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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y39
管理番号 1222953 
審判番号 無効2009-890140 
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2010-08-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4873873号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4873873号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4873873号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおり、「宅急送」の漢字をゴシック体風の書体で表し、その下段に「ZJS EXPRESS」の英文字を小さく表し、これらの文字の左側に薄い青色で彩色された輪郭線にぶら下がる猿と思しき図形を配した構成よりなり、平成16年12月10日に登録出願、第39類「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,貨物の積卸し」を指定役務として、平成17年5月13日に登録査定、同年6月24日に設定登録されたものである。

2 引用商標
(1)本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同項第7号に違反して登録されたものとして、請求人が引用する登録第3023793号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなり、平成4年9月30日に登録出願、第39類「貨物車による輸送,貨物自動車による輸送」を指定役務として、平成7年2月28日に設定登録され、その後、同17年3月1日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
(2)本件商標が商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものとして、請求人が引用する登録第3041600号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(3)のとおりの構成からなり、平成4年9月30日に登録出願、第39類「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く)の代理・媒介又は取次ぎ,寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,倉庫の提供,駐車場の提供」を指定役務として、平成7年4月28日に設定登録され、その後、同17年4月26日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求人及び利害関係
請求人は、大正8年に開始したトラック輸送などの輸送事業を中核とし、特に、昭和51年1月に「宅急便」の独自商標のもとに新たに開始した宅配システム事業などを継続して現在に至っており、引用商標を独占的に使用している。継続している事業は、上記事業の外、家財等の長期保管事業、メール便事業、オリジナル物販「得選市場」事業、商品取り寄せ情報検索サービス、クレジットカード決済サービス、その他の事業があり、事業は輸送役務の外にかなり広がっている。
なお、引用商標の商標権者ヤマトホールディングス株式会社はヤマトグループの管理会社であり、請求人は会社法上の子会社である。
このことから、請求人以外の者によって本件商標が使用されると請求人本人の業務に係る役務と混同を生じる重大なおそれがあると判断しており、本件商標の登録の有無は自己の商標を使用し管理する請求人の地位に直接関わるものであるから、請求人は本件審判を請求することに付き法律上の利益を有する。
(2)本件商標の構成について
本件商標は、上記1のとおりの構成からして、漢字「宅急送」が分離して単独的に取引者・需要者に訴求する商標であり、該漢字の構成からして、「宅急」と「送」の二語の結合語として認識され、全体として特定の観念を生じる一つの語ではないから、二語は観念において相互に関連性を有しない語である。
そして、語頭の「宅急」の文字は、特定された観念を有しないものであり(甲第5号証の1)、請求人側が昭和51年1月に開始した「宅急便」事業に使用するために案出した造語であって、それ以前には存在しなかった語である。
次に、語尾の「送」の文字は、「送り届けること。つかわすこと。」、「見おくること。」などの観念を有し(甲第5号証の2)、本件商標の指定役務にこれを用いれば、「荷物を送る」「輸送」「運送」「配送」「転送」など、「荷物などを送ること。送り届けること。」の意味としてごく当たり前に受け止められるものであって、指定役務の「輸送」そのものを意味しているにすぎず、出所表示機能、識別力を有しないものである。
してみれば、本件商標は、語尾の「送」が略されて、その要部たる「宅急」と観念され得るとともに、「タッキュウ」と略称され得るものである。
(3)「宅急便」の著名性について
