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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2012890092 審決 商標
無効2012890113 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X05
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X05
管理番号 1287592 
審判番号 無効2012-890114 
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2014-04-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第5442545号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5442545号商標(以下「本件商標」という。)は、「バスメロディー」の文字と「アニメソング・童謡の歌」の文字とを2段に書してなり、平成23年4月19日に登録出願され、第5類「入浴剤」を指定商品として、同年9月2日に登録査定、同年10月7日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を審判請求書、口頭審理陳述要領書(口頭審理における陳述を含む。)並びに平成25年7月24日差出及び同年9月11日付けの各上申書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第111号証(枝番号を含む。ただし、甲第43号証ないし甲第49号証については欠号。)を提出している。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
2 無効原因
(1)被請求人は、同人の夫と結託し、請求人の開発による商品であることを認識しながら、自己の名で本件商標を剽窃出願・登録したものであって、かかる行為は、公序良俗に反するものである。
本件商標は、「バスメロディー」との文字からなり(審決注:本件商標は、第1で述べたとおり、「バスメロディー」の文字を含むものである。)、その指定商品を「入浴剤」とするものであるが、請求人は、「バスメロディー」との商品名称又はシリーズ名称(以下「請求人商標」ということがある。)である「入浴剤」(以下「本件商品」という。)を昭和50年代より製造・販売してきている。現在では、請求人が製造・販売する入浴剤には、いずれも商品パッケージ上に請求人商標が付されている。
そして、被請求人の夫である井上誠(以下「M」という。)は、平成14年より請求人と業務委託関係にあり、請求人が製造・販売する入浴剤商品についての営業業務に従事してきた者であるが、請求人商標については、Mが業務上の関係を持つよりはるか以前から、請求人において使用されてきたものである。
他方で、被請求人自らは、本件商品の製造・開発に一切関わったことはなく、また、現に本件商品を製造・販売しておらず、商標を取得する必要性も存在しない。
この点、Mは、請求人の製造・販売する製品がいずれも商標を取得していないことを熟知しており、同人は、自己と妻の名義で商標を取得したことを、請求人の取締役らの前でも認めている。
さらに、本件商標のほかにも、請求人の製造・販売する商品の名称である「肩こり・腰痛のお風呂」を被請求人が、「7日間 癒しの旅」をMが、それぞれ平成23年6月20日、同22年12月10日に商標出願し、登録されているというように、被請求人及びMは、複数の商標を近接して登録出願している。
加えて、被請求人は、同24年9月5日にも、「入浴剤」について「温院の湯 肩こり腰痛のお風呂」なる標章を登録出願しており、本件商標との類似性から見ても、請求人に対する害意がみて取れる。そして、Mも同日に、「入浴剤」について「日本全国有名温泉 癒しの宿」なる標章を登録出願している。
以上の経緯からも明らかなように、被請求人は、Mと結託し、当初より請求人の開発による商品であることを認識して、これを自己の名で、剽窃出願・登録したものであるから、かかる行為態様は、公序良俗に反するものというべきである。
(2)上述のとおり、請求人は、本件商品を昭和50年代より製造・販売してきており、卸売業者への出荷エリアでも東海三県を中心に関東から九州まで取引を行い、また、小売りでも、ドラッグストアやディスカウントストアで、広く取り扱われており、さらには、各種ギフト用カタログヘの掲載や、インターネットショッピングでの取扱いもなされており、全国規模でも一定の認知がなされている。
それに加え、昭和60年代からは、東海地区でテレビ及びラジオのコマーシャルを展開し、「アサヒ・バスメロディー」、すなわち、請求人商品であるとして広く一般消費者の認識するところとなっている。
そうである以上、本件商標が使用されると、その商品が請求人の取扱いに係るものと誤認させ、その出所について混同を招くおそれがあるというべきである。
3 口頭審理陳述要領書における主張
(1)総論
ア 請求人は、本件と併せて、3件の無効審判を請求している。別事件(無効2012-890113及び無効2012-890115)も、請求人の商品名を剽窃出願したというものであり、該別事件の被請求人は、前者がM、後者が本件被請求人であるところ、被請求人は、請求人との関係は一切なく、過去に入浴剤の製造・販売に関わったこともなく、本件及び別事件においても、Mが代理人として対応し、事情を説明している。また、被請求人による説明や弁解のための陳述書すら提出されていない。このことからすれば、本件についての実質的な当事者はMであり、同人の主張が被請求人の主張そのものなのである。
そして、Mによる3件の事件の主張というのは、基本的に共通するものであって、事実関係からしても、一体の事件である(甲95?甲100)。
イ 剽窃出願に対する被請求人の主張の大枠としては、(a)請求人社長(以下「社長」という場合がある。)と協力し、Mが自ら各商標の作成に関与したこと、(b)Mが社長に対して各商標の登録出願を進言したが、拒否され、その後、自らの名で出願することについて拒否されなかったから出願・登録した、というものであるが、これについては、以下の(2)において反論する。
ウ 剽窃出願による各商標が万一使用されるとすれば、請求人の商品である入浴剤との出所混同が生じることは明らかである。
(2)社長とMのやりとりの可能性がないこと
ア Mは、答弁書等で、本件商標の使用を社長に提案し、その後、出願・登録を提案し、さらには、自己名義での出願・登録を申し出たと述べている。
