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審決分類 審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない Y07
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Y07
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない Y07
管理番号 1195423 
審判番号 無効2007-890179 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-11-29 
確定日 2008-12-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第4899797号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4899797号商標(以下「本件商標」という。)は,「オレンジピン」の文字を横書きしてなり,平成17年6月30日に登録出願,第7類「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具,その他漁業用機械器具」を指定商品として,同年10月7日に設定登録され,その後,その商標権は,第7類「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具,その他漁業用機械器具但し,漁業用機械器具(『ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具』を除く。)を除く」を指定商品とする登録第4899797号商標の1(以下「本件商標分割1」という。)と,第7類「漁業用機械器具(『ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具』を除く。)」を指定商品とする登録第4899797号商標の2(以下「本件商標分割2」という。)に分割され,その登録が同20年4月30日にされたものである。(なお,本件審判の請求日は,同19年11月29日である。)

第2 請求人の主張の要点
請求人は,「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て,その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ,証拠方法として,甲第1ないし8号証(枝番を含む。但し,枝番の全てを引用する場合は,その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は,商標法第3条第1項第3号又は同第6号に該当し,かつ,同法第4条第1項第16号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録を無効にすべきものである。
(2)無効理由
本件商標は,「オレンジピン」の文字を普通に用いられる方法により表示した標章のみからなるものであり,その構成文字全体より,「オレンジピン」の称呼及び「オレンジ色のピン」の観念を生ずるものである。
本件商標は,その指定商品中の「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」を取り扱う業界(以下「当業界」という。)において,これに接する取引者,需要者間で,長年(ほぼ20年)にわたって,「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」(以下「本件商品」という。)の一般名称,呼び名,目じるし,俗称として顕著な事実で,誰もが広範に使用している「ピン」の文字と,数種類ある当該ピンの太さ,径が一目瞭然と分かるようにするために,ピンの太さ,径を色で区別し呼称するようにした,オレンジ色をした単なる「商品の色彩」を表す「オレンジ」の文字とを結合しただけのものである(甲第5ないし7号証)。
すなわち,本件商品であるピンの強度,耐用期間の色別の呼称,一般名称,呼び名,目じるし,俗称として,例えば,本件商標と同じオレンジピンの呼称のものは当該ピン状の係止具の太さが12ナイロン製(66ナイロン製より強度のある材質)の1.6ミリのものをいい,これ以外にも,例えばグリーンピンの呼称のものは当該ピン状の係止具の太さが66ナイロン製の1.6ミリのものをいい,バイオレットピンの呼称のものは当該ピン状の係止具の太さが12ナイロン製の1.5ミリのものをいい,ピンクピンの呼称のものは当該ピン状の係止具の太さが12ナイロン製の1.8ミリのものをいうだけのものである。
したがって,商品「ピン」,すなわち,本件商品の単なる一般名称と当該商品の単なる色彩(品質)のみからなる本件商標は,取引者,需要者間において,商品「ピン」,すなわち,本件商品の太さ,径,強度,大まかな耐用期間を誰にも分かり易いように一般的に表す色別の呼称,一般名称,呼び名,目じるし,俗称として,養殖ほたて貝の養殖場の潮の流れの強い,弱いの区別,ほたて貝養殖場の規模の大・小の区別,養殖場の深い,浅いの区別,養殖ほたて貝自体を大きく養殖する場合・小さく養殖する場合の区別などに応じて,どの色のピンを使用するかが決められているというのが実情である。
本件商品の太さや径の色別の呼称,一般名称,呼び名,目じるし,俗称は,どの漁場における養殖用ほたて貝のピンには,どの太さのピンを使用したのかが一目瞭然に分かるように,当該ピンの太さを区別するために,漁業関係者間からの声や要望で呼称され出したものである。
本件商品は,甲第2号証から明らかなとおり,ピン状,ピン形態のものであり,養殖用の帆立貝の耳吊り係止具である。
