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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Y16
管理番号 1296239 
審判番号 取消2013-300473 
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-06-07 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第2571122号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2571122号(以下「本件商標」という。)は、「PREMIERE」の欧文字を横書きしてなり、平成元年12月1日に登録出願、第26類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同5年8月31日に設定登録、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、また、指定商品については、同18年4月19日に第16類「印刷物,書画」に指定商品の書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成25年6月27日にされている。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中、第16類「印刷物」についての登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由、答弁に対する弁駁の理由、口頭審理陳述要領書による陳述及び上申書の内容を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証(以下、「甲第○号証」の表示は、単に「甲○」と簡略表記する場合がある。)を提出している。
1 請求の理由
請求人が調査した限りにおいては、本件の指定商品中、第16類「印刷物」については、商標権者によって継続して3年以上日本国内において使用されている事実を発見することができなかった。また、商標登録原簿を見ても専用使用権及び通常使用権は設定登録されておらず、許諾を受けた通常使用権者等による使用の事実もない。更には、本件商標を使用していないことについての正当な理由も認めることができない。
2 弁駁の理由
被請求人が主張する答弁の理由及び提出された乙1のいずれからも、被請求人が、本件審判の請求の登録前3年(以下「要証期間」ということがある。)以内に本件商標を本件請求に係る指定商品(以下「本件指定商品」という。)に使用している事実を確認することはできない。
3 平成26年5月1日付け口頭審理陳述要領書による陳述
(1)被請求人の提出に係る口頭審理陳述要領書に対する反論
本件商標権の通常使用権者と称するアーシユツト フイリパツチ アソシ(Hachette Filipacchi Associes)(以下「HFA」という。)は、乙3の雑誌を「輸入」したとはいえない。
ア 乙18について
被請求人は、平成26年3月28日付け審理事項通知書に対し、被請求人の知的財産責任者と称するファビヤンヌスルタン氏の陳述書を提出している。
しかしながら、乙18は、被請求人による従来の事実に関する主張を、被請求人自身が繰り返し述べたものに過ぎず、著しく客観性を欠くものであるから、その証拠力は極めて乏しいものといわざるを得ない。これでは、両者の取引関係のみならず、その流通経路についても説明したことにはならず、依然として両者の取引関係は不明なままである。
イ 乙19について
被請求人は、「外国法人が商標権者である事案に関し、転々流通する商品についての商標の使用を判断した裁判例」として乙19を挙げている。
しかしながら、本裁判例と本件取消審判とは事案が異なるため、本裁判例の考え方は本事案においては必ずしも妥当しない。
すなわち、本裁判例における事案は、商標権者から我が国における販売代理店への荷送が、貿易関連書類等の提出により主張立証されており、対象商品が商標権者の意思にしたがって流通している事実が明らかにされているものである。
ウ 口頭審理陳述要領書における被請求人の陳述内容について
被請求人は、「少なくとも、我が国で日本出版貿易株式会社(以下「日本出版貿易」という。)が本件雑誌を輸入して販売したことは明らかであるので、この点のみを取り出してみても、当初商標を付したHFAによる本件商標の使用(『輸入』『譲渡』)が認められる。加えて、実際の流通過程は上に述べるとおりであり、ここに何ら矛盾点や不自然な点は存在しないので、全体考察においてもHFAによる本件商標の使用が認められる。」などと述べている。
