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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2012900129 審決 商標
異議2012900220 審決 商標
異議2012900265 審決 商標
異議2012900307 審決 商標
異議2012900206 審決 商標

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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X3537
管理番号 1275365 
異議申立番号 異議2012-900208 
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2013-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2012-07-25 
確定日 2013-06-03 
異議申立件数
事件の表示 登録第5488677号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5488677号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5488677号商標(以下「本件商標」という。)は,「ブロンプトンジャンクション」の片仮名と「Brompton Junction」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり,平成23年6月27日に登録出願,同24年1月26日に登録査定,第35類「広告,トレーディングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,文書又は磁気テープのファイリング,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,建築物における来訪者の受付及び案内」及び第37類「自転車の修理又は整備,二輪自動車の修理又は整備,自転車駐輪器具の修理又は保守」を指定役務として,平成24年4月20日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標は商標法第4条第1項第19号,同項第10号及び同項第15号に該当し,同法第3条第1項柱書の要件を具備しないものであるから,同法第43条の2第1号により取り消されるべきものである旨申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第38号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標は,イギリスの本店のある「Brompton Bicycle Limited Company」(以下「ブロンプトン社」という。)の公認する同社製折りたたみ自転車専門店「BROMPTON JUNCTION」の開店を拒否された本件商標の商標権者が,拒否されたわずか2週間足らずの間に登録出願したものであり,不正の目的をもってなされたものである。
また,ブロンプトン社が使用する商標「BROMPTON」及び同社公認専門店第1号店である「BROMPTON JUNCTION KOBE」の周知著名性や指定役務の類似性等の事情から,本件商標が使用された場合には,ブロンプトン社,あるいは,同社と関係のある営業主の業務にかかる商品又は役務等であると誤信されるおそれが生じる。
2 申立人は,輸入品自転車・輸入部品の代理店業務・卸売,完成自転車企画卸売,国内自転車・部品・付属品及びアクセサリーの卸売等を業とする社であり,ブロンプトン社との長年にわたる取引関係を経て,平成21年1月,同社製折りたたみ自転車に関する総販売代理店契約を締結し,同社の商標やロゴ等の標章の使用許諾を得ている。
3 商標権者は,申立人がブロンプトン社製折りたたみ自転車を取り扱う自転車小売店「和田サイクル」に長年にわたって勤務していた者であり,該自転車に関して深い知識と豊富な経験を有し,該自転車を取り扱う多数の小売店によく知られ,また,自転車愛好家との交流もあったようで,需要者によく知られていた者である。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)「BROMPTON」の日本国内・外国における著名性
ア Brompton自転車は,昭和50年にAndrew Ritchie氏によって,ロンドンのBrompton StreetにあるBrompton礼拝堂の付近の同氏の工房において考案製作され,その後,昭和51年にBrompton Bicycle Limited Companyとして会社登録された。
そして,昭和62年,ロンドン郊外にBrentford工場が開設され,同社による折りたたみ自転車の本格的な量産が開始され,現在にいたるまで一貫して折りたたみ自転車を製造販売しているものであり,ブロンプトン社製折りたたみ自転車の販売は,高品質と英国ブームに後押しされ,高価品でありながら順調に伸長し,平成23年には日本国内で3000台を超す販売量となった。
