• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X41
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X41
管理番号 1213049 
審判番号 無効2009-890029 
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-04-09 
確定日 2010-03-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第5158468号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件審判請求に係る登録第5158468号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおり、漢字で「相撲甚句」の文字を縦書きし、これを囲むような太いしめ縄と思しき図形とを組み合わせたもの(以下「相撲甚句と横綱図形」という。)及びその下段に大きく漢字で「日本相撲甚句会」の文字を縦書きした構成からなり、平成19年4月10日に登録出願、第41類「相撲甚句の普及に関する知識の教授,相撲甚句の普及に関するセミナーの企画・運営又は開催,相撲甚句に関する書籍の製作,相撲甚句に関するビデオの製作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),相撲甚句に関する興行の企画・運営又は開催,相撲甚句に関する図書の貸与,相撲甚句に関するレコード又は録音済み磁気テープの貸与」を指定役務として、同20年7月4日に登録査定、同年8月8日に商標権の設定登録がされたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証を提出した。
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(2)請求人適格
請求人は、被請求人から登録商標の使用の差止め、具体的には登録商標を使用した名刺、幟、半天の廃棄と、平成21年4月11日開催の第18回相撲甚句全国大会の中止を強要されており(甲第7号証ないし甲第10号証)、また、商標法違反容疑に基づいて、居宅に対する捜索及び差押え、任意による事情聴取を受けていることから(甲第11号証)、本件商標の登録を無効とすることにつき、利害関係を有している。
(3)日本相撲甚句会が使用する商標
請求人が会長を務める日本相撲甚句会が使用する商標は、日本相撲甚句会(以下「本会」ということがある。)が設立から現在まで継続的に使用している商標であって、本件商標と同一であり、その商標を使用する役務も同一である(甲第14号証ないし甲第16号証)。
(4)無効原因
ア 商標法第4条第1項第10号について
(ア)本件商標と日本相撲甚句会が使用する商標との類否
本件商標は、被請求人が日本相撲甚句会会長を標榜し、あたかも本会の承認を得たかのように欺いて登録したものであるから、本会が使用する商標と同一であり、本件商標と日本相撲甚句会が使用する商標は、外観、称呼及び観念を同じくする同一の商標である。
(イ)指定役務
本件商標の指定役務は、前記第1に記載のとおりである。
一方、本会は、「全国大会、地区大会、各種イベントの主催・後援」、「機関誌の発行」等の事業を行っている(甲第4号証及び甲第5号証、甲第14号証ないし甲第16号証)。
したがって、本件商標に係る指定役務と日本相撲甚句会が使用する商標に係る役務は、同一の役務である。
(ウ)本会が使用する商標の周知性
本会が使用する商標は、本会が設立された平成6年から継続的に使用されており、平成11年から「相撲甚句と横綱図形」商標を付して全国大会、地区大会のイベントが開催されていることから、本件商標に係る登録出願の時には既に需要者の間に広く認識されている商標であり、既に周知性を獲得していたものである(甲第14号証ないし甲第16号証)。
ここで、周知性を立証する証拠には、全国・地区大会プログラムの表紙の外にも、例えば名刺、幟、半天、機関誌、CD等があるものの、請求人らの居宅に対する捜索及び差押えによってこれらの資料が押収されおり、また、被請求人が日本相撲甚句会会長を解任されたにも関わらず、本部事務局にかかわる備品一切の引渡し等の会務引継ぎを行っていないといった、証拠を提出できない事情がある。
なお、本会が使用する商標は、同一の商標である本件商標に係る商標登録出願の日前の商標登録出願(以下「引用登録出願」という。)に対し、商標法第4条第1項第10号に該当することを理由に拒絶理由通知書が発送されていることから、ここで本会が使用する商標の周知性を論ずるまでもなく、既に周知性を獲得していたともいえる(甲第17号証、甲第18号証)。
(エ)他人の業務
a 使用の主体
本会が使用する商標は、本会が主催する全国大会プログラムの表紙に付されていることから、本会が使用しているものであって、被請求人が個人的に使用しているものではない。
また、日本相撲甚句会会則第17条には「日本相撲甚句会のシンボルである半天、浴衣、綱のマーク、看板等については、本会の会員以外の使用を禁じる。」と規定されていることからも、本会が商標を使用し、商標を管理しているものである(甲第4号証)。
b 出願人の適格性
本会は法人でない社団であるため商標登録出願をすることができず、便宜的に被請求人が本会の意向に基づいて出願したとも考えられるが、被請求人は、本件商標登録出願時には本会会長を解任されていることから、本会を代表する立場ではない(甲第19号証)。また、直近の平成18年度全国会長会議総会において、商標について何ら議事されていないことから、被請求人が本会の意向に基づいて登録出願をしたものでもない(甲第20号証)。
