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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X04
管理番号 1265917 
審判番号 無効2011-890048 
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-15 
確定日 2012-10-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5391802号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成23年12月9日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10013号、平成24年6月6日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第5391802号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5391802号商標(以下「本件商標」という。)は,「SUBARIST」の欧文字と「スバリスト」の片仮名とを上下二段に横書きしてなり,平成22年10月1日に登録出願,第4類「固形潤滑剤,靴油,保革油,燃料,工業用油,工業用油脂」を指定商品として,同23年1月28日に登録査定,同年2月18日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は,以下のとおりであり,いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第4603280号商標(以下「引用商標1」という。)は,「SUBARU」の欧文字を横書きしてなり,平成13年8月3日に登録出願,第4類「工業用油,工業用油脂,燃料,靴油,固形潤滑剤,保革油,ランプ用灯しん,ろうそく」並びに第1類ないし第3類,第5類ないし第15類,第17類ないし第22類,第24類,第26類,第27類,第29類ないし第32類及び第34類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として,同14年9月13日に設定登録されたものである。
(2)登録第2553275号商標(以下「引用商標2」という。)は,「スバル」の片仮名を横書きしてなり,平成2年11月6日に登録出願,第5類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として,同5年6月30日に設定登録,その後,商標権の存続期間の更新登録がなされ,また,指定商品については,同15年3月12日に指定商品の書換登録があった結果,第2類「防錆グリース」,第4類「燃料,工業用油,工業用油脂,ろう」及び第28類「スキーワックス」とするものである。
(3)登録第982491号商標(以下「引用商標3」という。)は,「スバル」の片仮名を横書きしてなり,昭和41年12月12日に登録出願,第12類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同47年9月27日に設定登録,その後,三回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ,また,指定商品については,平成14年7月24日に指定商品の書換登録があった結果,第9類「消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター」,第12類「船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,乳母車,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」及び第13類「戦車」とするものである。
(4)登録第4602413号商標(以下「引用商標4」という。)は,「SUBARIST」の欧文字と「スバリスト」の片仮名とを上下二段に横書きしてなり,平成13年12月4日に登録出願,第16類「紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,型紙,紙製テーブルクロス,紙製テーブルナプキン,紙製タオル,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製ブラインド,紙製幼児用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品」を指定商品として,同14年9月6日に設定登録されたものである。
以下,これらを一括していうときは,「引用各商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第151号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の利益について
被請求人は,自動車用オイル・バッテリー等の自動車用製品を取り扱うところ(甲第12号証),本件商標「SUBARIST\スバリスト」は,請求人登録商標「SUBARIST\スバリスト」と同一構成文字よりなるほか,請求人の商標「SUBARU」及び「スバル」が,請求人ないしその製品を示すものとして,自動車関連分野において広く認知されている事実がある(甲第21号証及び甲第23号証)。そのため,被請求人が,本件商標を付した商品を販売すれば,請求人の商品との出所の混同を生じ,商標に化体した業務上の信用が著しく損なわれるおそれがあり,請求人の不利益は,極めて大きい。
したがって,本件商標に係る登録が無効となるか否かは,請求人の法律上の利益に重大な影響を及ぼすものであり,請求人は,商品の出所の混同及び出所表示機能の希釈化を防止する上で法律上の利害関係を有する。
2 商標法第4条第1項第11号について
(1)外観について
本件商標は,その構成中に「SUBARIST」の欧文字を横書きしてなり,引用商標1は,「SUBARU」の欧文字を横書きしてなるものである。
したがって,本件商標は,引用商標1の構成文字のうち,語尾「U」の1文字のみを除き,強く特徴的な印象を与える「SUBAR」の語頭5文字すべて含み,その配置・配列も一致するものであるから,両商標の商標全体における主たる印象は,非常に近似したものである。
