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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない 025
管理番号 1244676 
審判番号 取消2009-301298 
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-11-26 
確定日 2011-09-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第4162272号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4162272号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり「ケントアヴェニュー」及び「Kent Ave.」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成9年2月6日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(乗馬靴を除く)」を指定商品として、同10年7月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁並びに平成22年4月20日付け上申書において要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第101号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)取消事由
ア 本件商標は、被請求人が平成17年7月19日に株式会社ビィオゥビィ・ウィンから譲り受けた商標で、指定商品は「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動特殊衣服、運動用特殊靴(乗馬靴を除く)」である(甲第1号証の1)。そして、本件商標は、上段にカタカナで「ケントアヴェニュー」、下段にアルファベットで「Kent Ave.」の二段書きで構成されている(甲第1号証の2)。
イ 被請求人は、例えば、埼玉県越谷市のイオンレイクタウンの店舗の入り口や棚の上、ガラスケース等の複数の箇所に「Kent Ave.」を表示し(甲第3号証の1ないし3)、また、大手町ビル等の7つの店舗で「Kent Ave.」の看板を掲げ、シャツ等の「Kent Ave.」ブランドの製品を販売しており、各店舗で販売されている「Kent Ave.」ブランドの製品のタグや織りネームには、「Kent Ave.」が表示されている(甲第4号証の1)。また、インターネット上の被請求人のホームページにおいても、被請求人が展開している紳士用品のブランドとして、「Kent Ave.」ブランドが表示されている(甲第2号証の1)。更に、商品包装用の紙袋にも「Kent Ave.」が表示されている(甲第4号証の2)。
ウ そして、上述したような形態で被請求人が使用している「Kent Ave.」の商標ないし標章(以下「本件使用商標」という。別掲2)は、被請求人の本件商標の構成とは異なっており、具体的に述べると、本件商標は二段書きの構成であるが、被請求人は下段のアルファベットの「Kent Ave.」の部分のみを抜き出して、更にその字体を変更して使用している。つまり、被請求人は本件商標に類似する商標を、本件商標の指定商品「被服」等に使用している。
(2)取消原因
本件商標は、以下に述べるように、商標法第51条第1項に掲げる取消理由を有するものであり、その登録が取り消されるべき登録商標である。つまり、被請求人が本件商標に類似する商標を、本件商標の指定商品に使用していることによって、請求人の甲第5号証の1に掲げる商標「Kent」(以下「引用商標1」という。別掲3)を付した商品と混同が生じている。また、被請求人は、上記の使用態様によって引用商標1を付した商品及び役務と混同が生じることを知りながら故意に、上記の使用を継続している。以下、分説する。
ア 引用商標1の周知・著名性について
(ア)引用商標1は、1963年から旧株式会社ヴァンヂャケット(以下「旧ヴァンヂャケット社」という。)が使用し、その後、現株式会社ヴァンヂャケット(以下「現ヴァンヂャケット社」という。)が使用し、さらに2001年からイトーヨーカ堂が、甲第5号証の2ないし4に示すとおり、使用している。
甲第5号証の2は、イトーヨーカ堂での使用の一例を示すために、イトーヨーカ堂の新木場店の店内を撮影した写真であり、また、甲第5号証の3は、イトーヨーカ堂で販売されている「Kent」ブランドの製品を撮影したものである。更に、甲第5号証の4には、イトーヨーカ堂が2001年の春夏物から「Kent」ブランドの製品をビイエムプランニング社と契約し、独占的に発売する旨の記事が掲載されている。
したがって、引用商標1は、紳土用の衣服及び服飾洋品雑貨を表示する商標として極めて著名であり、引用商標1を見たり聞いたりした者は英国的でトラディショナルなイメージの衣服等を直ちに思い浮かべる。
(イ)そのため、甲第3号証の3等に示す本件使用商標のように「Kent」の語の後に「Ave.」の語が付加されて使用されても、引用商標1が周知・著名商標であり、かつ引用商標1の書体とほぼ同じ書体を使用しているため、被請求人の本件使用商標を見た者は、引用商標1と何らかの関係があると誤認する。つまり、被請求人の本件使用商標が看板として掲げられている店舗及び被請求人の本件使用商標がタグや織りネームに表示されているシャツ等の商品を見たり、聞いたりした者は、新旧ヴァンヂャケット社又はイトーヨーカ堂の業務に係る商品又は役務であると誤認し、あるいは新旧ヴァンヂャケット社又はイトーヨーカ堂と経済的に、又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認する。
(ウ)ところで、旧ヴァンヂャケット社は、昭和30年代中頃から昭和50年代後半にかけてわが国における紳士用ファッションの分野をリードした企業であり、引用商標1が旧ヴァンヂャケット社の商標として全国的に極めて著名であったことは、衣服及び服飾洋品雑貨の業界のみならず、一般消費者の間でも顕著な事実である。特に、現在45歳以上の男性、つまり昭和30?50年代当時に20?30代であった男性であれば、誰でも知っていることであると思われる。
(エ)以下、具体的に引用商標1の周知・著名性を説明する。
引用商標1である「Kent」ブランドは、すでに旧ヴァンヂャケット社の商標として著名であった「VAN」ブランドの関連ブランドとして1963年に立ち上げられた。この「Kent」ブランドは、「VAN」ブランド製品の購入者の低年齢化に着目し、いわゆる「VAN」ブランド製品の卒業生である20代後半から30代の男性をターゲットとしており、「Kent」ブランドの製品は品質・価格と共に「VAN」ブランド製品よりも上という位置づけになっている(甲第6号証及び甲第7号証)。
そして、この「Kent」ブランドの製品は、当時非常に売れ行きがよく、商品の量が需要に追いつかないこともたびたびあった。そのため「Kent」ブランドの製品は、当初青山Kentショップ(甲第6号証、甲第9号証及び甲第11号証)のみで販売していたが、その後、直営店であるKAMAKURA KENTができ、銀座8丁目のテーラー・ヤマキさん、東京駅の大丸、銀座松屋と増えていった。初期には宣伝など特にしなかったが、不思議と口コミなどで次第に浸透していった。
その頃の客の中に、菅原文太もおり、菅原自身はモデルの仕事から、映画界に入った頃だったと思うが、近所に住んでいたこともあってか、よく青山KENTショップに遊びに来た。その後になると、高倉健、中村(現・萬屋)錦之介、山本富士子などもみえるようになった。石坂浩二やクレイジーキャッツの犬塚弘も一式を「Kent」ブランドで揃えて、それを着てTVに出たりしていた(甲第7号証等)。
さらに、旧ヴァンヂャケット社は、マーケティング戦略として、灰皿、パブミラー、リストウオッチ等、多岐に渡る数多くのノベルティグッズを提供した。アメリカを感じさせ、アイビーのライフスタイルを提案する、これらのノベルティグッズは、従来のおまけや景品が持っていたイメージも質もはるかに上回り、使うのがもったいなくて大事に保管していた、持っていることが自慢だった、懸賞申し込みが殺到して未だかってない高倍率を記録したなど、当時非常に人気があり、手に入れることが一種のステイタスとなっていた(甲第7号証ないし甲第12号証)。
その後、旧ヴァンヂャケット社は、1978年10月12日に東京地方裁判所の破産宣告を受け、1984年2月15日に破産が終結して同法人としては現在既に解散している(甲第13号証)。
しかし、破産宣告を受けた後でも法人が正式に解散するまでは、たとえその所有する財産の管理が破産管財人の管理下にあるとはいえ、破産管財人の許可を受ければ当該財産に依拠する活動は可能であり、現に1979年から同社の元社員で構成されたPX組合によって元の直営店や自己資金で開設した小売店で残っていた在庫品の販売が継続されていた(甲第11号証)。
旧ヴァンヂャケット社の清算終了前の1980年12月3日に、現ヴァンヂャケット社が設立され(甲第14号証)、旧ヴァンヂャケット社の保有していた知的財産権の全てを譲り受けた(甲第15号証)。当時の設立者にはもちろん旧ヴァンヂャケット社の役員も名を連ねていた。現ヴァンヂャケット社設立後は、上述した青山Kentショップ、名古屋ヴァンショップ、大阪のヴァンガーズ等で「Kent」ブランドの製品を販売するとともに(甲第11号証)、カタログを配布し(甲第16号証及び甲第17号証)、また、雑誌で「Kent」ブランドの製品の紹介もなされていた。
そして、1983年6月10日に現ヴァンヂャケット社から新たに設立された株式会社ケント(以下「ケント社」という。)に引用商標1の使用権を与え、同社に「Kent」ブランドの製品の販売を委託することとした。ケント社は、「Kent」ブランドの製品を上述した青山Kentショップ等で販売し、定期的に雑誌等に「Kent」ブランドそのものの広告や「Kent」ブランドの製品の広告を掲載していた(甲第7号証、甲第18号証ないし甲第48号証等)。また、1年に2回、6ヶ月ごとに「Kent」ブランドの製品のカタログを作成し、それを青山Kentショップ等に来店した客等に配布していた(甲第49号証ないし甲第58号証)。更に、「Kent」ブランドの製品の売上向上のため、製品を購入した客にノベルティグッズをあげていた(甲第59号証ないし甲第61号証)。
その後、現ヴァンヂャケット社は、1997年3月24日にケント社を吸収合併し、再び現ヴァンヂャケット社で、「Kent」ブランドの製品を販売することとした。現ヴァンヂャケット社も、「Kent」ブランドの製品を上述した青山Kentショップ等で販売し、定期的に雑誌等に「Kent」ブランドそのものの広告や「Kent」ブランドの製品の広告を掲載していた(甲第62号証ないし甲第68号証)。
また、現ヴァンヂャケット社も1年に2回、6ヶ月ごとに「Kent」ブランドの製品のカタログを作成し、それをKentショップ等に来店した客等に配布していた(甲第69号証及び甲第70号証等)。
そして、近年(2000年?)も「Kent」ブランドの製品の販売が現実に行われ、それが継続している。具体的に示すと、甲第71号証として、現ヴァンヂャケット社の「Kent」ブランドの製品の売上表(1999年8月?2006年7月)を添付した。それによると、例えば、1999年10月の売り上げは、81,765,000円、2001年3月の売り上げは、22,182,000円、2002年3月の売り上げは、6,628,000円、2003年3月の売り上げは、3,995,000円、2004年3月の売上げは、4,167,000円、2005年1月の売り上げは、2,550,000円、2006年4月の売り上げは、1,800,000円である。