c 会長解任の経緯
被請求人は、臨時総会において、新体制発足の動議が採択され、審議の結果、新体制の発足が決議されたことから、会長を解任されている(甲第21号証ないし甲第25号証)。
そして、会長解任通知は、本件商標登録出願日より前に、被請求人に配達されている(甲第19号証)。
以上のように、本件商標は、本会が使用している商標であって、本会の意向に基づくことなく、本会の承諾を得ずに登録出願をされたものである。
したがって、本件商標は、被請求人が他人である本会の商標について登録出願をしたものである。
(オ)結論
よって、本件商標は、その登録出願時に、本会の業務に係る役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標と同一であって、その役務について使用するものであることから、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
イ 商標法第4条第1項第19号について
前記したとおり、本件商標は、その登録出願時に、本会の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と同一であって、その役務について使用するものであるため、ここでは不正の目的をもって使用するものであることに絞って主張する。
(ア)権利行使の態様
被請求人は、登録査定書を受領するや否や、平成20年7月30日付けで、登録商標を使用した名刺、幟、半天を廃棄するか、あるいは請求人が会長を務める会に加入するように強要する旨の通知書を、日本相撲甚句会及び本会会員に送り付けている(甲第7号証)。
この通知書は、登録料の納付より前に作成され、商標権が発生する前に送り付けられたものである。
また、通知書の内容は、本会会員による引用登録出願が拒絶査定となったことを、特許庁は本会が登録商標を使用できる正当な権利者に当たらないと判断したものと主張し、また、このまま登録商標を使用し続けると処罰の対象となると強調しながら、被請求人が会長を務める会に加入するように強要するものである。
その後も、被請求人は、平成20年8月21日、同年9月1日付けで、被請求人が会長を務める会に加入するように強要する旨の通告書を、本会会員に送り付けている(甲第8号証、甲第9号証)。
さらに、被請求人は、平成21年3月19日付けで、本会が平成21年4月11日に東京都江戸東京博物館で開催予定の第18回相撲甚句全国大会を中止した上で、本会会長を辞任し、本会を解散するように強要する旨の通知書を、請求人に送り付けている(甲第10号証、甲第26号証)。
さらにまた、被請求人は、東京都江戸東京博物館を管理する財団法人東京都歴史文化財団に、本会に第18回相撲甚句全国大会用の会場を貸さないことを求める旨の通知書を送っている。
以上のことから、被請求人は、本会の活動を妨害し、本会を意のままに操る目的をもって、すなわち本会を私物化する目的をもって本件商標の使用をするのである。
(イ)権利取得の過程
被請求人は、本会会長の解任通知の配達を受けた平成19年3月17日後、同年4月10日には本件商標に係る登録出願をしている(甲第3号証、甲第19号証)。
また、被請求人は、本会会長の解任通知の配達を受けた平成19年3月17日後の、同年4月4日には引用登録出願に対する刊行物等提出書を提出している(甲第17号証ないし甲第19号証)。
さらに、被請求人は、意見書及び引用登録出願に対する刊行物等提出書において、日本相撲甚句会会長として陳述書を提出しているが、陳述書提出時には、本会会長を解任されていることから、この陳述書は被請求人が本会会長であると偽って提出したものである(甲第3号証、甲第17号証、甲第18号証)。
以上のことから、被請求人は、本会会長を解任されたことを受け、本会が使用する商標を自らの登録商標とすることによって、本会を意のままに操る目的をもって、すなわち本会を私物化する目的をもって登録出願をしたものである。
(ウ)結論
よって、本件商標は、登録出願の時に、本会の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と同一であって、本会を私物化する等、不正の目的をもって使用をするものである。

2 答弁に対する弁駁
(1)答弁の理由(1)について
ア 被請求人は、「平成19年1月1日に日本相撲甚句会会則を改定し、…」と主張する。しかし、この改定は、被請求人によって平成19年度の総会が中止されたため、総会で承認されていない(甲第23号証、甲第24号証)。
さらに、総会を開催する代わりに会員に郵送された「平成19年度日本相撲甚句会報告」には、改定の内容が示されていない(甲第27号証)。
イ 日本相撲甚句会傘下の団体は、平成19年1月現在69団体であったが、その内33団体(委任状13団体を含む)の出席によって、臨時総会が開催された。そして、新体制の発足が、賛成29、反対0、保留4で決議された(甲第25号証)。
そこで、被請求人が主張するように、新たに発足した会が日本相撲甚句会とは別の会であるとすると、現在の団体数が半減していなければならない。
したがって、日本相撲甚句会傘下の団体は現在全国68団体を数えるとの主張は、新たに発足した会は日本相撲甚句会とは別の会であるとの主張と矛盾するものである。なお、被請求人には、日本相撲甚句会傘下の団体の名簿を提出するよう求める。
(2)答弁の理由(2)について
ア 被請求人は、「福田永昌の創作した日本相撲甚句会の商標」等と主張する。しかし、商標を受ける権利は、商標を創作することにより生じるものではない(商標法第13条第2項)。
イ 被請求人は、「それを発見した福田永昌が直ちに自己の未登録周知商標を平成19年(2007年)4月10日出願し、…」と主張する。
しかし、この主張は、出願人の適格性に対して何ら意味を持たないものであり、被請求人が本会の意向に基づいて登録出願をしたことを立証するものではない。