しかしながら、上記のように、TRANSPORTS(以下「トランスポーツ プレス」という。)を含むHFAと日本出版貿易間の取引関係が依然として不明であり、そればかりか貿易関連書類等の客観的な書証が何ら提出されていない現段階では、日本出版貿易が本件雑誌を「輸入」していた事実は立証されていない。
被請求人が主張する本件雑誌の流通経路(HFA→トランスポーツ プレス→日本出版貿易→アクセストレードセンター)が客観的な書証の提出により依然として明らかにされていない以上、仮にHFAを通常使用権者としたとしても、当該通常使用権者(HFA)が本件雑誌を「輸入」したとはいえない。なぜならば、上記流通経路が立証されていないということは、本件雑誌が果たして正規のルートで取引されたものか、という疑念を完全に払拭することはできず、本件がもしそうでない場合は、通常使用権者(HFA)が本件雑誌を「輸入」したことにはならないからである。
(2)被請求人の提出に係る上申書に対する反論
ア 本件雑誌の「譲渡」及び「輸出」に対する反論
被請求人は上申書において、本件雑誌はHFAによってされている旨を主張している。
しかしながら、該主張は妥当性を欠くものといわざるを得ない。
すなわち、行為が商標法上の「使用」といえるためには、行為が日本国内で行われる必要があるところ、フランス在であるHFAによる本件雑誌の「譲渡」及び「輸出」の各行為は、すべてフランス、つまり日本国外で行われたものである。そのため、被請求人の行為をもって商標法上の「使用」ということはできない。この点、外国法人による「譲渡」行為が商標法上の「使用」に該当しないと明確に判示する裁判例がある(甲3)。本裁判例は外国法人による「譲渡」行為が商標法上の「使用」に該当しないと明確に判示するものであるが、「輸出」についても同様の理由が妥当するため、当該行為についても商標法上の「使用」には該当しない。
したがって、被請求人による上記主張は、失当である。
イ 書証(乙12、乙13、乙15、乙16)に対する反論
書証が作成された日付(プリントアウトされた日付)が、乙12については「2013/10/17」、乙13については「2013/11/25」、乙15については「2013/11/27」と各々記載され、そのいずれもが本件取消審判の要証期間外である。
したがって、本書証に基づく被請求人の主張は、失当である。
4 平成26年7月2日付け上申書の内容
(1)被請求人の主張に対する反論
ア 被請求人は、「しかし、本件はこれとは異なり、…我が国での流通の事実を確認できる。そして、…この点に関する被請求人の陳述は、…信用も化体しているのである。」などと述べている。
しかしながら、請求人が先に提出した口頭審理陳述要領書においても述べたように、当審においては、HFA(トランスポーツ プレスを含む。)と日本出版貿易間の取引関係を示す取引書類が請求人側から一切提出されていないことから、本件雑誌の流通の事実を客観的に確認できず、取引関係が依然として不明である。このように、被請求人が主張する本件雑誌の流通経路が客観的な書証の不提出により依然として明らかにされていない以上、仮にHFAを通常使用権者としたとしても、当該通常使用権者(HFA)が本件雑誌を「輸入」したとはいえない。
そうすると、HFA(トランスポーツ プレスを含む。)と日本出版貿易間の取引関係を示す取引書類が一切提出されていない状況下にあっては、果たして本件雑誌が被請求人の意思に従って流通しているかを確認することは現実的に不可能である。
したがって、被請求人による上記主張は失当である。
イ 被請求人は、「被請求人が提出する証拠や主張の流れに不自然な点や矛盾することはなく、…正規ルートでなければ、そのような立証活動もできない。」などと述べている。
しかし、被請求人は、当審において重要な証拠資料であるHFA(トランスポーツ プレスを含む。)と日本出版貿易間の取引関係を示す取引書類を提出することなく立証責任を果たしたとはいい得ず、被請求人の立証活動は不十分である。
ウ 被請求人が提出する乙20及び乙21は、実質的には既に提出されている乙10と何ら変わりはないため、上記取引関係を示すものとはいえない。
このような書証を提出したとしても、本件雑誌の流通経路について説明したことにはならず、両者の取引関係は依然として不明なままである。
(2)結語
