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審決分類 |
審判 一部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない Y0405 審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Y0405 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y0405 |
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管理番号 | 1220009 |
審判番号 | 無効2009-680001 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-01-28 |
確定日 | 2010-04-12 |
事件の表示 | 上記当事者間の国際商標登録第834416号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件国際登録第834416号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおり、「ISDIN」の欧文字を書してなり、第3類「Bleaching preparations and other substances for laundry use;cleaning,polishing,scouring and abrasive preparations;soaps;perfumery,essential oils,cosmetics,hair lotions;dentifrices.」及び第5類「Pharmaceutical,medicinal,veterinary preparations and proprietary drugs.」を指定商品として、2003年12月18日にスペイン国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2004年6月12日に国際登録され、平成18年1月13日に我が国において設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する登録商標は、以下の(1)及び(2)である。 (1)登録第498384号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)のとおり、「ISODINE」の欧文字を書してなり、昭和31年5月2日に登録出願され、第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和32年3月20日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録が4回にわたりなされ、さらにその後、平成19年7月25日に、第5類「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。)、医療用油紙、衛生マスク、オブラート、ガーゼ、カプセル、眼帯、耳帯、生理帯、脱脂綿、ばんそうこう、包帯、包帯液、綿紗、綿撒糸、医療用海綿」を指定商品とする書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。 (2)登録第584989号商標(以下「引用商標2」という。)は、「イソジン」の片仮名文字を書してなり、昭和35年8月13日に登録出願され、第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和37年4月10日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録が4回にわたりなされ、さらにその後、平成14年4月24日に、第1類「化学品」、第5類「薬剤,ばんそうこう,包帯」を指定商品とする書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。 以下、引用商標1と引用商標2を併せていうときは、単に「引用商標」という。 第3 請求人の主張 請求人は、「本件商標の指定商品中、第5類『Pharmaceutical,medicinal,veterinary preparations and proprietary drugs.』についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると主張し、その理由を審判請求書及び弁駁書において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第169号証(枝番を含む。)を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号について (1)商標の類似について ア 称呼について 本件商標は「ISDIN」の欧文字を横書きしてなるところ、これは一種の造語といい得るものである。 造語には、直ちに特定の称呼を認識できない場合がある。このような場合、一般に英語読み風(又はローマ字読み風)に読まれる場合があるとして検討を行うことがあるが、本件ではさらに取引界における事情についても配慮を要する。 