請求人は、従来の宅配事業とは異なる新たな宅配事業、すなわち荷物などを顧客指定の届け先の家々に翌々日迄(今は翌日迄)に配達する全国展開の宅配事業を、「宅急便」(引用商標1)の商標のもとに昭和51年より開始した(甲第4号証)。「宅急便」は一定大きさ内であれば食料品、衣類、スポーツ用品、家電品、事務用品、贈答品、その他ほとんどあらゆる荷物を取り扱い、また、「クール宅急便」として冷凍冷蔵品専用宅配を、「国際宅急便」として外国との往復宅配を、「ゴルフ宅急便」としてゴルフ場の往復宅配を、「スキー宅急便」としてスキー場の往復宅配を行うなどし、個人のみならず、企業、自治体、その他の事業体も含めて「宅急便」が国民生活の不可欠な一部として浸透し、宅急便が社会生活スタイルを変えたといわれるまでに広く使用されて今日に至っている。
その間、「宅急便」のテレビコマーシャルを利用した宣伝広告も長期に亘って継続している(甲第6号証)。
そして、「宅急便」の取扱個数は、国土交通省の宅配便取扱個数データで明らかなように、昭和51年宅急便開始以来常に第1位を維持し続けている(甲第7号証の1ないし6)。
また、「宅急便」は防護標章登録第1号ないし第7号として登録されている(甲第2号証の1)。
さらに、昭和60年から平成4年にかけて発行されたサービスマークに関する書籍類には、サービスマークの代表例として、商標「宅急便」が取り上げられており、これら書籍類の発行当時すでに商標「宅急便」が周知著名であったことを示している(甲第8号証ないし甲第12号証)。
以上のように、「宅急便」は請求人の役務を指称するものとして遅くも昭和60年には既に取引者・需要者に広く知られた著名商標となっており、その状態は現在に至っても継続している。
(4)商標法第4条第1項第15号について
引用商標1は上記(3)で述べたとおり、請求人が使用する著名商標である。そして、輸送業界において宅配役務に使用されている各事業者の商標は、佐川急便、ペリカン便、フクツー宅配便、カンガルー便など、ほとんどが語尾に「便」を付けて「○○便」として使用されているのが実情である(甲第7号証)。しかも「便」は「荷物をある場所まで運ぶこと、又、その手段。」の意味であることが示されており(甲第5号証の3)、結局のところ取引者・需要者は「○○便」を一つの商標として見るものの、語尾の「便」は輸送(宅配)役務を示すにすぎない語であって、「○○」が出所表示機能、識別力を有する商標としての要部であると認識しているものとみることができる。加えて、「宅急便」及び「宅急」は請求人が独自に案出して使用している造語である。
してみれば、取引者・需要者は本件商標の「宅急」の文字部分から著名商標「宅急便」を直結的に想起し、或いは、前記(2)で述べたように、取引者・需要者は本件商標の構成中の「宅急」を要部と認識し、これによって出所表示機能、識別力を見分け、語尾の「送」は省略し、本件商標と引用商標1は造語「宅急」が一致するとの観念を持ち、同一称呼「タッキュウ」と略称し得るものと受け止めるものである。
以上のように、両商標は、類似性の程度が非常に高いものであるということができる。
また、請求人に係る役務と本件商標の指定役務は、「輸送」としての同一範疇(目的、効果など)にあるもの及び「輸送」と不可分に直接的な連携関連を持つ役務であるから、類似の役務または類似性がきわめて高く業務の混同が常に生じ得る役務であって、これらの取引者・需要者は共通している。
しかして、取引の実情に照らし、共通性を有する取引者・需要者において普通に払われる注意力をもって上記を総合的に判断すれば、本件商標は、請求人の役務と誤認混同するのみならず、経済的または組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるとして、請求人の業務と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第7号について
本件商標の主要部「宅急送」は、著名商標である引用商標1の要部であり造語である「宅急」をそのまま採用し、語尾の「便」に代えて同様の観念である「送」を付け換え、請求人が永年にわたる莫大な宣伝広告費用と営業努力によって培ってきた著名商標「宅急便」の信用力(ブランド価値)に故なく便乗するものであり、出所表示機能を希釈化させるものでもあるから、かかる本件商標は取引者・需要者を混乱させ、取引秩序に反するものであり、公の秩序、善良な風俗を害するおそれがあるので、商標法第4条第1項第7号にも該当する。
(6)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、前記(2)に述べたとおりであり、「宅急」と省略して観念され、「タッキュウ」と略称され得るものである。
一方、引用商標2は、造語「宅急」の漢字からなるものであり、「タッキュウ」と称呼されるので、本件商標は引用商標2と、商標の要部であり省略して観念され得る「宅急」において同一であり、略称し得る称呼「タッキュウ」が同一である。
また、本件商標の指定役務のうち、「鉄道による輸送、車両による輸送、船舶による輸送、航空機による輸送、貨物のこん包、貨物の輸送の媒介」がすべて引用商標2の指定役務と同一であり、「貨物の積卸し」はこれら「輸送」と不可分に直接的な連携関連を持つ役務であるから、これらと類似の役務である。
したがって、本件商標は引用商標2と商標が類似し、指定役務が同一または類似しているものであり、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(7)まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。

