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審決分類 審判 一部無効 称呼類似 無効としない X28
審判 一部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない X28
管理番号 1214623 
審判番号 無効2009-890089 
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-24 
確定日 2010-03-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第5079790号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5079790号商標(以下「本件商標」という。)は、「トラッド スロット」の文字と「TRAD SLOT」の文字を二段に横書きしてなり、平成19年1月15日に登録出願、第9類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務並びに第28類「ぬいぐるみ,おもちゃ,人形,遊戯用器具,スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル」を指定商品として、平成19年9月28日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2025602号商標(以下「引用商標」という。)は、「トラッド」の文字を横書きしてなり、昭和58年6月13日に登録出願、第24類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和63年2月22日に設定登録され、その後、平成10年5月26日及び平成20年1月8日に商標権存続期間の更新登録がされ、さらに、平成20年1月23日に、指定商品を第28類「おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具」とする指定商品の書換登録がされたものである。また、本件商標の商標権は、その指定商品中の「遊戯用器具」について、平成20年12月16日付けの審決により取り消され、その確定の登録が平成21年3月2日にされ、同じく、指定商品中の「ビリヤード用具」について、平成21年8月4日付けの審決により取り消され、その確定の登録が平成21年10月9日されたものであり、その余の指定商品についての商標権は、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中、第28類『遊戯用器具,スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル』についての登録を無効とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
1 請求の理由
(1)利害関係
請求人は、「TRAD/トラッド」の文字よりなる商標を、第28類「スロットマシン、その他の遊戯用器具、ビリヤード用具」を指定商品として商標登録出願(商願2008-51640)をした(甲第3号証)ところ、当該出願に対し、本件商標が引用され、拒絶査定を受けた(甲第4号証)。請求人は、この拒絶査定を不服とする審判(不服2009-7876)を請求しており(甲第5号証)、当該審判は、現在係属中である。
したがって、請求人は、本件審判を請求するにつき利害関係を有する。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は、その構成中、「スロット/SLOT」の文字部分は、指定商品「スロットマシン、スロットマシン周辺機器、スロットマシン用メダル、その他の遊戯用器具(スロットマシンに関連するもの)」との関係において、商品の略称若しくは異称又は商品の用途等を普通に用いられる方法で表示するものであるから、自他商品識別機能を果たさない部分である。
また、本件商標中の「スロット/SLOT」の文字部分は、指定商品「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」、すなわち、スロットマシンに類似する商品との関係において、上記のように、「スロットマシン」の略称若しくは「パチスロ」の異称として需要者に認識される。
なお、「スロット」が「スロットマシン」の略称若しくはパチンコ店等に設置されるスロットマシンである「パチスロ」の異称であると需要者に認識されることは、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「スロット」の項目に「・スロットマシンの略。」「・パチスロの別称。」と記載され(甲第8号証)、同じく「パチスロ」の項目に「パチンコ店等に設置されるスロットマシンのことである。」と記載され(甲第9号証)、「パーラーホームラン」(遊戯店)のウェブサイト(甲第10号証)においてスロットマシン(南国育ち-30)が「SLOT」又は「スロット」と表記(2頁)され、「パチンコパーラーデルダス」(遊戯店)のウェブサイト(甲第11号証)においてスロットマシン(2頁、4頁の南国育ちR2-30)が「スロット」と表記(2頁)されていること等から明らかである。