以上に述べたように、請求人は、被請求人に対して、客観的な証拠資料の提出を求めていたところ、本上申書の提出日現在で被請求人側からそのような証拠資料は提出されていない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁の理由、上申書の内容、口頭審理陳述要領書による陳述並びに上申書(2)及び(3)の内容を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第21号証(枝番号を含む。ただし、以下、枝番号のすべてを引用する場合は、その枝番号の記載を省略する場合がある。また、「乙第○号証」の表示は、単に「乙○」と簡略表記する場合がある。)を提出している。
1 答弁の理由
(1)商標の使用の事実
本国フランスの「PREMIERE」は引き続き発行されており、新しい号の雑誌は、我が国では輸入品として流通している。乙1は、2010年から2012年の間における雑誌「PREMIERE」の世界各国における国別累積営業結果の表である。表の中央上部に販売対象雑誌のタイトル「PREMIERE」の文字が見え、その右側には被請求人の名称が確認できる。
「JAPON」すなわち我が国においても継続的に被請求人の雑誌「PREMIERE」が流通・販売されていることが分かる。
2 平成25年11月28日付け上申書の内容
(1)乙1について
乙2は、2010年12月分集計の乙1の抄訳であるところ、ここに見られるとおり、我が国においても2010年に雑誌「PREMIERE」の取引が一定量記録されており、これが販売されていた事実が分かる。
表(乙1)の右上に記載のある「HACHETTE FILIPACCHI ASSOCI」というのは、表の作成者であって、被請求人の関連会社(フランス)であるが、被請求人の協力のもと、雑誌「PREMIERE」の発行を行っているものである。本件商標との関係でいえば、同社(HFA)は被請求人より本件商標の使用許諾を与えられたもので、通常使用権者にあたる。
このHFA及び被請求人が、同雑誌を全世界に販売するにあたり、表(乙1)の左上に記載のある「トランスポーツ プレス」という会社(フランス)を、2010年では販売代理店として委託している。同社は、被請求人との関係では、約25億部もの取引実績がある。その同社が世界各国において雑誌「PREMIERE」の流通を手掛けた際の2010年の集計データが乙1の表であり、その中には、我が国での同誌の販売実績も含まれている。
乙1においては、このように雑誌「PREMIERE」が、2010年に我が国で一定量流通、取引された事実が示されている。
(2)具体的な商標の使用事実について
全体的な取引状況は、乙1に従い上記に示すとおりであるが、具体的な我が国における販売事実を以下のとおり証明する。
ア 本件商標の指定商品についての使用
本件商標は欧文字「PREMIERE」をゴシック体風に横書きしてなるが、これと実質的に同一とみられる商標が、本件指定商品中の「雑誌」について使用されている。
乙3は、2010年12月-2011年1月の発行に係る映画雑誌「PREMIERE」第406-407合併号の表紙等の抜粋である(1月号は、前の年の12月号と合併号となる)。その最初の頁である表紙中央上部には、写真で一部が隠れているものの、雑誌のタイトルとして本件商標の表示が付されている。また、我が国の雑誌の奥付にあたる部分の内容が9頁左側に記載されているが、その上部にはやはり本件商標の表示がみえる。加えて、下部にある各頁の頁番号には並んで雑誌名が記載されており、最後の頁右端の雑誌背表紙の部分にも、下方に本件商標の表示がみえる。
表紙の右上には、「N°406/N°407-DECEMBRE2010/JANVIER 2011」(以下、アクサン記号が付与された文字は、半角で表記する。)の文字があるが、これは「2010年12月-2011年1月」の発行に係る雑誌の「第406-407合併号」を意味している。また、本件雑誌の12頁目が目次となっていることからも、この商品が雑誌であることは明らかである。
イ 本件商標の使用者
本件商標の権利者たる被請求人は、アーシユツト フイリパツチ プレスであるが、本件雑誌を含め、雑誌「PREMIERE」の発行や実際の流通、販売に関しては、その関係会社であるHFAがこれを行っており、同社は被請求人より本件商標の使用許諾を与えられた通常使用権者にあたる。乙1の「HACHETTE FILIPACCHI ASSOCI」というのが、HFAである。
被請求人とHFAは、いずれもフランス最大の複合企業体であるラガルデール・グループに属しており、互いに関連会社である。同グループは、出版をはじめとして通信、航空宇宙など幅広い分野の事業を手掛けるものであり(乙5)、グループに属する会社がそれぞれに協力、関連し合いながら広範な事業活動を行っている。
