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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない Y24
管理番号 1209896 
審判番号 無効2009-890041 
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-04-30 
確定日 2009-12-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4769779号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4769779号商標(以下「本件商標」という。)は、「ぐんまレピア」及び「GUNMARAPIER」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成15年9月22日に登録出願され、第24類「絹織物,裏絹」を指定商品として同16年5月14日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第885960号商標(以下「引用商標」という。)は、筆記体の「Lepia」の文字及び毛筆風の「レピア」の文字を上下二段に横書きしてなり、昭和43年11月22日に登録出願、第16類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として同46年1月16日に設定登録され、その後、3回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、同13年4月25日に指定商品を第17類「石綿織物,石綿製フェルト」、第24類「織物,メリヤス生地,フェルト,不織布,オイルクロス,ゴム引防水布,ビニルクロス,ラバークロス,レザークロス,ろ過布」及び第26類「テープ,リボン,編みレース生地,刺しゅうレース生地,房類」とする書換登録がされているものである。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第10号証を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標と引用商標との類否
(ア)両商標の類似
本件商標は、「ぐんまレピア」及び「GUNMARAPIER」の文字からなるところ、商標権者の住所「群馬県高崎市問屋町」を見るまでもなく「ぐんま」及び「GUNMA」は、県名である「群馬県」を表したものである。そして、群馬県は本件商標の指定商品「絹織物、裏絹」の産地として、周知であること明らかである(例えば、甲第5号証「新世紀ビジュアル大辞典」株式会社学習研究社2004年発行751頁)。
すなわち、本件商標中の「ぐんま」及び「GUNMA」の文字は、指定商品の産地を普通に用いられる方法で表示したに過ぎないので、本件商標中商標としての識別力を有する部分は、「レピア」及び「RAPIER」である。そして、「レピア」はもちろん「RAPIER」からは、「レピア」の称呼を生ずる。
他方、引用商標からは「レピア」の称呼を生ずる。
したがって、本件商標と引用商標は、「レピア」の称呼を共通にするものである。
(イ)指定商品について
本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品「織物」に含まれるもので、指定商品は同一又は類似である。
(2)引用商標を巡る事情
(ア)請求人による引用商標の使用
昭和46年、請求人は、生産した胴裏を「レピア羽二重」と命名して販売した(甲第6号証)。一般に、織物工場では生糸を仕入れ、織機で絹織物を製織して、精練加工前の半製品である生糸で織り上げた状態の生絹を問屋に納品する(甲第7号証)。請求人は織物工場であり、被請求人は問屋である。
多くの問屋では、織物工場から仕入れた生絹を精練加工し、各問屋毎に文庫(着物一着分用の紙の入れ物)・ラベルを作り販売する(甲第7号証)。そのとき得意先(問屋)の規模によっては、請求人において精練加工し請求人のラベル・お薦め等と共に出荷することもある(甲第7号証)。お薦めには商品説明がラベルには別途有する請求人商標等がそれぞれ記載され、問屋においてこれらを文庫に取り付けて販売される。文庫に入りラペルを付された絹織物は、前売り問屋、小売店を経て消費者に流通する(甲第7号証)。
請求人は、自ら引用商標を文庫に使用するとともに自らのホームページ他で引用商標を宣伝し(甲第8号証)、平成5年から請求人の製品を購入する問屋に引用商標の使用を許諾している。
(イ)引用商標権の取得
引用商標権が伊藤萬株式会社により取得されたので、請求人は、平成5年に同社から専用使用権の設定を受け、その後、平成14年に引用商標権の譲渡を受けた(甲第3号証)。
(ウ)引用商標の他社による使用の阻止
