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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013890066 審決 商標
不服201317843 審決 商標
平成19行ケ10391審決取消請求事件 判例 商標
不服201313747 審決 商標
不服20118833 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 041
管理番号 1291652 
審判番号 無効2010-890022 
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-31 
確定日 2014-09-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第3074190号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第3074190号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標権
本件登録第3074190号商標(以下「本件商標」といい、本件商標に係る商標権を「本件商標権」という。)は、「日本漢字能力検定協会」の文字を横書きに表してなるところ、本件商標は、平成3年法律第65号附則第5条による使用に基づく特例の適用を主張して、平成4年9月30日に、被請求人を出願人とする登録出願がなされ、第41類「漢字についての読み・書き・使用その他の知識又は能力に関する検定」を指定役務として、同7年3月23日に登録査定、同年9月29日に設定登録され、同17年5月24日には本件商標権の存続期間の更新登録がされているものである。その間、本件商標は、平成12年8月25日から平成17年9月29日まで専用使用権者を請求人とする専用使用権の設定が登録された。その後、同21年11月16日に、本件商標権の登録名義人を内藤正和氏、河地妙美氏及び前田隆義氏(以下「審判請求時の本件商標権者3名」という。)とする商標権の移転登録がされたが、同22年7月26日に本件商標権の登録名義人を被請求人とする商標権の移転登録がされている。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第64号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第10号に違反して登録を受けたものであり、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。

2 請求の理由
本件商標は、請求人が、平成4年6月16日に財団法人として設立されて以降、自己の名称の略称として使用してきた商標であり、請求人の商標として需要者の間で広く知られるに至っているものである。しかるに、本件商標は、被請求人の代表者であり、かつ同時に請求人の理事長(審決注:請求人設立時の理事長)であった大久保昇氏により、平成4年9月30日に被請求人名義で出願され、被請求人名義で登録されたものである。請求人は、被請求人が本件商標を保有する理由がないとして、これまで、被請求人に対し、本件商標を請求人に譲渡するよう再三求めてきたが、被請求人はこれに全く応じようとしないばかりか、平成21年11月16日に、本件商標権を審判請求時の本件商標権者3名に移転した。そこで、請求人は、自らが使用する本件商標についての商標権を確保するため、本件審判の請求に至ったものである。

3 当事者
(1)請求人
請求人は、漢字能力検定の実施等を業とする、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づく特例財団法人である(甲3)。請求人の設立代表者であった大久保昇氏は、平成4年5月14日に、当時の文部大臣に対し、「財団法人日本漢字能力検定協会設立許可申請書」(甲38)及び関係書類(甲39ないし甲56)を提出のうえ、請求人の財団法人としての設立許可を申請した。そして、同文部大臣よりその設立が許可され、請求人は、平成18年改正前の民法(以下「旧民法」という。)第34条に基づく財団法人として平成4年6月16日に設立された。その後、平成20年12月1日施行の一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律に基づき、現在は特例財団法人となっている。なお、大久保昇氏は、設立当時から請求人の理事長を務めていたが、平成21年4月16日に、理事長を辞任している(甲3)。
(2)被請求人
被請求人は、昭和46年1月20日に設立され、教材の販売等を目的としている法人であり、設立当時から現在まで、大久保昇氏が代表取締役を務めている(甲4)。

4 本件商標出願の商標法第4条第1項第7号該当性
(1)商標法第4条第1項第7号の判断枠組み
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の登録を排除する規定であるが、近年の東京高裁、知財高裁の判決では、商標の構成自体に公序良俗違反のない商標であっても、出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合には、商標法第4条第1項第7号が不登録事由として定める「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」にあたるとの理由で登録を拒絶、無効にするという判断枠組がとられている(東京高裁平成15年5月8日判決(平成14年(行ケ)第616号事件)及び平成16年12月8日判決(平成16年(行ケ)第108号事件)参照)。また、極真空手の代表者が、団体が使用する商標を、適正な手続きを経ずに、個人名義で出願した商標が公序良俗違反にあたるかが争われた一連の事件の知的財産高等裁判所の判決では、団体内部の適正な手続きを経ずに、個人名義で出願を行ったことを理由に、公序良俗違反にあたるとの判断がなされている(甲21、知的財産高等裁判所平成18年12月26日判決(平成17年(行ケ)第10033号事件))。
かかる極真空手事件の判断は、知的財産高等裁判所の判断であり、本件における出願手続の社会的相当性を考える上での基準となるものである。また、当該事件の判断手法は、他の審判事件でも採用されており、無効2006-89039号の審理においても、法人の理事会への報告や決議等がなされなかったことを根拠に、商標登録が商標法第4条第1項第7号に該当するとの判断がなされている(甲22)。
(2)請求人の事業目的と事業内容
ア 請求人は、設立の目的として、日本人の日常生活に欠くことのできない漢字の能力を高め、広く漢字に対する尊重の念と認識を高めるため、漢字能力検定試験を行うとともに、漢字に関する講演会の開催などをあげ、日本文化の発展、我が国における生涯学習の振興に寄与することとする、公益団体である(甲3、甲38ないし甲56)。
イ また、請求人設立当時の寄付行為(甲40)には、同人が行う事業を、(a)漢字に関する検定試験の実施、技能度の登録及びその証明書の発行、(b)漢字に関する講演会、講習会等の実施、(c)漢字学習に関する調査研究、(d)漢字学習に関する普及・啓発活動、(e)漢字学習等を行う地域の団体への助成、(f)漢字に関する出版物の刊行、(g)その他この法人の目的を達成するために必要な事業、と定められている。
(3)漢字能力検定事業の移行
ア 平成4年6月16日に請求人が財団法人として設立された際、それまで被請求人が行っていた漢字能力検定事業が、被請求人から請求人に移行した。すなわち、請求人設立許可申請時に作成されたと考えられる「現在の日本漢字能力検定協会、日本漢字教育振興会の今後について」と題する甲第13号証に、被請求人の一部門で任意団体である日本漢字能力検定協会(以下「旧協会」という。)については、請求人発足後は、事業主体を請求人に移行し、残務整理が終わり次第解散するとし、同じく、被請求人の一部門で任意団体である日本漢字振興会(以下「振興会」という。)についても、書籍刊行などの主業務を、請求人に移行する、との記載がある。また、請求人設立時に、漢字能力検定業務に従事すべき職員が全て移行しており(甲59の1ないし8、甲60)、加えて、請求人設立時の財産目録(甲42)には、基本財産たる1億円以外の運用財産として、従来、旧協会が有していた教材や什器備品等が計上されている。これらのことから、請求人設立時に、漢字能力検定事業が、被請求人から請求人に移行したことは明らかである。
