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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X30
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X30
管理番号 1241566 
異議申立番号 異議2009-900303 
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2011-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2009-08-07 
確定日 2011-07-20 
異議申立件数
事件の表示 登録第5229771号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5229771号商標の商標登録を取り消す。
理由 1 本件商標
本件登録第5229771号商標(以下「本件商標」という。)は、「饂麺」の文字を標準文字で表してなり、平成19年8月30日に登録出願、第30類「調理済みのラーメン,調理済みのうどん,中華そばのめん,うどんのめん,ラーメン用つゆ,うどん用つゆ」を指定商品として、同21年3月19日に審決され、同年5月15日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標の登録は取り消されるべきであるとして、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第14号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、申立人が所有する登録第1670230号商標、登録第1806431号商標及び登録第1806430号商標と類似する商標であって、指定商品において共通する「麺類の部分」について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、その構成中に「麺」の文字があり、麺類を連想・示唆させるのに、その指定商品には「麺類の部分」と「調味料の部分」とがあるから、本件商標を指定商品中の「調味料の部分」に使用した場合、品質の誤認を生じるおそれがあり、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び第16号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録を取り消されるべきものである。

3 本件商標に対する取消理由
当審において、平成23年3月29日付けで商標権者に対し通知した取消理由は、次のとおりである。
(1)「饂麺」の語及びこれに関連する事項について
ア 当審における職権調査によれば、以下の事実が認められる。
(ア)「広辞苑 第六版」(2008年1月11日、株式会社岩波書店発行)において、「うんめん」の見出し語で、「【饂麺】汁で煮たうどん。」の記載がある。「広辞苑 第五版」(1998年11月11日発行)及び「広辞苑 第三版」(1983年12月6日発行)にも同様の記載がある。
(イ)「大辞泉 増補・新装版」(1998年12月1日、株式会社小学館発行)において、「うんめん」の見出し語で、「【温麺・饂麺】汁で煮たうどんの一種。特に、宮城県白石市特産の『うーめん』のこと。」の記載がある。
(ウ)「大辞林 第三版」(2006年10月27日、株式会社三省堂発行)において、「うんめん」の見出し語で、「【温麺】油を使わないで作る素麺の一種。汁で煮て食べる。宮城県白石名物。うーめん。」の記載がある。
(エ)「漢字源 改訂第四版」(2007年1月10日、株式会社学習研究社発行)において、「饂」の文字は、国字(日本で作られた漢字)であって、その音が「ウン」であるとの記載があり、そして、該文字を使用した「饂飩(うどん・うんどん)」についての説明が記載されている。同じく、「温」の文字は、その音として「オン」及び「ウン」、その意味として「あたたか。あたたかい。あたためる。」等の記載がある。
(オ)「角川大字源」(1992年2月10日、株式会社角川書店発行)において、上記(エ)と同様の記載のほか、「饂」の文字の説明として「温かな食物、うどんの意。」との記載がある。
(カ)「日本の名産事典」(昭和52年10月17日、東洋経済新報社発行)において、東北地方の「料理」の項には、「白石のううめん」の見出しの下、「白石市は伊達家の片倉小十郎の領地であったが、古くから『御膳ううめん』というのがあった。昭和二七年に、それを現代調に変えて作ったのが現在のううめんである。」との記載がある。
