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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008890041 審決 商標
無効2007890022 審決 商標
無効2011890049 審決 商標
取消2008300287 審決 商標
無効2010890053 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1197263 
審判番号 無効2008-890042 
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-23 
確定日 2009-04-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第5092921号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5092921号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5092921号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成17年3月24日に登録出願、第25類「被服」を指定商品として、平成19年11月22日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第4291184号商標(以下「引用商標1」という。)は、「LE MANS」の文字を書してなり、昭和57年8月25日に登録出願された商願昭57-75252をもとの出願として分割出願されたものであり、第12類「輸送機械器具、その部品及び附属品(但し、自転車、自転車の部品及び附属品、航空機のタイヤ、チューブ、自動車のタイヤ、チューブを除く。)」を指定商品として、平成11年7月9日に設定登録されたものである。
同じく、仏国登録第1271720号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、1984年3月13日に登録出願され、第25類「衣類、履物、帽子」を指定商品とするものである。
なお、これらを併せて「引用商標」という場合がある。

第3 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第56号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標は、証拠により明らかなように、商標法第4条第1項第19号、同第7号及び同第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきものである。
(なお、本件商標権者は、「LE MANS」の欧文字よりなる登録第837128号及び同第971820号の商標権者であるが、本件商標の不登録事由等についての判断は、その出願時及び査定時における他人の著名商標の存在、需要者の認識、他人の商品との出所の混同の有無、商取引の実情等をも考慮して、個別具体的になされるべきであり、上記登録商標の存在に左右されるものではないと考える。)
(2)商標法第4条第1項第19号について
本件商標が上記条項に該当するためには、ア 請求人の「LE MANS」商標が(本件商標の出願前に)日本国内又は外国における需要者に広く認識されていること、イ 本件商標と引用商標とが同一又は類似すること、及び、ウ 本件商標権者が不正の目的をもって使用すること等の要件を充足する必要があると解される。
ア 請求人の「LE MANS」商標の著名性について
「LE MANS」は、「ルマン」と称され、1923年から80年以上にわたり、フランス、サルト県ルマンで開催される「24 hour du mans」(いわゆる「ルマン24時間自動車レース」)の略称として、本件商標の登録出願日のはるか以前から、フランスをはじめ欧米諸国、及びわが国の需要者間において広く認識されていたものである。
すなわち、「LE MANS」は、最も過酷で権威のある自動車耐久レースとして世界的に知られており、「モナコグランプリ(F1世界選手権)」、「インディ500」と並ぶ世界三大自動車レースの一つであり、スポーツカーの耐久世界一を決めるレース名でもある。
上記自動車レースは、第二次世界大戦前から開催され、特に戦後のモータリゼーション化の進展に伴い、自動車及び自動車レースへの関心や人気も飛躍的に高まるに至ったところ、「LE MANS24時間自動車レース」もその例外ではなく人気が高まり、このレースに参加して勝利することが、自動車メーカーのステータスや競争力アップにも繋がることから、各社こぞって参加してきたことが窺える。わが国の自動車メーカーについてみても、トヨタ、ニッサン、ホンダ及びマツダの四社(「株式会社」は省略する。以下同じ)が参加しており、特にマツダは1970年から参加している。
その一例をあげれば、マツダが「ロータリーエンジンの歴史(ルマン参戦)」(甲第4号証)と称して、今から約38年前の1970年から「ルマン」に参加しており、いかにこのレースへの関心度が高いかを示している。
また、翌1971年には、「LE MANS(ルマン)」が世界的に有名になった24時間耐久自動車レースであることを裏付けるように、「ルマン」を題材とした映画が米国で製作された。題名は「LE MANS」、邦訳は「栄光のル・マン」であり、当時、米国の人気俳優であった「スティーブ・マックイーン」が主役を演じて、わが国でも上映され、人気を博している(甲第5号証)。
なお、日本人レーサーとして初めて参加したのは、1973年6月の第41回大会の「生沢徹」であり、その記事は新聞でも大きく取り上げられている(甲第6号証)。
このように、LE MANS(ルマン)24時間自動車耐久レース及びその略称である「LE MANS」は、本件商標の出願日のはるか以前から、開催地のフランスはもとより、欧米諸国、及びわが国においても、広く需要者に認識されていた。
また、このレースの人気や関心の高さを示すものとして、「LE MANS」に関する以下の書籍やルマン24時間自動車レースを特集した雑誌が多数出版されている。
(ア)「ル・マン24時間レースの伝統・その記録」奥山俊昭ほか著(美智出版株式会社)昭和44年2月15日出版(甲第7号証)
(イ)「ル・マン偉大なる草レースの挑戦者たち」黒井尚志著(株式会社集英社 1992年2月25日発行)(甲第8号証)
(ウ)自動車雑誌「AUTOSPORT」ル・マン24時間プレビュー:ビッグマシンが帰ってきた(三栄書房 1981年6月1日発行)(甲第9号証)
(エ)自動車雑誌「AutoSport 8/1臨時増刊 The 24 hours 男たちのル・マン」(三栄書房 1987年8月1日発行)(甲第10号証)
(オ)自動車雑誌「LE VOLANT」(学習研究社 2002年9月1日発行)(甲第11号証)
(カ)自動車雑誌「AUTOMOBIL ENGINEERING」(株式会社鉄道日本社 2002年9月1日発行)(甲第12号証)
(キ)自動車雑誌「Racing on」((株)イデア 2002年9月1日発行)(甲第13号証)
(ク)新スタンダード仏和辞典(株式会社大修館書店 1987年5月1日発行)(甲第14号証)
「【Mans(le)】24heures du Mans ル・マンの24時間自動車耐久レース」
さらに、このレースの人気の高さを示すものとして、世界各地でテレビ(フイルム)放映がなされ(甲第15号証の1)、また、わが国においても、1996年の大会はテレビで衛生中継がされている(甲第15号証の2)ほか、新聞にも記事掲載されている(甲第15号証の3)。
以上のように、「LE MANS」(ルマン)といえば、フランスで開催される24時間耐久自動車レースの略称であることは、フランスをはじめとする欧米諸国において、また、わが国においても、需要者の間に広く認識されていたことは明らかである。
また、同レースに関連して商品化事業が主催者のもとで行われてきたところであり、わが国においても、株式会社エトワール海渡、グンゼ株式会社、株式会社新光などに「LE MANS」商標の使用を許諾してきた(甲第16号証)。
したがって、上記のことからも「LE MANS」商標が、本件商標の出願日のはるか以前から請求人の業務に係る商標として広く認識されていたとみても、何ら差し支えない。
なお、請求人の「LE MANS」商標については、2件の異議決定において、その著名性が認められ、他人の出願商標「ルマン/LE MANN」及び「LeMans by Goodman」は、請求人の業務に係る商品と出所の混同を生じるから商標法第4条第1項第15号に該当するとして、何れも拒絶されている(甲第25号証及び同第26号証)。
イ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標は、双頭の鷲らしき猛禽類が翼を広げ、その中央胴部に「L」と「M」の欧文字を配した盾型図形を描き、さらに最下部のリボン状の図形内に「LE MANS」の文字を書してなるものである。
