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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z25
管理番号 1181137 
審判番号 無効2006-89178 
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-27 
確定日 2008-06-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第4853874号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4853874号商標(以下「本件商標」という。)は、「Kent」の文字を標準文字で表してなり、平成12年8月31日に登録出願、第25類「履物」を指定商品として、同17年2月21日に登録査定がなされ、同年4月8日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用している商標は、以下の4件の商標である。
(a)甲第5号証に表示されているとおり、株式会社ヴァンヂャケット及びイトーヨーカ堂が紳士用の衣服等について使用している「Kent」の欧文字からなる商標(以下、「Kent」商標あるいは「Kent」ブランドという。)
(b)登録第653109号商標(以下「引用商標1」という。)は、「KENT」の欧文字をやゝ傾斜させて横書きしてなり、昭和38年2月12日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、同39年9月16日に設定登録されたものである。その後、指定商品については、平成17年11月9日に指定商品の書換登録がされ、第16類「紙製幼児用おしめ」、第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第21類「家事用手袋」、第22類「衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿」、第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」と書き換えられている。
(c)登録第836101号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ケント」の片仮名文字と「KENT」の欧文字とを二段に横書きしてなり(「ケント」の文字は、やゝ丸みを帯びた文字をもって表されている。)、昭和38年12月25日に登録出願、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具」を指定商品として、同44年10月29日に設定登録されたものである。
(d)登録第3031467号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ケント」の片仮名文字を横書きしてなり、平成4年5月8日に登録出願、第25類「運動用特殊衣服」を指定商品として、同7年3月31日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第82号証(枝番号を含む。)を提出した(なお、甲第6号証は欠番となっている。)。
1 請求の理由の要旨
本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
(1)株式会社ヴァンヂャケットについて
株式会社ヴァンヂャケットは、紳士用の衣服及び服飾洋品雑貨の製造、販売をその業務としている株式会社であり、昭和55年12月3日に株式会社ヴァンヂャケット新社として設立され、その後昭和56年3月25日に社名を株式会社ヴァンヂャケットと変更して現在に至っている(甲第3号証及び甲第4号証)。
(2)「Kent」商標の周知・著名性について
「Kent」商標は、すでに株式会社ヴァンヂャケット(以下「旧ヴァンヂャケット」という。)の商標として著名であった「VAN」ブランドの関連ブランドとして1963年に立ち上げられたものである。この「Kent」ブランドは、「VAN」ブランド製品の購入者の低年齢化に着目し、いわゆる「VAN」ブランド製品の卒業生である20代後半から30代の男性をターゲットとしており、「Kent」ブランドの製品は、品質・価格と共に「VAN」ブランド製品よりも上という位置づけになっている(甲第7号証、甲第8号証)。
そして、この「Kent」ブランドの製品は、当時非常に売れ行きがよく、商品の量が需要に追いつかないこともたびたびあった。そのため「Kent」ブランドの製品は、当初、青山Kentショップ(甲第7号証、甲第10号証、甲第12号証)のみで販売していたが、その後、直営店であるKAMAKURAKENTが出来、銀座8丁目のテーラー・ヤマキ、東京駅の大丸、銀座松屋と増えていった。
その頃のお客様として、菅原文太さん、高倉健さん、中村(現・萬屋)錦之介さん、山本富士子さん、石坂浩二さんやクレイジーキャッツの犬塚弘さん等を挙げることができる(甲第8号証)。
さらに、株式会社ヴァンヂャケットは、マーケティング戦略として、灰皿、パブミラー、リストウオッチ等、多岐に渡る数多くのノベルティグッズを提供した。アメリカを感じさせ、アイビーのライフスタイルを提案するこれらのノベルティグッズは、当時非常に人気があり、手に入れることが一種のステイタスとなっていた(甲第7号証ないし甲第13号証)。
その後、旧ヴァンヂャケットは、1978年10月12日に、東京地方裁判所の破産宣告を受け、1984年2月15日に破産が終結して同法人としては現在既に解散している(甲第14号証)。しかし、破産宣告を受けた後でも法人が正式に解散するまでは、たとえその所有する財産の管理が破産管財人の管理下にあるとはいえ、破産管財人の許可を受ければ当該財産に依拠する活動は可能であり、現に1979年から同社の元社員で構成されたPX組合によって元の直営店や自己資金で開設した小売店で残っていた在庫品の販売が継続されていた(甲第12号証)。
