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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y16
管理番号 1267070 
審判番号 取消2012-300069 
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-01-31 
確定日 2012-11-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4658291号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4658291号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4658291号商標(以下「本件商標」という。)は,「ビジネス数検」の文字を横書きしてなり,平成14年4月18日に登録出願,第16類「新聞,雑誌,問題集」を指定商品として,同15年4月4日に設定登録さたものである。
そして,本件審判請求の登録日は,平成24年2月14日である。

第2 請求人の主張の要旨
請求人は,結論同旨の審決を求めると申し立て,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品について継続して3年以上日本国内において使用した事実が存しないから,その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 第1弁駁
(1)登録商標の使用に該当しないこと
被請求人は,審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,使用権者が本件商標を使用した事実がある旨主張し,使用の証明として,書籍「ビジネス数学検定」(乙4,乙5)を提出している。
しかし,商標法第50条にいう「登録商標」とは,登録商標そのもの,又は,商標法第50条第1項かっこ書きに該当する商標のことをいうところ,被請求人の主張する使用の事実は,以下のとおり,そのいずれを使用したことの証明にもなっていない。
ア 乙第4号証及び乙第5号証の表紙には,いずれも「ビジネス数学検定」の文字が二段で記載されているが,本件商標は,一段で表された「ビジネス数検」であり,両者は明らかに相違する。よって,登録商標そのものの使用を証明したことにはならない。
イ 「ビジネス数学検定」と本件商標とでは,使用されている文字が2文字異なるため,外観において相違する。また,「ビジネス数検」の称呼は,「ビジネススウケン」ないし「ビジネススーケン」であるのに対して,「ビジネス数学検定」の称呼は「ビジネススウガクケンテイ」ないし「ビジネススーガクケンテイ」であり,前者は8文字,後者は12文字であり,称呼においても両者は明らかに相違する。また,「ビジネス」の語は,数学の問題の内容がビジネスに関連したものであることを示すに過ぎず,自他商品識別機能を果たしているのは,「数学検定」及び「数検」の部分であり,かかる部分において,両者は大きく相違する。
さらに,被請求人は,「ビジネス数学検定」と「ビジネス数検」が同義である旨主張するが,仮に両者が同義であるとしても,上記のように,商標として,外観及び称呼のいずれにおいても両者が大きく異なることには何ら影響はない。
したがって,乙第4号証及び乙第5号証は,商標法第50条第1項かっこ書きに該当する商標の使用を証明したことにもならない。
ウ 被請求人は,乙第4号証の後書き・奥付けに,「ビジネス数検」と記載されている旨主張しているが,かかる記載は当該書籍の題号の略称を記述したものであり,単に当該書籍の内容を説明するものであって,出所表示機能を有しない態様であり,いずれも商標としての使用態様ではない。
エ 以上のように,被請求人は,商標法第50条にいう「登録商標」の使用をしていることを証明していない。
(2)指定商品についての使用に該当しないこと
被請求人は,「乙第4号証,乙第5号証は,『書籍』に係る使用である。」と主張しているが,本件商標の指定商品は,第16類「新聞,雑誌,問題集」であって,「書籍」ではない。
よって,乙第4号証及び乙第5号証は,本件商標の指定商品のいずれへの使用も証明したことにはならない。
(3)商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかの使用に該当しないこと
被請求人は,本件商標に関して,請求人と被請求人の間に使用許諾契約が成立しており,使用許諾契約期間内に請求人が乙第4号証及び乙第5号証を発行しており,使用権者による使用の事実がある旨主張する。
しかしながら,乙第1号証の契約の締結の日付は1999年(平成11年)8月4日であり,本件商標の出願日は,その契約の締結より後の平成14年4月18日である(甲1)。
また,乙第2号証に記載の「平成20年実績受検者数」及び乙第3号証に記載の「平成21年実績受検者数」は,これらの人数とほぼ一致する請求人が主催する「実用数学技能検定(数学検定)」の受検者数であって(甲5),いずれも「ビジネス数学検定」の受検者数ではない。そもそも,請求人は,乙第1号証ないし乙第3号証の契約対象には,本件商標は含まれないと認識している。
よって,請求人と被講求人との間に本件商標の使用許諾契約が成立しているとはいえず,請求人は使用権者には該当しない。
(4)まとめ
以上のように,本件商標は,その指定商品について継続して3年以上日本国内において使用した事実が存しないから,その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
