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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Y25
管理番号 1166145 
異議申立番号 異議2005-90231 
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2007-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2005-05-12 
確定日 2007-09-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第4839608号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第4839608号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第4839608号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成16年1月30日に登録出願、第25類に属する商標登録原簿のとおりの商品を指定商品として、平成17年2月18日に設定登録されたものであって、その構成は、靴の側面に左に傾斜したやや幅の広い黒塗りの4本の直線を有し、その直線は左端から右端に向かって順次長くして並べ左を前部とする破線で描かれた靴の側面の図形よりなるものである。

第2 引用商標
登録異議申立1の登録異議申立人「アディダス サロモン アーゲー」(以下「申立人」という。)が本件商標の登録異議の申立ての理由に引用する登録第2693722号商標(以下「引用商標1」という。)、登録第2671514号商標(以下「引用商標2」という。)、登録第2708505号商標(以下「引用商標3」という。)、登録第2593080号商標(以下「引用商標4」という。)、登録第4025668号商標(以下「引用商標5」という。)、登録第4180654号商標(以下「引用商標6」という。)、登録第3324363号商標(以下「引用商標7」という。)、登録第4376378号商標(以下「引用商標8」という。)、登録第4378318号商標(以下「引用商標9」という。)、登録第4376377号商標(以下「引用商標10」という。)、登録第4399811号商標(以下「引用商標11」という。)、登録第1587778商標(以下「引用商標12」という。)、登録第2609079号商標(以下「引用商標13」という。)、登録第1423465号商標(以下「引用商標14」という。)、登録第2693723号商標(以下「引用商標15」という。)、登録第2704525号商標(以下「引用商標16」という。)、登録第2693724号商標(以下「引用商標17」という。)、登録第2671515号商標(以下「引用商標18」という。)、登録第2528490号商標(以下「引用商標19」という。)、登録第2160863号商標(以下「引用商標20」という。)、登録第2190105号商標(以下「引用商標21」という。)、登録第2147023号商標(以下「引用商標22」という。)、登録第2199877号商標(以下「引用商標23」という。)及び登録第4522864号商標(以下「引用商標24」という。)は、別掲のとおりの構成よりなるものである。
以下、上記引用商標を一括していうときは、単に「引用商標」という。

第3 申立人の主張
申立人は、結論同旨の決定を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第95号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 商標法第4条第1項第15号について
(1)申立人及び引用商標の沿革と使用実績
申立人、アディダス サロモン アーゲ-(adidas‐Salomon AG)は、世界的に有名なスポーツ用品メーカーであり、その歴史は1920年に創始者アディ・ダスラ-(Adi Dassler)がスポーツシューズを開発したことに始まる(甲第26号証の1ないし10)。
引用商標1ないし引用商標19及(甲第2号証ないし甲第20号証)び引用商標24(甲第88号証)に共通する概念であるところの3本線(Three Stripes)が申立人の商標として採択使用されたのは1949年のことである。
以後、「3本線」は50年を超える長期にわたり今日まで申立人の業務に係る商品及び役務の識別標識として世界各国で使用され親しまれている。
上記「3本線」からなる引用商標は、申立人の製造するスポーツシューズの品質と性能への高い評価と相俟って、「勝利を呼ぶ3本線」の愛称で急速に需要者に広く知られることとなった。
引用商標を使用したスポーツシューズは、1952年のオリンピック・ヘルシンキ大会で西ドイツ選手が着用したことにより、世界の舞台に初登場した。
その後のオリンピック、世界選手権、欧州選手権等の国際試合における申立人のスポーツシュ一ズを着用した選手の活躍によって、申立人のスポーツシューズの優れた性能が世界の需要者に証明され、これと同時に申立人のスポーツシューズに採用される引用商標の名声も不動のものとなった。
例えば、申立人の商品カタログ(甲第31号証)は、1932年のロサンゼルス大会から1976年のモントリオール大会までのオリンピックにおいて、申立人のスポーツシューズを着用した選手の比率及びメダル獲得数のデータ並びにメダリスト達が着用した申立人のシューズの写真を示すものである。
1970年に、初めて申立人のサッカーボールがサッカーのワールドカップ大会の公式ボールとされ、これ以降、今日まで連続して、申立人のボールが公式ボールに採用されている(甲第26号証の7)。
申立人の製造、販売に係るサッカーユニフォームは、申立人の本国ドイツ国をはじめとする世界各国の代表チームやプロリーグチームが採用している(甲第53号証)。
加えて、日本サッカー協会は、1999年4月1日から5年契約で「3本線」の商標を使用した申立人の製造販売に係るユニフォームを日本代表チームユニフォームに採用を決定した(甲第65号証ないし甲第67号証)。
申立人のサッカーシューズについて専属契約を結んだ世界的なプロサッカー選手としては、古くはドイツのブンデスリーガの「Bayern Munchen」(「Munchen」の「u」は、ウムラウトがある。)所属のFranz Beckenbauer(フランツ・べッケンバウは、アー)、現代では、スペインのリガ・エスバーニャーラの「Real Madrid」所属のRaul Gonzalez Blanco(ラウール・ゴンサーレス・ブランコ)等を挙げることができる。
サッカー以外のスポーツ用品についても、申立人の商品は著名である。
申立人は、世界一流のテニスプレーヤーらと専属契約を結び、申立人の商品を供与して自社商品の広告に起用するとともに、彼らの名前を冠した商品シリーズを一般需要者向けに製造、販売している(甲第63号証及び甲第64号証)。