(キ)「うどん」については、「広辞苑第六版」(前出)において「【饂飩】(ウンドンの音略)麺類の一種。小麦粉を塩水でこねて薄くのばし、細く切ったもの。ゆでてかけ汁にひたしたり、つけ汁につけたりして食べる。うんどん。」、「大辞林 第三版」(前出)において「【饂飩】小麦粉を塩水で練って薄くのばし、細長く切ったものをゆでた食品。切り麦。うんどん。」との記載がある。
また、「そうめん」については、「広辞苑第六版」(前出)において「【索麺】(サクメンの音便。「素麺」とも書く)小麦粉に食塩水を加えてこね、これに植物油を塗って細く引き伸ばし、日光にさらして乾した食品。茹でまたは煮込んで食する。」、「大辞林 第三版」(前出)において「【素麺・索麺】〔さくめん(索麺)の転〕乾麺の一。小麦粉に塩水を加えて捏ねた生地に油をつけて糸のように細く伸ばして切った麺。茹でて用いる。」との記載がある。
イ 申立人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(甲第6号証)において、「温麺」の見出し語の下、次の記載がある。
温麺(うーめん)は、素麺の一種であり、宮城県白石市で生産される同地の特産品である。白石温麺とも呼ばれ、「うーめん」あるいは「ううめん」と仮名で表記されることも多い。過去には雲麺と書いて「うんめん」とも呼ばれた。
江戸時代初めに白石に住んでいた大畑屋鈴木浅右衛門が、胃腸の弱い父親のため、旅の僧に教わった油を使わない麺の製法を苦心の末会得して創始したと伝えられる。浅右衛門は名を味右衛門と改めて温麺製造を業とした。油なしで細い素麺を作る製法はこれ以前に大和国を中心に上方に存在しており、その技術を取り入れたという経緯らしい。
油なしの素麺はさっぱりして上品で、他の素麺より高級とされ、東北地方南部に流通した。現在の温麺は通常ゆでて調理するが、江戸時代には蒸して食べたという記録が残っている。・・・江戸時代に白石三白と呼ばれた白石の名産は、和紙、葛粉とこの温麺である。このうち白石葛は廃れ、白石和紙の製造は一か所に限られるが、温麺は今でも盛んに作られている。
1917年(大正6年)に書かれた『仙台物産沿革』によれば、当時は細く長い温麺を上等として「素麺」といい、太く短いものを下等として「温麺」と呼んだという。
(イ)甲第5号証(奥州白石温麺史)に次の記述がある。
(554頁・555頁より)ここに鈴木味右衛門氏宅の所蔵にかかる岡千ジン(実際は漢字。以下同様。)(一八三二 ? 一九一二)の撰文「鈴木氏饂麺を製するを記す」を載せる。
饂麺の名産たるや久し。余鈴木氏父の病を憂慮して饂麺を創製するの事を聞き、感ずる所あり。・・・実に天正年間たり。其の饂麺を創製せるは味右衛門と曰ふ。・・・其の能く天下を温むるを以て称して饂麺と曰ふ。邑主片倉氏歎賞して之を藩侯に献ず。候之を嘉し、膳夫に命じて厨膳に充てしめ、称して御前饂麺と曰ひ、其の姓を称し刀を帯ぶるを許す。素麺に饂麺一種あるは此れに始まる。実に元禄年間の事たり。・・・是に於て鈴木氏の醸酒と饂麺と・・著はる。博覧会に数回饂麺を出陳し、有功賞牌を賜はる。・・饂麺を製すること拾万八千円、抑々亦盛なり。嗚呼鈴木氏饂麺を創製せしは父の病ありしを以てのみ。・・・鹿門道人岡千ジン撰
附記 白石鈴木氏の饂麺創製の事は鹿門先生の文に詳かなり。更に伝ふべき者数項あり。明治二十五年八月、饂麺三箱を宮内省に献じ、添ふるに創製沿革誌を以てす。・・・
(567頁より)元禄二年(一六八九)九月、鈴木味右衛門が油分を含まない素麺を初めて作り、これに温麺(うーめん)という名をつけたことは、白石製麺史にとって正に新時代を画するものである。それ以来、温麺に雲麺・・・饂麺などの文字を用いた公文書・領収書その他の書類が見受けられるようになった。
(ウ)申立人が所有する登録第1670230号商標(<別掲>参照:以下「申立人所有商標」という。)は、「温麺」の漢字を横書きしてなり、昭和46年2月10日に登録出願、第32類「うどんめん、そばめん、中華そばめん、そうめん」を指定商品として同59年3月22日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである(甲第2号証)。