3 第2弁駁
(1)登録商標の使用に該当しないこと
ア 被請求人は,昭和63年(行ケ)269号,昭和63年(行ケ)255号の判決を引用し,外観において相違がある場合であっても,全体として社会通念上同一の範囲であれば,登録商標の使用と認められると主張する。
しかしながら,該事例は外観が酷似し,同一の称呼及び観念を生ずる点で社会通念上同一の範囲を出ないとされた事例であり,本件のように称呼が著しく相違するケースにまで適用できるものではない。
実際に,審判便覧の「53-01」において,「登録商標の使用と認められる事例」として挙げられた文字商標の例は,全てが同一の称呼を生じるケースであり,本件のように,登録商標と使用商標の称呼が異なる例は一つもない。
よって,乙第4号証,及び,乙第5号証の表紙に記載された「ビジネス数学検定」は,本件商標と社会通念上同一の商標とは言えない。
イ 登録商標の不使用を理由とする登録の取り消しを論ずる際にも,自他商品識別機能を有する態様での使用が要求される(平成13年(行ケ)第190号)。後書き及び奥付に小さな文字で記載された「ビジネス数検」は,自他商品識別機能を果たしておらず,商標として使用したことにはならない。
したがって,乙第4号証及び乙第5号証は,登録商標及び商標法第50条第1項かっこ書きに該当する商標の何れの使用の証明にもならない。
(2)商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の何れかの使用に該当しないこと
ア 請求人と被請求人との間に本件商標の使用許諾契約は成立しておらず,請求人は使用権者には該当しない。
(ア)乙第11号証の誓約書は,請求人の代表者によって署名押印されたものではない。すなわち,請求人の根本規則である寄付行為第17条第1項によって請求人の代表者は,理事長とされており(甲6),請求人の理事長は,乙第10号証の合意書の署名欄にて示される清水静海である(甲7)。乙第11号証の署名部分に代表権のない理事である「理事 高田 忍」,「理事 増澤 空」という記載は見られるものの,代表者である「理事長」清水静海の署名はない。
したがって,乙第11号証の誓約書は,請求人に対して効力を生じさせるものではない。
(イ)乙第1号証には,本契約成立以後に発生する被請求人名義の権利についても契約の対象となる旨が明記されておらず,単に「乙所有の商標」と記載されている。契約当時には存在しない権利を契約対象に含めるとするならば,その旨を特記するのが通常であって,そうでない場合,本契約成立以後に発生した本件商標に係る商標権が乙第1号証の契約の対象に含まれないことは明らかである。
(ウ)商標法第50条第2項専用使用権者又は通常使用権者に関し,本件では,請求人が通常使用権者といえるかどうかが問題となる。
この点,通常使用権者は,設定行為で定めた範囲内でしか権限がないから(商標法第31条第2項),その権限の範囲外についての使用は,商標法第50条第2項の「使用」に該当せず,また,設定行為の定めがなければ,そもそも通常使用権者による使用ではない。
そして,以下の理由から,乙第1号証による契約は本件商標に係る「設定行為」とはいえない。したがって,設定行為がない以上,本件は,仮に請求人に本件商標に係る何らかの使用行為が観念できたとしても,通常使用権者による使用とはいえない。
a 通常の商標許諾契約(設定行為)では最低限,商標の登録番号,指定役務・指定商品,類別などを記載して,許諾の対象となる商標を特定したうえで,使用権の範囲(地域,期間,内容)及びその使用料を定めるのが当然の前提である。そうでないと,商標権者の許諾の範囲が明らかにならず,また,その商標を使用したことによる対価関係が明らかにならないからである。
しかし,乙第1号証による契約は,1999年8月4日に締結されたものであり,本件商標の出願日である平成14年4月18日より前のものであって,この点のみをもっても,本件商標に関し「設定行為」がなされたとはいえない。
b 商標を使用したことによる対価関係という観点から見ても,本件は,本件商標を使用したことによって乙第1号証による契約による対価(パテント料)が定められるという関係にない。
すなわち,乙第1号証の契約による第2条表1の「受検者数」とは,請求人が実施してきた「実用数学技能検定(数学検定)」の受検者数を示すものであり,請求人が「実用数学技能検定(数学検定)」とは別の検定として実施している「ビジネス数学検定」に関するものでもなければ,本件商標に係る何らかの受検者数を示すものではない。このことは,乙第2号証に係る「平成20年度実績受検者数329,123人」との記載及び乙第3号証に係る「平成21年実績受検者数315,549人」との記載と甲第5号証の2枚目右上部分の2008年及び2009年の受検者数がほぼ対応していることからも優に了解できることである。
つまり,乙第1号証の契約による対価の定め方は,本件商標の何らかの使用を前提とはしていない。使用を前提としないで商標使用料が定まる商標使用許諾契約(設定行為)など,およそ背理と言わざるを得ず,乙第1号証の契約は,本件商標に係る設定行為の実質を何ら有していない。
c 本件商標の指定商品は「新聞,雑誌,問題集」であるところ,乙第1号証に係る契約に基づく対価(パテント料)の算定基準となる「実用数学技能検定(数学検定)」の受検者数やその検定料収入は,上記「新聞,雑誌,問題集」とは関係がない。すなわち,本件商標の有するであろう顧客誘引力の度合いは乙第1号証に係る契約に何らも反映されていないのである。
したがって,乙第1号証の契約は,本件商標に係る設定行為とはいえない。