そして、かかる図形全体が何か特定の事物を表し、特定の称呼を生じるものとも言えないから、かかる場合、最も読みやすい文字部分をもって商取引に当たるものというべきであり、そうすると、それ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を有する最下部の「LE MANS」の文字より「ルマン」の称呼をも生じるものというべきである。
他方、引用商標は、「LE MANS」の文字よりなるから、「ルマン」の称呼を生じることは明らかである。
また、両商標は、共に「ルマン24時間耐久自動車レース」の観念を同一にするものである。
したがって、両商標は、その外観において相違するものの、「ルマン」の称呼、及び「ルマン24時間耐久自動車レース」の観念を同一にする類似の商標といわなければならない。
不正の目的について
本件商標の登録は、「LE MANS」商標を正当に使用し、商標登録を受ける権利を有する請求人の事業活動を妨げる目的や、他人に高額で買い取らせる意図が窺われるなど不正の目的をもって使用するものである。
(ア)本件商標権者の登録商標「LE MANS」について
24時間耐久自動車レースの略称として有名な「LE MANS」は、本来、請求人以外の他人が無断で使用したり、又は商標登録を受けることはできないはずである。
ところが、昭和40年代に、株式会社ヴァンジャケット(以下「ヴァン社」という。)は、他の出願がなかったことを奇貨として、商標「LE MANS」を第24類「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器」等について、また、同一商標を第17類「被服、布製身回品、寝具類」について出願し、前者は登録第837128号として(甲第17号証)、また、後者は登録第971820号として(甲第18号証)商標登録を得た。
そして、その後、平成11年8月11日に両商標権とも本件商標権者に譲渡されたものである。
請求人は、ヴァン社が、昭和40年代に他の出願がなかったことを奇貨として、「LE MANS」の商標登録を得たこと自体に問題があると考えている。
一方、本件商標権者は、「LE MANS」が「ルマン24時間耐久自動車レース」の著名な略称として広く認識され、また、請求人が同レースに関連した商品化事業において、その商品等に使用する著名な商標であることを知りつつも、これを請求人に無断で(剽窃的に)登録出願したものである。
また、本件商標権者は、前記「LE MANS」の商標登録を保持しつつ、さらに、これに変更を加えた本件商標ほか1件を出願して登録を受けたものであり、そこには、本来、登録を受けられないはずの「LE MANS」商標の権利範囲をさらに拡大する意図も窺われる。
したがって、本件商標の登録は、「LE MANS」商標を正当に使用し、商標登録を受ける権利を有する請求人の事業活動に支障を来たし、かつ、事業活動を妨げる目的をもって使用するものといわざるを得ない。
(イ)請求人の不使用取消審判請求と譲渡交渉について
請求人は、前述の商標登録第837128号及び同登録第971820号について、その存在に対し、これまで重大な危倶を抱きつつ、最も迅速、かつ、確実に登録を取消す方法として、過去、数回にわたり不使用取消審判を請求してきた(甲第19号証ほか)。その結果、一部の商品については取消すことに成功したものの、他の商品についての取消請求は不成立に終わった。
そこで、問題を円満に解決するために平成15年4月に本件商標権者と譲渡交渉を行ったところ、請求人が1商標、百万円という高額を提示したにも拘らず、暗に金額が低すぎることを理由として拒否された経緯がある。
上記譲渡の対象は、本件商標そのものではないが、「LE MANS」の文字を共通にし、実質的に本件商標と同等とみても差し支えなく、仮に本件商標の登録が無効とされないとするならば、請求人はさらに高額な金額をもって譲り受けるなどの必要に迫られることとなる。
このような経緯からしても、正当な権利者に高額で買い取らせる意図が窺われ、不正の目的があることに疑いの余地はない。
エ 以上のとおり、本件商標の登録は、正当に使用し、商標登録を受ける権利を有する請求人の事業活動を妨げ、他人に損害を加える目的や他人に高額で買い取らせる意図も窺われるなど、不正の目的をもって使用するものといわざるを得ないのである。
なお、本件商標を構成する図形は、いわゆる欧紋章の一つとみられ、わが国の紋章(邦紋章)とは、明らかに異なるものである。
本件商標を採択した意図は定かではないが、いずれにしても最下部に書された「LE MANS」の文字を主要部とし、いかにもヨーロッパ風の紋章中に該文字が書され、看者をしてあたかもヨーロッパとの関連性を連想させるような構成となっている。
加えて、前述のとおり、「LE MANS」の文字は、フランスの「ルマン24時間耐久自動車レース」を表すものとして広く認識された語であるから、本件商標に接する取引者、需要者は、その構成図形と「LE MANS」の文字との結合から、より一層、(欧州の企業である)請求人若しくは請求人の関連企業の業務に係る商品であると誤信させる可能性が高いものといわざるを得ない。
したがって、この点からも他人の業務と誤認混同を生じさせるおそれが強く、不正の意図を窺い知ることができるものである。
オ 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するものと確信するが、このことは、審決・判決例(甲第20号証、甲第21号証)からみても容易に首肯し得るものである。
カ 小括
以上のとおり、本件商標は、他人(請求人)の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、フランスをはじめ欧米諸国はもとより、わが国においても本件商標の登録出願前より広く需要者に認識されている商標「LE MANS」と類似するものであって、正当な権利者である請求人の事業活動を阻害するなど他人に損害を加える目的、及び高額で買い取らせる意図をも窺われ、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当するものといわざるを得ず、よって、その登録は無効とされるべきである。
(3)商標法第4条第1項第7号について
ア 本件商標は、双頭の鷲らしき猛禽類が翼を広げ、その中央胴部に「L」と「M」の欧文字を配した盾型図形を描き、さらに最下部のリボン状の図形内に「LE MANS」の文字を書してなる。
そして、前述のとおり、かかる図形全体で何か特定の事物を表し、特定の称呼を生じるものともいえないから、かかる場合、最も読みやすい文字部分をもって商取引に当たるものというべきであり、そうすると、それ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を有する最下部の「LE MANS」の文字より「ルマン」の称呼をも生じるものである。
上記「LE MANS」は、前述のとおり24時間耐久自動車レースの略称として広く知られ、欧米諸国はもとより、わが国からも長年にわたり、毎年、自動車メーカー等が参加している伝統あるレースである。
そうすると、このような世界的レースの略称について何ら関係を有しない他人が権利を取得・独占することは、正当な権利者である請求人の「LE MANS」商標の使用にも支障を来たし、かつ、請求人が築き上げた「LE MANS」のもつ名声をフリーライドすることにもなり、このような行為は、一般道徳観念及び国際信義に反し、また社会公共の利益にも反して許されない。
このことは、「ルマン/LE MANN」商標について、「このような商標を他人が登録することは公序良俗に反し、国際信義からも許されない」とする異議決定からも明らかである(甲第26号証)。
さらに、本件商標が一般道徳観念及び国際信義に反し、また社会公共の利益にも反して登録を許されないことは、審決例(甲第22号証ないし同第24号証)からも裏付けられるものである。
イ まとめ
以上のとおり、その構成中に「LE MANS」の文字を含む本件商標は、「24時間耐久自動車レース」の著名な略称を正当な権利者に無断で出願したものであり、かつ、前記の審決からしても、商標法第4条第1項第7号に該当するものといえるから、その登録は無効とされるべきである。
(4)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号でいう「混同を生ずるおそれ」について、判決では以下のように判示している。
「『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品・役務と他人の業務に係る商品・役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、並びに商品・役務の取引者、需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商品の取引者、需要者において普通に払われる注意を基準として、総合的に判断されるべきものである。」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決)