(3)答弁の理由(3)について
ア 被請求人は、「新たな相撲甚句会設立を目指し臨時総会の案内が一部会員に送付され、…」と主張する。
しかし、臨時総会は、そこで配布された資料に「魅力ある相撲甚句会を目指すために、新たな体制、運営(案)を検討することとしたい。」と記載されていることから、新たな体制、運営を検討するために開催されたことが明確である(乙第3号証)。
したがって、新たな相撲甚句会設立を目指し臨時総会の案内が送付されたものではない。また、臨時総会の開催案内は、平成19年2月現在の日本相撲甚句会名簿に従って、全会員に送付されている(甲第24号証)。
イ 被請求人は、「臨時総会が勝手に開催され、そこで新たな相撲甚句会の結成が図られた。」と主張する。
しかし、臨時総会は、被請求人が会則第11条に定められた総会を中止し、被請求人が会則第7条に定められた会長の職務を遂行しないために開催されたものである(甲第4号証、甲第22号証ないし甲第24号証)。
そして、臨時総会の案内は、被請求人にも送付されている(甲第24号証)。
また、臨時総会では、該議事録に「○内に5の記号」「日本相撲甚句会の現状への危惧を確認し、現行組織の改革或いは新規団体立ち上げのどちらの方策を選択するかを討議した結果、現組織を改革することで合意した。」と記載されていることから、現組織の改革が図られたことは明確である。
したがって、臨時総会は勝手に開催されたものではなく、臨時総会で新たな相撲甚句会の結成が図られたものでもない。
なお、総会は、被請求人が総会中止を通告する以前に、機関紙にて会員に周知されていた(甲第28号証)。
被請求人は、同人の専横が糾弾されることを避けるため、総会を中止したのではないか。
ウ 被請求人は、「結局新たな会の名称として…第1案の日本相撲甚句会を採用した。」と主張する。
しかし、現組織を改革することで合意した上で、名称は「日本相撲甚句会」を承継したものである(甲第25号証)。
エ 被請求人は、「別の会を発足する代わりに日本相撲甚句会乗っ取りの企てが発足した。」と主張する。
しかしその一方で、被請求人は、答弁の理由(5)で「新たに発足した会は福田永昌会長の日本相撲甚句会とは別の会であり、・・・」と主張する。
これらの主張は、矛盾するものである。
(4)答弁の理由(4)について
ア 被請求人は、「3月10日に定められた請求人の新会則の表紙の図形商標は被請求人の商標権を侵害するものであり、…」と主張する。
しかし、本会は、本件商標登録出願前から本件商標に係る商標の使用をしていた結果、その登録出願の際には周知性を獲得しているため、先使用権を有する(甲第14号証ないし甲第16号証)。
イ 被請求人は、「既成の勘亭流のフォントで似せて印刷した偽物の会則を作成し、・・・」と主張する。
しかし、被請求人の会則も、甚の匸部が「メ」ではないことから、既成の勘亭流のフォントで似せて印刷したものである(乙第2号証)。
(5)答弁の理由(5)について
ア 被請求人は、「新たに発足した会は福田永昌会長の日本相撲甚句会とは別の会であり、・・・」と主張する。
被請求人は、新たに発足した会が別の会である根拠を、証拠とともに提出されたい。
イ 被請求人は、「日本相撲甚句会の会則には無い総会条項及び役員解任条項を定め、… その条項に従い、別の団体である日本相撲甚句会の会長福田永昌を解任することは出来ないことは当然である。」と主張する。
しかし、被請求人は、臨時総会において、平成17年1月1日改定の会則第3章の規定により、平成18年度の会長以下役員総退任が議決されたことによって会長を解任されたものである(甲第25号証)。
(6)答弁の理由(6)について
ア 被請求人は、「日本相撲甚句会は福田永昌個人が設立し主催している団体であり、・・・」と主張する。
しかし、本会は、本会の目的に賛同する会員によって設立され、会員が納人した会費で運営されている(甲第4号証、甲第27号証)。
また、役員も年一回の総会で選出されている(甲第4号証)。
そして、被請求人は、本会の代表として、会費から支出された会長活動費、本部賃貸料等の事務所経費、事務員人件費等の運営経費等を使用して本会を運営し、本会の代表として活動してきたものである(甲第27号証)。
したがって、本会は、被請求人が設立し主催している団体ではあり得ない。
なお、被請求人が会計報告をしないことも、会長を解任された理由の一つである(甲第22号証、甲第27号証)。
被請求人は、予算額が空欄の平成18年度決算報告を、総会を開催する代わりに会員に郵送した(手書きは会員によるもの)(甲第27号証)。
支出は、本部師範交通費と会報経費を除き、その大半が被請求人にかかわる支出であった。
また、会長活動費が使われながら、事業報告をされないものが散見された。
イ 被請求人は、「福田永昌個人が商標権を有する」と主張する。
そうであれば、商標権者の住所又は居所は、被請求人の住所であるのが自然であるところ、本会事務局の住所である(甲第1号証、甲第4号証)。
また、そうであれば、本件商標の取得に要した費用は、被請求人がその全額を負担したであろう。
被請求人には、商標権者の住所又は居所が本会事務局の住所である理由及び本件商標の取得に要した費用の出所を明確にされたい。
ウ 被請求人は、「福田永昌個人が設立し主催している団体である日本相撲甚句会に、福田永昌個人が商標権を有するこの商標の使用を許諾しているものである。」と主張する。
しかし、そもそも本件商標に係る商標は、本会の会員にその使用が認められていた(甲第4号証)。
(7)答弁の理由(7)について
ア 被請求人は、「以上の事実は請求人自ら提出した甲第3号証の出願の経緯及び刊行物等提出書からも明らかである。」と主張する。