d 甲第8号証に示すように,請求人が実施する「ビジネス数学検定」は,申し込みから実際の受検までをすべてインターネット上で完結できるCBT(Computer Based Testing)方式を採用し,公開会場も設置されず,受検者数も1回当たり数十人?百数十人程度であり,年間数百人程度である。一方,請求人の実施する「実用数学技能検定(数学検定)」の受検者数は年間30万人程度と,桁外れに多い(甲5)。このように,「ビジネス数学検定」は,「実用数学技能検定(数学検定)」とは,その実態が全く異なる。このことからしても,平成11年当時既にあった「実用数学技能検定(数学検定)」を前提とする乙第1号証の契約の対象に,平成11年当時は実施しておらず,その後の平成18年12月から請求人が実施するようになった「ビジネス数学検定」が入っているなどということは,請求人及び被請求人の合理的な意思解釈としておよそ考えられない。
e 被請求人は,乙第10号証を提出し,「被請求人と請求人は,本件商標が,被請求人名義で登録されていることを確認しており,」と述べている。
しかし,被請求人名義で登録されていることを確認することと,商標使用許諾契約の成立とは論理的な関係にはない。そのような確認が,本件商標に係る設定行為を基礎付けるような関係にはない。前述した,通常使用権者は,設定行為で定めた範囲内でしか権限がないから(商標法第31条第2項),その権限の範囲外についての使用は,商標法第50条第2項の「使用」に該当せず,また,設定行為の定めがなければ,そもそも通常使用権者による使用ではない。
イ 以上のように,乙第1号証ないし乙第3号証をもって請求人と被請求人との間に本件商標の使用許諾契約が成立しているとはいえず,請求人は使用権者には該当しない。
さらに,被請求人は,本件審判において,自ら商標権者として使用した事実を何ら証明しない。
したがって,被請求人は,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の何れかによる本件商標の使用を証明していないので,本件商標の取消を免れることはできない。
(3)まとめ
以上のように,本件商標は,その指定商品「第16類 全指定商品」について継続して3年以上日本国内において使用した事実が存しないから,その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。

第3 被請求人の主張の要旨
被請求人は「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」と答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出した。
1 第1答弁
(1)使用について
ア 請求人と被請求人の間には,本件商標に関して,平成11年から平成23年まで使用許諾契約が成立している(乙1?乙3)。
イ 請求人は,使用許諾契約期間内である2006年及び2007年に,書籍「ビジネス数学検定」(乙4,乙5)を発行している。
2006年発行の「ビジネス数学検定」後書きには「ビジネス数学検定(略称「ビジネス数検」)」と記載され,その他にも,後書き内に「ビジネス数検」と3箇所に記載されている。そして,奥付けにも書籍名「ビジネス数学検定」の脇に「略称-ビジネス数検」と記載されている。これらの記載により,書籍内の「ビジネス数学検定」と「ビジネス数検」が,同義として使用されているのが明らかである。
そうすると,この書籍の題名「ビジネス数学検定」も「ビジネス数検」と同義と解すべきであり,この書籍全体が「ビジネス数検」についての使用と認められる。
また,2007年に発行された「ビジネス数学検定」の奥付けにも書籍名「ビジネス数学検定」の脇に「略称-ビジネス数検」と記載されているので,2006年発行「ビジネス数学検定」と同様に「ビジネス数検」の使用証拠である。
ウ 請求人は,実施する検定事業で最も有名な「数検」と「数学検定」を同義として取扱っており,検定事業の際には併記して記載し,また,「数検」を「数学検定」の略称であることを表明してきた(乙6)。
これらは,検定試験の表紙,参考書の表紙,又は,検定の案内ポスターなどに記載されているため,少なくとも,全国32万人の受験者がこれを認知している。そうすると,当然,需要者は,「数検」と「数学検定」が同義であることを知っているのだから,同じ主催者の検定名である「ビジネス数学検定」も,「ビジネス数検」と同義として認定しているはずである。
これを示すものとして,インターネット「yahoo」及び「goog1e」で「ビジネス数検」と検索すると,いずれにおいても,検索結果の5位及び6位に,上述した2冊の書籍「ビジネス数学検定」が入っており,また,検索結果の1位から6位までの全てが「ビジネス数学検定」についてのものである(乙7,乙8)。これは,需要者にとって,この2冊の「ビジネス数学検定」が「ビジネス数検」の書籍として認識されている証拠である。
エ そして,乙第9号証に示すように,2冊の「ビジネス数学検定」の書籍は,発行日の2006年又は,2007年から,継続して2012年2月20日時点でも販売されているため,これらの販売時期は,審判請求日から遡って3年以内であって,使用許諾契約期間内の間に販売されているのである。
オ さらに,乙第4号証および乙第5号証は,本件商標の指定商品「書籍」に係る使用である。
カ よって,本件商標は,審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが使用をしているのだから,商標法第50条第1項の規定に該当しない。
2 第2答弁
(1)登録商標の使用について
