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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない X30
審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 登録しない X30
管理番号 1264390 
審判番号 不服2011-17876 
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-18 
確定日 2012-09-24 
事件の表示 商願2010-22797拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は「エゴマ醤油」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成22年3月25日に登録出願され、その後、指定商品については、同年11月9日付け手続補正書により、第30類「エゴマを主原料としたしょうゆ風味の発酵調味料,エゴマを主原料としたしょうゆ風味の発酵調味料を加味した調味料」と補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、『エゴマ醤油』の文字を標準文字により書してなるが、その構成中の『荏胡麻』を理解させる『エゴマ』の文字はシソ科シソ属に属する一年生草本であり、葉と種子を食用とするものであり、『醤油』の文字部分は、指定商品を表すものである。そして、本願指定商品を取り扱う業界においては、荏胡麻の種子油であるエゴマ油(シソ油)がα-リノレン酸をはじめ、体脂肪の燃焼を助けるなど、健康によい成分を持つことが注目されている事実があることからすると、本願商標をその指定商品に使用しても、該文字は全体として『エゴマを使用した醤油』程度の意味合いを認識・理解させるにすぎず、これを本願の指定商品に使用しても、単に、商品の品質を表示するにすぎない。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
本願商標は、前記第1のとおり、「エゴマ」の片仮名と「醤油」の漢字を一連に横書きしてなるものである(標準文字)。そして、本件の審判請求人(以下「請求人」という。)も本願商標を構成する「エゴマ」が「えごま・荏胡麻」の意味であること及び「醤油」が指定商品を表すものであることは争わない(本件審判請求書)。
(1)エゴマを原料とした醤油(しょうゆ)風味の調味料について
原査定の説示のとおり、「エゴマ」(えごま、荏胡麻)は食用の植物として知られ、これを原料に使用した醤油(しょうゆ)風味の調味料が製造・販売されていることが以下の新聞記事からもうかがうことができる。
ア 2012年5月15日付け日本農業新聞10頁
「[一村逸品]和風荏胡麻ドレッシング/広島県東広島市」との見出しのもと「広島県東広島市福富町の『福富物産しゃくなげ館』が商品化した、特産のエゴマを使った『和風荏胡麻(えごま)ドレッシング』。年間5000本を売り上げる人気商品だ。必須脂肪酸のαリノレン酸を豊富に含む。エゴマのまろやかで芳醇(ほうじゅん)な風味を生かすため手作りする。サラダや温野菜、揚げ物にかけて食べるのがお勧め。ユズ味やみそ味、しょうゆ味など6種類。1本(155グラム)480?680円。・・・」との記載がある。
イ 2012年3月12日付け日刊工業新聞15頁
「太田油脂、エゴマ油配合のドレッシング発売」との見出しのもと「【名古屋】太田油脂(愛知県岡崎市・・・)は、エゴマ油を配合した和風ドレッシング『国産タマネギ毎日えごま油ドレッシング=写真』を12日に発売する。しょうゆ味をベースに国産タマネギの甘みを生かした。内容量は150ミリリットル。価格は630円。動脈硬化予防が期待できるとされるα(アルファ)-リノレン酸などを豊富に含むエゴマ油を使用。サラダにかけるだけでなく焼き肉や鍋のタレとしても使える。全国の自然食専門店や同社インターネットサイトで販売する。」との記載がある。
ウ 2012年2月12日付け読売新聞大阪朝刊34頁
「エゴマ かけてさわやか ドレッシングやジャム発売 栗東市など=滋賀」との見出しのもと「◇湖国ナビ くらし・経済 栗東市と市シルバー人材センター(小野)、滋賀短期大(大津市竜が丘)は、地元産の『エゴマ』を使ったドレッシング『エゴマのまほう』と、ジャム2種を共同開発し、県内3か所で発売を始めた。エゴマはシソ科の一年草。同市上砥山地区では昔から栽培が盛んで、実を食用油の原料にしたり、葉をキムチにしたりしてきた。市栗東ブランド推進室と同センターが、更に親しみやすい食品を作って売り出そうと、昨年4月から開発を検討。生活学科食健康コースのある同短大に協力を呼びかけ、同8月から学生13人がレシピ開発などを進めていた。エゴマのまほうは、エゴマ油を使ったしょうゆ味のドレッシングに、粉末状にした葉や実を加えた。エゴマのさわやかな香りが特徴で、サラダのほか焼き肉のたれ、チャーハンの隠し味などにも使えるという。・・・」との記載がある。