請求人は、引用商標について専用使用権を取得後、例えば群馬県、京都府、福島県他全国の問屋、小売り等約50社に対し、口頭での警告とともに、引用商標権の侵害行為の停止を求める通知書又は照会書を数回にわたり差し出した(甲第9号証及び同第10号証)。
通知書又は照会書の到達後、請求人と問屋、小売りとは話し合いがもたれ、あるいは同業者間で協議がなされ、問屋、小売り等は引用商標を使用しないことで被通知人各社と和解した(甲第6号証)。
(エ)請求人と被請求人との関係
被請求人は問屋の立場にあり、織物工場である請求人とは20年以上前から主要得意先の一社であり、本件指定商品にかかる商品を納入していた(甲第7号証)。
他社の引用商標の無断使用については、厳しく排除を請求人に求め、他社の文庫情報を請求人に提供し、引用商標の権利保全を求めた(甲第7号証)。
しかしながら、本件商標取得後は、被請求人と請求人との取引関係は疎遠となった。
(オ)混同事例
最近に至り、「レピア」の称呼を一部に有する、本件商標を含む他社使用例があるが、これらについては、請求人に問い合わせがある(甲第7号証)。
(カ)小括
したがって、請求人による問屋、小売り等に対する警告後、引用商標への侵害行為は排除されるとともに、引用商標が請求人の所有に係ることは取引者間に周知されたものである。
平成5年の引用商標の権利行使は、被請求人の強い要求も理由の一つであるから、権利行使を含めこの間の事情を被請求人は熟知していたものである。
本件商標を含め「レピア」の称呼が生ずる商標は、取引者・需要者間において引用商標と出所混同を生ずる関係にあるといえる。
(3)結論
本件商標と引用商標とは、称呼が共通するため商標が類似すると共に、指定商品が同一又は類似のものである。のみならず、取引者・需要者間において、実際に出所混同を生じているものである。
さらに、被請求人は、引用商標の存在、引用商標の権利保全の事情を熟知した上で、しかも引用商標と出所混同を生じることを知った上で、引用商標に近似した本件商標を取得しているのであるから、不正競争の目的で本件商標登録を受けたといえる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人は、本件商標中の「レピア/RAPIER」の文字は慣用的に業界内で使用されること、「ぐんま/GUNMA」の文字は識別性を欠くことを認めている。要するに、「レピア/RAPIER」「ぐんま/GUNMA」ともに識別力を欠くと主張する。
しかし、結合した結果一体として判断されるべき理由は、何ら明らかにしていない。
したがって、そもそも、本件商標は、全体としても、自他商品識別性を欠き商標法第3条第1項に違反するものである。
そして、少なくとも、本件商標中「ぐんま/GUNMA」の文字が識別性を欠くことについては、請求人被請求人ともに争いはない。
したがって、本件商標の残余部分と引用商標とでは称呼において「レピア」を共通とするものであるから、両者は類似する。
(2)参考登録例について
被請求人は、参考登録例として乙第7号証ないし同第12号証を挙げ、本件商標との整合につき指摘する。
しかし、それぞれ結合された語の識別性は異なり、本件商標と事案を異にするので、主張自体失当である。
(3)判決及び裁判例について
被請求人は裁判所名を記載していないので、判決を特定することができないが、仮に昭和39年(行ツ)第110号がいわゆる「氷山事件」最高裁判決を指しているとすると、同判決は「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによってすべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」とするものであって、請求人の主張は同判決にしたがったものであり、判決に反することはない。
そして、氷山判決が類否判断において参酌を認める取引の実情の中で、引用商標についての請求人の権利行使の実情、他社の引用商標への対応、被請求人の本件商標についての悪性をも類否判断の基礎資料として参酌するよう求めるものである。
(4)引用商標を巡る権利行使についての事情の立証
被請求人は、引用商標を巡る権利行使についての事情の立証は不十分と主張する。
立証は書証においても十分と考えるが、さらに、立証については、甲第7号証の他人証をもって補充する。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第12号証を提出している。
1 答弁の要点
請求人は、本件商標中「ぐんま」及び「GUNMA」の文字部分は指定商品「絹織物、裏絹」の産地を普通に用いられる方法で表示したに過ぎず、本件商標中、識別力を有する部分は「レピア」及び「RAPIER」であり、当該部分から生じる称呼「レピア」が引用商標から生ずる称呼と共通であって、本件商標は引用商標と類似し、両者の指定商品が同一又は類似であるため、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、その登録は無効とされるべきである旨主張する。