イ ブロンプトン社は,「BROMPTON」又は「Brompton」(以下「BROMPTON」という。)を,ブロンプトン社自身を示すためのハウスマークとして,長年に亘って使用してきた(甲5の2)。
ウ ブロンプトン社は,「BROMPTON」を,同社製折りたたみ自転車を表示する商標として,創業時から現在に至るまで37年間の長きにわたり使用し続けている。そして,ブロンプトン社製折りたたみ自転車及び同社製付属品のほぼ全て,並びにその外箱等に,「BROMPTON」が付されている(甲4,甲5の3,甲5の7,甲5の11及び甲6)。
エ 同社製折りたたみ自転車は,イギリス以外の数多くの国々に輸出されており,現在,その数は38カ国以上に上る。
具体的には,アンドラ公国,アルゼンチン共和国,オーストラリア連邦,オーストリア共和国,ブラジル連邦共和国,カナダ,チリ共和国,クロアチア共和国,チェコ共和国,デンマーク王国,エストニア共和国,フィンランド共和国,フランス共和国,ドイツ連邦共和国,ギリシヤ共和国,中華人民共和国,インドネシア共和国,アイルランド,イスラエル国,イタリア共和国,日本,ラトビア共和国,リトアニア共和国,メキシコ合衆国,オランダ王国,ノルウェー王国,ポーランド共和国,ポルトガル共和国,ルーマニア,口シア連邦,シンガポール共和国,スロベニア共和国,大韓民国,スペイン,スウェーデン王国,スイス連邦,タイ王国,ウルグアイ東方共和国,アメリカ合衆国等であり,これらの国々において,ブロンプトン社製折りたたみ自転車を取り扱う店舗数もまた,極めて多数に上る。日本においては,2012年7月現在83店(数)が,ブロンプトン社製折りたたみ自転車を販売している(甲7の2,3)。
オ 日本の販売量は,世界的に見ても多く,平成23年のブロンプトン社製折りたたみ自転車の販売量は,イギリスに次いで毎年ベスト3以上の重要市場となっている。
また,雑誌等においても,ブロンプトン社製折りたたみ自転車の広告がよく掲載され,自転車愛好家向けの雑誌において,特集されることもある(甲4及び甲14)。
ブロンプトン社は,平成20年から,同社製折りたたみ自転車を用いることが参加条件となっている「Brompton World Championship」という自転車レースを主催し,毎年多数のBrompton自転車の愛好家が参加している(甲5の4の1及び2,甲81ないし4)。 さらに,該レースには前哨戦もあり,イギリス以外の多数の国で開催され,日本においては,「ブロンプトン・ジャパニーズ・チャンピオンシップ」と題して執り行われ,151名もの愛好家が参加した(甲第10号証の2及び3)。主催者は,申立人である。
カ 以上から,「BROMPTON」という商標が,本件商標の登録出願がなされた時点で,外国及び日本国内のいずれにおいても,需要者の間に広く認識された,極めて周知著名な商標となっており,現在も同様であることは,明白であり疑う余地はない。
(2)「BROMPTON JUNCTION KOBE」の周知性について
本件商標が出願登録されるよりも前の平成23年3月19日,神戸において,「BROMPTON JUNCTION KOBE」が開店し,営業を始めた(甲5,甲13の1,甲14,甲15,甲16,甲17,甲18,甲27及び甲31)。
「BROMPTON JUNCTION」は,ブロンプトン社が,同社の新たな営業展開として,同社公認の同社製折りたたみ自転車専門店に使用される屋号・商標である。
そして,神戸に開店した上記「BROMPTON JUNCTION KOBE」は,世界初となる店舗であったことも相まって,雑誌や新聞,有限会社モダンプラネット(以下「LORO社」という。)ホームページ,申立人ホームページ等によって,広報,報道され(甲13の1,甲14,甲15,甲17,甲18及び甲27),大きな話題となった(甲5の6,甲5の8ないし10)。
以上のように,「BROMPTON JUNCTION KOBE」もまた,本件商標の登録出願がなされた時点において,日本国内,特に兵庫県,大阪府その他関西圏を中心に,自転車の取扱い業者のほか最終消費者にまで周知された商標となっていた。
(3)本件商標と「BROMPTON」との類似について
本件商標は,「ブロンプトンジャンクション」の片仮名と,「Brompton Junction」の欧文字とが上下二段に配されてなるものである。
そして,「Junction」の語は,「交差点,合流点,連合」等を意味する英語であるが,それ自体が自他識別機能を有するものではなく,他方で,「BROMPTON」は,本件商標の登録出願時において,ブロンプトン社,あるいは,同社製折りたたみ自転車を指し示す言葉として広く認知されていた語であり,明らかに自他識別機能を有する。
そうすると,本件商標からは,より高い自他識別機能を有する「BROMPTON」の部分のみが独立して認識されるものである。
