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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ14972不正競争行為差止等請求事件 平成17ワ22496損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y30
審判 全部無効  無効としない Y30
審判 全部無効 観念類似 無効としない Y30
審判 全部無効 称呼類似 無効としない Y30
管理番号 1195412 
審判番号 無効2008-890067 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-09-05 
確定日 2009-03-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5054813号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5054813号商標(以下「本件商標」という。)は、「多幸八喜恵美寿」の文字を標準文字で表してなり、平成18年8月24日に登録出願、第30類「加工穀物又は蜂蜜を主原料とする粒状・顆粒状・粉末状・タブレット状・液状・クリーム状・ペースト状又はカプセル状の加工食品,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー及びココア,氷,菓子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン 」を指定商品として、同19年5月10日に登録査定され、同年6月15日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2270477号商標(以下「引用商標」という。)は、昭和63年1月25日に登録出願され、「多幸八喜」の文字を表してなり、第30類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年10月31日に設定登録され、その後、同12年8月22日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、同13年2月28日に指定商品を第30類「たこ焼き,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,サンドイッチ,しゅうまい,すし,ぎょうざ,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」とする指定商品の書換登録がなされたものであり、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第13号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 引用商標について
引用商標「多幸八喜」は、「幸多いこと」を意味する「多幸」、「八つの喜び」を意味する「八喜」の4文字を組み合わせ、「多幸八喜」と記したもので、全体として「幸多い八つの喜び」という非常におめでたい意味合いを想起させる非常に独創的な造語である。
また、引用商標は、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じるところ、「タコウヤキ」の称呼は、指定商品中の商品「たこ焼き」の読みにつながることから、引用商標「多幸八喜」を特に商品「たこ焼き」に使用した場合に、極めて印象が強く、強大な識別力を発揮するものである。
加えて、引用商標「多幸八喜」は、昭和63年に出願され、平成2年に登録されたものである。そして、本請求人でもある引用商標権者により、「たこ昌の贈答用シリーズ多幸八喜」として、商品「たこ焼き」について約20年間使用されてきた実績があり、需要者において周知である(甲第3ないし9号証)。
イ 本件商標について
本件商標「多幸八喜恵美寿」は、引用商標「多幸八喜」と「恵美寿」とを組み合わせた結合商標である。
本件商標「多幸八喜恵美寿」中「多幸八喜」の部分は、「幸多いこと」を意味する「多幸」、「八つの喜び」を意味する「八喜」の4文字を組み合わせたもので、引用商標「多幸八喜」と実質的に同一である。当該部分は、上述したように、極めて印象が強く、強大な識別力を発揮する部分である。
本件商標「多幸八喜恵美寿」中「恵美寿」の部分は「えびす」と読まれ、「えびす」は一般に七福神の一員としての福の神をいい、「恵比須」「恵比寿」「恵美須」「夷」「戎」「胡」「蛭子」等多種多様に表示されるのと同様、「恵美寿」とも表示され、普通に広く用いられている一般語である。「恵美寿」の文字列を一般的に用いられるインターネットサーチェンジンであるGoogleで検索した結果21500件がヒットし、YAHOO JAPANで検索した結果47100件がヒットした(甲第10号証)。
したがって、本件商標「多幸八喜恵美寿」中「恵美寿」の部分は普通に「えびす」と読まれて一塊として認識される一般語で、「えびす様」や「えびす神社」として広く親しまれている福の神を表すものであり、「多幸八喜」の部分に比べると印象も薄く、極めて微弱な識別力しか発揮しない。
ウ 本件商標が引用商標に類似する理由
上述したように、本件商標「多幸八喜恵美寿」中「恵美寿」の部分は普通に「えびす」と読まれる一般語であって一塊として認識され、広く親しまれている福の神を表すもので、「多幸八喜」の部分に比べると印象も薄く、極めて微弱な識別力しか発揮しない。
一方、「多幸八喜」の部分は、引用商標「多幸八喜」と同一の文字列であり、引用商標権者である株式会社元祖たこ昌の商標として周知であるうえ、極めて印象が強く、強大な識別力を発揮する部分である。
したがって、本件商標「多幸八喜恵美寿」は、極めて強大な識別力を発揮する引用商標と同一の造語「多幸八喜」と、福の神を表す一般語である「恵美寿」とを組み合わせた結合商標であって、これに接した需要者は、「多幸八喜」と「恵美寿」とに分離して認識するのが当然ある。
そうすると、本件商標の「多幸八喜」の部分から「タコウヤキ」あるいは「タコウハッキ」の称呼を生じ、「タコウヤキ」あるいは「タコウハッキ」の称呼を生じる引用商標「多幸八喜」と称呼において類似する。
また、本件商標の「多幸八喜」の部分からは「幸多い八つの喜び」という観念を生じ、「幸多い八つの喜び」という観念を生じる引用商標「多幸八喜」と観念において類似する。
このように、本件商標と引用商標を対比した場合、需要者において出所混同を生じるのは明らかである。
エ 指定商品について
本件商標の指定商品中第30類「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ビザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」と引用商標の指定商品中「たこ焼き,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,サンドイッチ,しゅうまい,すし,ぎょうざ,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」とは、同一又は類似の商品である。
また、本件商標の指定商品中第30類「加工穀物又は蜂蜜を主原料とする粒状・顆粒状・粉末状・タブレット状・液状・クリーム状・ペースト状又はカプセル状の加工食品」と引用商標の指定商品中「穀物の加工品」とは、いずれも穀物を原材料とするものであるから、同一又は類似の商品である。
オ 結論
本件商標と引用商標とは、いずれも、「タコウヤキ」あるいは「タコウハッキ」の称呼を生じ、「幸多い八つの喜び」の観念を共通にする類似の商標であり、その指定商品も同一又は類似する商品である。