乙6は、同グループの親会社であり持株会社であるラガルデール社の2010年の財務アニュアルレポートである。その「LIST OF CONSOLIDATED COMPANIES(連結会社リスト)」の項目には非常に多数の企業が掲載されているが、その中には、HFAと被請求人も掲載されている(182頁)。住所が同じになっているように、両者の関係は常日頃から極めて緊密で、互いに協力関係のもと本件雑誌に係る事業を行っている。
このように、同じ企業グループに属し、緊密な関係にある被請求人とHFAとは、雑誌「PREMIERE」に係る事業を協力関係のもと遂行しており、本件商標にあっては、被請求人からHFAに少なくとも黙示の使用許諾が与えられているものである。それゆえ、乙1にはHFAが表示されており、本件雑誌の奥付(9頁)にも「“Premiere” ISSN 0399-3698, is published monthly (11 times per year,except January) by Hachette Filipacchi Associes(“Premiere”は1月を除き年11回、アーシユツト フイリパツチ アソシにより毎月発行されています。)」と記載がされている。
さらに、本件雑誌(乙3)の表紙左上には、「www.PREMIERE.FR」というウェブサイトのアドレスが記載されているが、これは雑誌を含め、映画全般の情報を提供する「PREMIERE」の総合サイトのアドレスである(乙9の1及び2)。
この中には被請求人とHFAとの関係が記載されている。両者は緊密な連携のもと雑誌事業を展開しているのであり、HFAが本件雑誌を発行するにあたり本件商標を使用することは、黙示の許諾はもとより、事業展開の上での前提ともいえるものである。
資本的にも繋がりのある被請求人とHFAとは、緊密に連携して本件雑誌に係る事業を行っており、HFAは少なくとも本件商標の黙示の使用許諾を与えられた者であり、系列の関係会社間の事業協力にあたってHFAが本件商標を使用することは前提的な了解事項ともいえる。
したがって、本件商標は、その通常使用権者たるHFAによって、本件指定商品「雑誌」について使用されたものである。
ウ 本件商標の我が国における使用
本件商標は、正当な権限を有する者によって本件指定商品「雑誌」について使用されているが、本国のフランスで発行された本件雑誌は、我が国では主に在日外国人や映画ファン向けにそのまま輸入雑誌として流通し、販売されている。
乙10の1ないし5は、本件雑誌についての、我が国の販売代理店から各小売店等へ宛てた納品書である。これらは、右上に記載のある日本出版貿易の発行に係る納品書であり、我が国の販売代理店である同社がそれぞれ株式会社アクセストレードセンター、株式会社欧明社、タワーレコード渋谷店、丸善書店名古屋栄店、ブックファースト渋谷文化村通り店といった小売店等に対し、本件雑誌を納品したことが示されている。
各納品書に共通し、「PREMIERE(F)」と表されているのが、雑誌「PREMIERE(フランス)」の意味であり、「DEC/10-TAN/11#406-7」と表されているのが、「2010年12月-2011年1月第406-407合併号」の意味である。この表示は、本件雑誌(乙3)の右上にある「N゜406/N゜407-DECEMBRE2010/JANVIER2011」の表示に対応しており、これら納品書がいずれも本件雑誌に係るものであることが分かる。
本件雑誌は、「客注(顧客からの注文)」があった分と、「店頭」に置く分との合計の冊数がそれぞれ小売店等に納品されており、納品書の発行日も全て2010年12月24日を示す「Dec.24,2010」となっている。これは、本件商標の使用の事実についての要証期間内であるとともに、「2010年12月-2011年1月」の本件雑誌の発行に時期的に符合し、この日に本件雑誌が我が国の市場において流通に置かれたことが分かる。
これらの事実より、通常使用権者であるHFAによって、タイトルとして本件商標の付された本件雑誌は、フランスで発行された後、トランスポーツ プレスを通じて我が国へ輸入され、これは日本出版貿易によって、2010年12月24日に各小売店に納品されたことが確認される。
トランスポーツ プレスや日本出版貿易といった流通業者は、黙示的に本件商標の使用を許諾された者といえるが、そもそもこれら流通経路の一端を担う者の行為は商標権者等(通常使用権者を含む。)の意思にしたがってなされるものである。それゆえ、まずトランスポーツ プレスについては、同社の取り扱う雑誌「PREMIERE」は、販売先に我が国が含まれているところ(乙1)、同社が我が国へ輸出した本件商標の付された本件雑誌は、HFAがこれを「譲渡」(商標法第2条第3項第2号)したものということができる。また、日本出版貿易についても、同社が本件雑誌をフランスから仕入れることは、HFAがこれを「輸入」(同号)したものといえ、各納品書に示された「譲渡」(同号)も、HFAによってなされたものといえる。