(2)「3本線」に関する広告活動
申立人は、3本線を同社の商標として最も重要なものと認識し、引用商標に示すとおり様々な態様について商標登録を取得している。
3本線の重要性は、1972年に採用され(甲第26号証の7)、引用商標と共に申立人の商標として著名な三つ葉を象った商標が3本線を構成要素として採用している点にも見出すことができる(甲第68号証ないし甲第82号証)。
申立人は、3本線が申立人の業務に係る商品の識別標識であるという認識を需要者に広く深く浸透させるための広告宣伝活動にも力を注いでいる。
申立人は、「3本線のブランド」を意味する、引用商標20ないし引用商標23を取得している。
また、需要者の間で広く認知されている「3本線=請求人」というイメージ保持の徹底を図るべく、「3本線」又は「Three Stripes」というフレーズを、自己の業務に係る商品と常に結びつけた形で商品カタログや広告等に使用している(甲第32号証及び甲第48号証)。
少なくとも1989年から1996年までの7年間、商品カタログの裏表紙(甲第35号証ないし甲第40号証、甲第43号証ないし甲第48号証及び甲第62号証)や雑誌掲載広告(甲第56号証及び甲第62号証)には、引用商標(甲第2号証、甲第3号証及び甲第13号証ないし甲第15号証)又は、これに類似する「3本線」の商標の表示と共に、「3本線はアディダスの登録商標です」なる表示が継続的に記載されたことが認められる。
さらに、甲第57号証に示す雑誌広告では、「ハイテクを秘めた3本線」及び「勝利を呼ぶ3本線」というフレーズを、甲第62号証に示す商品カタログでは、「勝利をめざす三本線/スリーストライプス」というフレーズを用いている。

(3)我が国における使用実績
我が国における申立人の営業活動は、遅くとも1971年頃に、当時の申立人商標の我が国における使用権者であった株式会社デサントによって開始された(甲第27号証)。
これ以降、1998年までは、株式会社デサントを介して申立人の製造に係るポロシャツ、ティーシャツ、スウェットスーツ、帽子等の被服、運動靴、サンダル等の履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴、ベルト、かばん類、布製身回品等について、引用商標が使用された(甲第27号証ないし甲第48号証及び甲第54号証ないし甲第64号証)。
続く1999年1月から現在に至るまでは、アディダスジャパン株式会社によって営業活動が継続されている(甲第49号証ないし甲第53号証、甲第83号証及び甲第84号証)。

(4)引用商標の使用態様と著名性
申立人による引用商標の使用態様は、1949年の採択時から50年以上経過した今日でも、本質的に変わっていない。
例えば、引用商標1、引用商標2及び引用商標12ないし引用商標18は、1949年に採択された「3本線」を使用した靴(甲第26号証の8及び9並びに甲第31号証)と同様に、運動靴等や運動用特殊靴の甲のひも部分と靴底を直線で斜めに結ぶサイドラインとして靴の両側面に左右対称に使用されている(甲第31号証、甲第34号証ないし甲第39号証、甲第44号証、甲第45号証、甲第49号証、甲第83号証及び甲第84号証)。
このような、サイドラインとして用いる3本線は、申立人による長期的かつ継続的な使用実績によって同社の取扱いに係る商品の出所表示として広く知られており、例えば靴に関しては、引用商標24に示す立体商標として商標登録されている。
申立人は、引用商標24に対応する立体商標について、世界各国でも登録を受けており(甲第89号証ないし甲第92号証)、3本線を基調とする商標が、申立人の出所表示として世界的名声を獲得していることは明らかである。

