• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013890086 審決 商標
無効2013890085 審決 商標

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X30
管理番号 1290707 
審判番号 無効2013-890084 
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-11-26 
確定日 2014-08-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5328733号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5328733号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5328733号商標(以下「本件商標」という。)は、「PINK CHAMPAGNE」の欧文字と、該文字より小さく「デシーマジャパン株式会社」の文字を2段に書してなり、平成21年8月31日に登録出願、第30類「シャンパーニュ地方で作られた発泡性ロゼワイン入りの菓子及びパン」を指定商品として、同22年5月6日に登録査定、同年6月11日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第45号証(枝番を含む。)を提出した(なお、甲号証において、枝番を有するもので、枝番のすべてを引用する場合は、以下、枝番の記載を省略する。)。
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は、以下のとおり、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきである。
(2)無効原因
ア 原産地統制名称又は原産地表示としての「シャンパン(CHAMPAGNE)」
(ア)原産地統制名称又は原産地表示の統制と保護
請求人は、「シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会」を意味する「COMITE INTER PROFESSIONNEL DU VIN DE CHAMPAGNE」(略称「C.I.V.C.」。審決注:アクサン記号は省略した。以下同じ。)の名のもとに、フランス国シャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益の保護を目的の一つとして設立されたフランス法人である(甲2?甲5、甲24、甲33)。
フランスにおいては、原産地統制名称又は原産地表示が厳格に統制されており、その中核をなすのが、1935年に制定された原産地統制呼称法(Appellation d’Origine Controlee)である(甲6?甲8、甲14、甲15、甲18、甲25の5(215頁)、甲33、甲37)。この法律は優れた産地のぶどう酒を保護・管理することを目的とし、政府の機関INAO(Institut National des Appellation d’Origine)によって運用されている(甲2、甲9、甲34の2、甲37、甲38)。同法において原産地統制名称ぶどう酒(A.O.C.)は、原産地、品質、最低アルコール含有度、最大収穫量、醸造法等の様々な基準に合うように製造されなければならず、その基準に合格してはじめてA.O.C.名称を使用することができる。しかし、鑑定試飲会の際に不適当であるとみなされたものは、名称使用権利を失うことになっており、厳格な品質維持が要求されている。原産地統制名称は、産地の名称を法律に基づいて管理し、生産者を保護することを第一の目標とし、また名称の使用に対する厳しい規制は、消費者に対して品質を保証するものとなっている。
また、ヨーロッパにおいては、限られた地域で特定の材料・製法により生産される農産物等の伝統的特産物が数多く存在している。かかる伝統的特産物には、他の地域の産物との区別のため産地名が使用され、特に良質な産品については国際的に名声を得たものについて、その産地を保護する必要性が生じてきたことから、ヨーロッパ連合は、1992年に農産物の原産地表示保護のために理事会規則2081/92号を制定した。本規則で保護される原産地表示は、本規則にて定められた品目に限られ、EC委員会において審査された後、「保護地理的表示(protected geographical indication)」ないしは「保護原産地呼称(protected designation of origin)」として登録された場合、規則2081/92号の保護対象となりヨーロッパ全土で保護される。なかでも「保護原産地呼称」として認定されるためには、定められた製法で生産・加工・調整されることを要するといった非常に厳格な基準が設けられている。上記のとおり、ヨーロッパでは、原産地表示保護のための独自の制度を設けることにより、原産地表示を手厚く保護している(甲10)。「Champagne」(シャンパン)は、最も厳しい基準を要求される「保護原産地呼称」として認定され、ヨーロッパにおいて保護されている(甲11)。
(イ)「シャンパン」表示の著名性及び顧客吸引力