ア 多くの判例は,商標法第50条にいう「登録商標」又は,商標法50条第1項かっこ書きに該当する商標について,登録商標と使用商標との間に,外観において相違がある場合であっても,全体として社会通念上同一の範囲を出ないものである場合には,登録商標の使用であると判断している(昭和63年(行ケ)第269号,昭和63年(行ケ)第255号)。そして,当該判例のとおり,商標法第50条第1項かっこ書きは,外観において相違がある場合であっても,全体として社会通念上同一の範囲であれば,登録商標の使用と認められる。
ここで,「ビジネス数学検定」と「ビジネス数検」が社会的通念上同一であることは,平成24年3月15日提出の答弁書で主張,立証したとおりである。
イ 登録商標の不使用を理由とする登録の取り消しを論ずる場合の登録商標の使用は,商標がその指定商品について何らかの態様で使用されておれば十分であり,識別標識或いは出所表示機能を果たすような使用であるかないかを問題としていない(平成2年(行ケ)第48号,平成11年(行ケ)第183号)。この判例に照らして,「出所表示機能を有さない」から「使用形態ではない」という請求人の主張は,明らかに誤りである。
(2)指定商品についての使用
乙第4号証,乙第5号証は,表紙に「公式テキスト」と記載してあるように,ビジネス数検試験の問題集であり,指定商品の「問題集」と一致する。それが問題集であることを示す頁を添えて再度提出する。
(3)商標使用許諾者の使用
請求人は,「乙第1号証ないし乙第3号証で示された使用許諾契約を本件商標の使用許諾契約ではない,請求人は使用権者には該当しない」と主張し,その理由を以下のように述べる。
ア 「乙第2号証,乙第3号証に記載の『受検者数』は,何れも『ビジネス数学検定』の受検者ではなく,『実用数学技能検定(数学検定)』である」から,「乙第1号証ないし乙第3号証」の契約対象には本件商標は含まれない。
しかし,平成22年4月に,被請求人と請求人は,本件商標が被請求人名義で登録されていることを確認しており(乙10,第2条1),その後,平成23年3月に乙第3号証で示される「商標パテント料についての契約」を締結している。
更に,請求人と被請求人は,平成23年4月に誓約書(乙11)を交わしている。これは,乙第1号証ないし乙第3号証で示される使用許諾契約の終了を確認する誓約書である。
これによると,「甲(請求人)は,検定に関わる使用,問題,書籍,HPその他の募集活動に伴う表示物等に,乙所有の登録商標を使用しないことを誓約する。」と記載されているので,これらの契約内容には,「問題,書籍」を指定商品とする登録商標が含まれているはずである。
よって,乙第1号証ないし乙第3号証の契約内容には,「問題,書籍」を指定商品とする登録商標が含まれているはずである。
イ 乙第2号証及び乙第3号証は,登録商標第4995445号の「実用数学技能検定(数学検定)」に関する契約書である。
しかし,この登録商標の指定商品は,第41類の役務であって,「問題,書籍」は含まれていない。つまり,請求人の主張のとおりに,乙第2号証及び,乙第3号証の契約内容を理解すると,誓約書(乙11)の「検定に関わる使用,問題,書籍・・に関して乙所有の登録商標を使用しない」という記載と矛盾が生じる。この主張は,過去になした自己の行為と明らかに矛盾し,禁反言の法理に反するのである。
よって,乙第1号証ないし乙第3号証は,本件商標についての使用許諾契約書であると解すべきである。
ウ 乙第1号証の契約の締結の日付は1999年であり,本件商標の出願日より前であるため,本件商標の使用許諾契約ではない。
しかし,乙第1号証には,「乙(被請求人)所有の商標や特許を活用する場合・・」と記載されている。これは特定の商標権に関する契約ではなく,被請求人が所有する,また,将来所有するであろう商標権についての包括的な契約であることを示す。
よって,乙第1号証は,本件登録に関する使用許諾契約書である。
3 第3答弁
(1)弁駁の理由に対する反論
ア 本件商標の使用について
(ア)「ビジネス数検」は「ビジネス数学検定」の略称である(乙4,乙5)。「略称」とは,大辞林(三省堂発行)によれば,「簡略にした名前で呼ぶこと。また,その名前。」とあり,その例として「国際連合を国連と略称する」が挙げられている。
そうすると,略称は,簡略される前の名前そのものを,簡略化された形で表すものであって,両者は,単に表記が形式的に違うだけで,実質的に同一ということになる。
これを本件についてみると,「ビジネス数検」は,「ビジネス数学検定」の略称であるから,「ビジネス数検」と「ビジネス数学検定」とは,単に表記が形式的に違うだけで,実質的に同一である。特に,観念的には,全く同一である。
したがって,「ビジネス数検」は,「ビジネス数学検定」とは,商標法第50条第1項かっこ書きにいう「社会通念上同一と認められる商標」に該当する。
検定業界では,例えば,「英語検定」が「英検」と略称され,「漢字検定」が「漢検」と略称されていることから明らかなように,正式な検定名称を,略称として表記又は称呼することがよく行われる。そのような略称で表記又は称呼された場合でも,受検者は,略称を,正式な検定名と同一であると理解するのである。「数検」と「数学検定」の場合もこれと同様である。
(イ)審判便覧「53-01」において,「登録商標の使用と認められる事例」として挙げられた文字商標の例は同一の称呼を生じるケースである。
しかし,その事例の欄は,「登録商標の使用に当たるか否かの認定に当たっては,登録商標に係る指定商品及び指定役務の属する産業分野における取引の実情を十分に考慮し,個々具体的な事例に基づいて判断すべきものである」との基本的スタンスを示した上で,「おおむね次の例によることとする。」としているのであって,一応の審査・審判基準を示したものに過ぎない。それは,商標登録出願について,画一的処理せざるを得ない審査・審判手続きにおいて,特許庁及び出願人に,一応の判断基準を示すために,当然に要求されるものである。