すなわち、本件商標及び引用商標にかかわる「薬剤」を取り扱う業界においては、語尾が「?DINE」で終わる商標については「?ジン」、「?ディン」又は「?ダイン」と読まれることが多い。同様に「?DIN」で終わる商標については、「?ジン」又は「?ディン」と読まれることが多い(甲第6号証の1及び2)。また、「IS?」については、英語読み風又はローマ字読み風に「イス?」と読まれるとみるのが自然である。 そうすると、本件商標は「イスジン」又は「イスディン」と読まれるとみるが相当である。 これに対して引用商標1は「ISODINE」の欧文字を横書きしてなり、一種の造語といい得るものであるが、「?DINE」は、英語読み風に「ディーン」と読まれる場合があるとしても、上述した取引の実情にかんがみれば「ジン」又は「ディン」(或いは、「ダイン」)と読まれる場合のほうか多いと考えられる。 なお、「ISO?」については、英語読み風又はローマ字読み風に「イソ」と読まれるとみるのが自然である。 そうすると、引用商標からは「イソジン」又は「イソディン」(若しくは「イソダイン」)の称呼を生ずるとみるのが相当である。 なお、現実の取引においては「イソジン」と称呼されている。 引用商標2は、「イソジン」の片仮名文字よりなるから、その構成文字に照応して「イソジン」の称呼を生ずる。 そこで、本件商標より生ずる「イスジン(イスディン)」と引用商標より生ずる「イソジン(イソディン)」とを対比してみるに、両者には第2音において「ス」と「ソ」の違いがある。 しかしながら、両者は同行音(「サ行」)に属するものであって、無声摩擦子音(s)を共通にするばかりでなく、「ス」の母音(u)と「ソ」の母音(O)は共に奥舌母音であって、音声学上も極めて近似した音質を有している。 また、これら差異音は共に下の歯を軽く開いて発せられるものであり、調音方法を同じくする近似音であるといえる。 しかも、当該差異音は共に中間音に位置している関係で、各商標の全体の称呼に与える影響は極めて小さいものとなっている。 なお、両商標は共に特定の観念を有しない造語であって、観念が称呼の記銘力に影響を及ぼすような特別な事情もない。 そうすると、両商標は、それらの全体を一連に称呼したときには、両称呼の語調・語感が近似していることよりして彼此聴き誤るおそれがある。 よって、本件商標は、引用商標と称呼において類似する。 イ 外観について 本件商標と引用商標1との対比において、引用商標1の中間部に位置する「O」と「E」の有無による文字数の差があるとしても、両商標は5文字・7文字というやや長い文字構成にあって、大部分を占める「I」、「S」、「D」、「I」及び「N」が同じであり、その差は僅かなものといえる。 そして、異なる時間・場所を想定した隔離観察を行った場合、需要者等の通常の注意力のみをもってして本件商標と引用商標1とを区別することは必ずしも容易ではなく、彼此紛れるおそれがある。 よって、本件商標は、引用商標1と外観において類似する。 ウ その他(取引の実情) 本件商標及び引用商標が使用される商品は、彼此とり違えて投与すると人間の命に関わる医薬等を含む「薬剤」やこれに関連する商品であって、商標の類否判断については、他の商品群における場合に比してより厳格に行うなどの配慮が必要であると解する。 エ まとめ 本件商標と引用商標は、少なくとも称呼・外観において近似しており、全体として類似する商標である。 また、本件商標の指定商品は、「薬剤」に属する商品であって、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品である。 さらに、指定商品の特殊性にかんがみれば、需要者保護の観点からも混同を排除する要請が特に高いものとなっている。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第15号について ア 本件商標と引用商標の類似性について 本件商標と引用商標は、上記(1)で述べたとおり、少なくとも、称呼及び外観において近似しているものであり、彼此紛れるおそれの高いものである。 イ 引用商標の著名性について 引用商標は、我が国においては、請求人の使用権者である明治製菓株式会社(以下「明治製菓」という。)によって長年にわたって使用されており、その結果、著名性な商標となっている(甲第7号証ないし甲169号証)。 請求人は、1957年にスイス国バーゼルで設立され、それ以後さらに活動の範囲を広げ、ムンディファーマ ラボラトリーズ社及びムンディファーマ メディカル社と共同で、独立関連企業であるパーデュー/ムンディファーマ/ナップのための国際貿易とライセンス関連の業務を行う会社として機能するようになった。 そして、請求人は、100力国以上でライセンスを受けた製品の販売を行うという、世界的なライセンス・物流ネットワークを有するまでになった。 これらは、アフリカとオーストラリアのみならず、中央アジア・極東アジアにおける、有力な企業との提携及びライセンス供与によるものを含むものである。 日本においては、1998年にムンディファーマ・ファーマシューティカルズGmbHが日本事務所(東京・丸の内)を開設した(甲第7号証ないし甲第11号証)。 