(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標について
引用商標「多幸八喜」は、上述したように、「幸多い八つの喜び」という観念を想起させる独創的な造語であり、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じる。
ここで、「タコウヤキ」の称呼は、指定商品中の商品「たこ焼き」の読みにつながることから、引用商標「多幸八喜」を特に商品「たこ焼き」に使用した場合に、特に極めて印象が強く、強大な識別力を発揮するものである。
加えて、引用商標「多幸八喜」は、昭和63年に出願され、平成2年に登録されたものである。そして、本請求人でもある引用商標権者により、「たこ昌の贈答用シリーズ多幸八喜」として、商品「たこ焼き」について約20年間使用されてきた実績があり、需要者において周知である(甲第1ないし7号証)。
しかも、本請求人は、JR新大阪駅、JR京都駅、道頓堀及び関西国際空港等において商品「たこ焼き」の店舗を構え、「連?れてって、連?れてって、大阪出るとき連?れてって?」の歌詞でおなじみのテレビコマーシャルを展開し、特に関西地方においては商品「たこ焼き」について周知を超えた著名性を獲得している(甲第11号証http://www.takomasa.co.jp/)。
イ 本件商標について
本件商標「多幸八喜恵美寿」は、上述したように、極めて強大な識別力を発揮する引用商標と同一の造語「多幸八喜」と、福の神を表す一般語である「恵美寿」とを組み合わせた結合商標であって、これに接した需要者は、当然に「多幸八喜」と「恵美寿」とに分離して認識する。
そうすると、本件商標の「多幸八喜」の部分から引用商標同様「幸多い八つの喜び」という観念及び、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じる。
ウ 本件商標が引用商標と出所混同を生じる理由
上述したように、本件商標「多幸八喜恵美寿」は、極めて強大な識別力を発揮する引用商標と同一の造語「多幸八喜」と、福の神を表す一般語の「恵美寿」とを組み合わせた結合商標であって、本件商標の「多幸八喜」の部分から引用商標同様「幸多い八つの喜び」という観念及び、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じる。
ここで、「タコウヤキ」の称呼は、指定商品中の商品「たこ焼き」の読みにつながることから、引用商標「多幸八喜」を特に商品「たこ焼き」に使用した場合に、特に極めて印象が強く、強大な識別力を発揮するものである。
しかも、引用商標は長年の使用実績から商品「たこ焼き」について周知性を獲得し、その商標権者である本請求人は、営業・宣伝努力により周知性を獲得している。
このような状況において、本件商標を商品「たこ焼き」について使用した場合、強大な識別力を発揮するとともに引用商標権者の商標として周知な「多幸八喜」を含むことから、需要者が、本件商標の使用者が引用商標権者と組織的・経済的に何らかの関係を有するものであると考えるのは当然である。このように、本件商標を指定商品中の商品「たこ焼き」について使用した場合、請求人又は請求人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務にかかる商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものである。
エ 結論
本件商標を指定商品について使用した場合、請求人又は請求人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務にかかる商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある。