(オ)ところで、現ヴァンヂャケット社は、登録商標「KENT」(登録第653109号、以後、引用商標2という。甲第72号証の1)、登録商標「ケント/KENT」(登録第836101号、以後、引用商標3という。甲第72号証の2)、登録商標「ケント」(登録第3031467号、以後、引用商標4という。甲第72号証の3)の商標権者であったが、これらの商標権は平成17年2月25日に株式会社ケントジャパンに移転された(甲第73号証の1ないし3)。また、株式会社ケントジャパンは、商標「Kent」(登録第5037926号、以後、引用商標5という。甲第74号証の1及び2)及び商標「Kent/IN/TRADITION」(登録第5213723号、以後、引用商標6という。甲第75号証の1及び2)を出願し、それぞれ登録を受けた。現在、引用商標2ないし6については全て、請求人であるケントジャパン株式会社が商標権者である。同社は、平成21年8月にビイエムプランニング株式会社が株式会社ケントジャパンを吸収合併し、ビイエムプランニング株式会社をケントジャパン株式会社に名義変更してできた会社である。なお、平成21年8月以前は、ビイエムプランニング株式会社と株式会社ケントジャパンの2つ会社が併存していたが、実質的には同じ会社である。
(カ)総合スーパーマーケットのイトーヨーカ堂は、ビイエムプランニング社(現ケントジャパン株式会社)と契約し、2001年2月から肌着やスーツといった男性用の被服等について「Kent」ブランドを使用している(甲第5号証の4)。詳しく述べると(甲第76号証の1及び2)、2001年度のイトーヨーカ堂の「Kent」ブランドの製品の仕入れ枚数は381,461枚で、小売価格金額1,617,897,500円(仕入れ原価=647,159,000円から原価率を40%とみなして算出。以下同じ。)、同じく2002年度の仕入れ枚数は590,105枚で、小売価格金額2,096,462,500円(仕入れ原価=838,585,000円)、2003年度の仕入れ枚数は576,042枚で、小売価格金額1,761,268,750円(仕入れ原価=704,507,500円)、2004年度の仕入れ枚数は1,360,947枚で、小売価格金額5,861,828,750円(仕入れ原価=2,344,731,500円)、2005年度の仕入れ枚数は1,795,186枚で、小売価格金額7,538,287,500円(仕入れ原価=3,015,315,000円)、2007年度の仕入れ枚数は323,941枚で、小売価格金額1,037,522,500円(仕入れ原価=415,009,000円)、2008年度の仕入れ枚数は832,087枚で、小売価格金額2,147,410,000円(仕入れ原価=858,964,000円)、2009年度の仕入れ枚数は、1,118,951枚で(2009年8月現在)、小売価格金額3,750,000,000円(仕入れ原価=1,500,000,000円、2009年8月までの9ヵ月の実績から算出。)である。つまり、イトーヨーカ堂では、「Kent」ブランドの製品について各年で平均約12億枚、約32億円の売り上げがあるということである。
(キ)なお、甲第76号証の3ないし5は、各月の「Kent」ブランドの製品の売り上げの詳細を示す資料で、甲第76号証の3は、2007年の11月、甲第76号証の4は、2008年の11月、甲第76号証の5は、2009年の6月の資料である。例えば、甲第76号証の2及び甲第76号証の5に示すように2009年6月分の仕入れ原価は、121,314,000円であり、この数字は、全国のイトーヨーカ堂の約140の店舗のうち(甲第76号証の6)、約120の店舗で販売されたジャケット、スーツ、ポロシャツ等の紳土用衣料の仕入れ原価56,681,000円と、全国のイトーヨーカ堂の店舗のうち、約82の店舗で販売された婦人衣料の仕入れ原価4,111,000円と、全国のイトーヨーカ堂の店舗のうち、約120の店舗で販売されたソックスやトランクス等の肌着の仕入れ原価6,245,000円と、全国のイトーヨーカ堂の店舗のうち、約120の店舗で販売されたハンカチや財布等の紳士服飾の仕入れ原価21,921,000円と、全国のイトーヨーカ堂の店舗のうち、約38の店舗で「Kent」ブランドの製品を一角に集めてコーナー販売を行った「紳士ケントショップ」の仕入れ原価32,356,000円とを合計したものである。この仕入れ原価の合計額を小売価格金額の40%とみなして、上記の小売価格金額を算出している(甲第76号証の1)。
(ク)一方、イトーヨーカ堂では、2002年の秋物から「Kent」ブランドのスーツを登場させて、洋品・重衣料フルラインに扱い服種を広げた(甲第79号証)。また、2004年から新企画として撥水性の高い「ナノテク衣料」、オーダースーツを5日間で仕立てる「マイスーツ5日間仕立て」、「まじめに・ていねいに・しっかりつくるメード・イン・ジャパン企画」を打ち出し(甲第77号証)、「ナノテク衣料」には、「Kent」ブランドのジャケットや綿パンツやシャツ等も含まれている(甲第78号証)。また、「マイスーツ5日間仕立て」対象のブランドには「Kent」ブランドも含まれている(甲第77号証)。更に「まじめに・ていねいに・しっかりつくるメード・イン・ジャパン企画」では、綿織物の産地として有名な兵庫県の西脇で「Kent」ブランドのシャツを製造している(甲第80号証)。
(ケ)また、イトーヨーカ堂は「Kent」ブランドを「VAN・JUN」世代=団塊世代をターゲットにしたトラディショナル最重要ブランドと位置づけており、2004年秋冬から、素材変更などでグレード感を上げ、価格を「量販店ゾーン」よりも上に明確に据え直し、売り方も専任販売員を付けて対面販売に移行した(甲第81号証及び甲第82号証)。このようなイトーヨーカ堂における「Kent」ブランドの男性用の被服等の販売は、例えば水曜日と金曜日の週2回、定期的に折り込みちらしを、全国各地にあるイトーヨーカ堂の約140店舗(甲第76号証の6)の近隣の住民に配って宣伝を精力的に行ったこともあり(甲第83号証の1ないし3)好調で、「Kent」ブランドのトランクスが週に4000?5000枚売れており(2005年1月6日現在、甲第84号証)、「Kent」ブランドの商品の売上高が今期は前期比3割増しのペース(甲第85号証の2005年5月27日時点)であった。なお、2006年は、イトーヨー力堂のプライベートブランドの見直しに伴い、取り扱いを中止していたが、再開を望む声が強く、2007年春に販売が再開された(甲第86号証及び甲第87号証)。また、2007年から2009年8月には、イトーヨー力堂の約40の店舗で、「Kent」ブランドの製品を一角に集めて「紳士ケントショップ」としてコーナー販売を行っていた(甲第76号証の3ないし5)。そして、2009年9月以降は、より「Kent」ブランドの製品の販売を強化するために、コーナー販売をやめ、「Kent」ブランドの製品を、製品の種類毎になっているそれぞれの売り場に分散させて、平場で販売している。また定期的に折り込みちらしを、全国各地にあるイトーヨーカ堂の約140店舗の近隣の住民に配って宣伝も継続しており(甲第88号証の1及び2)、例えば2009年10月21日(水)には、イトーヨーカ堂全体で、1000万部のちらしを配った。
(コ)このように近年においても、「Kent」ブランドの製品がイトーヨーカ堂でよく売れているのは、「Kent」というブランドの名称を、特にいわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちが明確に覚えており、英国的でトラディショナルといった「Kent」ブランドの独自のイメージを明確に有している証拠である。イトーヨーカ堂も「Kent」ブランドが男性用の被服等の分野において、2001年の時点で周知・著名であると判断したため、ビイエムプランニング社から「Kent」ブランドの使用許諾を受ける気になったものと思われる。
したがって、現在まで引用商標1の周知性・著名性は維持されており、全国各地にあるイトーヨーカ堂の店舗のうち、約120の店舗で「Kent」ブランドの製品が広告・販売され、イトーヨーカ堂全体で「Kent」ブランドの製品について年間約32億円の売り上げがあることから考えると、引用商標1の周知・著名性は、日々一層拡大されている。
イ 被請求人の故意について
(ア)以前から被請求人は、旧ヴァンヂャケット社から引用商標1を付した「Kent」ブランドの製品の供給を受け、看板に「Mr.Shop Kent」を掲げた自己の販売店で「Kent」ブランドの製品を販売していた。1978年に旧ヴァンヂャケット社が倒産した後は、自ら調達した製品に商標「Mr.Shop Kent」を付して販売していた。その後、現ヴァンヂャケット社から登録商標「Mr.Shop Kent」(登録2491313号)及び「Mr.Shop Kent」(登録2491314号)を含めた多くの商標権を譲り受けたビイエムプランニング社は、被請求人に対して、2004年12月25日まで前記登録商標「Mr.Shop Kent」及び「Mr.Shop Kent」の通常実施権を許諾していた。
(イ)ところが、2004年6月に総合デパートの伊勢丹の浦和店が配布している伊勢丹通信から、伊勢丹の7店舗で被請求人が商標「Mr.Shop Kent」を付したネクタイ及びシャツ等を販売しているが、その際の商標を「Mr.Shop」の部分と「Kent」の部分に分けて2段書きとし、下段の「Kent」の部分を大きく太字にした、「Kent」の部分を強調した態様で使用していることが分かった(甲第89号証)。これに対し、ビイエムプランニング社は、「このような態様での使用は、自己の商標である引用商標2等の侵害であり、また、このような態様で『Mr.Shop Kent』(登録2491313号)を使用することは許諾している通常実施権の範囲でも認めていない。」と被請求人に警告した。その後、両者の話合いの結果、ビイエムプランニング社は、被請求人に対し、登録商標「Mr.Shop Kent」(登録2491313号)及び「Mr.Shop Kent」(登録2491314号)の通常実施権契約を、2004年12月25日に終了させる旨を通告した。
(ウ)また、2004年7月に被請求人の熊本県の店舗で、店の看板に「Kent/Family」と2段書きにし、「Kent」の部分を大きく太字にして、「Kent」の部分を強調した態様で使用されているのが分かった。また、店の陳列棚では、横に一連の態様で使用されているが、「Kent」の部分が大きく太字になっており、「Kent」の部分を強調した態様で使用されていた(甲第90号証の1)。なお、被請求人は、指定商品が「被服」等の登録商標「Kent Family」(登録第4766118号)を有しているが、この商標は「Kent Family」と横に一連の態様である(甲第90号証の2)。これに対し、ビイエムプランニング社(現、ケントジャパン株式会社)は、「このような態様での使用は、自己の商標である引用商標2等の侵害である。」と被請求人に警告し、その結果、被請求人は、このような態様での使用を中止した。
(エ)また、2006年3月に茨城県の大洗のリゾートアウトレットモール内の被請求人の店舗で、店の看板に「Kent/Family」と2段書きにし、「Kent」の部分を大きく太字にして、「Kent」の部分を強調した態様で使用されているのが分かった(甲第91号証)。また、店の陳列棚では、横に一連の態様で使用されているが、「Kent」の部分が大きく太字になっており、「Kent」の部分を強調した態様で使用されていた。これに対し、ビイエムプランニング社は、前記(ウ)同様、被請求人に警告し、その結果、被請求人は、このような態様での使用を中止した。
