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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y03
管理番号 1195589 
審判番号 無効2008-890032 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-04-15 
確定日 2009-04-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第4932458号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4932458号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4932458号商標(以下「本件商標」という。)は、「ミチボトックス」の片仮名文字を横書きしてなり、第3類「化粧品」を指定商品として、平成17年5月23日に登録出願、同年12月15日に登録査定され、同18年3月3日に商標権の設定登録がされたものである。
その後、本件商標の登録について異議申立(異議2006-90251号)がなされたが、その登録を維持する旨決定した確定登録が平成19年9月18日になされている。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証、甲第11号証及び甲第11号証の1ないし7(甲第11号証の添付資料1ないし7をそれぞれ甲第11号証の1ないし7として読替え扱う。)、甲第12号証ないし甲第23号証、甲第24号証及び甲第24号証の1ないし161(甲第24号証の添付資料1ないし161をそれぞれ甲第24号証の1ないし161として読替え扱う。)、甲第25号証及び甲第25号証の2-1ないし2-5(甲第25号証の添付資料2-1ないし2-5をそれぞれ甲第25号証の2-2ないし2-5として読替え扱う。)、甲第26号証及び甲第26号証の1ないし102(甲第26号証の添付資料1ないし102をそれぞれ甲第26号証の1ないし102として読替え扱う。)及び甲第27号証ないし甲第70号証を提出している。
1 請求の理由
「BOTOX」及び「ボトックス」(以下、「BOTOX」及び「ボトックス」の双方を指す場合には「使用商標」という。)は、本件商標の出願日以前から我が国はもとより世界中で、米国「アラーガン インコーポレイテッド(Allergan,Inc.)」(以下「アラーガン社」という。)が製造し販売している医療用ないし美容外科用医薬品の商標として、需要者・取引者の間に周知・著名なものとなっていたから、本件商標「ミチボトックス」がその指定商品「化粧品」について使用された場合には、当該商品は、請求人の業務に係る商品であるかのごとく認識され、あるいは請求人と経済的又は組織的・人的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく誤認され、その出所について混同を生ずるおそれがある。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は取り消されるべきである。
(1)請求人について
ア 請求人であるアラーガン社は、神経や筋肉の障害治療用の薬品や眼科用薬品、眼鏡レンズ等に特化した事業を世界的規模で展開し、当該分野における主要企業の一角を占める医療用医薬品メーカーである(甲第2号証ないし甲第6号証)。
イ 我が国においても、1973年に参天製薬を通じて眼科用薬品及びコンタクトレンズ用品の販売を開始し、3年後に合弁企業である「参天アラガン株式会社」を設立するに至った。1985年には新たに「株式会社ハンフリー インスツルメンツ エス・ケー・ビー」をも設立し、1992年にはその社名を「アラガン株式会社」(以下「アラガン(株)」という。)に変更した(甲第7号証)。
アラガン(株)は、医療用薬品の製造・販売企業として我が国の、特に神経や筋肉の障害の治療用薬品及びその周辺・関連分野においては重要な存在となった。これらの事実に鑑みると、請求人の存在及びその商品は、我が国においても遅くとも1990年代初頭には一般の需要者・取引者の間で広く知られていたということができる。
ウ 今日においては、請求人と事業提携した英国の「グラクソ・スミスクライン社」の関連会社である「グラクソ・スミスクライン株式会社」(以下「グラクソ社」という。)が、請求人製造の「A型ボツリヌス毒素治療薬」(以下「使用商品」という。)にかかる営業をアラガン(株)から承継して、継続して販売している。
(2)使用商標について
ア 1989年、アラーガン社は、眼瞼の痙攣等の顔面痙攣症状を治療するための商品を開発し米国で承認されて以来、現在では70カ国以上で承認されるに至っている(甲第9号証、甲第10号証)。
イ この商品は、ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤であり、直接注射して患部に投与するという方法で使用され、筋肉を弛緩することによって患部の痙攣状態を解くという効果をもたらすものであった(甲第8号証)。
ウ この商品の商品名として請求人が創作し採用したのが商標「BOTOX」である。そして、これはボツリヌス毒素(botulinum toxin)に由来する請求人による造語であり、如何なる辞書等にも掲載されていない語である。
エ 我が国においては、「BOTOX」は1995年2月に当時の厚生省により承認され、1997年4月15日から市場において販売が開始された。
以下が、「BOTOX」の全世界における1998年から2005年までの売上額及び我が国における1997年から2005年までの売上額である(甲第11号証:枝番を含む。)。
日本を含む全世界の売上額 (日本における売上額)
1997年 (1億5,800万円)
1998年125億ドル (3億8,700万円)
1999年176億ドル (7億300万円)
2000年240億ドル (12億100万円)
2001年310億ドル (20億9,000万円)
2002年440億ドル (31億1,200万円)
2003年564億ドル (36億3,200万円)
2004年705億ドル (40億7,000万円)
2005年840億ドル (46億4,500万円)
すなわち、本件商標の登録出願がされた前年である平成16年(2004年)だけでも、全世界での売上は705億ドル、我が国での売上は40億7,000万円にも上っている。
オ また、使用医療機関や主要顧客も、全国各地の大学病院や総合病院等2,500あまりの施設に及んでいる(甲第12号証)。
カ さらに、「BOTOX」は、本来の眼瞼や顔面の痙攣、痙性斜頸等の治療に用いられるだけでなく、筋弛緩作用の応用によりシワやたるみの除去などの美容整形にも適応することが判明した。
キ その結果、一般の美容整形目的でも使用されるようになり、美容整形ブームとも相俟って一種の社会現象を巻き起こすまでに至り、それによって一層広く一般に、とりわけ女性に知られた存在となった。