しかし、登録出願の経緯は、被請求人が本会会長と偽り刊行物等提出書を提出し、引用登録商標に係る登録出願を拒絶査定に導くことよって、本件商標登録出願が登録された事実を示すものである(甲第3号証)。
また、刊行物等提出書は、本会が本件商標に係る商標を使用し、被請求人が本会の代表として活動してきたことを示すものである(甲第17号証、甲第18号証)。
イ 被請求人は、「不自然な甲第4号証の日本相撲甚句会会則のコピーは被請求人が提出する乙第2号証の正しい会則から改変したものである。」と主張する。
ここで、甲第4号証の会則は、平成17年1月1日改定である。一方、乙第2号証の会則は、平成19年1月1日改定である。
平成17年1月1日改定が、その改定の2年後に改定された会則から改変できるはずがない。そもそも、乙第2号証の会則は、その内容が会員に示されていない。
ウ 被請求人は、「その他の請求人の内部文書たる各甲号証は、請求人が福田永昌の主催する日本相撲甚句会の乗っ取りを企てた詳細な記録であり、被請求人には大変興味深い資料であるが反論の価値もないものであり、本件無効審判請求に関係の無い資料である。」と主張する。
しかし、甲第7号証ないし甲第9号証は、被請求人の名前で出された通告書等であり、請求人の内部文書ではない。
これらの甲各号証は、被請求人が、本会の活動を妨害し、本会を意のままに操る目的をもって、すなわち本会を私物化する目的をもって本件商標に係る商標の使用をした証拠である。
(8)権利能力なき社団における財産権の帰属
本会は、法人でない社団(以下「権利能力なき社団」という。)であり(甲第4号証、甲第5号証)、権利能力なき社団の財産権は、判例によると、その構成員に総有的に帰属する。
ここで、法人でない社団である本会は、登録出願をすることができないため(商標法第77条第1項で準用する特許法第6条第1項)、会員個人が出願をすることとなる。しかし、商標権は、会員個人に帰属するのではなく、会員に総有的に帰属する。
したがって、被請求人は、「福田永昌個人が商標権を有する」と主張するが、その主張は失当である。
(9)審理の方式(口頭審理)の申立及び証人尋問の申出
請求人は、被請求人が本会会長を解任された経緯、臨時総会で新体制の発足が決議された事実及び被請求人が本会を私物化する等、不正の目的をもって本件商標に係る商標の使用をした事実を審理すべく、口頭審理を申し立てる。
さらに、請求人は、口頭審理において、被請求人が本会会長を解任された経緯、臨時総会で新体制の発足が決議された事実及び被請求人が本会を私物化する等、不正の目的をもって本件商標に係る商標の使用をした事実を立証すべく、梶原好生(本会副会長)、関口恭一郎(本会専務理事)の証人尋問を申し出る予定である。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
〈答弁の理由〉
(1)被請求人たる本件商標権者福田永昌は、昭和20年より大相撲の呼び出し永男(のりお)として三役の呼び出しまで務め、二所ノ関部屋に所属して50年に渡り土俵を務め上げた。現役時代の昭和30年代に大相撲に伝わる相撲甚句を手掛けるようになり、この国技に付随する伝統文化をなんとか世に残しておきたいと考え、40年代より大相撲ファンに、各地方においての「相撲甚句会」の設立を呼びかけた。地方巡業のまにまに全国に相撲甚句を指導して各団体を結成させ、定年後の平成6年に私財を投げ打って「日本相撲甚句会」を設立し、被請求人自らが表紙を揮毫した平成6年日本相撲甚句会会則を制定し、平成9年2月21日に改定し、福田永昌の創作した「相撲甚句と横綱図形」及び福田永昌が著作した800を超える相撲甚句の歌詞、テープ、CDなどの著作物の使用について定めた(乙第1号証)。平成19年1月1日に日本相撲甚句会会則を改正し、懲罰の規定を設け「本会の名誉及び体面を汚す行為をする者は会長名にて退会を決定することができる。」と定めた(乙第2号証)。このようにして日本相撲甚句会傘下の団体は現在全国68団体を数えるほど大きな団体になった。
(2)平成18年(2006年)9月12日、日本相撲甚句会傘下の越谷相撲甚句会会長藤乗雅敏が、日本相撲甚句会会長福田永昌の創作した「相撲甚句と横綱図形」商標が未登録であることを知り、日本相撲甚句会の会員でありながら密かに登録出願した。それを発見した福田永昌が直ちに自己の未登録周知商標を平成19年(2007年)4月10日出願し、さらに平成19年9月6日に刊行物等提出書を提出した結果、特許庁は藤乗雅敏の登録出願を商標法第4条第1項第10号の規定に該当するものとして拒絶し、商標乗っ取りの企てはあえなく潰えた。日本相撲甚句会会長福田永昌の創作した日本相撲甚句会の商標は平成20年8月8日に登録された。
(3)平成19年2月会員の中より新たな相撲甚句会設立を目指し臨時総会の案内が一部会員に送付され、同年3月10日、日本相撲甚句会会長福田永昌が召集しない臨時総会が勝手に開催され、そこで新たな相撲甚句会の結成が図られた。新団体名称を第1案「日本相撲甚句会」第2案「全日本相撲甚句会」第3案「日本相撲甚句協会」が審議された。結局新たな会の名称としてなんと被請求人の商標権「日本相撲甚句会」と全く同じ、第1案の「日本相撲甚句会」を採用した。会長には元副会長で元相撲取りの「大勇」事 池田正則、副会長に「日本相撲甚句会」の商標の乗っ取りを図って失敗した藤乗雅敏が提案され、新たな「会則」は新体制での総会にて決めるとした。同日新会長池田正則、新副会長藤乗雅敏がそれぞれ可決されて、別の会を発足する代わりに「日本相撲甚句会」乗っ取りの企てが発足した。(乙第3号証)
(4)3月10日に定められた請求人の新会則の表紙の「相撲甚句と横綱図形」商標は被請求人の商標権を侵害するものであり、正当な「日本相撲甚句会」の会則の表紙の文字が福田永昌会長揮毫の相撲字であったのを、既成の勘亭流のフォントで似せて印刷した偽物の会則を作成し、付則で平成19年7月28日に遡り施行されると定めた。
