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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y25
管理番号 1206643 
審判番号 無効2008-890115 
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-14 
確定日 2009-10-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第4793420号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4793420号商標(以下「本件商標」という。)は、「モスライト」の片仮名文字と「MOSSLIGHT」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、平成16年1月16日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同16年8月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の利益について
請求人は、別掲(1)のとおりの構成よりなる商標(商願2008-11617)(なお、請求人は、請求書において「商願2008-11619号と記載しているが、当該出願の拒絶理由に本件商標の引用はなく、また、乙第2号証として提出しているのは、商願2008-11617号であって、、当該出願の拒絶理由において本件商標が引用されているから、誤記と認められるので上記のように訂正した。以下「請求人出願商標」という。)を平成20年2月19日に登録出願したところ、「本願商標は、商標法第4条第1項第7号、同第11号に該当する。」との拒絶理由を受けており、そのうちの商標法第4条第1項第11号に該当するとする先登録商標の一つとして本件商標が引用されているものである。
したがって、請求人は、上記本件商標の存在が請求人出願商標の障害になっているものであるから、本件商標の登録を無効にすることについて訴えの利益を有するものである。
2 被請求人の「公序良俗違反」
(ア)請求人出願商標は、米国セミー・モズレー氏若しくはその関連会社の業務に係るギターを表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されている商標と類似するものであるから、同氏と何らの関係も認められない出願人が自己の商標として採択使用することは公の秩序を害するおそれがあり穏当ではない、とする拒絶理由の通知がなされた。
請求人出願商標の採択使用が、公の秩序を害するおそれがあり穏当ではない、とするならば、請求人出願商標の「マルM mosrite」と類似すると認められ、その登録出願の先登録商標に該当するとされた本件商標の採択使用もまた、「公の秩序を害するおそれがあり穏当ではない」ことが明らかである。
(イ)前記拒絶理由の通知には、著名とする商標の構成態様について具体的な提示はないが、知的財産高等裁判所の平成19年(ネ)第10094号判決(甲第3号証)では、「モズライト社は、1954年ころ以降、その製造したエレキギターに「マルM mosrite of California」(審決注:別掲(2)のとおりの構成態様。以下「モズレー商標」という場合がある。)を使用した」とし、「モズレー商標は、『控訴人商標2及び3』の登録時、登録査定時、及び現在に至るまで・・・セミー・モズレー及びその関連会社が製造販売したモズライトギターに関する商標として、その取引者及び需要者間において周知著名であるということができ(る)」認定している。
このようにモズレー商標や「mosrite」、「モズライト」を要部とする商標は、少なくとも平成15年から平成20年にいたるまで、ギターに関してその取引者及び需要者間において周知著名であると認定している。
(ウ)これを本件商標について検討すると、本件商標の登録出願日の平成16年1月、あるいは登録日の平成16年8月には、モズレー商標や「mosrite」、「モズライト」を要部とする商標は、ギターに関して、その取引者及び需要者間において周知著名であり、そして、本件商標は、上記判決で検討されたモズレー商標、「mosrite」、「モズライト」と、称呼、外観、観念で同一とはいえないとしても、少なくとも請求人出願商標と特許庁も類似すると認定したものである。
そうすると、上記の時期に出願され登録された本件商標は、「セミーモズレー氏とは何らの関係も認められない商標権者が、ギター以外の商品を指定して自己の商標として採択使用すること」に該当するから、公の秩序を害するおそれがあり穏当でない、ということができる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
3 「マルM mosrite」などの著名性
(ア)前記2(イ)のように、知的財産高等裁判所の判断によって、「mosrite」、モズレー商標、「モズライト」等の商標は、少なくとも平成15年から平成20年にいたるまで、ギターに関してその取引者及び需要者間において周知著名であった、ということが明らかになった。しかし、これらの商標は、平成15年に突然に周知、著名になったものではなく、それ以前に長い歴史がある。