そして,「登録商標に係る指定商品及び指定役務の属する産業分野における取引の実情を十分に考慮し,個々具体的な事例に基づいて判断した」場合には,「ビジネス数検」が「ビジネス数学検定」と,社会通念上同一の商標となることは,前述したとおりである。
(ウ)商標法第2条第1項第1号の定めによれば,文言上,商標の使用とは,それが出所表示機能を満たすような使用であるかないかを問題としないのであるから,登録商標の不使用を理由とする登録の取り消しを論ずる場合の登録商標の使用は,商標がその指定商品について何らかの態様で使用されておれば十分であり,出所表示機能を果たすような使用であるかないかを問題としていないと解すべきである。
イ 請求人が通常使用権者に当たるか否かについて
(ア)「乙第11号証に請求人の代表者である『理事長』清水静海の署名がないから,乙第11号証は請求人に対して効力を生じない。」との主張について
甲6号証(寄付行為)の第17条1項に「理事長は,本協会を代表し,その業務を総理する」と,同条4項に「理事は,理事会を構成し,この寄付行為に定めるところにより,本協会の業務を議決し,執行する。」と,同条5項(2)に,監事の行う職務の一つが,「理事の業務執行の状況を監視する」ことである旨規定されている。
上記の「寄付行為」の規定からすると,乙第11号証誓約書を,第三者との間で取り交わすことは,理事の業務執行の範囲に属する。「理事長は,本協会を代表し,その業務を総理する」のであるから,理事長の署名が,乙第11号証誓約書の効力発生要件ではない。そして,乙第11号証誓約書には2名の理事の署名がある。更に,立会人監事の署名もあり,2名の理事の誓約書に対する署名という業務執行の状況を,監事が監視していることも証されている。
よって,乙第11号証誓約書は,被請求人との関係では,請求人に対して効力を生じる。
(イ)「乙第1号証による契約が本件商標に係る『設定行為』とは言えない。」との主張について
請求人と被請求人との間に使用許諾契約が存在することは,以下のとおり,乙第1号証から明らかである。
a 乙第1号証には,「この契約書は財団法人日本数学検定協会が個人の商標等を活用する場合に,パテント料の支払いなどについて取り決め,事業の運営を円滑に行うために契約するものである。」という前文が置かれている。
この前文の規定から明らかなように,乙第1号証契約書は,元々,事業の運営を円滑に行うために,財団法人日本数学検定協会と,不特定の「個人」との問の契約のために準備されたものである。
しかも,乙第1号証第4条には,「この契約の期間は平成11年7月から10年とする。ただし,甲乙双方から異議申し立てがない場合は,この契約は次の契約期間まで,自動的に延長される。」と規定されている。
したがって,乙第1号証契約書は,財団法人日本数学検定協会が,事業の運営を円滑に行うため,将来発生することのある商標や特許について,その取扱を事前に定めたものであることは明らかである。
b 請求人は,更に,「乙第1号証には,本契約成立以後に発生する被請求人名義の権利についても契約の対象となる旨が明記されておらず,単に『乙所有の商標』と記載されている。契約当時には存在しない権利を契約対象に含めるとするならば,その旨を特記するのが通常であって,そうでない場合,本契約成立以後に発生した本件商標に係る商標権が乙1号証の契約の対象に含まれないことは明らかである。」と主張する。
しかし,請求人は,本件商標についての商標権が成立した後も,乙第1号証契約書に基づき,何らの異議なく,被請求人に対して,商標使用料を支払い続けてきたのである。被請求人が退任した平成21年の翌年に当たる平成22年分の商標使用料も支払っている。このような事情があるにもかかわらず,「本契約成立以後に発生した本件商標に係る商標権が乙第1号証の契約の対象に含まれない」と主張することは,禁反言の法理からして,到底認められるものではない。
また,「ビジネス数検」は,「ビジネス数学検定」の略称という請求人の主張(乙4,乙5)に従えば,「ビジネス数学検定」は「ビジネス数検」と同一又は類似することになる。
このような状況の下で,請求人と被請求人との間に本件商標の使用許諾契約は成立しておらず,本件商標に係る商標権が乙第1号証の契約の対象に含まれない,というのなら,請求人は,意図的に被請求人の商標権を侵害していたことになる。請求人は,そのような悪意が自分にあったと,言うのであろうか。
請求人と被請求人との間に構築されてきた長年の安定的な関係から言えば,請求人にそのような悪意はなく,請求人は,使用許諾契約のもとで,「ビジネス数検」又は「ビジネス数学検定」を使用していたと解するのが,至極当たり前である。
c 請求人は,更に,「通常使用権者は,設定行為で定めた範囲内でしか権限がないから,その権限の範囲外についての使用は,商標法第50条第2項の「使用」に該当せず,また,設定行為の定めがなければ,そもそも通常使用権者による使用ではない。」と主張する。
しかし,ここにいう設定行為とは,使用許諾契約の内容である。契約の内容は,契約自由の原則にのっとり,自由に設定できる。未だ発生しない商標,特許について,事前に取り決めをしていても,公序良俗に反する等,特段の事情がない限り,問題はないはずである。使用権の範囲(地域,期間,内容)及びその使用料等は,商標権者から使用許諾を受ける者に対する制限事項であり,これを定めなければならないものではない。地域,期間,内容に限定のない契約であって,ただ使用料を定めても,何ら問題はない。