(5)本件商標と出所混同のおそれ
(ア) 本件商標は引用商標と構成の軌を一にし同じ外観印象を与える。
(a)本件商標の構成
本件商標は、破線の輪郭線で描いた左向きの靴の図柄において、当該靴の側面の、靴底とアイレットステイを結ぶ位置に、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗りの紬長の台形様図形を、当該台形様図形の幅よりもやや広い間隔をもって4本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形(以下、「4本線の図形」という)よりなるものである(甲第1号証の1)。
(b)引用商標1ないし引用商標18及び引用商標24の構成
引用商標1及び引用商標2の構成中の図形部分は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗りの細長の台形様図形を、当該台形様図形の幅よりもやや狭い間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである(甲第2号証の1、甲第3号証の1)。
引用商標3ないし引用商標7の構成中の図形部分及び引用商標8ないし引用商標11は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗り細長の台形様図形を、当該台形様図形の幅の3分の1程度の間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである(甲第4号証の1、甲第5号証の1、甲第6号証の1、甲第7号証の1、甲第8号証の1、甲第9号証の1、甲第10号証の1、甲第11号証の1、甲第12号証の1)。
引用商標12ないし引用商標14は、仮想垂直線に対し、左方向にわずかに傾け、左右の縦線を波形あるいは模形の輪郭線で描いた細長の台形様図形を、当該台形様図形の幅とほぼ同じ間隔をもって3本並べ、わずかな差異ではあるが、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである(甲第13号証の1、甲第14号証の1、甲第15号証の1)
引用商標15及び引用商標16並びに引用商標17及び引用商標18の構成中の図形部分は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾け、左右の縦線が波形あるいは楔形の黒塗りの細長の長さが均等な長方形を、当該長方形の幅の3分の1程度の間隔をもって3本並べた図形よりなるものである(甲第16号証の1、甲第17号証の1、甲第18号証の1、甲第19号証の1)。
引用商標24(靴の立体商標)の構成中の靴の側面に描かれた図形部分は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗りの細長の台形様図形を、当該台形様図形の幅よりやや狭い間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである(甲第88号証の1)。
(c)本件商標の主要部分
本件商標は、第25類「履物、運動用特殊靴」に使用するものである(甲第1号証)。
したがって、本件商標の上記構成中、破線の輪郭線で描いた靴の図柄の部分は、本件指定商品の形状として通常採用される形状を普通に表示したものに過ぎないため、これを当該指定商品に使用しても、指定商品の形状等の品質を表示するものとして認識理解されるに止まり、自他商品識別標識として機能しないことは明白である。
そうとすれば、本件商標の構成中、実質的に自他商品識別標識として機能する部分(以下「主要部分」という。)は靴の図柄の側面に描かれた4本線の図形の部分である。
したがって、本件商標と引用商標の類否の程度を検討する場合には、本件商標を全体観察して引用商標と対比、考察するだけでは不十分であり、本件商標の主要部分である4本線の図形と引用商標とを対比、考察することが必要である。
(d)本件商標と引用商標の対比
本件商標の主要部分は引用商標と構成の軌跡を一にする
本件商標の主要部分である4本線の図形と、引用商標1ないし引用商標18及び引用商標24(もしくは当該引用商標の構成中の図形部分)は、これらを構成する台形様図形等が4本と3本の差異があるものの、いずれも、台形様図形等を仮想垂直線に対し左方向にやや傾け、均等間隔で配置している点を共通にすることが明らかである。
この点において、本件商標と上記引用商標は構成の軌跡を一にするということができる。
なかでも、本件商標の主要部分の4本線の図形は、引用商標1ないし引用商標7の構成中の図形部分、引用商標8ないし引用商標11、引用商標24の構成中の靴の側面に描かれた図形部分と看者の注意を惹く特徴的な図形要素において一致する。
すなわち、これらは、いずれも、台形様図形等を仮想垂直線に対し左方向にやや傾けて均等間隔で配置し、かつ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形である点で一致し、構成の軌跡を一にするものであることが明白である。
これと同様の類否に関する認定判断は、4本の台形様図形から構成される件外登録商標第4370503号(甲第93号証)に対して申立人が請求した、登録無効審判事件(無効2000-35119)の確定審決において示されている(甲第94号証)。
したがって、本件商標は自他識別標識としての機能を担う主要部分において、引用商標と構成態様、図形印象が酷似し、極めて紛らわしいものであるということができる。

(イ) ストライプのサイドラインとしての使用
本件商標は、その主要部分において引用商標と紛らわしいのみならず、構成全体においても引用商標と紛らわしいものである。
前述のとおり、靴の側面の、靴底とアイレットステイを結ぶ位置に細長の台形等の矩形の図形(ストライプ)を配置し、サイドラインとして表示する態様は、申立人が50年以上に亘り継続して引用商標を使用してきた態様である。
靴類におけるストライプのサイドラインとしての使用は、その周知性が認められて登録された靴の立体形状からなる引用商標24(甲第88号証)、並びにこれに対応する各国における商標登録(甲第89号証ないし甲第92号証)に共通して広く採用されている構成であり、申立人の周知著名な商品表示となるに至っている。
本件商標は、靴の側面の、靴底とアイレットステイを結ぶ位置に細長の台形様図形(ストライプ)を配置してなる図柄から構成されるものであり、申立人の靴の商品表示として広く認識されている上記サイドラインと同じ構成を採用している。
本件商標と引用商標24に示される立体商標(申立人の取り扱う靴)を対比すれば、両者の構成が酷似し、看者に同一の印象を与えることは一目瞭然である。
後述するとおり、本件商標における4本線の図柄は、商品の地色、本件商標の着色の仕方等によって、「3本線」、「3本のストライプ」として看取される場合がある。
したがって、本件商標は、申立人の取り扱いに係る靴類と誤認混同される可能性が高い。

(ウ)本件商標は「3本線」の商標として認識理解される。
本件商標の主要部分である4本線の図形において、4本の線のそれぞれの間に位置する余白部分は、3本の長さの異なる細長の台形様図形を仮想垂直線に対し左方向にやや傾けて3本を配置し、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形(3本線の図形)を構成している。
この3本線の図形は、引用商標1ないし引用商標7の構成中の図形部分、引用商標8ないし引用商標11、引用商標24の構成中の靴の側面に描かれた図形部分とほぼ同一の特徴を有することが明らかである。
また、本件商標において、上記3本線の図形を構成する各台形様図形の幅は、4本線の図形を構成する各台形様図形よりも幅広である。
したがって、本件商標を指定商品に表示する場合において、商品の地色と本件商標の着色の配色の仕方、両者のコントラストの程度等によっては、4本線の図形よりも、3本線の図形の方が視覚的に強調され、本件商標に接する取引者、需要者に対して、「3本線」の印象を与える可能性を否定できない。
甲第85号証は、本件商標の4本線の図形で区切られた各線の間に位置する余白部分を赤色で着色し、それ以外の余白部分を灰色で着色した例である。
4本線の図形で区切られた余白部分が形成する3本線の図形(赤色)は、4本線の図形(黒色)よりも幅広であり、4本線の図形よりも視覚的に強調されて肴者の注意を惹き、4本線よりも「3本線」として看取される。
さらに、甲第86号証は、4本線の図形部分と商品の地色に相当する余白部分を同色(黒色)で着色し、4本線の図形で区切られた各線の間に位置する余白部分を異なる色(赤色)で着色した例である。
この場合は、3本線の図形の部分のみが明確に認識理解される。
甲第87号証は、甲第85号証及び甲第86号証に示す4本線の図形で区切られて形成された3本線の図形の部分(赤色で示す)を拡大して抽出したものである。
この3本線の図形の構成が、引用商標1ないし引用商標7の構成中の図形部分、引用商標8ないし引用商標11、さらには引用商標24の靴の立体形状にサイドラインとして表示されている3本線の図柄とほぼ同一のものであることが明らかである。
このように、本件商標が指定商品に使用されるときには、その着色、配色等の仕方によって、4本線の図形の部分は「3本線」として認識理解されることが十分に起こり得る。

