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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X03
審判 全部無効 称呼類似 無効としない X03
管理番号 1258265 
審判番号 無効2011-890040 
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-05-27 
確定日 2012-05-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第5365021号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
登録第5365021号商標(以下「本件商標」という。)は、「EISEI」の文字を書してなり、平成22年7月28日に登録出願、第3類「せっけん類,薬用せっけん類,化粧品,薬用クリーム,洗口液」及び第5類「日本薬局方の薬用せっけん,消毒剤,殺菌剤,うがい薬,薬剤」を指定商品として、同年10月7日登録査定、同月29日に設定登録されたものである。

2 引用商標
請求人が引用した登録商標は、別掲1に記載のとおりの引用商標1ないし引用商標13の計13件(以下、これらを併せて「引用各商標」という場合がある。)であり、これらの商標権は現に有効に存続しているものである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第70号証を提出した。
(1)はじめに
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号及び同第15号に違反して登録されたものである。したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号に基づいて、その登録は無効とされるべきものである。
なお、請求人は、引用商標に係る商標権者から独占的通常使用権を許諾されている者であるため、本件審判について重大な利害関係を有するといえ請求人適格を満たすものである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性
ア 本件商標と引用各商標との対比
(ア)商標の類似性について
一般に、商標の類否判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に観察しなければならない、とされている(甲第27号証)。この基準に基づいて本件商標と上記引用商標1ないし引用商標13とを総合的に観察するに、本件商標と引用各商標は、称呼及び外観が相紛らわしいものであるため、互いに類似するものといわなければならない。
(a)称呼について
本件商標より生ずる称呼は「エイセイ」、「エイゼイ」、「エーゼイ」、及び「エーセイ」の称呼が生ずる。一方で、引用各商標より生ずる称呼は「エーザイ」「エイザイ」「エーサイ」「エイサイ」の称呼が生ずる。
しかるところ、これらの称呼はともに4音と同音数よりなり、さらに、全構成音4音中の第1音「エ」、第2音「ー」あるいは「イ」、第4音「イ」の実に3音までも音を共通にするものであって、第3音目における「ザ」と「ゼ」、あるいは「サ」と「セ」は、ともに子音は舌先と上の歯茎とで作られる摩擦音よりなり、さらに母音についても調音位置が比較的近いものとされている非円唇前舌半狭母音「e」と非円唇前舌広母音「a」との差異に過ぎない。そのため、この第3音における「ザ」と「ゼ」、あるいは「サ」と「セ」は、調音位置及び調音方法が近似しており、語韻語調が相紛らわしいことから、本件商標と引用各商標とは互いに称呼上類似する商標といわなければならない。
(b)外観について
本件商標は、甲第2号証より明らかなとおり、「EISEI」と欧文字を左横書きしたものである。これに対し、引用商標4、引用商標5、引用商標7、引用商標9、引用商標10、引用商標12及び引用商標13は、「EISAI」「Eisai」と左横書きした欧文字部分を含むものである。
しかるところ、本件商標と引用各商標とは欧文字5文字をそれぞれ左横書きした点で構成が同一である。さらに、両商標はその構成において全5文字中の「E」「I(i)」「S(s)」「I(i)」と実に4文字までをも同じくするものである。
このように両商標は構成上の共通性が多く、また、差異があるとしても微差にすぎないことから、取引者及び一般需要者が本件商標及び引用各商標に接した場合は、外観上相紛らわしいものとして看取されるものである。このため、本件商標及び引用各商標は時と所とを異にして行ういわゆる離隔的観察においても、区別することが容易でない外観上相紛らわしい類似の商標であるものといわなければならない。
(c)以上に述べたとおり、本件商標と引用各商標とは、称呼上、及び、外観上相紛らわしいことから、両商標は極めて類似性が高いものであるといわなければならない。