また,本件商標の称呼は,「ブロンプトンジャンクション」とやや冗長であり,「Brompton」と「Junction」を一体不可分のものとして称呼しなければならない特段の事情もなく,そうすると,本件商標が「ブロンプトン」と略されて称呼されることもあり得ることである。
以上から,本件商標は,「Brompton」という部分が独立して需要者の注意を引きつけ,外観上の類似があり,また,称呼においても「ブロンプトン」だけが読まれる可能性があり,称呼において「BROMPTON」と同一となる。
加えて,「BROMPTON」は,ブロンプトン社,あるいは同社製折りたたみ自転車を想起させる著名なものであり,同社が同社の公認専門店が「BROMPTON JUNCTION」という言葉を用いていることと相まって,本件商標は,ブロンプトン社又はこれと関連を有する者による役務の提供を観念させるものである。
したがって,本件商標は,「BROMPTON」と類似する。
(4)本件商標と「BROMPTON JUNCTION KOBE」との類似性について
「KOBE」は,店舗所在地の地名であり,同店がブロンプトン社の公認専門店であることと考え合わせると,「BROMPTON JUNCTION」という部分が,その要部に当たるというべきである。
本件商標と,該「BROMPTON JUNCTION」の称呼は,「ブロンプトンジャンクション」であって,同一である。
以上から,本件商標は,「BROMPTON JUNCTION KOBE」と類似する。
(5)本件商標の登録出願における不正の目的について
ア ブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店という新たな事業展開の計画と「BROMPTON JUNCTION」という屋号・商標の使用について
(ア)平成22年12月ころ,申立外LORO社が,ブロンプトン社製折りたたみ自転車の専門店を出店させたいという要望を申立人に伝えてきたことから,申立人は,ブロンプトン社に伝達した。その後,平成23年1月28日に,LORO社が申立人に対し,上記要望を事業計画書として提出したことから,改めて,LORO社の事業計画の概要等をブロンプトン社に報告し,上記同社の意向を諮ったところ,同社は,LORO社の熱意を歓迎し,同社策定にかかる事業計画を進めることについて前向きな考えを示した(甲28及び甲29)。
そこで,申立人とLORO社は,ブロンプトン社の意向を念頭に置きつつ,同社の監督と全面的な協力の下,世界初となる同社公認専門店の開店に向けて様々な準備を進めた(甲23,甲29及び甲30)。
(イ)この準備の過程において,同社公認専門店の屋号・商標についても,提案・協議が行われ,ブロンプトン社において,平成23年2月11日ころ,「BROMPTON JUNCTION」を,同社公認の同社製折りたたみ自転車専門店に用いる屋号・商標とすることが,同社関係者の全会一致の賛同で決定され,その旨,同月14日に申立人に伝えられた(甲32)。
(ウ)ブロンプトン社は,上記「BROMPTON JUNCTION」名義で,ブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店の日本国内及びその他の国々において展開する構想を描いていたものであり,公認専門店に用いる屋号は,「BROMPTON JUNCTION」の後に,当該専門店の所在地を付すことを想定していた(甲32及び甲33)。
(エ)ブロンプトン社は,「BROMPTON JUNCTION KOBE」に続いて,同社公認の専門店の開店を計画し,平成24年3月にオランダ・アムステルダムに「Brompton Junction Amsterdam」を開店させ,その後ドイツ・ハンブルグにも開店させた(甲20)。なお,今後も,アメリカ,イギリス等での開店を計画している。
(オ)以上から,ブロンプトン社は,平成23年2月時点で,既に,「BROMPTON JUNCTION」という商標を使用し,同社公認の専門店という新しい事業形態の展開を具体的に有していたこと,そして,日本国内及びそれ以外の国々において,同社公認の専門店を開店するという事業規模拡大の計画を有していたことは,いずれも明らかである。
イ 商標権者が本件商標を登録出願するまでの経緯
(ア)上述したように,ブロンプトン社が,同社公認専門店の展開に積極的であったことが背景にあり,申立人は,平成22年2月22日,商標権者と面談し,商標権者において,ブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店「BROMPON JUNCTION」の2店舗目を東京近郊の都市で開店することについての話し合いの機会をもった。