また、本件商標中の「トラッド/TRAD」の文字部分は、短く淀みなく一気に発音される「トラッド」の称呼を生じると共に、「(traditionalから)服装などが伝統的であるさま」(広辞苑 第六版)という観念を生じるものであり、「スロットマシン」等との関係において「トラッド/TRAD」の部分は自他商品識別力を有するものと認められる。
このように、本件商標は、「トラッド/TRAD」と「スロット/SLOT」の各文字部分が、それぞれの間に約2文字幅分の空白を挟んで書してなるものであるから、その構成上、左、右の各部分に分離して認識されやすく、指定商品「スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル,その他の遊戯用器具(スロットマシンに関連するもの)」との関係上、「スロット/SLOT」の部分は自他商品識別力を欠くのに対し、「トラッド/TRAD」の部分は、十分な自他商品識別力を有を有するものである。
したがって、本件請求に係る指定商品である「遊戯用器具,スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル」(以下「本件請求に係る指定商品」という。)に使用する本件商標において、「トラッド/TRAD」の部分は、要部であるというべきである。
イ 引用商標は、「トラッド」の片仮名文字を書してなるものであるから、これより「トラッド」の称呼を生じると共に、「服装などが伝統的であるさま」の観念を生じるものと認められる。
ウ そうすると、本件商標は、その要部である「トラッド/TRAD」の部分において、引用商標と称呼が共通し、観念も同一であり、また、外観が同一又は類似するものであるから、引用商標に類似するものというべきである。
エ したがって、本件商標は、その査定時及び登録時において、他人の先願登録商標である引用商標に類似し、かつ、引用商標の指定商品旧第24類「娯楽用具」に属する「遊戯用器具、玉突き用具」と同一又は類似の商品である第28類「スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル,その他の遊戯用器具」について使用するものであったから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、「トラッド/TRAD」と「スロット/SLOT」の各文字部分が、それぞれの間に約2文字幅分の空白を挟んで書してなるものであって、その構成上、左、右の各部分に分離して認識されやすく、しかも、「スロット/SLOT」の部分と「トラッド/TRAD」の部分の間には、意味の上での関連性が全くない。そのため、「スロット/SLOT」の部分は他の部分から分離して認識される。
このような本件商標を、その査定時及び登録時において、指定商品第28類「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」に使用した場合、「スロット/SLOT」の部分は、スロットマシンに類似する商品との関係において、「スロットマシン」の略称若しくは「パチスロ」の異称として需要者に認識されるので、「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」が「スロットマシン」又は「パチスロ」あるいはそれらの部品又は付属品等のスロットマシンに関連する遊戯用器具であるかのように、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあったというべきである。
したがって、本件商標は、指定商品第28類「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」について、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、その指定商品中の「遊戯用器具,スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル」について、商標法第4条第1項第11号に違反し、また、「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」について、同法第4条第1項第16号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とされるべきである。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 「SLOT/スロット」の文字が有する自他商品識別機能について
被請求人は、本件商標中の「SLOT/スロット」の文字について、需要者は、「みぞ穴に関する表示」や「コンピューターの基板を差し込む口に関する表示」等と、様々な意味合いに捉えることは明らかであると主張する。