(エ)出所混同のおそれ、並びにフリーライド及びダイリューション
本件商標が使用される商品(第25類「履物、運動用特殊靴」)は、申立人が取り扱う主力商品と同ー又は類似のものであり、引用商標は当該商品に長年継続して使用されているものである。
よって、本件商標が指定商品に使用された場合には、本件商標に接する取引者、需要者は、申立人の商品出所表示として広く知られている引用商標と酷似する印象を与える4本線の図形の部分に注意を惹かれ、引用商標及び申立人を連想、想起し、上記商品が申立人の取り扱いに係るもの、あるいは、申立人の関連会社、もしくは申立人から引用商標の使用許諾を受けた者が取り扱う商品であるかのように誤認し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることが明らかである。
この点に関して、4本の台形様図形から構成される登録第4370503号件外商標(甲第93号証の1及び2)の登録が無効と判断された前掲の確定審決は、申立人が使用する3本線を基調とした商標が申立人の商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されている事実を認定した上で、4本線から構成される上記件外商標と、申立人が使用する引用商標1ないし引用商標7の構成中の図形部分、引用商標8ないし引用商標11及び引用商標24の構成中の靴の側面に描かれた図形部分は、「4本と3本の違いがあるが、いずれも台形様図形を、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾け、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなる点において、構成の軌を一にするものであって、この特徴は、看者に強く印象付けられるもの
であるということができ」、また、「スポーツシューズを含む靴類等にあっては、実際の使用において、商品の地色により、色彩を施したり、色彩を変更したりすることも考えられ、色彩によっては、本件商標を構成する4本の台形様図形が明確には看取されない場合がある。」と認定し、上記件外商標と引用商標との「構成態様より受ける印象、及び両商標が使用される指定商品の取引の実情等を総合勘案すると、本件商標をその指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、著名な請求人(本件の申立人)の使用に係る引用商標を連想、想起し、該商品が請求人若しくは請求人と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない」と結論した。
上記確定審決で示された事実認定及び類否判断に照らしても、本件商標が引用商標と構成の軌跡を同じくし、申立人の取り扱いに係る商品と出所混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
さらに、本件商標は、ストライプの図柄を靴のサイドラインとして使用する申立人の3本線の商標の使用態様を模倣している。
それのみならず、本件商標は、その着色等の仕方によって、「3本線」として看取され、誤認混同されるおそれがあるものであるから、申立人の商品出所表示として広く認識されている「3本線」「スリーストライプ」の商標の顧客吸引力にフリーライドするものといわざるを得ない。
さらにまた、3本線をサイドラインとして用いた申立人の靴のデザインと酷似する靴の図柄からなる本件商標が、申立人の主力商品である、第25類「履物、運動用特殊靴」に使用されれば、申立人の営業努力によって獲得された「3本線」の商標の強い自他商品識別機能、出所表示機能が希釈化される蓋然性は極めて高い。
商標法第4条第1項第15号の規定は、出所混同を防止する趣旨のみに止まらず、広く、著名表示のフリーライド、ダイリューション(稀釈化)を防止する趣旨であると解されるものである(平成16年10月20日、平成16年(行ケ)第85号、東京高裁判決、甲第95号証)。
したがって、この観点からも、本件商標が本規定に違反して登録されたものであることは明白である。

2 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして指定商品について著名な引用商標1ないし引用商標18及び引用商標24(甲第2号証ないし甲第19号証及び甲第88号証)と構成の軌跡を一にするものであり、これらとほぼ同一の図形印象を看者に与える。
また、本件商標の構成中、靴の側面に4本線の図形を表示する態様は、申立人が50年を超える長期に亘り引用商標を使用してきた周知な態様(サイドラインとしての使用)を模倣している。
さらに、本件商標が実際にその指定商品について使用されるときには、引用商標1ないし引用商標19及び引用商標24(甲第2号証ないし甲第20号証及び甲第88号証)に共通する構成要素及び観念であり、かつ、申立人の業務に係る商品を表示するものとして著名な「3本線」と紛らわしい。
すなわち、本件商標が指定商品に使用されるときの着色、商品の地色との配色の仕方によって、本件商標は「3本線」の商標として取引者、需要者に認識理解される可能性が高い。
本件商標は、引用商標および申立人の商品の出所表示として著名な引用商標及び「3本線」の商標の信用力、顧客吸引力にフリーライドするものであって、不正な目的による採択、使用が推認される。
また、申立人の著名商標と極めて紛らわしい本件商標が指定商品に使用されれば、申立人の長年の企業努力及び宣伝活動によって申立人の業務に係る商品を表示するものとして著名性を獲得した引用商標および「3本線」の商標の強力な出所表示機能が稀釈化され、申立人に経済的および精神的損害を与えることは疑いない。
本件商標は社会一般道徳及び国際信義に反するものであるから、公の秩序を害するおそれがある。