そして、申立人所有商標は、拒絶査定不服審判を経て登録されたものであり、その審決には「『温麺』の文字は、『宮城県白石地方において、藩政時代から伝承されてきた独特の製麺法によつて、製造される乾麺』を表示するものとして使用されているものであることは、たとえば、東洋経済新報社発行『日本の名産事典』第86頁『白石のううめん』の項に、その由来や品質、特徴などの説明を掲載していることより窺い知ることができる。ところで、本願商標は、『温麺』の文字を格別特異な方法をもって表示したものとも認め得ないところであるから、上記の事実よりすれば、宮城県白石市の郷土名物である上記の乾麺を指称する文字を表示して成るものであると容易に理解せしめるものといえるところである。したがって、これを本願指定商品について使用しても、単に温麺と称される麺類であることを表示(品質表示)するに止まり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものといわなければならない。しかしながら、請求人が当審において提出した甲第1号証の1乃至11、・・・、同第7号証を総合勘案するに、本願商標は請求人が昭和27年頃より商品『うどんめん、そばめん、中華そばめん、そうめん』について多年にわたりこれを使用した結果、現在においてはこれが請求人の取扱に係る商品を表示するものとして取引者需要者間に広く認識されるに至つたものであることはこれを認めることができる。したがって、本願商標は上記商品について、商標法第3条第2項に規定する要件を充足しているものということができるから、これを登録すべきものとする。」と記載されている(甲第2号証の1)。
ウ 以上のとおり、「広辞苑」(株式会社岩波書店発行)において長年にわたり「うんめん【饂麺】汁で煮たうどん。」との記載があることに、「大辞泉 増補・新装版」(株式会社小学館発行)における「うんめん【温麺・饂麺】汁で煮たうどんの一種。特に、宮城県白石市特産の『うーめん』のこと。」との記載をはじめとしたその他の辞書・辞典などの記載、甲第5号証(奥州白石温麺史)における「饂麺」の記載、及び申立人所有商標が商標法第3条第2項の適用を受けて登録された経緯などを併せ考慮すれば、「饂麺」の文字は、「汁で煮たうどん」を意味し、「うんめん」と読まれるものであり、本件商標の登録時においてもその状態は何ら変わるものではない。
そして、「饂麺」と「温麺」との関係については、申立人が使用している「温麺」(うーめん)は、申立人の前身といえる者たちにより、江戸時代以来、過去において「饂麺」の文字をも使用されていたと認められるところ、申立人所有商標は、前記イ(ウ)のとおり、本来は商品の品質を表示するものであり自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであるが、申立人が昭和27年頃より商品「うどんめん」等について多年にわたり「温麺」の文字よりなる商標を使用した結果、審決時においてはこれが申立人の取扱いに係る商品を表示するものとして取引者需要者間に広く認識されるに至ったものであるとして登録されたことからすれば、「温麺」の文字と同義の意味を有する「饂麺」の文字よりなる本件商標は、「温麺」の文字よりなる申立人所有商標が本来自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであったと同様に認識されるものであるとみるのが相当である。
(2)本件商標の商標法第3条第1項第3項及び同法第4条第1項第16号の該当性について
本件商標は、「饂飩」(うどん)の表記でよく知られた「饂」の文字と「麺」の文字とを結合して、「饂麺」と標準文字で表してなるものであり、格別特異な方法をもって表示したものとも認め得ないものであるから、前記(1)の事実よりすれば、漢字2文字全体をもって「汁で煮たうどん」という意味を容易に理解せしめるものといえる。
そうすると、本件商標がその指定商品中の「調理済みのうどん,うどんのめん,うどん用つゆ」に使用された場合、これに接する取引者・需要者は、該商標が付された商品を「調理済みの饂麺(汁で煮たうどん)」、「饂麺(汁で煮たうどん)用のめん」又は「饂麺(汁で煮たうどん)用つゆ」であると認識するものであるといわざるを得ない。すなわち、本件商標は、商品の品質又は用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当し、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものである。
また、本件商標は、これをその指定商品中の「調理済みのラーメン,中華そばのめん,ラーメン用つゆ」に使用した場合、該商品が「饂麺(汁で煮たうどん)又はそれ用の商品」であるかのように、商品の品質の誤認を生じるおそれがあるといわざるを得ない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3項及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものというべきである。

