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審判番号(事件番号) データベース 権利
取消2009300037 審決 商標

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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z39
管理番号 1203776 
審判番号 取消2008-300345 
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2008-03-17 
確定日 2009-08-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第4618043号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4618043号商標の指定役務中、第39類「全指定役務」については、その登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4618043号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成からなり、平成10年12月28日に登録出願された商願平10-112127に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、平成12年9月11日に登録出願され、第25類「履物」及び第39類「鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の積卸し,貨物の輸送の媒介,船舶の貸与・売買又は運航の委託の媒介,船舶の引揚げ,水先案内,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,ガスの供給,電気の供給,水の供給,熱の供給,係留施設の提供,倉庫の提供,駐車場の提供,飛行場の提供,車いすの貸与,自転車の貸与,航空機の貸与,コンテナの貸与,パレットの貸与,自動車の貸与,船舶の貸与,包装用機械器具の貸与」を指定商品及び指定役務として、平成14年11月1日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。
(1)請求の理由
本件商標の商標権者は、日本国内において、本件商標を継続して3年以上その第39類の指定役務について使用していない。また、商標登録原簿上は、本件商標に専用使用権あるいは通常使用権が設定・許諾されている事実も見当たらない(甲第1号証)。
よって、第39類の全指定役務に係る本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
(2)答弁に対する弁駁
ア 商標法第50条第2項は、同第1項の審判の請求があった場合においては、審判の請求の登録前3年以内に「日本国内において」商標権者等がその請求に係る「指定商品又は指定役務」のいずれかについての「登録商標」の「使用をしていること」を被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない、と規定する。
(ア)本件商標は、全て黒色の「三本波線」と「星」の図形と、「eurostar」の文字を上下に配して成る(商標法第27条第1項)。
上記「登録商標」の使用、という要件について、被請求人の提出する乙第1号証ないし乙第10号証では、本件商標を構成する「三本波線」と「星」の図形と「eurostar」の文字を組み合わせた標章が記載されている事実を一部の証拠において確認できるが、商標の色彩については、同一でなかったり、証拠書類のコピーの関係で不明であるため、完全に同一である商標の使用であるか定かではない。また、被請求人が、これら被請求人提出の証拠に係る商標が、商標法第70条第1項あるいは商標法第50条第1項括弧書きに規定する登録商標に含まれるものであると解釈した上で、乙第1号証ないし乙第10号証を提出しているとしても、証拠に表された商標が登録商標に含まれる旨についての被請求人の主張は何らなされていない。
仮に、これら証拠に表された商標が、登録商標に含まれる商標であるとしても、被請求人が示した証拠は、以下のとおり、本件商標の「日本国内における使用」等を証明するものではない。
(イ)本件商標の指定役務は、「鉄道による輸送、車両による輸送、貨物の梱包」等であるが、被請求人は、乙第1号証ないし乙第10号証により、本件商標を指定役務「鉄道による輸送」に使用している旨主張している。
被請求人も認めるとおり、「『鉄道による輸送』という役務は、役務提供地において当局からの許認可などを受け、鉄道を敷設しなければ提供できない特殊な役務であって、これらの条件が揃わないところでは提供できない。」ものであり、被請求人が日本国内で提供できる役務ではない。
