それを正当と評価するということは、商標を武器に取れば、同業者への競争妨害を正当化することを認めるものにほかならない。
(7)小括
以上のとおり、被請求人の商標登録出願の目的・動機、商標使用の意思、権利行使の態様とこれにより「赤坂スターデンタルクリニック」が被る営業活動阻害の程度を総合すると、被請求人の出願は「第三者の営業行為を不当に制限するような出願」にほかならず、「商標法の趣旨・目的からみて登録することが社会的妥当性を欠く」ものとして、商標法第4条第1項第7号に該当する。
7 無効事由-2:公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)(ウ)不正目的
後記8で述べるとおり、本件商標は、「不正の目的」で使用するものであり、商標法第4条第1項第19号に該当する。
ところで、同条項号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」であることを要件としている。すなわち、本件でいえば「赤坂スターデンタルクリニック」が周知性を獲得していなければならない。請求人としては、次項で述べるとおり、「赤坂スターデンタルクリニック」に周知性はあると主張するものであるが、これが認められない可能性は絶無とはいえない。
また、同条項号は、上記商標と「同一又は類似の商標」であることを要件としている。すなわち、本件でいえば、「赤坂スターデンタルクリニック」と本件商標が類似と認められなければならない。請求人としては、類似ではないと思料するものであり、その場合には、同条項号の該当性は認められない。
そうすると、本件商標の登録出願当時「赤坂スターデンタルクリニック」に周知性が認められず、または、「赤坂スターデンタルクリニック」と本件商標の類似性が認められない場合には、文言上、商標法第4条第1項第19号には該当しないこととなる。
しかしながら、次項で述べるとおり、本件商標の登録出願と行使における「不正の目的」の悪性は高く、このことは、それだけで公序良俗に反するものと十分に評価できるのである。
したがって、請求人としては、公序良俗違反と認めるべき第3の理由として、このような悪性の高い「不正の目的」に出ているものであることを主張する。
8 無効事由-3:不正の目的(商標法第4条第1項第19号)
(1)序論
「赤坂スターデンタルクリニック」との診療所名称は、本件商標の出願日において「需要者の間に広く認識されて」いたものであって、被請求人には本件商標の登録出願・行使に「不正の目的」がある。また、前述のとおり、被請求人は、本件商標と「赤坂スターデンタルクリニック」が類似であることを前提として権利行使を行ってきており、これが類似と認められる可能性がないわけではない。
(2)「赤坂スターデンタルクリニック」の周知性
ア 開業準備の時期と状況
前記2(1)において述べたとおりである。
イ 周知地域
商標法第4条第1項第19号は、「日本国内又は外国における需要者の間」における周知性を要件とする。しかし、「日本国内」が全国くまなく、という意味でないことは、「外国」が地球上すべての国で、という意味でないことと同様であり、当然である。そして、条文上「日本国内又は外国における」の文言が「需要者」にかかることを考えれば、商品や役務の性質、取引の実情に合わせた地域範囲での周知が問題になるというべきである。
歯科診療所の周知性を判断するにあたり着目すべきは、前述の医療機関における広告規制の存在であり、このために、広告として行うことができる活動は限られている。さらにいえば、医療機関の中でも、歯科診療所の場合、広告活動の選択肢はより少ない。すなわち、歯科診療所がテレビCM等の大規模な広告活動を行っている例は見当たらない。同じ医療機関でも、これが頻繁にみられる美容整形医院等との違いである。これは、歯科診療所は一人又は若干名の歯科医師によって小規模経営されており、美容整形医院のように全国展開しているものはないから、大規模な宣伝活動が無用であるとともに、費用の点で見合わないことを理由とする。
一般に歯科診療所は、性質上、治療に回数を要し、また、何か不具合が生じた場合にすぐに診察にかかることを可能とするため、顧客は、その自宅・職場等の近隣の歯科診療所にかかる傾向にある。したがって、歯科診療所の顧客となるのは、主としてその地域住民及び通勤地をそこにもつ者に限られるといえる。そうすると、周知地域はごく狭い範囲に限定されるべきであって、日本国内全域や、同一都道府県下すべてをその対象とするのは相当でない。当該歯科診療所の近隣地域のみを対象とすべきである。
一般に、歯科診療所を含む診療所は、診療所を中心として半径500mから1kmの円の内側を「診療圏」と定義し、その範囲での需要者に対して広告宣伝をする。ところが、東京都心部では、昼夜の人口も密集しており、診療所の数も多いことから、診療所から半径300m?500m(徒歩0分から4分弱まで?6分強まで)を診療圏とすることが一般的である(甲26の1・2)。そして、診療所の広告宣伝もこの範囲で行われる。したがって、周知性を検討する際の地域もこの範囲に限定すべきである。
なお、インターネットを通じた広告宣伝については、世界中のどこからでもアクセス可能ではある。しかしながら、実際に歯科診療所を探す需要者は、世界中どこの歯科診療所でも良いわけではなく、実際に通える地理的範囲で探すはずであり、検索の際も、検索ワードに地名を入れるなどすることは容易に理解できる。したがって、広告宣伝がインターネットを通じても行われているとしても、実際の周知性判断にあたっては、上記の診療圏をその地理的範囲として設定すべきである。
ウ チラシ配布と内覧会
「赤坂スターデンタルクリニック」では、歯科診療所の開業にあたり、27,000枚にも及ぶチラシを配り(甲24)、3日間に及ぶ内覧会を実施するなど(甲25)、非常に大規模な宣伝活動を行っている。
合計27,000枚のチラシのうち、平成23年6月14日に700枚、15日に2か所で計800枚を配布し、同年6月24日?27日には、近隣各世帯へのポスティングを行った。また、内覧会前日の同年6月27日の朝刊には、朝日新聞に6,000枚、読売新聞に5,000枚、日経新聞に6,000枚の計17,000枚を折り込み配布した。
このチラシ(甲25)を見れば、6月28日から3日間にわたる内覧会実施の事実のみならず、診療所の名称やロゴ、7月6日に開業すること及びその場所、6月28日から予約を受け付けること、審美歯科を診療の中心に据えていること等が、誰の目から見ても明らかである。