「シャンパン」(CHAMPAGNE)は、原産地統制呼称法による原産地統制名称であり、シャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒にのみ使用を許される名称であって、この表示を付した商品「シャンパン」は、我が国においても広く販売されており、産地を表示する標章の代表的なものの一つとして極めて著名となっている(甲12?甲37)。
以上のことから、「CHAMPAGNE(シャンパン)」が、(a)フランス北東部の地名であり、同地で作られる発泡性ぶどう酒をも意味する語であること、(b)生産地域、製法、生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称であること、(c)「CHAMPAGNE」を表す邦語として「シャンパン」が普通に使用されていること、(d)シャンパンが発泡性ぶどう酒を代表するほど世界的に著名であること、(e)我が国において数多くの辞書、事典、書籍、雑誌及び新聞等においてシャンパンについての説明がされていることなどが認められ、これらを総合すると、我が国において、「CHAMPAGNE(シャンパン)」の表示は、「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、一般需要者の間に広く知られているというべきである。
イ 商標法第4条第1項第7号該当性について
(ア)商標法第4条第1項第7号の趣旨
商標法第4条第1項第7号は、その商標の構成自体が矯激、卑わいな文字、図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、その時代に応じた社会通念に従って検討した場合に、当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反する場合、あるいは他の法律によってその使用が禁止されている商標、若しくは国際信義に反するような商標である場合も含まれるものとみるのが相当と解されている(甲38及び甲39)。
また、知財高等裁判所は、いかなる商標が商標法第4条第1項第7号公序良俗に反するかは、以下のとおり、5つの具体的事情を考慮して検討すべきとの指針を示している。「(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」(平成17年(行ケ)第10349号、平成18年9月20日判決:甲40)
さらに、どのような商標登録が特定の国との国際信義に反するかどうかについても、「当該商標の文字・図形等の構成、指定商品又は役務の内容、当該商標の対象とされたものがその国において有する意義や重要性、我が国とその国の関係、当該商標の登録を認めた場合にその国に及ぶ影響、当該商標登録を認めることについての我が国の公益、国際的に認められた一般原則や商慣習等を考慮して判断すべきである。」と上記判決の中で判示した。
(イ)著名な原産地名称についての保護
「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字は、前記アのように著名なフランスの原産地統制名称として、その使用が厳格に管理・統制されているものであって、請求人やINAOらによる長年にわたる厳格な品質管理・品質統制の努力の結果、高い名声、信用、評判が形成されているものであり、ぶどう酒の商品分野に限られることなく一般消費者に至るまで、世界的に著名な原産地名称である。
原産地名称は、商品が産出された土地の地理的名称をいい、商標とは地理的名称に限定されること及びその商品の品質、社会的評価、その他の特性が、産出地固有の気候、地味等の自然条件又は産出地の人々が有する伝来の生産技術、経験若しくは文化等の人的条件といった地理的要因に基づくこと等の点において異なるが、商標とは、商品の出所表示機能、品質保証機能及び広告機能を有する点において、共通しているものと考えられる。そうすると、原産地名称のうち、著名な標章については、著名商標の有するこれら機能が商標法によって保護されているのと同様に保護されることが望ましいというべきである(甲42の2等)。
したがって、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」には、著名な原産地名称を含む表示からなる商標を同法第4条第1項第17号によって商標登録を受けることができないとされているぶどう酒又は蒸留酒以外の商品に使用した場合に、当該表示へのただ乗り(フリーライド)又は当該表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがある等、公正な取引秩序を乱すおそれがあると認められるものや国際信義に反すると認められるものも含まれると解すべきである。
故に、著名な原産地名称を原産地と離れた特定個人又は企業が自己の商標として登録し使用することは、商標法第4条第1項第7号に該当するものとして、認められるべきではなく、商標法の下、著名な原産地名称については保護されるべきである。
(ウ)本件商標
