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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W41
管理番号 1293872 
異議申立番号 異議2013-900380 
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2014-12-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2013-11-05 
確定日 2014-10-31 
異議申立件数
事件の表示 登録第5604990号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5604990号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5604990号商標(以下「本件商標」という。)は、「Conyac」の欧文字を標準文字で表してなり、平成25年3月21日に登録出願、第35類「翻訳をする者の紹介及びそれに関する情報の提供,電子商取引の利用促進のためのポイントの蓄積・集計・管理及び清算」、第41類「翻訳」及び第42類「電子計算機用プログラムの提供」を指定役務として、同年7月17日に登録査定、同年8月2日に設定登録されたものであり、その後、同26年7月31日に、本件商標の指定役務中の第35類及び第42類に属するすべての役務について、放棄による一部抹消がされたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、登録異議の申立ての理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第26号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標は、「Conyac」の欧文字を標準文字で表してなるところ、該欧文字から生じる称呼「コニャック」は、著名な原産地統制名称であって、その使用が厳格に管理、統制されている世界的に著名な地名「Cognac」と同一の称呼であるから、本件商標は、上記原産地統制名称として著名な標章「Cognac」の高い名声、信用、評判にフリーライドし、その希釈化を引き起こすものであって、原産地とかけ離れた特定個人が自己の商標として登録し、使用するに適さないというべきものであり、また、商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公序良俗を害するものというべきである。
2 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきものであるから、その登録は、取り消されるべきである。

第3 本件商標に対する取消理由
当審において、平成26年6月18日付けで商標権者に対して通知した取消理由は、要旨以下のとおりである。
1 「COGNAC」及び「コニャック」について
(1)申立人である「アンスティテュ ナショナル ドゥ ロリジン エ ドゥ ラ カリテ」及び「ビューロ ナショナル アンテルプロフェッショネル デュ コニャック」(以下、前者を「INAO」、後者を「BNIC」といい、両者をまとめていうときは「申立人ら」という。)の提出に係る甲各号証によれば、「COGNAC」及び「コニャック」について、以下の事実が認められる。
ア 「COGNAC」の語は、フランスにおける原産地統制名称法に基づく生産地域、醸造や蒸留の方法、ブレンド等に係る厳格な統制の下にいわゆるコニャック地方で生産されたブランデーにのみ使用を許された原産地統制名称である(甲2、甲3、甲8、甲10ないし甲12)。
イ フランスにおける原産地統制名称法は、フランスの優れた産地のワインやブランデー等を保護、管理することを目的として、INAOによって運用されている(甲4)。また、BNICは、コニャック産のブランデーの保護及び育成を目的の一つとして設立され、原産地統制名称である「Cognac(コニャック)」の保護のため,「Cognac」の商品化や輸出に際し、BNICのみが発行することを許されている熟成年数、産地証明に相当する「Cognac」の証明書を発行する管理を行っている(甲2)。
ウ フランス食品振興会(SOPEXA)発行のパンフレット「1985年、制定50周年を迎える原産地統制名称(AOC)」(抜粋)には、「原産地統制名称とワインおよびオー・ド・ヴィ原産地名称国立研究所(INAO)は1935年7月30日に設立されました。」との記載があり、また、INAOの職務として、「1.AOCワインおよびオー・ド・ヴィの承認を行う」、「2.原産地名称ワインを発生し得る災害から保護する。2番目の任務は必然的に以下の事項にむけられます・・・フランス国内外を問わず、不正と偽造行為に対する戦い。」などの記載がある(甲15)。
エ 「フランス国原産地統制名称の国際的保護のためのINAOのアクションに関するメモ」には、「原産地名称国立研究所(INAO)は、同業種間の公の機関でフランスの法律のもと、農務省の管轄下にあり、原産地名称の製品を(ワイン、ブランデー、チーズ、果物、家禽等)定義、管理、保護する。」、「INAOは、フランスに限らず外国においても、常にその名称について権利のない製品を流通させるための、原産地統制名称の使用に異議を申し立ててきた。」、「INAOは名称の著名性の悪用とも戦っている。」などの記載がある(甲16)。
