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審決分類 審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 審決却下 Y42
管理番号 1208196 
審判番号 無効2009-890001 
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-12-26 
確定日 2009-11-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4783133号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4783133号商標(以下「本件商標」という。)は、「IP FIRM」の欧文字を標準文字で表してなり、平成15年11月20日に登録出願、第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」を指定役務として、同16年7月2日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の全指定役務について登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
請求の理由
(1) 本件商標は、これを本件指定役務について使用した場合、商標法第3条第1項第6号に定める「需要者が何人かに係る業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」というべきであるから、商標法第46条第1項第1号の規定により無効にすべきものである。
(2) 日本国内外の多くの知的財産権を担当する事務所が「IP FIRM」をその事務所名称の一部として使用している実態がある以上、本件登録商標に特定人による独占的使用を認めることは公益上適切ではない。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、審判の費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出した。
答弁の理由
(1)本件無効審判請求は、民法総則第1条第2項の信義誠実の原則に反するから許されない。
(2)本件無効審判が依拠する商標法は一般法である民法の特別法であるから、商標法第46条において、「商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる」とされる者については、当然に民法総則の規定が適用される。
(3)請求人は、請求人が甲第2号証として提出した、平成17年(ワ)768号事件の被告が経営している東京IP特許事務所の共同経営者であり、当該事件の控訴審(平成17年(ネ)第10097号)においても、被告の代理人の一人として和解調書の作成に直接関与した当事者である。
(4)上記和解調書(乙第1号証)には、「控訴人は、被控訴人及び東京IP特許事務所所属の弁理士に対し、本件商標権を行使しない。」との一文が入っている。和解案の作成当時、被告人は、事務所の共同経営者である請求人も原告から本件商標権の行使を受けなくて済むようにと、上記の一文の明文化にこだわり、原告は、その一文の挿入を拒否した。そこで裁判長は、被告が何故そのようにこだわるのか確認し、和解に際して同席していた請求人が被告と共同して同一の事務所を経営している弁理士であることを確認したのである。請求人を被告と同様に和解調書に記載することができないことに苦慮した裁判長は、請求人による無効審判請求を封じるための処置として、口頭による説示をすることによって、和解調書には、記載しきれないところを補填することを原告に提案し、原告は、裁判長を信頼し裁判長の提案に従ったのである。そこで裁判長は、原告の面前で請求人に和解調書に拘束される当事者としての自覚を促すと共に、「TOKYO IP FIRM」の商標登録出願をしているのであれば、それは、後日のトラブルを避けるために取り下げた方が良いと説示し、下田・赤尾両当事者にそのことを了承させて和解調書の文言上のアンバランスを是正した。
(5)上記のように裁判長の説示を受けた請求人は、平成16年5月10日付けで「TOKYO IP FIRM」を出願していたのであるが(商願2004-42451号)、実際には、その後この出願を取り下げるどころか、最終的には、当該訴訟の被告を訴訟代理人として審決取消訴訟(平成18年(行ケ)第10192号)に及んでまで権利を取得しようとしたのである。かかる行為は、結果のいかんを問わず、請求人のみならず裁判所まで欺く行為であり、到底許されるべきものではない。
(6)本件商標権者は、裁判所の和解の趣旨を信じ、和解時の被告である下田弁理士のみならず、請求人である赤尾弁理士が本件商標に対して直接無効審判を請求することは、あり得ないと信じてきたのである。
(7)このような、本件商標権者の信頼及び裁判所の意思に基づく和解調書の趣旨を踏みにじった請求人には、請求人としての審判請求適格が存在しない。「信義則の原則は、権利の行使、義務の履行だけでなく、契約の趣旨の解釈にも基準となる。」(最判昭32.7.5民集11-7-1193)のであり、裁判所における和解の趣旨の解釈にも、当然類推適用されなければならない。
(8)結論
以上詳述したとおり、請求人の行為は、民法総則第1条第2項の信義誠実の原則に反しており許されないから、請求人に審判請求適格が存在しないことは、明らかである。よって、本件無効審判請求は、不適法であるとして却下されるべきである。

