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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y10
管理番号 1251731 
審判番号 取消2010-300983 
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2010-09-13 
確定日 2012-02-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5060444号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5060444号商標の指定商品中「超音波画像診断用カテーテル,その他の医療に用いる画像診断用カテーテル,医療用超音波画像診断装置,その他の医療用機械器具」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5060444号商標(以下「本件商標」という。)は、「ISIGHT」の文字を標準文字で表してなり、平成17年2月18日に登録出願、第10類「超音波画像診断用カテーテル,その他の医療に用いる画像診断用カテーテル,医療用超音波画像診断装置,その他の医療用機械器具,おしゃぶり,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳器,綿棒,指サック,避妊用具,業務用美容マッサージ器,医療用手袋,しびん,病人用便器,耳かき」を指定商品として、平成19年7月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由、答弁に対する弁駁、口頭審理における陳述及び上申書において要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証及び甲第10号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中「超音波画像診断用カテーテル,その他の医療に用いる画像診断用カテーテル,医療用超音波画像診断装置,その他の医療用機械器具」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
被請求人の主張内容は商標法第50条1項に規定する各要件を具備するものではなく、乙第1号証は、本件商標の使用について商標法第2条第3項に規定する行為を行ったことを証明するものではない。
(1)被請求人の主張内容について
ア 乙第1号証の使用者について
被請求人は、同人と同様に「ボストン・サイエンティフィック グループ」に属する通常使用権者「ボストン・サイエンティフィック グループ」が行ったプレゼンテーション資料であるとしている。
しかし、被請求人は、「ボストン・サイエンティフィック グループ」なる企業グループの実体を証明していない。更に、被請求人は、「ボストン・サイエンティフィック・ジャパン株式会社」(以下「ボストン・サイエンティフィック・ジャパン」という。)なる法人の存在自体を証明する資料を提出していない。
イ 乙第1号証の使用年月日及び使用場所について
被請求人は、乙第1号証を2009年12月のミーティングでのプレゼンテーション資料として使用した旨主張する。
しかし、主張のみで、ミーティング並びにプレゼンテーションの開催日及び開催された場所が明示されていないし、別途証明もされていない。
商取引の経験則に照らしても、自社製品に関する他社との、ミーティング並びに製品のプレゼンテーション開催の日にちを証拠資料をもって証明しえないこと自体到底有りえないことであり、まして、ミーティング並びにプレゼンテーションの開催場所も証拠資料をもって証明しないことは、被請求人が主張するミーティング並びにプレゼンテーション自体が実際に行われなかったことを疑わせるに十分である。
ウ 乙第1号証の提供対象者について
被請求人は、乙第1号証を日本の医療従事者とのミーティングにおいてプレゼンテーション用資料として使用した旨主張している。
しかし、「日本の医療従事者」とはどのような者を言うのかが不明である。乙第1号証からも、ここにいう「日本の医療従事者」が「医者」あるいは「医療機器メーカーの従業員」と言った者を指しているものと推察されるが、そうであるならば、この「医療従事者」の氏名等を具体的に明示すべきであり、仮に、具体的に明示することに差し障りが有るならば、その旨を記載すべきであるが、かかる記載も被請求人の主張には存在しない。
(2)乙第1号証について
乙第1号証は、以下の点から本件商標の使用を証明する客観的な証拠資料とは認められず、被請求人の内部文書ないしは米国用に作成されたものにすぎないものであり、本件取消請求に係る指定商品について我が国において本件商標が使用されたことを裏付けるものとは認められない。
ア 乙第1号証しか提出されていないことについて
乙第1号証は、プレゼンテーション資料と称する印刷物である。現今のようにパソコンやスキャナー及び複写機の使用により、カラー印刷を含め多種多様な印刷物が恣意的に自在に作成できる時代に、単に印刷物を提出して登録商標の使用の事実の証明となり得るのであれば、商標法第50条第2項が商標権者に要求する登録商標の使用の事実の証明は形式的なものとなりかねない。加えて、この種印刷物は後日作成や修正が可能であることをも指摘せざるを得ない。
イ 乙第1号証の使用言語が全て英語であることについて
乙第1号証で使用されている言語は全て英語である。日本法人と目されるボストン・サイエンティフィック・ジャパンが日本人相手のプレゼンテーションで、全て英語から成るプレゼンテーション資料を準備するということ自体非常に不自然である。
ウ 乙第1号証の表紙について
乙第1号証の1枚目はプレゼンテーション資料の表紙と目され、当該紙面に表示されている「Imaging JMAB/Showroom」がプレゼンテーションの内容を表示するものと考えられるが、当該表示ではプレゼンテーションの内容を想起することは不可能である。
また、当該紙面には、プレゼンテーションが開催された日にちが明示されていない。
さらに、乙第1号証には、この表紙に対応した奥付のページも存在しない。
エ 乙第1号証の多くのページに表示されている英語の著作権表示及び帰属表示について
乙第1号証の複数ページの右下端部分には、「C2008 Boston Scientific Corporation.All rights reserved.」(冒頭の「C」は○の中に「C」の記号である。以下「イ表示」という。)又は「CONFIDENTIAL information of Boston Scientific Corporation.Do not Copy,Display or Distribute Externally」(以下「ロ表示」という。)との英語表示が認められる。
(ア)イ表示について
イ表示は、いわゆる著作権(コピーライト)表示であって、当該プレゼンテーション資料を2008年に「ボストン・サイエンティフィック・コーポレーション」が作成し、2008年に当該資料の著作権が同社に帰属している旨の表示である。
