• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 117
管理番号 1205210 
審判番号 無効2005-89065 
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-13 
確定日 2009-10-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第2634277号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2634277号商標(以下、「本件商標」という。)は、「インディアンモーターサイクル」の文字を横書きしてなり、平成3年11月5日に登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成6年3月31日に設定登録され、その後、同17年7月13日に第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類ないし第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第2号証ないし同第356号証(甲第1号証及び同第65号証ないし同第76号証は欠番。)を提出した。
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は商標法(以下「法」という。)第4条第1項第7号に該当するから、本件商標の登録は法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
(2)無効理由
ア 本件商標は、被請求人において、その指定商品に使用せず、我国において「Indian」商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。判例上表れたものを幾つか列挙すると、例えば、東京高裁平11.11.29判決・平10(行ケ)18号、東京高裁昭和56.8.25判決・昭55(行ケ)95号、東京高裁昭和56.8.31判決・55(行ケ)96号、東京高裁平成11.11.29判決・平10(行ケ)18号、東京高裁平成11.12.22判決・平10(行ケ)185等がある。
上記裁判例からも明らかなように、「公序良俗に反するおそれのある場合」とは多岐にわたるのである。もとより、公序良俗に反するおそれのある場合が、商標の構成自体に問題がある場合や構成自体に特に問題がなくても使用する商品との関係で社会の一般的道徳観念に反するような場合に限られるものではない。そして、「公序良俗を害するおそれ」はこれをことさら制限的に解さなければならないものではない。ことさら制限的に解することは、健全な商標秩序を害するおそれのある商標、社会的妥当性を欠く商標の登録を認めることにつながり、法が樹立、維持、発展せんとする健全な商標秩序の阻害をもたらすことにつながる。
イ 以下に述べるとおり、本件商標は、被請求人において、
(ア)米国において「Indian」ブランドビジネスが立ち上げられたことを知り、将来日本において「Indian」ブランドビジネスが導入展開されることあるべしと予測し、
(イ)これを商品に一切使用する意思なしに(事実、被請求人は本件商標を商品に一切使用しなかった。)、
(ウ)将来日本に「Indian」ブランドビジネスが導入展開されたときに、他人の業務を妨害する目的で、出願し登録したものである。
かかる商標の登録を認めることが健全な商標秩序を害することになり、社会的妥当性を害することになる。本件商標が公序良俗に反するおそれのある商標であることは明白である。
(3)以下、項目毎に述べる。
ア 被請求人は、米国において「Indian」ブランドビジネスが立ち上げられたことを知り、将来日本において「Indian」ブランドビジネスが導入展開されることあるべきことを予測した。
このことは、以下の事実から明らかである。
(ア)米国で「Indian」ブランドがマーチャンダイジングのブランドとして復活されたのは平成2年6月ころであった(甲63、28頁参照)。そして、この「Indian」ブランドの復活は米国で大々的に報じられた。「USA Today」紙やデイリーニューズ紙のような一般紙にも平成3年7月1日に報じられた程である(甲7、8)。業界紙や業界誌においては尚更である。被請求人は、添付1記載の如く、外国のブランド情報をあさっている。被請求人が「Indian」ブランドの復活の報道を直接又は人づてに知り、「Indian」ブランドビジネスが将来日本で展開されることあるべしと予測したことは明白である。当然の事ながら、東京地方裁判所は、被請求人が甲7、甲8を見たと認定している(甲63、39頁)。
(イ)「『Indian』ブランドビジネスが日本で将来展開されるであろうことを予測した」か否かを認定する上で大事な事実は、「Indian」ブランドビジネスが米国で起ち上がったことを知ったか否かであり、新聞記事そのものを見たか否かではない。
被請求人が仮に上記2紙を、直接自ら見なかったとしても、人伝えで、また、他の媒体で、「Indian」ブランドビジネスの起ち上げを知ったことは間違いのないところである。
例えば、被請求人自身、米国のヴィンテージバイクの愛好家団体と接触があったと述べている(甲226 9頁(2))。
したがって、被請求人が、仮に、上記記事を自ら直接見なかったとしても、かかる人伝えに得た情報から、「Indian」ブランドの起ち上げを知っていたことは明白である。そして、かかる情報を得た被請求人が上記2紙の記事や他の媒体の記事を集めたことも容易に推認出来ることである。
(なお、被請求人の、甲226 9頁(2)における、「米国にヴィンテージバイクの愛好家団体より……我が国で商標登録出願したのである。」、「カタカナ表記としたのは、……とりあえず音表記で出願した」、「カタカナ表記にしたのは、……取り敢えず音表記で出願した」、「原告にあっても、ロゴ書体が決まったものについてはその都度出願してきた」との主張は虚偽であること明白である。米国の愛好家のバイクジャケットを作るために日本で商標登録をする必要は全くない。また、米国の愛好家の薦めでこのバイクジャケットを市販品化するというのであれば、米国が主たる市場の筈であるから、日本で商標登録をする必要など全くない。また、米国の愛好家が商標を片仮名の「インディアンモーターサイクル」とすることを提案したりすることなどあり得ない。「インディアンモーターサイクル」という音が決まっていたのであれば、書体が決まっていなくても、片仮名ではなくアルファベットで「INDIAN MOTORCYCLE」として出願すれば済む、また、そうするのが当然である。
また、ロゴ書体が決まったものについては、その都度出願したというが、「その都度出願した商標」なるものは、「『ヘッドドレスロゴ』+MOTOCYCLE」、「『左向きのインディアンの図形』+『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』/Motorcycle(「Indianロゴ」と同一書体)」等であり、これらは片仮名「インディアンモーターサイクル」と同一性の無いものである。「ロゴ書体が決まった」と言えるのは同一性の範囲内にあるものについてのみ言えるものである。しかも、これらの出願は、請求人の企業努力により「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標が市場に浸透したのを見計らってなしたものである。
被請求人のかかる陳述自体、本件商標の出願登録が、被請求人において「Indian」ブランドビジネスの立ち上げられたことを知り、将来日本で「Indian」ブランドビジネスが導入展開されるべきことを予測し、日本に「Indian」ブランドビジネスが導入され展開されたあかつきには、その導入展開した者の業務を妨害する目的で出願したものであることを自白するものである。また、「このような出願手段は・・・一般的に採られている手段である」との主張は、「居直り」とでもいう外ないものであり、全く失当である。)
(ウ)そして、米国で立ち上げられた「Indian」ブランドビジネスがTシャツ、革ジャン、皮パンツなども対象にしていることや日本市場もターゲットにしていることも、広く報じられていたことである。
すなわち、甲第7号証は、「今のところ、ザンギ氏は衣類やアクセサリーのビジネスで大きな成功を収めている。インディアン・Tシャツ、皮ジャン、皮パンツ、しろめ製バックル、ブーツなどの新シリーズが売り出されている。ライダーにとって、またそうでない人にとっても好まれる酒落たものを目指すため、彼の20歳の娘レジーナがこのビジネスを運営している。『もちろん黒の皮製品も提供していくつもりですが、我々としては茶や緑、バックスキンなどで幅広い層にアピールできるようなスタイリッシュなデザインに移行していくつもりです』と彼女は語る。」と記載し、そして、甲第8号証は、「18歳の時、初めてその1934年型に乗ってからインディアン・ファンとなった彼は去年そのインディアンの商標権を買い取り、アクセサリー会社と共にテスト・マーケットをすることにした。バイヤーたちはその会社のトレードマークであるインディアン・ヘッドを附したTシャツや皮ジャンに飛びついたのだった。」と記載し、「Indian」ブランドのTシャツ、皮ジャン、皮パンツ等が既に製造販売されていることを明らかにしている。
また、甲第7号証は、「初回製造は国内バイヤーを対象にするだけでなく、オランダ、ドイツ、イギリス、日本といった長期的な輸出による成功を見込めるような強力な海外バイヤーも対象としている。」と述べ、日本も市場としてターゲットにしていることを述べているのである。
(エ)そもそも、ブランドビジネスは、立ち上げた当初は、立ち上げた国において自国市場への浸透をはかるのである。自国市場に浸透するにつれ、外国のバイヤーが輸入を打診して来るようになり、輸出につながるようになる。更に、外国へのライセンスや外国での商権の譲渡等そのブランドを外国に導入したいと思うものが現れるようになり、ライセンス等が行われるようになる。そして、ライセンス等が成功し、導入された外国での事業規模が大きくなるにつれ、当該ブランドのオウナー自身が外国に直接投資し、子会社を作り、自ら乗り出すことになる。勿論、外国市場に導入されない場合も多い。ブランドビジネスがこのような段階を経て発展していくものであることは常識であり、いわんや、被請求人のようにブランドビジネスを業とする者にとっては尚更である。
(オ)したがって、被請求人が、「Indian」ブランドビジネスが将来日本で展開されることあるべきことを予測したことは明らかである。
(カ)なお、ブランドが立ち上がった時点で、外国でブランドビジネスを行うことについて何ら具体的な企画もないのは当たり前であり、いわんや、外国での直接投資などに至ってはいうに及ばないことである。
インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク社が設立され「Indian」ブランドビジネスが開始された直後の新聞記事である甲第7号証、甲第8号証に日本進出に関する具体的な記載が無いのは当たり前であり、かかる記載が無いからといって、被請求人が将来日本に「Indian」ブランドが導入されたときに「Indian」ブランドを導入した者の業務を妨害する目的で本件商標を出願登録したことを認定するのに、何ら妨げとなるものではない。
そして、このように、海外でブランドが立ち上がり、将来日本にそのブランドが導入されることが考えられ、将来実際に導入され展開されることとなったときに、その導入展開する者の業務を妨害する目的で商品に使用する意思なしに先ず海外ブランドに類似した商標を片仮名で登録しておく行為が違法であることは明白であり、かかる登録商標は健全な商標秩序を害するおそれがあり、社会的妥当性を欠き、公序良俗に反するおそれがある。
イ 本件商標は、被請求人において、これを商品に一切使用する意思なしに、将来日本に「Indian」ブランドビジネスが導入展開されたときに、他人の業務を妨害する目的で、出願し登録したものである。
このことは、以下のことから明らかである。
(ア)被請求人が本件商標を使用しなかったことは、本件商標を指定商品に使用する意思なしに出願し登録したことを示すものである。すなわち、
(a)被請求人が本件商標の指定商品であるシャツ、帽子、ジャケット等に使用したのは、「Indianロゴ」(特徴ある筆記体の欧文字「Indian」)からなる商標(例えば甲13-1、1枚目に示す態様の商標)、「『Indianロゴ』/Motocycle」(書体が「Indianロゴ」と同じ)、「ヘッドドレスロゴ」(例えば、甲13-3の1枚目の上の写真の胸部に示す態様の商標)に類似した商標等であり、「『Indianロゴ』/Motorcycle」(上下2段)、「『Indianロゴ』/Sportswear」(上下2段)等であった。
(b)被請求人が使用した上記商標が本件商標と同一性の範囲外にある商標であることは、以下のことから明らかである。
i 第一に、片仮名表記の商標とそれと同音の欧文字表記の商標であって同一の称呼及び観念を生ずるものとを同一性の範囲内にあるとする取扱いが始まったのは、平成9年4月1日からである。これは、平成8年12月16日の仮処分決定の後であり、本件商標の出願登録の後である。
ii 第二に、本件商標は、「インディアンモーターサイクル」の一連一体の称呼のみ及びこれに対する観念のみを生ずるものとして登録になったのである。
(イ)被請求人が使用した商標は、請求人が日本市場に導入し、日本市場に浸透させた商標と同一又は類似する商標であり、本件商標の同一性の範囲外にある商標である。
(ウ)被請求人は、上記商標等の使用を、請求人の企業努力により、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の「Indian」ブランドが市場に浸透するやいなや開始し継続した。すなわち、
(a)請求人は平成5年6月30日に設立されたが、請求人が「Indian」ブランドビジネスを日本において展開することは、平成5年7月24日の繊研新聞(「繊維新聞」は誤記と認める。)及び日経流通新聞で広く報じられた(甲17、18)。