また、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは、その他人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある場合をもいう。
すなわち、広義の混同を生ずるような場合も本号に該当するとしている。
上記判決からすると、本件商標と引用商標は、共に「ルマン」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、引用商標は本件商標の出願日のはるか以前から、外国はもとより、わが国においても広く需要者に認識されていたのである。
また、本件商標は、ヨーロッパで一般的に採択されている欧紋章の図形内に「LE MANS」の文字を配してなるから、これに接する需要者、取引者は、上記欧紋章の図形と「LE MANS」の文字とが相俟って、該商品が、欧州の企業である申立人又は申立人と経済的に関係のある者の業務に係る商品であると連想させるものであるというべきである。
したがって、本件商標をその指定商品に使用するときは、請求人の業務に係る商品であるか、または請求人と組織的、経済的に関係を有する者の業務に係る商品であると誤認を生ずるおそれがあることは明らかである。
このことは、本件商標とはその指定商品を異にするが、異議決定(甲第25号証及び同第26号証)においても、請求人の「LE MANS」商標が周知著名であることを認めた上で、商品の出所について混同を生じると認定していることからも、裏付けられるものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号にも該当するものといわざるを得ない。
(5)結語
以上のとおり、本件商標は、他人(請求人)の業務に係る商品又は役務を表示するものとして、その出願日前からフランスをはじめとする欧米諸国のみならず、わが国においても広く需要者に認識されている商標「LE MANS」と類似するものであって、かつ、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
また、世界的レースの名称(略称)である本件商標について何ら関係を有しない他人が権利を取得・独占することは、正当な権利者である請求人の使用にも支障を生ぜしめ、かつ、請求人が築き上げた「LE MANS」のもつ名声をフリーライドすることにもなり、このような行為は、一般道徳観念及び国際信義に反し、また社会公共の利益にも反して許されないから、同法第4条第1項第7号にも該当する。
さらに、本件商標は請求人の引用商標「LE MANS」と類似し、請求人の「LE MANS」商標は、わが国において広く認識されているものであるから、これを他人が使用するときは商品の出所について混同を生じるおそれがあり、同法第4条第1項第15号にも該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用商標の著名性
被請求人は、1993年以降、日本企業がルマン24時間自動車レースに参加していないこと等を挙げているが、日本企業がレースに参加しなかったのは、1990年代のバブル崩壊など国内景気等の影響によるもので、そのために請求人の「LE MANS」商標の著名性が失われるなどということはあり得ないし、現実的でない。
なお、乙第1号証は、インターネット上のフリー百科事典「ウィキペデア」であり、だれでも自由に書き込めるものであるから、証拠力に欠けるものである(情報の信頼性や公正さなどのいかなる保証もないとされている。)。
また、乙第2号証にしても、確かに大企業の参加は減少したかもしれないが、個人の参加がこれに代わっているのであるから(甲第27号証ないし同第46号証)、著名性が失われたなどとは断定できない。
「LE MANS」は、「モナコグランプリ(F1世界選手権)」、「インディ500」と並ぶ世界三大自動車レースの一つで、スポーツカーの耐久世界一を決めるレース名でもあり、日本企業が参加しなくても日本人レーサーは多数参加しており、またこの間、レースは盛大に継続され、レースの情報はわが国だけでなく、世界中に発信されていたのである(甲第50号証)。
また、被請求人は、「ルマン24時間自動車レース」の日本でのテレビ放映や請求人が引用商標を使用していたのは、はるか以前であるとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時の引用商標の著名性を否定している。
しかし、テレビ放映をするか否かは、放映権(料)の問題、放映時間の問題(日本との時差)など様々な要因を総合考慮のうえ判断がなされるものであるから、一概に世人の関心が無くなったから放映されなかったなどということはできないし、また、テレビ放映は著名性を高める一手段に過ぎず、テレビ放映がされなかったからといって、直ちに著名性が失われるものでもない。
1923年から(戦時中の一時期を除き)約80年間毎年開催され、わが国においても広く認識されるに至った「LE MANS」商標が著名性を失うなど考えられないが、本件商標の出願時及び査定時において、引用商標が需要者に広く認識されていなかったとする主張に反論するため、新たに2002年から2007年までに発行された以下の雑誌等を証拠として提出する。
(ア)自動車雑誌「ROSSO」(株)ネコ・パブリッシング 2002年9月1日発行(甲第27号証)
「ル・マン24 ASJTGチャレンジレポート」として、2002年6月15日?16日に行われたル・マン24の報告が3ページにわたり掲載されている。なお、アウディースポーツの「チーム・ゴウ」(代表 郷和道)が日本チームとして参加している。
(イ)自動車雑誌「Car MAGAZINE」(株)ネコ・パブリッシング 2002年9月1日発行(甲第28号証)
2002年6月15日?16日に行われたル・マン24について、5ページにわたり写真入で紹介されている。特にカメラマンからみたル・マンの様子が詳細に掲載されている。
(ウ)自動車雑誌「Racing on」(株)ニューズ出版 2002年11月1日発行(甲第29号証)
「レースの安全性」と題し、伝統のル・マンのメディカルセンターに見るサーキットでのベスト救命・救急体制について、掲載されている。
(エ)「週刊オートスポーツ」(株)イディア 2005年7月14日発行(甲第30号証)
「ル・マン歴史的勝利を演出した“裏”の主役たちアウディ連覇を支えた優勝経験者」のタイトルのもとで、2ページにわたり掲載されている。
(オ)自動車雑誌「Driver」(株)八重洲出版 2005年8月5日発行(甲第31号証)
「緊急速報!ル・マン24時間」第73回のル・マン24時間レースが紹介され、アウディR8、ファイナルチャレンジ、「トム・クリムセン6年連続、7度目の勝利」が掲載されている。
また、「果敢に挑戦した日本勢」「トラブルやアクシデントで苦戦」として、初挑戦の「中野信治」途中リタイアしたこと、道上龍、荒聖治、金石勝智、童夢、無限が必勝体制で乗り込んだこと、等がレポートされている。
(カ)自動車雑誌「CAR GRAPHIC」二弦社書店 2005年9月発行(甲第32号証)
「胎動する近未来 新時代を迎えるルマン24時間」として、第73回のル・マン24時間レース(6月11日?12日)が紹介されている。
(キ)自動車雑誌「LE VOLANT」学習研究社 2005年9月発行(甲第33号証)
2005年6月18日?19日にかけて行われたル・マン24時間レースが紹介され、「いま、伝統のル・マンはGTカーがおもしろい!」「アストンマーチンとDBR9とコルベットC6-Rの新型車が登場した2005年のル・マン24時間は、・・・・メイクスの世界一決定戦、それがル・マンだ」などと記載されている。
(ク)「週刊オートスポーツ」(株)イディア 2005年9月発行(甲第34号証)
「ニッポン発の挑戦者たち、かく戦えり」「ポールポジションを逃して敗北宣言 金曜から徹夜の50時間耐久レース」のタイトルで、「ル・マン24時間総集編」が掲載されている。
(ケ)自動車雑誌「911DAYS」(株)デイズ 2005年10月1日発行(甲第35号証)
「2005年ル・マン24時間レース」「ポルシェの独壇場」として紹介されている。記事によれば「ついにポルシェがスポーツカーレースのトップカテゴリーへ復活!」「期待のLMP2カー」などと記載されている。
(コ)雑誌「自動車工学」(株)鉄道日本社 2005年10月発行(甲第36号証)
「不運!バーストで大ダメージ」「第73回ル・マン24時間レースから」として、主に自動車工学の観点から写真入りで紹介されている。
(サ)「週刊オートスポーツ」(株)イデア 2006年6月22日発行(甲第37号証)
第74回ル・マン24時間レースの超直前プレビューとして、テストデイの結果が掲載され、日本人レーサーの名前も8名挙がっている。
(シ)「週刊オートスポーツ」(株)イデア 2006年6月29日発行(甲第38号証)
「ル・マン24h 史上初ディーゼル制覇」のタイトルで特集が組まれ、アウディが1-3位でフィニッシュと報じられているほか、日本人では27回出場のベテラン、寺田陽次郎がLMP2クラスで2位となり、表彰台にあがったことが掲載されている。