しかし、本件商標は、以下のとおり、外観、称呼及び観念の全てにおいて引用商標と非類似であるため、商標法第4条第1項第11号には該当せず、登録は無効とされるべきではない。
2 被請求人の主張
(1)本件商標の指定商品と「レピア」について
片仮名表記の「レピア」は、指定商品「絹織物、裏絹」の分野においては「レピア織機」、「レピア織」といったように、織機や織物の種類等を示す用語として取引上同業者間で慣用的に使用されている(乙第1号証ないし同第6号証)。
この場合の「レピア」は、英単語の「RAPIER」をカタカナ表記したものである。英単語の「RAPIER」には、「槍、レーピア(細身の諸刃の刀、主に決闘用)」といった意味がある。「レピア織機」の名前の由来は、織機の緯糸を把持し、受け渡す部分の形状が槍形であることにある。「レピア織機」で織った織物が「レピア織」と呼ばれており、織物製造・販売業界における一般名称あるいは慣用語に過ぎない。このため、指定商品「絹織物、裏絹」の分野では、カタカナ表記の「レピア」も、英語表記の「RAPIER」も識別力がなく、登録されるべきではない商標である。現に、第24類「絹織物、裏絹」等を指定商品とした「レピア」、「RAPIER」の登録例はない。
(2)引用商標の登録理由について
引用商標は一見すると、指定商品「絹織物、裏絹」の内容表示となって登録されるべきではないように思われるが、「Lepia」のスペルは「RAPIER」のスペルとは異なるため、「RAPIER」が有する「レピア織機」や「レピア織」という意味合いがない。また、「Lepia」の下段に併記された「レピア」は、「Lepia」の振り仮名であるため「RAPIER」に直結せず、「RAPIER」がもつ「レピア織機」や「レピア織」という観念がない。このため引用商標は指定商品の内容表示ではないと判断されて登録されたに過ぎない。
(3)本件商標と引用商標との類否について
(ア)本件商標の不可分性について
本件商標は、平仮名文字と片仮名文字からなる「ぐんまレピア」とアルファベット文字の「GUNMARAPIER」を上下二段に横書きしてなるものである。請求人は、本件商標と引用商標との類否を判断するに当たり、「ぐんまレピア」、「GUNMARAPIER」の夫々を「ぐんま」と「レピア」、「GUNMA」と「RAPIER」に分離しているが、これらを分離して判断すべき正当な理由はない。本件商標の上段の「ぐんまレピア」は、「ぐんま」と「レピア」の間がドットやスペースで区切られておらず、同書、等大、等間隔で表されているため、全体として外観上まとまりよく一体に構成されている。また、「ぐんまレピア」は6文字からなるものであり、格別冗長というわけでもない。したがって、平仮名と片仮名文字で書かれているとしても、「ぐんまレピア」を「ぐんま」と「レピア」とに分離して解釈しなければならない理由はない。同様に、下段の「GUNMARAPIER」も、「GUNMA」と「RAPIER」の間がドットやスペース等で区切られることなく、同書、等大、等間隔て表されているため、全体として、まとまりよく一体に構成されおり、格別冗長というわけでもないことから、「GUNMARAPIER」を「GUNMA」と「RAPIER」に分離すべき正当な理由は存在しない。
(イ)本件商標と引用商標の対比
(a)外観について
本件商標は、単なる「レピア」でも「RAPIER」でもなく、「ぐんまレピア/GUNMARAPIER」であるため、文字数が引用商標「レピア/Lepia」よりも倍以上あり、しかも、本件商標は前記のとおり全体が一体不可分であるため、引用商標と外観上の差異は一見して明らかであり、外観上非類似の商標である。
(b)称呼について
本件商標は、前記のとおり一体不可分であるため、「ぐんまレピア」又は「GUNMARAPIER」がそのまま称呼されるべきである。
したがって、「ぐんまレピア」の称呼は「グンマレピア」であり、「GUNMARAPIER」の称呼は「グンマレピア」、「グンマレイピア」、「グンマレーピア」である。いずれも発音数は6音ないし7音であって一連に称呼できないほど冗長ではないため、前半部分と後半部分が分離されて「グンマ」又は「レピア」、「レイピア」、「レーピア」とのみ称呼されることはなく、必ず、頭に「グンマ」の称呼が付く。
これに対して、引用商標の称呼は「レピア」、「レイピア」、「レーピア」であり、いずれの場合も3音ないし4音と短く、頭に「グンマ」の称呼が付くことはない、このため、両商標は聞き間違えられるおそれはない。
仮に、本件商標の称呼が冗長であるとの理由で、一部が省略されるとしても、省略されるのは語尾であるのが通例である。したがって、省略の通例に従えば、本件商標の場合は「グンマ」が称呼され、「レピア」が省略される。この場合、本件商標の称呼は「グンマ」、引例商標の称呼は「レピア」であり、両商標は称呼上非類似である。