また,本件商標は,その構成中に「スバリスト」の片仮名を横書きしてなるのに対し,引用商標2は,「スバル」の片仮名を横書きしてなるものである。
そして,当該「スバル」の文字は,自動車関連分野の需要者・取引者において,請求人又はその製品を示す商標として,広く親しまれたものであるところ,本件商標は,その3文字中,語尾の「ル」の1文字のみを除き,強く特徴的な印象を与える語頭「スバ」の2文字をすべて含み,その配置・配列も一致するものであるから,両商標の商標全体における主たる印象は,非常に近似したものである。
(2)称呼について
本件商標からは,その構成文字に相応して「スバリスト」の称呼が生じ,引用商標1及び2からは,各構成文字に相応して「スバル」の称呼が生ずる。
しかるに,両称呼は,現実の取引において,称呼を識別する上で最も重要な要素となる語頭部分における「スバ」の2音が一致する。
また,これに続く「リ」及び「ル」の各音も,子音「r」を共通にするところ,当該「r」の音は,50音中同行に属するもので,歯茎音として調音位置が共通するほか,有声の弾音であって調音方法を共通にするものであるから,互いに近似した音として聴取される。 さらに,本件商標は,前音「バ」が強く明瞭に発音されるため,これに続く「リ」の音は,より聴取され難いものとなるばかりか,その後に続く「ス」の音も,弱音で聴取され難いうえ,「ト」の音も5音中の語尾に配されるため,両者の全体的称呼に及ぼす影響は極めて小さい。
したがって,各商標を一連に称呼した場合,全体の語調並びに語感は,極めて近似したものとして聴取されるものである。
(3)観念について
引用商標1及び2の構成文字は,「プレアデス星団」(甲第13号証)等の意味合いに通ずるものであるが,現実の取引においては,これらに接した取引者又は需要者が,直ちに,これらが請求人のハウスマークであることを認識し,想起する程に,引用商標1及び2は,請求人を示すブランドとして国内外にわたって広く認識されているものである。
一方,本件商標についてみると,その語尾「ist」は,「・・・する人,・・・に巧みな人,・・・主義者,等」の名刺を作る接尾辞(甲第14号証)であり,ある語の後に付加されて派生語をつくるために用いられているものである(甲第15号証)。
そのため,本件商標に接した需要者又は取引者は,本件商標が,「スバル」ないし「SUBARU」の文字に,接尾辞を付加したものであることを,容易に認識することができる。
また,「-ist」の派生接尾辞が,その性質上,付加される語自体の意味合いを打ち消すものではなく,むしろ,当該語自体の意味合いを強く残す性質を有するため,引用商標1から派生したものであることが容易に認識される本件商標の観念は,必然的に,派生元である引用商標1に類似したものとならざるを得ない。
以上よりすれば,本件商標は,その構成文字において,「スバル(プレアデス星団)に関わる人又は愛好家」といった観念を有するほか,引用商標1及び2の著名性にかんがみた場合には,「スバル(請求人)の関係者ないしスバル製品の愛好家」との観念を想起せしめるものである。また,前記の「・・・に巧みな人」といった用例からすれば,「スバル製品に精通した人」の観念を想起させるため,その製品に使用された場合には,ネーミングの擬人化法により,その製品が,あたかも「スバル製品の専用品」であるとの観念をも想起せしめる。
もっとも,「SUBARIST」及び「スバリスト」の各語は,既に自動車関連分野において,「スバル(請求人)の製造・販売に係る製品のユーザ(愛好家)」を意味する語として広く認識され定着している語であることからすれば(甲第24号証ないし甲第85号証),むしろ,本件商標に接した需要者等は,上記意味合いを直ちに想起するのが取引の実情である。
以上より,本件商標は,「スバル(プレアデス星団)に関係する人又は愛好家」といった観念が生ずる点で,「スバル(プレアデス星団)」の観念を有する引用商標1及び2とは,観念が類似するばかりでなく,現実の取引において,直ちに「スバル(請求人)の製造・販売に係る製品のユーザ(愛好家)」の観念を想起せしめる本件商標は,請求人又はその製品であることを想起させる引用商標1及び2と観念上相紛らわしいものである。
(4)取引の実状
我が国で,「スバ」ないし「SUBA」の文字を語頭に冠することで知られる自動車関連分野におけるブランドは,請求人の「SUBARU」又は「スバル」以外に存在しない(甲第17号証及び甲第18号証)。
一方,本件商標において,需要者又は取引者をして最も注意を引く特徴的部分は,語頭の「スバ」ないし「SUBA」の文字部分にある。
したがって,語頭に,「スバ」及び「SUBA」の文字を冠するとともに,我が国において普通に親しまれた用例に従い,接頭辞を付加した本件商標は,現実の取引において,直ちに,請求人のハウスマークを想起せしめ,あるいは,その関連ブランドであるかのような誤認を生ぜしめるものであり,商品の出所の混同を生ぜしめるおそれの極めて高い類似の商標である。
(5)指定商品
本件商標並びに引用商標1及び2の指定商品は,互いに同一又は類似の関係にある。
(6)以上より,本件商標は,引用商標1及び2と同一又は類似の商標であって,同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号について
(1)商標の類似性の程度について
本件商標と,「SUBARU」及び「スバル」との類似性については,前記2で述べたとおりであり,引用商標4「SUBARIST\スバリスト」は,本件商標と同一構成文字よりなるものであって,書体の相違もごく僅かにすぎず,同一の称呼,観念を生ずるものであるから,本件商標と同一又は類似の商標であることが明らかである。
したがって,本件商標は,引用各商標のいずれとも同一又は類似の商標である。
(2)引用商標1ないし引用商標3(以下「請求人使用商標」という。)の著名性について
請求人の「スバル」若しくは「SUBARU」の文字からなる請求人使用商標については,請求人のハウスマークとして,製品に付されて使用されているところ,その著名性については,これらと社会通念上同一の商標「SUBARU」について,25区分に及ぶ防護標章登録が認められていることから(甲第21号証),それ自体,著名商標と取扱われて然るべきものである。