加えて、HFAが本件商標を「付する」のはフランスであるが、「付する」行為には付したままの状態が含まれるのであり、当該状態の本件雑誌がHFAの意思にしたがって流通する以上、上記流通業者による「輸出」「輸入」「譲渡」といった各行為は、HFAのために本件商標を「付する」行為(同第1号)にも該当する。
このように、HFAは、我が国で商標法第2条第3項第1号及び同2号の商標の使用にあたる行為を行ったものである。そして、このことは、次の判決の趣旨にも沿うものといえる(乙11:知財高裁平成24年(行ケ)第10310号・平成25年3月25日判決)。
これを本件についてみると、通常使用権者たるHFAにより本件商標の付された本件雑誌は、上記流通業者が輸出、輸入、譲渡を行った事実があるので、HFAは流通業者を介して、少なくともこの範囲での本件商標の使用を行ったことが認められる。また、外国人による我が国での商標登録は、流通業者によるこのような使用を念頭に置いてなされているものでもある。
3 平成26年4月18日付け口頭審理陳述要領書による陳述
(1)口頭審理における審理事項について
ア 陳述書(乙18)では、被請求人が遅くとも2001年2月28日より、本件商標の指定商品「雑誌」につき、HFAに対して通常使用権を許諾していることを前提に(陳述書4項)、本件雑誌の流通経路を述べている。
すなわち、HFAがタイトルとして本件商標を付し発行した雑誌は、2010年1月1日から2012年12月31日までの間、フランスの販売代理店であるトランスポーツ プレス(厳密には2011年分から社名がPresstalisに変更)を通じ、我が国に販売された(同5項)。そして、これに含まれる本件雑誌は、我が国における販売代理店たる日本出版貿易を通じ、小売店に対し販売、納品されたものであり(同6項)、この小売店にはアクセストレードセンター(乙10の1)などが含まれる。
HFAは直接的に我が国の流通業者なり代理店に本件雑誌を販売するものではなく、本件雑誌は全世界的にその流通を任されたトランスポーツ プレスを通じて我が国に販売された。そして、これを購入した日本出版貿易を通じ、さらに小売店に対し販売・納品されたものである(HFA→トランスポーツ プレス→日本出版貿易→アクセストレードセンター)。
イ 被請求人は、先の裁判例(乙11)に加え、本件同様に外国法人が商標権者である事案に関し、転々流通する商品についての商標の使用を判断した裁判例を提出する(乙19)。
本件においても、輸入雑誌のタイトルが流通過程において手を加えられることなど通常はないのであり、少なくとも我が国で日本出版貿易が本件雑誌を輸入して販売したことは明らかであるので、この点のみを取り出してみても、当初商標を付したHFAによる本件商標の使用(「輸入」「譲渡」)が認められる。
ウ 被請求人とHFAとは、同じ企業グループに属する会社同士であり、出版・メディアに関する事業を共に営み、企画・制作・出版については協力関係にある。本件に係る雑誌「PREMIERE」は、このような両者の関係のもと出版され、我が国でも継続的に販売されているものである(乙18)。
4 平成26年6月20日付け上申書(2)の内容
(1)請求人は、乙18の被請求人の陳述書には客観性がなく、日本出版貿易との取引上の関係に関して証拠力を著しく欠くものである旨述べる。
しかし、被請求人自身が同社との関係性を陳述することには証拠的価値がある。
この点、商標権者等とは無関係の者が商品を販売している例をたまたま捉え、これをもって不使用取消審判における登録商標の使用を主張することは、実質的に登録商標の使用にはあたらないとの見方があり得る。しかし、本件はこれと異なり、まず本件雑誌(乙3)と発行年月や号数の一致する納品書(乙10の1?5)が存在し、その他の全証拠を含め、我が国での本件雑誌の流通の事実を確認できる。そして、この点に関する被請求人の陳述は、本件商標の付された商品が被請求人の意思に従って流通していることを確認するものであり、そこに被請求人の業務との関係で商標の信用も化体するものである。
逆に、被請求人の意思に反した流通を積極的に肯定することは、取引上の信用にもかかわる行為であり、ビジネス常識にも反するので、むしろ上記陳述は、商標権者の意思に従って正規な商品流通が行われていることを確認するものとして、被請求人がこれを行うことに十分意義がある。
請求人はこれに関連し、本件雑誌が正規のルートで取引されたものか疑念を払拭できないとも述べる。
しかし、被請求人の提出する証拠や主張の流れに不自然な点や矛盾するところはなく、むしろ正規ルートではないとの主張こそ合理的根拠を欠くものである。そもそも、乙10の1?5を含め、全ての証拠が被請求人により収集・提出されているのであり、正規ルートでなければ、そのような立証活動もできない。
