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審決分類 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y03
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y03
管理番号 1268371 
審判番号 無効2012-890015 
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2012-12-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5026349号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5026349号商標(以下「本件商標」という。)は,「香りサフロン」の文字を標準文字で表してなり,平成18年8月18日に登録出願,第3類「洗濯用柔軟剤,洗剤,化粧品,せっけん類」を指定商品として,平成19年1月25日に登録査定,同年2月16日に設定登録されたものである。

第2 引用各商標
請求人が本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は,次のとおりである。
1 登録第4900946号商標(以下「引用商標1」という。)は,「ソフラン」の片仮名と「SOFLAN」の欧文字とを二段に表してなり,平成16年10月27日に登録出願,第1類「衣類のしわ取り剤,衣類の防しわ剤」及び第3類「家庭用帯電防止剤,洗濯用柔軟剤,洗濯用仕上剤,洗濯用のり剤」を指定商品として,平成17年10月14日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
2 「引用商標2」は,別掲1のとおりに「ソフランS」の文字を,「引用商標3」は,別掲2のとおりに「ソフラン 1/3」の文字を,「引用商標4」は,別掲3のとおりに「ソフランC」の文字を,「引用商標5」及び「引用商標6」は,別掲4及び別掲5のとおりに「ソフランC 1/3」の文字を,「引用商標7」は,別掲6のとおりに「しわスッキリ ソフワンC」の文字を,「引用商標8」は,別掲7のとおりに「デイフレッシュ ソフラン」の文字を,「引用商標9」ないし「引用商標11」は,別掲8ないし10のとおりに「香りとデオドラントのソフラン」の文字を表してなるものである。
以下,引用商標1ないし11をまとめて,「引用各商標」ということがある。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標はその指定商品中「洗濯用柔軟剤」について商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項により無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第50号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)指定商品について
本件商標の請求に係る指定商品は「洗濯用柔軟剤」であり,引用商標1の指定商品は「洗濯用柔軟剤」を含むものである。
引用商標2ないし11は,請求人が製造販売してきた「ソフラン」ブランドの商品「洗濯用柔軟剤」に付されたものである。
本件商標の指定商品と引用各商標の使用商品は,同一である。
(2)「ソフラン」の著名性について
引用各商標の要部は「ソフラン」である(甲第3号証)。
請求人は,洗濯用柔軟剤の「ソフラン」ほか,多数の有名ブランド商品を製造・販売している(甲第4号証)。
請求人は,1975年(昭和50年)より,洗濯用柔軟剤「ソフランS」の販売を開始し,1988年より「ソフラン1/3」を販売開始,1991年より「ソフランC」と改名され,2001年には「しわすっきりソフラン」を販売開始,2005年より,現在も販売されている「香りとデオドラントのソフラン」が販売開始され,現在に至っている(甲第5号証ないし甲第7号証)。
「ソフラン」シリーズは,長年の間,各種媒体にて積極的な広告宣伝活動が行われた結果,我が国の取引者・需要者にとって著名なブランドとなっている。
甲第8号証は,新聞・ビジネス誌の掲載情報をカバーする会員制データベースである「日経テレコン21」の検索結果である。