そして,前記防護標章登録は,本件商標と同じ第4類についての商標登録第1066787号の防護第8号を含めて,いずれも更新登録の査定を受け,更新登録が認められている。
甲第23号証によれば,本件商標の出願日の属する平成22年度における自動車の販売台数は,国内販売台数が約15万8100台,連結自動車販売台数は,前年比12.2%増の約65万7000台となっており,売上高については,自動車分野で14,522億円,全体(連結)では,前年比10.6%増の15,806億円となっている。
そして,請求人使用商標は,請求人のハウスマークであることから,前記販売台数におけるすべての自動車に使用されていることが明らかであるから,本件商標の出願時において,請求人使用商標の著名性が厳然と維持されていることの十分な証左となるものである。
(3)引用商標4の著名性について
引用商標4は,本件商標と同一ないし社会通念上同一の構成よりなり,自動車関連分野において,「スバル(請求人)の製造・販売に係る製品のユーザ(愛好家)」等の意味合いで広く親しまれているものである。
甲第24号証「CARTOPIA」によれば,1975年には,既に,東京農業大学の名誉教授である後閑暢夫氏により,「スバリスト」について言及されており,少なくとも35年以上の長きにわたって使用されてきた語であることが明らかとなる。
また,甲第25号証では,「スバリスト」が,「クルマに対する高い見識を持ち,紳士的な運転をするスバルユーザー」,すなわち,スバル製品のユーザーを指すことが紹介されている。
上記の意味合いや由来は,インターネット上でも広く紹介されており,例えば,甲第26号証及び甲第27号証のように,インターネット上の辞書においても,紹介されている。 「スバリスト」の語は,様々なテレビ番組でも紹介され,自動車分野の需要者・取引者に限らず,分野を超えて,広く一般需要者間においても,定着するに至っている。
例えば,テレビ番組「カンブリア宮殿」の2011年2月3日放送分においては,「『ぶつからないクルマ』の技術革新で不況を打ち破れ!」と題し,請求人に関する特集が組まれ(甲第28号証),本番組内では,スバル車を愛するユーザをして「スバリスト」と称され,実際に「スバリスト」と呼ばれるユーザが紹介された。
「スバリスト」の語は,SUBARU製品の関連書籍等で広く使用され,自動車関連分野において,広く定着するに至っている。
例えば,小学館発行「スバルを支える職人たち?スバリストと呼ばれる根強いファンの心を掴む」では,タイトル自体に「スバリスト」が含まれている(甲第29号証)。
また,新風舎発行「スバル360奇跡のプロジェクト」においても,表紙中に「スバリスト」の文字が大きく表されている(甲第30号証)。
「スバリスト」の語は,SUBARU製品の関連雑誌等で広く使用され,自動車関連分野において,広く定着するに至っている。
例えば,甲第31号証ないし甲第75号証は,代表的なSUBARU製品の一つである「LEGACY」の専門誌であり,発売以来,「スバリスト」の語が使用されている。
現在,インターネット上の検索エンジン(Google)で,「スバリスト OR SUBARIST」をキーに検索した場合,658,000件がヒットし,その検索結果の内容を見れば明らかなとおり,上記意味合いにおいて広く使用されている記事が膨大な数にのぼることが分かる(甲第76号証)。
甲第77号証ないし甲第83号証は,「日経ビジネスオンライン」の写しであり,「スバリスト」の語が多数にわたって使用されている。
また,「スバリスト」の文字の意味を逐一説明しているわけではなく,既にその定着した語として使用されていることからすれば,当該語が,既に前記観念をもって需要者の間に定着し,親しまれていることの証左ともなる。
甲第84号証及び甲第85号証は,取引者ホームページ写しであり,「スバリスト」の文字の意味を逐一説明しているわけではなく,既にその定着した語として使用されていることからすれば,当該語が,既に前記観念をもって取引者の間に定着し,現に,親しまれていることの証左ともなる。
(4)引用各商標の独創性
自動車関連分野において,「SUBARU」ないし「スバル」の文字を使用する者は,請求人以外に存在しないばかりか,「スバ」ないし「SUBA」の文字を語頭に冠することで知られる自動車関連分野におけるブランドすら,請求人以外に存在しないこと前述のとおりであることからすれば,引用各商標の独創性が極めて高いものである。
(5)商品の性質,用途,目的における関連性の程度,商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等について
引用商標1及び引用商標2の指定商品との関係において,本件商標は,同一又は類似の関係にある第4類に属する商品を指定するものであるから,それらの関連性の程度は極めて高いものである。
引用商標1については,その他に「自動車並びにその部品及び附属品」が含まれており,また,引用商標3も,「自動車並びにその部品及び附属品」を指定商品に含む。
引用商標4「SUBARIST\スバリスト」は,指定商品「印刷物」等を含み,実際に,自動車関連の印刷物等において使用されているほか,自動車関連分野において,広く使用されていること前述のとおりである。
特に,「自動車並びにその部品及び附属品」と,本件商標の指定商品とを対比すると,例えば,「工業用油」や「燃料」には,「自動車用のオイル」や「自動車用の燃料」等が含まれており,「自動車」の需要者と一致し,販売経路も共通する場合が極めて多い。この点,現に,被請求人は,自動車部品等の販売店を通じて,販売を行っている実情がある。
さらに,「自動車用のオイル」等は,自動車のために製造され,販売されるものであるから,「自動車の部品又は附属品」とも,目的,用途,販売系統を共通にする。
また,「自動車関連の印刷物」は,「自動車」のユーザのために供されるものであるから,「自動車用オイル」等と需要者を共通にする。
したがって,本件商標と引用各商標の指定商品とは,互いに極めて密接な関連を有するものといわざるを得ない。
(6)混同を生ずるおそれについて
自動車関連分野の事業者,すなわち,自動車メーカー,カーディーラー,ガソリンスタンド,カー用品店,タイヤ販売店,中古車販売店等においては,タイヤ,オイル,ガソリン,ホイール等,多種多様な自動車関連製品が取り扱われており,それぞれに多種多様な識別標識が用いられている。