(c)観念について
本件商標は、単なる「ぐんま」でも「レピア」でもなく、前記のとおり一体不可分の「ぐんまレピア/GUNMARAPIER」という造語であるため社会一般に通用する観念はない。「GUNMARAPIER」に「RAPIER」が含まれていることから、その部分に「槍、レーピア(細身の諸刃の刀、主に決闘用)」という観念があり、さらには、「レピア織機」、「レピア織」の観念が想起されるかも知れない。しかし、引用商標中のローマ字表記の「Lepia」は「レピア織機」や「レピア織」の意味を有する「RAPIER」とはスペルが異なる造語であるため、「槍、レーピア(細身の諸刃の刀、主に決闘用)」という観念はなく、「レピア織機」、「レピア織」の観念が想起されることもない。引用商標にはカタカナ表記の「レピア」もあるが、その「レピア」は「Lepia」との併記であるため「レピア織機」や「レピア織」の観念は生じない。
したがって、引用商標はあくまでも造語であり、それには社会一般に共通する観念は存在しない。
よって、本件商標と引用商標からは、社会一般に共通する観念は生じず、観念上も非類似商標である。
(4)請求人の分離観察に対する反論
(ア)請求人は、本件商標を「ぐんま」と「レピア」、「GUNMA」と「RAPIER」に分離した上で、「ぐんま」及び「GUNMA」は「群馬県」に通じ、群馬県は絹織物、裏絹の産地として周知である旨主張する。しかし、甲第5号証には、群馬県は「絹織物、裏絹」の産地として周知であるとは記載されていない。「ぐんま」、「GUNMA」は「群馬県」に通じるとしても、「絹織物、裏絹」の産地表示ではない。
(イ)請求人は「ぐんま」、「GUNMA」は指定商品の産地を普通に用いられる方法で表示したに過ぎないとも主張する。しかし、前記のとおり「ぐんま」、「GUNMA」は「絹織物、裏絹」の産地表示ではないため、指定商品の産地を普通に用いられる方法で表示したものでもない。
(ウ)請求人は、本件商標中、商標としての識別力を有する部分は「レピア」及び「RAPIER」であるという。しかし、「レピア」及び「RAPIER」は前記したとおり、「レピア織機」や「レピア織」といったように、織機の方法や織物の種類等を示す用語として取引上同業者間で慣用的に用いられている用語(慣用商標)であり(乙第1号証ないし同第6号証)、自他商品等識別力はない。
(5)判決及び裁判例
本件商標は、前記のように、全体で一つの商標であって、「群馬」と「レピア」、「GUNMA」と「RAPIER」とに分離できない商標であるが、仮に、そのように分離して、「レピア」、「RAPIER」が引用商標の「レピア」、「Lepia」と称呼類似であったとしても、外観及び観念において引用商標と全く異なるため、次の判決及び裁判例に照らしても商標全体では非類似と判断されるべきである。
(a)昭和39年(行ツ)第110号
(b)平成19年(ワ)第13265号
これら判決及び裁判例は、対比する商標において、商標の類否判断の3要素(外観、称呼、観念)のうち、いずれかが共通する場合であっても、他の要素が全く異なり両者を区別できるような場合には、両商標は非類似であると判断したものである。
(6)参考登録例
本件商標の類否判断の参考となる登録例として、次の(a)ないし(f)がある。これら登録例はいずれも第24類「絹織物」等を指定商品として登録されており、権利者が引用商標の権判者と異なる
(a)登録4445525号(乙第7号証)
「タカハシレピア/Takahashi Rapier」
(b)登録3198624号(乙第8号証)
「NEEDLE RAPIER/ニードルレピア」
(c)登録3198625号(乙第9号証)
「KABUTO RAPIER/カブトレピア」
(d)登録3247436号(乙第10号証)
「カワイチレピア/Kawaichi Rapier」
(e)登録4446383号(乙第11号証)
「Marukyou Kizu RAPIER/マルキョウキヅレピア」
(f)登録5076450号(乙第12号証)
「献上レピア」
上記登録例(a)の権利者は、現在は引用商標の権利者と同一人(請求人)であるが、査定時は住金物産であり、請求人ではなかった。
(7)引用商標と上記参考登録例との関係
(ア)引用商標と上記登録例(a)との関係
上記登録例(a)の「タカハシレピア/Takahashi Rapier」は、引用商標「Lepia/レピア」が登録されているにも拘わらず、第24類「絹織物」等を指定商品として登録されている。両商標は登録査定時には出願人が異なっていたにも拘わらず登録された。
両商標は、請求人の論理で考えると、「レピア/Rapier」の前に「タカハシ/Takahashi」を付したものであり、「タカハシ/Takahashi」はありふれた氏にすぎないことから、当該部分に識別力がないとして分離され、残った「レピア」又は「Rapier」の部分が引用商標と称呼において類似するとして拒絶される筈であった。