具体的には,1987年12月17日付「日経流通新聞」に「『ソフランS』が快進撃」とあり,「メーカー別に九月からの売れ行き状況を追ってみると,大手三社の中でライオンがぐいぐいシェアを伸ばしているのが目立つ。三大都市圏では九月に二七・二%だったシェアが十一月には四二・五%に拡大した」とある。
2001年9月1日付「日経トレンディ」に,「一時は品薄状態 出荷ペースは目標の2倍に」と掲載されている。
2001年12月5日付「毎日新聞(夕刊)」では,「記者が選ぶ『ヒット商品』2001年ベスト5」の中で,第4位に「しわスッキリ ソフランC」が掲載されている。
2001年12月7日付「日本工業新聞」においても,「洗濯皺が少なくアイロンがけの手間が軽減される柔軟剤『しわスッキリソフランC』が半年で千三百万本を売り上げライオンがこの市場のシェアを二〇%から三〇%に伸ばす」とある。
こうした結果,2002年2月28日付「日経MJ」では,「しわスッキリソフランC」が日経優秀製品賞に輝いている。
甲第9号証は,過去の「ソフラン」関連商品のテレビCMの画面キャプチャ画像であるが,表示されているとおり,1979年から2011年までの,さまざまな「ソフラン」関連商品のテレビCMが放送されていたことがわかる。
このように,1970年代から現在に至るまで,「ソフラン」シリーズのテレビCMは長年に渡り継続的に放送されている。
甲第10号証は,株式会社ビデオリサーチによるテレビCM統計データである。本件商標に関する広告費の年計が,2004年が3億6879万円,2005年が3億3943万円,2006年が1億5287万円,2007年が1億3595万円に上る。
以上のとおり,申立人の活発な営業及び宣伝広告活動の結果,「ソフラン」は洗濯用軟剤の分野において長年の間大きなシェアを占める人気商品となっている。
甲第11号証は,市場調査会社である株式会社インテージによる「ソフラン」ブランドの販売金額,販売個数,金額シェア等に関する調査結果である。これによると,「ソフラン」シリーズ全商品を合計した場合の販売金額及び販売数量は,2004年(平成16年)が109億2200万円で4670万個,2005年(平成17年)が125億3700万円で5310万個,2006年(平成18年)が129億9700万円で5640万個,2007年(平成19年)が136億9000万円で6120万個に上る。金額シェアについては,2004年(平成16年)から2007年(平成19年)に至るまで,(洗濯用)柔軟剤の分野で約20%台を占めている。
なお,これまで多数の会社から洗濯用柔軟剤が製造販売されているが,市場シェアは請求人を含む大手3社でほぼ独占されている。
甲第12号証は,株式会社インテージによる柔軟剤販売金額シェアのデータ(SRIデータ)である。2004年7月,2005年7月,2011年12月の金額シェア情報を例に挙げると,ライオン株式会社の「ソフラン」,花王の「ハミング」,プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)の「レノア」ブランドの3社合計で全体のほぼ80%を占めており,ここからも,請求人の「ソフラン」ブランドは,洗濯用柔軟剤の分野で上位3強に入る著名ブランドであることがわかる。
甲第13号証は,市場調査会社である株式会社ビデオリサーチによる,2004年(平成16年)6月から2007年(平成19年)12月までの,家庭用柔軟剤の主な需要者である満16?59歳の女性を対象とした「ソフラン」ブランド商品の知名率調査結果(訪問面接/留置法)である。これによると,「ソフラン」計の再生知名率(ブランド名を呈示すること無しに名前が想起された割合)は,30%近くから50%近くにまで及んでいる。さらに,再認知名率(ブランドを提示した上で,その名前が知られている割合)に至っては,「ソフランS」でほぼ80%から90%という非常に高い数値を示している。
以上より,引用各商標の要部「ソフラン」は,洗濯用柔軟剤の分野において,本件商標の出願日である平成18年(2006年)8月18日以前から,その登録日である平成19年(2007年)2月16日以降現在に至るまで,我が国の取引者及び需要者の間で高い著名性を有していたことがわかる。
(3)本件商標と引用各商標の混同の可能性について
ア 本件商標の要部について
本件商標の要部は「サフロン」部分であり,「サフロン」は被請求人の創作による造語であると考えられる。
イ 「サフロン」と「ソフラン」の近似性について