診療所は東京都港区赤坂に所在するが、平成25年9月1日現在の同区赤坂、元赤坂、北青山、南青山を管轄とする港区赤坂地区総合支所における管内の世帯数は17,885世帯、人口は35,073人である。そして、この世帯数や人口数については、平成23年6月当時と大きな変動はない。したがって、27,000枚のチラシが、仮にこの管内全体に等しく配布されたとすれば、1世帯あたり2枚以上となり、人口で見ても、ゼロ歳児から老人まで含めた人口の実に77%が手にしたことになる。
また、赤坂地区総合支所管内の面積は4.006平方キロメートルであるところ、診療圏を半径300メートル(面積0.2826平方キロメートル)とすればその14分の1、診療圏を半径500メートル(面積0.785平方キロメートル)とすればその5分の1に、それぞれあたることになる。したがって、チラシの配布地域を半径500メートルとして赤坂地区総合支所管内の5分の1(3,577世帯、7,014人)に配布したものと見れば、1世帯あたり7.5枚余り、1人あたり3.85枚にもなる。もっとも、チラシ配布は住宅のみならず企業や店舗に対してもなされており、また、診療圏外から診療圏内に勤務して来る人々に対しても手渡されていることから、厳密には、各世帯や住民に渡った枚数は、これほど大量になるわけではない。
しかし、配布地域の世帯数や人口に鑑みて、過剰なまでの枚数のチラシを配布したことは事実であり、診療圏に住み又は勤める人の全員が、新聞折り込み、ホスティング、手渡し等の何らかの方法で、このチラシに接したものとみて良い。そして、この診療所のチラシが、イメージカラーであるオレンジを基調とした目を惹くものであること(甲25)を併せ考えれば、このような大規模な宣伝活動は、周知性を獲得する上で非常に効果的であったといえる。
なお、このような広告宣伝により、「赤坂スターデンタルクリニック」の開業の事実が被請求人の知るところになったことは想像に難くない。
このようなチラシ配布の結果、チラシに記載された平成23年6月28日から30日までの3日間の内覧会においては、関係者を除いて約100名の来場者を得た。このような内覧会は、近時、新設の診療所や歯科診療所ではしばしば開催されるようになって来たが、通常は1日か長くても2日間であり、3日間にもわたる例は多くない。また、100名という来場者数についても、その地域において新しく開業する歯科診療所としては、非常に多いものである(甲26の1)。
エ インターネットを通じたウェブサイトへのアクセス
赤坂スターデンタルクリニックは、平成23年3月26日頃には「star-dental、net」のドメインを取得し、その頃までにホームページの体裁もほぼ整え(甲10)、同年4月頃から、インターネットでの宣伝を開始した。また、いわゆるSEOサービスを通じて、ホームページが早い段階から検索システムで上位に来るべく尽力した。
赤坂スターデンタルクリニックのウェブサイト(甲18)には、診療所名称や所在地の情報等のほか、診療技術が卓越していること、診療所内に歯科技工士が常駐しており、質の高い歯科治療を短時間に終わらせることができること等の特徴を打ち出している。そして、所在地付近で審美歯科を探す需要者は、検索サイト等を通じて、容易にこのウェブサイトに接することができた。
開業後、アクセス数の計測を開始した平成23年7月25日から8月31日までの38日間のウェブサイトへのアクセス数は1,891件であり(甲27)、7月25日以降、多い日で125アクセス、最も少ない日でも12アクセスを有する(甲27)。なお、前述のとおり、「赤坂スターデンタルクリニック」のウェブサイトの掲載は、遅くとも6月上旬には始まっており、6月14日以降、上記チラシ(甲25)の配布が始まって以降はアクセスが集中したものと思われるが、上記アクセス数は、それから日が経ってからの7月25日から計測されているため、その計測値は、開業直後のいわゆるご祝儀相場ではない。そして、この期間の1日あたりの平均アクセス件数は、49.76件である。また、上記期間におけるユニークユーザー数は840である(甲28)。
この数字は、上記侵害訴訟において、原告たる被請求人が、自らの周知性を立証趣旨として提出した書証(甲29)におけるアクセス数が、平成23年3月1日から8月31日までの6か月間で1,162件(同)、1日平均6.315件であったことと比較すれば、7.8倍というものである。しかも、当該訴訟において、原告たる被請求人は自らSEO対策に費用をかけたことを自認しており、これと併せて考えても、同じ東京都心部の審美歯科としては、非常に多いアクセス数である。
なお、被請求人は、自らSEO対策を行うなど、インターネットでの宣伝広告に力を入れているから、インターネットを頻繁に閲覧して同業者の動向を注視しているものと思われ、したがって、「赤坂スターデンタルクリニック」のウェブサイト開設後、ほどなくしてその存在を知るに至ったことが容易に推認できる。
オ 開業期間と周知性の関係
歯科診療所のような医療機関の場合、開業期間が長いからといって、周知性があるとは限らない。診療所経営についての書籍においても、この点につき、以下のような記載がある。
「長年地域で開業している伝統ある医療機関であればあるほど、院長先生やスタッフは勘違いをしてしまいます。実際には、医療機関の存在(名前や専門性)は、案外、地域で知られていないのです。その理由は、そもそも一般の人にとって、病気や怪我で医療機関にかかるということ自体が、できれば避けて通りたい、関わりたくないものだからです。また、ほぼ毎日関わりを持っている食料品や衣服などとは違い、医療ニーズはその発生が限られていることも理由の1つです。1日に医療期間を利用する人は、全人口の4?5%というデータがあります。それ以外の大多数の人は、地域の医療機関の存在を意識することはほとんどないでしょう。」「ある日ある瞬間までは『医療機関にかかる』というニーズが出現していないため、普段から意識して知ろうとしていないからです。」(小松大介「診療所経営の教科書」日本医事新報社106頁以下)
この記述からも明らかであるように、医療機関においては、その性質上、診療所の開業期間の長さと周知性に直接の関連性は無いのである。
したがって、開業期間が短いからといって、周知性がないということにはならない。開業期間が短い医療機関であっても、適切かつ効果的な方法で集客対策を行えば、周知性は認められるのである。
カ 以上により、被請求人が本件商標の登録出願をした当時、「赤坂スターデンタルクリニック」との診療所名称からなる文字標章は、「他人の」「役務を表示するもの」として、「日本国内」「における需要者の間に広く認識されて」いたのであり、そのことはまた、現在も同様である。
(3)「不正の目的」があること
ア 序論
商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」とは、条文上、「不正に利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他不正の目的」をいうとされている。