しかし、「タカハシレピア/Takahashi Rapier」は、引用商標と非類似商標と判断されて登録されている。このことは、「レピア」や「Rapier」の前に「タカハシ/Takahashi」という識別力のないありふれた氏を付加したことによって、単なる「レピア」や「Rapier」とは異なる新たな意味合いを有するか、何らの意味をも有しない一連の造語と理解され、引用商標「Lepia/レピア」とは類似しないと判断されて登録されたことに他ならない。
(イ)引用商標と上記登録例(b)との関係
上記登録例(b)の「NEEDLE RAPIER/ニードルレピア」は、引用商標が登録されているにも拘わらず、第24類「絹織物」等を指定商品として登録されている。両商標は登録査定時には出願人が異なっていたにも拘わらず登録された。
両商標は、請求人の論理で考えると、「RAPIER/レピア」の前に「NEEDLE/ニードル」を付したものであり、「NEEDLE/ニードル」は織物業界内の一般名称である「RAPIER/レピア」の前に、「NEEDLE/ニードル」、即ち、織機の針、金具という意味であり、織物業界において「ニードル織機」、「ニードル織」といったように使用されている一般名称或いは慣用語を付加したに過ぎないものと解され、「ニードル」(織機の部品名)は識別力がないと判断されて分離され、残った「RAPIER」又は「レピア」の部分が、引用商標と称呼類似であるとして拒絶される筈であった。
しかし、「NEEDLE RAPIER/ニードルレピア」は引用商標とは非類似商標と判断されて登録されている。このことは、「RAPIER」や「レピア」の前に「NEEDLE/ニードル」という識別力のない業界での慣用語を付加したことによって、単なる「RAPIER」や「レピア」とは異なる新たな意味合いを有するか、何らの意味をも有しない一連の造語と理解されて、引用商標と類似しない商標と判断されて登録されているということに他ならない。
(ウ)引用商標と上記登録例(c)ないし(f)との関係
上記登録例(c)ないし(f)は、「Rapier/レピア」の前に他の用語を付加した場合の登録例である。これら登録例は「Rapier」や「レピア」の前に他の用語を付加すれば、それら商標は非類似商標と判断されて登録されることを意味し、また、「Rapier」及び「レピア」は織物業界で慣用的に使用されていることから識別力がないことを意味する。
(エ)本件商標と上記登録例との関係
上記登録例と同様に考えれば、本件商標は、織物業界で慣用的に使用されている「レピア/RAPIER」に、地名を示す「ぐんま/GUNMA」という識別力なき用語が付加されたものであり、双方が一体となってはじめて識別力を有するに至った商標であるか、全体として何らの意味もない造語商標であり、引用商標とは、外観・観念・称呼のいずれにおいても非類似の商標であると判断されたことに他ならない。したがって、本件商標は、上記登録例の理論を適用しても登録を維持されて然るべきものである。
(8)請求人の「引用商標を巡る事情」に対する反論
(ア)本件審判請求の無効理由は、商標法第4条第1項第11号違反である。請求人は上記事情において「レピア羽二重」や絹織物の流通過程等について縷々述べているが、これらいずれの主張も上記無効理由とは関係のないことである。
(イ)請求人は、上記事情において、甲第8号証を証拠として、「引用商標を文庫に使用すると共にホームページ他で引用商標を宣伝し・・・」と主張するが、甲第8号証に表示されているのは「Lepiaレピア羽二重」であり、「Lepia」と「レピア」を上下二段に横書きしてなる引用商標ではない。請求人のこの主張も上記無効理由とは関係のないことである。
(ウ)請求人は、平成5年から請求人の製品を購入する問屋に引用商標の使用を許諾している、というが、被請求人は使用許諾を受けていない。請求人のこの主張も上記無効理由とは関係のないことである。
(エ)請求人は、「引用商標の他社による使用の阻止」として、甲第6号証を提出して種々主張しているが、その主張も上記無効理由とは関係がない。
(オ)請求人は、「請求人と被請求人との関係」として、「被請求人は、・・・・・他社の引用商標の無断使用については、厳しく排除を請求人に求め、・・・・」と主張し、その証拠として甲第7号証を提出しているが、これには請求人が主張する事情に関することは記載されていない。
(カ)請求人は、「混同事例」として、「レピア」の称呼を一部に有する商標について、請求人に「***レピアとありますが、高橋絹さんの物ですか?」等の問い合わせがあるというが、これは混同が生じているのではなく、「レピア」という商標には識別力がないことを意味していると考えるべきである。すなわち、前述のとおり、「レピア」は同業者間で慣用的に用いられている用語であり、それ自体には識別力はなく、本件商標や引用商標が登録されているのは、「レピア」という用語に他の用語を付加して造語とし、その商標全体として自他商品等識別力を発揮すると認められたからである。前述の参考登録例についても同様のことがいえる。