しかも,乙第1号証による契約は,1999年8月4日に締結され,10年継続するのである(甲1 第4条)から,平成14年4月18日に出願された本件商標も契約の対象となる。そして,それが,契約当事者の意思でもあった。この点は,乙第1号証の前文の規定振りからも覗われるところである。
更に,登録商標を使用したことによる対価(パテント料)は,当事者の合意によって定まる。その合意において,受検者数等が,当事者間で問題になることもあろうが,乙第1号証?乙第3号証に記載した対価(パテント料)は,それらを考慮し上で,当事者の合意の上に決定されたものである。
d 請求人は,乙第1号証の契約の対象に,平成11年当時は実施しておらず,その後の平成18年12月から請求人が実施するようになった「ビジネス数学検定」が入っているなどということは,請求人及び被請求人の合理的な意思解釈としておよそ考えられない,と主張する。
しかし,乙第1号証契約書は,既に述べたように,本契約成立以降に発生する商標や特許についても,契約の対象としていることは明らかである。そして,契約の有効期間は,平成11年7月から10年である旨,合意されており,商標使用料の支払いもなされていた。
このような過去の行為があるにも関わらず,「請求人及び被請求人の合理的な意思解釈としておよそ考えられない」等と主張することは,禁反言の法理に反する。
(2)まとめ
以上述べたとおり,本件商標は,商標法第50条第1項の規定に該当しないので,取消されるべき理由はない。

第4 当審の判断
被請求人は,乙各号証により,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,通常使用権者(請求人)が,請求に係る指定商品中「問題集」について,本件商標と社会通念上同一の商標を使用した事実がある旨を主張しているところ,請求人が通常使用権者であるか否か及び使用に係る商標が本件商標と社会通念上同一であるか否かについては,当事者間において争いがあるので,これらを踏まえて,以下検討する。
1 乙各号証によれば,以下の事実が認められる。
(1)乙第1号証は,甲を「財団法人日本数学検定協会/理事長 高田大進吉」,乙を「高田大進吉」とする両者間で締結された1999年8月4日付けの「パテント料に関する契約書」である。
これには,冒頭に,「この契約書は財団法人日本数学検定協会が個人の商標等を活用する場合に,パテント料の支払いなどについて取り決め,事業の運営を円滑に行うために契約するものである。」の記載,第1条には「この契約は平成11年7月17日の財団法人日本数学検定協会の理事会に基づいて,乙所有の商標や特許を甲が活用する場合の使用料について契約するものである。」の記載,第2条には,甲が乙所有の商標等を活用する場合の乙に対して支払うパテント料を,受検者数に応じて検定料の割合が決められた一覧表でもって示され,及び第4条に,「この契約の期間は平成11年7月から10年とする。但し,甲乙双方から異議申し立てがない場合は,この契約は次の契約期間まで自動的に延長される。」旨の記載がある。
(2)乙第2号証は,甲を「財団法人日本数学検定協会/理事長 高田大進吉」,乙を「高田大進吉」とする両者間で締結された平成21年2月25日付けの「平成21年 パテント料についての契約」である。
これには,平成21年に甲が乙に対して支払うべきパテント料の金額,「受検者数30万人?50万人までの検定料の3.5%を考慮した。よって,平成20年実績受検者数329,123人を確認・・・」などの記載がある。
(3)乙第3号証は,甲を「財団法人日本数学検定協会/理事長 清水静海」,乙を「高田大進吉」とする両者間で締結された平成23年3月9日付けの「平成22年 パテント料についての契約」である。
これには,平成22年に甲が乙に対して支払うべきパテント料の金額,「受検者数30万人?50万人までの検定料収入の4.0%を考慮した。よって,平成21年実績受検者数315,549人を確認・・・」などの記載がある。
(4)乙第4号証は,「ビジネス」と「数学検定」を大きく顕著に二段併記し,その下に,「新しいビジネスのかたち」の文字をタイトルとする2007年2月10日三刷発行の印刷物である。
これには,問題と解説・解答の記載や奥付には,「略称-ビジネス数検」,「ビジネス数学検定/-新しいビジネスのかたち-」,「編者/発行者」として,「財団法人日本数学検定協会/塚田」,「発行所 株式会社創成社」等の記載がある。
(5)乙第5号証は,「ビジネス」と「数学検定」を大きく顕著に二段併記し,その上に,「カナりマナべる」の文字を,同じく,その下に,「公式テキスト」の文字をタイトルとする2007年9月10日初版発行の印刷物である。
この表紙左下方に,「定価:本体1,700円+税」の記載がある。そして,その2頁及び3頁には,問題1とその解答欄の記載があり,また,178ページには,問題番号1ないし35の解答一覧表の記載があり,さらに,奥付には,「略称-ビジネス数検」,「ビジネス数学検定/-公式テキスト-」,「編者/発行者」として,「財団法人日本数学検定協会/塚田」,「発行所 株式会社創成社」等の記載がある。
(6)「数学検定」及び「数検」が同義で使用されているとして提出された乙第6号証は,「20年のあゆみ」を表題とする冊子及びパンフレット等であり,冊子の年表には,「事業沿革・数学検定『数検』のあゆみ」「1995/・・数学検定の略称『数検』が特許庁より商標として認められる」「2000年/実用数学技能検定を中心に算数,数学の検定を『数検』として実施する団体は財団法人日本数学検定協会だけである・・・」等,パンフレットには,「数学検定」と共に「数検」や筆記体の「Suken」の文字の記載がある。