(2)大豆、小麦を使用しない醤油(しょうゆ)風味の調味料について
大豆、小麦以外の原材料からなる醤油(しょうゆ)風味の調味料が製造・販売されており、それらの名称に「醤油」(しょうゆ)の文字が用いられていることが、以下の新聞記事、インターネットウェブサイトからうかがえる。
ア 朝日新聞2007年4月18日付け大阪地方版/香川29頁
「(四国とりよせたい)そら豆醤油 非アレルギーで風味本格 小豆島町 /香川県」との見出しのもと「・・・お薦めなのが小豆島町安田の高橋商店が06年から製造、販売する『そら豆醤油』だ。高橋商店は江戸時代末の1852年創業で、島2番目のしにせ。・・・きっかけは02年、厚生労働省が小麦をアレルギー原因物質としてメーカーに表示義務を課し、大豆も表示推奨品としたこと。問屋から『アレルギー物質が含まれない醤油はできないか』と相談を受けた高橋さんは、県発酵食品研究所と共同で開発を進めた。穀類や豆類のうち、そら豆が適していることを突き止めた。非アレルギーの醤油風調味料はヒエやアワ、魚などを使ったものが売られているが、うまみや香り、辛みが本物の醤油にかなわない。しかし、そら豆醤油は同研究所の分析によると、『うま味』の指標となる全窒素分が100ミリリットルあたり1.74グラムで、日本醤油協会の『特選』基準を上回り、独特の柔らかい風味もある。そら豆醤油は06年2月に完成。県との共同特許を出願中で、同年の県産品コンクールでは大賞に次ぐ優秀賞5点の一つに選ばれた。500ミリリットル入り1千円(税別)。・・・」との記載がある。
なお、高橋商店のインターネットウェブサイト(http://www.shodoshima-yamamo.com/soramame.html)にも同旨の記載がある。
イ 丸秀醤油(佐賀県)のインターネットウェブサイト
丸秀醤油のインターネットウェブサイト(http://www.shizen1.com/shop-quinua.html)では、「キヌア醤油 360ml瓶 ?米・麦・大豆を使っていないお醤油です?」が販売され、同社の「会社概要 創業1901年 丸秀醤油の歩み」(http://www.shizen1.com/co.html)には、「平成13年 佐賀県より創造技術研究開発費補助金を受け、穀物アレルギー対策商品として『キヌアみそ』『キヌアしょうゆ』を開発」との記載がある。
ウ ケンコーコムのインターネットウェブサイト
ケンコーコムのインターネットウェブサイト(http://www.kenko.com/product/seibun/sei_755297.html)では、「米しょうゆ 500ml」が販売されているところ、そこには「『米しょうゆ 500ml』は、大豆、小麦を使用せず、米を主原料として醸造した醤油風調味料です。小麦、大豆アレルギーの代替食材としてご利用いただけます。」との記載がある。
(3)大豆、小麦を使用しない発酵調味料について
大豆、小麦を使用しない調味料として、「ひえ醤油」、「あわ醤油」といった発酵調味料が存在することは、請求人も争わない(本件審判請求書)。
(4)小括
以上よりすれば、本願商標を構成する文字及びその表記方法並びに本願の指定商品と、前記(1)及び(2)に例示した、エゴマ(えごま、荏胡麻)を原料とした醤油(しょうゆ)風味の調味料の存在及び大豆、小麦を使用しない醤油(しょうゆ)風味の調味料の存在を踏まえて考察すると、本願商標「エゴマ醤油」は、これをその指定商品に使用する場合、「エゴマを原料とする醤油(しょうゆ)風味の調味料」の意味合いをその需要者に容易に認識させるものというべきである。
してみれば、本願商標は、その商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと認められるから、結局、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第1項第3号に関する請求人の主張について
(1)本願商標「エゴマ醤油」が創作されたものであること
請求人は、本願商標「エゴマ醤油」を創作して市場に提供している旨を主張する。