(オ)また、2007年3月に東京都大手町の被請求人の店舗で、店の看板、下げ札、包装紙、製品陳列用ハンガー、レシート、接着テープに商標「Mr.Shop Kent」を使用していることが分かった(甲第92号証の1及び2)。「Kent」の部分が大きく太字になっており、「Kent」の部分のみを強調した態様で使用されていた。これに対し、ビイエムプランニング社は、前記(ウ)同様、被請求人に警告し、その結果、被請求人は、商標「Mr.Shop Kent」の使用を中止した。
(カ)さらに、上述したように、被請求人は、イオンレイクタウン、大手町ビル等の7つの店舗で「Kent Ave.」の看板を掲げ、シャツ等の「Kent Ave.」ブランドの製品を販売しているが、札幌の地下街「オーロラタウン・ポールタウン」にある被請求人の「Kent Ave.」の店舗のホームページを参照すると、当該店舗の店頭に、「Kent」の部分のみが太字で強調された「Mr.SHOP Kent」の看板が掲げられているのが分かる(甲第93号証の1)。また、横浜の元町にある被請求人の「Kent Ave.」の店舗のホームページを参照すると、「ブランドストーリー」として「かつて60年代から70年代にかけて若者達の間で流行したアイビーファッション。その牽引ブランドであったVANからケントは生まれました。カジュアルブランドであったVANとは対照的に、ドレッシーな洋服を販売するショップとしてのスタートだったのです。そして1972年、“Mr.SHOP Kent”がスタート。」との説明が掲載され、あたかも、新旧ヴァンヂャケット社と組織的に又は経済的に関連性を有する者が、「Kent」ブランドの製品を販売しているかのような印象を与えている(第93号証の2)。また、福岡県のアウトレットモール「マリノアシティ福岡」の被請求人の「Kent Family」の店舗のホームページを参照すると、「Kent」の部分が太字で強調された「Kent Family」の語が表示されている(第93号証の3)。また、前述した茨城県の大洗のリゾートアウトレットモール内の被請求人の「Kent Family」の店舗のホームページを参照すると、「Kent」の部分が太字で強調された「Kent Family」の語が表示されている(第93号証の4)。
(キ)これら、請求人の再三の抗議に関わらず、被請求人が「Kent」の部分を強調した態様で商標の使用を繰り返していたこと、及び現在も繰り返していることは、もちろん過失ではなく、明確な意思のもとに、故意で行われている。これは、被請求人こそが引用商標1の著名性を最も認識している証拠であり、被請求人は引用商標1の周知・著名性を十分認識した上で、その顧客吸引力を利用して、その顧客吸引力にただ乗りして、自已に有利な業務を展開しようとしているのである。このことは、上述した第93号証の2の「ブランドストーリー」の記載を参照すれば、より一層明らかなことである。
(ク)したがって、上述した被請求人の本件商標の使用態様、つまり「Kent Ave.」の語を、引用商標1の字体に非常によく似た字体に変更した態様での使用はもちろん、被請求人が引用商標1の著名性にただ乗りする目的で、明確な意図を持って故意に行っていることである。
ウ まとめ
(ア)被請求人は、イオンレイクタウン等の店舗で「Kent Ave.」の看板を掲げ、シャツ等の「Kent Ave.」ブランドの製品を販売している。そして、本件使用商標は、被請求人の本件商標の構成とは異なり、下段のアルファベットの「Kent Ave.」の部分のみを抜き出して、更に、その字体を引用商標1の字体と非常に似通った字体に変更して使用している。この使用は本件商標のいわゆる類似範囲の使用に該当する。
(イ)一方、引用商標1は、長年、新旧ヴァンヂャケット社に使用され、また、2001年からは、イトーヨーカ堂で大々的に使用されている。したがって、引用商標1の周知性・著名性は維持されるだけでなく、日々拡大している。
そのため、上述したような態様での本件商標の使用は、引用商標1を付した商品と出所の混同を生じている。
「コムサ・デ・モード」と「コムサ・イズム」、「ポロ・バイ・ラルフローレン」と「ポロ・スポーツ」等、多くの企業が、商標の主要部(例えば、コムサ)を残して、一部を変えた商標の姉妹ブランドを立ち上げている近年の状況を鑑みると、「Kent」の語を含み、特に字体を引用商標1と非常に似通わせて使用している「Kent Ave.」の語を見たり聞いたりした者が、「Kent」ブランドの姉妹ブランドの製品であると誤認して、出所の混同を生じることは、想像に難くない。実際に、被服等の製品を取り扱う業者から、イオンレイクタウン等の被請求人の店舗で販売されている製品は、「Kent」ブランドの姉妹ブランドである旨の問い合わせが請求人のもとに多数寄せられている。
したがって、商標法第51条1項の不正使用取消審判の要件を満たしている。

2 答弁に対する弁駁
(1)乙第1号証の1ないし17で示されている審決は全て、商標法第50条において、登録商標の使用に該当するか否かということであり、同第50条においては、社会通念上同一と認められる商標の使用は、登録商標の使用とみなされるということが是認されているということである。つまり、工業所有権法逐条解説でも示されているように、他の規定における「登録商標」についてまで一律にその範囲を拡大させる一般的規定ではない(甲第94号証)。したがって、本審判で対象となっている商標法第51条において、第50条の場合を根拠に、本件使用商標と本件商標は社会通念上同一の商標であるという主張は、失当である。本件使用商標と本件商標とは、アルファベット部分の書体も明らかに異なり、さらに、本件使用商標はカタカナ文字を併記していないため、本件使用商標は本件商標の類似商標である。
(2)また、被請求人は、本件使用商標は引用商標1とは非類似であると述べているが、請求人が問題にしているのは、被請求人が、本件商標の二段書きの構成から、下段のアルファベットの「Kent Ave.」の部分のみを抜き出し、書体を引用商標1と同一の書体に変更して使用している点である。つまり、被請求人は、本件商標の商標権の類似範囲内で、引用商標1の構成にできるだけ近づくように、本件商標の構成を変更して使用しているのである。数多くある書体の中から、わざわざ引用商標1と同一の書体を選んで使用しているということが、その証左である。過去に「Kent」ブランドの商品を販売したこともあり、引用商標1の存在を重々了解している被請求人が、引用商標1を付した商品と、自己の商品との出所の混同を生じさせたくないという意識があれば、通常は、そもそも全く別の語・構成からなる商標を選択するであろうし、また書体も引用商標1とは異なるものを選択するはずである。
(3)また、「Kent」ブランドの商品のイトーヨーカ堂の取扱高について、審判請求書では2006年には取り扱いがないと述べたが、それは誤りで、2006年度のイトーヨーカ堂の「Kent」ブランド製品の仕入れ枚数は、422,403枚で、小売価格金額1,037,835,000円(仕入れ原価=415,134,000円から原価率を40%とみなして算出)である(甲第95号証の1)。2006年の1年間は、イトーヨーカ堂の各店舗にコーナーを設ける等の積極的な展開はなされなかったが、商品の販売が継続されており、完全に販売が中止されたのは、2006年11月の1ヵ月のみである。
(4)さらに、2009年度の「Kent」ブランドの商品のイトーヨーカ堂の取扱高について、審判請求書の提出の時点では2009年8月までの9ヵ月の実績を述べたが、年度を通じた数字は、「Kent」ブランド製品の仕入れ枚数は1,605,691枚で、小売価格金額4,014,047,500円(仕入れ原価=1,605,619,000円から原価率を40%とみなして算出)である(甲第95号証の2)。したがって、甲第76号証の1は、甲第96号証の内容に訂正する。
(5)被請求人は、商標「Mr.Shop Kent」等を使用するに当たり、「Mr.Shop」の部分と「Kent」の部分とを分けた態様で商標を使用していたこと等は、本件使用商標とは別の商標であって、本件審判と関係がない、また、商標「KentFamily」を「Kent/Family」と2段書きにし、「Kent」の部分を大きく太字にして「Kent」の部分を強調した態様で使用していたこと等は、本件使用商標とは別の商標であって、本件審判と関係がないと述べている。しかし、請求人が主張したいのは、請求人の再三の抗議に関わらず、被請求人が「Kent」の部分を強調した態様で商標の使用を繰り返していたこと及び現在も繰り返していることは、もちろん過失ではなく、明確な意思のもとに、故意に行われているということである。これは、被請求人こそが引用商標1の著名性を最も認識している証拠であり、被請求人は引用商標1の周知・著名性を十分認識した上で、その顧客吸引力を利用して、その顧客吸引力にただ乗りして、自己に有利な業務を展開しようとしているのである。
(6)それを証拠に、被請求人は、乙第11号証の2及び乙第11号証の3を示して、記載内容を変更した又は現時点では表示は、被請求人の登録商標と同態様になっていると述べているが、甲第97号証の1に示すとおり、「ブランドストーリー」の記載は、請求人が指摘した従前の内容に戻されており、また、福岡県のアウトレットモール「マリノアシティ福岡」の被請求人の「Kent Family」の店舗のホームページを参照すると、甲第97号証の2に示すとおり、請求人が指摘した従前の内容に戻されている。
(7)また、被請求人の本件使用商標の使用によって、引用商標1を付した商品との出所の混同が生じており、実際に、被服等の製品を取り扱う業者から、イオンレイクタウン等の被請求人の店舗で販売されている製品は、「Kent」ブランドの姉妹ブランドである旨の問い合わせが請求人のもとに多数寄せられている。そこで、被服等の製品を取り扱う5社の業者に、引用商標1と、本件使用商標とを上下に二つ並べた書面を見せた結果、引用商標1は、服飾業界で従来から周知著名である旨、本件使用商標は、その書体が引用商標1と略同一であることから引用商標1の所有者から許可を得て使用しているものと思われる旨の回答が得られた(甲第98号証1ないし5)。さらに、甲第99号証に示すとおり、イトーヨーカ堂で引用商標1の「Kent」ブランドの商品を購入している一般消費者も、「Kent Ave.」の看板を掲げたショップやそのショップで販売されている商品を見て「Kent」ブランドと何らかの関連性があると考えている。
(8)これらは、引用商標1が、服飾業界で従来から周知著名であり、本件使用商標の書体が引用商標1と同一であるため、本件使用商標が商品等に付されていることにより、本件使用商標を見た取り扱い業者や一般消費者等に、引用商標1の所有者と経済的に又は組織的に何らかの関連性を有する者が使用しているとの出所の混同が生じることを明確に示している。

3 平成22年4月20日付け上申書
現在も宣伝を継続していることについての証拠を補完する。
甲第100号証の1は、2010年4月3日(土)?6日(火)を売り出し期間とし、4月3日(土)に配布されたイトーヨーカ堂のちらしであり、甲100号証の2ないし12は、同チラシをイトーヨーカ堂の各店舗のホームページからプリントアウトした書面である。これらのチラシ等は、「Kent」ブランドの製品が各広告実施店で販売されていることを示すものであり、甲100号証の1ないし12を合わせると、広告実施店は全国各地の142店舗となる。
甲第101号証の1は、2010年4月7日(水)?11日(日)を売り出し期間とし、4月7日(水)に配布されたイトーヨーカ堂のちらしであり、甲101号証の2ないし9は、同チラシをイトーヨーカ堂の各店舗のホームページからプリントアウトした書面である。これらのチラシ等は、「ベストパーカー」等の「Kent」ブランドの製品が各広告実施店で販売されていることを示すものであり、甲101号証の1ないし9を合わせると、広告実施店は全国各地の116店舗となる。