この点、被請求人は、海外の鉄道に関するものであっても、わが国でチケット販売や宣伝広告に商標を使用することは、商標法第2条第3項第4号及び同第8号に規定する「日本国内における商標の使用」に当たり、これらを商標の使用と認めなければ、第三者が被請求人の商標と同一の商標権を取得することができ需要者に誤認混同が生じる旨、主張しているが、これらの主張は法の適用において解釈を誤っているものである。
(a)商標法上の「使用」について、商標法第2条第3項第4号には「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」と、同第8号には「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し・・・提供する行為」と規定されている。したがって、形式的にみれば、乙第1号証ないし乙第10号証のうちの何点かは、被請求人の主張する「商標の使用」に該当するようにもみえる。
しかし、これらの法の解釈に当たっては、特許法同様、商標法においても、その法目的(商標法第1条)を参照しなければならない(甲第2号証)。商標法第1条にいう「産業の発達」は我が国の産業の発達であり、したがって、商標法第50条は「日本国内で」商標が使用されるべきことを規定している。また、この「日本国内で」というのは、字義どおり「日本の国内」の需要者を対象としたものであり、在外者を含めた「日本人の」需要者ではない。このように解さなければ、「日本の」産業発達に直接的に結びつかないからである。同様に解釈している例として、日本国内において指定役務等を提供したことがなく、日本の需要者がその役務等の提供を受けることができない場合には、例え形式的に商標法第2条第3項に該当する行為があっても、商標の現実的使用には当たらず、不使用による取消を免れない、とする審決がある(甲第3号証)。
被請求人も認めているとおり、「ユーロスター」はロンドンとパリ、ブリュッセル及びリールを結ぶ鉄道であり、日本国内の鉄道ではなく、海外において「日本人の」需要者は利用できるかもしれないが、「日本の」(国内の)需要者は、被請求人の役務の提供を日本国内において受けることができない。したがって、被請求人の行う広告等が形式的に商標法第2条第3項各号に規定する「使用」に該当するとしても、被請求人が「日本国内において」指定役務である「鉄道による輸送」を日本国内の需要者に提供することができない以上、被請求人が本件商標について、商標法第50条にいう「使用」をしているとはいえない。
(b)被請求人は、被請求人の宣伝広告行為等を商標の「使用」と認めなければ、第三者が本件商標と同一の商標を取得して日本の需要者に誤認混同を生じさせる旨を主張し、また、被請求人の日本におけるマーケティング費用及びチケット販売費用を述べ、日本国内において商標を使用していると主張する。しかし、上述のとおり、そもそも海外における役務の提供についての日本国内における宣伝広告等は、国内における本件商標の「使用」には当たらない。仮にこれが指定役務についての商標の「使用」に当たるとすると、例えば、海外における医療機関が、日本人をも対象に治療を行うためその宣伝広告を日本語のパンフレット等を配布して行う行為が、「日本における医業の提供」に当たることになる。このような解釈が不当であることは明らかである。
さらに、被請求人の商標が国内の需要者に混同を生じさせるほど周知であれば、商標法第4条第1項第10号、同第15号等で第三者の商標登録は拒絶され得るし、また、商標法のみならず、不正競争防止法等で保護するという手段もある。したがって、「需要者の混同」を理由に、本件商標の「使用」を認めなければならない、という理屈は成り立たない。
イ 以下、乙第1号証ないし乙第10号証につき、個別に陳述する。
(ア)乙第1号証は、インターネットにおけるユーロスターの予約方法のページ等であり、インターネットは現在世界各国からアクセスできるため、「日本国内において」使用されていることが証明されていない。また、需要者が予約するのは、ヨーロッパ(日本国外)における役務の提供に対するものである。したがって、本件商標が「日本国内において」使用されたことの証明とはいい得ない。
(イ)乙第2号証においては、パンフレットの中に本件商標と同様の商標が記載されている事実は認められるものの、「鉄道による輸送」という役務の提供地は「ロンドン?パリ・ブリュッセル」間と示されており、「日本国内において」当該役務に使用されているものではない。
(ウ)乙第3号証においては、「ユーロスター料金表」の文字は認められるものの、本件商標と同一の「三本波線と星、eurostar」を組み合わせた商標は示されておらず、「登録商標」の使用とは認められない。また、「鉄道による輸送」という役務の提供地はヨーロッパであり、「日本国内における」使用と認められない。したがって、「本件商標」の「日本国内における」使用とはいい得ない。