しかしながら、商標法の保護対象となる商標の本質は、自己の業務に係る商品を他人の業務に係る商品と識別するための標識として機能することにあり、この自他商品の識別標識としての本質から、商品の出所表示、商品の品質保証、及び商品の広告宣伝の各機能が生じる。そして、商標法第3条第1項第3号に該当するものが商標として登録されない理由は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用されるものであって、自他商品の識別標識としての機能を欠くことから商標としての機能を果たし得ないものであることによる。
このような、商標法第3条第1項第3号の趣旨からすると、本願商標が請求人の創作によるものであるかどうか、請求人が商品を製造販売しているという事情によって、本件審判の結果が左右されるものではない。また、「エゴマ醤油」が、請求人の指摘する辞書類に掲載されていないとしても、それゆえに本件の判断が左右されるものではない。
(2)第三者の商品の不存在、本願商標が普通に使用されていないこと
請求人は、「荏胡麻」やその油の搾り粕を原料としたしょうゆ風味の発酵調味料は、請求人の本願商標を付した商品しか存在しない旨、また、請求人は、「エゴマ醤油」が、本願の指定商品の分野で取引上普通に使用されていない旨主張する(参考資料(以下、「資料」と表記する。)82)。
しかしながら、商標法第3条第1項第3号に該当する商標であるか否かは、その商品の需要者の認識を基に判断されるべきものである(最高裁判所第一小法廷昭和61年1月23日判決、昭和60年(行ツ)第68号)。そして、前記1のとおり、本願商標は、その指定商品の需要者にその商品の品質を表示したものと認識されるものというのが相当である。
(3)エゴマを原料とした醤油は想定できず、「醤油」と名づけることは不適切であること
請求人は、エゴマを原料とした醤油(しょうゆ)は考えられない、エゴマと醤油を合わせたものがドレッシングとはいえるが「醤油」と名前をつけることは適切さを欠く旨主張する。
しかしながら、本願の指定商品の分野(調味料)の需要者にとって、調味料としてエゴマを原料とした醤油(しょうゆ)風味の調味料が、想定できないという事情にはない。すなわち、前記1のとおり、エゴマを原料とする調味料(ドレッシング)が存在し、かつ、大豆、小麦を使用しない醤油(しょうゆ)風味の調味料に「醤油」(しょうゆ)の名が付けられて製造・販売されている状況からすれば、本願商標に接する需要者は、これをエゴマを原料とする醤油(しょうゆ)風味の調味料であると認識するのが自然である。
(4)本願商標は、商品の品質を直接表示したものではないこと
請求人は、本願商標は「荏胡麻を使用した醤油」の意味合いを暗示させるにすぎず、特定の商品の品質を直接的に表示したものではない旨主張する。
しかしながら、前記1のとおり、本願商標は、その需要者に「エゴマを原料とした醤油(しょうゆ)風味の調味料」の意味合いを容易に認識させるものであるから、これが、暗示ないし間接的な表示にとどまるものではない。
(5)特許査定を得た技術であること
請求人は、平成24年6月7日付け上申書により、エゴマの搾り粕を原料とした発酵調味料は、特許査定を受けた技術(資料91及び92(審決注:資料90、94は、前記上申書の【証拠方法】欄に言及されているが、実際の資料には、91ないし94の番号が付与されているから、以下の説示は、実際に提出された証拠方法である書証に付された番号によるものとする。))である旨主張する。
しかしながら、商標法は、自他商品の識別標識であることを本質とする商標を保護することを目的とするものであって、その法目的にそって、商標の登録要件として商標法第3条第1項が定められているところ、これは、特許法における特許の要件とは、全く別のものであるから、本願の指定商品に係る技術について特許査定を得たことが、本願商標についての商標法第3条第1項第3号の判断を左右するものではない。
3 商標法第3条第2項について
請求人は、本願商標は、自己の業務に係る商品を表すものとして需要者に広く認識されるに至っているから、商標法第3条第2項に該当し、登録されるべきものである旨主張し、証拠方法として、本件審判請求(平成24年6月7日付け上申書を含む。)において資料12ないし81、83ないし89、93及び94を提出している。
したがって、以下、商標法第3条第2項について検討する。
(1)商標法第3条第2項の趣旨