したがって、現在まで引用商標1の周知性・著名性は維持され、日々一層拡大されている。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求人主張の取消理由
請求人の主張する取消理由は、商標権者(被請求人)が、故意に指定商品についての本件商標に類似する商標の使用を継続し、他人(請求人)の業務に係る商品と混同を生ずるものをしているというものである(商標法第51条第1項)。
そこで、請求人の主張に基づき、以下のとおり答弁する。

2 「取消事由」に記載された被請求人の本件使用商標は、そもそも、引用商標1とは類似しない。
(1)本件商標が片仮名の「ケントアヴェニュー」と欧文字の「Kent Ave.」とを二段に横書きに構成してなる商標であること、及び、被請求人が本件使用商標を使用していることは認める。しかし、本件使用商標は、本件商標と、社会通念上同一の商標であり、かかる判断は、多数の審決でも繰り返し是認されている(乙1号証の1ないし17)。因みに、乙1号証の17の審判は、KENT商標に係るものであるが、この事件の被請求人(本件審判の請求人)は、「本件商標は、カタカナ文字『ケント』と欧文字『KENT』とを二段横書きに構成しているが、使用商標が欧文字『Kent』の一行であっても、登録商標の同一性の範囲に十分入るものであるから、被請求人の使用している商標『Kent』は本件商標の使用と認められるものである。」と主張したのに対して、審判合議体もこれを容れて、片仮名と欧文字の二段に構成された商標中の、欧文字部分の語の使用をもって、登録商標と「社会通念上同一」の商標の使用と認めている。このように、請求人自らも自認し、審決においても認められている、本件商標と社会通念上同一と認められる商標(本件使用商標)の使用行為を、本件では、社会通念上同一と認められる商標ではなく「類似する商品」の使用であるとして、本件商標を取り消すべき理由とする請求人の主張は失当である。
(2)仮に、本件使用商標が本件商標の類似商標であるとしても、そもそも、本件使用商標は引用商標1とは非類似であるから、それぞれの商標を付した商品相互で出所の混同が生じることもない。すなわち、
ア 「KENT」の語を構成中に含む商標は、現在登録されているもののみに限っても171件を数え(乙第2号証の1)、この内、洋服のみに限っても66件並存登録されている(乙第2号証の2)。このように多数の「KENT」の語を含む商標が並存登録されている事実は、「KENT」の語の識別性が極めて低いことの証左である。これらの登録商標は、「KENT」の語の部分で相互に識別されているのではなく、その余の語、又は、全体を一体として、相互に識別される。したがって、「KENT」単独の語からなる商標と、「KENT○○」といった構成の商標とも、相互に容易に識別できる。その結果、上記のように、「KENT」の語を共通にする、多数の商標が並存登録されていると考えられる。
イ 「KENT」の語から欧米の男子の名又は「英国のケント州」の観念が生じることは、商標権者も自認し、特許庁及び裁判所においても認められている(乙第3号証の1ないし6)。換言すれば、引用商標1は、ありふれた名又は地名を表示する商標であって、登録適格性を欠き、仮に、登録されているという事実を前提にしたとしても、その類似範囲は狭く解するべきである。一方、本件使用商標は、音数わずか6音で、「ケントアヴェニュー」という一連の称呼が生じる。また、「Ave.」の語が「通り」を表す語であることも一般的に知られているから、本件使用商標からは、「ケント通り」の観念が生じる。したがって、本件使用商標と引用商標1とは、外観が異なることはもとより、称呼及び観念も全く異なる非類似商標である。
ウ 従前の審決・判決等においても、引用商標1と被請求人の保有する「Docter Kent」、「Kent Family」等の商標とは非類似と判断されている(乙第3号証の1、2、及び5)。その結果、「KENT」の語を共通にする商標は、指定商品を「被服」に限定しても、66件も並存して登録されている(乙第2号証の2)。
エ したがって、「Kent」の語を共通にすることのみをもって、直ちに、本件使用商標を、「本件商標の指定商品に使用していることによって、請求人の甲第5号証の1に掲げる商標『Kent』・・を付した商品と混同が生じている」という請求人の主張(取消原因)には合理的な理由が全くない。なお、「混同が生じている」とは、現にかかる状態が生じているとの主張のようであるが、何らの証拠も提出されていない。
上記のとおり、本件使用商標は、本件商標と実質的に同一の商標の使用であって、本件使用商標の使用行為を本件審判の対象とすること自体が失当である。仮に、本件使用商標を、本件商標の類似商標であるとしても、本件使用商標と引用商標1とは相互に非類似であるし、出所の混同も生じていない。したがって、その余について検討をするまでもなく、本件使用商標の使用行為は、商標法第51条第1項の要件にあたらない。
(3)引用商標の周知・著名性は、従来の決定、審決、及び、判決で繰り返し明確に否定されており、この点でも、請求人の主張には理由がない
請求人は、「引用商標1の周知・著名性について」縷々主張するが、これらの主張は極めて不正確なものであり、また、従来の決定、審決、及び、判決によって明確に否定されているものが殆どである。証拠についても、従前の審理に使用されたものと殆ど同一であるが、「請求の理由の(2)取消原因」の記載順に従って(たとえば、「請求人の主張(2)ア(ア)」等と表記する。)、答弁する。
ア 請求人の主張(2)ア(ア)について
請求人は、2001年からイトーヨーカ堂が引用商標1を付した商品を独占的に発売する記事が記載されたことをもって、引用商標1が「極めて著名」であると主張する。
しかし、そもそも、甲第5号証の2ないし4のみをもって引用商標1が「極めて著名」であることの理由にはならない。この点は、下記のとおり、引用商標1を含む請求人の保有商標に関する、過去の審決及び判決において明らかになっている。これらの審決・判決では、引用商標1も含めて、「極めて著名」とは認められず、その周知性も全く認められていない。
(ア)乙第3号証の1及び2の異議申立事件においては、引用商標1は、「Kent製品の取扱い状況や販売実績等を総合して判断すれば、引用使用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時(2004年;被請求人記載)において、取引者、需要者間において、なお広く知られるに至っている状況にあったとは、俄にこれを認めることができない。」と決定されている。
(イ)乙第3号証の3の異議申立事件においては、引用商標1は、「本件商標の登録出願時を経て登録査定時(平成17年(2005年)2月21日)に至るまでは、継続して使用されていたことを推認し得る程度のものであることから、使用商標が、1980年後半から継続使用されていたとは直接的に認められないし、その著名性も1980年後半より本件商標の登録出願時を経て登録査定時に至るまで継続していたということもできない。また、このことは、申立人の提出に係る他の甲各号証を総合しても同様であり、他に申立人の前記主張を認め得る証拠はない。」と説示されている。
(ウ)乙第3号証の4の審判事件では、引用商標1等は、「1963年(昭和38年)に立ち上げられた『Kent』商標は、1977年当時においても、また、その後、本件商標の登録出願時までの期間(2000年;被請求人記載)においても周知・著名性を獲得していたものとは認めらない。」と説示されている。
(エ)乙第3号証の5の訴訟事件では、引用商標1等は、「平成10年ころ以降は『Kent商標』独自の雑誌等への広告記事やカタログ作成もされた形跡がないこと、9000件程度の日本の被服ブランドが掲載されている平成14年版の書籍等にも『Kent商標』の記載がないこと、一方、現在では『Kent』の文字部分を含む27件の他社の登録商標が存在していること等を総合すれば、本件商標の出願時において、『Kent商標』は、広く知られた商標であると認めることはでき(ない)」と説示されている。
(オ)乙第3号証の6の訴訟では、「平成13年以降、イトーヨーカ堂が、・・・『Kent』ブランドの製品を販売し、相応の売上げがあることが認められるが、総合スーパーマーケットであるイトーヨーカ堂の規模等から推測される被服等の売上げの全体額との対比、イトーヨーカ堂のナショナルプライペートブランドとしての信頼感に基づく販売促進効果があることなどを考えると、・・・平成13年以降本件商標の登録査定時である平成17年2月21日までに周知著名性を獲得していたとも、直ちにいえるものではない。・・・イトーヨーカ堂が、本件商標の登録査定時である平成17年2月21日までの期間に、新聞折込みチラシにおいて『ケント』や『Kent』の表示を付した商品を掲載しているが、同表示は、チラシ中の多数の掲載商品の中の一部の商品について小さく記載されているものにすぎず、これらの記載によって、本件商標の登録査定時(2005年;被請求人記載)までに引用商標1の周知著名性が獲得されたとは考え難い。」と判示されている。
以上のとおり、引用商標1の周知性は、過去繰り返し否定されていおり、本件についても、これらの事件において判断された証拠とは殆ど同様であるから、上記事件と別異の判断がなされる余地はない。
イ 請求人の主張(2)ア(イ)について
請求人は、本件使用商標の構成、及び、引用商標1の周知・著名等を理由に、本件使用商標を使用すると、請求人又はイトーヨーカ堂の業務に係る商品等と誤認すると主張する。
しかしながら、上述のとおり、引用商標1の周知・著名性は否定されており、本件使用商標と引用商標1が非類似であることも、上記審決・判決等に鑑みて明らかと考えられる。
現実的にも、「KENT BROS.」、「KENT HOUSE」といった多数の商標が並存登録されており、市場においても、それぞれ使用されているが、これらの登録商標の使用行為が、イトーヨーカ堂の業務に係る商品と混同を生じているとは言えない。
被請求人の保有する「Kent Family」、「Doctor Kent」といった商標も、引用商標1とは非類似として並存登録されており、一方で、引用商標1の周知・著名性は、特許庁や裁判所においても繰り返し否定されているから、本件についても、本件使用商標と引用商標1との類似性や引用商標1の周知・著名性を前提とする主張には理由がない。
ウ 請求人の主張(2)ア(ウ)について
請求人は、引用商標1が、「全国的に極めて著名であったことは・・・一般消費者の間でも顕著な事実である。」と主張する。「全国的に極めて著名であった」時期については判然としないが、それがいずれの時期であっても、引用商標1が「全国的に極めて著名であった」ことはない。
仮にこれが、ブランド立ち上げ当時の1963年を言うのであれば、今から40余年も前の話であり、現時点の引用商標1の周知性に関する証拠にはならない。また、以下のとおり、引用商標1が、近年、「全国的に極めて著名」であるわけでもない。
エ 請求人の主張(2)ア(エ)について
請求人は、引用商標1を付した商品(以下「KENT商品」という。)が「VAN」ブランド商品よりも上位の位置づけとなっていたこと、同商品の売れ行きがよかったこと、そのころKAMAKURA KENT等で同商品の販売が開始されたこと、同商品をタレントが着てTVに出演したこと等から、引用商標1が周知・著名であると主張する。
しかし、これらの主張及び証拠は、周知性の認定には何ら関係のない証拠、極めて古い証拠及び周知性には直接関係のない証拠が殆どであって、考慮に値しない。これらの主張・証拠は、従前の審判・訴訟においても、周知性の証拠として認められていない。
(ア)「Kent商品」の位置づけ
