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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010890069 審決 商標
無効2008890042 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X45
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X45
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X45
管理番号 1236664 
審判番号 無効2010-890053 
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-09 
確定日 2011-05-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5306076号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5306076号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5306076号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成からなり、平成20年7月1日に登録出願され、第45類「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去,個人の身元又は行動に関する調査」を指定役務として平成22年3月5日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第46号証並びに検甲第1及び第2号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の利益
本件商標は、請求人である岡田久信が使用し、テレビ等のメディアで大々的に取り上げられて著名なものとなっている、盗聴器の探査及び撤去等の役務を表示する商標「盗聴Gメン」と類似し、その使用は役務の出所の混同を来たすおそれのあるものであるから、請求人は、本件審判を請求することについて利害関係を有する。
2 引用商標について
(1)引用商標1
現在の請求人のホームページ(http://www.future-sc.com/、甲第1号証)に「盗聴器・盗撮器発見調査撤去専門の盗聴Gメン」と記載されている。以下、請求人のホームページを「請求人HP」という。
甲第2号証は、甲第1号証に示す請求人HPの過去の記載を「Welcome to The Internet Archive Wayback Machine(http://web.archive.org/collections/web.html)」により検索した結果である。この結果から、請求人HPは、2002年5月頃から記録が残っていることが分かる。
甲第2号証の2006年10月19日と表示されている部分をクリックすることにより表示される、過去の請求人HPが甲第3号証である。甲第3号証の最下段に「オフィス・店舗・住宅盗聴盗撮対策は盗聴Gメン」と記載されているとおり、遅くとも2006年10月頃より、請求人は「盗聴Gメン」の文字からなる商標(以下「引用商標1」という。)を盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務について使用を開始した。
同様に甲第2号証の2007年12月3日と表示されている部分をクリックすることにより表示される、過去の請求人HPが甲第4号証である。甲第4号証の請求人HPのタイトルに「盗聴発見の盗聴Gメン」と記載されている。
このように、遅くとも2006年10月頃より、請求人は引用商標1を盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務について使用を開始し現在に至るまで継続的に使用している。
また、請求人は、遅くとも2006年10月頃から、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務を提供する際に、役務の提供を受ける者に対して請求人が発行する申込用紙及び領収書に引用商標1を付して使用している(甲第6及び第7号証)。
さらに、請求人は、2006年4月25日から、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務提供の際に、顧客との取引書類において引用商標1を使用している(甲第8号証)。
(2)引用商標2
請求人は、遅くとも2006年10月頃から、黒い長方形内に、左側に大きな「G」の文字、右側上段に「盗聴」の文字、及び右側下段に「メン」の文字が白抜きで表示された構成からなる商標(別掲(B)のとおり。以下「引用商標2」という。)を名刺に使用している(甲第5号証)。なお、引用商標2は、インターネットに表示されるウェブサイトにおいて盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務を表示する商標として遅くとも2005年8月頃から紹介されている(甲第9ないし第19号証)。
このように、引用商標2は、本件商標が登録出願される以前から使用されているものである。