本件商標は、前記の著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」の文字を含んでいる。「PINK CHAMPAGNE」と「デシーマジャパン株式会社」は、上下2段に書されていること、文字の大きさが異なること、欧文字と和文字という異なる種類の文字で書されていることから、本件商標は、「PINK CHAMPAGNE」と「デシーマジャパン株式会社」が視覚上分離して認識される外観的要素があるだけでなく、本件商標を一連に発音した場合に生じる「ピンクシャンパンデシーマジャパンカブシキガイシャ」は非常に長く、称呼上も、部分的に簡略化される可能性が高いものである。したがって、本件商標は、「PINK CHAMPAGNE」と「デシーマジャパン株式会社」に分離して観察されるべきものである。さらに、既述のとおり、「CHAMPAGNE」は、著名な原産地統制名称であって、誰もが発泡性ぶどう酒又はその著名な原産地統制名称と理解するものであり、「PINK」は、商標権者が本件商標の指定商品の記載を「ロゼワイン入りの」ものに補正しているように、「CHAMPAGNE」の種類を表す記述的なものであり、また、「デシーマジャパン株式会社」は、指定商品との関係を考慮しても、「CHAMPAGNE」のような著名性を獲得したものではない。
そうすると、本件商標において、取引者・需要者の注意を引く部分は「CHAMPAGNE」であるから、本件商標に接した取引者・需要者は、「CHAMPAGNE」の部分に強く印象付けられ、ここから発泡性ぶどう酒又はその著名な原産地統制名称を想起連想して、著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」を含む商標という印象をもって取引にあたると考えられる。このことは、「PINK CHAMPAGNE」が視覚的に注目されやすい上段大きく表されていることから、より強く首肯される。
したがって、本件商標は、その構成上、「CHAMPAGNE」の文字部分が強く看者の印象に残るものというべきである。
(エ)本件商標は国際信義に反する
前述のとおり、「CHAMPAGNE(シャンパン)」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国において著名な原産地統制名称として一般需要者の間に広く知られているものであり、したがって、極めて高度な商品の出所表示機能、品質保証機能及び広告機能を有するため、商標法によって保護されるべきものである。
また、本件商標における「デシーマジャパン株式会社」は、商標権者の名称であって、指定商品の出所を表示する部分であるから、一般的にはいわば一種の打消表示的な部分と考える余地もあるが、「特別法コンメンタール不正競争防止法」(甲34)に記載されているとおり、「『シャンパーニュ』と発泡葡萄酒のように、地名と商品との結びつきが極めて強固である場合などは、いかなる打消表示によっても、原産地誤認のおそれは排除されない」としている。
したがって、本件商標は、たとえ「シャンパーニュ地方で作られた発泡性ロゼワイン入りの菓子及びパン」について使用された場合であっても、上記原産地統制名称の稀釈化をきたすおそれがあるため、国際信義に反するといわざるを得ないものである。
(オ)裁判例並びに特許庁の異議決定及び無効審決
a.知的財産高等裁判所平成24年12月19日判決(平成24年(行ケ)第10267号:甲38)は、「飲食物の提供」等を指定役務とする商標「シャンパンタワー」につき、同商標は国際信義に反するものであるから商標法第4条第1項第7号に該当すると判断した特許庁の無効審決を支持する判断をした。
b.審決及び異議決定は、「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字をその構成に含む商標については、その指定商品・指定役務を問わず、商標法第4条第1項第7号に該当するという実務が定着しているといえる(甲41)。かかる過去の審決及び異議決定の例にかんがみても、「CHAMPAGNE」の文字を含む本件商標は、当該表示へのただ乗り(フリーライド)又は当該表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、国を挙げてぶどう酒の原産地名称または原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあるというべきであるから、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるとして、公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。
(カ)諸外国でのケース
著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」が、その著名標章の信用へのフリーライドから引き起こされる不利益から保護されるべきであることは、請求人らがフランス・イギリス・スイス等において提訴した事件において認められている(甲2、甲3、甲8及び甲44)。
2 むすび
以上のとおり、著名な原産地統制名称「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」は、フランス国の政府機関たる請求人やINAO等による不断の努力によって、高い名声・信用・評判が維持されているのであって、これを、原産地とかけ離れた特定個人が自己の商標として登録し使用することは、公序良俗を害するものであるというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対し何ら答弁していない。