請求人は、KENT商品が、「VAN」商品よりも上位の位置づけであったことを理由に引用商標1が周知・著名性を有すると主張するが、「KENT商品」の主観的位置づけは、引用商標1の周知・著名性とは全く関係がない。
(イ)「当時」の売れ行き
請求人は、「当時」KENT商品の売れ行きがよく、商品の量が需要に追いつかなかったことを理由に、引用商標1が周知・著名であると主張するが、事実に反する。
すなわち、請求人のいう「当時」が1963年のブランド立ち上げ当時を意味するのであれば、「当時」は本件商標の出願時の40年以上も前の話であって、現時点の引用商標1の周知性に関する証拠にはならない。
また、「当時」、商品の量が需要に追いつかなかったのは、商品が好評を博したからではなく、KENT商品の生産が極めて少なかったからにすぎない。この点は、請求人提出の甲第7号証により明らかであり、「当時」の売り上げですらさほどのことはなく、商品の量が需要に追いつかなかったことは特に売れ行きがよかったためではなかった。したがって、「当時」引用商標1が周知であったとは到底言えないし、40年前の事実に基づいて、現在の周知・著名性が「顕著な事実」であるとも到底いえない。
(ウ)KAMAKURA KENT、テーラー・ヤマキ、東京駅大丸、銀座松屋での販売、及び、ロコミでの(ブランド)浸透
請求人は、KAMAKURA KENT、テーラー・ヤマキ、東京駅大丸、銀座松屋でKENT商品が販売されたことで、宣伝は特にしなかったが口コミで(引用商標1が)市場に浸透したと主張する。しかし、かかる事実については、全く証拠が提出されていない。すなわち、「KAMAKURA KENT」、「テーラー・ヤマキ」、「東京駅大丸」、「銀座松屋」等での販売実績については、実態が全く確認できないのであるから、周知・著名性の根拠とはなしえない。被請求人は、異議中立、審判、訴訟の各過程において、これらの事実を証明する証拠の提出を再々主張して来たが、請求人は、これらの証拠を全く提出していないし、本件審判についても同様である。被請求人の平成17年6月時点の調査では、「KAMAKURA KENT」は、遅くとも平成10年には閉鎖されている。現時点においてもその所在は確認できない。「テーラー・ヤマキ」についても、平成17年7月時点の調査でも全く所在を確認できなかった。「東京大丸」及び「銀座松屋」については、KENT商品については、平成17年7月の時点でも、平成19年8月時点でも販売の実態がない。東京大丸についてはブランド・アイテムの検索ページにも掲載されていないし、平成19年8月時点の東京大丸店内の聞き取り調査でもKENT商品が扱われていないことが確認されている。「銀座松屋」においても同様である。数十年前にはあったかも知れない販売実績を、何らの証拠も提出せずに主張しても、現時点の引用商標1の周知性立証資料にはならない。
(エ)菅原文太、高倉健、中村錦之助、山本富士子等のタレントの来店、及び、石坂浩二や犬塚弘のTV出演
請求人は、上記タレントの来店や、上記タレントがKENT商品を着てTVに出演したことを理由に引用商標1が周知・著名性を有すると主張するが、これらのタレントの来店時期は全く不明である。「その頃」が、仮に1963年頃をいうのであれば、これも現時点から40年以上も前の話であり、現時点での引用商標1の周知性に関する証拠にはならない。また、仮にこれらのタレントが青山店に来店したからといって、その一事をもって引用商標1の周知・著名性獲得の証明にはならない。同様に、「その頃」石坂浩二や犬塚弘がKENT商品を着てTVに出演したことと、引用商標1の周知性には直接の関係がない。
(オ)マーケティング戦略としてのノベルティーグッズの配布及び雑誌広告
請求人は、「マーケティング戦略として、灰皿、パブミラー、リストウオッチ等を配布したこと」を理由に引用商標1が周知・著名性を有すると主張する。しかし、仮にかかる事実があったとしても、引用商標1の周知・著名性とは何ら関係がない。すなわち、これらの物品は、いわゆるノベルティーグッズといわれるものであって、本件使用商標の指定商品とは関係がなく、また、それぞれの商品は、実際に販売されたこともあるようであるが、それは引用商標1が、灰皿、パブミラーといった商品に使用されただけであって、その結果としてグッドウイルが形成されたと仮定しても、それはそれぞれの商品についての信用である。本件審判では、被服に使用している本件使用商標が、引用商標1と出所の混同を生じるかが問題となるところ、これと全く関係のない商品に引用商標1がかつて使用されたとしても、本件審判とは直接の関係がない。
さらに、これらのノベルティーグッズの配布に関する時期や数量は必ずしも明らかにされていないので、仮に、これらのノベルティーグッズが配布又は販売された事実があったとしても、引用商標1の周知性に関する証拠にはならない。
また、請求人は、定期的に雑誌等に引用商標1等に関する広告を行っていると主張する。この点、甲第62号証ないし甲第68号証の引用商標又はこれに類似する商標が掲載されていることは認める。しかし、これらの雑誌は、現時点から、10年以上も前のものであって、販売数量も僅少と思われる。かかる雑誌に過去数回広告が掲載されたことをもって、現時点における引用商標1が周知・著名性であるとの証明にはならない。換言すれば、引用商標1については、これ以降の10年以上にわたり、雑誌等への広告活動は全く行われてない。
(カ)旧ヴァンヂャケット社の破産処理とその後の在庫品販売等
請求人は、「旧ヴァンヂャケット社は1984年に破産処理が終結して、その後在庫品を販売したこと、及び、1983年にケント社が引用商標1の使用権を得て、『Kent』商品の広告、カタログ配布、ノベルティーグッズを配布したこと」を理由に引用商標1が周知・著名であると主張する。
この点、ヴァンヂャケット社破産後にその後在庫品を販売したことや、その後、青山Kentショップ、名古屋ヴァンショップ及び大阪ヴァンガーズ等の店が、刊行物に記事掲載されていることは認める。しかし、これらの刊行物はいずれも昭和56年(1981年)に刊行されたものであり、現時点からは30年も前の事実である。原告の提出する広告資料は、極めて古いものや、その実態・発行部数等が不明なものや、本件使用商標を使用している商品とは関係のないものが多く、引用商標1の周知・著名性認定資料としては全く考慮に値しない。
(キ)Kentショップにおけるカタログ配布
甲第69号証及びないし甲第71号証のカタログは、上記刊行物同様、1997年(平成9年)ないし1999年(平成11年)のものに限られ、現時点からは、10年以上も前のものである。換言すれば、同社については、2000年以降は、かかるカタログの配布すら行われていないものと思われる。したがって、10年以上前に3年間、来店者ヘカタログを少量配布したことをもって、引用商標1が広く市場において認知されたり、その結果周知・著名になったとはいえない。
(ク)株式会社ヴァンヂャケットの売上金額
請求人は、1999年8月から2006年7月までの同社の売上金額を提示して、引用商標1の周知・著名性の証拠としている。しかし、これらの実績は5年ないし10年以上も前の実績であって、現時点の情報ではない。また、例えば定点的に見ると、1999年8月には約6800万円、2000年3月には約1200万円、2001年3月には約2200万円という実績であったKENT商品が、2002年3月は約600万円と激減し、2003年の3月には約399万円とさらに減り続け、2006年の3月の売上高は僅か約150万円となっている。この販売推移を一覧すれば明らかなように、KENT商品に関する販売実績は一貫して少なく、かつ、長期に低落している。このため、2000年以降は、積極的な宣伝広告活動も全く行なわなかったものと思われる。また、むしろ重要なのは、直近3ないし5年間の売上高であると考えるが、証拠として提出するのであれば、むしろ、上記2006年以降の売上高を提出するべきである。なお、上記販売実績について検討すると、日本のアパレル市場全体を把握することは困難であるが、例えば、2000年度では概ね9兆6700億円規模と推計されている(乙第4号証)。この資料によれば、上記アパレル市場における紳士アパレルの販売額は2兆8000億円程度と推計されているので、かかる市場規模に比較して、KENT商品の2000年3月時点の売上高約1200万円がいかに少ないかが判る。また、2006年3月の150万円の売上げは、極めて僅少であって、上記実績をもってKENT商標が周知・著名であるとは到底言えない。
オ 請求人の主張(2)ア(オ)について
請求人は、引用商標1に類似する商標の移転経緯等を主張するが、かかる経緯は、引用商標1の周知・著名性には何ら関係がない。
カ 請求人の主張(2)ア(カ)について
請求人は、イトーヨーカ堂での販売実績をもって引用商標1が周知・著名であると主張するが、後述のとおり、引用商標1は市場における周知性を獲得しておらず、ましてや、著名とは到底言えない。また、甲第76号証の1及び2は、請求人が作成したメモであって、裏づけ資料が殆どない。さらに、その数字(金額)も、従来の請求人の主張(乙第5号証及び乙第6号証)に反するものであり、内容に矛盾点もあり、全く信の置けないものと考える。すなわち、乙5号証は、請求人が、引用商標1等に基づいて被請求人に対して請求した商標登録第4766118号無効審判事件の審判請求書であり、乙第6号証は、上記審判の請求が棄却された審決の取消しを求めて請求人が出訴した、平成19年行ケ第10428号の審決取消訴訟における原告準備書面(1)であるが、従前の同様審判及び訴訟において、請求人が主張したKENT商品の販売に関する金額は、今回請求人が主張するKENT商品の販売に関する金額と大きく異なる。また、請求人の主張する金額には、下記のとおり矛盾点も多いので、証拠としての信用性に欠ける。
(ア)KENT商品のイトーヨーカ堂の取扱高(仕入れ金額)について
A 請求人のメモは証拠としての信用性に欠ける。すなわち、審判請求時点の2006年12月及び訴訟時点の2008年3月時点で主張した過去の実績金額が、何らの根拠もなく億円単位で増えている。請求人の原価計算に従うと売価で12億円?15億円も実算金額が増えるのは不自然である。
B 請求人のメモの「小売価格金額」は、「原価率を40%とみなして算出してます。」と付記されている。換言すれば、KENT商品に関しては、イトーヨーカ堂の小売マージンは60%の高額になる。スーパーマーケットにおける量産品の小売マージンとしては、異例の高額であり、経験則にも反する。事実、添付資料中の「紳士ケントショップ 浦和店」の「売金」と「仕原」を見ると、原価率は68%、同藤沢店その他の店舗も同様に68%であり(甲第76号証の3)、「紳士ケントショップ」の合計金額も原価率は68%と一定している(小売マージンは32%)。したがって、スーパーマーケットで販売される日用衣料品の小売マージンが60%もの金額にあるのは、経験則に反するし、算出した金額は過大である。
C イトーヨーカ堂では、「Kentブランドの製品について各年で平均約12億枚、約32億円の売上げがあるということである。」と結論付けられているが、直近3年(2007年ないし2009年)の仕入れ金額平均は、年間9億円強であるから、売価もせいぜい13億円程度と思われる。
(イ)イトーヨーカ堂の販売金額と市場規模について
イトーヨーカ堂と原告の契約内容は全く不明であるが、仮にイトーヨーカ堂を正当な使用権者であるとしても、上記のとおり、その販売金額等については証拠としての信用性に欠ける。