本件では、以下のとおり、被請求人に「不正に利益を得る目的」も「他人に損害を加える目的」もある。
イ 「不正に利益を得る目的」
被請求人は、代理人弁護士を介して、本件商標の登録が公報等で確認されるよりも前の平成24年3月1日付けで、審判請求人に対し、即時の医院名の使用の差止めと金100万円の支払を求めた(甲17)。
そもそも、(資格を有する弁護士が代理人として受任している事案において)最初の警告書の段階から確定金額の支払いを求めることは異例であるが、何よりも、その請求の趣旨が明確でないことは異例である。すなわち、被請求人の代理人弁護士は、「貴院の行為によって通知人が被った有形無形の損害は100万円を下ることはありませんので、」というのみで(a)その「損害」とは具体的に何か、(b)それがなぜ100万円と算定されるのかの根拠を示さず、また、(c)それが損害額の一部支払いを求めたものか、あるいは、紛争を全部解決するための解決金の提示であるのかも不明確で、(d)一部支払いである場合には、それに応じたら残部の請求があるのか否かもわからない、という、根拠も趣旨も示さない、まことに不穏当なものであった。
これについて、被請求人は、別に係属している訴訟(平成24年(ワ)第25470号・商標使用差止請求事件)の訴状(甲22の1・6頁3段落目)において、「開業したてで相談する法律家が周りにいるかどうか不明な相手に対して、警告書を真剣にとらえてもらうため、金銭の請求を記載したまでである。」と釈明する。これに対して、被告が答弁書で、それは「いかなる意味か。損害賠償請求のための要件事実を充たしているか否かは関係なく、『真剣にとらえてもらうため』に『金銭の請求をしたまで』というのは、法の論理を超えている。」として、訴状の記載について説明を求めたが、被請求人がその後の準備書面において説明することはなかった。被請求人は、相手方のことを「開業したてで相談する法律家が周りにいるかどうか不明な相手」とし、法律家に相談しないことを念頭に置いているかのごとき表現をしているが、相手が法律家に相談しない可能性があるのであれば、なおさら、丁寧かつ正確な表現が求められるはずである。このような金銭要求は、請求相手に相談相手がいないときにはその無知に乗じて金銭を得ようとするものであり、多大な問題をはらんでいる。
また、その100万円の支払期日及び回答の期限は発送から8日後の同月9日に設定された(甲17)。しかし、その時点では、特許電子図書館で検索しても本件商標の登録は確認できなかった(甲18・3頁)。そのような時期に、わずか8日間の考慮期間しか与えないということは、相手方に請求の当否を実質的に検討させないこと、特に、弁護士や弁理士等の専門家に実質的な相談をさせないことを意図したものといわざるを得ず、この点を取ってみても、相手の無知に乗じて金銭を得ようとしたことが容易に推認できる。
その後、上記訴訟の提起にあたり、この金銭の請求は取り下げられた。結局、被請求人は、訴訟になればその損害を立証するだけの材料を持たないことを自認しつつ、闇雲に(いわく「真剣にとらえてもらうため」に)多額の金銭の請求を行ってきたものと解さざるを得ないのである。
このような請求を、振込先口座まで明示して行うことは、それ自体、恐喝罪ないし詐欺罪の実行行為にあたり、被請求人にはすでに恐喝未遂罪(刑法第249条第1項第250条)ないし詐欺未遂罪(刑法第246条第1項第250条)が成立している。
以上から、被請求人は、本件商標の登録が特許電子図書館で確認可能となるよりも前に、法的にも倫理上も問題のある金銭請求を行ってきたものであり、その時点で「不正に利益を得る目的」があったことは明白である。
ウ 「他人に損害を加える目的」
被請求人は、上記の電子内容証明郵便(甲17)において、「赤坂スターデンタルクリニック」の診療所名称について、即時の使用差止めを請求してきた。
しかしながら、それに応じれば、相手方に多大な損害を与えることは明らかである。
すなわち、前述のとおり、「赤坂スターデンタルクリニック」は、平成22年秋頃から開業の準備を始め、クリニックの名称やロゴの選定を平成23年1月から行った(甲5?甲10)。そして、本格的な開業に先立つ平成23年6月初旬以降、インターネット上のウェブサイトによる宣伝(甲11)、リーフレット(甲12)などの各種宣伝媒体による宣伝や、クリニックが入るビル周辺の広告看板の設置(甲14)による宣伝を開始した。診療所名称の変更は、これらに費やした費用を上回る費用を新たにかけさせるものであって、名称変更に伴う信用の毀損の可能性も併せれば、赤坂スターデンタルクリニックが被る損害は甚大である。
なお、赤坂スターデンタルクリニックと被請求人は、いずれも東京都内の都心部で開業する審美歯科であることから競業関係にあり、被請求人が赤坂スターデンタルクリニックに損害を与えようとする動機は十分である。
エ その他「不正の目的」を推認させる事実
(ア)出願の時期
被請求人が、「九段下スター歯科医院」、もしくは被請求人によれば「スターデンタルクリニック」を経営し始めたのは、平成18年頃とのことである。
既に述べたように、現在、「スターデンタル」を含む名称の歯科診療所が数多く存在する状況において、被請求人は開業してから5年もの間、「スターデンタル」を商標登録出願してこなかった。
一方、前述のとおり、「赤坂スターデンタルクリニック」は、平成23年7月にクリニックを本格的に開業し、需要者に認識されるようになった。その頃である同年8月31日、被請求人は、突然、登録出願を行い、さらに、早期審査の申請まで行っているのである。
(イ)出願の内容
被請求人は医療法人であり、その名称は「医療社団法人スタデン」である。また、被請求人が登録した診療所名称は「医療法人社団スタデン 九段下スター歯科医院」である(甲1)。対外的な取引は、「九段下スター歯科医院」として(甲30の1・2)、または「医療法人社団スタデン」として(甲30の3)、行っている。歯科医院の所在する部屋のベランダに大きくなされた表示は、「九段下スター歯科医院」である(甲2写真(1))。
ところが、被請求人の本件商標登録出願は、前述のとおり、明朝体様のカタカナで「スターデンタル」と一段横書きで表記した、文字商標である。
そして、(a)「医療法人社団スタデン」を含む標章、(b)「九段下スター歯科医院」を含む標章、(c)「スター歯科医院」を含む標章等の、被請求人の役務を表象し、商標登録に相応しいと思料される各標章については、被請求人は、一切出願を行っていない。