しかしながら、被請求人も認めるように、本件商標を構成する「SLOT/スロット」の文字は、「スロットマシンの略、パチスロの別称」としての意味合いを有する(答弁書4頁上段)のであるから、本件審判請求に係る指定商品である第28類の「スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル,その他の遊戯用器具(スロットマシンに関連するもの)」及び「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」すなわちスロットマシンに類似する商品であるその他の遊戯用器具に本件商標が使用された場合には、審判請求書において述べた本件商標の構成から見て、需要者が本件商標中の「SLOT/スロット」の文字を「スロットマシンの略、パチスロの別称」と捉えることは疑いない。
被請求人は、拒絶査定不服審判(不服2001-7885)の審決例として乙第2号証を挙げて前記主張に係る事実を立証しようとしているが、乙第2号証の事案は、拒絶査定不服審判請求後に「スロットマシン」等を削除する指定商品の減縮補正が行われたものであり、商標の構成も本件商標と相違するものと認められるから、本件とは全く事案が異なる。
また、被請求人は、先願商標と、「SLOT」及び「スロット」の文字を有する後願商標とが併存する登録例(乙第3号証ないし乙第15号証)を挙げて前記主張に係る事実を立証しようとしているが、何れも商標の構成が本件とは異なる別事案に関するものであり、また、後願商標が登録されていることが無効理由の存在可能性を否定するものでないことは言うまでもない。
したがって、本件商標の構成中の「SLOT/スロット」の文字部分は自他商品識別機能を発揮しない部分である。
よって、本件商標の要部は「トラッド/TRAD」の文字であるとする請求人の主張には理由がないと述べる被請求人の主張は成立しない。
イ 本願商標の一体性について
本件商標の構成中の「SLOT/スロット」の文字部分が自他商品識別機能を発揮しないことは、上記アにおいて述べたとおりであり、しかも、本件商標は、「スロット/SLOT」と、「トラッド/TRAD」の各文字部分が、それぞれの間に約2文字幅分の空白を挟んで書してなるものであって、その構成上、左右の各部分に分離して認識され易いことは明白である。
よって、本件商標の要部は「トラッド/TRAD」の文字であるとする請求人の主張には理由がないと述べる被請求人の主張は成立しない。
ウ 本願商標が有する称呼及び観念について
以上のとおりであるから、請求人が主張する通り、本件商標の要部は「トラッド/TRAD」であり、この部分から、「トラッド」の称呼を生じると共に、「服装などが伝統的であるさま」という観念を生じる。
エ 引用商標について
引用商標からは、「トラッド」の称呼を生じると共に、「服装などが伝統的であるさま」という観念を生じる
オ 本件商標と引用商標の具体的類否判断について
被請求人は、本件需要者の商品選択の際の注意力は高いと主張するが、そのように認定すべき特段の理由は見当たらない。
被請求人のその他の主張を勘案しても、本件商標と引用商標は非類似の関係であるとする被請求人の主張は成立しない。
カ 他の登録例について
被請求人は、先願商標と、「SLOT」及び「スロット」の文字を有する後願商標とが併存する登録例(乙第3号証ないし乙第15号証)を挙げて本件商標と引用商標は非類似であることを立証しようとしているが、何れも商標の構成が本件とは異なる別事案に関するものであり、また、後願商標が登録されていることが無効理由の存在可能性を否定するものでないことは言うまでもない。
したがって、本件商標と引用商標は非類似であるとする被請求人の主張は成立しない。
キ よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しないという被請求人の主張は成立しない。
(2)商標法第4条第1項第16号について
ア 本件商標の品質誤認性について
被請求人は、本件商標の構成中の「SLOT/スロット」の文字部分は自他商品識別機能を発揮するので、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当しないと主張する。
しかしながら、本件商標の構成中の「SLOT/スロット」の文字部分が自他商品識別機能を発揮するという被請求人の主張が成立しないことは、上記アにおいて述べた通りであるから、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当しないという被請求人の主張は成立しない。
イ 登録例について
被請求人は、「SLOT」、「slot」若しくは「スロット」の文字を有する商標の登録例(乙第19号証ないし乙第40号証)を挙げて、本件商標中の「SLOT/スロット」の文字部分により商品の品質の誤認を生ずるおそれはなく、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当しないと主張する。
しかしながら、何れも商標の構成が本件とは異なる別事案に関するものであり、また、商標が登録されていることが無効理由の存在可能性を否定するものでないことは言うまでもない。
ウ よって、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当しないという被請求人の主張は成立しない。