しかしながら,それらの自動車関連製品は,結局のところ,いずれも「自動車」そのものに用いられるものであることから,「自動車」自体を生産し販売する自動車メーカーのハウスマークないし個々の車名は,これらの関連製品の識別標識に比しても,より強い出所表示機能を発揮しているとみることができる。
そのため,本件商標が付された自動車関連製品に接した需要者・取引者は,請求人又は請求人と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と誤認混同を生ずるおそれが高いものといわざるを得ない。
(7)結論
以上,前記2で述べた内容を併せ総合的に勘案すれば,本件商標と,引用各商標とは,互いに同一又は特徴的部分(「スバ」ないし「SUBAR」)が完全に一致する類似性の程度が極めて高い商標であって,ともに自動車関連分野において使用されるものであることのほか,引用各商標が,請求人の業務に係る自動車及びその関連製品を表示するものとして,取引者・需要者の間において,極めて広く認識されている事情の下で,本件商標が,請求人の製品を対象とするものと推認される態様により使用されていることからすれば,本件商標が付された自動車関連製品に接した需要者・取引者は,請求人又は請求人と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と誤認混同を生ずるおそれが高いから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 商標法第4条第1項第19号について
前記2及び3で述べた事実に加え,本件商標の権利者は,引用各商標が請求人製品を表示するものとして取引者・需要者の間に広く知られた状態が既に存在することを知り得る状況にありながら,これと同一又は関連分野における商品を指定して,本件商標を出願しているのであるから,請求人の永年の営業努力により蓄積された引用各商標の著名性に便乗せんとするものであることが容易に推察されるばかりか,当該出願に係る行為は,引用各商標の出所表示機能を希釈化し,業務上の信用を棄損することにより,請求人並びに取引者,需要者に不利益を与える結果となる。
この点,現に,本件商標の実際の使用態様は,本件商標と同一の商標が,請求人所有の引用各商標の名声に対するフリーライドの意思が推認されるものとなっている。
すなわち,被請求人は,自身のホームページにおいて,「SUBARIST」の文字を,通常,請求人が使用するのと同様の書体で使用し,また,「究極のボクサーエンジン用オイル」,「さらに進化したエンジン保護性能\水平対向エンジン専用オイル」のような各表示と組み合わせて使用している(甲第12号証,甲第87号証ないし甲第89号証)。
(1)「ボクサーエンジン(水平対向エンジン)」は,国内メーカーでは,SUBARUブランド(すなわち,請求人)のみ,世界中でも,ポルシェと請求人のみが製造・販売するものであることは,請求人製品のユーザならずとも,一般に知られているところであり(甲第90号証ないし甲第92号証),「ボクサーエンジン」と本件商標との組み合わせにおける使用は,明らかに,需要者・取引者をして,請求人の自動車の純正品ないし専用品であるかのように認識せしめることを意図した表示であると推認されるものである(甲第12号証,甲第87号証)。
換言すれば,「ボクサーエンジン用オイル」「水平対向エンジン専用オイル」といえば,対象メーカーは,確実に二社に限られるところ,そのような状況において,あえて本件商標を採用することに,ポルシェ専用とは,意図的に区別,すなわち,SUBARU専用であるということを示す意図が推認されるのである。
この点は,我が国では,ポルシェのオーナー自体を示す通称がないことも相まって,前記ポルシェのオーナーが,当該表示に接した場合,ポルシェの純正品ないし専用品と理解するとは,到底考え難いことからも裏付けられる。
さらに,被請求人は,現に,「従来より水平対向エンジンオーナーが語り継いでいるところである。・・・スバリストに最高の満足感をもたらす,これが究極のボクサーエンジン用オイル“SUBARIST”なのだ。」(甲第87号証)とうたっていることからすれば,被請求人の製品が,「水平対向エンジンを有する自動車のユーザー」を対象とする製品であることが明らかであり,また,ここでいう「スバリスト」(スバル(請求人)の製造・販売に係る製品のユーザ(愛好家))を対象とするものであることを示している。
(2)また,前述のとおりの接尾辞「・・・ist」の「・・・に巧みな人」といった用例からすれば,本件商標自体が,「スバル製品に精通した人」の意味合いないし観念を想起させ得るところ,その製品に使用された場合には,ネーミングの擬人化法により,その製品自体が,当該意味合いにおける「スバリスト」そのものであるように擬人化され,結局,あたかも「スバル製品の専用品」であるとの観念をも想起せしめることとなる。
(3)さらに,被請求人が,被請求人自身の名称との何らの関連性をも有しない本件商標を採択し,国際分類第4類において登録を受けた事実を奇貨として,これを独占的に使用せんとすることにも,請求人の引用各商標の著名性に便乗し,出所表示機能を希釈化し,その信用を毀損せんとする不正の目的が推認される。
したがって,本件商標は,他人の業務に係る自動車及びその関連製品を表示するためのものとして,日本国内及び外国における取引者・需要者の間に極めて広く認識されている引用各商標と同一又は類似の商標を,請求人製品等と誤認混同を生ぜしめる態様により使用する不正の目的をもって使用するものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
5 商標法第4条第1項第7号について
前記2ないし4で述べた事実よりすれば,本件商標の登録ないし使用は,引用各商標との関係で,請求人製品の名声を毀損するばかりでなく,請求人の製造・販売に係る純正品であるかのごとく需要者を誤認せしめる結果,請求人の製造・販売に係る純正品と非純正品との市場における区別を不可能にせしめるものであり,結果として,市場の混乱を招くばかりか,需要者による製品の取り違え等による事故その他の危険性を増大せしめ,我が国交通事情の混乱を招くおそれがある。
また,「SUBARIST」及び「スバリスト」の各文字は,「スバル(請求人)の自動車ユーザー」を意味する著名な名称として,自動車関連分野において,広く親しまれていることが認められる。
