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審決分類 審判 査定不服 商4条1項7号 公序、良俗 登録しない X30
管理番号 1236556 
審判番号 不服2010-8186 
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-18 
確定日 2011-04-18 
事件の表示 商願2008- 55045拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は、「勇将信玄」の文字を横書きしてなり、第30類に属する出願時の願書に記載の商品を指定商品として、平成20年7月8日に登録出願されたものである。
そして、指定商品については、原審における同21年2月24日受付けの手続補正書によって、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと」と補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、その構成中に、『信玄』の文字を書してなり、該文字は、戦国時代の武将として著名な『武田信玄』の略称として著名なものと同一と看取されるものである。ところで、一般に、歴史上の著名な人物にゆかりのある土地等では、当該人物の氏名や略称などの標章を観光や土産物販売等の事業に用いて地域振興を図っているものである。そうとすれば、該略称を含む本願商標を、一私人に、指定商品について独占使用を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、公の秩序及び一般的道徳観念に反し穏当でない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 本願商標について
本願商標は、前記第1のとおり、「勇将信玄」の文字を標準文字で表してなり、容易に「勇将」と「信玄」の文字(語)を結合してなるものと認識させるものである。
そして、本願商標は、その構成中の「勇将」の文字が「勇気に富む大将。勇ましい将軍。」を、「信玄」の文字が「武田信玄」を意味(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)することから、全体として、「勇気に富む大将、武田信玄」のごとき意味を認識させるものであって、武田信玄を表したものとみるのが相当である。
2 商標法4条1項7号の解釈について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである。(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決言渡)
ところで、周知・著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情も多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知・著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。(参考 商標審査便覧42.107.04「歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱いについて」http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/syouhyoubin.htm)
そうとすれば、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標は、これを一私人の商標としてその登録を認めることは当該人物名を使用した公益的な事業を阻害するおそれがあるとみるのが相当であるから、当該商標は、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものといわなければならない。
3 「武田信玄」の周知・著名性並びに「武田信玄」、あるいは「信玄」の名称を冠した地域興し及び観光振興事業等の事実(下線は当合議体により付記した。)
(1) 「武田信玄」の周知・著名性について
ア 「広辞苑第六版」(株式会社岩波書店 2008年1月11日第一刷発行)には、「武田信玄」の項があり、そこには「戦国時代の武将。信虎の長子。名は晴信。信玄は法名。1541年(天文10)父を追放して甲斐国主となり、民政・領国開発に力を入れ甲州法度を定める。近傍諸国を攻略し、上杉謙信と川中島で戦うこと数回。上洛を志し、織田信長と雌雄を決しようとして三河の野田城攻囲中に病を得、伊那駒場に没。(1521?1573)」の記載がある。
イ 「大辞林第三版」(株式会社三省堂 2006年10月27日第三版発行)には、「武田信玄」の項があり、そこには「1521 1573 戦国時代の武将。名は晴信。信玄は法号。父、信虎を追放して家督を継ぎ、信濃に進出。越後の上杉謙信と川中島で激戦を展開した。1572年、西上の途次、三方ヶ原で徳川家康を破ったが、翌年三河の陣中で病没。軍略家としてすぐれ、『信玄家法』を制定。鉱山開発・治水にも業績をあげた。」の記載がある。
ウ 「コンサイス日本人名事典<第5版>」(株式会社三省堂 2009年1月10日第1刷発行)には、「たけだ しんげん 武田信玄」の項があり、そこには「1521?73(大永1?天正1)戦国時代の大名。・・(中略)・・卓抜な戦略・戦術家で、'47(天文16)『甲州法度之次第』を発布、家臣団の編成と統制、検地・治水等、領国経営にみるべき施策が多い。法名は法性院信玄。」の記載がある。
エ 「朝日新聞 東京朝刊」(2009年4月18日付け4頁)