(3)なお、被請求人は、答弁書において、本件商標とは別異の標章を用いたスロットマシンの製造販売実績を有することを主張しているが、本件審判には無関係である。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第41号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標について
ア 「SLOT/スロット」の文字について
本件商標中の「SLOT/スロット」の文字は、請求人が主張するように、「スロットマシンの略、パチスロの別称」の意味合いを有するものといえるが、それ以外にも、「みぞ穴」、「自動販売機の貨幣やカードを挿入するみぞ穴」、「コンピューターの基板を差し込む口」、「ねじの頭部のみぞ」、「スロット翼の略」等、様々な意味合いを有するものである(乙第1号証)から、このような意味合いを有することを勘案すれば、本件商標に接する需要者が、「SLOT/スロット」の文字部分を「みぞ穴に関する表示」や「コンピューターの基板を差し込む口に関する表示」等と、様々な意味合いに捉えることは明らかである。
してみれば、「SLOT/スロット」の文字が「スロットマシンの略、パチスロの別称」との意味合いを有するとしても、このような意味合いは、直ちに生じるものではない。
このことは、他の審決例である不服2001-7885において、「スロット、Slot」の文字が一般的には「みぞ穴、自動販売機の貨幣やカードを挿入するみぞ穴、コンピューターの基板を差し込む口」等を意味するものであって、直ちに「スロットマシン」及び「スロットゲーム」を指称するものということはできないと認定していることからも明らかである(乙第2号証)。
したがって、「SLOT/スロット」の文字は、十分に自他商品識別機能を発揮するものといえる。このことは、「SLOT/スロット」と他の語が結合した商標と当該他の語のみからなる商標が併存して登録されていることからも明らかである(乙第3号証ないし乙第15号証)。
よって、「SLOT/スロット」の文字が自他商品識別機能を有しないということをもって、本件商標の要部は「TRAD/トラッド」の文字であるとする請求人の主張には理由がない。
イ 本件商標の一体性
本件商標中の「TRAD/トラッド」及び「SLOT/スロット」の文字は、それぞれ本件商標の構成において、欠かすことのできない文字であり、本件商標を構成する必須の構成要素である。
したがって、本件商標は、これらの文字が一体として認識されるべき一連の表示と捉えるのが自然である。
請求人は、本件商標の要部は「TRAD/トラッド」の文字であるとする理由として、本件商標が分離して認識されやすいことも挙げているが、本件商標は、1文字幅分の間隔がある(請求人は、本件商標中の各文字の間隔について、それぞれ2文字幅分の空白を挟んで横方向に配列してなると主張するが、本件商標を観察すれば、これらの構成文字の間隔は、明らかに1文字幅分の間隔しかない。)ものの、各構成文字を同書、同大に外観上まとまりよく一体的に表されていることから、その構成を形式的に「TRAD/トラッド」及び「SLOT/スロット」の文字とで分離抽出して取引に当たるとはいい難く、むしろ、全体として一連の表示と捉えるのが自然といえる。
よって、本件商標が分離して認識されやすいことをもって、本件商標の要部は「TRAD/トラッド」の文字であるとする請求人の主張には理由がない。
ウ 本件商標の称呼及び観念について
本件商標は、その構成に対応して、「トラッドスロット」との一連の称呼のみが生じるものである。
また、本件商標より生じる観念は、構成文字全体より、「伝統のみぞ穴」、「伝統の自動販売機の貨幣やカードを挿入するみぞ穴」、「伝統のコンピューターの基板を差し込む口」、「伝統のねじの頭部のみぞ」、「伝統のスロット翼」、「伝統のスロットマシン、伝統のパチスロ」等の様々な観念が生じるものといえる。
(2)引用商標
引用商標は、「トラッド」の文字を横書きに書してなるものであるから、これより「トラッド」の称呼及び「伝統」の観念が生じる。
(3)本件商標と引用商標の類否
商標審査基準によれば、商標の類否の判断は、「商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。」とされている。
そこで、本件指定商品の取引の実情を考慮し、主たる需要者の通常有する注意力を明らかにした上で、本件商標と引用商標との類似性について検討する。
ア 本件請求に係る指定商品における主たる需要者が有する注意力
スロットマシンとは、ギャンブルを目的とするコイン作動式のゲーム機のことであり、我が国では、主に「パチスロ」等と呼ばれるゲームに使用されているものである。そして、このスロットマシンが使用される「パチスロ」は、最終的に獲得したメダルの枚数によって「景品」がもらえるゲームであるから、各種スロットマシンは、そのメダルの払い出し条件について、機種ごとに様々な設定が組まれている(例えば、リールの配列、CAST(出目)、ボーナス確率の設定等。乙第16号証)。そのため、このようなスロットマシンの特性からすれば、パチスロをする者は、より多くの景品を獲得すべく、メダルの払い出し条件について重大な関心を抱いていると考えるのが自然である。また、メダルの払い出し条件が良いスロットマシンが揃っているパチンコ店は、多くの客が利用することから、スロットマシンを直接取り扱うパチスロ業者(パチンコ店等)にとっても、この払い出し条件は、自身の利益に直結する重大な関心事であるといえる。