そして,申立人は,ブロンプトン社が,「BROMPTON JUNCTION」という屋号・商標を用いて,公認の専門店を世界規模で展開する構想を有していることなど,平成22年2月22日当時知り得た情報,及び,LORO社が開店する公認専門店の屋号が「BROMPTON JUNCTION KOBE」であること,開店予定日が同年3月20日(その後更に早められ同月19日となった)であることについても説明した。かかる説明に対し,商標権者は非常に前向きな回答をし,鎌倉において「BROMPTON JUNCTION」を開店させたいという希望を申し述べた。申立人は,商標権者に対し,同面談から1カ月を目処に店舗回転(異議の決定注:「開店」の誤記と思料)に関する事業計画を提出するよう求め,商標権者はこれを承諾したが,同面談から1か月を経過しても事業計画の提出はおろか,何らの連絡さえもしなかった。(甲21の1,2)。
(イ)ところが,上記面談から3か月以上が経過した平成24年(異議の決定注:「23年」の誤記と思料)6月になって,商標権者から申立人に対し,「BROMPTON JUNCTION」に関する面談の申出がなされ,同月13日にA4用紙1枚の企画書が提出されたが,商標権者に対し不信感を抱いていたため,申立人は,商標権者と与信取引を行うことはできないとの結論に至り,商標権者による「BROMPTON JUNCTION」の開店は見送ることとし,このことは,遅くとも平成23年6月14日には商標権者に伝えられた(甲21の1,2及び甲22)。
(ウ)そして,商標権者は,ブロンプトン社はもちろん,申立人にも無断で,平成23年6月27日,すなわち同月14日からわずか2週間足らずの間に,「BROMPTON」,及び,ブロンプトン社公認専門店が使用する商標「BROMPTON JUNCTION KOBE」と類似の商標である本件商標の登録出願を断行した。
ウ 「BROMPTON JUNCTION」の造語性と不正の目的について
「BROMPTON JUNCTION」は,どこかの地名ないし場所から引用したものではなく,ブロンプトン社が公認専門店の世界展開を構想するに当たり,同社の公認専門店が,同社製折りたたみ自転車の愛好家や,これに興味・関心を持つ者,縁のある者たちが,集い,交わり,繋がる場所,交流が生じる場所になるようにという意味を織り込み,連結・接合,交差点,合流点等の意味を有する「Junction」という語を,「BROMPTON」に結合して創造されたのである。
したがって,「BROMPTON JUNCTION」は,造語的な側面を有する商標である。
エ 商標権者が混同のおそれを認識し得たことについて
商標権者は,平成23年2月には,上述したようなブロンプトン社の創造した「BROMPTON JUNCTION」という商標,これを使用した同社公認専門店を世界規模で展開する構想,その第1号店「BROMPTON JUNCTION KOBE」の開店とその業務内容,自己の自転車取引業界における立ち位置等を認識していた。
そうとすれば,本件商標を登録出願することによって,上述のような出所の混同を生じる危険がことを認識し,又は認識し得ていたことは間違いなく,それにも拘らず,商標権者は,敢えて,本件商標の登録出願を行ったのである。
以上のように,本件商標が使用されれば,ブロンプトン社,ないしは,「BROMPTON JUNCTION KOBE」その他ブロンプトン社と関係のある営業主の業務にかかる商品又は役務等であるとの誤認が生じるおそれは非常に高い。
そして,商標権者が,このような誤認のおそれが非常に高いことを認識し,又は認識し得たにも拘わらず,敢えて本件商標の登録出願を行ったことは,商標権者による「BROMPTON JUNCTION」開店の話しが立ち消えた時期と登録出願の時期的近接性と相まって,本件商標の登録出願が,不正の目的のもとになされたことを強く推認させる,重要な事情となるというべきである。
申立人は,商標権者による,本件商標の登録出願がなされていることに気がつき,申立人代理人を通じて,本件商標の登録に関し本件異議申立てより前に,商標権者との円満な話合いによる解決の途を模索するため,平成24年5月25日,商標権者に対して通知書を送付したが,これに対し,商標権者は,同日,ファクシミリにて,「本商標の移管については,円満な話し合いによりに解決をするという観点から考慮の余地はあると考えております」と回答した(甲26)。
そして,申立人代理人が,商標権者との面談の場において,本件商標の登録にかかった実費相当額で商標権を譲渡して欲しいと伝えたが,これに対し,商標権者は,金500万円程度と回答し,その算定根拠は,本件商標を用いた場合の年間売上額金5000万円と仮定して,その1%に,商標登録期間10年を乗じた金額とのことであった。なお,この年間売上額金5000万円を支える資料等の提示はなかった。
オ まとめ
以上のとおり,商標権者は,本件商標が,他人たるブロンプトン社が,その事業にかかる商品ないし役務を表示するものとして,日本国内及び海外の双方において,需要者の間に広く認識されている「BROMPTON」あるいは「BROMPTON JUNCTION KOBE」と同一もしくは類似の商標であること,ブロンプトン社が「BROMPTON JUNCTION」を利用して,今後世界規模で公認専門店を開店させていくという構想を有していること等を知悉した上で,「BROMPTON JUNCTION」が未だ登録されていないことを奇貨として,登録出願に及んだものであることは明白である。