そして,ピン(pin)とは,国語辞典によれば,「つき刺したりはさんだりして物を留める(止める)用具。物を差し留める(止める)針。部材を接合するために端にある穴に挿入する細い丸い鋼。ある部分を固定するために穴に差し通す細い棒。等々」の意味があり,まさに本件商品もその一例として包含されるものである。
ここに,商品の一般名称,呼び名,目じるし,俗称として誰もが広く使用している「ピン」の文字と,取引者,需要者間において一目瞭然とピンの太さ,径が分かるようにするために数種類ある当該ピンの太さ,径を色で区別し呼称するようにした単なるオレンジ色をした「商品の色彩」を表す「オレンジ」の文字とを結合しただけの本件商標をその指定商品中「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」に使用しても,単に商品の色彩,品質(ピン径の種類),形状(ピン径の種類)を表示するにすぎないものであることは明らかである。
そして,このような本件商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引者,需要者は,前記実情から,本件商標は,同種商品の色彩,品質(ピン径の種類),形状(ピン径の種類)等を表示するために用いられている表示の類の一であると把握,認識するに止まり,自他商品の識別標識としての機能を有しないものであり,その指定商品について使用しても,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものである。
したがって,本件商標は,自他商品の識別標識としての機能を有しないものであるから,商標法第3条第1項第3号又は同第6号に該当するものであることは明らかであり,さらに,本件商標を前記「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」以外の指定商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるものであるので,同法第4条第1項第16号に該当するものであることは明らかである。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第3条第1項第3号について
ア 被請求人は,本件商品を開発したのは被請求人の代表者であり,被請求人の代表者が考案するまで定まった本件商品の商品名は存在しなかった旨主張するが,被請求人の上記主張は誤りである。
被請求人には,甲第2,5,6,8号証に示すような本件商品の開発をする技術,設備等は全くなく,被請求人が本件商品の開発を行えるはずはない。本件商品の開発は請求人が行ったものであり,本件商標自体も,取引者,需要者間において誰もが一目瞭然とピンの太さ,径を色別で分かるようにするために,請求人が使い出したものである。
イ 被請求人は,本件商品を単独でピンと呼んでいた事実はなく,ピンは,本件商品の一般名称,商品名ではない旨主張する。
しかし,甲第7号証等からも明らかなとおり,本件商標の出願前から,甲第8号証に示す本件商品を単独でピンと呼んでいたのは事実である。
ウ 被請求人は,本件商標中のオレンジは,商品の色彩ではない旨主張し,さらに,本件商標は,本件商品の一般名称「ピン」と色彩を表す「オレンジ」との文字の組み合わせではない旨主張する。
しかし,「オレンジピン」なる語は,取引者,需要者が一目瞭然とピンの太さ,径を色別で分かるようにするために,請求人が使い出したものである。
エ 被請求人は,本件商標は,その出願前に誰もが広く使用していた事実はなく,被請求人だけが使用してきた商標である旨主張するが,前記のとおり,被請求人の上記主張は誤りである。
オ 被請求人は,甲第5ないし7号証は証拠となり得ない旨主張する。
しかし,請求人は,単に無効理由のある商標登録を無効にすべきことを適法に請求し,その証拠として,甲第5ないし7号証を提出したものである。
カ 被請求人は,請求人の「ピンクピン」等の使用は違法な使用であり,違法行為をもって権利主張することは権利濫用である旨主張する。
しかし,前述のように,本件商品の開発は,請求人が行ったものであると共に,本件商標自体も,取引者,需要者間において誰もが一目瞭然とピンの太さ,径を色別で分かるようにするために,請求人が使い出したものである。したがって,請求人は,被請求人の承諾を何ら必要とすることなく「ピンクピン」等の使用ができる者であり,その使用は全く正当なものである。
ちなみに,請求人の当該「ピンクピン」等の正当な使用行為と,本件審判とは全く別問題である。請求人は,単に無効理由のある商標登録を無効にすべきことを適法に請求しているだけのことである。したがって,請求人の本件審判の請求は,何ら権利濫用でないことは明白である。
キ 被請求人は,甲第7号証の1の証明者が扱ってきたオレンジピン等は全て被請求人の商品である旨主張するが,請求人は,単に無効理由のある商標登録を無効にすべきことを適法に請求し,その証拠として,甲第5ないし7号証を提出したものである。
ク 被請求人は,甲第7号証は偽証である旨主張する。
しかし,甲第7号証は,単に無効理由のある商標登録を無効にすべきことから,作成者によって真摯に作成されたものであり,作成者の人権,人格にもかかわる事項であるから,甲第7号証が偽証である旨の被請求人の主張の撤回を強く求める。
また,被請求人は,甲第7号証に添付の「ピン一覧」は証拠となり得ない旨主張するが,該「ピン一覧」は,請求人が作成,配布した事実としての書面そのものである。
ケ 被請求人は,本件商標は造語商標であり,商標法第3条第1項第3号に該当しない旨主張する。
しかし,請求人が無効理由で詳述しているように,本件商標は,その出願前,商品の一般名称,呼び名,目印,俗称として誰もが広く使用している「ピン」の文字と,取引者,需要者が一目瞭然とピンの太さ,径が分かるようにするために数種類ある当該ピンの太さ,径を色で区別し呼称するようにした単なるオレンジ色をした「商品の色彩」を表す「オレンジ」の文字とを単に結合したものであり,単に商品の色彩,品質(ピン径の種類),形状(ピン径の種類)を表示するにすぎないものであることは明らかである。