請求人は、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」等を使用した「Indianブランド」の商品(ジャケット、シャツ、帽子、バック等)の輸入販売を行うかたわら、月刊誌「DICTIONARY」に平成6年1月から平成7年2月にかけて、定期的に広告をし(甲21)、「Indian」ブランドの宣伝に努めた。
(b)かかる企業努力のかいあって、「Indian」ブランドは、平成5年11月の時点で「ブームとなるのが時間の問題であり」(甲19)、平成6年前半には市場に浸透し、平成6年前半には、バックについてマルヨシにライセンスをする迄になり(甲22ないし24)、平成6年後半には一層市場に浸透した(甲25、26)。
すると、すかさず、被請求人は、「Indian ロゴ」 、「『Indianロゴ』/Motocycle」、「ヘッドドレスロゴ」と類似した商標等の使用をシャツ、ジャケット、帽子等について開始し(甲27ないし30、30-2ないし30-10)、請求人の警告を無視してこれを継続した。
(c)請求人は、平成7年、西澤社に対し、「Indianロゴ」等の商標を革製ジャケット等に使用するライセンスを許諾した。
西澤社は、平成7年から平成8年にかけて巨額の資金を投入して広告と宣伝を行った(甲32ないし41)。この結果、「Indian」ブランドはレザージャケット等のブランドとしても市場に浸透した。
翌平成8、9年の秋冬シーズンに西澤社が前年の投資の成果を回収しようとした矢先、被請求人は平成8年の秋冬シーズンの始めから「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/Motocycle」等を使用した革製ジャケット等の販売を開始した(甲59ないし62)。
その間、被請求人は上記「Indianロゴ」、「『インディアンロゴ』/Motocycle」、「ヘッドドレスロゴ」と類似した商標等の使用を継続した。
(d)これらの結果、市場に混乱を示し、請求人(及びそのライセンシー)は業務を妨害され、多大な損害を蒙った。
(e)そこで、請求人はやむなく訴を提訴し仮処分命令の申立をしたが、請求人が仮処分命令の申立を提起した結果、仮処分決定が平成8年12月に出された(甲43)。
(f)同仮処分手続を担当した裁判官は、マーチャンダイジングビジネスの実体、市場の実体、請求人と被請求人事業活動の実体及び請求人と被請求人とでいずれが「Indian」商標の使用について正統かについて調査した上、「被請求人は片仮名の『インディアンモーターサイクル』と欧文字の活字体の『INDIANMOTORCYCLE』(横一列、一つながり)を使って良い、しかし、筆記体の『Indian Motorcycle』(横一列、つながり)は『Indianロゴ』と同一書体であると否とに拘わらず使用しない、『Indian/Motorcycle』と上下二段の使用は活字体と筆記体とを問わずしない」という極めて合理的かつ実際的な和解案を提示した。
然るに、被請求人はこれを拒絶し、仮処分決定を受けた後も、「Indianロゴ」と同一又は酷似した書体の 「Indian」、「Indian/Motorcycle」 、「Indian/Motorcycle」等を使用して、革製ジャケットやTシャツ等の輸入、販売、広告を継続した(甲44ないし46、48ないし58)。他方、本件商標は一切その指定商品に使用しなかった。
(エ)(a)以上のことから、被請求人は、本件商標の出願の当初から、本件商標をその指定商品に使用する意思を有しなかったばかりでなく、当初から 「Indianロゴ」を含む商標を使用する意思をもっていたのであり、しかも、何人かが日本に「Indian」ブランドビジネスを導入して「Indian」ブランドビジネスを展開し、「Indian」商標が日本市場に浸透したときに、日本市場に「Indian」商標を導入した者の企業努力の成果に便乗しこれを収奪することを企図して、本件商標の出願登録をしたことは明白である。
(b)さもなければ、平成6年に「Indianロゴ」等の商標がTシャツやジャケットや帽子等の商標として市場に浸透するや、すかさず「Indianロゴ」等の商標をTシャツやジャケットや帽子等に使用し、請求人らの抗議を無視してこれを維持し、更に、これに加えて、平成7年に「Indianロゴ」等の商標が革製ジャケット等に使用する請求人の商標として市場に浸透するや、すかさず「Indianロゴ」等の商標を革製ジャケット等に使用し、請求人らの抗議を無視してこれを継続するというようなことはしなかった筈である。
また、上記のように、裁判官が合理的かつ実際的な和解案を呈示し和解を勧告したときに、これを拒絶するというようなことはしなかった筈である。
(c)また、被請求人が本件商標の出願の当初から「インディアンモーターサイクル」を使用せず、「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」などの「Indianロゴ」を含む商標を使用する意思を有していたこと、しかも、将来「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」等の「Indian」商標を使用したブランドビジネスが他人により日本に導入され展開され市場に浸透するのを待って「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」などの「Indianロゴ」を含む商標を使用した商品を市場に投入して、その他人の企業努力の成果を違法に収奪し、その他人の業務を妨害することを企図していたことは、被請求人が「Indianロゴ」を含み「Indianロゴ」に類似する商標や「ヘッドドレスロゴ」に酷似した商標を、第25類等に平成6年以降次々と出願したことからも明らかである (甲228ないし甲233)。
また、平成16年に至って「Indian」からなる商標を第25類に出願した(甲227)ことからも明らかである。
しかも、平成6年に出願した2つの商標は、「Indianロゴ」を含み、「ヘッドドレスロゴ」に酷似するばかりでなく、請求人の略称である「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を含むものである。また、平成7年に出願した商標は、「Indianロゴ」を含み「ヘッドドレスロゴ」に酷似するばかりでなく、請求人の略称である「INDIAN MOTOCYCLE」を含むものである。
被請求人のかかる出願は、出願の当初より本件商標をその指定商品に使用する意思を一切有せず、「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」等の「Indianロゴ」を含む商標のみを本件商標の指定商品に使用する意思を有していたのであり、また、被請求人が「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」等の「Indianロゴ」を含む商標を日本市場に導入する他人(本件では請求人ら)の企業努力の成果を収奪しその業務を妨害する意図で出願したものであることを明らかに示すものである。
(d)このことは、更に、次のことからも明らかである。
すなわち、請求人は、平成8年5月、東京地裁に、被請求人に対し訴を提起し(平成8年(ワ)9391号)、訴提起後も被請求人がかかる違法な使用を継続したため上記仮処分命令申立を提起したが、被請求人はこれに対抗して本件商標に基づき請求人、西澤社らに対し訴を提起し(平成8年(ワ)第14026号事件)、仮処分命令の申立をした(平成8年(ヨ)第22136号事件)。
日本に導入されることあるべき欧文字の商標があるときに、その欧文字の商標の片仮名表記を日本で登録しておき、後に同欧文字の商標を使用したビジネスが日本で展開されるや、当該片仮名の商標に基づいて欧文字の商標を用いたビジネスを妨害し、訴を提起するのは、添付1記載の「ベアーサーフボード」の事例と全く同じ手口である。
なお、被請求人の平成8年(ワ)第14026号事件の請求は権利の濫用にあたるとして棄却され(甲63)、被請求人の控訴も棄却された(甲234)。被請求人は上告受理申立をした(甲235)が、後にこれを取り下げた(甲236)。
また、被請求人の仮処分命令の申請は却下され(甲215)、抗告も棄却された(甲216)。
ウ なお、添付1に記載する如く、被請求人はいずれ日本市場に導入されることあるべしと考える外国のブランドを多数出願し登録することを行っている。
このことからも、前記の目的で、本件商標の出願登録を行ったものであることが明らかである。
(4)被請求人において「Indian」ブランドを用いてビジネスを展開したいならば、「Indianロゴ」等の商標を先ず出願登録し、日本市場に導入し、自ら広告宣伝して市場に浸透させ、かかる商標を使用した商品を製造販売するというまっとうなビジネスを展開すればよい。
被請求人の行ったことは、資金とエネルギーと創意と工夫の要る、また失敗という危険を伴う、「Indian」ブランドの日本市場への導入浸透という地道な作業を他人に行わせ、本件商標を口実にして、その成果のみを横取りして他人(請求人)の業務を妨害したことである。かかる行為が商標の先願主義を悪用するものであり、公正な競業秩序に反するものであることは明らかであり、本件商標が公正な競業秩序に反するものであり、公序良俗に反する商標であり、法第4条第1項第7号に該当するものであること明白である。
(5)以下、念のため、幾つかの点について明らかにする。
ア 米国のインディアン・モトサイクル・カンパニー・インク(審決注;以下、「ザンギインディアン社」という。)は、既に消滅していたインディアン・モトサイクル・カンパニー(審決注;以下、「旧インディアン社」という。)がオートバイに使用していた「Indian」商標にマーチャンダイジングのブランドとしての価値を新たに付与した。したがって、ザンギインディアン社はかかるマーチャンダイジングブランドとしての「Indian」商標の出所として認識された。また、スコット・カジヤはザンギインディアン社から日本における「Indian」商標を使用したマーチャンダイジングビジネスの権利を取得したものであり、請求人はスコット・カジヤの承継者であり、「Indian」商標を日本において使用する正当な権利利益を有するものである。
イ ザンギインディアン社は1901年設立の旧インディアン社と無関係である。また、ザンギインディアン社の創立者であるフィリップ・ザンギとザンギインディアン社とは別物である。会社を発起し設立した者と会社とが別物であることは自明である。
ザンギインディアン社は、既に消滅していた旧インディアン社がオートバイに使用していた「Indian」商標にマーチャンダイジングのブランドとしての価値を新たに付与した。そして、このことは新聞等で報じられた。したがって、ザンギインディアン社はかかるマーチャンダイジングブランドとしての「Indian」商標の出所として認識された。であったからこそ、スコット・カジヤ始め多くの者が同社に投資したのである。
「BEAR SURF BOARDS」が映画「BIG WEDNESDAY」の中で使用され有名になり、マーチャンダイジングビジネスのブランド(キャラクター)としての顧客吸引力を有したときに、この使用を望むものは同映画会社から許諾を得て使用をした(マスターライセンシーのヴァルキリ一社、日本のサブライセンシーのサクラインターナショナル)。これと同じく、スコット・カジヤもザンギインディアン社から、日本における「Indian」商標を使用したマーチャンダイジングビジネスの権利を対価を支払って取得した。
映画会社より許諾を受けてマスターライセンシーとなったヴァルキリ一社からサクラインターナショナルが権利許諾を受けて日本における「BEAR SURF BOARDS」を使用したビジネスの展開をしたのと、スコット・カジヤがザンギインディアン社より日本において「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開する権利を取得したのとは、同じ行為である。そして、請求人はスコット・カジヤの適正な承継人である。
日本の市場は、請求人を日本における「Indian」ブランドの正当な出所と認め、「Indian」商標に対する請求人の権利・利益を尊重している。株式会社ムラキもダイワ企業株式会社も、商標権を請求人に譲渡したのである(甲210、211)。自らの商標登録を奇貨として「Indianロゴ」等を用いて「Indian」ブランドの商品を製造販売するようなことはしなかったのである。また、他の「Indian」や「インディアン」を含む商標を有する者も、それを奇貨として「Indianロゴ」等を用いて 「Indian」ブランドの商品を製造販売するようなことはしなかった。
ビジネスの常道に則り、公正な競業秩序に則って、日本国にマーチャンダイジングブランドとしての「Indian」ブランドを導入し、企業努力を傾注して 「Indian」ブランドを日本市場に浸透させたのは請求人である。したがって、請求人は日本における「Indian」商標の正当な出所と認識され、現に多くの企業が請求人よりライセンスを受け、「Indian」商標を用いたビジネスを展開しているのである。
これに対して、被請求人が行ったことは、米国で「Indian」の復活が報じられるや、すかさず、本件商標を出願し登録を得、請求人の企業努力により「Indian」ブランドがジャケットやTシャツや帽子について請求人を出所とする商標として市場に浸透するや、すかさず、平成7年5月項より「Indianロゴ」、 「『Indianロゴ』/Motocycle」、「『インディアンロゴ』/Motorcycle」、「『Indianロゴ』/Sportswear」、「右向きのインディアンの図形」『Indianロゴ』/MOTORCYCLE」、「『Indianロゴ』/MOTORCYCLE」等を付したジャケット、Tシャツ、帽子等の輸入製造販売を開始し、請求人の警告を無視してこれを続け、更に、請求人及びそのライセンシーの企業努力により「Indian」商標がレザージャケットやレザーパンツ等に使用する請求人を出所とする商標としても市場に浸透するや、すかさず、平成8年/9年の秋冬シーズンに合わせて、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/Motorcycle」、 「『Indianロゴ』/Sportswear」等を使用したレザージャケット等の販売を、上記ジャケット、Tシャツ、帽子等の販売とともに行ったのである。
