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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない Y09
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Y09
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y09
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない Y09
管理番号 1187700 
審判番号 無効2007-890128 
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-08-07 
確定日 2008-11-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第5018944号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5018944号商標(以下、「本件商標」という。)は、「フラッシュ暗算」の文字を標準文字としてなり、平成15年7月1日に登録出願された商願2003-54642に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、同16年2月18日に登録出願、第9類「電子出版物」及び第41類「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書の供覧,書籍の制作,図書の貸与」を指定商品及び指定役務として、同19年8月7日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第59号証を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標登録を無効とすべき理由
ア 請求の理由(I)
本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定によって無効にされるべきものである。
(ア)「フラッシュ暗算」という言葉について
「フラッシュ暗算」は、珠算式暗算の練習のために開発された方法であって、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に順次表示された数字を合計して答える暗算訓練方法をいう。フラッシュ暗算は、かつては「コンピュータ暗算」と称されていた。コンピュータの画面にコンピュータプログラムにより順次数字を出力させ、その数字を珠算式暗算を用いて合計させることによって暗算力を訓練するという方法によるので、「コンピュータ暗算」と称したものと思われる。宮本祐史氏は、このコンピュータ暗算を実施するためのコンピュータプログラム開発の創始者であり、コンピュータ暗算を含むコンピュータソフトウェア「あんざん力開発システム」を開発した。この「あんざん力開発システム」は昭和55年に商品化され、平成5年にプログラムの著作権について、財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)に登録番号(P第3685号-1)として登録された(甲第5号証)。なお、このソフトウェアの開発の詳細については、日本フラッシュ暗算協会が提供する「フラッシュ暗算 公式サイト」(www.flash-anzan.com)に掲載されている(甲第6号証)。
一方、請求人は、昭和28年に設立後、一貫して珠算教材の製造・販売や珠算教育器具の販売を行なってきたが、宮本祐史氏によるコンピュータソフトウェアの開発に当初から関わり、「あんざん力開発システム」の商品化及びその後継商品について一貫して販売を担当してきた。それを示す例として、平成9年12月に掲載された「あんざん力開発システム」の広告を提出する(甲第7号証)。この「あんざん力開発システム」は、日本全国の珠算教室が導入する教育用プログラムとして販売されていた。
ところで、「コンピュータ暗算」は、いつの頃からか「フラッシュ暗算」と呼ばれるようになってきた。誰が「フラッシュ暗算」という言葉を使い始めたかについて、今回の無効審判請求に際し、創始者である宮本裕史氏が調査したところでは、1988年頃、まだインターネットではなくパソコン通信でコメントがやり取りされていた時代に、名村広志氏がアバカスネットワークという名称の会議室を運営しており、その会議室には名村氏の承認を受けたそろばんの先生だけが参加できることになっていたが、その会議室でフラッシュ式に出題される計算方法を何という名前にしたら分り易いかという話題が持ち上がり、名村広志氏と平沢行雄氏とで「フラッシュ暗算」の名称に決めたことが過去ログに残っているということであった。その時点で、その会議室に参加できるそろばんの先生は1000人を超えていたということなので、会議室でその話題が交わされた時点で相当な数のそろばんの先生が「フラッシュ暗算」の名称を知ったことになり、その先生が自分の生徒にその名称を伝えたりすれば、珠算界では「フラッシュ暗算」の名称は相当の数の先生や生徒が知っていたことになる。いずれにせよ、画面にフラッシュ式に表示される数字を暗算で合計するという意味では、「コンピュータ暗算」という呼び方より「フラッシュ暗算」の方がその性質を一層わかりやすく的確に表現していることもあってか、平成12年頃には、「フラッシュ暗算」という呼び方が珠算界において相当広まってきたので、同年12月24日に開催された全国珠算競技会(主催・浦和珠算連盟、共催:浦和商工会議所)において、主催者と宮本裕史氏が話し合った結果、従来の競技種目の名称としての「コンピュータ暗算」を「フラッシュ暗算」に変更した(甲第8号証)。これが、最初に「フラッシュ暗算」が正式に競技種目の名称として使用された競技会であるが、このように全国的な規模の珠算競技会においてこの名称が使用されたのは、すでに全国的にこの「フラッシュ暗算」の名称がかなり浸透していたことの現れであり、この全国競技会で使用されたことにより、さらにその名称が広範に知られるきっかけとなるものであった。また、以後の珠算競技会での名称は「フラッシュ暗算」が使用されるようになり、珠算競技会に参加する参加者、その家族、友人、珠算教室の関係者等を介して、より広く知られるようになった。また、珠算競技会を報道するテレビニュースや新聞等で「フラッシュ暗算」競技が取り上げられることにより、一般の人々にもその名称が知られるようになった。
(イ)検定試験における「フラッシュ暗算」の使用について
請求人は、宮本裕史氏の開発した「あんざん力開発システム」の販売を行なうと共に、平成5年頃から日本コンピュータ暗算検定協会の名の下に宮本裕史氏が開発した検定用ソフトウェアを使用してコンピュータ暗算検定試験を主催し、合格者にライセンスカードを発行していたが、「フラッシュ暗算」の名称使用の広がりを受け、同14年1月に「日本コンピュータ暗算検定協会」の名称を「日本フラッシュ暗算協会」に改称した(甲第9号証)。この証明書のオリジナルは、商標登録第4762821号「日本フラッシュ暗算検定協会」(甲第4号証)の審査中に手続補足書で提出されたものである。
また、請求人は、宮本裕史氏が開発したフラッシュ暗算の検定用ソフトウェアを、平成14年6月から「フラッシュ暗算 個人検定用ソフト」の名称の下に全国の珠算教室向けに販売を開始し、さらに同年10月から生徒の自宅練習用ソフトとして「フラッシュ暗算パーソナル」の販売も開始した(甲第10号証)。なお、請求人が商標「日本フラッシュ暗算検定協会」を特許庁に出願した平成14年7月19日(甲第4号証)の時点で、「フラッシュ暗算」はすでにスクリーンあるいはコンピュータの表示画面に順次表示された数字を合計して答える暗算訓練方法の名称として一般的に使用され、検定試験や競技会での競技種目の正式名称及びソフトウェアの名称として広く使用されていたので、請求人は「フラッシュ暗算」を商標として登録する意思は全くなく、また、「フラッシュ暗算」という語句が商標として登録されるはずもないと認識していた。
(ウ)テレビ放映による「フラッシュ暗算」の一般の人々への浸透
「フラッシュ暗算」という言葉が比較的短い期間の間に広く全国的に知られるようになったのは、テレビ放映が大きく影響している。平成13年11月から同14年3月にかけて、フジテレビのゴールデンタイムに放送された番組「100%キャイーン」において、「フラッシュ暗算」のタイトルのコーナーが設けられ、珠算教室の生徒や芸能人が毎回フラッシュ暗算に挑戦する場面が放送された。番組の中では、番組主催で全国大会が2回行なわれたが、特に最終回に行なわれた大会は、池袋サンシャインホールを貸し切り、全国から500名以上の選手が集まった。この大会の予選から決勝までが一時間以上に亘って放映されたことで「フラッシュ暗算」の名称は、決定的に全国に広がった。
甲第1号証として提出するのは、その最終回の放送の録画である。甲第11号証及び同第12号証は、フジテレビの提供するウェブサイトに掲載されている平成13年12月5日放送及び同年同月26日放送の「100%キャイーン」の放送内容を記載したウェブページのプリントアウトである。
その後、さらに「フラッシュ暗算」に関するニュースや番組が、NHKや民放各局で紹介されるようになった。甲第2号証は、平成15年5月6日に日本テレビで収録されその後放送された世界仰天ニュースの中で「フラッシュ暗算」が紹介された場面を録画したものである。また、日本テレビ放送の番組「ワールドレコーズ」では、同16年6月27日放送分で「フラッシュ暗算の笹野さんに匹敵するスゴ腕の持ち主現る!」(甲第13号証)、同年9月5日放送分でエキシビジョンマッチ「カラオケ2画面フラッシュ暗算対決」(甲第14号証)、同年10月10日放送分で「ハイスピード暗算世界一決定戦」(甲第15号証)と、少なくとも3回フラッシュ暗算をテーマに取り上げている。
以上に述べたように、「フラッシュ暗算」がテレビ番組で取り上げられたということは、それまでは主として珠算界で知られていた「フラッシュ暗算」が一気に一般のテレビの視聴者に広まったことを意味する。「フラッシュ暗算」はフラッシュ的に次々に画面に表示される数字を暗算で合計していくので、その方法自体は非常にわかりやすく、視聴者もテレビ画面を観ながらゲーム感覚でフラッシュ暗算を自分でも体験出来るとともに、次々に正解を出す回答者の腕前がいかに優れているかを実感できる。このような視覚的な印象効果が高いフラッシュ暗算は、テレビの放映に非常に適しており、テレビ局も好んで取り上げたものと考えられる。そして、一度でも「フラッシュ暗算」についての放映を目にした視聴者には、この「フラッシュ暗算」が二度と忘れない程強く印象づけられることは、甲第1号証及び甲第2号証を検証すれば誰にでも明らかである。
なお、「フラッシュ暗算」は、本件商標の出願前に、各種団体が開催する珠算競技会や検定試験の正式種目として採用されているので、(今となっては証明を行なうのは困難なのであるが)これらの競技会の様子や結果について特に地方局のテレビニュースで度々放映されており、それは各新聞に競技会での「フラッシュ暗算」についての記事が掲載される頻度と少なくとも同程度以上には放送されたものと考えられる。したがって、上記したテレビ番組を視聴していなくとも、テレビニュースから「フラッシュ暗算」を知った者も多いと考えられる。
(エ)新聞等における「フラッシュ暗算」についての記事の掲載
請求人は、「フラッシュ暗算」の語句の新聞・雑誌等の掲載について、ポータルサイト@nifty(www.nifty.com)で提供されている新聞・雑誌記事横断検索/G-Searchで「フラッシュ暗算」をキーワードとして検索を行なった。