この表示からは、2008年に「ボストン・サイエンティフィック・ジャパン」でもなければ、「ボストン サイエンティフィック リミテッド」でもない「ボストン・サイエンティフィック・コーポレーション」が当該プレゼン資料を作成したことを証明するものである。仮に、「ボストン・サイエンティフィック・コーポレーション」が被請求人と同一人であるとしても、2009年12月のプレゼンテーション資料を2008年に作成すること自体、商取引の経験則に照らしても不自然である。
(イ)ロ表示について
ロ表示は、「ボストン・サイエンティフィック・コーポレーションの部外秘情報。社内のみの使用。コピー、提示或いは外部への頒布をしてはならない」との表示である。かかる表示を日本において第三者へのプレゼンテーション資料として開示することは、当該表示と矛盾するものである。
オ 「iSight」表示について
被請求人は、「iSight」が商標であることを示す「TM」表示がなされている旨主張している。
しかし、本件商標が商標登録されたのは、2007年7月6日であり、被請求人の主張によるところの本件商標のプレゼンテーションが開催されたのは2009年12月であることから、「iSight」に登録商標を表示するマークとして一般的に使用されている「R(○の中にRの記号)」を表示せずに、この「TM」表示を付すること自体、かなり不自然である。
そして、このことは、被請求人と関係の有る米国法人「Boston Scientific Scimed,Inc.」が商標「ISIGHT」につき、2008年10月9日に米国特許商標庁へ指定商品「第10類 Medical Imaging Catheters;Ultrasound Imaging Apparatus」で商標登録出願をし、2011年11月23日に第3回目の使用証明の延長申請が認められ(甲第2号証の1及び2)、いまだ商標登録が取得されていない事実と関連しているものと思われる。
即ち、乙第1号証は、米国において米国における取引用に、商標「ISIGHT」の米国出願時に作成されたものであることから、「TM」表示が「iSight」に付されているものであると考えられる。
かかる主張は、上述した著作権帰属表示が2008年であること、更には、部外秘表示が乙第1号証に記されていることとも合致する。
そもそも、被請求人をはじめとする外国の医療機器メーカーの主たるマーケットである米国においてすら使用されていない本件商標が、日本において使用されているということ自体、商取引の経験則に合致しないものである。
3 口頭審理における陳述
(1)答弁の理由の補足について
ア 提出された乙各号証について
請求人は、乙第1号証を補足する資料として、乙第2号証ないし乙第4号証を提出し、乙第2号証は、乙第1号証と同様にミーティング及びプレゼンテーションで使用されたスライド資料であり、乙第3号証は、被請求人が日本の各地で開催したプレゼンテーションに参加をした医療機関に属する医師の名簿である旨主張している。
しかしながら、現今のようにパソコンで資料を自在に作成できる時代に、パソコンでの作成・編集が容易なスライド資料と証する資料のみを提出して、登録商標の使用の事実の証明となり得るのであるならば、商標法第50条第2項が商標権者に要求する登録商標の使用の事実の証明は形式的なものとなりかねないと請求人は思料する。
イ 乙第2号証及び乙第3号証について
被請求人は、これらの証拠資料によって、スライド資料を使用したミーティング及びプレゼンテーションの開催日時、開催場所及び参加者が確認できるとしている。
しかしながら、これらの証拠資料では、開催地域以外、プレゼンテーションが実際に行われた開催場所は依然として特定されておらず、3回開催したとされているプレゼンテーションに乙第3号証に記載されて医師の全員がすべて参加されたのかそれともそうではないかも不明である。
実際にプレゼンテーションが開催されているならば、これらを証明する資料を被請求人は答弁書提出時に提出できると考えることに十分に合理性がある。
ウ 乙第2号証について
請求人は、乙第2号証中の以下の記述部分から、乙第1号証及び乙第2号証がプレゼンテーション資料であるとの被請求人の主張が疑わしいものであると思料する。
1ページの「Pre Clinical Study(予備臨床研究)」、2ないし4ページの「カテーテルの“通過性能"評価」「次世代 iLabソフトウェアの評価」「使い方、ワークフローについてのアドバイスを頂く」、5及び6ページの「Get Feedbacks from Physicians/Tech about・・・」「次世代IVUSカテーテルのモデル試験の実施、評価を頂き臨床でのご経験を踏まえたFeedbackをいただく」、7ページの「Product Scope」「Qualitative assessments」、9ページの「Test Protocol Objective:IVUSカテーテルの通過性能について血管モデルを用いて比較検討を行う」、10及び11ページの「ご評価いただきたい項目」「フラッシュボード部位についてFeedbackお願いいたします」「Catheter Design Goals(カテーテルのデザイン目標)」
「超音波画像診断用カテーテル」等の医療機器を我が国市場で業(営利)として出荷(製造販売)することは、薬事法で規制されており、規制当局(厚生労働省及び各都道府県)の許可・承認を得ないと行うことはできないとされている(甲第3号証)。
したがって、上記の各記述からは、乙第1号証及び乙第2号証は、被請求人若しくは被請求人の子会社であるボストン・サイエンティフィック・ジャパンが開発中の商品の性能等を評価し、商品を改良・修正するために乙第3号証に記載されている医師に本件商標の指定商品である「超音波画像診断用カテーテル」の臨床試験や評価を委託するために用いられた資料にすぎない。
かかる請求人の主張は、乙第1号証及び乙第2号証に表示されている「Boston Scientific Confidential-For Internal Use Only.Do not Copy,Display or Distribute Externally」(以下「ハ表示」という。)の文言の意味と合致するものである。経験則上、臨床等に携わる医師には当然守秘義務があると解されるからである。
(2)商標の使用が商標法第2条第3項各号のいずれの使用に該当するかについて
請求人は、乙第1号証による商標の使用が商標法第2条第3項第8号の商品に関する広告若しくは取引書類に標章を付して展示する行為に該当する旨主張している。
しかしながら、「広告」とは、「広く世間に告げ知らせること。特に、顧客を誘致するために、商品や興行物などについて、多くの人に知らせるようにすること。また、その文書・放送など」(甲第4号証)とされている。
そして、商標法で規定されている「広告」は、商標の広告的な使い方にも信用の蓄積作用があるから、商標を広告に用いる場合にも商標の使用とみるべきであるとする見地に立っていると解されることから、上記の「広告」の定義がそのまま当てはまると解される。
しかし、乙第1号証及び乙第2号証に表示されているハ表示の文言及び上記(1)ウで挙げた乙第2号証中の各記述は、医師を含めた内部者にその使用を限定するものであり、広く知らしめることを目的していないことから、乙各号証での本件商標の使用は、広告的使用には当たらない。