(7)乙第7号証及び乙第8号証は,インターネット「yahoo」及び「goog1e」で「ビジネス数検」をキーワードとするウェブ検索結果であり,いずれにおいても,「ビジネス数学検定」に関する記載のものである。
(8)乙第9号証は,「amazon.co.jp」を表題とする尾高氏宛の納品書であり,これには,注文日及び発行日を2012年2月20日とし,「数量」欄,「商品名」欄,「種類」欄,「単価(税抜)」欄等には,順次「1」,「ビジネス数学検定-新しいビジネスのかたち」,「単行本」,「1,600」等の表示と,同じく,順次「1」,「カナリマナベるビジネス数学検定-公式テキスト」,「単行本」,「1,700」等の表示は,乙第4号証及び乙第5号証に示す各書籍のタイトル,定価等と同一視得るものである。
(9)乙第10号証は,甲を「財団法人日本数学検定協会/理事長 清水静海」,乙を「高田大進吉」,丙を「高田恭子」,丁を「LC管理サービス株式会社」とする当事者間で締結された平成22年4月30日付けの「合意書」である。
これには,第2条(商標権)に,甲及び乙は,乙が乙名義で本件商標「ビジネス数検」を含む「数検/登録番号第3050382号」「児童数検/登録番号第4209661号」「数能検/登録番号第4301465号」「科検/登録番号第4301483号(「登録番号第4301465号」は誤記と認められる。以下同じ。)等12もの商標権を登録していることを確認する旨,乙は,本合意書締結の日をもって,これら12の全ての商標権を甲に対して譲渡し,甲はこれを譲受する旨の記載,第6条(効力発生条件)に,本合意書が,甲の監督官庁である文部科学省が第4条3項の債務引受に対して承諾することを効力発生要件とする旨等の記載がある。
(10)乙第11号証は,甲を「財団法人日本数学検定協会/理事 高田忍/理事 増澤空」,乙を「高田大進吉」,立会人を「監事 服部」とする当事者間で締結された平成23年4月24日付けの「誓約書」である。
これには,第1条(契約の解除)に,乙第1号証の「パテント料に関する契約書」については,甲乙両者は,平成23年6月30日をもって本契約を解約し,同契約を終了することを確認する旨,第3条(商標使用の停止)に,「甲は検定に関わる資料,問題,書籍,HPその他の募集活動に伴う表示物等に,乙所有の登録商標を使用しないことを誓約する。ただし,書籍については,その遂行上やむを得ない場合は,甲は連絡の上争いにならないよう,可能な限り短期間に甲はこれを使用停止,善処することを誓約する。」との記載がある。
2 前記1で認定した事実からは,次のように判断できる。
(1)使用に係る商品等について
2007年2月及び同年9月発行の印刷物(乙4及び乙5)は,その内容からして「ビジネス数学検定用の問題集」(以下「使用商品」という。)といえるものであって,使用商品は,請求に係る指定商品中「問題集」の範疇に属する商品と認められるものであり,また,これら使用商品は,2012(平成24)年2月20日の時点においても販売されているところからすれば,使用商品の2007年2月及び同年9月発行以来,継続して要証期間内においても使用していたものと推認し得る。
この点について,請求人は争うことを明らかにしていない。
(2)使用に係る商標について
商標法第50条で規定する「登録商標の使用」とは,その請求に係る指定商品についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生じる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。)ほか,同一と認められる範囲(例えば,商標の要部でない附記的な部分を多少変更して用いるとか,横書きの文字部分を縦書きにして用いるとかの場合)にあると解される。
そこで,本件についてみるに,商品の出所標識としての使用に係る商標は,使用商品である問題集の表題や奥付に記載の「ビジネス」と「数学検定」を大きく顕著に二段併記した部分や「ビジネス数学検定」の文字(以下,これらを「使用商標」という。)と認められる。
そして,使用商標は,本件商標と社会通念上同一であるか否かについて,当事者間に争いがあるところ,両者は,一連か2段併記の差異及び「学」と「定」の文字の有無において,外観上明らかに相違するばかりでなく,それぞれから生ずる称呼,観念においても明らかに相違するものである。
したがって,使用商標は,本件商標と,外観,称呼,観念上いずれも紛れるおそれのないものであるから,本件商標と社会通念上同一のものとは認められない。
また、使用商品の後書きや奥付に「ビジネス数検」の文字の記載があるところ,当該文字は,「ビジネス数学検定」の略称である旨を単に表示したにすぎないものであって,商品の出所標識としての機能を果たすものではなく,すなわち,商標として認識されるものとはいえないものである。
なお,被請求人は,使用商品に書かれた「ビジネス数学検定」と「ビジネス数検」が,同義として使用されているから,書籍に書かれた「ビジネス数学検定」は,「ビジネス数検」の文字からなる本件商標と同義である旨主張する。
しかしながら,仮に,使用商品に書かれた「ビジネス数学検定」は,「ビジネス数検」の文字からなる本件商標と同義であるとしても,上記したとおり,両者は,「学」と「定」の文字の有無において,外観及び称呼上,明らかに相違するものであるから,被請求人の主張は,採用することができない。
(3)請求人が通常使用権者に当たるか否かについて
前記(2)のとおり,使用商標は,本件商標と社会通念上同一のものとは認められない以上,被請求人は,商標法第50条で規定する「登録商標」の使用をしていることを証明したとは認められないが,請求人が通常使用権者に当たるか否かについては,当事者間に争いがあるので念のため,以下,検討する。