知的財産高等裁判所平成18年6月12日判決(平成18年(行ケ)第10054号判決)は、「・・・商標法3条2項は,商標法3条1項3号等に対する例外として,『使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できることができるもの』は商標登録を受けることができる旨規定している。その趣旨は,特定人が当該商標をその業務に係る商品の自他識別標識として他人に使用されることなく永年独占排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品識別力を獲得したものということができる上に,当該商品の取引界において当該特定人の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから,当該商標の登録を認めようというものであると解される。上記のような商標法3条2項の趣旨に照らすと,同条項によって商標登録が認められるためには,以下のような要件を具備することが必要であると解される。」と説示し、その要件を以下のように判示している。
ア 使用により自他商品識別力を有すること
商標登録出願された商標(出願商標)が,商標法3条2項の要件を具備し,登録が認められるか否かは,実際に使用している商標(使用商標)及び商品,使用開始時期,使用期間,使用地域,当該商品の生産又は販売の数量,並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願商標が使用された結果,判断時である審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否か(いわゆる『自他商品識別力(特別顕著性)』の獲得の有無)によって決すべきものである。
イ 出願商標と使用商標の同一性が認められること
商標法3条2項の要件を具備するためには,使用商標は,出願商標と同一であることを要し,出願商標と類似のもの(例えば,文字商標において書体が異なるもの)を含まないと解すべきである。なぜなら,同条項は,本来的には自他商品識別力がなく,特定人の独占にもなじまない商標について,特定の商品に使用された結果として自他商品識別力を有するに至ったことを理由に商標登録を認める例外的規定であり,実際に商品に使用された範囲を超えて商標登録を認めるのは妥当ではないからである。そして,登録により発生する権利が全国的に及ぶ更新可能な独占権であることをも考慮すると,同条項は,厳格に解釈し適用されるべきものである。
(2)本願商標の商標法第3条第2項該当性について
上記(1)の観点から、本願商標が商標法第3条第2項の要件を備えているものか否か判断する。
ア 本願商標と請求人の使用商標との同一性について
書証において、例えば、「荏胡麻醤油」(資料12)、「荏胡麻しょうゆ」(資料13)、「えごましょう油」(資料14)、「エゴマしょうゆ」(資料15)、「えごま醤油」(資料17)、「荏胡麻(えごま)によるしょうゆ」(資料31)、「エゴマで作った醤油」(資料63)「エゴマを使った醤油」(資料83)は、本願商標「エゴマ醤油」とは、文字の種類(漢字、片仮名、平仮名)が相違し、又は他の文字を付加(「作った」、「使った」)したものである。このようなものは、本願商標と同一のものと評価することはできない。したがって、前記の書証のほか書証(資料16、18?27、29、30、32、33、35、37、38、41、45、47、51、58、74、75、88及び89)に本願商標と同一のものが表示されているとはいえない。
また、資料57は、「エゴマスタード」、「エゴ麻?油」、資料73は「エゴマ醤油ソフトクリーム」に関する書証であるが、本願商標の使用が見当たらない。
イ 商標としての使用について
(ア)実際の使用態様
本願商標が、実際の商品に使用されている態様(資料8(表紙))をみると、商品の容器のキャップ部から容器の口部に「≪くらびより≫」と「食楽日和」の文字が表示された封かん紙が貼付され、その下部に「大豆・小麦を使用しない新しい調味料です」とともに「エゴマ醤油」が表示されたラベルが貼付されている。そして、「醤油屋の願い」との見出しの記載及び同記載に関連した商品写真である「水出しエゴマつゆ」、「エゴマ油」及び「エゴマドレッシング」の商品を見比べると、いずれにも、同様の封かん紙が貼付され、前記「≪くらびより≫」と「食楽日和」が表示されているものである。
また、当該書証には、「製造元」として請求人の名義が表示がされているから、請求人の商号「株式会社浅沼醤油店」及びその略称である「浅沼醤油店」も、自他商品の識別標識として機能しているものといえる。
そうすると、前記1のとおり、本来、自他商品の識別標識としての機能を果たさない本願商標と、前記「食楽日和≪くらびより≫」、「株式会社浅沼醤油店」及び「浅沼醤油店」とでは、その商品の需要者に対して、商品の出所として与える印象、記憶には格別の差があるというべきである。