旧ヴァンヂャケットの清算終了前の1980年12月3日に、株式会社ヴァンヂャケット新社が設立され(甲第3号証)、旧ヴァンヂャケットの保有していた知的財産権の全てを譲り受けた(甲第15号証)。当時の設立者には、もちろん旧ヴァンヂャケットの役員も名を連ねていた。この新社設立後は、上述した青山Kentショップ、名古屋ヴァンショップ、大阪のヴァンガーズ等で「Kent」ブランドの製品を販売し(甲第12号証、甲第16号証)、また、雑誌で「Kent」ブランドの商品の紹介もなされていた(甲第16号証)。
そして、1983年6月10日に、株式会社ヴァンヂャケットから新たに設立された株式会社ケントに「Kent」商標の使用権を与え、同社に「Kent」ブランドの製品の販売を委託することとした。
株式会社ケントは、「Kent」ブランドの製品を上述した青山Kentショップ等で販売し、定期的に雑誌等に「Kent」ブランドそのものの広告や「Kent」ブランドの製品の広告を掲載していた(甲第8号証、甲第17号証ないし同第34号証。ただし、甲第33号証は、株式会社ヴァンヂャケットがVANグループの広告として「Kent」ブランドの広告をしたものである。)。また、株式会社ケントは、1年に2回、6ヶ月ごとに「Kent」ブランドの製品のカタログを作成し、それを青山Kentショップ等の来店者に配布するとともに、製品の購入者にノベルティグッズを配布していた(甲第35号証ないし同第44号証)。
その後、株式会社ヴァンヂャケットは、1997年3月24日に、株式会社ケントを吸収合併し、再び株式会社ヴァンヂャケットで、「Kent」ブランドの製品を販売することとした。そして、「Kent」ブランドの製品を上述した、青山Kentショップ等で販売し、定期的に雑誌等に「Kent」ブランドそのものの広告や「Kent」ブランドの製品の広告を掲載していた(甲第45号証ないし同第53号証)。また、1年に2回、6ヶ月ごとに「Kent」ブランドの製品のカタログを作成し、それをKentショップ等の来店者に配布していた(甲第54号証ないし同第58号証)。
そして、近年(2000年?)も「Kent」ブランドの製品の販売が現実に行われ、それが継続している。具体的にいえば、1999年10月の売上げは、81765千円、2001年3月の売上げは、22182千円、2002年3月の売上げは、6628千円、2003年3月の売上げは、3995千円、2004年3月の売上げは、4167千円、2005年1月の売上げは、2550千円、2006年4月の売上げは、1800千円である(甲第59号証)。
ところで、株式会社ヴァンヂャケットは、引用商標1ないし3の商標権者であったが、現在の商標権者は、本件無効審判の請求人である株式会社ケントジャパンである(甲第60号証ないし同第65号証)。また、これら引用商標1ないし3の商標権には、専用使用権が地域や内容を限定せずに設定されており、専用使用権者は、株式会社ビイエムプランニングである。株式会社ビイエムプランニングは、総合スーパーマーケットのイトーヨーカ堂に2001年2月から肌着やスーツといった男性用の被服等について「Kent」ブランドを使用することを認め、イトーヨーカ堂から毎月ロイヤルティーを受け取っている(甲第66号証)。詳しく述べれば、2001年度のイトーヨーカ堂の「Kent」ブランド商品の仕入れ枚数は381461枚で、仕入れ原価は647159千円である。2002年度の仕入れ枚数は478379枚で、仕入れ原価は725488千円。2003年度の仕入れ枚数は283706枚で、仕入れ原価は52603千円。2004年度の仕入れ枚数は819945枚で、仕入れ原価は1829305千円。2005年度の仕入れ枚数は1042576枚で、仕入れ原価は2471824千円。2006年度の仕入れ枚数は、2006年8月までの数字で、107947枚で、仕入れ原価は266937千円である。
-方、イトーヨーカ堂は、2001年から新企画として撥水性の高い「ナノテク衣料」等の企画を打ち出しており(甲第67号証)、「ナノテク衣料」には、「Kent」ブランドのジャケットや綿パンツやシャツ等も含まれている(甲第68号証)。
また、イトーヨーカ堂は、「Kent」ブランドを「VAN・JUN」世代=団塊世代をターゲットにしたトラディショナル最重要ブランドと位置づけており、2004年秋冬から、素材変更などでグレード感を上げ、価格を「量販店ゾーン」よりも上に明確に据え直し、売り方も専任販売員を付けて対面販売に移行した(甲第70号証及び同第71号証)。このようなイトーヨーカ堂における「Kent」ブランドの男性用の被服等の販売は、定期的に折り込みちらしを、各地にあるイトーヨーカ堂の店舗の近隣の住民に配って宣伝を精力的に行ったこともあり(甲第72号証ないし同第75号証)好調で、「Kent」ブランドのトランクスが週に4000?5000枚売れており(2005年1月6日現在、甲第76号証)、「Kent」ブランドの商品の売上高が今期は前期比3割増しのペース(甲第77号証の2005年5月27日時点)であった。このように、2005年においても、「Kent」ブランドの商品がイトーヨーカ堂でよく売れているのは、「Kent」というブランドの名称を、特にいわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちが明確に覚えており、英国的でトラディショナルといった「Kent」ブランドの独自のイメージを明確に有している証拠である。
したがって、「Kent」商標は、1963年から現在まで、株式会社ヴァンヂャケットにより使用されているものであり、また、2001年からは同時にイトーヨーカ堂によって使用されているものであるから、本件商標の出願時である2000年8月31日においても、また、現在においても、「Kent」商標の周知・著名性は維持されているものということができる。
(3)商標法第4条第1項第15号について
以上のとおり、「Kent」商標は、本件商標出願前である1963年から使用が開始され、周知・著名となっており、本件商標出願時である2000年8月31日においても、継続的な使用によってその周知・著名性は維持されており、現在においても維持されている。
そして、本件商標と「Kent」商標とは同ー又は類似の関係にあるものである。
