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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効としない X09
管理番号 1195413 
審判番号 無効2008-890071 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-09-09 
確定日 2009-03-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5105442号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5105442号商標(以下「本件商標」という。)は、「レセプト先生」の文字を標準文字で表してなり、平成19年4月17日に登録出願、第9類「電気通信機械器具,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,電子出版物」を指定商品として、同年12月4日に登録査定され、同20年1月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第4706680号商標(以下「引用商標」という。)は、平成14年10月18日に登録出願され、「レセプト博士」の文字を標準文字で表してなり、第9類「電気通信機械器具,通信ネットワークを通じてダウンロードする電子計算機用プログラムを記憶させた磁気ディスク・磁気テープ・ICカード等の記録媒体,その他の電子計算機用プログラムを記憶させた磁気ディスク・磁気テープ・ICカード等の記録媒体,未記録の電子計算機用磁気ディスク・磁気テープ・ICカード等の記録媒体,通信ネットワークを通じてダウンロードする電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,通信ネットワークを通じてダウンロードする音楽,通信ネットワークを通じてダウンロードする映像,通信ネットワークを通じてダウンロードする電子出版物その他の電子出版物,新聞・雑誌・書籍・地図・写真等の画像情報・文字情報を記録させた磁気ディスク・光ディスク・光磁気ディスク,その他の録画済みビデオディスク及びビデオテープ,レコード,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,業務用テレビゲーム機,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM」を指定商品として、同15年9月5日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標に係る指定商品第9類『電気通信機械器具,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,電子出版物』についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第7号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 引用商標について
(1)請求人は、引用商標である「レセプト博士」を保有するものである。
(2)引用商標「レセプト博士」と「レセプト先生」の使用について
ア 請求人は、引用商標「レセプト博士」を平成14年10月18日付でその商標登録出願をすると共に、平成14年からその販売を開始し現在に至るまで使用を継続しているものである。
請求人の引用商標「レセプト博士」は、病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェアで、厚生労働省、審査支払機関が推進する「レセプト電算処理システム」に準拠しており、同システムを導入している病院において、レセプトデータのコンピュータ上でのチェックを可能にしているものである。
この引用商標「レセプト博士」は、平成14年の販売開始以来営々として販売されているものであって、引用商標「レセプト博士」は、取引業界においても周知・著名となっているものである。
イ しかして、請求人がインターネットにおいて「レセプト先生」を検索したところ、「IBMレセプトチェックソフトレセプト先生」が検索された。
「レセプト先生」は、医療機関の医事会計システムから受領したレセプトデータを、自動でチェックするソフトウェアです。病名と医薬品など、医療保険制度上の適応性を点検し警告一覧を出力して毎月のレセプトチェックをサポートいたします。」と記載され、使用されている。