イ なお、被請求人は、漢字能力検定事業は請求人に事業譲渡したものではなく、事業賃貸したものである旨主張するが、当時の文部省が許可するところの公益法人の設立にあたって、その本来的な事業が、公益法人の代表者予定者が代表取締役を務める私企業からの事業賃貸であるはずもなく、かかる被請求人の主張は理由がない。
ウ また、被請求人は、児童漢字検定業務を継続して行っていた旨主張するが、請求人の設立後、被請求人は実質的に児童漢字検定を実施したことはない。たとえ検定申し込みの窓口の名義や代金の支払い名義などが被請求人になっていたとしても、大久保昇氏、大久保浩氏の指示で、形式上、このような形態がとられていたにすぎず、かかる事実は被請求人が児童漢字検定業務を行っていたものを示すものではない。発注先、取引先との間においても、児童漢字検定の業務のやりとりは被請求人ではなく、請求人の職員が行っていた(甲61の1ないし20)。
エ 請求人設立当時、請求人と被請求人との間で商標権の扱いに関する約束はなされていないが、上記のとおり、本件商標を含めた漢字能力検定事業全体が、被請求人から、請求人に引き継がれたものである。なお、被請求人は、請求人の運用財産には著作権や商標権などの権利は含まれないなどと主張するが、そのような権利を被請求人に留保する合意など一切存在していない。
(4)被請求人の出願が社会的相当性を欠くこと
ア 出願の過程で適正な手続がなされていないこと
本件商標の出願がなされた平成4年9月30日の時点では、請求人は既に財団法人として設立されてから3月近くが経過しており、漢字能力検定に関する一切の事業は請求人が行い、被請求人は該事業を行わないこととされていた(甲13)。そうとすると、被請求人は、本件商標につき、商標登録出願を行う権原を有していなかったものであり、それにもかかわらず、本件商標が被請求人名義で出願されたのは、当時の請求人の理事長であり、被請求人の代表取締役である大久保昇氏の独断によるものである。
イ 本件商標は、文部省の認可による財団設立の経緯からも、出願当初から請求人が使用することが予定され、請求人が独占的に使用することが決まっており、実際に、使用を開始していたことから、当然に、請求人名義で本件商標の出願を行うべきであった。万一、何らかの理由で、被請求人名義で出願を行うとしても、請求人の理事会に報告し、承認の決議を得ることが適正な手続として必要であった。
ウ しかしながら、大久保昇氏は、かかる適正な手続を一切行わず、請求人の理事、評議員に無断で本件商標を被請求人名義で出願したものであり、かかる行為が理事としての善管注意義務に違反する行為であることは明らかである。
(5)請求人の事業の公益性について
請求人は、漢字能力検定等を行うことを目的として、旧民法第34条が定める財団法人(公益法人)として設立された法人であり、その事業運営等に関しては、一般の営利企業以上の高い規律が求められ、請求人の保有すべき資産を、その理事や理事が経営する私企業に流出させることは禁止されている。特に、商標に関しては、財団法人の行う事業の根幹に係る権利であり、財団法人が使用する商標を私的企業が保有することを認めると、商標の使用料の名目で、財団法人の資産が、理事個人や理事の経営する私法人に流入する根拠となることを容認することになるし、また、商標権侵害をちらつかせることで、公益法人の事業を私的立場でコントロールすることが可能になってしまうため、私企業が財団法人の使用する商標を登録することが不当であることは明らかである。
(6)同意書の作成
大久保昇氏は、平成12年6月8日付けで、請求人と被請求人の間で、(ア)被請求人が、請求人が実施する業務のすべてにおいて必要となる商標について商標登録出願を行うこと、(イ)登録商標の維持管理を行う権利を被請求人に許諾すること、などを内容とする同意書(甲14)を作成した。該書面の内容は、請求人が使用する商標についての商標権取得及び商標管理の自由を大幅に制約するものであり、請求人にとってまさしく一方的に不利なものであるが、大久保昇氏は、請求人の理事会、評議員会の承認決議や理事、評議員への報告も一切ないままに上記同意書を独断で作成したものである。さらに、この同意書は、請求人の理事会、評議員会の承認無く締結されたものであるため、請求人には効果帰属しないものであるが(旧民法第57条、民法第113条)、大久保昇氏がかかる同意書を作成したこと自体が、大久保昇氏が商標権の管理権限を被請求人に独占させ、商標権を利用して、請求人の事業をコントロールしようとしていたことの何よりの顕れである。
(7)利益相反行為については特別代理人の選任を要すること
法人と理事との利益相反取引については、旧民法第57条が「法人と理事との利益が相反する事項については、理事は、代理権を有しない、この場合においては、裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、特別代理人を選任しなければならない。」と規定しており、そもそも特別代理人を選任せずになされた法人と理事との利益相反取引を承認あるいは追認することはできない。被請求人は、平成21年4月10日開催の臨時理事会(以下「本件理事会」という)において、利益相反行為に関しての追認がなされた旨主張するが、請求人においては、特別代理人を選任せずして、理事会の決議をもって法人と理事との利益相反取引を承認することはそもそもできないのであり、本件商標を含む被請求人名義の商標の扱いに関する追認決議など一切なされていない。
また、平成4年6月16日に請求人が設立されて以降、請求人と被請求人との間で、検定対策問題集等の書籍の制作を含め、広告業務、調査研究業務、システム開発業務、採点業務など、受託する形式の取引を行ってきた。かかる取引は、請求人にとっての利益相反取引にあたるため、本来であれば、請求人の理事会の承認決議なしに行うことはできないものであるが、これまでかかる決議が一切なされないままに、16年もの期間にわたって、取引が継続されてきた。なお、平成21年6月8日及び同月29日、京都地方検察庁が大久保昇氏(ほか1名)を、請求人に対する背任罪で起訴した(甲11)。また、請求人は、これらを受託してきた被請求人、日本統計事務センター、メディアボックス、文章工学研究所、大久保昇氏及び大久保浩氏を相手として、利益相反取引によって被った損害賠償を求める訴訟を京都地方裁判所に提起し、現在、訴訟係属中である(京都地方裁判所平成21年(ワ)第3166号、甲12)。
(8)本件商標は、請求人の代表者と被請求人の代表者を兼務する大久保昇氏が、自己又は被請求人の利益を図るべく、財団法人である請求人を示す標章につき、請求人内の適正な手続きを経ずに、被請求人名義で出願し登録されたもので、その出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ず、商標法第4条第1項第7号規定の不登録事由「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し、無効とされるべきものである。

5 後発的無効理由(商標法第4条第1項第7号第46条第1項第5号)該当性
(1)本件商標の著名性
本件商標は、請求人が、平成4年6月16日に財団法人として設立されて以降、自己の名称の略称として使用してきた商標であり、請求人の商標として需要者の間で広く知られるに至っているものである。
(2)問題発覚後の経緯