(イ)指定商品の類似性について
本件商標に係る指定商品中の商品の区分第5類「日本薬局方の薬用せっけん,消毒剤,殺菌剤,うがい薬,薬剤」及び同じく第3類「せっけん類,薬用せっけん類,化粧品,薬用クリーム,洗口液」(以下「本件指定商品」という。)であり、一方、引用各商標は共に指定商品中に同第5類「薬剤」及び同第3類「化粧品,せっけん類,歯磨き」(以下「引用指定商品」という。)を含むものである。
しかるところ、本件指定商品と引用指定商品は共通する類似群〔01B01〕〔04A01〕、〔04B01〕及び〔04C01〕が付与されているため、両商品は互いに類似するものとして取り扱われている。そのため、本件指定商品と引用指定商品について同一又は類似の商標を使用した場合には、これに接する需要者または取引者が彼此の商品の出所について混同を生ずるものと言わざるを得ない。
したがって、本件指定商品と引用指定商品とは互いに類似するものである。
イ まとめ
以上のとおり、本件商標と引用各商標とは称呼上及び外観上の観点から相紛らわしい類似の商標であるものとするのが相当であり、さらに、本件商標と引用各商標の指定商品とが互いに類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性
ア 引用各商標の周知・著名性について
(ア)請求人会社について
請求人会社は、1936(昭和11年)11月に、当時株式会社田辺元三郎商店の常務取締役であった内藤豊次が、小石川区指ヶ谷町に「合資会社桜ヶ岡研究所」を設立したことに端を発するものであり、その5年後の1941年(昭和16年)12月に、埼玉県本庄町に資本金18万円で「日本衛材株式会社」を設立し、1944年(昭和19年)に合併により小石川区竹早町(現在の文京区小石川)に本社を置き、1955年(昭和30年)に現在の名称である「エーザイ株式会社」に社名を変更して以降、わが国有数の製薬会社として日本のみならず世界各国において広く知れ渡っている。その規模については、資本金が449億円、2010年度連結売上高が8032億円、国内事業所数が67カ所、海外拠点が米国、英国、シンガポール、中国等の世界23カ国、従業員数が約11000名といずれも我が国トップクラスの製薬会社である。そのため、引用各商標は、請求人会社のハウスマークとして指定商品「薬剤」の分野における需要者又は取引者のみならず、他の商品又は役務の分野の間では極めて広く知られているものといえ、その結果として周知・著名性を獲得しているものである。
近年、製薬業界は、革新的な治療薬の創出と質の高い情報・サービス・製品の提供を期待されており、大きな環境変化を迎えている。
しかるところ、請求人会社における現在の主力商品は、アルツハイマー型認知症治療剤である「アリセプト」及びプロトンポンプ阻害薬(消化性潰瘍治療薬)である「パリエット」(米国名「アシフェックス」)の二つであり請求人会社の総売上高の60%を占めている。特に前者は日本国内及び海外を合わせて2008年に3038億円、2009年に3228億円、2010年に2904億円を売り上げ、日本のみならず海外を視野においた場合でも有数の売上高を誇るものである。また、この他にも一般用医療品の分野においては、ビタミン製剤として需要者又は取引者の間で広く知られる「チョコラBBシリーズ」並びに胃腸薬として知られる「セルベール」や「サクロン」などが存在し、一般用医薬品だけでも56品目の商品が展開されている(甲第29号証)
このように請求人会社は現在も日本国内のみならず米国、欧州を含む世界中で主に医療用医薬品等を製造及び販売しており、その結果引用各商標は専門家である医療従事者間のみならず、患者やその家族、介護者である一般需要者の間においても広く知られているものといわなければならない。したがって、引用各商標はその周知・著名性を優に獲得していることは明白である。
(イ)売上実績について
ところで、請求人のハウスマークとして機能する引用各商標が医薬品の分野で周知・著名な商標であることは、以下に示す事実からも明らかである。 すなわち、甲第30号証として提出する直近5年の請求人会社の決算短信からも明らかなように、医療用医薬品のみならず一般用医薬品、医薬部外品の総売上(連結)は、別掲3に示した表のように推移している。
さらに、前述したように、請求人の主力商品であるアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」並びにプロトンポンプ阻害薬(消化性潰瘍治療薬)である「パリエット」(米国名「アシフェックス」)の直近3年の売上高については、前者が、2008年度に3038億円、2009年度に3228億円、2010年度に至っては2904億円をも売り上げており、後者に至っても2008年度に1599億円、2009年度に1480億円、2010年度は1369億円を売り上げており、請求人会社にとって主力商品であるばかりでなく、もはや日本を代表するブロックバスター(大型医薬品)の一つであるといっても過言ではない。