本件商標の要部「サフロン」と「ソフラン」とを称呼において比較するに,「サフロン」は発音上「サ(sa)フ(fu)ロ(ro)ン(n)」となる。それに対して,「ソフラン」は「ソ(so)フ(fu)ラ(ra)ン(n)」であり,両者は,全4音中,第2音及び第4音が共通する上,相違する第1音と第3音についても,その母音「ア(a)」と「オ(o)」とを入れ替えただけにすぎないことがわかる。
よって,「サフロン」と「ソフラン」とは,称呼上の類否判断でいえば2音相違ではあるが,その相違する2音が同行(「サ」と「ソ」,「ロ」と「ラ」)の音であり,かつ,各々発音の近い母音を入れ替えたのみ(「a」と「o」)であるため,「サフロン」及び「ソフラン」全体を称呼した場合,非常に似通った印象を与えるものとなっている。
ウ 「香りとデオドラントのソフラン」の略称(取引の実情)について
2005年2月26日より販売されている「香りとデオドラントのソフラン」については,正式名称以外に「香りソフラン」という略称で流通している事実がある。
甲第18号証は,請求人が制作して卸売業者や販売店向けに配布した商品案内の抜粋である。「香りとデオドラントのソフラン」の商品紹介ページに続き,「2005年春の新製品・改良品荷姿一覧表」として,各商品の商品名,POSレジ略称,JANコード,発売月がリスト化されている。卸売業者や販売店は,この情報を元に請求人の商品情報をレジスターに登録し,販売情報の管理を行っている。
「POSレジ略称」は「カオリソフランP」「カオリソフランPカエ」(Pは「ピンクフローラルの香り」の略),「カオリソフランG」「カオリソフランGカエ」(Gは「グリーンシトラスの香り」の略)となっている。
甲第21号証は,現在の店舗にて発行されるレシート(領収証)の写しであるが,大手ドラッグストアのセイジョーでは,商品名「香りとデオドラントのソフラン ブルーローズの香り」が「香りソフランブルーローズ」と印刷されている。また,大手スーパーマーケットのイオンでは,「香りとデオドラントのソフラン フローラルアロマの香り 詰め替え用」が「香りソフランFアロマ替え」と,「香りとデオドラントのソフラン アロマリッチ ヴィオレッタ」が「香りソフランヴィオレッタ」と印刷されている。
レシートは,商品販売時に各購入者に対して渡されるものであり,例えば,家計簿等に記入する際,その内容をよく見るものである。よって,「香りとデオドラントのソフラン」は商品名が長いこともあり,2005年2月に販売が開始された段階から,その略称として「カオリソフラン」又は「香りソフラン」と称されることが多かったということがわかる。また,レシート以外にも,同様の略称を用いて実際の取引がなされることが多い(甲第22号証ないし甲第26号証)。
大手ポータルサイト「goo」における,商品購入の際の参考情報を検索でき,評判やクチコミを見ることができる「goo評判検索」サービスにおいても,「香りとデオドラントのソフラン」は「香りソフラン」と略称されている(甲第27号証)。 同様のサービスを行う「はてなキーワード」においても,「香りとデオドラントのソフラン」は「香りソフラン」と略称されている(甲第28号証)。
このように,実際の取引の場面においては,「香りとデオドラントのソフラン」が「香りソフラン」と略称される場面が多かったことが確認できる。
なお,この「香りとデオドラントのソフラン」は2005年2月に発売開始以降,生活者のニーズを捉え,2009年には発売後の累計販売個数が2億個を突破している(甲第29号証)。
本件商標の出願日及び登録日の時期を見るに,2005年から2007年の3年間の累計で7510万個を売り上げている(甲第11号証)。
このように,2005年の販売当初から「香りソフラン」という略称が使用されていたという事実は,本件商標と引用各商標との混同を生じさせる大きな一因と言える。「香り」と「ソフラン」の2つの語によって需要者に記憶されると,本件商標「香りサフロン」から,「ソフラン」が想起される可能性がより高まるためである。
エ 実際の混同事例
以上のとおり,本件商標と引用各商標とは非常に似通った印象を与えるため,同一の商品(洗濯用柔軟剤)について使用された場合に混同を生ずるおそれがあるのは明らかであり,我が国の一般需要者が実際に混同した事例がある(甲第30号証ないし甲第50号証)。
オ 混同が起こる理由について
「ソフラン」ブランド商品の知名率調査結果(甲第11号証)によれば,前記(3)イで示すとおり,「ソフラン」と「サフロン」が非常に似通っていること,前記(3)ウで示すとおり,商取引の場面において「香りとデオドラントのソフラン」の略称として「香りソフラン」が用いられていること,前記(2)で述べたとおり,洗濯用柔軟剤は大手3社がほとんどのシェアを握っているため,洗濯用柔軟剤を目にする需要者等が「ソフラン」を想起しやすいことを考えると,店頭で本件商標「香りサフロン」を見た際に,「香り」と「ソフラン」の2つの語をキーワードとして請求人の著名商標「ソフラン」を想起し,その結果混同してしまう需要者が多く存在するものと容易に推認できる。