さらに、2002年には、日本法人であるムンディファーマ株式会社を発足させ、臨床開発・承認申請・マーケティングまでを独自に一貫して行う体制を構築するに至った。 なお、請求人の製品自体は、その日本事務所や日本法人発足のはるか以前から、長年にわたり他の日本の製薬会社に対してライセンス供与を行うという形で製造・販売が行われ、すでに日本市場に本格参入していた(甲第12号証ないし甲第26号証)。 例えば、1967年に、明治製菓に対して、ポビドンヨードの製造・販売についてライセンス供与を行うと同時に、当該製品に使用される商標「ISODIN」(「イソジン」)についても通常使用権の設定を行った。 それ以降、当該製品は今日に至るまで日本市場において販売され、その商標「ISODIN」(「イソジン」)についても継続して使用された(甲第19号証ないし甲第60号証)。 このような長年にわたる莫大な販売実績により、請求人の製品は、日本市場における安定した信用を得ることとなり、同時にその使用商標「ISODIN」又は「イソジン」についても、需要者・取引者の間で広く認知されることとなった。 日本における「ISODIN」(「イソジン」)の関連商品の、一ヶ月あたりの売上高は、1992年度においては平均10億円、1993年度においては平均10.8億円、1994年度においては平均11.3億円、1995年度においては平均12.3億円、1996年度においては13億円、2000年度においては14.3億円と推移していたが、2001年度における一年間の売上高は、160億円、2002年度及び2003年度においては共に102億円、2004年度においては91億円、2005年においては69億円、2006年度においては61億円にのぼるまでになった(甲第61号証ないし甲第125号証)。 また、「ISODIN」(「イソジン」)の関連商品は、雑誌・新聞等においても多数紹介されている(甲第126号証ないし甲第169号証)。 以上より、引用商標は、本件商標の出願時(国際登録日)である平成16(2004)年6月12日にはもちろんのこと、(国内)登録時である平成18(2006)年1月13日当時においても、請求人の業務に係る商品(薬剤並びに医療補助品)を表示するものとして、既に日本国内において著名であった。 ウ 引用商標の独創性について 「ISODIN」及び「イソジン」は、既成語ではなく、特異な構成に係る創造語と認められる。 また、「ISODIN」及び「イソジン」は、指定商品との関係において特定の品質等の内容を表わすものでもなく、これが本件・引用商標が使用される業界においてありふれて使用されているとの事実も見あたらない。 よって、引用商標は独創性を有し、高い識別性を有する。 エ 本件商標と引用商標の商品の関連性及び需要者の共通性について 本件商標の指定商品は、「Pharmaceutical,medicinal,veterinary preparations and proprietary drugs.」(参考訳:薬用・医療用・獣医科用の薬剤及び製造販売の独占権を持つ薬剤)である。 これに対して請求人の著名商標が使用されている商品は、ポピドンヨードを主成分又はこれを一部に含有する消毒液・うがい薬などの薬剤又は医療用マスクなどの医療補助品等であり、両商標に係る各商品の間には極めて高い関連性がある。 オ その他 また、需要者に関しては、何人に対しても使用可能な「医薬品(薬剤)」又は「医療補助品」に属する商品であってその需要者としては、老若男女を問わない一般消費者が想定されるものであり、その注意力は決して高いものではない。 一方、取引者となる医療関係者は、上記のような一般消費者に比して高い注意力を有しているものと考えられるが、商品を彼此とり違えて投与する場合は人間の命に関わることになりかねず、出所の混同が、すぐに品質の誤認に結びつき、需要者にとって深刻な不利益を生ずるおそれが高い。 よって、「医薬品(薬剤)」又は「医療補助品」に属する商品についての混同の有無の判断は、他の商品群における場合に比してより厳格に行うべきである。 カ まとめ 以上の事情を総合勘案すれば、本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者・需要者をして、その商品が請求人の提供に係るものであるかの如く誤認をする、或いは、請求人と何等かの経済的・組織的関連がある者の提供に係る商品であるかの如く、或いは、請求人より技術供与又は商標に関する使用許諾を受けた商品であるかの如く商品の出所について混同を生じ、ひいてはその品質についても誤認を生ぜしめる蓋然性が極めて高いといわざるを得ない。 よって、本件商標は、請求人又はその使用権者の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるので、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第19号について 引用商標がわが国の需要者間で広く知られた商標であること、さらに、本件商標が、その著名な引用商標と類似しているものであることは、上記(1)及び(2)で述べたとおりである。 そこで、本件商標が不正の目的で使用されるものか否かが問題となる。 