(3)商品カタログ等が提出されないことについて
被請求人は、2009年12月2日から11日までに行ったとしているプレゼン関係の資料のみを本件商標の使用証拠として提出しているにすぎず、その他、例えば、「超音波画像診断用カテーテル」を紹介するカタログ等の頒布資料、医師向けの説明資料といったもの、さらには、本件商標が使用された「超音波画像診断用カテーテル」の取引書類等を一切提出しておらず、このことは、商品名「ISIGHT」で特定される「超音波画像診断用カテーテル」が商品として存在していないことを推測させるのである。
現に、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンのホームページで「ISIGHT」のキーワード検索を行っても、「該当する項目が有りません(検索結果0)」と表示されるし、同社の製品を紹介するウェブページにおいても、商品名「ISIGHT」は存在しなかったし(甲第5号証の2)、「ボストン・サイエンティフィック・コーポレーション」の製品紹介ウェブページにおいても商品名「ISIGHT」は存在しなかった(甲第5号証の3)。
したがって、かかる請求人の主張は、乙第1号証及び乙第2号証が本件商標の使用を証明するものではないことを示すものである。
4 上申書における主張
(1)プレゼンテーション参加者の証明書について
被請求人は、プレゼンテーション参加者の証明書として乙第7号証及び乙第8号証を提出しているが、これらをもってしても本件商標に保護に値する信用が化体されていることを証明するものではない。
これは、商標法第50条の適用上、「商品」というためには、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならないとされているからである(平成12年(行ケ)第109号(甲第6号証)、取消2007-301475号(甲第7号証))。
しかし、被請求人が本件商標を使用していると主張している「超音波画像診断用カテーテル」は、市場に流通しているとは到底言える状況にはなく、ここにいう商品には該当しない。
すなわち、「超音波画像診断用カテーテル」も含まれる高度管理医療機器については、上述したように、薬事法上、規制当局(厚生労働省及び各都道府県)の許可・承認を得ない限りは、商品として製造・販売をすることができないとされており、被請求人自身も自認しているように、本件商標を使用しているとされている「超音波画像診断用カテーテル」は、未だ、かかる許可・承認を得るための規制当局への申請すらされていないからである。
被請求人は、医療機器業界の事情を種々述べているが、かかる事情は、被請求人自身の事業運営の問題に起因するものであって、「超音波診断用カテーテル」が商標法上の商品であり、商標法が転々流通する商品の出所混同の防止を目的としている以上(第1条)、ここにいう「超音波診断用カテーテル」が市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならないことは当然のことである。
(2)本件商標の広告的使用について
被請求人は、プレゼンテーション資料における本件商標の表示をもって、商標法第2条第3項第8号に規定する広告的使用に該当する旨主張しているが、かかる主張は、以下の点から妥当ではない。
ア 「超音波画像診断用カテーテル」が商標法上の商品ではないこと
上記(1)のとおり、乙第1号証及び乙第2号証のプレゼンテーション資料で紹介をされている「超音波画像診断用カテーテル」が商品でない以上、プレゼンテーション資料における本件商標の表示をもって、商標法第2条第3項第8号に規定する広告的使用に該当するものとはいえない。
すなわち、商標法第1条中の「業務上の信用」とは、現実の商標の使用により化体されるものであり、そのためには、商標を付すべき商品が現存しなければならないからである。
イ プレゼンテーション資料(乙第1号証及び乙第2号証)での本件商標の使用が識別表示としての使用ではないこと
「商品について登録商標の使用」があったというためには、市場において独立して商取引の対象として流通に供される商品の識別表示として商標法第2条第3項及び同第4項所定の行為がされることを要するものとされている(平成12年(行ケ)第109号(甲第6号証)、取消2007-301475号(甲第7号証))。
被請求人は、この点について、プレゼンテーション資料での本件商標の使用が広告的使用であるから、識別表示として使用されていると主張しているようである。
しかしながら、プレゼンテーション資料での本件商標の使用は、上述したように秘密性の保持を義務付けている資料で本件商標が表示されているにすぎず、かかる状況下での表示は、識別表示として商品を広く知られるようにするものではなく、商標法にいう商標の広告的使用には該当しない。
かかる主張は、薬事法、第68条からも裏づけられる。即ち、薬事法は、第68条で、承認前の医療機器につき、認証を受けていないものについては、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない旨規定しており、これには、罰則(懲役2年以下)が設けてある(甲第8号証)。ここに名称とは商標であり、当該条文で用いられている「広告」は、甲第4号証にいう「広告」と同義である。
このように、薬事法上、承認前の医療機器の商標についての広告が禁じられていることから、プレゼンテーション資料の多くのページに「ボストン・サイエンティフィックのマル秘資料-内部のみで使用。コピー禁止。外部への表示又は配布の禁止」を意味するハ表示を記載することで、被請求人は、広告とは取られないよう細心の注意を払っており、プレゼンテーション資料への商標の表示をもって商標の広告的使用であるとの被請求人の主張は失当である。
また、それが仮に広告に当たるとして、その様な薬事法違反の行為は商標の正当な使用とは認められない(東京高裁昭和35年(行ナ)第41号(甲第9号証))
ウ 広告の頒布について
商標法第2条第3項第8号は、所定の標章を付した広告の「頒布等」をもって商標の使用であると規定しており、ここに「頒布」とは、同号に並列して掲げられている「展示」及び「電磁的方法により提供する行為」と同視できる態様のもの、すなわち、標章を付した広告が閲覧可能な状態に置かれることをいうとされている(甲第10号証)。
しかし、プレゼンテーション資料(乙第1号証及び乙第2号証)自体、到底医療機器業界若しくは当該業界と関連性のある医療業界において閲覧可能な状態に置かれていたとは言えないものであり、この点からも、プレゼンテーション資料での本件商標の使用は、商標法第2条第3号第8号にいう「広告」には該当しないものである。
エ 承認申請の予定時期について
被請求人は、「超音波診断用カテーテル」の医療機器製造販売承認申請が2013年2月頃である旨述べておりますが、この承認申請の予定時期自体、本件商標の使用の有無とは全く無関係である。
そして、被請求人は、2007年6月に登録されたにもかかわらず、2013年に至るまで製造承認の申請すら行われていない事実につき、医療機器業界の特殊事情に起因するものであるかのごとく主張しているが、かかる事情が商標法第50条第2項但し書にいう「登録商標の使用をしていないことについての正当な理由」に該当しない以上、何等顧慮すべきものではない。