(ス)「週刊オートスポーツ」(株)イデア 2006年7月6日発行(甲第39号証)
ル・マン総集編として、アウディが歴史的勝利を飾ったこと、などが掲載されている。
(セ)「週刊オートスポーツ」(株)イデア 2007年6月14日発行(甲第40号証)
ル・マン24時間テストデー速報と称して、プジョー対アウディのル・マン初対決。予行演習はブジョーに軍配が上がると掲載されている。
(ソ)「週刊オートスポーツ」(株)イデア 2007年6月21日発行(甲第41号証)
ル・マン24時間直前特集の記事が組まれ、ディーゼル初挑戦のプジョーと先駆者アウディの対決が予想されている。なお、日本からは7名が挑戦するとされている。
(タ)「週刊オートスポーツ」(株)イデア 2007年6月28日発行(甲第42号証)
ル・マン24時間 初ディーゼル対決は波乱の連続!と題して、アウディが苦戦しながらレースを制したことが掲載されている。
(チ)雑誌「Racing on」(株)ニューズ出版 2006年7月1日発行(甲第43号証)
「歴代ル・マン 名勝負セレクション」として特集され、歴代のレースがポスターで表現されている。ル・マンがいかに伝統あるレースであるかを表している。
また、ル・マンに魅せられた男として郷和道がル・マンを語っている。
(ツ)雑誌「Racing on」(株)ニューズ出版 2006年8月1日発行(甲第44号証)
第74回ル・マン24時間レースの速報として、ディーゼルエンジンが初のル・マンを制覇したことが掲載されている。
(テ)雑誌「Racing on」(株)ニューズ出版 2007年6月1日発行(甲第45号証)
特集「世界の扉を開けた日本車」としてマツダが紹介され、「ル・マンで結実したマツダの苦闘」が詳細に掲載されている。「[始まった長き戦い]1959-1974年」、「[念願の初完走]1975-1982年」、「[C2クラスにマツダあり]1983-1985年」、「[GTPクラス3連覇達成]1986-1989年」、「[表彰台の頂点へ]1990-1992年」の5部構成となっている。
(ト)雑誌「Racing on」(株)ニューズ出版 2007年9月1日発行(甲第46号証)
2010年問題として、「ACOの採る姿勢は明確。『ドイツがいて、フランスも来た、次に欲しいのは、そう日本だ』」とトヨタやニッサンの復帰に期待が寄せられている。
以上、2002年から2007年までの「ル・マン24時間レース」に関する掲載雑誌の一部を挙げたが、これらからもわかるように、わが国においては、本件商標の出願日前はもとより、登録査定時に至るまで、引用商標が需要者間に広く認識されていたことは明らかである。
ところで、請求人は請求書において、「LE MANS」はル・マン24時間自動車レースの略称として、また請求人の商標として、本件商標の登録出願日前から登録査定時まで、フランスはもとよりわが国においても需要者に広く認識されていた旨主張した。
ところが、被請求人はレースの開催地であるフランスにおける引用商標の著名性については全く反論していないから、この点については認めたものと理解しているが、念のため、フランスにおいて「LE MANS」商標が周知著名であることを立証するために、以下の証拠を提出する。
(ナ)外国周知商標集(フランス編)(甲第47号証)
これは、フランス工業所有権庁が発行した「フランス周知商標集」(LISTE DES MARQUES FRANCAISES MOTOIRES)(註:「FRANCAISES」の文字中の「C」の文字の下には、フランス語の綴り字記号のセディーユと認められる記号が付されている。)であり、わが国特許庁が外国の著名商標を保護するために送付を依頼し、その結果取得したものである。
(ニ)商標審査便覧「需要者の間に広く認識されている商標」の取扱い(甲第48号証)
商標審査便覧によれば、その「42.119.01」に前記周知商標集は、「外国周知商標集 フランス編」として挙げられ、その取扱いは、「掲載されている商標については、原則として当該国における需要者の間に広く認識されている商標として取り扱うものとする。」とされている。
(ヌ)「LE MANS a century of passion」(2002年?2005年の抜粋)(甲第49号証)
これは、フランスにおける「LE MANS」の人気がいかに高いかを表す資料である。2002年から2005年にかけて行われたレースのトピックス等が掲載されている。
(ネ)海外における「LE MANS」レースの放映状況(甲第50号証)
これは、世界各国でテレビ放映された事実を立証するものであり、いかに世界各国で「LE MANS」レースが放映されているかを示す資料である。
以上のとおり、引用商標は、わが国においても、そして、開催国であるフランスにおいても本件商標の出願日前、及び登録査定時まで、需要者に広く認識されていたことは明らかである。
イ 本件商標と引用商標の類否について
被請求人は、本件商標から、「LE MANS24時間自動車レース」の観念が生じることはないから、両商標が非類似であるかのごとく主張している。
しかし、本件商標と引用商標とは、共に「ルマン」の称呼を共通にし、かつ、「LE MANS」は「24時間自動車レース」として著名であるから、観念も同一であり、外観に多少の差異はあるとしても、その称呼及び観念を同一にする類似の商標であることは明白である。
不正の目的について
「実際に使用することを目的として出願する」ことが、直ちに不正の目的がないことの証明にはならない。
なぜなら、本来的に商標登録出願は、自己の業務について使用することを目的としてなされるものであるから(商標法第3条柱書)、実際の使用を目的として出願することは当然のことである。
他方、被請求人は、請求人の主催するル・マン24時間自動車レースを表す著名商標「LE MANS」を当然知りながら、その著名性あるいはその名声に只乗り(フリーライド)する目的で出願したものといえるから、その時点で不正の目的を有していたものと言わなければならない。
本件商標「LE MANS」の文字は、被請求人が創造した語でないことは明らかであり、請求人が1923年以来、約80年にわたってフランスで開催してきた「LE MANS24時間自動車レース」の著名商標「LE MANS」とほぼ同一であり、このことを知りながら、これを請求人に無断で(剽窃的に)出願したものであることに疑いの余地はない。
そして、かかる場合、不正の目的を有するものと認定し得ることは、例えば、平成7年審判第25958号「MARIEFRANCE」事件(甲第20号証)の審決からも、これを是認し得るものである。
また、19号でいう「不正の目的」について、知的財産高等裁判所の判決における判示(甲第51号証ないし同第53号証)がある。
(2)商標法第4条第1項第7号について
被請求人は、「請求人は、審決例を挙げて上記条項に該当すると述べるが、対比される商標、証拠、判断の時期が異なり本件と同列に論じられない。」旨主張するだけで、何ら具体的な反論をしていない。
繰り返して述べるが、24時間自動車レースの略称として広く知られる「LE MANS」は、欧米諸国はもとより、わが国からも長年にわたり、毎年、自動車メーカー等が参加している伝統あるレースである。
このような世界的レースの名称(略称)について何ら関係を有しない他人が権利を取得・独占することは、正当な権利者である請求人の「LE MANS」商標の使用にも支障を来たし、かつ、請求人が築き上げた「LE MANS」のもつ名声をフリーライドすることにもなり、このような行為は、一般道徳観念及び国際信義に反し、また社会公共の利益にも反して許されない。
そして、「ルマン/LE MANN」商標について、特許庁は、「このような商標を他人が登録することは公序良俗に反し、国際信義からも許されない」とする異議決定をしている(甲第26号証)。また、この間に何らかの事情の変化が生じたとも考えられない。そこで、請求時に提出した3件の審決例に加え、判決例(甲第54号証)を補強する。
以上のとおり、請求人の主張、及び前記の異議決定、審決例、判決例に照らせば、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当すること明らかである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
被請求人は、「上記条項の該当性の判断時期は、出願時及び査定時であるが、同時期にわが国において広く認識されていなかったから、出所の混同はない。また、実際に『LE MANS』商標を使用しても出所の混同を生じなかった。」旨主張する。
引用商標が本件商標の出願時及び査定時にわが国において広く認識されていたことは前述したとおりであり、甲第27号証ないし同第46号証等によっても明らかである。
また、「実際に混同を生じなかった」旨述べるが、現実に混同を生じることは第4条第1項第15号の必須条件ではなく、少なくとも、請求人が主催するル・マン24時間自動車レースの著名な略称である「LE MANS」や、その主催者と経済的、資本的に何らかの関係を有するものと混同を生じるおそれがあれば足りる。