(エ)乙第4号証においては、「ユーロスター料金表」あるいは「ユーロスター」の文字は認められるものの、本件商標と同一の「三本波線と星、eurostar」を組み合わせた商標は示されていない。駅に停車した列車の車体の写真の一部に本件商標と同じ態様のマークと思しきマークが写っているものの、この写真は説明文の内容から明らかにヨーロッパの駅で撮影されたものであり、これをもって「日本国内において」本件商標の指定役務「鉄道による輸送」に使用していると認めることはできない。
(オ)乙第5号証においては、「ユーロスター」の文字は認められるものの、本件商標と同一の「三本波線と星、eurostar」を組み合わせた商標は示されていない。パンフレット中の列車の車体の写真の一部に本件商標と同じ態様のマークと思しきマークが写っているものの、資料タイトルに「ヨーロッパ鉄道パス&チケットカタログ」とあるように、いずれも外国において撮影された写真であるとするのが妥当であり、これをもって「日本国内において」本件商標の指定役務「鉄道による輸送」に使用していると認めることはできない。
(カ)乙第6号証においては、「ユーロスター」の文字は認められるものの、本件商標と同一の「三本波線と星、eurostar」を組み合わせた商標は示されておらず、「登録商標」の使用とは認められない。また、役務「鉄道による輸送」の提供地は、証拠中に「ロンドン?パリ」「ロンドン?ブリュッセル」とあるように明らかに外国であり、「日本国内における」使用と認められない。
(キ)乙第7号証においては、パンフレット中の列車の車体の写真の一部に本件商標と同じ態様のマークと思しきマークが写っているものの、いずれもその下の説明文から、明らかにヨーロッパにおいて撮影された写真であり、これをもって「日本国内において」本件商標の指定役務「鉄道による輸送」に使用していると認めることはできない。また、「ロンドンから、パリ、ブリュッセルまでベストな旅はやっばりユーロスター」という記事の中で、本件商標と色違いの商標が示されているが、同様に、明らかに役務の提供地は日本国外である。
(ク)乙第8号証においては、本件商標と同様の商標が示されているものの、これは、映画「ダ・ヴインチ・コード」のマークと対になるようにパンフレットの右下に示されており、提供される役務が不明で、指定役務「鉄道による輸送」について使用されているとはいい得ない。また、「ロンドン/パリ間のユーロスター往復乗車券」等の表示に明らかなとおり、役務の提供地は海外である。さらに、「旅行会社スタッフの皆様個人を対象としたキャンペーンです。」との表示にあるように、「独立して商取引の目的たりうべきもの」という従来からの商品・役務の定義に該当する、独立取引の対象となるサービスに使用しているものではない。
(ケ)乙第9号証においても、乙第8号証同様、本件商標と色違いの商標が示されているものの、「豪華ロンドン&パリ旅行をプレゼントします」とあるように、本件商標を「独立して商取引の目的たりうべきもの」という役務の定義に該当するサービスに使用しているとは言い得ない。また、役務の提供地が海外であることも他の証拠同様である。したがって、乙第9号証も「日本国内において」本件商標の指定役務「鉄道による輸送」に使用していると認めることはできない。
(コ)乙第10号証においては、本件商標と色違いの商標が示されており、被請求人は本件証拠が「日本とアメリカで使用する切符入れの見本コピー」である旨、説明するが、この切符入れに記載されている内容を詳細に見ると、「チケット購入後の各種サービスを受けられたいときには、・・・(英語での対応になります)英国(電話番号)・・・」「ユーロスター体験に関する声をお寄せ下さい。・・・英国(電話番号)、フランス(電話番号)、ベルギー(電話番号)・・・」等となっている。したがって、この証拠(切符入れ)は、日本語と英語で記載されているものの、「日本国内で」「その役務の提供を受ける者の利用に供する物」に使用されているものではなく、「日本人」旅行者を対象に配布されている切符入れであるとするのが合理的である。これについて、被請求人は、これが日本国内での役務の提供のために使用されていることについて何ら証明していない。

3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証を提出した。
(1)請求に対する答弁
ア 被請求人は、以下に説明するように、指定役務「鉄道による輸送」について、日本国内において本件商標を使用している。
イ 被請求人は、「eurostar/ユーロスター」というロンドンとパリ、ブリュッセル及びリールを結ぶ国際高速鉄道を経営し「鉄道による輸送」を提供しており、この鉄道「eurostar/ユーロスター」がわが国でも有名であることは特許庁においても顕著な事実であると確信する。
「鉄道による輸送」という役務は、役務提供地において当局からの許認可などを受け、鉄道を敷設しなければ提供できない特殊な役務であって、これらの条件が揃わないところでは提供できない。