平成21年2月頃、請求人と、被請求人を含む関連会社との利益相反取引によって、多額の資金が関連会社に流入している問題が発覚し、本件商標を含む多数の商標を被請求人が保有していることについてもマスコミにおいて問題視され、同時に文部科学省から厳しい追及を受けることとなった(甲8ないし甲10)。大久保昇氏は、被請求人の利益を図るため、本件商標についての請求人名義の専用使用権を抹消させること、請求人名義の商標権を被請求人に移転させることを画策し、請求人の理事会や評議員会に諮ることなく、当時の顧問弁理士にかかる手続きを行う方法がないかを相談し、報告書(甲18)を作成させた。
平成21年4月16日に、大久保昇氏及び大久保浩氏が請求人の理事を退任し、新たな理事長のもと、請求人は、関連会社との取引の清算を行う手続が進められた。そして、被請求人が保有する商標権に関して、請求人は、平成21年6月1日付けで、被請求人に対し、漢字能力検定に関連する商標を、これまでに維持等に要した実費相当額で譲渡するよう求めたが(甲19)、被請求人はこれに応じることはなかった。
(3)本件商標権などの移転
被請求人は、上述のとおり請求人からの本件商標権譲渡の求めに応じなかったばかりでなく、平成21年11月16日に、本件商標権を、審判請求時の本件商標権者3名へ移転した(甲20)。被請求人が本件商標権を移転した河地妙美氏ら3名は、被請求人代表者の大久保昇氏の知人(甲29、甲30、甲31)であって、この本件商標権の移転は、被請求人が本件商標権の差押え等を免れるためになされた詐害的な名義変更にほかならない。
(4)請求人と被請求人との裁判上の和解
請求人と被請求人は、賃料の仮払いの仮処分命令申立事件において、本案の判決確定に至るまでの暫定的な賃料の支払いを合意するとともに、上述の詐害的な移転を解消するため、本件商標権につき被請求人に移転登録手続をすべき旨和解した(乙12)。請求人は、本件商標の正当な使用が妨げられることに大きな危惧を抱き、また、本件商標が被請求人により転々譲渡される可能性もぬぐえず、請求人名義とするよう再度強く要求したものの、被請求人に拒絶されたため、やむを得ずいったん被請求人に名義を戻すことを要求し、その旨が上記裁判上の和解において合意されたものである。
(5)商標の使用差止請求
被請求人は、請求人に対し、本件商標の使用差し止めをなすとの通知を送り(甲62)、さらに、本件商標の使用差止請求訴訟を大阪地方裁判所に提起した(大阪地裁平成23年(ワ)第3460号事件、甲63)。請求人は、同訴訟において、本請求と同様の根拠にて無効の抗弁を提出し(甲64)、被請求人の差止請求は本件商標の登録名義が被請求人にあることを奇貨とした濫用的なものである等反論している。
(6)被請求人が本件商標権を譲渡しないこと
被請求人は、口頭審尋期日において、審判の対象となっている各商標については、自ら将来において検定事業をすることを構想しているので、請求人には譲渡しなかった、と述べるが、被請求人が将来検定事業を構想しているという回答は、まさに現在まで事業を何らなしていないことの現れである。平成4年6月16日に、被請求人は検定事業を財団法人として請求人に移行させ、自らは検定事業をしていないにもかかわらず、将来の構想を述べることによって何らかの権限が正当化されるものではない。公益法人は、その公益目的ゆえに税制上の優遇措置を受けるなどしており、同時に文部省認可による検定をなす場合には社会からの高い信頼性を得ることになる。そのためにも運営の健全性、透明性が厳しく求められ、利益相反行為ないしこれに類する公序良俗違反行為が厳に禁止されるべきは当然である。公益法人たる請求人の名称、あるいは、請求人の業務に関する各商標の出願について、何ら請求人の理事会や評議員会に報告することもなく、大久保昇氏の独断で被請求人名義で取得されていることは、著しく社会的妥性を欠く。
(7)商標法第4条第1項第7号違反は、後発的無効理由(商標法第46条第1項第5号)としても規定されているところ、大久保昇氏が理事を退任した現在において、本件商標を被請求人名義で維持することを認めることは、私企業による公益法人の私物化を容認することにつながりかねず、公益法人制度の趣旨に著しくもとることになる。そのため、仮に、商標登録出願時に、本件商標を被請求人名義で出願することについての何らかの理由があったとしても、本件商標の登録を今後、維持することに社会的相当性がないことは明らかであり、本件商標の登録に商標法第46条第1項第5号による後発的無効理由が存することは明らかである。

6 以上のとおり、本件商標は、本来、請求人名義で出願され、登録されるべきであったものであり、かかる商標を被請求人が出願、登録することは、著しく社会的相当性を欠くものである。そのため、本件商標が、公序良俗違反に当たり、商標法第4条第1項第7号に違反するものであることは明らかである。

7 商標法第4条第1項第10号該当性
(1)商標法第4条第1項第10号は、他人の周知商標と同一又は類似の商標の登録を排除する規定であるが、本件商標の出願がなされた平成4年9月30日の時点では、本件商標は、検定試験の受検者の間で、広く知られるに至っていたものである。また、漢字能力検定の事業は、同年6月16日の設立と同時に、請求人に譲渡されていたものであるから、漢字能力検定に係る周知商標は、被請求人にとって「他人の」商標となっていたものである。そのため、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の不登録事由に該当する。
(2)除斥期間が経過していないこと
商標法第4条第1項第10号に基づく無効審判は、原則として、設定登録後5年経過以降は請求できないが(商標法第47条第1項)、本件商標は、不正競争の目的で登録されたものであるため、かかる除斥期間の適用はない。本件商標は、上記のとおり、大久保昇氏の独断で被請求人名義で出願、登録されたものであるが、このような出願がなされたのは、被請求人名義で商標権を保有し、これをもとに、請求人の事業をコントロールしようという意図があったものである。そのため、本件商標は、不正競争の目的で登録されたものであるため、除斥期間の適用はなく、現時点においても、商標法第4条第1項第10号に基づく無効審判の請求が可能である。

8 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第10号に該当し、商標登録を受けることができないものである。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。

第3 被請求人の主張の要旨
被請求人は、審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第22号証を提出した。

1 商標法第4条第1項第7号の非該当性
(1)被請求人
被請求人は、大久保昇氏を代表者として、昭和46年に設立された。被請求人は、大久保昇氏が経営する学習塾で行っていた漢字教室事業の将来性に目を付け、同50年に、被請求人内に任意団体日本漢字教育振興会(振興会)を設立し、漢字学習教室の運営と漢字学習教材の開発・製造・販売を行い、その一方、被請求人内に、別途、任意団体日本漢字能力検定協会(旧協会)を設立し、漢字教室で行う学習達成度測定として、昭和50年に京都新聞社と共催で、京都商工会議所において「日本漢字能力検定」を実施した。年間受検志願者数はスタート時(昭和50年)に672名だったが、昭和54年に1万人、昭和56年に2万人、昭和57年に3万人を越え、平成3年には6万人に達した。
(2)請求人設立経緯
大久保昇氏と大久保浩氏の両名は、平成2年から文部省に対して、検定の文部省認定技能審査を受けるための活動を開始し、平成4年に至り、漢字能力検定の一部が上記認定を取得するに至った。同年6月、旧協会は、請求人の設立に伴い、これまで旧協会が担っていた、漢字能力検定の実施及び漢字能力検定問題の作成事業(但し、小学1年生から小学3年生の低学年向けの漢字能力検定を除く)を、一部を休止することとしたが、旧協会は解散しておらず現在も存続している。