(3)むすび
したがって、本件商標登録は、商標法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。

2 被請求人の答弁に対し、請求人が平成20年12月24日付けで提出した弁駁
(1)請求人
被請求人は、本件審判請求人は、引用商標権者ではないと主張している。
しかしながら、引用商標(登録第2270477号)の商標権者は、YMから本審判請求人に移転され、平成18年6月2日にその登録が行われている(甲第12号証)。

(2)称呼類似
被請求人は、「本件商標は『多幸八喜』と『恵美寿』とを分断して称呼するものではない。更には略して称呼される商標でもない」と主張する。
しかしながら、本件商標「多幸八喜恵美寿」中「恵美寿」の部分は、縁起の良い語として「○○恵美寿」「恵美寿○○」のように商品名中に一般によく取り入れられる語である。これは、すなわち、「○○恵美寿」「恵美寿○○」という商標中、「恵美寿」の部分の識別力が極めて微弱であるということに他ならない。これに対し、本件商標「多幸八喜恵美寿」中、引用商標と共通の「多幸八喜」の部分は、「幸多いこと」を意味する「多幸」、「八つの喜び」を意味する「八喜」の4文字を組み合わせ、「多幸八喜」と記したもので、全体として「幸多い八つの喜び」という非常におめでたい意味合いを想起させる非常に独創的な造語であり、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じるところ、「タコウヤキ」の称呼は、指定商品中の商品「たこ焼き」の読みにつながることから、特に商品「たこ焼き」に使用した場合に、極めて印象が強く、強大な識別力を発揮する部分である。このように、本件商標は、「多幸八喜恵美寿」は、極めて強大な識別力を発揮する独創的な造語で引用商標と一字一句違わない「多幸八喜」の語と、一般におめでたい語として親しまれ商品名にもよく取り入れられ識別力の極めて微弱な「恵美寿」の語を結合した結合商標である。したがって、本件商標「多幸八喜恵美寿」からは、語頭に位置する識別力が甚大な「多幸八喜」の部分から「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じ得る。このように、本件商標は、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」の称呼を生じる引用商標「多幸八喜」と称呼において類似する。
また、被請求人は、「取引においても、たこ焼きという商品に使用した場合、「タコヤキ」では商品その物を表す普通名詞であり、自他識別性がないので、『タコヤキエビス』と称呼されるものである」と主張するが、本件商標に接した看者が「多幸八喜」の四文字を「タコヤキ」と読むとは考え難く、「多幸八喜」の部分が商品「たこ焼き」の普通名詞であって自他識別力がないとする被請求人の主張は、はなはだ的外れなものといわざるをえない。
また、被請求人は、「『たこ焼き』にめでたい漢字をあてると、・・・さほど独創性のある造語でもない」と主張する。
しかしながら、そもそも「たこ焼き」にめでたい漢字をそれぞれ当てはめて全体としておめでたい意味をかもし出す四字熟語のような造語を作り出したこと自体にすでに独創性があり、「多幸八喜」は極めて高い独創性のある造語であり、強い識別力を有するものであることは明白である。
さらに、被請求人は、「かような視覚で見た時、どう読むのかわからない、わかりにくい字列はそれ自体、自他識別力は稀薄である」と主張する。
しかしながら、一般の日本人が「多幸八喜」に接したときに、どう読むかわからないことはまず考えられず、「幸多い八つの喜び」というおめでたい観念を想起しながら、「タコウハッキ」または「タコウヤキ」と読むのは間違いない。このような独創的な四字熟語の自他識別力が稀薄であるとする被請求人の主張は、はなはだ失当である。
また、被請求人は、「引用商標の字列の読みは…識別力は稀薄なのである」と主張する。
しかしながら、引用商標の字列は明らかに「多幸八喜」であり(甲第2号証)、上述したとおり「タコウハッキ」または「タコウヤキ」と読まれ、看者が「多幸八喜」の四文字を「タコヤキ」と読むとは考え難く、「多幸八喜」の部分が商品「たこ焼き」の普通名詞であって自他識別力がないとする被請求人の主張は、明らかに的外れなものである。