(2)商標法第3条第1項第6号について
被請求人は,本件商標は造語商標で,被請求人の周知,著名なものであるので,商標法第3条第1項第6号に該当しない旨主張するが,請求の理由で述べたとおり,本件商標は,単に商品の色彩,品質(ピン径の種類),形状(ピン径の種類)を表示するにすぎないものであるから,需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができない商標である。
(3)商標法第4条第1項第16号について
被請求人は,本件商標は,指定商品の色彩,品質,形状を表示するものではないので,商標法第4条第1項第16号に該当しない旨主張するが,前述のとおり,本件商標は,単に商品の色彩,品質(ピン径の種類),形状(ピン径の種類)を表示するにすぎないものであることは明らかであるから,商品の品質について誤認を生じさせるものである。
(4)拒絶事例について
被請求人は,請求人が挙げた拒絶事例について,事例が異なるので,同類に判断されるべきではない旨主張する。
しかし,請求人は,甲第3,4号証に示す拒絶事例と本件とは,同種のものであり,本件商標は無効理由を有し無効とされるべきであると確信する。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を次のように述べ,証拠方法として,乙第1ないし18号証(枝番を含む。但し,枝番の全てを引用する場合は,その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求人は,本件商標中の「ピン」の文字は,本件商品の一般名称,呼び名,目じるし,俗称であるというが,それは誤りである。
(1)本件商品の開発
本件商品は,被請求人の代表取締役である杉山弘昭(以下「杉山」という。)が考案したものである。本件商品を考案する以前は,帆立貝耳吊り養殖用に使用されていたのは釣り用のテグス(ナイロン糸)であった。杉山は,テグスを帆立貝耳吊り養殖に使用する場合の諸問題を解決すべく考案したのが本件商品であり,これについて実用新案登録をした(乙第1号証)。
(2)帆立貝係止具の名称
ア 杉山考案の本件商品は,それまで当業界には殆ど流通していなかったため,本件商品の商品名として定まったものは存在しなかった。そのため杉山は,実用新案出願時の考案の名称を「漁業用紐」としたが,特許庁の審査官から「テグス」ではないかと指摘され,「てぐす」に補正して登録された経緯がある(乙第2号証)。その後の他社出願では,「貝の養殖用テグス」(乙第3号証),その後の杉山の出願では「貝係止具」(乙第4,5号証),「てぐす」(乙第6号証),「貝類養殖用係止具」(乙第7号証)とし,請求人の代表取締役である並木敏夫(以下「並木」という。)の出願でさえ「通し棒」(乙第8号証),「貝類挿入止具」(乙第9号証)としてある。昭和61年頃になって,被請求人においては,「あげ付きテグス」,有限会社山道商会で「ホタテ耳吊用テグス」と呼ぶようになった(乙第10号証)。その後,杉山は,「アゲピン」を商標登録した(乙第11号証)。本件商品には,前記のように当業界で通用する商品名はなく,取引業者や需要者が勝手に商品名をつけていたのが実情であり,少なくとも単に「ピン」とのみ呼ばれたことはなく,「ピン」という商品名は存在しない。請求人は「ピン」という名称は,本件商品の一般名称,俗称,呼び名であるこというが,そのような事実はない。
イ 請求人は,甲第2号証の2ないし8をもって,それらに表示されている貝掛止具が「ピン形態」であるというが,それらのどこにも貝掛止具の名称として単独の「ピン」は使用されていない。甲第2号証の2ないし4,6では「係止ピン」,同号証の5,7では「吊りピン」,同号証の8では「養殖用吊ピン」である。
(3)「ピン」の一般的意味合い
請求人は,「ピン」を本件商品の一般名称等であると主張するが,一般名称というのは,例えば,「林檎」や「釘」という商品に対する「りんご」,,「くぎ」というように,名称のみで具体的商品を特定できるものをいう。この点,「ピン」はそれのみではどのような商品を指称するのか理解できない。「ピン」は,「ヘアピン」,「ゴルフ用ピン」というように,用途を限定する語句を伴うことによって始めて具体的な意味内容をもつ。
したがって,本件商品についての「ピン」もそれ自体では,本件商品を特定することはできないので「ピン」は,本件商品の一般名称,商品名ではない。一般名称,商品名でないものが,略称,呼び名となることもない。要は,「ピン」という名称の商品は存在しない。
そうであれば,本件商標「オレンジピン」中の「ピン」は,本件商品の一般名称,呼び名,目じるし,俗称のいずれでもない。
2 請求人は,本件商標中の「オレンジ」は,本件商品の太さ,径を区別するための「商品の色彩」を表すものとして,当業界において使用されてきた旨主張するが,それも誤りである。
(1)商品の色彩表示であるか否かは指定商品との関係で解釈されるべきである。本件商品は殆どが樹脂製である。樹脂の色は,もともとナチュラル(無色透明に近い)であり,これを原材料とする本件商品も本来はナチュラルである。
したがって,本件商品の基本色がオレンジ色ということはあり得ず,「オレンジ」という色彩が本件商品との関係で必須の関係にはない。「オレンジ」の文字が包含されていることから,それが直ちに本件商品の色彩表示とすることはできない。
(2)本件商品の太さ,径の区別に必ず色彩が使用されるとは限らない。他社では,本件商品の太さ,径,材料等の区別に,K-4N黒,K-8N黒,K-5N青,K-7N青,KC-6N,NS-6,NS-7といった,アルファベットと数字と色の組み合わせを使用したり,アルファベットと数字の組み合わせを使用したりしており(乙第12号証),当業界では色彩だけで区別している例はない。