漢字能力検定が文部省認定の公的な資格となる一方で、同省認定技能審査から除外された小学1年生から3年生までの検定級も存続させる必要性があったため、被請求人がこの検定級を継続することとした。かかる検定級の漢字能力検定の運営主体は、一般の混乱を回避するために、旧協会から振興会に移転がなされ、振興会は、小学生1年生相当の漢字能力検定を初10級、小学生2年生相当の漢字能力検定を初9級、小学生3年生相当の漢字能力検定を初8級として、併せて「児童漢検」という名称のもとに、平成18年3月まで、検定業務を行い(第2答弁書の乙13及び乙14、乙17)、それ以降は、請求人に業務移管した。なお、振興会も解散しておらず現在も存続している。
以上のように、被請求人は、漢字能力検定事業を開始した組織であり、同事業の発展に貢献してきたことは明らかである。
(3)漢字能力検定事業
「漢字能力検定事業」とは、(a)漢字能力検定の実施、(b)漢字能力検定問題の作成、(c)漢字教室の運営、(d)問題集、参考書などの書籍教材の開発製造・販売、(e)デジタル教材の開発販売、(f)検定の受付、採点などの事務作業と業務システムの開発、(g)漢字検定の広告・宣伝、(h)漢検技能度の登録及び証明書の発行といった業務(以下(a)ないし(h)をまとめて「漢字能力検定業務8項目」という。)から総合的に成り立っているところ、請求人設立にあたり、被請求人が、請求人に対し、小学生低学年(小学1年生から小学3年生)向けの漢字能力検定を除外した上記(a)及び(b)の業務を行うことを認めたという関係にある。したがって、請求人は、漢字能力検定事業(上記の(a)ないし(h))の全ての業務を行っていたのではない。このことは、仮に上記事業譲渡がなされていたとすれば、請求人の設立当初の財産目録に譲渡を受けた事業の記載があるはずであるが、請求人の設立当初の財産目録には、そのような記載は一切ない。
なお、第1回口頭審尋調書において、被請求人の陳述の要領3項の7行目及び同4項3行目の「譲渡した」の記載を「貸与した」に訂正を求める。
(4)被請求人の名義による本件商標出願
上述の(a)ないし(h)からなる総合体たる漢字能力検定事業を成功させるため、被請求人、統計事務センター、メディアボックスの夫々が役割を全うすることで、請求人に対する側面的な支援を常に行ってきた。そして、受検者を増加させるための営業活動やさらには問題集などの書籍を発行していくような積極的な支援を行う上で、商標権の取得をせざるを得なかった状況にあった。すなわち、請求人の設立当初は、1億円の借入金の寄附から出発したものであって資力に乏しかったこと、営業活動上、例えば、他の同種事業者に商標を取得された場合、自由な営業活動ができなくなるおそれがあったこと、また、被請求人は、請求人設立後も引き続き小学生低学年に対する漢字能力検定事業を実施していたことから、被請求人にて本件商標出願を行ったのである。
また、過去の商標出願を行った際の審査過程で、特許庁から、商標「漢検」が一般名称であり商標登録ができないとの拒絶理由が通知され、当該拒絶理由を解消するために、被請求人が、昭和50年に「漢検」「日本漢字能力検定協会」標章を日本で最初に使用し始めたことを、当時の新聞記事、機関誌、広告、教材の奥付など、の商標の使用実績を証明する資料を提出して、商標登録を取得した経緯があり(乙19から乙21)、請求人名義では商標取得が困難であり、被請求人名義で出願することがスムーズな商標権の登録に資する、という事情及び関係当事者の認識のもと、平成12年6月8日付けで、請求人と被請求人の間で、(ア)被請求人が、請求人が実施する業務のすべてにおいて必要となる商標について商標登録出願を行うこと、(イ)登録商標の維持管理を行う権利を被請求人に許諾すること、などを内容とする同意書(甲14)が作成されたものである。
以上のとおり、漢字能力検定事業が(a)ないし(h)といった業務から総合的に成り立っていることころ、被請求人は、請求人に対し、小学生低学年の児童を対象とした漢字能力検定を除く(a)漢字能力検定の実施及び(b)漢字能力検定問題の作成を認めたにすぎず、それ以外の漢字能力検定事業を行ってきたこと、そして、その複数業務における役割分担から被請求人の名義にて本件商標権の取得を行ったことに鑑みると、本件商標権の取得は、請求人の理事会や評議員会への報告や承認決議が必要な事項ではない。まして、特別代理人の選任が必要な事項ではない。仮に、理事会や評議員会への報告をすることがより適切であったといえるとしても、平成21年4月10日開催の臨時理事会において追認決議がなされているし、また、かかる内部承認の欠缺をもって、本件商標あるいはその取得経緯が「公の秩序または善良な風俗を害するおそれがある」ものとして、本件商標を無効とするほどの瑕疵とはいえない。
(5)本件商標権の移転及び商標使用差止請求訴訟(大阪地裁平成23年(ワ)第3460号)について
請求人は、被請求人および大久保昇氏、大久保浩氏の財産に対して網羅的に仮差押えをするとともに、被請求人に対する家賃料および書籍購入代金を損害賠償請求権と相殺すると称して、一切の支払いを拒否した。被請求人は、請求人からの支払いが一切ないことから、被請求人の資金繰りは逼迫し、銀行への高額の借入金の返済などを、審判請求時の本件商標権者3名からの借入等で凌ぎ、当該借入の担保として本件商標権を同3名に移転した。この状況のもと、さらに請求人は、平成22年3月30日付けで被請求人に追い討ちをかけるべく、本件商標に対して、本件無効審判を請求してきた。かかる経緯において、被請求人は、やむを得ず平成23年1月、請求人との間の本件商標の無償使用許諾契約を解除し、請求人に対し商標使用差止請求訴訟を提起した。
(6)請求人の発展と被請求人及び大久保昇氏と大久保浩氏の寄与
ア 請求人の保有資産の推移の状況は、大久保昇の1億円の借入金を充てた寄附から出発したものが、16年の経過と共に充実し、ついには約80億円もの資産を保有する超優良な財団法人に発展したのである。この発展が主として大久保昇氏と大久保浩氏の手腕によって実現されたものであることは関係者の誰しもが認めるところである。
イ 検定事業の安定性は、受検者数の増減によって左右されるのであり、受検者数の安定的な確保や拡大に対するマーケティング戦略の運営判断を誤れば、固定化した経費の継続的な負担によって、請求人の運営状態の悪化を招いてしまう。被請求人及び大久保昇氏と大久保浩氏の的確な運営判断によって、平成9年度には106万人の受検者数が、平成19年度までに年度を追う毎に、117万人(平成10年度)、130万人(平成11年度)、157万人(平成12年度)、179万人(平成13年度)、204万人(平成14年度)、219万人(平成15年度)、224万人(平成16年度)、240万人(平成17年度)、264万人(平成18年度)、271万人(平成19年度)と増加させることに成功してきた。このような受検者数の増加は、漢字能力検定事業をただ立ち上げただけで受検者が寄りついて勝手に増えていったものではない。漢字能力検定事業は、主要なマーケットである国内学齢人口の減少と、国際化に伴う外国語能力の価値増加という国内的国際的環境の悪化にさらされ続けてきた。その漢字能力検定事業を取り巻く状況に対する危機感を、被請求人及び大久保昇氏と大久保浩氏は常に抱いており、請求人の漢字能力検定事業を将来にわたって安定させるために、事業の根幹である問題作成(検定部)と顧客接点(普及部)のみを請求人で行い、その他の業務は外部(統計事務センター、メディアボックス及び文章工学研究所)に委託することで経費を固定化させず流動費化を図ってきた。
甲第10号証のような報道があったことは認めるが、上述のように、漢字能力検定事業を成功させるために被請求人、統計事務センター、メディアボックス及び文章工学研究所が、請求人に対する側面的な支援を常に行ってきたのであり、かかる支援の一環として、被請求人が商標権の取得を行ったのであって、報道の内容と事実は異なるのである。請求人と被請求人との間で民事訴訟が継続し、また、被請求人の代表者である大久保昇氏は刑事裁判が行われているが、いずれも裁判中で争っており結論がでていない。
(7)以上のように、被請求人は昭和50年から現在にいたるまで、書籍製造、検定事業などの漢字検定に関する事業を継続しているのであり(検定業務は、平成18年3月まで)、本件商標の出願時に被請求人は、漢字検定に関する事業を行っていたのであるから、本件商標について、被請求人が出願、登録、保持することに対して著しく社会的相当性を欠くとはいえない。