これらの数字からも明らかなように、請求人会社は日本を代表する製薬企業の一つであり、請求人会社のハウスマークとして使用されている引用各商標には、請求人の業務に係る多大な業務上の信用が表彰されているものといわなければならない。
(ウ)広告宣伝費について
さらに、請求人会社が継続して展開する広告宣伝活動は、医療用医薬品については、専門誌、業界紙、雑誌等への広告掲載、及び、一般用医薬品については、これらに加えてTVCMを中心に定期的、かつ、継続的に行われている。その結果として、引用各商標は、請求人会社のハウスマークとして、並びに、請求人会社の業務に係る商品を表示するものとして需要者又は取引者である医療従事者並びに一般消費者に広く認識されるようになったものといえる。
これら広告宣伝活動の内、広告掲載に要した費用は、甲第31号証の広告宣伝費用一覧表に示すように、例えば、2006年から2010年についての広告宣伝費用を見ると、2006年が約68億円、2007年が約70億円、2008年が約74億円、2009年が約84億円、2010年が約73億円となっており、上記各年度の累計で約370億円もの、実に莫大な費用をかけて広告宣伝活動を行っているものである(甲第31号証)。
引用各商標が掲載された専門誌、業界紙、雑誌等の一部を書証として提出する(甲第32号証ないし同第63号証)。
(エ)TVCMへの広告掲載について
請求人会社は、継続的かつ定期的に引用各商標を付したTVCMを放映している(甲第64号証及び甲第65号証)。
これらの大量のテレビスポット放送確認書は各テレビ放送局が発行したものであり、その放送局は日本全国を網羅したものである。このことは、上記TVCMが日本全国各地のテレビ放送局によって継続的、かつ、定期的に放映されている事実を示すものである。
以上の書証より明らかなように、引用各商標が、請求人会社のハウスマークとして並びに請求人会社の業務に係る商品を表示するものとして、医療従事者間で広く購読されている媒体である専門誌及び業界紙への広告掲載を通じて、継続的、定期的に反復して宣伝広告に努めた結果、引用各商標は、請求人会社のハウスマークとして並びに請求人会社の業務に係る商品を表示するものとして、取引者及び需要者である医療従事者並びに一般消費者の間において広く認識され、その結果として周知、著名性を獲得したものである。(オ)防護標章登録について
さらに、請求人会社のハウスマークとして使用されている引用各商標が著名性を獲得していることは、防護標章登録を請求人会社の関連会社が保有していることからも容易に理解できる(甲第66号証)。
以上の防護標章登録が現に有効に存続し、請求人会社の関連会社が保有している事実からも、引用各商標が既に著名性を獲得していることは、特許庁においても顕著な事実ということができる。
(カ)小括
以上に述べてきたように、引用各商標の使用実績、請求人商品の販売・広告実績、請求人会社の広告態様、請求人会社の売上高・広告費及び防護標章登録の保有状況などを鑑みると、引用各商標は、請求人会社のハウスマークとして並びに請求人会社の業務に係る商品を表示するものとして、本件指定商品を取り扱う分野である医薬品業界のみならず、一般需要者の間においても、本件商標の登録出願時及び査定時で広く認識され周知・著名性を獲得していることは紛れもない事実である。
(キ)商標及び商品の類似性について
既に述べたとおり、本件商標と引用各商標とは外観上及び称呼上の観点から相紛らわしく、かつ、語韻語調も共通するものであることから、両商標は極めて類似性が高いものである。さらに、前述のとおり、本件指定商品と引用指定商品が類似することについても明らかである。
イ まとめ
以上のとおり、本件商標は、その登録出願時及び査定時において周知・著名性を獲得している引用各商標と称呼上及び外観上の観点から相紛らわしい類似の商標であるものとするのが相当であり、さらに、本件商標と引用各商標の指定商品とが互いに類似するものであることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(4)商標法第4条第1項第15号該当性
ア 出所の混同について
現実の取引においては、引用各商標は請求人会社のハウスマークとして並びに請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者又は取引者である医療従事者並びに一般消費者に広く知られ、周知性のみならずもはや著名性をも獲得している点は、前述のとおりである。さらに、本件商標と引用各商標との類似性も高いものであることは前述のとおりである。