これらを出願せず、ウェブサイトのSEO対策以外には使用実績のない「九段下スターデンタルクリニック」のうち、「九段下」をあえて捨象した本件商標のみを出願したことは、被請求人が、「赤坂スターデンタルクリニック」の開業を知り、そこから不正の利益を得、損害を与える目的で出願したことを推認させる。
(ウ)早期の不当な権利行使
前述のとおり、被請求人は、設定登録が確認されるようになる以前の、平成24年3月1日付けで、商標登録番号も示さず、上記の不当な権利行使を行った。このこと自体、出願が「不正の目的」に出たことを裏付ける。
オ 以上のとおり、被請求人は、競業者である「赤坂スターデンタルクリニック」の開業を知り、「不正の目的」で、自らが使用してきた各標章とは異なる本件商標を出願し、行使してきたものである。
(4)結論
以上により、「赤坂スターデンタルクリニック」と本件商標が「類似」と判断される場合には、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
9 まとめ
以上のとおり、本件商標には、複数の無効事由がある。そして、被請求人は、このような無効事由を内在する本件商標権をもって、現に権利行使を行っている。このような商標権が権利の外観を有することは、公共の利益に著しく反し、商標制度の目的(商標法第1条)に反する。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
1 はじめに
請求人は、種々の理由を述べて本件商標の無効を主張するが、それぞれ独自の見解に基づくものであって理由がない。請求人・被請求人間に係属していた侵害訴訟において、請求人が無効の抗弁を主張していたが、請求人主張の抗弁をすべて退け、認容判決が出ていることからも明らかである(乙1)。
2 無効事由-1:被請求人の使用意思の欠如(商標法第3条第1項柱書き)への反論
請求人は、被請求人に本件商標の使用意思があるということはできないと主張するが、使用の事実ではなく、使用の意思が認められさえすればよいところ、本件商標を使用する意思がないということはできないのは、侵害訴訟の判決の判示するところである。
被請求人の使用意思を推認する事実とそれを証する証拠は、以下のとおりである。
(1)医療法人であること
そもそも、被請求人は、本件商標の指定役務を行う医療法人社団であって(乙2)、いわゆる商標ブローカーではない。診療所名を変更することも、新たに診療所を開設することも可能な法人なのである。
(2)九段下「スターデンタル」クリニックという名称を使用していたこと
被請求人は、診療券、ホームページ、取材に応じる際の名称にも表示しているとおり、本件商標出願以前から、「九段下スターデンタルクリニック」という名称を使用していた(乙3?乙6)。
また、「九段下スターデンタルクリニック」という名称は、本件商標「スターデンタル」に、地名の「九段下」という文言と普通名称の「クリニック」という文言を足したものであるから、自己の呼称として本件商標を使用する意思があったことは明らかである。「スターデンタル」に「九段下」を付加していたのは、今後のチェーン化を見越して地名を冠していたにすぎない。
(3)法人名が「スタデン」であること
被請求人は、法人名に本件商標の省略形である「スタデン」を使用している(甲1,甲20の3,乙2?乙6)ことからも「スターデンタル」という名称を使用する意思がみてとれる。
(4)現在の診療所名が「スターデンタル」クリニックであること
被請求人は、現在は、診療所名を「スターデンタルクリニック」としており(乙2)、今般、看板も変更予定である。
なお、請求人は、出願当時の診療所名が「九段下スター歯科医院」であったことを重ねて主張するが、「九段下スター歯科医院」という名称と「スターデンタル」という名称の類似性からすれば、使用意思の存在を推認する根拠にこそなれ、否定する根拠にはなりえない。
3 無効事由-2:公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)(ア)医療法関係への反論
請求人は、「九段下スター歯科医院」という診療所を開設する被請求人が本件商標「スターデンタル」をその指定役務に使用することは、医療法第6条の5所定の広告規制に違反し、許されないから、被請求人がその商標登録を受けることは公序良俗に反する旨主張するが、侵害訴訟の判決でも否定されている(乙1の23頁?24頁)。
以下のとおりである。
(1)広告規制について
医療広告ガイドラインによれば、当該病院等が自ら開設したホームページは、院内掲示や院内で配布するパンフレット等と同様に、情報提供ないし広報として扱い、原則として広告とはみなさない(医療広告ガイドライン第2の6(7))、広告が可能とされた上記「診療所の名称」には、正式な名称だけでなく、当該医療機関であることが認識可能な略称や英語名も含まれる(同ガイドライン第3の5(3))とされている。
そして、このガイドラインの解釈について、ガイドラインを作成した厚生労働省は、「○○歯科医院を○○デンタルクリニックとカタカナ表記することも可能」「名称の冒頭に地名や駅名をつけること」も「一般的には当該医療機関であることが認識可能であれば、問題はない」との見解を示した(乙9)。
(2)被請求人が本件商標を使用することが適法であること
本件における被請求人は「医療法人社団スタデン 九段下スター歯科医院」との名称で歯科診療所を開設していたものであるが、「九段下スターデンタル」、「スターデンタルクリニック」といった名称は、被請求人の診療所の略称ないし英語名であると認識することが可能である。加えて、被請求人は、現在、診療所名を「スターデンタル」クリニックという。
なお、請求人に通知書を送付した直後、千代田保健所から「密告があったので調査したい」という連絡があったが、その際、看板のインプラントセンター表記を止めるという指導のみを受け(その点は改善済み)、他は指導されなかった。そして、その後、現在の診療所名「スターデンタル」クリニックに変更すべく千代田保健所に相談した際も、問題なく認められた。
したがって、被請求人が自らのウェブサイトや看板等に本件商標を使用することは医療法違反に当たらない。
(3)公序良俗に当たる余地がないこと
以上のとおり、被請求人の行為になんらの違法性もないのであって、公序良俗に当たらないことはいうまでもない。
この点、請求人も、自らの審判請求書第7頁で「診療所名称に関する事前指導の具体的内容は、保健所により異なり得るが、同じ保健所管内の既存の診療所と同じ名称で、新たな診療所を開設することは認めない取り扱いが多い。」としている。このように、各保健所によって解釈が分かれることからも、公序良俗違反とは程遠いことが裏付けられる。