オ 「コニャック」の語は、以下のとおり、我が国において、辞書や事典類のほか、書籍や新聞においても取り上げられている。
(ア)「コンサイスカタカナ語辞典 第3版」(2005年10月20日、株式会社三省堂発行)には、「コニャック[フ cognac]」の見出し語の下、「最高級のブランデー.・・・主産地のフランスのコニャック地方にちなむ.フランス以外のものは国名をつけて『ジャーマン・ブランデー』式に呼ぶ.」との記載がある(甲6)。
(イ)「広辞苑 第六版」(2008年1月11日、株式会社岩波書店発行)には、「コニャック【cognac フランス】」の見出し語の下、「フランス南西部、コニャック地方に産するブランデー。最高級品とされる。」との記載がある(甲7)。
(ウ)「新版 世界の酒事典」(1982年5月20日、株式会社柴田書店発行)には、「コニャック(Cognac)」の見出し語の下、「フランスのコニャック地方でつくられるブランデーの総称.この地方は,世界的に極上質のブランデーを産するため,他地方で産するブランデーがこの名を附して販売する傾向にあったところから,1891年4月14日付けの商品の原産地虚偽表示の禁止に関するマドリッド協定によって,コニャック名称のふつう名詞化を防ぎ,さらにフランスでは1909年5月1日付の政令によって,コニャックの地域的名称が保護され,この名称の使用資格をもった地域は,シャラント県とシャラント・マリチーム県にまたがるコニャック地方に限定され,現在は国立原産地名称協会によって原料や蒸留法などに関して厳重な統制が加えられている.・・・ぶどうの収穫から蒸留,貯蔵にいたるまで,政府の役人が出張監督し,製品化したときに,原産地証明書が交付されることになっている.」との記載がある(甲8)。
(エ)「洋酒小事典」(昭和56年6月15日、株式会社柴田書店発行)には、「コニャックCognac」の見出し語の下、「フランスのコニャック地方でつくられているブランデーの総称。世界的に良質のブランデーをつくっている。」との記載がある(甲9)。
(オ)「ザ・ワールドアトラス・オブ・ワイン(THE WORLD ATLAS OF WINE)」(1991年5月27日、ネスコ(日本映像出版株式会社)発行)には、「Cognac/コニャック」の見出し語の下、「コニャックはただのワインではなく、偉大なワインを思わせる。つまり表現しがたい複雑さ、土地特有の風味と気持ちを騒がせる何かが共通するのだ。・・・コニャックの管理呼称は、ジロンド川の河口の真北にある2県のほぼ全域と、あちこちで蛇行しているシャラント川流域、ビスケー湾岸に臨む小さな島々を含む。」との記載がある(甲10)。
(カ)「世界酒大辞典」(1995年8月1日、株式会社柴田書店発行)には、「コニャックCoganc」の見出し語の下、「フランスのコニャック地方でつくられるブランデーの総称.・・・1891年4月14日付の商品の原産地虚偽表示の禁止に関するマドリッド協定によって,コニャック名称の普通名詞化を防ぎ,さらにフランスでは1909年5月1日付の政令によって,コニャックの地域的名称が保護され,この名称の使用資格を持った地域は,シャラント県とシャラント・マリチーム県にまたがるコニャック地方に限定され,現在は国立原産地名称協会によって原料や蒸留法などに関して厳重な統制が加えられている.」との記載がある(甲11)。
(キ)「世界の名酒事典’80改訂版」(昭和55年5月30日、株式会社講談社発行)の84頁ないし85頁には、「フランスのブランデー/コニャック地方のブランデー」の見出しの下、例えば、「コニャック地方が、優良ブランデーを生むのは、主として、栽培ぶどうの品種と、その土壌によるものであることが、現在では明白になっている。‥・コニャックの生産地域は、一九〇九年の法律により、シャラント県、シャラント・マリチーム県に決められている。」との記載、「世界の名酒事典’90年版」(1989年12月22日、株式会社講談社発行)の97頁には、「コニャックの故郷」の見出しの下、例えば、「生産地域、原料ぶどう品種、蒸留法などが、一九三五年七月三〇日施行のフランス国内法(A.O.C法)で厳しく規制されている。コニャックは、フランス西南部が産地。」との記載、などのように、「コニャック」の特徴や生産地や製造法について記載されている(甲12の1、甲12の5)。
また、同内容の記載が、「世界の名酒事典’82-’83年度版」、「世界の名酒事典’84-’85年度版」、「世界の名酒事典’87-’88年版」、「世界の名酒事典’91年版」、「世界の名酒事典’92年版」、「世界の名酒事典’93年版」、「世界の名酒事典’94年版」、「世界の名酒事典’95年版」、「世界の名酒事典’96年版」、「世界の名酒事典’97」、「世界の名酒事典’98」、「世界の名酒事典’99」、「世界の名酒事典2000年版」、「世界の名酒事典2001年版」、「世界の名酒事典2002年版」、「世界の名酒事典2003年版」、「世界の名酒事典2004年版」、「世界の名酒事典2005年版」、「世界の名酒事典2006年版」、「世界の名酒事典 2008-09年版」、「世界の名酒事典2010-11年版」(甲12の2ないし4、甲12の6ないし23)にもされている。