そうとすると,請求人と何ら関係が認められない第三者が,自己の商標として,本件商標をその指定商品について独占的に使用することは,「スバリスト」と呼ばれる需要者を対象としたイベント等の遂行さえも阻害するおそれがあるばかりか,当該「スバリスト」と呼ばれる多くの需要者感情を害するものであり,公の秩序を害するおそれが高いものといわざるを得ない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
6 結び
本件商標は,以上の無効事由を有するものであるから,商標法第46条第1項第1号により,無効とすべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)外観について
請求人は,本件商標が欧文字及び片仮名の二段併記の構成にもかかわらず,いきなり上段の欧文字「SUBARIST」(8文字)と引用商標1「SUBARU」(6文字)とを比較し,また,下段片仮名「スバリスト」(5文字)と引用商標2商標「スバル」(3文字)の外観上の比較を行っている。
しかし,本件商標の場合は,前後のつながりがないため,「SU・ス」「BA・バ」「RI・リ」まではローマ字読みで判断し,「IST」に関しては,「artist・medalist・panelist・realist・terrorist」等の外来語で馴染まれた英語の用例から,前文字「R」と合わせ「RIST・リスト」と読むことにより,意味不明の「造語」と認識するも,一連の綴りで形成された文字列と理解するのが通常と考えられる。
つまり,本件商標「SUBARIST」の連続する8文字の各1文字を次々に読み,意味を解釈するのが文字の基本であり,余程の「同形に近いロゴタイプ」又は「比較対象の全文字を含む」ものでない限り,文字の連続的結合と認識し,これを分断して感覚的に眺め外観で判断することは考えられず,本件商標と「SUBARU」又は「スバル」とは,文字数・書体の相違からも「外観」で相紛れるおそれは全くあり得ない。
特に,請求人が述べる「スバル」3文字の自動車業界における周知性は認めるものの,本来,辞書にも記載されている,星座の「昴・スバル」に由来する語で,独創性・識別性は,さして強いものではなく,まして「スバ」の外観のみで周知である旨の主張は,活字体の本件「スバリスト」商標とややデザイン化された引用商標2の書体等の相違にかんがみても,全く認め難い我田引水の極論でしかない。
(2)称呼について
請求人は,本件商標から生ずる「スバリスト」との称呼と,引用商標1ないし3から生ずる「スバル」の称呼を比較し,語頭の「スバ」2音が共通し,第3音の「リ」と「ル」が類似し,語尾「スト」が弱音である旨の見解を述べている。
第3音の「リ」と「ル」の差異は,せめて「スバリ」と「スバル」の共に3音構成の商標相互における称呼上の比較であるならば,考慮され得る範囲の主張であろうが,全5音中の語頭2音を共通するとしても,語尾「リスト」と「ル」の大差の相違であり,前記した英語の「メダリスト=メダ(メダル)」「パネリスト=パネ(パネル)」「リアリスト=リア(リアル)」が,それぞれ出所の混同を生ずる称呼上類似する商標であると主張するのと同様,商標制度における識別標識の称呼上の類否に関する,通常の比較判断とは異なる特異な主張である。
まして,請求人は,直後に,本件商標「スバリスト」から「スバル(プレアデス星座)に関わる人又は愛好家」なる観念が生ずる旨を指摘している。
そうであるならば,語尾まで含めた称呼で始めて意味合いが理解できる,一連一体の一義的な言葉であることを自ら認めていることになり,「スバ」又は「スバリ」の称呼を要部として分断比較することが,極めて不自然であることからも明らかで,場当たり的な主張といわざるを得ない。
(3)観念について
一般に「観念類似」とは,比較する両商標の直接的な意味合いが「同一」であるため,取引の場において混同を生ずるとするものである。
つまり,観念として請求人が主張する他の例は,全て「○○家,○○人,○○ユーザ」のように「ある種の人」の観念とされているが,引用商標1及び2の直接的意味合いである「プレアデス星団」(甲第13号証)と比較して,いかなる意味合いで観念が同一となるものか全く意味不明の主張でしかない。
なお,日本語である「スバル・昴」(プレアデス星団)由来の派生語として,「スバリスト」と称される場合が仮にあったとしても,ごく一部の者による珍しい事例であると考えざるを得ない。
(4)取引の実情
請求人は,自動車関連分野において「スバ」ないし「SUBA」を語頭にするブランドはほかになく,本件商標の語頭の「スバ」ないし「SUBA」が需要者又は取引者の最も注意を引く特徴的部分であると述べるが,甲第18号証(ブランド別新車販売台数)の上位にある3音ブランド「ホンダ,イスズ,マツダ,スズキ,トヨタ」を見ても,「ホン,イス,マツ,スズ,トヨ」を語頭とするブランドは,ほかに見当たらないため,これら2音が特徴的で,これを冠したブランドは,全て出所の混同を生ずると主張するごときものである。
まして,本件商標と「SUBARU」又は「スバル」とは,文字数において「欧文字8文字と6文字・片仮名5文字と3文字」,称呼において「5音と3音」の大差を有するものであり,共通音の占める割合も少ない。
(5)指定商品
本件商標と引用商標1及び2が,一部指定商品において同一又は類似の関係にあることは認めるが,請求人は,上記外観・称呼・観念の類否判断において,単なる類否判断を越えて,本件商標の指定商品と異なる,引用商標1の別異の指定商品「自動車」及び別異の引用商標3の指定商品「自動車」の周知性を混ぜ合わせて述べている。
しかし,商標において非類似である以上,指定商品の類否は問題となるものではない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標1ないし3との類否については,商標において全く非類似である。
本件商標と引用商標4とは,「標章自体」類似することはこれを認めるが,その指定商品において非類似の商標である。
(2)請求人使用商標の著名性について
請求人は,引用商標3の第4類の防護標章登録を示し,「著名商標と取扱われるべきである。」と主張している。