なお,甲第31号証の左上の商品写真と甲第3号証に係る請求人の「ソフラン」商品写真と比較してみるに,商品全体的の外観イメージにも,需要者等が「サフロン」商品と「ソフラン」商品とを間違えてしまう一因がある。
カ 「混同を生ずるおそれ」について
商標法第4条第1項第15号の規定に該当するには,商標登録出願時及び登録時のいずれも本号に該当する必要がある(商標法第4条第3項)。甲第30号証ないし甲第50号証において,「サフロン」と「ソフラン」の混同事例を多数挙げたが,これらは本件商標の出願時及び登録時より以降のものも含まれているが,この点をもって本号に該当しないとするのは妥当ではない。
実際,甲第33号証において,「(サフロン製品が)ドラッグストア3軒回っても見つからなかった」と言及されているとおり,2008年7月9日の段階では,まだ多くの店舗に商品が流通していなかったことが推認される。しかし,その後,多くの店舗に「サフロン」商品が置かれるようになると,上述したとおり多くの需要者が「サフロン」と「ソフラン」を混同し,その事例が多数確認されるようになっている。
そうとすれば,本号に該当するか否かは,混同事例の有無ではなく,あくまでも本件商標の出願時及び査定時に混同を生ずるおそれがあったか否かであり,これは,両商標の近似性,「ソフラン」の洗濯用柔軟剤に関する著名性により,充分に推認できる。
現実としても,これまで挙げるように多数の混同事例が生じており,これはとりもなおさず,本件商標の出願及び登録時において,請求人の著名商標「ソフラン」との混同のおそれが存在することのなによりの証左であって,やはり本件商標はこの点で無効理由を有すると言わざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものである。
2 商標法第4条第1項第7号について
前記1(3)エで挙げた事例の中に,「サフロン」が「ソフラン」の真似(パクリ,類似品)であると認識している事例が多々あるが,この点については,商標法第4条第1項第7号に該当する可能性も否定できない。
また,前記1(2)で述べたとおり,本件商標の出願日には既に商標「ソフラン」は洗濯用柔軟剤について著名であり,前記1(3)で述べたとおり,本件商標が出願された2006年8月18日より前の2005年2月から,請求人は「香りとデオドラントのソフラン」という新製品を販売しており,発売当時の2005年だけでも3億円以上の広告費をかけてテレビCMを多数放送し(甲第10号証),2000万個近くを販売して51億円近くを売り上げている(甲第11号証)。その商品は多くの場面で「カオリソフラン」「香りソフラン」と略称されて流通していた事実もある。
よって,本件商標の出願時に,被請求人は,著名商標「ソフラン」,「香りとデオドラントのソフラン」及びその略称「香りソフラン」を認識していた可能性が高い。
そうとすれば,これらの商標と混同を生ずるおそれのある本件商標を指定商品「洗濯用柔軟剤」について使用する行為は,請求人が長年にわたる莫大な宣伝広告費用と営業努力によって培ってきた著名商標「ソフラン」等の信用力(ブランド価値)にただ乗りするものであり,かかる信用力(ブランド価値)を希釈化させるものである。
同時に,著名商標「ソフラン」と混同を生ずるおそれのある商標「サフロン」の商標登録及び使用を認めることにより,需要者が著名商標から受ける連想が,ブランドが本来持っているものではなく,他の連想へと拡散してしまう。品質・性能の異なる類似商品の存在を止めなければ,需要者の記憶を当該ブランド特有の連想とのみ結びつける著名商標の能力が失われてしまうことも考えられる。その結果,需要者等を混乱させ,需要者等の利益を害することとなる(商標法第1条)。
したがって,本件商標を「洗濯用柔軟剤」について使用した場合,公正な取引秩序を乱し,公の秩序を害するおそれがあるため,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反してなされたものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第15号に該当しない理由
(1)本件商標と引用各商標の非類似について