第3 被請求人の主張
1 答弁の理由
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由、口頭審理における陳述及び上申書において要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証並びに別紙1及び2を提出した。
(1)本件商標は、以下に述べるように、本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において商標権者、通常使用権者がその請求に係る指定商品について登録商標の使用をしていたものである。
(2)被請求人(商標権者)であるボストン サイエンティフィック リミテッドと同じボストン・サイエンティフィック グループに属するボストン・サイエンティフィック・ジャパンは、2009年12月に日本国内で行った日本の医療従事者とのミーティングにおいて、「iSight」という製品名の商品「イメージングカテーテル」に関するプレゼンテーションを行った(乙第1号証)。同プレゼンテーションのスライドにおいて、「iSight」の文字が「カテーテル」の画像に近接して明確に表示されており、「iSight」が商標であることを示す「TM」の表示が付されている(乙第1号証)。
(3)前記「イメージングカテーテル」とは、併用するイメージングシステムに接続し、超音波反射法により画像を表示する血管内超音波カテーテルであり、本件商標の指定商品中「超音波画像診断用カテーテル」に該当する。
(4)以上によれば、本件商標は、本件審判請求の予告登録前3年以内に、日本国内において商標権者又は使用権者がその請求に係る指定商品について登録商標の使用をしていたことは明らかである。
2 口頭審理における陳述
(1)答弁の理由の補足
乙第1号証として提出した証拠について、次のとおり、新たな証拠(乙第2号証ないし乙第6号証、別紙1及び2)を提出するとともに理由を補足する。
ア 乙第2号証について
乙第2号証は、実際にミーティング及びプレゼンテーションで使用された日本語と英語を併記したスライド資料である。
請求人は、乙第2号証はあたかも偽造であるかのような主張をしているが、これだけ専門性の高い資料をこれほど詳細に後から偽装することなどあり得ない。
イ 乙第3号証について
乙第3号証に記載の「Imaging JMAB」とは、「Imaging」が医療画像取得装置を指し、「JMAB」が「Japan Medical Adovisory Board」の略で、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンが行う企画の名称である。
乙第3号証は、2009年12月に行われた同社の企画の参加者リストの一部であって、特に医師に限定したものである。「Imaging JMAB」の参加者には、商品に関するアドバイスをもらうことになっていたため守秘義務が課せられていた可能性は否定しないが、東京、大阪、豊橋で行われた本件プレゼンテーションに参加したのは、このうち4名(高山医師他)のみで、それ以外にも園田医師や日本国内各地の医療機関の技師(真殿技師他)が参加している。プレゼンテーション参加者全員に守秘義務が課されていたとは限らない。請求人の主張は失当である。
ウ プレゼンテーションの開催場所及び参加者等について
乙第2号証、別紙2(乙第2号証の1ページ下欄の拡大書面)、乙第5号証(株式会社帝国ホテル発行の領収書)及び乙第6号証(ホテル日航豊橋発行の領収書)から、2009年12月2日にホテル日航東京においてプレゼンテーションが行われ、日本大学の高山医師が参加したこと、同月8日に大阪帝国ホテルにおいてプレゼンテーションが行われ、小林医師等が参加したこと、同月11日にホテル日航豊橋においてプレゼンテーションが行われ、那須医師等が参加したことが把握できる。
(2)請求人の主張に対する反論
ア プレゼンテーションのスライド(乙第1号証)が英語のみであることついて
乙第2号証により明らかなように、プレゼンテーションは日本語と英語を併用して行われた。最先端の医療機器に関するミーティングでは、我が国においても英語が使用されることは何ら不自然ではない。
イ プレゼンテーションのスライド(乙第1号証)にハ表示があることについて
新たに提出した、実際に使用されたプレゼンテーションのスライド(乙第2号証)及び日本の各地の医療機関に属する医師が参加した事実を証明(乙第3号証)により、このプレゼンテーションは社内を対象に行われたものではないことは明白である。上記の英文記載は、ミーティング及びプレゼンテーションの参加者に無断複製・配布を禁ずる一般的な文言であり、このことのみをもって会社内の内部文書であるということはできない。
ウ 被請求人とボストン・サイエンティフイック・ジャパンとの関係について
被請求人もボストン・サイエンティフィック・ジャパンも、ボストン・サイエンティフィック・コーポレーションの子会社である。両社が関連会社であることは「ボストン・サイエンティフィック」の名称を共通に使用していることからも明らかである。ボストン・サイエンティフィック・ジャパンのウェブサイトにも、「ボストン・サイエンティフィック コーポレーションの日本法人であるボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は、1987年に創立以来、日本国内でのインターベンションの発展に貢献してきました。」(乙第4号証)の記載がある。商活動の実情を考慮すれば、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンは実質的に本件商標の通常使用権者である。
エ プレゼンテーションの資料の用途について
請求人は乙第1号証及び乙第2号証は、開発中の商品の性能等を評価し、商品を改良・修正するために乙第3号証に記載されている医師に本件商標の指定商品である「超音波画像診断用カテーテル」の臨床試験や評価を委託するために用いられた資料にすぎないと主張する。
しかしながら、カテーテルという医療機器が実際に我が国で販売されるためには、薬事法に基づき厚生労働省の承認を取得しなければならず、製品の開発から実際の販売まで長期間を要するものである。また、カテーテルのユーザーは医師であり、人の生命に関わる手術で使用されるものであるから、非常に高度な手技がなければ安全に使いこなせないものであり、おのずと対象となるユーザー(顧客)の数は限定される。そして、かかるユーザーは患者の治療のために常に高品質な製品を要求するとともに、自らのスキルに合った使い易さを優先して商品を選択する。
したがって、一定の機能水準を有する製品として完成させた後に、ユーザーに対して製品に関するプレゼンテーションを行い、実際に使用してもらってフィードバックを受け、マイナーチェンジを行い、医療機器に関する承認申請の対象となる製品に仕上げることは当業界においては普通に行われていることである。本件商標はこのプレゼンテーションの段階で使用されたものである。請求人の主張する単なる「開発中の商品」とは開発段階を異にするものであって、プレゼンテーションで紹介された商品は、プロトタイプともいうべきもので一応の完成を見たが、ユーザーの使い易さに合った商品として最終的に仕上げるために、フィードバックをもらうためのものである。したがって、商標も使用されていたのである。根本的に変わってしまう可能性のあるものとは異なっている。請求人の主張は失当である。