かかる事情に,商標権者が本件商標の登録出願するわずか2週間足らず前に,「BROMPTON JUNCTION」の開店を拒否されたという事情,及び,「BROMPTON JUNCTION」が造語的要素を含むものであること,売上げ実績が伴わないにも拘わらず多額の買取費用を念頭に置いていたこと等を考え合わせると,本件商標の登録出願は,ブロンプトン社の日本国内における新規事業の展開を妨害する目的,あるいは,出願当時は,国内代理店である申立人からの仕入れ等を強制し,又は,あるいは,本件商標を高値で買い取らせる目的でなされたものというべきである。
さらには,本件商標の使用により,ブロンプトン社ないしこれと関係を有する者にかかる商品又は役務等と混同させるおそれが生じることから,「BROMPTON」若しくは「BROMPTON JUCTION」の顧客吸引力を希釈化する目的,又は,これらの周知著名性に便乗し不当な利益を得る等の目的のもと出願し,権利を取得したものでもあると思料される。
したがって,本件商標は,不正の目的をもって使用する商標であり,商標法第4条第1項第19号に該当する。
5 商標法第4条第1項第10号ないし第15号該当性について
本件商標の登録出願時,「BROMPTON」が,日本国内及び海外での著名性を有していたこと,「BROMPTON JUNCTION KOBE」が,関西圏を中心にした周知されていたこと,「BROMPTON」及び「BROMPTON JNCTION KOBE」がいずれもハウスマークであること,本件商標と「BROMPTON」及び「BROMPTON JUNCTION KOBE」とが類似すること,ブロンプトン社が,「BROMPTON JUNCTION」を使用した多角経営の可能性があり,現に「BROMPTON JUNCTION KOBE」の同社公認の専門店を開店し営業されていること,「BROMPTON JUNCTION」が造語的な側面を有すること等から,本件商標がその指定役務について使用された場合,それが,他人たるブロンプトン社,ないしは,「BROMPTON JUNCTION KOBE」,その他,ブロンプトン社と関係のある営業主の業務にかかる商品又は役務等であると誤認されるおそれがある。
したがって,本件商標は,その指定役務中,第35類「広告」,「トレーディングスタンプの発行」,「商品の販売に関する情報の提供」,第37類「自転車の修理又は整備」,「二輪自動車の修理又は整備」,「自転車駐輪器具の修理又は保守」については,商標法第4条第1項第10号に該当し,または,本件商標の全ての指定役務について,同法第4条第1項第15号に該当する。
6 商標法第3条第1項柱書について
商標権者は,本件商標に関する拒絶理由に対し,「商標の使用を開始する意思」の書面において,平成24年2月ころから商標の使用の開始をする予定である旨記載し,事業計画書も合わせて提出したが,申立人代理人が,平成24年5月30日,申立人代理人から商標権者に対し本件商標の使用について質問したところ,現在行っているはず,あるいは,予定の業務内容について具体的な説明等はなされなかった。また,商標権者は,ブロンプトン社の公認する「BROMPTON JUNCTION」の開店を申立人に拒否された直後に,本件商標の登録出願に及んだという経緯がある。
かかる経緯に,現時点において,商標権者が本件商標を使用して事業を開始しているとは思料されない状況も加味して考慮すると,今後も商標権者が,本件商標を指定役務全てについて使用するものと考えるべきではない。
したがって,本件商標は,商標第3条第1項柱書の要件を具備しない。

第3 当審における取消理由
当審において,商標権者に対して平成25年2月12日付けで通知した取消理由の内容は,別掲のとおりである。

第4 商標権者の意見
前記第3の取消理由に対し,商標権者は何ら意見を述べるところがない。

第5 当審の判断
本件商標についてした前記第3の取消理由は,妥当なものと認められる。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから,商標法第43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲 (当審における取消理由)

1 「Brompton」の周知性等について,申立人の主張及び提出に係る甲各号証によれば,以下の事実が認められる。
(1)「Brompton」と命名される自転車は,昭和50年にAndrew Ritchie氏によって,ロンドンのBromptonStreetにある同氏の工房において考案,製作されたものである。そして,昭和51年にBrompton Bicycle Limited Companyとして設立され,同62年にロンドン郊外に工場が開設され,同社による折りたたみ自転車の本格的な量産が開始されたものである。
ブロンプトン社は,現在に至るまで一貫して折りたたみ自転車を製造販売しており,ブロンプトン社製折りたたみ自転車は,平成23年には日本国内で3000台を超す販売量となったものである。