(ク)「コニャック/COGNAC」(1988年12月1日、ジャーディン ワインズ アンド スピリッツ株式会社発行)には、その序文において、「すばらしい年と品質のコニャックを試飲してみてはじめてこの事業の全体の奇跡ともいえる本質が理解でき,なぜ西フランスの小さな町の名前が世界で最高の蒸留酒の代名詞になったかが分かるようになる。今ではコニャックはフランスでパリを別として最も有名な町である。・・・コニャックはコニャックの人々しか造れないのである。・・・コニャックの成功には地理,地質そして歴史という多くの要因がある。・・・特に異なるのは地質で,つまりフランス最高のワインやスピリッツを産する条件を持つterroirs(土壌)である。・・・コニャック地方は他にはどこにもみられない土質を有している。・・・製品の特性に影響を及ぼすすべての要因が一緒に存在するというのはシャラーント以外可能性はほとんどない。つまり他のどの地域もコニャックを造れないのである。天候,土壌等のちょっとした違いでもブランデーの品質は全く変わってしまう。」との記載がある(甲5)。
(ケ)2013年(平成25年)5月27日付け「南日本新聞」には、「薩摩焼酎は、ボルドーやコニャック同様、世界貿易機関(WTO)の協定に基づき産地指定の表示が認められている。」と記載されている(甲13の1)。
(コ)2013年(平成25年)10月31日付け「日本経済新聞」(夕刊)には、「日経電子版から-きょうのおすすめ」における「3つ星登場 大人のブランデーケーキ」の見出しの下、「伝統あるフランスのコニャックをたっぷりと使った品が高い評価を獲得」との記載がある(甲13の2)。
(サ)2013年(平成25年)4月3日付け「日刊工業新聞」には、「52万5000円のコニャック」の見出しの下、「フランス・カミュの創立150周年を記念してつくられたコニャック『カミュ キュヴェ5・150』を16日に発売する。価格は1本52万5000円。製品名の5はカミュ家5代の当主と五つの地域(グランド・シャンパーニュなど)で収穫されたブドウでつくった原酒であることを表現。」との記載がある(甲13の3)。
(2)上記(1)において認定した事実によれば、「Cognac」は、フランス南西部の地名であるとともに、同国の原産地統制名称法に基づく厳格な統制の下に同地で製造されるブランデーにのみ使用を許された原産地名称であって、同法は、INAOにより運用され、INAOは、フランスのみならず、外国においても、「Cognac(コニャック)」を含む原産地統制名称の不正使用防止等の活動を通じて、その保護を図っており、また、BNICも、「Cognac(コニャック)」の商品化や輸出の際の証明書発行等により、原産地統制名称である「Cognac(コニャック)」の保護を図っていることが認められる。
また、「コニャック」は、上記原産地名称「Cognac」の邦語であり、我が国においては、フランスのコニャック地方で産出されるブランデーの最高級品として、一般に広く知られており、さらに、フランス国内法に基づく厳格な統制により、そのような高品質が保持され、かつ、その名称の使用が管理されていることも知られていることが認められる。
そして、上記した我が国における「Cognac」及び「コニャック」についての認識は、本件商標の登録出願時には既に、本件商標の指定役務に係る需要者はもとより、広く一般の需要者にも敷衍していたものといえる。
2 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、前記第1のとおり、「Conyac」の欧文字を標準文字で表してなるものであるところ、該欧文字は、既成の語とは認められないものの、その構成文字に照らせば、「コニャック」の称呼を生ずるとみるのが自然である。また、該欧文字は、我が国において広く知られた「Cognac」と比較すると、いずれも6文字からなるものであって、そのうちの「C」、「o」、「n」、「a」及び「c」の5文字を共通とし、かつ、「C」及び「o」並びに「a」及び「c」の各文字については、その位置するところも同じくするものである。
他方、申立人らは、長年にわたり、フランス国内外において、「Cognac(コニャック)」に係る品質及び名称使用等の管理及び統制を行ってきており、その結果として、「Cognac(コニャック)」という表示についての周知著名性が蓄積、維持され、それに伴って高い名声、信用、評判が形成されているものであることからすれば、該表示は、コニャック地方のみならず、フランス及びフランス国民の文化的所産というべきものになっているとみるのが相当である。
そして、「コニャック」は、我が国においては、「フランスのコニャック地方で産出されるブランデーの最高級品」を意味する語として、一般の需要者の間に広く認識されており、その高品質や名称の使用がフランスによる厳格な統制下にあることも知られている。
上記した本件商標の文字構成及びそれから生じる「コニャック」の自然称呼、「Cognac(コニャック)」の表示がフランスにおいて有する意義や重要性及び我が国における「コニャック」についての周知著名性等を総合考慮すると、本件商標をその指定役務に使用することは、申立人らがフランス及びフランス国民を代表して築き上げてきた「Cognac(コニャック)」の名声、信用、評判の保護について、同国及びその国民の感情を害し、ひいては我が国とフランスとの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり、国際信義に反するものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。