上記「レセプト先生」の使用開始時期や本件商標「レセプト先生」の商標権者と如何なる関係があるかは不知であるが、引用商標「レセプト博士」が「病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェア」である点で、当該「レセプト先生」は請求人が引用する引用商標「レセプト博士」の1バージョンであるかのように取引者・需要者をして誤認混同を生ずるおそれがある。けだし、両者の指定商品は医療業界で使用される同種の商品であることからして、取引者・需要者は引用商標「レセプト博士」と「レセプト先生」とは何らかの関連のある商品であると誤認混同を生ずるおそれがあることは火を見るよりも明らかである。

2 本件商標が商標法第4条第1項第11号(商標法第46条第1項第1号)の規定に該当する理由
(1)本件商標と引用商標との類否について
ア 本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」とは、片仮名文字と漢字との結合で共に標準文字で構成されてなるから、同じ構成態様でなり、後半部における「先生」と「博士」との差異を有するに過ぎないものである。
本件商標の構成中の「レセプト」は、株式会社三省堂発行の大辞林によれば、「レセプト[ドイツ Rezept]健康保険組合などに対し医療機関が請求する診療報酬の明細書。」(甲第3号証の1)との意味合いで記載されており、また、本件商標の構成中の「先生」は、「a.学問・技芸などを教える人。また、自分が教えを受けている人。師。師匠。また、特に、学校の教員。b.学芸に長じた人。c.師匠・教師・医師・弁護士・国会議員などを敬って呼ぶ語。代名詞的にも用いる。また、人名のあとに付けて敬称としても用いる。d.親しみやからかいの気持ち込めて、他人をさす語。e.自分より先に生まれた人。年長者。」(甲第3号証の2)のような意味合いで記載されているが、一般的には上記a.又はc.のような意味で世人に使用されているものである。
一方、引用商標の構成中の「博士」は、「a.その方面のことに詳しい人。ものしり。『お天気-』『鉄道-』、b.『はくし(博士)』に同じ。」(甲第3号証の3)などの意味合いで記載されている。
そうすると、本件商標「レセプト先生」は、「診療報酬請求明細書に関する知識を教える人」というような意味合いを有し、引用商標「レセプト博士」は、「診療報酬請求明細書に関する知識に詳しい人」というような意味合いを有することとなり、同一の意味合いを有するものであって、本件商標「レセプト先生」は引用商標「レセプト博士」の1バージョンであるかのごとく取引者・需要者をして誤認混同されるおそれがあると解するのが相当である。
現実的な商品の関係をみても、請求人の引用商標「レセプト博士」は、病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェアであるのに対して、「レセプト先生」は、医療機関の医事会計システムから受領したレセプトデータを、自動でチェックするソフトウェアとしての使用がなされていることからして、同一の取引分野に係る商品に使用されるものであることは明らかである。
イ しかして、本件商標と引用商標との差異を有する「先生」と「博士」についてみると、本件商標と引用商標の「レセプト」が「診療報酬請求明細書」を表すものであるとすると、医療業界に関わる人々の間で使用されるものと解することができるから、医師であれば、「医学博士」の称号をもっている人であっても、通常「何々先生」と呼ばれている。
また、代理人である弁護士や弁理士の業界をみても、例えば工学博士や薬学博士などの称号を持つものもいるが、当業界の慣行からして「何々先生」と呼ばれているのが実情である。
そうであるとすると、本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」とは、「診療報酬請求明細書」などに関わる電子計算機用プログラムやそれらに関するコンピュータシステムなどとの関係においては、引用商標「レセプト博士」は、本願商標「レセプト先生」とも指称され得るものであるといえる。
したがって、本件商標「レセプト先生」は、引用商標「レセプト博士」の1バージョンであるかのごとく取り扱われるおそれがあるものであるから、世人をして彼此誤認混同を生ずるおそれのある類似する商標といわねばならない。
ウ 本件商標「レセプト先生」の指定商品である「電気通信機械器具,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,電子出版物」は、引用商標「レセプト博士」の指定商品中に含まれるものであるから、両者の指定商品は類似する商品といわねばならない。
(2)であるから、本件商標と引用商標とは、現実の商取引の実際においても誤認混同を生ずるおそれがあるものであるから、類似する商標であるといわねばならない。

3 結論