「(be report)トレンド『歴女』が好きな武将たち」の見出しのもとに、「若い女性に戦国時代の武将が人気なのだという。そういえば、武将ゆかりの城跡や墓所に女性の姿が目立つようになり、多くの人が『地味な主人公』と感じたNHK大河ドラマ『天地人』は好評だ。『戦国萌(も)え』『歴女(れきじょ)』といった単語がネットにあふれ、便乗企画も現れてきた。テレビゲームから生まれたこの流れ、教科書とは趣を異にする、武将たちの新たな魅力を引き出している。・・(中略)・・■時代屋グループによる人気武将ランキングとお薦めの1冊 (1)真田幸村(城田優)『真田太平記』池波正太郎・新潮文庫・・(中略)・・(7)武田信玄『甲陽軍鑑』〈佐藤正英訳〉・ちくま学芸文庫」の記載がある。
オ フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」において、「武田信玄」の見出しのもと、「概要」の項に、「・・・江戸時代から近現代にかけて『甲陽軍鑑』(以下『軍鑑』)に描かれる伝説的な人物像が世間に広く浸透し、風林火山の軍旗を用い、甲斐の虎または、龍朱印を用いたことから甲斐の龍とも呼ばれ、戦国最強とも呼ばれた武田軍を率い、また上杉謙信の良き好敵手としての人物像が形成される。現在でも、地元の山梨県をはじめ全国的に高い知名度を持ち、絶大な人気を集めている戦国武将の一人である。」とあり、「関連作品」の項に、「小説 ・風林火山- 新潮社、井上靖 ・武田信玄- 文藝春秋、新田次郎 武田信玄- 講談社、津本陽 ・武田信玄- 成美堂出版、土橋治重 ・武田三代記- 新人物往来社、高野楽山 映画 ・新書・忍びの者(1966年、大映、武田信玄:石山健二郎) ・風林火山(1969年、東宝・三船プロ、原作:井上靖、武田信玄:初代中村錦之助) ・戦国自衛隊(1979年、角川映画、半村良原作、武田信玄:田中浩) ・影武者(1980年、東宝・黒澤プロ 武田信玄と影武者の二役:仲代達矢) ・天と地と(1990年、角川=東映配給、武田信玄:津川雅彦)」との記載があるほか、テレビドラマやテレビゲーム等に多数記載されている。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E7%94%B0%E4%BF%A1%E7%8E%84)
(2)「信玄」、あるいは「武田信玄」の名称を活用した行事等
ア 「信玄公祭り」について
(ア)「甲府市」のウェブサイトにおいて、「第40回信玄公祭り」の見出しのもと、「第40回信玄公祭り 天下一の武者行列を見よ!! 4月9日(金)?11日(日) ※雨天など、都合によりイベントの内容・時間等が変更になることがあります 【問い合わせ】山梨県信玄公祭り実行委員会 電話055-231-2722 甲府市信玄公祭り実行委員会 電話055-237-5702」の記載がある。
(http://www.city.kofu.yamanashi.jp/contents/content/view/7605/270/)
(イ)「甲府市観光協会」のウェブサイトにおいて、「年間イベント情報」の見出しのもと、「4月9日 信玄公祭り前夜祭 市内中心部 4月10日 信玄公祭り(甲州軍団出陣) 市内中心部 4月11日 信玄公祭り 市内中心部 4月12日 武田24将騎馬行列 武田神社?市内一円」の記載がある。
(http://www.e-kofu.com/www/topics/event/year.html)
(ウ)「社団法人やまなし観光推進機構」のウェブサイトにおいて、「第41回信玄公祭り特別協賛並びに広告協賛を募集中です。」の見出しのもと、「第41回信玄公祭りが平成23年4月8日(金曜日)?10日(日曜日)まで開催されます。この信玄公祭り実施に伴い、公式ポスターやガイドブックへのご協賛について募集しております。協賛方法はポスター、幟旗、TV他での告知を行なう『特別協賛』と、公式ガイドブック内での告知を行なう『広告協賛』の2種類となります。詳しい告知内容は下記資料をご覧下さい。約10万人の方々が訪れるこのイベントでの告知効果と信玄公祭りの開催主旨にご賛同いただける企業様のご応募をお待ちしております。お問合せ先 名称 信玄公祭り実行委員会事務局」の記載がある。
(http://www.yamanashi-kankou.jp/shingenko-fes/2010_koukoku-tokubetu_kyousan.html)
(エ)「よみがえる戦国歴史絵巻 第41回信玄公祭り」と称するウェブサイトにおいて、「信玄公祭りとは 戦国の名将『武田信玄公』いま蘇る 信玄公の館跡つつじヶ崎(現在の武田神社)の桜がさきほこる春4月、甲府盆地には『風林火山』の旗がはためき、いっきに戦国時代にタイムスリップします。信玄公の命日4月12日を中心に山梨県内の各地では、その遺徳を偲ぶさまざまな信玄公の祭りが行われます。甲府市中心部を会場に行われる『信玄公祭り』は例年、命日(4/12)の前の金?日曜に盛大に開催され、土曜日の夕方からは、県内各地から1,500名の軍勢が甲府駅前広場に集結し、川中島に向け出陣する様子を再現します。その規模は日本最大級!もえさかるかがり火のもと、信玄公をとりまく勇猛果敢な武田二十四将とともに執り行う出陣の儀式・三献の儀から『風』『林』『火』『山』の各軍団の出陣へと、華麗ななかにも勇ましい一大戦国絵巻がくりひろげられます。(雨天決行)」の記載がある。
(http://www.yamanashi-kankou.jp/shingen/about.html)
イ 博物館等による武田信玄に関する資料の展示等について
(ア)「歴史博物館 信玄公宝物館」における展示
「歴史博物館 信玄公宝物館」ウェブサイトにおいて、「信玄公宝物館とは」の見出しのもと、「戦国武田氏関係の遺宝・秘宝を一堂に常設公開する山梨県唯一の文部大臣登録歴史博物館信玄公宝物館は、昭和42年、京浜地区在住の山梨県出身者の寄付によって設立された財団法人武田信玄公宝物保存会を設立者として管理運営しており、信玄公菩提寺・乾徳山恵林禅寺が所蔵する資料の保存と管理、財団事業として資料の収集等を積極的に行い、昭和44年4月、歴史教育機関の一環を担い公開施設としてオープンしたものです。」の記載がある。