オ 商標の使用が商標法第2条第3項各号のいずれの使用に該当するかについて
被請求人は、乙第1号証、乙第2号証による商標の使用が商標法第2条第3項第8号の商品に関する広告若しくは取引書類に標章を付して展示する行為に該当するものであると確信する。
カテーテルの分野は、商品として販売するには薬事法に基づいて厚生労働省の承認が必要であって、その審査は長期間を要し厳しいものであるため、あらかじめユーザーである医師の意見を十分聴取した上で商品化するのがこの業界の習慣となっている。ユーザーである医師においてもカテーテルを患部まで血管内を安全かつ正確に運ぶという極めて高度な手技を必要としそのようなスキルを有する医師の要望に沿った商品を提供することが求められている。医療機器の製造・販売に関する承認には長期間を要するものであるから、承認を受けた後にユーザーの希望により仕様を変更することになれば、再度、長期間をかけて承認を取得しなおさなければならない。
かかる業界固有の事情から、商品に関する商標を予め定め、それを使用してプレゼンテーションをすることは、その商標を早くから周知化したい事業者にとっては当然の行為である。カテーテルのような専門化した商品の分野において、しかも、販売の承認を得るのに長期間を要するものにあっては、販売前に商標を付してプレゼンテーションに臨むことはごく普通に行われているところである。仮にそれが限られた医師、医療関係の技師に対して行われるプレゼンテーションであっても、商標としての機能は十分発揮されているのである。すなわち、ユーザーである医師又は技師は、「iSight」なる商標で特定される「超音波画像診断用カテーテル」に製品開発の段階から親しみ、かつ、記憶し、医療機器の販売に関する承認がなされた後には直ちに商品を特定し得るのである。
このような観点から考察すると、仮にプレゼンテーションに参加した者全員に守秘義務が課せられていたとしても、本件のプレゼンテーションにおける使用は商標の使用に当たるといえる。
カ 商品カタログ等が提出されないことについて
現実にこのプレゼンテーションの行われたカテーテルについては、厚生労働省の承認が無いため、発売されていない。したがって、カタログもできていない状態である。もし、このケースのように、プロトタイプの商品(カテーテル)が試作され、そのプレゼンテーションが合計三ヶ所において行われていたのにもかかわらず、本件商標の登録が取り消されるようなことがあるとすれば、承認が得られた時点で改めて商標の選択がなされなければならず、非常に商標権者に不利な扱いとなる。
3 上申書における主張
(1)プレゼンテーション参加者の証明書について
プレゼンテーションの参加者のうち2名の参加者から証明書を人手したので、乙第7号証、乙第8号証として提出する。
ア 乙第7号証について
乙第7号証は、2009年12月2日にボストン・サイエンティフィック・ジャパンの社屋がある日廣ビル(東京都新宿区西新宿)10階ボードルームで開催された「Imaging JMAB ShowRoom」に参加した日本大学医学部附属板橋病院の高山医師からの証明書である。これにより、乙第2号証のスライドが、高山医師が受けたプレゼンテーションにおいて実際に使用されていたこと、及び「iSight」という商品名の超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)を高山医師が実際に使用したことが証明された。
なお、平成23年6月21日付け提出の口頭審理陳述要領書(その2)の3ページ上段において、「2009年12月2日にホテル日航東京ボードルームにおいてプレゼンテーションが行われ」と記載したが、プレゼンテーションの開催場所は正しくは「日廣ビル内のボードルーム」であるため、前記記載を「2009年12月2日に日廣ビル内のボードルームにおいてプレゼンテーションが行われ」に訂正する。これは、同じく別紙2として提出した乙第2号証の1ページ下欄を拡大表示した書面中、「Tokyo nikko borad room」の記載を誤って解釈したものであり、他意はない。
イ 乙第8号証について
乙第8号証は、2009年12月7日に湘南鎌倉総合病院内で開催された「Imaging JMAB ShowRoom」に参加した医療法人社団 恵仁会 府中恵仁会病院の本江医師からの証明書である。湘南鎌倉総合病院は本江医師が当時勤務していた施設である。これにより、乙第2号証のスライドが、本江医師が受けたプレゼンテーションにおいて実際に使用されていたこと、及び「iSight」という商品名の超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)を本江医師が実際に使用したことが証明された。
別紙2として提出した乙第2号証の1ページ下欄を拡大表示した書面において、左端の最上部の枠内に「Account Visit」の文字があるが、これは取引先を訪問して行うプレゼンテーションを意味するものである。12月7日の対応する欄が着色され「湘南鎌倉病院」の文字が白抜きで書かれている。ちなみに、東京、大阪、豊橋の3会場で行われたプレゼンテーションの他に、12月1日「星総合病院」、「東京警察病院」、12月3日「北海道社会保険病院」、そして今回の12月7日「湘南鎌倉総合病院」において、訪問先でのプレゼンテーションが合計4回行われた。
(2)薬事法の承認申請の予定時期について
薬事法に基づく医療機器製造販売承認申請は2013年3月を予定しており、現在はそのために必要な準備を進めている段階である。
本件商標の指定商品中「超音波画像診断用カテーテル」は、厚生労働省による分類では高度管理医療機器に分類されるものである。これは、直接身体に関わる医療機器であるため、トラブルを防止する必要性が極めて高く、行政の関与が強められている分野である。製品の有効性・安全性等の審査のために広範囲にわたる資料の提出が要求され、その審査は極めて厳格なものである。このため、申請時に提出すべき書類の準備や各種試験データ、治験データ、文献データ等の取得に膨大な時間がかり、更には取得したデータの正確な翻訳なども必要となる場合もある。臨床試験においては、実際の患者に対して使用して結果を出す必要があるため、患者側の心理的抵抗や、担当専門医の不足や多忙などの本業界特有の事情があるため、容易には進まないのが現状である。このような状況の下で、上記の申請予定時期を前にして、着実にその準備を進めているところである。

第4 当審の判断
1 被請求人提出の証拠によれば、次のとおりである。
(1)乙第1号証は、すべてが英語表記の「Imaging JMAB」と題する全26枚からなる書面であり、その表紙には、左上部に「Boston」「Scientific」、中央に「Imaging JMAB」「ShowRoom」、その下に「Boston Scientific Japan」「De 2009」の、それぞれ二段の記載がある。