しかし,使用商標の周知・著名性は,浮動的な現実の使用状況に基づくものであり,その改廃等により浮沈することは明らかで,乙第1号証のごとく,請求人の年間発売台数は,国内自動車販売メーカーのシェアー中の,2008年4.1%・・2009年3,8%・・2010年3.6%と,極めて少なく,かつ,尻すぼみの状況である。
上記につき,請求人は,商標登録第1066787号の防護標章第8号を引用しているが,これとて,2008年の更新登録であり,上記の不信感が払拭されるものではない。
したがって,引用商標3の周知性を全く否認するつもりはないが,請求人主張の「顕著な事実」とは異なる。
(3)引用商標4の著名性について
引用商標4が本件商標と同一ないし社会通念上同一の構成よりなることはこれを認める。しかし,「SUBARIST」「スバリスト」の語が,勝手に需要者の一部が名乗る用語として使用された例は,提出された甲号証から伺い知ることはできるが,請求人により引用商標4が指定商品に直接使用された例は,見当たらない。
「スバリスト」の使用例として,請求人の発行する冊子「CARTOPIA」に甲第24号証・後閑暢夫氏(東京農業大学教授)が1975年,「全国のスバリスト(スバルオーナーにこの呼称を提唱します)諸兄姉,どうかこの趣旨に賛同されんことを。」と提唱したのが契機とされているが,30年後の2006年に,「スバリストとしての称号をいただけないでしょうか。」の記載(甲第25号証)がなされ,出版側の解説として「1975年に投稿で名付けた言葉。なので当てはまるなら資格十分ですよ。」と述べている。
つまり,30年経過後でも「スバリスト」の意味合いが普及しておらず,また,出版側(富士重工)自体も,同教授が提唱した単なる「称号」と認識していた事実が明らかとなっている。
インターネット上の辞書とされる甲第26号証も2006年1月『スバリスト。広義ではスバル(富士重工)製の自動車を愛する人々全員のことをいう。古くからマニアックな車を作っていた富士重工のファンは多く,狭義ではこの人々を「スバリスト」と呼び,レガシイ,インプレッサ等,ここ最近のスバル車からファンになった人々は「スバラー」と呼び区別している』の紹介,辞書とされる甲第27号証では,上記甲第26号証及び甲第24号証の記載を紹介した後,「スバリストとは,富士重工(スバル)の自動車をこよなく愛する人々のことである。クルマ好き・スバル好きであるならば,興味を待ったその時期を問わずスバリストを名乗って問題ないと言えるだろう。」なる2010年3月13日記載が,証拠として提出されている。
つまり,最近は,「スバリスト」が廃れ,「スバラー」になってしまっているのか不明であるが,何れにしても「称号」の域を出ないようである。
甲第29号証は,「スバリストと呼ばれる根強いファンの心を掴むモノ作り作戦・スバリストという熱烈なファンを生み得たのか」,甲第30号証も単行本の販売サイトであるが,「スバリストと呼ばれる根強いファンの心を掴む」『惚れ込んでしまった「スバリスト」な人々』等のごとく,ごく一部の「根強いファン」「惚れ込んでしまった人々」が勝手に名乗っている名称であり,少なくとも引用商標4の指定商品に関する使用ではなく,その商標権者の使用ではないこと明らかである。
甲第31号証ないし甲第75号証の大量な証拠は,「LEGACY」の専門誌とされるものであるが,甲第57号証までその表紙に,「スバリストたちに」「Quarterly Magazine for the”SUBARIST”」の記載がなされ,その他の証拠中に「スバリスト」に関する記事が記載されているが,全て引用商標4の使用ではなく,その商標権者による商標使用ではないことが明らかである。
甲第76号証は,検索エンジン(Google)により抽出された100件の「ウェブ見出し」であり,被請求人の本件商標の使用(Page1-1段・Page4-6段・Page9-4段)も含まれているが,「スバリスト」を名乗る個人のブログが中心であり,全て引用商標4の使用ではなく,その商標権者による商標使用ではないこと明らかである。
甲第77号証ないし甲第83号証の「日経ビジネスライン」にあっても,『「スバリスト」と呼ばれる熱狂的なスバルのファン』の記載が甲第77号証2頁1行目にあるごとく,このような人達についての記載であって,名簿や組織はもとより,人数も特定され得ない,個々人の感覚的表現にすぎないもので,これも全て引用商標4の使用ではなく,その商標権者による商標使用ではないこと明らかである。
甲第84号証は,「【スバルエクシーガ試乗記】スバリスト待望の本格派ミニバン登場」,甲第85号証は,「WRCからスバリストまで,SUBARU情報??のコーナーです。」の記載があり,甲第85号証には,車とオーナーのごとき写真101枚(その他不鮮明)が掲載されている。
この記載に「スバリスト」の説明がないとしても,愛好者相互間のページにすぎず,「WRCからスバリストまで」の「WRC」は,意味不明で,また,この中の「WRC又はスバリスト」の人数割合も理解できず,かつ,引用商標4商標の使用ではないため,何を証するための証拠であるか理解できない。
(4)引用各商標の独創性
自動車関連分野において「SUBARU」「スバル」の使用者がほかに存在しないことは,商標制度からも当然のことであり,「スバ」「SUBA」を語頭とする自動車がほかにないとの主張は,他社も偶然とはいえ同程度であることが確かめられている。
「スバル」の独創性については,甲第13号証の広辞苑にも記載された「プレアデス星団」,世界的に有名な「すばる望遠鏡」,2010年上海万博開幕式にも歌われた「谷村新司」の名曲「昴」等も存し,請求人の自負は認めるものの,商標自体の独創性は見当たらない。
(5)商品の関連性,取引者・需要者の共通性,取引の実情
本件商標と引用商標1及び2とが,同一商品を指定している関係上,指定商品において関連性が強いことは,被請求人も認めるところであるが,商標において全くの非類似商標として相違するため,何ら出所の混同を生ずるおそれはない。
引用商標1及び引用商標3は,多区分出願として第12類をも指定しており,「自動車並びにその部品及び附属品」を指定商品としていることは認める。
しかし,「工業用油」や「燃料」に「自動車用のオイル」や「自動車用の燃料」が含まれており,「自動車並びにその部品及び附属品」と販売店が共通するからとの理由で,両商品が密接な関連を有しているとの強弁は,これを全く認めることはできない。