ア 本件商標は,「香りサフロン」の文字を,同一の書体かつ同一の大きさで一連に横書きしてなるものであることから,外観上,全体として一体のものとして,何人にも認識されるものである。
また,本件商標は,全体として特に明確な特定の観念を持つものではない。
したがって,本件商標は,需要者にとって,全体として明確な特定の観念を持たない一つの造語として認識される。
本件商標は,称呼される場合,常に一体に「カオリサフロン」と称呼されるものであり,またそのように称呼しても冗長にすぎるものでもなく,途中で分離して称呼しなければならない格別の理由もないものである。
これに対して,引用各商標からは,「ソフラン」の称呼が生じるものである。
イ 本件商標と引用各商標の称呼を比較してみると,本件商標の「カオリ」音を引用各商標が持たない差異が認められるものである。
また,本件商標の「サ」音に対して,引用各商標の「ソ」音,及び,本件商標の「ロ」音に対して,引用各商標の「ラ」音の差異が認められるものである。
特に「カオリ」音の有無の差異は,称呼の識別において最も重大な影響を与える語頭音における差異である。
また,「サ」音に対する「ソ」音,「ロ」音に対する「ラ」音の差異は,各々,子音を共通にするとしても,母音において調音位置を全く異にする異質の音である。
特許庁においても,「サ」音と「ソ」音の1音において称呼が異なっている商標が,その1音違いにおける母音の差異により,互いに類似しないと判断されている(乙第1号証)。
本件における「ロ」音と「ラ」音の差異も,母音の「オ」と「ア」の差異であることから,同様のことがいえるものであり,「サ」音と「ソ」音の1音違いでも非類似と判断されているのであるから,さらに2音違いとなれば,なおさら非類似と判断されるものである。
よって,上記の差異により,本件商標は,引用各商標と,称呼において語調語感が相違することが明らかであるため,十分に識別でき,類似しないものである。
また,本件商標は,引用各商標とは外観においても類似しないものであり,本件商標は,明確な特定の観念を持たないから,観念においても引用各商標とは比較すべくもなく,類似しないものである。
以上のことから,本件商標は,引用各商標とは,称呼,外観,観念のいずれにおいても類似しないものであり,非類似の商標である。
ウ 請求人は,本件商標の要部は「サフロン」部分であることを主張した上で,引用各商標「ソフラン」との近似性について主張している。
しかし,本件商標は,需要者にとって,全体として明確な特定の観念を持たない一つの造語として認識されるものであるから,本件商標から「サフロン」部分のみが取り出されて比較されるものではない。
もっとも,万が一,本件商標から「サフロン」部分のみが認識されたとしても,引用各商標とは,本件商標の「サ」音に対して,引用各商標の「ソ」音,及び本件商標の「ロ」音に対して,引用各商標の「ラ」音の差異が認められるものである。
この場合,特に,「サ」と「ソ」音の差異は,称呼の識別において最も重大な影響を与える語頭音における差異である。
したがって,この場合であっても,本件商標は,引用各商標とは称呼において類似しないことには変わりなく,本件商標は,引用各商標とは非類似の商標である。
エ 以上,本件商標は,引用各商標とは明らかに非類似の商標であり,別個の商標として認識されるものであるから,引用各商標の周知著名性が高まれば互いに類似してくるというものでもなく,引用各商標の周知著名性いかんにかかわらず,別個の商標として十分に識別できるものであるから,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれはないものである。
オ 請求人は,引用各商標の周知著名性により,「ソフラン」を想起しやすく,商品の出所混同が起こることも主張するが,引用各商標の「ソフラン」が需要者に正確に認識されるようになるほど,むしろ,本件商標との違いについても正確に認識できるようになるはずであることから,逆に両商標をより容易に別個の商標として識別できるようになるものである。
本件商標は,引用各商標とは本来非類似であるから,本件商標から引用各商標が想起されることもない。
したがって,引用各商標の周知著名性により,本来非類似である本件商標との間で,商品の出所について誤認混同が生ずるおそれはないものである。
(2)「香りソフラン」という略称の使用と本件商標との非類似について
ア 請求人は,2005年2月26日より販売されている「香りとデオドラントのソフラン」が,正式名称以外に「香りソフラン」という略称で流通していることを,出所混同が生じる一因として主張している。