(8)後発的無効理由(商標法第4条第1項第7号第46条第1項第5号)について
上述したように、請求人と被請求人との間に行われた取引は、利益相反取引でない。また、漢字能力検定事業を成功させるために被請求人、統計事務センター、メディアボックス及び文章工学研究所が請求人に対する側面的な支援を常に行ってきたのである。さらには、現在、請求人と被請求人との間で民事訴訟が継続し、また、被請求人の代表者である大久保昇氏は刑事裁判が行なわれているが、いずれも結論がでていないものである。なお、被請求人としては、積極的に譲渡の求めに対して応じていないのではなく、当然に商標権をも含めた解決も含めて裁判・訴訟等が進行していると考えているものである。したがって、本件商標の登録が、後発的にも公序良俗違反に該当するものでない以上、本件商標は、後発的無効理由(商標法第46条第1項第5号)が存在するものでないと考えるのが相当である。
(9)以上のとおり、本件商標の登録が、出願時にも、後発的にも、公序良俗違反に該当するものでなく、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではないと考えるのが相当である。

2 商標法第4条第1項第10号の非該当について
上述のとおり、請求人の漢字能力検定事業の運営資金力が乏しかった請求人の設立当初から、被請求人は、請求人の漢字能力検定事業を成功させるために、側面的な宣伝・広告活動の支援を常に行なってきたのであり、書籍製造、検定事業として、昭和50年から現在にいたるまで(検定業務は、平成18年3月まで)、漢字検定に関する事業を継続し、書籍の取引関係は現在においても、請求人との間で継続しているのである。したがって、被請求人と請求人との関係を全くの無関係の他人ということはできない。また、請求人は本件商標の周知性を立証しておらず、仮に、周知性を獲得しているとしても、それは被請求人その他の関連会社の貢献によるものである。また、本件商標の指定役務の一部と考えられる。さらに、被請求人は、請求人の事業を補完する関係を有することから、被請求人に不正競争の目的は一切なく、仮に、商標法第4条第1項第10号に該当するようなことになったとしても、除斥期間が経過している。

3 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第10号の規定に該当しないことは明白であるので、同法第46条第1項の規定により、その登録が無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 事実認定
請求人及び被請求人の主張並びに提出された証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)請求人
請求人は、平成4年6月16日に、理事長を大久保昇氏とする旧民法第34条に基づく公益法人(財団法人)として設立された。
大久保昇氏は、文部省(現在の文部科学省)に、趣意書、事業目的、事業計画などが添付された請求人設立認可申請書を提出し、請求人は、漢字能力検定に係る事業を行う財団法人として認可を受けた。請求人は、事業目的として、日本人の日常生活に欠くことのできない漢字の能力を高め、広く漢字に対する尊重の念と認識を高めるため、漢字能力検定試験を行うとともに、漢字に関する講演会の開催などにより日本文化の発展、我が国における生涯学習の振興に寄与することを掲げる公益団体である(甲3、甲38ないし甲56)。
請求人は、基本財産として1億円、運用財産として旧協会及び振興会の運用財産を継承し、その目的達成のため、漢字に関する検定試験の実施、漢字に関する出版物の刊行などを行うことを事業内容としている(甲40)。
請求人は、漢字能力検定事業に関係する部署を組織し、職員を配置し、漢字に関する技能検定試験の実施、漢字に関する出版物の刊行などの漢字能力検定事業を行っており、かかる事業には児童漢字検定にかかる事業も含まれている(甲61の1ないし20)。
(2)被請求人
被請求人は、教材の開発、制作、出版及び販売などを事業目的とし、昭和46年1月20日に、大久保昇氏を代表取締役として設立された(甲4)。
被請求人は、昭和50年に、同人の内部に、漢字能力検定試験に係わる事業として、任意団体である旧協会を、同じく、漢字教室の運営、教材開発・運営及び図書出版事業として、任意団体である振興会を設立した(乙11、乙17)。
なお、大久保昇氏は、被請求人以外に、メディアボックス(甲5)、文章工学研究所(甲6)及び日本統計事務センター(甲7)の代表取締役を兼務していた。
(3)漢字能力検定事業の移行
請求人の設立認可申請に関する書面には、運用財産として、旧協会及び振興会の運用財産を継承する旨の記載があり(甲37)、これに伴い、旧協会の職員が請求人へ異動したこと(甲59の1ないし8、甲60)が認められ、請求人設立後の事業内容(甲45ないし甲47)、漢字検定事業に関する取引書類の宛名が請求人となっていること(甲61の1ないし20)からすれば、請求人が、その設立時に、被請求人から、漢字能力検定事業を承継し、行っていたものと推認される。そして、請求人は、1?7級にかかる漢字能力検定の事業につき、当時の文部省によって認可を受けた。この点、被請求人は、請求人設立時まで被請求人が行っていた漢字能力検定事業から、その一部である1?7級に係る漢字能力検定事業を、請求人に貸与したとし、被請求人内部の任意団体である振興会が漢字能力検定8?10級(以下「児童漢字検定」という。)を担っていたと主張する。確かに、被請求人提出証拠(乙1ないし乙10)から、児童漢字検定に関する書籍等に被請求人の記載があることが認められるが、これに対応する被請求人の事業実態を示す証拠はなく、一方、請求人が行う漢字能力検定に関する事業の中には、児童漢字検定が含まれており(甲61の1ないし20)、また、該事業が、被請求人がそれまで行ってきた漢字能力検定に係る事業の一部の貸与、若しくは分掌という形での証拠の提出もなく、かかる被請求人の主張は認められない。
なお、請求人の設立に際し、請求人と被請求人の間で、商標権や著作権などの知財に関し特段の約束はないことに当事者間で争いはなく、請求人から被請求人に対する本件商標の管理委託の事実も認めることができない。また、請求人は、自己の業務に、本件商標を無償で使用していた。
(4)本件商標の出願について
本件商標は、請求人設立3か月後の平成6年9月30日に、被請求人の名義で出願された。本件商標権の取得に係る手続きについて、被請求人は、平成21年4月2日付けの財団法人日本漢字能力検定協会の調査委員会の作成する調査報告書が承認を得ているとか(乙16)、複数の漢字能力検定に係る業務の役割分担として取得したものであるから承認決議の必要はない旨主張するが、上記報告書には、本件商標権に関する記載はなく、また、請求人の理事会及び評議員会のいずれにおいても、承認手続を経ておらず、報告も、追認もなされていない(甲32)。
(5)本件商標の著名性について
ア 請求人が事業として行う漢字能力検定は、文部省から認定された公的資格である。請求人が財団法人として設立された平成4年度の漢字能力検定試験の受検者数は約15万人であったが、それ以降毎年受検者が、平成9年度には約100万人、平成14年度には約200万人と飛躍的に増え、さらに、それ以降も受検者数は増え続け、平成19年度には約270万人となった。
イ さらに、平成7年以降の毎年末の恒例行事ともなった京都清水寺での「今年の漢字」のイベントが、請求人の事業として、マスコミや新聞などを通じて報道され、また、本件商標を用いた、問題集や雑誌「樫の木」及び「La-漢」が継続的に発行され、請求人の事業に係る広告宣伝がなされた。
ウ 平成21年3月11日付け毎日新聞には、「■大学、高校は/09年度、漢検取得を評価基準の一つにしている大学や短大は全国で490校。・・・2級以上に合格すると国語の2単位として認定する千葉県・・・。漢検に合格すれば推薦入試に出願できる栃木県・・・」、同日付け読売新聞には、「漢検は大学の推薦入試や就職の際の評価基準になるなど定着。」との記載がある(甲8)。