そして、被請求人は、かかる行為を、請求人より平成8年5月に訴(東京地方裁判所平成8年(ワ)第9391号事件)を提起されても続けたのである。
かかる被請求人の行為により、請求人や請求人のライセンシーの業務が妨害されたことは当然である。
ウ 自らブランドビジネスを行うものでありデザイナーでもあるスコット・カジヤは、「インディアン」の復活の報に接して、日本において「インディアン」のマーチャンダイジングビジネスが適正に展開されれば成功すると予測し、ザンギインディアン社に約1億円の投資をして、日本における「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開する権利を取得した。
もとより、スコット・カジヤはフィリップ・ザンギの「詐欺」の一味でも何でもない。スコット・カジヤはザンギインディアン社の倒産により投資資金の回収が出来なくなった被害者なのである。
エ 請求人は、スコット・カジヤとサンライズ社とが合弁で設立した会社であるが、フィリップ・ザンギと何の関係もない。請求人は然るべき対価を支払ってスコット・カジヤから日本における「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開する権利の譲渡を受けた。
よって、請求人が日本において「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開するに至った経緯は全くビジネスの常道に則った社会的に全く正当なものであり、請求人による「Indian」商標の使用は全く正当であり、社会的に見て非難さるべき点は何もない。
オ ザンギインディアン社が倒産せず、米国において順調に「Indian」ブランドビジネスが展開発展していたならば、請求人によるビジネスは格段に容易になっていたことは明白である。
「Indian」ブランドのブランドとしての位置(分類)は、ヴィンテージバイカー系のアメリカンカジュアルである。米国において「本家」の「Indian」ブランドビジネスが成功していたならば、請求人は、「本家」の成功を広告宣伝に用いることができた。「本家」のザンギインディアン社が倒産し、米国で「Indian」ブランドビジネスがうまく育たなかったことで請求人の日本におけるビジネスの展開は著しく困難になった。また、フィリップ・ザンギの「詐欺」による逮捕も、「Indian」ブランドのイメージを害する要素として働いたのであり、この点においても請求人による「Indian」ブランドビジネスの展開は困難になったのである。
しかし、かかる困難にめげず請求人は営々とした企業努力を積み重ね、「インディアン」をアメリカンカジュアルの主要なブランドにまで育て上げたのである。
カ したがって、日本の市場は(取引者も消費者も)請求人を日本における「Indian」ブランドの唯一の正当な出所として認識して尊重しているのである。スコット・カジヤのかかる日本市場における「Indian」ブランドの可能性に対する正しい洞察及び請求人のかかる正当な企業努力及びその成果は何人によっても尊重されなければならない。事実、日本の市場は正当にかかる企業努力及びその成果を尊重しているのであり、被請求人以外の何人も請求人の企業努力の成果を収奪し、その業務を妨害したりするようなことはしなかった。
キ 被請求人は多くの外国ブランド等を無断で冒認出願している。
被請求人は、いずれ日本に導入されると思われた「BEAR SURF BOARDS」を片仮名で「ベアーサーフボード」として無断で商標出願登録し、正規の権利者の業務を妨害した。かかる行為は、商標の先願主義の悪用である。
ク 被請求人が「Indian」商標に関して行ったことも「ベアーサーフボード」と全く同じである。被請求人の「Indian」ブランドに関する行為の反社会性は何人の目にも明らかである。すなわち、
(ア)被請求人は、多くの海外ブランド(「TACHINNI」、「O’NEILL」等)を商標登録し、また、マーチャンダイジングビジネスの核となりうるような固有名詞や人名や地名や名称等(「ベアーサーフボード」、米国陸軍航空隊のマーク等)を多く商標登録している。
かかる登録は、海外ブランドのオウナーや固有名詞や人名や地名や名称の所有者に無断でなしたものである。かかる登録は先願主義を悪用するものであり、かかる行為の反社会性は明白である。そして、かかる冒認出願を平然と多数行う被請求人が如何なる者であるか、何人の目にも明らかである。
(イ)被請求人によるかかる冒認出願は、海外のブランド等が日本市場に導入され、正規の権利者によりかかるブランド等が日本市場に浸透したときに、当該ブランドを使用した商品を市場に導入し、正規の業者の企業努力の成果を収奪して不正の利益を得、正当な権利者からクレームを受けたときに冒認登録した商標の商標権により対抗するというのでなければ、実益は無い。
しかし、外国のブランド等をそのまま登録したのでは、如何にも見え見えである。また、冒認されたブランドの日本市場への導入が断念されてしまい、正規の業者の企業努力の成果に便乗して不正な利益を得るということは不可能になる。そこで、被請求人は手口を変え、いずれ日本市場に導入されると思われるマーチャンダイジングビジネスの核となるべきキャラクター(欧文字の商標その他標章)が出来したときに、先ず無断で、これを片仮名で日本に商標登録し、かかる欧文字のキャラクターを使用したビジネスが日本市場に導入展開され市場に浸透するや、かかる片仮名を一切使用せず、かかる欧文字のキャラクターを使用し、正規の業者の企業努力の成果に便乗して不正の利益を得、正規の権利者からクレームを受けるや、かかる片仮名で登録した商標の商標権に基づいてクレームに対抗し、欧文字のキャラクターを使用した企業努力の成果の収奪、不正の利益の取得を続ける手段とすることとしたと合理的に推測される。
かかる推測が事実であることは、何よりも、「ベアーサーフボード」の登録とこれに対する商標権に基づく正規の権利者への訴に如実に示されている。
(ウ)(a) そして、本件商標の登録も「ベアーサーフボード」と全く同一の手口である。
(b)被請求人は、「Indian」の復活が報じられ、「Indian」商標がマーチャンダイジングビジネスの核となるキャラクターとして新たな価値を付与されたことを知った。そして、将来日本に「Indian」ブランドビジネスが導入展開されることのあるべきことを予測した。
スコット・カジヤは、他の多くの投資家と同様、ザンギインディアン社に投資し、正当な対価を払って日本における商権を取得し、日本に「Indian」ブランドを導入し、請求人を設立し、事業を展開した。
これに対し、被請求人の行ったことは、「ベアーサーフボード」と同じく、片仮名「インディアンモーターサイクル」を出願し登録することであった。もとより、被請求人は、「インディアンモーターサイクル」を商品に使用する意思は一切有しなかった。事実、被請求人は「インディアンモーターサイクル」を商品に一切使用しなかった。
(c)商標は使用するために出願し登録するものであり、登録を得ながら一切使用しないのは最初から出願登録の目的が使用にないことを如実に示すものである。
ケ 日本市場に正当に「Indian」ブランドを導入し、企業努力を傾注して「Indian」ブランドを浸透させた、請求人の企業努力とその成果は保護さるべきものである。
(ア)請求人による「Indian」ブランドの日本市場への導入の経緯に何ら非難すべき点が無いこと、日本市場への導入後の企業努力が全く正当であること、その企業努力の成果は保護すべきものである。
このことは、日本市場が請求人を日本市場における「Indian」ブランドの正当な出所として、一致して認識していることから明白である。
(イ)他方、被請求人が行ったことは、「Indian」ブランドにマーチャンダイジングブランドとしての価値が付与され、これが公に告知されるや、すかさず、「ベアーサーフボード」と全く同じ手口で、本件商標を出願登録し、これを一切商品に使用せず、一切企業努力をせず、正当に日本市場に「Indian」ブランドが導入され、企業努力により市場に浸透されるや、すかさず、「Indianロゴ」等を使用した商品を投入して、不正の利益を得、導入者である請求人からクレームを受けるや、本件商標の商標権を手段として、「Indianロゴ」等の不正使用を継続する手段としたことであった。
かかる目的による被請求人の本件商標の出願登録は健全な商標秩序を害し、社会的妥当性を欠き、反社会的であり、禁圧さるべきものであり、被請求人による「Indianロゴ」等の不正使用もまた健全な商標秩序を害し、社会的妥当性を欠き、反社会的な禁圧さるべきものであることは明白である。
(ウ)既に、日本市場は請求人を日本市場における「Indian」ブランドの唯一の正当な出所と認識している。かかる認識は誠に尤もなものである。
(エ)「インディアンモーターサイクル」の登録の存在がかかる市場の認識と商標登録状況との乖離をもたらしている。
(オ)本件商標の商標登録を維持することは、被請求人による「Indianロゴ」の不正使用を継続させ、市場における混乱を継続させ、請求人の「Indianロゴ」の平成5年以来10数年にわたる使用による企業努力の成果に対する被請求人の侵害を助長する結果をもたらす。
更に、被請求人は平成16年8月に、「Indian」を出願しているのである。被請求人がこれをもとに「Indianロゴ」の使用をし、請求人よりクレームを受けるやこの商標登録をもとに対抗してかかる「Indianロゴ」の使用を継続し、請求人の永年の企業努力の成果を不正に収奪しようとしていることは明白であると云わなければならない。
(カ)「Indian」ブランドは、「Indianロゴ」につきるのである。被請求人は、当初から「Indianロゴ」のブランド価値に目をつけ、「インディアン」の復活が報じられ、これを知るや、すかさず、「インディアンモーターサイクル」を出願し登録を得た。
自ら、「Indianロゴ」を出願し、登録を得、企業努力を傾注して市場に浸透させることは一切しなかった。いわんや、正当な対価を支払って商権を取得することなど一切しなかった。
よって、後に日本市場に「Indian」ブランドを導入する他人(請求人)が「Indianロゴ」を企業努力を積み重ねて市場に充分浸透させ、顧客吸引力を付与するや、それを収奪することが被請求人の目的であったのであったことは明白であり、本件商標の出願登録がその手段であったことが明白である。
(キ)正に、本件商標の登録を維持することは、真面目に営々とした企業努力を積み重ねた者の企業努力とその成果を保護せず、先願主義を悪用し他人の企業努力の成果を違法に収奪し他人の業務を妨害せんとする者を保護し、悪用を助長し、あるべき商標秩序の実現を阻害するものであり、正義に反するものである。
コ 本件商標の出願当時、「Indian」商標に対する旧インディアン社の商標権が消滅していたこと、「Indian」商標に対して我国において何人も独占的使用権を有する者がいなかったことは、本件商標の反公序良俗性を何ら阻却しない。
そもそも、1901年設立の旧インディアン社は消滅し、同社が有したオートバイに使用した「Indian」商標に対する商標権も消滅し、日本において同社の商標権は存しないのであるから、かかる「Indian」商標について独占的使用権の有無を問疑すること自体意味をなさない。
本件商標の出願当時、旧インディアン社の有した「Indianロゴ」等の商標を独占的に使用する権限を有する者がいなかったことは事実である。しかし、そのことと、ザンギインディアン社により「Indianロゴ」等の「Indian」商標にウェア等の商品へのマーチャンダイジングブランドとしての価値が創設され、かかる「Indian」商標が日本に将来導入されることがあり得る状況になったときに、日本市場に将来導入され展開され導入者の企業努力により「Indianロゴ」等が市場に浸透するのを見計らって、「Indianロゴ」等を使用した競合商品を市場に投入することが許されないこととは、全く別問題である。かかる行為が許されないことは明白である。
2 第1弁駁
(1)被請求人の「答弁の理由」「其の1」における「事実及び証拠の同一」の主張は理由が無い。
本件の無効理由である事実は、被請求人の言及する確定審決において無効の理由として主張されたと摘示された事実と異なり、証拠も相違する。よって、本件審判請求につき法第61条が準用する特許法第167条の適用はない。
ア 特許法第167条の「事実」の意義
特許法第167条の「事実」は、確定審決において、特許庁が、無効理由として請求人により主張されたとして摘示した事実をいう。
確定審決に、同一の事実及び同一の証拠による審判請求を排斥する効力を認めようとするのが本条の趣旨であるから、本条における「事実」とは、確定した審決において、無効の理由として主張された個別具体的な事実と特許庁が摘示した事実、すなわち、無効事由に該当するとして主張された個別具体的な事実と特許庁が摘示した事実である。
審決取消訴訟における高等裁判所の判決は、審決中の認定判断の違法の有無について審理判断するものにすぎず、同判決に対する上告、上告受理申立に対する最高裁判断の判決は、高等裁判所の認定判断の違法の有無について審理判断をするものにすぎない。
イ 平成6年審判第13787号事件において無効理由として主張されたと摘示された事実(「事実1」)と本件審判請求事件において無効理由として主張されている事実(「本件事実」)とは相違する。
すなわち、「事実1」は、
「本件商標は、『インディアンモトサイクル』という Indian Motocycle Co.,Inc.の著名な略称のもつ顧客吸引力に只乗りするものであり、『インディアンモトサイクル』のもつ顧客吸引力を稀釈化するものである。」(乙1、4頁及び5頁)、「本件商標は、Indian Motocycle Co.,Inc.の著名な商標であり略称である『インディアン』のもつ顧客吸引力に只乗りするものであり、『インディアン』のもつ顧客吸引力を稀釈化するものである。」(乙1、6頁)というものである。