以下、引用商標1及び2を一括して単に「引用商標」ということがある。
3 引用商標の著名性について
上記2で説明した引用商標1は、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務を表示する商標としてテレビ等のメディアで大々的に取り上げられて著名なものとなっている。
すなわち、請求人の使用する「盗聴Gメン」の商標は、甲第20ないし第42号証並びに検甲第1及び第2号証に示されるように、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務を表示する商標として繰り返し紹介されている。特に、「盗聴Gメン」の表示と共に、請求人が実際に盗聴器の探査及び撤去をする様子が克明に放送されている。
このように、2006年11月から現在に至るまで、「盗聴Gメン」なる引用商標は、請求人が盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務を表示する商標として、テレビ等のメディアで大々的に取り上げられており、日本国内で著名となっているものである。
4 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標1に類似するものであり、その役務について使用をするものである。
(1)請求人の業務に係る役務を表示する点について
甲第1ないし第4号証に示すとおり、請求人HPに「盗聴器・盗撮器発見調査撤去専門の盗聴Gメン」、「オフィス・店舗・住宅盗聴盗撮対策は盗聴Gメン」及び「盗聴発見の盗聴Gメン」と記載されている。
また、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務提供の際に使用する各種取引書類に「盗聴Gメン」の文字からなる引用商標1が使用されている(甲第5ないし第8号証)。
このように、請求人は、遅くとも2006年10月頃から現在に至るまで継続的に、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務について「盗聴Gメン」の文字からなる引用商標1を使用している。
さらに、請求人は、盗聴器・盗撮機の発見、調査、撤去を業務として行っている(甲第1ないし第4号証)。
(2)需要者の間に広く認識されている点について
甲第20ないし第44号証並びに検甲第1及び第2号証に示すとおり、請求人の使用する引用商標1は、2006年11月から現在に至るまで繰り返しテレビ等のメディアにおいて放映されていることから、本件商標の登録出願時点である平成20年7月1日はもちろんのこと、現在でも需要者の間に広く認識されている商標である。
(3)商標の類似について
本件商標は、「G」の文字を大きく左に配置し、右上段に「盗聴★」を配置し、右下段に「メン」との文字を配置してなり、一目しただけで漢字表記である「盗聴★」との部分を認識することができ、続いて違和感なく「Gメン」との部分を認識するこができる。このため、本件商標からは「トウチョウジーメン」との称呼が生じる。
一方、請求人の「盗聴Gメン」の文字からなる引用商標1からも「トウチョウジーメン」の称呼が生ずるものといえる。
また、両商標は共に「盗聴を防止するGメン(Government Men、政府取締関係者)」を観念上想起させる。
よって、本件商標と引用商標1とは、称呼及び観念において同一であり、互いに類似する。
(4)役務の類似について
甲第1ないし第4号証に示すとおり、請求人HPに「盗聴器・盗撮器発見調査撤去専門の盗聴Gメン」、「オフィス・店舗・住宅盗聴盗撮対策は盗聴Gメン」及び「盗聴発見の盗聴Gメン」と記載されており、請求人の業務に係る役務は、盗聴器又は盗搬器の発見、調査及び撤去である。
また、本件商標の指定役務は、第45類「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去、個人の身元又は行動に関する調査」である。
ここで、盗聴器又は盗撮機の探査とは、盗聴器又は盗撮機を探り調べるという程度の意味であるが、盗聴器又は盗撮機の発見、調査の意味との間に実質的な違いはない。
以上より、本件商標に係る指定役務と引用商標1に係る役務とは「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去」という点において互いに類似する。
(5)小括
よって、本件商標は、指定役務「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去」について商標法第4条第1項第10号に該当する。
なお、本商標権者は、審査段階において発せられた拒絶理由通知に対する意見書として請求人HPの写しを甲第1号証(商標権者により手続補足)として添付している。
しかしながら、商標権者が示したまさにその請求人HPにおいて請求人によって2007年12月頃から「オフィス・店舗・住宅盗聴盗撮対策は盗聴Gメン」と表示され、さらには請求人HPのタイトルにおいて「【盗聴発見と盗聴発見の盗聴Gメン】」と表示されているとおり(甲第43及び第44号証)、請求人が盗聴器又は盗撮機の発見、調査及び撤去の役務の提供に「盗聴Gメン」の文字からなる引用商標1を継続して使用しているにも関わらず、意図的にこれらの事実には全く触れず、請求人が盗聴器又は盗撮機の発見、調査及び撤去の役務の提供に引用商標1を使用していないかの如く審査官を誤誘導したものである。