4 商標権者の意見
(1)「饂麺」の語は、単に限定された意味「汁で煮たうどん」を指称する語として本件商標に係る指定商品中「調理済みのうどん,うどんのめん,うどん用つゆ」の直接的かつ具体的な品質表示としてのみ機能するものではなく、構成文字である「饂」の語の意味が需要者にとって一義的でないこと、「饂」の文字自体になじみがないことからも、その指定商品について抽象的・暗示的な意味合いを有する標章として感得されるものである。すなわち、本件商標を使用しても販売等される商品がいかなる内容であるかを本件商標の語は具体的に何ら示すものではない。
また、仮に、本件商標にして取消理由にいう意味内容を感得する可能性があるとしても、ある商標から何がしかの意味が生ずる可能性が存することと、その商標が記述的商標として登録を拒絶することとは、商標法第3条第1項の趣旨を徴するに、論理的関係性を有するものではない。
したがって、「饂麺」の同一書体の一体不可分の構成からなる本件商標は、「汁で煮たうどん」の意味にとどまるものではなく、その文字構成から、例えば「饂飩の一種」あるいは「ラーメンの一種」か判然としない、いずれのカテゴリーにも属さない新しい麺類等の抽象的・暗示的意味を有する語として感得される「造語」として自他商品識別力を十二分に有するものと解される。
(2)なお、取消理由は、「商標『饂麺』に接した需要者は『饂麺』を認識する」旨の判断を基礎としている。こうした判断は、「饂麺」を商品の一般名称として認識しているものと解され、その根拠として一部の国語辞典に掲載される「饂麺」の説明記述に基づき、本件商標をいわば商標第3条第1項第1号に規定する「普通名称」と理解したものと推測される。
しかしながら、商標法においての「普通名称」とは、単にその語句の説明が国語辞典に掲載されている事実のみをもって決せられるものではなく、取引界において「その商品について一般名称になった」現実の認識を要することは明白なところである。
(3)本取消理由通知書において開陳された事実は、一部国語辞典に「饂麺」の語の記載があった事項以外は、本件商標と全く構成が異なる「温麺」が登録になった経緯やその意味に関する事項並びに我が国需要者・取引者においては到底接することのない歴史的文献での「饂麺」に関する記載のみである。そして、一部国語辞典に「饂麺」の語が掲載される事実は、本件商標の審査時点において明らかなところであり、当該事実を前提とした上で、本件商標についての拒絶査定不服審判の審決は、本件商標の自他商品役務識別機能を是認している。
なお、「饂麺」なる語は、現在の我が国において極めてなじみの薄い語であり、一部の辞書に掲載される一方、数多くの国語辞典においてその語の説明は見当たらない。
(4)商標法第3条第1項第3号の趣旨は、一般に広く使用される(あるいは使用されつつある)ことをもって自他商品役務識別力を喪失するに至った商標又は何人も使用することが要請される独占適応性を欠く商標の登録を排除するものといえる。
本件商標の構成語である「饂麺」の語をインターネットにおいて検索実施したところ、その検索ヒット件数は膨大なものとなるが、「饂麺」が「汁で煮たうどん」の意味において我が国市場において一般に広く使用されている事実は皆無であるから、商標法第3条第1項第3号の立法趣旨から徴しても、本件商標の自他商品役務識別力を否定することは妥当でない。
(5)前記(4)のとおり、「饂麺」の語のインターネットにおける検索ヒット件数は膨大なものとなるが、そのほぼすべてが「ラーメン店『糀や』の『饂麺』」の紹介記事である。そして、ラーメン店「糀や」は、本件商標権者の代表者が経営するものであり、「饂麺」は、同人が独自に考案した店舗等提供商品の名称であって、全国的に人気のある同店のメニューの一つである。
本件商標は、商標権者により継続的に使用されており、インターネットや雑誌などの各媒体を通じて日本国内において広く知られるものとなっており、かかる点からも商標法第3条第1項第3号に該当しない。
なお、本件商標は、上述のとおり、その全体構成から自他商品役務識別力を備えるものと解されるが、本件商標は商標法第3条第2項に規定する使用による顕著性を獲得した商標と評価されるべきものである。
(6)上記のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものではない。

5 当審の判断
(1)本件商標の取消理由は、前記3のとおりであり、本件商標が商標法第3条第1項第3項及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるとした認定、判断は、妥当なものである。