4 請求人の弁駁
請求人の答弁に対して何ら弁駁していない。

5 請求人に対する審尋(要旨)
請求人に対して、平成21年8月17日付けで通知した審尋の内容は要旨次のとおりである。
商標登録の無効審判を請求するにあたっては、相応の利害関係を必要とする(民事訴訟法の場合と同じく「利益なければ訴権なし」の原則の適用される)と解釈されているが、請求人は利害関係を有することについて何ら述べていない。さらに、被請求人が答弁書において、本件無効審判の請求人には、請求人適格が存在しない旨主張してるので、相当の期間を指定して弁駁する機会を与えたが、請求人からは、何らの応答がない。ついては、利害関係を有すること明らかにされたい。

6 審尋に対する請求人の回答(要旨)
無効審判を請求したことについて相応の理由があるは、次のとおりである。
(1)審判請求書に、「判決が引用した多くの証拠が示すように、日本国内外の多くの知的財産権を担当する事務所が『IP FIRM』をその事務所名称の一部として使用している実態がある以上、本件登録商標に特定人による独占的使用を認めることは公益上適切ではない。」と記載した。被請求人は、かつて本件商標の権利者であることを理由に「東京IP特許事務所」所属の弁理士に対して「TOKYO IP FIRM」の使用差し止めの訴えを起こした。上記日本国内外の多くの知的財産権を担当する事務所は、被請求人によって、同様の訴えを起こされる可能性がある。このような日本国内外で広く使用されている商標を誰もが安心して使用できるようにしておくことは、公益上必要なことである。
(2)被請求人は、かつて本件商標の権利者であることを理由に「東京IP特許事務所」所属の弁理士に対して「TOKYO IP FIRM」の使用差し止めの訴えを起こした。請求人も「東京IP特許事務所」所属の弁理士であり、被請求人が当該商標を第三者に移転した場合、その第三者から、再び「TOKYO IP FIRM」の使用差し止めの訴えを起こされる可能性がある。この場合、再び訴訟に対応しなければならず、また東京IP特許事務所と英文表記、Eメールアドレスを全て変える必要が生じ、外国特許事務所との信用のみならず、日本国内の顧客との信用をも損ない、今まで築き上げてきた信用を失い、顧客をも失うという多大な事業リスクが懸念される。安心して業務を遂行するために、そのような危険性を排除する権利がある。

7 当審の判断
本件審判請求に関し、被請求人は、請求人には本件審判の請求人適格が無いから、本件審判請求は却下されるべきと主張するので、この点について判断する。
(1)商標法46条の規定に基づき商標登録を無効にすることについての審判を請求するためには、請求人に右審判請求をするについての法律上正当な利益が存することを必要とするものと解すべきであるが、無効審判請求の利益は、審判請求を適法なものとして取り上げ、請求の当否について審決を得るために具備すべき要件であるから、審決時を基準として判断すべきであり、審決時に存在することを必要とするとともにこれをもって足りるというべきである(平成1年10月19日東京高等裁判所判決、昭和63年(行ケ)第65号)。
(2)これを本件についてみるに、被請求人から「請求人に審判請求適格が存在しないことは、明らかである。」旨の答弁書の提出があったので、請求人に相当の期間を指定して弁駁をする機会を与えたが、請求人からは何ら応答がなかった。
そこで、審判長は、請求人に対して、本件審判の請求に関する利害関係を有すること明らかにするよう、審尋をしたところ、請求人は、「被請求人が当該商標を第三者に移転した場合、その第三者から、再び『TOKYO IP FIRM』の使用差し止めの訴えを起こされる可能性がある」旨、将来的な、かつ仮想的な理由を述べるのみで、その実現可能性を裏付ける証左の提出もなく、また、他に利害関係を有することについて立証をするところもない。
してみると、請求人は、本件商標の商標登録を無効にすることについての審判請求をする法律上正当な利益を有する者とは認めることはできない。
したがって、本件審判の請求は、審判請求の利益を有しない者の請求に係る不適法なものであってその補正をすることができないものであるから、商標法第56条第1項の規定により準用される特許法第135条の規定によって、却下すべきものである。
審理終結日 2009-09-04 
結審通知日 2009-09-09 
審決日 2009-09-28 
出願番号 商願2003-103324(T2003-103324) 
審決分類 T 1 11・ 16- X (Y42)
最終処分 審決却下  
前審関与審査官 小田 明 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 2004-07-02 
登録番号 商標登録第4783133号(T4783133) 
商標の称呼 アイピイファーム、ファーム 
代理人 滝田 清暉 
代理人 赤尾 謙一郎 

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