(5)新たに発足した会は福田永昌会長の日本相撲甚句会とは別の会であり、新会則を定めることは自由であるが、その名称を被請求人と同じ「日本相撲甚句会」と僭称することは商標権を侵害するものであり許されない。「日本相撲甚句会」の会則には無い総会条項及び役員解任条項を、自分たちが勝手に定めた別の会則の総会条項に定め、総会を招集し、役員解任条項を新設し、その条項に従い、別の団体である「日本相撲甚句会」の会長福田永昌を解任することは出来ないことは当然である。
(6)「日本相撲甚句会」は福田永昌個人が設立し主催している団体であり、「相撲甚句と横綱図形」と「日本相撲甚句会」の文字が書かれた商標は個人が創作し、揮毫した商標であり、福田永昌個人が設立し主催している団体である「日本相撲甚句会」に、福田永昌個人が商標権を有するこの商標の使用を許諾しているものである。
(7)以上の事実は請求人が自ら提出した甲第3号証の出願の経過及び刊行物等提出書からも明らかである。不自然な甲第4号証の「日本相撲甚句会」会則のコピーは被請求人が提出する乙第2号証の正しい会則から改変したものである。その他の請求人の内部文書たる甲各号証は、請求人が福田永昌の主催する「日本相撲甚句会」の乗っ取りを企てた詳細な記録であり、被請求人には大変興味深い資料であるが反論の価値もないものであり、本件無効審判請求に関係の無い資料である。
(8)結論
本件商標は、商標権者個人が創作し、商標権者の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって、その役務について使用するものであり、商標権者が主催する「日本相撲甚句会」にのみにその商標の使用を許諾しているものであり、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、無効にされるべきものではない。

第5 当審の判断
1 請求の利益について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、当審も、請求人は本件審判の請求人適格を有するものと判断するので、以下、本案に入って審理する。

2 請求人と被請求人が提出した証拠及び当事者主張によれば、以下の事実等が認められる。
(1)本件商標について
第1のとおり、本件商標の構成(別掲)は、「相撲甚句と横綱図形」及び「日本相撲甚句会」の文字からなり、相撲甚句の普及に関する第41類に属する役務を指定役務として、平成19年4月10日に登録出願されたものであり、その審査において、「埼玉県越谷市弥生町9-27 藤乗 雅敏」を出願人とする「商願2006-084748」及び「商願2006-084749」を拒絶理由として引用され、その後登録となったものである。
そして、当該商標登録原簿の商標権者「福田永昌」の住所は、「東京都墨田区両国2-21-5ダイカンプラザ304号」として記載されている。
しかして、「相撲甚句と横綱図形」及び「日本相撲甚句会」からなる本件商標は、「日本相撲甚句会」により既に、本件商標の登録出願前から会則の表紙(甲第4号証、乙第1号証、乙第2号証)や相撲甚句の全国及び地区大会プログラム及び全国大会の実況録音CDカバーに使用されていることが認められ(甲第3号証、甲第15号証ないし甲第18号証)、また、提出された会則(乙第1号証、甲第4号証、乙第2号証)によれば、日本相撲甚句会の事務局は「東京都墨田区両国2-21-5ダイカンプラザ304号室」に置かれており、本件商標権者(被請求人)の住所と同じであること、そして、会則において「第7条 会長は本会を代表し、会務を総括し…」と定められていること、さらに、本件商標出願に係る拒絶理由に対する意見において添付された刊行物等提出書の提出者の表示(甲第3号証)や、「ご通知」(甲第7号証)における「日本相撲甚句会/会長 福田永昌・・・/・・・この度日本相撲甚句会が特許庁に申請しておりました・・・この商標は、福田永昌を会長とする日本相撲甚句会のみが独占的・・・」などの記載に照らし、いわゆる権利能力なき社団である「日本相撲甚句会」に代替して会長である「福田永昌」が本件商標を出願し、その登録を受けてたものであるということができ、当該商標権の効力などの行使に関しては、「福田永昌」は個人的な立場ではなく、日本相撲甚句会を代表するものとして、本会と不可分な関係、すなわち、両者を同一にみなして取り扱うのが相当である。
(2)日本相撲甚句会について
ア 会長「福田永昌」について
日本相撲甚句会は、元呼び出し「永男(のりお)」こと「福田永昌」が、昭和40年代より大相撲ファンに各地方においての「相撲甚句会」の設立を呼びかけ、これを全国組織とし、相撲甚句を普及させることにより国技大相撲の一文化を支え、大相撲の発展に寄与すると共に、会員相互の親睦を図ることを目的として、平成6年に設立し、福田永昌自身が会長となったものであり、また、日本相撲甚句全国大会を催すに当たって、福田永昌は会長として、財団法人相撲協会、文化庁及び日本放送協会などに対し、後援名義使用についての協力を取り付けるなどの活動(甲第3号証、甲第17号証、甲第18号証)を行うほか、「平成18年度 会長活動費」(甲第27号証)に記載の如き活動をしているものということができる。
そして、前記のような会長としての活動は、本件商標の出願日はもとより、査定日(平成20年7月4日)以後も継続し、少なくとも平成21年3月6日付けのニュース記事(甲第11号証)のとおり、日本相撲甚句会の会長を標榜し、活動していた状況にあるとみて差し支えない。
イ 会則について
「日本相撲甚句会」についての会則は、以下の(ア)ないし(エ)が提出されており、そのうちの(ア)及び(ウ)は被請求人、(イ)及び(エ)は請求人の提出にかかるものである。