3 結語
本件商標が、その指定商品に使用された場合には、申立人の業務に係る商品と出所混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第15号の規定に違反してなされたものであるから、取消されるべきである。
また、本件商標は、社会一般道徳及び国際信義に反し、公の秩序を害するおそれがある。
したがって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第7号の規定に違反してなされたものであるから取消されるべきである。

第4 本件商標に対する取消理由(要旨)
本件登録異議の申立てがあった結果、商標権者に対して、平成18年5月8日付けで、「本件商標をその指定商品中『運動靴,運動用特殊靴』について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、著名な申立人の使用に係る引用商標を連想、想起し、該商品が申立人若しくは申立人と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。」旨の取消理由(以下「第1回取消理由」という。)を通知し、 同19年5月22日付けで「引用商標の著名性、本件商標と引用商標との構成態様より受ける印象及び両商標が使用される指定商品の取引の実情等を総合勘案すると、本件商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、著名な申立人の使用に係る引用商標を連想、想起し、該商品が申立人若しくは申立人と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。」旨の取消理由(以下「第2回取消理由」という。)を通知した。

第5 商標権者の意見
商標権者は、上記第4の取消理由に対し、本件商標は十分に登録要件を満たすものであり、当該取消理由書は撤回されるべきであるとして、要旨次のように意見を述べ、第1回取消理由に対して、乙第1号証ないし乙第11号証を提出し、第2回取消理由に対して、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した(以下、第2回取消理由に対して提出された乙各号証を、第1回取消理由に対して提出された乙各号証と区別するため、「乙第1号証」を「乙第12号証」、「乙第2号証」を「乙第13号証」、「乙第3号証」を「乙第14号証」、「乙第4号証」を「乙第15号証」、「乙第5号証」を「乙第16号証」、「乙第6号証」を「乙第17号証」、「乙第7号証」を「乙第18号証」、「乙第8号証」を「乙第19号証」及び「乙第9号証」を「乙第20号証」という。)。

1 申立人の保有にかかる3本ライン模様 (申立人の言うところの「THE BRAND WITH THE 3 STRIPES」)が、申立人の製造、販売にかかるスポーツシューズをはじめ、各種シューズについて使用されて、需要者、取引者の間で広く識別されていたことについては、本件商標権者も強固には否定しない。
もともと「ライン模様」は、意匠権の範疇内の「模様」として権利化され、「靴」に使用されてきたものであり、商標法の改正等により、商標権取得が可能となったもので、商標権の使用範囲を拡大したライン図形模様である。
これらライン模様は、近年スポーツシューズ・カジュアル運動靴において外側側面にデザイン的に表示して、自他商品の識別標識としての機能をはたしている場合が多いというのが実情であり、その需要者は、靴の外側側面にデザイン的に表示された商標をもって商品(靴)の取引に当たる場合も少なくない(取消2004-31325審決公報より。)ものである。

2 本件商標権者は、叙述3本ラインのスポーツシューズ・カジュアル運動靴が申立人製造販売にかかる商品であると、我国の取引者・需要者に認識を得るまでになっていること、及び「adidas」「アディダス」が、スポーツシューズにおいて周知・著名であることは、これを充分に把握し、認識し、本件商標の主要部である4本ライン模様の先行商標及び登録第2565856号(第25・28類 権利者ケイ・スイス・インコーポレーテッド・5本ライン図形)、登録第2588041号(第25類権利者ケイ・スイス・インコーポレーテツド(5本ライン図形))、登録第4073762号(第22類 権利者ケイ・スイス・インコーポレーテッド(靴外形一点鎖線・5本ライン図形))、登録第4075585号(第24類権利者ケイ・スイス・インコーポレーテッド)を識別し、本件商標の登録出願を申請した結果、申立人の3本ライン模様及び叙述5本ライン模様を含めた先行各登録商標に、商標法第3条第4条に該当せず、類似するものではないとの貴庁の御審理決定により、本件商標登録権者は、本件商標の登録査定を受けた段階より、4本ライン模様の商品の販売を開始した次第である。
当該販売に際しては、念のため、出所を明確に表示するものとして、本件商標権者所有の登録第4094684号(第25類装飾化したW)商標、並びに登録第4131383号(第25類 NETWAVE)を、それぞれ商品に顕彰させ、出所を明確に表示しているものである(乙第13号証)。