(イ)その歴史は、例えば、東京高等裁判所平成14年(行ケ)第283号の確定判決(甲第4号証)の事実認定において次のように要約されている。
a セミー・モズレーは1953年(昭和28年)ころから、米国において、エレキ・ギターの製造を始め、その後、モズライト社を設立して、引用商標(モズレー商標)が付されたエレキ・ギターの製造販売をするようになったこと、
b 我が国において引用商標(モズレー商標)が付されたモズライト・ギターは、昭和40年ころから、輸入販売されるようになったこと、
c 人気ロックグループであるザ・ベンチャーズが昭和40年に来日してモズライト・ギターを使用したこと
d そのころ、寺内タケシ、加山雄三といった、我が国の人気ミュージシャンもモズライト・ギターを演奏に使用したことなどから、遅くとも本件商標(黒雲製作所による「マルM mosrite」)の出願時には、引用商標(モズレー商標)は、モズライト・ギターの標章として、我が国の取引者・需要者の間でよく知られるようになっていたこと、
e その後も、モズライト・ギターは、モズライト社が倒産するなどしたため、製造が一時中断されたことはあったものの、その後もセミー・モズレーによって、同人が死亡する平成4年(1992年)ころまで、継続的に製造され、我が国にも輸出、販売されていたこと
f その後も、最近(平成14年10月口頭弁論終結日からみての最近)に至るまで、加山雄三や寺内タケシは、モズライト・ギターを使用して演奏活動を続けていること、
g 我が国には、現在(平成14年10月17日の口頭弁論終結時)でもモズライト・ギターの愛好者が多数存在し、モズライト・ギターの中古品は、市場において高い価格で取引されていること、
が認められ、これらの事実によれば引用商標(モズレー商標)は、黒雲製作所の出願時(昭和47年)にはセミー・モズレー又は同人が設立した会社が製造するエレキ・ギター(モズライト・ギター)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されており、そのことは本件登録商標の登録査定時(昭和55年)においても変わらなかったものということができ、以上の認定判断を覆すに足りる主張、立証はない。
(ウ)前記2(イ)及び上記判決を合わせて期間を合算すると、「mosrite」、モズレー商標、「モズライト」などの商標は、昭和47年以降、平成20年まで我が国の取引者・需要者の間で広く認識されていたことになる。
4 他人の業務に係る商品との混同
(ア)本件商標は、平成16年1月16日に出願し、平成16年8月6日に設定登録されたものであり、この時期は、前述の判決で指摘のあった、「mosrite」、モズレー商標、「モズライト」などの商標が、我が国の取引者・需要者の間で広く認識されていた、昭和47年以降、平成20年までの範囲に入ることになる。
(イ)本件商標は、「mosrite」、モズレー商標、「モズライト」と、「モズライト」と「モスライト」の称呼において第2音が「ズ」と「ス」の違いがあるだけであり、類似することは明らかである。
したがって、本件商標は、請求人出願商標の拒絶理由通知がいう「セミー・モズレー氏若しくはその関連会社の業務に係るギターを表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されている商標」と類似する商標であるから、他人の業務に係る商品との混同を生ずるおそれのある商標に該当し、商標法第4条第1項第15号に該当し、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきものである。
5 なお、請求人は、セミー・モズレー氏と特別な関係にある。
セミー・モズレー氏が商標権者であった商標登録第20151101号商標について、遺言書を添付して商標権移転登録申請書を提出した(甲第5号証の3)。
その遺言書には、「私の死亡時には存在する全ての私物を妻ロレッタ・バリア・モズレー(本件審判の請求人である)に残す。これは商号『Mosrite』と『M』を含み、さらに他の私の登録特許及び商標も含む。」と記載されており、上記登録商標の商標登録原簿には、「一般承継による本件の移転が登録されている(甲第5号証の4)。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし甲第64号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであると主張しているが、その根拠とするところは下記のとおりである。