商標の周知性の判断には、当該商標を付した商品がどの程度市場に流通し、どの程度の市場シェアを有するかが重要であるところ、甲第76号証の4に記載されている店舗数は50店前後であり、地域も偏っている。したがって、「全国のイトーヨーカドー・・・約120店舗で」販売されている証拠にはならない。上記のとおり、直近3年のイトーヨーカ堂の仕入れ金額については年平均9億円(ただし、2009年度の15億円は推定金額)であり、仮にこれらの仕入れ商品が1点残らず販売されたと仮定しても、販売総額は最大で年間13億円程度と推定される(しかも、推定金額を全額含めたとしても)。
この程度の数字のみをもって、ワイシャツ、ネクタイ、スポーツシャツ、ベルト、靴等に分散して使用されている引用商標1が、周知・著名とは言えない。この点、例えば、2000年の市場実績データでは、メンズウエアに限っても、業界トップのオンワード樫山が売上高約623億円、業界100位のイグルスでさえ約23億8000万円の販売実績がある(乙第7号証の1)。また、2008年の市場実績データでは、メンズウエアに限っても、業界トップのオンワード樫山が売上高約505億円、業界100位の丹羽幸が10億円であるから、靴やネクタイ等一切を含んだ上記イトーヨーカ堂の仕入金額をもって、引用商標1の周知・著名性を主張するには足りないことが明らかである。
すなわち、KENT商品は、引用商標1が付されていることを理由として売れているのではなく、単に、イトーヨーカ堂で量販されていることが大きな理由と思われる。この点は、イトーヨーカ堂では一定の販売金額があるのに対して、本家である株式会社ヴァンヂャケットの売上げ月商が、2005年及び2006年において、100万円代にとどまっていることを見ても、明らかである。
このため、乙第3号証の6の判決においても、「平成13年以降、イトーヨーカ堂が、『Kent』ブランドの使用許諾を受け、ナショナルプライベートブランドとして『Kent』ブランドの製品を販売し、相応の売上げがあることが認められるが、総合スーパーマーケットであるイトーヨーカ堂の規模等から推測される被服等の売上げの全体額との対比、イトーヨーカ堂のナショナルプライベートブランドとしての信頼感に基づく販売促進効果があることなどを考えると、たとえ、イトーヨーカ堂が、『Kent』ブランドの使用許諾を受けるに当たり、かつての20歳代、30歳代のころにファッション等に関心があった団塊の世代の男性等に対する訴求効果をも考えていたとしても、上記売上げの事実をもって、『Kent』ブランドや引用商標1が、従前から周知著名であったとも、平成13年以降本件商標の登録査定時である平成17年2月21日までに周知著名性を獲得していたとも、直ちにいえるものではない。」と判示されている。この訴訟においては、平成13年時点でも、平成17年の時点でも、引用商標1の周知著名性は認められていない。甲76号証の1によれば、イトーヨーカ堂では、2006年の販売は中止され、2007年には、仕入れ金額で4億円強の取引が再開されたようであるが、それ以前の実績に引き比べても少ない2007年以降の実績をもって、周知著名性が認められる可能性はないと考えられるべきである。
特に、引用商標1については、2000年以降殆ど宣伝広告がなされていないと思われるので、より一層周知・著名性を獲得するのは困難である。
(ウ)引用商標1の市場における認知度について
以上のとおり、引用商標1については、実質的にはイトーヨーカ堂1社の販売実績しかなく、その実績も、業界100位前後であり、かつ、2000年以降、殆ど宣伝広告がなされていない結果、引用商標1は、殆ど市場に認知されていない。むしろ、以下のとおり、近年は、本件使用商標の方が周知になっており、一方で、引用商標1が周知・著名性を獲得していないことも、客観的データから明らかである。
A 乙第8号証の1の「Nissen BRAND DATA 2000」には、約2700件もの被服ブランドが掲載されているにもかかわらず、引用商標1は掲載されていない。
B 乙第8号証の2の「SENKEN FB2002」には、日本における被服ブランドについて、有名・無名に係わらず9000件を超える「ブランドインデックス」が掲示されているが、これにも引用商標1は掲載されていない。
C 乙第8号証の3の「SENKEN FB2007」には、上記同様9000件を越えるブランドインデックスが掲示されているが、これにも引用商標1は掲載されていない。
D 乙第8号証の4の「SENKEN FB2008」にも、引用商標1は、掲載されていない。同誌の「ブランドインデックス」には、「ケント(KENT)」が掲載されているが、これは、イギリスのブラシメーカーとして周知な洋服ブラシの商標であって、引用商標1ではない。また、被請求人の「ケントアヴェニュー(Kent Ave.)」も掲載されているが、引用商標1は掲載されていない。
E 乙第8号証の5の「SENKEN FB2009」についても、上記2008年版と同様である。すなわち、引用商標1は掲載されておらず、洋服ブラシの商標である「ケント(KENT)」と本件使用商標は掲載されている。
これらの事実からしても、引用商標1は殆ど市場に認知されておらず、むしろ、本件使用商標の方が認知度は高いといえる。したがって、引用商標1は、かつて(30年以上以前)も近時(直近10年程度)においても、周知・著名であったことはない。
キ 請求人の主張(2)ア(キ)について
請求人は、イトーヨーカ堂の販売金額の算出根拠等について述べているが、上述のとおり、請求人のメモは証拠としての信用性に欠ける不自然なものであり、「原価率40%」も俄かには信用できない。
ク 請求人の主張(2)ア(ク)について
請求人は、甲第77号証ないし甲第80号証の新聞記事、チラシ類を根拠に引用商標1が周知・著名性を有すると主張するが、周知・著名性獲得の資料としては不足である。すなわち、
(ア)甲第77号証は、2004年(平成16年)3月1日付けの繊研新聞の記事であるが、この記事は、ナノテク衣料が、同日付で販売を開始したことを示すに過ぎず、引用商標1を付した商品との関係が全く証明されていない。新聞記事に関連情報が載った一事をもって、掲載商標の周知性の立証資料にはならない。
(イ)甲第78号証は、イトーヨーカ堂の配布したチラシのようではあるが、各種商品を多数一挙に掲載したチラシに過ぎず、配布数量も不明であるのに加え、小さく付記した「ケント」が、引用商標1の周知性の証拠資料になるとは言えない。
(ウ)甲第79号証は、2002年(平成14年)11月14日付けの繊研新聞の記事であるが、甲第77号証と同様に、周知性の立証資料としては価値がない。
(エ)甲第80号証は、配布時期、配布数量、及び配布地域等一切が不明なチラシである。「2005・6・22 読売新聞」との手書きの記載がなされているが、5年も前のチラシに商品が掲載された一事をもって、現時点の引用商標1の周知性資料とすることはできない。なお、この広告では、「西脇のシャツ」と大書され、引用商標1のブランド価値よりも、「綿織物の産地として有名な兵庫県の西脇」の方により高い価値を認めている。KENT商品は、ほぼイトーヨーカ堂1社で、イトーヨーカ堂の信用力・販売力で売れていると思われるが、上記のとおり、引用商標1を全面に出すような販売方法は採られておらず、その結果、市場の認知度も低い。
以上のとおり、甲第77号証ないし甲第80号証は、周知性立証資料としては、価値がないものであり、かつ、古い記事であるから、現時点の引用商標1の周知性立証資料にならない。この点は、乙第3号証の1ないし6の審決、及び、判決において繰り返し認定されている。
ケ 請求人の主張(2)ア(ケ)について
(ア)甲第81号証は、2004年9月11日付けの繊研新聞の記事であり、2004年秋冬物から「ケント」を「刷新する」旨が記載されている。上記のとおり、2003年度のKent商品の仕入金額は前年度のわずか7%である5,200万円まで落ち込んでいるから、2004年度以降「刷新」が必要になったと思われるが、2006年度にはKENT商品の販売が中止となっている。
(イ)甲第82号証は、イトーヨーカ堂からのメールであることは認めるが、そもそも専任販売員を全国で6店舗に置いたことと、引用商標1の周知・著名性とは何らの関係もない。また、このメールは2005年3月16日に発信されたものであって、既に6年を経過しており、引用商標1の周知性の立証資料としては価値が無い。
(ウ)甲第83号証の1ないし3は、いずれも2004年5月から6月にかけて、配布されたチラシのようではあるが、KENT商品の専用チラシではなく各種商品を多数一挙に掲載したものである。配布数量も不明であり、配布時期から6年も経過したものであるから、現時点の引用商標1の周知性立証資料にならない。請求人は、「例えば水曜日と金曜日の週2回、定期的に折り込みちらしを、全国各地にあるイトーヨーカ堂の約140店舗の近隣の住民に配って宣伝を精力的に行った」と主張する。しかし、それほど、精力的に配布したのであれば、チラシ3枚のみ資料として提出するのではなく、格段に入手しやすい、直近1ないし2年のチラシを証拠として提出するべきである。また、「全国各地にあるイトーヨーカ堂140店舗」という記載には矛盾がある。すなわち、甲第76号証の6の資料は、単に、イトーヨーカ堂が、いずれかの時期において、資料記載の店舗を有していたということを証明するに過ぎず、ここに記載の全店舗が「水曜日と金曜日の週2回」チラシを配布した証拠にはならない。また、甲第81号証には、2004年の「秋から『ケント』刷新」のために、「今期中100店に広げる」との目標が掲げられているのであるから、2004年時点では、KENT商品を扱うイトーヨーカ堂店舗は100店以下であったことが明らかであるから、それ以前の5月ないし6月時点において、チラシを全国約140店舗で配布することは不可能である。
これらの点についても、乙3号証の7の判決では、「イトーヨーカ堂が、本件商標の登録査定時である平成17年2月21日までの期間に、新聞折込みチラシにおいて『ケント』や『Kent』の表示を付した商品を掲載しているが、同表示は、チラシ中の多数の掲載商品の中の一部の商品について小さく記載されているものにすぎず、これらの記載によって、本件商標の登録査定時までに引用商標1の周知著名性が獲得されたとは考え難い。」と判示されている。
コ 請求人の主張(2)ア(コ)について
請求人は、イトーヨーカ堂においてKENT商品が「良く売れている」のは、いわゆる団塊の世代とよばれる人たちが明確に覚えており、現在まで引用商標1の周知性・著名性は維持され、KENT商品が「年間約32億円の売上げがあることから考えると、引用商標1の周知・著名性は、日々一層拡大されている」と主張するが、事実に反する。すなわち、引用商標1は、40年前も現時点においても周知・著名というほどの実績は上げてこなかったのであり、32億円という金額も証拠としての信用性に欠ける。また、引用商標1の周知・著名性は、過去の審決・判例で一貫して否定され続けており、客観的資料においても、例えば有名・無名のアパレルに関する9000点ものブランドインデックスにすら掲載されない商標であるから、周知・著名の域には達していない。
サ 請求人の主張(2)イ(ア)について
請求人は、被請求人が「Mr.Shop Kent」商標を使用していたこと、及び、同商標の使用権をビイエムプランニング社から得ていたことに言及しているが、この商標は、本件使用商標とは非類似の商標であって、本件についても何らの関係のない事実である。また、被請求人が、一時期、この商標の使用権をビイエムプランニング社から得ていたことは事実であるが、正規の契約に基づき、一定の使用料を支払って使用していたのであるから、かかる点からも何ら問題はない。
シ 請求人の主張(2)イ(イ)について
請求人は、上記使用権に基づく被請求人の使用商標が「Mr.Shop」の部分と「Kent」の部分とに分けて表示したことを難じるが、そもそもこの商標は、本件使用商標とは別の(非類似の)商標であって、既に使用されていない商標であるから、本件審判とは何らの関係もない。
ス 請求人の主張(2)イ(ウ)ないし(キ)について