したがって、実際の商品をみると、請求人の業務に係る商品と他社の商品を識別する標識として使用されているのは、「食楽日和≪くらびより≫」、「株式会社浅沼醤油店」及び「浅沼醤油店」であり、これらが自他商品の識別標識である商標としての機能を果たしているというのが相当である。
(イ)商品の説明としての表示
「エゴマ醤油」が他の商品の原材料として記述されている書証がある。例えば、「エゴマドレッシング」についての書証(資料56、60、64(85)及び67)、「エゴマしょうゆ(入り)ソフトクリーム」(エゴマ醤油ソフトクリーム)についての書証(資料34及び77)、「盛岡の白だし」についての書証(資料54、68?72、76及び86)、「ラーメンのめん」についての書証(資料81)には、「エゴマ醤油」の表示があるが、これらの記述の内容からみて、自他商品の識別標識、すなわち商標として「エゴマ醤油」が使用されたものとはいえない。
そして、「エゴマドレッシング」、「エゴマしょうゆソフトクリーム」及び「盛岡の白だし」については、「株式会社浅沼醤油店」、「浅沼醤油店」及び「食楽日和(くらびより)」が、また、「ラーメンのめん」については、株式会社兼平製麺所ないしそのロゴマークが商標としての機能を果たしているというのが相当である。
なお、資料64と資料85は、その題号、発行日付とその内容から同一の書証と認められる。
ウ 使用開始時期、使用期間
請求人は、その商品について様々に表示していた表示を本願商標「エゴマ醤油」に統一したのは、直営店舗での販売を開始した平成21年6月であると主張する。
書証(資料42、87など)によれば、平成21年8月以降、「エゴマ醤油」が本願の指定商品について使用されたことが認められる。
エ 使用地域
(ア)商品の販売
請求人の運営する直営店「食楽日和(くらびより)」(岩手県盛岡市中ノ橋通)及び請求人の運営するインターネットウェブサイトにおける販売の事実は、提出された書証から裏付けられる。
しかしながら、当該サイトの写し(資料11(5/6ページ))中の、「【嬉しいお客様の声】」の記載をみると、その顧客は、盛岡市、滝沢村を含む岩手県内の顧客である。
また、請求人が主張するカワトク百貨店、小岩井農場、盛岡手づくり村、イオン金ヶ崎店、イオン渋民店、クロステラス盛岡、特産品プラザらら・いわて、平泉の峰岸ファーム、横浜のナチュラルエッセイ、東京都の小平マナ、福島県内の高速道路のサービスエリア(安達太良、国見)及び楽天、Amazonにおける販売状況を直接に立証する証拠方法の提出はなく、これらにおける本願商標が、その指定商品について使用されたのか否かは不明である。
(イ)広告による使用
請求人の提出する書証は、盛岡市を主とする岩手県内を対象とするものである(資料12?15、17、18、20、21、23、25、27、29?36、38?40、42、43、45?47、53、55、57、58、61、62、65、66、68、69、72?74、77、79?81及び83)。また、記載内容から、岩手県外で頒布されたと推定される書証があるが、いずれも隣接する市町村程度の地域で頒布されたもの(資料48、49、54、56、60、63、70及び86)又は宮城県を主に東北地方で頒布されたもの(資料78)にすぎない。
そこで、書証の内容及び請求人が全国的なものと主張する書証(資料16、19、22、24、26、28、37、41、44、50?52、59、64(85)、67、71、75、76、84及び87?89)について検討する。
a 本願商標との相違
資料16、19、24、26、37、51に表示されたものは、「荏胡麻醤油」であり、資料22は、「荏胡麻しょうゆ」であり、資料41は、「えごましょうゆ」であり、資料75は、「えごま醤油」であり、資料89は、「エゴマしょうゆ」であるから、前記アのとおり、本願商標と同一のものと評価することはできない。
b 商標として使用されていない
資料64は、「エゴマドレッシング」、資料71及び76は、「盛岡の白だし」についての記事であるところ、それらの原材料を記述した部分に「エゴマ醤油」の表示があるが、これらは商品の説明としての表示であるから、前記イ(イ)のとおり、自他商品の識別標識として、すなわち商標として「エゴマ醤油」が使用されたものとはいえない。また、前記イ(イ)のとおり、資料64と資料85は同一である。
また、資料84は、「盛岡タウンの人気スポット」として請求人の直営店「食楽日和」が取り上げられ、「・・エゴマを使った醤油や果実酢も人気。」との記載及びその価格表示として「・・・果実酢945円、エゴマ醤油420円」の記載があるが、「果実酢」と併置される表記ぶりからみると、「エゴマ醤油」は、「エゴマを使った醤油」を、簡略に表記したものというのが相当であり、直ちに、自他商品の識別標識として「エゴマ醤油」が使用されたものとはいえない。