近年の取引流通過程を鑑みると、薬局、薬店、ドラッグストア、コンビニ、スーパー等の小売店等では、一般薬と引用指定商品である化粧品、(薬用)せっけん類、薬用クリーム、洗口液とがその売り場において入り混じって販売されていることはもはや周知の事実なっている。さらに、請求人会社及び関連会社は、上記の引用指定商品を含む商標登録を実に154件をも保有しており(甲第67号証)、現実にその指定商品の分野における請求人製品を製造し引用各商標を付した状態で上記小売店舗で販売している(甲第68号証ないし甲第70号証)。
このような実情から、引用指定商品である「薬剤」と本件指定商品中の第3類「せっけん類、薬用せっけん類、化粧品、薬用クリーム、洗口液」とは、商品の販売場所、流通経路ないし販売経路が重複しているものといえ、その結果として必然的にこれらの商品の需要者の範囲が共通することとなる。そのため、前述したように本件商標と引用各商標とが互いに類似するものである点を考慮すれば、これらの商品の需要者が本件商標に接した場合に、請求人の業務に係る一連の製品群に該当するものの一つであるものと誤認し、需要者が出所の混同を生ずる蓋然性が極めて高いものといわざるを得ない。 そのため、引用指定商品と本件指定商品とは、その販売場所、需要者の範囲及び取引主体等の種々の要素を共通にするものであるため、被請求人が本件商標を本件指定商品に使用する場合には、その商品に接する需要者又は取引者が、請求人の業務に係る商品であると誤認混同を生じ或いは請求人と経済的・組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その結果需要者又は取引者が商品の出所について混同するおそれがあることは明らかである。
イ まとめ
以上のことから、本件商標と類似性が極めて高い引用各商標は、前述のとおり、周知・著名性を獲得しているため、被請求人が本件商標をその本件指定商品に使用する場合には、その商品に接する需要者又は取引者は、請求人の業務に係る商品であるものと誤認混同を生じ、或いは、請求人と経済的・組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるものと誤認し、その結果需要者又は取引者が商品の出所について混同するおそれが極めて高いものといえる。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第15号証を提出した。
(1)はじめに
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号又は同第15号のいずれにも違反しないものである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 請求人は、本件商標が、引用各商標と称呼及び外観において相紛らわしいため互いに類似すると主張するが、その主張は失当である。
イ 称呼について
本件商標より生じる称呼は「エイセイ」である。一方、引用各商標より生じる称呼は「エーザイ」又は「エイサイ」である。
まず、「エイセイ」と「エイサイ」とを比較すると、これらの称呼はわずか4音と短いものであり、各構成音が明瞭に発音されるものである。そして、第3音の「セ」と「サ」に差異を有するところ、両音の母音[e]と[a]は共に開放音であって、はっきりと発音・聴取される音であることから、この差異が称呼全体に与える影響は大きく、それぞれを一連に称呼すると語調・語感が異なり、互いに相紛れるおそれはないというべきである。
また、「エイセイ」と「エーザイ」とを比較しても、これらの称呼はわずか4音と短いものであり、各構成音が明瞭に発音されることは同様であり、第3音の「セ」と「ザ」の差異は、両音の母音[e]と[a]が異なることに加え、清音と濁音の違いがあり、まったく質の異なる音であるため、この差異が称呼全体に与える影響は非常に大きく、それぞれを一連に称呼すると語調・語感が異なり、互いに相紛れるおそれはない。
ちなみに、称呼における中間音の「セ」と「サ」の一音相違の商標が類似しないと判断された審決例を列挙する(乙第1号証ないし同第4号証)。
また、本件商標の指定商品の分野において、「セ」と「サ」の一音相違により非類似として並存登録されている(乙第6号証ないし同第12号証)。 これら審決例及び並存登録例に鑑みれば、本件商標は、引用各商標と称呼において紛れることはないというべきものである。
なお、請求人は、本件商標より「エイセイ」のほかに、「エイゼイ」、「エーゼイ」又は「エーセイ」の称呼が生じると主張するが、本件商標のような欧文字よりなる造語の商標にあっては、一般にローマ字読み又は英語風の読みによって称呼されるとみるのが商取引の経験則に照らして相当である(乙第1号証の審決においても同旨述べられている。)ところ、欧文字の「I」は[i]、「S」は[s]と発音されるのが自然であり、本件商標は「エイセイ」とのみ称呼されるというべきである。そして、本件商標より「エイゼイ」、「エーゼイ」又は「エーセイ」の称呼が生じる理由はない。