3 本件商標に顕彰されている「?左方向に向かって順次長くして右端に位置するものを最も長くした図形よりなる点において、構成の軌を一にする
?この特徴は看者に強く印象づけられるものということができる。?」「また本件商標の構成中、黒塗りの直線部分を地模様として見るとすれば、本件商標は、黒塗りの地模様の中に白色の3本線(スリーストライプ)が描いたものとしても看取し得るものである。そうとすれば、本件商標からは『3本線』の観念、及び『サンボンセン』の称呼、及び『スリーストライプ』の称呼を生じるというべきである」と極言され断定されているが、本件商標権利者は、当該取消理由を首肯できない。
本件商標は、左を前部とする短靴形状を一点鎖線で表示構成してなり、この靴図形の側面中央部無地のアッパー(甲被)地に左上向きにやや傾斜した一定幅の黒色ライン図形を等間隔で4本並べ、同ラインは左端から右端に向けて、上部は紐掛け部、下部は底部の間隙を詰めるが如く、順次長く顕彰したものである。
一方、引用商標24(立体商標)は、短靴形状の側面中央部無地のアッパー(甲被)地に傾斜した黒色ライン図形を等間隔で3本並べ、同ラインは、左端から右端に向けて、上部は紐掛け部、下部は表底上部の間隙を詰めるが如く、順次長く顕彰したものであり、乙第17号証及び乙第18号証の商標は、5本ライン図形を無地の地に表示構成してなる商標で、乙第19号証及び乙第20号証の商標は、左を前部とする短靴形状を一点鎖線で表示構成してなり、この靴図形の側面中央部中央部無地のアッパー(甲被)地に左上向きにやや傾斜した一定幅の黒色ライン図形を等間隔で5本並べ、同ラインは、左端から右端に向けて、上部は紐掛け部、下部は間隙を詰めるが如く、順次長く表示構成してなる商標である。
これら本件商標、参考商標、引用商標は、いずれも登録商標であることから、それぞれの特徴となる、要部となるライン模様の本数の差異により、各々は登録された商標であると考察される。
してみれば、本件商標の無色のアッパー地に、鮮明に顕彰された要部である4本ライン模様が、他の3本ライン、5本ラインに類似しないとの判断により登録されたものである。
本件商標の4本ライン模様は、指定商品「靴」の側面中央の紐掛け部下部と底上部との横長地色「白色」甲被部位に左上向きにやや傾斜した一定幅の黒色ライン模様を等間隔で左から右へ上下の間隙を詰める如く、順次長く4本構成し、顕彰した構成の商標であるように、靴におけるライン模様表現方策は、中央部側面甲被という横長の狭い部位及び敏捷性を表現する角度、力強さを表現するライン及び幅、ラインを強調する間隙、出所及び自他商品識別力を顕現するライン本数、という制限を受け、ライン模様の重要性を感得したデザイナーの苦心する部位である。
本件商標における4本ライン模様も、宿命ともいえる制限を受け入れた後完成された4本ライン模様であることから、構成の「軌を一にする」との極言にての取消理由は失真といわざるを得ないものである。
当該ライン模様につき、蛇足ながら真情を記述するならば、ライン模様に接する取引業者はもちろんのこと、一般世人・需要者のライン模様を見る観察眼は厳しいもので、陳列方式に変わった今日、商品「靴」を手にとって、軽重・柔軟性・歩行性・材質・デザイン及びライン模様について炯然とした観察をし、各自の購入目的に合致した靴を選択するものであり、ライン模様の本数の差異はもちろん、値段に照応した目的の商品を購入するものである。
これらの如く、我国における取引の現今は、極端に記述すれば、ライン模様で売れる、売れないといわれるものである。
かかる性向をもつ本件商標にかかるライン模様をもって構成の、「軌を一にする」ものでないことは、営業現場において明らかであって、この特徴は、看者即ち取引者・需要者・購入者・市井巷間における一般世人に強く印象づけられるものでないことも、明白な事実である。
また、極言の「?黒塗りの直線部分を地模様として見るとすれば、本件商は、黒塗りの地模様の中に白色の3本線(スリーストライプス)が描いたものとしても看取し得る?本件商標からは、3本線の観念及び『サンボンセン』の称呼及び『スリーストライプス』の称呼を生ずるというべきである」とされる取消理由につき、到底承服できない。。
本件商標にかかる「4本黒色ライン図形」もしくは「4本黒色ライン模様」は、通称「4本ライン」と称呼されているものであって、「模様」は(無)地があって模様が存在するものであり、黒色ラインが地色でないことは社会通念上明らかな事実である。
これらより、黒色地の中に白色の3本ラインがあるとする取消理由の論法は詭異な論法で、取引の実情及び需要者の鑑別力を考察しない、牽強付会的な論法で「ライン模様」の商標的価値を破壊する新論法で、到底これを承服できるものではない。
蛇足ながら、本件事件に表記された「図形」「模様」「地」より生じる語導を求索すると、辞典(広辞苑第三版 岩波書店)より、「図形」とは「かたちを図示」の語義が、「模様」より「織物・染め物・彫刻などの装飾に施す種々のかたち」「ありさま・様子、計画・趣向、手本・模範、身ぶり・所作」の語義であり、「地」より「うまれつきの性質・性向・もちまえ、加工する前の材料や下地、紙・布などの模様のない部分、基本的・本質的なもの、後に加えられたものに対していうことば」の語義が生じるもので、「地」の周辺語の「無地」にかかる語意は「全体が一色で模様のないこと、またそのもの」であることから、取消の理由で指摘の「ライン模様」は、独立した「模様」と観察されるべきものである。
「?黒色地模様の中に白色の3本ライン模様?3本線の称呼・観念が生じる?」の論法は疎漏な論法と言わざるを得ないものである。
該論法での対比では、一方的に本件商標のライン模様のみが3本ライン模様に観察されるとした、対比観察眼は失当といわざると得ないもので、該論法で説示するならば、周知・著名と是認している引用商標における各「ライン模様」においても「?引用商標の構成中、黒塗りの直線部分を地模様としてみるならば、引用商標は、黒塗りの地模様の中に白色の2本線が描いたものとしても看取し得るものである?」の一文が説示されていないことは、公平感を欠く一方的論法である。
また、如何に引用商標の「3本ライン模様」が周知・著名であるとして
も該論法が是認されるものではないと思惟する次第である。