(3)前記(1)及び(2)より,本件商標中の「オレンジ」にオレンジ色という意味合いがあるとしても,それは直ちに本件商品の太さ,径を区別するための表示となるものとはいえない。「オレンジピン」なる商標は,当業界で使用された杉山独自のものであり,識別力を備えた特異な商標である。
したがって,本件商標について,商品の一般名称,呼び名,目じるし,俗称として誰もが広く使用している「ピン」の文字と,商品の色彩を表す「オレンジ」の文字とを結合したとする請求人の主張は誤りである。
3 請求人は,本件商標は,当業界において,本件商品の一般名称,呼び名,目じるし,俗称として,長年にわたって,誰もが広く使用していたとして,甲第5ないし7号証を提出する。
しかし,以下の理由から,これら証拠はいずれも前記事実を裏付ける証拠資料としては全く借信するに値しない。
(1)甲第5号証の1(包装箱)は,同号証の5(包装箱)の模倣である。そもそも,請求人は,昭和61年より平成18年まで,被請求人から受注した本件商品を成型し,成型品の全てを被請求人に納品してきた成型業者である(乙第13号証)。その当時,請求人は,成型した本件商品を甲第5号証の5(包装箱)に入れ,これをさらに甲第5号証の6(包装用大箱)に入れて被請求人に納品していた。そのため,甲第5号証の5,6のいずれにも「株式会社むつ家電特機」と表示されている。しかし,平成18年頃から,諸般の事情で,請求人は,被請求人への本件商品の納品を注文請書どおりに納品しなくなり,平成19年には一切納品しなくなった。また,請求人は,平成17年頃から,包装箱に「株式会社むつ家電特機」と「進和化学工業株式会社」と併記するようになり(乙第14号証),その後,「株式会社むつ家電特機」の社名を消して「進和化学工業株式会社」とのみ表記するようになった(甲第5号証の1ないし4)。
したがって,甲第5号証の1ないし4は,請求人が平成18年頃から使用し始めた包装箱であり,20年も前からの使用を立証するものではない。しかも,その包装箱には,被請求人の登録商標である「グリーンピン」「バイオレットピン」「ピンクピン」「ニコニコマーク」が無断使用されている。この使用は違法使用にほかならず,違法行為をもって権利主張することは権利濫用であって許されない。
(2)甲第6号証は,2004年11月30日から2005年8月31日までの請求書であり,20年も前からの使用を立証するものではない。上記請求書の宛先は(株)リーであり,並木が代表者を務める身内会社である(乙第15号証)。(株)リーに納品された本件商品がどの様な販売ルートで何処に販売されたか一切不明であるが,20年も前からの使用を立証する証拠ではない。
さらに,(株)リーは,被請求人とは関係のない法人である。それにも拘わらず,前記請求書には被請求人の登録商標である「オレンジピン」「グリーンピン」の商標が使用されている。この事実は,請求人及び(株)リーの商標権侵害行為を裏付けるものである。違法行為をもって権利主張することは権利濫用であって許されない。
(3)甲第7号証の1の証明者である神野魚網株式会社(以下「神野魚網」という。)及び同号証の2の証明者である株式会社コマツ(以下「コマツ」という。)は,共に平成2年頃から平成16年まで被請求人の販売代理店であった。したがって,上記証明書において証明者が扱ってきたというオレンジピン,グリーンピン,ピンクピン,バイオレットピンは,全て被請求人の貝係止具である。
さらに,甲第7号証の証明者の一人である有限会社シンワ(以下「シンワ」という。)は,平成16年(2004年)12月3日に設立された会社であり,被請求人の元社員であった田中孝俊,竹林政人が役員を務める会社である(乙第16号証)。
したがって,シンワは,会社設立前からオレンジピン,グリーンピン,ピンクピン,バイオレットピンという貝係止具を扱うことは有り得ない。それにも拘わらず,甲第7号証の1では,シンワは,2005年前のかなり前の時期から扱ってきた,とある。これは物理的に有り得ないことの証明であり偽証である。前記田中孝俊,竹林政人が2005年のかなり前の時期から扱ってきたのは,被請求人の元社員としてである。甲第7号証は,被請求人がいかに古くからオレンジピン,グリーンピン,ピンクピン,バイオレットピンという貝係止具を扱ってきたかを裏付けるものである。
シンワは,オレンジピン,グリーンピン,ピンクピン,バイオレットピンを扱ったと証明しているが,それは,シンワが被請求人の登録商標であるオレンジピン,グリーンピン,ピンクピン,バイオレットピン(乙第17号証の1ないし3)の無断使用(商標権侵害行為)であり,現在,東京地裁に提訴中(平成19年(ワ)第12683号商標権侵害差止等請求事件)の侵害行為である(乙第16号証)。
また,甲第7号証に添付の「ピン一覧」は,シンワ作成のものであり,その作成年月日も作成者も不明である。本件審判を請求するために作成されたものと推測され,証明書の内容である「2005年前のかなり前の時期から扱ってきた」ことを裏付ける証拠資料としては全く措信するに値しない。
(4)したがって,上記いずれの証拠からも,「オレンジピン」が20年も前から,むつ家電以外の者に正当使用されていた事実はない。
4 請求人は,本件商標は,指定商品「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用にほたて貝係止具」の色彩,品質,形状を表示するにすぎないので商標法第3条第1項第3号に該当するというが,前記のように,「ピン」という名称の貝係止具は存在せず,「オレンジ」が貝係止具の色と必然的関係もないため,本件商標は,色彩を表示する「オレンジ」と「貝係止具」を表示する「ピン」の組み合わせではない。また,「オレンジピン」は,本件商品の取引者,需要者間に一般名称として使用されている事実もない。
したがって,本件商標は,「オレンジピン」という全体で一つとなった造語であるから,指定商品の色彩,品質,形状を表示するものではなく,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