請求人は、被請求人の過去の適法な商標の使用行為や、既に数年前に使用を中止した商標の使用行為及び本件使用商標とは全く異なる(非類似の)商標の使用行為について難じるので、一括して答弁する。
(ア)甲第90号証の1は、「Kent/Family」商標に関する使用実例であって、本件使用商標とは非類似の商標であるから、本件審判には関係がない。因みに「熊本KentFamily」店は、2008年4月に閉店している。
(イ)甲第91号証も、「Kent/Family」商標に関する使用実例であって、本件審判には関係がない。因みに、同店の釣看板等は、争いを避けるために、2006年5月に乙第9号証の1及び2の態様に変更し、請求人には連絡済みである。
(ウ)甲第92号証の1及び2についても、請求人記載のとおり、2007年5月までに、使用態様を変更して、被請求人には連絡済である(乙第10号証の1ないし3)。
(エ)甲第93号証の1は、「Mr.Shop Kent」商標の使用であって、上記同様、本件使用商標とは別の商標であるから、本件審判には関係がない。因みに、現時点のホームページを一覧いただければ明確なように、現在では、本件使用商標が表示されている(乙第11号証の1)。
(オ)甲第93号証の2は、「ブランドストーリー」であって、「Mr.SHOP Kent」に関する言及であるから、本件審判とは何らの関係もない。内容についても、事実に反する記載はない。ただし、現在この「ブランドストーリー」の記載内容は変更されている(乙第11号証の2)。
(カ)甲第93号証の3及び4は、いずれも「Kent Family」商標の使用であって、本件使用商標とは別の商標であるから、本件審判には関係がない。因みに、現時点のそれぞれのホームページは、表示が、被請求人の登録商標と同態様となっている(乙11号証の3及び4)。
セ 請求人の主張(2)イ(ク)について
請求人は、被請求人が「本件商標の使用態様・・・はもちろん、引用商標1の著名性にただ乗りする目的で、・・・故意に行っている」と主張するが、事実に反する。 すなわち、
(ア)上述のとおり、本件使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標であり、引用商標1とは非類似の商標であるから、引用商標1と混同を生じるおそれはない。
(イ)また、甲第90号証の1ないし甲第93号証の4は、いずれも本件使用商標とは別の(非類似の)商標に関するものであり、本件審判とは何ら関係のない事実である。
(ウ)更に、甲第90号証の1ないし甲93号証の4はいずれも古い情報であって、現時点では全ての表示が変更されている。また、請求人の指摘があった場合には、それぞれ個別の対応を行い、重要な問題については請求人へも報告しているのであるから、引用商標1への「ただ乗り」の意図はない。むしろ、請求人からクレームのあった「Mr.Shop Kent」等の店舗は、順次「Kent Ave.」に表示を変更し、その間の経緯も使用商標等についても被請求人から請求人への報告も行っているのであるから、「故意に行っている」という非難は不当である。
(エ)加えて、上述のとおり、引用商標1は著名性を有しないことが明らかであるから、これに「ただ乗り」する必要もない。従来商標の表示についての変更漏れがあった場合にも、対象看板等は速やかに修正してきた事実からいっても、被請求人の「故意」をいうのは不当である。
(オ)更に付言するに、乙第8号証に明らかなとおり、客観的資料によっても、むしろ引用商標1は無名に近い商標であり、本件使用商標の方が市場の認知度が高いのであるから、敢えて引用商標1に「ただ乗り」する必要も利益もない。
(4)まとめ
以上、本件請求については、被請求人が「故意に」、「請求人の業務に係る商品と混同を生ずる態様で」、「本件商標に類似する商標の使用をしている」ものであるといういずれの要件も充たさないことが明らかであり、本件商標が商標法第51条第1項に該当するとして取消を求める主張はいずれも根拠がない。

第4 当審の判断
1 商標法第51条第1項は、商標権者が指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものを、故意にしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨定めている。
以下、請求人が指摘する被請求人の商標の使用行為が、上記規定に該当するものであるか否かについて判断する。

2 本件商標と本件使用商標との関係について
(1)本件商標は、「ケントアヴェニュー」及び「Kent Ave.」の文字を上下二段に横書きしてなるのに対して、甲第2号証ないし甲第4号証に示された本件使用商標は、「Kent Ave.」の文字を表してなるものであるから、本件商標との対比においては、片仮名文字部分を欠く構成態様のものである。しかし、両者は、「ケントアヴェニュー」の称呼を共通にし、構成欧文字を同じにするものであるから類似の商標と判断されるものである。
したがって、本件使用商標は、本件商標に類似する商標というのが相当である。
(2)被請求人は、本件使用商標が商標法第50条第1項にいう「登録商標と社会通念上同一の商標」の使用、すなわち、本件商標と実質的に同一の商標の使用であって、本件使用商標の使用行為を本件審判の対象とすること自体が失当である旨主張している。
しかしながら、一定期間使用されない登録商標についての登録取消しを目的とする商標法第50条の規定趣旨と、登録商標の不正な使用に対する制裁規定である本51条の趣旨とは、明らかに異なるものであり、そして、第50条における「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」の規定が商標法における登録商標についての一般的な規定と解すべきものとは認め難い(特許庁編「工業所有権法逐条解説」参照)ものであるから、仮に、当該使用商標が50条においては社会通念上同一として登録商標の使用の範疇にあると認め得るものであるとしても、登録商標の不正な使用が問われる51条の審判においては、本件商標の構成からみて明らかな変更が存する使用商標を、登録商標と社会通念上同一と認められる商標であるとの理由で直ちに審判の対象外とするのは妥当でなく、よって、被請求人の主張は採用し得ない。

3 混同惹起行為の有無について
(1)引用商標1の周知性について
ア 引用商標1は、「Kent」の欧文字を横書きした構成よりなるところ、請求人及び被請求人提出の証拠によれば、以下の(ア)ないし(コ)が認められる。
(ア)引用商標1である「Kent」は、旧ヴァンヂャケット社の展開していた「VAN」ブランドの関連ブランドとして立ち上げられ、昭和41年ころから20代後半から30代の社会人男性を主な購買層として、「VAN」商標よりも高品質高価格なブランドとして「Kent商標」製品の販売を開始した(甲第6号証及び甲第7号証)。「Kent商標」を付した製品は、青山Kentショップなどで販売され(甲第6号証、甲第9号証及び甲第11号証)、昭和40年代から昭和50年代においては、ファッションに関心を持っていた男性を中心として相当程度知られるようになった。
旧ヴァンヂャケット社は、昭和53年4月ころ事実上倒産し、同年10月に破産宣告を受け、昭和59年2月に破産手続が終結した(甲第13号証)。
昭和54年、同社の元社員で構成されたPX組合が、破産管財人の許可を受けて在庫品等の販売をしたが(甲第11号証)、昭和55年12月ころ、現ヴァンヂャケット社が設立され(甲第14号証)、同社は、旧ヴァンヂャケット社の保有していた知的財産権のすべてを譲り受けた(甲第15号証)。現ヴァンヂャケット社設立後は、青山Kentショップ、名古屋ヴァンショップ、大阪のヴァンガーズ等において「Kent商標」を付した製品の販売を続け、雑誌にも「Kent商標」の商品が紹介された(甲第11号証)。
昭和58年、現ヴァンヂャケット社は、新たに設立されたケント社に対し、「Kent」商標の使用権を与え、同社に「Kent」商標の製品の販売を委託した。ケント社は、「Kent商標」の製品を青山Kentショップ等で販売し、年に1?4回程度、雑誌等に「Kent商標」の広告や「Kent商標」を付した製品の広告を掲載し(甲第18号証ないし甲第48号証)、年に2回程度「Kent商標」を付した製品のカタログを、来店した顧客に対して配布し、顧客に対してノベルティグッズを配布するなどをした(甲第49号証ないし甲第61号証)。
平成9年3月、現ヴァンヂャケット社は、ケント社を吸収合併し、合併後は、同社が、「Kent商標」を付した製品の販売活動を行い、雑誌等に「Kent商標」の広告や「Kent商標」を付した製品の広告を掲載した(甲第62号証ないし同第68号証)。
同社の「Kent商標」の月間売上は、平成11年10月には、8000万円程度あったが、その後減少して、平成18年には、月間100万円前後を推移するまで減少した(甲第71号証)。
(イ)平成17年2月、現ヴァンヂャケット社は、請求人に対し、引用商標2ないし6の商標権を譲渡し(甲第73号証ないし甲第75号証)、請求人は、引用商標2ないし6の商標権について、関連会社であるビイエムプランニング社のために専用使用権を設定した。平成13年2月ころ、イトーヨーカ堂は、ビイエムプランニング社から、「Kent商標」の使用の許諾を受けて、「Kent商標」を付した男性用被服の販売を開始した(甲第5号証の4)。
イトーヨーカ堂の「Kent商標」を付した商品は、一時期、売上げが伸びたが、その後減少に転じ、平成18年には「Kent商標」の製品の販売を中止した。なお、平成19年3月からは、ららぽーと横浜店においてのみ「Kent商標」の製品の販売を再開した(甲第87号証)。
(ウ)イトーヨーカ堂における「Kent商標」を付した製品の取扱量は、仕入原価でみると、次のとおりであった(甲第96号証)。すなわち、平成13年度は6億4715万9000円、平成14年度は8億3858万5000円、平成15年度は7億450万7500円、平成16年度は23億4473万1500円、平成17年度は30億1531万5000円、平成18年度は4億1513万4000円、平成19年度は4億1500万9000円、平成20年度は8億5896万4000円、平成21年度は16億561万9000円であった。
(エ)平成13年発行の「ファッションブランドガイド/SENKEN FB2002」中の「メンズウエア業績ランキング」(乙第7号証の1)によれば、業界トップのオンワード樫山の売上高は約623億円であり、業界100位のイグルスも約23億円である。また、平成20年発行の同「メンズウエア業績ランキング」(乙第7号証の2)によれば、業界トップのオンワード樫山の売上高は約505億円であり、業界68位のフランドルが20億円である。
これに対し、現ヴァンヂャケット社の売上高(例えば、平成15年3月は399万5000円、甲第71号証)はもとより、イトーヨーカ堂の前記売上高(例えば、平成15年度の仕入原価7億450万7500円、平成20年度の仕入原価8億5896万4000円)も、相当に少ないといえる。
(オ)平成11年発行の「Nissen BRAND DATA 2000」(乙第8号証の1)には、約2000件の被服ブランドが掲載されているが、「Kent商標」は記載されていない。また、平成13年発行の「ファッションブランドガイド/SENKEN FB2002」中の「ブランドインデックス」(乙第8号証の2)にも、約2000社9000件の日本の被服ブランドが掲載されているが、「Kent商標」は記載されていない。さらに、平成18年発行の「ファッションブランドガイド/SENKEN FB2007」中の「ブランドインデックス」(乙第8号証の3)にも、「Kent商標」は記載されていない。