この点、請求人とは何らの関係を有しない他人が著名な引用商標と相紛らわしい本件商標を採択することは、本来自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、著名商標に化体した信用にただ乗り(フリーライド)ことを意味し、同時に、著名商標「ISODIN」(「イソジン」)に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがある。 また、請求人は被請求人に対して技術供与や品質等の監督を行っておらず、請求人による品質の管理は全く行き届かないところ、本件商標の指定商品は、人の命に関わる医薬品等の「薬剤」及びその関連商品であり、被請求人または権利の承継人等により品質の劣悪な商品が市場に置かれるようなことがあれば、請求人の名声が毀損されることになる。 なお、被講求人は、その指定商品の共通性から、請求人の著名商標「ISODIN」(「イソジン」)の存在を知っていると推認できる。 してみると、本件商標は不正の目的を以って使用をするものということができる。 以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 (4)請求人の答弁に対する弁駁 ア 被請求人は、被請求人がスペインの皮膚疾患市場のリーダーであると説明するが、それを裏付ける証拠の提出がないので、本件商標が、スペインをはじめとした欧米諸国において周知・著名な商標であるとは理解できない。 さらに、被請求人による説明や証拠によっても、被請求人が我が国で本格的に事業を展開しているとの事情は把握できないものであり、需要者間で本件商標が「イスディン」と呼ばれてなじまれているとの格別の事情も見あたらない。 してみると、本件商標は、我が国でもっとも親しまれているローマ字読み風又は英語読み風に、「イソジン」と称呼される場合も少ないないというべきである。 イ 仮に、本件商標が引用商標と全く関係なく採択されたものであったとしても、引用商標が我が国において周知又は著名である事実にかんがみれば、引用商標と類似する本件商標が使用された場合、請求人が長年にわたる営業努力の結果、引用商標に化体させた莫大な価値を希釈化させるおそれがある。 よって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。 (5)むすび 本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効にされるべきである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。 1 被請求人について 被請求人は、化粧品メーカーであるプッチ社(Puig)と製薬研究所であるエステベ社(Esteve)の2つのスペイン企業グループが共同設立した企業である。 1975年の設立以来、被請求人は、スキンケア製品(サンスクリーン、フェイスクリーム、ボディシローションなど)やトリートメント(にきび、皮膚炎、乾癬、その他の皮膚コンディションなど)など幅広い製品ラインの開発に努め、皮膚疾患の分野を専門としており、スペインの皮膚疾患市場のリーダーである。 被請求人は、1997年より、貿易関連の子会社と現地企業との流通販売契約を駆使して、本国のスペインから海外へ進出しており、現在はラテンアメリカ諸国、南ヨーロッパへ輸出を行っている(乙第1号証及び乙第2号証)。 本件商標は、被請求人(ISDIN,S.A)の商号の要部である「ISDIN」の文字から構成された被請求人のハウスマークであって、被請求人が海外へ進出する足掛かりとして出願し登録したものであり、日本を含む多くの国を指定しているものである(乙第3号証)。 2 本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しない理由 (1)称呼について 被請求人(ISDIN,S.A)は、我が国においては「イスディン社」と紹介されているから、本件商標からは「イスディン」の称呼を生ずるとみるのが自然である。 一方、引用商標は、甲各号証を見ても明らかなように、「イソジン」と称呼して長年取引されているものである。 この点、商標法第4条第1項第11号は、現実の取引における出所の混同を防止するための規定であるから、引用商標からは、現実に取引されている「イソジン」の称呼が生じるとみるべきであって、それ以外の称呼が生ずるはずはないものである。 本件商標の称呼「イスディン」と引用商標の称呼「イソジン」を比較すると、両称呼は、第1音の「イ」及び語尾音の「ン」を共通にするものの、第2音における「ス」対「ソ」及び第3音における「ディ」対「ジ」の差異を有するものである。 しかして、「ス」は無声摩擦子音「s」と母音「u」とを結合させた音であるのに対し、「ソ」は無声摩擦子音「s」と母音「O」とを結合させた音であって、両音は母音を異にする。 また、「ディ」が有声破裂音「d」と母音「i」とを結合させた音であるのに対し、「ジ」は有声摩擦子音「z」と母音「i」とを結合させた音であって、両音は、その調音方法並びに音質において異なるものである。 共に4音という短い音構成からなる両称呼においては、上記した違いを有する2つの差異音が両称呼全体に与える影響は非常に大きいものである。 特に、元々弱音である撥音「ン」が聞き取り難い語尾に位置することから、その前に位置する「ディ」と「ジ」に関する上記差異は際立つものであって、両称呼は、これを一連に称呼しても、その語調・語感において大差を有し、十分に聴別し得るものである。 