その結果、本件商標の出願前である、平成8年1月1日から同15年6月30日までの期間に、39件のヒットがあった(甲第16号証)。
また、これらの記事が掲載された新聞のコピーを、入手可能な限り収集し、提出する(甲第17号証ないし同第39号証)。
ヒットした記事の中で、最も日付が古いのは、平成13年11月11日付毎日新聞地方版(山梨)の記事で、その内容は甲府市で、日本珠算連盟県支部主催で、「フラッシュ暗算」の競技が開かれたというものである。この時期は丁度フジテレビで放送された番組「100%キャイーン」において、「フラッシュ暗算」のコーナーが開始された時期と重なる。
ヒットした記事39件の内容を分析すると、テレビ番組「100%キャイーン」に関する記事が1件(甲17号証)、様々なフェスティバルや大会などのイベントにおいて「フラッシュ暗算」の体験コーナーやデモが行なわれたことを記載した記事が13件(甲第18号証など)、日本珠算連盟や各地の珠算連盟等が開催する珠算の競技会・コンクール・コンテスト等で正式種目として行われた「フラッシュ暗算」について記載した記事が7件(甲第19号証など)、「フラッシュ暗算」を対象とした競技会の開催についての記事が7件(甲第26号証など)、読売・日本テレビ文化センターでの「子供のためのフラッシュ暗算」の講座開催のお知らせが4件(甲第29号証など)、インタビューその他一般的な記事で「フラッシュ暗算」の話題が登場する記事が7件(甲第30号証など)となっている。
例えば、甲第37号証や甲第38号証で示す記事は、生活欄でかなり広い紙面のスペースを設けて、「フラッシュ暗算」についての話題を記載しており、このような記事から「フラッシュ暗算」についての知識を得る読者も多数あったことは十分考えられる。また、「子供のためのフラッシュ暗算」の講座の受講生の募集が4回掲載されたのは、「フラッシュ暗算」の講座を開講して受講生を集めることができるほどに、すでに「フラッシュ暗算」の名称及びその内容がかなり小学生やその親達に浸透していたことの現れだと考えられる。
一方、大多数の記事は、イベントや競技会での「フラッシュ暗算」のデモや競技の実施について記載されているもので、それ自体は紙面上のスペースも小さいものも多く、記事自体が「フラッシュ暗算」を周知させる媒体として大きく貢献したとはいえないかもしれない。しかし、これらの記事は、多くのイベントや競技会等において「フラッシュ暗算」が行われたことについての確実な証明となるものである。これらのイベントや競技会での参加者(それぞれ何百人の単位で参加しているものが多い)、その家族や友人、たまたま見学をした者、所属している珠算塾の仲間などを通して、より「フラッシュ暗算」が浸透していったことは明らかである。また、これらのイベントや競技会が日本全国の様々な地域において開催されたことは特筆すべきことであって、「フラッシュ暗算」が全国的に浸透していったことを示している。
さらに、新聞・雑誌記事横断検索/G-Searchにより、「フラッシュ暗算」をキーワードとして、本件商標の出願後登録査定前までの、平成15年7月1日から同16年7月13日までの期間の検索を行なった結果、29件のヒットがあった。上に述べた最初の検索では、約2年半の間に39件のヒットが在ったのにくらべ、この29件のヒットは約1定年間の期間を対象としているので、新聞への掲載の頻度もより高まっていることがわかる。その29件の検索結果及び各記事の内容のプリントアウトを、甲第40号証として提出する。
ヒットした記事29件の内容を分析すると、様々なフェスティバルや大会などのイベントにおいて「フラッシュ暗算」の体験コーナーやデモが行なわれたことを記載した記事が12件(平成15年7月6日付北国新聞記事、同年同月13日付山形新聞記事、同年8月4日付毎日新聞記事、同年9月1日付神戸新聞記事、同年11月17日付京都新聞記事、同年12月18日付山形新聞記事、同年同月21日付山形新聞記事、同16年1月20日付中日新聞記事、同年同月29日付読売新聞記事、同年2月16日付毎日新聞記事、同年5月1日付中国新聞、同年同月6日付中国新聞)、日本珠算連盟や各地の珠算連盟等が開催する珠算の競技会・コンクール・コンテスト等で正式種目として行われた「フラッシュ暗算」について記載した記事が10件(平成15年7月23日付静岡新聞記事、同年8月8日付静岡新聞記事、同年12月22日付毎日新聞記事、同16年1月12日付静岡新聞記事、同年3月17日付愛媛新聞記事、同年4月18日付愛媛新聞記事、同年同月26日付岩手日報記事、同年5月9日付毎日新聞記事、同年7月4日付琉球新報記事)、「フラッシュ暗算」を対象とした競技会の開催についての記事が4件(平成15年8月28日付読売新聞記事、同年9月21日付上毛新聞記事、同16年3月28日付上毛新聞記事、同年4月6日付上毛新聞記事)、インタビューその他一般的な記事で「フラッシュ暗算」の話題が登場する記事が3件(平成16年1月21日付愛媛新聞記事、同年同月27日付産経新聞記事(東京及び大阪)、同年3月23日付朝日新聞記事)となっている。
なお、新聞.雑誌記事横断検索/G-Searchの検索対象となっていない日経流通新聞でも、平成14年7月11日付の囲み記事で「フラッシュ暗算」について解説を行なっている(甲第41号証)。この記事では、特に「フラッシュ暗算」のゲーム性に着目しているが、まさにこのゲーム性により珠算に興味のない人であっても「フラッシュ暗算」に引きつけられ、又チャレンジしようという気を起させるものであり、そのために「フラッシュ暗算」に特化した競技会が数多く開催されたり、イベントで数多く取り上げられることになり、もともとは珠算式暗算の練習のために開発された方法であったものの、「フラッシュ暗算」が、一般の人々に一層浸透する要因となったものである。
さらに、新聞・雑誌記事横断検索/G-Searchにより、「フラッシュ暗算」をキーワードとして、原出願の登録査定日後である平成16年7月14日から本件商標の登録審決が出された日である同18年11月8日までの期間の検索を行なった結果、116件のヒットがあった。
それ以前の2003年7月1日から2004年7月13日の約一年間で29件のヒットがあったのに比べ、この期間では約2年4ヶ月で116件のヒットがあったことから、新聞・雑誌への掲載の頻度がさらに高まっていることが明白である。
その116件の検索結果及びヒットした各記事の内容のプリントアウトを甲第42号証として提出する。
ヒットした記事116件の内容を分析すると、フラッシュ暗算の達人が登場するテレビ番組の記載の記事が1件(平成16年12月20日付東京新聞記事)、様々なフェスティバルや大会などのイベントにおいて「フラッシュ暗算」の体験コーナーやデモが行なわれたことを記載した記事が31件(平成16年9月24日付読売新聞記事、同年11月3日付朝日新聞記事、同17年1月4日付毎日新聞記事、同年同月10日付岩手日報記事、同年2月13日付琉球新報記事、同年6月3日付東奥日報記事、同年7月13日付上毛新聞記事、同年8月1日付中日新聞記事、同年同月16日付中日新聞記事、同年同月27日付静岡新聞記事、同年10月18日付神戸新聞記事、同年11月9日付秋田魁新報記事、同年同月14日付北国新聞記事、同年同月20日付岐阜新聞記事、同18年1月9日付岩手日報記事、同年同月7日付読売新聞記事、同年同月23日付沖縄タイムス記事、同年2月10日付朝日新聞記事、同年同月14日付中日新聞記事、同年6月4日付東奥日報記事、同年同月24日付中日新聞記事、同年7月2日北国新聞記事、同年同月5日付北海道新聞記事、同年同月30日付け中日新聞記事、同年8月9日付北海道新聞記事、同年同月12日付神戸新聞記事、同年同月26日付静岡新聞記事、同年同月27日付中日新聞記事、同年同月29日付沖縄タイムス記事、同年同月30日付琉球新報記事、2006年9月2日付岩手日報記事)、日本珠算連盟や各地の珠算連盟等が開催する珠算の競技会・コンクール・コンテスト等で正式種目として行われた「フラッシュ暗算」について記載した記事が51件(平成16年8月4日付毎日新聞記事、同年同月10日付琉球新報記事、同年同月10日付沖縄タイムス記事、同年同月10日付中国新聞記事、同年同月10日付神戸新聞記事、同年同月10日付中日新聞記事、同年10月18日付北海道新聞記事、同年11月8日付琉球新報記事、同年同月13日付沖縄タイムス記事、同年12月6日付北海道新聞記事、同年同月27日付毎日新聞記事、同年同月27日付読売新聞記事、同年同月28日付毎日新聞記事、同17年1月7日付沖縄タイムス記事、同年同月7日付北海道新聞記事、同年同月11日付北海道新聞記事、同年同月17日付静岡新聞記事、同年3月2日付静岡新聞記事、同年同月8日付上毛新聞記事、同年5月25日付琉球新報記事、同年同月27日付高知新聞記事、同年6月23日付西日本新聞記事、同年同月23日付北海道新聞記事、同年7月6日付中国新聞記事、同年同月11日付琉球新報記事、同年8月9日付東奥日報記事、同年同月10日付琉球新報記事、同年同月11日付沖縄タイムス記事、同年同月29日付中国新聞記事、同年9月1日付岩手日報記事、同年10月19日付北海道新聞記事、同年同月19日付北海道新聞記事、同年同月24日南日本新聞記事、同年12月26日付毎日新聞記事、同年同月26日付読売新聞記事、同18年1月11日付北海道新聞記事、同年同月23日付静岡新聞記事、同年2月13日付沖縄タイムス記事、同年同月17日付琉球新報記事、同年3月7日付上毛新聞記事、同年同月15日付愛媛新聞記事、同年5月11日付沖縄タイムス記事、同年6月19日付琉球新報記事、同年同月22日付北海道新聞記事、同年同月23日付沖縄タイムス記事、同年同月26日付読売新聞記事、同年7月4日付中日新聞記事、同年8月21日付中国新聞記事、同年同月28日付中国新聞記事、同年10月11日付北海道新聞記事、同年同月14日付北海道新聞記事)、「フラッシュ暗算」のみを対象とした競技会・コンテスト等の開催についての記事が7件(平成16年10月5日付上毛新聞記事、同年同月25日付北国新聞記事、同17年3月27日付上毛新聞記事、同年4月4日付上毛新聞記事、同年同月4日付毎日新聞記事、同18年4月3日付上毛新聞記事、同年8月30日付中国新聞記事)、インタビュー、トピックその他一般的な記事で「フラッシュ暗算」の話題が登場する記事が26件(平成16年7月29日付読売新聞記事、同17年2月18日付中日新聞記事、同年4月4日付中日新聞記事、同年同月28日付毎日新聞記事、同年5月7日付北海道新聞記事、同年8月13日付中日新聞記事、同年8月14日付読売新聞記事、同年9月7日付沖縄タイムス記事、同年10月7日付沖縄タイムス記事、同年同月15日付琉球新報記事、同17年11月1日付北海道新聞記事、同年同月17日付読売新聞記事、同年12月1日付朝日新聞記事、同18年1月1日号日経ソフトウェア記事、同年3月24日付読売新聞記事、同年4月8日付読売新聞記事、同年5月15日付朝日新聞記事、同年6月8日付南日本新聞記事、同年同月20日徳島新聞記事、同年同月23日付日刊工業新聞記事、同年同月26日号日経パソコン記事、同年8月28日付静岡新聞記事、同年同月28日付朝日新聞記事、同年同月30日付琉球新報記事、同年9月2日号週刊東洋経済記事、同年同月2日付朝日新聞記事)、となっている。
これらの記事の中には、競技会等の新聞記事ばかりでなく、最近では、多くのビジネスマンが愛読する週刊東洋経済のトップ記事としてフラッシュ暗算に関する事件が掲載され(甲第43号証)、読売新聞の読者に毎月配布される月刊読売ライフでもフラッシュ暗算が大きく取り上げられている(甲第44号証)。また、「フラッシュ暗算」について大きく取り上げる新聞記事(甲第45号証)、そろばん復権に関連してフラッシュ暗算を取り上げる新聞記事(甲第46号証)など、競技会等ではなく、「フラッシュ暗算」を直接話題として取り上げる記事も増加しています。さらに、日経ソフトウェア(甲第47号証)や日経パソコン(甲第48号証)の雑誌等でも「フラッシュ暗算」に関する記事が掲載されている。