4 引用商標の周知性・著名性はこれを強固に否定するものではなく、これを首肯するものではあるが、本件商標にかかる商品「靴」における使用は、本件商標「4本ライン模様」を顕彰すると共に、「靴」において従来より一般的に商標表示箇所と知悉されている通称「ベロ」部及び中敷き・底部・バックステー部並びにタグ等に、出所を表す本件商標権者の保有する「(装飾化)W」、「NETWAVE」を併記表示しているものであること及び、申立人の靴商品の1/5?1/10の低廉価での販売価格と相俟って、取引者・需要者・一般世人をして、周知・著名なアディダス社並びにアディダス社使用にかかる3本ラインシューズと誤認混同の生じるおそれは絶無であることから、本件商標の4本ライン模様使用の「靴」に接するであろう一般需要者は、アディダス社、若しくはアデイダス社と何等かの関係を有するものの取扱にかかる商品「靴」である、とする出所の誤認の生じるおそれも皆無である。
これらから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

第6 当審の判断

1 申立人の取扱いに係るスポーツシューズ等に使用される3本線について
(1)本件商標の登録出願日(平成16年1月30日)前に発行したと認められる甲第26号証(枝番号を含む。)ないし甲第67号証及び登録異議の申立ての理由によれば、申立人は、スポーツ用品の製造、販売をするメーカーとして1920年に創設されたこと、申立人は、1949年より、自己の取扱いに係るスポーツシューズに、その左右側面に3本線の入ったものを使用し始めたこと、それ以来、3本線の入ったスポーツシューズは、1952年のヘルシンキ大会より、4年ごとのオリンピック開催時には出場する様々な種目の選手に使用され続けてきたことが認められ、また、申立人の取扱いに係るスポーツシューズ、スポーツウエア等スポーツ用品は、サッカーワールド大会などの国際的競技大会等において使用され、これら商品には3本線を基調としたマークが使用された。
さらに、申立人の取扱いに係る商品は、遅くとも1971年(昭和46年)ころから、申立人の日本における使用権者であったデサント株式会社を通じて、わが国で販売されたことが認められる(甲第27号証)。
申立人の取扱いに係る各種スポーツ関連商品には、上記のとおり、3本線を基調としたマークが使用されているところ、申立人の取扱いに係る商品中、特に、スポーツシューズについては、引用商標1及び引用商標2の構成中の図形部分、引用商標12ないし引用商標14と同一の構成よりなるもの及びこれに色彩を施したもの並びに引用商標24と同一の構成よりなるもの及びその構成中の靴の側面に描かれた図形部分が使用されてきた。
そして、申立人は、3本線の入ったスポーツシューズ等とともに、「adidas」の文字と3本線の入った三つ葉の図形とを組み合わせた商標、あるいは引用商標3ないし引用商標7と同一の構成よりなる商標を表示して、スポーツ関連の雑誌等に継続して宣伝広告したことが認められる。
また、申立人の発行に係る商品カタログには、引用商標1及び引用商標2の構成中の図形部分と同一の構成よりなる図形とともに、「3本線はアディダスの登録商標です。」との記載が認められる(甲第35号証)。

(2)上記(1)で認定した事実を総合すれば、申立人の取扱いに係るスポーツシューズをはじめとする各種スポーツ関連商品は、3本線を基調としたマークが使用されるものとして、本件商標の登録出願前より、その需要者の間に広く認識されていたと認め得るところである。

2 本件商標について
本件商標は、靴の側面に左に傾斜したやや幅の広い黒塗りの4本の直線を有し、その直線は左端から右端に向かって順次長くして並べ左を前部とする破線で描かれた靴の側面の図形よりなるものである。

3 引用商標について
(1)引用商標1及び引用商標2の構成中の図形部分並びに引用商標24の構成中の靴の側面に描かれた図形部分は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた細長の黒塗り台形様図形を、該図形の幅より狭い間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである。

(2)引用商標3ないし引用商標7の構成中の図形部分及び引用商標8ないし引用商標11は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗り台形様図形を、該図形の幅の3分の1程度の間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものは最も短く、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである。

(3)引用商標12ないし引用商標14は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向にわずかに傾けたやや幅広で、かつ、左右の縦線を波形にした縦長長方形の輪郭図形を3本描いてなるところ、3本の輪郭図形はいずれも同じ長さで、その間隔は輪郭図形の幅とほぼ同じ程度である。

(4)引用商標15及び引用商標16並びに引用商標17及び引用商標18の構成中の図形部分は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾け、かつ、左右の縦線を波形にした黒塗り縦長長方形の図形を3本描いてなるところ、3本の図形はいずれも同じ長さで、その間隔は輪郭図形の幅の3分の1程度である。