これに対し、「本件事実」は、「本件商標は、その指定商品に使用せず、我国において『Indian』商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものである。」というものである。よって、「本件事実」が「事実1」と相違することは明白である。
ウ 無効2003-25031号事件において無効理由として主張されたと摘示された事実(「事実2」)と「本件事実」とは相違する。
すなわち、「事実2」は、
「本件商標は、被請求人が、『Indian』からなる商標等を使用してビジネスを行う正当な権利者(請求人)の企業努力、投資の成果に便乗して不当な利益を得ることを目的として登録したものである。」というものである。(乙4、2頁、「第2請求人の主張」「1無効理由」)。
そして、特許庁は、乙第4号証の審決の「第5 当審の判断」「3結語」(乙4、17頁)において、「本件商標の登録出願時、登録査定時のいずれにおいても、請求人が唯一の『インディアン商標』の独占的使用権者であるということはでき[ない]」旨述べているから、特許庁は、「『Indian』からなる商標等を使用してビジネスを行う正当な権利者(請求人)」を「本件商標の出願時及び登録査定時に『インディアン商標』の独占的使用権者である請求人」と理解したことが明らかである。
よって、特許庁が乙第4号証の確定審決において、請求人が無効理由として主張した事実であると摘示した事実は、
「本件商標は、被請求人が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、『インディアン商標』の独占的使用権者である請求人の企業努力、投資の成果に便乗して不当な利益を得ることを目的として登録したものである。」というものである。他方、「本件事実」は上掲のとおりである。よって、「本件事実」が「事実2」と異なることは明白である。
エ なお、「事実」が同一でないのであるから、既に被請求人の主張に理由が無いことは明らかであるが、附言するに、「証拠」も相違する。一例をあげれば、甲第226号証、239号証及び240号証並びに甲第227号証は、本件審判請求事件において初めて提出されたものである。
(2)被請求人の、本件無効審判請求に理由が無いとの主張は理由が無い。
ア 無効2003-35031号事件における特許庁の審決及び同審決取消訴訟における裁判所の判決に言及して、本件商標の有効性は既に認められたと主張するが、かかる主張は全く的外れである。
同審決は「事実2」について認定判断したものであり、同判決は「事実2」が存しないとの認定に基づき本件商標の反公序良俗性を否定した同審決を維持したものである。(要するに、これらの審決及び判決においては、本件商標の登録出願時及び登録査定時に請求人が「インディアン商標」の独占的使用権を有しなかったから、本件商標に当該審決において主張されたと特許庁が摘示した無効理由は無いということが判断され、追認されたにすぎない。)
しかし、本件において請求人が無効理由として主張する事実である「本件事実」は「事実2」と異なる。したがって、同審決及び同判決により、「本件商標の有効性は承認された」と一般的抽象的に云うことは出来ない。
イ また、答弁書[別紙1]中の被請求人の主張は、無効2003-35031号事件の審決に対する審決取消訴訟における被請求人の主張を転用したものであるが、上述のとおり、「本件事実」は「事実2」と異なるのであるから、[別紙1]中の被請求人の主張は、的外れであり、本件無効審判請求に対する反論となりうるものではない。
加うるに、被請求人が本件無効審判請求に対する請求人の主張に対して正面から逐一反論しないということは、請求人の主張を明らかには争わないということであり、請求人の主張に理由があることを間接的に認めるものである。
(3)本件商標は公序良俗に違反する商標である。
ア 甲第239号証、甲第240号証は、甲第226号証の9頁において被請求人が引用した証拠であり、甲第226号証の事件において被請求人が提出した証拠である。
甲第239号証及び第240号証が甲第226号証とあいまって明らかにしているのは、本件商標の登録出願の前から、被請求人が米国に情報ソースを有しており、直接又は少なくともかかる情報ソース経由で、本件商標の出願前の平成2年に、既に、被請求人が「Indian」ブランドビジネスの米国での立ち上げを知っていたということである(「7.請求の理由」[別紙1]4ないし7頁)。
なお、甲239及び240号証は、平成8年の10月になって被請求人の常務取締役小林亨一が一方的に陳述したものであり、あるいは、平成9年1月になって被請求人の一方的な云い分を記載した広告であり、その内容は、不合理であり、信用出来ない。
イ 本件における無効理由たる事実は、「本件商標は、被請求人において、その指定商品に使用せず、我国において『Indian』商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものである。」であり、分説すれば、「本件商標『インディアンモーターサイクル』は、被請求人において、米国において『Indian』ブランドビジネスが立ち上げられたことを知り、将来日本において『Indian』ブランドビジネスが導入展開されることあるべきことを予測し、これを商品に一切使用する意思なしに(事実、被請求人は本件商標を商品に一切使用しなかった)、将来日本に『Indian』ブランドビジネスが導入展開されたときに、他人(将来『Indian』ブランドビジネスを日本に導入展開することあるべき者)の業務を妨害する目的で、出願し登録したものである。」である。
ウ 被請求人が米国で「Indian」ブランドビジネスが立ち上げられたことを知ったときに、また、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、将来日本に同ブランドビジネスが導入展開されることが決まっていることは要件でもないし、いわんや、誰が導入展開するか決まっていることも要件ではない。
また、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、「Indian」ブランドビジネスが現実に日本に導入されていることは要件ではないし、いわんや、導入する者が具体的に特定されていることも要件ではない。
その理由は、以下のとおりである。
外国でブランドビジネスが立ち上げられると、それが将来日本に導入展開される可能性が生ずる。これは周知の事実である。外国でブランドビジネスが展開された場合に、将来日本にかかるブランドビジネスが導入展開されたときに、指定商品に使用せず、その導入展開した者の業務を妨害するために、商標を出願し登録を得ておくという行為が(かかるブランドが市場に浸透したころ合いを見計らって類似の商標を付した類似商品を市場に無断で投入することは妨害以外の何者でもないし、導入展開した者からのクレームに対し同商標の商標権をもって対抗することもまた妨害以外の何ものでもない)、先願主義を悪用するものであり、社会的妥当性を欠くものであり、公序良俗に反するものであることは明白である。
かかる商標の反公序良俗性は、同ブランドビジネスの日本への導入展開が同商標の登録の後であっても、何ら影響されない。
エ 現実にブランドビジネスが日本に導入展開されたときに、かかる導入展開者の業務を妨害する目的で商標を登録出願し登録を得たか否かは、登録を得た後に商標を登録出願し登録を得た者が現実に行った行為により認定すべきものである。かかる目的を自白して認める者は存しないからである。
オ 本件において、被請求人の行った行為を見れば、被請求人が、商品に使用する意思なしに、日本で「Indian」ブランドビジネスを展開する者の業務を妨害する目的で本件商標の登録出願をし、登録を得たことは明白である。
3 上申書(平成17年11月17日付)
(1)本件商標は、被請求人において、その指定商品に使用せず、我国において「Indian」商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。
(2)このことは、以下の事実よりも明らかである。
ア 被請求人は、平成17年5月30日、業界紙である繊研新聞に甲第241号証の広告を掲載し、被請求人が本件商標を含む商標の商標権者であることを広告した。(これらの商標は被請求人において請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害するために出願し登録を得たものである。)
「Indianブランド」の中核となる商標は「Indianロゴ」である。被請求人は、「Indianロゴ」を使用したシャツやジャケット等の商品の売り込みを企図していた。然しながら、日本市場は、請求人が「Indianロゴ」及びその他の「Indian商標」の正当な出所であると認識しているので、まっとうな小売店、問屋はこれらを取扱おうとしなかった。これは、請求人が、その取引者より得た確かな情報である。
かかる広告は、被請求人が「Indianロゴ」を使用した便乗商品を販売するための布石としてなしたものであることは明白である。この広告が、小売店や問屋を狙ったものであることは、広告媒体が繊研新聞という業界紙であることから明白である。
イ そして、かかる広告をした後、被請求人は、「Indianロゴ」に類似した筆記体の「Indian」(「類似Indian」)及び右向きのインディアンの図形からなる商標を襟の織ネームに付したシャツの製造を開始した(甲242、243)。
この「類似Indian」及び右向きのインディアンの図形からなる商標は、請求人の長年の使用に係る周知の「Indianロゴ」よりなる商標と類似するものである。加えて、被請求人は、タグに、「類似Indian」を大書して使用した(甲242)。
ウ その上で、被請求人は、バイヤー向の2005年秋・冬物の展示会のオーダーシート(甲244)に、ブランド名として、「Sugar Cane」や「Buzz Rickson’s」等と並べて「Indian Motorcycle」と表示し、「類似Indian」及び右向きのインディアンの図形からなる商標を襟の織ネームに付したシャツの注文を取った。このオーダーシートには、「類似Indian」及び右向きのインディアンの図形からなる商標を表示していない。これらのシャツの胸や背や袖には、「Indian Motorcycle」を含むデザインが大書して付してあり、あたかも襟の織ネームの商標も「Indian Motorcycle」であるかのようによそおっている。
すなわち、被請求人は、「類似Indian」及び右向きのインディアンの図形を商標として襟の織ネームに付して使用していながら、あたかも「Indian Motorcycle」を商標として使用しているかの如くよそおって、その製造にかかる上記シャツの発注を受け、業者に販売しているのである。
エ そして、被請求人は、かかる商品を、「Indianロゴ」を始めとする「Indianブランド」の商品の需要者を対象とした雑誌「Men’s Brand」に広告した(甲245)。(「Indianブランド」は、アメリカンカジュアルのビンテージバイカー系ブランドであり、その需要者はファッションに関心をもつ若年男性層である(甲194)。)
そして、この広告において、被請求人は「Indianロゴ」を使用した(49頁 左下、50、52、54頁 右下)。
加うるに、被請求人は、「Indianロゴ」を大書したエンブレムを広告に掲載した(49頁 右下)。この「Indianロゴ」の使用様態は、「Indianロゴ」を大書し、「MOTORCYCLE」を著しく小書するものであり、かつ、赤い地に、「Indianロゴ」は白抜きの黒文字で大書し、「MOTORCYCLE」は単に黒文字で著しく小書して表示するものであり、看者の目を惹くのは「Indianロゴ」であり、「MOTORCYCLE」は看者の目を惹かず、実質的に「Indianロゴ」を単体で使用するのに外ならない。
更に、被請求人は、被請求人もその商品も1901年創立のIndian Motocycle Companyの前身のHendee Manufactuaring Companyと全く無関係であるにも関わらず、これを関連があるかの如き欺瞞的な広告をしているのである(甲第245号証の広告中のエンブレムには「Indianロゴ」が大書され、「Hendee Manufactuaring Company」が併記してある。)
オ その上、被請求人は、そのウェブサイトで、トップページに、「SUGAR CANE」や「BUZZ RICCKSON’S」などのブランド名と並べて「INDIAN MOTOCYCLE」(注.「INDIAN MOTORCYCLE」ではない)を配し、「INDIAN MOTOCYCLE」のページに、「2005 INDIAN MOTOCYCLE COLLECTION」の見出しの下に、かかる商品の写真を配し、宣伝している(甲246)。
すなわち、被請求人は、「Indian MOTOCYCLE」を商標として、自らのブランド名として、使用しているのである。
カ 「Indian」ブランドの中核は「Indianロゴ」である。そして、「Indianロゴ」はもとより、「ヘッドドレスロゴ」やその他の「Indian商標」も、請求人が、日本市場に導入し、営々としたかつ正当な企業努力を重ねて周知ならしめたものである(甲247ないし250参照)。
また、「Indian MOTORCYCLE」は、請求人の名称であるが、その地道な持続的な企業努力の積み重ねにより、周知の「Indian」ブランドの出所として既に周知である。
被請求人のかかる「Indianロゴ」及びこれに類似した「類似Indian」並びに「Indian MOTORCYCLE」の使用により、需要者は、被請求人が請求人のライセンシーであるとの誤認をし、被請求人のかかる便乗商品を購入するおそれがある。
すなわち、被請求人は、請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害するため、「Indianロゴ」に類似する「類似Indian」及び右向きのインディアン図形からなる商標をシャツに使用し、その広告に「Indianロゴ」を使用しているのであり、ウェブサイトで「Indian MOTORCYCLE」を使用しているのである。