請求人がMを営業の外交員として業務の委託を開始したのは、平成14年3月である。また、「7日間癒しの旅」の発売時期は平成15年、「肩こり・腰痛のお風呂」の発売時期は平成20年であり、各商標の出願時期は、同22年12月以降である。しかしながら、社長は、平成16年初めに体調を崩したことから、ほかの社員が帰社した夕方ころに出社し、書類の確認及び押印をするという状態になっていた。そして、その後、平成21年1月には、出社することはなく、取引先とも従業員とも、日中直接会うことはなくなったため、業務上必要があれば、社長に対して、社長の長女(以下「N」という。)が用件を取り次ぐこととしていた。
このような時期及び状況の下に、社長が、商品のネーミング及び商標の取得うんぬんや商品開発について、直接に従業員ではないMと話をすることはできない状況であった。平成21年1月以降は、不可能であり、それゆえ、Mの主張は信憑性に乏しい。
イ 請求人は、社長が一代で築きあげた会社であり、その意向の下に商品ブランドの確立は行われてきた。Mは、一外注営業員であり、かつ、請求人業務への関与期間も短く、会社の事業の根幹である商品開発についてMの意見を聞くことは、一般論として考えられないことである。
すなわち、社長は、自社の商品開発には、並々ならぬ意識とこだわりをもっていた。このことは、「肩こり・腰痛のお風呂」のパッケージ制作過程において、社長自身の細かな書き込みによる指示がなされていることからも見て取れるところである(甲13)。
それゆえ、本件具体的な事情の下でも、社長が商品開発にあたり、Mの意見に逐一耳を貸すということ自体が考えられないのであり、ましてや、Mが主張するように「私と社長との話し合いで」(乙1)商品名を決定するなどという事実はなかった。
(3)Mの主張に具体性・現実性がないこと
ア Mは、本件商標に関するやりとりは、いずれも社長との間で行ったものである旨述べているが、いずれのやりとりについても、具体的な時期というのが一切不明確であり、商品の開発時期、商標の登録出願時期との関係は、全く明らかではない。
このことは、Mの主張が、具体的根拠に基づかないものであることを物語っている。
イ Mの立場は、外注の営業員にすぎず、このような立場からすれば、会社の商品開発や商標登録といった内容について、一般的に関与することはあり得ない。
この点において、Mの主張・弁解は、単に「提案した」あるいは「進言した」というものにすぎず、具体的な内容とはなっていない。
ウ 商品パッケージのデザインは、印刷会社ないしデザイン会社からの提案を受けて、それを基に修正を重ね、完成稿へと至るものであるため、請求人商品のパッケージデザインについて、Mの提案ないしは重要な関与はなく、被請求人からは、その立証もない。
(4)Mの主張と現実の行動との矛盾点等
ア Mの本件商標に係る登録出願の理由は、「防御するため」及び「会社の利益になる」という各点を挙げているが、実際には、Mが本件商標の登録を秘密裡に完了させた後の平成24年1月末ころ、Mから請求人取締役のNに対し商標の取得の事実が伝えられた。さらに、同年2月には、「肩こり・腰痛のお風呂」の入浴剤を販売するという意向が、突如として伝えられた。
もっとも、医薬部外品である入浴剤の製造販売を行うためには、品目ごとに厚生労働大臣(その委任を受けた都道府県知事)に申請をして承認を得る必要があるが、M及び被請求人において、その準備はしていないものと思われ、また、同人らの予定する製造内容や具体的営業行為については、不明であった。
しかも、Mは、請求人からの商標権譲渡の要求に対しても、これを拒否して、請求人である会社自体の業務から離れることとなった。
このように、Mは、その主張ないし弁解とは異なり、M自身の利益ないし目的のために、本件商標を取得したものというべき行動に終始している。
イ 被請求人名義での出願について
(ア)Mの説明によれば、「バスメロディー/アニメソング・童謡の歌」及び「肩こり・腰痛のお風呂」の各商標については、社長に対して、第三者から防御するため、「Mの名義で出願すること」を提言した、とのことである。
(イ)しかし、実際には、これら2商標については、被請求人の名義での出願がなされているのである。このことは、明らかに上記(ア)の説明内容と矛盾するものである。
(ウ)しかも、被請求人名義での登録出願の理由は、「近い将来において、被請求人とMは共同で、入浴剤の販売を予定しており、その業務の一翼を担うであろうことを想定しての出願である」というのであり、このことからは、Mが自己の利益を図る意図以外は、到底読み取れないのであって、この説明と上記(ア)の内容とは明らかに矛盾するものである。
(エ)さらに、本件及び別事件の商標の登録名義人でありながら、被請求人は、答弁書や陳述書を含めた本件審理に全く出てきておらず、主張・立証にも関与していない。このこと自体が、およそ不自然なものである。
ウ ロイヤリティーの要求について
Mは、本件商標の登録を行ったことを請求人側に明らかにした後、ロイヤリティーの支払いを暗に要求した。
なお、本件商標について、Mは、請求人に対し、無償使用の申出などは一切しておらず、結局のところ、Mの説明とは異なり、自己の利益のために商標を取得したというほかないものである。
(5)本件商標に係る被請求人の主張の問題点等
ア 大前提として、請求人は、請求人商標を請求人の全商品に付し、いわゆる入浴剤の一大ブランドとして、長期にわたり展開・確立してきたものである。
イ Mの説明からも明らかなように、請求人商標が存在し、実際に使用されていることは、Mもはっきりと認識しているところである。
その前提の下、請求人商標と本件商標の類似性を詳細に否定しようとすること自体が、M及び被請求人の剽窃出願・登録の意識を表すものである。
ウ 商品化と全く関係のない話であること
Mは、本件商標を販売促進のために商品名として提案した旨述べるが、当該商品名を付すべき商品そのものの開発の話は一切出ていないのであり、全く現実性がない。
(6)その他
ア 商標取得と販売実績との関係について
Mは、自らが歩合制の報酬を受けていたことを根拠に、M名義で商標登録をすることが会社とMの双方の利益になる旨弁解する(乙1)が、商標の登録がなされていることと販売実績の増加という点には、何らの関連性もなく、成立しない理屈である。
イ 録音反訳文について
Mは、Nらとのやり取りの中で、商品開発は、会社として行ったと発言し、また、商標登録出願を請求人に対して提言したがこれを断られたことも発言している一方で、自己名義での本件商標の出願・登録についての申出をしたことや、その承諾を受けたという、本件商標の剽窃出願に関するMの主張の根幹たる部分については、一切触れていない。