また、異議決定においても、他人の出願した「LE MANS」商標及び「LE MANS」を含む商標について、何れも請求人の業務に係る商品と商品の出所について混同を生じるおそれがあるとして、第4条第1項第15号に該当するとしている。そして、その後においても、請求人の「LE MANS」商標の著名性については何ら変わりない。
なお、被請求人は、株式会社ルマンが商標「チームルマン/Team LeMnas」を第25類「洋服、コート」等を指定して登録を受けていること等を挙げ、引用商標が広く認識されていない旨主張する。
しかし、上記商標登録に対して、現在、無効審判請求を準備中である。また、本件商標とはその構成態様等を異にするから同一に論ずることはできない。
ところで、今なお、「ル・マン24時間自動車レース」及びその著名な略称である「LE MANS」、「ル・マン」が、人々の注目を集め、かつ、特に自動車関係者の間で根強い人気があることは、たとえば、2008年6月24日の「テレビ東京」午後10時から「ガイアの夜明け」(世界最難関レース・・夢かけて留年学生が挑む)で放映されていることからも窺われるところである(甲第55号証)。また、これに関連して、本年7月3日の朝日新聞(夕刊)においても、「ル・マン再挑戦へ自信」のタイトルのもと、東海大学が初出場したことが報じられている(甲第56号証)。
これらに取り上げられることからしても、「ルマン24時間自動車レース」及びその略称である「LE MANS」は、なお人気を博し、著名性を維持している。

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第14号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求に対する第1答弁
(1)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用商標の周知性について
本件商標が本号の規定に該当するかどうかの判断時期は、出願時及び査定時である。つまり、本件商標の出願時である2005年3月24日及び査定時である2007年10月に、日本又は外国で「LE MANS24時間自動車レース」の略称として引用商標「LE MANS」が周知であったかどうかで判断される。しかし、「LE MANS24時間自動車レース」及びその略称である引用商標は、本件商標の出願時及び査定時において日本で広く認識されていなかった。
乙第1号証によると、トヨタ及びニッサンは2000年以降「LE MANS24時間自動車レース」に参戦していない。ホンダは、1997年以降参戦していない。更に、マツダは1993年以降参戦していない。特に、「80年代から90年代にかけて、多数の大自動車メーカーが参戦しながら、その後に相次いで撤退したため、参加台数が激減。ルマンは最大の危機にさらされた」(乙第2号証)。
また、「LE MANS24時間自動車レース」に関連する映画は、1971年に公開されたものであり、また、書籍及び雑誌は1980年代や1990年代に発行されたものが多く、いずれも、本件商標の出願時よりはるか以前のものである。書籍や雑誌の中で最新のものは、2002年に発行されたものであるが、これらも本件商標の出願時より3年前のものである。
また、請求人は、世界各地でテレビ(フィルム)放映がなされたと述べているが、これらの資料は見たところ1983年及び1986年のものであり、本件商標の出願日よりはるか以前のことである。
また、請求人は、1996年の大会はわが国でもテレビ中継されたと述べている。しかし、これは本件商標の出願時よりはるか以前のことである。乙第3号証は本件商標の出願時及び査定時を含む2004年?2008年の「LE MANS24時間自動車レース」の各決勝レース開催日付近の日の毎日新聞のテレビ欄である。なお、2004年の決勝レース開催日は6月12、13日、2005年は6月18、19日、2006年は6月17、18日、2007年は6月16、17日、2008年6月14、15日である。これらを見ると「LE MANS24時間自動車レース」の中継や関連する番組が一切放映されていないことが分かる。これは日本のテレビ局が、視聴者は「LE MANS24時間自動車レース」に関心はなく、中継や関連する番組を放映しても、観る者がいないと判断したためである。
また、請求人は、同レースに関連して商品化事業が主催者のもとでおこなわれてきたところであり、わが国においても、株式会社エトワール海渡などに「LE MANS」商標の使用を許諾してきたと述べている。
しかし、これら甲第16号証に示された証拠は1992年のものであり、本件商標の出願日よりはるか以前のことである。
そこで、上述してきたことを考え合わせると、本件商標の出願時より前に日本の自動車メーカーは「LE MANS24時間自動車レース」から撤退し、本件商標出願時及び査定時には出場していなかった。また、本件商標の出願時及び査定時に「LE MANS24時間自動車レース」に関連する書籍や雑誌は発行されておらず、テレビ放映もされていなかった。また、関連グッズの販売もされていなかった。
そのため本件商標の出願時及び査定時において引用商標は日本国内において広く認識されていなかった。
イ 本件商標と引用商標との類否について
上述したように「LE MANS24時間自動車レース」は本件商標の出願時及び査定時において広く認識されていないわけであるから、本件商標の「LE MANS」の語から「LE MANS24時間自動車レース」の観念が生じることはない。
不正の目的について
請求人は、引用商標が「LE MANS24時間自動車レース」の著名な略称であることを知りながら、請求人に無断で(剽窃的に)本件商標を登録出願したと述べている。
しかし、被請求人には、そのような意図は全くない。本件商標は、被服のブランドとして使用するために出願し、登録を受けたものである。
「LE MANS」のブランドコンセプトは、「快適(=COMFORTABLE)、利便性(=CONVENIENT)、洗練(=CHIC)の3Cをテーマにした新しいカジュアルウェアを提案する。」である(乙第4号証)。
被請求人は、本件商標の登録が認められる前にヴァルインターナショナル有限会社(以下「ヴァル社」という。)と契約を締結し、本件商標を独占的に使用できる権利をヴァル社に許諾した(乙第5号証)。また、ヴァル社は、被請求人の承諾のもと、有限会社アイステージ(以下「アイス社」という。)と契約を締結し、本件商標を使用できる権利をアイス社に許諾した(乙第6号証)。更にアイス社は、被請求人の承諾のもと、スリーティ株式会社(以下「スリー社」という。)と契約を締結し、本件商標を使用できる権利をスリー社に許諾した(乙第7号証)。
スリー社は、ジャケット及びスラックスのデザインを考案し、2005年11月25日にヴァル社を通じて被請求人に本件商標を付す箇所を含めたデザインの承認を求めた(乙第8号証の1)。また、スリー社はヴァル社を通じて被請求人に対し、本件商標を付した商品の製造販売計画書を提出した(乙第8号証の2)。また、スリー社は、ヴァル社及びアイス社を通じて本件商標を付した商品の現物及び納品書を被請求人に送付した(乙第9号証)。
被請求人、ヴァル社、アイス社の承認を得た上で、スリー社は本件商標を付した商品の販売を開始し、現在も販売を継続している(乙第10号証)。乙第10号証は、スリー社の本件商標を付した商品の売り上げを示す売上報告書である。これを見ると、例えば2006年8月1日?2007年7月の売り上げは10,410,000円であり、2007年8月1日?2008年5月までの売り上げは、15,770,000円であることが分かる。
したがって、上述したことを考え合わせると、被請求人は不当な目的をもって本件商標を出願し、登録を受けたわけではなく、実際に本件商標を使用するために出願し、登録を受けたことが分かる。
エ 請求人の不使用取消審判請求と譲渡交渉について
請求人は、被請求人所有の商標「LE MANS」(登録第837128号)及び商標「LE MANS」(登録第971820号)に対する不使用取消審判の請求が一部しか認められなかった旨、譲渡交渉が失敗した旨を述べている。
しかし、前権利者のヴァン社及び被請求人はいずれも、本件商標及び登録第837128号商標等を実際に使用するために出願し登録を受けているのである。第三者に高額で買い取らせるために出願し登録を受けているのではない。これらの商標は実際に使用されており、登録第837128号商標等については、その使用が認められたからこそ、甲第19号証に示すように取消審判を複数回請求されても一部の商品にしか取消が認められなかったのである。
また、被請求人は、実際に使用して、当該商標を付した商品を販売しているのであるから、これらを他者に譲渡するわけにはいかない。
オ 甲第20号証及び同第21号証の審決例について
これらの審決例及び判決例は、対比されている商標や事件で提出された証拠、判断の時期等が異なり、本件と同列には論じられない。
(2)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、複数の審決例をあげて本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると述べている。