被請求人の狙いが、「Indianブランド」の中核である「Indianロゴ」の使用であることは明白であり、今回の商品の販売及び広告並びにウェブサイトの広告はその下準備であることは明白である。
現に、被請求人は、2004年5月に活字体の「Indian」を第25類に出願しているのである(甲227)。このような出願は、まっとうな企業であればおよそ考えもしない類の行為である。
キ シャツに付した「Indianロゴ」に類似した筆記体の「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標、シャツのタグに付した「類似Indian」、広告に使用した「Indianロゴ」及び「左向きのインディアンの図形」からなる商標、並びに、広告中のエンブレムに使用した「Indianロゴ」は、いずれも、被請求人の「Indian」関連の商標(甲241参照)と同一性の範囲外にある。
また、被請求人がそのウェブサイトの広告で使用した、「INDIAN MOTORCYCLE」も被請求人の「Indian」関連商標と同一性の範囲外にある。
ク 今回の、「Indianロゴ」を含む商標を出願し登録しながら、これを商品に使用せず、これと同一性のない商標(「類似Indian」及び右向きのインディアンの図形からなる商標を商品の襟の織ネーム及びタグに使用し、「Indianロゴ」左向きのインディアンの図形からなる商標及び「『Indianロゴ』を大書したエンブレム」を広告に使用)を使用するという行為は、被請求人が本件商標を出願し登録を得ながら、これを一切商品に使用せず、これと同一性のない「Indianロゴ」、「Indianロゴ/Motocycle」、「Indianロゴ/Motorcycle」などを商品に使用し、しかも、かかる商標を使用した商品を、請求人の企業努力により「Indianロゴ」等の「Indian商標」が衣類について市場に浸透し、平成6年になってマルヨシにバッグについてライセンスするまでになった直後である平成7年に、シャツ等を売出し、また、平成7年に請求人が「Indianロゴ」等の「Indian商標」を皮革製ジャケット及びパンツについて西澤社にライセンスし、西澤社が広告宣伝をして、「Indianロゴ」等の「Indian商標」を皮革製品について請求人を出所とする商標として市場に浸透させたその翌年、西澤社が前年の投資の成果を回収しようとした矢先である平成8年に、皮革製ジャケットやパンツを売出し、他方、平成6年に「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」(注.「MOTORCYCLE」ではない)からなる商標(甲228)及び「『左向きのインディアンの図形』/『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」(注.「MOTORCYCLE」ではない)からなる商標(甲229)を出願し、平成9年に「『Indianロゴ』/Motorcycle」からなる商標2件(甲232、233)を出願したと同じ手口である。
ケ 被請求人のかかる行為は、展示会ではブランド名を「Indian Motorcycle」にしておきバイヤーからのオーダーを取り付け、実際に市場に出す商品については、ブランドを表記する襟の織ネーム及びタグに「Indianロゴ」に類似した単体の「類似Indian」及び右向きのインディアンの図形からなる商標を使用し、また、需要者向の雑誌広告には、「Indianロゴ」及び左向きのインディアンの図形からなる商標を使用し、また、雑誌広告中のエンブレムには「Indianロゴ」を使用し、更に、需要者向けのウェブサイトの広告には、「Indian MOTOCYCLE」をブランド名として表示し、あたかも、正規に請求人から「Indianロゴ」等の「Indian商標」の使用をライセンスされた者であるかの如き外観を創りだし、「類似Indian」を要部とする商標を襟の織ネームやタグに使用したシャツを販売し、周知の「Indianブランド」の中核である「Indianロゴ」を広告に使用し、かつ、周知の請求人の名称である「Indian MOTOCYCLE」を使用して、請求人の13年以上にわたる地道な営々とした企業努力の成果を収奪する悪質な行為であり、被請求人には、健全な商標秩序を尊重し正当に商標を使用するという意思が無いことを証明するものである。
(3)本件商標は公序良俗に反する商標である。
ア 人は類似の行為を繰り返すものである。
イ 今回の被請求人の行為、すなわち、「Indianロゴ」を含む商標の登録を得ていながら、これらを商品に使用せず、これらと同一性の範囲内にない「Indianロゴ」に類似した「類似インディアン」及び右向きのインディアンの図形からなる商標を商品に使用する行為は、被請求人が本件商標の登録を得ながらこれを一切商品に使用せず、本件商標と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/Motocycle」等を商品に使用し、広告に使用し、しかも、「Indian商標」がマルヨシにバッグについてライセンスするまでに周知になった平成6年の翌年である平成7年にかかる商品(シャツ等)を市場に投入し、西澤社の企業努力により「Indian」ブランドが皮革製ジャケットやパンツなどについても周知になった平成7年の翌年の平成8年秋冬シーズンに、西澤社の前年の企業努力の成果を回収しようとしていた矢先に、かかる商品(皮革製ジャケット、パンツ等)を市場に投入したのと同じ行為である。
ウ すなわち、今回の請求人の行為は、被請求人が、本件商標を商品に使用する意思なしに、我国に「Indian」商標を用いたブランドビジネスが導入され展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願をし登録を得たものであることを、明らかにするものである。
4 第2弁駁
(1)被請求人の答弁書中の主張はいずれも理由が無く、本件商標は公序良俗に反する商標である。
ア 本件商標は公序良俗に反する商標であるから、その登録を無効とすべきものである。
(ア)将来あるブランドが何人かにより日本で展開されるべきことがあり得、これが予想されるときに、このブランドと同一性のない商標を登録しておき、将来何人かが日本においてそのブランドビジネスを起ち上げ企業努力を傾注してこれを市場に浸透させた時に、かかるブランドを無断で使用してその者の企業努力の成果を収奪し、その者からクレームを受けたときに、自らの登録商標をもとにクレームに対抗し、収奪を継続せんとする行為が健全な商標秩序に反し、社会的妥当性を欠くものであることは明らかであり、かかる商標の登録は無効とすべきものであることは明白である。かかる商標は、他人の業務を妨害するために出願し登録を得たものに外ならないからである。
(イ)本件商標がかかる商標であることは、以下に述べるように明白である。
客観的事実
被請求人が行ってきたことは、本件商標をその指定商品に使用せず、本件商標と同一性の範囲外である、請求人や西澤社が企業努力を傾注して市場に浸透せしめた「Indianロゴ」 等や 「『Indianロゴ』/Motocycle」等を商品に使用し、請求人らの企業努力の成果を収奪し、請求人らの業務を妨害し、請求人からクレームを受けるや、本件商標に対する商標権を基に請求人らに訴を提起し、かかる収奪妨害行為を継続する手段にしようとしたこと、であった。
主観的側面
被請求人は、平成2年の米国での「インディアン」ブランドのマーチャンダイジングビジネスの展開を知り、同ブランドビジネスが将来日本で何人かにより展開されることのありうることを予測し、本件商標を一切商品に使用する意思なしに、将来何人かにより現実に日本で「インディアン」ブランドビジネスが導入展開されたときに、その企業努力の成果を収奪し、その何人の業務を妨害するために、本件商標の出願登録をしたものである、ことは明白である。かかる「目的」は、被請求人の行為及び「ベアーサーフボード」の類似案件における行為から、合理的にかつ確実に推認出来ることである。
イ 被請求人の答弁書[別紙1]注の主張は理由が無い。
(ア)被請求人は、別事件の判決例や審決例をあげるが、これらは論点を異にするものについての判決例、審決例であり、本件に何ら係りのあるものではない。
(イ)被請求人は、米国で「インディアン」ブランドのマーチャンダイジングビジネスを展開したインディアン・モトサイクル・カンパニー・インクの設立者であったフィリップ・ザンギが詐欺で有罪とされたことに言及する。しかしながら同人が詐欺で有罪になったことと、請求人の「Indian」商標を用いた「インディアン」ブランドビジネスの日本での導入展開及び請求人の企業努力が正当であり、その成果を保護することが健全な商標秩序に合致することとは何の関係もない。
(ウ)被請求人は、「両者商標の近似性」において、縷々に述べるが、詭弁である。本件商標は、片仮名「インディアンモーターサイクル」である。被請求人が使用した商標は、本件商標と同一性の無い 「Indianロゴ」であり、「『Indianロゴ』/Motocycle(書体同一)」等である。そして、被請求人は、これらの商標を、請求人が「Indianロゴ」等の「Indian商標」や請求人の略称「Indian Motocycle」を市場に浸透させた後に、これを知悉して、繰り返し継続して使用したのである。
(エ)被請求人は「本件商標の採択の動機及び経緯等」において縷々述べるが、かかる主張もまた詭弁である。要するに、被請求人の行ったことは、請求人が「Indianロゴ」等の「Indian商標」を日本市場に導入し企業努力を傾けて市場に浸透させたころを見計らって、本件商標と同一性の範囲外にある「Indian ロゴ」等を使用した商品を販売し、請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害し、かかる収奪妨害行為を継続する手段に本件商標を使用した、というにすぎない。
5 上申書(平成19年2月9日付け)
請求人が「Indian」ブランドビジネスを正当に展開するものであり、「Indian」商標の正当な出所であることは、請求人の取扱い商品に関連する取引者、需要者に止まらず、世間一般の広く認識するところである。
また、被請求人は自らが日本市場における「Indian」商標の最初の導入者であり正当な出所であるかのような主張をする。然しながら、被請求人は平成17年8月1日付の審判事件答弁書の[別紙1]「6.答弁の理由」「(2)其の2」において種々虚偽の主張をし、また、種々の歪曲やすりかえの主張をしている。かかる虚偽は、被請求人が平成18年6月2日に手続補正書をもって提出した証拠によっても明らかである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、答弁の理由及び弁駁に対する答弁を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第70号証を提出した。
1 第1答弁
(1)其の1
第56条1項で準用する特許法第167条の規定は、所謂、一事不再理の原則を表明したもので、確定審決の登録があったときは、何人も同一事実及び同一証拠に基づいてその審判を請求することはできない旨を規定するところである。
本件商標に対しては、本件審判での無効理由と同様、本件商標が法4条1項7号に該当することを理由として、既に2件の登録無効審判(以下、これらの両審判を、それぞれ「前審判(A)」及び「前審判(B)」という。)が請求され、いずれの審判でも請求不成立の審決が確定している。前審判(A)及び前審判(B)の経緯等は次に記するとおりであるが、本件審判の請求は、これら両前審判と同一事実及び同一証拠に基づいてなされており、本件審判の請求が、準用する特許法第167条の規定に違反するものであることは明らかである。よって、本件審判の請求は不適法な審判請求として却下されるべきである。
ア 確定審決
(ア)前審判(A)
事件番号:平成6年審判第13787号
請求人:スコット エス カジヤ
請求日:平成6年8月11日
審決日:平成9年9月30日
確定日:平成10年4月14日
(イ)前審判(B)
事件番号:無効2003-35031号
請求人:(株)インディアンモトサイクルカンパニージャパン
請求日:平成15年1月30日
審決日:平成16年2月24日
審決取消:東京高裁 平成16年(行ケ)第108号
判決日:平成16年12月8日
最高裁決定:平成17年4月8日
イ 同一の理由及び事実
(ア)前審判(A)
前審判(A)の審決書(乙1)記載のとおり、前審判(A)で請求人が主張していた無効事由は、法第4条1項7号を含むもので、その要旨は、「本件商標は、1901年に設立され、1953年に消滅した米国のバイクメーカー『インディアン社』の商標、又は、1990年にフィリップ・ザンギが設立した前記『インディアン社』と同名の米国法人『ザンギインディアン社』、カジヤ、サンライズ社及び請求人の商標が有する顧客吸引力に只乗りし、請求人等が行っているブランドビジネスを妨害するものであるから公序良俗に反する。」というものである。
(イ)前審判(B)
前審判(B)の審判請求書(乙2)、同審判弁駁書(乙3)及び同審判審決書(乙4)並びに同審決を不服として請求人が提訴した審決取消請求事件(東京高裁平成16年(行ケ)第108号)で、請求人が提出した各準備書面(乙6、乙7、乙8)記載のとおり、前審判(B)事件で請求人が主張していた無効事由は、「本件商標は、被請求人において、その指定商品に使用せず、我国において『インディアン』商標を用いたブランドビジネスが展開されたとき、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。(乙6・2頁)」というものであった。
ウ 同一の証拠
(ア) 前審判(A)
前審判(A)と前審判(B)とは、同一の事実及び同一の証拠に基づくものであり、前審判(B)は、準用する特許法第167条の規定に違反してなされたものであるから不適法な審判請求として却下されるべきであることは前審判(B)の答弁において既に主張していることである。