5 請求人は,本件商標は,指定商品について使用しても需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないので商標法第3条第1項第6号に該当するというが,「オレンジピン」が前記のように造語商標であるため,指定商品について使用しても,他人の商品と識別できることは明らかであり,実際に識別されている(乙第18号証)。また,被請求人は,「オレンジピン」を長年継続使用した結果,帆立貝耳吊り養殖業者間において信頼を得て「オレンジピン」といえば被請求人の貝係止具と認識されるほど,被請求人のブランドとして周知,著名になっている。これは,ライバル会社も認めている(乙第18号証)。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に該当しない。
6 請求人は,本件商標は,指定商品「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」以外の指定商品に使用した場合に,商品の品質について誤認を生じるものであるので,商標法第4条第1項第16号に該当するというが,前記のように,「オレンジピン」が指定商品の色彩,品質,形状を表示するものではなく,商標法第3条第1項第3号に該当しないものであるから,「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」以外の指定商品に使用しても品質の誤認を生ずることはない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号にも該当しない。
7 拒絶例
請求人は,本件商標と同種の商標登録出願の拒絶例として甲第3,4号証を上げているが,それら拒絶例はいずれも,本件商標とは事例を異にする。前記拒絶例はいずれも,指定商品と商標中の色彩表示と思われる部分とが密接な関係のあるものばかりである。これに対して,本件商標は,指定商品との関係で密接な関係があるものではない。
したがって,本件商標は,前記拒絶例と同類に判断されるべきものではない。
8 むすび
前述のとおり,本件商標は,全体が不可分一体に表された被請求人独自の造語であり,それ自体がオリジナリティーにあふれるものであることから,自他商品等識別力を有するものであり,また,商品の品質誤認を生じるということはない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号又は同第6号及び同法第4条第1項第16号のいずれにも該当せず,その登録は,無効とされるべきではない。

第4 当審の判断
1 本件商標に係る商標権の分割について
本件商標に係る商標権は,前記第1のとおり,本件審判が請求(請求日:平成19年11月29日)された後に,本件商標分割1に係る商標権と本件商標分割2に係る商標権とに分割され,その登録が平成20年4月30日にされたものである。そして、分割後の,本件商標分割1は,第7類「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具,その他漁業用機械器具但し,漁業用機械器具(『ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具』を除く。)を除く」を指定商品とするものであり,また,本件商標分割2は,第7類「漁業用機械器具(『ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具』を除く。)」を指定商品とするものである。
ところで,請求の理由によれば,請求人は,本件商標をその指定商品中の「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」について使用するときは,商標法第3条第1項第3号又は同第6号に該当し,また,上記「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」以外の指定商品について使用するときは,同法第4条第1項第16号に該当すると主張しているものと解される。
一方,商標権の分割は,その指定商品又は指定役務が二つ以上あるときは,指定商品又は指定役務ごとにすることができる(商標法第24条)から,本件審判において,審決をするにあたっては,分割後の商標権について検討をすべきであるところ,上記請求人の「商標法第3条第1項第3号又は同第6号に該当する」旨の主張は,本件商標分割1に係る指定商品についてその登録を無効とする,というものであり,また,同じく請求人の「商標法第4条第1項第16号に該当する」旨の主張は,本件商標分割1及び本件商標分割2に係る指定商品についてその登録を無効とする,というものと解される。
したがって,上記の点を踏まえ,以下,本件商標分割1及び本件商標分割2が請求人の主張する無効理由に該当するか否かについて検討する。
2 商標法第3条第1項第3号又は同第6号について
(1)本件商標分割1は,前記のとおり,「オレンジピン」の文字を横書きしてなるものであるところ,請求人は,該文字について,本件商標分割1の指定商品「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」(本件商品)を取り扱う業界において,商品の一般名称,呼び名,目じるし,俗称として広範に使用されている「ピン」の文字と,数種類ある該ピンの太さ,径を識別するための色彩表示である「オレンジ」の文字とを結合したにすぎないものであるから,これをその指定商品中の「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」について使用しても,単に商品の色彩,品質(ピン径の種類),形状(ピン径の種類)を表示するにすぎないものであり,また,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標である旨主張し,その事実を明らかにする証拠として,甲第2及び5ないし8号証を提出した。