このことからも、Mが請求人に対して自己名義での商標登録出願についての話をしていないこと、すなわち、請求人に無断で商標登録出願を行ったことが認められる。
ウ 請求人商品の販売量等営業規模について
(ア)入浴剤を製造するには、薬事法に従った許可が必要となる。請求人の現存する許可証の写しとして、平成9年以降のものを提出する(甲51ないし甲58)。
(イ)入浴剤の販売のためには、販売商品ごとに承認が必要となるところ、請求人は、販売名「バスメロディーレモン」として、昭和59年10月3日付けで申請をし、同年12月21日に承認されている(甲59)。
同様に、甲第60号証ないし甲第83号証に示すものが承認されている。
(ウ)甲第84号証は、平成25年現在、請求人商品の各種入浴剤が、取引先を通じて、全国に販売されていることを示している。
例えば、中日物産株式会社(ギフト商品販売業者の大手企業)については、同社より指示ないしは仲介を受けて、販売先と継続的に取引をし、全国に販売している。
(エ)甲第85号証は、平成16年から同19年における請求人商品の各種入浴剤の販売数量及び売上金額を月別、年度別に示している。
(オ)甲第86号証ないし甲第91号証は、請求人商品の各種入浴剤の最近5年分の全体売上金額を月別に示している。
4 平成25年7月24日差出及び同年9月11日付けの各上申書における主張
(1)本件商品の売上げについて
甲第101号証は、本件商品について、平成22年度から平成24年度の各年度の売上金額及び入浴剤全体におけるシェアをまとめたものである。
(2)本件商品の販売地域について
ア 甲第102号証は、本件商品について、取引先である問屋ごとに最終の販売地域を整理した一覧表である。該販売地域は、甲第105号証及び甲第107号証で提出した送り状の発送先及び請求人において把握している情報を基に、都道府県レベルまで記載したものである。
イ 甲第108号証は、平成22年から同25年6月までの本件商品の個別の注文内容をまとめたものである。
ウ 甲第104号証及び甲第106号証は、甲第108号証から、平成24年10月分と同25年6月分をそれぞれ抜粋したものである。
(3)商標の周知性について
周知性の認定においては、「使用期間」、「使用地域」、「商品の製造・販売数量(売上高)」及び「宣伝広告の方法・回数等」などを総合して判断すると考えられるところ、これらを立証するための資料は、既に提出しているところである。
周知性の認定においては、当該業界におけるシェアも認定資料の一つとなるものと考えられるが、本件においては、かかるシェアを示すことはできない。
入浴剤というのは、現在は外国製商品も多数輸入販売されているという状況があり、また、業界団体としては、「日本浴用剤工業会」なる団体が存在するが、同団体は、任意加入のものであり、必ずしも会員数も多くないという状況であるため、一般的なシェアを計るということ自体ができない業種である。
また、請求人商品の売上げについて、取引先代理店(販売店)ごとの数字を示すことについては、販売地域や売上高という資料で十分であり、販売店ごとの数字を明らかにする必要性は見いだし難く、あえてこれを整理し、提出する必要はないものと考える。
さらに、「愛知県 入浴剤」との語について、インターネット検索を行うと、一番最初に出てくる業者が請求人であることからも、請求人は、少なくとも愛知県を中心とする中部圏での代表的な入浴剤業者として周知されていること、及び本件商品の周知性も、長年の使用期間、製造販売数量、宣伝広告等により、周知されていることが裏付けられるというべきである。
ウ 被請求人は、乙第2号証の18及び19において、2011年(平成23年)の入浴剤市場は、前年比2%増(前年比102%)の約390?400億円であると述べる一方で、乙第2号証の22では、2012年の入浴剤市場は前年比101.3%で511億円としているが、390億?400億円の101.3%であれば、395億700万円?405億2000万円となるのであり、明らかに整合性がない。
そうである以上、2012年の市場金額として被請求人が主張し、各種計算の根拠としている511億円という数字自体が、およそ疑わしいものであるといわざるを得ない。
エ 市場全体におけるシェアというものは、販売形態や流通形態によって様々に異なるものであり、例えば、一般の小売を中心とする場合と、ギフト商品を主力とする場合では、単純な比較はできない。すなわち、市場占有率イコール認知度というわけではない。
(4)被請求人名義での出願の理由について
Mは、同人の妻である被請求人の名義で商標登録出願を行ったことについて、その理由は、近い将来、同人ら夫婦は共同で入浴剤の販売を予定していたということであると述べているが、第1回口頭審理において、Mは、被請求人が入浴剤に関する業務を今後行う予定はないと述べる一方で、被請求人名義の出願としたのは、将来の権利移転の煩雑さを回避するとも主張し、全く異なった説明をしているのである。
このことから、Mの主張は、合理性に欠けるというべきである。
(5)口頭審理調書の記載について
口頭審理における請求人の陳述の要領中、第4項として、Mから商標登録出願の話があったことを覚えていないというNの発言が記載されているが、これは、質問に対応する形でのものであり、Nの発言の意味としては、Mから商標登録出願の話という事実自体がなかったということであり、商標登録出願の話があったかもしれないが覚えていないという意味ではないということを念のため指摘しておく。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を答弁書、口頭審理陳述要領書(口頭審理における陳述を含む。)及び上申書において、要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 答弁の理由
(1)請求人は、「被請求人は、同人の夫と結託し、請求人の開発による商品であることを認識しながら、自己の名で本件商標を剽窃出願・登録したものであって、かかる行為は、公序良俗に反するものである。」と主張する。しかし、被請求人が本件商標である「バスメロディー/アニメソング・童謡の歌」を剽窃出願・登録したものであるとの証拠は、以下に述べるとおり、何ら示していない。
(2)本件商標は、「バスメロディー」の片仮名を上段に横書きし、下段に該文字よりもやや小さく「アニメソング・童謡の歌」と片仮名、中点、漢字及び平仮名を横書きした2段の文字商標である。
これに対し、請求人商標は、片仮名で書された「バスメロディー」である。