この商標権者の意図的な誤誘導により、審査段階においては本件商標が商標法第4条第1項第10号に規定する商標に該当しないと判断されたものである。
5 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある商標は商標登録を受けることができない旨を規定する。
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。
そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10(行ヒ)85審決取消請求事件、H12.07.11第三小法廷判決)。
(2)商標の類似について
前述のとおり、本件商標と引用商標1とは、称呼及び観念において同一であり、互いに類似する。
(3)商標の著名性について
前述のとおり、引用商標1は、2006年11月23日から現在に至るまで、テレビで繰り返し放映されており、本件商標の出願時点から現時点においても、盗聴対策の役務を提供する業者はもちろんのこと、盗聴対策の役務に関心を持つ需要者には、岡田久信の提供する役務の一つを表示するものとして広く認識されている。
また、「盗聴Gメン」なる商標は、請求人が2006年10月頃から積極的に使用しているが(甲第3ないし第8号証)、「盗聴Gメン」なる語は辞書にも出ていない独創的な商標である。
(4)役務の共通性について
前述のとおり、請求人は、盗聴器・盗撮器の発見、調査及び撤去の役務を提供しているところ、本件商標に係る指定役務「盗聴器又は盗聴機の探査及び撤去,個人の身元又は行動に関する調査」と請求人の「盗聴器・盗撮器の発見、調査及び撤去」の役務とは、主としてセキュリティー保全のための役務という用途において極めて密接な関連性を有しており、両役務の取引者や需要者の相当部分が共通する。
(5)広義の混同を生ずるおそれについて
前述のとおり、請求人が盗聴器・盗撮器の発見、調査及び撤去の役務に使用している引用商標1が繰り返しテレビで放映されている事情から、本件商標をその指定役務の「盗聴器又は盗聴機の探査及び撤去」又は「個人の身元又は行動に関する調査」に使用した場合には、取引者や需要者は本件商標を使用する者を請求人と親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信するおそれがある。
(6)小括
以上から、本件商標をその指定役務に使用するときは、その取引者及び需要者において、上記役務が請求人と緊密な関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信されるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
6 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)請求人は、遅くとも2006年10月頃から現在に至るまで継続的に、盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去の役務について「盗聴Gメン」との文字からなる引用商標1を使用して、盗聴器・盗撮器の発見、調査、撤去を業務として行っていること、引用商標1は、本件商標の出願時点である平成20年7月1日はもちろんのこと、現在でも需要者の間に広く認識されている商標であり、また、盗聴Gメンなる語は辞書にも記載はなく、独創的な商標であること、本件商標と引用商標1とは、称呼及び観念において同一であり、互いに類似すること、については既に述べたとおりである。
(2)不正の目的について
前述のとおり、引用商標2は、黒の長方形の中に「G」の白抜き文字を大きく左に配置し、右上段に「盗聴」との白抜き文字を配置し、右下段に「メン」との白抜き文字を配置してなる独創的なものであり、請求人が2006年10月頃から使用を始めた名刺に掲載しているものであって、本件商標が登録出願される以前に多くの第三者のウェブサイトにも紹介されている。
これに対し、本件商標は、「G」の文字を大きく左に配置し、右上段に「盗聴」との文字と「★」の記号とを配置し、右下段に「メン」との文字を配置してなるものである。
本件商標と引用商標2とを比較すると、商標の背景の白と黒とが逆転している点、「盗聴」の文字の横に「★」の記号を配置した点が異なる。しかしながら、両者とも「G」の文字を大きく左側に配置した点、「盗聴」との文字を右上段に配置した点、及び同じ外観・称呼・観念の「メン」を右下段に配置した点が共通する。
本件商標権者は、平成21年2月17日に発送された拒絶理由通知に対して平成21年7月16日提出の意見書において、本件商標から「トウチョウジーメン」との称呼が生じることを主張しているが、「トウチョウジーメン」との称呼の中央付近にある「G」の文字だけを大きく左側に配置する点、「盗聴」の文字を右上段に配置する点、及び「メン」の文字を右下段に配置する点が偶然になされるのはあまりにも不自然である。
また、「盗聴Gメン」の文字からなる引用商標1は、前述のとおり、再三テレビ等のメディアに取り上げられている。
仮に、請求人と異なる者がこれらの放送時間分のテレビ放映枠を確保するとなると莫大な金額が必要となる。本件商標権者が本件商標に係る商標権を得ることができるとすれば、自らテレビCMを打つことなく、莫大な金額を自ら負担することもなく、請求人が営々として築き上げてきた「盗聴Gメン」に関する信用をタダ同然で横取りすることが可能となるのである。