第4 当審の判断
1 フランスにおける「CHAMPAGNE」(シャンパン)の名称の保護について
(1)請求人の提出した証拠(各項の括弧内に掲記)によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 請求人は、「シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会」を意味するC.I.V.C.の名の下に、フランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益の保護を目的の一つとして設立された法人である(甲2?甲5)。
イ 「CHAMPAGNE」(シャンパン)が、フランスの原産地統制呼称法による原産地統制名称であって、フランスのシャンパーニュ地方で収穫されたぶどうで作られた発泡性ぶどう酒にのみ使用を許される名称であることに関する主な証拠は、以下のとおりである。
(ア)「明治屋酒類辞典」(昭和63年8月1日、株式会社明治屋本社発行:甲15)の「Champagne(仏)(英)シャンパン」の項目(201、202頁)には、「フランスの古い州の名『シャンパーニュ』をとってワインの名に用いたものである。現在『統制された名称』であって、何ら形容詞を付けないで単に『シャンパーニュ』と称する資格を有するのは、マルヌ県の一定地域のブドウを原料にし、その地域内で、『シャンパン法』でつくった『白』スパークリング・ワインである。最高生産量にも制限があって、それを越えた部分には形容詞がつく。」との記載があり、「統制名称」の項目(209?211頁)には、「シャンパンは、詳しくは『ヴァン・ド・シャンパーニュ』であるが、『シャンパーニュ』という地名を名乗るには資格がいる。1908年(明治41年)初めて法律ができて、『シャンパーニュ』という名称が『法律上指定された』名となった。ついで1911年、『スパークリング・ワイン』を次の4段階に区分し、1927年(昭和2年)その表記法が定められた。・・・要するにシャンパンの条件は1(○に数字が表示されている。以下同じ。)シャンパン地区の生産であること。2シャンパン法(ビン内で後発酵を行い、発生したガスをビン内に封じ込める)で製造したものであること。3白ワインであること。・・4その年度の最高の生産高に制限があること、の4条件を具えなければならない。・・・戦前、わが国でもシャンパンの名称を乱用した歴史があるが、敗戦の結果、サンフランシスコ講和条約の効果として、マドリッド協定に加入を余儀なくされ、以来フランスの国内法を尊重している。」との記載がある。
(イ)「『CHAMPAGNE』に関するフランス国条例」(1936年6月29日:甲6訳文)には、「第1条:『シャンパーニュ』の原産地統制名称は・・1927年7月22日の法律の第5条によって制限された領域で生産されたぶどう酒に限って使用する権利を有する。政府機関(Institut national des appellations d’origine)の委員会(la comite nationale des vins et eaux-de-vie)によって認定された、ヴィトリ-ル-フランソワ県の生産地で収穫されたぶどうでつくられたぶどう酒についてのみ、原産地統制名称『シャンパーニュ』を使用する権利がある。」との記載がある。
(ウ)「原産地統制称呼の認定」(1935年7月30日デクレ:甲7)には、「第20条:ワイン、オー・ド・ヴィ原産地名称国立委員会が設立され、これに法人格が与えられる。[国立委員会は1947年7月16日付デクレの規定に従い、ワイン、オー・ド・ヴィ原産地名称国立研究所とする。]」、「農事法典第3章 原産地名称国立研究所/L641-5条」(甲9)には、「原産地名称国立研究所は、法人格を有する公立行政機関である。」を内容とする記載がある。
また、「1985年、制定50周年を迎える原産地統制名称(AOC)」(甲36)には、「原産地統制名称とワインおよびオー・ド・ヴィ原産地名称国立研究所(INAO)」は、その任務として、「1.AOCワインおよびオー・ド・ヴィの承認を行う。」、「2.原産地名称ワインを発生し得る災害から保護する。」ことが記載されており、「フランス原産地統制名称の国際的保護のためのINAOのアクションに関するメモ」(甲37)には、INAOがフランス国内に限らず外国においても「Champagne/シャンパーニュ」等の名称について権利のない製品を流通させるための、原産地統制名称の使用に異議を申し立ててきたことが記載されている。
(エ)「C.I.V.C.のウェブページ」(平成13年11月22日プリントアウトされたもの:甲3)には、「『CHAMPAGNE』のAOC(原産地統制呼称法)による保護は、最初に受け入れられた。」、「AOCはINAOによって、管理運営されている。地区の境界決定と同様に、シャンパーニュ地方産のワインの品質を維持するために35のルールが運用されている。」、「3種のブドウの品種だけが許可され、ブドウ畑での生産量及びワインとして加工する量ともに制限され、ブドウの収穫量、ブドウの木の高さ及び間隔及び密度、手作業による収穫、熟成期間の最短期間の全てがコントロールされている。」、「C.I.V.C.の任務の一つは、世界中どこにおいても、『CHAMPAGNE』の名称の独自性に対する攻撃から『CHAMPAGNE』という名称を守ることである。」を内容とする記載がある。