第4 本件商標の商標権者の意見
本件商標の商標権者は、前記第3の取消理由に対して、要旨以下のように意見を述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出している。
1 本件商標の指定役務については、本件商標に係るサービス内容に直接結びつくものに限定する趣旨から、商標権の一部抹消登録申請により、第41類「翻訳」以外の役務に係る権利を放棄する。
2 取消理由に係る「Cognac」は、フランスのブランデーの産地として有名であり、「Cognac」又は「コニャック」は、いわゆる著名な原産地表示である。また、我が国において、「Cognac」又は「コニャック」は、ブランデーの最高級品として広く知られており、それらの名称の使用がフランスによる厳格な統制下にあることも知られている。
しかしながら、それは、あくまでもブランデーのことであって、翻訳サービスのことではない。翻訳は、地域を限定せずに世界中で日常的に行われているものであり、「原産地」という概念が存在しないものであるから、本件商標を翻訳サービスに使用した場合、これに接する需要者は、仮に本件商標を「コニャック」と称呼するとしても、フランスのブランデーの原産地を想起することはない。
ちなみに、本件商標は、日本人になじみ深い漫画である「ドラえもん」の中に出てくる著名なひみつ道具「翻訳コンニャク」に由来するものであり、日本人であれば、少なくとも「翻訳関連サービス」に「コニャック」といえば、「コニャック」と「コンニャク」との類似性から、上記「翻訳コンニャク」を想起するはずである。
3 「Cognac」の名声、信用、評判を害するのは、「Cognac」と同一の名称を付したブランデーがコニャック地方のぶどうを原材料として用いていない場合に、フランスにより管理統制された品質より劣るからであり(商標法第4条第1項第17号の趣旨)、ブランデーと全く結びつかない場合には、「Cognac」の名声、信用、評判を害することはない。
そうすると、ぶどうを原材料として用いる商品とは全く関係のない翻訳サービスについて、「Cognac」と同一名称ではなく、また、ブランデーの原産地を想起することもない「Conyac」を使用したとしても、「Cognac」の名声、信用、評判を害することはなく、よって、フランス国及びその国民の感情を害するという事態にはつながらず、我が国とフランスとの友好関係にも影響を及ぼすことはなく、国際信義に反するものとはならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
なお、原産地名称の名声、信用、評判を保護するために立法された商標法第4条第1項第17号に該当しないものに対し、原産地名称の名声、信用、評判を害するとして同項第7号を適用することは、法理論に反し、認められるべきではない。
4 本件商標の商標権者に係る「Conyac」のウェブサイト(乙1)の左上には「Conyac」の表示がされ、同じく、中央には「伝わる翻訳を今すぐ」とのキャッチフレーズが表示されていることから、このウェブサイトに接する需要者は、これが「翻訳サービス」に係るものであることを直ちに認識することができ、少なくとも酒類に係るサービスであるとは認識することはない。
したがって、現在の本件商標の使用態様に関しても、「Cognac」の築き上げた高い名声、信用、評判を害するということは決してない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標についてした前記第3の取消理由は妥当なものであって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものというべきである。
2 本件商標の商標権者の意見について
(1)本件商標の商標権者は、「Cognac」又は「コニャック」が著名な原産地表示であって、その名称の使用がフランスによる厳格な統制下にあることも知られているとしても、それは、あくまでもブランデーに関することであり、本件商標を「翻訳」の役務に使用した場合に、フランスの原産地を想起することはない旨主張する。
しかしながら、前記第3の1(2)において認定したとおり、「Cognac」及びその邦語である「コニャック」の各表示についての原産地統制名称としての著名性は、我が国において、本件商標の登録出願時には既に、広く一般の需要者に敷衍していたものであり、また、本件商標は、その文字構成が上記著名な原産地統制名称である「Cognac」に近似するものであって、かつ、上記「Cognac」及び「コニャック」の各表示から生じる「コニャック」の称呼と同一の「コニャック」の自然称呼を生じるものであるから、本件商標を「翻訳」を含むその指定役務に使用した場合であっても、これに接する需要者が上記「Cognac」及び「コニャック」の各表示を容易に想起することは決して少なくないとみるのが相当である。