再三放映された「盗聴Gメン」に関する放送番組(甲第20ないし第42号証)を参考に、請求人の引用商標2にヒントを得て、日本国内において「盗聴Gメン」に関する商標登録がなされていないことを奇貨として本件商標についての出願行為に及んだことは明らかである。
したがって、本件商標権者は不正の目的を持っているということができる。
(3)小括
以上から、本件商標は、請求人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用する商標である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
7 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものであるから、その登録を無効にすべきものである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出している。
1 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
商標法第4条第1項第10号は、その該当性の要件について、査定時のみならず登録出願時においても必要とされているところ(同法第4条第3項)、引用商標は、本件商標の登録出願時において、需要者の間に広く認識されているものではなかった。
したがって、引用商標は、本件商標の登録出願時において、商標法第4条第1項第10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」(周知性を有する商標)には該当しないものであることから、本件商標が引用商標との関係において、上記規定に該当することはない。以下、この点につき、請求人が提出した甲号証を中心に検討していくこととする。
(1)商標法第4条第1項第10号にいう「周知商標」及びその立証について
商標法第4条第1項第10号は、商標(未登録周知商標)に化体した業務上の信用を保護すべく、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」は、商標登録を受けることができない旨を規定している。
ここで、同法第4条第1項第10号にいう「需要者の間に広く認識されている商標」(周知商標)とはどのようなものかについて考察するに、それは、同規定の記載からすると、単に表示自体が広く知られているのみでは足りず、「商品若しくは役務を表示するもの」として、広く知られている(周知性)表示(商標)のことをいうものと解する。
なぜなら、ある表示自体が、広く認識されているものであったとしても、この表示から、一体誰のどのような「商品若しくは役務」なのかを想起できないようなものは、その商品役務に係る業務上の信用が商標に化体することはなく、同規定により保護を及ぼすべき対象が存在しないからである。
したがって、商標法第4条第1項第10号にいう「周知性」の立証のためには、単にその表示自体が需要者の間に広く紹介されている事実を示すのみでは足りず、同規定の保護対象である、その表示(商標)に化体した業務上の信用を明らかにすべく、常に、その表示(商標)と商品若しくは役務との関係を明確に表す態様にて立証を行う必要があるといえる。
(2)引用商標の周知性について
上記のとおり、商標法第4条第1項第10号に該当するためには、査定時のみならず登録出願時においても、その要件を充足していることが必要とされる(同法第4条第3項)。そこで、まず、ここでは、本件商標の登録出願時における引用商標の周知性について検討する。
(ア)検討を要する甲号証の範囲
請求人が、引用商標の周知性を立証するために提出した証拠は、甲第2ないし第8及び第19ないし第42号証並びに検甲第1及び第2号証と多岐に亘るものである。
しかしながら、本件商標が出願されたのは、平成20年7月1日であることから、本件商標の登録出願時において、引用商標が周知性を有するか否かの判断にあたっては、甲号証の内、当該出願時点までの事実を示すもののみを検討すれば足りる。
したがって、ここでは、当該出願時点までの事実を示す甲第2ないし第8、第19、第29ないし第42号証及び甲検第1号証のみを検討し、当該出願時以降の事実を示す甲第20ないし第28号証及び甲検第2号証は検討しない。
(イ)甲第2ないし第8及び第19号証の検討
請求人は、引用商標の著名性を立証するため、過去の請求人HP(甲第2ないし第4号証)、請求人の名刺及び宣誓書(甲第5号証)、請求人が使用する申込用紙見本及び宣誓書(甲第6号証)、請求人が使用する領収書見本及び宣誓書(甲第7号証)、新規業者登録書類(甲第8号証)並びにウェブサイトの表示画面の写し(甲第19号証)を提出している。
そこで、これらの証拠から、引用商標が本件商標の登録出願時において周知性を有していたかにつき検討すると、過去の請求人HP(甲第2ないし第4号証)及びウェブサイトの表示画面の写し(甲第19号証)には、これらのサイトヘのアクセス数が示されていない。
また、請求人の名刺(甲第5号証)、請求人が使用する申込用紙見本(甲第6号証)、請求人が使用する領収書見本(甲第7号証)及び新規業者登録書類(甲第8号証)の記載からは、請求人の取引実績等(取引数、売上げ等)を確認することができない。