称呼において、本件商標は、「バスメロディーアニメソング」、「バスメロディーアニメソングドーヨーノウタ」又は、「バスメロディードーヨーノウタ」の称呼を生ずるものであるのに対し、請求人商標は、「バスメロディー」の称呼を生ずるものであるから、両者は相違する。
また、外観において、本件商標は、2段書きであって、漢字と平仮名を含み、文字数も中点を含めて18と多いものであるのに対し、請求人商標は、1行であって、すべて片仮名であり、文字数も7にとどまるものであることから、両者は全く異なる。
さらに、観念において、本件商標は、旋律を意味する「バスメモリー」(審決注:正しくは「バスメロディー」である。)と、アニメ作品において使われる歌を意味する「アニメソング」及び子供向けの歌を意味する「童謡の歌」の観念が生ずる一方、請求人商標は、旋律を意味する「バスメモリー」(審決注:正しくは「バスメロディー」である。)との観念が生ずるのみであるから、両者は明らかに異なる。
したがって、本件商標は、請求人商標と同一又は類似するものでないことは明らかである。
なお、甲第1号証ないし甲第42号証を精査してみても、本件商標の文字はどこにも見当たらない。
(3)被請求人が本件商標を取得するに至った経緯については、M(審決注:被請求人は、「被請求人」と「M」とを混同して用いているが、主張の内容に照らし、以下、適宜修正して表示する。)が、請求人であるアサヒ晶脳株式会社に勤務し、営業を担当していた当時、社長に対し、入浴剤の商品名として「バスメロディー/アニメソング・童謡の歌」なる商標を使用することを進言したが、社長には受け入れられなかった。
Mは、商標制度の重要性を認識していたことから、この商標が、仮に第三者に権利化された場合には、使用できなくなることを危惧し、社長が商標登録出願する意思のないことを口頭で確認し、その上でMの名義で出願する承諾を受けて出願するに至ったものである。
また、出願人の名義を被請求人としたのは、近い将来において、被請求人とMは共同で、入浴剤の販売を予定しており、その業務の一翼を担うであろうことを想定しての出願であることがその理由である。
なお、被請求人は、本件商標を出願し、登録された場合は、請求人に対して無償の使用許諾を申し出ていたが、請求人は、本件商標を一度も使用することはなく、今日に至っている。
以上のことから、本件商標は、請求人から被請求人が剽窃出願・登録したものではなく、また、本件商標をその指定商品に対して使用することが公共の利益を害し、道徳観念に反するものでないことは明白である。
(4)請求人は、「本件商標が使用されると、その商品が請求人の取扱いに係るものと誤認させ、その出所について混同を招くおそれがある。」と主張するが、その証拠は示されていない。
また、請求人が「全国規模でも一定の認知がなされているものである」、「請求人商品であるとして広く一般消費者の認識するところとなっている」と主張するが、その商品名は、「バスメロディー」あるいは「アサヒ・バスメロディー」であって、本件商標とは、上述したとおり、非類似である。
したがって、本件商標を使用した場合、その商品が請求人の取扱いに係るものと誤認させ、その出所について混同を招くおそれは生じない。
なお、請求人は、請求人商標について、甲各号証によって周知、著名である旨を主張するが、これら証拠は、カタログやインターネット情報を利用した検索結果であったり、仕入れ帳の帳票であり、これらをもって請求人商標が我が国において需要者間に広く認識された商標ということはできない。例えば、カタログやインターネット情報を利用した検索結果には、印刷した日付は示されているが、本件商品の販売時期を確定する日付が示されていない。
(5)甲第5号証である録音反訳文は、請求人が、請求人とMとの会話を録音したものであるとして提出された証拠であるが、本件商標との係りが全く不明である。Mは、本件審判の請求書によって初めて、Mと請求人の打ち合わせが知らない間に録音されたことを知った次第である。
正に、請求人は、本件審判の請求の証拠とするために用意周到に準備し、会議において請求人が有利になるための言質を誘導し、Mにしゃべらそうと謀ったものであろうと思われる。
(6)以上述べたことから明らかなように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号のいずれにも該当せず、登録的確性を具備した商標であるというべきものである。
2 口頭審理陳述要領書における主張
本件商標を付した商品については、未発売である。そして、本件商標も請求人のものとしての知的財産の保護を目的とするために「バスメロディー」を冠のキャッチコピーにして商標登録出願をした。
請求人は、請求人の製造・販売に係る商品について、請求人が商標登録をしていないことを奇貨として剽窃出願・登録したものであり、かかる行為は公序良俗に反する旨主張しているが、被請求人は、当初からそのような意思は全くない。
仮に、そのような意思があったとすれば、本件商標の冠コピーに「バスメロディー」を表記せずに登録出願をしている。
3 上申書における主張
(1)本件商標の周知性について
平成24年度の本件商品の年間販売金額は、92,337,350円であるところ、これは、同時期における日本国内での入浴剤の市場規模(予測)約511億円(乙2の22)の中で占有率0.02%未満(審決注:被請求人は0.02%未満としているが、511億円における92,337,350円の占有率は約0.2%であった。)である(甲101の1)。
また、請求人の取引先である「株式会社Paltac中部支社」及び「株式会社あらた中部支社」における平成24年度の販売実績は、以下のとおりである。
ア 株式会社Paltac中部支社(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県及び北陸)
営業社員数(セールス)約150名中、「バスメロディー」の販売に係る者は、2?3名であり、また、その販売先企業も、Mが開拓した愛知県の食品スーパー(20店舗)及び静岡県の薬局(45店舗)であり、平成24年度の年間販売実績は、約500万円である。
イ 株式会社あらた中部支社(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県及び北陸)
営業社員数(セールス)約130名中、バスメロディーの販売に係る者は、4?5名であり、また、その販売先企業も、Mが開拓した岐阜県のホームセンター等(約50店舗)及び株式会社ユニーのPB商品として約100ないし150店舗である。
ウ 以上のとおり、「バスメロディー」の商品に関しては、取引業者間での全国的、一地方での周知性は全くない。取引業者間(卸店・小売店)での認知度は、販売金額に比例するものであり、メーカー側の判断での周知は認め難い。