現に、米国についてみると、2003年には全米でおよそ643万2,000件行われた非外科手術的方法による美容整形のなかで、「BOTOX」が使用されたのは、およそ227万2,000件に達しており、これは他を圧倒して非外科手術的方法による美容整形の第1位を占めている(甲第13号証)。
(3)使用商標の各種媒体での掲載について
ア 使用商標については、医療専門誌紙はもとより、一般の各種媒体でも取り上げられており、また、インターネットの検索によっても数多くのサイトが抽出される(甲第14号証ないし甲第23号証)。
インターネット上のサイトの殆どは、請求人が直接開設するものではないが、その多数を占めている美容整形に関するサイトにおいては、使用商標のもたらす効果について記載されている。
イ 甲第24号証ないし甲第26号証は、現在我が国で「BOTOX」に係る商品の輸入販売を行っているグラクソ社の経営企画部長である本田昭彦が作成した「BOTOX」に係る商品の「新聞記事に基づく報告書」、「新聞・雑誌以外の文献に基づく報告書」及び「販売資料報告書」である。
(4)小括
以上のような請求人の企業活動などにより、使用商標は、請求人の商標として、本件商標の出願日である平成17年5月23日以前から、我が国はもとより世界中で米国アラーガン社が製造し、アラガン(株)ないしグラクソ社が日本で輸入販売している医療用ないし美容外科用医薬品の商標として、全国各地の需要者・取引者を始め広く一般人の間に周知・著名なものとなっていた。
したがって、ある商品に使用商標が使用されている場合、これに接する者は誰でも、それを請求人の商標と認識する。
(5)本件商標と使用商標の類似性について
ア 商標「ミチボトックス」を付した商品が「筋肉の緊張を和らげシワを目立たなくしてくれる」化粧品として、商標権者である「中村三千代」と同一の住所に所在する「MICHIエテルナ・エステティック」という店舗においてエステティックの施術に使用され、当該店舗及びインターネットを通じて販売されている(甲第51号証、甲第52号証)。
イ そうすると、本件商標「ミチボトックス」のうち「ミチ」の部分は、「MICHIエテルナ・エステティック」から販売されているとか、中村三千代によって販売されるといった商品の内容を表わすものと容易に理解でき、一方で、本件商標中「ボトックス」の部分は請求人の著名な商標であると理解される。
ウ してみれば、本件商標に接する需要者・取引者は、その構成中の「ボトックス」の部分を請求人の著名商標「ボトックス」として認識する可能性が高く、これが本件商標の外観、称呼及び観念上において取引者・需要者に強い印象を与えるということができる。
(6)混同を生ずるおそれについて
ア 上述のとおり、使用商標は、請求人の著名な商標であるから、本件商標に接する需要者・取引者は、容易に我が国はもとより世界において周知・著名で強い自他商品識別力を有する請求人の商標である使用商標を認識する。
イ そして、神経や筋肉の障害が老若男女を問うことなく生じるものであることから、請求人の製造・販売に係る商品の需要者層は医療関係者等のみに限定されることはない。
ウ また、使用商標を付した商品は美容整形の分野においても一大ヒット商品となっており、当該分野の需要者及びそれに関心を寄せる層は、近年の「プチ整形」ブーム、「エステ」ブームに端的に現れているように、いまや一部の女性に限らず、性別・年齢を問わなくなっている。
エ 本件商標の指定商品「化粧品」は、使用商標を付した商品と近似した商品である。しかも、すでに本件商標を付した化粧品が販売されていることから(甲第51号証、甲第52号証)、出所混同の蓋然性が高い。
オ また、インターネットの広告では、「塗るボトックスクリーム」、「ボトックス効果」といった請求人の使用商標を使用した表示が繰り返しなされている(甲第22号証、甲第23号証)。さらに、本件商標を付した商品「化粧品」は、「筋肉の緊張を和らげシワを目立たなくしてくれる」といった宣伝文句を用いてインターネット上でも紹介されており(甲第54号証)、請求人の業務に係る商品ときわめて紛らわしい。
カ したがって、本件商標を付した商品やその宣伝広告に接する取引者・需要者が、本件商標を使用した商品(甲第51号証、甲第52号証、甲第54号証)について、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれは高い。
キ 以上の実情を勘案すると、本件商標と使用商標が一般の需要者・取引者において混同して認識される可能性が高いことは、合理的かつ明白な事実というべきである。
ク 請求人は、「BOTOX」からなる商標を世界各国で出願し、160件を超える登録を得ている。その一覧及び一部の登録証等を示す(甲第31号証ないし甲第50号証)。
2 弁駁の理由
(1)美容業界での著名性について
我が国で許可され販売されている使用商品が、医薬品であるからといって、それが化粧品の分野の取引者・需要者に広く知られていないということはできない。
ア 我が国内では、1999年に美容雑誌「VoCE」(講談社)が請求人の商品「BOTOX」について特集し、その際に問い合わせが殺到したといわれている(甲第56号証)。
イ なお、請求人は、我が国において直接的に美容目的の使用商品を製造・販売してはいないが、そのような商品を直接的に製造・販売しなくとも、その商品の品質と効果から、請求人が提供する美容目的と商標「BOTOX」の情報は、多く流入し、また、個人輸入等を通じて海外から請求人の美容目的の商品が国内に入り、実際にそれを入手し使用する需要者も現れているのが事実である(甲第57号証ないし甲第64号証)。
ウ したがって、請求人が、我が国内において直接的に美容目的の使用商品を製造・販売していなかったからといって、使用商標が本件商標の出願日以前から日本の美容業界において著名でなかったということはできない。
エ なお、特許庁電子図書館の日本国周知・著名商標検索ファイルの検索結果に使用商標が検出されなくとも、また、防護標章登録を受けていなくとも、そのこと自体で請求人の使用に係る使用商標の著名性が否定されるものではない。
(2)需要者の共通性について
ア 請求人が提供する美容目的の使用商標に係る商品の需要者層は、上述のとおり、年配の女性に限らず若い女性も含むシワ・たるみの除去・改善などといった美容に興味をもつ者である。
そして、シワ・たるみ対策や改善を目的とした化粧品は、市場に多種類が出回っていることは周知の事実であるから、美容目的の使用商標に係る商品と化粧品の需要者は共通している。
イ 甲第51号証及び甲第52号証によれば、被請求人が本件商標を付して提供している商品は、「シワを目立ちにくくする成分が入っている」といい、それが「筋肉の緊張を和らげシワを目立たなくしてくれる、アンチエイジングクリーム」であることから、請求人の使用商標を付した商品の需要者と被請求人が提供する当該商品の需要者はきわめて近似している。