エ 以上のことから、請求人設立以降、請求人が行う漢字能力検定が文部科学省より公的資格の認定を受けたことと相まって、その受検者数が、年々飛躍的に増加し、また、請求人の実施する漢字能力検定が、学校及び企業などにおいて、評価基準の1つとして受け入れられ、社会がそれを信頼し依拠する公益性を有するに至り、該事業で使用される本件商標や「漢検」商標も、受検生、学校及び企業などにおいて、遅くとも受検生が100万人を超えた平成9年のころには、周知著名な商標となっていた。
(6)問題の発覚
平成21年3月10日に、文部科学省から請求人に対し運営の改善にかかる行政指導がなされ、また、これと相前後してマスコミや新聞各社から、本件商標権などを被請求人が保有することなどについて批判の報道がなされ、さらには請求人と被請求人との民事訴訟や刑事事件などが明るみになったことが認められる(甲8ないし甲12)。特に、文部科学省の改善指導の報道については、「受検270万人困惑怒り」との見出しで、「検定を活用している学校や資格取得者の間に戸惑いや怒りが広がった。」「漢検の社会的信用や価値が下がってくればどうなるか分からない」「事態の推移を見て判断するしかない。」などの記載がある(甲8)。さらに、「志願者は大幅減 事件後初検定」との見出しで、「6月?7月の受検志願者数は昨年同時期の3割減」「漢検商標権『厳正指導』」などの記載がある(甲10)。また、同年6月14日付け山陰中央新報には、「“新生漢検”の道険し」の見出しの下、「『(賠償額を減免するために)商標権はもっとも強い武器。簡単に手放すわけにはいかない』。弁護士団の一人は明かす。」との記載がある(甲10)。
(7)第三者委員会の請求人に関する調査報告書
請求人は、中立的な第三者による請求人の運用改善のための検討委員会を設置し、その運営改善策を平成21年4月2日付け調査報告書としてまとめ(以下「本件調査報告書」という。)、文部科学省に報告した(甲34、甲35)。本件調査報告書には、「被請求人が商標権を保有していることの問題点」の項に、「・・・請求人と被請求人はあくまでも別法人であるのだから、将来的に請求人と被請求人との取引が解消されるような事態となった場合には、被請求人から商標の使用中止を求められる可能性があり、かかる不安定な状況は請求人の運営にとって望ましいものではない。」との記載があり、「請求人名義で商標権を取得することとなった経緯」の項には、「・・・平成12年12月4日に特許庁審判官より、請求人が使用する商標を被請求人が権利化することを問題視する指摘があり、それ以降の出願については、請求人が行っているようである。」との記載がある(甲34)。
(8)文部科学省の請求人に対する運営改善要求
平成21年4月、文部科学省は、請求人に対し、請求人に多額の利益が生じていること、請求人の理事長が役員である企業と請求人との間の取引の必要性が不明瞭であること等を理由として、漢字能力検定業務に係る取引について運営改善を要求した(甲9)。これを受けて、大久保昇元理事長は、同月16日に辞任した(甲3、甲10)。
(9)請求人及び被請求人間の訴訟等
平成21年6月8日及び同月29日、京都地方検察庁が、大久保昇氏(ほか1名)を、請求人に対する背任罪で起訴した(甲11)。
平成21年8月31日、請求人は、京都地方裁判所に、元理事長(大久保昇氏)、元副理事長(大久保浩氏)及び被請求人らを被告として、損害賠償等請求訴訟を提起した(甲12)。
同年6月1日以降、請求人は、被請求人に対し、本件商標権の譲渡の申入れ(甲19)を行ったが、被請求人は、それに応じず、本件商標権を、同年11月16日、審判請求時の本件商標権者3名に移転し(甲20)、賃料の仮払いの仮処分命令申立事件における和解により、同22年7月26日に、再度被請求人に戻し(乙12)、同23年3月17日、請求人に対し本件商標の使用差止請求訴訟(大阪地裁23(ワ)3460)を提起した(甲63)。
また、被請求人は、口頭審尋期日において、本件商標権につき、今後、漢字検定事業を再開する構想もあるので、請求人への譲渡は考えていない旨述べ、その意思を明確にしている。

2 判断
(1)商標法第4条第1項第7号について
商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高等裁判所平成15年5月8日判決(平成14年(行ケ)第616号事件))。
そして、同号は、上記のような場合ばかりではなく、周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合においても、商標保護を目的とする商標法の精神に反するなどとの理由で,適用される事例もなくはない。しかし、商標法は、出願に係る商標について、特定の利害を有する者が存在する場合には、それぞれ類型を分けて、商標法所定の保護を与えないものとしている(商標法第4条第1項第8号、第10号、第15号、第19号参照)ことに照らすと、周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合は、特段の事情のない限り、専ら当該各号の該当性の有無によって判断されるべきといえる(知的財産高等裁判所平成23年10月24日(平成23年(行ケ)第10104号事件))。
また、登録商標において、その商標が登録後に公益的不登録事由に該当するかの存否の判断は、出願された商標のときの判断と、その判断時期は異なるものの、判断基準についてはともに同じとみて差し支えない。
そうとすれば、商標登録後に周知著名となった商標等について、その登録後の事情いかんによっては、特定の者に独占させることが好ましくなくなった商標等について、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益,すなわち公益を害すると評価し得る場合に限って上記判断が許されると解されるものである。
そこで、上記の観点から本件について判断する。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性(登録時の無効事由)について
ア 請求人は、当時の文部省に財団法人の認可を受け、平成4年6月16日に、理事長を大久保昇氏とする財団法人日本漢字能力検定協会として設立され、漢字に関する検定試験の実施を主な事業とするものである。
本件商標は、請求人の略称と認められる「日本漢字能力検定協会」の文字を表してなるものであり、被請求人の名義による本件商標の出願は、請求人設立後わずか3か月後の同年9月30日のことである。請求人においては、漢字能力検定にかかる事業が開始されたばかりの時期である。
しかして、漢字能力検定事業の主たる事業者は請求人であり、大久保昇氏が請求人の理事長でもあることからすれば、公益性を有する請求人の円滑な事業展開などを考慮し、当然、請求人の名義で出願すべきと考えるのが妥当である。
仮に、被請求人の名義で出願したときは、請求人の事業展開に一種の制限がかかることが予想でき、そのときは内規を遵守して、請求人の理事会や評議会などの承認を得るべきであったとみるのが相当である。
そうとすれば、被請求人による本件商標の出願は、請求人の理事会などの承認を経たものでもないこともあり、全く問題なしともいえないところではある。
しかしながら、請求人による漢字能力検定が公的資格となったことも相まって、その受検生も年ごとに飛躍的増加をみせ、請求人設立時には約15万人の受検生だったものが、平成19年には約270万人に達し、進学や就職などで公的資格としての社会的な評価として受け入れた状況からすれば、大久保昇氏が、請求人の事業の成功・発展を阻むことを目的として出願した等悪意を推認される事情は認められない。
さらに、被請求人においては、本商標権に請求人を専用使用権者と設定した時期があることなど、本件商標を請求人に無償で独占的に自由に使用させることを前提として出願したものとも理解し得るところがあり、実際に、平成4年9月30日の被請求人の名義による本件出願時点から、同7年9月29日の被請求人の名義による登録時点までの間に、被請求人が本件商標権を保有することに対して、請求人から何ら異議もなく、また、社会に対する悪影響や社会的混乱相当性を及ぼした事実も何らなかったといえるものである。