「The Laws Governing Champagne」には、「名称/それぞれの村のワイン生産の歴史に従って、1927年にシャンパーニュ地方のワイン畑は法律的に定義された。1927年以降は、『Chardonnay』『Pinot Noir』『Pinot Meunier』の3つのブドウの種類だけが認められていた。」、「保護/・・CHAMPAGNEの生産者及び販売者を代表する同業組合であるC.I.V.C.の任務の一つは、『CHAMPAGNE』という名称の排他的な性質を保護することにある。」を内容とする記載がある。
(オ)「Vins et Spirituenx de France/フランスのワインとスピリッツ」(1987年、フランス食品振興会発行:甲18)の18頁ないし20頁には、「EC(欧州共同体)の規則に従って、ワインはテーブル・ワインとV.Q.P.R.D.(指定地域優良ワイン)の2つの等級に分類される。フランスでは、この2つの等級がさらにそれぞれに2分され、『A.O.C.(原産地統制名称ワイン)』『V.D.Q.S.(上質限定ワイン)』『ヴァン・ド・ペイ(地酒)』『ヴァン・ド・ペイをのぞいたテーブルワイン』の4つに分けられる」旨の記載があり、V.D.Q.S.(上質限定ワイン)は、原産地名称国立研究所(I.N.A.O.)によって、厳しく規制されパスしたものに限られ、製造の条件は、地域ごとに厳密に決定されており、法令化されていること、A.O.C.(原産地統制名称ワイン)は、その製造が、V.D.Q.S.ワインに適用される規制よりさらに厳格な規則を充たすものでなければならず、原産地、品種、最低アルコール含有度、最大収穫量、栽培法、剪定、醸造法及び場合によっては熟成条件などの基準が決定されていること、原産地域がV.D.Q.S.ワインの場合よりさらに厳しく限定されていること、名称を使用することができるためには、様々な基準に合うように製造され、さらに鑑定試飲会の検査に合格しなければならないこと、などの記載がある。また、同20頁の「産地別A.O.C.ワイン一覧表」には、「シャンパーニュ/CHAMPAGNE」の文字の記載がある。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、「CHAMPAGNE」(シャンパン)は、フランスの原産地統制名称であって、さまざまな品質規制が導入され、フランスのシャンパーニュ地方で収穫されたぶどうで作られた発泡性ぶどう酒の中でも鑑定試飲会の検査に合格したもののみに使用を許される名称であるところ、1927年以降は、シャンパーニュ地方で生産された「Chardonnay(シャルドネ)」、「Pinot Noir(ピノ・ノワール)」及び「Pinot Meunier(ピノ・ムニエ)」の3種のぶどうのみが原料として認められ、その年度の最高の生産高等に制限がある。
すなわち、フランスにおいては、1908年(明治41年)に、「シャンパーニュ」という名称が法律上指定され、その後、発泡性ぶどう酒(スパークリングワイン)の表記法が定められた。そして、1935年(昭和10年)に、優れた産地のぶどう酒を保護・管理することを目的として、原産地統制呼称法(AOC)が制定され、政府機関である原産地名称国立研究所(INAO)により運用されている。原産地統制名称ぶどう酒は、原産地、品質、最低アルコール含有度、最大収穫量、醸造法等の様々な基準に合うように製造されなければならず、その基準に合格して初めて原産地統制名称を使用することができ、厳格な品質維持が要求されている。原産地統制名称は、産地の名称を法律に基づいて管理し、生産者を保護することを第一の目標とし、また名称の使用に対する厳しい規制は、消費者に対して品質を保証するものとなっている。
このように、「CHAMPAGNE」(シャンパン)は、1935年(昭和10年)に制定された法律等に基づき、原産地名称国立研究所(INAO)の運用のもと、厳格な基準に合致した発泡性ぶどう酒にのみ許された原産地統制名称である。
2 我が国における「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の表示の著名性について
(1)請求人の提出した証拠(各項の括弧内に掲記)によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 辞書、事典類
(ア)前出「明治屋酒類辞典」(甲15)、「フランスのワインとスピリッツ」(甲18)のほか、以下のものがある。
(イ)「コンサイスカタカナ語辞典」(1996年10月1日、株式会社三省堂発行:甲12)の「シャンパン」[champagne]の項目(437頁)には、「発泡ワインの1種、フランス北東部シャンパーニュ地方産の美酒。・・・シャンペンとも。・・・シャンパーニュ地方以外でつくられる発泡ワインはスパークリング-ワインと呼んで区別される。」との記載がある。
