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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服201024045 審決 商標

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審決分類 審判 査定不服 商4条1項7号 公序、良俗 取り消して登録 X25
管理番号 1271196 
審判番号 不服2010-9360 
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-30 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 商願2007-117902拒絶査定に対する審判事件についてした平成24年5月9日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10222号、平成24年11月7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。
理由 第1 本願商標
本願商標は、別掲のとおり、「北斎」の漢字を筆文字風に縦書きにした文字部分と、その左側中央やや下に配置された、上方に黒地上に白色で山様の形を象り、その下方に黒白の横線様の模様を配した四角形の図形部分からなり、第25類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成19年11月22日に登録出願、その後、指定商品については、原審における同年12月29日受付けの手続補正書により、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」と補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、大きな手書き風の『北斎』の漢字と小さな富士山を描いた版画の如き図形の組み合わせよりなるものである。ところで、『北斎』といえば、一般に『葛飾北斎』のことを云うものとされているところ、葛飾北斎は、江戸後期の浮世絵師(代表作『富嶽三十六景』)として、我が国はもとよりヨーロッパの人々にも広く知られている歴史上著名な人物である。そして、今日、葛飾北斎に縁のある『東京都の江戸東京博物館』、『信州・小布施の北斎館』、『島根県津和野町の葛飾北斎美術館』では、『北斎展』等を開催したり、本人の肉筆画、版画等の展示を行い、同人の偉業を讃え人々に広く伝えているところである。そうとすれば、上記の如く多くの北斎関係者、美術館等が、案内書、パンフレット等に使用する『北斎』の名称を要部としてなる本願商標を、一私人である出願人が自己の商標として独占使用することは、公の秩序及び一般的道徳観念に反し、穏当ではない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号は、商標登録を受けることができない商標として、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」を規定しているところ、同項には、出願商標の構成自体がきょう激な文字や卑わいな図形等である場合だけでなく、その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものである。
2 認定事実
請求人提出の甲各号証及び同人の主張並びに当審における職権に基づく証拠調べによれば、次の事実を認めることができる。
(1)本願商標の構成等
ア 本願商標は、別掲のとおり、「北斎」の漢字を筆文字風に縦書きにした文字部分と、その左側中央やや下に配置された、上方に黒地上に白色で山様の形を象り、その下方に黒白の横線様の模様を配した四角形の図形部分(以下「図形」という。)から構成されている。
上記「北斎」の文字は、江戸後期の浮世絵師であり、富嶽三十六景等の作品を有する葛飾北斎を認識させる語である。また、図形は、葛飾北斎がその作品である「肉筆画帖」において使用した印章(落款)の「富士」と同様の形状をしており、上記文字部分と同様に、葛飾北斎を認識させるものである。
イ 本願指定商品は、「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」であり、請求人は、平成20年頃から請求人が販売する衣服等の商品に本願商標を使用している。
(2) 葛飾北斎について
ア 葛飾北斎は、宝暦10年(1760年)に現在の東京都墨田区亀沢で生まれ、嘉永2年(1849年)に現在の東京都台東区浅草で死亡したとされる江戸時代後期の浮世絵師であり、代表作の「富嶽三十六景」や「北斎漫画」は、19世紀ヨーロッパの印象派の画家に影響を与えたとされる。葛飾北斎は、歴史上の人物として、辞典類に掲載されているほか、後記のとおり、同人の作品を収蔵した美術館が各地に設けられ、また、同人に関する国際会議や講演会が開催されたり、同人にまつわる映画が制作されるなどしている。
イ 葛飾北斎の出身地である東京都墨田区には、「北斎通り」と名付けられた通りがあるほか、平成18年以降、毎年「北斎祭り」が催され、平成27年度には「すみだ北斎美術館」の開館も予定されている。そして、東京都の「地域の底力再生事業助成」の助成を受けた「北斎通りまちづくりの会」のホームページ「亀沢・北斎ネット」には、葛飾北斎のプロフィールや、上記「北斎祭り」の概要、上記「北斎通り」の紹介等が掲載されているほか、同ホームページの閲覧者に対し、「葛飾北斎をキーワードとして、生誕地としての地元亀沢、そしてまちづくりの会としての諸活動と、墨田区の情報を広く発信することを通じ、亀沢以外の葛飾北斎ゆかりの地域との連帯を深め、ネットワークを構築することが可能になります。」との挨拶文が掲載されている。
また、葛飾北斎が晩年の多くを過ごしたとされる長野県上高井郡小布施町には、葛飾北斎の作品を展示した「北斎館」や「高井鴻山記念館」が開設され、「北斎館」については、小布施文化観光協会の公式ホームページで紹介されている。
さらに、「北斎漫画」の初刷りが発見された島根県鹿足郡津和野町には、葛飾北斎美術館が設けられている。