第4 当審の判断
1 両当事者の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)本件商標及び請求人商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「バスメロディー」の文字と「アニメソング・童謡の歌」の文字とを2段に表してなるものであるのに対し、請求人商標は、「バスメロディー」の文字からなるものであるから、本件商標は、その構成中に、請求人商標と同一の文字である「バスメロディー」を含むものと認められる。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性に関して
ア 請求人とMとの関係について
請求人の取締役であるNは、請求人とMとの関係を要旨以下のように述べている(甲3)。
(ア)請求人とMとは、本件商品の販売につき、出来高払方式による業務委託契約を平成14年3月に締結し、Mは、請求人に従事することとなった。
(イ)平成24年1月末ころ、MからNに対し、同年4月から会社を起業しようとしている旨を告げられ、その際、「7日間癒やしの旅」をM名義で、また、「肩こり・腰痛のお風呂」の商標を被請求人名義で商標登録したことを示す紙が提示された。
Nが請求人商品に係る商標登録の事実を確かめたところ、上記各商標のほか、請求人の数十年来の商品シリーズ名である「バスメロディー」も商標登録されていることが分かった。
(ウ)Nは、上記(イ)の各商標は、請求人商品のロゴやパッケージをそのまま剽窃したものと考え、平成24年2月にMと話合いを行った際、「肩こり・腰痛のお風呂」の商品パッケージ及び類似パッケージを使用しないようにMに伝えた。
(エ)N、Nの息子(以下「J」という。)及び請求人社員のGが、平成24年7月19日にMと上記(イ)の各商標につき話合いを行った際、Mは、商標登録を受けた「肩こり・腰痛のお風呂」の名称の商品は、自分1人のアイディアではなく、社長始め社員らと共に開発したものと認め、Mが個人で商標登録出願をしたのは会社の商品を守るためであると述べ、剽窃行為を認めず、自己の行為を正当化した。
(オ)Nは、上記(イ)の各商標を移譲して欲しい旨Mに提案したが、Mは、移譲する気はなく、該商標は、M及び被請求人のものであるとの主張をした。結局、Mは、同日付けで請求人の販売委託業務から手を引くこととなった。
イ 本件商品の商品名と本件商品の開発の経緯について
請求人の取締役であるNは、本件商品の商品名及び本件商品の開発の経緯等につき、要旨以下のように述べている(甲4)。
(ア)請求人が「バスメロディー」の名称を使用し始めたのは、昭和50年代であり、テレビ宣伝を始めるに当たり、商品名として「バスメロディー」を使用し、昭和59年ころには、複数の入浴剤を取り揃え、シリーズとして売り出した。そして、昭和60年代以降は、請求人のすべての商品のパッケージに「バスメロディー」のロゴを使用している。
(イ)請求人は、本件商品を含む請求人の商品展開について検討する過程で、販売を委託していたMにも意見を求めたことがあると思うが、Mが主として発案したようなことはなく、Mが特に貢献したという実績もない。
ウ 本件商標の登録出願の経緯及び剽窃出願・登録等について
被請求人は、本件商標の登録出願の経緯及び剽窃出願・登録したものでないことについて、要旨以下のように述べている(答弁書、乙1及び乙2)。
(ア)Mは、請求人に勤務し、営業を担当していた当時、社長に対し、入浴剤の商品名として「バスメロディー/アニメソング・童謡の歌」なる商標を使用することを進言したが、社長には受け入れられなかったことから、この商標が、仮に第三者に権利化された場合には、使用できなくなることを危惧し、社長が商標登録出願する意思のないことを口頭で確認した上で、Mの名義で出願する承諾を受けて出願するに至ったものである。
(イ)出願人の名義を被請求人としたのは、近い将来において、被請求人とMは共同で、入浴剤の販売を予定しており、その業務の一翼を担うであろうことを想定しての出願であることがその理由である。
なお、被請求人は、本件商標を出願し、登録された場合は、請求人に対し無償の使用許諾を申し出ていたが、請求人は、本件商標を一度も使用することはなく、今日に至っている。
エ Mと請求人の取締役であるNらとの話合いについて
平成24年7月19日に行われたMとN(請求人取締役)、J(Nの息子)及び請求人社員のG等との話合いは、Mに無断で録音され、請求人により録音反訳文(甲5)が作られた。その録音反訳文によれば、本件商標及び請求人商標に関連して、次のような話合い(一部抜粋)が行われた。
(前略)
J「ネーミングというのを独自にMさんが開発されたんですか」
M「考えたんです。僕は。」
J「こういうものというのは、あくまで申請書類の中だけのものであって、現実的に何かしら特筆すべきものがありますか。」
M「ありますよ。これ。『7日間癒しの旅』というのがね。」
(中間省略)
M「それは、僕が、バスメロディというのはね、ブランド申請してますか、と社長にも聞いた、Nさんにも聞いた、ブランド登録していないと。」
N「だったら、してなければあなたが取ってよろしいんですか?」
M「というのは『取りましょう』とその時、僕は言ったはずですよ。そしたら、『やらない』と。そんなお金はかけない、とはっきり言われて。」
N「じゃ、だからそれでとっていいんですか。それで、それで、こういう形なんですか。」
M「そうです。では、」
N「では、ちょっといいです。まあ話は。この取った取らないという話でいけば、これ、どうされるわけですか?これ。取って。」
M「取って、僕はこの商品に関しては、他社に真似をしてもらいたくないから、これを取ったんです。会社にも『取りましょう』と言って、よそがこういうネーミングを取って売れてると、発売して非常に売れてると、でも会社の方には『これ取りましょう』と言ったら会社は『取らない』と、『お金も掛かるから、やらない』と言われたから、僕はこの会社のこの商品を守るために、お金かけて取ったんですよ。」
N「じゃあ、もうこれは、会社の方に移譲して下さい。そういうお気持ちでしたら、会社のために守るためでしたら、即、移譲して下さい。あの名前書き換えていただけますか?」
M「その際には条件がありますよ。」
N「条件は、」
M「そりゃそうですよ。」
N「悪いですけども、これ以上はのめません。はっきり言って・・」
M「移譲する気持ちは今ないです。」
N「ないですか。」
M「ない。それで会社をね、退社せよと言われりゃ退社します。」