一方、本件商標の登録審決に至るまでに、パーソナルコンピュータや家庭用ゲーム機でフラッシュ暗算の訓練を行なうためのソフトウェアも複数登場している(甲第49号証、甲第50号証、甲第51号証)。
(オ)結論
「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、本件商標の登録査定時までにすでに日本全国において広く知られていたことは、請求人の主張及び提出する証拠から明らかである。
「フラッシュ暗算」は、このように暗算方法を表す言葉として用いられてきたものであり、本来商品や役務の名称でもなく、商品や役務の品質や質を直接表示する言葉でもない。
なお、本件商標の指定役務中の知識の教授に含まれる珠算教室での教授内容に「フラッシュ暗算」の語句が用いられており、また、検定試験の実施について「フラッシュ暗算」が用いられるので(甲第6号証)、これらの役務が「フラッシュ暗算」に係ることを意味している場合に、役務の質を表示していると解釈出来ないわけではない。しかし、これらの役務にいくら「フラッシュ暗算」を用いたからといって、あくまでも暗算方法を示す言葉に他ならず、使用によって識別力が生じる商標とは到底いうことはできない。したがって、本件商標が、本来、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標である。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定によって無効にされるべきものである。
イ 請求の理由(II)
本件商標は、商標法第3条第1項第3号または同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号の規定によって無効にされるべきものである。
ア(ア)の項で説明したとおり、「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、本件商標の登録審決時である平成18年11月8日までにすでに日本全国において広く知られていたものである。 したがって、この「フラッシュ暗算」の言葉と同一の本件商標は、仮に商標法第3条第1号第6号に規定する商標に該当しないとしても、「スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法」すなわち「フラッシュ暗算」を効能・用途などとする「フラッシュ暗算」に関連する指定商品または指定役務に使用する場合には、商標法第3条第1項第3号に該当し、それ以外の指定商品または指定役務に使用する場合には「フラッシュ暗算」に関連する指定商品あるいは指定役務であるとの誤認を生ずるおそれがあるので商標法第4条第1項第16号に該当する。
ウ 請求の理由(III)
本件商標は、商標登録がされた後に、商標法第4条第1項第7号に該当するに至ったものであるから、同法第46条第1項第5号の規定によって無効にされるべきものである。
「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、本件商標の登録審決時までにすでに日本全国において広く知られていたにもかかわらず、登録されてしまった。一方、フラッシュ暗算に対する注目度の高さや、フラッシュ暗算を取り入れる珠算教室の増加、フラッシュ暗算の競技会や検定試験の実施、マスコミによる掲載等は、その後も変ることはない。
また、さらに宮本裕史氏が開発したフラッシュ暗算のソフトウェアは、社団法人全国珠算教育連盟、日本珠算連盟、日本フラッシュ暗算検定協会、社団法人全国珠算学校連盟、浦和珠算連盟、等の公式の検定ソフトや競技会用ソフトに採用されている(甲第6号証)。
以上述べたように、「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、ごく日常的に、ソフトウェアの機能の表示、新聞や雑誌の記事、珠算教室・検定試験・競技大会の場、等で使用されている。
そこで、例えば、法律の専門家であれば、「フラッシュ暗算」が商標登録されたとしても、上に述べた日常的に行われているフラッシュ暗算という言葉の使用は商標としての使用ではないので、本件商標の効力は及ばないもの、と考えるかもしれない。しかし、一旦商標が登録されてしまうと、その権利が顕在化することは登録制度が採用されている以上必然であり、一般の人々が強い警戒感を抱くことは間違いない。まして、商標法第26条による商標権の効力が及ばない範囲を説明したとしても、この第26条に基づく主張は、訴訟等の場で初めて主張が判断されるものであり、もともと争いに巻き込まれたくない者にとっては、相手方が商標権を取得したと知っただけで、ともかく争いを避けるために当該登録商標の使用を避けたくなるのが事実である。
こうしたことから、珠算業界ではすでに混乱が生じている。例えば、検定試験を実施している団体では、フラッシュ暗算の名称を他の名称に変更することを考え、あるいはフラッシュ暗算検定用のソフトウェアを、被請求人が本件商標の登録を有しているがために、被請求人の製造販売するソフトウェアに変更するといった事態が事実起こってきている。
したがって、「フラッシュ暗算」の言葉の使用は広く開放されるべきであって、このような言葉と同一の商標に登録が付与されることによって生じた、誤った認識に基づく無用の混乱のさらなる拡大を防止するために、本件商標は、商標登録がされた後に、商標法第4条第1項第7号に該当するに至ったものであるから、同法第46条第1項第5号の規定によって無効にされるべきものである。
なお、被請求人は、本件商標に対する無効審判事件(無効2005-89045号。以下「先の無効審判」という。)の答弁書において、以下のように述べている。
「上述の通り、本件商標『フラッシュ暗算』は『フラッシュ』の語と『暗算』の語を結合し独自に創作された、もともと具体的な観念を生じることのなかった造語であり、被請求人が自己の商品・役務について広範囲に使用しようと努力してきたものである。『フラッシュ暗算』といえば、出願人の商品・役務に関連するものと理解する需要者・取引者も存在している。仮に請求人が指摘するように普通名称化の傾向が僅かに見られたとしても、それは被請求人の本件商標使用の努力に帰するものであり、一方『モニター画面に出てくる数字を計算する暗算方法』が新規なものだったために本件商標が普通名称と思われて他人に使用されたためとも考えられる。使用者として、最先の出願人として、被請求人が本件商標につき商標権を確保し、その商標の維持管理をすることは商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図らんとする商標の目的に合致するものと考えられる。」
上述の主張からすると、被請求人が「フラッシュ暗算」を商標として最先に使用し、被請求人による商標使用の努力によって「フラッシュ暗算」が普及されたかのようにみることができる。
しかし、これが事実に基づく主張ではないことを示すために、請求人は、珠算界唯一の月刊情報誌である高柳和之氏発行の「サンライズ」誌の創刊号から平成15年12月1日(通巻81号)にかけて掲載された被請求人による広告を甲第52号証として提出する。甲第52号証から明らかなように、被請求人の広告では、商標「そろもん」の使用や「暗算教育ソフト」の文字は見られても「フラッシュ暗算」の商標としての使用はどこにも見ることはできない。甲第52号証中、平成14年3月1日発行「サンライズ」第60号の広告では、「今、話題の『100%キャイーン』の番組で取り上げられている、暗算大会は、パソコンのモニターに数字を点滅させ、その点滅させた問題を暗算で計算します。この練習は、そろもんのスパカルでもできる」との記載がある。もし、被請求人が商標「フラッシュ暗算」の使用を自ら開始し、普及に務めていたのであれば、この広告で商標としての「フラッシュ暗算」の使用をしていないはずはない。
さらに、甲第53号証として、被請求人が製造販売する暗算能力開発用ソフトウェア「そろもん」のホームページのプリントアウトを提出する。甲第53号証から明らかなように、被請求人はこのホームページで「フラッシュ暗算」の言葉を数多く使用しているが、それは「フラッシュ暗算大会」、「フラッシュ暗算にチャレンジ」、「かけフラッシュ暗算、わりフラッシュ暗算にチャレンジしましょう」、「フラッシュ暗算CD」、「フラッシュ暗算練習ソフト」のように使用しており、被請求人が「フラッシュ暗算」を商標として使用しているのではなく、スクリーンやコンピュータのモニターに数字を点滅させその点滅させた問題を暗算で計算する、といった意味合いで使用しているのは明らかである。請求人は、被請求人が「フラッシュ暗算」を商標として使用している証拠を探したが、そのような証拠を見出すことはできなかった。
被請求人自ら「フラッシュ暗算」をソフトウェアの機能あるいは用途を表す言葉としてしか使用していないにもかかわらず、本件商標の登録に基づく権利行使を認めるのは、今まで平穏に「フラッシュ暗算」の用語を使用してきた多くの珠算教育関係者や珠算検定の実施者等の間に大きな困惑や混乱を生じさせ、許されるものではない。そして、本件商標の登録が有効である限り、このような困惑や混乱に対するおそれが解消されることはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するに至ったものとして、同法第46条第1項第5号の規定によって無効にされるべきものである。
2 弁駁
(1)第3条第1項第6号に関する反論について
「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、本件商標の登録査定時までにすでに日本全国において広く知られ、少なくとも珠算界において、このような暗算方法を表す言葉として広く用いられてきたことは事実である。
そして、「フラッシュ暗算」が、本来商品や役務の名称でもなく、商品や役務の品質や質を直接表示する言葉でないことも事実である。そのため、「フラッシュ暗算」を指定商品あるいは指定役務に使用したところで、誰もそれをもはや識別標識とは認識し得ないものであったということである。
請求人はこの事実を示すために、甲第1号証ないし同第51号証を提出した。これらの証拠は、「フラッシュ暗算」が業界において指定商品・役務の内容を表示する語として普通に使用されていることを証明するために提出したものではなく、「フラッシュ暗算」が、競技会の種目名として、あるいは珠算教室で指導される暗算方法の名称として、テレビ番組や新聞・雑誌記事において暗算方法の名称として、広く使用され、広く知られていた事実を証明するためである。
商標法第3条第1項各号においては、第1号から第5号で自他商品又は役務の識別力のない具体的な標章をいわば例示的に掲げており、それ以外で自他商品または役務の識別力のないものを第6号に該当することとしているものである。
したがって、「商標」として、指定商品あるいは指定役務を指定して出願された標章であっても、本来あるいは登録査定・審決時においてもはや自他商品あるいは役務の識別機能を発揮し得ない標章は、第1号から第5号に該当しないものであっても第6号により登録を拒絶するものである。
被請求人は、「フラッシュ」の語が指定商品・役務との関係で商標法第3条第1項第1号ないし第5号のいずれかに該当し、「暗算」の語もまた、「フラッシュ」の語が該当しない同第3条第1項第1号ないし第5号のいずれかに、指定商品・役務との関係で該当している場合に、商標全体として識別力がないと判断されて、商標法第3条第1項第6号に該当することになるものと考えられると主張しているが、このように狭く解釈する必要はない。
例えば、地模様(例えば、模様的なものの連続反復するもの)のみからなるもの、標語(例えば、キャッチフレーズ)、現元号をあらわす「平成」の文字等が、商標審査基準において第3条第1項第6号に該当するとされているのも、これらの標章が例え商品あるいは役務を識別するために用いられたとしても全体として誰もこれらを識別標識として認識し得ないからである。