(2)請求人は、被請求人の挙げる裁判例(乙19)に関し、本件は商標権者等と我が国業者との取引関係が不明であるので、同裁判例の考え方は本件に妥当するものではない旨述べる。
しかし、本件においても、日本出版貿易が商標権者等から発する正規ルートで本件雑誌を輸入、販売した事実は明らかである(乙1及び乙10の1?5等)。そして、これを離れても、商標に手が加えられない限り、転々流通する商品に付される商標の使用は、商標権者等による商標の使用であるとの判断枠組が妥当することは、何ら本件と異なるところはない。
さらに、請求人は、外国法人による「譲渡」が、商標法上の「使用」に該当しないとする裁判例(甲3)を挙げ、HFAによる本件商標の使用事実(「譲渡」「輸出」)は認められない旨述べる。
しかし、当該裁判例は、一回的な個人輸入についての特殊な事案を扱うものであり、本件のような法人による業としての継続的な輸入販売行為とは事案が異なる。本件の取引状況に照らせば、本件商標が出所表示機能を発揮し、そこに信用も化体していること、我が国が販売先として意識され、無関係な者によって流通がなされているものでないことは明らかであるので(乙1及び乙18等)、これを一回的な個人輸入についての事案と同列に扱うことはできない。

第4 当審の判断
1 被請求人(商標権者)が提出した証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)被請求人が本件商標を使用したと主張する商品は、「PREMIERE」をタイトルとし、HFAを発行者とする映画雑誌(以下「本件雑誌」という。)である。そして、その表紙には、タイトルとして「PREMIERE」(以下「使用商標」ということがある。)が大きく表示され、本件雑誌の奥付に相当する部分(9頁)には、「“Premiere”は1月を除き年11回、HFAにより毎月発行されている。」旨、表示されている(乙3)。
そして、その雑誌が2010年から2012年の間にトランスポーツ プレス(2011年分からPresstalis(プレスタリス))を通じて日本に輸入され、また、少なくとも2012年4月4日の時点において、本件雑誌と同じ装丁の雑誌は、fujisan.co.jpという雑誌専門サイトを通じて、日本において購入可能の状態にあった(乙1、乙2、乙12)。
(2)HFAは、被請求人と同じ企業グループ(ラガルデール・グループ)に属し、被請求人と住所を同じくする被請求人の関連会社であって、被請求人から、本件商標の指定商品中の「雑誌」について、通常使用権を許諾されている(乙6、乙18)。
(3)被請求人は、2010年12月1日発行の本件雑誌第406-407号(表紙にN°406/N°407-DECEMBRE2010/JANVIER 2011」の記載がある)抜粋の写し(乙3)を提出したところ、その雑誌が、日本出版貿易を通じ、2010年12月24日に、アクセストレードセンターに26冊、株式会社欧明社に8冊、タワーレコード渋谷に7冊、丸善書店名古屋栄店に3冊、ブックファースト渋谷文化村通り店に3冊納品された(乙10の1?5)。
本件雑誌は、上記のとおり納品されたほか、日本出版貿易を通じ、2011年12月22日に、アクセストレードセンターに26冊、株式会社欧明社に8冊、タワーレコード渋谷に3冊、代官山 蔦屋書店に3冊、丸善書店名古屋栄店に2冊納品された(乙20の1?5)。
さらに、本件雑誌は、日本出版貿易を通じ、2012年12月27日に、アクセストレードセンターに26冊、株式会社欧明社に8冊、タワーレコード渋谷に3冊、MARUZEN& ジュンク堂書店梅田店に2冊、代官山 蔦屋書店に2冊納品された(乙21の1?5)。
2 上記1の認定事実によれば、以下のとおり判断するのが相当である。
HFAは、本件雑誌の発行者であり、本件商標の通常使用権者であって、本件雑誌には本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標がタイトルとして表示されており、そして、2010年12月1日発行の本件雑誌が、本件審判の請求の登録前3年以内である2010年12月24日に、日本出版貿易を通じ、アクセストレードセンター等の日本の顧客に納品された。
以下、本件雑誌が日本出版貿易を通じ、アクセストレードセンター等の日本の顧客に納品されたことをもって、これが日本国内における本件商標の使用に当たるか否かについて判断する。