しかし、チケットの販売、宣伝広告は上記条件が揃わない所でも行うことができ、海外での鉄道に関するものであっても、わが国で販売するチケットに商標を付する行為は、「役務の提供に当たりその提供を受けるものの利用に供する物に標章を付する行為」(商標法第2条第3項第4号)に当たり、チケット販売又は宣伝広告に商標を使用することは、「役務に関する広告、取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)に当たる。
また、上記のような行為への商標の使用を「鉄道による輸送」という役務についての商標使用と認めなければ、第三者が本件商標と同一商標について「鉄道による輸送」を指定する商標登録を取得して、同商標を使用して鉄道事業を行い「鉄道による輸送」を提供することができ、その一方で、被請求人は日本国内で上記国際高速鉄道のチケット販売及び宣伝広告活動を継続できることになるが、これでは需要者に誤認混同を生じさせること必至である。
したがって、わが国において鉄道事業を行っていなくても、上記のような行為に本件商標を使用していれば、わが国において、本件商標を「鉄道による輸送」という役務に使用していることになる。
ウ 被請求人は、上記国際高速鉄道「eurostar/ユーロスター」のチケットを被請求人のウェブサイトを通じてわが国需要者にも販売している(乙第1号証)。
また、同チケットの販売は、国内の代理店を通じてもわが国需要者に販売されている(乙第2号証及び乙第6号証)。
乙第1号証のサイト内には、本件商標が表されている。
乙第2号証として提出するパンフレット中にも、本件商標が表されている。
乙第7号証として提出する雑誌広告にも、本件商標が表されている。
乙第8号証及び乙第9号証は、2006年に行った「ユーロスター・クエスト」と映画「ダ・ヴィンチ・コード」のブッキングキャンペーンに使用したパンフレットとチラシのコピーである。ここでも、本件商標が表されている。
乙第10号証は、日本とアメリカで使用する切符入れの見本であり、これにも本件商標が使用されている。
なお、被請求人の社内データによると、日本におけるマーケティング費用として、2005年に40,000ユーロ、2006年に85,000ユーロ、2007年に90,000ユーロという金額を使用し、日本におけるチケット販売売上は、2006年に2,314,469米ドル、2007年に1,987,654米ドルとなっている。
このように、被請求人は、国際高速鉄道「eurostar/ユーロスター」のチケット販売及び宣伝広告をわが国において行っており、このチケット販売及び宣伝広告に本件商標を使用しているのであるから、指定役務「鉄道による輸送」に本件商標を使用していることになる。
エ 以上より、被請求人が、指定役務「鉄道による輸送」について、日本国内において本件商標を使用していること明らかである。
(2)弁駁に対する答弁
ア 請求人も認めるように、乙第1号証ないし乙第10号証にある商標の使用は、文言上、商標法第2条第3項第4号又は同第8号に規定する「使用」に該当する。
しかしながら、請求人は、法目的を持ち出し、請求人の本件商標の使用は、日本の産業発達に直接的に結びつかないため、商標の現実的使用に当たらないと主張する。
確かに、日本における役務の提供が全くないのであれば、日本の産業発達に結び付かないため、そのような商標は我が国の商標法が保護する価値を有しないといえるかもしれない。
しかし、本件においては、日本において、許認可を受け、鉄道を敷設し、列車を走らせるということはできなくても、日本の代理店又はインターネットを通じてチケット販売を行い、日本の広告代理店などを使って宣伝広告活動を行っているのであるから、現実的かつ直接的に、日本の産業に貢献しており、法目的にも適った商標の使用と考えるのが相当である。
この点、日本における経済活動が全くない甲第3号証の事例とは全く異なるので、これを根拠とする請求人の主張は失当である。
イ また、前回答弁書で主張したように、上記のような行為への商標の使用を「鉄道による輸送」という役務についての商標使用と認めなければ、第三者が本件商標と同一商標について「鉄道による輸送」を指定する商標登録を取得して、同商標を使用して鉄道事業を行い「鉄道による輸送」を提供することができ、その一方で、被請求人は同一商標を使用して日本国内で国際高速鉄道のチケット販売及び宣伝広告活動を継続できることになるが、これでは需要者に誤認混同を生じさせること必至である。
この点、請求人は、「そもそも海外における役務の提供についての日本国内における宣伝広告等は、国内における本件商標の「使用」には当たらない。仮にこれが指定役務についての商標の「使用」に当たるとすると、例えば、海外における医療機関が、日本人をも対象に治療を行うためその宣伝広告を日本語のパンフレット等を配布して行う行為が、「日本における医業の提供」に当たることになる。このような解釈が不当であることは明らかである。」(弁駁書5頁2ないし8行目)と主張する。