また,引用商標4と本件商標は,確かに近似する商標ではあるが,請求人が引用商標4を使用した実例は,全く見当たらず,周知性は考えられないため,この点においても,商標法第4条第1項第15号に該当する旨の主張は失当である。
(6)混同を生ずるおそれについて
自動車関連用品は,結局,自動車に用いられるものであるから,自動車メーカーのハウスマークないし個々の車名が,関連用品の識別標識に比べ,より強い出所表示機能を発揮しているとの主張は理解できる。
しかし,本件商標と引用商標1の「SUBARU」,引用商標2及び3の「スバル」とが,商標において,何ら出所の混同を生ずる可能性のない,比較すべくもない非類似の商標である以上,本項も無理な主張といわざるを得ない。
(7)結論
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号について
本件商標と引用商標1ないし3は,商標において「SUBAR」,「スバ」の共通性は認めるものの,書体・全体称呼の差異で,全く非類似のものでしかなく,商標制度を越えた,極めて横暴な感情論にすぎない。
被請求人が,「ボクサーエンジン用オイル」「水平対向エンジン専用オイル」に本件商標を使用したとしても,引用商標1ないし3との関連では,「スバ」を語頭とする新商標が市場に登場したというだけのことで,「スバラー」「スバリン」「スバコ」「スバター」「スバクン」等のごとき商標が登場したとしても,全てこれに該当するごとき主張は,極めて横暴といわざるを得ない。
接尾語「・・・ist」が「・・・に巧みな人」の意味合いを有するとしても,本件商標から「スバル製品に精通した人」の観念が,直接的に生ずるものではなく,これさえ,請求人が「想起」した意味合いで,さらに,ネーミングの擬人化法と称し,「スバル製品の専用品」なる飛躍した観念をも創作し,主張することは,失当といわざるを得ない。
本件商標は,引用商標1ないし3とは,全くの非類似であり,引用商標4に至っては,周知性はもとより,使用の実態も全く見当たらないところで,便乗・希釈化の可能性は全く考えられず,不正の目的の推認などあり得ないところである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号について
請求人は,何らの根拠も示さずに,「結果として,市場の混乱を招くばかりか,需要者による製品の取り違え等による事故その他の危険性を増大せしめ,我が国交通事情の混乱を招くおそれがある。」旨主張し,また,「スバリスト」が,「スバル(請求人)の自動車ユーザー」なる,前項と異なる意味合いを用い,著名な名称と主張するが,前記のとおり,甲号証を通覧しても,名簿や組織はもとより人数も特定され得ない,個々人の感覚的表現にすぎず,また,引用商標4商標の使用ではなく,その商標権者による商標使用でもないこと明らかである。
しかるに,本件商標の登録により,「イベント等の遂行さえも阻害されるおそれがある」なる勘違いの主張や,『「スバリスト」と呼ばれる多くの需要者感情を害する』なる,根拠もない「スバリスト」を標榜する人達の感情と異なる請求人の個人的な感情を勝手に挙げ,「公の秩序を害するおそれが高い」の結論を導いているが,全て,証拠に基づくものではない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信される広義の混同を生じるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生じるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
そこで,以上の観点から,本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について検討する。
(2)本件商標と引用各商標との類似性について
ア 本件商標について
本件商標は,前記第1のとおり,「SUBARIST」の欧文字と「スバリスト」の片仮名を上下二段に横書きした構成からなる。「スバリスト」の片仮名は,「SUBARIST」の欧文字の読みを表したものであるから,本件商標からは,「スバリスト」との称呼を生じる。また,本件商標の指定商品は,固形潤滑剤,燃料等であるところ,少なくとも自動車やその関連商品の分野では,本件商標出願当時,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家を「スバリスト」と称することは広く知られていたものと認められるから(甲24,26,27,31?56,58?60,62?73,77?81,101,102,106?125,127,130,131,133,135?138,142),本件商標に接した取引者,需要者にとってみれば,本件商標からは,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家との観念を生じ得ないものではない。
イ 引用商標1ないし3について
(ア)引用商標1は,前記第2(1)のとおり,「SUBARU」の欧文字を横書きした構成からなり,その構成文字全体に相応した「スバル」との称呼が生じる。そして,「スバル」は,請求人が製造する自動車のブランドとして広く知られているから(前記ア掲記の各証拠のほか,甲17,23),引用商標1からは,単に「昴,牡牛座にある散開星団,プレアデス星団」との観念(甲13)が生じるだけでなく,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルとの観念が生じることは否定できない。
(イ)引用商標2及び3は,前記第2(2)及び(3)のとおり,いずれも「スバル」の片仮名を横書きした構成であり,構成文字全体に相応した「スバル」との呼称が生じる。そして,前記(ア)と同様に,引用商標2及び3からも,「昴,牡牛座にある散開星団,プレアデス星団」との観念を生じるほか,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルとの観念も生じ得る。
ウ 本件商標と引用商標1ないし3との類似性について