すなわち、請求人は、自己が登録出願した別掲(1)のとおりの構成よりなる請求人出願商標が、「本願商標(審決注:「請求人出願商標」のこと。以下同じ。)は米国セミー・モズレー氏若しくは同人の設立したモズライト社或いはユニファイド・サウンド・アソシエーション社の業務に係るギターを表示するものとして、本願商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識されている商標と類似するものであるから、これを同氏と何らの関係も認められない出願人が、自己の商標として採択使用することは、公の秩序を害するおそれがあり穏当ではない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」との拒絶理由通知を受けたことを根拠として、本件商標も同様に商標法第4条第1項第7号に該当する、と主張するものである。
しかしながら、請求人の上記主張は、牽強付会も甚だしいものであり、理由がないことは明らかである。
(2)すなわち、請求人は請求人出願商標「マルM mosrite」が、上記拒絶理由通知書において指摘された「米国セミー・モズレー氏若しくは同人の設立したモズライト社或いはユニファイド・サウンド・アソシエーション社の業務に係るギターを表示するものとして、本願商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識されている商標」と類似するものであるから、これを同氏と何らの関係も認められない請求人が、自己の商標として採択使用することは、公の秩序を害するおそれがあると、特許庁審査官により認定されたことをもって、請求人出願商標と類似する本件商標も同様に公の秩序を害するおそれがある商標であると主張している。
また、請求人は、拒絶理由通知において指摘された「取引者、需要者間に広く認識されている商標」とは、平成19年(ネ)第10094号商標権侵害差止等請求控訴事件判決(甲第3号証)及び平成14年(行ケ)第283号審決取消請求事件判決(甲第4号証)に照らして、「mosrite」、モズレー商標、「モズライト」などの商標であると主張している。
しかしながら、上記判決(甲第3号証又は甲第4号証)において周知性が認定されているのは、別掲(2)のとおりの構成よりなる商標(モズレー商標)及び、本審判事件とは無関係な「VIBRAMUTE」なる商標のみであって、「mosrite」、「モズライト」などの商標については周知性は認定されていない。
したがって、本答弁書においては、上記拒絶理由通知において引用しているセミー・モズレーに係る商標とは、別掲(2)の「モズレー商標」(マルM mosrite of California)を指すものとして以下論を進める。
(3)請求人出願商標「マルM mosrite」に対する上記拒絶理由通知の内容について考察してみるに、特許庁審査官は、請求人出願商標「マルM mosrite」は、別掲(2)の「モズレー商標」と類似するものであるから、これを同氏と何らの関係も認められない請求人が、自己の商標として採択使用することは、公の秩序を害するおそれがあると認定したものであるが、このように認定したのは、単に両商標が類似しているからという理由ではない。
すなわち、両商標の構成態様を対比して観察すれば、請求人出願商標「マルM mosrite」がモズレー商標を剽窃したものであることは誰の目にも明らかであるから、特許庁審査官は、このような商標を登録することは公の秩序を害するおそれがあると認定したものと考えるのが妥当である。
したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるか否かは、本件商標がモズレー商標を剽窃したものであるのか否かが、重要なポイントとなる。
(4)しかしながら、被請求人は、本件商標をモズレー商標とは全く無関係に採択したものであり、モズレー商標を剽窃したものではないから、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものでないことは明らかである。
すなわち、本件商標は、「モスライト」の片仮名文字と「MOSSLIGHT」の欧文字よりなるもの(以下「モスライト/MOSSLIGHT」という場合がある。)であって、これは「moss(苔)」と「light(光)」を結合させて被請求人が作成した創造標章である。
被請求人である冨田靖隆は、中山路子氏とともに、2005年に第2回ベストデビュタント賞(ファッション部門)を受賞した新進気鋭の服飾デザイナーである(乙第1号証)。
ベストデビュタント賞とは、MFU(日本メンズファッション協会)が2004年に創設したものであり、新人クリエイター&アーティストたちの中から、その年の活躍が社会、文化、業界、一般の人々に支持され、影響を与え、将来を期待される人たちを各部門で選出する賞である。ちなみに、被請求人と同時受賞した音楽部門の受賞者は、若手バイオリニストとして有名な村治佳織氏である。
被請求人は、2002年10月に独自のブランド「MOSSLIGHT」を設立し、そのファッション性豊かな作品は、後述するように、各種ファッション雑誌やインターネットのファッション情報サイト等において頻繁に取り上げられ、アパレル業界における注目ブランドとして随所に紹介されている。
例えば、ファッション情報サイト「ファショコン通信」においては、「モスライトのブランド情報」として、下記のように紹介されている。