請求人は,「乙第1号証ないし乙第3号証の契約(乙第1号証の契約を,以下「本契約」という。)をもって,請求人と被請求人との間に本件商標の使用許諾契約が成立しているとはいえず,請求人は使用権者には該当しない」等,縷々主張する。
確かに,請求人が主張するように,本契約は,本件商標の出願日である平成14年4月18日より前の1999年(平成11年)8月4日のものであること,本契約成立以後に発生する被請求人名義の権利についても契約の対象となる旨が明記されておらず,単に「乙所有の商標」(「乙」は被請求人をいう。)と記載されていること,対価の定め方は,本件商標の使用に係る受検者数や検定料収入を前提としていないこと等が認められる。
しかしながら,本契約には「この契約書は財団法人日本数学検定協会が個人の商標等を活用する場合に,パテント料の支払いなどについて取り決め,事業の運営を円滑に行うために契約するものである。」との前文が置かれ,また,第4条には,「この契約の期間は平成11年7月から10年とする。ただし,甲乙双方から異議申し立てがない場合は,この契約は次の契約期間まで,自動的に延長される。」と規定されていることからすると,契約の対象を明記せず,単に「乙所有の商標」と記載されていることは,請求人が事業の運営を円滑に行うために,契約時に存在する商標以外に,将来発生するであろう商標等について,その取扱を事前に定めたものとみるのが自然である。
そして,請求人は,本件商標についての商標権が成立した後も,何らの異議もなく,乙第2号証及び乙第3号証の契約に合意し,これらの契約に基づき,被請求人に対して,商標使用料を支払い続けたものと推認されるものであって,結果的に,事業の運営を円滑に行っていたといえるものである。
しかも,請求人(理事長を清水とする)は,契約期間である平成11年7月から10年,すなわち,平成22年7月以降も何ら異議申し立てを行うことなく自動的に延長された契約期間内(本契約第4条)に,被請求人が請求人の理事長を退任した後においても,平成22年分の商標使用料を,被請求人に対し,乙第3号証の契約の合意の下に支払っていたと推認し得るものである。
加えて,合意書(乙10)については,請求人の「文部科学省は債務引受に対して承諾しておらず,第6条の要件も満たしていないため,乙第10号証の合意書自体,その効力は生じていない。このことは,乙第10号証の第2条第2項の規定があるにもかかわらず,本件商標が,未だ被請求人名義となっていることからも明らかである。」旨の主張は肯首し得るものであり,当該合意書の効力は生じていないというべきである。そして,その第2条で挙げる被請求人所有の商標権中,「数検」ないし「科検」(項番1ないし5。)は,本契約時に既に登録(登録査定を含む。)されていたものであるから,本契約時に契約の対象を具体的に明記することもできたにもかかわらず,本契約に,あえてその旨明記しなかったということは,将来発生するであろう商標等についても定めたものというのを裏づけるものである。
したがって,乙第1号証ないし乙第3号証の契約書によって,請求人と被請求人との間に本件商標の使用許諾契約が成立しているといえるものであるから,請求人は本件商標に係る通常使用権者とみて差し支えないというべきである。
その他,請求人が本件商標に係る通常使用権者であることを否定するに足る証拠の提出はない。
なお,被請求人が,乙第1号証ないし乙第3号証で示される使用許諾契約の終了を確認する誓約書であるとして提出した乙第11号証は,請求人の代表者によって署名押印されたものでないことから請求人に対して効力がない旨,その効力について当事者間において争いがあるが,乙第11号証の効力の有無にかかわず,上記したとおり,乙第1号証ないし乙第3号証の契約書によって,請求人と被請求人との間に本件商標の使用許諾契約が成立していると言い得るものである。
(4)小括
そうとすれば,乙第1号証ないし乙第5号証及び乙第9号証をもってしては,被請求人が,本件商標を,取消し請求に係る商品「新聞,雑誌,問題集」のいずれの商品にも使用していた事実を証明したものと認められない。
そして,被請求人は,他に,本件商標を取消請求に係る商品について使用をしていた事実を認めるに足る証拠を提出していない。
3 むすび
以上のとおりであるから,被請求人は,本件審判請求の登録(平成24年2月14日)前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件商標を本件請求に係る指定商品について使用した事実を証明し得なかったものといわなければならない。
したがって,本件商標の登録は,その指定商品について,商標法第50条の規定により取り消すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-09-13 
結審通知日 2012-09-19 
審決日 2012-10-02 
出願番号 商願2002-36968(T2002-36968) 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (Y16)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 清 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 2003-04-04 
登録番号 商標登録第4658291号(T4658291) 
商標の称呼 ビジネススーケン 
代理人 日比 敦士 
代理人 高橋 徳明 
代理人 阿部 美次郎 

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