そこで、請求人の例を借りて病院を例にとって考えると、日本国内に登録商標「ABC」を有し「ABC」という名称で営業する病院があり、他方、韓国にも「ABC」という名称の病院があった場合、韓国の病院が日本において宣伝広告活動のみを「ABC」という病院名称を使用して行っても、請求人の主張によれば、原則として、韓国の病院の「ABC」の使用は商標権侵害を構成せず、自由に使用できるということになる。
しかしながら、需要者からすれば、日本の「ABC」病院と韓国の「ABC」病院に関係があるのか無いのかという事情は知らないのが通常であるから、両病院に何らかの経済的又は組織的な関係があるものと誤認混同して、韓国まで治療に行ったり、または、韓国での治療経験のある患者が日本の病院に行くというようなことが容易に想定できるが、このような事態は、商標法の法目的(第1条)の掲げる「商標の使用をする者の業務上の信用の維持」と「需要者の利益を保護すること」のいずれにも反すること明らかである。
したがって、現実的にも、また、法目的に照らしても、上述の請求人の本件商標の使用をわが国における「鉄道による輸送」という役務についての使用に当たると認めるのが相当である。
ウ 以上より、被請求人が、指定役務について、日本国内において本件商標を使用していること明らかである。

4 当審の判断
(1)被請求人提出の証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 被請求人に係ると認められるウエブサイトの打ち出し頁(乙第1号証)には、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が表示されている。そして、当該画面は外国語で表示され、「Eurostar」について種々の参照項目があり、また、同画面から「オンラインによる予約ができる」旨の表示「Book Online」がある。
イ 「MIKI TOURIST」に係るパンフレット(乙第2号証)には、「TRAIN/トレイン」の頁に、「ヨーロッパ旅行に鉄道を利用してみてはいかがでしょうか。・・・」として、4つの囲みがあり、その一番上の囲み内に、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が表示され、「ロンドン?パリ・ブリュッセル間を約2時間40分で結ぶ高速列車。」等と記述があり、運行経路図や$表示の料金とともに、車両の外観や車内における客室乗務員のサービス風景の写真が掲載されている。
なお、他の3つの囲み内には、いずれもヨーロッパの鉄道に係ると認められる「THALYS」「ELIOPSOS」「AVE」について、それぞれの運行経路図や料金表示と、車両の外観や車内の写真が掲載されている。
ウ 「ミキ・ツーリスト」のホームページ(乙第3号証)によれば、ミキ・ツーリストは、鉄道のほか、航空券、クルーズ、ホテルの予約等を行っていると認められる。また、同ホームページから「ユーロスター料金表(円表示)」を参照することができ、その注意書きには、「★申込時に料金カテゴリーをご指定下さい。料金の安い順にあたりますが、安いものほど取りづらいため、ご希望どおり取れない場合がございます。ご利用頂けるカテゴリーの上限をお知らせ下さい。」などの記述がある。
エ 「ヨーロッパ鉄道パス&チケットカタログ 2005」(乙第4号証)の28枚目(25頁)において、「ユーロスター」(欄外には、「EUROSTAR」の表示もある。)とその紹介記事として、「運行区間」「クラス」「サービス」「料金システム」の各DATAが記載されている。そして、車両内のサービス風景、ファーストクラス及びスタンダードクラスの座席の写真とともに、鉄道車両の写真が示されており、その車両には、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が表示されている。
また、乙4号証の21枚目には、「ユーロスター料金表」が掲載され、「プレミアムファースト」「普通運賃」「子供運賃」等の片道運賃がUS$で示されている。
オ 「ヨーロッパ鉄道パス&チケットカタログ 2006」(乙第5号証)の21枚目(21頁)において、「ユーロスター」(欄外には、「EUROSTAR」の表示もある。)とその紹介記事として、「運行区間」「クラス/サービス」「料金システム」の各DATAが記載されている。そして、車両内のサービス風景、ファーストクラス及びスタンダードクラスの座席やラウンジの写真とともに、鉄道車両の運行状態の写真が示されており、その車両には、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が表示されている。
また、乙5号証の32枚目(最終頁)には、「ユーロスター料金表」が掲載され、「ビジネスプレミア」「普通運賃」「子供運賃」等の片道運賃がUS$で示されている。