「冨田靖隆(Yasutaka TOMITA)。1985年エスモードジャポンに入学。96年、パリのエコール・ドゥ・ラ・シャンブル・サンディカル・ドゥ・ラ・クチュール・パリジェンヌ(Ecole de la Chambre Syndicale de la Courture Parisienne、通称サンディカ)に編入。2002年10月、モスライト(MOSSLIGHT)を設立。2003年、ヒロ杉山とコラボレートし初の展示会を行う。2004-2005A/Wより、中山路子(Michiko NAKAYAMA)が参加。」(乙第2号証)
また、インターネットによるオンラインショップ等を展開する「ELLE ONLINE(エル・オンライン)」の「Fashion News」においては、「モスライト」ブランドについて、下記のように紹介されている。
「今、都内のセレクトショップを中心に、にわかに注目を浴びているブランドがある。ブランド名は『モスライト(英語で苔と光の意)』。色石のような甘いトーンに色づけされたリメイク・コンバースに、雪の結晶のようなクリスタルを閉じ込めた、ありえないほど大きなフォルムのクリアバングル。一目見るだけでパッと心に焼き付く印象的なデザインは、アメリカでアート、フランスでファッションのキャリアを積んだ冨田靖隆氏と、日本のファッションスクールでデザインを専攻した山中路子氏の2人が手がけるものだ。ブランドの設立は‘02年。’04年春夏よりコレクションを発表し、今秋で3シーズン目を迎える。」(乙第3号証)
「Brand Profil モスライト ‘02年にブランド設立。ブランド名の『mosslight(苔と光)』は、デザイナーの2人が大好きだったアメリカの短編映画『moth light(蛾と光)』にちなみ、同じ音でもスペルが異なる単語を用いて名づけた。(後略)」(乙第3号証)
上記のブランド紹介情報の記載からも明らかなように、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」は、「moss(苔)」と「light(光)」を結合させて作った創造標章であり、モズレー商標とは全く無関係に採択されたものである。
すなわち、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」は、モズレー氏等の周知商標を剽窃したものではなく、何らモズレー氏等に対する信義に反するものでもないから、本件商標「モスライト」の片仮名文字と「MOSSLIGHT」が、公の秩序を害するものでないことは明らかである。
それにも拘らず、請求人は、別掲(2)のモズレー商標と無関係に採択したと到底思えない別掲(1)の請求人出願商標「マルM mosrite」と、モズレー商標とは無関係に採択したことが明らかな本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」とを同一視し、本件商標も請求人出願商標と同様に、公の秩序を害するおそれがあると判断されるべきであると主張するものであるが、請求人の当該主張はこじつけも甚だしいものであり、理由がないことは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当するものであると主張している。
すなわち、請求人は別掲(1)の請求人出願商標「マルM mosrite」(商願2008-11617)が、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」と類似すると認定されて、商標法第4条第1項第11号に該当することを理由に特許庁審査官から拒絶理由通知を受けていることを根拠として、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」と別掲(1)の請求人出願商標「マルM mosrite」が類似するのであれば、当然、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」と別掲(2)のモズレー商標「マルM mosrite of California」も類似するので、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」はモズレー商標との関係で「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」に該当し、商標法第4条第1項第15号に該当するものとなるから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきである旨主張している。
しかしながら、請求人の上記主張も理由がないことは下記のとおりである。
(2)請求人出願商標「マルM mosrite」と本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」との類否について検討してみると、前者からはその構成文字に相応して「モズライト」なる自然的称呼が生じ、後者からはその構成文字に相応して「モスライト」なる自然的称呼が生ずるため、両者が称呼上類似するものであることは明らかであり、かつ、指定商品も同一又は類似の商品を含むものである。
したがって、請求人出願商標「マルM mosrite」と本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」とは、相互に類似する商標であるとの特許庁審査官の判断は正当であると思料される。