以上のとおり、本件商標は、請求人の提出に係る引用商標と類似する商標であるから、商標法第4条第1項第11号(商標法第46条第1項第1号)に該当する商標であり、その登録は無効とされるべきである。

4 答弁に対する弁駁
(1)「引用商標についてに対する反論」について
ア 被請求人は、「そもそも、商標法第4条第1項第11号を理由とする商標登録無効審判において、引用商標の方はともかく、何故に本件商標の使用の実情が関係するのか、被請求人代理人にはその理由が全く理解できない。」と主張するが、商標法の趣旨を全く理解していないものである。
(ア)請求人が所有する登録第4706680号の引用商標は、平成14(2002)年10月18日にその商標登録出願がなされて登録された先願登録商標であるのに対して、被請求人が所有する登録第5105442号の本件商標は、平成19(2007)年4月17日にその商標登録出願がなされて登録されたものであって、引用商標よりも5年近くも遅れて採択されたものである。
(イ)上記引用商標は、平成20(2008)年9月9日付審判請求書に記載したとおり、「病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェアに使用している」ものであるのに対して、本件商標は、「医療会計システムからレセプトデータを取り込むことで独自のデータベースを参照し病名と医薬品名などの適応性を自動点検。同時に、不適応と思われるレセプトを警告します(甲第7号証参照)。」との記載があるように、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同ー又は類似する商品であるばかりではなく、実際の使用商品についても引用商標と同一の商品に使用されているものである。
要するに、被請求人は、本件商標が単に後願の登録商標というだけではなく、先願の登録商標である引用商標と同一の商品に現実的に使用しているのであるから、請求人は、両商標が実際の商品の出所の誤認混同を生ずるおそれが高いものであることを主張するものである。
(ウ)しかして、本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」とは、商標の前半部の「レセプト」の部分を共通とする類似する商標であって、本件商標は、引用商標よりも5年近くも遅れて採択されたものであることからして、引用商標に化体された業務上の信用を利用しようとしたものと言わざるを得ないものである。
イ 商標法第4条第1項第11号の規定について
商標法は、言うまでもなく、商標が現実に使用をされることによりその商標に化体する業務上の信用を保護することを目的としているのであり、単に形式的に商標自体を保護するにとどまらない。
そのため、商標法第4条第1項第11号を含め、商標法に規定される総ての規定は、潜在的には、商標が使用されることが当然の前提とされているのである。まさに、後願商標が現実に使用された場合に先願先登録商標との関係で出所の混同が生じ、先願先登録に係る商標権者の業務上の信用が害されることがないように、商標法第4条第1項第11号が規定されているのであり、「出所の混同が生ずる範囲」を「類似」という概念に置き換えて、先願先登録商標と同一又は類似の後願商標の商標登録を禁止しているのである。
したがって、本件審判請求の基礎にしている商標法第4条第1項第11号についても、現実の使用についての要件は文言上明確には規定されていないが、本件商標及び引用商標の現実の使用についても検討が必要であることは、前記商標法の目的からも明らかである。
そのために請求人は、本件商標及び引用商標のそれぞれの現実の使用について言及したのであって、この点を被請求人は請求人の主張を全く理解していない、と言わざるを得ない。
であるから、被請求人の「・・・引用商標の方はともかく、何故に本件商標の使用の実情が関係するのか、被請求人代理人にはその理由が全く理解できない。」との主張は、的を射たものでないことは明らかである。
ウ 引用商標の使用について
請求人が所有する引用商標が「病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェアに使用」されているものであることは、本件商標よりも5年近くも先行して使用している事実については被請求人も当該取引分野が病院関係のものであることを慮れば当然知り得た事実であることは明らかであって、その審判請求時において敢えてそれらの使用事実について提出しなかったものである。これに対して、被請求人は、「請求人は、引用商標『レセプト博士』を病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェアに使用しており、周知・著名となっていると主張するが、実際に使用している商標及び商品を明らかにする証拠さえ提出されていないので、否認する」として、形式論的に答弁しているに過ぎず、請求人の主張に対して真摯に対応するものではないから、これらを踏まえて、請求人は、引用商標の使用事実の一部を示すものである。