同様に、「フラッシュ暗算」の語も、この語句全体として、珠算式暗練習のために開発された方法であってスクリーンあるいはコンピュータの表示画面に順次表示された数字を合計して答える暗算訓練方法を意味するものとして、広く用いられ知られていたため、もはや識別標識として使用したとしても全く識別標識として機能しないために第3条第1項第6号に該当し、本来登録を受けるべきではなかったということを請求人は主張している。
なお、被請求人は、先の無効審判の審決(乙第1号証)を引用し、当該審決において「フラッシュ暗算」の語を特定の意味合いを認識させることのない一種の造語からなるものというのが相当と判断されていると主張しているが、当該審決は、先の無効審判において、請求人が主張した内容及び提出した証拠とそれに対する答弁に基づいて出されたものである。本件における請求人の主張及び提出した証拠は、前回提出したものと全く異なる。
被請求人は、「フラッシュ暗算」は特定の観念を生じない造語と考えられ、請求人が提出した証拠によっても、暗記方法の内容を表示する用語として、普通に理解できたり、親しまれた語であったり、用語として通用しているとはいい難いと主張しているが、甲第1号証ないし同第51号証に示されるように、数多くのイベントや珠算競技会での「フラッシュ暗算」競技の実施や毎年の検定試験の実施等により、検定試験や珠算競技会に参加する参加者、その家族、友人、全国の珠算教室の関係者で「フラッシュ暗算」の内容を知らない者はいない。また、「フラッシュ暗算」を取り上げたテレビ番組の放映を一度でも観た者には、「フラッシュ暗算」の内容が強く印象付けられるのは甲第1号証及び同第2号証を検証してみれば明らかである。
「フラッシュ暗算」は確かに造語であるが、そもそも商標として採択された語句ではなく、コンピュータ暗算に代わる名称として提唱されたものであり、請求人が知る限りでは、1988年頃、名村広志氏と平沢行雄氏が、電子会議室で取り交わされた話題をきっかけとして「フラッシュ暗算」の名称を採択したことは、審判請求書において説明した。なお、甲第44号証の第2頁には、「ウメダそろばん」の塾長梅田忠則氏がフラッシュ暗算の名付け親である旨記載されている(請求人はこの記載については、正確なものではないと考えている)。いずれにせよ、被請求人が、「フラッシュ暗算」の名称を暗算の名称として初めて提唱したことを窺わせるものはなく、また、被請求人が当初から「フラッシュ暗算」を商標として採択し、出所を表示する商標として使用してきたことを窺わせる証拠も提出されていない。
本件商標の出願時の状況を考慮すると、テレビ番組で約半年間続き最終回の全国大会でクライマックスに達したフラッシュ暗算競技のコーナーの放映が終了した後であり、それまでは主に珠算界で知られていた「フラッシュ暗算」に対する一般大衆やマスコミの注目度がかなり高まっていた時期である。そして、この「フラッシュ暗算」についての認知度の高まりが、被請求人自身による商標としての「フラッシュ暗算」の使用や、いくつかのイベントに被請求人が運営側として参加していたとしても被請求人自身による暗算方法の名称としての「フラッシュ暗算」の紹介によるものでない。すなわち、被請求人は、暗算方法の名称として注目度が高まりその内容もすでによく知られていた「フラッシュ暗算」の語句を、商標として出願したにすぎない。
被請求人は、「フラッシュ暗算」の語を商標として使用しているソフトウェアの広告として、乙第5号証、乙第6号証及び乙第9号証を提出している。ここで、このソフトウェアの取引者や需要者(一般のユーザーを含む)は、教育界あるいは珠算界に関連する取引者・需要者、珠算や暗算に興味を持つ消費者、等であると考えられるが、これらの者が被請求人のソフトウェアの広告に表示されている「フラッシュ暗算」を見て、これが出所を表示する標識であると認識する人は一人もいないと考える。「フラッシュ暗算」が暗算方法の名称であることは被請求人自身が認めているところであり、ソフトウェアに表示されている「フラッシュ暗算」をみれば、この「フラッシュ暗算」の表示が暗算方法の表示であることを理解し、このソフトウェアが「フラッシュ暗算」を学び、訓練し、あるいは上達させるためのソフトウェアであることを推認させることは明白である。
また、被請求人のみが、「フラッシュ暗算」の語を表示しているソフトウェアを販売しているのならばともかく、甲第5号証、甲第6号証や甲第10号証に示すように、請求人は、宮本裕史氏の開発したソフトウェアでフラッシュ暗算訓練用のメニューを含む「あんざん力開発システム」を日本全国の珠算教室あるいは学校が導入する教育用プログラムとして販売し、平成14年1月から「日本フラッシュ暗算協会」の名称の下に宮本氏が開発したソフトウェアに基づいて継続して検定試験を実施し、さらに、宮本裕史氏が開発したフラッシュ暗算の検定用ソフトウェアの販売を同14年6月から「フラッシュ暗算 個人検定用ソフト」の名称の下に全国の珠算教室向けに継続して行い、さらに同年10月から生徒の自宅練習用ソフトとして「フラッシュ暗算パーソナル」の販売も継続している。
請求人による「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアの販売実績を示す資料を提出する(甲第54号証及び甲第55号証)。
甲第54号証は、平成14年5月1日から同15年6月30日までの請求人による「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアの注文及び出荷記録の写しであり、甲第55号証は、同15年7月1日から同16年6月30日までの請求人による「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアの注文兼出荷記録の写しである。注文者の氏名又は名称と住所と電話番号は、秘密保持のため塗りつぶしているが、お客様番号については塗りつぶしていないので、それぞれが異なった注文主からのものであることがわかる。
また、これらの記録は請求人が出荷したすべての記録を含むものではなく、明らかに「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアの注文・出荷であっても例えば「個人検定用ソフト」しか表示しておらず「フラッシュ暗算」の記載のないものについては提出を断念したので、実際に出荷したソフトウェアは提出した件数より30?50件程度多いものと思われる。向かって左側に注文したソフトウェアの明細が記載され、右側に受注日及び出荷日が記録されている。さらに金額の明細が左側中央部分あるいは右上の部分に記載されている。これらのソフトウェアの注文主は、各地の珠算教室あるいは商業高校など学校からのものである。
したがって、これらの教室あるいは学校にはフラッシュ暗算を学習するシステムが納入されていることになる。すなわち、これら教室あるいは学校においてはフラッシュ暗算の指導が取り入れられており、指導者と生徒はすべて「フラッシュ暗算」の内容を十分に知っていたことを示している。これらのソフトウェアにおける「フラッシュ暗算」の表示は明らかに暗算方法を表示するものである。
また、甲第49号証、甲第50号証、甲第51号証に示されるように、請求人及び被請求人以外の様々な業者によって「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアが販売されており、これらの製品に表示された「フラッシュ暗算」もまさに暗算方法を示すものである。さらに、例えば、インターネット上の検索エンジン「Yahoo Japan」で「フラッシュ暗算」をキーワードとして検索を実行すると、9万件以上の記事がヒットするが、そのうち相当の件数が自己のウェブサイトで自作した「フラッシュ暗算」用のソフトウェアを公開している。
このように、「フラッシュ暗算」という語が本件商標の出願前からソフトウェア製品に普通に使用されていた実情を考慮すると、被請求人は識別標識としての「フラッシュ暗算」の使用を裏付けるべく乙第5号証、乙第6号証及び同第9号証を提出しているが、これらはどう見ても「フラッシュ暗算」の語が暗算方法を示す表示として使用されており、識別力ある商標として用いられていると見ることは到底できない。本件商標がデザイン化された文字等で出願されたのならばともかく、標準文字の態様で登録されている以上、本件商標を商品や広告宣伝に使用したとしても識別力を発揮できないのは被請求人による使用の例をみても明らかである。
以上述べたように、「フラッシュ暗算」は、暗算方法を表す言葉として用いられてきたものであり、本来商品や役務の名称でもなく、商品や役務の品質や質を直接表示する言葉でもない。
(2)第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に関する反論について
請求人は、基本的に「フラッシュ暗算」は、商品の品質、効能、用途あるいは役務の質、効能、用途を直接表示するものではないと考えている。
したがって、「フラッシュ暗算」が本件商標の指定商品あるいは指定役務に使用された場合に、商品の品質、効能、用途あるいは役務の質、効能、用途を直接的に表示すると判断される可能性がないとはいえないと考えた。
すなわち、「フラッシュ暗算」に関連する電子出版物、「フラッシュ暗算」に関する知識の教授、「フラッシュ暗算」に関するセミナーの企画・運営又は開催、「フラッシュ暗算」に関する電子出版物の提供、「フラッシュ暗算」に関する図書の供覧、「フラッシュ暗算」に関する書籍の制作、「フラッシュ暗算」に関する図書の貸与に「フラッシュ暗算」を使用する場合には、商品の品質等あるいは役務の質等の直接的表示であると解釈される余地があることを考慮し、そうした場合には、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当し、それ以外の指定商品または指定役務に使用する場合には「フラッシュ暗算」に関連する商品あるいは役務であるとの誤認を生ずるおそれがあるので商標法第4条第1項第16号に該当すると請求人は主張するものである。
被請求人は、商標法第3条第1項第6号の方が同第3号に比べて広い概念であり、同第3号に該当しない商標であっても同第6号に該当することはあるが、同第6号に該当しなくても同第3号に該当することはないと主張しているが、「フラッシュ暗算」をどのように解釈するかの違いに基づくものであり、請求人の主張が法論理上の矛盾を生じているとはいえない。
そもそも、被請求人が本件商標「フラッシュ暗算」が特定の観念を生じない造語であると主張している点において、請求人の主張とは真っ向から対立している。請求人は、少なくとも本件商標の登録査定時においては、「フラッシュ暗算」という語句は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法であると一般に理解されており、その事実は、甲第1号証ないし同第51号証、甲第54号証ないし同第55号証によって証明されていると確信する。
(3)第4条第1項第7号に関する反論について
「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、本件商標の登録審決時までにすでに日本全国において広く知られ、広く使用されていたものであり、フラッシュ暗算に対する注目度の高さや、フラッシュ暗算を取り入れる珠算教室の増加、フラッシュ暗算の競技会や検定試験の実施、マスコミによる掲載等は、その後も変ることはない。