(2)商標「BROMPTON」は,ブロンプトン社自身,又は,その創意工夫により開発された同社製の折りたたみ自転車を表示する商標として,創業時から現在に至るまで長きにわたり使用されているものである。
また,我が国において,2009年には,北海道から大分県まで71のショップにおいて販売されているものである(甲第4号証)。
(3)Brompton自転車は,よく走り,簡単にたため,省スペースであることから,その機能・性能は,世界中で支持されているものであり,イギリスでは多くの小売店において広く販売されており(甲第7号証の1),イギリス以外にも,アンドラ公国,アルゼンチン共和国,オーストラリア連邦,オーストリア共和国,ブラジル連邦共和国,カナダ,チリ共和国,クロアチア共和国,チェコ共和国,デンマーク王国,エストニア共和国,フィンランド共和国,フランス共和国,ドイツ連邦共和国,ギリシヤ共和国,中華人民共和国,インドネシア共和国,アイルランド,イスラエル国,イタリア共和国,日本,ラトビア共和国,リトアニア共和国,メキシコ合衆国,オランダ王国,ノルウェー王国,ポーランド共和国,ポルトガル共和国,ルーマニア,口シア連邦,シンガポール共和国,スロベニア共和国,大韓民国,スペイン,スウェーデン王国,スイス連邦,タイ王国,ウルグアイ東方共和国,アメリカ合衆国等,多くの国々に輸出されているものであり(甲第7号証の2及び3),我が国において,自転車愛好家向け雑誌に特集記事が掲載され,広告されたものである(甲第14号証及び甲第15号証)。
(4)ブロンプトン社は,平成20年から,同社製折りたたみ自転車を用いることが参加条件となっている「Brompton World Championship」という自転車レースを主催し,毎年多数のBrompton自転車の愛好家が参加しているものである(甲第5号証の4の1及び2,甲第8号証の1ないし4,甲第10号証の1)。
また,該レースの前哨戦がイギリス以外の多数の国で開催されており,我が国においても申立人の主催により「BROMPTON JAPANESE CHAMPIONSHIP」の名称で開催され,Brompton自転車の愛好家が多数参加したものである(甲第10号証の2及び3)。
(5)以上によれば,「Brompton」の欧文字は,ブロンプトン社の業務に係る商品「折りたたみ自転車」について永年にわたって使用され,本件商標の登録出願時及び査定時において,外国における需要者,及び,我が国においてもその商品の取引者,需要者の間に相当程度知られているものと認められるものであり,「Brompton」の欧文字の表音である「ブロンプトン」の片仮名も,該文字と同様に知られているものということができる。
そして,「BROMPTON JUNCTION」は,ブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店の名称であり,平成23年3月19日に,神戸において「BROMPTON JUNCTION KOBE」との名称で,世界初となる店舗が開店し,インターネット,新聞,雑誌,テレビ番組等において報道されたものであり,また,ブロンプトン社は,「BROMPTON JUNCTION」という商標を使用し,同社公認の専門店という新しい事業形態の展開,及び,日本国内及びそれ以外の国々において事業規模拡大の計画を有していたものである(甲第5号証,甲第13号証の1,甲第14号証ないし甲第20号証,甲第24号証及び甲第27号証)。

2 商標権者による本件商標の登録出願等について,申立人の主張及び提出に係る証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)甲第1号証は,「和田サイクルのおすすめ 小径車の愉しみ方」と題する自転車に関する書籍(2010年10月25日発行,抜粋)であり,その4葉目には,「小島健裕(ケンユウ)」の記載及び似顔絵と思しき絵と紹介文が掲載され,5ないし10葉目には,「ブロンプトンM3L」「BROMPTON M3L」「オールラウンドに使える,究極の折りたたみ自転車」と題して,ブロンプトン自転車が紹介され,和田,ケンユウ及び西久保の3氏のコメントが掲載されている。
(2)甲第2号証の1は,「Tartaruga Maestro TOP J」とする一覧表であり,「小島健裕(こじま たけひろ)」についてその「勤務先店舗名」に「和田サイクル」との記載があり,甲第2号証の2には,小島健裕の詳細情報が紹介されている。
(3)甲第21号証の1及び甲第22号証は,商標権者と申立人との間で送受信された電子メール(写し)であり,2011年(平成23年)6月14日に送信された甲第22号証の内容によれば,商標権者による「Brompton Janction 鎌倉」(注:「Junction」の誤記と思料)の開店に関するものであるが,開店の話は消滅したことが窺える。
(4)甲第25号証の1は,申立人代理人から商標権者あての平成24年5月25日付けの「通知書」であり,その記載によれば,「BROMPTON JUNCTION KOBE」が需要者に広く認識されていること,本件商標の登録は無効ないし取り消されるべきであること,本件商標権の放棄ないし移転等の話し合いにより解決する考えがあること等である。