そこで,本件商標分割1がその指定商品について使用した場合に,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであるか否かについて検討する。
(2)本件商品について
ア 甲第2及び5ないし8号証によれば,以下の事実が認められる。
(ア)甲第2号証は,本件商品に関連する特許公報,実用新案公報である。
(a)甲第2号証の1は,考案の名称を「養殖用貝係止具」とする実用新案公報(平3-23069,出願日:昭和59年1月18日。考案者,出願人が被請求人の代表者であることは争いのない事実。)である。
(b)甲第2号証の2は,発明の名称を「自動貝耳吊装置」とする特許公報(特許第2880989号,出願日:平成10年2月13日)である。
(c)甲第2号証の3は,発明の名称を「養殖帆立貝の係止ピン取付け方法」とする特許公報(特許第2940884号,出願日:平成3年3月28日)である。
(d)甲第2号証の4は,発明の名称を「自動貝耳吊装置」とする特許公報(特許第2981739号,出願日:平成10年5月15日)である。
(e)甲第2号証の5は,発明の名称を「帆立て貝取付装置」とする特許公報(特許第3420835号,出願日:平成6年7月11日)である。
(f)甲第2号証の6は,発明の名称を「帆立貝育成用吊下げ係止ピン」とする特許公報(特許第3520218号,出願日:平成11年3月1日)である。
(g)甲第2号証の7は,発明の名称を「帆立て貝取付装置」とする特許公報(特許第3540871号,出願日:平成7年10月13日)である。
(h)甲第2号証の8は,発明の名称を「養殖貝用の吊ピンの抜取装置」とする特許公報(特許第4005998号,出願日:平成16年10月19日)である。
(i)上記(a)?(h)を総合すると,本件商品は,垂直に垂らしたロープの数カ所に直角に挿入して取り付け,かつ,本件商品を帆立貝の耳部にあけた穴に通し,帆立貝の落下防止及び本件商品とロープとのずれ防止のために,突起を設けたものであり,全体の形状が細長く,いわゆるピン状の形態を有することが認められるが,上記発明及び考案において,これらを単に「ピン」と称している事実は認めることができない。
(イ)甲第5号証は,請求人の主張によれば,請求人の取扱いに係る商品「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」の包装箱とするものである(なお,甲第5号証の写真は,いずれも不鮮明な箇所が多くあり,書されている文字等が正確に把握できない箇所が多々ある。)。
(a)甲第5号証の1に示す写真中,左側上段のものには,左に,貝係止具が取り付けられた帆立貝のイラスト(以下「帆立貝イラスト1」という。)が描かれ,中央に,「グリーンピン」,「水色ピン」,「バラ色ピン」,「セピアピン」及び「10,000本入」の各文字が五段に横書きされ,その右に,「製造元 進和化学工業株式会社」及び「代理店 有限会社シンワ」などの文字が記載されている。
同左側中・下段のものには,左に,ロープに取り付けられた貝係止具に吊された帆立貝のイラスト(該イラストには,「ゆったりした空間でのびのび,すくすく成長」,「作業効率向上で省力化」及び「貝との摩擦が少なく」の各記述が添えてある。これらの記述を含めて,以下「帆立貝イラスト2」という。)が描かれ,中央に,「スーパー7MOMO」,「オレンジピン」,「バイオレットピン」,「水色ピン」及び「グリーンピン」の各文字が五段に横書きされ,その右に,「2000本入」及び「製造元/進和化学工業株式会社」などの文字が記載されている。
同右側上・下段のものは,左側中・下段のものと同一のものと認められる。
(b)甲第5号証の2に示す写真中,左側上段のものには,左に,帆立貝イラスト2が描かれ,中央に,「ピンクピン」の文字が横書きされ,その右に,「Shinwa」,「2000本入×50」及び「製造元/進和化学工業株式会社」などの文字が記載されている。
同左側中段のものは,上記上段のものの拡大写真と認められる。
同左側下段のものには,左に,帆立貝イラスト2が描かれ,中央に,「スーパー7MOMO」,「オレンジピン」,「バイオレットピン」,「水色ピン」及び「グリーンピン」の各文字が五段に横書きされ,その右に,「Shinwa」,「2000本入×50」及び「製造元/進和化学工業株式会社」などの文字が記載されている。
同右側上・下段のものは,左側下段のものと同一のものと認められる(右側上段のものは,左側下段のものの拡大写真と認められる。)。
(c)甲第5号証の3に示す写真は,甲第5号証の1の左側上段のものと同一のものと認められる。
(d)甲第5号証の4に示す写真中,左側上・下段のものには,最上段に「Shinwa」,「抜け落ち防止対策品!!」及び「(PAT.P)」の各文字が横書きされ,その下に,「つりピン」の文字,帆立貝イラスト1及び「代理店/有限会社シンワ」の文字が記載され,上記「つりピン」の文字の下には,「製造元/進和化学工業株式会社」の文字及び帆立貝のイラスト1,更にその下に「(10,000本入)」の文字が横書きされている。
同右側上段のものは,桃色地の包装箱であり,左に,帆立貝イラスト2が描かれ,中央に,「ピンクピン」の文字が横書きされ,その右下に,「2000本入り」及び「製造元/進和化学工業株式会社」などの文字が記載されている。
同右側中・下段のものは,甲第5号証の1の左側中・下段のものと同一のものと認められる。
(e)甲第5号証の5に示す写真は,上・中・下段のいずれにも,左に,帆立貝イラスト2が描かれ,右に,「グリーンピン2(実際の表示はローマ数字)」の文字が横書きされ,その下に,「2500本入」,「省力化機器」,「株式会社むつ家電特機」などの文字が記載されている。