当該被請求人の主張について前審判(B)の審決は、「商標法4条1項7号等を無効理由とし前審判事件が請求され、請求不成立の審決が確定していることは認められるが、被請求人がこれを証する証拠の提出は当該審決書(乙1)のみであって、その事実を証する具体的証拠の提出はされていない。」としてこれを退けたのである。
しかし、前審判(A)事件での請求人からの証拠は、庁に提出され保存されているものであって、職権探知を基調とする特許庁審判がこれを探知採用せずに上記判断に至ったのは誤りで、それによれば、前審判(A)で請求人が提出した証拠と前審判(B)で請求人が提出した証拠とが実質的に同一であることは容易に判明したはずである。
仮に、前審判(B)の請求が一事不再理に違反したものであると断定できなかったとしても、前審判(B)で請求人が主張していた事項は、前審判(A)及びその他の多くの関連事件([別紙1]に記述)によって全てが決着が付いている事項である。そうとすると、前審判(B)の請求は、確定した審決及び判決によって既に決着の付いたはずの事項を再び蒸し返して争うとするものであって、確定判決の既判力を全く無視し法的安定性を著しく害することは明らかであったのであるから、前審判(B)の請求は信義則に反し許されない(東京高裁:平成11年(ネ)第3800号)として却下すべきであった。
(イ)前審判(B)
前審判(B)で請求人が提出した証拠は、審判手続中においての甲第1号証より甲第209号証(乙2、乙3)、審決取消請求訴訟においての甲第1号証より甲224号証(乙9、乙10、乙11)である。これら前審判(B)で請求人が提出した証拠と、本件審判で請求人が提出した証拠は、実質的に全く同一といってよいほど一致している。このことは、本件審判で請求人が提出した証拠一覧[別紙2]が、前審判(B)の審決取消訴訟で提出した証拠説明書(乙9?乙11)のコピーに基づいていることからも容易に窺い知れるところであり、両証拠間に実質的差異は認められない。
エ 結語
上記のとおり、本件審判の請求は、前審判(A)及び前審判(B)と同一事実及び同一証拠に基づくものであり、準用する特許法第167条の規定に違反するものである。
そもそも、請求人の無効事由についての主張が、「本件商標は請求人らの周知商標に類似する。(法4条1項10号)」、「本件商標は請求人らの業務に係る商品と混同を生じさせるおそれがある(同15号)。」または「本件商標は不正な目的をもって出願されたものである(同19号)。」との主張であれば、本来、それぞれの該当条項をもってその無効理由とすべきである。にもかかわらず、請求人が本件審判での無効理由を同法4条1項7号としたのは、法第47条除斥期間の規定の適用を回避するための単なる便法にすぎないことは明らかであり、本件商標が登録されてから12年余り経過した今の時期においてもなお再び、このような脱法行為に等しい審判請求を許すことは、法的安定性を著しく損ね、法第47条や特許法第167条の規定を全く無にするに等しいと謂わざるを得ない。本事案のような場合に一事不再理の規定を適用しないということになれば、どのような場合に一事不再理の規定が適用されるのか、全く理解不可能である。
仮に、請求人が、本件審判の請求は、先の両無効審判とは異なる事実及び/又は証拠に基づくものであると主張するのであれば、具体的に、何が異なる事実で、何が異なる証拠であるのかを明示し、それらが本件商標の法4条1項7号該当性にどのように関わってくるのかを明確にすべきである。
(2)其の2(予備的答弁)
請求人は、「本件商標は、法第4条第1項第7号に該当するから、その登録は法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。」と主張する。しかし、かかる請求人の主張は先の審決(乙4)及び東京高裁判決(乙12)で否定され、本件商標の有効性は既に認められている
ところで、同判決は、平成17年4月8日付けの最高裁の決定(乙13)によって既に確定している。したがって、仮に、答弁の理由(其の1)が認められないとしても、請求人主張の無効理由は何ら根拠のないものである。
なお、本答弁の理由(其の2)の詳細については、前審判(B)における被請求人(被告)の主張内容と重複するので、同審判の審決取消請求事件(東京高裁:平成16年(行ケ)第108号)における被請求人提出の準備書面を基に作成した[別紙1]をもって本答弁の理由(其の2)の詳細とする。
[別紙1]
本書において、「訴訟乙1」ないし「訴訟乙56」の表記は、前審判(B)の審決取消訴訟事件で請求人が提出した乙号証を示す。
答弁の理由
(2)其の2
(2-1)本事件の背景及び経緯等
請求人は、請求人主張の前提となる本事件の背景や経緯等の事実関係について先ず明らかにしておく。
ア 当事者
(ア)被請求人について
被請求人は、昭和40年に設立された会社であるが、前身となる「テーラー東洋」及び「港商社」の時代から数えると、60年近くの歴史を持つ老舗アパレルメーカーで、現在、アメリカンカジュアル衣料専門業者としては日本最有力である。また、被請求人は、多くの著名ブランド商品を市場に提供しており、「SUGAR CANE」「SUN SURF」「BUZZ RICKSON’S」 「CHESWICK」 「JOHN SEVERSON」 「SINLE EYES」などは、アメリカンカジュアル衣料の代名詞的なブランドとなっている。更に、被請求人は、ジーンズに代表される日本におけるアメリカンカジュアル衣料の歴史においてもオピニオンリーダーとしての役割を果たしてきており、「スーベニアジャケット」の通称「スカジャン」が被請求人の前身「テーラー東洋」が、横須賀で販売していたジャンパーを語源としている程で、そして今や、ジーンズ、ジャケット、アロハシャツ等、アメリカンカジュアル衣料全般について、多くの取引者や需要者から高い信頼と支持を得、市場での地位は不動なものとなっている(訴訟乙13,14)。
(イ)請求人について
請求人は、本件商標が出願され公告された後の平成5年6月3日に設立された会社で、定款の記載からすると、装身具から酒類及びオートバイに至るまでの多種多様な商品の輸出入及び販売、出版、広告代理、映像の企画・制作及び著作権の取得・譲渡・貸与等の業務を目的とするものであるが、その主な業務は、他者に商標の使用を許諾することによって利益を得るブランドビジネスである。
イ 「旧インディアン社」について
旧インディアン社は、明治34年に創業された米国オートバイメーカーで、今からおよそ50年前の昭和28年に操業を停止しその後解散し、それ以来、関係者を含め如何なる事業活動もしていない。そして、同社の過去の実績や同社が存続時に使用していた商標等については請求人主張のとおりである。
請求人は、「旧インディアン社」の過去の実績や商標使用の事実を示す資料を、請求人らと何らかの関係を有する者による実績や事実であるかのように証拠として提出し、あたかも、請求人と同社との間には、何らかの関係や継続性があるかのような主張を繰り返す。しかしながら、同社と請求人らとの間には、法的にも経済的にも、そして事実としても一切関係がない。
ウ 「ザンギインディアン社」について
請求人らが実際に関係したのは、旧インディアン社やその関係者などではなく、米国人フィリップ・ザンギが、1990年に設立した同名の米国法人「ザンギインディアン社」である。ザンギインディアン社は、社名、住所、社章のいずれも消滅した旧インディアン社と同一であるが、両社の間には如何なる関係も継続性もない。
また、ザンギインディアン社を設立したフィリップ・ザンギという人物は、旧インディアン社及び同社商標に関連して国内外200人にも及ぶ人々から金員等を詐取したとして平成8年6月5日に逮捕され(訴訟乙3)、米連邦裁判所により「投獄90ケ月、百万ドルを超える詐取金の返還支払を命ずる。」旨の判決を受け、直ちに収監された米国人である(訴訟乙4)。
ザンギインディアン社の実体は、旧インディアン社とは全く関係のない別法人で、彼の犯罪行為の道具として利用するために意図的に旧インディアン社と同一の商号、同一の社章および同一の住所を採用し、あたかも、旧インディアン社との間に何等かの関係又は継続性があるかのように装ったにすぎない会社である。しかも、ザンギインディアン社は投資家から金員等を詐取しただけで、オートバイの製造はもちろん、企業本来の事業活動はおろかその準備行為すら一切せずに設立後間もなく倒産しているのである(訴訟乙6,8,9)。
エ 「カジヤ、サンライズ社、西澤社、マルヨシ」について
ザンギインディアン社より日本をテリトリーとする旧インディアン社商標(「インディアン商標」)を使用し登録する権利を譲り受けたと主張する者がカジヤで、同人より原告商標に係る商標権を譲り受けたのが請求人、請求人の親会社であったのがサンライズ社、請求人より請求人商標等の使用許諾を受けたのが西澤社及びマルヨシである。
フィリップ・ザンギとスコット・カジヤとの間の契約が有効であるか否かは当事者間の問題であるとしても、「インディアン商標」について、日本ではもとより、米国にあっても如何なる原権も有さないフィリップ・ザンギやザンギインディアン社が、「インディアン商標」やこれを原型起源とする商標(「Indian 関連商標」)について、日本での他者による使用や採択の自由を制限する権限を有さないことは論ずるまでもないことである。そうとすると、旧インディアン社とは無関係であることについては、請求人も被請求人も(何人であろうと)同等であって、旧インディアン社が存続時に使用していた商標又はそれを原型起源とする商標を、被服等の商標として採択し使用することについて一方が正当な使用者で他方が不正な使用者であるとか、一方の商標が他方の商標を冒用したとかといった関係になるものではなく、双方の商標の採択動機やその原型起源が同じであったということにすぎない。
請求人らが採択し使用する商標が、旧インディアン社のオートバイ商標とその態様が全く同一であることは認めるところであるが、これは、請求人ら自らの創作によるものではなく、単に、旧インディアン社が存続時に使用していた商標をそのまま自らの商標として採択したにすぎず、両標章の態様が同一であるからといって、請求人らとは全く関係のない旧インデイアン社の過去の実績や名声を根拠に、請求人らに限って、何か特別な権利や地位を有することにならないのはいうまでもないことである。
オ 両者商標の近似性について
両者が採択使用する商標の構成や「Indian」ロゴの書体が近似していることは、いずれか一方が他方を真似したものでも単なる偶然でもない。
両者の商標は、いずれも、旧インディアン社が存続時使用していた商標又はそれを原型起源とするもので、同社のバイクイメージや1900年初期の時代イメージを種々商品に再現することを意図しての採択である。このような試みは、同社が消滅した4年後には既に行われており(訴訟乙18,19)、現在でも同様の商品を取り扱う者は各国に存在し、請求人も被請求人もその内の一業者にすぎない。これらの者の商標は程度の違いはあっても、同社商標に依拠しているのであるから、その構成や書体が近似しているのは必然で、請求人のように、「自分だけがインディアン商標を独占的に使用する権限を有する。」などと根拠のない主張をする者は外に誰一人としておらず、各自がそれぞれ自国において自らの取扱商品について商標登録等の手当をして使用しているのであり、我が国においても旧インディアン社の商標に縁の多く商標が登録されている(訴訟乙20)。
上記から明らかなように、両者商標の構成や「Indian」ロゴの書体等が近似しているのは、いずれか一方(被請求人)が他方(請求人)を真似したとか冒用したとかということではなく、両者の商標採択の動機及びその原型起源が共通であったということにすぎない。
カ 本件商標の採択の動機及び経緯等
本件商標は、平成2年の終わりころに、被請求人の評判を知った数百人からなる米国ヴィンテージバイクの愛好家団体より、彼らのバイクジャケットを作るよう依頼されたのが採択のきっかけで(訴訟乙12,21)、彼らの奨めでこのバイクジャケットを市販品化することとし、そして又、彼らの提案により、このバイクジャケットの商標を「インディアンモーターサイクル」とすることとして、平成3年11月5日に我が国で商標登録出願したものである。カタカナ表記としたのは、当初ロゴデザインが決まっていなかったことから、取り敢えず音表示で出願したもので、このような出願手法は、先願主義を基調とする我が国の法制上一般的に採られている手法であって特に不自然なことではない。被請求人にあっても、ロゴ書体が決まったものに付いてはその都度出願してきたが、これらの商標が、7年ないし10年近くの長い審査期間を経て、先に登録されたところである。
被請求人は、本件商標が公告され登録されたことを踏まえ、商品の具体的な販売企画に着手するとともに、商標「INDIAN MOTORCYCLE」についてのカナダ国商標権者「カナダインディアン社」(INDIAN MANUFACTURING LTD.)と業務提携し(訴訟乙7,11)、平成7年初期(1月?3月)に、商社(蝶理、フジエンタープライズ社)を介して同社商品を輸入することから販売を開始したもので(訴訟乙23の1?3)、最初の雑誌広告は、同年6月25日発行の「ポパイ」による(訴訟乙24)。そして、被請求人が当初使用していた「Indian関連商標」の全ては、カナダインディアン社から輸入した商品に元々付されていたものであり、このことは、同社の商品カタログ(訴訟乙25)と照合すれば容易に判明するところで、決して、請求人らが使用する商標に依拠してのものではない。
キ 本件商標についての他の審判事件
本件商標については、本件審判以外にも請求人らより多くの審判請求がなされているが、いずれの事件でも、本事件での請求人主張と同趣旨の主張は否定され又は採用されていない。本件審判の請求は、既に決着の付いたはずの事項を再び蒸し返して争おうとするものである。
ク 関連する商標について
旧インディアン社の商標及びそれを原型起源とする商標に関しては、本件商標以外でも請求人被請求人間でその権利の有効性や帰属が争われていた。その結果、被服等が属する商品分野においては、被請求人の出願登録に係る商標は、全て登録されその有効性が維持されているのに対し、請求人の出願登録に係る商標は、既に登録無効が確定し、当該指定商品分野における請求人の登録商標は無いに等しい状況となっており、このような状況に至ったことは、法の正当な解釈適用からして当然の帰結であるといえる。