また、請求人が自己の主張を裏付けるために挙げている甲第28号証の審決に関しては、比較された称呼は「モトコルサ」と「モトコルセ」であるところ、5音構成よりなるものである一方、本件で比較される称呼は4音構成であり、相違する1音が称呼全体に与える影響が異なる。さらに、甲第28号証の審決において比較された称呼の相違する1音は、最も印象に残り難い語尾に位置する一方、本件で比較される称呼の相違する1音は中間に位置し、称呼全体に与える影響が異なる。これらの点を考え合わせれば、この審決は、本件とは前提を異にし、請求人の主張を何ら裏付けるものではない。
ウ 外観について
本件商標は「EISEI」という態様である一方、請求人が本件商標と外観において類似すると主張する引用商標は「別掲2(1)の商標」又は「EISAI」であるところ、「EISEI」と「別掲2(1)の商標」とを比較すると、語頭の「E」がやや近いのみで他に両者が紛れる理由は到底見つからない。また、「EISEI」と「EISAI」とを比較すると、4文字目の「E」と「A」の差異があり、「E」と「A」の字形は近似するとは言い難く、明らかに相違するものであり、両者は区別可能である。
ここで、文字について外観上紛らわしいという事態は、相違する文字が、例えば、「C」と「G」、「I」と「l」(「L」の小文字)、「U」と「V」のように、字形が近似する場合に生じるものであり、請求人が主張するように5文字中の4文字を共通することのみで外観上紛らわしいというのは失当である。
ちなみに、商標の構成中の文字「E」と「A」が相違することにより商標が類似しないと判断された審決例を列挙する(乙第13号証ないし同第15号証)。
これら審決例に鑑みれば、本件商標と引用各商標とが外観において紛れることはないことは明らかである。
さらに、本件商標は、各文字の角をとり、全体として丸みを帯びたレタリングが施されており、引用商標「別掲2(1)の商標」「EISAI」の文字と比較して、外観上非常にソフトな印象として看者に記憶されるものであり、この点からも、本件商標と引用各商標とは容易に区別できるものなのである。
このように、本件商標が、引用各商標と外観において紛れるという理由はない。
エ 以上のように、本件商標は、引用各商標と称呼又は外観のいずれにおいても紛れることはなく、そのほかに本件商標と引用各商標とが類似するという理由はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。
(3)商標法第4条第1項第10号について
上述のように、本件商標は、引用各商標と類似するものではない。
請求人は、引用各商標の周知・著名性を主張しており、多数の証拠を提出している。商標の類否の判断は、取引の実情を考慮して判断しなければならないと商標審査基準及び過去の判例において述べられているところ、請求人の主張及び証拠によれば、引用各商標は、請求人「エーザイ株式会社」のハウスマークとして長年使用され、需要者・取引者に認知されており、引用各商標が使用される際は必ず「エーザイ株式会社」の表示とともに使用されている(甲第32号証ないし甲第63号証、甲第68号証ないし甲第70号証)ことから、引用各商標は「エーザイ」とのみ称呼され記憶されているというべきである。この取引の実情を考慮すれば、引用各商標からは「エーザイ」の称呼のみが生じるというべきであり、「エーザイ」と本件商標の称呼「エイセイ」とが明らかに区別可能であることは既に述べたとおりである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではない。
(4)商標法第4条第1項第15号について
上述のように、本件商標は、引用各商標と類似するものではない。そのため、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、請求人の業務に係る商品であると誤認混同されることはなく、請求人と経済的・組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認混同されることもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。

5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 称呼について
本件商標は、「EISEI」の欧文字からなるものであり、特定の意味合いを有する既成の文字とは認められないものである。
しかして、既成の語とは認められない欧文字からなる商標にあっては、一般にローマ字読み又は英語風読みをもって称呼されるというのが取引の経験則に照らして相当であるところ、本件商標「EISEI」は「エイセイ」の称呼をもって取引に資されるというべきである。
したがって、本件商標は、構成文字に相応して「エイセイ」の称呼を生じるものとみるのが相当であり、また、特定の観念を生じさせない造語からなるものと認められる。