そうとすれば、請求人の主張は、本件商標出願に係る請求人内部の承認手続の不備を指摘したにとどまり、財団法人とその関連企業との間の私人間の問題と判断するのが相当であって、被請求人の名義による本件商標出願が、請求人の理事会などの承認を得ていないことに社会的妥当性を欠くと問題化するほどのことはなかったといわざるを得ない。
イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、本件商標が同人の商標として周知著名である旨主張するが、該出願は、請求人設立からわずか3ヶ月後のことであり、この出願時点及び登録時点において、請求人からその著名の事実を示す証拠の提出はないものであるから、本件商標が、その間、請求人の使用によって著名性を有したと認めることができない。
(イ)また、請求人は、財団設立許可申請書一式の書類の中にあったものであり、文部省に提出した書面(甲13)を用いて、同人の設立にあたり、被請求人が請求人に対し、漢字能力検定に係る一切の事業を移転し、以降当該事業を行わない旨約したにもかかわらず、被請求人名義で出願した旨主張しているが、上記書面には作成日や作成者の記載が全くなく、また、請求人により提出された上記申請書(甲38ないし甲56)にも添付されていないことから、誰が、何の目的で、いつ作成された書面であるか不明であり、該書面をもって上記主張を認めることができない。
(ウ)請求人は、極真空手事件の判断(知的財産高等裁判所平成18年12月26日平成17年(行ケ)第10033号判決、甲21)は、本件における出願手続の社会的相当性を考える上での基準となるとした上で、本件においても、該判決に依拠して、内部手続に不備がある旨主張するが、上述したとおり、被請求人が本件商標権を保有することに対して、これまで請求人から何ら異議もなく、また、社会に対する悪影響や社会的混乱相当性を及ぼした事実もなかったことからすれば、請求人の主張は、本件商標出願に係る請求人内部の承認手続の不備を指摘したにとどまり、財団法人とその関連企業との間の私人間の問題と判断するのが相当であって、認めることができない。
ウ 小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性(後発的無効事由)について
請求人が行う漢字能力検定事業は、文部省から認可を受けた以降、公的資格として全国的に定着し、我が国において、遅くても受検生が100万人を超えた平成9年の頃には、漢字能力検定に係る事業を実施する請求人のみならず、その略称と認められる本件商標についても、すでに周知著名なものとなっていたものと認められる。その後も受検生の飛躍的増加が認められ、平成19年には、受検生が270万余人に達するなど、取得された検定資格は、進学や就職する際の自己の資格として社会的にも利用されていることが認められる。
そうとすると、本件商標は、全国的に周知となった請求人の漢字能力検定に係る事業に使用され、かつ、請求人の活動が多くの受検生と公的資格試験として受け入れる社会的な影響力を有していたことなどからすると、本件商標は、まさに、請求人が行う漢字能力検定試験の実施のみならず、その余の漢字能力検定に係る事業において、請求人によって使用されるべき性格の商標になったとみるのが相当である。
通常であれば、本件のような請求人自らが使用する著名な商標の存在を、請求人自らが無効の請求をすることは考えにくく、このような出願した者と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきものである。
しかし、本件商標は、本件審判の請求時にはすでに周知著名な商標となっており、かつ、漢字能力検定を公的資格としてこれを受け入れる受検生、学校や企業など、一般社会に対する社会的影響がきわめて大きい状況下にあっては、請求人は、財団法人として、ますます公共性が求められることとなる。
これを前提に、被請求人が公的資格に依拠する本件商標を保有し、さらに、請求人が本件商標を使用できないということが、本件商標を含め、それを利用する一般社会に対し、社会的妥当性を欠くか、以下検討する。
ア 問題の発覚
請求人は、旧民法第34条に基づく公益法人として設立された財団法人であって、その事業は公共性と公益性を有するものであり、その事業運営については、主務官庁である文部科学省の指導監督の下に、一般の営利企業以上の高い規律が求められるものである。
平成21年3月10日に文部科学省から請求人に対し運営の改善にかかる行政指導がなされ、また、これと相前後してマスコミや新聞各社から、本件商標権などを被請求人が保有することなどについて批判の報道がなされ、さらには請求人と被請求人との民事訴訟や刑事事件など(甲8ないし甲12)が明るみになったことが認められる。
しかして、請求人とともに、その略称である本件商標に著名性が備わっていたこの時期に、文部科学省からの行政指導やマスコミなどの批判報道を受けたこと、本来保有していたと思われていた本件商標権を請求人自らが保有していないことが、全国的に知れ、この前後にある請求人と被請求人との訴訟事件などと同様、大久保昇氏が請求人と被請求人のそれぞれの長としていることからくるなれ合いそのものではないかという悪い印象が、請求人に対しても少なからず植え付けられたとみるのが相当である。
このことは、まず、受検志願者数に如実に表れ、同年6-7月の対前年同月期からみて3割減となり(甲10)、請求人が財団法人として行う公共性を有する事業を信頼し、それに依拠して参加する国民一般(受検生)や漢字検定資格を受け入れている社会に影響を与えたとみるのが相当である。
してみると、上述した社会的混乱とともに、請求人に蓄積された社会的信用が、少なからず失墜したといわざるを得ない。
イ 請求人による本件商標権の譲渡の申入れと被請求人の対応
文部科学省からの厳正な行政指導を受け、これに対応する請求人が、被請求人に対し、本件商標権の譲渡の申入れ(同年6月1日、甲19)を行ったが、被請求人はこれに応じないばかりか、大久保昇氏が請求人の理事長を辞任した後の同年11月16日には、被請求人が保有する本件商標権を、審判請求時の本件商標権者3名に権利移転がなされた(甲20)。
これにより、請求人は、同人とは何ら関係もない者が本件商標権を保有することに、今後の財団法人としての公共性のための円滑な事業展開が阻害されるおそれを危惧し、本件無効審判の請求に及んだことが認められる。
この点、本件審判請求後、本件商標権は、賃料の仮払いの仮処分命令申立事件における和解において、再度被請求人に戻されたことが認められる。
しかして、本件商標がすでに周知著名となっているが故に、被請求人が、請求人とは何らかかわりのない第三者3名に、本件商標権を権利移転した行為による請求人や一般社会への影響は、上述した悪い印象より小さくなく、特に、請求人においては、本件審判請求の理由にあるとおり、今後の財団法人としての公共性のための円滑な事業展開が阻害されるおそれが誘発されたとみるのが相当である。
してみると、本件商標には、すでに請求人が行う漢字検定事業にかかる著名な略称としてその信用が化体し、請求人の財産となっているとみることができるものであるから、請求人にとって何ら関係のない第三者3名に権利移転した被請求人の行為は、問題なしとはいえない。
すなわち、本件商標権は、その名義の上では被請求人が保有するという形をとってはいるものの、前記したとおり、被請求人による本件商標の出願自体に社会的混乱がなかったと認めうるところが大きかっただけのことであり、その時点においても、漢字検定事業を行う請求人自らが出願することが最良との見方もできるものである。そして、請求人の使用により、本件商標に周知著名性が蓄積され、請求人の財産ともみなされる状況下においては、財団法人としての公共性の重視が優先される事情も加わり、その社会的妥当性の観点から、被請求人が本件商標権の保有者として権利主張するような場合においては、当然のごとく制限がかかってしかるべきとみるのが相当である。