(キ)請求人は、「本件商標を含め「レピア」の称呼が生ずる商標は取引者・需要者間において引用商標と出所混同を生ずる関係にあるといえる。」というが、この主張は前述のとおり失当である。
(9)請求人の「結論」に対する反論
(ア)請求人は、「本件商標と引用商標とは、称呼が共通するため商標が類似する・・・」というが、本件商標と引用商標が非類似であることは前述のとおりである。
(イ)請求人は、「取引者・需要者間において、実際に出所混同を生じている」ともいうが、その証拠はないし、あったとしても、本件無効理由の類否判断とは関係がない。
(ウ)請求人は、「被請求人は、引用商標の存在、引用商標の権利保存の事情を熟知した上で、しかも引用商標と出所混同を生じることを知った上で、不正競争の目的で本件商標登録を受けたといえる。」というが、被請求人は、引用商標の存在、引用商標の権利保存の事情を知っているからこそ、これと混同を生じないよう、引用商標と非類似の商標について出願し、登録されたのであって、不正競争の目的など一切ない。
(10)むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標とは非類似であり、商標法第4条第1項第11号には該当しないから、その登録は無効とされるべきではない。
よって、本件審判請求は成り立たない。

第5 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標と引用商標との類否について
(ア)本件商標は、前記第1のとおり、同書同大で等間隔に書された「ぐんまレピア」の文字と同じく「GUNMARAPIER」の文字とを上下二段に表してなるものであって、外観上まとまりよく一体的に看取し得るものであり、これより生ずる「グンマレピア」の称呼もよどみなく一連に称呼することができるものである。
ところで、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19(行ヒ)223号同20年9月8日第二小法廷判決参照)。
これを本件についてみるに、乙第1号証ないし同第6号証によれば、本件商標の構成中の「RAPIER」の文字は「槍」を意味する英単語であり、同じく「レピア」の文字は該「RAPIER」の表音を示すものと認められるばかりでなく、本件商標の指定商品を取り扱う業界においては、織機の部品である槍状の金具が「レピア(rapier)」と称され、該金具を備えた織機が「レピア織機」と称されていること、さらに、該レピア織機により織った織物が「レピア織」と称されていることが認められる。
また、本件商標の構成中の「ぐんま」及び「GUNMA」の文字は、県名としての「群馬」に通ずるところ、群馬県、特に桐生市は絹織物の産地として知られていることが認められる(甲第5号証)。
そうすると、本件商標の構成中の「レピア」及び「RAPIER」の文字部分は、本件商標の指定商品との関係において、自他商品の識別力がないか極めて弱いものであり、上記文字部分のみが抽出されて取引者、需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえないから、上記文字部分を捉えて本件商標から単に「レピア」の称呼が生ずるものとは認められない。
また、本件商標の構成中の「ぐんま」及び「GUNMA」の文字部分は、商品の産地・販売地の表示として用いられることもあることからすれば、やはり、取引者、需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。
結局、本件商標は、上記構成に照らし、その構成全体をもって自他商品の識別標識としての機能を果たすものというべきであるから、「グンマレピア」の一連の称呼のみを生ずるものと判断するのが相当である。
(イ)他方、引用商標は、その構成文字に相応して「レピア」の称呼を生ずるものである。また、その構成中の「Lepia」の文字は、親しまれた既成の観念を有する成語を表したものではなく、「レピア」の文字は該「Lepia」の表音を示すものとして認識されるに止まり、全体として一種の造語からなるものと認識し把握されるというべきである。
(ウ)しかして、本件商標から生ずる「グンマレピア」の称呼と引用商標から生ずる「レピア」の称呼とは、構成音数が異なり、「グンマ」の音の有無という顕著な差異により、明らかに区別することができるものである。
また、本件商標と引用商標とは、その構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものである。
さらに、引用商標からは親しまれた既成の観念が生じない以上、観念上、本件商標と比較すべくもない。
してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
(2)小括