この点、請求人は、本件商標について、「エイゼイ」、「エーゼイ」及び「エーセイ」の称呼をも生じると主張しているが、本件商標の構成文字に相応して「エイゼイ」、「エーゼイ」、「エーセイ」の各称呼が生じるとすべき合理的な理由及び証拠はみいだせない。したがって、上記のとおりに認定するのが相当であるから、請求人の主張は採用することができない。
一方、引用各商標についてみると、引用商標1ないし同3、引用商標6及び同11は、「エーザイ」の文字からなるものであるから、「エーザイ」の称呼を生じること明らかであり、引用商標4、同5、同7、同9、同10、同11、同12及び同13は、その構成中、楕円形内に表された「Eisai」の文字に相応して「エイサイ」の称呼を生じ、また、図及び「Eisai」の文字よりなる当該商標は、後記(2)のとおり、請求人に係る商標として周知、著名となっていることから、当該引用商標からは「エーザイ」の称呼をも生じるものである。さらに、引用商標8は、「EISAI」の文字からなるから、「エイサイ」の称呼を生じるものというべきである。
しかして、本件商標の称呼「エイセイ」と引用各商標の称呼「エーザイ」及び「エイサイ」とをそれぞれ対比してみると、「エイセイ」と「エーザイ」は、語頭音「エ」と語尾音「イ」を共通にするものの、中間の「イ」及び「セ」と長音及び「ザ」が相違し、その差異が4音という比較的短い称呼に与える影響は決して小さいものではなく、これらをそれぞれ一連に称呼した場合には、十分に聴別し得るものである。
また、「エイセイ」と「エイサイ」は、第1音「エ」、第2音「イ」及び語尾音「イ」を共通にするが、中間で「セ」と「サ」の違いを有するものである。そして、当該差異音「セ」と「サ」は、それぞれ帯有する母音(e)と(a)が開放音であって比較的明確に発音され聴取されるものであるから、中間に位置するとはいえ、かかる差異が4音構成という比較的短い称呼に与える影響は決して小さいものとはいえず、これらをそれぞれ一連に称呼した場合には、相紛れることなく区別し得るものである。
なお、この点、請求人は、「セ」と「サ」の音のみ相違する称呼に関する審決例(甲第28号証)を引用して、本件商標と引用各商標とが類似するものとされるべき旨主張しているが、当該引用の事例は、商標の構成、対比される両称呼の音数や相違音の位置で本件とは異なり、本件に適切な事案とはなし得ないものであるから、請求人の主張は採用できないものである。
以上のとおり、本件商標と引用各商標の称呼は、称呼上相紛れるおそれはないというべきである。
イ 外観について
本件商標は、「EISEI」の文字を横書きしてなるものである。
そこでまず、本件商標と引用商標1ないし同3、引用商標6及び同11とを対比するに、本件商標が「EISEI」の欧文字からなるのに対し、前記引用商標は「エーザイ」の片仮名からなるものであるから、その外観において明らかな差違を有し、外観上彼比相紛れるおそれはない。
次に、本件商標と引用商標8とを対比すると、該引用商標「EISAI」の文字よりなるものであるから共に欧文字の5文字をもって横書きに構成され、左から3文字「E」「I」「S」と右端の「I」を共通にするものであるが、4文字目に「E」と「A」の違いを有するものである。そして、「E」と「A」は、欧文字の中にあって字形が近似したものとは言い難く、明らかに相違するものであるから、外観から受ける印象は異なり、時と所を異にした場合においても、外観上彼此相紛れるおそれはないとするのが相当である。
さらに、本件商標と別掲2(1)及び同2(2)に示す商標からなる引用商標4、同5、同7、同9、同10、同12及び同13とを対比すると、本件商標が欧文字の大文字5文字「EISEI」をもって横書きに構成されたものであるのに対し、別掲2(1)及び同2(2)に示す引用商標は、左右内側に厚みのある横長楕円形内(前者の楕円形は左半分が赤、右半分が青に彩色されている。)に欧文字の大文字「E」と小文字「isai」を横書きしたものである。
しかして、両者は、構成全体からみれば、明らかに外観構成が相違するものであるから、外観上相紛れるおそれはないものである。そして、本件商標と当該引用商標楕円形内の欧文字部分とを比較した場合においても、前者が大文字と小文字、後者が大文字のみで構成される点で相違すること及び4文字目の文字も「a」と「E」とで相違することから、前記「EISAI」の場合と同様、これらにおいてみても、外観から受ける印象は異なり、時と所を異にした場合に、外観上彼此相紛れるおそれはないとするのが相当である。
ウ 観念について