c 読者の限定
(a)業界紙(誌)など
「特許流通促進事業ガイド」(資料37)、「月刊食品工場長」(資料52)は、その記載内容から産業財産権の活用に関心を有する事業者が対象である。さらに、「農業共済新聞」(資料22)は、専ら農業に携わる者を対象とするものである。
そうすると、これらの対象とする読者は、本願の指定商品の分野の需要者一般ということはできないものである。
(b)聴取地域
「Kiss and hug」(資料28)は、FMラジオ局であるJ-WAVEのインターネットウェブサイトとみられるが、同局は、関東地方南部を聴取域とするラジオ局であり、同局の番組に関心を持った聴取者が、同サイトを閲覧することがあるとしても、それが、全国の需要者であるとはいえない。
d 特集記事の趣旨
「47都道府県地元で大人気の調味料はこれ」(資料75)は、北海道、青森県、岩手県、秋田県、山形県、宮城県の調味料を特集したものであるが、当該記事の見出しには「地元の素材を生かしたご当地調味料との出合いは、まさに未知との遭遇。」とあり、この特集記事の趣旨からすると、これに掲載されること自体、いまだに全国では知られていないことを裏付けるものである。
e 第三者に関するもの
資料88は、「色麻町の名産品『えごま醤油』」として記載されているものである。
f 出典不明
資料89について、請求人は、全国的な「フェリシモ」通販カタログと主張するが、その出典を裏付ける表紙、裏表紙、奥付などがなく、請求人の主張どおりであるか否か不明である。
g 掲載の方法、回数
読売新聞(資料44)、「栄養と料理11月号」(資料50)、「週刊SPA!」(資料59)、「BIGtomorrow」(資料67)は、その読者へのプレゼント企画の商品であり、「文芸春秋11月号」(資料51)をも含めて、いずれも定期的に刊行(日刊、週刊、月刊)される印刷物へ1度掲載されたものにすぎない。
h 発行部数、地域
請求人は、「美しい東北名品お取り寄せ 復興支援日本人の心の原風景」(資料87)については、全国の産直に設置されている旨主張するが、その発行部数、頒布地域が明らかではない。
オ 商品の販売数量
(ア)業務用以外
請求人は、本願商標を付した調味料(醤油、ドレッシング、つゆ)の自社出荷本数は、平成20年度4,260本、平成21年度13,381本、平成22年度15,627本、震災の影響により出荷不可能な期間があった平成23年度(8カ月間)は10,077本であり、総出荷本数は、43,345本である旨主張する。
しかしながら、請求人の主張を裏付ける証拠方法の提出はない。そして、、調味料のうちドレッシング、つゆについては、それぞれ「エゴマドレッシング」、「水だしエゴマつゆ」の表示で販売されており、本願商標が表示されていない(資料8)。また、請求人の挙げた数字は、請求人の販売する調味料全体の数字であって、本願の指定商品のみの数字ではない。
他方、岩手日日新聞(資料43)には、平成20年度実績でしょうゆ2,600本(1本120ミリリットル入り)を販売した旨の記載がある。
そうすると、出荷本数が請求人主張のとおりとしても、この出荷数量により、本願の指定商品に関する調味料の分野で、「エゴマ醤油」の表示をした本願の指定商品が、他社の商品を圧倒していると認めるに足りない。
(イ)業務用
請求人は、業務用として平成22年度は300リットル、平成23年度(8カ月間)は300リットル出荷した旨主張する。
しかしながら、業務用についても、それを裏付ける証拠方法の提出はなく、前記(ア)と同様に業務用の調味料の市場において他社の商品を圧倒するような数量であると認めることはできない。
(ウ)関連商品
請求人は、エゴマ醤油ラーメンなど本願商標を付した他社の関連商品の出荷(平成21年度7,172個、平成22年度267,428個、平成23年度(8カ月間)288,963個)があること、また、盛岡市の株式会社兼平製麺所と共同で、エゴマ醤油を使った「エゴマ醤油ラーメン」を開発し、平成22年秋から販売されている(資料81)旨主張する。
しかしながら、書証(資料81)をみると、当該商品は、株式会社兼平製麺所を出所とする商品と認識されるものであり、かつ、当該「ラーメンのめん」は、本願の指定商品とは、別の商品である。
また、前記の株式会社兼平製麺所以外の「他社の関連商品」である「エゴマ醤油ラーメン」については、請求人の主張を裏付ける証拠方法の提出はない。
カ 本願商標の広告・宣伝の方法・回数など
(ア)請求人の広告・宣伝の方法・回数など