(3)出所混同
被請求人は、「本件商標と引用商標では、一般人において、観念するものが異なる」と主張する。
しかしながら、本件商標の「多幸八喜」の部分からは「幸多い八つの喜び」という観念を生じ、「幸多い八つの喜び」という観念を生じる引用商標「多幸八喜」とは、観念において類似することは、審判請求書においても述べたとおりである。本件商標と引用商標は、称呼及び観念において類似するのであるから、出所の混同が生じるのは明らかである。
また、被請求人は、「請求人は引用商標を使用していない」と主張する。
しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証に示す請求人の商品パッケージには、甲第6号証に示すように「寿」の文字の下少し離れた位置に縦長の四角枠が表示され、上記枠の中に引用商標「多幸八喜」が大きく他と分離して目立つように記されている。これを無視した被請求人の主張は、失当といわざるを得ない。
なお、被請求人は外観における非類似を主張しているが、上述したように本件商標は称呼及び観念において明らかに引用商標と類似する。
以上のように、両商標を全体として対比したときは、語根部分として印象・把握される部分、すなわち意味を構成・伝達する言語の機能上最も重要な基幹部分としてみられる語頭の構成が「多幸八喜」で両者全く共通・一致し、視覚上・聴覚上また観念的な連想性の上で強い類似性を有する。
そして、本件商標を指定商品に使用するときは、観念的な連想を惹きおこしやすい基幹部分「多幸八喜」を共通にし、請求人が製造・販売する「たこ焼き」に使用する引用商標「多幸八喜」を連想させ、取引者・需要者はあたかもシリーズ商標もしくは姉妹商品として請求人の製造・販売にかかるものと誤認し、商品の出所につき混同を生ずる恐れがあるといわざるを得ない。
このように、本件商標は、「連?れてって、連?れてって、大阪出るとき連れてって?」のテレビコマーシャル等により有名な「たこ焼きのたこ昌」の登録商標である引用商標「多幸八喜」の強大な識別力ただ乗りしようとするものであり、無効とするべきものである。

3 請求人が平成21年1月7日付けで提出した上申の内容
平成20年12月24日提出の審判事件弁駁書の「弁駁の理由」において、下記の主張を上申する。
請求人は、添付の甲第13号証の1に示すとおり、「多幸八喜」を指定商品である「たこ焼き」について使用しており、甲第13号証の2ないし4に示すとおり、全国紙である朝日新聞、日本経済新聞、日経MJにおいてもニュースとして採りあげられている。以上のことからも、請求人が引用商標を使用することにより、引用商標は、周知・著名性を獲得し、強大な識別力を発揮していることは明らかである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べている。
1 請求人
本件審判請求人は引用商標権者ではない。引用商標権者は山路昌彦である(甲第2号証)。本件審判請求は権利関係のない者による申立である。

2 外観非類似
本件商標は「多幸八喜恵美寿」である。
引用商標は「多幸八喜」である。
外観において非類似である。
引用商標は「多幸」「八喜」というめでたい2つの語を組み合わせたものであり。本件商標は「多幸」「八喜」「恵美寿」といういずれもめでたい3つの語を組み合わせたものである。
引用商標は、めでたい語2つの組み合わせであり本件商標は3つの組み合わせである。明らかに外観において非類似である。

3 称呼非類似
(1)恵美寿、あるいはエビスという語を含む商標は多くある。
縁起のよい語である恵美寿を商品名にとり入れ商標を取得している例は多い。○○恵美寿、あるいは△△エビス、又は恵美寿○○、エビス△△の類である。
本件商標は「たこやき」をイメージして「たこやき恵美寿」という語の「たこやき」部分にめでたい語をあて、「多幸八喜恵美寿」としたものである。よって、その商標は「多幸八喜恵美寿」として、称呼されるものである。「多幸八喜」と「恵美寿」とを分断して称呼するものではない。更には略して称呼される商標でもない。連続した一連の称呼「タコヤキエビス」として、一体性を有するものである。
その呼称も「タコヤキエビス」と7個の音からなるもので、長いものではない。取引においても、たこ焼きという商品に使用した場合、「タコヤキ」では商品その物を表す普通名詞であり、自他識別性がないので、「タコヤキエビス」と称呼されるものである。かように、本件商標は一連に称呼され、観念も不可分一体の商標として看取されるものである。
それ故、引用商標とは区別されるものである。