ウ また、請求人は、他社との共同開発により、薬用化粧品、シワ専用の美容液も販売しており、当該化粧品の商品紹介の欄には、「ボトックスのメーカーである大手製薬会社アラガン社と」、「あのボトックスで有名なアラガン社と」といったコメントが記載されていることからも、化粧品の分野においても請求人の使用商標が著名であることは明らかである(甲第65号証及び甲第66号証)。
(3)塗るボトックス(アルジルリン配合)化粧品について
アルジルリン配合の化粧品が、シワについて請求人の使用商標に係る商品と似たような効果を得られるということから、「塗るボトックス」と呼ばれるようになったのである(甲第67号証)。そして、その成分配合の化粧品は、請求人の当該商品とは異なるものであっても、その呼び名は当該商品に依拠し、これに由来しているものといわざるを得ない。
してみると、「塗るボトックス」という語に接する取引者・需要者が、その語の中に存在する「ボトックス」の語から請求人の使用商標に係る商品を容易に想起・認識し、「塗るボトックス」商品に惹かれるであろうことを想定していると考えられる(甲第67号証ないし甲第70号証)。
(4)出所の混同について
請求人の使用商標は、本件商標の指定商品「化粧品」の需要者間に広く認識された商標であり、「ボトックス」は、請求人の登録商標である。そして、本件商標は、「ミチ」と請求人の登録商標を結合した商標に他ならない。
以上のことから、本件商標は、「特許庁商標課編 商標審査基準 改定第7版」の「第3十三 2.」に照らし、上述したとおりの具体的な事情を総合的に考慮すると、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標というべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1ないし乙第30号証を提出している。
本件商標は、商標法第4条第1項第15号違反を原因として、取り消されるべきものではない。
1 使用商標の著名性について
被請求人は、請求人の使用商標が広く認識されていたかどうかについては不知である。
仮に、使用商標を、請求人の取扱いに係る「眼瞼痙攣治療薬」を表示するものとして本件商標の登録出願日に知っていた需要者がいたとすれば、それは、主に医師、薬剤師などの医薬を扱う専門職に携わる者であり、一般人である病人(患者)や、化粧品の需要者(例えば、中高年の女性)に、広く知られていたとはいえないと考える。
(1)請求人の商品「ボトックス注100」は、「A型ボツリヌス毒素製剤生物由来製品、毒薬、指定医薬品、要指示医薬品」(甲第8号証)であり、「医薬品」は薬事法第2条第1項に規定されており、同第3号には、医薬品の定義から化粧品は除かれている(乙第1号証)。
(2)ボトックス注100は、処方せん医薬品(乙第3号証、乙第4号証)であり、医師の処方せん、または指示書によってのみ授与または販売ができるものであって、最終需要者(眼瞼痙攣、顔面痙攣、斜視等の治療薬として使用されるものであって、その患者の多くは中高年の女性)自らが他の医薬品と比較してこれを選択し決定する余地はない。。
(3)医薬品であるボトックス注100は、「医薬品等適性広告の基準について」(乙第5号証)が適用され、請求人による広告が、消費者に対して「化粧品」と混同する可能性があるような形態で行われていること、若しくは今後において行われることは考えられず、「化粧品」のみを指定商品とする本件商標とは混同し難いものである。
(4)そして、医師、薬剤師の治療(注射)を受ける病人(又は患者)と、化粧品の需要者(例えば、中高年の女性)とは、需要者層が異なっている。
(5)そうすると、本件商標の構成中の「ボトックス」部分は、化粧品の需要者にとっては、請求人の著名な商品の商標としては認識されていないと考える。
(6)請求人が提出する新聞、雑誌等の何れも医薬品業に係る者向けの情報であって、化粧品を求める需要者を対象とするものではない。
化粧品の需要者(例えば、中高年の女性)に、雑誌等への情報の掲載の事実をもって「ボトックス注100」が周知・著名となったというためには、例えば、「Non-no」、「anan」、「JJ」、「MORE」、「with」、「LEE」、「Oggi」、「Muffin」及び「Very」等の、化粧品の需要者がその主な購読層である雑誌等に長年に亘って多数掲載した事実が必要であるにもかかわらず、請求人は、そのような証拠を一切提出していない。
(7)請求人は、外国における商標「BOTOX」の登録状況を提出しているが(甲第31号証ないし甲第50号証)、その登録を受けている商標が周知・著名になっている事実についての証拠を提出していない。
(8)「BOTOX」の1997年ないし2005年までの売上額を示しているが(甲第11号証)、その内訳は、我が国における眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸という効果・効能が認められているものであるとしても、いわゆる美容整形(医療行為)で行われているプチ整形(シワとり)の売上額及び疾患別患者数を示していない。
(9)インターネット(Yahoo)により、検索式を「塗るボトックス」とした場合には「アルジルリン」を成分とする「塗るボトックス」という用語を含むサイトが多数検索され、また、逆に検索式を「アルジルリン」とした場合には、「塗るボトックス」という用語を含むサイトが多数検索されるという事実がある。同様に、「塗るボトックス アルジルリン」、「ボトックス効果 アルジルリン」及び「ボトックス アルジルリン」を検索式とした場合に、「塗るボトックス」及び「アルジルリン」を含むサイトが多数検索されるという事実がある(乙第11号証ないし乙第14号証)。
これに基づけば、化粧品の成分である「アルジルリン」について、「ボトックス」、「塗るボトックス」が、既に化粧品については知れわたっていることは明らかであり、「BOTOXの語に接する者は誰でも、それを請求人の商標であると認識しそれ以外の認識を生じる余地はない」旨の請求人の主張は成立しない。
(10)特許庁電子図書館の商標検索ファイルの日本国周知・著名商標検索ファイルを使用して、「BOTOX」、「ボトックス」及び「ぼとっくす」を検索としたところ、該当するものは0件であった(乙第15号証)。同じく、商標出願・登録情報検索ファイルを使用して、「BOTOX」、「ボトックス」及び「ぼとっくす」を検索したところ、該当するものは10件あることが判ったが、請求人が使用商標について防護標章登録を受けているといった事実は見当たらなかった(乙第16号証)。この調査結果に基づけば、請求人の使用商標は、本件商標の出願時及び登録査定時においても「著名」の要件を具備していなかったと思われる。
(11)請求人であるアラーガン社は、2006年度の世界の医薬品売上げランキング40社内にはランクされておらず、かつ、主な外資系企業の日本国における売上高のトップから13社(2005年度)を調べても、それ内にはランクされていない(乙第17号証、乙第18号証)。
また、2006年度世界の大型医薬品売上ランキングの売上高のトップから47品目を調べても、請求人の商品である「BOTOX」は、その品目内にはランクされていない(乙第19号証)。
2 本件商標と使用商標との類似性について