また、さらに宮本裕史氏が開発したフラッシュ暗算のソフトウェアは、社団法人全国珠算教育連盟、日本珠算連盟、日本フラッシュ暗算検定協会、社団法人全国珠算学校連盟、浦和珠算連盟、等の公式の検定ソフトや競技会用ソフトに採用されている(甲第6号証)。そして、「フラッシュ暗算」は、スクリーンあるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法を表す言葉として、ごく日常的に、ソフトウェアの機能の表示、新聞や雑誌の記事、珠算教室・検定試験・競技大会の場等で使用されている。
そのため、本件商標の登録後も、従来と変らず「フラッシュ暗算」の語句が平穏に使用され続けられる状況であれば、請求人がわざわざ手間とコストをかけて本件商標に対して無効審判を請求するはずがない。
被請求人は、自らが粉骨砕身の努力を重ねて「フラッシュ暗算」の周知を図っていると主張しているが、「フラッシュ暗算」の暗算手法は、宮本裕史氏が20年以上も前に初めて開発し、当初の珠算界ではコンピュータの使用に関し大きな抵抗感を有しており宮本氏に対して多くの批判が寄せられながら、宮本氏がソフトウェアの改良を重ねると共に講演やテレビ出演を始めとして珠算界における普及に請求人と協力して努めた結果、2000年に実施された全国珠算競技大会で正式種目として「フラッシュ暗算」の名称で採用され、テレビ等のマスコミを通じて一気にその名称が広がったものである。 したがって、「フラッシュ暗算」の普及に当初から大きく貢献したのはこの手法を初めて開発した宮本裕史氏及び請求人であって、被請求人は後から算入したにすぎない。
本件商標の出願時には、すでに「フラッシュ暗算」の語句は、珠算界において(例えば、各地の珠算教室や、様々な珠算競技会やイベントにおいて)日常的に使用されていたものであり、請求人及び珠算業界の関係者は従来通り「フラッシュ暗算」の名称を平穏に使用し続けられることを強く望んでいる。
例えば、「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアは多数販売されているが、珠算業界にとっては、これらのソフトウェア製品がその品質において自由に競えることが望ましいのであって、これらの製品に表示する「フラッシュ暗算」が被請求人による本件商標の登録の取得により、「フラッシュ暗算」の表示が自由に行なえなくなるのであれば、自由な競争が阻害され、「フラッシュ暗算」に関するソフトウェアの健全な発展を阻害するものである。 また、各種競技会や検定試験での「フラッシュ暗算」の使用や、各珠算教室での「フラッシュ暗算」の使用に許諾が必要となれば、珠算界の自由な活動と発展を大きく妨げるものである。
実際に、被請求人が本件商標について登録を取得したのをきっかけとして、毎日新聞社主催の「毎日パソコン入力コンクール」における競技部門の表示「フラッシュ暗算」が本年10月に主催された大会では、「フラッシュ計算」に表示が変更されている(甲第56号証)。
また、兵庫県西宮市のあんざんスクールMAX代表である鈴木宗一氏による「フラッシュ暗算の商標について(意見)」を甲第57号証として提出するが、鈴木氏は毎日パソコン入力コンクールにおける「フラッシュ暗算」の「フラッシュ計算」への名称の変更についての事情を説明するとともに、フラッシュ暗算の商標権取得による混乱を懸念しており、これが珠算界における多くの関係者の意見を代表しているものと考える。同様に、社団法人全国珠算教育連盟が監修したソフトウェア「DSそろばん」の「フラッシュ暗算」の記載の部分は「フラッシュ計算」に変更された。
また、甲第58号証として、日本珠算連盟の検定部会部長である大貝敏次氏の「フラッシュ暗算の名称について」という文書を提出するが、日本珠算連盟では、フラッシュ暗算の検定試験を実施するにあたり、「フラッシュ暗算」を使用できなかったため、「暗算能力コンピュータ検定試験」の名称で検定試験を実施しているが、「フラッシュ暗算」を使用していないため、受験者が増加しないという問題に直面していることがわかる。
被請求人は、商標から生じる経済的価値を独占するためのみに本件商標を指定商品・指定役務について登録したものではないとし、「まず、『フラッシュ暗算』という手法を特定することにより、珠算教育の改革・復権による我が国の教育水準の向上を図るという社会的な目的を有しているものである」と主張しているが、そもそも被請求人自身が開発した手法ではなく、既に珠算界に広まっている手法について、「手法を特定する」というあいまいな表現で何を指標しているのか判然としないし、また、それがどのように商標登録の取得と結びつくのかも不明である。
また、被請求人は、「『フラッシュ暗算』を適正に使用したいと考えている第三者に対しては、無償の使用許諾を行なうことも考慮に入れており、実際、業界の会合等においてはそのような話をしている。むしろ、私的利益の独占を図る第三者の手から『フラッシュ暗算』の語を守るという性質をも有していると考えることも出来る」と主張しているが、これも従来当たり前のように珠算界で使用されていた「フラッシュ暗算」について、無償にしろ、いちいち使用の許諾を受けなければならないのでは、「フラッシュ暗算」の発展に大きな制約を課すことになる。被請求人が真に「フラッシュ暗算」の健全な発展を願っているならば、本件商標の登録を維持せずに、「フラッシュ暗算」の語句を自由な使用にまかせるべきである。
なお、被請求人は、乙第2号証として日本珠算連盟の賛助会員であることを証明する書面を提出し、乙第10号証として全国珠算教育連盟及びその県支部からの感謝状を提出しているが、これらが直接「フラッシュ暗算」と関係しているかは不明である。
請求人は、被請求人の事業活動そのものを非難しているわけではなく、被請求人の珠算業界の貢献については鈴木氏も認めている(甲第56号証)が、「フラッシュ暗算」の商標登録については、本件商標の登録後に、今まで平穏に「フラッシュ暗算」の用語を使用してきた多くの珠算教育関係者や珠算検定の実施者等の間に大きな困惑や混乱を生じさせたのは事実であり、請求人に対しても「フラッシュ暗算」の使用に関する疑問や問い合わせが寄せられている。本件商標の登録が有効である限り、このような困惑や混乱に対するおそれが解消されることはない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第12号証を提出した。
1 被請求人は、請求人の主張に対して、以下のとおり反論する。
(1)商標法第3条第1項第6号に対する反論
ア フラッシュ暗算の語について
「フラッシュ暗算」の語それ自体の語義は、先の無効審判(無効2005-89045)の審決の中で、「『フラッシュ』の語自体に数字や暗算等との関連性を見い出すことができないことから、全体として、自然な意味合いを理解・認識し得るものではなく、また、『フラッシュ暗算』の語から直ちに、請求人が主張している『スクリーン(パソコンの表示画面)上に順次に数字を表示し、看者がその数字を加えて答えを出す暗算方法』を想起し得るものともいい難い…そうとすれば、『フラッシュ暗算』の語は…特定の意味合いを認識させることのない一種の造語からなるものというのが相当」と審判官により判断されている(乙第1号証)。
造語性の強い商標は一般的に、指定商品・指定役務との関係では高い識別力を有するものと考えられる。本件商標もその例外となるものではない。需要者等が本願商標に接した場合に、指定商品・役務の品質や質等を具体的に認識することはないものと考えられる。この点については請求人も、審判請求書において「『フラッシュ暗算』は、このように暗算方法を表す言葉として用いられてきたものであり、本来商品や役務の名称でもなく、商品や役務の品質や質を直接表示する言葉でもない」として、自認している。「フラッシュ」の語自体に数字や暗算の概念が含まれないことは先の審判の審決時と全く変わることはないので、全体として暗算方法の内容を表示したものでないことに変わりはない。
商標法第3条第1項第6号に該当する商標とは、同法第3条第1項第1号ないし第5号の各号に該当しない商標であっても、指定商品・役務との関係で自他商品識別力がない商標がこれに該当すると考えられる。法文上は「…需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と規定されている。法文を厳密に解釈して本件商標について当てはめると、「フラッシュ」の語が指定商品・役務との関係で商標法第3条第1項第1号ないし第5号のいずれかに該当し、「暗算」の語もまた、「フラッシュ」の語が該当しない商標法第3条第1項第1号ないし第5号のいずれかに、指定商品・役務との関係で該当している場合に、商標全体として識別力がないと判断されて、商標法第3条第1項第6号に該当することになるものと考えられる。
例えば、「フラッシュ」の語が指定役務の内容を記述的に表示した語(3号)であり、「暗算」の語が指定役務の普通名称(1号)である場合、商標「フラッシュ暗算」は全体として商標法第3条第1項第6号に該当するものと考えられます。この組み合わせは全部で20通りであり、法理論上は、この20通りに該当しなければ商標法第3条第1項第6号に該当しない。
「フラッシュ」の語の意味は、「(1)閃光。特に、写真撮影で、被写体に当てる閃光。閃光電球・ストロボなどを用いる(2)映画・テレビでごく短い場面」(三省堂『大辞林 第二版』)であり、本件商標の指定商品「電子出版物」、及び指定役務「知識の教授」等の普通名称慣用商標ではなく、また、指定商品・役務の内容を記述的に表示したものでもない。さらに、ありふれた氏等や、極めて簡単でありふれた文字等で構成された商標でないことはいうまでもない。
一方、「暗算」の語は、「筆算や珠算によらず、頭の中で計算すること」(三省堂『大辞林 第二版』)であり、計算方法の一態様を意味する語であって、これも商品や役務を直接表示するものではない。ただし、役務の中には暗算に関連する役務も存在するので、その限りでは役務の内容を示すものと認識される可能性も否定できない。しかし「フラッシュ」の語は単に一瞬の光である閃光を意味するにすぎず、数字や暗算や商品との直接の関連性はないといわざるを得ない。
これらの点を考慮すると、「フラッシュ」と「暗算」の語を結合させた「フラッシュ暗算」の語は、指定商品・役務を具体的に認識させる語ではない。
イ 請求人の提出した証拠について
請求人は、甲第1号証ないし同第53号証を提出し、その中でも甲第6号証ないし同第53号証によって、「フラッシュ暗算」の語が業界において普通に使用されているため、商標法第3条第1項第6号に該当すると主張しているものと考えられる。請求人は審判請求書の中で「これらの商品にいくら『フラッシュ暗算』を用いたからといって、あくまでも暗算方法を示す言葉に他ならず、使用によって識別力が生じる商標とは到底いうことはできない」と主張している。
しかし、当該主張には、本号に該当するとする明確な理由または該当することに言及した文言が存在していない。業界において、指定商品・役務の内容等を表示する語として普通に使用されている場合は、需要者等は商品・役務の内容等を直接的・具体的に認識することができるため、一定の出所から流出する商品・役務であると一般的に認識することができない商標であるから、商標法第3条第1項第6号に該当するという主張が、本号に該当すると主張する場合の正しい論理展開である。
さらに、「フラッシュ暗算」の語が暗算方法を示す語として普通に使用されているとしても、指定商品・役務の内容を直接的・具体的に表示する語として普通に使用されていなければ、「フラッシュ暗算」の語が指定商品・役務の内容等を具体的に指し示すことには該当しないことになるので、識別力のある商標であると考えられる。請求人の主張は、この点に関する主張を欠いているものである。コンピュータを使用した暗算方法の名称である「フラッシュ暗算」の語を、本件商標の指定商品である「電子応用機械器具及びその部品」等や、指定役務「技芸又はスポーツの教授」等に使用しても、「フラッシュ暗算」の語は、指定商品・役務との関係では業界において直接的または具体的に内容表示として普通に使用されていないため、需要者等が本願商標に接しても、商品・役務の内容を具体的に認識することはない。むしろ本件商標は、一定の出所から提供されたものであることを示す標識と一般的に認識することができる商標である。