(2)「たこ焼き」にめでたい漢字をあてると、「多幸八喜」か「多幸八起」となる。平仮名あるいは片仮名の普通名称の平仮名、片仮名部分を漢字に置き換えて、商品名にすることはよくある。そうした類で「たこ焼き」に漢字をあてはめ、縁起のよいあるいはめでたい文字になるようにと考えれば、一般的は「多幸八喜」か「多幸八起」になる。よって「多幸八喜」はさほど独創性のある造語でもない。
他方、一般人は「多幸八喜」の文字列を読む場合、「タコウハッキ」と発音し、「タコヤキ」と読む人はまずいない。「タコヤキ」と読む旨、解説することにより普通名詞「たこ焼き」に漢字をあてたものと理解する。請求人に置いても、そう理解しているので甲第7号証に「たこやき」とふりがなをしている。
かような視覚で見た時、どう読むのかわからない、わかりにくい字列はそれ自体、自他識別力は稀薄である。
引用商標の字列の読みは甲第7号証によれば、「たこやき」である。「たこやき」との読みは聴覚による称呼としては普通名詞であり、称呼としては自他識別能力はないのである。請求人は、「多幸八喜」を特に商品「たこ焼き」に使用している場合に極めて印象が強いと主張する。「多幸八喜」を「たこ焼き」と読むには解説が必要である上、称呼としての「たこ焼き」は普通名詞なので、商品「たこ焼き」に使用した場合は識別力は稀薄なのである。
それに対し、「多幸八喜恵美寿」は「たこ焼きえびす」と読み称呼されるので、視覚的にも聴覚的にも「多幸八喜」の自他識別性の稀薄さに比べ、他目の識別力を強く有するものである。この点においても非類似である。

4 出所の混同なし
(1)前述のとおり、本件商標と引用商標は類似ではなく、「多幸八喜」と「多幸八喜恵美寿」では一般人において、観念するものが異なるので、出所の混同はない。

(2)請求人は引用商標を商品に使用してはいないし、使用した事実もない。請求人が商品名として使用しているのは、「寿・多幸八喜」である(甲第4及び5号証)。「多幸八喜」と「寿・多幸八喜」は同一ではない。請求人において「多幸八喜」との商品はない。
請求人は「多幸八喜」の商標を商品名に使用してことは一度としてないし、商標権者山路昌彦においても使用したことはなく、現在も使用していない。それ故、需要者において出所を混同することはありえない。
請求人の商品はたこ昌のたこ焼きとして周知されていても、請求人において「多幸八喜」なる商品名の商品を販売していない。甲第4号証の商品紹介においても、「多幸八喜」の商品名はない。被請求人において、現在まで「多幸八喜」なる商品の販売はしていない。それ故「多幸八喜」という商品につき、出所混同はありえない。

第5 当審の判断
1 利害関係について
被請求人は、「本件審判請求人は引用商標権者ではない。引用商標権者はYMである(甲第2号証の商標公報)。本件審判請求は権利関係のない者による申立である。」旨、述べており、この点について、当事者間に争いがあるので、まず、この点について判断する。
商標法第46条に規定する商標登録無効の審判を請求するについての法律上の利益を有する者とは、必ずしも当該登録商標と同一または類似の商標を同一または類似の商品について使用している者、あるいはその使用により現実に当該登録商標の権利者から販売中止の警告などを受けている者等に限られず、本条の立法趣旨、即ち、過誤による商標登録を存続させておくことは本来権利として存在することができないものに排他独占的な権利の行使を認める結果となるので妥当ではないという点を考慮すると、広くみるべきであって、本来無効とされるべき商標が登録され保護を受けることによって不利益を被るおそれのある者を含むと解するのが相当である。
引用商標の商標登録原簿の写し(甲第12号証)及び職権において調査した引用商標の商標登録原簿によれば、引用商標の商標権は、平成18年6月2日付けで、YMから、請求人に移転していることが確認できた。
したがって、請求人は、本件商標の存在によって、直接不利益を受ける者であるから、本件審判の請求をするにつき、利害関係を有するというべきである。
そこで、本案に入って審理する。

2 商標法第4条第1項第11号について
(1)商標の類否判断について
商標の類否は、比較される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。また、商標の外観,観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、上記三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては、これを類似商標とすべきでない。

(2)外観上の類否について
本件商標と引用商標は、前記したとおりの構成よりなるところ、本件商標は「多幸八喜恵美寿」の漢字8文字を標準文字で表したものであり、引用商標は「多幸八喜」の漢字4文字を横書きしたものであるから、引用商標が本件商標の前半に含まれているとしても、外観においては文字数が著しく相違し、十分に区別し得るものである。