加えて、茨城県潮来市牛堀では、葛飾北斎が描いた「常州牛堀」にちなんだ水郷北斎公園が設けられ、同市の公式ホームページには、同公園を撮影した写真が掲載されている。
ウ 一般に、歴史上の人物の出身地やゆかりの地においては、その地域の特産物や土産物に、当該人物の名称等を表示して、観光客等を対象に販売しているという実情にあるところ、東京都墨田区では、地元企業が葛飾北斎にちなんだTシャツを製造、販売している。
(3)葛飾北斎と請求人との関連性について
請求人は、葛飾北斎とは無関係であることを自認している。
(4)請求人の主張
請求人は、(ア)本願商標は「北斎」の漢字を特定の書体で縦書きし、その左側部に朱印の印が押された構成よりなる結合商標であって、それ以上でもそれ以下でもない、(イ)本願商標に係る標章は、これら縦書き文字と印の二者で構成されるものであって、単純に「北斎」の名前を独占しようとするような類いのものでは全くない、(ウ)本願商標の効力が土産物に及ぶのは、本願商標と完全に同じ商標、あるいは本願商標を構成する二つの部分(漢字文字、図形)の配置に変更を加えてなる商標などのように、本願商標と類似する商標を土産物に付した場合などの極めて特異なケースに限られるものである、(エ)これらの請求人の主張は、実質的に、本願商標の効力範囲が、漢字文字の「北斎」のみからなる商標には及ばないことを自覚し、これを宣言するものであるなどと主張している。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
前記2(1)アに認定したところによれば、本願商標は、その構成自体がきょう激な文字や卑わいな図形等である場合に該当するものとはいえない。
そこで、以下においては、本願商標を本願指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するものといえるかどうかについて検討する。
(1)まず、前記2(1)アのとおり、本願商標は、「北斎」との筆書風の漢字と、葛飾北斎が用いた落款と同様の形状をした図形からなるところ、前記2(4)に認定した請求人の主張からすると、本願商標が商標登録された場合において、請求人が本願指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は、「北斎」との筆書風の漢字と図形からなる構成に限定されると考えられることから、例えば、「北斎」との漢字文字のみからなる商標について、これが本願商標の禁止権の範囲に含まれるなどと主張することは、信義誠実の原則に反し許されないといわなければならない。
(2)また、前記2(2)のとおり、葛飾北斎の出身地である東京都墨田区や国内各地のゆかりの地においては、当該地域のまちづくりや観光振興のシンボルとして、同人の名を用いた施設の整備や催し物の開催等が行われているところであって、「北斎」の名称は、それぞれの地域における公益的事業の遂行と密接な関係を有している。
したがって、請求人が本願商標の商標登録を取得し、本願指定商品について、本願商標を独占的に使用する結果となることは、上記のような各地域における公益的事業において、土産物等の販売について支障を生ずる懸念がないとはいえない。
しかしながら、前記(1)のとおり、請求人が本願指定商品について本願商標に基づき主張することができる禁止権の範囲は、「北斎」との筆書風の漢字と図形からなる構成に限定されると考えられることからすれば、当該公益的事業の遂行に生じ得る支障も限定的なものにとどまるというべきである。
(3)さらに、前記2(2)のとおり、葛飾北斎は、日本国内外で周知、著名な歴史上の人物であるところ、周知、著名な歴史上の人物名からなる商標について、特定の者が登録出願したような場合に、その出願経緯等の事情いかんによっては、何らかの不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるため、当該商標の使用が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する場合が存在しないわけではない。
しかしながら、請求人による本願商標の出願について、上記のような公益的事業の遂行を阻害する目的など、何らかの不正の目的があるものと認めるに足りる証拠はないし、その他、本願全証拠によっても、出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない。
(4)以上のとおり、本願商標の商標登録によって公益的事業の遂行に生じ得る影響は限定的であり、また、本願商標の出願について、請求人に不正の目的があるとはいえず、その他、出願経緯等に社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあるとも認められない本願においては、請求人が葛飾北斎と何ら関係を有しない者であったとしても、請求人が本願指定商品について本願商標を使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するものとまでいうことはできない。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものではない。
4 まとめ
以上のとおり、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとした原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。
その他、政令で定める期間内に、本願についての拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本願商標)



審決日 2013-03-07 
出願番号 商願2007-117902(T2007-117902) 
審決分類 T 1 8・ 22- WY (X25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今田 三男山田 正樹 
特許庁審判長 大橋 信彦
特許庁審判官 大森 健司
前山 るり子
商標の称呼 ホクサイ 
代理人 森本 聡 

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