(2)乙第2号証は、被請求人がミーティングやプレゼンテーション(以下、いずれも「プレゼンテーション」という。)で実際に使用されたとする、日本語と英語併記の「Imaging JMAB」と題する全17ページからなる書面であり、その1ページ上段には、左上部に「Boston」「Scientific」、中央に「Imaging JMAB」「ShowRoom」、その下に「Boston Scientific Japan」「Dec 2009」の、それぞれ二段の記載がある。また、下段には、左上部に「Imaging JMAB」「Overall Schedule」の二段の記載、その下の四角枠内に「宮崎でのPre Clinical Study Scheduleに合わせて、2Weekで全国のKOL対象にShow Room 3回 Account Visit4施設の実施」の記載があり、さらに、その下に一覧表が表示されている。また、この下段部分は拡大した書面が別紙2として提出されており、そこには、「12/2」の「Show Room」の欄に「Tokyo」、「Venue」の欄に「nikko Borad room」、「DR」の欄に「高山MD(日大)」の記載、「12/8」及び「12/11」の「Show Room」、「Venue」の欄には、それぞれ「Osaka」「帝国ホテル」及び「Toyohashi」「nikko」の記載があり「DR」「Tech」の欄には数名の氏名が記載されている。
2ページ上段には、左上部に「Agenda Show Room」「Dec 2nd 20:30- Tokyo」の二段の記載、その下の四角枠内に「本日のゴール」「・カテーテルの“通過性能”評価」「・次世代 iLabソフトウエアの評価、」の記載があり、その下に「1.Opening Remarks」「2.iSight Imaging Catheter」の記載がある。 また、下段には、左上部に「Agenda Show Room」「Dec 8th 18:00-(Technicians)/Osaka」の二段の記載、その下の四角枠内に「本日のゴール」「・次世代 iLabソフトウエアの評価、」「・使い方、ワークフローについてのアドバイスを頂く」の記載があり、その下に「1.Opening Remarks」「2.iLab2.5 Next Genration Soft Ware」の記載がある。
3ページ上段には、左上部に「Agenda Show Room」「Dec 8th 20:00-(Doctors)/Osaka」の二段の記載、その下の四角枠内に「本日のゴール」「・カテーテルの“通過性能”評価」「・次世代 iLabソフトウエアの評価、」の記載があり、その下に「1.Opening Remarks」「2.iSight Imaging Catheter」の記載がある。 また、下段には、左上部に「Agenda Show Room」「Dec 11th 17:00- Nagoya」の二段の記載、その下の四角枠内に「本日のゴール」「・カテーテルの“通過性能”評価」「・次世代 iLabソフトウエアの評価、」の記載があり、その下に「1.Opening Remarks」「2.iSight Imaging Catheter」の記載がある。
4ページ上段には、左上部に「Agenda Account Visit」「(Doctors)」の二段の記載、その下の四角枠内に「本日のゴール」「・カテーテルの“通過性能”評価」「・次世代 iLabソフトウエアの評価、」の記載があり、その下に「Opening Remarks」「iSight Imaging Catheter」の記載がある。 また、下段には、左上部に「Agenda Account Visit」「(Technicians)」の二段の記載、その下の四角枠内に「本日のゴール」「・次世代 iLabソフトウエアの評価、」の記載があり、その下に「1.Opening Remarks」「2.iSight Imaging Catheter」の記載がある。
5ページ上段には、左上部に「Round Table JMAB Goal」の記載、その下の四角枠内に「Get Feedbacks from Physicians/Tech about NG Imaging Catheter、NG iLab Systems with Prototype」「・Catheter:」「・Evaluate Seath Design,Deliverabillty」などの記載がある。 また、下段には、中央に「iSight TM Catheter」(「TM」は「iSight」の右肩部に小さく表されている。以下、同様の表示(記号)を「【TM】」という。)の記載、その下に「IVUS Session」「December 2009」の二段の記載があり、カテーテルと思われる図が背景に描かれている。
6ページ上段には、左上部に「Agenda」の記載、中央の四角枠内に「本日の Goal」の項目のもと、「次世代IVUSカテーテルのモデル試験の実施、評価を頂き 臨床でのご経験を踏まえたFeedbackをいただく。」の記載がある。また、下段には、中段右端の円内に「iSight【TM】」の記載があり、右下にはカテーテルと思われる図と写真が表示されている。
7ページ上段には、左上部に「iSight【TM】:Preliminary Scope」の記載、中央の四角枠内に「Product Scope:」の項目のもと、「・Qualitative assessments」「・Quantitative assessments」の記載があり、その下には「Catheter Performance」「Image Quaulity」「Reliabillity/Ease of Use」の記載がある。
9ページ下段には、左上部に「Test Protocol」の記載、その下の四角枠内に「Objective:」の項目のもと、「-IVUSカテーテルの通過性能について血管モデルを用いて比較検討を行う。」、「Target:」項目のもと、「-BSC:iSight【TM】」の記載があり、その右には上部に血管モデルと思われる写真があり、下部の四角枠内には、「Compact Tract Modelにおける評価」「Transducer Position」の項目、その下に「iSight vs Atlantis SR Pro2」の記載があり、PoorからExcellentまで5段階に分けられた線が描かれている。
10ページの下段には、左上部に「ご評価いただきたい項目」の記載、その下にカテーテルと思われる写真があり、下部の四角枠内には、「Other Improvements」「Tip to tranceducer distance」の記載があり、その下にPoorからExcellentまで5段階に分けられた線が描かれている。
11ページの上段には、左上部に「ご評価いただきたい項目」の記載、その下にカテーテルと思われる図があり、下部の四角枠内には、「Other Improvements」「New Hub Design」の記載があり、その下にPoorからExcellentまで5段階に分けられた線が描かれている。また、四角枠の下に「※フラッシュポード部位についてFeedbackお願いいたします。」の記載がある。下段には、左上部に「iSight【TM】-Catheter Sheath」の記載があり、「Catheter Design Goals」の記載のもと、その説明が記載されている。