本件商標は、上記アのとおり、特定の観念を生じさせないものであり、引用各商標とは観念について比較することができないから、本件商標と引用各商標とは、観念上相紛れるおそれはないものである。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれからみても、引用各商標に類似するものとはいえず、また、後記(2)アに述べる引用商標の周知・著名性を併せ勘案しても、引用各商標に類似する商標と判断することはできないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるということはできない。
(2)商標法第4条第1項第10号について
ア 甲各号証を総合してみれば、別掲2(1)及び2(2)に示す商標と同一の構成からなる商標及び「エーザイ」の文字からなる商標(以下「エーザイ商標」という。)は、請求人の業務に係る商品(医薬品等)に継続して使用され、本件商標の出願時には既に、同人の業務に係る商品を表示する商標として、「エーザイ」の称呼と共に、需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており、それは本件商標の登録査定時においても継続していたと認められるものである。
イ しかしながら、本件商標は、前記(1)と同様に、エーザイ商標に類似するものとは認められないものであるから、たとえエーザイ商標が需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっていたとしても、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものということはできない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
前記(2)のとおり、エーザイ商標は需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっていたと認め得るものであるが、本件商標がエーザイ商標に類似する商標と認められないこと前記のとおりであり、他に、本件商標をエーザイ商標に関連付けてみるべき理由はないから、結局、本件商標とエーザイ商標とは別異の出所を表示するものとして看取されるというべきである。
してみれば、たとえ、本件商標の指定商品とエーザイ商標の使用商品の間に関連性が認められ、また、需要者の共通性が認められるとしても、本件商標をその登録出願時及び登録査定時に指定商品について使用しても、これに接する需要者がエーザイ商標を想起し連想して、当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤信するとは言い難く、商品の出所について混同するおそれがあったということはできないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとは認められない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に違反して登録されたものとは認められないから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(引用各商標)
(1) 引用商標1 登録第473064号商標
商標の構成 「エーザイ」の片仮名を縦書き
登録出願日 昭和30年1月19日
登録設定日 昭和30年11月17日
指定商品 第5類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(平成18年4月12日書換登録)
(2) 引用商標2 登録第474622号商標
商標の構成 「エーザイ」の片仮名を縦書き
登録出願日 昭和30年1月19日
登録設定日 昭和30年12月22日
指定商品 第3類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(平成18年9月6日書換登録)
(3) 引用商標3 登録第653479号商標
商標の構成 「エーザイ」の片仮名を横書き
登録出願日 昭和38年3月1日
登録設定日 昭和39年9月17日
指定商品 第3類及び第30類に属する商標登録原簿記載のと
おりの商品
(平成16年11月17日書換登録)
(4) 引用商標4 登録第834891号商標
商標の構成 別掲2(1)のとおり
登録出願日 昭和42年5月17日
登録設定日 昭和44年10月16日
指定商品 第3類及び第30類に属する商標登録原簿記載のと
おりの商品
(平成21年9月2日書換登録)
(5) 引用商標5 登録第863666号商標
商標の構成 別掲2(1)のとおり
登録出願日 昭和42年5月17日
登録設定日 昭和45年7月4日
指定商品 第1類及び第5類に属する商標登録原簿記載のとお
りの商品
(平成22年4月28日書換登録)
(6) 引用商標6 登録第1464151号商標
商標の構成 「エーザイ」の片仮名を横書き
登録出願日 昭和47年9月21日
登録設定日 昭和56年5月30日
指定商品 第1類、第2類、第3類、第4類、第5類、第8類