したがって、本件商標と引用商標とは、称呼上類似しない。 (2)外観について 本件商標が「ISDIN」の5文字からなるのに対し、引用商標1は「ISODIN」の7文字からなるものであるから、両商標は、その中間と語尾において「O」及び「E」の2文字の有無という明らかな差異を有するものであって、外観上明確に区別し得るものである。 したがって、両商標が外観上相紛れるようなことはない。 (3)まとめ 本件商標と引用商標は、称呼及び外観において非類似の商標である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に該当するものではない。 3 本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当しない理由 上記2で述べたとおり、本件商標と引用商標とは、その称呼及び外観において明らかな差異を有するものである。 特に、甲各号証を見れば、請求人は引用商標2「イソジン」を主体的に使用しているものであるところ、欧文字で表記された本件商標「ISDIN」と、片仮名文字で表記された引用商標2「イソジン」とは、文字の種類において明らかな差異を有するものであって、彼此明確に区別されるものである。 また、被請求人は、上記1で述べたとおり、スペインにおいて皮膚疾患市場のリーダーとしての地位を獲得したものであるところ、本件商標は、当該被請求人の商号の要部である「ISDIN」の文字からなるものであって、引用商標とは全く関係なく採択したものである。 したがって、被請求人は、引用商標に化体した信用にあやかろうとする意図で本件商標を使用するものではない。 以上のとおり、本件商標の使用行為に不正の目的は無く、また、本件商標は、引用各商標とは明確に区別されるものであるから出所の混同を生ずるおそれもないものである。 よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号及び同第19号の規定に該当するものではない。 4 むすび 本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものではない。 本件商標が当該各規定に該当するものではない点については、本件商標が、その審査の過程で引用商標と類似する旨の拒絶理由(商標法第4条第1項第11号)を受けたものの、意見書を基に再度審査した結果、最終的に本件商標と引用商標とは非類似である旨の判断がなされている(乙第4号証及び乙第5号証)こと及び本件商標が引用商標1と類似することを理由に、商標法第4条第1項第11号に該当するとした請求人からの登録異議の申立てについて、本件商標と引用商標1とは非類似であると判断がなされている(乙第6号証)ことからも明らかである。 よって、請求人の主張は理由のないものであるから、答弁の趣旨のとおりの審決を求める。 第5 当審の判断 1 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標と引用商標1との類否 本件商標は、別掲(1)のとおり、「ISDIN」の欧文字からなるところ、当該文字(語)は特定の読みをもって親しまれた成語よりなるものとは認められないから、このような商標に接する取引者、需要者は、我が国において親しまれている英語風の読み又はローマ字風の読みをもって商取引に当たる場合が多いとみるのが相当である。 そうすると、英語において、「Islam」(イスラム教)が「イスラム」と称呼され、同じく「din」(騒音)が「ディン」と称呼されている例に倣えば、本件商標は、その構成文字に相応して「イスディン」の称呼を生ずるというのが自然である。 また、本件商標「ISDIN」は、商標権者の名称「ISDIN.S.A」の略称と認められるところ、乙第1号証によれば、商標権者の名称の略称である「ISDIN」は、「イスディン」と称呼されているという取引の実情が認められる。 かかる取引の実情に加えて、上で認定したとおり、本件商標からは英語風に「イスディン」の称呼が生ずることを考慮するならば、本件商標からは、「イスディン」の称呼のみを生ずるというのが相当である。 請求人は、本件商標の称呼について、「薬剤を取り扱う業界においては、語尾が『?DIN』で終わる商標は『?ディン』又は『?ジン』と称呼される場合が多い」旨主張し、甲第6号証の1及び2を提出している。 しかしながら、甲第6号証の1及び2は、欧文字と片仮名文字が併記された登録商標の例を挙げているにすぎないから、かかる証拠をもって、薬剤を取り扱う業界において、語尾が「?DIN」で終わる商標は「?ジン」と称呼されると認めることはできない。 また、他に、薬剤を取り扱う業界において、語尾が「?DIN」で終わる商標が「?ジン」と称呼されるととする実情を発見することもできないから、この点についての請求人の主張は採用しない。 一方、引用商標1は、「ISODINE」の欧文字からなるところ、当該文字(語)は特定の読みをもって親しまれた成語よりなるものとは認められないから、このような商標に接する取引者、需要者は、我が国において親しまれている英語風の読み又はローマ字風の読みをもって商取引に当たる場合が多いとみるのが相当である。 