(1)本件商標は、同じ大きさ、同じ書体の片仮名が同じ間隔で表されており、「ミチボトックス」と一連に称呼する上で、特に困難性も見当たらず、全体の音数も7音と短く「ミチ」と「ボトックス」とに分離観察する事情が特段に見当たらないので、本件商標の構成全体をもって、親しまれた熟語的意味合いが生じるものとは認め難いもの(意味のない造語)である。
(2)使用商標は、同じ大きさ、同じ書体の欧文字が同じ間隔で表されており、また、「ボトックス」についても、同じ大きさ、同じ書体の片仮名が同じ間隔で表されており、使用商標は、「ボトックス」と一連に称呼する上で、特に困難性も見当たらないものであり、全体の音数も5音と短く、意味のない造語であると考える。
(3)そこで、本件商標と「BOTOX」とを対比すると、外観については、本件商標は片仮名で表されているものであるのに対し、使用商標は欧文字で表されている点で外観構成が異なり、称呼の点で対比すると、前者は全体音が7音であり、後者は全体音が5音であって、共に短い称呼が語頭の「ミ」「チ」という称呼部分の有無で相違しているので、両者は、聴別し易く互いに非類似の関係にある。また、本件商標と「BOTOX」は、共に造語と考えられるので、観念について対比する関係にない。
また、本件商標と「ボトックス」とを対比すると、外観については、「ミチ」という文字の有無で相違している点で外観構成が異なっており、称呼の点で対比すると、前者は全体音が7音であり、後者は全体音が5音であって、共に短い称呼が語頭の「ミ」及び「チ」という称呼部分の有無で相違しているので、両者は、聴別し易く互いに非類似の関係にある。また、本件商標と「ボトックス」は、共に造語と考えられるので、観念について対比する関係にない。
(4)さらに、上述したように、使用商標が、本件商標の指定商品に使用された場合に周知・著名であるとはいえない点及び本件商標の出願前において「塗るボトックス」が化粧品の成分である「アルジルリン」を含む化粧品の商品名として周知・著名になっていたという事実に基づけば、本件商標が、「化粧品」に使用された場合、これに接する取引者・需要者は、これを「ミチ」と「ボックス」に分離して観察する事情は見つからず、その構成全体をもって、親しまれた熟語的意味合いが生じるものとは認め難いものと認識するのが普通である。
(5)したがって、本件商標と使用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても著しく相違する非類似関係にあるから、「特許庁商標課偏 商標審査基準 改定第7版」に照らせば、両者は、互いに非類似の関係にある商標である。
3 出所の混同を生ずるおそれについて
(1)上述のように、使用商標は、美容のための化粧品の需要者にとって周知・著名とはいえないし、また、本件商標と使用商標とは、互いに商標が非類似の関係にある。
(2)請求人は、請求人の製造・販売に係る商品の需要者層は、医療関係者等のみに限定されることはない旨主張するが、同人の商品「ボトックス注100」は、処方せん医薬品であって、最終需要者はその医薬品の患者であり、医師から指示を受けた場合にのみ購入するのであって、その取引の主体は、その選択・決定権を有する「医師ら」である。
また、美容整形は、医師によって行われることが義務づけられている医療行為であり、理容業・美容業(理容店、美容室、エステティックサロン等)は、美容整形を行うことはできない(乙第20号証、乙第21号証)。
(3)そして、処方せん医薬品と化粧品とは、流通経路が著しく異なっており(乙第22号証、乙第23号証)、また、処方を受けるのは「医師ら」に治療を求める者(すなわち、「美容整形」で治療を受ける者)であるのに対し、化粧品の需要者は、小売店、通信販売流通網(インターネット)、販売員のアドバイス、又は理容・美容店やエステティックサロンで化粧してもらう人であるから、需要者層が異なっている。
(4)さらに、医薬品としての「ボトックス注100」の注射剤の使用記録がいかに多く存在しようとも(甲第10号証、甲第12号証ないし甲第21号証)、通常の化粧品の使用法とは全く異なるものであり、当該注射剤の使用を受けた需要者が、本件商標の指定商品に係る「化粧品」と混同するような認識を持ったとは思われない。
そして、化粧品と医薬品との違いは、乙第7号証の化粧品の定義及び乙第8号証の化粧品の記載からも明らかなように「化粧品は、人体に対する作用が緩和なものをいう。」とし、その用途は「外用」に限られるのに対し、請求人の商品「ボトックス注100」は、注射剤であるので、現状では化粧品になり得ない。また、その医薬品添付文書(甲第8号証及び乙第4号証)からも明らかなように、赤字で【警告】記載されており、毒薬であって、この点からも、これを化粧品と混同するものとしては捉え難いのではないかと思われる。「警告」の意味及び「毒薬の取り扱いについて」に関し乙第9号証及び乙第10号証を提出する。
したがって、「化粧品は、使用商標を付した請求人の商品と近似した商品であって、しかも、すでに本件商標を付した化粧品が販売されていることから(甲第51号証、甲第52号証)、出所混同の蓋然性が高いとする」旨の請求人の主張は失当である。
(5)請求人は、請求人と同一人を異議申立人として本件商標についての商標登録異議申立(異議2006-90251)を行ったが、当該異議事件は、理由無しとして商標登録を維持する旨の決定がなされている。そして、当該異議事件における申立人の主張と証拠は、本件審判請求の請求人の主張及び証拠と事実的に同一である。
4 むすび
以上のとおり、注射剤である請求人の商品「ボトックス注100」と本件商標が付された化粧品とは、商品が非類似であり、医療行為(美容整形、プチ整形)を受ける患者と化粧品の需要者とはその需要者層が異なっており、加えて、使用商標が化粧品の需要者にとって周知・著名ではない点を考慮すれば、本件商標を付した商品やその宣伝広告に接する取引者・需要者が、本件商標を使用した商品について請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれはない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号
本号において定める「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」の当否を判断するに当たっては、当該商標の具体的構成、その商品又は役務の分野における需要者一般の注意力及び当該他人の標章の著名性その他諸般の事情を考慮の上、そのおそれの有無を個別・具体的に判断することにある。そして、本号にあって「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは、その他人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがある場合をもいうと解するのが相当である。
そこで、請求人は、本件商標には、上記条項号に違反して登録されたとする無効事由があると述べているので、その当否について判断する。
(1)使用商標の著名性について