カ パンフレット「PASEO 個人自由旅行 ヨーロッパ ’06.4?9」(乙第6号証)には、「人気列車プラン」の一として、「ユーロスター」の欄があり、列車の写真、区間、所要時間、運賃(円表示)が掲載されている。
そして、その欄の下には、ヨーロッパの鉄道「タリス」や「ESスター」についても、同様の記載がある。
キ 雑誌「浪漫飛行」(乙第7号証)には、「ヨーロッパを旅行するなら鉄道に限る」と題して、ヨーロッパの鉄道による旅行の記事が掲載され、高速列車「ユーロスター」が紹介されている。
また、同誌には、「ロンドンから、パリ、ブリュッセルまで ベストな旅はやっぱりユーロスター。」と表示した広告が掲載されている。そして、乙第7号証6枚目の広告中には、サービス内容を表す写真や記述、車両の写真とともに、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が、当該頁の右下に表示されている。
ク ブッキングキャンペーンの2006年のパンフレット(乙第8号証)は、映画「ダ・ヴィンチ・コード」の公開記念として、キャンペーン期間中にキャンペーンサイトにアクセスし、必要事項を記入、ユーロスター乗車券の予約数が最も多かった人に、「豪華ロンドン&パリ旅行」をプレゼントするというものであり、このパンフレットには、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が表示され、また、同構成の標章を車体に表示した鉄道車両の写真が掲載されている。
なお、パンフレットには、「旅行会社スタッフの皆様個人を対象としたキャンペーンです。」との記載がある。
ケ 乙第9号証は、前記クと同様のパンフレットと認められ、前記クと同様の内容が記載され、同様の標章が表示されている。
コ 切符入れの見本(乙第10号証)には、上中下に三本の波線を描き、その一番上の波線の右に星を配し、これら図の下に「eurostar」の文字を表してなる標章が表示されており、その注意書きとして、英語のほか日本語によるものが記されている。
(2)使用商標について
本件商標は、別掲のとおり、上中下に三本の黒い波線(中の波線はやや短い。)を描き、その一番上の波線の右に黒色の星を配し、これら図形の下に「eurostar」の文字を表してなるものであるところ、前記(1)ア、イ及びキないしコには、本件商標と同一又はこれと社会通念上同一と認め得る商標が表示されている。また、写真中の車両に表示された標章も、本件商標と社会通念上同一の商標と認められるものである。
しかし、後記(3)のとおり、これらをもって、本件商標が、本件審判請求の登録前3年以内(以下「本件期間内」という。)に我が国において、取消請求に係る指定役務に使用をされたと認めることはできないものである。
また、ほかに、「ユーロスター」の文字が表されているが、本件商標の構成中の上記三本の波線と星からなる図形部分は、本件商標の識別性において欠くことのできない重要な構成要素であるから、これを欠いた文字のみの標章は、要部を全く異にするものであって、本件商標と社会通念上同一の商標と認めることはできないというべきである。
(3)使用役務について
ア 商標権は、国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり、属地主義の原則に支配され、その効力は当該国の領域内においてのみ認められるところから、外国法人である被請求人が商標を付して我が国外において役務「鉄道による輸送」の提供をしている限りは、我が国の商標法の効力は及ばない結果、我が国の商標法の「使用」として認めることはできない。
本件において、提出された全証拠に徴しても、被請求人が我が国内において「鉄道による輸送」の提供を行っているとは認められないうえ、当該役務がヨーロッパにおいて提供されているものであることは明らかというべきである。
イ 広告に商標が付されている場合には、特段の事情が認められない限り、同一の商標を表示して役務の提供が予定されていると推認するのが相当であるが、本件にあっては、その広告の対象である役務「鉄道による輸送」は、日本国外(ヨーロッパ)においてのみ提供されることが明らかであるとの特段の事情が認められる。したがって、外国で商標を付された商品が我が国内に流通するような場合とは異なり、その性質上からみて日本国内での役務の提供が困難なものであるから、広告に本件商標を付した行為をもって、日本国内での当該役務の提供を伴った行為が行われたと認めることはできないといわざるを得ない。
ウ 被請求人は、「鉄道による輸送」に係るチケット販売を日本国内の代理店を通じて行っている旨主張している。
しかし、前記(1)イ、ウ及びカの、ヨーロッパの高速鉄道「ユーロスター」に係るチケットの販売についてみると、ヨーロッパにおける他の複数の鉄道輸送に係るものとともに取り扱われており、「ユーロスター」は取扱対象の一と認められる。してみれば、これらは、「MIKI TOURIST/ミキ・ツーリスト」等の旅行業を営む事業者が行う「鉄道乗車券の予約又は販売の媒介又は取次ぎ」等の役務とみるのが相当である。また、被請求人と前記事業者の関係は明らかではない。