(5)引用商標19は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、右方向に約45度傾けた細長の台形輪郭図形を、極めて狭い間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も長くし、右方向に向かって順次短くしていき、右端に位置するものを最も短くした図形よりなるものである。また、3本の台形輪郭図形の上底部と下底部の内側には、それぞれ輪郭に沿って線が引かれているものである。

(6)引用商標20ないし引用商標23は、別掲のとおり、「THE BRAND WITH 3 STRIPES」の文字よりなるものであるから、「ザブランドウイズスリーストライプス」の称呼及び「3本線ブランド」の観念が生ずるものである。

(7)引用商標24は、靴の側面に左に傾斜した幅の広い黒塗りの3本の直線を有し、その直線は左端から右端に向かって順次長くして並べ左を前部とする破線で描かれた靴の側面の図形よりなるものである。

4 出所の混同について
本件商標と引用商標は、上記2及び3の認定のとおり、これらを構成する台形様図形等において、4本と3本の違いがあるが、本件商標は、引用商標中の特に、引用商標1ないし引用商標7の構成中の図形部分、引用商標8ないし引用商標11及び引用商標24の構成中の靴の側面に描かれた図形部分と、いずれも台形様図形を、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾け、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした図形よりなる点において、構成の軌を一にするものであって、この特徴は、看者に強く印象付けられるものということができる。
また、本件商標の構成中黒塗りの直線部分を地模様として見るとすれば、本件商標は、黒塗りの地模様の中に白色の3本線(スリーストライプス)が描いたものとしても看取し得るものである。
そうとすれば、本件商標からは「3本線」の観念及び「サンボンゼン」の称呼及び「スリーストライプス」の称呼を生ずるというべきである。

5 商標権者の意見
(1)商標権者は、「本件商標が、黒塗りの地模様の中に白色の3本線(スリーストライプス)を描いたものとして看取されることはない。」旨、意見を述べている。
しかしながら、本件商標は、黒色の4本線として看取し得る外に、白い靴の側面の中央部分のほぼ3分の1を黒塗りして、当該黒塗り部分に縦に白色の3本線(スリーストライプス)を描いたものとしても看取し得るものであるから、商標権者の意見は採用できない。
なお、引用商標24は、黒色の3本線としても看取し得る外に、白い靴の側面の中央部分のほぼ3分の1を黒塗りして、当該黒塗り部分に縦に白色の細い2本線を描いたものとしても看取し得るものである。

(2)商標権者は、「我国における取引の現今は、極端に記述すれば、ライン模様で売れる、売れないといわれるものであって、ライン模様に接する取引業者はもちろんのこと、一般世人・需要者のライン模様を見る観察眼は厳しいものであり、陳列方式に変わった今日、商品『靴』を手にとって、軽重・柔軟性・歩行性・材質・デザイン及びライン模様について炯然とした観察をし、各自の購入目的に合致した靴を選択するものであり、ライン模様の本数の差異はもちろん、値段に照応した目的の商品を購入するものである。」旨、意見を述べている。
しかしながら、商標権者は、当該意見を証する書面を何ら提出しておらず、また、本件商標に係る指定商品の最終需要者が一般の消費者であることよりすれば、商標の差異を見分けるだけの知識や経験を有しているとは、必ずしもいい難いものであるから、商標権者の意見は採用できない。

(3)商標権者は、「本件商標にかかる商品『靴』における使用は、本件商標『4本ライン模様』を顕彰すると共に、『靴』において従来より一般的に商標表示箇所と知悉されている通称『ベロ』部及び中敷き・底部・バックステー部並びにタグ等に、出所を表す本件商標権者の保有する『(装飾化)W』、『NETWAVE』を併記表示しているものであること及び、申立人の靴商品の1/5?1/10の低廉価での販売価格と相俟って、取引者・需要者・一般世人をして、周知・著名なアディダス社並びにアディダス社使用にかかる3本ラインシューズと誤認混同の生じるおそれは絶無である。」旨、意見を述べている。
しかしながら、「登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。」(商標法第27条第1項)ところ、商標の類否も、願書に記載した商標に基づいて定められるべきであるから、商標権者の意見は採用できない。

6 むすび
上記認定のとおり、引用商標の著名性、本件商標と引用商標との構成態様より受ける印象及び両商標が使用される指定商品の取引の実情等を総合勘案すると、本件商標をその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、著名な申立人の使用に係る引用商標を連想、想起し、該商品が申立人若しくは申立人と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものといわざるを得ないから、商標第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲


(1)本件商標




(2)引用商標1、引用商標2




(3)引用商標3、引用商標4、引用商標5、引用商標6、引用商標7




(4)引用商標8、引用商標9、引用商標10、引用商標11




(5)引用商標12、引用商標13、引用商標14




(6)引用商標15、引用商標16




(7)引用商標17、引用商標18




(8)引用商標19




(9)引用商標20、引用商標21、引用商標22、引用商標23






(10)引用商標24(立体商標)






異議決定日 2007-07-23 
出願番号 商願2004-7915(T2004-7915) 
審決分類 T 1 651・ 271- Z (Y25)
最終処分 取消  
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 渡邉 健司
鈴木 修
登録日 2005-02-18 
登録番号 商標登録第4839608号(T4839608) 
権利者 ヤマギワインターナショナル株式会社
代理人 鳥巣 実 
代理人 佐久間 剛 
代理人 関根 秀太 
代理人 柳田 征史 

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