(3)称呼上の類否について
本件商標は、「多幸八喜恵美寿」の文字を同書、同大、等間隔に外観上まとまりよく一体的に表しており、また、前半の「多幸八喜」の文字と後半の「恵美寿」の文字とは、観念上も、特に、軽重の差を見出すことはできないものである。そして、これより生ずる「タコウヤキエビス」の称呼も冗長であるとはいえ、一連に称呼し得るものであり、他に本件商標中の「多幸八喜」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見出せない。
したがって、本件商標は、「タコウヤキエビス」の称呼のみを生ずるものである。
一方、引用商標は、「多幸八喜」の文字を横一連に表してなるところ、本件商標と同様の理由により、「タコウヤキ」の称呼を生ずるものである。
そこで、本件商標より生じる「タコウヤキエビス」の称呼と、引用商標より生じる「タコウヤキ」の称呼とを比較すると、両称呼は、全体の音構成が著しく相違し、「エビス」の音の有無に明瞭な差異を有するものであるから、称呼上互いに相紛れるおそれのないものである。

(4)観念上の類否について
株式会社岩波書店が発行した広辞苑第六版によれば、本件商標中の「多幸」の文字が、「1 しあわせの多いこと。多福。」「2 〔心〕身体の軽さなどの体感を含む、快を伴う気分。」の意味を有するとしても、「多幸八喜恵美寿」の文字からなる本件商標及び「多幸八喜」の文字からなる引用商標は、いずれも特定の観念を生じない造語とみるのが相当である。
したがって、本件商標と引用商標とは、観念において比較することはできないものである。

(5)本件商標と引用商標との類否について
してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても同一又は類似するものということはできない。

(6)取引の実情について
本件商標及び引用商標の指定商品は、「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」を共通にするものである。
提出された証拠を判断し、また、職権において調査するに、本件商標が、「七福神の一」を表す「恵比須・恵比寿・夷・戎・蛭子」と同一の称呼「エビス」を生ずる「恵美寿」の文字を有するとしても、両商標が、商品「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」の出所に誤認混同をきたすおそれがあるものとする特段の事情が存在するとは認められない。
また、以下に述べるように、引用商標が、周知・著名性を獲得しているものとは、認められない。

(7)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。

3 商標法第4条第1項第15号(引用商標の周知・著名性)について
(1)商標法第4条第1項第15号の判断時期について
商標法第4条第1項第15号は、査定又は審決時は勿論、商標登録出願の時にも、同号に該当しないものについては適用しない(商標法第4条第3項)。
そして、本件商標は、平成18年(2006年)8月24日に登録出願されている。