請求人の提出に係る証拠(甲各号証)及びその主張によれば、次の事実が認められる。
ア 使用商標及び使用商品について
請求人の製造に係る使用商品は、1989年にアラーガン社により眼瞼の痙攣等の顔面痙攣症状を治療するための商品として開発され、米国で承認されて以来、現在では日本を含む70カ国以上で承認されていること、そして、この商品は、ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤であり、直接注射して患部に投与するという方法で使用され、筋肉を弛緩することによって患部の痙攣状態を解くという効果をもたらす商品(医薬品)であること、また、「BOTOX」は、当該商品の商品名として請求人が創作し採用したもので、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)に由来する造語であり、日本における医薬品の表示としては、ボトックス注100(「BOTOX」の欧文字を併記)として、流通していることが認められる(甲第8号証ないし甲第10号証)。
イ 使用商品の我が国での承認、売上げ等
使用商品は、1995年2月に我が国においても承認され、1997年4月15日から販売、そして、日本における売上額は、本件商標の登録出願がされた前年である平成16年(2004年)だけでも、40億7,000万円にも上っており(甲第11号証:枝番を含む。)、その使用医療機関や主要顧客も全国各地の大学病院や総合病院等2,500あまりの施設に及んでいることが認められる(甲第12号証)。
ウ 使用商標の各種媒体での掲載について
請求人の提出にかかる医療専門紙及び一般紙等における新聞記事、雑誌及び書籍等の情報によれば、使用商標を付した使用商品がボツリヌス治療(療法)と称される眼瞼の痙攣等の顔面痙攣症状治療に用いる薬剤であることに関する掲載事実を多数認めることができる。
そして、これらの記事には、猛毒として知られるボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤の紹介や、患部に直接注射して筋肉を弛緩することによって患部の痙攣状態を治療するものであるとの解説などと共に、その薬剤の製造元がアラーガン社であり、輸入販売をアラガン(株)が行っていることなどの記載が認められる(甲第13号証、甲第14号証ないし甲第17号証、甲第19号証、甲第24号証の1ないし161、甲第25号証の2-1ないし2-5及び甲第26号証の1ないし102)。
また、使用商品は、顔面痙攣症状治療のみでなく、シワ取りの効果を有することが認められ、これが米国において美容外科用医薬品として承認され、美容整形における治療に使用されていること、そして、日本では承認はされていないが、個人輸入等により流入し、米国と同様に美容整形における治療に使用されていることが、以下の各種媒体の掲載記事により確認できる。
A 新聞における使用商標及び使用商品の美容整形等に関する報道
a.「”規制”の網くぐりシワ取り薬に」の見出しの下「…ボツリヌス菌から抽出した毒素『ボトックス』は平成8年、厚生省から医薬品の認可を受けているが、適用は『眼瞼痙攣(がんけんけいれん)のみ』とある。シワ取りに使われている…」の記事(平成12年6月23日付け産経新聞:甲第24号証の22)
b.「アラガン自社販売へ転換」の見出しの下「米眼科関連薬剤会社の日本法人アラガンは医療用医薬品事業を強化する。…『ボトックス』についても、順次適応拡大を進める。…また、シワを伸ばす作用があることから美容分野にも有望とみており、5月より臨床試験を始める。…」の記事(平成13年4月24日付け日経産業新聞:甲第24号証の28)
c.「女も男も/プチ整形 ファッションの一部? メス不要の手軽さ人気」の見出しの下「…ボツリヌス菌の毒素を使って、シワを取る治療法『ボトックス』も5年ほど前から大ヒット…」の記事(平成13年7月27日付け毎日新聞:甲第24号証の37)
d.「医薬用シワ取り薬/アラガン、日本投入」の見出しの下「…米系製薬会社のアラガンは2004-2005年をめどに、日本市場に医薬用のシワ取り薬を投入する…『ボトックス』(製品名)は眉間(みけん)のシワに有効といわれ…」の記事(平成13年8月16日付け日本経済新聞:甲第24号証の38)
e.「明日の医療/消える境界線」の見出しの下「どこから病気?どこまで健康?/治療の対象を広げる可能性がある主な治療法や医薬品/しわ取り/・米系アラガン/しわ取り薬『ボトックス』を国内で臨床試験中…」の記事(平成13年12月12日付け日経産業新聞:甲第24号証の43)
f.「世界の街から/ニューヨーク 毒素でつくる美ぼう」の見出しの下「…『顔の小じわをなくす』をうたい文句にした化粧品は数知れないが、効果のほどは多くの女性がご存じの通り…最近になつて注目されているのが『ボトックス』と呼ばれる薬品、目元や口元に注射すると、数分でしわが消え、半年は効果があるという。…」の記事(平成14年4月11日付け東京新聞:甲第24号証の48)
g.「みけんのしわとり薬、米で承認」の見出しの下「米製薬会社アラガンは成人男女のみけんにあるシワを改善する医療用医薬品が米食品医薬品局(FDA)から承認を得たと発表した。年内に米国内で「ボトックス・コスメティック」という製品名で販売する。日本でも子会社を通じて臨床試験を行っており、数年後の販売開始を目指す。…」の記事(平成14年5月8日付け日経産業新聞:甲第24号証の50)
h.「美容医療/注射で手軽にしわ取り ”若返り”に高まる期待」の見出しの下「…注射で簡単にしわが消せると今、女性の間で話題の『ボトックス』。これは筋弛緩作用のあるA型ボツリヌス毒素を製剤化したもので、まぶたの痙攣や痙性斜頸の治療薬として、すでに日本で承認されている薬だ。しかし、しわ取り目的での使用は承認されておらず…」の記事(平成14年6月12日付け産経新聞:甲第24号証の54)
i.「シワ・シミ老い払え/『抗加齢医療』に勢い」の見出しの下「…米製薬会社アラガンが開発したA型ボツリヌス毒素製剤『ボトックス』も患者への負担が少ない薬剤の一…」の記事(平成14年8月29日付け日経産業新聞:甲第24号証の65)
j.「ソニープラザ」(広告欄)において「アンチエイジング化粧品 肌の老化、若い女性も敏感」の見出しの下「肌の老化を防ぐ『アンチエイジング』化粧品は年々進化しています。プチ整形ブームで、筋肉をまひさせてしわを消すボトックス注射が、究極のアンチエイジングと話題になりました。…」の記事(平成15年12月2日付けMJ日経流通新聞:甲第24号証の96)
k.「しわ取り・肥満治療/『生活改善薬』普及は?」の見出しの下「…女性のみけんのしわを取る目新しい効能で注目されるのは、米系のアラガンが臨床試験を進めている『ボトックス』。国内ではすでに片側顔面けいれんなどの…」の記事(平成16年8月2日付け朝日新聞:甲第24号証の108)
l.「筋肉注射で肩こり解消/数日で効果表れ 3カ月以上持続」の見出しの下「…ボトックスは、ボツリヌス菌の毒素から生まれた…美容外科の分野では、顔のしわの治療剤として十年以上前から使用されている…また、一部美容外科などで、ボトックス使用を名乗りながら、正規の製造品でないものを使用している例も報告されているため…」の記事(平成16年9月9日付けフジサンケイ ビジネスアイ:甲第24号証の111)