「鉄道による輸送」を提供する事業者が自己の提供する当該輸送に係るチケットの販売を行うことは、「鉄道による輸送」自体に包含される行為というべきである。
しかし、輸送に係るチケットの販売を代行する事業者の役務は、「鉄道による輸送」自体ではなく、乗車券の予約又は販売の取次ぎ等の独立した役務というべきである。
そして、上記の取次ぎ等の役務が仮に取消請求の役務に含まれるものとみても、上記ア及びイのとおり、当該役務に本件商標が使用され、かつ、被請求人と前記事業者との関係は明らかでないことから、これが被請求人によって行われたと認めることはできない。
また、被請求人は、同人のホームぺージ上で、当該輸送に係るチケットが直接購入し得るとして乙第1号証を提出している。
被請求人のホームぺージには、本件商標と社会通念上同一と認め得る商標が表示されている。
しかし、同ページは、全体が外国語で構成されているものであり、同人の所在地(国外)に開設されたウエブサイトとみるのが相当であって、たとえ日本語表示画面に変換し得るものであったとしても、インターネットの性格上、世界各地からアクセスが可能であり、かつ、このチケットの対象はヨーロッパにおける役務の提供に係るものであるから、これをもって、被請求人が「鉄道による輸送」自体に包含される行為を我が国内において行ったとすることはできない。
したがって、これらの証拠をもって、被請求人が本件期間内に我が国において本件商標を使用して「鉄道による輸送」の提供をしていたとみることはできない。
エ そのほか、切符入れについてみても、たとえ日本語の表記が含まれているとしても、これが、我が国において提供される役務に用いられる物と断じることはできない。
さらに、前記(1)における他の事実から、日本国内において本件商標が「鉄道による輸送」について使用をされたと認め得るものはみいだせない。
オ なお、被請求人は、「鉄道による輸送」に係るチケット販売、広告宣伝を「鉄道による輸送」の使用と認めなければ、第三者が本件商標と同一の商標について「鉄道による輸送」を指定し商標登録を得て、前記役務を提供することができ、一方で、被請求人は日本国内で国際高速鉄道のチケット販売及び宣伝広告活動を継続できることになるが、需要者に誤認混同を生じさせること必至であるから、使用と認めるべきである旨主張する。
しかし、不使用による商標登録の取消しは、第三者の出願商標の登録に必ずしも直結するものではなく、また、不使用商標の取消審判は出所の混同防止を目的とした制度でないことは明らかである。
そして、被請求人のいう誤認混同も、出所混同のおそれのある出願商標が当然に登録されることを前提とするものであって妥当でないうえ、斯かる第三者の出願商標の登録の可否は、法の規定に基づき別途対処されるべきものである。
したがって、被請求人の主張は、使用と認められないとする前記判断を左右し得るものとはならない。
(4)してみれば、被請求人提出の証拠によっては、日本国内において本件期間内に本件商標が取消請求に係る指定役務に使用されたことを明らかにしたものではないといわざるを得ない。
他に、取消請求に係る指定役務についての本件商標の使用を認め得る証拠はなく、また、本件商標の不使用について正当理由があるとの主張及び立証はない。
(5)以上のとおりであるから、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、指定商品及び指定役務中「結論掲記の指定役務」についての登録の取り消しを免れないものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標




審理終結日 2009-03-24 
結審通知日 2009-03-26 
審決日 2009-04-08 
出願番号 商願2000-99309(T2000-99309) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Z39)
最終処分 成立  
前審関与審査官 末武 久佳 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 鈴木 修
井出 英一郎
登録日 2002-11-01 
登録番号 商標登録第4618043号(T4618043) 
商標の称呼 ユーロスター、スター 
代理人 石塚 勝久 
代理人 和久田 純一 
代理人 松倉 秀実 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 中村 仁 
代理人 遠山 勉 
代理人 五味 飛鳥 
代理人 川口 嘉之 

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