(ア)「平成6年制定/平成9年2年21日改定」の日付けの記載された会則(乙第1号証:以下「平成9年2年21日改定会則」という。)は、中央に「会則」の文字を大きく縦書きし、その上段に「相撲甚句と横綱図形」及び左側に「日本相撲甚句会」の縦書き文字を有する表紙のほか、9章からなる会則、日本相撲甚句会の組織図及び役員一覧の1頁ないし8頁からなるところ、会則には、会の名称(日本相撲甚句会)、事務局の場所(京都墨田区両国二-二十一-五ダイカンプラザ三〇五室)等を定めるほか、会長の職務について「会長は本会を代表し、会務を総括し、総会、本部運営委員会、地区運営委員会を招集する。」(第7条)、また「会長、各役員は総会において選出される。」(第8条)とし、会議(総会)に係る事項は「本会は原則として年一回の総会を開催し、年間の事業計画、会則の改正、役員の選出、その他必要な事項を審議・決議する。」(第11条)とそれぞれ定められおり、その他に総会の開催・定足数・議決や、会長の解任に関するものは見当たらない。
(イ) 「平成6年制定/平成9年2年21日改定(「二年」の年を引き出し線で「月」に訂正)/平成17年1月1日改定(手書きで追加訂正)」の日付けの記載された会則(甲第4号証:以下「平成17年1月1日改定会則」という。)は、前記(ア)の「平成9年2年21日改定会則」と体裁を同じくする表紙と1頁ないし3頁からなるところ、第1条に記載の事務所の所在地が「三〇五室」から「三〇四室」に訂正されたほか、役員名・会費のほか多数の箇所か二本線により修正されたものとなっている。また、第4章(会議)に係る事項として、第11条に「全国地区代表の委員会も総会の代わりとする」との加筆されている。
しかしながら、この会則には4頁以降がなく、その体裁は改定のための校正用原稿の如きものであって、況して、これに関する事項が総会において審議し決議されて改正されたものであると確証させる総会議事録などの提出もなく、該加筆された規則を俄に認めることはできない。
(ウ)「平成6年制定/平成9年2月21日改定/平成19年1月1日改定」の日付けの記載された会則(乙第2号証:以下「平成19年1年1日改定会則」という。)は、表紙と1頁ないし5頁からなり、その体裁を前記(ア)の「平成9年2年21日改定会則」と同じくするものであり、かつ、若干の差異はあるものの、前記イの「平成17年1月1日改定会則」において手書きで訂正・加筆されたものが反映されている。
なお、会長の職務(第7条)についての変更はないが、役員の選出(第8条)については「会長の指名により、各役員は総会において選出される。」と改正され、「平成17年1月1日改定会則」で第11条に加筆された記載は「補足・・」の文字か冠されるとともに、「全国地区代表の委員会も総会の代わりとすることができる。」と訂正され(なお、「平成18年度全国会長会議総会(18年2月18日)」(甲第20号証)の「1、会則の改定・承認」がこれに当たるかは不明である。)、さらに、末尾に「懲罰 本会の名誉及び体面を汚す行為をする者は、会長名にて退会を決定することができる。」との事項が追加されている。
(エ)制定・改定等の日付けの記載のない会則(甲第5号証:以下「平成19年7年28日施行会則」という。)は、表紙の「相撲甚句と横綱図形」、「会則」及び「日本相撲甚句会」の文字の書体や向き(横書きに変更)等において、前記(ア)ないし(ウ)の会則とはその体裁を異にするものであり、また、1頁ないし4頁からなる会則についても、縦書きから横書きへの変更、条文ごとの見出しの付加、事務所の場所の変更、等々を初めとして明らかにその内容を異にするものであり、「第3章【役員】」中の、第16条に「役員に、役員としてふさわしくない行為があったときには、総会において3分の2以上の同意を得て、その役員を解任することが出来る。」とする、「《役員の解任》」についての項目が新たに追加されている。なお、この会則の施行日については、付則において、「・・・平成19年7月28日から施行される。」とされている。
(オ)なお、以下に記載する「平成19年3年10日(土)の臨時総会」より前の会則である、前記(ア)ないし(ウ)のいずれの会則も「総会」は「日本相撲甚句会を代表する会長により招集され、開催される」ものとされており、また、総会における定足数や議決に関する条項は定められていない。
また、「《役員の解任》」についての定めは、「平成19年7年28日施行会則」により追加されたもので、それ以前の「会則」には記載がない。
ウ 各地区相撲甚句会の団体数
被請求人は、平成21年6月9日提出の答弁書おいて、「日本相撲甚句会傘下の団体は現在全国68団体を数えるほど」と述べており、対して、請求人は弁駁書において、「本会傘下の団体は、平成19年1月現在69団体であった」と、「臨時総会議事録」(甲第25号証)における「4.定足数確認」の項で「議長は1月現在69団体…」と記載されていることを引用しその旨述べている。
また、臨時総会の開催案内(甲第24号証)において、平成19年2月現在の日本相撲甚句会名簿に従って、全会員に送付されているとする該名簿には、「日本相撲甚句会 福田永昌会長」を含めNo.1からNo.71までの欄が設けられ、各地域の相撲甚句会や会長名及び住所などが記載されており、必ずしも、各地区相撲甚句会の団体数は明確でないが、請求人が述べる如く、平成19年1月現在、その団体数は69と想定せざるを得ない。
(3)平成19年3年10日(土)の臨時総会について
ア 役員総退任決議
平成19年3年10日開催の臨時総会の議事録(甲第25号証)の「5.議事」の「○の内に6の記号」によれば、「・『会則』第3章の規定により、平成18年度の会長以下役員総退任が決議された。」とあるが、「役員の解任」についての規定は、前記(2)イ(オ)のとおり「平成19年7年28日施行会則」(甲第5号証)により追加されたものであり、前記の役員総退任の根拠となる「会則」が「平成19年7年28日施行会則」であるとすれば、そもそも、その施行日からして矛盾する決議であって、これをもって「福田永昌」が、平成6年に全国組織として設立した「日本相撲甚句会」の会長を解任されたものと認めることはできず、依然として「福田永昌」は池田正則を会長とする新体制に参加する団体(以下「エ」参照。)を除く、当該相撲甚句会会長の立場にあるということが推認できる。