したがって、本件商標の指定商品が引用商標の指定商品に包含されるものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
2 請求人の主張について
(1)請求人は、引用商標を巡る事情として、請求人自ら引用商標を文庫(着物一着分用の紙の入れ物)に使用すると共にホームページで宣伝していること、請求人の製品を購入する問屋に引用商標の使用を許諾していること、全国の問屋、小売り等に対し引用商標の侵害行為について警告、通知等を行っていること、本件商標を含む他社の使用例につき請求人に問い合わせがあること、被請求人は、かつては請求人と取引を行っており、請求人の上記行為を熟知していたこと、被請求人は、引用商標の存在・権利保存の事情を知った上で引用商標に近似した本件商標を取得したものであり、被請求人には不正競争の目的があること、などを述べている。
しかしながら、本件は、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当することを理由として本件商標の登録の無効を求める事案であり、請求人が述べる上記事情は、本件とは直接関係するものではない。
(2)念のため付言するに、甲第6号証ないし同第8号証によれば、請求人は、「レピア織機」を熟知しており、自らレピア織機により織った絹織物を「レピア羽二重」ないしは「Lepiaレピア羽二重」と称していることが認められるものの、引用商標のみを単独で使用している事実は見あたらないし、引用商標を使用した商品については、その具体的な販売数量、売上高、製造・販売の期間、宣伝広告の事実、市場占有率等は一切不明であり、引用商標の具体的な使用態様、使用方法、使用の期間・規模、宣伝広告の事実等も不明である。
そして、甲第9号証及び同第10号証に示す「通知書」及び「照会書」により当該業界他社に対し引用商標の使用について警告を発していることが認められるものの、当該他社の使用事実は明らかでなく、上記1(1)(ア)において認定した当該業界における実情からすれば、上記警告を受けた当事者が「レピア」の文字自体について自他商品の識別標識として認識していたかどうかは疑問である。また、本件商標及び引用商標の使用により、取引者、需要者の間に具体的な出所混同が生じている事実や、被請求人に具体的な不正競争の目的があったことを認めるに足る証左もない。
そうすると、引用商標は、請求人による使用によって請求人の業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されているというような特別の事情もなく、本件商標の使用により被請求人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれもないものといわざるを得ない。
したがって、請求人が上記事情を述べる目的は必ずしも明らかでないが、仮に、引用商標が周知著名であり、本件商標の使用が商品の出所の混同を生ずるおそれがあることを理由に本件商標との類似性の根拠とするために、上記事情を述べるものであるならば、それは前提を欠くものといわなければならない。
そして、本件商標の取得について不正競争の目的があったか否かは、別途争う余地があるとしても、商標法第4条第1項第11号の埒外であることはいうまでもない。
(3)以上のとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用することができない。
(4)なお、請求人は人証の申出をしているが、該人証による立証事項は、本件の審理に直接影響を及ぼすものではないし、請求人の主張及び他の書証をもって足りると考えるので、該人証は採用しない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定によりその登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2009-10-19 
結審通知日 2009-10-22 
審決日 2009-11-04 
出願番号 商願2003-82239(T2003-82239) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (Y24)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井岡 賢一 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 久我 敬史
小林 由美子
登録日 2004-05-14 
登録番号 商標登録第4769779号(T4769779) 
商標の称呼 グンマレピア、レピア 
代理人 甲斐 哲平 
代理人 安原 正義 
代理人 小林 正英 
代理人 大西 育子 
代理人 小林 正治 

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