そのため、侵害訴訟の判決においても、「仮にその違反に当たる場合があるとしても、違法性の程度はさほど高いものではないと解されるから、医療法上の広告規制を根拠に、本件商標が公序良俗を害するおそれがある商標に当たるとみることはできない」と判示されている(乙1の24頁)。
4 無効事由-2:公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)(イ)競争秩序違反への反論
請求人は、被請求人の本件出願は、赤坂スターデンタルクリニックの営業行為を不当に制限するような出願であると主張するが、上記のとおり、主張自体失当であるし、営業行為を不当に制限する出願でもない。ましていわんや、公序良俗違反に該当する余地はない。
請求人は、被請求人の商標登録出願の目的・動機が、請求人の営業を不当に妨害することにあったと主張しているが、出願の正当性については、侵害訴訟の判決が「本件商標の商標登録出願及び本件商標権の行使が不正の目的によるものであるとも、請求人の営業を不当に制限するものであるともいえないから、この点に関する請求人の主張も失当というべきである」(乙1の25頁,原文は「請求人」が「被告」)と判示している。
そもそも、被請求人は平成18年当時から無痛治療の第一者として著名であり、医療ジャーナリストとして名のある長田昭二氏から取材を申し込まれ、夕刊フジに掲載されたほどである(乙4)。記事に記載されているとおり、田中氏は、地域の歯科医の講習を依頼される立場にもあった。
かかる地位をすでに確立している被請求人が、開業したてで、利用者からいかなる評判を獲得するかもしれない赤坂スターデンタルクリニックを相手にその営業を妨害しようなどの意思はない。赤坂スターデンタルクリニックに対する悪評が生じた場合、被請求人のチェーンではないか等、関係性を払しょくする必要が生じるだけであって、名称が紛らわしいものでなければ、請求人が営業することになんら利害関係をもたない。第一、名称を変更させたくらいで営業ができなくなるものでもない。
(1)出願時期に関して
スターデンタルの文字列を含む名称の歯科診療所は全国に5件であるが、千葉、横浜、名古屋、佐賀、福岡(甲31の1?5)とそのいずれもが地方であり、被請求人と顧客が競合する地域ではなかったところ、赤坂スターデンタルクリニックからのフリーライド等防止のため、商標登録出願の必要性に迫られ、平成23年8月に出願を行ったのであって、被請求人のその行動は事業経営者として必要かつ合理的なものである。被請求人は、平成18年頃から本件商標を使用してきたものであるが(乙3?乙6)、被請求人程の小規模の医療法人が商標の使用開始時と同時に登録出願をすることは稀有であり、むしろ医療を行うものとしては患者の信頼を得、それを確立することが念頭にあることであろう。
本件商標登録の出願時期については一般的かつ合理的なものである。
(2)医療法との関係
本件商標は、「九段下スター歯科医院」の診療所名の略称ないし英語名であると認識することが可能である(乙1の24頁)し、現在、被請求人の診療所名は「スターデンタルクリニック」である。したがって、本件商標を使用するのに何ら障害はない。
侵害訴訟においても、被請求人が「自らのウェブサイトや看板等に本件商標を使用することが常に医療法違反を伴うとは認められないし、仮にその違反に当たる場合があるとしても、違法性の程度はさほど高いものでないと解されるから医療法上の広告規制を根拠に、本件商標が公序良俗を害するおそれがある商標に当たるとみることはできない」と判示されている(乙1号証24頁)。
(3)金銭請求
被請求人代理人が最初の警告書に標章の使用中止に金銭の請求を付加した理由については、当事者本人に警告書を真剣にとらえてもらうためということ以外のものではなく、早急に法的専門家からの対応を望んだからである。現に被請求人代理人の考えたとおり、警告書到着の翌日には、弁護士であり弁理士登録もする請求人代理人からの対応が見られた(甲18)。その回答書到着の翌日に、被請求人代理人は、法的な話し合いを行うべく、面談の申し入れを行ったものである(甲19)。ところが、請求人代理人は、「需要者の間に広く認識されている」という要件の認識不足からか先使用権の主張に固執し、面談すらも拒否されてしまった(甲20,甲21)。
ここでの請求人代理人の周知性に固執した専門家としての意地が、延々と金銭請求の根拠云々を言い続ける理由であろうか、ともかく、金銭請求を付加した最初の警告書によって、警告を真剣に捉えた当事者本人が代理人に委任したことで、当方の意図は実現できたと評価できるかもしれない。
(4)使用の意思
「九段下スター歯科医院」という表示があるからといって、本件商標の使用の意思を否定することにはならない。歯科医院の英語がデンタルクリニックであることは一般的に通用することである。
「九段下スターデンタルクリニック」と表示していることからも本件商標の使用意思が認められるといえる。さらに、今後、被請求人は、現在の診療所所在地と違う場所に診療所を出して「スターデンタル」チェーンを展開することを考えており、そのために準備中である。
(5)営業活動の阻害
侵害訴訟の判決が判示するとおり、「本件商標の商標登録出願及び本件商標権の行使が不正の目的によるものであるとも、請求人の営業を不当に制限するものとも言えない。この点に関する請求人の主張もまた失当である。」(乙1の25頁,原文は「請求人」が「被告」)。
5 無効事由-2:公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)(ウ)不正目的への反論
侵害訴訟の判決の判示のとおり、「登録主義及び先願主義を採る我が国の商標制度においては、他人による商標の使用を知りながらこれと同一又は類似の商標につき商標登録出願をしても、その登録が当然妨げられることはなく、当該他人は、自らの商標が広く認識されていない限り(商標法第32条第1項)、商標権の行使を甘受せざるを得ないのが原則である。また、他人の業務に係る商標と同一又は類似する商標についての商標登録が、他人に損害を加えるなど出願人に不正の目的があることを理由に無効とされるためにも、当該他人の商標が広く認識されていることが要件されている(同法第4条第1項第19号)。そうすると、他人の商標が広く認識されていない場合には、出願人が第三者に対する明確な加害意思を有しているような事案を除いては、公序良俗を害するおそれがあるとは言えないと解すべきである。」、そして、「本件商標の商標登録出願及び本件商標権の行使が不正の目的によるものであるとも、請求人の営業を不当に制限するものとも言えない。この点に関する請求人の主張もまた失当である。」(乙1の24頁?25頁,原文は「請求人」が「被告」)。
6 無効事由-3:「不正の目的」(商標法第4条第1項第19号)への反論