なお、請求人は弁駁書の弁駁の理由「第2(5)イ」において、「・・・被請求人は、臨時総会において、平成17年1月1日改訂の会則の第3章の規定により、平成18年度の会長以下役員総退任が議決されたことによって会長を解任されたものである。」と述べているが、該会則には「役員の解任」に関する規定の記載は見当たらない。
その他、「福田永昌」が会長を解任されたと認めるに足りる証拠もなく、請求人主張の日本相撲該甚句会会長が「福田永昌」から「池田正則」へ引き継がれたものと認めることはできない。
イ 総会は催さない旨の書面
福田永昌は、日本相撲甚句会会長の立場をもって、平成19年2月20日付けで、平成19年3月10日臨時総会開催の書状に対し、各位にとして、本年始の新年ご挨拶の如く総会は催さない旨を内容とする文書を出している(甲第23号証)。
ウ 臨時総会
前記(2)のイのとおり、「総会」は「日本相撲甚句会を代表する会長により招集され、開催される」ものとされているところ、臨時総会議事録にある、平成19年3月10日(土)に開催された「日本相撲甚句会 臨時総会」は、日本相撲甚句会の会則に基づき会長が招集し、正規に開催されたものとはいい難いものである。
また、「4.定足数確認」において「議長は1月現在69団体の内、33団体(委任状13団体を含む)の出席を確認し、『日本相撲甚句会該臨時総会』が有効に成立することを宣言した。・・・採決は会議出席団体の過半数の賛成を以て決することを宣言した。」旨記載されているが、日本相撲甚句会の会則においては、総会における定足数や議決に関する条項は定められておらず、半数以上の各地域の相撲甚句会が出席していない総会において決められた事項の全てを69団体で組織される「日本相撲甚句会」の総意と認めるのは困難である。
(4)日本相撲甚句会の活動等について
「平成19年度役員 平成19年3月10日現在」(甲第25号証)や平成19年7年28日施行会則(甲第5号証)及び「平成21年度定期総会議事録」(甲第6号証)の「平成21年度役員 平成21年2月21日現在」などによれば、平成19年3月10日付けの「臨時総会出席者名簿」(甲第25号証)、及び「『商標登録無効審判請求』同意書」(甲第13号証)に記載された者を主だった役員として、各地区相撲甚句会のうちの凡そ30団体が「池田正則」を会長とした「日本相撲甚句会」として、平成19年以降活動していることを認めることができる(相撲甚句大会開催一覧表:甲第14号証、全国大会プログラムの表紙とする14葉の写しのうち1葉:甲第15号証、地区大会プログラムの表紙とする13葉の写しのうち7葉:甲第16号証)。
しかしながら、「池田正則」を会長とするグループは、その活動が平成19年以降によるものであり、また、平成20年4月26日(土)を開催日とする第17回大会のプログラム表紙には、後援として「(財)日本相撲協会」ほか、「文化庁」や「NHK」、また、協力として「(株)なとり」、「(株)テイチクエンタテイメント」及び「コロンビアミュージックエンタテイメント(株)」などの記載があるのに対し、新体制によるとする平成20年4月5日(土)を開催日とする第17回大会のプログラム表紙には、後援として「(財)日本相撲協会」の記載のみである。
さらに、被請求人が開催を妨害している全国大会を開催する事実と述べ、提出している平成21年4月11日(土)を開催日とする第18回大会のプログラム(甲第26号証)の表紙には、後援として「(財)日本相撲協会」の記載すらなく、かつ、10年にわたり3葉ないし14葉の表紙に描かれていた「阿武松緑之助 土俵入の図」も変更されていること等からすれば、「池田正則」を会長とする当該相撲甚句会が、「福田永昌」を会長とする「日本相撲甚句会」を越えて、「相撲甚句と横綱」及び「日本相撲甚句会」に係る商標について、自己の使用に係る商標として周知性を獲得しているものとは認め難いところである。

3 商標法第4条第1項第10号の該当性について
当該条項は「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」と規定されている。
そこで、本件商標が当該条項に該当するものであるかについて判断するに、「相撲甚句と横綱図形」と「日本相撲甚句会」に係る商標、すなわち、本件商標と略同一の商標は、「福田永昌」を会長とする「日本相撲甚句会」により、本件商標の登録出願前から、相撲甚句の全国及び地区大会プログラムや全国大会の実況録音CDカバー等に、継続して使用されてきているものである。
そして、平成19年3年10日に開催された臨時総会以降、「池田正則」を会長とする新体制の「日本相撲甚句会」による活動が行われるようになってからも、「福田永昌」を会長とする「日本相撲甚句会」による全国及び地区大会等の活動は継続して行われており、また、臨時総会の決議では、日本相撲甚句会の会長が「福田永昌」から「池田正則」へ引き継がれたものとは認められないこと、更には「池田正則」を会長とする「日本相撲甚句会」が、「福田永昌」を会長とする「日本相撲甚句会」を越えて、「相撲甚句と横綱」及び「日本相撲甚句会」に係る商標について、自己の使用に係る商標として周知性を獲得しているものとは認め難いこと前記のとおりであるから、相撲関係者や大相撲ファンの間においては、「相撲甚句と横綱図形」と「日本相撲甚句会」に係る商標は、本件商標権者「福田永昌」を会長とする「日本相撲甚句会」に係る商標として広く認識されているものとみて差し支えない。