(2)これに対して、前記4のとおり、商標権者は意見を述べているが、以下の理由により採用することができない。
ア 商標権者は、「饂麺」の構成文字である「饂」の語の意味が需要者にとって一義的でないこと、「饂」の文字自体になじみがないことから、本件商標は、「汁で煮たうどん」の意味にとどまるものではなく、その文字構成から、例えば「饂飩の一種」あるいは「ラーメンの一種」か判然としない、いずれのカテゴリーにも属さない新しい麺類等の抽象的・暗示的意味を有する語として感得される「造語」として自他商品識別力を十二分に有するものである旨主張する。
しかしながら、前記3(1)ア(エ)及び同(オ)のとおり、「饂」の文字は、常用漢字ではないことなどから現在ではあまり使用されなくなったものの、「饂飩(うどん)」の表記の1文字目によく使用され、日常生活においてなじみ深い漢字であるといえるものであり、「饂」の文字自体でも「温かな食物、うどんの意。」の意味を有するものである。このような漢字に「めん類」の意味を有する「麺」とを合わせてなる本件商標「饂麺」は、「うどん」に係る「めん」であることを理解、認識させるのは当然のことであり、また、岩波書店が発行している中型国語辞典として歴史のある「広辞苑」においても長年にわたり「汁で煮たうどん」の意味で掲載されてきたものであり、自他商品の識別標識としての機能を有する語とはなり得ないものである。
イ 商標権者は、取消理由の判断が「饂麺」を商品の一般名称として認識し、その根拠として一部の国語辞典に掲載される「饂麺」の説明記述に基づき、本件商標をいわば商標第3条第1項第1号に規定する「普通名称」と理解したものと推測されるとして、商標法においての「普通名称」とは、単にその語句の説明が国語辞典に掲載されている事実のみをもって決せられるものではなく、取引界において「その商品について一般名称になった」現実の認識を要することは明白なところである旨主張する。
しかしながら、前記3(2)のとおり、取消理由通知において「本件商標がその指定商品中の『調理済みのうどん,うどんのめん,うどん用つゆ』に使用された場合、これに接する取引者・需要者は、該商標が付された商品を『調理済みの饂麺(汁で煮たうどん)』、『饂麺(汁で煮たうどん)用のめん』又は『饂麺(汁で煮たうどん)用つゆ』であると認識するものである」とあるように、「饂麺」の表記を「料理の名称」ないしそのたぐいとしてみているものであり、取消理由の判断が「饂麺」を単に商品の一般名称又は商標法第3条第1項第1号に規定する「普通名称」であるとの理解に基づいているものでないことは明らかであり、商標権者の主張は失当である。
ウ 商標権者は、「饂麺」なる語が、現在の我が国において極めてなじみの薄い語であり、一部の辞書に掲載される一方、数多くの国語辞典においてその語の説明は見当たらないものであるところ、取消理由において開陳されたその事実は、本件商標の審査時点においてすでに明らかになっていたことであり、当該事実を前提とした上で、本件商標についての拒絶査定不服審判の審決は、本件商標の自他商品役務識別機能を是認しているのであって、その判断を覆すような客観的事実は明らかになっていないから、本件商標の自他商品役務識別力を否定することは妥当でない旨主張している。
しかしながら、商標登録の異議申立制度は、商標登録に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成するために、登録異議の申立てがあった場合に特許庁が自ら登録処分の適否を審理し、瑕疵ある場合にはその是正を図るというものであって、拒絶査定不服審判制度とは、その趣旨及び内容を異にするものであり、仮に、判断に係る事実が同一のものであっても、その商標登録出願について、拒絶査定不服審判において登録すべきとされたものが、登録異議の申立てについての審理においてその商標登録を取り消すべき旨の決定がされることは有り得るものであり、本件における判断も、拒絶査定不服審判の判断に拘束されることなくなされるものである。
エ 商標権者は、「商標法第3条第1項第3号の趣旨は、一般に広く使用される(あるいは使用されつつある)ことをもって自他商品役務識別力を喪失するに至った商標又は何人も使用することが要請される独占適応性を欠く商標の登録を排除するものといえる。本件商標の構成語である「饂麺」の語をインターネットにおいて検索実施したところ、その検索ヒット件数は膨大なものとなるが、「饂麺」が「汁で煮たうどん」の意味において我が国市場において一般に広く使用されている事実は皆無であるから、商標法第3条第1項第3号の立法趣旨から徴しても、本件商標の自他商品役務識別力を否定することは妥当でない。」旨主張する。