しかし、これらの審決例は、対比されている商標や事件で提出された証拠、判断の時期等が異なり、本件と同列には論じられない。
また、これらの審決例では、日本国内における輸入代理店契約を有利に進めるため(甲第22号証)、取引を有利な条件で継続し、あるいは商標を有利な条件で買い取らせるため(甲第23号証)、商標を高額で買い取らせるため、または営業を妨害するため(甲第24号証)等の不正の目的をもって商標出願したことが認定されている。
しかし、被請求人から、請求人と何らかの有利な契約を結ぶため、あるいは何らかの交渉するために請求人と接触したことはない。したがって、本件をこれらの審決例と同列には論じられない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
本件商標が本号の規定に該当するかどうかの判断時期は、出願時及び査定時である。しかし、上述したように「LE MANS24時間自動車レース」及びその略称である引用商標は、本件商標の出願時及び査定時において日本で広く認識されていなかった。したがって、請求人の商品と出所の混同を生じるおそれはない。
また、それを証拠に商標「LE MANS」(登録第837128号)及び商標「LE MANS」(登録第971820号)を1967年1月25日にヴァン社が出願し、以後、継続して洋服等の商品に商標「LE MANS」をヴァン社及び被請求人が使用してきたが、請求人の商品と出所の混同が生じたことはない。
また、株式会社ルマンは、商標「チームルマン/Team Le Mans」を第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類」等を指定して、2004年5月12日に出願し、2005年4月8日に登録を受けている(乙第11号証)。この登録に対し、請求人は、登録異議申立を行ったが、登録を維持する旨の維持決定がなされている。この商標「チームルマン/Team Le Mans」(登録第4855986号)は、後半部の「ルマン/Le Man」の部分の称呼が請求人の引用商標と同一の関係にある。また、宮田工業株式会社は、商標「ルマン」を第12類「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品(「タイヤ,チューブ」を除く。)」を指定して、1971年8月28日に出願し、1975年8月25日に登録を受けている(乙第12号証)。この宮田工業株式会社の商標「ルマン」(登録第1147852号)は、称呼が請求人の引用商標と同一の関係にある。
このように、請求人の引用商標と類似の商標について請求人以外の複数の第三者に登録が認められ、現在も有効に存続しているということは、商標「LE MANS」(登録第837128号)、商標「LE MANS」(登録第971820号)、商標「チームルマン/Team Le Mans」(登録第4855986号)、商標「ルマン」(登録第1147852号)の各商標の出願時及び査定時に、「LE MANS24時間自動車レース」及びその略称としての請求人の引用商標は広く認識されておらず、請求人の商品と出所の混同を生じるおそれはないと、判断されたためである。
また、請求人は、複数の異議申立の決定例をあげて本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当すると述べている。しかし、これらの決定例は、対比されている商標や提出された証拠、判断の時期等が異なり、本件と同列には論じられない。
(4)結語
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号、第7号、第15号に該当せず、商標法第46条第1項第1号基づく無効理由を有していない。
2 弁駁に対する第2答弁
(1)商標法第4条第1項第19号について
ア わが国における引用商標の周知性について
請求人は、1993年以降、日本企業がルマン24時間自動車レースに参加していないこと等を挙げているが、…」、「確かに大企業の参加は減少したかもしれないが、個人の参加がこれに代わっているのであるから、著名性が失われたなどとは断定できない。」、また「大企業は撤退したかもしれないが、今は個人参加や、或いは大学まで参加しているのである。」と述べている。
しかし、「個人参加」といっても一般の人々に「ルマン24時間自動車レース」がよく知られており、その結果一般の人々が参加しているわけではなく、プロのカーレーサーが数人参加しているのであって、プロのカーレーサーであればレースを求めて世界を転戦するのが常であり、プロのカーレーサーが「LE MANS24時間自動車レース」に参加することは、同レースの周知性を左右するものではない。
また、「大学まで参加している」といっても、このことが報道されたのは、大学として初出場したため、ニュースになる程珍しかったからである。数多くの大学がある中でそのうちの1校が出場したからといって、同レースの周知性を左右するものではない。
被請求人が述べたいのは、日本のトヨタやホンダ等の大企業が「LE MANS24時間自動車レース」から1999年を最後に撤退し、その時以降、日本人では数人のカーレーサーしか、レースに参加していないこと。また、乙第3号証に示すとおり、「LE MANS24時間自動車レース」の中継や関連する番組が本件商標の出願時及び査定時において日本で一切放映されず、また日本国内において同レースの関連グッズの販売もなされていなかったということである。
商標の周知性は、商標の継続的な使用及び商標の継続的な広告・宣伝等によって維持されるものである。これらの状況から考えると、「LE MANS24時間自動車レース」及びその略称である引用商標「LE MANS」の周知性が、仮に過去にあったとしても、本件商標の出願時である2005年3月24日以前に消滅している。
なお、請求人は、弁駁書において2002年ないし2007年までに発行され、「LE MANS24時間自動車レース」に関する記事が掲載された自動車雑誌である甲第27号証ないし第46号証を挙げている。しかし、乙第13号証に示すように「普段購入している雑誌の種類についての調査結果」では、購読者全体の9.3%しか、車・バイクに関連する雑誌(この中には、自動車雑誌も含まれる。)を読んでいない。自動車雑誌の購読者は限られているのである。このように購読者が限られている自動車雑誌に、年に1?3回「LE MAN24時間自動車レース」に関する記事が掲載されていたとしても、「LE MANS24時間自動車レース」及びその略称である引用商標がわが国において広く認識されることはない。
また、そもそも、請求人は、「LE MANS24時間自動車レース」の周知性について、審判請求書及び弁駁書で証拠を挙げて種々述べているが、引用商標「LE MANS」が同レースの略称として周知であるという証拠は見当たらない。これらの証拠では、「24HEURES DU MANS」や「LE MANS24時間」等、「24時間」の語と一緒に使用されており、請求人が引用商標「LE MANS」を単独で使用している証拠が見当たらないのである。請求人の主張するように引用商標「LE MANS」が同レースの略称として周知であるならば、需要者は、引用商標「LE MANS」の語から一義的に「LE MANS24時間自動車レース」を認識するはずであるから、引用商標「LE MANS」を単独で使用しても何ら問題ないはずである。
「LE MANS24時間自動車レース」が周知であるということと、引用商標「LE MANS」が同レースの略称として周知であるということは別個の問題である。引用商標「LE MANS」が同レースの略称として周知でなければ、仮に同レースがある程度周知であっても、需要者が引用商標と同レースとを結びつけて考えることはなく、請求人の主張する請求人の同レースにおける信用等が害されることや出所の混同等の問題が生じることはない。
イ フランスにおける引用商標の周知性について
請求人はフランスにおける引用商標の周知性を示す証拠として、甲第47号証を挙げているが、この甲第47号証がいつ発行されたものであるのか、全く分からないため、証拠力を有していない。前述したように商標の周知性はその時点、その時点で変化するものである。いつ発行されたものであるか分からないものから、本件商標の出願時及び査定時における周知性を判断することはできない。
また、請求人は、フランスにおける引用商標の周知性を示す証拠として甲第49号証を挙げているが、「LE MANS24時間自動車レース」に関する1冊の書籍が発行されているというだけでは、発行部数も分からず、引用商標の周知性を判断することはできない。また1冊の書籍を発行するだけで、同レース及びその略称である引用商標が周知になるわけではない。
また、甲第50号証についても2006年に開催された「LE MANS24時間自動車レース」がフランスの1つの放送局で放映されたことは分かるが、1年のうち1回放映されただけで、同レース及びその略称である引用商標が周知になるわけではない。