そして、被請求人、すなわち本件商標の商標権者である「福田永昌」は、上述のとおり、依然として当該相撲甚句会会長の立場にあり、かつ「日本相撲甚句会」はいわゆる権利能力なき社団であるところから、これに代替して会長である「福田永昌」が会則(第7条)にある職務内の行為として、本件商標を出願し、その登録を受けたということができる。
そうすると、両者は不可分な関係、すなわち、当該商標権の効力などについては、「日本相撲甚句会」とその会長である「福田永昌」とは同一にみなして取り扱うのが相当であるから、本件商標が他人の業務に係る役務を表示するものということはできない。
また、本件商標に係る商標の使用も「福田永昌」が個人として使用するものではないから、出所の混同が生じるおそれもなく、また、「日本相撲甚句会」の既得の利益が害されるものでもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものとはいえない。

4 商標法第4条第1項第19号の該当性について
当該条項は「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用するもの」と規定されている。
そうすると、前記判断と同様に本件商標が他人の業務に係る役務を表示するものということはできないものであり、また、本件商標の取得は「福田永昌」個人としての使用を目的するものでなく、会長を務める「日本相撲甚句会」の運営、活動を保全するためのものであるとみるべきである。
そして、「池田正則」を会長とする新体制グループとの確執が生じていること、まして、そのグループの一員である「藤乗雅敏(越谷相撲甚句会会長)が「相撲甚句と横綱図形」及び「日本相撲甚句会」に係る商標登録出願をしている状況のもとで、被請求人が本件商標の登録出願をしたのは、昭和40年代より大相撲ファンに各地方においての「相撲甚句会」の設立を呼びかけ、平成6年に福田永昌自身がいわゆる権利能力なき社団として設立した「日本相撲甚句会」が、本件商標を安定して使用し得る地位を確保するためとみるのが自然であり、本件商標の取得に至る行為を不正の目的でなされたということはできない。
なお、請求人は、被請求人が不正の目的(本会活動の妨害、復帰の強要)をもって、本件商標を使用する事実を立証するものとして甲第7号証ないし甲第11号証を提出している。
しかしながら、いずれも「日本相撲甚句会」又はその会長の立場として、当該相撲甚句会の維持を図るために、「池田正則」ほか、同人を会長とする新体制グループに対し通知ないしは通告するものであって、これが日本相撲甚句会を私物化する目的をもって本件商標の使用をするというようなものとは認め難い。
そして、該通知書などの内容は、本件商標に係る使用等について処罰や損害賠償請求の対象になること等の警告の如きものと、福田永昌を会長とする「日本相撲甚句会」への復帰を勧告することが記載されており、また、「池田正則」には、4月11日の大会を撤回した上で会長を辞任し、会を解散することを忠告すること等を内容とするものであって、これが不当なものでなく、かつ、不正の目的と断定することはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号にも該当するものではない。

5 審理の方式(口頭審理)の申立及び証人尋問の申出
請求人は、被請求人が本会会長を解任された経緯、臨時総会で新体制の発足が決議された事実及び被請求人が本会を私物化する等、不正の目的をもって本件商標に係る商標の使用をした事実を審理すべく、口頭審理を申し立てている。
しかしながら、本件商標が請求人の主張する無効事由である商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当しないこと前記で判断したとおりである。
そして、請求人が口頭審理を求めるところの解任された経緯や、臨時総会で新体制の発足及び会の私物化等に係る事情は、福田永昌(本部会長)と藤乗雅敏(越谷相撲甚句会会長)、会田栄子(けやき相撲甚句会会長)、梶原好生(佐賀相撲甚句会々会長)及び池田正則(元大勇)などとの当該相撲甚句会の内部的な確執に係る問題であり、当審が前記判断以上に踏み込むべきものでなく、本件無効審判事件外の場で行われるべきことであり、直接的に審理すべき事項とはいい難いから、その口頭審理の必要性は認められない。

6 まとめ
結局、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、及び同第19号のいずれにも該当するものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (別掲)本件商標



審理終結日 2009-11-25 
結審通知日 2009-11-27 
審決日 2010-01-19 
出願番号 商願2007-40022(T2007-40022) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (X41)
T 1 11・ 25- Y (X41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蛭川 一治 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 野口 美代子
小川 きみえ
登録日 2008-08-08 
登録番号 商標登録第5158468号(T5158468) 
商標の称呼 スモージンク、ニッポンスモージンクカイ、ニホンスモージンクカイ、ニッポンスモージンク、ニホンスモージンク、スモージンクカイ 
代理人 若林 拡 
代理人 木戸 基文 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