以上によれば,本件商標と引用商標1とは,「SUBAR」という文字を構成の一部に有している点で,また,本件商標と引用商標2及び3とは,「スバ」という文字を構成の一部に有している点で,それぞれ共通しているものの,その外観は全体として類似するものということはできない。また,本件商標の称呼と引用商標1ないし3の称呼とは,語頭の「スバ」が共通するものの,本件商標は,「スバ」の後に「リスト」が続き,全5音で構成されているのに対し,引用商標1ないし3は,「スバ」の後に「ル」が続く全3音で構成されていることからすると,「ル」と「リ」は50音中同じ行に属することなど請求人が主張する事情を考慮しても,その称呼は全体として相違するものといわなければならない。他方,本件商標からは,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家との観念が生じることがあり,引用商標1ないし3からも,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルとの観念が生じ得るから,観念の点では,関連性があることは否定できないが,これらの観念も全く同一のものではなく,上記のとおり,外観や称呼の点で相違するものであることに照らすと,本件商標と引用商標1ないし3とが全体として類似する商標であるとまでいうことはできない。
エ 引用商標4について
引用商標4は,前記第2(4)のとおり,「SUBARIST」と欧文字と「スバリスト」の片仮名とを上下二段で横書きした構成である。
オ 本件商標と引用商標4との類似性について
以上によれば,本件商標と引用商標4とは,文字の書体に若干の相違がある(甲2,10)ほかは,「SUBARIST」及び「スバリスト」を構成する各文字や,これらを上下二段で横書きするという全体の構成も共通している。したがって,本件構成と引用商標4とは,後記(4)のとおり指定商品を異にするものの,外観及び称呼において類似する商標であるといわなければならない。
(3)引用各商標の周知著名性について
請求人は,自動車の車両・部品・関連資材の製造販売,航空機の製造販売等を目的とする株式会社であり,平成22年度においては,日本国内で約15万8000台の自動車を販売し(甲23),平成20年から平成22年まで,日本国内における自動車の年間販売シェアで4%前後を維持している著名な企業である(甲93)。
そして,引用商標1は燃料や固形潤滑剤等を,引用商標2は燃料や工業用油脂を,引用商標3は自動車やその部品等を指定商品とするものであるところ,引用商標1ないし3が,少なくとも自動車の分野において,取引者,需要者に広く認識されていることは当事者間に争いがない。
他方,引用商標4がその指定商品である紙類等について使用されていることを認めるに足りる証拠はなく,これが周知著名性を有するものであると認めることはできない。
(4)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との間の関連性等
ア 前記(3)のとおり,引用商標1は燃料や固形潤滑剤等を,引用商標2は燃料や工業用油脂を,引用商標3は自動車やその部品等を指定商品とするものであり,本件商標は,固形潤滑剤,靴油,保革油,燃料,工業用油及び工業用油脂を指定商品とするものであるから,本件商標の指定商品と引用商標1ないし3が使用される商品とは,同一又は関連性を有するものである。
イ 他方,引用商標4は,前記第2(4)のとおり,紙類等を指定商品とするものであって,本件商標の指定商品とは,関連性を有するものではない。
(5)混同を生じるおそれについて
前記(2)のとおり,本件商標は,外観や称呼において引用商標1ないし3と相違し,これらが全体として類似する商標であるといえないとしても,本件商標からは,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家との観念が生じることがあり,他方,引用商標1ないし3からも,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルとの観念が生じ得るから,観念において関連性があることは否定できない。また,前記(2)アのとおり,本件商標出願当時,自動車やその関連商品の分野では,本件商標を構成する「SUBARIST」「スバリスト」との語は,請求人が製造する自動車のブランドであるスバルの自動車の愛好家を意味することが広く知られていたものであるが,この「SUBARIST」「スバリスト」との語が,請求人の製造する自動車のブランドである「SUBARU」あるいは「スバル」に由来する造語であることは明らかである。そして,自動車の分野において,引用商標1ないし3が周知著名性を有していることは当事者間に争いがないことや,本件商標の指定商品は,引用商標1ないし3が使用される商品と同一又は関連性を有することなどを併せ考慮すると,本件商標をその指定商品に使用した場合,その需要者及び取引者において,本件商標が使用された商品が,例えば,請求人から本件商標についての使用許諾を受けた者など,請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し,商品の出所につきいわゆる広義の混同を生ずるおそれがあることは否定できない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
2 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから,その余について判断するまでもなく,商標法第46条第1項の規定により,無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-08-09 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-30 
出願番号 商願2010-76976(T2010-76976) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X04)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中束 としえ竹内 耕平 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 2011-02-18 
登録番号 商標登録第5391802号(T5391802) 
商標の称呼 スバリスト 
代理人 田中 昌利 
代理人 梅野 晴一郎 
代理人 逹本 憲祐 
代理人 尾崎 隆弘 
代理人 特許業務法人松田特許事務所 

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