したがって、このような証拠からは、引用商標に化体した請求人の業務上の信用の程度を計り知ることはできず、これらの証拠をもって、引用商標が本件商標の登録出願時点において、周知性を有していたとすることはできない。
(ウ)甲第29ないし第42号証及び検甲第1号証の検討
甲第29ないし第42号証及び検甲第1号証は、いずれも、盗聴の実態を紹介するテレビ番組(以下「請求人出演番組」という。)において、請求人が「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去」の専門家として「盗聴Gメン」と紹介されている事実を示すものである。そのため、「盗聴Gメン」は、一見、周知性を有するものとも思われる。
しかしながら、甲第29ないし第42号証及び検甲第1号証を冷静にみれば、「盗聴Gメン」との語は、請求人出演番組内で、「盗聴Gメン岡田久信氏」若しくは「盗聴Gメンに密着」等と表示されているのみであり、当該表示と併せて請求人が提供する役務の内容、提供方法及び提供場所等が紹介されているものではない。
してみれば、これらのテレビ番組を視聴した者は、当該「盗聴Gメン」との表示を請求人の業務に係る役務を表示するものと捉えることはできず、むしろ、請求人イコール「盗聴Gメン」というように、請求人の通称と認識するものと考えるのが自然といえる。
したがって、請求人が提出する甲第29ないし第42号証及び検甲第1号証は、いずれも、「盗聴Gメン」との表示と請求人の業務に係る役務との関係性を明らかにするものではなく、このような証拠をもって、引用商標に請求人の業務上の信用が化体しているものと解することはできない。
よって、これらの証拠をもって、引用商標が本件商標の登録出願時点において、周知性を有していたとすることはできない。
なお、仮にこれらの証拠が「盗聴Gメン」との表示と請求人の業務に係る役務との関係性を明らかにするものであったとしても、引用商標が本件商標の登録出願時点において、周知性を有していたとはいえない。
このことを具体的に説明すれば、請求人が提出する検甲第1号証は、請求人出演番組の録画が記録されているところ、下記表に示すとおり、当該番組内において、「盗聴Gメン」との表示が映されたのは、全番組の合計放送時間1時間25分04秒中、合計で25分23秒程度であり、一回の「盗聴Gメン」との表示時間は平均で31秒であった。
また、「盗聴Gメン」とナレーションされた回数は、合計19回であり、1回のナレーション時間がおよそ0.5秒であったことからすると、請求人出演番組内において、「盗聴Gメン」とナレーションされたのは、およそ時間にして10秒程度であった。
したがって、いくら「盗聴Gメン」がテレビ番組で紹介されたといっても、これが請求人出演番組で紹介されたのは合計してもわずかの時間のことであり、この程度の事をもって、日本全国の大多数の国民が「盗聴Gメン」を請求人の業務に係る表示と認識するものとは到底いえないものである。
よって、仮に甲第29ないし第42号証及び検甲第1号証が「盗聴Gメン」との表示と請求人の業務に係る役務との関係性を明らかにするものであったとしても、引用商標が本件商標の登録出願時点において、周知性を有していたとはいえない。
(3)小括
以上より、引用商標が、本件商標の登録出願時において、周知性を有していなかったことは明らかである。
よって、その他の要件を検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
2 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
商標法は、第4条第1項第15号において、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨を規定している。
そして、商標法は、さらに第4条第3項において、同法第4条第1項第15号に該当するためには、査定時のみならず登録出願時においても、その要件を充足することが必要である旨を規定している。
ここで、本件商標がこの商標法第4条第1項第15号に該当するかについてみれば、上記のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、周知性を有していなかったものである。
してみれば、本件商標の登録出願時において、本件商標をその指定役務に使用したとしても、これに接する需要者が、本件商標と周知でない引用商標とを誤認混同するおそれがあったということはできない。
したがって、本件商標は、「他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当しないことから、このような本件商標が商標法第4条第1項第15号の適用を受けることはない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
商標法は、第4条第1項第19号において、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」は商標登録を受けることができない旨を規定している。
そして、商標法は、さらに第4条第3項において、商標法第4条第1項第19号に該当するためには、査定時のみならず登録出願時においても、その要件を充足する必要がある旨を規定している。
ここで、本件商標が、この商標法第4条第1項第19号に該当するかについてみれば、上記のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、周知性を有していなかったものである。