そうとすると、被請求人による第三者3名への商標権の移転した行為は、漢字能力検定の受検性が3割減したこと、学校や企業側からも公的資格の評価の見直しを行っていること、これらによる請求人への社会的信用の失墜に加え、請求人においても、円滑な事業遂行に支障を来すおそれが発生し、社会的混乱が生じたものと認められるものである。
なお、平成21年11月16日に、被請求人は、同人が保有する本件商標権を、審判請求時の本件商標権者3名に権利移転を行ったが、その理由としては、本件審判請求時に本件商標権者であった上記3名は、同22年6月30日提出に係る答弁書において、被請求人との関係を共同出資者であり、今後、被請求人の運営などに参画する予定である旨主張した。これに対し、その理由につき審尋したところ、同23年10月4日提出に係る回答書においては、資金の借入先であると主張を変更した。そこで、口頭審尋期日において、審判長が、被請求人から上記3名の本件商標権の移転及びその後の上記3名から被請求人への本件商標権の移転に対し、具体的な契約書など変更を裏付ける事実の書面を求めたところ、同月28日提出に係る上申書において、借用に係る合意書(写)及び商標権譲渡契約書(写)を提出(乙22)しているものの、これ以外に、借入金の授受及び返済や、同様に求めた被請求人への再譲渡に係る証拠の提出はないものであるから、被請求人の上記主張は、信ぴょう性に乏しいものといわざるを得ない。
ウ 本件商標の使用差止め訴訟
被請求人は、平成23年3月17日に、本件商標の使用差止め訴訟をおこした(甲63、大阪地裁23(ワ)3460)。
被請求人が漢字能力検定事業を創設したものの、請求人設立後の漢字能力検定事業の主たる事業者は、あくまで請求人であり、請求人が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめたものである。両者間の出願の経緯の中で、たとえ被請求人が本件商標を出願し、被請求人の名義で商標権を取得したとしても、請求人は、これまで無償で請求人が使用してきたものであり、請求人の設立以降、請求人が文部省の認可を受けたことも相まって、本件商標を使用する中で、漢字能力検定の受検性が飛躍的に増加し、請求人の評価も社会的に受入れられ、それとともに本件商標も取引者、需要者に広く知られたことなどを総合勘案すれば、そもそも、被請求人が、周知著名となった商標を保有すること自体に問題なしとはいえないのに加え、公益法人として、使用による信用の蓄積がある請求人に、同人の著名な略称と認められる本件商標の使用の差止めを求めることは、請求人が本件商標を使用できないこととなり、すなわち、同人の円滑な事業の展開を阻むこととなり、さらには、著名な本件商標から請求人の事業を認識してきた社会に重大な影響を与え、認めがたい行為とみるのが相当である。
エ 本件商標の使用構想
被請求人は、本件商標を今後使用することも計画しているので請求人への譲渡はない旨主張している。
しかしながら、本件商標は、請求人の使用により、周知著名性を有するものとなっており、かつ、請求人は、公益性を有する財団として、漢字能力検定に係る事業が社会的に受け入れられている状況下において、被請求人自らが、今後、請求人とは別組織として、本件商標を使用するとしたときには、これに接する取引者、需要者は、請求人の出所に係る役務であるかのごとく出所の混同を生ずることは必至であり、再び社会的混乱を誘発させる要因となるとみるのが相当である。
オ 商標法第4条第1項第7号該当性について
以上の状況を総合勘案すれば、請求人の運営改善に係るマスコミからの指摘や文部科学省からの行政指導などにより、公的資格を利用する受検者やその受け入れ先となる学校や企業などに対し、社会的混乱を生じさせたことは明白であり、請求人自体に社会的信用の失墜がみられ、さらに、周知著名性を有した本件商標権を請求人とは何ら関わりのない第三者3名に譲渡した行為は、請求人の漢字能力検定に係る円滑な事業の遂行に支障を来すおそれを誘発させた。その後、本件商標権を第三者から被請求人に戻したとしても、被請求人は、請求人に対し、本件商標の使用を差止めたり、将来的には被請求人自らが使用する意思があるとして、あくまでも請求人への譲渡は考えていないとする。そうとすると、被請求人によるこれらの行為は、登録後の事情にかんがみ、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合に該当し、かかる行為を是認することは、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきである。
したがって、本件商標は、その設定登録後、被請求人から第三者である審判請求時の本件商標権者3名への本件商標権の移転の登録がされた平成21年11月16日に、商標法第4条第1項第7号に該当するものとなったといわなければならない。
カ 被請求人らの主張について
被請求人が本件商標権を権利移転した審判請求時の本件商標権者3名は、同人に対する共同出資者であり、今後被請求人の経営などにも参加する予定者であるとか、資金の借入先であって、何ら悪意がない旨述べているが、該3名の者が被請求人に対する共同出資者、若しくは資金の貸付人であるとすればなおのこと、これまでの被請求人と請求人との関係や、文部科学省からの商標権保有に関する行政指導やマスコミなどからの批判などを受けていることはすべて承知しているはずであり、その上で本件商標権を被請求人から譲り受けたことに対する請求人への影響などを鑑みれば、少なからずそこには何らかの悪意があったと推認し得るものである。
さらに、被請求人は、本件審判の請求後、本件商標権に関し請求人と和解し、本件商標権を被請求人に戻している旨述べているところがあるが、たとえ本件商標権が被請求人に戻ったとしても、それをもって本件商標権を公共性を有する請求人に帰属させるべきとする文部科学省の行政指導や請求人の移転要請に応えているわけでもなく、また、第三者3名に権利移転したという上記事実は一般社会の知るところとなっており、その時点での社会的信用の失墜が消えたわけではない。よって、その主張は採用できない。
キ 小括
したがって、本件商標は、平成21年11月16日に、商標法第4条第1項第7号に該当するものとなったものである。

3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、その商標登録がされた後において、商標法第4条第1項第7号に該当するものとなったものであるから、その余の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項第5号の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-11-30 
結審通知日 2011-12-05 
審決日 2012-01-19 
出願番号 商願平4-293731 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (041)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 清 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 小畑 恵一
鈴木 修
登録日 1995-09-29 
登録番号 商標登録第3074190号(T3074190) 
商標の称呼 ニッポンカンジノーリョクケンテーキョーカイ、カンジノーリョクケンテイキョーカイ、ニッポン 
代理人 山田 威一郎 
代理人 菱田 健次 
代理人 松村 信夫 
代理人 坂本 優 
代理人 藤原 正樹 
代理人 中務 尚子 
代理人 菱田 基和代 
代理人 佐藤 歳二 
代理人 山下 忠雄 
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 

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