ところで、多くの服飾メーカーは、被服だけでなく、靴や傘・かばん等にまで同一ブランドの下に商品を製造、販売し、同一デザインや同一コンセプトを活かしたトータルファッションを提供するという商品展開を行っているからである。例えば、「COMME CA DE MODE」(コムサ・デ・モード)、「Burberrys」(バーバリー)、「CHANEL」(シャネル)、「LOUISVUITTON」(ルイ・ヴィトン)、「GUCCI」(グッチ)等がそうであり、このような例は枚挙にいとまがない(甲第78号証)。
また、ブティックや服飾専門店で、衣服やベルト、ネクタイピン等の服飾用品雑貨と共に、靴、傘、かばんが一緒に販売されていることは周知の事実であり(甲第79号証)、一般の衣服ファッション雑誌においても、衣服の紹介と共に、それにあわせる靴や傘・かばんもトータルコーディーネイトを提案する意味で、それらが一緒に紹介されることはよく行われているところである(甲第78号証)。
そうとすれば、「Kent」商標は、「被服」等の商品に使用されているが、前述したとおり、「Kent」商標は周知・著名商標であるため、「靴」に使用されている本件商標を見たり聞いたりした者は、「Kent」ブランドの商品であるか、あるいは「Kent」ブランドと何らかの関連性を有する商品であると誤って認識するものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号違反に基づく無効理由を有しているものである。

2 答弁に対する弁駁の要旨
(1)「Kent」商標の周知・著名性について
審判請求書において述べたとおり、「Kent」商標は、少なくとも、1977年には、周知・著名となっていたものであり、以後、継続的に使用されている。そのため、その周知・著名性は廃れてはいない。いったん周知・著名になった商標は、消費者の心に深く刻みこまれ忘れられないものである。特に1960年?1980年のアイビーブームの中で青春を送ったいわゆる団塊世代の人達は、今でもよく覚えている。そのため近年においても、雑誌で特集され、「Kent」ブランドの製品が紹介されている(2004年1月1日発行の甲第10号証及び1999年8月発行の甲第11号証)。また、石津謙介氏が死去した際には新聞で報道され、その記事には「VAN」の主要ブランドとして「Kent」ブランドが紹介されている(2005年5月27日付けの甲第77号証)。このように、いわゆる団塊の世代の人達が「Kent」ブランドをよく覚えており、「Kent」商標の周知・著名性が失われていないため、2005年の時点においてイトーヨーカ堂で販売され、よく売れていたわけである。
その後、イトーヨーカ堂は、プライベートブランドの見直しに伴い、2006年は「Kent」ブランドの製品の販売を中止していたが、再開を望む声が強く、2007年3月から、ららぽーと横浜店で販売を再開しており(甲第80号証、甲第81号証)、2007年4月中に30、5月に20?30ショップをつくり、初年度は80ショップを設ける(甲第82号証)ことになっている。
(2)引用商標1の権利主体の変更について
被請求人は、答弁書において、引用商標1の権利主体の変更が引用商標1のグッドウイルの承継に影響を与えていると述べているが、権利主体が変更されても、審判請求書で述べたように、株式会社ヴァンヂャケットや株式会社ケントによって継続的に使用されており、「Kent」ブランドにはグッドウイルが形成されている。また、イトーヨーカ堂もこれまで株式会社ヴァンヂャケット等によって形成された「Kent」ブランドのグッドウイルを利用して「Kent」ブランドの製品を販売しているため、「Kent」ブランドのグッドウイルを害さないように注意して使用している。

第4 被請求人の答弁の要旨
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第23号証を提出した。
(1)本件商標については、本件請求人である株式会社ケントジャパンにより登録異議申立がなされたが、平成18年9月25日付で、本件商標の登録は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではないとして、登録維持の決定がなされている。
(2)請求人の主張のうち、株式会社ヴァンヂャケットは、昭和30年代中頃から昭和50年代後半にかけて、わが国において著名な紳士用ファッションの企業であったこと、「Kent」ブランドは「VAN」ブランドの関連ブランドとして立ち上げられ、「Kent」商標は紳士用の衣服及び服飾用品雑貨を表示する商標として使用されていたこと及び「Kent」商標と本件商標とは、外観、称呼及び観念について同一若しくは類似の関係あることについては認める。
しかしながら、それが本件商標の登録出願時及び録査定時において、取引者・需要者間に広く認識されていたものとは認められない。
(ア)請求人は、「Kent」製品は当初(1964年)、青山Kentショップのみで販売されていたが、その後、直営店であるKAMAKURAKENTができ、銀座テーラー・ヤマキ、その後、東京駅大丸、銀座松屋にも出店するに至り、それらの店舗で販売された旨主張している。
しかしながら、該事実の裏付けとして提出されている甲第8号証は、本件商標出願時(2000年)より相当以前(1985年)に発行されたものであり、かつ、その内容から前記事実は1966年以前(初期)のことであることが看取でき、該雑誌発行時若しくは本件商標出願時においてもなお前記店舗で「Kent」ブランドが販売されていたことを裏付ける事実の提示はない。
(イ)請求人は、株式会社ヴァンヂャケットはマーケティング戦略として、「Kent」商標を付したノベルティグッズを提供し人気を博した旨主張している。
しかしながら、該事実の裏付けとして提出されている甲第7号証ないし甲第13号証から、株式会社ヴァンヂャケットが該ノベルティグッズを提供していたのは1960年から1970年代前半であったことが看取でき、本件商標出願時より相当以前のことであり、該事実をもって、それから30年も経た本件商標出願時において「Kent」ブランドが周知著名であったとはいえない。なお、甲第7、8、12、13号証は、本件商標出願時より相当以前に発行されたものであり、甲第9、11号証については、本件商標の登録出願の1年前に発行されたものであるが、その内容は1960年代を振り返ったものであり、「Kent」ブランドの宣伝広告ではない。