(http://shingen.iooo.jp/about.html)
(イ)「山梨県立博物館」における展示
「山梨県立博物館」のウェブサイトには、例えば平成18年3月28日から同年5月14日まで「開館記念特別展 よみがえる武田信玄の世界」が開催された旨の記載がある。
(http://www.museum.pref.yamanashi.jp/3nd_tenjiannai_06tokubetsu001.htm)
ウ 「武田神社」について
「甲斐 武田神社」のウェブサイトにおいて、「御祭神・神社について」の見出しのもと、「御祭神 武田晴信(信玄)公 武田神社は武田信玄公を御祭神としてお祀り申し上げております。・・(中略)・・現在でも県民こぞって『信玄さん、信玄さん』と呼びならわし敬慕の情を表し、郷土の英雄として誇りともする所以であります。 甲斐の国総鎮護 武田神社 大正4年、大正天皇のご即位に際し信玄公墓前に従三位追贈(じゅさんみついぞう)が奉告されたのを契機に、ご遺徳を慕う県民に武田神社ご創建の気運が沸き上がり、官民一体となった『武田神社奉建会』が設立され、浄財によって大正8年には社殿が竣工、4月12日のご命日には初の例祭が奉仕されました。」の記載がある。
(http://www.takedajinja.or.jp/1_jinja.html)
エ 観光振興等について
甲府市の「甲府市観光ガイド」と称するウェブページには、「信玄公(武田家)ゆかりの場所」として、武田神社、甲斐善光寺、積翠寺、要害城跡、信玄公墓、大泉寺、入明寺、信玄公像及び甲府五山等を紹介するとともに、「信玄の一生をたどるコース(1日)」と称して、武田信玄の誕生の地や館跡、墓地など信玄公の一生を順にたどるコース等が紹介されている。
(http://www.city.kofu.yamanashi.jp/kanko/spot/0301.htm)
(http://www.city.kofu.yamanashi.jp/kanko/osusume/108.htm)
4 まとめ
(1)前記3で認定した事実から、次のことを認めることができる。
「武田信玄」は、歴史上の人物として、人名辞典のみならず辞典・辞書から小説、映画及びテレビドラマ等の主人公として多数登場し、さらには、近年の戦国武将・歴史ブームにより漫画やテレビゲーム等の登場人物にもなっているなど、全国的に周知・著名な歴史上の人物名といえる。
山梨県においては、県、甲府市、観光協会及び協賛企業等により、毎年「信玄公祭り」が甲府市内を中心として大規模に開催され約10万人の人が訪れている。また、武田信玄、武田氏に関する資料、文化財等は博物館・特別展等により保管・公開され、当該博物館等には多くの人が訪れている。そして、「武田神社」においては、武田信玄を御祭神として祀り、毎年、例大祭を行っている。そうとすれば、武田信玄は山梨県民はもとより我が国国民に広く敬愛されているといえる。
さらに、前記の「信玄公祭り」や、武田信玄にゆかりのある多数の史跡は、山梨県及び甲府市の主要な観光イベント、観光地等となっており、それらの観光地等を巡る観光コースも多数存し、それらが県及び市の観光振興及び地域おこしのための施策となっている。
(2)前記(1)のとおり、武田信玄は、周知・著名な歴史上の人物であって、山梨県民をはじめ我が国国民に広く敬愛されており、さらには、山梨県及び甲府市のシンボルとして、「信玄」及び「武田信玄」の名称が観光振興や地域おこしに広く活用されていることが認められる。
そして、本願の指定商品である食品は、一般的に土産物品及び特産品等として生産・販売されているものである。
そうとすれば、周知、著名な歴史上の人物名である「武田信玄」を表す「勇将信玄」の文字からなる本願商標を、一私人である請求人の商標として登録することは、甲府市、山梨県等の武田信玄のゆかりのある地域の人たちをはじめとして、我が国の国民感情を害するおそれがあり、武田信玄の名称を活用した観光振興や地域おこしなどの施策の遂行を阻害するおそれがあると判断するのが相当である。
してみれば、本願商標をその指定商品に使用することは社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものというべきであるから、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものといわなければならない。
なお、請求人は、過去の登録例を挙げて、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当しない旨主張するが、登録出願に係る商標が同号に該当するか否かについては、当該商標の査定時又は審決時における実状に基づき判断すべきものであり、前記3の実状からすれば、上述のとおり判断すべきであるから、請求人の主張は、採用することができない。
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-01-17 
結審通知日 2011-01-31 
審決日 2011-02-14 
出願番号 商願2008-55045(T2008-55045) 
審決分類 T 1 8・ 22- Z (X30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 孝 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 旦 克昌
小畑 恵一
商標の称呼 ユーショーシンゲン、ユーショー、シンゲン 
代理人 伊藤 將夫 

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