請求人の取引分野が医療業界という限られた分野であり、しかもそれらの多くは日本の医療行政を担う病院関係であるから、当該分野の使用事実を示せば十分であるものと考える。被請求人は、引用商標の使用によって多大な努力を積み重ねることによってその業務上の信用を獲得したものであることを真摯に理解されるべきである。
以下に、甲第4号証(甲第4号証の1ないし甲第4号証の5)を提出する。
(ア)甲第4号証の1は、請求人会社ホームページにおける2002年10月31日付ニュースリリースの写しであり、請求人が所有する引用商標「レセプト博士」に係るパッケージソフトを販売開始した事実を示すものである。
(イ)甲第4号証の2は、請求人会社ホームページにおける2007年7月3日付ニュースリリースの写しであり、引用商標「レセプト博士」に係るパッケージソフトの新バージョンを販売開始した事実を示すものである。
(ウ)甲第4号証の3は、産労総合研究所「医療経営最前線 No.209」(2003年5月15日号)の目次の写しであり、引用商標「レセプト博士」に係るパッケージソフトが紹介された事実を示すものである。
(エ)甲第4号証の4は、請求人会社作成の引用商標「レセプト博士」に係るパッケージソフトのパンフレットであり、広く配布しているものである。
(オ)甲第4号証の5は、引用商標「レセプト博士」に係るパッケージソフトの販売代理店一覧であり、極めて広範囲に販売活動が展開されていることが明らかである。
以上のように、請求人が所有する引用商標「レセプト博士」は、平成14年の販売開始以来営々として販売されており、かつ、本件商標「レセプト先生」に対して、先願先登録の商標であることは、明らかである。
エ 本件商標の使用について
(ア)被請求人は、「次に、請求人は、『レセプト先生』をインターネット検索した、とのことであるが、いつ、どのような検索方法で検索し、どのようなサイトがヒットしたのか不明であり、URLすら挙げられていない。請求人が引用した「医療機関の医事関係システムから・・・レセプトチェックをサポートいたします」と記載されているとされたサイトは、被請求人がインターネット検索した限りでは、存在しなかった。」と主張している。
しかし乍ら、甲第5号証に示すとおり、請求人が審判請求書において主張したインターネットウェブサイトが存在していた。現在においては、「レセプトチェックソフト レセプト先生」と題するインターネットウェブサイトが存在し(甲第6号証)、また、そのウェブサイトからダウンロード可能なパンフレットも存在している(甲第7号証)。しかして、甲第7号証には「医療会計システムからレセプトデータを取り込むことで独自のデータベースを参照し病名と医薬品名などの適応性を自動点検。同時に、不適応と思われるレセプトを警告します。」と記載され、「レセプト先生」が現に使用されている。
甲第7号証は、被請求人会社が持株会社となっている日本ビジネスコンピューター株式会社(http://www.jbcchd.co.jp/group/index.htm)により作成されており、被請求人の本件商標「レセプト先生」に依拠したものであると解される。
(イ)本件商標「レセプト先生」は、引用商標「レセプト博士」に係る出願日後に出願されて、引用商標「レセプト博士」に係る指定商品と同一又は類似の商品を指定しているのみならず、現に本件商標「レセプト先生」が使用されている対象商品は、上記のとおり、医療業界という、引用商標「レセプト博士」と同一の業界で使用されている同一の商品であって、しかも 引用商標「レセプト博士」の使用が開始された日後で5年近くも経てから使用されているのであるから、取引者・需要者からすれば、本件商標「レセプト先生」は、出願も使用も先行している引用商標「レセプト博士」の後継バージョンとして把握するなど、何らかの関連のある商品であると誤認混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
上述したように、被請求人は、請求人ですら本件商標の使用事実について容易に検索可能であるにもかかわらず、これを「次に、請求人は、『レセプト先生』をインターネット検索した、とのことであるが、いっ、どのような検索方法で検索し、どのようなサイトがヒットしたのか不明であり、URLすら挙げられていない。」などの形式論的な主張を行っていることに対しては、本件審判事件を真摯に受け止めて解決しようとする姿勢すらも伺われず、甚だ遺憾であると言わざるを得ないものである。
因みに、請求人は、取引現場において出所の混同を生ずるおそれがある程に両商標は類似するものであることを改めて主張しておく。