(f)甲第5号証の6に示す写真は,左に,帆立貝イラスト2が描かれ,右に,「グリーンピン2(実際の表示はローマ数字)」の文字が横書きされ,その下の左には,「スーパー7MOMO」,「オレンジピン」,「バラ色ピン」,「水色ピン」及び「グリーンピン」の各文字が五段に横書きされ,同右には,「2500本入×40」,「省力化機器」及び「株式会社むつ家電特機」などの文字が記載されている。
(ウ)甲第6号証は,いずれも請求人(進和化学工業株式会社)から「(株)リー」に宛てた,「締日」を2004年11月30日から2005年8月31日までとする請求書(控)9通であるところ,これらの「商品コード・品名」欄には,「バラ色ピン」,「グリーンピン」,「オレンジピン」,「バイオレットピン」,「セピアピン」,「ピンクピン」及び「水色ピン」等のほか,「つりピン(グリーン)」及び「つりピン(藤色)」等の記載がある。
(エ)甲第7号証は,いずれも「帆立養殖用係止具(ピン)の色分けに対する,使用及び認識についての意見書」と題する書面であり,甲第7号証の1は,神野漁網とシンワの各代表者が連名で,また,甲第7号証の2は,コマツとシンワの各代表者が連名で証明したものである。
そして,その証明内容の要点は,上記会社は,2005年のかなり以前より「養殖ほたて貝の耳吊用の係止具」(本件商品と同種の商品と認める。)である「オレンジピン,グリーンピン,ピンクピン及びバイオレットピン」を取り扱っているところ,当業界では,係止具ピンの太さ,強度等により,上記のように色によって区別している実情にあり,このことはその顧客にも浸透している,というものであり,該事実を証明する証拠として,2005年2月に顧客や各漁業組合に配布されたとするシンワの作成に係る「ピン一覧表」を添付している。そして,該「ピン一覧表」には,「オレンジピン,グリーンピン,ピンクピン及びバイオレットピン」などの商品について,それぞれの太さ,強度などが示されている。
(オ)甲第8号証は,色彩を施した「貝係止具」の写真4葉である。
イ 乙第1ないし10,15及び16号証によれば,以下の事実が認められる。
(ア)乙第1号証は,考案の名称を「てぐす」とする実用新案公報(昭58-30461,出願日:昭和56年3月30日。考案者,出願人が被請求人の代表者であることは争いのない事実。)であり,「帆立貝の耳づり養殖で使用するてぐす」と認められるところ,出願の経緯(乙第2号証)等を総合すると,本件商品と同種の商品と認められる。
(イ)乙第3ないし9号証は,被請求人の代表者又はこれ以外(請求人の代表者を含む。)の出願に係る本件商品と同種の商品についての実用新案公報及び意匠公報であるところ,これによれば,考案の名称や物品の名称について,「貝の養殖用テグス」(昭和61年10月27日出願,乙第3号証),「貝係止具」(昭和62年1月13日出願及び平成5年4月13日出願(いずれも被請求人代表者),乙第4及び5号証),「てぐす」(昭和62年1月14日出願(被請求人代表者),乙第6号証),「貝類養殖用係止具」(昭和63年10月26日出願(被請求人代表者),乙第7号証),「養殖貝の耳吊り方法」(昭和59年11月15日出願(請求人代表者),乙第8号証),「貝養殖用係止具」(平成6年11月25日出願(被請求人代表者),乙第9号証)の名称が用いられ,「ピン」と称されていたものは存在しない。
(ウ)乙第10号証は,昭和61年6月23日付け週刊北海水産10頁であるところ,これによれば,被請求人は,帆立貝イラスト2と共に,「アゲ付テグス」の名称をもって,本件商品と同種の商品についての広告を掲載した。また,同頁には,他社の同種の商品について,「ホタテ耳吊用テグス」の名称で広告が掲載された。
(エ)乙第15号証は,株式会社リーの「履歴事項全部証明書」であるところ,これによれば,同社は,「合成樹脂製品の製造及び販売」等の目的をもって,平成1年4月21日に設立された会社であり,代表取締役は「並木敏夫」と記載されていることが認められ,同人が請求人の代表者であることについては争いのない事実である。
(オ)乙第16号証は,シンワの「履歴事項全部証明書」であるところ,これによれば,同社は,「ホタテ養殖資材,機器の販売及び修理」等の目的をもって,平成16年12月3日に設立された会社であり,代表者には,「田中孝俊」,「竹林政人」が名を連ねている(「田中孝俊」は代表取締役である。)ことが認められ,これらの役員が被請求人の元従業員であったことについては争いのない事実である。
(3)前記(2)で認定した事実によれば,以下のとおりである。
ア 本件商品の一般名称等が「ピン」であることについて
本件商品と同種の商品についての実用新案登録は,「てぐす」の考案の名称をもって,請求人の代表者である杉山により昭和56年3月30日に出願(登録第1535407号)されたものが最初であるところ,該実用新案出願はいうまでもなく,その他本件商品と同種の商品についての特許出願,実用新案登録出願,意匠出願のいずれにおいても,単に「ピン」と称している事実は見出せない。むしろ,「てぐす(テグス)」,「(貝)係止具」,「係止ピン」,「吊ピン」等の名称で使用されていたことが認められ,他に本件商品の一般名称等が「ピン」であると認めるに足る的確な証拠は見出せない。
したがって,本件商標分割1中の「ピン」の文字部分がその指定商品の一般名称等であるとする請求人の主張は採用することができない。
イ 「オレンジ」等の色彩表示が本件商品の規格(太さや強度等)を識別するものとして,当業界で広く認識されていることについて
「オレンジ」等の色彩表示が本件商品の規格(太さや強度等)を識別するものとして,当業界において使用されているとして請求人が提出した証拠は,以下のとおりである。
(ア)「オレンジピン」,「バイオレットピン」,「水色ピン」及び「グリーンピン」等の文字と共に,請求人の名称若しくは被請求人の元従業員が設立したシンワの文字が表示された包装箱,又は被請求人の名称が表示された包装箱(甲第5号証)。そして,請求人が本件商品を被請求人へ納品していた業者であったことについては争いのない事実である。