、第10類、第16類、第19類、第21類及び3 0類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(平成22年4月28日書換登録)
(7) 引用商標7 登録第1763109号商標
商標の構成 別掲2(1)のとおり
登録出願日 昭和57年12月9日
登録設定日 昭和60年4月23日
指定商品 第1類及び第5類に属する商標登録原簿記載のとお
りの商品
(平成17年11月9日書換登録)
(8) 引用商標8 登録第1963329号商標
商標の構成 「EISAI」の欧文字
登録出願日 昭和59年11月20日
登録設定日 昭和62年6月16日
指定商品 第3類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(平成19年5月30日書換登録)
(9) 引用商標9 登録第2463823号商標
商標の構成 別掲2(2)のとおり
登録出願日 平成2年5月17日
登録設定日 平成4年10月30日
指定商品 第3類及び第30類に属する商標登録原簿記載のと
おりの商品
(平成14年11月13日書換登録)
(10)引用商標10 登録第2546377号商標
商標の構成 別掲2(2)のとおり
登録出願日 平成2年5月17日
登録設定日 平成5年6月30日
指定商品 第1類、第5類、第8類、第9類、第10類、第1
6類及び第21類に属する商標登録原簿記載のとお
りの商品
(平成16年10月13日書換登録)
(11)引用商標11 登録第4522321号商標
商標の構成 「エーザイ」の片仮名(標準文字)
登録出願日 平成12年9月28日
登録設定日 平成13年11月16日
指定商品及び 第1類、第2類、第3類、第4類、第5類、第6類
役務 、第7類、第8類、第9類、第10類、第11類、
第12類、第13類、第14類、第15類、第16
類、第17類、第18類、第19類、第20類、第
21類、第22類、第23類、第24類、第25類
、第26類、第27類、第28類、第29類、第3
0類、第31類、第32類、第33類、第34類、
第35類、第36類、第37類、第38類、第39
類、第40類、第41類及び第42類に属する商標
登録原簿記載のとおりの商品及び役務
(12)引用商標12 登録第4523753号商標
商標の構成 別掲2(1)のとおり
登録出願日 平成12年9月28日
登録設定日 平成13年11月22日
指定商品及び 第1類、第2類、第3類、第4類、第5類、第6類
役務 、第7類、第8類、第9類、第10類、第11類、
第12類、第13類、第14類、第15類、第16
類、第17類、第18類、第19類、第20類、第
21類、第22類、第23類、第24類、第25類
、第26類、第27類、第28類、第29類、第3
0類、第31類、第32類、第33類、第34類、
第35類、第36類、第37類、第38類、第39
類、第40類、第41類及び第42類に属する商標
登録原簿記載のとおりの商品及び役務
(13)引用商標13 登録第4803399号商標
商標の構成 別掲2(2)のとおり
登録出願日 平成15年12月8日
登録設定日 平成6年9月17日
指定商品及び 第1類、第2類、第3類、第4類、第5類、第6類
役務 、第7類、第8類、第9類、第10類、第11類、
第12類、第13類、第14類、第15類、第16
類、第17類、第18類、第19類、第20類、第
21類、第22類、第23類、第24類、第25類
、第26類、第27類、第28類、第29類、第3
0類、第31類、第32類、第33類、第34類、
第35類、第36類、第37類、第38類、第39
類、第40類、第41類、第42類、第43類、第
44類及び第45類に属する商標登録原簿記載のと
おりの商品及び役務


別掲2(1)(引用商標4、同5、同7、同12)
(色彩については原本参照)



別掲2(2)(引用商標9、同10、同13)



別掲3(一般用医薬品、医薬部外品の総売上げ(連結)実績について)





審理終結日 2012-03-21 
結審通知日 2012-03-28 
審決日 2012-04-11 
出願番号 商願2010-59312(T2010-59312) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X03)
T 1 11・ 262- Y (X03)
T 1 11・ 25- Y (X03)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 照美 
特許庁審判長 野口 美代子
特許庁審判官 前山 るり子
内山 進
登録日 2010-10-29 
登録番号 商標登録第5365021号(T5365021) 
商標の称呼 エイセイ、エイセー 
代理人 寺田 雅弘 
代理人 内藤 通彦 
代理人 橘 哲男 

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