m.「『輝き復活』身近に/手術、『プチ』…得意分野さまざま 信頼できる医師選びを」の見出しの下「…しわとたるみの治療と予防が注目されているのが『コラーゲン』と『ボツリヌス菌の毒素』(商品名ボトックス)による注射療法だ。…」の記事(平成16年10月4日付け毎日新聞:甲第24号証の117)
n.「美容整形関連の米イネームド買収/アラガンが高額対抗案」の見出しの下「…アラガンはしわ取り効果が数ヶ月間持続する『ボトックス』を製造している…」の記事(平成17年11月18日付け日経MJ:甲第24号証の160)
o.「病気に克つ! ボツリヌス毒素治療/九州厚生年金病院小児科・新生児科」の見出しの下「…ボツリヌス毒素といえば、強力な筋弛緩作用をもち、…近年、この働きが顔のしわ取りに効果的として、商品名の『ボトックス』が美容医学分野で話題となった…」の記事(平成17年12月19日付け産経新聞:甲第24号証の161)
B 雑誌における使用商標及び使用商品の美容整形等に関する記事
下記のとおり、雑誌記事中の化粧品の需要者と雑誌の購読者層が重なるといえる女性誌には、シワ取りの注射による治療についてのレポート記事が散見され、これらには、何れもその治療に使用する商品として使用商品が紹介されていることが認められる。
a.表題を「スキンケア革命。シワが消せる時代がやってきた!?」とし、「スキンケア」や「ケミカル・ピーリング」などの見出しと共に「2 BOTOX」の小見出しの下「…現在、アメリカで大流行しているボトックス。ボツリヌス菌の毒素をシワに注入する方法で…」の掲載記事(平成12年1月1日講談社発行「Grazia」:甲第26号証の9)
b.表題を「競争社会を勝ち抜く切り札/ボツリヌス菌のしわ取りが大人気」として「『BOTOX』というA型ボツリヌス菌を注射するしわ取り手術だ。…」の掲載記事(平成12年2月24日小学館発行「女性セブン」:甲第26号証の10)
c.表題を「話題のエステとビューティケア」とし「『BOTOX』というA型ボツリヌス毒素注射でしわが消えた/十仁病院・1か所3万円」の見出しの下「いま、アメリカで爆発的な人気を集めている、若返りの美容手術が『BOTOX』(ボトックス)注射。実はこれ、ボツリヌス菌から抽出した毒素を使ったしわ取り法なのだ…」)の掲載記事(これは上記見出しの7つの美容法にかかるレーポト記事の一番目に記載)(平成12年6月29日・7月6日号小学館発行「女性セブン」:甲第26号証の13)
d.表題を「先取り TOPICS」とし「しわとりだけじゃない ボトックスの可能性」の見出しの下「先日ロサンゼルスで米国内の医師を招いて行われた、ボトックス(ボツリヌス菌注射の商品名)製造会社による認可前会議に参加した高梨真教院長…」の記事ほか美容医療に関する特集レポート記事(平成14年5月2日号小学館発行「女性セブン」:甲第26号証の35)
e.表題を「整形美人クイズ」とし「メスなしでできるプチ整形はメイク感覚」の見出しの下「ボトックス注入による患者の整形前後の顔写真」などの美容医療に関する特集記事、その特集中の「高須クリニック」他3箇所の美容整形外科の施術に関する価格表示には、いずれも「ボトックス」がその施術価格と共に表示されている(平成14年7月11日号小学館発行「女性セブン」:甲第26号証の41)。
f.表題を「小顔、二重、歯の美白etc. 話題の新美容法でさらにキレイに!/安心のお手軽整形最前線」とし、「ボトックス」の見出しの下「これまでの治療で最高の効果があります/そもそもボトックスとはボツリヌス菌から抽出されるタンパク質の一種で、医療現場では昔から使われていました。美容の分野に登場し注目されはじめたのは一昨年からです。…」(平成15年4月21日号角川書店発行「chuchu」:甲第26号証の54)
g.標題を「美への執念」として「日本ではプチ整形の代名詞となり、アメリカではしわ取りの注射として年間100万人以上が施術を受けているいると報告されるボトックス…」とする施術を受けていると思しきハリウッドスターについての記事(平成15年7月17日号小学館発行「女性セブン」:甲第26号証の58)
h.表題を「シワとり隊が行く」として「調査報告その1 私たちのシワはどうしたらなくなるの?」の見出しの下「【注3】ボツリヌス毒素注射/通常『ボトックス』『ディスポート』と製品名で呼ばれている…」などのほか「調査報告その2 化粧品でどこまでシワは薄くなる?」の見出しの下「…”ボツリヌス毒素注射”の医療技術を化粧品に応用し、額、目元、口元の表情シワ定着を阻む。」ことを謳ったヘレナルビンスタイン化粧品ほか、シャネル、イブ・サンローラン・バルファン、ランコム、ゲランほかの多数の化粧品メーカーのシワに関する商品が紹介されている美容特集とする記事(平成15年8月1日アシェット婦人画報社発行「婦人画報」:甲第26号証の60)
i.表題を「science」として「時代はいまグローバルビューティー」の見出しの下「…一大ブームを巻き起こしたしわ取り製剤ボトックスのメーカー、アラーガン・ファーマティカルの美容用医薬品の売り上げは年間5億ドル近い、しかも、そのうち3割をアメリカ国外の売り上げが占めている…」(平成15年11月19日阪急コミュニケーションズ発行「ニューズウイーク日本版」:甲第26号証の66)
j.表題を「いまや、カラダをプチ整形する時代!/その実態は?」として「食中毒の原因・ボツリヌス菌を注射!?筋肉が萎縮して、ふくらはぎがほっそり」の見出しの下「顔のシワのプチ整形で有名な『ボトックス』。これがふくらはぎを細くするのにも効くと聞いて…」などの緊急特集とする記事(平成16年1月14日マガジンハウス発行「Hanako」:甲第26号証の67)
k.「『塗るアンチエイジング』は10年先の常識になるか?」の見出しの下「額や目尻などのシワ取り治療として注目されるボトックスが、塗るだけで効果が得られるようになった。…」及び「…ボトックスを特殊な経皮吸収剤、及び溶解剤とブレンドさせることで、皮膚の真皮層にまで浸透させて筋肉の収縮に作用をもたらす。…」などの掲載記事(平成16年5月1日小学館発行「Precious」:甲第26号証の74)
l.美容内科・皮膚科「衣理クリニック」の紹介記事において「ボトックス注射」診療代や「シワに関する化粧品の紹介」などの掲載記事(平成18年2月1日集英社発行「メイプル」:甲第26号証の102)
C 書籍等における使用商標及び使用商品の美容整形等に関する記事
a.「2003年には全米でおよそ643万2,000件行われた非外科手術的方法による美容整形のなかで、『BOTOX』が使用されたのはおよそ227万2,000件に達していること」等を掲載内容とした米国美容形成外科学会(ASAS)発行に係る2003年度美容整形テータ集とする文献(甲第13号証)