(2)「本件商標が商標法第4条第1項第11号(商標法第46条第1項第1号)の規定に該当する理由に対する反論」に対する弁駁
ア 被請求人は、「本件商標と引用商標とは、いずれも標準文字で一連に書されており、前後の部分に軽重の差はなく視覚上一体に把握でき、全体の称呼も『レセプトセンセイ』『レセプトハカセ』と冗長とはいえないから、両者とも一体の造語としてのみ理解されるものである。よって両者が観念上相紛れるおそれはない。」とし、「本件商標と引用商標とが外観及び称呼の上では比較すべくもないことは明らかであるから、両者は相互に非類似の商標である。」と主張する。
しかし乍ら、上記被請求人の主張は失当である。
イ 両商標の構成態様は、被請求人も認めているところであるが、両商標を構成する片仮名文字「レセプト」部分が共通しており、取引者・需要者をして本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」の前半部分である「レセプト」の外観構成態様を無視して後半部分の「先生」と引用商標「博士」のみを抽出して看取されることはないことは明らかであり、通常前半部分の「レ」「セ」「プ」「ト」の部分から「レセプト」の部分が先ず一義的に呼称されると言うべきものであって、両商標は何らかの関連を有する商標であるものと認識されるものであるというのが自然である。
ウ しかして、本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」については、請求人が提出した審判請求書において詳述したとおりであるが、本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」とは、同じ構成態様でなり、前半部分の片仮名文字「レセプト」に対して、後半部分の異なる漢字書体である「先生」と「博士」との差異を有するに過ぎず、本件商標「レセプト先生」は、「診療報酬請求明細書に関する知識を教える人」というような意味合いを有し、引用商標「レセプト博士」は、「診療報酬請求明細書に関する知識に詳しい人」というような意味合いを有し、これらは同一の意味合いを有するものであって、本件商標「レセプト先生」は引用商標「レセプト博士」の1バージョンであるかのごとく取引者・需要者をして誤認混同されるおそれがあるものである。
被請求人が、「本件商標と引用商標とは、・・・視覚上一体に把握でき、全体の称呼も『レセプトセンセイ』『レセプトハカセ』と冗長とはいえないから、両者とも一体の造語としてのみ理解されるものである。」との主張は、到底相容れられるものではなく、その判断を誤ったものである。
また、現実的な商品の関係をみても、請求人の引用商標「レセプト博士」は、「病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェア」であるのに対して、「レセプト先生」は、「医療会計システムからレセプトデータを取り込むことで独自のデータベースを参照し病名と医薬品名などの適応性を自動点検。同時に、不適応と思われるレセプトを警告する(甲第7号証参照)。」ソフトウェアとしての使用がなされていることから、同一の取引分野に係る商品に使用されているものであることは既に述べたとおりである。
エ しかして、本件商標と引用商標との差異を有する「先生」と「博士」は、本件商標と引用商標の「レセプト」が「診療報酬請求明細書」を表すものであるとすると、医療業界に関わる人々の間で使用されるものであって、医師であれば、「医学博士」の称号をもっている人であっても、通常「何々先生」と呼ばれていることは説明を要するまでもないところである。
また、代理人である弁護士や弁理士の業界をみても、例えば工学博士や薬学博士などの称号を持つものもいるが、当業界の慣行からして「何々先生」と呼ばれているのが実情である。
そうであるとすると、本件商標「レセプト先生」と引用商標「レセプト博士」とは、「診療報酬請求明細書」などに関わる電子計算機用プログラムやそれらに関するコンピュータシステムなどとの関係においては、引用商標「レセプト博士」は、本願商標「レセプト先生」とも指称され得るものである。
したがって、本件商標「レセプト先生」は、引用商標「レセプト博士」の1バージョンであるかのごとく取り扱われるおそれがあるものであるから、世人をして彼此誤認混同を生ずるおそれのある類似する商標といわねばならない。
オ 本件商標「レセプト先生」の指定商品である「電気通信機械器具,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,電子出版物」は、引用商標「レセプト博士」の指定商品中に含まれるものであるから、両者の指定商品は類似する商品といわねばならない。