なお、本件商標の商標権者は、本件商標が漫画に出てくる「翻訳コンニャク」に由来するものであり、「翻訳」の役務についての「コニャック」は、それと「コンニャク」との類似性から該「翻訳コンニャク」を想起するとも主張するが、かかる主張を裏付ける証拠方法の提出はなく、また、上記本件商標の採択の意図が需要者の間に広く認識されていると認めるに足る事実を発見することもできないから、この点についての同人の主張を採用することはできない。
(2)本件商標の商標権者は、ぶどうを原材料として用いる商品とは全く無関係の役務「翻訳」について、「Cognac」と同一名称ではなく、また、ブランデーの原産地を想起することもない本件商標を使用しても、「Cognac」の名声、信用、評判を害することはなく、フランス国及びその国民の感情を害するという事態にはつながらない旨主張する。
しかしながら、上記(1)において述べたとおり、本件商標は、その文字構成及び自然称呼に照らせば、著名な原産地統制名称である「Cognac」及びその邦語である「コニャック」の各表示を容易に想起し得るといえるものであり、また、それらの表示の著名性は、我が国において、ブランデーという商品分野に限られることなく、広く一般の需要者まで及んでいるといえるものである。
そして、「Cognac」及び「コニャック」の各表示は、申立人らの長年の努力により、高い名声、信用、評判が形成され、コニャック地方のみならず、フランス及びフランス国民の文化的所産というべきものになっていること、前記第3の2において認定したとおりである。
してみれば、「Cognac」及び「コニャック」の各表示を容易に想起し得る本件商標をその指定役務に使用することは、フランス及びフランス国民の文化的所産というべき「Cognac」及び「コニャック」の各表示に係る名声、信用、評判の保護について、同国及びその国民の感情を害し、ひいては我が国とフランスとの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり、国際信義に反するものといわざるを得ない。
したがって、本件商標の商標権者による上記主張を採用することはできない。
(3)本件商標の商標権者は、原産地名称の名声、信用、評判を保護するために立法された商標法第4条第1項第17号に該当しないものに対し、同項第7号を適用することは、法理論に反し、認められるべきではない旨主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項は、例えば、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるかどうか、商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるかどうかなどの見地及び公序良俗の見地から具体的な検討を加えるべく、個々の不登録事由を列挙しているものであるところ、同項第17号は、TRIPS協定の規定に対応する規定であって、ぶどう酒又は蒸留酒の地理的表示の保護についてのものであるのに対し、同項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について登録を認めないとするものであるから、本件商標が同項第17号に該当しないからといって、直ちに同項第7号にも該当しないこととはならず、よって、前者に該当しない本件商標について後者に該当するとすることは、何ら商標法の法理に反するものではない。
したがって、本件商標の商標権者による上記主張を採用することはできない。
(4)本件商標の商標権者は、本件商標の使用に係る自己のウェブサイトの写し(乙1)を提出し、そこにある「伝わる翻訳を今すぐ」との表示をもって、このウェブサイトに接する需要者は、これを「翻訳」の役務に係るものであると直ちに認識し、少なくとも酒類に係る役務と認識することはない旨主張する。
しかしながら、本件登録異議の申立ては、本件商標が、その登録査定時(平成25年7月17日)において、その申立ての理由(商標法第4条第1項第7号該当)を存していたか否かについて判断するものであるところ、上記ウェブサイトの写しは、上記登録査定後の2014年(平成26年)7月24日に紙出力されたものと認められ、かつ、その内容に徴しても、上記登録査定時の状況を推し量ることのできないものであるから、これが上記判断をする際に影響を及ぼすということはない。
したがって、本件商標の商標権者による上記主張を採用することはできない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2014-09-19 
出願番号 商願2013-20417(T2013-20417) 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (W41)
最終処分 取消  
前審関与審査官 杉本 克治 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 田中 敬規
手塚 義明
登録日 2013-08-02 
登録番号 商標登録第5604990号(T5604990) 
権利者 株式会社エニドア
商標の称呼 コニャック 
代理人 田中 克郎 
代理人 池田 万美 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 橘 和之 
代理人 池田 万美 

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