(中間省略)
N「これは移譲するしか、していただくしかないんです、うちとしてはね。もしこれで、あなたがそういって言われれば。やっぱり取消の申請をするしかないんです、うちは。だから、そうなるとお互いにみっともないことになりますから。お客様の方にもこんなかたちで・・・」
M「取り消したら、このネーミングが消えます。」
N「だから移譲して下さい、会社に。」
M「ええ、わかりました。ええ。」
N「会社に。個人で持っていても何の役にも立ちません。」
M「いや、僕はね、役に立てると思います。」
N「じゃあ。立ててみて下さい。」
M「だから取ったんですよね。お金を掛けてね。」
N「でも、いや残念ですけど、既にうちは作っておりますので、例えば、そのパッケージ、同じ名前でやられたら、法的に阻止することができます。でも、そんなことしたら、Mさんと、そういう、なんて言うのかな、そんなまでのことは私はしたくないです、はっきり言って。今までも、一生懸命、会社としてやってきて下さってるし、うちも10年がんばってきてるんだから、そこまでのことはしたくないです。ほかのところに回状を回して『これは、うちのものですか?Mさんのものですか?』というようなアンケートを出したら、よそにもみんなわかります。うちが先使用権を主張しようと思ったら、よその会社にみんな理由を話して、説明をして、アンケートをもらわなきゃいけません。」
(中間省略)
M「一番ね。一番スムーズなのは、これを発売する前にとっておけば一番良いんです。発売する前にね。」
N「でも、会社で作ったものだったら、発売する前でもだめですよね。」
M「いいえ。ネーミングをね。」
N「それが出来るかどうかも分からないですしね。もしそういうふうに考えてみえたというのならね。でもこれは少なくとも今さっき言ったみたいに、突然の物じやないです、会社としても。『癒し』という言葉もありますし。『お風呂』『肩こり・腰痛』って言葉もちゃんとして。」
M「それは、業界、沢山ありますよ。」
N「そうそうそう。そうなんですよ。」
J「無論、登録申請っていうのは、可能です。そして最上を言えば、市場に流れる前に、あの登録するのが最上だというのは分かっているんです。ですけれども、それをふまえた上で、先ほどMさんがおっしゃられたように、」
M「はい。」
J「会社としてのこれを守りたい、という発言がありましたので、」
M「うん。」
J「当社としても、その申出はありがたいと思います。ただ、それが、現実として、Mさん個人であったり、あの、奥様であったり、っていう、現実的な問題ですよね。が、うちとしては看過できないことなので、」
N「まあ、Mさんが、」
J「あの、Mさんの理由としては、先ほど、あの、もう自分でやりたいとおっしゃられたんですけども、『当社へどうぞ』と当社の保護のためということであれば、お互いの関係のためにも当社としては移譲されることを望みます。」
(以下省略)
(3)商標法第4条第1項第15号該当性に関して
ア 請求人は、本件商品に関し、昭和59年ころより製造・販売してきており、東海三県を中心に関東から九州まで取引を行い、全国規模でも一定の認知がなされている旨主張しているところ、同人提出の証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)甲第8号証は、厚生大臣発行の昭和59年12月21日付け医薬部外品製造承認書の写しと認められ、請求人は、「バスメロディー」との販売名による入浴剤につき、薬事法に基づく医薬部外品の製造承認を受けたことが認められる。
(イ)甲第9号証は、商品チラシの写しと認められるところ、その上段に「血行促進する薬用入浴剤」、「アサヒ バスメロディー 誕生!」及び「テレビ宣伝を展開します。」の語句が大書され、中央に商品の写真が掲載され、最下段に請求人の名称等が表示されている。なお、請求人は、昭和59年ころに上記商品チラシを作成し、本件商品の宣伝をしていた旨主張するが、その具体的な作成日、作成部数、配布の時期・方法等を客観的に示すものはない。
(ウ)甲第10号証、甲第19号証、甲第33号証及び甲第103号証は、それぞれ「ASAHI ALL GOODS CATALOGUE」又は「ギフトカタログ」と題する商品カタログの写しと認められるところ、該商品カタログには、「アサヒバスメロディー レモン(缶)」を始めとする各種入浴剤や、ボディソープ、漂白剤等が掲載されている。なお、請求人は、上記商品カタログを昭和62年ころ、平成9年ころ、平成17年春ころ及び平成23年ころに作成したと主張するが、その具体的な作成日、作成部数、配布の時期・方法等を客観的に示すものはない。
(エ)甲第11号証、甲第12号証、甲第15号証ないし甲第18号証及び甲第24号証は、請求人の商品チラシと認められるところ、該チラシには、「アサヒバスメロディー 登別にごり湯」を始めとする各種入浴剤が掲載されている。なお、請求人は、上記チラシを昭和62年ころ(甲11及び甲12)又は平成9年ころに作成したと主張するが、その具体的な作成日、作成部数、配布の時期・方法等を客観的に示すものはない。
(オ)甲第28号証及び甲第32号証は、2008年版又は2011年版の「GOLF5コンペ賞品カタログ」の写しと認められるところ、これらによれば、「アサヒ晶脳」、「バスメロディー入浴剤」として本件商品が写真付きで、種々の商品と共に掲載されているものの、上記賞品カタログの発行部数はもとより、それに掲載された本件商品の販売数、販売期間、販売地域、売上高等の具体的な取引状況は一切不明である。
(カ)甲第29号証の1ないし13は、2008年9月11日、同月20日又は同月22日に紙出力された第三者による広告と認められるところ、いずれにも取扱商品として本件商品が写真と共に掲載され説明が付されているものの、本件商品の販売数、販売期間、売上高等の具体的な取引状況は一切不明である。
(キ)甲第34号証の1は、本件商品のパッケージデザインを作成した株式会社フヂヤの営業担当者から請求人へあてた「アサヒ晶脳包装箱製造記録調査報告書」であるとするところ、該報告書の調査結果欄には、そのパッケージデザインの初版の保存データの年月日として、「アサヒバスメロディ・カタログ 2011年10月4日」と記載されており、また、甲第34号証の2には、該保存データの詳細が記載されているところ、その「名前」の欄に「バスメロ3箱」、「分包カモミラ」等と表示されているものには、その修正日として「2011年10月4日」と記載されているが、これら甲第34号証の1及び2には、請求人商標の記載は見当たらない。
(ク)甲第36号証は、請求人が平成24年8月に作成した請求人の本件商品の販売に係る顧客マスタであるとするところ、これには、得意(取引)先としての50社の問屋名とその住所等が記載されており、そのほとんどが愛知県及び岐阜県に所在している。