これらの点を考慮した上で甲号証を精査してみると、「フラッシュ暗算」という語の用語説明が大半であり、指定商品・役務の内容を具体的に表示する状態で記載・使用されている例はほとんど存在していない。
請求人は、「フラッシュ暗算」という名称について説明がなされている記事等を証拠として提出しているにすぎない。これは、例えば、「『味の素』とは“グルタミンソーダ”である」という内容解説としての使用例が新聞等に多数存在しているだけであり、かかる使用例だけでは、商標「味の素」が指定商品「調味料」(または指定役務)について普通に使用されているということはできないことと同義である。本件商標の指定商品・役務との関係で内容表示的に用いられている可能性のあるものとしては、甲第10号証の一部と、甲第21号証及び同第47号証のわずか3件があるにすぎない。
また、「フラッシュ暗算」の語について、内容の説明としての多数の使用例が存在しているということは、裏を返せば、該語が暗算方法であるということ自体が需要者等の間で認識されていない、または通用していないことの現われである。例えば、「珠算」の語が同じ記事の中で用語説明がなされていないのは、「珠算」がどのようなものか需要者が認識しているからである。同様に考えれば、「フラッシュ暗算」の語には用語説明が必要であるということができる。言葉そのものの語義が通用していない以上、該語が指定商品・役務の内容等を具体的に表示するということは、理論上も現実問題としてもありえない。この点を考慮すると、請求人が提出した証拠の中で、解説がなされていない「フラッシュ暗算」の語の使用例に需要者等が接した場合、該語が何を意味するのか判然としないものと考えられる。
また、少なくとも甲第22号証、同第23号証、同第26号証及び同第32号証は被請求人が運営側として参加したイベント等を紹介した新聞記事であり、精査すれば、他にも被請求人が関与したイベントが請求人の提出した証拠の中に存在している。被請求人は、本件商標の出願、登録前から被請求人がイベント等で暗算方法の名称としての「フラッシュ暗算」を紹介してきた結果、現在では「フラッシュ暗算」といえば、被請求人の商品・役務に関するものと理解する需要者等も多数存在している。
ウ 小括
上記のように、「フラッシュ」の語は単に“閃光”の観念が生じるだけであり、商品とも役務とも直接的には結びつかない単語であって、数字や計算や暗記とは全く関連のない語であり、先の無効審判の判断にあるように、本件商標は特定の観念を生じない造語と考えられる。
また、請求人が提出した証拠によっても、暗算方法の内容を表示する用語として、普通に理解できたり、親しまれた語であったり、用語として通用しているとはいい難いものである。商標となっている言葉自体の語義が不明確である以上、指定商品・役務の内容を具体的に表示するものとは考えられない。
また、請求人が提出した証拠は暗記方法の内容解説としての使用例であって、本件商標は、一定の出所から提供されたものであることを一般的に認識させることができる商標であると考えられるので、識別力のある商標である。
ちなみに、パーソナルコンピュータのモニターであるスクリーン画面上に数字を瞬時に表示して計算する暗算方法を「コンピュータ暗算」と表示している例が見受けられる。この表示も具体的でないという点では、商標と考えられる。同様に「モニター暗算」、「パソコン暗算」、「スクリーン暗算」のような直接的・具体的ではないが暗示的な商標は他にも存在する可能性が十分にある。
(2)商標法第3条第1項3号及び同法第4条第1項第16号について
請求人の「本件商標が、商標法第3条第1項第3号に該当する。」との主張は法律の適用を誤った主張である。
商標法第3条第1項第6号識別力がない商標は登録しない旨の総括規定であり、商標法第3条第1項第3号はその具体的な例として、商品・役務の内容等を記述的に表したにすぎない商標は登録しない旨の規定である。すなわち、6号のほうが3号に比べて広い概念であり、商標法第3条第1項第3号に該当しない商標であっても商標法第3条第1項第6号に該当することはあるが、6号に該当しなくても3号に該当するということはない。この点において請求人の主張には法論理上の矛盾が生じている。
商標法第3条第1項第3号の該当性だけを純粋に考えてみると、上記のように、本件商標は特定の観念を生じない造語であり、請求人が提出した証拠によっても、業界において指定商品・役務について普通に使用されている語であるとは考えられないため、指定商品・役務の内容等を直接的・具体的に特定する語であるとは考えられない。
したがって本件商標は指定商品・役務について識別力を有する商標であり、商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。
また、指定商品・役務の内容等を直接的・具体的に表示するものでない以上、「『フラッシュ暗算』に関連する指定商品・役務以外の商品・役務」に使用しても、商品・役務の品質・質を誤認することにはならないため、商標法第4条第1項第16号に該当するものでもない。
(3)商標法第4条第1項第7号について
ア 商標登録が有効であり、商標権が存在する以上、第三者が商標権の侵害とならないようにフラッシュ暗算の名称を変更することは、通常の行為にすぎない。
これに対して、請求人は、「検定試験を実施している団体では、フラッシュ暗算の名称を他の名称に変更することを考え、あるいはフラッシュ暗算検定用のソフトウェアを、被請求人が本件商標の登録を有しているがために、被請求人の製造販売するソフトウェアに変更するといった事態が事実起こってきている」、そして、「『フラッシュ暗算』の言葉の使用は広く開放されるべきであって、このような言葉と同一の商標に登録が付与されることによって生じた、誤った認識に基づく無用の混乱のさらなる拡大を防止するために、本件商標は、商標登録がされた後に、商標法第4条第1項第7号に該当するに至った」と、いかにも由々しき事態であるかのごとく主張している。
商標権者以外の第三者が、指定商品・役務と重複する商品・役務について「フラッシュ暗算」の語を使用する場合に通常求められる注意を払うことについて「無用の混乱」などと表現することは、請求人の主観・感情にすぎない。
商標法第4条第1項第7号に該当する場合とは、公序良俗を害するおそれがある場合、すなわち、商標の構成がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与える場合、社会の一般的道徳観念に反する場合、国際信義に反する場合、あるいは他人の信用が化体した商標を剽窃的に登録した場合等に該当するものと考えられる。本件商標の場合はこれらに該当するような状況にはなく、声高にする主張は、伝家の宝刀とも考えられている抽象的な規定である商標法第4条第1項第7号の衣を借りて大上段からものをいうだけのことであり、到底、法律的な主張であるとは考えられない。
本件商標の構成を客観的に見た場合、上記のような7号に該当するような典型的なものではない。また、本件商標権者には他人の信用を剽窃するような主観も存在していない。そもそも、「フラッシュ暗算」の語に何人かの信用が化体していたかといえば、そのような事実はなく、むしろ、商標権者自身が粉骨砕身の努力を重ねて名称の周知を図っているところである。
請求人は、「『フラッシュ暗算』を商標として登録する意思は全くなく、また『フラッシュ暗算』という語句が商標として登録されるはずもないと認識していた」と主張している。請求人としてはそのような考えを持っていたため、本件商標は登録になるべきものではなく、過誤登録されてしまったために混乱が生じるという理論を持ち出しているものである。
しかし、商標は選択であるため、登録要件を満たす限りは、既存の語または所有者の明らかでない標識であっても、自由に採択して登録を受けることができる。請求人が自己完結的に判断した「フラッシュ暗算」の語の誤った登録予見可能性を根拠としてあきらめていた事実を根拠に、その独占可能性が失われたからといって、本件商標の存在が混乱を生じさせているという主張は、単に感情論にすぎないものである。
イ 本件商標を取り巻く状況
我国の珠算教育において中心的な役割を果たしているのが、全国珠算教育連盟、商工会議所の後援の下で組織された日本珠算連盟、全国珠算学校連盟である。
被請求人は、その中でも最重要と思われる全国珠算教育連盟及び日本珠算連盟の賛助会員(乙第2号証)となっており、その上で本件商標を使用した業務を行っている。
請求人は、本件商標が登録されたために珠算業界に無用の混乱が生じていると主張しているが、全国珠算教育連盟も日本珠算連盟も、平穏に「フラッシュ暗算」の商標を使用して無事に活動を続けており、混乱を生じているような事実は存在していない。
日本珠算連盟の主催により行われた「あんざんグランプリジャパン2007」では、競技の一つとして「フラッシュ暗算競技」が行われている(乙第3号証第2頁)。
また、同大会の開催にあたり、日本珠算連盟より被請求人に運営委員を委嘱する旨の依頼があり(乙第3号証の2)、被請求人の従業員である「二石芳格」ほか2名が委員として運営に携わっている(乙第3号証第3頁及び乙第3号証の3)。
また、同大会のパンフレットには、いわゆる「フラッシュ暗算」を練習するための被請求人のソフトウェアの広告が掲載されている(乙第3号証)。 同大会の販売用記録DVDの作成については、日本珠算連盟より被請求人に一括して依頼がなされている(乙第4号証)。
また、日本珠算連盟が発行する隔月発行の冊子「日本珠算」及び全国珠算教育連盟が発行する新聞「全国珠算新聞」にも、請求人のソフトウェアの広告が掲載されており、「フラッシュ暗算」の語が商標として使用されている(乙第5号証及び第6号証)。
なお、「日本珠算」への広告掲載は日本珠算連盟からの依頼により、「全国珠算新聞」への広告掲載は全国珠算教育連盟からの依頼によりなされているものである(乙第2号証及び乙第7号証、乙第8号証)。
すなわち、これらの証拠からは、被請求人が珠算教育の中心的役割を担っている公式の団体と密接な関係を築いていることが窺えるものであり、請求人が主張するような珠算業界の混乱などは生じていない。混乱しているような印象を与えることによって、少しでも無効の原因を誘発できればとする請求人の思惑にすぎないと考えられる。また、混乱についての確たる証拠もなく、混乱が生じているように主張しているが、事実とは到底考えられない。
また、請求人は、甲第52号証として提出した冊子「サンライズ」について、「もし、被請求人が商標『フラッシュ暗算』の使用を自ら開始し、普及に努めていたのであれば、この広告で商標としての『フラッシュ暗算』の使用をしていないはずはない」と主張している。
しかし、請求人が提出した証拠は、本件商標の出願前であり、登録主義の下、権原がなければ正当な使用とならないことを被請求人は熟知していたため、本格的な使用を開始していなかったものである。もっとも上記のように、被請求人は出願前からイベントの運営側として、暗算方法としての「フラッシュ暗算」の普及に努めていたものであり、実質的には登録前から「フラッシュ暗算」の商標として使用は開始していた。
本件商標の登録後、被請求人は、冊子「サンライズ」(2007年3月号?8月号)の裏表紙において「個人練習用、フラッシュ暗算ソフト」等の語を用いて、広告を行っている(乙第9号証)。
請求人は、「被請求人が『フラッシュ暗算』を商標として使用している証拠を探したが、そのような証拠を見出すことはできませんでした」と主張しているが、被請求人は登録前も使用しており、登録後は正当権原のもとで本件商標を指定商品について使用している。