そうとすれば、本件請求に係る指定商品における主たる需要者であるパチスロをする者及びパチンコ店等は、常にこの払い出し条件を確認し、スロットマシンの機種ごとの特性を把握した上で取引に入るものと考えられるから、その需要者の商品選択の際の注意力は高いものと思料される。
このことは、パチスロの攻略方法について、機種ごとのメダルの払い出し条件である「リールの配列、CAST(出目)、ボーナス確率の設定」等が多くの雑誌やテレビで紹介されており(乙第17号証、乙第18号証)、この分野における主たる需要者のスロットマシンに関する知識レベルが高いことからしても明らかといえる。
イ 本件商標と引用商標との類似性
(ア)称呼の類似性
前記のとおり、本件商標からは、「トラッドスロット」の称呼のみが生じ、引用商標からは、「トラッド」の称呼が生じるものである。
そこで、両称呼を対比すると、これらの称呼は、本件商標にある「スロット」の音の有無により、その構成音数において顕著な差異を有するものであるから、その全体的な音調音感が明らかに相違し、十分に聴別し得るものである。
したがって、本件商標と引用商標は、称呼において類似するものではない。
(イ)外観の類似性
本件商標は、前記のとおり、「トラッド」の文字に、引用商標にはない「TRAD」及び「SLOT/スロット」の文字が一体に結合した構成を有するものであるから、「トラッド」の文字単体からなる引用商標とは、明らかにその与える印象を異にし、両商標に接する需要者が両者を見誤るおそれはない。
したがって、本件商標は、引用商標と外観において類似するものではない。
(ウ)観念の類似性
本件商標は、前記のとおり、「伝統のみぞ穴」、「伝統の自動販売機の貨幣やカードを挿入するみぞ穴」、「伝統のコンピューターの基板を差し込む口」、「伝統のねじの頭部のみぞ」、「伝統のスロット翼」、「伝統のスロットマシン、伝統のパチスロ」等の様々な観念を有するところ、引用商標は、「伝統」の観念を有するものである。
そのため、本件商標の観念は、引用商標の観念と「伝統」という意味合いにおいて共通するものの、両商標を総合的に判断すれば、本件商標と引用商標は、観念において明確に区別することができる。
したがって、本件商標は、引用商標と観念において類似するものではない。
(エ)本件商標と引用商標の出所混同(類似性)
上記のとおり、本件商標と引用商標は、その称呼、外観及び観念において、明らかに相違するものである。そして、本件請求に係る指定商品における主たる需要者が商品選択の際の高い注意力を有するという取引の実情を考慮すれば、その需要者が本件商標と引用商標が付された本件請求に係る指定商品の出所につき混同すると考えることはできない。
以上より、本件商標と引用商標は、非類似の関係であるといえる。
(4)他の登録例
被請求人の上記主張が正当であることは、過去の登録例より明らかである(乙第3号証ないし乙第15号証)。これらの商標が商標登録されたのは、いずれもまとまりよく一体的に構成されていることから、その指定商品「スロットマシン」等の主たる需要者が通常有する注意力を前提とすれば、先願先登録商標とは、商品の出所が混同することはないと判断されたからに他ならない。
したがって、このことからすれば、本件商標と引用商標においても、非類似であると判断されるべきである。
2 商標法第4条第1項第16号について
(1)本件商標の品質誤認
前記のとおり、本件商標を構成する「SLOT/スロット」の文字は、様々な意味合いを有するものであり、十分に自他商品識別機能を発揮するものといえる。
したがって、本件商標は、直ちに商品の品質を表すものではないから、これをその指定商品中「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれはない。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
(2)登録例
上記(1)の被請求人の主張が正当であることは、過去の登録例からも明らかである(乙第19号証ないし乙第40号証)。これらの登録例は、いずれもその構成中に「SLOT」、「slot」若しくは「スロット」の文字を有するものであり、その指定商品を「遊戯用器具」とするものであるにもかかわらず、これらの商標が登録されたのは、その構成中の「SLOT」、「slot」若しくは「スロット」の文字が様々な意味合いを有することから、十分に自他商品識別機能を発揮し、直ちに商品の品質を表すものではないと判断されたからに他ならない。
したがって、これらの登録例と同様、本件商標も商標法第4条第1項第16号に該当しないと判断されるべきである。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第16号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものではない。