また、甲第10号証については、その発行日は2004年1月1日と本件商標の登録出願時から4年後に発行されたものであり、その発行部数や普及度は一切不明である。
(ウ)請求人は、株式会社ヴァンヂャケットらは、青山Kentショップ等でKent製品を販売すると共に、その商品について雑誌等に広告宣伝し、引用商標が付されたノベルティグッズを提供し、Kent製品のカタログを作成し顧客に配布していた旨主張している。
しかしながら、該事実の裏付けとして提出されている甲第17号証ないし甲第34号証から、株式会社ケントが雑誌等に広告宣伝を行っていたのは1987年から1996年の本件商標出願時より相当以前であることが看取でき、かつ、株式会社ケントが1992年から1996年の5年間に雑誌に宣伝広告を行っている事実を証明する資料の提示は甲第30号証ないし甲第34号証のたった5冊であり、前記期間は、該社は自社カタログを除いて雑誌等にほとんど宣伝広告行っていない事実が推認できる。また、甲第44号証によれば、該社がノベルティグッズを提供していたのは1984年から1989年のことであることが看取でき、本件商標登録出願時より相当以前のことである。また、株式会社ヴァンヂャケットが株式会社ケントを吸収合併した後は、株式会社ヴァンヂャケットが「Kent」ブランドの販売、宣伝広告を行い、また、株式会社ヴァンヂャケットらは「Kent」ブランドについてカタログを作成し、顧客に配布していたとあるが、その裏付けとして提出されている「Kent」ブランド製品のカタログ(甲第33号証ないし甲第43号証及び甲第54号証ないし甲第58号証)は、いずれも1999年までのものであり、本件商標登録出願時である2000年以降は、カタログをもって積極的に宣伝広告された事実は見当たらない。また、請求人は「青山Kentショップ等の来店者に配布していた」と述べるのみで、配布を行った店や配布部数等は一切明らかにされておらず、その普及度は不明である。また、これらを手にするのは青山Kentショップに来店した者に限られることからすれば、その発行部数はさほど多いものとは考えられず、広範囲にわたるものでもないのであるから、需要者に「Kent」ブランドが浸透していたとは認められない。また、甲第45号証ないし甲第53号証より1997年から1998年の2年間に株式会社ヴァンヂャケットが雑誌に「Kent」ブランドの広告を掲載していたことが看取できるが、1998年の12月以降現在に至るまで「Kent」ブランドが掲載された雑誌やカタログの提出はない。
以上より、1998年12月以降現在に至るまで、「Kent」ブランドが積極的に宣伝広告されていないことが推認できる。
したがって、上記事実によって、「Kent」ブランドが本件商標出願時及び本件商標登録査定時に周知著名であったとは認められない。
(エ)請求人は、Kent製品は現在も販売されている旨主張している。
しかしながら、「Kent」製品売上表(甲第59号証)から、その売上は2001年9月は1100万円余、2003年9月は280万円余、2005年1月では250万円余と年々下降している。本件商標登録査定時である2005年2月は168万円と僅少であり、販売実績から判断しても「Kent」ブランドが本件商標の出願時及び登録査定時において取引者・需要者において広く知れ渡っている状況であったとは認め難い。
(オ)請求人は、引用商標権の専用使用権者である株式会社ビイエムプランニングから使用権を与えられているイトーヨーカ堂は、「Kent」ブランドを団塊の世代をターゲットにしたトラディショナル最重要ブランドとして位置づけ、スーツ、ジャケット等に引用商標を付して精力的に販売し、売れ行きも好調である旨主張している。
しかしながら、株式会社ビイエムプランニングに専用使用権が設定され、イトーヨーカ堂に使用権が与えられたのは、いずれも本件商標出願時以降のことであるから、本件商標出願時に、「Kent」ブランドがイトーヨーカ堂の業務に係る商品として周知著名であったとは認められない。
また、請求人は、「Kent」製品のイトーヨーカ堂での仕入れ実績(甲第66号証)を提出しているが、本件商標の登録出願時及び登録査定時の実績は不明であり、肝心の売上がいくらであるかは明らかにされておらず、「Kent」ブランドの著名性の立証証拠にはならない。
以上、本件商標の出願時前の1999年以降2004年5月に至る5年間、全く宣伝広告活動をしておらず、2004年以降の宣伝広告の事実を証明するものは、株式会社ヴァンヂャケットについては2004年の甲第10号証のみ、イトーヨーカ堂については2004年の甲第72号証ないし甲第75号証、2005年の甲第68号証ないし甲第69号証のみであり、かつ、それらの実際の発行部数や頒布範囲等具体的なことは一切明らかにされていない。
したがって、これらの数少ない、かつ、散発的な広告と僅少の売上金額を総合して判断しても「Kent」ブランドが本件商標登録査定時において周知著名性を具備していたとは到底いえない。
(カ)請求人は、「Kent」ブランドが昭和30年?50年代に20?30代の男性は誰でも知っているほど著名であった旨主張している。
しかしながら、自由国民社発行の「現代用語の基礎知識」には、乙第3号証ないし乙第20号証として提出するもののほか、1966年(昭和41年)版から2004年(平成16年)版の40年間において、「Kent」ブランドの掲載は一切見当たらない。このことは、証拠資料として提出はしないが、集英社発行の「imidas」1989年(平成元年)版から2004年(平成16年)版の16年間及び朝日新聞社発行の「知恵蔵」の1993年(平成5年)版から2004年(平成16年)版の12年間についても「Kent」ブランドの掲載は一切見当たらない。更に、ファッション用語を掲載している株式会社平凡社1988年発行の「ファッション事典」(乙第21号証)、株式会社チャネラー1976年発行の「新ファッションビジネス基礎用語辞典」(乙第22号証)においても、「Kent」ブランドの掲載は認められない。
この点、該VANブランドについては、自由国民社発行の現代用語の基礎知識1966年(昭和41年)版から1976年(昭和51年)版まで毎年継続して掲載されていた(乙第3号証ないし乙第7号証)ことからみれば、「Kent」ブランドが著名でなかったことは明らかである。