ところで、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者(以下「商標権者等」という。)が登録商標の使用をしている場合とは、特段の事情のある場合はさておき、商標権者等が、その製造に係る商品の販売等の行為をするに当たり、登録商標を使用する場合のみを指すのではなく、商標権者等によって市場に置かれた商品が流通する過程において、流通業者等が、商標権者等の製造に係る当該商品を販売等するに当たり、当該登録商標を使用する場合を含むもの」(乙11:知財高裁平成24年(行ケ)第10310号・平成25年3月25日判決)と解される。
これを本件についてみると、通常、輸入雑誌は、タイトルや発行者、内容等の表示に一切手が加えられることなく、出版社により発行されたままの状態で消費者に販売されるものであるところ、HFAの発行に係る本件雑誌も、雑誌専門サイトを通じて日本国内において購入が可能である。
そして、日本国内所在の日本出版貿易は、外国書籍、外国雑誌等の外国出版物を輸入し、国内の顧客への販売を行うことを業務の一とする出版物の流通業者であることが一般に知られており、また、同社は、本件雑誌をアクセストレードセンター等の書店に継続して納品している。
そうすると、HFAの発行に係る本件雑誌は、流通業者を介して、消費者に販売されることを前提としている商品であることを明確に理解でき、HFAは、そのことを念頭に置いた上で、本件雑誌を流通業者である日本出版貿易に販売し、日本出版貿易は、その顧客に販売するために本件雑誌を仕入れていると解される。
したがって、本件雑誌の発行者であり通常使用権者であるHFAによって、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が付された本件雑誌は、フランスで発行された後、流通業者である日本出版貿易を介して、2010年12月24日に各顧客に納品され、引き渡されたものといえるから、その行為は、商品に商標を付した者、すなわち、通常使用権者であるHFAによる商標の「使用」行為であるというべきである。
3 請求人の主張について
請求人は、「HFA(トランスポーツ プレスを含む。)と日本出版貿易間の取引関係を示す取引書類が一切提出されていない状況下にあっては、果たして本件雑誌が被請求人の意思に従って流通しているかを確認することは現実的に不可能である。」旨述べている。
しかしながら、上記2のとおり、HFAの発行に係る本件雑誌は、流通業者を介して、消費者に販売されることを前提としている商品であることを明確に理解でき、HFAは、そのことを念頭に置いた上で、本件雑誌を流通業者である日本出版貿易に販売し、日本出版貿易は、その顧客に販売するために本件雑誌を仕入れていると解される。そうすると、たとえ、HFA(トランスポーツ プレスを含む。)と日本出版貿易間の取引関係を示す取引書類が提出されていないとしても、本件雑誌は、通常使用権者であるHFAの意思に従って流通しているものと解するのが相当である。
4 まとめ
以上のとおり、通常使用権者であるHFAは、本件審判の請求の登録前3年以内に、本件指定商品「印刷物」に属する「雑誌」に、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して、流通業者である日本出版貿易を介して、顧客に引き渡したといえるものであるから、HFAは、商標法第2条第3項第2号にいう商品に標章を付したものを引き渡す行為をしたものといえる。
5 むすび
以上のとおり、被請求人は、通常使用権者が本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、請求に係る指定商品について本件商標を使用していることを証明したものというべきである。
したがって、請求に係る指定商品に関する本件商標についての登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-09-17 
結審通知日 2014-09-19 
審決日 2014-11-20 
出願番号 商願平1-136641 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Y16)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 渡邉 健司
大森 健司
登録日 1993-08-31 
登録番号 商標登録第2571122号(T2571122) 
商標の称呼 プリミエール、プレミアー 
代理人 佐藤 大輔 
代理人 内藤 通彦 
代理人 永露 祥生 
代理人 木村 吉宏 
代理人 伊東 美穂 
代理人 橘 哲男 
代理人 小谷 武 
代理人 長谷川 綱樹 
代理人 藤本 正紀 

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