なお、本件商標「レセプト先生」及び引用商標「レセプト博土」は、いずれも既成語が結合されたものである以上、称呼が冗長か否かと、観念が生ずるか否か、とは全く関係がない。
カ 以上の点の外は、被請求人は具体的答弁を行っておらず、請求人としては、審判請求書における主張を維持し、再度ここで繰り返すことはしないこととする。
(3)結語
したがって、本件商標に係る指定商品第9類「電気通信機械器具,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品,電子出版物」についての登録を無効とする、との審決を求める。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べている。
1 「引用商標について」に対する反論
請求人は、引用商標「レセプト博士」を病院でのレセプト院内審査を電子化するパッケージソフトウェアに使用しており、周知・著名となっていると主張するが、実際に使用している商標及び商品を明らかにする証拠さえ提出されていないので、否認する。
次に請求人は、「レセプト先生」をインターネット検索した、とのことであるが、いつ、どのような検索方法で検索し、どのようなサイトがヒットしたのか不明であり、URLすら挙げられていない。請求人が引用した「医療機関の医事関係システムから・・・レセプトチェックをサポートいたします」と記載されているとされたサイトは、被請求人がインターネット検索した限りでは、存在しなかった。
そもそも、商標法第4条第1項第11号を理由とする商標登録無効審判において、引用商標の方はともかく、何故に本件商標の使用の実情が関係するのか、被請求人代理人にはその理由が全く理解できない。

2 「本件商標が商標法第4条第1項第11号(商標法第46条第1項第1号)の規定に該当する理由」に対する反論
請求人は、本件商標と引用商標とを構成する「レセプト」が共通し、「先生」と「博士」とが似たような意味を有することを根拠に、本件商標と引用商標とが類似する旨を主張しているようであるが、明らかに失当である。
本件商標と引用商標とは、いずれも標準文字で一連に書されており、前後の部分に軽重の差はなく視覚上一体に把握でき、全体の称呼も「レセプトセンセイ」「レセプトハカセ」と冗長とはいえないから、両者とも一体の造語としてのみ理解されるものである。よって両者が観念上相紛れるおそれはない。
本件商標と引用商標とが外観及び称呼の上では比較すべくもないことは明らかであるから、両者は相互に非類似の商標である。

3 「結論」に対する反論
以上のように本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断
1 商標の類否は、比較される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。また、商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、上記三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては、これを類似商標とすべきでない。

2 外観上の類否について
本件商標は「レセプト先生」の文字を、引用商標は「レセプト博士」の文字をそれぞれ横一連に表してなるところ、「先生」の文字と「博士」の文字とに明瞭な差異を有することから、外観においては著しく相違し、十分に区別し得るものである。

3 称呼上の類否について
本件商標は、「レセプト先生」の文字を横一連に表してなるから、「レセプトセンセイ」の称呼のみを生ずるものである。
一方、引用商標は、「レセプト博士」の文字を横一連に表してなるから、「レセプトハカセ」の称呼のみを生ずるものである。
そこで、本件商標より生じる「レセプトセンセイ」の称呼と、引用商標より生じる「レセプトハカセ」の称呼とを比較すると、両称呼は、後半部において、「センセイ」と「ハカセ」という、著しい差異音を有するものであるから、称呼上互いに相紛れるおそれのないものである。

4 観念上の類否について
株式会社岩波書店が発行した「広辞苑第六版」によれば、本件商標及び引用商標中の「レセプト」の文字が、「(処方箋の意)医療機関が健康保険組合に請求する診療報酬明細書。」の意味を有するドイツ語の「Resept」を片仮名文字で表し、本件商標中の「先生」の文字が、「1 先に生れた人。」「2 学徳のすぐれた人。自分が師事する人。また、その人に対する敬称。」「3 学校の教師。」「4 医師・弁護士など、指導的立場にある人に対する敬称。」「5 他人を、親しみまたはからかって呼ぶ称。」の意味を有するとしても、「レセプト先生」の文字は、全体として特定の観念を生じない造語とみるのが相当である。