そもそも、これら甲第49号証及び甲第50号証は「LE MANS24時間自動車レース」に関する書籍であり、引用商標「LE MANS」が「LE MANS24時間自動車レース」の略称としてフランス国内で広く認識されていることを示すものではない。仮に、「LE MANS24時間自動車レース」にある程度の周知性があったとしても、引用商標が同レースの略称としてフランス国内で広く認識されていたかどうかは、別個の問題である。引用商標「LE MANS」は、フランスにおいて北西部サルト県の県都を示す語であり、「LE MANS24時間自動車レース」を一義的に示す語ではない。
「LE MANS」という都市は、同レースの開催地である以外に多くの特色を持っている。例えば、乙第14号証の百科事典では「聖ジュリアン教会のロマネスク調の身廊は、12世紀中期のステンドグラスが美しい。」、「サルト県の行政上及び商業上の主要地帯であり、その地域にある保険会社は、国家的に重要である。」、「第二次世界大戦の前後において、パリから分散した産業を引き寄せ、これらの産業の中には、食品加工、繊維、機械、電気機器、自動車構成部品、トラクターがある。」等の多くの特色が紹介されている。
したがって、自国の都市について多くの知識を有しているフランスの需要者は、引用商標「LE MANS」の語からは同名の都市を想起し、引用商標「LE MANS」と「LE MANS24時間自動車レース」とは別異の語として明確に認識し、同一視することはない。
したがって、上述してきたことを考えると、本件商標の出願時及び査定時において、引用商標はフランス国内おいて広く認識されていなかった。
不正の目的について
請求人は、「LE MANS24時間自動車レース」及びその略称である引用商標の著名性あるいはその名声に只乗り(フリーライド)する目的で被請求人が本件商標を出願したと述べているが、前述したように引用商標は本件商標の出願時及び査定時においてわが国においてもフランス国内においても広く認識されておらず、ただ乗りしようとしてもできない。
また商標法の審査基準には、不正の目的を認定する場合の条件として例えば、(a)引用商標が造語よりなるものであること、(b)引用商標の所有者である請求人が、我が国に進出する具体的な計画を有していること、(c)引用商標の所有者である請求人が近い将来、事業規模の拡大の計画を有していること、(d)被請求人より、商標の買取り、代理店契約締結等の要求を受けている事実があることが示されている。
しかし、引用商標は請求人の造った造語ではない。また、本件商標の出願時及び査定時において、請求人には我が国に進出する具体的な計画はなく、事業規模の拡大の計画もなかった。また平成20年7月28日付けの答弁書で述べたように、被請求人は請求人に本件商標の買い取り、代理店契約の締結等の要求をしたことはおろか、被請求人から請求人に積極的に接触したことはない。従って本件は上記の条件(a)?(d)のいずれについてもあてはまらない。
そのため、本件商標を被服のブランドとして使用するために出願し、登録を受けた被請求人に対し、被請求人が不正の目的で本件商標を出願したという請求人の主張は、心外であるし、失当である。
エ 甲第52号証及び同第53号証の判決例について
請求人は甲第52号証の判決例及び同第53号証の判決例を挙げて、本件と同列に論じようとしている。
しかし、これらの判決例は、対比されている商標や事件で提出された証拠、判断の時期等が異なり、本件と同列には論じられない。
(2)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、甲第25号証で、他人が出願した「ルマン/LE MANN」商標についての異議申立事件を挙げている。
しかし甲第25号証に係る商標出願(平1-67178)は、1989年6月15日に出願され、1991年1月8日に公告になったものである。従って異議申立の判断もこれらの出願時及び査定時を基準としてなされている。
一方、本件商標の出願時は2005年3月24日である。
前述したように商標の周知性はその時点、その時点で変化するものであり、甲第25号証に係る商標出願の公告時と本件商標の出願時を取ってみても、約14年の違いがあり、同列には論じられない。
また請求人は、甲第54号証の審決例をあげて本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すると述べている。
しかし、これらの審決例は、対比されている商標や事件で提出された証拠、判断の時期等が異なり、本件と同列には論じられない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、甲第26号証で、他人が出願した「ルマン/LE MANN」商標についての異議申立事件を挙げている。
しかし、甲第26号証に係る商標出願(平5-127024)は、1993年12月20日に出願され、1996年1月18日に公告になったものである。したがって、異議申立の判断もこれらの出願時及び査定時を基準としてなされている。
一方、本件商標の出願時は2005年3月24日である。
前述したように商標の周知性はその時点、その時点で変化するものであり、甲第26号証に係る商標出願の公告時と本件商標の出願時を取ってみても、約9年の違いがあり、同列には論じられない。

第5 当審の判断
1 請求の利益について
本件審判請求に関し、当事者間に利害関係について争いがないので、本案に入って判断する。
2 引用に係る商標の周知性について
(1)請求人提出の証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 「LE MANS」の語は仏語の一であり、1987年発行の新スタンダード仏和辞典(甲第14号証)には、「Mans(le)」の項に、「ル・マンの24時間自動車耐久レース」との記載がある。
イ 「Le Mans」は仏国の地理的名称であり、該地で行われる24時間耐久自動車レースを「ルマン24時間自動車レース」あるいは「ルマン24時間レース」と指称している。そして、当該「ルマン24時間レース」は、第1回が1923年に開催されて以降、80年以上にわたり、中止された年はあるがほぼ毎年継続して行われ、本件商標の出願年にも開催され、その後も継続しており、「モナコグランプリ」「インディ500」と並び、世界3大レースの一とされている。また、前記「ルマン24時間自動車レース」は、「ルマン」「ル・マン」「LE MANS」と略し指称され、表示されている。
ウ 1971年(昭和46年)には、スティーブ・マックィーン主演で「ルマン24時間耐久自動車レース」を題材とした米国映画「Le MANS」が制作された。日本においては「栄光のル・マン」の名で上映され、その映画公開時のパンフレットには「Le MANS」「栄光のル・マン」が表示されていた。
また、その映画のDVD版が2003年(平成15年)に日本で発売され、そのパッケージには、「Le MANS」と日本における映画の題名「栄光のル・マン」がともに表示されている(甲第5号証)。
エ 1973年(昭和48年)に、「ル・マン 10時間半の力走むなし」の小題(見出し)のもと、日本人レーサーが「ル・マン自動車レース」に初めて挑戦したとの報道記事が報知新聞に掲載された(甲第6号証)。
オ 1992年(平成4年)集英社発行の書籍「ル・マン偉大なる草レース挑戦者たち」(甲第8号証)には、「ル・マン」の題名が付され、表紙には「ル・マン」とともに「LE MANS」が表示されている。内容として、1973年初参加以来1991年に至る「ル・マン自動車レース」への日本勢参戦の模様や、1991年に日本車が「ルマン初制覇」をした様子が写真とともに掲載され、「出場日本車全記録」が記載されている。
カ 1996年(平成8年)6月8日付日本経済新聞には、「『ル・マン』日本勢の節約作戦」の小題(見出し)のもとに、同6月15から16日に開催されるルマン24時間レースにトヨタや日産等の日本勢が参加するとの記事が載った。また、同年6月15日及び16日のテレビ朝日で、「’96ルマン24時間レース『スタート』」、「’96ルマン24時間レース『ゴール』」の番組が、衛生中継放送がされた(甲第15号証)。
キ 1981年6月発行の雑誌「AUTO SPORTS」(甲第9号証)において、「いま、出発します ル・マンへ」、1987年8月発行の雑誌「AutoSport」(甲第10号証)において、「男たちのル・マン」「ル・マン24時間レース史&歴代優勝車」「私とル・マン」「ル・マンに憑かれた男」「ル・マンの空に”君が代”が流れた」「『ル・マン・ツアー』に参加して」、1987年発行の雑誌「ル・ボラン」(甲第11号証)において、「同一メーカーによるル・マン3連覇は80年、70回に及ぶ長い歴史の中でも希な記録である。」「最近のル・マンとは異なる勢力分布の塗り替えが起こり始めて・・」というように、前記「ルマン24時間レース」を指称する文字として「ル・マン」が頻繁に使用されている。
また、上記の甲第10号証には、「ル・マンおみやげプレゼント」として、ステッカーのほか、「LE MANS」や「DU MANS」の文字が表示されているTシャツ、ジャンパー、ブルゾン等の現物写真が掲載されている。