しかして、「Iso」は、「同じ、同等の、異性体の」の意で複合語を作る語であり、英語では「アイソ」と発音される(「コンサイスカタカナ語辞典」、株式会社三省堂、1996年12月1日発行参照)。そして、一般によく知られている英語においても、「isotonic」(等浸透圧)は「アイソトニック」と称呼され、また、「isotope」(同位元素)は「アイソトープ」と称呼されており、「iso」の文字部分は、「アイソ」と称呼されている。 さらに、英語の「dine」(食事をする)は、「ダイン」と称呼されている。 上記の例に倣えば、本件商標は、その構成文字に相応して「アイソダイン」の称呼のみを生ずるとみるのが自然である。 ところで、商標権者は、自らが販売するうがい薬、外用消毒剤等の薬剤の包装に「ISODINE」の表示と「イソジン」の表示を併せて使用している事実が認められる(甲第20号証、甲第22号証ないし甲第25号証等)。また、東京読売新聞、1998年5月11日、朝刊(甲第138号証)に「商標は『ISODINE』。本来、本来アイソダインだが日本風の発音『イソジン』に。」の記載がある。 しかしながら、「ISODINE」の文字から生ずる「アイソダイン」の称呼と「イソジン」の文字から生ずる「イソジン」の称呼とでは、構成音数や相違する各音の音質等が全く異なっていることなどから、「ISODINE」の文字が「イソジン」の語を欧文字表記したものであるとは認められない。 してみれば、引用商標1からは、上記で述べたとおり「アイソダイン」の称呼のみを生ずるというべきであって、「イソジン」の称呼は生じないというべきである。 次に、引用商標2の称呼についてみるに、引用商標2は、「イソジン」の片仮名文字からなるものであるから、その構成文字に相応して「イソジン」の称呼のみを生ずる。 そこで、本件商標と引用商標の称呼の類否について検討するに、本件商標より生ずる「イスディン」の称呼と引用商標1より生ずる「アイソダイン」の称呼とは、構成音の相違、相違する各音の音質の差等から、それぞれを一連に称呼するときは全体の語調語感が明らかに異なり、相紛れるおそれはないものである。 また、本件商標より生ずる「イスディン」の称呼と引用商標2より生ずる「イソジン」の称呼とは、いずれも4音というさほど長いとはいえない構成音数において、第2音における「ス」の音と「ソ」の音の差異及び第3音における「ディ」の音と「ジ」の音の差異を有するものであるから、これらの差異が称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものではなく、両者を一連に称呼するも、語調語感が異なり、互いに相紛れるおそれはないものである。 次に、本件商標と引用商標1の外観についてみるに、両商標は、その構成中の「I」、「S」、「D」、「I」、「N」の5文字を共通するとしても、本件商標は5文字、引用商標は7文字からなるものであるから、両者は、構成文字数を異にするものであって、かつ、後者は、中間と語尾において、「O」と「E」の文字の有無の差異を有することから、取引者及び需要者において、普通に払われる注意力をもってすれば、十分区別し得るものである。 また、本件商標と引用商標2の外観が相違していることは、明らかである。 そして、本件商標と引用商標は、ともに、特定の観念を生じない造語と認められるから、両商標は、観念上、比較し得ないものである。 してみると、本件商標は、引用商標とは外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても、非類似の商標といわなければならない。 ところで、請求人は、類似医薬品名による医薬品の取り違えによる医療事故の事象等をもって、一般の商標の類否判断に比して医薬品の分野においては、より類似の範囲を拡大して考えるべきである旨主張する。 しかしながら、商標の類否判断は、両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって判断すべきものであり、医薬品の商取引分野においてのみ、類似の範囲を拡大して考えるべき格別の理由があるということはできない。 したがって、この点についての請求人の主張は採用しない。 以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。 2 商標法第4条第1項第15号について 商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は、「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。」(最高裁判所第三小法廷、平成10年(行ヒ)第85号)。 そこで、上記基準に沿って、本件商標が、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるか否かについて、以下検討する。 (1)使用商標の周知著名性 ア 請求人の主張及び請求人が提出した証拠によれば以下の事実が認められる。 (ア)甲第18号証は、請求人の関連会社のホームページの写しと認められるところ、1頁目には、「日本で販売されている主なライセンス製品 イソジン(ポビドンヨード)」3頁目に「1987:明治製菓株式会社がイソジン(ポビドンヨード)を発売」の記載がある。 (イ)甲第18号証ないし甲第36号証は、請求人のホームページ及びうがい薬、外用消毒剤等に関する請求人の商品の写真の写しと認められるところ、いずれも商品の包装に「イソジン」の文字が表示されている。 また、褥瘡・皮膚潰瘍治療剤「イソジンシュガーパスタ」(甲第20号証)、外用消毒剤「イソジンフィールド」(甲第22号証)、外用消毒剤「イソジンパーム」(甲第23号証)、外用消毒剤「イソジンスクラブ」(甲第24号証)及び外用消毒剤「イソジンゲル」(甲第25号証)の商品の包装には、「ISODINE」の文字が表示されている。 (ウ)日本における「イソジン」の関連商品の月平均の売上高は、1992年度においては平均10億円(甲第62号証)、1993年度においては平均10.8億円(甲第65号証)、1994年度においては平均11.3億円(甲第66号証)、1995年度においては平均12.3億円(甲第67号証)、1996年度においては13億円(甲第68号証)と推移していたが、2001年度における一年間の売上高は、160億円(甲第82号証)、2002年度及び2003年度においては共に102億円(甲第87号証及び甲第96号証)、2004年度においては79億円(甲第108号証)、2005年においては69億円(甲第113号証)、2006年度においては61億円(甲第118号証)になった。 (エ)「イソジン」は、平成12年3月期決算国内売上ランキング101品目の40位(甲第78号証)、2001年3月期決算国内売上高ランキング100品目の45位(甲第82号証)、2002年3月期決算・国内売上高ランキング100品目の91位(甲第88号証)となっている。 イ 以上の事実を総合勘案すれば、引用商標2は、引用商標のライセンシーと認められる明治製菓により、うがい薬、外用消毒剤等に継続して使用され、宣伝、広告された結果、本件商標の出願時には、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されるに至っており、その周知性は、本件商標の登録時を含め、それ以降にも継続していたと認められる。 しかしながら、甲各号証をみても、引用商標1が表示されているのは、明治製菓のホームページや明治製菓が販売するうがい薬、外用消毒剤等の商品の包装に限られており、広告、宣伝、新聞・雑誌の記事等では、引用商標1は使用されておらず、引用商標2のみが使用されている。 かかる実情と、上記1(1)で認定したとおり、「ISODINE」の文字が「イソジン」の文字を欧文字表記したものとは認め難いという点とを考えあわせれば、引用商標1についての周知・著名性は、認められないというべきである。 (2)本件商標と使用商標との類似性の程度 本件商標は、引用商標とは外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても、非類似の商標といわなければならないことは、上記1で認定したとおりである。 (3)小括 引用商標は、特定の意味合いを有さない造語であることから、独創性の程度の高い商標であるということができ、また、引用商標2については周知・著名性が認められ、さらに、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品には関連性が認められるとしても、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても、別異の商標であるというべきであるから、本件商標に接する取引者、需要者は、普通に払われる注意力において、引用商標を連想、想起することはないというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。 3 商標法第4条第1項第19号について 本件商標と引用商標とが非類似の商標であることは、上記1で認定したとおりである。 また、本件商標は、被請求人の名称の略称と認められること、また、被請求人が本件商標の登録出願前の1975年に設立されていること(乙第1号証及び乙第2号証)からすれば、不正の目的をもって使用するものであるとは認め難い。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではない。 4 結語 本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
【別記】 |
審理終結日 | 2009-11-09 |
結審通知日 | 2009-11-11 |
審決日 | 2009-12-04 |
国際登録番号 | 0834416 |
審決分類 |
T
1
12・
222-
Y
(Y0405)
T 1 12・ 271- Y (Y0405) T 1 12・ 26- Y (Y0405) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
井岡 賢一 |
特許庁審判官 |
小林 由美子 岩崎 良子 |
商標の称呼 | イスディン、アイスディン |
代理人 | 石川 義雄 |
代理人 | 幡 茂良 |
代理人 | 石田 昌彦 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 小出 俊實 |
代理人 | 橋本 良樹 |
代理人 | 田中 克郎 |