「赤坂スターデンタルクリニック」の周知性については、そもそも、開業わずか2か月弱で周知性を獲得することは、社会通念上、およそ考えられない。本件についてみても、前掲侵害訴訟の判決乙第1号証21?22頁部分が丁寧に判示しているとおり、周知性は認められない。なお、前述のとおり、当該判示部分は、商標法第4条第1項第19号周知性よりも緩やかでよいとされる商標法第32条第1項に関するものである。
不正の目的についても、請求人の標章に周知性が認めらないことは明らかであり、反論の必要はないものであるし、繰り返し述べるとおり、「本件商標の商標登録出願及び本件商標権の行使が不正の目的によるものであるとも、請求人の営業を不当に制限するものとも言えない。この点に関する請求人の主張もまた失当である。」(乙1の24頁?25頁,原文は「請求人」が「被告」)。
7 結語
以上のとおり、請求人の主張は、全て理由がない。

第4 当審の判断
1 本件商標と請求人使用標章との類否について
(1)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「スターデンタル」の片仮名を横一列に書してなるところ、これに接する需要者(指定役務である歯科医業の顧客、取引関係者等)をして、「スター」の部分は「星、著名な芸能人」等を意味する外来語(英語「star」に由来し、日本語として定着している。)であると、「デンタル」の部分は「歯の、歯科の、歯科用の」等を意味する平易な英語「dental」の片仮名表記であると認識され、これらを結合した商標とみることができるものの、その構成文字は7字と少なく、各文字は、同じ書体、同じ大きさをもって等間隔にまとまりよく表されており、これより生じる「スターデンタル」の称呼もよどみなくいい得るものであって、視覚上も聴覚上も一体の表示として看取、把握されるものである。
したがって、本件商標は、「スターデンタル」との外観を有し、その全体から「スターデンタル」の称呼を生じ、「星と歯に関連するもの」ほどの観念を想起させると認めることができる。
(2)請求人使用標章
請求人使用標章は、歯科診療所の名称である「赤坂スターデンタルクリニック」の文字からなるものであり、「赤坂」、「スター」、「デンタル」及び「クリニック」の4語を結合したものである。これらのうち「スター」及び「デンタル」の語義は上記(1)認定のとおり本件商標と同一であり、「赤坂」は請求人診療所の所在地の地名であると、「クリニック」は「診療所、医院」等を意味する平易な英語「clinic」の片仮名表記であると認められる。
請求人使用標章は、同一の大きさ、書体及び色彩の文字を等間隔で表記したものであり、全体として目に入り、一息で発声することができるから、「赤坂スターデンタルクリニック」との外観を有し、その全体から「アカサカスターデンタルクリニック」との称呼を生じ、「赤坂にあるスターデンタルという名称の診療所」ないし「赤坂にあるスターという名称の歯科医院」といった観念を想起させると認めることができる。
もっとも、請求人使用標章は、外観上は14字、称呼上は16音という比較的長い標章であるから、歯科医院の患者その他需要者の間では、簡易迅速性のためその一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものである。そのような観点からみると、請求人使用標章は、上記4語のうち3語又は2語からなる「赤坂スターデンタル」、「スターデンタルクリニック」、「赤坂スター」又は「スターデンタル」と略称されることが考えられる(なお、2語からなる「デンタルクリニック」は「歯科診療所」を意味する英語「dental clinic」の片仮名表記であり、また、「赤坂」は地名、「スター」、「デンタル」及び「クリニック」は普通名詞であって、いずれも請求人診療所を指すものと認識されるとは解し難いので、そのように略称されるとは認められない。)。そうすると、請求人使用標章からは「アカサカスターデンタル」、「スターデンタルクリニック」、「アカサカスター」、「スターデンタル」との称呼が生じ、「赤坂にある星と歯に関連するもの」、「スターという名称の歯科医院」、「赤坂にある星に関連するもの」、「星と歯に関連するもの」といった観念を想起させるということができる。
(3)本件商標と請求人使用標章との類否
以上の認定に基づいて本件商標と請求人使用標章の外観、称呼及び観念を対比すると、まず、請求人使用標章を全体としてみた場合には、外観及び称呼のうち「スターデンタル」の部分は本件商標と共通しており、本件商標と同一の「スターデンタル」という文字列の左側に「赤坂」、右側に「クリニック」という文字を同一の大きさ、色彩及び間隔の一連表記で付加したものということができる。そして、「赤坂」の部分は請求人診療所の所在地の地名であり、役務の提供場所の地名を付加するのは特異なことでないこと、「クリニック」は診療所を意味する普通名詞であることからすると、これらの部分の識別力は乏しいものというべきである。
さらに、請求人使用標章が略称される場合についてみても、略称の一つである「スターデンタル」は書体を多少異にする以外は本件商標と同一であるし、「赤坂スターデンタル」及び「スターデンタルクリニック」は本件商標と同一の文字列の左側又は右側に上記のとおり識別力の乏しい文字を付記したにとどまるものである。一方、「赤坂スター」との略称は、本件商標と外観等を異にするということができるが、請求人使用標章においては上記のとおり「赤坂スター」と「デンタルクリニック」の文字が横一列に表記されており、「赤坂スター」以外の略称も存することに照らすと、「赤坂スター」と略称され得ることを類否の判断において重視することは相当でない。
以上によれば、請求人使用標章は、外観及び称呼において本件商標を一部に含み、又は本件商標とほぼ同一のものであり、また、観念においても共通すると認められる。そして、取引の実情等に照らしてみても、本件の関係各証拠上、請求人使用標章を本件商標の指定役務に使用した場合に役務の出所につき混同を生じるおそれがないと解すべき事情は見当たらないから、本件商標と請求人使用標章とは、類似すると判断するのが相当である。
2 請求人使用標章の周知著名性について
(1)請求人及び被請求人の提出に係る証拠によれば、次の事実が認められる。
ア 請求人診療所は、インプラント治療、矯正歯科、ホワイトニング、審美歯科等を診療内容とする歯科診療所であり、平成23年7月6日に開業した。
請求人診療所が所在するビル(赤坂スターゲートプラザ)は、東京メトロの溜池山王駅から徒歩約1分の距離にある外堀通り沿いの大規模なビルであるところ、請求人診療所は、その2階にあり、保険診療のみならず自由診療による矯正、審美、インプラントなどすべての分野での高度な治療を、最新の設備と最先端の技術をもって提供するとしている(甲3,甲13,甲14)。