請求人は、登録前は商標として使用していなかったと指摘しているが、被請求人が「フラッシュ暗算」の普及に努力していた事実は数多く、審判請求書に証拠として提出された甲第22号証、同第23号証、同第26号証及び同第32号証は、被請求人が関与した活動である。「フラッシュ暗算」を普及させ、同時に「フラッシュ暗算」の商標を珠算連盟の活動に供するために使用させ、他人に「フラッシュ暗算」の商標を剽窃されないために権利化したものである。
被請求人は、商標から生じる経済的価値を独占するためのみに本件商標を指定商品・役務について登録したものではない。「フラッシュ暗算」という手法を特定することにより、珠算教育の改革・復権による我国の教育水準の向上を図るという社会的な目的を有しているものである。「フラッシュ暗算」を適正に使用したいと考えている第三者に対しては、無償の使用許諾を行うことも考慮に入れており、実際、業界の会合等においてはそのような話をしている。むしろ、私的利益の独占を図る第三者の手から「フラッシュ暗算」の語を守るという性質をも有していると考えることもできる。現に、被請求人は、全国珠算教育連盟及びその県支部から、公共事業活動に貢献したとして感謝状を贈られている(乙第10号証)。
これらの点を考慮すると、業界において大きな無用の混乱を生じているため、本件商標の登録後に商標法第4条第1項第7号に該当するに至ったとする請求人の主張は、失当である。
(4)結語
請求人の主張はいずれも失当であり、本件商標は、自他商品・役務識別機能を有しない商標ではない。
また、商品・役務の効能・用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標でもなく、品質表示でない限り、商品・役務との関係で品質誤認を生じるおそれがある商標でもない。さらに、公序良俗を害するおそれがある商標にも該当しない。
したがって、本件商標は商標法第3条第1項第6号、同第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号、同第4条第1項第7号の規定に反して登録されたものではない。
2 答弁(第2回)
被請求人は、請求人の弁駁に対し、以下のとおり反論する。
(1)商標法第3条第1項第6号について
請求人は、新たに注文書兼出荷記録の写し(甲第54号証及び同第55号証)を提出しているが、注文書には、「フラッシュ暗算」の文字が記載され、請求人が「フラッシュ暗算」の語を使用していたことは理解できる。しかし、これは請求人側のフォームであり、一定のソフトについて請求人が一方的に「フラッシュ暗算」の語を表示しているにすぎず、当業者間で、または需要者の間で商品の内容を具体的に表示するものとして広く認識されて使用していたという証拠とは考えられない。
また、一般的に他の業者も使用している用語である事を証明しているものでもない。単に請求人本人が使用をしていたにすぎず、同人の商標に対する理解が明確でなかった事を明らかにしているにすぎない。すなわち、注文書の品名の欄に記載されているその他の商品の表示を対比考察すると、「テレビそろばん」、「イメージ暗算」、「チャレンジにゃんにやん」、「MAXビンゴ」等、数々の商標が表示されている。これらの文字列は、既存の熟語等ではなく、明らかにそれ自体では商品の内容を表示したものとはいえない名称が並んでいる。これらの文字列は通常は商品の内容についての説明がなければどのような商品であるかを具体的に特定することができるものではない。商品の名称の中で「フラッシュ暗算」のみが商品についての具体的な内容の表示であると主張されたい意向であるが、単に商標と商品表示を混同しているにすぎない。注文書の「フラッシュ暗算」の表示がどのような内容の暗算方法を表示するものかも不明であり、ソフトの購入者は請求人の販売する「フラッシュ暗算」という商標の付けられた商品を購入しているという意識しかないと考えられるだけであって、特定の暗算方法を具体的に表示していると理解され、使用されていたことはないと考えられる。
したがって、甲第54号証及び同第55号証により本件商標の自他商品等識別機能を否定する事情は、説明または証明されてはいない。
請求人は「フラッシュ暗算」の語を商標として使用していたとも考えられるが、このことは本件商標の登録を妨げる事情となるものではない。
また、他人が「フラッシュ暗算」の語を暗算方法の名称として採択していたことは直接的に商標法第3条第1項第6号に該当する理由にはならない。
「フラッシュ」と「暗算」とがどのような関連があるかが文言上または常識的(一般に)に明らかでない限り、識別標識として機能する事は明らかである。
一部で使用されていた事実があったとしても文字に顕著性がある事実は変えられない。不特定多数によって広範囲に使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品・役務である事を認識する事ができなくなる事も考えられなくはないが、もしそれを主張するならそれを証明する数多くの資料が必要となる。単に請求人が商標か何か区別が付かずに使用していた例をもってこの事を証明したことになるとは到底考えられない。
なお、商標権者が本件商標を商標として使用していた事実は先に提出した証拠(乙第5号証、同第6号証及び同第9号証)からも明らかである。この中で「フラッシュ暗算」の語の上部に小さく記載されている「暗算教育ソフト」の文字がむしろ商品の内容または品質等を表わす表示である。
(2)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
請求人は、商標法第3条第1項第6号に該当しなくても同法第3条第1項第3号に該当することがあるという主張は不合理であるとする商標権者の指摘に対し、法論理上の矛盾は生じていないと述べているが、理解を超えるものである。商標法第3条第1項は、商標として識別力がない商標は登録を受けることができない旨規定しており、6号の総括規定は前1号から5号までの例示に該当しない場合を規定している。1号から5号に該当しないものについて6号を考察するのであって、6号に該当しない場合でも1号から5号に該当する場合があると考えるのは論拠のない反論である。6号の文言中の「前各号に掲げるもののほか」という記載からも明らかであり、3号に該当している場合には「前各号に掲げるもののほか」の記載を考慮しなければ6号にも該当していることになる。すなわち、該当しない場合には識別力を有すると考えられる。
(3)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、甲第56号証として毎日新聞社主催の毎日パソコン入力コンクールにおける「フラッシュ計算」へ表示が変更されたこと及び全国珠算教育連盟が監修したソフトウェア「DSそろばん」の「フラッシュ暗算」の記載部分が「フラッシュ計算」に変更されたことについて、全国珠算教育連盟があたかも商標権者の商標権の存在を懸念しているかのように述べているが、商標権者は、商標の使用についての申し出や商標権取得についての弊害や懸念等の意見も何も受けていない。
また、珠算業界において正当に「フラッシュ暗算」の語を使用する者から使用についての申し出があった場合には、フラッシュ暗算の普及に貢献するものであれば無償で許諾をする意向である。商標権者等は、今まで普及のために努力してきた「フラッシュ暗算」の語が、他人により営利を目的として混用される可能性から保護するために本件商標権を保持しておく必要があると考えている。
また、請求人は、甲第57号証として兵庫県西宮市のあんざんスクールMAX代表である鈴木宗一氏による「フラッシュ暗算の商標について(意見)」を提出しているが、これはこれまでの事情がわからない者が、一個人として感想を述べているものである。
また、請求人は、甲第58号証として日本珠算連盟の検定部会部長である大貝敏次氏による「フラッシュ暗算の名称について」という文書を提出し、検定試験の名称に「フラッシュ暗算」の語を使用できなかったために受験者が増加しないかのような主張をしている。
しかし、検定試験というのは、名称によって受験するかどうかを決定するとは考えられないので、受験者が増加しないことと「フラッシュ暗算」の語が商標権として認められたこととは無関係である。
さらに、商標権者は、大貝氏の文章中に記載されているようなクレームは行っていないので事実と異なることが記載されている事をここで指摘する。
日本珠算連盟に確認したところ、大貝氏の文書は日本珠算連盟としてのものではなく単に一個人としてのものであるとの回答も得ている。
上述のように、商標権者の商標権取得により珠算業界が混乱しているとの主張は全く事実ではない。むしろ、請求人(またはそのグループだけ)が無用な混乱を生じさせていると考えられる。
請求人は、商標権者が商標権を取得したことによりソフトウェア製品の自由な競争や健全な発展が阻害されると主張しているが、商標権者は、正当な使用に対しては無償で使用許諾をする意向があり、現在もそのように行動している。商標の使用に関して、申し出や問い合わせ等を何もされていないにもかかわらず、一方的に珠算業界に混乱を招き発展を妨げているとの主張は認められるものではない。そもそも、出願すれば誰でも登録を受けられる可能性があった、識別力を有する商標「フラッシュ暗算」を先順主義の下に出願し、登録を受けたまでのことである。
請求人は、真に「フラッシュ暗算」の健全な発展を願っているならば、本件商標の登録の維持をせずに自由な使用にまかせるべきであると主張しているが、商標権者の権利化の主眼は、第三者が「フラッシュ暗算」の語を異なる方式や算術の方法や商品に勝手に使用することを阻止するのが目的であり、そのようなことが繰り返されるとすれば珠算業界全体として不利益を被ることになることは明らかである。
また、請求人は、商標権者が無償で使用許諾を行う意向を示していることについて、「フラッシュ暗算」の発展に大きな制約を課すと述べているが、許諾を受けることがそのような複雑な手続であるとは考えられない。
以上のとおり、本件商標の権利化により業界に混乱を生じているとの主張は、権利の存在を否定したい請求人側の私見にすぎず、商標権者の所有する「フラッシュ暗算」の商標の付された商品・役務は業界に何等の混乱も起こしているものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第3条第1項第6号該当について
(1)商標法第3条第1項第1号から5号に該当するものとは認められない商標であっても、自他商品・自他役務の識別機能を果たし得ないと認められる標章に本号の適用があることは、「前各号に掲げるもののほか、・・」とする本号の規定振りからも明らかというべきである。そして、結合商標の場合にあって、結合した各語(文字)が1号から5号に該当しないときであっても、結合した全体として自他商品・自他役務の識別機能を果たし得ないと認められるときには、当然に本号に該当する場合があるというべきである。
この点につき、被請求人は、結合した各語が1号から5号のいずれかに該当する場合に、1号と5号というように、その組み合わせが20通りあり、結合商標の場合にあって、その20通りに該当しなければ、本号には該当しない旨主張する。
しかしながら、本号に該当するものが被請求人主張の20通りに限定されるとしなければならない合理的な理由はなく、上記のとおり解するのが相当というべきである。
(2)請求人及び被請求人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 平成12年12月24日に開催された浦和珠算連盟主催の珠算競技大会において、その大会次第の中に、読上算や読上暗算などとともに、「フラッシュ暗算」が記載されている(甲第8号証)。
イ 本件商標の出願前に発行された新聞に、以下の記事が掲載された。
(ア)平成13年12月24日付読売新聞(甲第19号証)には、「さいたまで全国大会」と題して、「・・スクリーンに映る数字を読み取っていくフラッシュ暗算、英語読み上げ算で腕を競った。・・」との記事が掲載された。