ケ 関連する侵害訴訟事件等について
当事者間の紛争の発端は、請求人が、被請求人に対して商標権侵害に関する警告書を発したことによるものであるが、本来は、先願先登録に係る本件商標に類似する商標として登録されるべきでない請求人商標が、審査の過誤により重複して登録されてしまったことがそもそもの原因である。
請求人は、平成7年6月30日に、被請求人に対し請求人商標権の侵害に関する警告書を発し、平成8年5月21日に、請求人商標権に基づき、被請求人の商標使用に対して商標権侵害差止等請求訴訟(平成8年(ワ)第9391号)を東京地裁に提起するとともに、同裁判所に対して使用差止の仮処分申請(平成8年(ヨ)第22126号)をしたのである。
被請求人は、その対抗措置として、平成7年12月28日、請求人商標の無効審判を請求するとともに、平成8年7月15日に、請求人らによる商標使用に対し、本件商標権に基づく商標権侵害差止等請求訴訟(平成8年(ワ)第14026号)を東京地方裁判所に提起した。
請求人提起の前記訴訟事件については、請求人商標の登録無効が確定しその根拠を失ったことにより請求人らの請求は棄却され(確定)、同時に前記仮処分の決定も何ら根拠のないものとなっている。
(2-2)請求人主張の無効理由について
請求人主張の無効理由を要約すると、「本件商標は、使用する意思もなく、将来、我国において『インディアン』商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で出願し登録を得たものであるから、商標法4条1項7号に違反して登録されたものである。」ということである。
しかし、かかる主張は、法第4条第1項第7号の適用解釈を全く無視した身勝手な理屈を展開しているにすぎない。
ア 競業秩序について
前審判(B)審決にあっても、「本件商標は、旧インディアン社との関係においては、商取引の秩序を乱すものと認めることはできない。」と認定判断されている。
これにつき、請求人は、本件商標が公正な競業秩序に反するか否かということと関係しないとし、その一方で、旧インディアン社の存続時の実績や商標使用の事実を紹介した資料を、あたかも、請求人らと関係する者の実績や事実であるかのように証拠として提出する。仮に、請求人主張のとおり、旧インディアン社の過去の実績等と本件商標の7号該当性とは一切関係しないのであれば、これらの証拠を根拠に、「ザンギインディアン社は旧インディアン社の復活である。」とか、「ザンギインディアン社はインディアン商標の正当な出所である。」とか、「請求人らのブランドビジネスは正規のブランドビジネスである。」とかなど、全く根拠のない主張をするのか、その主張意図さえ理解できない。
仮に、旧インディアン社又はその関係者が現存し、同社インディアン商標の周知著名性が現に維持されていたのであれば、国際信義又は競業秩序の観点から、本件商標の登録適格(7号該当性)について判断しなければならないところであるが、かかる事実が全くないことは、前審判(A)の時点で既に認定されているところである。そもそも、仮に、旧インディアン社の商標の著名性が今も維持されているとするなら、同社とは全く関係のない請求人が、同社商標と同一態様からなる商標について何故登録を受けられていたのか、また、旧インディアン社商標に依拠する多くの商標が登録されている(訴訟乙20)のか、その説明が付かないはずである。
イ ザンギインディアン社商標の周知著名性について
これについても、請求人は、本件商標の7号該当性と関係しないとし、一方で、「被請求人がザンギインディアン社の設立報道を見て、『Indian』商標のブランドビジネスが日本で展開されることを予測したことは明白である。」とし、このような予測を基になされた本件商標の出願登録は国際信義に反するものであるなどと主張する。
被請求人が本件商標を採択出願した動機や経緯は、先に詳述したとおりで、上記米国紙報道とは一切関連しない。そもそも、著名なファッション誌又は衣料専門誌であるならまだしも、購入手段さえ知る由もない米国で発行された一般英字紙を被請求人が日々購読しているのは当たり前であるかのような請求人の主張は、余りにも実際とかけ離れたものといわざるを得ない。しかも、そこでの報道内容は、何らかの事業の存在や商標使用の実際を報じたものではなく、ザンギが金員を搾取するため行った一方的な発表をそのまま記事にしたものであるにすぎない。米国内でのこのような怪しげで仔細な報道が、我が国での商標出願又はその登録の適否を左右する要因になり得るはずもない。ましてや、該米紙報道によって、「『Indian』ブランドが、ザンギインディアン社の商品を表示するものとして周知となった。」などどいうことには到底なり得ない。このことは、後のザンギの犯罪行為や、ザンギインディアン社が、準備行為を含め、発表内容の一切を実行せずに倒産している事実に照らせば尚更明らかである。
旧インディアン社を再興しようとする試みや同社商標を利用した商品を企画し販売しようとする試みは、ザンギやザンギインディアン社に限ったことでも初めてのことでもない(訴訟乙18,19)。また、ザンギインディアン社が実体のない会社であったことからすると、上記米国紙による報道を偶然にも被請求人が知っていたとしても、それが、日本において本件商標を採択出願することについて何ら障害となるものではない。
請求人主張のように、外国紙で報道されたことをもって、該報道と何らかの共通点がある全ての商標の出願登録が競業秩序を害するものであるとするなら、我が国での商標採択者は、常に諸外国で発行される主要な新聞の全てを注意深く購読していなければならず、また、特許庁における商標登録の審査においても、外国紙の報道記事と何らかの関連がある商標は、それが周知商標であるか否かを問わず、また、その記事の内容が真実であるか否かを問わず全て拒絶の対象としなければならない。
ウ 「インディアン商標」の正当な使用者について
これについても、請求人は、本件商標が公正な競業秩序に反するか否かとは関連しないといい、一方で、「請求人が日本市場に『Indianロゴ』等の商標を最初に導入し、企業努力を傾注してこれを日本市場に浸透させたのであり、この企業努力とその成果は尊重しなければならない」などと、荒唐無稽な主張を繰り返す。
請求人は、旧インディアン社の存続時の実績や商標使用の事実を、あたかも、請求人らと関係する者の実績や事実であるかのような主張立証をすることにより、旧インディアン社とザンギインディアン社との間に何らかの関係等があることを暗に匂わせながら、「ザンギインディアン社は、旧インディアン社の復活である。」とか、「ザンギインディアン社は、インディアン商標の正当な出所である。」とかの主張をする。
しかし、請求人がこのような主張をするには、そして、他者による「インディアン商標」等の採択が不正であるというには、それなりの根拠を示すべきであり、少なくとも、旧インディアン社商標の正当な継承者として認められるような何らかの事実の立証が必要不可欠である。
請求人が「インディアン商標」の正当な使用者と認められないことは、審決取消訴訟(平成15年(行ケ)第181号)での判決で既に認定されている。
エ 請求人ら商標の著名性について
これについても、請求人は、本件商標が公正な競業秩序に反するか否かということと関連しないといい、一方で、「平成5年11月頃には、『Indianロゴ』等の商標は、請求人のウェアやバッグ等に使用する商標として『ブーム着火も間近』な程市場に浸透していた。であるからこそ、マルヨシがバッグについてライセンシーとなったのである。」などと、意味不明な主張をする。
請求人らが、本件商標の指定商品(旧第17類)に属する商品について請求人商標等の使用を開始したのは、西澤社が、革製ジャケット等を英国より輸入し販売した平成7年後期(10月?11月)のことで、少なくとも、被請求人が「Indian関連商標」の使用を開始する前に使用を開始し、これを日本市場に浸透させたなどということはない。むしろ、被請求人による当時の販売実績や広告実績、さらには、当業界での被請求人の実績や評判などからして、どちらがより周知であったかということになれば、当業界での実績が皆無に等しい請求人らに比べ、被請求人の方がより周知であったというべきである。
被請求人が「Indian関連商標」の使用を開始する前になされた請求人らの事実行為といえば、本件商標が設定登録された後の平成6年5月ころ、マルヨシが請求人商標等を商品「バッグ」に使用したことと、本件商標が登録査定された後の平成5年7月24日付の業界紙で、請求人会社の設立と請求人商標等のライセンスビジネスの開始を発表したことにすぎない。
マルヨシによる使用は、本件商標が設定登録された後のことであり、しかも、本件商標の指定商品「被服等」とは非類似の商品「バッグ」についての使用で、使用の程度すら明らかにされていない。また、上記業界紙の報道は、請求人会社の設立と請求人が一方的に発表したブランドビジネスの計画を報じたにすぎず、何らかの商標使用の事実やその実際を示したものではない。寧ろ、この報道は、実際にライセンスされる商品及びライセンシーが具体的に決まっていない状況下での発表であることからして、請求人らの使用実績が皆無に等しかったことを窺わせるものである。
請求人は、上記業界紙での記事を引用し、当時、「『Indian』ブランドのブーム着火も間近であった。」とするが、このフレーズは、請求人らが行おうとしていたブランドビジネスを、自ら宣伝するために用いた単なるキャッチコピーにすぎず、このような状況が現実にあったわけではない。
実際のところは、米国においては、ザンギインディアン社は投資家から金員等を詐取しただけで、企業本来の事業活動はおろかその準備行為すら一切せずに設立後間もなく倒産しており、また、日本においても、請求人らの請求人商標等の使用実績が皆無に等しかったことからして、「ブーム着火も間近」などというにはほど遠い状況であった。
オ 被請求人による商標使用について
そもそも、本件商標についての法第4条第1項第7号該当性を判断する基準時は、出願時及び査定時であるから、事後的に開始された請求人らのブランドビジネスによって、それ以前になされた本件商標の登録査定処分が遡って違法となることなどは法解釈の上で有り得ない。
被請求人による「Indianロゴ」等の使用が、請求人らのブランドビジネスを妨害し市場に混乱を生じさせたか否かについては、本来、法第51条第1項に規定する審判において争われるべき事柄であり、本件審判は、本件商標についての出願時又は査定時における登録適格を争うものであって、当該請求人主張は失当である。
被請求人による「Indianロゴ」等の商標の使用が、法第51条第1項所定の不正使用に該当するか否かについては、審決取消請求事件(平成15年(行ケ)第181号)での判決(訴訟乙27)で、被請求人による「Indian関連商標」の使用は、本件商標の不正使用には当たらないとの判断が既に下されている。
カ 被請求人による他の商標出願及び登録について
請求人は、「被請求人が海外ブランドの冒用出願を多数しているという事実は、被請求人が如何なる者であるかを如実に示すものであり、また如何なる目的で本件商標の出願をし登録を得たかを物語るものである。」などと、あたかも、被請求人による本件商標の出願登録が不正な目的に基づくものであるかのような主張する。
このような主張は、他の審判事件でも同様に繰り返されてきているが何れも否定され又は採用されていない。唯一、かかる請求人主張を採用した特許庁審決も、判断を誤ったとして、東京高裁判決で取り消されている。
商標の採択は、基本的には既存事実の選択行為であり、採択者の趣向や何らかの思い入れによって具体的に選定されるのが通例で、被請求人がアメリカンカジュアル衣料の専門業者であることからすれば、自らの商品につきその商標を選定するに当たり、アメリカ的な素材にそのヒントを求めるのは自然なことであり、このようにして選定した標章が被服等の商標として実際に採用することが可能であるか否かの公的な判断を得るため、特許庁に登録出願して審査を仰ぐことは、法に則った正当な手続である。
誤解を避けるため、その一例について反論すると、商標「ベアーサーフボード」の例についていえば、請求人は、これを米国映画「BIG WEDNESDAY」中で使用され有名になった商標というが、この標章は、映画ストーリー中の架空のサーフボードショップの名前にすぎず実際に使用され機能していた商標ではない。したがって、有名な商標であるか否かを判断する上での前提(商標の存在)自体を欠くものである。映画や小説等の中で用いられている何らかの名称や標章を自己の商品商標として採用することなどは多々あることで、何ら非難されるべき商標の選定方法ではない。
その他の商標についても同様で、本件審理の場で請求人にこれら商標の出願や登録が不正、不当であるとされる謂われはない。
フリーライド(冒認出願)について
本件商標が、請求人会社の設立を含め、請求人らの如何なる事実行為よりも先行して出願され、登録査定されたものであることの事実のみからしても、請求人主張が失当であることは明らかである。
本件商標の法第4条第1項第7号該当性の判断基準時は、出願時及び登録査定時であり、当時の事情下において、登録要件を充足している本件商標について、それ以降に生じた事実を因として、遡ってその登録適格が否定されることはない。判断基準時以前に請求人らと関係する何らかの事実があるとすれば、平成3年7月1日付の米国紙の報道があるのみで、このような怪しげな外国での報道によって、本件商標の登録適格が否定されなければならない理由は微塵もない。
登録後に本件商標が何らかの理由によって公序良俗に反するような商標になったという主張であれば、本来、法第46条第1項第1号ではなく、同条第1項第5号の規定に基づき無効審判を請求すべきである。
本件商標の出願時又は査定時にあっては、フリーライドの対象となる周知商標はもちろん、関係する事業そのものが存在していなかったから、被請求人が、フリーライドの意思(内心)を持つこと自体が不可能なことである。