(ケ)甲第37号証の1及び2は、本件商品を取引先の問屋を通じて販売していることを示すリストと具体的な送り状であるとするところ、甲第37号証の1は、商品名として、「肩こり・腰痛のお風呂7包」の記載があるほか、該リストには、問屋からの届け先がいくつか記載されており、また、該送り状(4枚)には、受付日として、2012年8月の2日、3日、7日又は10日の日付が記載され、届け先として、愛知県、岐阜県、福岡県又は長野県所在の企業名等が記載されている。
また、甲第37号証の2は、商品名として「バスメロディー 癒しの旅7包」の記載があるほか、該リストには、問屋からの届け先がいくつか記載されており、また、該送り状には、受付日として、2012年8月の7日、20日、21日、23日又は24日の日付が記載され、届け先として、茨城県、愛知県、大阪府、新潟県、東京都又は富山県所在の企業名等が記載されている。
(コ) 甲第38号証の1は、2012年12月19日に紙出力された請求人のホームページ情報であるところ、これには、本件商品が掲載されている。
(サ)甲第38号証の2は、2012年1月6日から11月19日までの間の本件商品の請求人ホームページによる通信販売の記録であるとするところ、これには、「バスメロディー」の文字を含まない名称のものも含まれている。
(シ)甲第41号証は、「MEGAドン.キホーテ」の四日市店の領収書の写しと認められるところ、これによれば、2012年9月21日に同店において「アサヒ・バスメロディー」と称する商品が販売された旨が記載されている。
(ス)甲第84号証は、請求人が平成25年6月に作成した請求人の製造販売に係る各種商品の販売先(問屋)一覧であるとするところ、これには、販売対象地域として、愛知県、岐阜県、三重県のほか、「北関東?青森」、「津?伊勢」、「長野県」、「全国斎場」、「全国」及び「北陸三県」等が記載されているが、これらの販売先(問屋)による本件商品の取扱期間、取扱数量等についての記載は見当たらない。
(セ)請求人は、自己が製造販売している入浴剤には、いずれも「バスメロディー」の商品名が付されている旨述べているところ、甲第86号証ないし甲第91号証は、請求人が平成25年6月に作成した同20年5月21日から同25年5月20日までの間における月ごとの請求人が販売した商品の販売数量及び販売金額等の一覧表であり、これらには、入浴剤の合計金額の記載があり、それを年ごとに整理すると、以下のとおりである。
a 平成20年5月21日?同20年12月20日
販売金額 70,093,942
b 平成20年12月21日?同21年12月20日
販売金額 118,456,287
c 平成21年12月21日?同22年12月20日
販売金額 114,832,264
d 平成22年12月21日?同23年12月20日
販売金額 96,108,273
e 平成23年12月21日?同24年12月20日
販売金額 92,333,790
f 平成24年12月21日?同25年5月20日
販売金額 34,693,737
(ソ)甲第105号証及び甲第107号証は、それぞれ請求人が作成した平成24年10月分及び同25年6月分の本件商品の顧客への送り状であるとするところ、これらには、商品名として、「バスメロディー アロエ」、「バスメロディー レモン」、「バスメロディー ゆず」等の記載があるほか、届け先として、愛知県、岐阜県、長野県、大阪府又は富山県等所在の企業名等が記載されている。
(タ)甲第108号証は、請求人が平成25年7月19日に作成した同22年1月から同25年6月までの間における本件商品の注文先、取次先及び発送先等の一覧であるとするところ、これらには、商品名としての「バスメロディー アロエ」、「バスメロディー レモン」、「バスメロディー ゆず」等の記載、「得意先名」、「販売数量」、「販売金額」の記載があるほか、取次先及び送付先としての企業名等が記載されているが、該取引に係る本件商品の具体的な販売場所(地域)についての記載は見当たらない。
イ 被請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)乙2号証の18は、「デスクトップ2Ch」なるインターネット情報であるところ、「2011/12/27」の記事として、「アース製薬、バスクリンを買収 花王抜き入浴剤首位に」の見出しの下、「市場推計によると入浴剤のシェアは、花王が3割弱。数%の差でバスクリンが続き、アース製薬は、15%程度で3位、全体の市場規模は、約400億円。バスクリンが加わるとアース製薬のシェアは40%程度に上昇する。」と記載されている。
(イ)乙第2号証の19は、「DAILY COSMETICS NEWS」なるインターネット情報であるところ、「2012.10.10」の記事として、「2011年の入浴剤市場規模、・・・2%増の390億円」と記載されている。
(ウ)乙第2号証の22は、「日用品化粧品新聞」なるインターネット情報であるところ、「2012年10月15日」の記事として、「『入浴剤』炭酸ガスが市場底上げ」の見出しの下、「6年ぶりに厳しい寒さとなった昨冬。・・・入浴剤の市場は数量、金額共に前年を2?3ポイント上回ったと見られる。・・・ある大手メーカーでは、・・・12年度トータルでも前年比101.3%で、市場規模は511億円まで成長すると予測している。」と記載されている。
2 以上の認定事実に基づき、本件商標の商標法第4条第1項第7号及び同項第15号該当性について、以下、判断する。
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 請求人は、本件商標につき、被請求人が夫と結託し、請求人の開発に係る商品であることを認識しながら自己の名で剽窃出願・登録したものであって、かかる行為は公序良俗に反する旨主張している。
イ ところで、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、第4条第1項各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた同項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、同項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知的財産高等裁判所、平成19年(行ケ)第10391号、平成20年6月26日判決)。
ウ かかる観点から、以下、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものであるか否かについて検討する。