(3)以上より、株式会社ヴァンヂャケットは、昭和30年代中頃から昭和50年代後半にかけて、わが国において著名な紳士用ファッションの企業であったことは認められるが、「Kent」ブランドについては、本件商標出願時においても査定時においても紳士用衣服の分野で著名であったとは認められない。
したがって、本件商標を紳士用衣服とは異なる「履物」に使用しても、「Kent」ブランドと出所混同を生じることはないので、本件商標は、商標法第4条第1項第15号には該当しない商標である。

第5 当審の判断
1 請求人(株式会社ケントジャパン)は、「Kent」商標が株式会社ヴァンヂャケットの商標として全国的に極めて著名であったことは、衣服及び服飾洋品雑貨の業界のみならず一般消費者の間においても顕著な事実であり、本件商標の出願時においても、また、現在においても、その周知・著名性は維持されているとして、本件商標が商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである旨主張している。
そこで、請求人が提出している甲各号証をみるに、甲各号証によれば、以下のような事実関係にあったものと認められる。
(1)「Kent」商標に関わる事業者について
まず、「Kent」商標に関わってきた事業者の関連についてみるに、旧株式会社ヴァンヂャケットの閉鎖登記簿(甲第14号証)によれば、株式会社ヴァンヂャケットは、昭和53年10月12日に、東京地方裁判所の破産宣告を受け、昭和59年2月15日に破産が終結している(以下、当審の判断の項においても、昭和53年10月12日に破産した株式会社ヴァンヂャケットを「旧ヴァンヂャケット」という。)。
しかし、旧ヴァンヂャケットの清算終了前の昭和55年12月3日に、株式会社ヴァンヂャケット新社が設立され(甲第3号証:株式会社ヴァンヂャケット新社の設立時の登記簿謄本)、昭和56年3月25日には、株式会社ヴァンヂャケットと商号変更されている。
そして、請求人の主張によれば、昭和58年6月10日に、株式会社ヴァンヂャケットから新たに株式会社ケントが設立され、同社には、「Kent」商標の使用権が与えられ、「Kent」ブランドの製品の販売が委託された。しかし、その後、平成9年3月24日に、株式会社ヴァンヂャケットは、株式会社ケントを吸収合併し、再び、株式会社ヴァンヂャケットが「Kent」ブランドの製品を販売することとなった。
株式会社ヴァンヂャケットは、引用商標1ないし3の商標権者であったが、平成17年2月25日に各商標権を本件審判の請求人である株式会社ケントジャパンに譲渡している(甲第60号証ないし甲第65号証)。株式会社ケントジャパンは、株式会社ビイエムプランニングに専用使用権を設定しており(同上)、専用使用権者である株式会社ビイエムプランニングは、平成13年2月から、イトーヨーカ堂に男性用の被服等について「Kent」商標を使用することを認めている。
(2)「Kent」商標の使用状況について
請求人は、「Kent」商標の使用状況を裏付ける証拠として、書籍や雑誌に掲載された記事や広告、株式会社ヴァンヂャケット等が発行したカタログ、統計資料等を提出しており、それらによれば、以下の事実を認めることができる。
(ア-1)書籍や雑誌における掲載記事として提出されているのは、甲第7号証ないし甲第13号証及び甲第16号証である。
甲第7号証は、日本経済新聞社発行の「THE EVERLASTING IVY EXHIBITION 1995」であり、1995年に発行されたものである。
甲第8号証は、立風書房発行の「KENT BOOK」であり、1985年6月15日に発行されたものである。
甲第9号証は、株式会社えい出版社発行の「オールドボーイスペシャル永遠のVAN」であり、1999年5月20日に発行されたものである。
甲第10号証は、株式会社エフジー武蔵発行の「街ぐらし Vol.16」であり、2004年1月1日に発行されたものである。
甲第11号証は、徳間書店発行の「Goods Press 1999年8月号」であり、平成11年8月10日に発行されたものである。
甲第12号証は、株式会社講談社発行の「Hot・Dog PRESS 1981年8月10日号」であり、昭和56年8月10日に発行されたものである。
甲第13号証は、株式会社扶桑社発行の「VANヂャケット博物館」であり、1993年7月30日に発行されたものである。
甲第16号証は、株式会社婦人画報社発行の「別冊MEN’S CLUB」であり、1981年6月25日に発行されたものである。
(ア-2)これらの書籍等には、アイビーの起源、「VAN」商標と「Kent」商標との関係、「Kent」商標の由来等について、石津謙介氏や服飾評論家・Kent商品の企画担当者・KENTショップ店長などによる対談、回顧録、多岐に亘るノベルティグッズ等々について記載されている。
(ア-3)前述のとおり、旧ヴァンヂャケットは破産し、その後に、株式会社ヴァンヂャケット新社が設立されているが、株式会社ヴァンヂャケット新社は、昭和59年2月15日に破産が終結している旧ヴァンヂャケットの保有していた知的財産権の全てを譲り受けたことが認められる(甲第15号証の1ないし3)。
そして、甲第12号証によれば、旧ヴァンヂャケットの解散後も、元の直営店等で旧ヴァンヂャケットの在庫品が販売されていた旨記載されており、甲第16号証には、新社設立後においても、青山Kentショップ、名古屋ヴァンショップ、大阪のヴァンガーズ等で「Kent」ブランドの製品が販売されていた旨記載されている。
(イ)株式会社ヴァンヂャケットにより新たに設立された株式会社ケントが雑誌に掲載した広告として提出されているのは、甲第17号証ないし甲第34号証と前述した甲第8号証である。