次に、別掲(2)のモズレー商標「マルM mosrite of California」と本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」との類否について検討してみると、前者からは、その構成文字に相応して「モズライトオブカリフォルニア」なる自然的称呼とともに、その商標構成から「モズライト」なる独立した称呼も生じ得ると思料される。他方、後者からは、その構成文字に相応して「モスライト」の称呼が生ずる。そこで、前者から生じ得る「モズライト」の称呼と後者から生ずる「モスライト」の称呼とを対比すれば、両称呼は相類似するものと思料される。
次に、両商標に係る商品を対比してみると、別掲(2)のモズレー等の周知商標「マルM mosrite of California」(モズレー商標)は、商品「エレキギター」を表示するものとして取引者・需要者間において広く認識されている商標であるのに対して、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」の指定商品は第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であるから、両商品は非類似である。
したがって、モズレー商標と本件商標とは、標章は類似するものの、それぞれの使用に係る商品は非類似であるから、商標全体としては非類似の商標である。
(3)そこで、モズレー商標と非類似である本件商標をその指定商品である第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」に使用した場合に、本件商標の付された商品に接する取引者・需要者が、その商品が恰も「エレキギター」についての周知商標である別掲(2)のモズレー商標の商標主又はその商標主と何らかの関係にある者の業務に係る商品であると混同するおそれがあるか否かについて検討する。
商標審査基準によれば、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断にあたっては、
(イ)その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)
(口)その他人の標章が創造標章であるかどうか
(ハ)その他人の標章がハウスマークであるかどうか
(ニ)企業における多角経営の可能性
(ホ)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
等を総合的に考慮するものとする、とされている。
そこで、上記基準に沿って、「混同のおそれ」について検討してみると、
(イ)の基準に関しては、モズレー商標は、広範囲の取引者・需要者間において周知であるのではなく、「エレキギター」に関心のある限られた取引者・需要者、とりわけ、ベンチャーズ世代の年配の取引者・需要者間において周知であると思料される。
したがって、若者向けのブランドである本件商標の指定商品に係る取引者・需要者の中で、モズレー商標を知っている者は、極一部にすぎないものと思料される。
(ロ)の基準に関しては、モズレー商標の構成中「mosrite」の文字部分は造語であると思料されるが、そうであれば、「mosrite」の文字をそのまま使用しなければ、取引者・需要者が出所について混同を生ずるおそれはないと考えるのが妥当である。
しかしながら、本件商標は「モスライト/MOSSLIGHT」であって、欧文字部分の綴りは「mosrite」とは大きく異なるものであるから、取引者・需要者が出所について混同を生ずるおそれはないものと思料される。
(ハ)の基準に関しては、モズレー商標は、ハウスマークではなく、「エレキギター」について使用されている標章であるから、この基準には当てはまらない。
(ニ)の基準に関しては、モズレー氏等が多角経営を行っていた事実を被請求人は知らない。
(ホ)の基準に関しては、本件商標の指定商品と「エレキギター」では「商品の生産者、販売者、取扱い系統、材料、用途等の関連性」は全くないので、取引者・需要者が出所について混同を生ずるおそれはないと考えるのが妥当である。
このように、審査基準に当てはめてみても、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」をその指定商品に使用した場合、その商品が恰も「エレキギター」についてのモズレー商標の商標主又はその商標主と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかの如く取引者・需要者が混同するおそれは全くないものと考えられる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当するものではなく、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきでないことは明らかである。