甲第26号証は,これに対する商標権者から申立人代理人事務所あての同年5月26日付けの書面であり,その記載によれば,本件商標権の放棄は考えていないこと,移管について,話し合いによる解決は考慮の余地があること等である。
(5)以上によれば,商標権者は,「和田サイクル」との名称の自転車店に勤務する者であること,Brompton自転車をよく知る者であること,「BROMPTON JUNCTION」はブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店の名称であること,さらに,神戸に開店した同社製折りたたみ自転車専門店の名称が「BROMPTON JUNCTION KOBE」であることを容易に知り得る立場にあったことが認められる。
そして,商標権者自身が「Brompton Janction Kamakura」を開店するために「企画書」を作成したが,開店の話は,平成23年6月13日には消滅していたものである。

3 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)「BROMPTON JUNCTION」の周知性について
本件商標は,前記1のとおり,「ブロンプトンジャンクション」の片仮名と「Brompton Junction」の欧文字からなるところ,前記2(5)に記載のとおり,その構成中,「Brompton」の文字部分は,ブロンプトン社の業務に係る折りたたみ自転車を表すものとして,我が国において,その愛好家を中心に相当程度知られているものと認められる。
そして,「BROMPTON JUNCTION」は,ブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店の名称であり,平成23年3月19日に,神戸において「BROMPTON JUNCTION KOBE」との名称で,世界初となる店舗が開店し,広く報道されたことを併せ考慮すれば,本件指定役務中,「自転車の修理又は整備」との関係においても,「Brompton Junction」の欧文字も相当程度知られているものと推認することができる。
(2)不正の目的について
商標権者は,Brompton自転車を取り扱う自転車店に勤務するものであって,Brompton自転車をよく知る者であり,Brompton自転車が自転車愛好家によく知られていること,「BROMPTON JUNCTION」はブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店の名称であること,さらに,神戸に開店した同社製折りたたみ自転車専門店の名称が「BROMPTON JUNCTION KOBE」であることを容易に知り得る立場にあったものである。
また,ブロンプトン社公認の同社製折りたたみ自転車専門店である「Brompton Junction 鎌倉」の開店について,商標権者はその企画に参加していたものである。
そうとすれば,商標権者は,偶然に「ブロンプトンジャンクション」及び「Brompton Junction」の文字を採択したとみることは困難であるというほかなく,また,本件商標が,商標権者による「Brompton Junction Kamakura」の開店の話が拒絶された直後である,平成24年6月27日に登録出願されたこと,さらに,ブロンプトン社は,「BROMPTON JUNCTION」という商標を使用した同社公認の専門店という新しい事業を,日本国内及びそれ以外の国々において規模拡大の計画を有していた事実を総合すれば,本件商標について,これが登録されていないことを奇貨として先取り的に登録出願し,登録を得たものと推認せざるを得ないから,本件商標は,不正の目的をもって使用をする商標に該当する。
(3)まとめ
以上のとおり,「BROMPTON JUNCTION」の周知性及び商標権者による本件商標の登録出願等の経緯を総合すれば,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものと認められる。


異議決定日 2013-04-22 
出願番号 商願2011-44430(T2011-44430) 
審決分類 T 1 651・ 222- Z (X3537)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平澤 芳行 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 前山 るり子
田中 亨子
登録日 2012-04-20 
登録番号 商標登録第5488677号(T5488677) 
権利者 小島 健裕
商標の称呼 ブロンプトンジャンクション、ブロンプトン、ジャンクション 
代理人 水野 祐 
代理人 牧野 盛匡 
代理人 安武 洋一郎 
代理人 前川 理佐 
代理人 渡邊 淳子 
代理人 新谷 紀之 
代理人 武藤 功 
代理人 相良 恵美 

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