甲第17号証から甲第31号証までは、いずれも株式会社婦人画報社発行の「MEN’S CLUB」であって、甲第17号証は昭和62年(1987年)4月1日に発行されたものであり、以下、甲第18号証は昭和62年(1987年)5月1日発行、甲第19号証は昭和62年(1987年)9月1日発行、甲第20号証は昭和62年(1987年)11月1日発行、甲第21号証は昭和63年(1988年)4月1日発行、甲第22号証は昭和63年(1988年)6月1日発行、甲第23号証は1989年12月1日発行、甲第24号証は1990年2月1日発行、甲第25号証は1990年9月1日発行、甲第26号証は1990年11月1日発行、甲第27号証は1991年7月1日発行、甲第28号証は1991年9月1日発行、第29号証は1991年10月1日発行、甲第30号証は1992年9月1日発行、甲第31号証は1992年10月1日に発行されたものである。
また、甲第32号証と甲第33号証は、いずれも、株式会社婦人画報社発行の「別冊メンズクラブ男のスタイルブック」であり、甲第32号証は1995年11月1日発行、甲第33号証は1996年11月20日に発行されたものであり、甲第34号証は、世界文化社発行の「MEN’S EX」であって、1996年12月1日に発行されたものである。
これらの雑誌には、株式会社ケントによる「Kent」ブランドそのものの広告や「Kent」ブランドの製品の広告が掲載されている。
(ウ)株式会社ケントにより発行されたカタログとして提出されているのは、甲第35号証ないし甲第44号証である。
甲第35号証は、「1987 Fall&Winter」版であり、以下、甲第36号証は「1988 Spring&Summer」版、甲第37号証は「’89 Fall」版、甲第38号証は「FALL and WINTER’93-’94」版、甲第39号証は「Fall&Winter’94」版、甲第40号証は「SPRING&SUMMER1995」版、甲第41号証は「FALL&WINTER’95-’96」版、甲第42号証は「SPRING&SUMMER1996」版、甲第43号証は「FALL&WINTER’96-’97」版であり、甲第44号証は、「Kent ノベルティグッズの一覧表と写真 1984?89年」である。
請求人の主張によれば、これらのカタログは青山Kentショップ等の来店者に配布され、ノベルティグッズは製品の購入者に配布されたとのことである。
(エ)株式会社ケントを吸収合併した株式会社ヴァンヂャケットが雑誌に掲載した広告として提出されているのは、甲第45号証ないし甲第53号証である。
甲第45号証は、株式会社婦人画報社発行の「MEN’S CLUB」であり1997年4月1日に発行されたものであり、以下、甲第46号証は、世界文化社発行の「Men’s Ex」であり1997年6月1日に発行、甲第47号証は、株式会社婦人画報社発行の「男のスタイルブック’98トラッドの新ルール」であり1997年11月10日発行、甲第48号証は、株式会社婦人画報社発行の「MEN’S CLUB」であり1997年12月1日発行、甲第49号証は、世界文化社発行の「Men’s Ex」であり1998年1月1日発行、甲第50号証は、株式会社婦人画報社発行の「MEN’S CLUB」であり1998年4月1日発行、甲第51号証は、世界文化社発行の「Men’s Ex」であり1998年4月1日発行、甲第52号証は、株式会社婦人画報社発行の「男のスタイルブック’99」であり1998年11月10日発行、甲第53号証は、ぶんか社発行の「asAyan」であり平成10年12月1日に発行されたものである。
これらの雑誌には、株式会社ヴァンヂャケットによる「Kent」ブランドそのものの広告や「Kent」ブランドの製品の広告が掲載されている。
(オ)株式会社ヴァンヂャケットにより発行されたカタログとして提出されているのは、甲第54号証ないし甲第58号証である。
甲第54号証は、「SPRING&SUMMER1997」版であり、以下、甲第55号証は「’97 FALL&WINTER」版、甲第56号証は「’98 SPRING&SUMMER」版、甲第57号証は「FALL&WINTER’98-’99」版、甲第58号証は「’99 SPRING&SUMMER」版である。
請求人の主張によれば、これらのカタログは青山Kentショップ等の来店者に配布されたとのことである。
(カ)株式会社ヴァンヂャケットによる1999年以降における「Kent」ブランド製品の売上高を示す証拠として甲第59号証が提出されている。 これによれば、概算で、1999年8月から12月までの売上高は3億円、2000年は2億2500万円(同年8月のマイナス記号の売上額は計算に入れない。以下同じ)、2001年は8400万円、2002年は5000万円、2003年は3700万円、2004年は2400万円、2005年は1860万円となっている。
(キ)(株)イトーヨーカ堂による「Kent」製品の仕入実績として、甲第66号証が提出されている。これは、イトーヨーカ堂が引用商標1ないし3の専用使用権者である株式会社ビイエムプランニングから「Kent」商標の使用を許諾されていたことに対して、「Kent」製品の仕入れ実績の報告書として株式会社ビイエムプランニング宛てに提出された文書である。
これによれば、2001年のイトーヨーカ堂の「Kent」ブランド商品の仕入れ枚数は381461枚で、仕入れ原価は647159千円であり、以下、2002年度の仕入れ枚数は478379枚、仕入れ原価は725488千円、2003年度の仕入れ枚数は283706枚、仕入れ原価は52603千円、2004年度の仕入れ枚数は819945枚、仕入れ原価は1829305千円、2005年度の仕入れ枚数は1042576枚、仕入れ原価は2471824千円、2006年度の仕入れ枚数は、2006年8月までの数字で、107947枚で、仕入れ原価は266937千円となっている。
(ク)イトーヨーカ堂が発行した折り込みちらしやイトーヨーカ堂に関する新聞記事として、甲第67号証ないし甲第77号証が提出されている。
甲第67号証は、2004年3月1日付の繊研新聞であり、甲第68号証は、ちらし(2004年3月17日?21日)、甲第69号証は、2005年6月22日付の読売新聞における「Kent」製品の広告、甲第70号証は、2004年9月11日付の新聞記事、甲第71号証は、2005年3月16日付のEメール、甲第72号証ないし甲第75号証は、2004年5月ないし7月にかけてのちらし、甲第76号証は、2005年1月6日付の新聞記事、甲第77号証は、2005年5月27日付けの日経MJ新聞の記事である。