しかしながら、「商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であつて、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。」(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決)とされているところである。
そして、商標権者がいうような、「饂麺」が「汁で煮たうどん」の意味において我が国市場において一般に広く使用されていなければならないというようものでは必ずしもなく、「商標法3条1項3号は、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき、それ故に登録を受けることができないとしたものであって、該表示態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべきである」(東京高裁平成12年(行ケ)第76号同年9月4日判決)から、商標権者の該主張も採用することができない。
オ 商標権者は、証拠方法として乙第1号証を提出して「『饂麺』の語のインターネットにおける検索ヒット件数は膨大なものとなるが、そのほぼすべてが、ラーメン店『糀や』の『饂麺』の紹介記事であり、そのラーメン店『糀や』は、本件商標権者の代表者が経営するものであり、『饂麺』は、同人が独自に考案した店舗等提供商品の名称であって、全国的に人気のある同店のメニューの一つである。本件商標は、商標権者により継続的に使用されており、インターネットや雑誌などの各媒体を通じて日本国内において広く知られるものとなっており、かかる点からも商標法第3条第1項第3号に該当しない。」旨主張する。
しかしながら、商標権者は、同社の代表者が経営するラーメン店「糀や」において「飲食物の提供」の役務を行うにあたり、提供するメニューの一つとして「饂麺」と表示するものを採用していることを述べているにすぎないところ、本件商標に係る指定商品は、前記1のとおり、「調理済みのラーメン,調理済みのうどん,中華そばのめん,うどんのめん,ラーメン用つゆ,うどん用つゆ」であり、その主張の内容が本件の商標登録と直接関係するものではなく、商標権者の主張は失当である。なお、「飲食物の提供」における役務においても、インターネットにおける状況(乙第1号証)程度では、「饂麺」の表示が日本国内において広く知られるものとなっているということはできない。
さらに、商標権者は、「本件商標は、その全体構成から自他商品役務識別力を備えるものと解されるが、本件商標は商標法第3条第2項に規定する使用による顕著性を獲得した商標と評価されるべきものである。」旨主張する。
しかしながら、商標法第3条第2項は、「商標法第3条第1項第3号から同第5号までに該当し、本来、商標登録を受けることができない商標であっても、自己の業務に係る商品又は役務について使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。」旨規定されているところ、本件商標は、上記認定のとおり、判断するのが相当であり、そもそも本項の規定に該当するべきものではないから、商標権者の主張は失当である。
(3)以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3項及び同法第4条第1項第16号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 <別掲>
申立人所有商標(登録第1670230号商標)


異議決定日 2011-06-03 
出願番号 商願2007-93149(T2007-93149) 
審決分類 T 1 651・ 272- Z (X30)
T 1 651・ 13- Z (X30)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小松 孝 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 田中 敬規
酒井 福造
登録日 2009-05-15 
登録番号 商標登録第5229771号(T5229771) 
権利者 有限会社フューチャーファクトリー
商標の称呼 ウーメン、オンメン 
代理人 須田 孝一郎 
代理人 須田 元也 
代理人 大津 洋夫 

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