4 被請求人の主張
被請求人は、答弁していない。

5 当審の判断
(1)請求人会社について
「会社案内」(甲第4号証)によれば、請求人は、大正8年(1919年)に創立され、昭和4年(1929年)5月に社名を大和運輸株式会社とし、昭和57年(1982年)10月に商号をヤマト運輸株式会社と改称、その後、平成17年(2005年)11月にヤマト運輸株式会社のすべての事業を会社分割によりヤマト運輸分割準備会社へ分割し、純粋持株会社へ移行した。そして、ヤマト運輸株式会社は、ヤマトホールディングス株式会社へ、ヤマト運輸分割準備会社は、ヤマト運輸株式会社へそれぞれ商号変更した。
(2)引用商標1の著名性について
請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)「会社案内」(甲第4号証)には、請求人は、昭和51年(1976年)1月に関東一円において、小口貨物の特急配達システム「宅急便」を開始し、同年5月から逐次全国主要都市に拡大した。その後、昭和54年(1979年)3月の第114期宅急便で1,000万個を達成、昭和58年(1983年)12月にスキー宅急便の販売を開始、昭和59年(1984年)3月に第119期宅急便取扱で1億個を突破、昭和59年(1984年)4月にゴルフ宅急便の販売を開始、昭和63年(1988年)7月にクール宅急便を全国展開、平成7年(1995年)12月に宅急便発売開始からの発送個数が50億個を超えた旨記載されている。
(イ)「宅急便」についてのテレビによる宣伝広告が、昭和52年(1977年)ないし平成20年(2008年)の間、継続して行われている(甲第6号証)。
(ウ)運輸省調べ及び国土交通省調べの「宅配便の取扱個数」において、平成4年度、平成7年度、平成11年度ないし平成20年度の各年度ともに、宅配便名及び取扱事業者名として、「宅急便」及び「ヤマト運輸(株)」が1位に掲載されている(甲第7号証1ないし6)。
以上よりすれば、引用商標1は、請求人の業務にかかる「宅配便」の役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時には既に、我が国における運送に係る業界はもとより、一般の需要者の間にも広く認識されるに至っていたものと認められ、その著名性は、本件商標の登録査定時においても継続していたということができる。
(2)本件商標と引用商標1の類否について
本件商標は、別掲(1)のとおりの構成からなるところ、その構成中「宅急送」の文字は、その余の「ZJS EXPRESS」の英文字及び猿と思しき図形に比して、極めて顕著に表してなるものであり、その余の構成要素とは視覚的に分離して認識されるものであって、他にこれを一体のものとしてのみみなければならない格別の事情はないから、本件商標の構成中の「宅急送」の文字が、独立して自他役務の識別標識として機能するものというのが相当である。
一方、引用商標1は、別掲(2)のとおり、「宅急便」の文字からなるものである。
そうとすると、本件商標の構成中、独立して自他役務の識別標識として機能する「宅急送」の文字部分と引用商標1とは、いずれも漢字3文字からなり、その構成文字の書体が極めて酷似しており、それぞれの構成文字も「宅急」の文字部分を共通にし、異なる文字部分は、「送」と「便」の文字の差異にすぎないものである。
そして、該差異文字は、本件商標の指定役務及び引用商標1を使用する請求人の業務に係る「宅配便」の役務との関係よりすれば、自他役務の識別機能が極めて希薄な部分といえる。
したがって、本件商標と引用商標1とは、酷似の商標とみるのが相当である。
(3)本件商標の指定役務と引用商標を使用する請求人の役務の関連性について
本件商標の指定役務「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,貨物の積卸し」と引用商標1を使用する請求人の業務に係る「宅配便」の役務とは、いずれも輸送又は貨物に関する役務であって、取引者及び需要者を共通にする同一又は類似の役務である。
(4)出所の混同のおそれについて
以上のとおり、本件商標をその指定役務に使用した場合、当該役務に接する取引者、需要者は、請求人の業務に係る「宅配便」に使用されて著名な商標「宅急便」を想起して、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く誤信し、役務の出所について混同するおそれがある商標ということができる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(5)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について判断を示すまでもなく、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) 本件商標 (色彩については原本を参照)




別掲(2) 引用商標1




別掲(3) 引用商標2





審理終結日 2010-06-08 
結審通知日 2010-06-10 
審決日 2010-06-30 
出願番号 商願2004-117270(T2004-117270) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y39)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 きみえ 
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 岩崎 良子
渡邉 健司
登録日 2005-06-24 
登録番号 商標登録第4873873号(T4873873) 
商標の称呼 タッキューソー、タクキューソー、ゼットジェイエスエクスプレス、ゼットジェイエス 
代理人 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所 

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