(4)しかも、本件商標は、我が国において、既に相当の使用実績を有しており、本件商標は、アパレル業界において、被請求人が展開するブランドとして広く認知されるに至っている。各種ファッション雑誌等においても頻繁に取り上げられ、本件商標は、服飾品の取引者・需要者の目にもたびたび触れているが、これまで一度もモズレー商標との関係で、出所の混同を生じたことはない。
ここに、被請求人は、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」の使用実績を立証するために、各種ファッション雑誌等に掲載された本件商標の掲載頁を乙第4号証ないし乙第64号証として提出する。これらの証拠により、本件商標が、アパレル業界において、十分に認知されていると思料する。
これに対して、モズレー商標は、「エレキギター」の愛好者の間においては周知であるかもしれないが、アパレル業界において十分に認知されているとはいい難い。そうであれば、アパレル業界においては、モズレー等の周知商標よりも、むしろ、本件商標「モスライト/MOSSLIGHT」の認知度の方が高いというべきであり、この観点からも、本件商標をその指定商品に使用した場合、モズレー商標との関係で商品の出所の混同を生ずるおそれがあるとは到底考えられない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるとの請求人の主張は、理由がないものである。
3 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号のいずれにも該当するものではないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にされるべきものではない。

第4 当審の判断
本件審判請求は、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同法第4条第1項台15号に該当するとして、同法第46条第1項第1号に基づき本件商標の登録の無効を求めるものであるが、事案の内容に鑑み、まず、商標法第4条第1項第15号の該当性について判断する。
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人は、セミー・モズレー氏に係る商標について平成19年(ネ)第10094号(甲第3号証)及び平成14年(行ケ)第283号(甲第4号証)を引用するのみで、他にセミー・モズレー氏に係る商標の著名性について、何ら証拠を提出していない。
(2)本件商標とモズレー商標の類似性の程度について
前記2つの判決では、別掲(2)の構成よりなるモズレー商標がエレキギターに関する商標として、その取引者及び需要者間において周知著名であると認定されているので、本件商標とモズレー商標の類似性について検討する。
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「モスライト」の片仮名文字と「MOSSLIGHT」の欧文字とを上下二段に横書きしてなるものであるから、ぞぞれの構成文字に相応して「モスライト」の称呼を生じるものと認められる。
また、本件商標は、その下段部の「MOSSLIGHT」の欧文字の前半部の「MOSS」の部分が「苔」を意味する英語として相当程度知られており、後半部の「LIGHT」の部分は「光、光線」を意味する平易な英語であり、これらの両語からなるものと看取される場合があるとしても、全体としては親しまれた成語とはいい難いものであるから、特定の意味を有しない造語というのが相当である。
イ 他方、モズレー商標は、別掲(2)の構成のとおり、「マルM」の図形、を左側に配し、右側に「mosrite」の文字を配し、その下方に「of California」の文字を筆記体で小さく配してなるものであり、その構成中の「mosrite」も看者に注目される部分といえるものであり、構成全体として「モズライトオブカリフォルニア」の称呼を生ずるほか、「モズライト」の称呼を生ずるものである。また、本件商標からは、特段の観念を生じるものとは認められない。
ウ 以上を踏まえて本件商標とモズレー商標の類似性について検討するに、まず外観についてみてみると、両者は、それぞれの全体においては、明らかに異なる構成からなるものであり、また、本件商標の「MOSSLIGHT」の欧文字と、モズレー商標の構成中、「mosrite」の欧文字部分とを比較しても明らかに異なる構成からなるものである。
次に、称呼についてみてみると、本件商標から生ずる「モスライト」の称呼とモズレー商標から生ずる「モズライト」の称呼とは、第二音において「ス」と「ズ」の差異を有するにすぎないから、称呼上においては類似するものというべきである。
さらに、観念上においては、本件商標とモズレー商標とは、いずれも特定の意味を有しない造語よりなるものであるから、観念上においても紛れるおそれのないものというべきである。
(3)モズレー商標の使用する商品と本件指定商品との関連性
本件商標の指定商品は、第25類に属する「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であり、請求人が引用する前記判決においては、モズレー商標は、「エレキギター」に関する商標として周知著名であったと認定されているもの解される。