これらの折り込みちらしには、「Kent」商標に係る製品が掲載されており、新聞記事においては、「イトーヨーカ堂は『Kent』ブランドを『VAN・JUN』世代=団塊世代をターゲットにしたトラディショナル最重要ブランドと位置づけており、2004年秋冬から、素材変更などでグレード感を上げ、価格を『量販店ゾーン』よりも上に明確に据え直し、売り方も専任販売員を付けて対面販売に移行しました」等の記事が掲載されている。
(ケ)請求人は、弁駁書において、イトーヨーカ堂はプライベートブランドの見直しに伴い、2006年は「Kent」商標の製品の販売を中止していたが、2007年3月から、ららぽーと横浜店で販売を再開しているとして、その店内の写真(甲第80号証)、2006年12月19日付の新聞からの抜粋記事(甲第81号証)及び「Kent」ブランド製品を販売する店のリスト(甲第82号証)を提出している。
(3)「Kent」商標の周知・著名性の有無について
請求人は、「Kent」商標は少なくとも1977年には周知・著名になっていた旨述べており(弁駁書2頁)、以後、継続的に使用されていることから、その周知・著名性は廃れておらず、特に、昭和30年?50年代当時に20?30代であった人達(いわゆる団塊世代の人達)であれば、今でも良く覚えている旨述べている。
(ア)そこでまず、「Kent」商標が1977年当時において周知・著名になっていたか否かについてみるに、この点を裏付ける証拠として請求人が提出しているのは書籍や雑誌のみである。
上記において認定した各書籍等の記載に徴してみれば、旧ヴァンヂャケットは、昭和30年代中頃から昭和50年代後半にかけて「VAN」の商標を使用して我が国における紳士用ファッションの分野をリードした企業であり、「VAN」ブランドの関連ブランドとして立ち上げられた「Kent」商標に係る製品は、青山Kentショップや直営店であるKAMAKURAKENT、銀座テーラー・ヤマキ、東京駅大丸、銀座松屋等で販売されていたものということができる。そして、例えば、甲第8号証には、「・・・1970年代は・・・『Kent』ブランドの伸び方はすごい勢いで、めざましい販売促進プランも大変なものですよ。・・・」といった記載のあることも認められる。
そうとすれば、「Kent」商標は、昭和40年?昭和50年代において、アイビー(アメリカのカジュアルウエア)に関心を持っていた男性を中心に一定程度知られていたものと推測することができる。
しかしながら、ある商標が周知・著名性を獲得していたものと認められるためには、書籍等における掲載記事も重要な証拠の一つではあるが、少なくとも、当該商標に係る商品の売上高、広告宣伝の事実(方法・回数及び内容)等をもって立証する必要があるところ、請求人が「Kent」商標の周知・著名性を裏付ける証拠として提出しているのは、専ら、書籍等における掲載記事のみであって、商品の売上高や広告宣伝の事実についての証拠を何ら提出していない。そして、1977年以前に発行された書籍等は一誌もないから、これらの書籍等に商品の広告が掲載されていたとしても、1977年以前における広告宣伝の事実を示すものではない。
そうとすれば、このような極く限られた証拠をもって、「Kent」商標が1977年当時において周知・著名性を獲得していたものと認定することは困難であり、「Kent」商標が昭和30年?50年代当時に20?30代であった男性(いわゆる団塊世代の男性)のうち、アイビーに関心を持っていた男性を中心に一定程度は知られていたものと推測し得るにとどまるものといわなければならない。
(イ)次に、旧ヴァンヂャケットの破産後に設立された株式会社ヴァンヂャケットらによる「Kent」商標の使用により、本件商標の登録出願時までに、「Kent」商標が周知・著名性を獲得していたか否かについて判断する。
(イ-1)そこでまず、書籍や雑誌における記事や広告の掲載状況及びカタログ等の発行状況についてみるに、
(a)上記した甲第12号証と甲第16号証が1981年に発行された後、「VAN」や「Kent」に関する記事が掲載されている書籍や雑誌は、1985年に発行された甲第8号証、1993年に発行された甲第13号証、1995年に発行された甲第7号証、1999年に発行された甲第9号証と甲第11号証及び2004年に発行された甲第10号証である。
(b)株式会社ケント及び株式会社ヴァンヂャケットによる「Kent」商標に係る広告の掲載状況についてみるに、主に掲載されているのは株式会社婦人画報社発行の「MEN’S CLUB」であり、1987年(昭和62年)から1998年(平成10年)にかけて掲載されているが、掲載されていない年も2回あり、少ない年は年1回、多い年は年4回掲載されている。広告の内容は、「Kent」商標に係る製品の広告ばかりでなく、具体的な商品とは直接的な関係付けがされていない広告も多く見受けられる。
(c)株式会社ケント及び株式会社ヴァンヂャケットによる「Kent」商標に係るカタログの発行状況についてみるに、1987年(昭和62年)から1999年(平成11年)にかけて発行されているが、発行されていない年も3回あり、多い年は年2回発行されたこともあるが、概ね年1回の頻度で発行されている。
(イ-2)次に、商品の売上状況についてみるに、株式会社ヴァンヂャケットによる「Kent」製品の売上高として甲第59号証が提出されている。 これには、1999年8月以降の実績しか記載されていないが、1999年8月から12月までの売上高はおよそ3億円、本件商標が出願された2000年は2億2500万円であるが、その後は急減しており、2001年は8400万円、2002年は5000万円、2003年は3700万円となり、本件商標について登録査定がされた2005年には1800万円となっている。
(イ-3)上記した書籍や雑誌における記事や広告の掲載状況及びカタログ等の発行状況からみれば、旧ヴァンヂャケットの破産後から本件商標の登録出願時に至るまで、株式会社ヴァンヂャケットらにより、継続して「Kent」商標が被服について使用されてきた事実を認めることができる。