しかし,「香りとデオドラントのソフラン」という商品が2005年春(甲第18号証)から販売開始されているとしても,請求人が提出した証拠からは,「香りソフラン」という略称が,本件商標の商標登録出願時(2006年8月18日)の時点において,需要者に認識されていたことは証明されているとはいえない。
イ 「香りとデオドラントのソフラン」という商品の販売開始から本件商標の出願時までを見ると,約1.5年という短期間しかなく,この間に需要者に「香りソフラン」という略称が浸透し,認識されていたとはいえない。
また,POSシステムについて述べ,POSレジ略称について言及しているが,POSレジ略称は,商品管理のための記号というべきものにすぎないものであり,需要者が商品の商標として認識するものとは異質のものである。
また,そのPOSレジ略称にしても,「香りとデオドラントのソフラン」という商品を香り別に識別するために,香りの略称の記号である「P」や「G」を「カオリソフラン」なる記号に付加しているものであり(甲第18号証),「香りソフラン」という略称の使用とは言えない。
その他,請求人が提出するレシート(甲第21号証)は,2012年のものであり,オンラインストアの商品紹介ページ(甲第22号証ないし甲第26号証)は,2011年に印刷されたものであり,goo評判検索の記事(甲第27号証)は,掲載時期が不明であり,はてなキーワードの記事(甲第28号証)は,2011年に印刷されたものである。
つまり,請求人が「香りソフラン」という略称で流通している事実を立証するために提出している証拠は全て,本件商標の商標登録出願時(2006年8月18日)以降のものである。
したがって,「香りソフラン」という略称が,本件商標の商標登録出願時(2006年8月18日)において,需要者に認識されていたとは,請求人が提出する証拠からは立証されているとはいえないものである。
「香りとデオドラントのソフラン」という商品が「香りソフラン」という略称で流通していることが,出所混同が生じる一因であるとの請求人の主張は認められない。
ウ もっとも,万が一,「香りソフラン」という略称が需要者に認識されたとしても,本件商標とは,すでに述べたとおり,本件商標の「サ」音に対して,引用各商標の「ソ」音,及び本件商標の「ロ」音に対して,引用各商標の「ラ」音という2音の差異が認められることにより,十分に識別できるため,商品の出所混同は生じない。
(3)請求人が主張する実際の混同事例について
請求人は,実際の混同事例なるもの(甲第30号証,甲第32号証ないし甲第50号証)を証拠として挙げているが,これらの事例は,もともと証拠としての信頼性に疑問があるものである上に,ほとんど全てが本件商標の商標登録出願時(2006年8月18日)以降のものである。
(4)請求人は,商品写真(甲第3号証及び甲第31号証)から,本件商標と引用各商標の両者とも商品全体の外観イメージが,ピンク色,花柄であることによっても,出所混同を生じる一因があると主張する。
しかし,当該商品写真を見れば明らかなとおり,本件商標の商品は,ピンク色以外のものの方が多く,また花柄の部分も明らかに互いに類似しない。
むしろ,その違いにより,なおさら両者は区別できるものであり,出所混同が生じないことの根拠となるものである。
(5)以上のとおり,本件商標は,引用各商標とは非類似であり,その他の請求人が主張する両商標の出所混同の可能性に関する主張も認められないことから,本件商標を「洗濯用柔軟剤」に使用しても,商品の出所混同のおそれはなく,商標法第4条第1項第15号には該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号に該当しない理由
(1)本件商標は,全体として一つの造語として認識されるものであり,本件商標中「サフロン」の部分も,被請求人の独自の創作によるものであって,他に依拠するものではない。
このように,本件商標は,引用各商標とは関係なく,引用各商標に化体した信用・名声・顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の目的のもとに,つまり引用各商標の信用力(ブランド価値)にただ乗りするために模倣したものではないことが明らかである。
(2)本件商標の登録及び使用により,需要者が引用各商標から受ける連想を他へ拡散し,引用各商標に化体した信用・名声・顧客吸引力を希釈化させるおそれもないから,需要者を結果として混乱させ,需要者の利益を害する(商標法1条)こともないものである。