b.「…現在、日本ではボトックス(右上に○R記号)注100(発売元:アラガン株式会社)が、唯一臨床現場で使用できる薬剤として販売されています。…」「…(おそらく個人輸入されたボツリヌス毒素を用いた)美容目的の使用がメディアでしばしば採り上げられるなど、日本のボツリヌス治療には、明らかな「ねじれ」がみられます。…」等の掲載がある題号を「ボツリヌス治療のQ&A」(著者 目崎高広 2003年3月15日発行:甲第25号証の2-1)とする書籍
c.「…アラガン(株)のボツリヌス毒素製剤の製品概要には、…」(143頁)「…美容の分野での応用が検討され、熱い注目を浴びています。とくに『シワ取り剤』として美容関係ではよく紹介されているので、ご存じの方も多いのではないのでしょうか。…」(150頁)及び「…シワ取り剤として、海外では注射やジェル配合剤の形態で、ボツリヌス毒素が使用されています。日本でも個人輸入された製品が市場に出回り、美容整形外科の分野での『ボトックス』の知名度は非常に高いものがあります。…」(154頁)等の掲載がある題号を「気になる『けいれん』を治す本」(株式会社リヨン社 発行:甲第25号証の2-2)とする書籍
d.「…〈ボトックス〉といえば多くの女性が知っていると思います。なぜなら、この薬は表情筋をゆるめてシワを取ることで有名になった商品だからです…ボトックスというのはアメリカのアラガン社という製薬会社が発売している商品の名前です。…」(11頁)等の掲載がある題号を「ボツリヌス治療の最前線」(2005年3月10日講談社発行:甲第25号証の2-3)とする書籍
上記の新聞、雑誌等の掲載記事の他、検索エンジン(YAHOO!)により「ボトックス」を検索した結果(甲第22号証)として、2004年7月から9月の時点において、複数の美容整形外科がボトックス注射を使用し、その効果を宣伝していることが確認できる。そして、そのボトックス注射は請求人の商品であるとの紹介又は、その関連を窺わせる表示をしていることが認められる。
D ウェブサイトにおけるボトックスの検索結果
請求人提出の検索エンジン「Yahoo」におけるボトックスの上位20件の検索結果一覧(甲第22号証)によれば、2004年10月1日の時点で、ボトックスで検索した結果のページが20221件あること、そして、上位20件についていえば、その大半が美容整形に関するものであって、ボトックスを「注入」、「ボトックス注射治療」及び「A型ボツリヌス菌」等の文字と共に紹介され、請求人の使用商品であることが窺われる説明がなされており、また、その内の1件には、「…当院のボトックスは米国アラガン社製の「BOTOX」を使用との説明がなされている。
エ 小括
以上のとおり、請求人の主張及び甲各号証を総合勘案すれば、使用商標は、請求人であるアラーガン社が製造し、アラガン(株)又はグラクソ社が日本で輸入販売している眼瞼や顔面の痙攣、痙性斜頸等の治療に用られるボツリヌス菌の毒素を応用した注射剤について使用する商標として、当然に医師、薬剤師などの医薬品を扱う者及び当該患者にはよく知られていたものということができる。
また、使用商品は、我が国で認可されている眼瞼や顔面痙攣等の治療用としてのみでなく、米国にあっては、非外科手術的方法による美容整形のなかで筋弛緩作用の応用によりシワを消すなどの用途もっても使用されるようになり、この影響を受けて我が国においても、美容整形外科、皮膚科等の医療機関が個人輸入等を通じて使用商品を入手し、プチ整形などと称しこれを使用した施術を行っていること、そして、一般新聞紙(全国紙、地方紙)、女性誌を含む大衆紙のメディア及びウェブサイトにおいて、その施術の方法、効果・効能等が多く報道されている事実が認められる。
そうすると、使用商標及び使用商品は、美容整形を行う医療機関や当該施術を希望する女性はもちろんのこと、週刊誌の購読者である若い女性や中高年女性にもよく知られた存在となっているとみて差し支えないものということができる。
したがって、使用商標は、請求人がボツリヌス毒素を有効成分とする眼瞼や顔面痙攣等の医療用ないし美容外科用医薬品に使用する商標として、本件商標の登録出願時には、我が国において、美容整形を含む医療関係者や医薬品を取り扱う業者及び美容に興味を持つといわれる女性需要者層には、広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録時においても継続していたものというのが相当である。
(2)本件商標と使用商標との比較
ア 本件商標について
本件商標は、促音「ッ」を含め片仮名7字により「ミチボトックス」と書した構成からなるものである。そして、その構成全体の綴りをもって、特定の意味合いを有しない造語ということができる。
イ 使用商標について
使用商標は、欧文字5字からなる「BOTOX」と促音「ッ」を含め片仮名5字よりなる「ボトックス」を構成文字とするところ、「BOTOX」の語は、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)に由来する請求人の創造語であり、如何なる辞書等にも掲載されていないものであって、ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤の商品名として採用し、その片仮名表記が「ボトックス」であろうとする点は是認でき、いずれも独創的な商標と印象付けられるということができる。
そして、使用商標は、前記(1)の認定のとおり、美容整形を含む医療関係者や医薬品を取り扱う業者及び美容に興味を持つといわれる女性需要者には、広く認識していたものと認められる。
ウ 両商標の対比について
そこで、本件商標と使用商標中の「ボトックス」とを対比すると、その構成文字において、上記のとおり本件商標を構成する片仮名7文のうち後段5字と使用商標を構成する片仮名5字とが悉く同一にし、僅かに冒頭の「ミチ」の2字が相違するということはできる。
そして、本件商標からは「ミチボトックス」の称呼が生じ、使用商標からは「ボトックス」の称呼が生じるところ、両者は冒頭の「ミチ」の有無にその差異があるとしても、前者を称呼するときは「ミチ」と「ボトックス」とに段落をもって称呼し、かつ、その相違によって共通する「ボトックス」の称呼部分が埋没して聴取されるようなことはなく、明瞭に聞き取れるものであり、両者が顕著に異なるとの印象を聴者に与えることはないというべきである。
(3)出所の混同を生ずるおそれについて
ア 医薬品の需要者
請求人の使用商品は、日本において認可された処方医薬品として使用される場合には、被請求人の主張のとおり、その需要者は、主に医師、薬剤師などの医療を扱う専門職に携わる者及びその医療を受ける患者にとどまるものといえる。
しかしながら、使用商品は、日本では認可されていないが、米国では美容外科用医薬品として認可され、これを美容外科、皮膚科等の医療機関が個人輸入等を通じて入手し、シワ取り等の医療行為を行っていることから、これを患者自らが直接的に認可を受けた医療用医薬品として購入することはないとしても、当該医薬品を施される患者は、それを十分に熟知し了解した上で施術を受けるものであるから、間接的といえどもその需要者に含まれるというべきである。かつ、この美容外科用医薬品と化粧品の取り扱いに係る特殊性の関係やその流通経路の相違性等を考慮しても、殊更に化粧品の需要者になり得ないとすべき格別の事情は見出せない。