(ウ)「広辞苑 第6版」(2008年1月11日、株式会社岩波書店行:甲13)の「シャンパーニュ」(Champagne)の項目(1310頁)には、「フランス北東部、パリ盆地東部の地方(州)。ブドウ栽培・シャンペン製造で知名。」との記載があり、また、「シャンパン」(champagne)の項目(同頁)には、「発泡性の白葡萄酒。厳密にはフランス北東部シャンパーニュ地方産のものを指す。発酵の際に生じた炭酸ガスを含み、一種爽快な香味がある。祝宴の乾杯などに用いる。」との記載がある。
(エ)「新版 世界の酒事典」(1982年5月20日、株式会社柴田書店発行:甲14)の「シャンパン」(Champagne)の項目(228頁)には、「フランスのシャンパーニュ地方でつくられているスパークリング・ワイン。正式の名称をバン・ド・シャンパーニュ(Vin de Champagne)という。世界の各地で、各種のスパークリング・ワインがつくられているが、このうちシャンパンと呼ばれるものは、フランスのシャンパーニュ地方、特にプルミュール・ゾーン(ランス山とマルヌ谷との一等地)、ドゥジェーム・ゾーン(マルヌ県のうち一等地以外の村落群)産のスパークリング・ワインにかぎると1911年の法律で定められている。」との記載がある。
(オ)「洋酒小事典」(昭和56年6月15日、株式会社柴田書店発行:甲17)の「シャンペン Champagne」の項目(95頁)には、「フランスのシャンパーニュ地方でつくられているスパークリング・ワインの総称。」との記載がある。
イ 雑誌等
(ア)「ワイン紀行」(1991年9月25日、株式会社文藝春秋発行:甲16)の「シャンパーニュの村」の項目には、シャンパンの歴史及び製造過程についての記載がある。
(イ)「料理王国1月号別冊(季刊ワイン王国 NO.5)」(2000年1月20日、株式会社料理王国社発行:甲24)の「シャンパン味わいの多様性チャート」の項目(80頁)には、「ひとくちにシャンパンといっても一様でないのはそれもそのはず、シャンパーニュ地方ワイン生産同業委員会(CIVC)がまとめているすべての醸造元の数は5200にものぼる。委員会は、シャンパン消費量上位10カ国に外国事務所をおいて、『シャンパンと呼べるのは、シャンパーニュ地方産スパークリングだけ』ということを訴えてきたが、’93年頃から『5200の醸造元があれば5200様のシャンパンがある』ということもアピールするようになった。」との記載がある。
(ウ)「The 一流品 決定版」(1986?1989年、読売新聞社発行:甲26の1?4)には、「スパークリングワイン、発泡性で炭酸ガスを多量に含んだワインである。いちばん有名なのがシャンパン。フランスではマルヌ、オーブ、エーヌ、セーヌ・エ・マルヌ四県のぶどう畑でとれたものを原料にしたものだけをほんとうのシャンパンと証明している。」などの記載がある。
(エ)その他、「家庭画報特選 Made in EUROPE ヨーロッパの一流品 女性版」(昭和57年11月1日、株式会社世界文化社発行:甲27)、「家庭画報編女性版 世界の特選品’84」(昭和58年11月1日、株式会社世界文化社発行:甲28)においても、シャンパンがフランスのシャンパーニュ地方で作られるスパークリング・ワインであり、その歴史や製造過程などについて詳しく記載され、また、「男の一流品大図鑑」(’86年版?’88年版、株式会社講談社発行:甲29?甲31)にも、シャンパンについて掲載されている。
さらに、「はじめてのシャンパン&シェリー」(1999年、株式会社宙出版発行:甲32)の「一目で分かるシャンパンのデータ」の項目(132頁)には、フランスからの総出荷量は、1993年が22909万本(1本当たりの容量は750ml、以下同じ。)、1998年が29246万本であって、この間ゆるやかに上昇を続けている旨の記載があること、1998年におけるフランスからの国別出荷量、上位10カ国のうち、我が国への出荷量は、イギリス、ドイツ、アメリカ、ベルギー、スイス、イタリアに次いで298万本であること、等の記載がある。
ウ 新聞
(ア)1989年(平成元年)1月5日付け日本経済新聞(甲33の1)には、「シャンパン(産地)」の見出しの下に、「シャンパンはフランス・シャンパーニュ地方で造られたスパークリングワイン(発泡酒)のこと。」との記載がある。
(イ)1989年(平成元年)6月13日付け日本経済新聞(甲33の2)には、「シャンパン人気急上昇-発泡性ワイン、輸入量5割増(アーバンNOW)」の見出しの下に、「現在ではフランスの原産地名称国立研究所(INAO)により、『シャンパン』と名のれるのはその“生誕地”シャンパーニュ地方の発泡性ワインのみと規定されている。」との記載がある。
(ウ)1990年(平成2年)11月16日付け朝日新聞(甲33の5)には、「商品の外国地名使用ご用心(素顔のウルグアイ・ラウンド)」の見出しの下に、「祝賀パーティーの乾杯に欠かせないシャンパンといっても、厳密には『シャンパン』と『スパークリング(発泡性)ワイン』の区別がある。・・前者はフランスのシャンパーニュ地方産、後者はそれ以外の国や地域で醸造されたものをさす。・・欧州共同体(EC)は、『スパークリング・ワイン』を勝手に『シャンパン』として売るな、と主張している。・・アルコール類などの『産地名』に対する保護は、欧州諸国が約100年前につくったマドリード協定でうたわれている。『シャンパン』と『スパークリング・ワイン』との区別も、この協定に沿ったものだ。」との記載がある。