(3)したがって,本件商標を「洗濯用柔軟剤」に使用しても,商取引の秩序を乱し,公共の利益を害するおそれもないから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
3 結び
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号及び同項第7号には該当しないものである。

第5 当審の判断
1 「ソフラン」の著名性について
請求人の主張及び提出に係る甲第3号証ないし同第14号証,同第18号証及び同第29号証を総合して検討すれば,請求人は,洗濯用洗剤,洗濯用柔軟剤,石鹸等のトイレタリー用品の製造,販売を主な事業とする会社であって,1975年(昭和50年)より,「ソフランS」の商標を付した商品「洗濯用柔軟剤」の販売を開始し,その後,「ソフラン1/3」,「ソフランC」,「しわスッキリソフランC」などと改名して販売し,また,2005年からは,現在も販売されている「香りとデオドラントのソフラン」を販売しているものである。
そして,請求人が,「ソフラン」を要部とする引用各商標を付した商品「洗濯用柔軟剤」を,長年にわたり,テレビCM,新聞又は雑誌等の各種媒体で広告,宣伝し,多数販売した結果,「ソフラン」のシリーズ商品に使用した引用各商標に,顕著に表された「ソフラン」の文字は,請求人の業務に係る商品「洗濯用柔軟剤」を表すものとして,本件商標の登録出願時はもとより,登録査定時においても,我が国の取引者,需要者の間において広く知られていたものと認めることができる。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は,前記第1のとおり,「香りサフロン」の文字を標準文字で表してなるものであるところ,その構成は,同書,同大,等間隔でまとまりよく表されており,該文字より生ずる「カオリサフロン」の称呼も冗長とはいえず,淀みなく一気に称呼できるものである。
そして,本件商標の構成中「香り」の文字は,商品「洗濯用柔軟剤」との関係においては識別力が弱い語といえるものであるとしても,上述したとおり,「香りサフロン」と一連一体の構成により表された本件商標は,全体として,特定の語義を有しない造語とみるのが相当であるから,特定の観念が生じないものである。
(2)引用各商標について
引用商標1は,「ソフラン」の片仮名と「SOFLAN」の欧文字とを二段に表してなるもの,引用商標2ないし11は,別掲1ないし10のとおり,「ソフラン」の片仮名を要部とするものであるから,これらの文字からは,「ソフラン」の称呼をも生ずるものである。
そして,引用商標9ないし11については,「香りとデオドラントのソフラン」の構成文字全体として「カオリトデオドラントノソフラン」の称呼が生ずるものである。
また,引用各商標は,いずれも特定の語義を有しない造語といえるものであるから,特定の観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用各商標との比較について
本件商標と引用各商標とを比較するに,それぞれの外観は,前記(1)又は(2)のとおりであるから,外観上,十分に区別し得る差異を有するものである。
そして,本件商標から生ずる「カオリサフロン」の称呼と,引用各商標から生ずる「ソフラン」又は「カオリトデオドラントノソフラン」の各称呼とは,その構成音数の相違により,称呼上明らかに聴別し得るものである。
また,観念においては,いずれも特定の観念を生じないものであるから,両者を比較することができない。
そうとすれば,本件商標と引用各商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められる。
(4)出所の混同のおそれについて
引用各商標に顕著に表された「ソフラン」の文字は,前記1のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品「洗濯用柔軟剤」を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く知られていたものと認められる。
しかしながら,本件商標と,引用各商標とは,前記(3)に記載のとおり,外観,称呼及び観念のいずれからみても十分区別し得る別異の商標であるから,商標権者が本件商標をその指定商品に使用しても,請求人の引用各商標を想起,連想させるものではないというのが相当であって,請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