したがって、引用商標は、本件商標の登録出願時において、商標法第4条第1項第19号にいう「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」には該当しないものであることから、本件商標が引用商標との関係において、同法第4条第1項第19号に該当することはない。
4 補足
本件商標が、請求人が主張する無効理由を有しないことは上記のとおりであるが、ここでは、請求人が提出する証拠及び請求人の主張に対し、若干の補足を加える。
(1)請求人の主張の信憑性について
甲第5ないし第7号証の各宣誓書は、第三者により作成されたものではなく、請求人自身が作成しているものである。
そのため、これらの証拠は、証拠としての客観性を欠くものであり、これら宣誓書に付される「請求人の名刺(甲第5号証)、請求人が使用する申込用紙見本(甲第6号証)、請求人が使用する領収書見本(甲第7号証)」に基づく請求人の主張は信用できない。
また、請求人が甲第5号証として提出する「請求人の名刺」には、「テレビ等に多数出演実績あり」との記載があるところ、宣誓書(甲第5号証)によれば、当該名刺は、2006年10月より配布しているとのことである。
しかしながら、請求人が提出する証拠によれば、請求人がテレビ出演したのは、2006年11月23日からであることから(甲第42号証)、この宣誓書で請求人が述べていることは矛盾している。
さらに、当該名刺の左斜め下には、請求人の写真画像が付されているところ、当該画像は、2007年10月30日放送の「テレビ朝日ワイド!スクランブル」に出演した際の請求人の写真画像(甲第36号証)であることから、「当該名刺を2006年10月より配布している」という請求人の主張には信用性がない。
(2)請求人が自身の業務に使用する商標について
請求人は、ことさらに、「『盗聴Gメン』は、請求人の業務に係る役務を表示する商標である」と主張する。
しかしながら、請求人が運営する「フューチャーセキュリティグループ」のホームページ(乙第1号証。以下「請求人ホームページ」という。)には、「盗聴Gメン・盗撮Gメンとは盗聴盗撮スーパーバスターズフューチャーセキュリティに属する調査員の『通称です』」との記載がある。
そのため、この「請求人ホームページ」(乙第1号証)の記載に照らせば、請求人は、「盗聴Gメン」との語を自身の提供する役務表示(商標)と認識していないことが理解できる。
なお、請求人ホームページ内の記載を見渡せば、当該ホームページの左上には、「青抜きで構成される盾型の図形」が配置されており(乙第1号証)、また、該図形は、甲第5号証の請求人の名刺の左上にも表示されているものである。
したがって、このような図形の位置及び大きさ等からすれば、上記図形が請求人の提供する役務の表示(商標)であると考えるのが自然といえる。
(3)被請求人の意見書での主張
請求人は、被請求人が審査官を誤誘導して本件商標を登録に導いたと主張する。
しかしながら、被請求人の審査段階における意見書での主張は、「請求人のホームページ(乙第1号証)の記載によれば、『盗聴Gメン』との語は、『調査員の通称』として使用されているものであり、商標的には使用されていない。」という、商標的使用に関する商標法上の解釈を述べたものである。
したがって、請求人が引用商標を使用していないというのは、あくまでも「当該表示を商標的に使用していない」という法的主張なのであるから、上記被請求人の主張が、審査官が法的判断を行う際の前提事実を偽り若しくは隠蔽する等して、その法的判断を誤誘導するということはあり得ない。
5 結語
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号には該当しないものであることから、商標法第46条第1項第1号により無効にされるべき理由はない。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 請求の利益について
請求人が本件審判を請求する法律上の利益を有することについては当事者間に争いはなく、当審も、請求人は本件審判の請求人適格を有するものと判断するので、以下、本案に入って審理する。
2 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)甲第1号証は、請求人HPの写しと認められるところ、その右下隅の「10/07/07」の数字によれば、本件商標の登録出願(平成20年7月1日)後である2010年7月7日にプリントアウトされたものといえる。甲第2号証は、請求人HPの過去の記載履歴を検索した結果の写しと認められるところ、2002年の欄に「May27.2002」を初め4件が記載されていることからすると、請求人HPは、本件商標の登録出願前である2002年5月27日以降に開設されたものと推認される。
(イ)甲第3及び第4号証は、甲第2号証による請求人HPの検索結果のうち、本件商標の登録出願前である2006年10月19日又は2007年12月3日時点での記載とされるものである(当該頁の上から二段目のドメイン名欄中に、前者については「.../web/20061023165229/...」との、後者については「.../web/20071218100710/...」との各記載が見られる。)。そして、いずれも頁の最下段に「オフィス・店舗・住宅盗聴盗撮対策は盗聴Gメン盗撮Gメン本部」と記載されている。同内容の請求人HPは、本件商標の登録出願後である2007年12月18日及び2008年7月26日の履歴にも見られる(甲第43及び第44号証)。