(エ)1991年(平成3年)年4月27日付け朝日新聞(甲33の6)には、「スパークリングワイン 手ごろな値段で楽しめる(カタログ)」の見出しの下に、「・・スパークリングワインが最近、人気を集めています。お祝いの席の乾杯の酒から、友人たちといつでも気軽に楽しめる飲み物に変わってきているようです。代表的な銘柄であるシャンパンの高級品は1本数万円しますが、・・・」との記載があり、「シャンパンはシャンパーニュ地方で、瓶内発酵法によってつくるなど、法律で基準が細かく決まっており、この地方以外でつくられるスパークリングワインをシャンパンと呼ぶのは禁止されている。」との記載がある。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、我が国において数多くの辞書、事典、雑誌及び新聞などにおいて、「CHAMPAGNE」及びその片仮名表記である「シャンパン」の語は、フランス北東部の地名であり、ワインとの関係では、同地で作られる発泡性ぶどう酒を指称するものとして、載録、紹介されている。
さらに、はじける泡や優雅な味と香りが魅力であることなどから乾杯用としてシャンパンが用いられることが多いこと、及び我が国の1998年におけるシャンパン輸入量が世界第7位で298万本と多いことなどが認められ、これらを総合すると、「CHAMPAGNE」及びその片仮名表記である「シャンパン(又はシャンパーニュ)」の語は、我が国において、本件商標の登録出願日である平成21年8月31日はもとより、その登録査定日である平成22年5月6日においても、「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、高い名声、信用、評判が化体され、一般の需要者の間に広く知られていたものと認めることができる。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、前記第1のとおり、「PINK CHAMPAGNE」の欧文字と、該文字より小さく「デシーマジャパン株式会社」の文字を2段に書してなるところ、その構成中の「PINK CHAMPAGNE」の文字部分と「デシーマジャパン株式会社」の文字部分とは、文字の大きさ及び文字の種類を異にするばかりか、2段に表された両文字間に観念上密接な関連性が有するものではなく、また、本件商標の構成全体から生じる「ピンクシャンパンデシーマジャパンカブシキカイシャ」の称呼が冗長といえるものであるから、「PINK CHAMPAGNE」及び「デシーマジャパン株式会社」の各文字部分が、それぞれ独立して、看取される。
そして、「PINK CHAMPAGNE」の文字部分のうち、「CHAMPAGNE」の文字部分は、前記1及び2において認定したとおり、フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒を意味する語であって、請求人を始めとするシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒類製造業者らの努力により、「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の表示に周知著名性が蓄積、維持され、それに伴って高い名声、信用、評判が化体されているということができ、このことは、我が国においても、同様のことがいえる。
してみると、商標権者は、本件商標の構成中に「CHAMPAGNE」の欧文字を含ませることによって、上述したような「CHAMPAGNE」に化体された高い顧客吸引力を期待するとともに、商品に高級感などを看取させるために採択したとみるべきであって、もっぱら自己の業務を有利に展開しようとする意図のもとに本件商標の登録出願をし、登録を得たものと推認せざるを得ないものである。
そうとすれば、本件商標は、その登録出願の経緯に社会的妥当性を欠き、公正な取引秩序を乱し、公の秩序を害するものというのが相当である。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 むすび
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-05-29 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-23 
出願番号 商願2009-66177(T2009-66177) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (X30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小松 孝 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 田中 亨子
寺光 幸子
登録日 2010-06-11 
登録番号 商標登録第5328733号(T5328733) 
商標の称呼 ピンクシャンパーニュ、ピンクシャンパン、デシーマジャパン、デシーマ 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 中村 勝彦 
復代理人 阪田 至彦 
代理人 田中 克郎 
代理人 池田 万美 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