ク 2002年9月発行の雑誌「AUTOMOBIL ENGINEERING JAPON」(甲第12号証)において、「ル・マンに5年ぶりに4ローターのマツダロータリーエンジン独特のエンジンノートを・・」「ル・マンの表彰台の最上段は日本勢にとっては・・」、同年9月発行の雑誌「月刊Racing on」(甲第13号証)において、「これまでにない準備期間を経てル・マンへ挑んだチームゴウがだったが・・」「支える立場となって見た今年のル・マン 妻は夫の姿を・・」「ル・マン 最速への道」「’02 Le Mans Side Stories」、同2年9月発行の雑誌「ROSSO」(甲第27号証)において、「昨年のル・マンで最高のポテンシャル・・」「ルマンには悪戯好きな女神がいる。」「ル・マンのシュミレーション・・」、同年9月発行の雑誌「CAR MAGAZINE」(甲第28号証)において、「ル・マンを走った」「記念すべき70回大会を迎えた今年のル・マンは・・」「だからこそル・マンはお面白い・・」、2002年11月発行の雑誌「月刊Racing on」(甲第29号証)において、「伝統のル・マンのメディカルセンター・・」「今回ル・マンの救急体制について・・」などのように、前記「ルマン24時間レース」を指称する文字として「ルマン」「ル・マン」等が頻繁に使用されている。
ケ 本件商標の出願後で登録前発行の「週刊オートスポーツ」等(甲第30号証ないし同第39号証)には、「ル・マン歴史的勝利を演出した“裏”の主役たち」(甲第30号証)、「今年も多くの日本勢がル・マンに挑戦・・」(甲第31号証)、「プジョーのルマン復帰」「ルマンに挑んだ童夢」(甲第32号証)、「ル・マンはGTカーがおもしろい」(甲第33号証)、日本発の挑戦者たちなどとして「ル・マン本番では13時間走ったところで・・」(甲第34号証)、「ル・マンに挑戦した8台のGT3R」(甲第35号証)、「ル・マンは“想定外”のオンパレード」(甲第39号証)など、前記「ルマン24時間自動車レース」を指称する文字として「ルマン」「ル・マン」が使用されており、そのほか(甲第40号証ないし同第46号証)にも同様の記載が認められる。
コ なお、本件商標の登録後ではあるが、平成20年6月24日の「テレビ東京」午後10時から「ガイアの夜明け」(世界最難関レース・・夢かけて留年学生が挑む)で放映された(甲第55号証)。また、これに関連して、同年7月3日の朝日新聞(夕刊)に、「ル・マン再挑戦へ自信」のタイトルのもと、東海大学が初出場したことが報じられた(甲第56号証)。
(2)以上によれば、「LE MANS(ル・マン)」が「ルマン24時間自動車レース」の略称として、本件商標の出願時において、自動車レースに係る役務を表示するものとして、「ルマン」の称呼とともに、自動車レースに係る役務の需要者の間に広く認識されていたものであり、また、一般の需要者にも相当広く知られるに至っていたと認められる。そして、それは本件商標の登録時においても、継続していたと優に推認し得るものである。
(3)この点について、被請求人は、甲号証として提出された書籍等が本件商標の出願時よりも相当に以前のものであることや、また、日本の自動車会社がレース参戦から撤退したり、当該レースのテレビ放映がないことなどを挙げて、出願時における周知性が否定される旨の主張をしている。
しかしながら、「ルマン24時間自動車レース」や当該略称についての事実を示す書籍や雑誌が、本件商標の出願直前のものに限られるとすべき合理的な理由はなく、当該書籍や雑誌に示された本件商標の出願前の事実等に依拠して前記の認定・判断をなし得るものである。また、企業が前記レースへの参戦を取りやめたことや、テレビ放映等がなかったとしても、これらのことは個々の事情に拠るものというべきであり、偏に当該レース自体に決定的な要因があるわけではないから、これらをもって、長期の年月を経て確立された周知性や名声が、本件商標の出願時及び登録時には殆ど減殺されていたということはできず、また、他にそれを裏打ちする的確な証左はない。
したがって、被請求人の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。
3 商標間の類似性の程度等について
(1)商標間の類似性について
本件商標は、別掲のとおり、双頭の鷲らしき猛禽類が翼を広げ、その中央胴部に「L」と「M」の欧文字を配した盾型図形を描き、さらに最下部のリボン状の図形内に「LE MANS」の文字を書してなるものである。
そして、図形と「LE MANS」の文字とが融合して全体して特定の事物のみを表し、特定の称呼のみを生じるものとみるべき特段の理由は認められないから、当該「LE MANS」の文字は独立して自他商品の識別機能を果たし得るものである。
そうすると、本件商標は、その構成中の「LE MANS」の文字に相応して「ルマン」の称呼を生ずるものであり、また、略称「ル・マン(LE MANS)」の一般における浸透度をも考慮すれば、これより「ルマン24時間自動車レース」の観念を生ずるとみるのが相当である。
一方、請求人の主催する自動車レース「ルマン24時間自動車レース」の略称「LE MANS(ル・マン)」は、「ルマン」の称呼が生じるものであり、「ルマン24時間自動車レース」の観念を生ずるものというべきである。そして、「LE MANS」は、本件商標の構成する欧文字と共通の文字綴りである。
してみれば、本件商標と前記略称「LE MANS(ル・マン)」とは、その称呼及び観念を共通にするものであるうえ、構成する欧文字綴りの共通性もあり、外観上の違いはあるとしても、両者の類似性の程度は相当に高いというべきである。
(2)本件商標の指定商品及び使用に係る役務・商品間の関連性等について
前記周知な標章「LE MANS(ル・マン)」は、主として自動車レースに関連した役務に使用されているものである。一方、本件商標の指定商品は被服である。
しかして、前者に関してみれば、そのイベントに際しての関連グッズとして、シャツやジャンバー等にシンボルマークや大会の名称や略称等が表示され販売等されることは、甲第10号証に見られるように、普通に行われることといえる。また、請求人は、被服等に関して商品化事業を行っていることが窺える(甲第16号証)。
してみれば、本件商標の指定商品と前記の役務との間には、関連グッズ等を勘案すれば、充分に関連性あるものといえる。
そして、自動車レースの需要者は、被服の一般需要者でもあり、また、近時、一般消費者中に自動車レースのファンが相当程度に含まれているというのが相当である。
4 商品の出所について混同のおそれの有無
以上のとおり、引用商標の周知性の程度、使用される商標間の類似性の程度、商標の使用される商品・役務間の関連性、需要者の共通性等を総合勘案してみれば、本件商標の登録時はもとよりその出願時において、本件商標をその指定商品に使用するときには、これに接する需要者が引用商標(略称「LE MANS(ル・マン)」)を想起し連想して、当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤信し、商品の出所について混同するおそれがあったと判断されるものである。
5 小活
してみれば、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標というべきものであるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものと認められる。
なお、被請求人は本件商標の使用により現実に出所の混同が生じたことはないというけれども、本号の適用に際しては、出所の混同のおそれがあることをもって足りると解すべきである。
また、被請求人が挙げる登録例については、いずれも個々具体的事情等に基づき判断されるべきものであり、それらの登録の存在のみをもって本件の前記判断を左右することはできない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、請求人が主張するその余の無効事由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標

(2)引用商標2




審理終結日 2009-03-04 
結審通知日 2009-03-06 
審決日 2009-03-19 
出願番号 商願2005-30016(T2005-30016) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y25)
T 1 11・ 22- Z (Y25)
T 1 11・ 222- Z (Y25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 健司佐藤 達夫井岡 賢一 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 小畑 恵一
井出 英一郎
登録日 2007-11-22 
登録番号 商標登録第5092921号(T5092921) 
商標の称呼 スリーシイ、エルエム、ルマンズ、レマンズ、ルマン、レマン、マンズ、マン 
代理人 萼 経夫 
代理人 藤沢 則昭 
代理人 山田 清治 
代理人 藤沢 昭太郎 

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