12ページ上段には、左上部に「iSight【TM】-Catheter Sheath」の記載があり、「Catheter Enhancements-Intended Benefits:」の記載のもと、その説明が記載されている。
また、1ページ下段ないし5ページ上段、10ページ上段、11ページ下段、12ページ上段の最下部に「C2008 Boston Scientific Corporation.All rights reserved.」(冒頭の「C」は〇の中に「C」の記号である。イ表示。)の記載、6ページには、最下部に「Confidential information of Boston Scientific Corporation.Do not copy or distribute.」の記載、及び9ページ下段、10ページ下段、11ページ上段、12ページ下段、13ページ上段,15ページ下段、17ページ上段の最下部に「Boston Scientific Confidential-For Internal Use Only.Do Not Copy,Display or Distribute Externally」の記載がある。さらに11ページ下段には「Concept device displayed for educational,reseach and scientific purposes」の記載がある。
(3)乙第3号証は、被請求人がプレゼンテーションの一部の参加者リストとする、「Imaging JMAB」と題する書面であり、右上部に「Decembar 2009」の記載があり、TAKAYAMA氏など12名の氏名と勤務先が英語で記載されている。、
(4)乙第4号証は、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンのウェブページを2011年6月1日にプリントアウトしたものであり、「会社情報」に「ボストン・サイエンティフィック コーポレーションの日本法人であるボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は、1987年に創立以来、日本国内での・・・」の記載がある。
(5)乙第5号証は、株式会社帝国ホテル(帝国ホテル大阪)からボストン・サイエンティフィック・ジャパン宛の2009年12月8日及び9日の15人の利用に係る室料などの「総合請求書」「御宴会お勘定書」「お勘定書」である。
(6)乙第6号証は、ホテル日航豊橋からボストン・サイエンティフィック・ジャパン宛の2009年12月11日の9名による会議室の利用などに係る「ご請求書」「ご宴会請求明細書」である。
(7)乙第7号証及び乙第8号証は、それぞれ高山氏及び本江氏の記名、押印のある「『iSight』カテーテルが表示されたプレゼンテーションスライドの使用に関する証明書」であり、そこには乙第2号証と同じ内容と認められる書面が添付され、その書面(スライド)が平成21年12月2日に東京都新宿区のボストン・サイエンティフィック・ジャパン及び同月7日に湘南鎌倉総合病院においてそれぞれ使用され、同スライドに表示された「iSight」という商品名の超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)を使用した旨の記載がある。
2 請求人の証拠及び同人の主張から、次の事実を認めることができる。
(1)ボストン・サイエンティフィック・ジャパンは、少なくとも、2009年(平成21年)12月2日に東京都新宿区の同社内で、同月7日に湘南鎌倉総合病院で、我が国の医療従事者を対象として、「超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)」について、「iSight」の標章が表示された乙第2号証の書面(スライド)を用いて、プレゼンテーションを開催した(上記1(2)及び(7))
(2)ボストン・サイエンティフィック・ジャパンは、2009年(平成21年)12月8日に大阪市北区の帝国ホテル大阪で、同月11日に愛知県豊橋市のホテル日航豊橋で、我が国の医療従事者を対象として、「超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)」について、「iSight」の標章が表示された乙第2号証の書面(スライド)を用いて、プレゼンテーションを開催したと推認できる(12月2日、7日のプレゼンテーションで、その日後に行われる大阪及び豊橋における出席者名が記載された乙第2号証のスライドを使用していることから、それらの者は参加予定者というべきであるが、会場のホテルが利用されていること及びその利用者数(乙第6号証及び乙第7号証)や大阪開催の前日のプレゼンテーションで第2号証の書面が使用されていることなどを考慮すれば、参加者の確認はできないもののプレゼンテーションは開催されたと推認できる。)。(上記1(2)(5)及び(6))
(3)プレゼンテーションの行われた「超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)」は、商品化前にあらかじめユーザー(医師など)の意見を聴取するためのプロトタイプ(試作品)であり、商品として販売するには薬事法に基づく厚生労働省の承認が必要なものであるが、平成23年6月現在、厚生労働省の承認が無いため発売されていない。また、薬事法に基づく医療機器製造販売承認申請は2013年3月を予定している。
3 判断
商標法第50条第1項は、継続して3年以上日本国内において指定商品についての登録商標の使用がされていないときに、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨を規定し、同条第2項本文は、かかる審判においては、その審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品に係る商標登録の取消しを免れない旨を規定している。
以下、同規定に沿って検討する。
(1)プレゼンテーションの時期
ボストン・サイエンティフィック・ジャパンが、「超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)」について、東京都新宿区の同社内など4カ所で医療従事者を対象として行ったプレゼンテーションの時期は、いずれも、2009年(平成21年)12月であり(上記2(1)(2))、本件審判の請求の登録(平成22年10月1日登録)前3年以内である。
(2)プレゼンテーションを行った者
プレゼンテーションを行ったボストン・サイエンティフィック・ジャパンは、「ボストン・サイエンティフィック・コーポレーション」の日本法人であり(上記1(4))、両社及びボストン サイエンティフィック リミテッド(商標権者)が「ボストン・サイエンティフィック グループ」に属する旨の被請求人の主張に不自然の点はなく、また、グループ企業内において書面によらずに商標権の使用許諾をすることが一般に行われていることからすれば、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンは、本件商標に係る商標権について黙示の使用許諾を得ていたものといって差し支えない。