請求人は、毎月2回Yahoo懸賞に企画をするなど定期的に広報活動を行っている。平成21年11月には「ビジネスマッチング東北2009」(仙台市:夢メッセみやぎ)、平成22年2月に「こだわり食品フェア2010」(東京都:東京ビッグサイト)に出展したと主張する。
しかしながら、これらを直接に裏付ける証拠方法の提出はなく、これらの内容は不明である。
また、請求人は、平成22年2月26日には、一関市大東町で「エゴマの食プロジェクト」試食発表会を、同年3月30日は盛岡市で料理人、メディアを招いての試食発表会を行った旨主張する。
しかしながら、これらを直接に裏付ける証拠方法の提出はなく、かつ、いずれの開催地も岩手県内の市であって、これらの発表会の規模などの内容は不明である。
(イ)岩手県による広告・宣伝の方法・回数など
請求人は、平成20年度いわて特産品コンクールにおいて市長会会長賞を受賞し、東京銀座のアンテナショップでの展示、県の予算で作成するパンフレットへの掲載がされた旨主張する。
しかしながら、アンテナショップの展示についての証拠方法の提出はなく、当該市長会会長賞に関連するものと認められる書証(資料25、27、29、32及び38)からみると、それらに表示されているのは「荏胡麻醤油」であって、本願商標とは相違する。
(ウ)新聞、雑誌への広告・宣伝の方法・回数など
a 請求人は、本願商標を使用した商品は、発売当初から話題となり、多数の新聞、雑誌などで紹介され、岩手県内で知られている旨主張する。
しかしながら、前記エにおいて本願商標の使用地域について説示したとおり、請求人の主張に関連する書証は、その頒布地域が盛岡市を主とする岩手県内又は他県の一地域(隣接する市町村程度)若しくは東北地方で頒布されたものである。
b 請求人は、全国紙に掲載されることで全国、業界にも知れわたりつつある、読売新聞の懸賞には、6,500通もの応募があった旨主張する。
しかしながら、全国の一般的な読者向けとみられる書証も、前記エ(イ)gのとおり、それらは読者プレゼントの企画であるところ、これも定期的に刊行されているものに1度しかないものである(資料44、50、59、67)。
また、資料44について、請求人は2009年8月18日付け読売新聞であると主張するところ、同紙は、日刊で、かつ、その発行部数が数百万部に及ぶものであることからすれば、同紙の読者プレゼントに対して、6,500件の応募があったとしても、その応募件数を特筆しうるものではない。
c 業界紙(誌)
請求人は、本願商標は、業界に知られている旨主張する。
しかしながら、「日本農業共済新聞」(資料22)、「月刊食品工場長」(資料52)、「特許流通促進事業ガイド」(資料37)は、前記エ(イ)cのとおり、その読者層が限定されるものであって、本願の指定商品の分野の需要者の認識を認定するものとして適切なものではない。
キ 使用商品と本願の指定商品との同一性
本願の指定商品は、前記第1のとおり、「エゴマを主原料としたしょうゆ風味の発酵調味料」及び「エゴマを主原料としたしょうゆ風味の発酵調味料を加味した調味料」である。
そうすると、「ソフトクリーム」の販売に関する書証(資料35、40、58及び73)は、本願の指定商品とは関係のないものである。
ク 第三者による使用について
宮城県の色麻町産業開発公社オンラインショップ(http://shop.egoma-shikama.jp/)で、販売されている「荏胡麻醤油(210g)」(http://shop.egoma-shikama.jp/shopdetail/002003000004/)、「卵かけご飯用 荏胡麻醤油(210g)」(http://shop.egoma-shikama.jp/shopdetail/002003000003/)及び「卵かけご飯用 荏胡麻醤油(85g)」(http://shop.egoma-shikama.jp/shopdetail/002003000002/)の記載内容、商品の写真画像をみると、請求人以外の者である前記公社により、「エゴマを原料とする醤油(しょうゆ)風味の調味料」が、「荏胡麻醤油」、「エゴマ醤油」の名称で販売されていると当該サイトを閲覧する需要者に認識されるものである。また、資料88にも、「色麻町の名産品『えごま醤油』」との記載がある。さらに、資料78にも「色麻町開発公社 しょうゆ風調味料発売」の記載と商品の写真があり、当該写真は、前記の色麻町産業開発公社オンラインショップ上の商品写真と同様であり、商品の出所としては、前記公社が需要者に認識されるものである。
そうすると、前記公社の販売する「エゴマを原料とする醤油(しょうゆ)風の調味料」を請求人が製造している(資料78)としても、本願の指定商品の需要者からすれば、前記公社が「エゴマを原料とする醤油(しょうゆ)風味の調味料」の出所として認識されるというべきである。