(イ)「バラ色ピン」,「グリーンピン」,「オレンジピン」及び「バイオレットピン」等の文字が表示された,請求人と請求人の代表者がその代表者となっている株式会社リーとの間の取引書類(甲第6号証)。そして,これらの取引書類は,一番古いもの(甲第6号証の1)でも,本件商標分割1の査定前1年にも満たないものである。
(ウ)被請求人の元従業員であったシンワの代表者が証明者の一人となっている「帆立養殖用係止具(ピン)の色分けに対する,使用及び認識についての意見書」と題する書面及びこれに添付されたシンワの作成に係る「ピン一覧表」(甲第7号証)。そして,これらの証明書は,被請求人の業務にかつて関係した者を含む3社(神野魚網及びコマツのいずれもが被請求人の元販売代理店であったことについては争いのない事実である。)にすぎないものであり,また,上記表題にある「帆立養殖用係止具(ピン)の色分けに対する,使用及び認識」を証明するためのものとして提出された「ピン一覧表」は,その配布時期を裏付ける証拠の提出はなく,さらに,例えば,どのような漁業組合に配布したのかなど具体的な配布状況を示す証拠の提出もない。
(エ)色彩を施した「貝係止具」の写真4葉(甲第8号証)であり,該「貝係止具」の製造者ないし販売者等,あるいは写真の撮影年月日等は明らかではない。
(オ)上記(ア)?(エ)によれば,これらの証拠は,いずれも請求人若しくはその関連会社,又は被請求人の元従業員若しくは元販売代理店であった者によるものと認められ,これらの証拠のみをもってしては,本件商標分割1の査定時において,「オレンジ」等の色彩表示が本件商品の規格等を表示するためのものとして,当業界において普通に使用され,広く認識されていたものとは到底認めることができない。
したがって,本件商標中の「オレンジ」の文字部分について,数種類ある本件商品の太さ,径を識別するための色彩表示として,当業界及びその需要者の間に20年以上にわたり広く認識されているとの請求人の主張は採用することができない。
(4)本件商標分割1について
以上によれば,本件商標分割1の査定時において,「ピン」の語は,本件商標分割1の指定商品の一般的名称等を表すものではなく,また,「オレンジ」の語は,本件商標分割1の指定商品の品質,用途,色彩等を表示するものではない。そして,本件商標分割1は,構成全体が外観上一体的に表されていることをも考慮すれば,構成全体をもって,一体不可分の造語を表したものと認識されるというべきである。
したがって,本件商標分割1は,これをその指定商品中「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」について使用しても,十分に自他商品の識別標識としての機能を発揮するものであるから,商標法第3条第1項第3号又は同6号該当するものと認めることはできない。
3 商標法第4条第1項第16号
前記2認定のとおり,本件商標分割1は,特定の商品の品質等を表示するものではなく,一体不可分の造語を表したものと認識されるというべきであるから,これをその指定商品中,前記「オレンジ色のほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」以外の「ほたて貝耳吊養殖用のほたて貝係止具」について使用しても,商品の品質について誤認を生じさせるおそれはないものであり,また,本件商標分割2についても,同様に,これをその指定商品について使用しても,商品の品質について誤認を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって,本件商標分割1及び2は,商標法第4条第1項第16号に該当するものと認めることはできない。
4 請求人の主張について
(1)請求人は,被請求人には,本件商品の開発をする技術,設備等は全くなく,本件商品の開発は請求人が行ったものであり,オレンジ等の色彩は,本件商品の太さ,径を色別で分かるようにするために,請求人が使い出したものである旨主張するが,その事実を明らかにする証拠の提出はないから,上記請求人の主張は理由がない。
(2)請求人は,本件商標分割1が自他商品の識別機能を有しないものであるとして,過去の審査例及び審決例を挙げるが,これらの事例は,本件とは指定商品が異なるばかりでなく,色彩表示部分と認められる文字と結合された他の文字が,指定商品との関係から比較的密接な関係にあるものと認められるものであるのに対し,本件商標分割1は,その構成中の「ピン」の文字部分が指定商品の一般的名称を表すものでなく,構成全体が造語を表したと認識される以上,請求人の挙げた事例は,本件とは事案を異にするというべきである。
5 むすび
以上のとおり,本件商標分割1の登録は,商標法第3条第1項第3号又は同第6号及び同法第4条第1項第16号に違反してされたものではなく,また,本件商標分割2の登録は,同法第4条第1項第16号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-09-30 
結審通知日 2008-10-03 
審決日 2008-11-06 
出願番号 商願2005-59779(T2005-59779) 
審決分類 T 1 11・ 16- Y (Y07)
T 1 11・ 13- Y (Y07)
T 1 11・ 272- Y (Y07)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 清 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 久我 敬史
木村 一弘
登録日 2005-10-07 
登録番号 商標登録第4899797号の1(T4899797-1) 
商標の称呼 オレンジピン 
代理人 小林 正英 
代理人 下山 冨士男 
代理人 前田 和男 
代理人 小林 正治 

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