平成19年発行「ファッションブランドガイド/SENKEN FB2008」中の「ブランドインデックス」(乙第8号証の4)及び平成20年発行の「ファッションブランドガイド/SENKEN FB2009」中の「ブランドインデックス」(乙第8号証の5)には、「ケント」「KENT」、「ケントアヴェニュー」「KentAve.」が記載されているが、ここに記載された「ケント」「KENT」について、被請求人は、引用商標1とは別異のイギリスのブラシメーカーとして周知な洋服ブラシの商標であると述べているが、この点について、請求人は、否定をしていない。
(カ)イトーヨーカ堂の「Kent」を表示した商品については、前記(ウ)のとおり、平成13年度以降、相応の売上があることが認められるが、前記(エ)及び、綜合スーパーマーケットであるイトーヨーカ堂の規模、イトーヨーカ堂の信頼感に基づく販売促進効果を併せ考えれば、上記売上をもって直ちに、従前から周知著名であったとも、取扱量の多かった平成16年あるいは17年頃において周知著名性を獲得していたとも、さらに、それ以降において、周知著名性を獲得したともいえるものではない。
(キ)平成10年頃までは、上記(ア)のとおり、ケント社及び現ヴァンヂャケット社が、雑誌に「Kent商標」の製品に係る広告の掲載をしていたが、それ以降においては、平成11年8月10日の雑誌(甲第10号証)に掲載された以外、「Kent商標」の製品について、雑誌等への広告の掲載やカタログが作られた形跡はない。
なお、平成11年5月20日発行の雑誌(甲第8号証)の記事は、昭和30年代から同50年代にかけての「Kent商標」の製品を紹介し回顧する内容のものである。
(ク)イトーヨーカ堂は、平成16年5月及び同年6月の新聞折り込みチラシ(甲第83号証)、平成21年10月及び同年11月の新聞折り込みチラシ(甲第88号証)において、「Kent」や「ケント」の表示を付した商品を掲載しているが、それらは、いずれも、多数の掲載商品の中で一部商品について小さく記載されているに過ぎないものであり、これらによって、引用商標1の周知著名性が獲得されたとは認められない。
なお、上申書に添付の新聞折り込みチラシ(甲第100号証及び甲第101号証)は、平成22年4月のものであり、本件審判請求日以降に係るものである。
(ケ)平成16年、平成17年の業界新聞(甲第84号証ないし同第87号証)に「ケント」に係る紹介記事が掲載されたが、イトーヨーカ堂の衣料品販売の営業を紹介する中で、その取扱ブランドの一として「ケント」が記載されているものであり、これら記事によって、引用商標1の周知著名性が獲得されたとは言い難い。
(コ)引用商標1に関して、「出願時(平成15年2月26日)において、引用商標1は、広く知られた商標と認めることができない」旨、及び「登録出願(平成12年8月31日)及び登録査定(平成17年2月21日)のいずれの時点においても、引用商標1が周知著名であったとは認められない」旨の知的財産高等裁判所第1部判決及び同第3部判決における判示がある(乙第3号証の5及び6)。
イ 以上によれば、従前から引用商標1が周知著名であったとも、本件審判請求より5年程遡る平成16年頃において、引用商標1の周知著名性が獲得されていたとも認められず、また、それ以降、本件審判請求時までの間において、引用商標1が周知著名性を獲得するに至ったものとも認めることはできない。
ウ なお、請求人は、引用商標1が旧ヴァンヂャケット社の商標として全国的に極めて著名であったことは、衣服及び服飾洋品雑貨の業界のみならず、一般消費者の間でも顕著な事実であり、特に、現在45歳以上の男性、つまり昭和30年代から昭和50年代当時に20代から30代であった男性であれば、誰でも知っている旨主張する。
しかし、全証拠によっては、昭和30年代から昭和50年代当時、引用商標1が、前記男性らのうちファッションに関心を有していた者らを中心に認知されていたと推測はされるものの、売上高や広告宣伝等が不明であり、業界のみならず、一般消費者の間でも周知著名であったとは認められないし、まして、顕著な事実であるとは到底言い難いものである。したがって、請求人の前記主張は採用し得ない。
(2)引用商標1に係る商品と混同を生ずるおそれの有無について
ア 本件使用商標と引用商標1とを比較してみると、本件使用商標は、「Kent Ave.」と表してなるものであり、一方、引用商標1は、「Kent」の文字からなるものである。
本件使用商標は、中間に空白があることで、「Kent」と「Ave.」とを結合してなる標章であると容易に理解されるものであるが、両文字は、軽重主従の差もなく、同じ書体で纏まり良く一体的に表されているものである。そして、「Kent」が英国の州名あるいは欧米の男子の名を表す既成語であり、また、「Ave.」が「通り」を意味する英語「Avenue」の略語として知られるものであるから、前記両文字の持つ意味合いから、全体として「ケント通り」程の観念をもって一体的に把握し理解されるというのが相当であり、これより、「ケントアヴェニュー」の一連の称呼を生じるものである。
一方、引用商標1は、その構成文字に相応して「ケント」の称呼を生じるものであり、英国の州名「ケント」又は欧米の男子名「ケント」の観念において看取されるものである。
しかして、本件使用商標の「ケントアヴェニュー」と引用商標1の「ケント」の両称呼は、「ケント」の音を共通にするが、後半で「アヴェニュー」の音の有無の明らかな相違があって、彼此相紛れるおそれはないものである。また、両者の観念は、上記したとおりであり、明らかに相違し彼此相紛れるおそれはない。
そして、本件使用商標の書体をみると、本件商標の書体とは相違するが、殊更に特徴的な書体であるとも言い難く、一般的に採択使用され得る書体の一というべきであり、これが引用商標1にのみ固有のものでもなく、また、「Kent」の文字部分だけが、他の文字部分と異なる書体であるともいえない。
したがって、本件使用商標と引用商標1とは、外観構成が相違し、外観上相紛れるおそれはないものである。
以上、その外観、称呼及び観念のいずれからみても、本件使用商標は、引用商標1と商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれの認められない非類似の商標と判断されるものである。
さらに、本件使用商標の構成中に「Kent」の文字が含まれるが、引用商標1の周知性については前記(1)のとおりであり、また、「Kent」が地名又は人名であって独創性に欠けることをも勘案すれば、構成中に「Kent」の文字部分があるとの一事をもって、本件使用商標と引用商標1を使用した商品との間で、その出所について誤認混同を生じるとすることはできない。
イ 請求人は、現実に混同が生じている旨主張し、業者の証明(甲第98号証の1ないし5)を提示している。
当該証明は、「1.商標Aは、服飾業界では従来から周知著名であります。」「2.商標Bは、その書体が商標Aと略同一であることから商標Aの所有者から許可を得て使用しているものと思われます。」と、予め印刷した同じ文言について、請求人からの証明依頼に対し、「上記のことに相違ないことを証明致します。」との不動文字の下部に、日にちを書き入れ、住所氏名等を記して押印した形態のものである(審決注:商標Aとして引用商標1、商標Bとして本件使用商標と同様の標章が示されている。)。
しかしながら、この5名の署名者が、被服等の取引関係において、如何なる活動範囲や規模の業者であるのか明らかでなく、また、具体的に如何なる資料に基づき「商標Aが従来から周知著名である」旨証明するとし得たのか定かではない。そして、引用商標の周知性については前記(1)のとおりであるから、これらをもって、その周知性の判断が左右されるとはいえない。
さらに、引用商標1と本件使用商標とが略同一の書体であることをもって、なぜ、後者が引用商標1の所有者の許可を得た使用であるとの理解に直結するのかはなはだ疑問であるうえ、仮に、そのように理解する者がいたとして、それをもって、現に混同が生じた事実を示すものであると、俄には首肯し難いものである。
したがって、これらの証明をもって、本件使用商標と引用商標1との間で、現実に混同が生じている証左とはなし得ないというべきである。
ウ また、請求人は、ブログへの書き込み記事の一例(甲第99号証)を挙げているが、商標の近似性や関連性についての、ある個人の感想と認められる記述をもって、取引上において本件使用商標と引用商標1との間で混同を生じた事実と結び付けることは、到底無理というべきである。
なお、請求人は、「Kent Family」商標あるいは「Mr.Shop Kent」商標の被請求人による使用の事実について論及しているが、これらの商標は、本件商標に類似の商標の使用とは認められないから、前記両商標の使用の事実は、本条項の該当性に関して直接的なものとはいえないものである。
(3)小括
以上によれば、本件使用商標の使用行為をもって、引用商標1との間で商品の出所について混同を生じさせる行為があったと認めることはできないというべきである。

4 故意について
(1)商標法第51条第1項所定の「故意」とは、当該商標を使用するにあたり、その使用の結果、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としないと解される(最高裁判所昭和55年(行ツ)第139号、昭和56年2月24日第三小法廷判決・判例時報996号68頁参照)。
(2)本件において、混同を惹起する商標の使用の事実があったと認められないこと前記3のとおりであるが、さらに、請求人提出の全証拠によってみても、本件使用商標の使用が請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることを、被請求人が認識していたと認めるに足りる的確な理由及び証左はみいだせない。
請求人が挙げる「Kent Family」商標あるいは「Mr.Shop Kent」商標に関する被請求人による使用の事実は、「Kent」部分を分離し強調する態様での使用も窺えるが、本件とは商標の構成が異なるものであるから、これらの事実をもって、本件使用商標の使用によって請求人の業務に係る商品と混同を生じさせるものであることを、被請求人が認識していたとまではいうことができない。また、ホームページにおける「Kent」に係るブランドストーリーの記載があるとしても、前記混同に係る被請求人の認識を推認させるものとはいい難いものである。
したがって、被請求人による本件使用商標の使用について、商標法第51条第1項所定の「故意」を認めることはできないというべきである。

5 結語
以上のとおり、被請求人は本件商標に類似する商標を使用するものではあるが、これをもって、他人(請求人)の業務に係る商品との間で混同を生じさせる不正な使用行為があったと認めることはできないものである。
したがって、本件商標に係る登録は、商標法第51条第1項の規定により取り消すべき限りではない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(本件使用商標)


別掲3(引用商標1)


審理終結日 2010-12-22 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-19 
出願番号 商願平9-12067 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 亨子 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 野口 美代子
田中 亨子
登録日 1998-07-03 
登録番号 商標登録第4162272号(T4162272) 
商標の称呼 ケントアベニュー、ケントエイブイイイ 
代理人 藤沢 昭太郎 
代理人 藤沢 則昭 

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