(3)プレゼンテーションの書面(スライド)に表示された標章
プレゼンテーションの書面(スライド)に表示された標章「iSight」は、上記第1のとおり「ISIGHT」の文字からなる本件商標と、2文字目の「S」を除き大文字と小文字との差異があるものの、その綴り字及びそれから生じる「アイサイト」の称呼を共通にするものである。また、両者は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、観念において異同のないものである。
そうとすれば、当該標章「iSight」は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標といえる。
(4)プレゼンテーションの行われた「超音波画像診断用カテーテル(イメージングカテーテル)」
ア プレゼンテーションの行われた「超音波画像診断用カテーテル」は、プレゼンテーションの書面の記載内容(上記1(2))からすれば、取消請求に係る指定商品中の「超音波画像診断用カテーテル」の範ちゅうに含まれるものと認められる。
しかしながら、当該「超音波画像診断用カテーテル」は、平成23年6月現在、厚生労働省の承認が無いため発売されていない。
イ ところで、商標法は、標章の「使用」に当たる行為について、商標法第2条第3項で、「この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。」と規定し、同項第8号は、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を挙げている。
そして、商標法における「商品」とは、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物と解されており、また、商標法第50条における「(指定)商品についての登録商標の使用」があったというためには、その「商品」は原則として現に日本国内において流通している商品と解するのが相当である。
以下、これに基づいて本件を検討する。
ウ プレゼンテーションの行われた「超音波画像診断用カテーテル」は、市場において独立して商取引の対象として流通に供される物といえるとしても、平成23年6月現在、厚生労働省の承認が無いため発売されていないものである(上記2(3))から、現に日本国内において流通している商品とはいえないものである。
そうすると、当該「超音波画像診断用カテーテル」について標章を使用していたとしても、かかる標章の使用は、現に国内において流通している商品についての使用ではないから、商標法第50条における「(指定)商品についての(登録商標の)使用」と認めることはできないといわなければならない。
なお、被請求人は、「カテーテルは、商品として販売するには薬事法に基づく厚生労働省の承認が必要であって、その審査は長期間を要し厳しいものであるため、販売前に商標を付してプレゼンテーションを行いユーザー(医師又は技師)の意見を十分聴取した上で商品化するのがこの業界の習慣となっている。また、承認後に仕様を変更することになれば、再度、長期間をかけて承認を取得しなければならない。かかる事情から、販売前に商標を付してプレゼンテーションに臨むことはごく普通に行われているところである。仮にそれが限られた医師、医療関係の技師に対するものであっても、ユーザーは、「iSight」なる商標で特定される「超音波画像診断用カテーテル」に製品開発の段階から親しみ、かつ、記憶し、医療機器の販売に関する承認がなされた後に直ちに商品を特定し得るのである。このような観点から考察すると、プレゼンテーションにおける使用は商標法第2条第3項第8号の商品に関する広告若しくは取引書類に標章を付して展示する行為に該当する。」旨主張している。
確かに、現に流通していない商品について広告し販売予約を受け付けることが行われていることからすれば、商標法第2条第3項第8号に挙げられた行為においては、現に日本国内において流通している商品に限らず、ごく近い将来日本国内において流通に供されることが確実な商品についての使用も、商標法第50条における「(指定)商品についての(登録商標の)使用」と解する余地がないわけではない。
しかしながら、本件商標は、上記第1のとおり、平成17年2月に出願、同19年7月に設定登録されたものであり、その後4年を経過した現在においても、これを使用しているとする「超音波画像診断用カテーテル」に係る薬事法に基づく医療機器製造販売承認申請がいまだなされていない状況(平成25年3月申請予定。上記2(3))にあっては、当該「超音波画像診断用カテーテル」は、ごく近い将来日本国内において流通に供されることが確実な商品ということもできないから、上記プレゼンテーションにおける使用行為は、商標法第2条第3項第8号の商品に関する広告若しくは取引書類に標章を付して展示する行為に該当するということはできず、商標法第50条における「(指定)商品についての(登録商標の)使用」と認めることはできない。
したがって、被請求人の上記主張は採用することができない。
エ そうとすれば、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンは取消請求に係る指定商品のいずれかについての(登録商標の)使用をしているということができない。
(5)以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明したものと認めることができない。また、本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中「超音波画像診断用カテーテル,その他の医療に用いる画像診断用カテーテル,医療用超音波画像診断装置,その他の医療用機械器具」について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-09-08 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-27 
出願番号 商願2005-13537(T2005-13537) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y10)
最終処分 成立  
前審関与審査官 箕輪 秀人土井 敬子 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 小畑 恵一
瀧本 佐代子
登録日 2007-07-06 
登録番号 商標登録第5060444号(T5060444) 
商標の称呼 アイサイト、イサイト 
代理人 黒川 朋也 
復代理人 岡崎 士朗 
代理人 工藤 莞司 
代理人 恩田 博宣 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 小暮 君平 
代理人 恩田 誠 
代理人 浜田 廣士 

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