(イ)平成14年3月7日付茨城新聞(甲第20号証)には、水戸市珠算連盟の表彰式に関する報道記事の中で、「子供たちは、会場のスクリーンを使った暗算・フラッシュ暗算を体験しながら、それぞれの暗算力を試していた。」との記事と、スクリーンに数字が大写しになった会場の様子を写した写真を掲載した。
(ウ)平成14年4月10日付産経新聞(甲第21号証)には、「東京珠算教育連盟創立55周年記念行事」の中で「フラッシュ暗算の体験コーナー」などのイベントが行われるとの記事が掲載された。
(エ)平成14年6月9日付読売新聞(甲第24号証)には、東京都庁前で開かれた「そろばんフェスティバル」の参加者が「フラッシュ暗算」に挑戦したとの記事が掲載された。
(オ)平成14年8月3日付琉球新報(甲第25号証)には、那覇市で開催されたそろばんフェスティバルの報道の中で、「・・注目されているというフラッシュ暗算が紹介され・・」との記事が掲載された。
(カ)平成14年12月22日付西日本新聞(甲第27号証)には、春日市での珠算大会に関する報道の中で、「今回初めて『フラッシュ暗算』の部門を登場させた。」との記事が掲載された。
(キ)平成15年1月23日付西日本新聞(甲第31号証)には、「あの人この人」欄で、そろばん教師が「最近、テレビで話題のフラッシュ暗算に出演している人は、みんな珠算経験者です。上達するとそろばんが頭の中に入り、頭の中で指より早く珠を動かします。」とのコメントをした記事が掲載された。
(ク)平成15年5月13日付北海道新聞(甲第36号証)には、「フラッシュ暗算大会」の副題で、「そろばんとコンピュータを組み合わせた『フラッシュ暗算』の函館地区大会が・・行われ、幼稚園や保育園児から一般まで約380人が計算力を競った。」との記事と、モニターを見つめ数字を追う参加者の様子を写した写真が掲載された。
(ケ)平成15年5月22日付産経新聞(甲第37号証)には、「そろばんの復権」の見出しの下に、「フラッシュ暗算は一昨年秋、テレビのバラエティー番組で火がついた。画面に次々に現れる数を暗算する。…「『フラッシュ暗算の教室を教えて』という問い合わせがあった」と日本珠算連盟専務理事・・は苦笑する。フラッシュ暗算の前提はそろばんの熟達で、フラッシュ暗算だけの教室はないからだ。しかし、問い合わせをきっかけにそろばん教室に通い始めた子供もいるという。」との記事が掲載された。
(コ)平成15年5月23日付産経新聞(甲第38号証)には、「そろばんの復権」の見出しの下に、「人気のあるフラッシュ暗算にも積極的で、日珠連は今年7月の創立50周年記念大会で、種目のひとつとし、全珠連も8月の全国大会で種目別競技に加える。」との記事が掲載された。
(サ)平成15年6月5日付読売新聞(甲第39号証)には、「一けたの数字がテレビ画面に5回にわたって次々に映し出され、それを瞬時に頭の中で加算する『フラッシュ暗算』に挑戦した。」との記事とその模様を写した写真が掲載された。
(シ)平成14年7月11日付日経流通新聞(甲第41号証)には、「キーワード」欄に、「テレビ画面に次々と表示される数字の合計を答える暗算訓練法。昨年テレビのバラエティー番組で紹介されて以来、珠算教育の救世主として注目されるようになった。フラッシュ暗算の面白さはそのゲーム性にある。」として「フラッシュ暗算」の紹介記事が掲載された。
(ス)上記以外にも、本件商標の出願日より前に発行された複数の新聞(甲第28号証ないし同第30号証、甲第33号証ないし同第35号証)の記事の中において、「フラッシュ暗算」が紹介され、珠算競技会の競技種目とされたとの記事が掲載されている。
ウ 上記イのほかに、本件商標の登録日前までに発行された朝日新聞、毎日新聞、山形新聞、静岡新聞、京都新聞、愛媛新聞等々、複数の新聞の記事及び日経ソフトウェアや日経パソコンといった雑誌の中において、「フラッシュ暗算」が珠算競技会の競技種目等として報道記事や紹介記事がされ記載されている(甲第16号証及び同第40号証)。
エ 平成13年11月21日放送のテレビ番組「100%キャイーン」の中で、「フラッシュ暗算」が初公開になったこと、同年12月5日放送の同番組においても「フラッシュ暗算に出演者全員が挑戦」したこと(甲第11号証)、同年同月26日放送の同番組においても3回目となる「フラッシュ暗算」の放送がされたこと(甲第12号証)が認められる。
また、平成16年6月27日放送のテレビ番組「ワールドレコーズ」の中で、「フラッシュ暗算の笹野さんに匹敵するスゴ技の持ち主が現る!」「2画面フラッシュ暗算」として「フラッシュ暗算」が取り上げられ(甲第13号証)、同様に、同16年9月5日放送の「ワールドレコーズ」の中で「フラッシュ暗算」が取り上げられた(甲第14号証)。なお、甲第1号証及び同第2号証のDVD及びCDにおいても、テレビ番組の中で、番組主催のフラッシュ暗算全国大会など、「フラッシュ暗算」が取り上げられたことが確認できる。
オ 平成5年度のプログラム著作物登録一覧(甲第5号証)によれば、「宮本裕史」を申請者とする「あんざん力開発システム」が「P第3685号-1」として著作権登録されたことが認められる。そして、当該ソフトには「コンピュータ暗算」に相当するものが含まれるとされている(甲第6号証)。
また、そろばんや暗算に関するコンピユータソフトが、本件商標の登録以前から、請求人及び被請求人をはじめとして複数の事業者によって取り扱われている(甲第7号証、甲第10号証、甲第49号証ないし同第52号証)。
(3)以上からすれば、珠算の関連分野において「フラッシュ暗算」の語は、本件商標の登録時はもとより本件商標の出願時においてすでに、「スクリーン上あるいはコンピュータの表示画面に短い間隔で次々に映し出される数字を合計して答える暗算方法」を表す語として珠算関係の競技大会などにおいて頻繁に使用され、少なくとも珠算に関係する者の間に前記の暗算方法の名称として定着し、また、新聞報道やテレビ番組を通して、一般にも知られるに至っていたと優に推認することができる。
なお、ちなみに、パーソナルコンピュータのモニターであるスクリーン画面上に数字を瞬時に表示して計算する暗算方法を「コンピュータ暗算」「コンピュータあんざん」と表示している例(甲第7号証、乙第1号証)が見受けられるが、「フラッシュ暗算」がこの「コンピュータ暗算」と同義のものとして称されるようになった経緯(甲第6号証)もあり、「コンピュータ暗算」の語の使用例があることによって、「フラッシュ暗算」に対する暗算方法の名称としての認識の定着が阻まれることになるとまでいうことはできない。
(4)してみると、「フラッシュ暗算」の語義から直ちに特定の商品の品質や役務の質と具体的に結びついた意味合いを想起し得ないとしても、珠算や暗算との関連性が極めて高い商品や役務については、上記(2)及び(3)の実情からすれば、その需要者は上記暗算の計算方法を表すものとして認識するに止まり、これを自他商品や自他役務の識別標識としては認識し得ないというのが相当である。
しかし、本件商標の指定商品及び指定役務についてみると、これらが、珠算や暗算との関連性が極めて高い商品や役務であるとか、あるいはそれを含んでいるとすべき具体的な理由は見いだせず、それを認め得る的確な証拠もない。
したがって、上記1(2)の実情をもって、本件商標は、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものとはいい難いから、商標法第3条第1項第6号には該当しないといわざるを得ないものである。
2 商標法第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号該当について
本件商標は、「フラッシュ暗算」の文字を普通に用いられる書体をもって表してなるものであるところ、「フラッシュ」の語は、「(1)閃光。(2)映画・テレビでごく短い場面。」等を表すものであり、「暗算」は「筆算や珠算によらず、頭の中で計算すること。」を表す語である。
しかして、上記各語の意味合いからみれば、「フラッシュ」は数字や暗算等との関連性が希薄であることもあり、これと「暗算」とを結合した「フラッシュ暗算」の文字は、その語義上の観点からみた場合には、特定の意味合いを表すことのない一種の造語として看取されると認めるのが相当であって、これを本件商標の指定商品及び指定役務について使用しても、具体的な商品の品質や役務の質を表示するものとして認識されるものとはいえない。また、提出された証拠によれば、上記1(2)の事実が認められるけれども、本件商標の指定商品及び指定役務のいずれについても、取引上商品の品質や役務の質等を表示するものとして、普通に使用されている事実は見いだせない。
してみれば、本件商標は、特定の商品の品質や役務の質等を具体的に表示するものとして直ちに理解され認識されるとはいえないものであり、また、指定商品及び指定役務中のいずれの商品及び役務に使用しても、商品の品質、役務の質について誤認を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものということはできない。
3 商標法第4条第1項第7号該当について
本件商標を構成する「フラッシュ暗算」の文字が構成自体において、公序良俗を害するおそれがある商標に当たらないことは明らかであり、また、請求人の主張及び提出した証拠を総合してみても、本件商標の登録後において、本件商標が商標法第4条第1項第7号にいう公序良俗を害するおそれがある商標となったとすべき格別の理由や事情を見いだすことはできない。
請求人がいう「フラッシュ暗算」に係る名称等に変更の必要性が生じたこと等は、本件商標の商標登録そのものに関わりをもつものではあるとしても、本件商標の登録前とは異なった社会状況や国際情勢の変化、新たな法令や条約に基づく規制等に伴い当該登録商標が公益に反するものとなるに至ったような場合などと同列に論ずることはできないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第5号にいう商標登録がなされた後において同法第4条第1項第7号に掲げる商標に該当するものとなっていると認めることはできないものである。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第6号、同法第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号に違反して登録されたものとは認められず、また、商標登録後に同法第4条第1項第7号に該当するものとなったものとは認められないから、同法第46条によって、その登録を無効とすることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-08-27 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-24 
出願番号 商願2004-14385(T2004-14385) 
審決分類 T 1 11・ 16- Y (Y09)
T 1 11・ 22- Y (Y09)
T 1 11・ 13- Y (Y09)
T 1 11・ 272- Y (Y09)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久我 敬史 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小林 由美子
矢澤 一幸
登録日 2007-01-19 
登録番号 商標登録第5018944号(T5018944) 
商標の称呼 フラッシュアンザン、フラッシュ、アンザン 
代理人 塩谷 享子 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 佐藤 明子 

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