(5)請求人の主張について
請求人は,2005年2月26日より販売している洗濯用柔軟剤は「香りとデオドラントのソフラン」の表示の使用以外に「香りソフラン」という略称で流通しているとして,請求人が配布した商品案内の抜粋(甲第18号証),販売店舗発行の領収書(写し)(甲第21号証),同様の略称を用いて取引がなされる事実等(甲第22号証ないし甲第28号証)を提出し,2005年の販売当初から「香りソフラン」という略称が使用されていたという事実は,本件商標と引用各商標との混同を生じさせる大きな一因と言える旨,主張する。
しかしながら,POSレジ略称としての「カオリソフラン」の使用や小売店等のウェブサイトの商品紹介における「香りソフラン」の使用例は,請求人自らの使用ではなく,また,提示された証拠をもって,「香りソフラン」の著名性を立証するには足りないものである。
したがって,たとえ,2005年の販売当初から「香りソフラン」という略称でも表示されている事実があるとしても,請求人の提出に係る上記証拠をもって,該文字が請求人の商品「洗濯用柔軟剤」に,商標として使用され,著名であることを立証したものということができない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
請求人は,本件商標は長年にわたる莫大な宣伝広告費用と営業努力によって培ってきた著名商標「ソフラン」等の信用力(ブランド価値)にただ乗りするものであり,かかる信用力(ブランド価値)を希釈化させ,公正な取引秩序を乱し,公の秩序を害するおそれがある旨主張するが,請求人の証拠を検討しても,本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあった等の事実を証する証拠を見いだすことができず,他に,本件商標をその指定商品について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するような事情,あるいは,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないとすべき事情等は見受けられない。 そして,本件商標は,「香りサフロン」の片仮名を標準文字で表してなるものであるから,その構成自体において公序良俗違反に該当するものでないことは明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。
4 なお,請求人は,本件審判の審理終結後,平成24年10月15日付けで弁駁書を提出しているが,当該弁駁書を検討するも,当合議体は,上記のとおり判断するものである。
5 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,その指定商品中「洗濯用柔軟剤」について,商標法第4条第1項第7号及び同第15号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効とすることができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 (引用商標2)



別掲2 (引用商標3)



別掲3 (引用商標4)



別掲4 (引用商標5)



別掲5 (引用商標6)



別掲6 (引用商標7)



別掲7 (引用商標8)



別掲8 (引用商標9)



別掲9 (引用商標10)



別掲10 (引用商標11)



審理終結日 2012-09-28 
結審通知日 2012-10-05 
審決日 2012-11-01 
出願番号 商願2006-76945(T2006-76945) 
審決分類 T 1 12・ 22- Y (Y03)
T 1 12・ 271- Y (Y03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 箕輪 秀人 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 田中 亨子
堀内 仁子
登録日 2007-02-16 
登録番号 商標登録第5026349号(T5026349) 
商標の称呼 カオリサフロン、サフロン 
代理人 潮崎 宗 
代理人 橋本 良樹 
代理人 幡 茂良 
代理人 小出 俊實 
代理人 小谷 武 
代理人 吉田 親司 
代理人 蔵田 昌俊 
代理人 石川 義雄 
代理人 木村 吉宏 

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