第5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
(ア)本件商標は、前記第1のとおり、「トラッド スロット」の文字と「TRAD SLOT」の文字を二段に横書きしてなるものであるところ、これらの文字は、「トラッド」、「TRAD」と「スロット」、「SLOT」の文字に間に1字ないし2字程度の間隔があるとしても、上下の各文字はいずれも同一の書体をもって、外観上まとまりよく一体的に表されているばかりでなく、これより生ずると認められる「トラッドスロット」の称呼も、語呂のよい称呼として無理なく称呼し得るものといえる。
そうすると、本件商標は、その外観及び称呼の面からみて、構成全体をもって一体不可分の商標を表したと認識される場合が多いとみるのが相当である。
(イ)ところで、「スロット(slot)」の語は、乙第1号証(広辞苑第六版)によれば、「(1)みぞ穴。自動販売機の貨幣やカードを挿入するみぞ穴。(2)コンピューターの基板を差し込む口。(3)ねじの頭部のみぞ。(4)スロット翼の略。」の意味を有する語であり、「(1)硬貨またはその代用品を投入し、レバーを動かして回転する絵柄を組み合わせる自動賭博機。(2)貨幣投入口のある自動販売機などの総称。」を意味する「スロット-マシン【slot machine】」の語とは、異なる意味を有する語として、別項目に掲載されていることが認められる。
そうすると、「スロット(slot)」の語は、「スロット-マシン」の語とは別の語といえるばかりでなく、「スロット-マシン」の略語として用いられているものともいえない。
この点に関し、請求人は、本件商標中の「スロット/SLOT」の文字部分は、本件請求に係る指定商品との関係において、「スロットマシン」の略称若しくは「パチスロ」の異称又は商品の用途等を普通に用いられる方法で表示するものであるから、自他商品識別機能を果たさない部分である旨主張する。
しかし、「スロット(slot)」の語が、本件請求に係る指定商品との関係において、「スロットマシン」の略称若しくは「パチスロ」の異称又は商品の用途等を表示するものとして、本件商標の登録査定時に、遊戯用器具の分野において普通に使用されていたと認めるに足る証拠の提出はない。確かに、甲第8号証(フリー百科事典「ウィキペディア」)によれば、「スロット(slot)」は、「自動販売機、自動券売機などの硬貨投入口。コンピュータ等の周辺機器の差込口。拡張スロット。スロットマシンの略。パチスロの別称。」の記載が認められるが、ここには、「このページは曖昧さ回避のためのページです。一つの言葉や名前が二つ以上の意味や物に用いられている場合の水先案内のために、異なる用法を一覧にしてあります。お探しの用語に一番近い記事を選んで下さい。このページへリンクしているページを見つけたら、リンクを適切な項目に張り替えて下さい。」と記載され、「Wikipedia:曖昧さ回避」のウェブサイトによれば、「注意点」として、「曖昧さ回避ページを辞書にはしない。ウィキペディアは辞書ではありませんし、『連想ゲーム』を意図したものではありません。曖昧さ回避ページは読みたいページを判別することが目的ですから、単なる定義のリストにしたり、語源や発音を書いたりして辞書のようにしてはいけません。」等と記載されており、その記載内容の信憑性が必ずしも高いものとはいえない。
仮に甲第8号証の記載内容が真実であるとしても、他に、「スロット(slot)」の語が「スロットマシン」の略称、「パチスロ」の異称等を表す語であるという事実を認めるに足る証拠の提出はないから、甲第8号証のみをもって、「スロット(slot)」の語が、本件請求に係る指定商品との関係において、「スロットマシン」の略称若しくは「パチスロ」の異称又は商品の用途等を表示するものとして、本件商標の登録査定時に、遊戯用器具の分野において普通に使用されていたと認めることはできない(なお、甲第10号証及び甲第11号証の掲載内容が本件商標の登録査定以前に掲載されたものであることを裏付ける証拠の提出はないから、これらの証拠は採用することができない。)。
したがって、本件商標中の「スロット」、「SLOT」の文字部分が、本件請求に係る指定商品との関係において、「スロットマシン」の略称若しくは「パチスロ」の異称又は商品の用途等を普通に用いられる方法で表示するものであるとする請求人の主張は理由がなく、採用することができない。
以上によれば、本件商標中の「スロット」、「SLOT」の文字部分は、本件請求に係る指定商品との関係からみて、自他商品の識別標識としての機能を全く有しないものということはできない。
(ウ)また、「トラッド」、「TRAD」の文字部分は、本件請求に係る指定商品の品質等を表示するものではないから、自他商品の識別標識としての機能を有する語といえる。
してみると、本件商標に接する本件請求に係る指定商品の分野の需要者は、本件商標が外観及び称呼上の一体性を有していることも相俟って、構成全体をもって、特定の意味合いを想起しない造語を表したものと理解し、これを「トラッドスロット」とのみ称呼して、商品の取引に当たる場合が多いというのが相当である。