(ウ)甲第5号証は、請求人の名刺と認められるところ、該名刺には、氏名の上段に「テレビ・新聞・雑誌の取材出演多数の実績!」及び「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ」の文字が二段に横書きされ、さらに、右下隅に引用商標2が表示されている。
甲第6号証は、「調査申込書」見本とされる書面であり、甲第7号証は「領収書」見本とされる書面であり、いずれも右下に「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ」の文字が住所、電話番号等と共に表示されているが、該表示部分は、他の文字部分とは態様が異なり、スタンプ等により印字したものと推認されるほか、宛名、日付、内訳等は空欄であって実際に使用されたものとはいえない。
請求人は、上記名刺及び書面が2006年10月から使用されている旨宣誓しているが、それを客観的に証明するものはない。
(エ)甲第8号証は、請求人と株式会社アーバンエステートとの間に交わされた取引書類の写しと認められるところ、そのうちの「FAX送付状」には「2008年4月25日」の日付が付され、送信先として「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ岡田様」と記載されているほか、平成20年4月26日付の「差入証」及び「誓約書」にも「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ」の文字が住所等と共に表示されている。
また、株式会社アーバンエステートが作成したと見られる2通の「明細書」には、「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ御中」と記載されているほか、施主名、上棟日(2008年5月21日(水)、2007年10月26日(金))が記載され、「盗聴検査費用」として発注金額が記載されている。
(オ)甲第9ないし第19号証は、請求人及び被請求人以外の他人のウェブサイトの写しと認められるところ、いずれも調査サービス等を紹介するものであって、請求人HPにリンクできるようになっており、当該欄には、「盗聴Gメン盗聴バスターズ盗聴発見盗聴調査盗聴器発見盗聴器調査」との記載(甲第19号証)や、「盗聴発見盗聴器発見盗聴調査盗聴器調査は盗聴盗撮発見調査本部」、「盗撮カメラ発見盗聴器発見調査/住宅盗聴盗撮対策本部」、「盗聴器発見の盗聴器調査は盗聴盗撮対策本部」等の文字と共に、引用商標2が表示されている(甲第9ないし第18号証)。そして、これらのウェブサイトの記載内容は、「更新日」の記載によれば、本件商標の登録出願前である2004年1月28日から2007年12月10日までの間に更新されているものである。
(カ)甲第29ないし第42号証は、本件商標の登録出願前の2006年11月23日から2008年6月17日までの間に14回に亘って、テレビ各局において放映されたテレビ番組の映像面の写しと認められるところ、上記テレビ番組は、盗聴・盗撮について紹介するものであって、いずれの画面にも「盗聴Gメン」の文字が大きく表示されているほか、「密着!盗聴Gメン」、「”盗聴Gメン”に密着」、「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ岡田久信CEO」、「盗聴Gメン岡田久信氏」、「追跡!盗聴被害」、「激撮!衝撃の現場 密着!盗聴Gメン」、「”盗聴Gメン”パトロール事件簿」、「盗聴器次々発見の瞬間”盗聴Gメン”密着!!」等の表示と共に盗聴器発見、盗聴調査、盗撮調査等を行う様子が撮影されている。同様の番組は、本件商標の登録出願後である2008年10月29日から2010年6月30日までの間にも放映された(甲第20ないし第28号証)。これらの番組は、一部(甲第31ないし第35及び第41号証)を除き、全国ネットで放映された。実際に放映された様子は、検甲第1及び第2号証により確認できる。
(2)以上のとおり、請求人は、2006年(平成18年)10月頃から「盗聴Gメン」の表示を用いて盗聴器、盗撮器の探査及び撤去の業務を開始し、同年11月頃から現在に至るまで、請求人が盗聴器発見、盗聴調査、盗撮調査等を行う様子が「盗聴Gメン」の文字と共にテレビ番組で繰り返し紹介されていること、テレビ放映が需要者に与える影響が極めて大きいことは顕著な事実であること、上記請求人の業務については、本件商標の登録出願前から他人のウェブサイトでも度々紹介されていること、などが認められることからすると、「盗聴Gメン」の文字からなる引用商標1は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係る役務「盗聴器又は盗撮器の探査及び撤去」等を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものといえる。
この点に関し、被請求人は、甲第29ないし第42号証及び検甲第1号証に示すテレビ番組の視聴者は「盗聴Gメン」の表示を請求人の業務に係る役務を表示するものとは捉えず、請求人の通称と認識するのが自然であり、上記証拠は「盗聴Gメン」の表示と請求人の業務に係る役務との関係性を明らかにするものではない旨主張している。