しかしながら、書籍や雑誌において、「Kent」に係る記事が掲載された回数は決して多いものとはいえず、しかも、これらの文献において記載されていることは、主に、旧ヴァンヂャケットに関する記事や「VAN」ブランド、「Kent」ブランド、各種のノベルティグッズ、旧ヴァンヂャケットの倒産から新生ヴァンヂャケットへ移行した当時の状況等々、むしろ昭和30年代中頃から昭和50年代後半にかけての状況が記載されており、本件商標の登録出願当時の「Kent」商標に関する状況は記載されていない。 また、本件商標の出願後ではあるが、登録査定前に発行された雑誌として甲第10号証があるが、紹介されているウェアに「Kent」の商標がみられるのは極く僅かであり、多くは過去における事実の記載とノベルティーグッズの紹介であって、本件商標の出願ないしは査定当時における「Kent」商標の周知・著名性を認めるに足る程の記載は認められない。
そして、近年における株式会社ヴァンヂャケットによる「Kent」製品の販売状況をみても、「Kent」商標の周知・著名性が認められる程の販売状況とはいい難い。
(イ-4)この点について、被請求人の提出に係る乙第3号証ないし乙第20号証(現代用語の基礎知識)によれば、1966年(昭和41年)版から1976年(昭和51年)版までには、毎年継続して「VAN」ブランドについての記載がみられるが、「Kent」ブランドについては、その他の年度版を含めて一切見当たらない。また、ファッション用語を掲載している株式会社平凡社1988年発行の「ファッション事典」(乙第21号証)及び株式会社チャネラー1976年発行の「新ファッションビジネス基礎用語辞典」(乙第22号証)においても、「Kent」ブランドは掲載されていない。
(イ-5)そうすると、「Kent」製品の販売実績や文献等における記載状況からみれば、「Kent」商標が本件商標の登録出願時においても、取引者・需要者の間において、広く知られるに至っている状況にあったものと認めるのは困難である。
なお、イトーヨーカ堂に係る「ケント」に関連する新聞記事としては、2004年(平成16年)から2005年(平成17年)にかけて5回掲載されており、イトーヨーカ堂の発行に係る折り込みちらしは、2004年(平成16年)に5回発行されている。そして、イトーヨーカ堂の「Kent」商標に係る仕入れ実績として甲第66号証が提出されている。
しかしながら、これらの証拠は、いずれも、本件商標の出願後に生じた事実に関するものであり、上記したとおり、「Kent」商標は、本件商標の登録出願時において、取引者・需要者間において広く知られていたものとは認められないものであるから、その後、登録査定時までに、周知・著名性を獲得したか否かを検討する余地はないものといわなければならない。
(ウ)以上を総合してみれば、1963年(昭和38年)に立ち上げられた「Kent」商標は、1977年当時においても、また、その後、本件商標の登録出願時までの期間においても周知・著名性を獲得していたものとは認めらない。
(エ)この点について、請求人は、いったん周知・著名になった商標は、消費者の心に深く刻み込まれ忘れられないものであり、特にアイビーブームの中で青春を送ったいわゆる団塊世代の人達は、今でもよく覚えているものである旨主張している。
確かに、「Kent」商標が昭和30年?50年代当時に20?30代であった男性(いわゆる団塊世代の男性)のうち、アイビーに関心を持っていた男性を中心に、当時において一定程度は知られていたことを否定するものではない。そして、この状態をもって、請求人が主張しているところの「Kent」商標の周知・著名性が、仮に、1977年当時において確立されたものとみたとしても、その周知性は次第に失われ、本件商標の登録出願時においては既に、請求人らの業務に係る紳士用の衣服等を表示するものとして取引者・需要者の間において広く知られていたとはいい得ない状態になっていたものとみるのが相当である。
請求人が主張しているように、団塊世代の男性のうち、アイビーに関心を持っていた男性が今でも「Kent」をよく覚えているとしても、それは、あくまでも「被服」全体からみれば、一部の商品分野における一部の需要者についていい得るに過ぎないことであるから、そのことを前提にした請求人の主張は採用できない。
(4)商標法第4条第1項第15号の該当性について
前記したとおり、本件商標と請求人らの使用に係る「Kent」商標とは、いずれも「Kent」の文字を書してなるものであるから、両商標は、外観を共通にし、「ケント」の称呼及び欧米の男子の名「ケント」又は英国の州名「ケント州」の観念を同じくする類似の商標ということができる。
しかしながら、上記したとおり、請求人らの使用に係る「Kent」商標は、本件商標の登録出願時において、請求人らの業務に係る紳士用の衣服等を表示する商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものである。
そうとすれば、本件商標の指定商品である「履物」と請求人らの業務に係る「被服」等とがトータルファッションの関連からみれば、互いに密接な関係を有する商品であることを考慮したとしても、被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者・需要者をして、請求人らの使用に係る「Kent」商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。

2 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-10-15 
結審通知日 2007-10-17 
審決日 2007-10-30 
出願番号 商願2000-95921(T2000-95921) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (Z25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 千里榎本 政実 
特許庁審判長 田代 茂夫
特許庁審判官 伊藤 三男
佐藤 淳
登録日 2005-04-08 
登録番号 商標登録第4853874号(T4853874) 
商標の称呼 ケント 
代理人 藤沢 則昭 
代理人 清原 義博 
代理人 藤沢 昭太郎 
代理人 藤沢 正則 

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