イ 請求人は、本件商標の登録出願日(平成23年8月31日)までの間に、次のとおりの広告宣伝活動等を行った(甲14,甲16,甲24,甲25)。
(ア)請求人診療所の開業の頃までに、(a)本件ビルの敷地内に、請求人使用標章を最上部に付しその下にオレンジ色と白色の「歯科」、「審美・矯正」及び「インプラント」の文字等を組み合わせた看板を設置し、(b)本件ビルの階段及び請求人診療所の入口前に請求人使用標章を付した看板を設置し、(c)請求人診療所の入口のガラス扉に請求人使用標章を付した。
(イ)請求人使用標章が付された内覧会のチラシを27,000枚準備し、1,500枚を平成23年6月14日及び15日に本件ビルの周辺等で配布し、4,500枚を同月24日から27日までの間に近隣の住居の郵便受けに投函し、17,000枚を同月27日に新聞の折込広告として配布した。
(ウ)平成23年6月28日から30日までの3日間にわたり、請求人診療所において内覧会を開催した。
ウ 請求人は、「www.star-dental.net」のドメイン名で請求人診療所のホームページを開設し、遅くとも平成23年7月下旬までに一般の閲覧に供した。同月25日から8月31日までの38日間のアクセス数は1,891件,ユーザー数は840人であった。平成24年3月当時の請求人診療所のホームページには、請求人使用標章が付されているが、いずれもページの幅や他の画像に比して小さなものである(甲7,甲10,甲12,甲13,甲27,甲28)。
(2)上記認定事実によれば、(a)請求人が請求人診療所を開業し、請求人使用標章に係る役務の提供を開始してから本件商標の登録出願がされるまでの期間は2か月弱にとどまること、(b)同期間中に請求人診療所を利用した顧客(患者)の数は不明であり、他の歯科診療所に比して特に多数の利用があったとはうかがわれないこと、(c)本件ビルの敷地及び建物内に設置された看板等により、本件ビルの利用者や通行人の一部には「赤坂スターデンタルクリニック」が請求人の役務を表示するものであると認識されるに至ったといえるとしても、請求人診療所の顧客となり得る者は上記利用者等に限られるものでないから、それだけでは「広く」認識されていると解し難いこと、(d)請求人診療所の開業前に多数のチラシを配布したことは認められるものの、チラシは、その性質上、目を通した後、又は目を通さずに廃棄される場合が多く、このような宣伝広告活動を開業前に単発的に行ったとしても、その効果は限定的なものにとどまると解されること、(e)請求人使用標章を付した請求人診療所のホームページを本件商標の登録出願の前に閲覧した者が840人いたことが認められるが、この人数自体が周知性を基礎付けるほど多数であるとはいい難い上、そのうち請求人診療所の顧客となり得る東京都心部に居住し、又は通勤する者が占める割合は不明であり、また、ホームページ上の請求人使用標章の表示は小さく、閲覧者がすべてこれらを認識したとは限らないことがいえる。
これらの事情を総合すると、本件商標の登録出願の際に、請求人使用標章が需要者に広く認識されるに至っていたと認めるに足りる証拠はないというほかない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標と請求人使用標章とは、前記1のとおり、類似するものである。
しかしながら、本件商標が商標法第4条第1項第19号に当たるというためには、その登録出願の時において請求人使用標章が需要者の間に広く認識されていたことを要するところ(同条第3項)、これを認めることができないことは前記2に説示したとおりである。
したがって、被請求人に不正の目的があったか否かについて判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)医療法違反
請求人は、「九段下スター歯科医院」という診療所を開設する被請求人が本件商標「スターデンタル」をその指定役務に使用することは、医療法第6条の5所定の広告規制に違反し、許されないから、被請求人がその商標登録を受けることは公序良俗に反する旨主張するものである。
そこで判断するに、医療法第6条の5は、患者等の利用者保護の観点から医療に関する広告を制限したものであり、第1項各号において広告をすることのできる事項を列挙し、その中に「診療所の名称」を掲げている(第3号)。同条による広告の規制に関しては、社会保障審議会医療部会における意見等を踏まえ、厚生労働省による指針が示されており(「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針(医療広告ガイドライン)」平成19年3月30日付け医政発第0330014号。平成20年11月4日付け医政発第0401040号により一部変更されたもの。)、これによれば、当該病院等が自ら開設したホームページは、院内掲示や院内で配布するパンフレット等と同様に、情報提供ないし広報として扱い、原則として広告とはみなさない(第2の6(7))、広告が可能とされた上記「診療所の名称」には、正式な名称だけでなく、当該医療機関であることが認識可能な略称や英語名も含まれる(第3の5(3))とされている。
これを本件についてみると、被請求人は「医療法人社団スタデン 九段下スター歯科医院」との名称で歯科診療所を開設するものであるが(甲1)、「九段下スターデンタル」、「スターデンタルクリニック」といった名称は、被請求人の診療所名の略称ないし英語名であると認識することが可能である(なお、医療広告ガイドラインの文言上も、このように解釈することは十分可能である。)。また、上記認定のとおり、当該病院等が自ら開設したホームページは、原則として広告とはみなされていない。そうすると、被請求人が自らのウェブサイトや看板等に本件商標を使用することが常に医療法違反を伴うとは認められない。仮にその違反に当たる場合があるとしても、上記認定のとおり、「九段下スターデンタル」、「スターデンタルクリニック」といった名称は、被請求人の診療所名の略称ないし英語名であると認識することが可能なものであって、需要者にその出所を誤認混同させるようなものではない。また、それは、診療所の名称のうち、提供する役務の内容について患者に誤認をさせるとは考え難い部分に関するものであり、患者の生命・身体に関わるとか、サービスの質について誤認させるような内容のものではないので、患者等の利用者の保護という広告規制の趣旨を大きく損なうものとも考え難い。