ケ 小括
請求人が、その製造・販売する「エゴマを主原料としたしょうゆ風味の発酵調味料」に本願商標と同一と認められる「エゴマ醤油」を使用していることは認められる。
しかしながら、その商標の使用に係る書証は、盛岡市を中心に岩手県内を主とするものであり、岩手県外で頒布された印刷物も一地域(隣接市町村程度)又は東北地方のものにすぎず、その掲載回数も1、2度しかない。
そして、日本全国で頒布されているとみられる印刷物への掲載の回数も、各紙(誌)1度しかない。
さらに、実際の商品に付された「エゴマ醤油」は、その態様から、これが商標として自他商品の識別の機能を発揮したというよりも、むしろ、「食楽日和(くらびより)」、請求人の商号である「株式会社浅沼醤油店」ないしその略称「浅沼醤油店」が、商標として需要者に認識されるというのが相当である。
また、販売数量についても、本願の指定商品に関する調味料の分野で、他社の商品を圧倒するような販売状況というような格別の事情もない。
その上に、請求人以外の者によって、「荏胡麻醤油」、「エゴマ醤油」の文字が、「エゴマを原料とした醤油(しょうゆ)風味の調味料」に付され、販売されている事実がある。
加えて、本願商標に、商品の表示態様を統一したとされる平成21年後半から、審決時までの使用期間は、3年ほどにすぎず、先に説示している事実と考え合わせると、需要者が請求人を出所として認識するに至る期間として十分なものということはできない。
以上からすれば、本願商標が請求人の業務に係る本願の指定商品の出所表示として、需要者の間で認識されるに至ったものとは認められず、本願商標が使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとはいえない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するということはできない。
4 商標法第3条第2項についての請求人の主張について
(1)商品開発の経緯
請求人は、本願商標を使用した商品について、その経緯を主張する。
しかしながら、商標法第3条第2項は、商標が使用されている商品の開発の契機、経緯及びその評価を登録の要件とするものではない。
(2)「フード・アクション・ニッポン・アワード2011」の受賞
請求人は、平成24年6月7日付け上申書において、本願商標「エゴマ醤油」を開発するに至った「エゴマの食プロジェクト」が、農林水産省が実施する第3回フード・アクション・ニッポン・アワード2011の研究開発・新技術部門において「優秀賞」を受賞した(資料93)ところ、「エゴマ醤油」の開発・商品化の新しい取り組みが認められた結果であり、本願商標は、請求人の商標であることが、取引者、需要者に広く知られるようになり、更に識別力を得ることができたものである旨主張する。
しかしながら、資料93によると、当該プロジェクトの受賞の理由は、開発・商品化の新しい取り組みが、未利用資源(エゴマ油のしぼりかす)の有効活用、エゴマの作付け面積の拡大による農家の意識高揚、ひいては食糧自給率の向上につながったことの観点から評価されたものである。同賞の選考理由及びその観点と,商標法第3条第2項の要件とは、関係がない上に、同賞の受賞により、マスメディアに大々的に取り上げられた結果、本願商標が自他商品の識別力を獲得したとの事情も認められない。
したがって、請求人の主張は、いずれも理由がなく採用することができない。
5 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、かつ、同法第3条第2項の要件を具備するものではないから、本願を拒絶した原査定は、妥当なものであって取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2012-07-03 
結審通知日 2012-07-06 
審決日 2012-07-31 
出願番号 商願2010-22797(T2010-22797) 
審決分類 T 1 8・ 17- Z (X30)
T 1 8・ 13- Z (X30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 はるみ 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 内田 直樹
前山 るり子
商標の称呼 エゴマショーユ、エゴマ 

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