そうとすると、本件商標の指定商品とモズレー商標に係る上記商品とは、、商品の生産者、販売者、取扱い系統、材料、用途等が明らかに異なる非類似の商品であって、関連性の程度が極めて低いものである。
(4)以上のとおり、本件商標とモズレー商標とは、称呼において類似するところがあるとしても外観において顕著な差が認められ、観念において相紛れるおそれはなく、また、両者がそれぞれ使用される商品の関係は薄く、モズレー商標が仮にギターについて著名性が認められるとしても、当該ギターは、いわゆるビンテージ品といえるものであり、その著名性は、専門的なギターの需要者を中心とするものというべきであることからすると、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者がモズレー商標を直ちに連想又は想起するとはいい難く、請求人の業務に係る商品、若しくは、請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれる(平成17年(ケ)第10349号参照)と解するのが相当である。
(2)そこで、上記(1)の観点から、本件商標の登録が商標法第4条第1項第7号に違反するものであるか否かについて検討する。
ア 本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「モスライト」の片仮名文字と「MOSSLIGHT」の欧文字とを上下二段に横書きしてなるものである。
そして、その構成中の「MOSS」(モス)は「苔」を意味する英語であり、「LIGHT」(ライト)は「光」を意味する英語であるが、構成全体としては、特段の意味合いを有するものとして知られているというような事情は認められない。
そうすると、本件商標は、その商標の構成自体は、非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字と図形との組み合わせからなっているとはいえないものである。
イ 被請求人の提出する証拠によれば、また、「モスライト」、「MOSSLIGHT」は、ファッションデザイナーである被請求人が同じくデザイナーである中山路子氏と2002年に設立したブランドであり(乙第1号証ないし乙第3号証)、ブランド名は、二人の好きな米国の短編映画「moth light」にちなみ、同じ音でもスペルが異なる単語を用いて名付けられたことが認められる(乙第3号証)。
そして、上記二人は、2003年5月に最初のエキシビィション”PAIR LOOKS」展を発表(乙第1号証)以来、MOSSLIGHTブランドの商品は、ファッション雑誌においても紹介され(乙第4号証ないし乙第7号証)、さらに、本件商標の登録出願後ではあるものの、被請求人及び中山路子氏は、「MOSSLIGHT」ブランドにより、平成17年11月30日に行われた日本メンズファッション協会ベストドレッサー実行委員会主催による「The Best Debutant of the year 2005」において、ベストデビュタント賞を受賞した(乙第1号証)ことが認められる。
そして、本件商標は、前記1のとおり、その指定商品に使用してもモズレー商標とその出所について混同を生ずるおそれがないことからすると、本件商標の出願の経緯において、社会的妥当性を欠くものとはいうことができない。
ウ 以上、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような標章からなるものとはいえず、また、これをその指定役務に使用することが公共の利益や社会の一般道徳観念に反するものとはいえない。さらに、その出願の経緯において社会的妥当性を欠くものがあったとすべき事実及び証拠はみいだせないから、本件商標は、公序良俗を害するおそれがある商標にはあたらず、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(3)以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に違反してされたものではないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)


(2)


審理終結日 2009-05-18 
結審通知日 2009-05-22 
審決日 2009-06-02 
出願番号 商願2004-3122(T2004-3122) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (Y25)
T 1 11・ 271- Y (Y25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 松江 
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 内山 進
岩崎 良子
登録日 2004-08-06 
登録番号 商標登録第4793420号(T4793420) 
商標の称呼 モスライト、モス 
代理人 水谷 安男 
代理人 山口 朔生 
代理人 島田 義勝 

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