加えて、本件商標の登録査定時(平成24年1月19日))、被請求人において、「スターデンタル」を含む名称への診療所の名称の変更も可能な状況であったことがうかがえ(甲1,甲20の3,乙2?8)、仮に本件商標の使用が医療法の広告規制に反するものであったとしても、その状態を解消できる状態にあったということができる(なお、被請求人は、実際に名称変更を行っている(乙2)。)。以上の事情に照らすと、違法性の程度は、本件商標の登録が商標法第4条第1項第7号に違反するというべきほどに高いものではないと解される。なお、請求人は、医療法第6条の5第3項に違反した者に6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されること(医療法第73条第1項)を指摘するが、医療法第6条の5第3項は、同条第1項各号に掲げる事項を広告する場合において、その内容が虚偽にわたってはならないことを定めるものであるところ、上記認定の事情に照らすと、被請求人が「九段下スターデンタル」や「スターデンタルクリニック」といった名称を用いることが診療所の名称についての虚偽の内容となるとは解し難く、むしろ被請求人の上記名称の使用は医療法上の処罰の対象とならないものと解される。したがって、医療法上の広告規制を根拠に、本件商標が公序良俗を害するおそれがある商標に当たるとみることはできない。
(2)不正の目的による出願等
請求人は、(a)被請求人の診療所名は「スターデンタル」でなく、被請求人自身は本件商標を使用していないこと、(b)被請求人は、診療所を開業してから約5年間、商標登録出願をしていなかったのに、請求人診療所の開業直後に本件の商標登録出願に及んだこと、(c)被請求人が、代理人弁護士を通じ、請求の根拠を明示せずに、請求人に対して診療所名の即時使用差止め及び金銭支払を請求したことを根拠に、被請求人は不正の目的により本件商標の商標登録出願をしたのであり、請求人の営業行為を不当に制限するものであるから、その商標登録は公序良俗に反する旨主張する。
そこで判断するに、登録主義及び先願主義を採る我が国の商標制度においては、他人による商標の使用を知りながらこれと同一又は類似の商標につき商標登録出願をしても、その登録が当然に妨げられることはなく、当該他人は、自らの商標が広く認識されていない限り(商標法第32条第1項)、商標権の行使を甘受せざるを得ないのが原則である。また、他人の業務に係る商標と同一又は類似する商標についての商標登録が、他人に損害を加えることなど出願人に不正の目的があることを理由に無効とされるためにも、当該他人の商標が広く認識されていることが要件とされている(同法第4条第1項第19号)。そうすると、他人の商標が広く認識されていない場合には、出願人が第三者に対する明確な加害意思を有しているような事案を除いては、公序良俗を害するおそれがあるとはいえないと解すべきである。
これを本件についてみると、関係各証拠によれば請求人の主張する上記(a)?(c)の事実関係が認められるものの、これをもって被請求人が請求人の営業を妨害する意図により本件商標の商標登録出願をしたと認めることは困難である。一方、証拠(乙3,乙5?8)によれば、被請求人が本件商標の登録査定時(平成24年1月19日)以前からその診察券に「STAR DENTAL CLINIC」の表示を付し、また、そのホームページに「九段下スターデンタルクリニック」との表示を付していたことが認められ、被請求人に本件商標を使用する意思がないとはいうことはできない。そうすると、被請求人による本件商標の商標登録出願及び本件商標権の行使が不正の目的によるものであるとも、請求人の営業を不当に制限するものであるともいえないから、この点に関する請求人の主張も失当というべきである。
(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備していたか否かについて
前記4(2)認定のとおり、被請求人が本件商標の登録査定時以前からその診察券に「STAR DENTAL CLINIC」の表示を付し、また、そのホームページに「九段下スターデンタルクリニック」との表示を付していたことが認められることに照らすと、被請求人に本件商標を使用する意思がないとはいうことはできない。
請求人は、被請求人がその診療所の外観には本件商標を使用していないことや、そのホームページでも「九段下スターデンタルクリニック」と表示しているにすぎず、「スターデンタル」を用いていないことなどから、被請求人に本件商標の使用意思がない旨主張する。
しかし、上記認定のとおり、被請求人が本件商標の登録査定時以前からその診察券に「STAR DENTAL CLINIC」の表示を付し、また、ホームページに「九段下スターデンタルクリニック」との表示を付していた以上、診療所の外観に用いていないからといって、直ちに、被請求人に本件商標につき商標法にいう使用の意思がないということはできない。また、被請求人が実際に使用していた表示が、上記のとおり、本件商標である「スターデンタル」の表示単独のものでないとしても、「九段下」は地名であり、「クリニック」は診療所という役務を示す普通名称にすぎないので、そのことのみをもって直ちに本件登録査定時に使用の意思が存在しなかったということもできない。
そして、その余の請求人が種々主張する点も、被請求人に本件商標を使用する意思がないということはできないとの上記認定を左右するものではない。
したがって、本件商標の登録査定時において、本件商標が商標法第3条第1項柱書の要件を具備していなかったとはいえない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条及び第4条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-10-30 
結審通知日 2014-11-04 
審決日 2014-12-17 
出願番号 商願2011-65629(T2011-65629) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (X44)
T 1 11・ 222- Y (X44)
T 1 11・ 22- Y (X44)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 海老名 友子 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
根岸 克弘
登録日 2012-02-24 
登録番号 商標登録第5472614号(T5472614) 
商標の称呼 スターデンタル 
代理人 塩川 泰子 
代理人 中西 雅子 
代理人 江森 史麻子 
代理人 呰 真希 
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