確かに、上記テレビ番組では「盗聴Gメン・フューチャーセキュリティ岡田久信CEO」、「盗聴Gメン岡田久信氏」、「盗聴Gメンに密着」等の表示がされており、「盗聴Gメン」が請求人個人の通称の如くに認識される一面があることは否定し得ない。
しかしながら、請求人が盗聴器、盗撮器の探査及び撤去等の役務を業として行っていることは明らかであり、テレビ番組では請求人が盗聴器発見、盗聴調査、盗撮調査等の業務を行う様子が放映され、「盗聴Gメン」の語が繰り返し表示されていることからすれば、視聴者が「盗聴Gメン」の語をもって請求人の業務たる盗聴器発見、盗聴調査、盗撮調査等の役務を端的に表示したものとして認識し理解する場合も決して少なくないものというべきであり、「盗聴Gメン」の語は自他役務の識別標識たる商標としての機能を果たしているといえるから、被請求人の主張は採用することができない。
(3)本件商標は、別掲(A)のとおりの構成からなるところ、「G」の文字が大きく表されているとしても、「盗聴」及び「メン」の文字とを併せ、「盗聴Gメン」の文字からなるものとして「トウチョウジーメン」の一連の称呼を生ずるものといえる。
他方、引用商標1は「盗聴Gメン」の文字からなるものであり、「トウチョウジーメン」の称呼を生ずること明らかである。
してみれば、本件商標と引用商標1とは、称呼及び構成文字を共通にするものであって、彼此相紛らわしい類似の商標といわなければならない。
また、本件商標の指定役務中の「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去」と引用商標1が使用されている上記役務とは、同一又は類似といえるものである。
(4)したがって、本件商標は、その指定役務中の「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去」の役務については、商標法第4条第1項第10号に該当するものといわなければならない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号平成12年7月11日判決参照)。
これを本件についてみるに、前示のとおり、引用商標1は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において請求人の業務に係る盗聴器、盗撮器の探査及び撤去等の役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものであること、引用商標は、全体として親しまれた既成の観念を有する成語を表したものではなく、独創性を有するものといえること、本件商標と引用商標1とは類似するものであること、特に、本件商標と引用商標2とは、「G」の文字を大きく表し、かつ、「盗聴」及び「メン」の文字を二段に表すという構成において酷似していることから、偶然の一致とは考え難く、本件商標は、引用商標の周知性ただ乗りするものといえなくもない。
加えて、本件商標の指定役務中の「盗聴器又は盗撮機の探査及び撤去」の役務と引用商標が使用されている役務とは同一又は類似のものといえるばかりでなく、残余の指定役務「個人の身元又は行動に関する調査」と引用商標に係る役務とは、その目的、提供方法、需要者、取引者等を共通にする場合が多く、少なからぬ関係を有するものといえるし、両者の需要者は特別の専門知識を必要とする者ではなく、商標について格別の注意を払って取引するものともいえない。
以上を総合すると、本件商標をその指定役務中の「個人の身元又は行動に関する調査」について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、周知な引用商標ないしは請求人を連想、想起し、該役務が請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、その指定役務中の「個人の身元又は行動に関する調査」については、商標法第4条第1項第15号に該当するものといわなければならない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものであるから、請求人のその余の主張(商標法第4条第1項第19号該当性)について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(A)本件商標(登録第5306076号商標)




(B)引用商標2




審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-07 
審決日 2011-03-23 
出願番号 商願2008-52803(T2008-52803) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (X45)
T 1 11・ 271- Z (X45)
T 1 11・ 25- Z (X45)
最終処分 成立  
前審関与審査官 矢代 達雄 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小林 由美子
小川 きみえ
登録日 2010-03-05 
登録番号 商標登録第5306076号(T5306076) 
商標の称呼 トーチョージイメン、ジイトーチョーメン、ジイメン 
代理人 平野 泰弘 
代理人 西田 研志 

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