(ア)被請求人による本件商標登録出願の経緯
Mは、本件商品を始めとする請求人の商品の販売につき、請求人と業務委託契約を締結し、請求人の商品の販売の営業を行っていたところ、販売業務の立場上、本件商標が第三者に使用された場合、あるいは、他人に権利を取得された場合のことを考えて、これらを防御するために、社長に本件商標の商標登録出願を進言したが、受け入れられなかったので、被請求人の名義で本件商標を登録出願したというものである。
なお、Mは、近い将来において、被請求人とMは共同で、入浴剤の販売を予定しており、被請求人がその業務の一翼を担うであろうことを想定し、本件商標は被請求人の名義で登録出願した旨主張している。
(イ)本件商標の剽窃出願について
Mは、本件商標を入浴剤の商品名として使用することを、社長に進言したが受け入れられなかったので、社長が登録出願する意思のないことを確認し、自己の名義で登録出願する承諾を受けていた旨主張している。
また、Mは、平成24年7月19日にMとN等との間で行われた話合いでは、請求人の商品を守り、請求人のために本件商標を登録出願した旨述べているが、一方で、Nによる請求人への移譲要請については、今は移譲する気持はない旨述べている。もっとも、この話合いには、Mが本件商標の採択及び登録出願について提案し、かつ、本件商標の登録出願について了解を得たという社長は出席していないので、本件商標の採択経緯及び登録出願の経緯については必ずしも明らかではない。
なお、請求人は、本件商品の製造・販売に当たって、その商標を自ら出願し、登録しようとしていたわけではなく、加えて、社長は、本件商標の登録出願を進言するMの意見を採択せず、Mによる登録出願を容認しているものであるとすれば、先願登録主義を採る我が国の商標登録制度を理解しようとしなかったといわれてもやむを得ない。
(ウ)要するに、本件商標の登録出願の経緯については、当事者間の主張に齟齬があり、被請求人が請求人を害する等の不正の目的をもって、請求人商標を剽窃して、本件商標を出願し登録を受けたものとまでは断定できないし、もとより、本件商標の帰属等を巡る問題は、本来的に当事者間の私的問題として解決すべきものであって、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁、平成10年(行ヒ)第85号、平成12年7月11日判決参照)。
イ かかる観点から、以下、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するものであるか否かについて検討する。
(ア)請求人は、本件商品に関し、昭和59年ころより製造・販売してきており、東海三県を中心に関東から九州まで取引を行い、全国規模でも一定の認知がなされている旨主張し、甲各号証を提出しているところ、本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知・著名性について、以下、検討する。
a 本件商品の販売について
本件商品は、昭和59年ころに販売が開始され、その後、少なくとも同25年6月ころまでは販売が継続しているものである。
また、本件商品は、主に請求人の得意先である問屋を通じて取引されているところ、その問屋のほとんどは愛知県及び岐阜県に所在し、販売先も、愛知県、岐阜県、長野県、大阪府、茨城県、新潟県、東京都及び富山県に所在する企業等である。そして、請求人は、自己のホームページを通じて通信販売を行っている旨述べているが、その具体的な取引状況は一切不明である。
さらに、本件商品の販売金額については、仮に請求人の製造・販売する入浴剤のすべてに「バスメロディー」の商品名称が付されていたとした場合、年間約1億円程度といえるところ、本件商品を含む商品「入浴剤」の市場規模が約390億円(2011年(平成23年))であることに照らせば、商品「入浴剤」に占める本件商品のシェアは、わずか0.25%程にとどまるものである。
b 本件商品の広告宣伝について
本件商品は、請求人又は第三者による商品カタログに掲載された事実は認められるものの、その掲載回数は少ない上、該カタログについても、その頒布の地域や数量等が不明であるほか、その発行時期が不明なものも含まれている。
また、本件商品は、請求人又は第三者により、インターネット上で広告された事実は認められるものの、その広告回数は極めて少ないものである。
(ウ)小括
以上を総合勘案すれば、請求人の提出に係る証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商標が請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に周知、著名なものとなっていたものとはいえない。
その他、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商標が請求人の業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者の間に周知、著名なものとなっていたと認めるに足る事実は見いだせない。
かかる事情の下において、本件商標をその指定商品に使用した場合、本件商標と請求人商標との類似性の程度、両者が使用される商品の関連性、取引者、需要者の共通性、その他取引の実情等を考慮したとしても、これに接する取引者、需要者が請求人商標ないしは請求人を連想、想起するようなことはないというべきであり、該商品が請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-02-18 
結審通知日 2014-02-20 
審決日 2014-03-20 
出願番号 商願2011-31100(T2011-31100) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X05)
T 1 11・ 22- Y (X05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 幸一 
特許庁審判長 林 栄二
特許庁審判官 梶原 良子
田中 敬規
登録日 2011-10-07 
登録番号 商標登録第5442545号(T5442545) 
商標の称呼 バスメロディー、メロディー、アニメソングドーヨーノウタ、アニメソング、ドーヨーノウタ 
代理人 上杉 謙二郎 
代理人 井上 誠 
代理人 池田 伸之 
代理人 池田 桂子 

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