このことにつき、請求人は、「被請求人は、自ら登録商標を使用するのではなく、類似商標を使用する他者に対して権利行使し、そのことによって経済的利益を得ることを主な目的として、本件商標を出願しその登録を得たものである。」というが、仮にそうであるならば、多大な経費と労力を掛け、商社を介在させ外国企業と業務提携をしてまで、被請求人が商品の企画、開発、製造及び販売を行うはずはなく、その上、多額の費用を掛けて多くの雑誌に宣伝広告をする必要もない。
2 第2答弁
(1)請求人提出の平成17年11月17日付及び同19年2月9日付の「上申書」については、如何なる性質の書面であるか不明であり、また、これら上申書に添付された資料(甲第241号証ないし甲第356号証)は、いずれも、本件商標の商標法第46条1項1号で定める無効理由(第4条1項7号)該当性とは無関係あり、また、登録査定日(平成5年7月16日)より後の資料であって判断資料として不適格である。
(2)特許法第167条について
ア.請求人は、本件審判での主張事実は、「本件商標は、その指定商品に使用せず、我が国において『Indian』商標を用いたブランドビジネスが展開されたときに、そのブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものである。」ということであって、「平成6年審判第13787号(前審判A)及び無効2003-35031号(前審判B)での主張事実と相違する。」と主張する。
しかしながら、先の答弁書でも指摘したように、前審判A及びBにおいても、請求人が本件審判と同一の主張をしていることは、審決書(乙1,乙4)及び判決書(乙12)の記載からも明らかである。
イ.また、請求人は、本件審判では新たな証拠を提出してるとし、その一例として「甲226,甲227,甲239,甲240」を挙げる。しかしながら、これらの甲号証は、いずれも、その内容及び成立日時などからして、本件商標の無効事由該当性(公序良俗違反)を判断する資料とはなり得ないものである。しかも、これらの証拠には、本件商標の登録出願に不正意図があったことを窺わせるような記載内容は一切なく、むしろ、被請求人による本件商標の採択が極めて道理に通った経緯でなされたことを示す内容となっている。
(3)請求人が主張する無効事由について
請求人が主張する無効理由が全く根拠のないものであることは、多くの審判決でも示されており、請求人の同旨主張は尽く否定されている。その詳細については、既に、先の答弁書「6.答弁の理由(2)其の2[別紙1]」において明らかにしている。まとめてみると、本件商標が、請求人会社の設立を含め、請求人らの如何なる事実行為よりも先行して出願され登録されたものであることの事実のみからしても、請求人主張が失当であることは明らかである。
請求人主張の論旨を推考すると、「将来の他人のブランドビジネスを予想して出願された商標登録は、他人のブランドビジネスが行われないうちは適法であるが、実際に何人かがその商標についてブランドビジネスを開始した場合は、当該他人のビジネスを妨害し競業秩序を乱すものであるから公序良俗に反して登録されたものとなる。」ということであるらしい。
商標法4条1項7号該当性についての判断基準時は、出願時及び登録査定時であり、当時の事情下において、登録の要件を充足している商標について、それ以降に生じた事実を因として、遡ってその登録適格が否定されることはない。まして、本件の場合、出願時において、被請求人が将来の他人のブランドビジネスが行われることを「予想」したと推認できる程の事実は全くなく、また、その他人がその商標に関して正当な使用権限を有さない者(請求人ら)であることからすれば、尚更というべきである。
そして又、本審判事件での各争点は、過去の裁判において既に争われ、決着が付いている事項である。そうとすると、これら確定判決の既判力からしても、或いは、信義則の理念(訴訟の蒸し返しの禁止)からしても、請求人の本件審判での主張は認められるべきではない。

第4 当審の判断
1 「同一の事実及び同一の証拠に基づく審判請求」との主張について
(1)確定審決
本件以前の本件商標に関する無効審判について、以下のア及びイが認められる。
ア 前審判(A)
本件商標に関して、本件商標が法第4条第1項第7号、同8号及び同15号に該当し、その登録は法第46条第1項第1号により無効とされるべきであるとの審判請求がなされた。平成6年審判第13787号事件として審理された結果、平成9年9月30日に請求は成り立たないとの審決がなされ、当該審決について平成10年4月15日に確定の登録がされている。
イ 前審判(B)
本件商標に関して、本件商標が法第4条第1項第7号に該当し、その登録は法第46条第1項第1号により無効とされるべきであるとの審判請求がなされた。無効2003-35031号事件として審理された結果、平成16年2月24日に請求は成り立たないとの審決がなされ、当該審決について平成17年4月15日に確定の登録がされている。
(2)本件における主張事実
本件審判において、本件商標が法第4条第1項第7号に該当するとして請求人が主張する理由は、要するに、以下のとおりである。
被請求人が、「Indian」ブランドを用いたマーチャンダイジングビジネスが米国において起ち上げられたことを知り、いずれ日本にかかるブランドビジネスが導入され展開されることがあるべきことを予測し、将来何人かにより日本において「Indian」ブランドビジネスが展開されたときに日本において「Indian」ブランドビジネスを展開する者の業務を妨害する目的で本件商標を出願し、登録を得たものである。
(3)上記(1)及び(2)の理由を構成する事実は、かなりの部分において重なると認められるけれども、法第56条で準用する特許法第167条にいう確定審決における事実と「同一の事実」に基づく審判請求であると断じ難く、仮にこれが実質上同一であったとしても、証拠も追加されており、「同一の証拠」による請求であるとは断じ難いものである。
してみれば、本件審判請求が、前審判(A)又は(B)と、同一の事実及び同一の証拠に基づく請求であるから法第56条で準用する特許法第167条の規定に該当するとして、本件審判請求を却下することはできない。
2 法第4条第1項第7号該当について
(1)商標自体に公序良俗違反のない商標であっても、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合には、法第4条第1項第7号に該当すると解される(東京高裁平成14年(行ケ)第616号事件・平成15年5月8日判決及び東京高裁平成16年(行ケ)第108号事件・平成16年12月8日判決参照)。
(2)そこで、本件商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったか否かについて検討するに、当事者の主張及び証拠によれば、以下の事実(争いのない事実及び顕著な事実を含む。)が認められる。
ア 被請求人は、昭和40年11月に設立されたアメリカンカジュアル衣料の輸出入及び国内販売等を行う株式会社であり、請求人は、平成5年6月に設立された装身具、皮革製品、衣料品等の輸出入及び販売等を業とする株式会社である。
イ 旧インディアン社は、1901年(明治34年)に米国マサチューセッツ州スプリングフィールドに設立されたオートバイのメーカーであり、その使用した「Indianロゴ」「ヘッドドレスロゴ」等の商標は、米国、欧州、日本において、需要者の間に周知著名性を獲得するに至った。しかし、旧インディアン社は、1953年(昭和28年)に操業を停止し、その後、解散した。
ウ 旧インディアン社が操業を停止した後にも、旧インディアン社の商標をモチーフとして使用した商品は米国内において販売され、我が国においても、従前から、旧インディアン社の商標に因んだ商標登録がなされている。
エ 米国人フィリップ・ザンギは、旧インディアン社の復活を標榜して、1990年(平成2年)に、ザンギインディアン社を設立し、以下(ア)及び(イ)のとおり、1991年(平成3年)7月に、同人が旧インディアン社の復活を計画している旨の記事が新聞紙上に掲載された。
(ア)1991年7月1日付け「THE DAILY NEWS」(甲第7号証)には、「フィリップ・ザンギは今まさに、アメリカ史に残る伝説であるインディアン・モトサイクルを甦らせるという夢を実現しようとしている。」「フィリップ・ザンギ氏は衣類やアクセサリーのビジネスで大きな成功を収めている。インディアン・Tシャツ、皮ジャン、皮パンツ、しろめ製バックル、ブーツなどの新シリーズが売り出されている。」等と記載されている。
(イ)1991年7月5日付け「USA TODAY」(甲第8号証)には、「40年近くの間,製造を中止されていたインディアン・バイクが再び息を吹き返した。・・・フィリップ・ザンギの計画が順調にいけば、このクラシックの大型バイクは1993年には路上へと帰って来る。」「彼は去年そのインディアンの商標権を買い取り、アクセサリー会社と共にテスト・マーケットをすることにした。バイヤーたちはその会社のトレードマークであるインディアンヘッドを付したTシャツや皮ジャンに飛びついたのだった。」との記載がある。
オ その後、フィリップ・ザンギは、旧インディアン社及びその商標に関連して、虚偽の報告書を作成するなどして、多数の投資家から金員等を搾取したとして、1996年(平成8年)6月に逮捕され、米国の連邦地方裁判所において実刑判決を受けた。また、ザンギインディアン社は倒産している。
カ 被請求人の常務取締役(小林亨一)が、1990年(平成2年)の終わり頃に、米国在住のビンテージバイクの愛好家に会った。その際に、インディアンという名のバイクに乗る彼のチームのユニフォーム(ジャケット)の作成依頼を受けた(甲第226号証、同第239号証及び同第240号証)。
(3)本件商標の出願に関し、請求人は、被請求人が上記新聞記事を見て、あるいは、人伝えや他の媒体で知り、「Indian」ブランドビジネスが展開されるであろうことを予測し、日本において同ビジネスを展開する者の業務を妨害する目的で、本件商標を出願したと主張する。
しかしながら、これらの記事は、米国の一般誌上で各1回掲載されたにすぎないうえ、被請求人が当該記事の存在を認識し、関心を持ったことを示す証拠はない。
また、被請求人の常務が米国内のビンテージバイク愛好家と接触した事実は認められるとしても、そのことから、被請求人が当該記事内容を知ったと認め得る直接的な証左はみいだせない。
そして、仮に被請求人が当該記事に接する機会があったとしても、これらの記事の主たる内容は、旧インディアン社のオートバイの製造を計画しているというにすぎず、インディアンブランドの衣服等のビジネスに触れた部分があるものの、我が国で同衣服等のビジネスを行うことやその時期等の情報をはじめ何ら具体的に開示されたものではないから、これをもって、ザンギインディアン社の業務を妨害する意図に基づき本件商標の出願をしたとは推認できない。また、他に、本件商標の出願前に、何人かによる同ビジネスの我が国における展開を被請求人が知り得たと認め得る的確な証拠もない。
そうとすれば、これをもって、我が国における「Indian」ブランドビジネスが展開されたときに、その業務を妨害する意図(目的)で本件商標の出願をしたとは到底推認することができない。
さらに、本件商標の出願時、旧インディアン社の商標を独占的に使用する権限を有する者が存在したと認めるに足りる証拠はなく、被請求人がアメリカンカジュアル衣料の当業者として、インディアンブランドの衣料の事業を開始しようとして、本件商標を出願したとしても、これを違法視することはできない。
そして、上記のビンテージバイク愛好家との接触の事実は、むしろ、前記の事業開始と本件商標の出願の動機づけの一とみるのが相当である。
(4)請求人は、被請求人が本件商標を使用せず、請求人が企業努力により平成6年前半頃までに「Indian」ブランドを我が国の市場に浸透させるや、請求人の使用する「Indianロゴ」と同一態様の標章をシャツ等に使用して、請求人やその取引先の業務を妨害した旨主張する。
しかしながら、請求人らの営業を妨害したと請求人が主張する被請求人の行為は、本件商標の出願から2年以上後の、しかも本件商標とは別異の標章の使用に関することであるから、請求人の主張する標章についての使用行為が仮に認められるとしても、本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くといえるような事実を構成するとみることは到底無理である。
また、被請求人が本件商標の使用を仮にしていないとしても、不使用による商標登録の取消の是非は格別として、本件商標の出願の経緯の社会的相性の欠如を左右する事実とはなり得ないというべきである。
(5)以上よりすれば、本件商標の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠いたとして、当該商標登録が商標法の予定する秩序に反すると認めることはできないから、本件商標は、法第4条第1項第7号に該当するということはできない。
3 結論
以上のとおり、本件商標は法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではないから、法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-07-12 
結審通知日 2007-07-19 
審決日 2007-10-10 
出願番号 商願平3-114779 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (117)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 正雄 
特許庁審判長 小林 和男
特許庁審判官 小川きみえ
石田 清
登録日 1994-03-31 
登録番号 商標登録第2634277号(T2634277) 
商標の称呼 インディアンモーターサイクル、インディアン、モーターサイクル 
代理人 佐藤 雅巳 
代理人 古木 睦美 
代理人 野原 利雄 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