イ 美容整形と化粧品の関連性
そして、美容整形のうち、いわゆるプチ整形の施術を希望する者は、「ボトックス」がボツリヌス毒素を有効成分とする眼瞼や顔面痙攣等の医療用医薬品であり、その筋弛緩作用の応用によりシワやたるみの除去などの美容整形にも適応することや、メス不要の手軽さ、あるいは米国において承認されているシワ取り治療についての事情などを新聞・雑誌など各種情報により、十分に理解し把握してこれにあたるものと理解され、また、そのシワ取りの施術を受ける目的は、美しい容貌を得るためのものということができる。
他方、化粧品の中には、本件商標を付した商品(甲第51号証、甲第52号証、甲第54号証)以外にも、例えば、「…『顔の小じわをなくす』をうたい文句にした化粧品は数知れないが…」の記事(甲第24号証の48)、「…米食品医薬品局(FDA)がボトックス(しわ取りに効果があるボツリヌス毒素の商品名)を化粧品として認可したからといって…」の記事(甲第24号証の49)、「…シワ取り剤として、海外では注射やジェル配合剤の形態で、ボツリヌス毒素が使用されています。…」の記事(甲第25号証の2-2)、「調査報告その2 化粧品でどこまでシワは薄くなる?」の見出しの下「…”ボツリヌス毒素注射”の医療技術を化粧品に応用し、額、目元、口元の表情シワ定着を阻む。」ことを謳ったヘレナルビンスタイン化粧品ほか、シャネル、イブ・サンローラン・バルファン、ランコム、ゲランーほかの多数の化粧品メーカーのシワに関する商品が紹介されている美容特集とする記事(甲第26号証の60)、「額や目尻などのシワ取り治療として注目されるボトックスが、塗るだけで効果が得られるようになった。…」の記事(甲第26号証の74)ほか、美容内科・皮膚科クリニックの紹介記事において「ボトックス注射」診療代や「シワに関する化粧品の紹介」の記事(甲第26号証の102)などのように、シワを消すことや緩和、あるいは目立たないようにする商品が存在することが窺えるものである。
以上の新聞・雑誌などによれば、美容整形と化粧品とを混在させて紹介されている情況も窺われ、少なくとも「ボトックス」に係る美容整形とシワを消すことや緩和、或いは目立たないようにする化粧品との関係は、美容というジャンルにおいてその用途及び目的が同一であり、かつ、いずれも顧客ターゲットが主として中高年層の女性とみられるから、両者の関連性の程度は強いものといい得るところである。
ウ 美容整形と化粧品の需要者
そして、一般に女性であれば日常ごく自然に化粧をするものであり、女性は老若をとわずその多くは化粧品の需要者ということができ、かつ、上述のとおり請求人の使用商品の存在は、女性誌ほかの各種の雑誌・新聞などの露出度からして、中高年の女性に限らず多くの女性に広く知られるところであって、また、これらの女性は、直ちに美容整形の施術を受けることがないとしても、これに強い関心を抱くものが含まれるものといえるから、両者の需要者は、女性層の多くを共通にすることがあるということができる。
また、その需要者は、美容に強い関心を持つとしても、必ずしも化粧品と医薬品の定義やその違いを明確に把握する注意力が備わるともいい難いものである。
エ 小括
以上のとおり、使用商標の周知・著名性、その独創性、ボトックスの文字を含む本件商標の構成、両商標に係る商品の用途及び目的における関連性及び需要者の共通性を総合的に勘案すれば、本件商標をその指定商品について使用するときは、これに接する取引者・需要者は、その構成中の「ボトックス」の文字部分に強く惹かれ、広く認識されている使用商標を連想・想起し、該商品が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとくその出所について混同を生じるおそれがあるものといわなければならない。
これに対し、被請求人は、化粧品については、「アルジルリン(登録商標、以下同じ)」を成分とするものが「ボトックス」又は「塗るボトックス」として周知となっているから、本件商標を化粧品について使用しても、これに接する需要者が請求人の出所に係る商品として認識することはない旨主張し、ウエブサイトの検索結果(乙第11号証ないし乙第15号証)を提出しているが、それらの検索結果によれば、「アルジルリン」を成分とする化粧品の多くは、「塗るボトックス」と表示されており、また、「塗る」の文字が冠されていないとしても、例えば、「アルジルリンはボトックスに近い効果のある物質です。」、「…アルジルリンでボトックス効果を」及び「アルジルリンは…今やボトックスに変わる表情シワ治療の新成分として確かな地位を確立…」などのように、それらの商品が使用商品の効果・効能に依拠したものであることを理解、認識させるような表示方法で使用されているものがほとんどであるから、これらの証拠をもって、「ボトックス」がアルジルリンを成分とする化粧品として周知になっていると認めることはできず、前記の、本件商標が請求人の出所に係る商品であると誤認・混同を生じるおそれがある旨の認定を覆すことはできない。
また、被請求人は、本件商標については、本件審判請求と事実上同一の主張と証拠に基づいて申立てられた商標登録異議申立が商標登録を維持するとの決定がなされている旨主張するが、本件審判請求については請求人から新たな証拠が提出されており、また、そもそも異議申立と無効審判とは性質の異なる手続であり、両者の間に商標法第56条において準用する特許法第167条に規定するような効力(一事不再理)は有さないのでこの原則は適用されないから、被請求人のこの点についての主張は採用の限りでない。
2 結び
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
なお、被請求人は、審理終結通知後に申立の理由を「追って補充する。」とする審理再開申立書(平成21年1月19日差出)を提出したが、その後被請求人から何の書面の提出もないので審理再開の必要は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2009-01-06 
結審通知日 2009-01-09 
審決日 2009-02-17 
出願番号 商願2005-45044(T2005-45044) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y03)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 正和 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 久我 敬史
矢澤 一幸
登録日 2006-03-03 
登録番号 商標登録第4932458号(T4932458) 
商標の称呼 ミチボトックス 
代理人 森山 陽 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 中村 稔 
代理人 松尾 和子 
代理人 井滝 裕敬 

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