(2)請求人が提出した証拠について
甲第1号証は、本件商標の商標公報の写しと認められる。
甲第2号証は、平成2年2月16日に公告された、引用商標の商標公報の写しと認められる。
甲第3号証は、「たこ昌パンフレット」の写しと認められるところ、同号証には、本件商標は見当たらない。
甲第4号証及び同第5号証は、「たこ昌インターネットショピッグサイト」の写しと認められるところ、甲第4号証及び同第5号証には、商品名の欄に引用商標とは異なる「寿・多幸八喜」の文字が記載されており、商品「たこ焼き」の包装には、「寿」の文字が記載され、その下の白抜きされた四辺形の中に「多幸八喜」の文字が記載されている。
また、甲第4号証及び同第5号証の作成年月日は、明らかでないものの、甲第4号証及び同第5号証の最後には、いずれも「Copyright(c)2008 TAKOMASA Coporation.」の文字が白抜きされている。
甲第6号証は、包装紙の写しと認められるところ、同号証には、「寿」の文字が記載され、その下の白抜きされた四辺形の中に「多幸八喜」の文字が記載されているが、作成年月日は明らかでない。
甲第7号証は、リーフレットの写しと認められるところ、同号証には、「多幸八喜」の由来が記載されているが、作成年月日は明らかでない。
甲第8号証は、不鮮明のため何と記載されているか不明確であるが、「多幸八喜箸(箸の文字は、他の文字よりも大きく記載されている。)」と思しき文字が記載された箸袋と思われるものの写しが添付されているが、作成年月日は明らかでない。
甲第9号証は、「株式会社元村紙器工業所」から「株式会社たこ昌」宛の平成11年12月31日付けの請求書と認められるところ、品名の欄に「はし袋」の文字、数量の欄に「10,000」の文字、単価の欄に「8.50」の文字、金額の欄に「85000」の文字が印字されている。
そして、品名の欄に印字された「はし袋」の文字から、引き出し線が出され、その先には手書きで「多幸八喜箸のはし袋です。」の文字が記載されている。
なお、「株式会社たこ昌」は、本件審判請求人及び引用商標の商標権者である「株式会社元祖たこ昌」と商号が相違する。
甲第10号証は、「恵美寿」のインターネット検索結果の写しと認められる。
甲第11号証は、「たこ昌」のインターネットホームページの写しと認められるところ、同号証には、本件商標は見当たらない。
また、甲第11号証の作成年月日は、明らかでないものの、同号証の最後には、「Copyright(c)2008 TAKOMASA.all rights reserved.」の文字が白抜きされている。
甲第12号証は、引用商標の商標登録原簿の写しと認められる。
甲第13号証の1は、多幸八喜リーフレットの写しと認められるところ、表には、縦書きされた「多幸八喜(喜の文字の右下には小さな円の中にRの文字が記載されている。)」、「多幸八喜」の文字の右に「TA」「KO」「YA」「KI」の各文字が記載されており、その下に「(承り期間/2008年12月25日迄)」の文字が記載されている。
甲第13号証の1の裏には、縦書きされた「多幸八喜(喜の文字の右下には小さな円の中にRの文字が記載されている。)おせち(おせちの文字は赤色で記載されており、他の文字は黒色で記載されている。)」、「多幸八喜」の文字の右に「TA」「KO」「YA」「KI」の各文字が記載されており、その下に「商品名/DM-4 多幸八喜おせち」の文字、発送方法の欄に「配達日は12月30日以降となりますので、12/30(火)?1/5(月)までの間にご指定ください。」の文字が記載されている。
甲第13号証の2は、2008年(平成20年)12月3日付けの朝日新聞の写しと認められるところ、「迎春たこやきおせち(平仮名で表された「た」の文字ないし「ち」の文字は、各文字が円の中に記載されている。)」の見出しのもと、写真の説明として、「たこ焼きづくしのおせち料理『多幸八喜おせち(多幸八喜の文字の上に「たこやき」の振り仮名が付されている。)』」のように記載されている。
甲第13号証の3は、2008年(平成20年)12月2日付けの日本経済新聞の写しと認められるところ、「たこ焼きお節(各文字が円の中に記載されている。)」の見出しのもと、「請求人が『多幸八喜(たこやき)おせち』の名称のたこ焼きお節料理の販売予約を始めた。」旨の記載がされており、職権において調査したところ、同日付けの「日本経済新聞 地方経済面(近畿B)」であることが確認できた。
甲第13号証の4は、2008年(平成20年)12月3日付けの日経MJの写しと認められるところ、「『たこ焼きお節』どうでっか?」の見出しのもと、「請求人が『多幸八喜(たこやき)おせち』の名称のたこ焼きお節料理の販売を始めた。」旨の記載がされている。

(3)判断
請求人が提出した証拠のうち、本件商標の登録出願日である平成18年(2006年)8月24日以前であることが明かな証拠は、甲第2号証及び同第9号証にすぎないものである。
そして、甲第2号証は、引用商標が公告されたときの商標公報の写しと認められ、同第9号証は、本件審判請求人及び引用商標の商標権者とは商号が相違する者に対して請求された請求書であるから、これらの証拠によって、
本件商標を指定商品について使用した場合、請求人又は請求人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務にかかる商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがあるということはできない。
また、本件商標を付した商品のみの販売数量、販売高、広告、宣伝等の程度又は普及度が、証明されていないことから、本件商標が、商標法第4条第1項第15号に該当するということはできない。

4 まとめ
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものではないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
審理終結日 2009-01-09 
結審通知日 2009-01-16 
審決日 2009-01-27 
出願番号 商願2006-78951(T2006-78951) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (Y30)
T 1 11・ 262- Y (Y30)
T 1 11・ 263- Y (Y30)
T 1 11・ 02- Y (Y30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶原 良子 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 杉山 和江
馬場 秀敏
登録日 2007-06-15 
登録番号 商標登録第5054813号(T5054813) 
商標の称呼 タコヤキエビス、タコーヤキエビス、タコーハッキエビス、タコーハチキエビス、タコヤキ、タコーヤキ、タコーハッキ、タコーハチキ、エビス 
代理人 森本 直之 
代理人 樽谷 進 
代理人 山▼崎▲ 弘子 

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