したがって、本件商標は、その構成文字に相応して、「トラッドスロット」の一連の称呼のみを生ずるものであって、単に「トラッド」の称呼は生じないものといわなければならない。また、本件商標は、上記のとおり、造語よりなるものと認める。
上記に関し、請求人は、本件商標は、「トラッド」、「TRAD」と「スロット」、「SLOT」の各文字部分が、それぞれの間に約2文字幅分の空白を挟んで書してなるものであるから、その構成上、左右の各部分に分離して認識されやすい旨主張するところ、プリントアウトされた各文字の空白部分は、これを正確に計れば、例えば、「トラッド」と「スロット」の間隔において約2字の幅があるといえないこともないが、本件商標の構成全体を観察すれば、前記認定のとおり、同一の書体をもって、外観上まとまりよく一体的に表されていると理解されるというのが相当であり、これを各文字に分離して観察しなければならないほど不自然に結合されているものではない。したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
イ 引用商標
引用商標は、前記第2のとおり、「トラッド」の文字を横書きしてなるものであるから、その構成文字に相応して、「トラッド」の称呼及び「伝説の、伝統の」などの観念を有するものである。
ウ 本件商標と引用商標との対比
本件商標より生ずる「トラッドスロット」の称呼と引用商標より生ずる「トラッド」の称呼は、後半部分において、「スロット」の音の有無という顕著な差異を有するものであるから、両称呼全体をそれぞれ一連に称呼した場合においても、明らかに聴別し得るものである。
また、本件商標は、前記認定のとおり、特定の観念を有しない造語よりなるものであるから、「伝説の、伝統の」などの観念を有する引用商標とは、観念上比較することができない。
さらに、本件商標と引用商標とは、前記の構成よりみて、外観上明らかに区別し得るものである。
したがって、本件商標と引用商標は、称呼、観念及び外観のいずれの点においても、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
エ そして、本件請求に係る指定商品の主たる需要者が一般の消費者でなく、スロットマシン等を取り扱う、いわば専門的な業者であること、引用商標は、前記第2のとおり、その指定商品中の「遊戯用器具」についての登録は、取消2008-301105(予告登録日:平成20年9月17日)における平成20年12月16日付け審決により取り消されたものである。
したがって、引用商標は、その取消審判の予告登録日である平成20年9月17日前3年以内において、その指定商品中の「遊戯用器具」について使用されていなかったものであるから、少なくとも本件商標の登録査定である平成19年8月13日の時点において、保護すべき引用商標の商標権者の業務上の信用はないといっても過言ではないこと、などを勘案すれば、本件商標を本件請求に係る指定商品について使用しても、これに接する需要者をして、請求人の業務に係る商品であるかのように、商品の出所の誤認、混同を生ずるおそれはないというべきである。
以上によれば、本件商標は、本件請求に係る指定商品について、商標法第4条第1項第11号に該当しないものと認める。
(2)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、前記(1)認定のとおり、構成全体をもって、特定の観念を有しない造語よりなる商標と認識されるというのが相当であるから、これを本件指定商品のいずれについて使用しても、商品の品質について何ら誤認を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しないものと認める。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、その指定商品中の第28類「遊戯用器具,スロットマシン,スロットマシン周辺機器,スロットマシン用メダル」(本件請求に係る指定商品)について、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではなく、また、同じく「遊戯用器具(スロットマシンに関連しないもの)」について、同第16号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-01-22 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-02-08 
出願番号 商願2007-1822(T2007-1822) 
審決分類 T 1 12・ 262- Y (X28)
T 1 12・ 272- Y (X28)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 亨子 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 井出 英一郎
鈴木 修
登録日 2007-09-28 
登録番号 商標登録第5079790号(T5079790) 
商標の称呼 トラッドスロット、トラッド 
代理人 西田 研志 
代理人 高良 尚志 

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