同様に、株式会社岩波書店が発行した「広辞苑第六版」によれば、引用商標中の「博士」の文字が、「1 学問またはその道に広く通じた人。ものしり。学者。」「2 律令時代の官名。大学寮に紀伝(文章もんじょう)・明経(みょうぎょう)・明法(みょうぼう)・算・音・書、陰陽寮(おんようりょう)に陰陽・暦・天文・漏刻、典薬寮に医・女医(にょい)・針・按摩・呪禁(じゅごん)などの博士があって、それぞれ学業を教授し、学生の課試などをつかさどった。」「3 明治初年、大学生の教授、国史の修撰、洋書の翻訳、疾病の治療をつかさどった奏任官。」「4 学位としての博士(はくし)の俗称。」「5 声明(しょうみょう)・催馬楽・朗詠などで用いられる線形の譜。詞章の左(または右)に直線・折線・曲線を連ねた記号を墨で書き入れ、その角度・長短・形状により旋律を表す。早歌(そうが)・謡曲などで用いる記号は線がごく短く胡麻粒のように見えるので、胡麻点という。節博士(ふしはかせ)。墨譜(ぼくふ)。転じて、手本。規準。」の意味を有するとしても、「レセプト博士」の文字は、全体として特定の観念を生じない造語とみるのが相当である。
したがって、本件商標と引用商標とは、観念において比較することはできないものである。
なお、念のため、仮に、本件商標から、「医療機関が健康保険組合に請求する診療報酬明細書に関する医師・弁護士など指導的立場にある人」程の観念を生じ、引用商標から、「医療機関が健康保険組合に請求する診療報酬明細書の道に広く通じた人」程の観念を生じたとしても、これらの観念を同一ということはできない。

5 本件商標と引用商標との類否について
してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一又は類似のものということはできない。

6 取引の実情について
請求人は、「『診療報酬請求明細書』などに関わる電子計算機用プログラムやそれらに関するコンピュータシステムなどとの関係においては、引用商標『レセプト博士』は、本願商標『レセプト先生』とも指称され得るものであるといえる。」旨述べているが、提出された証拠を審理し、また、職権において調査するに、引用商標「レセプト博士」が、本願商標「レセプト先生」とも指称されるものとは認められない。
また、請求人は、「引用商標は、平成14年の販売開始以来営々として販売されているものであって、取引業界においても周知・著名となっているものである」旨述べているが、提出された証拠を審理し、また、職権において調査するに、引用商標が周知・著名となっているものとする証拠を発見することができないものである。
なお、請求人は、「本件商標『レセプト先生』が使用されている商品は、医療業界という、引用商標『レセプト博士』と同一の業界で使用されている同一の商品であって、しかも 引用商標『レセプト博士』の使用が開始された日後で5年近くも経てから使用されているのであるから、取引者・需要者からすれば、本件商標『レセプト先生』は、出願も使用も先行している引用商標『レセプト博士』の後継バージョンとして把握するなど、何らかの関連のある商品であると誤認混同を生ずるおそれがあることは明らかである。」旨述べている。
しかしながら、本件商標及び引用商標の指定商品は、前記のとおり、医療業界以外の取引者・需要者を含むものであるが、仮に、取引者・需要者を医療業界に限定したとしても、本件商標と引用商標とが類似しないことは、先に判断したとおりであるから、本件商標を付した商品に接する医療業界の取引者・需要者が、これを引用商標と何らかの関連のある商品であると誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないものである。

7 まとめ
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
審理終結日 2009-01-09 
結審通知日 2009-01-16 
審決日 2009-01-27 
出願番号 商願2007-38152(T2007-38152) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (X09)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 文宏真鍋 伸行 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 杉山 和江
馬場 秀敏
登録日 2008-01-18 
登録番号 商標登録第5105442号(T5105442) 
商標の称呼 レセプトセンセー、レセプト、センセー 
代理人 初瀬 俊哉 
代理人 網野 友康 
代理人 羽切 正治 

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